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テラヘルツテクノロジーフォーラム通信
テラヘルツテクノロジーフォーラム通信 Vol.12, No.2 追悼 テラヘルツテクノロジーフォーラム会長 萩行正憲先生が、2014 年 10 月 25 日に逝去されました (享年 61 歳)。萩行先生は、2013 年に、前会長の阪井先生から会長を受け継ぎ、本フォーラムの 発展に尽力されるとともに、本フォーラムの今後の展開やテラヘルツ技術の未来に関して多くの意 見を提案していただいていました。萩行先生のご逝去に関して、謹んで哀悼の意を表します。 萩行先生のご略歴 1976 年 京都大学 理学部 物理学科 卒業 1978 年 京都大学 理学研究科 物理学第一専攻 修了 1981 年 京都大学大学院理学研究科物理学第一専攻修了 同年、理学博士 1981 年 大阪大学工学部応用物理学科助手 1990 年 同大学超伝導エレクトロニクス研究センター助教授 1996 年 同教授 2000 年 同大学超伝導フォトニクス研究センター教授 2004 年 大阪大学レーザーエネルギー学研究センター教授 (改組による) 2013 年 4 月 テラヘルツテクノロジーフォーラム会長就任 2014 年 10 月 25 日 逝去 ありがとう萩行君 前テラヘルツテクノロジーフォーラム会長 阪井清美 萩行会長の訃報はあまりにも突然で、未だに信じられない気持ちです。国内外からの驚きと悲 しみの声を集めました。萩行さんが、人柄も実力も高く評価されていたことが良くわかります。 ・ 穏やかで抱擁力(人を纏めていける力)のある人だと感じていました。まだ若いのに残念です ね(畚野信義先生:フォーラム設立時からの顧問) ・ Masanori was such a sympathic person. I remember him with this picture from the Rome conference. Let us follow his wisdom and style. In deep grief, Fritz Keilmann. ・ Now we lost Hangyo San……Both Wendy and I feel very, very sad. I was extremely depressed in past two days. I met Hangyo in Tucson (IRMMW-THz) and Beijing (SPIE Asia Photonics). This is a big lose for me, for all of us, and for our community. Please give our deepest condolences to Hangyo San’s family and please let us know if there is anything we could help. X.-C. Zhang. ・ Professor Masanori Hangyo is passed away on Oct. 25. I am shocked and lost my words to say. He was such a gentleman, leader and our close friend. As you all know he delivered a great plenary talk at IRMMW-THz2014 in Tucson. I also send my deepest sympathy to Japanese friends. With deepest sadness, Gun-Sik Park (IRMMW-THz Society Chair). その他多数の方々から追悼の言葉をいただいております。 私(阪井)からは、 ・ 萩行君、若い人達を立派に育ててくれてありがとう。 ・ 萩行君、テラヘルツ分野で優れた仕事を残してくれてありがとう。若い頃から積み上げてきた ものが花咲いたんだね。9 月 Tucson で開催された IRMMW-THz 会議での君の plenary talk は印 象に残りました。 ・ 萩行君、テラヘルツコミュニティーの運営に尽力してくれて本当にありがとう。苦労も多かっ たね。 1 研究紹介 テラヘルツ波で宇宙のはじまりを⾒る ⾃然科学研究機構 国⽴天⽂台 先端技術センター 関本裕太郎 国立天文台の先端技術センターで開発している天体観測用の超伝導 MKID テラヘルツカメラの開発 を紹介する。 1. 宇宙マイクロ波背景輻射と原始重力波 今年 2014 年 3 月米国で大々的にプレスリリースされた原始重力波の発見は日本の新聞・テレビも賑 わしたので、多くの人が目にしたのではないだろうか。これはカルフォルニア工科大・ハーバード大 学などの Bicep2 グループが、宇宙マイクロ波(2.7 K)背景放射(Cosmic Microwave Background: CMB)の 偏光を 150 GHz にて全天の約 1%の領域を観測して、B モードと呼ばれる渦巻き状の偏光パターンを 検出し、宇宙を創成したインフレーション起源の原始重力波であると主張した。その後すぐに、CMB に対して前景放射とよばれる銀河系由来の星間塵(dust)による影響でも説明できるという論文が2編 でた。