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第6章 気液平衡と蒸留操作 - エネルギー化学工学ホームページへ

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第6章 気液平衡と蒸留操作 - エネルギー化学工学ホームページへ
第6章 気液平衡と蒸留分離操作
1.気液平衡関係
二成分揮発性液体混合物から夫々の成分を分離濃縮す
る.その有力な方法の一つが蒸留である.混合物中に含ま
れる二つの揮発性液体成分の沸点が異なる状況で、周りか
ら加熱し混合物沸点に設定すると、高沸点成分は相対的に
液相側に濃縮し、低沸点成分は蒸気相側に濃縮する。
蒸留分離の具体例としてベンゼン(C6H6)+トルエン
(C6H5CH3)二成分混合物の濃縮分離を考える。二成分液
体は十分混合され気液平衡状態にあるとする。低沸点成分
A(C6H6、沸点 80.1oC)の液相モル分率を xA、高沸点成分
B(C6H5CH3、沸点 110.6oC)液相モル分率を xB(=1-xA)
とすると、A+B 混合物の蒸気分圧 pA, pB は次の関係にある。
pA = γ A ( x A , x B , T ) Pvap,A (T ) x A
(6-1)
pB = γ B ( x B , x B , T ) Pvap,B (T ) x B (6-2)
pA, pB は液相と平衡にある蒸気相中の A, B 成分蒸気分圧で
ある。Pvap,A(T)と Pvap,B(T)は各純成分飽和蒸気圧であり、温
度の関数である。γA と γB は混合液の非理想性を表すパラ
メーターで活量係数と呼ばれ、無次元の値である。活量係
数は温度のみならず、液相モル分率 xA, xB とともに変化す
る。特に γA と γB が常に1である液体は理想溶液であり、
「Raoult の法則が成立する」と言う。
蒸気相の全圧を pt で表すと、次の関係がある。
pt = pA + pB
Fig. 6-1 ベンゼン+トルエン混合物の気液平衡
線と混合物沸点
(6-3)
蒸気相成分 A と B のモル分率を yA, yB(=1-yA)で表すと、
次式となる。
yA = pA pt
yB = pB pt
(6-4)
(6-5)
(6-1)〜(6-5)式をまとめ整理すると、次式を得る。
!γ A Pvap,A
$
x
#
γ B Pvap,B &% A
"
yA =
!γ P
$
1+ # A vap,A
−1& x A
γ B Pvap,B %
"
Fig. 6-2 メタノール+水混合物の気液平衡線
と混合物沸点
(6-6)
分離操作の難易度を表すパラメーターに分離係数 αA-B がある。蒸留操作では αA-B を特に比揮発度(relative
volatility)と呼ぶ。αA-B を液相モル分率 xA と蒸気相モル分率 yA を使って次式で定義する。
α A−B =
yA x B yA (1− x A )
=
yB x A (1− yA ) x A
(6-7)
(6-7)式で定義した分離係数を (6-6)式と比較しやすいよ
うに書き直すと、次式に変形できる。
yA =
α A−B x A
1+ (α A−B −1) x A
(6-8)
(6-6)と(6-8)式を比較すると、次式を得る。
α A−B =
γ A Pvap,A
γ B Pvap,B
(6-9)
低沸点 A 成分は高沸点 B 成分より揮発しやすい。従って
Pvap,A>Pvap,B であり、αA-B はこの場合1より大きい。
Fig. 6-1 は C6H6+C6H5CH3 混合物の(x-y)線図(気液平衡
線)で液相 C6H6 モル分率 xA の関数として実線で書き、混
32
Fig. 6-3 2成分活量係数の変化
合物沸点を一点鎖線で表している。全圧 pt は1気圧で一定
