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思い遣る
新ヒラリ ズム 6 の30 思い遣る 陽羅 義光 ことし アカ デミー 賞の作 品賞・ 監督 賞 ・脚本賞 ・撮 影賞に なった 、 『バード マン 』 は、近 頃稀 なほど 良い映 画であ った 。 良い良 いで は、意 味がな いから 、簡 単 に解説す る。 解りや すく 、マイ ケル・ キー トン演 ず る主人公 、も しくは マイ ケ ル・ キートン 本人 (最優 秀主演 男優賞 をあ げ るべきだ った )を、 「バード マン 」と呼 び、 その娘 を、 「娘」と 呼び 、 「バード マン 」の共 演者( 映画 でも、 映 画の中の 芝居 でも) の名優 男性 を、 「ノート ン」 と呼び 、名優 女性を 、 「ナオミ 」と 呼ぶ。 名作『 バベ ル』の 監督で もある イニ ャ リトゥは 、 「監督」 と呼 ぶ。 〈私小説 〉と いうも のがあ るが、 〈私映画 〉と いうも のもあ る。 そして これ は、 「バード マン 」のた めに、 「監督」 が創 った、 〈フィク ショ ンの私 映画〉 である 。 「バード マン 」は、 かつて スーパ ーヒ ー ロー、 『 バード マン 』を演 じた大 スター であ っ た。 それが いま では落 ちぶれ て、 家族も 仕 事も失い 、地 味で芸 術的な 芝居 を創ろう とし ている 。 その芝 居は 、おそ らく〈 愛〉 をテー マ にした、 レイ モンド ・カー バー の短編小 説を 脚本化 したも のであ る。 「バード マン 」の対 極には 、 かつて は地 味な性 格俳優 であり 、い ま は、 「アイア ンマ ン」で 稼ぎま くっ ている 、 ロバート ・ダ ウニー ・ジュ ニア がいる。 他にも 、ジ ョージ ・クル ーニ ーなど の 大スター が、 半分茶 化され て話 題とされ る。 「監督」 は、 「バード マン 」に、 特別な 思いや りを も っている 。 その特 別な 思いや りが、 この 映画を 創 らせたと いっ ても、 過言で はな い。 「バード マン 」はす でに、 禿げて 、ふ や けた肉体 とな ってい る。 けれど も、 エンタ ーテイ ンメ ントの 世 界から、 芸術 的な世 界へと 、あ がきもだ えな がらも 、羽ば たこう とし て いるのだ 。 「ノート ン」 はすで に、芝 居の世 界で は 実力を認 めら れた存 在だ。 「ノート ン」 はマニ アック な役者 であ る が、 「バード マン 」と対 立しな がらも 、無 意 識に助け てい る。 クスリ をや って、 死の世 界に近 い、 「娘」を 、生 の世界 へ引き 戻すの も、 「ノート ン」 の思い やりで ある。 「ナオミ 」 も 、「 ノート ン」の 役者魂 に 翻弄され なが らも、 「バード マン 」を、 実に優 しい思 いや り で助けて いる 。 「ナオミ 」の 笑顔は 、この 映画の 白眉 で ある。 新聞な どに 載った 評や感 想を読 むと 、 「勇気づ けら れる」 とか、 「オヤジ でも 飛べ」 とか、 「どっこ い生 きてい る」と かが 大半だ が 、この映 画の 本質は そうい うも のではな い。 この映 画は 、思い やり満 載の映 画な の だ。 「ノート ン」 や「ナ オミ」 のみな らず 、 「バード マン 」の別 れた奥 さんや 、 「バード マン 」を支 えるマ ネージ ャー た ちも、思 いや りが溢 れてい る。 思いや りと は何か 。 それは 、何 よりも 言葉で ある。 しかも 、相 手に寄 り添っ た、 表情や 言 い方にも 真心 をこめ た、言 葉で ある。 こうし た〈 言葉〉 を、監 督は〈 愛〉 と 考えてい るの だとお もわれ る。 決して 「同 情」で はない 。 思いや りは 「愛の 言葉」 で相手 に伝 え て、まこ との 思いや りとな る。 「バード マン 」に、 カーバ ーが〈 言葉 〉 を贈り、 それ を支え に、 「バード マン 」が芝 居を創 る、と いう エ ピソード が象 徴的に 語られ る。 「バード マン 」に対 して辛 辣な、 傲慢 そ のものの 演劇 評論家 が、 「バード マン 」が命 がけで 創った 芝居 に 対して、 〈無知が もた らす 予 期せぬ 奇跡〉と絶賛 するのも 、 〈 言葉〉の贈り 物であ る。 この映 画を 、稀有 な傑作 映画た らし め たのは、 「監督」 の、 「バード マン 」に対 する、 思いや り( つまり「愛 の言葉 」)が、か ぎりなく 深く 優しく 強いた めで ある。