6 月に physical review letter1 に受理されたバージョンでは、確認が必要と結論されている。9 月 に Planck 衛星のグループがサブミットした論文 2 でも星間ダストの影響が示唆されている。 Bicep 2 グループが宇宙背景放射の偏光の検出に用いたのは、超伝導転移端センサー(Transition Edge Sensor: TES)という超伝導転移温度付近での急峻な抵抗の変化を読み出す方式である 3。TES は、光子 を熱に変換して検出する方式(ボロメーター)で、感度に優れており、ミリ波観測のみならず、可視 光や近赤外線から X 線ガンマ線などでも利用されている。しかし、SQUID 増幅器やバイアス電圧な どが必要であり、1000 素子程度までは対応できるが、1 万素子や 10 万素子が必要となる将来の天体観 測用イメージセンサーとしては困難を伴う。 2. MKID 焦点面検出器 MKID (Microwave Kinetic Inductance Detector)は、Caltech の Jonas Zmuidzinas 氏らが発明した超伝導 薄膜の Kinetic Inductance の変化を共振器によって読み出す検出器で、周波数多重化が容易である 4。 Kinetic inductance は、超伝導薄膜の準粒子数によって変化するため、検出器を極低温に冷却し、クー パー対が占有する状態にしておく。テラヘルツ光子がこのクーパー対を壊して準粒子を生成すること によって kinetic inductance が増大し、共振器でそれを読み取る。超伝導共振器の Q は 105 程度が容易 で、 一つのマイクロ波増幅器(例えば 4 – 8 GHz)によって 1000 素子程度を読み出せる。超伝導膜の転 移温度に対応するギャップ周波数以上の光子を検出できる。例えば Al (Tc = 1.2 K)のギャップ周波数は 90 GHz、Nb (Tc = 9 K)では 700 GHz であり、それより高い周波数を検出できる。その超伝導転移温度 の 1/5 くらいの低温(0.2 K と 2 K)に冷やす必要がある。 MKID の TES に比べた特徴は、1. 周波数多 重化が容易 2. バイアス線が不要 3. ダイナミックレンジが高い、4.温度変化に強い、となる。 我々のグループは 2009 年より KEK や理研と協力して、CMB の B モード観測を目指して、Al をも ちいた MKID カメラの開発を進めた。超伝導 double slot antenna と 1/4 波長 Coplanar waveguide (CPW) 共振器を組み合わせた 220 GHz-600 画素カメラを開発した(図 1)。厚み 100 nm の Al 一層をシリコン基 2 板に積んだ、シンプルな検出器である。600 画素は、一つの読み出し線(CPW)でつながっており、入 力と出力は SMA コネクタが配置されている。共振周波数は、マイクロ波帯(3 – 7 GHz) に 4 MHz 間隔 で配置されている。これを 0.1 K に冷却して、歩留り 95%を達成した。このカメラは、天体望遠鏡の 焦点面に置くことで、初期の宇宙で形成された遠方銀河の探査も可能となる。 図 1 (左)220 GHz- 600 画素 MKID カメラと(右)一画素の拡大図。600 画素は、一対の同軸ケーブルで 読み出される。600 素子の共振器を読み出すための周波数 Comb(櫛状のキャリア)が入力されて、出力 はマイクロ波増幅器(例えば 4 – 8 GHz)で読み出される。右図の左下にある H 型をした double slot antenna は 200 – 250 GHz の帯域を持つ。右側の並状のものがマイクロ波共振器。一番右側の上下に貫 く線が読み出し線である。600 画素カメラでは、共振周波数が少しずつ異なっており、一つの増幅器 で読み出すことが可能となる。 LiteBIRD 衛星(図 2)は、Kavli IPMU や JAXA が主導して CMB の B-mode 偏光を全天観測する衛星である 5。自然科学機構長の 佐藤勝彦 6 や Alan Guth によって提唱されたビッグバンを引き起 こす原因となったインフレーション仮説を観測的に明らかにす る。2020 年代前半に打ち上げを目指している。これまでの CMB 観測衛星(WMAP, Planck)は、空間の温度分布を計測して、その 空間的な揺らぎを調べた。その結果、宇宙の年齢 138 億年、そ してダークエネルギー(68%)、ダークマター(27%)の存在比など、 宇宙の組成を明らかにした 7。LiteBIRD は CMB の偏光パター 図 2 LiteBIRD 衛星 5 ンを高精度で観測し、インフレーションで生成される原始重力波が生成する B-mode と呼ばれる渦巻 き状、つまり鏡面変換で非対称な成分の割合を調べる。これにより、インフレーション理論を確立し、 宇宙創成のエネルギースケール(〜1016 eV)を探るという野心的な計画である。そのためには、検出器 の光学的特性や検出感度が鍵となる。 天体観測では、検出器の雑音を下げることや光学特性を良くすることが重要となる。MKID の雑音 の原因として、TLF (Two level fluctuation, TLS: Two level system)による位相雑音が知られている 8。一 3 方、野口等は、超伝導エネルギーギャップ内に残存する準位によって準粒子が生成され、雑音を生じ ているという仮説を立てている 9。