で仮定している。C6H6+C6H5CH3 系では活量係数 γA, γB が
常に1に等しく、理想溶液を示す。xA が上昇すると、蒸気
相 C6H6 モル分率 yA が増加し、混合物沸点もトルエン沸点
からベンゼン沸点に滑らかに変化する。αA-B はこの温度と
濃度領域で 2.4-2.6 程度とほぼ一定であり、蒸気相にベンゼ
ンが濃縮される。
全圧 pt を一定に維持し二成分を蒸留分離するとき、気液
平衡線は次の繰り返し計算から求められる。
(i) xA を決める。xB=1-xA も同時に決まる。
(ii) 混合物の温度(1気圧のとき混合物沸点)を仮に決め
る。
(iii) Pvap,A と Pvap,B を温度の関数として、飽和蒸気圧線から計
算する。
(iv) γA, γB を適当な整理式から計算する。
(v) (6-1), (6-2)式から pA, pB を計算する。
Fig. 6-4 2成分液体混合物の比揮発度
(vi) pt を(6-3)式より求める。
(vii) pt が設定した値より小さいとき、xA の値を増加し、
(i)から(vi)の計算を繰り返す。
(viii) pt が設定値と等しくなったとき、計算を終了する。
別例のメタノール CH3OH(低沸点成分 A、沸点 64.65oC)
—水 H2O(高沸点成分 B、沸点 100oC)の気液平衡線と混
合物沸点を Fig. 6-2 に示す。Fig. 6-1 と Fig. 6-2 の気液平
衡線を比べると、気液平衡線のレンズ部分厚みが太くな
っている。これは H2O-CH3OH 系では、非理想性が高く、
活量係数が1から外れるからである.各成分の活量係数
を Fig. 6-3 に、比揮発度を Fig. 6-4 に示す。CH3OH-H2O
系の活量係数(Fig.6-3 の破線)は常に1より大きく、比
揮発度(Fig.6-4 の実線)も3〜7の値であり、相対的に
蒸留分離がしやすい事が分かる。
一般に活量係数は、A-B 成分間分子間力により変化す
る。活量係数の液組成依存性に関して、Gibbs-Duhem の
熱力学的関係があるが、実際の評価のためいくつかの整
Fig. 6-5 アセトン+クロロホルム混合物の気
理式(例えば、Wilson 式)が過去に報告されている。内
液平衡線と混合物沸点
容については省略する。
2.共沸混合物
A, B 成分沸点が異なっていても、混合物の蒸留分離が困難
な例を2例示す。最初の例は、低沸点成分 A がアセトン
(CH3COCH3、沸点 56.2oC)、高沸点成分 B がクロロホルム
(CHCl3、沸点 61.2oC)の混合物である。その気液平衡線と
混合物沸点を Fig. 6-5 に示す。この場合、CH3COCH3 飽和蒸
気圧は CHCl3 飽和蒸気圧より常に大きいにも関わらず、
xA<0.4 以下で B 成分の方が蒸発しやすくなっている。すなわ
ち xA=0.4 付近で、xA=yA の点が(x-y)線図(実線で示す)上に
現れ、単一塔による蒸留操作では、この点を超えての分離が
困難となる。この様に xA=yA 点が現れる系を共沸混合物系と
呼ぶ。分離係数αA-B もこの共沸点で1をまたいで変化する。
第二の例は、Fig. 6-6 の低沸点成分 A がアセトン CH3COCH3
Fig. 6-6 アセトン+メタノール混合物の
(沸点 56.2oC)と高沸点成分 B がメタノール CH3OH(沸点
気液平衡線と混合物沸点
64.6oC)の系である。この例では、xA=0.8 のところで最低沸
点 55.2oC が現れ、(x-y)線図上で xA=yA の線と交わり、共沸混合物を形成する。αA-B 値もこの共沸点でαA-B=1
の線をまたぐ。この場合も単一塔での分離は難しい。
3.単蒸留
33
2
前節までの気液平衡線図に基づいて、2成分液体混
合物を濃縮分離する操作について検討する.