この雑音特性を改善するためには、高品質の超伝導膜が必要にな る。 成瀬他 10 は自作の分子線エピタキシー(MBE)装置を用いて、結晶性のよい Al 薄膜を Si (111)基板 上に成膜し、低雑性能 6 x 10-18 W/√Hz という世界最高レベルに達している 11。超伝導 MKID 検出に直 づけする Si レンズアレイを開発し、対称性の良いビームの測定にも成功している 12。さらに、レンズ アレイとダブルスロットアンテナの間隔を狭めて、焦点面を効率よく利用する密度の高い光学設計も 行った 13。 検出感度を極めるためには、デバイスの高性能化とともに、 その計測システムの高精度化が鍵となる。冷却・計測システム を図 3 に示す。この冷却システムは、大陽日酸社製の 0.1 K 希 釈冷凍機を用いている。これは、3He/4He を用いたクローズド サイクルの冷却システムで、自動ガスハンドリングシステムの おかげで、スイッチ一つで 0.1 K に冷却してくれる便利な装置 である。1990 年代の後半に 4K-GM 冷凍機の普及により、4 K での実験は楽になったが、0.1 K でも同様に容易になってきてい る。データ取得装置には、100 素子を一度に読み出せる複素 FFT を行うシステムを開発した 14。今後より大規模なデータ取得装 置を開発したいと考えている。 3. 展望 米国やヨーロッパを中心に多くの研究グループがこの MKID を用いた検出器の開発を進めている。ミリ波から可視光、そし て X 線ガンマ線の焦点面観測装置である。ミリ波帯では、超伝 導狭帯域フィルターバンクと組合わせた面分光カメラなど意欲 的な開発も始まっている 15。より広視野な光学系と組合わせた 天体観測装置の設計も進められている 16,17。また、高感度テラ ヘルツパッシブ画像として、産業化応用についても検討が進め られている。 MKID の信号を読み出す高速のデータ取得システムの開発は、 今後の大きな課題である。また、集光レンズや周波数選択フィル ターや真空窓などのテラヘルツ関連の準光学部品は、周波数帯域 図 3 冷却(0.1 K)システムとビー ム測定装置 や損失の観点から、可視光や近赤外線領域に較べて大きく遅れており、関連研究者による開発を期待 している。テラヘルツ分野が一層発展するためには、デバイスのみならず、周波数選択フィルター、 光学レンズ等の周辺装置の性能向上が鍵になると考えている。 謝辞 本研究は、科研費新学術研究「初期宇宙探査のための超高感度アレイデバイスの研究開発」(21111003 代表 大谷知行)、基盤研究 A (25247022)にてサポートされ、先端技術センターの唐津謙一、新田冬夢、 野口卓、Agnes Dominjon、松尾宏、岡田則夫、三ツ井健司、東京大学天文学専攻 関根正和、関口繁之、 4 岡田隆志、Shibo Shu らとともにおこなれました。また日頃より本研究に関する貴重なアドバイスを頂 いている(敬称略)、成瀬雅人、田井野徹、明連広昭 (埼玉大学)、遠藤光、Teun M. Klapwijk (TU Delft)、 Wenlei Shan、Sheng-Cai Shi (紫金山天文台)、羽澄昌史、田島治 (KEK)、片山伸彦 (Kavli IPMU)、松村 知岳、宮地晃平、松原英雄、満田和久 (ISAS/JAXA)、大谷知行 (理研)、中井直正 (筑波大)、石野宏和 (岡山大学)、稲谷順司、鹿島伸吾、木内等、杉本正宏 (国立天文台)の皆様に深く感謝申し上げます。 参考文献 1. 2. 3. 4. 5. 6. 7. 8. 9. 10. 11. 12. 13. 14. 15. 16. 17. Ade, P. A. R. et al. Detection of B-Mode Polarization at Degree Angular Scales by BICEP2. Phys. Rev. Lett. 112, 241101 (2014). Planck Collaboration et al. Planck intermediate results. XXX. The angular power spectrum of polarized dust emission at intermediate and high Galactic latitudes. 23 (2014). at <http://arxiv.org/abs/1409.5738> Irwin, K. D. An application of electrothermal feedback for high resolution cryogenic particle detection. Appl. Phys. Lett. 66, 1998 (1995). Zmuidzinas, J. Superconducting Microresonators: Physics and Applications. Annu. Rev. Condens. Matter Phys. 3, 169–214 (2012). Matsumura, T. et al. LiteBIRD: mission overview and design tradeoffs. in SPIE Astron. Telesc. + Instrum. (Oschmann, J. 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