最初の例は、Fig. 6-7 の蒸留装置に2成分(A+B)混
合液を初期モル量 F0 仕込み、蒸留缶を回りから加熱し
液相混合物沸点に維持し蒸発させ、蒸発缶上部で逆流
しないように蒸気を冷却し、全凝縮し蒸気を分離する
方法である。このような装置を単蒸留装置と呼び、ア
ルコールの蒸留操作は基本的にこの型の装置で蒸留さ
れている。この方法は装置が簡単なため、比揮発度が
大きいとき蒸気分離が手軽にできる装置である。
いま、A を低沸点成分、B を高沸点成分とする。ある
時刻で蒸留缶に残されている液量を F モルとし、dt 時
間に dF だけ液量が変化するとする。その間に液中 A 成分濃度が
xA から xA-dxA に変化する。同時に蒸発し留出する蒸気成分モル分
率も yA から yA-dyA に変化する。従って、次の物質収支式を得る。
( F − dF ) ( x A − dx A ) + ( yA − dyA ) dF = Fx A (6-10)
F0-F
Fig. 6-7 単蒸留の質量バランス
2次の微分項を消去し整理すると、次の Rayleigh 式を得る。
F
∫
F0
x
A
dF
dx A
= ∫
F xA,0 yA − x A
(6-11)
初期条件は、F=F0 で xA=xA,0 である。(6-11)式の右辺は濃度のみで
表され、移動単位数(Number of Transfer Unit)と呼ばれる値であり、
濃縮分離の起こりやすさを表すものである。 (6-8)式を(6-11)式右
辺に代入し、整理すると次式の様に求めることができる。
! F $ xA
dx A ! α A−B 1 $
ln # & = ∫
+ &
#
" F0 % xA,0 (α A−B −1) " 1− x A x A %
(6-12)
αA-B が xA に依存しないと仮定すると次の様にまとめる事が出来
Fig. 6-8 単蒸留における B 成分濃縮率と
回収率
る。
α A−B −1
!F$
# &
" F0 %
α A−B
! 1− x A,0 $
=#
&
" 1− x A %
濃縮蒸気流
! x $
## A && (6-13)
" x A,0 %
還流
Fig. 6-8 は初期に xA,0, xB,0 であった混合液
を単蒸留で濃縮分離したとき、蒸留缶に濃縮
された B 成分の濃縮率 EB(=xB/xB,0)と蒸留
缶中の B 成分の回収率 RB(=FxB/F0xB,0)を留
出率(カット, Cut=1-F/F0)の関数として示
したものである。カットを大きくする事は、
蒸発時間を増加させる事を意味する。カット
を大きくするほど分離が進み、同じカットで
分離係数が大きいほど濃縮度(実線)と回収
率(一点鎖線)は高い。しかし高い濃縮率を
得るには蒸留缶回収率をかなり減少させる
必要がある。単蒸留は連続定常運転ができず、
高い濃縮率と回収率の同時達成は難しいと
いう欠点がある。
濃縮段
供給流
減損段
4.蒸留塔
高い濃縮率と高い回収率を同時に達成し、
かつ連続分離する方法として蒸留塔がある.
蒸留塔全体は、気液接触を促進する充填塔、
あるいは棚段塔、上部で蒸気を凝縮する凝縮
器(condenser)、下部で缶出液を蒸発する再
沸器(reboiler)からなる。原料液を塔中央
再沸器流れ
減損液流
Fig. 6-9(a)(b) 連続蒸留塔設備と内部構造
34
付近から供給すると、低沸点 A 成分は上部に進むにつれて濃縮される.塔の頂部部に置いた凝縮器ですべて
凝縮するとともに、濃縮物の一部を留出液として上部凝縮器から抜き取る。その残りを充填塔上部に還流
(reflux)する。逆に塔の下部方向に進んだ液流は下部に進むにつれて高沸点 B 成分が濃縮する。最終的に塔
の下部に達した缶出液を下部再沸器直前で一部抜き取り、ラインから取り出す。そして、残りを加熱して蒸
気として戻す.塔全体は外部との断熱が良いように設計し、充填塔本体で加熱や冷却操作は通常おこなわな
い。蒸留塔内の濃度は、上部での還流率(reflux ratio)と下部での缶出率で制御するが、連続分離で定常的に
液供給する条件では、還流比が決まると缶出率も決まる。従って還流比が最も重要な操作パラメーターであ
る。塔内は Fig. 6-9 のように、棚段で仕切りいくつかの分離段
に分かれており、各段から上昇する蒸気と下降する凝縮液が、
泡鐘トレーや多孔板を通して、よく混ざるような仕組みにして
いる。あるいは後で示すようにラシヒリングやマクマホンパッ
キングと呼ばれる充填物を塔内に均一に充填し、充填物内の空
間を下降する液と上昇する蒸気がよく接触する構造をとるも
のもある。
塔全体を供給口より上部の濃縮部と下部の減損部に分けて
解析する。濃縮部のある区画(Fig. 6-11 の j 段と凝縮器 N+1 段
を取り囲む破線部内の領域)で物質収支を取る。j-1 段から上昇
する蒸気モル速度を Vj-1、成分 A モル分率を yA,j-1、j 段から下降
する凝縮液モル流量を Lj、液側モル分率を xA,j とする。同様に
凝縮器(N+1 段)から抜き取る液相流量を P、モル分率を xP と
Fig. 6-10 蒸留塔内部詳細図
すると、その間の物質収支は次式となる。
(出典:鈴木善孝、化学工学の基礎、
東京電気大学出版局,(2010)
V − L j − P = 0 (6-14)
j−1
)
yA, j−1Vj−1 − x A. j L j − x A.P P = 0
(6-15)
式を整理すると、j 段〜N 段の濃縮部について次式を得る。
yA, j−1 =
Lj
P
x A, j +
x A,P Lj + P
Lj + P
(6-16)
下部の減損部において、最下段の0段目再沸器の前から抜き取る液量を W、そのモル分率を xA,W、k-1 段
から上昇する蒸気流量を Vk-1、モル分率を yA,k-1、k 段から降りる液の流量を Lk、モル分率を xk とすると、同
様の破線部に囲まれた領域の物質収支より次式を得る。
Lk −Vk−1 −W = 0
x A,k Lk − yA,k−1Vk−1 − x A,W W = 0
(6-17)
(6-18)
式を整理すると、1段〜k-1 段の減損部について次式を得る。
yA,k−1 =
Vk−1 + W
W
x A,k −
x A,W
Vk−1
Vk−1
(6-19)
中央部の M 段と M-1 段の間で供給口が存在する。すべての分離段、
凝縮器、再沸器を含めた物質収支から次式が成立する。
F = P +W
(6-20)
Fx A,F = Px A,P +Wx A,w
(6-21)
基本的には、上記質量収支式に蒸留塔内の液流量や蒸気流量を代入して、
各段の成分濃度を決定することができる。
5.蒸留塔設計
4節の解析式に具体的な運転条件を設定して濃縮分離に必要な段数、
塔内部の濃度変化を求める.与えられた供給条件で必要な濃縮度と減損
度を達成する蒸留塔を設計することを意味する。供給条件として F, xA,F
が既知で、xA,P, xA,W を達成する蒸留塔の大きさを決めることになる。
まず(6-20),(6-21)式から P と W の値が決まる。すなわち次式を得る。
P=
x A,F − x A,W
F x A,P − x A,W
(6-22)
Fig. 6-11 蒸留塔物質収支
35
W=
x A,P − x A,F
F
x A,P − x A,W
(6-23)
蒸留塔内で外部との断熱条件が達成されるとき、濃縮段と
減損段の通過流量は一定である。従って蒸気流量と液流量
が濃縮段と減損段内で変化しないと考えられ、次式を仮定
する。
Lj = L
(6-24)
Vk = V
(6-25)
蒸留塔分離に重要なパラメーターとして濃縮部還流比 R、
回収部再沸比 RR を次の様に定義する。
R=L
P RR = V
W Fig. 6-12 蒸留塔の平衡線、操作線
(6-26) 濃縮部
(6-27) 減損部
従って、(6-16),(6-19)式は次の様に変形できる。
yA, j−1 − x A, j =
yA,k−1 − x A,k
1
( xA,P − xA, j )
1+ R
(6-28) 濃縮部
1
= ( x A,k − x A,W )
RR
(6-29) 減損部
(6-28) 式 は 、 xA-yA 線 図 上 で 点 (xA,P,xA,P) を 通 り 、 傾 き が
R/(1+R)、y 軸切片が xA,P/(1+R)の直線であり、同様に(6-29)
式は、点(xA,W,xA,W)を通り、傾きが(1+RR)/RR 、y 軸切片が
-xA,W/RR の直線であることを示している。
原料を供給段直前で適度に加熱沸騰させて液と蒸気の混
合状態で供給する.この液と蒸気混合物中の液の割合を q
とすると、供給後の蒸気は濃縮部に液は減損部に流れ込む
ので次式を得る。
L* = L + qF
(6-30)
V = V *+ (1− q) F
(6-31)
Fig. 6-13
MaCabe-Thile 線図
従って、R と RR とで次の関係がある。
RR =
(1+ R) P − (1− q) F
F−P
(6-32)
このように R と RR は独立に与えることはできず、一方
を決めると他方は供給条件から自動的に決まる。
一方、供給段(M 段)での物質収支から次式を得る。
yA,M =
1
q
x A,F −
x A,M
1− q
1− q
(6-33)
(6-33)式は、xA-yA 図(Fig.6-12)で供給線(Feed line)と
書いた直線であり、濃縮段から減損段に移る供給点の
xA-yA 線図上の位置を決める。もし q=1 なら沸騰状態の
液のみが供給され、供給段の濃度は xA,M=xA,F であり、図
の一点鎖線は垂直になる。一方、沸騰状態の蒸気のみが
供給されると、q=0 であり、yA,M=xA,F の条件が科せられ
る。0<q<1 のときの供給線は、(xA,F,xA,F)を通り、傾き
36
Fig. 6-14 最小理論段数と最小還流比条件
-q/(1-q)の直線である。
供給条件、濃縮と減損条件、蒸気流量、液流量が求められると、塔内
の濃度変化と濃縮と減損に必要な段数が求められる。必要な運転条件が
すべて求められているので、最上段あるいは最下段から順に計算すれば
濃度が求められる。これを図式に求める手法が MaCabe-Thile 図法であ
る。Fig. 6-13 はその図の一例を示す。
平衡段モデルにおいては、各段から上昇する蒸気成分モル分率と下降
する液成分モル分率が平衡線上にあると仮定するので、すべての段で次
の関係が成立する。
yA, j =
ラシヒリング
α A−B x A, j
1+ (α A−B −1) x A, j
j=1~N
(6-34)
あるいはより一般的に平衡線を次式で表す場合もある。
yA, j = f ( x A, j )
j=1-N
(6-35)
(6-34),(6-35)が Fig.6-13 の曲線で表されている。yA,j と xA,j+1 の関係は、濃
縮段と減損段のそれぞれの操作線(直線)で表せるので、図の破線で示
すような逐次計算を実行すると、すべての段での濃度が求められ、必要
な段数が決定される。
6.最小理論段数と最小還流比
平衡線を与え、蒸留塔供給条件を決め、還流比を決めて操作線を書き、
段数、塔内濃度を MaCabe-Thile 線から求めるのが普通の考え方である。
このとき二つの極限の分離条件について考える。
その一つは最小理論段数を与えるもので、生産物をまったく抜きとら
ず(P=0)、塔頂の凝縮器で凝縮した凝縮液をすべて還流する。従って
R=∞である。この条件の操作線は、傾き1の直線になる。従って、濃縮
部の濃度変化は次式で求められる。
yA, j−1 = x A, j (全還流 R=0 のとき) (6-36)
マクマフォンパッキング
ディクソンリング
Fig. 6-15 各種充填材
同時に減損段においても W=0 なので、RR=0 である。従って、(6-36)
式が減損段でも成立する。(6-34)式の平衡線でαA-B が組成によらず
一定のとき、最小理論段数 Nmin は次の Fenske の式で計算できる。
" x (1− x ) %
1
A,W
'
N min +1 =
ln $ A,P
ln (α A−B ) $# x A,W (1− x A,P ) '&
(6-37)
Nmin は蒸留塔段数であり、左辺に1を加えるのは、濃縮分離に凝
縮器と再沸器が作用するためである。
逆に、分離に必要な最低の還流比を最小還流比条件と呼び、Rmin
で表す。もし濃縮段と減損段の操作線の交点が平衡線上にあると、
濃縮部と減損部の交点近くで、段数をいくら増しても減損部から
交点を超えて進むことはできず、分離段が無限大になる。Fig.6-14
の濃縮部操作線に適用すると、操作線の傾きから次式を得る。
x −y
Rmin
= A,P A,M
1+ Rmin x A,P − x A,M
Fig. 6-16 重水とトリチウム水蒸気圧
(6-38)
yA,M と xA,M が平衡線上にあるので、(6-38)式を(6-34)式を代入し整理して次式を得る。
Rmin =
{1+ (α A−B −1) x A,M } x A,P − α A−B x A,M
(α A−B −1) x A,M (1− x A,M )
(6-39)
xA,M と xA,F とは操作線と供給線の交点であるので次の関係にある。
(α
−1) qx 2 + {(α
−1) (1− q − x
) +1} x
−x
=0
A−B
A,M
A−B
A,F
A,M
A,F
q=0 のとき、yA,M=xA,F であり、q=1 のとき、xA,F=xA,M である。
7.蒸留塔高さと段効率
37
(6-40)
これまでに求めた理論段数は、各段における蒸気と液相
Table 6-1 重水, トリチウム水三重点と沸点
が理想溶液状態にあり、また気液平衡が常に達成されると
三重点[K]
沸点 [K]
仮定して式が展開されている。しかし実際の蒸留塔では、
H2O
273.16
373.15
気液の接触時間は有限なので、気液平衡状態に達しないで
D2O
276.95
374.58
蒸気と液は互いに逆方向に段を去る。従って必要な分離段
T2O
277.64
376.66
(理論段数)よりも多い段数が必要となる。これを実際段
数と呼び、理論段数を実際段数で割った値を蒸留塔の総括
段効率と呼ぶ。次の Murphree の段効率 E として定義する。
E=
yA,n − yA,n−1
y*A,n − yA,n−1
(6-41)
yA,n は n 段を去る蒸気モル分率、yA,n*は xA,n と平衡にある蒸気
相モル分率である。必要な理論段数を(6-41)式で求めた効率
で割る事により、分離に必要な実際段数を求める。
蒸留塔に Fig.6-15 のような充填材を均一に充填し、塔の上
部から下部まで液と蒸気を十分に分散させ、連続的に気液接
触を達成する連続蒸留塔(充填塔)がある。この充填塔には、
塔内に外見的な段は存在せず、液相と気相濃度変化も塔上部
から下部まで連続的に変化し、上に述べた段モデルで考える
濃度変化とは異なると思われそうであるが、現在までにおこ
なわれた実験と段モデルから予想される分離性能とはよく
一致している。
段モデルと充填塔連続分離とをつなげる重要なパラメー
ターとして HETP(1理論段に相当する充填層高さ, height
equivalent to a theoretical plate、単位 m)がある。
HETP を次のように定義する。
HETP=(充填層高さ)/(理論段数)
(6-42)
小さな装置で HETP をまず実験的に求め、この
ときの蒸気相流量、液相流量等との(無次元)相
関式を求め、実際の装置設計に用いることがおこ
なわれている。
Fig. 6-17 水素同位体蒸気圧
8.水素同位体分離
水素同位体原子には、質量数1の軽水素、質量
数2の重水素と質量数3のトリチウムがある。重
水 素 は 安 定 同 位 体 で 海 水 中 の D/H 原 子 比 は
0.00015 である。またトリチウムは放射性(半減
期 12.3 年)で海水中にほとんど存在せず(T/H 原
子比で、1x10-17 程度)、リチウムへの中性子照射
核変換(6Li+n→3T+4He)によって製造される。重
水素とトリチウムは核融合炉燃料であり、将来の
エネルギー需要を支える原材料である。水素同位
体を蒸留分離する場合にどのような事を別に考
Fig. 6-18 6 成分水素蒸留分離プロセス
慮する必要があるかを要約して示す。
(TSTA
同位体分離分離系の資料より作成)
o
水蒸留は大気圧 100 C 付近で同位体分離をおこ
o
なう操作である。100 C での蒸気圧比は、Fig.6-16
で見るように H2O/D2O、H2O/T2O とも 1.05 程度で
ある。水蒸留では次の同位体交換反応も蒸留塔内で同時進行することに注意する必要がある。
H2O+D2O=2HDO
(6-43)
H2O+T2O=2HTO
(6-44)
D2O+T2O=2DTO
(6-45)
例えば、H2O-D2O の2成分同位体分離を考えると、HDO を考慮に入れた(6-7)式に相当する H-D の同位体
分離係数(比揮発度)は次式となる。
38
α H 2O−D2O =
(2y
(2y
D2O
+ yHDO ) ( 2xH 2O + xHDO )
H 2O
+ yHDO ) ( 2xD2O + xHDO )
(6-46)
蒸気側と液相側の同位体平衡定数 KH2O-D2O を次のように定義する。
vap
K HDO
=
2
yHDO
yH 2O yD2O
liq
、 K HDO
=
2
x HDO
x H 2O x D2O
(6-47ab)
この平衡定数は4に非常に近い。そこで、液相と蒸気相の同位体交換反応の平衡定数を4と仮定し、(6-46)
式を整理すると次式となる。
α H 2O−D2O =
yD2O xH 2O
yH 2O xD2O
=
pvap,D2O
pvap,H 2O
(6-48)
(6-48)式から求めたαH2O-D2O は、100oC で 1.026 である。さらに、O-17(モル分率 375ppm), O-18(1995ppm)
が安定同位体として存在するので、関与する成分数はさらに増え分離はさらに複雑になる。現在工業的に水
蒸留法を採用するところは世界中に無く、核融合炉の水素同位体分離のためには、次の低温蒸留法が主流と
目されている。
水素は絶対温度 20K 付近に沸点があるガスで同位体間の沸点の差も比較的大きい。従って水素同位体間の
蒸気圧比も Fig. 6-17 に見るようにかなり大きい。水素以外の成分がないので、分離が単純であり、以下の同
位体交換反応は低温状態でほとんど進まない。問題は水素の爆発燃焼性であり、また温度が極低温なので、
温度管理を十分に注意する必要がある.
H2+D2=2HD (6-49)
Table 6-2 水素同位体三重点と沸点
H2+T2=2HT
(6-50)
三重点 [K]
沸点 [K]
D2+T2=2DT
(6-51)
n-H 2
13.80
20.28
従って、供給成分を独立に扱う通常の蒸留分離操作と考えてよい。
HD
(16.60)
(22.1)
HT
(17.70)
(22.9)
水素同位体混合液体と蒸気圧との関係は、理想溶液モデルの Raoult
n-D 2
18.73
23.5
の法則からかなり外れる事が報告されている。従って、各種水素同
DT
(19.79)
(24.4)
位 体 液 体 混 合 物 の 活 量 係 数 の 測 定 が 必 要 で あ る 。( P.C.
T2
20.62
25.0
Souers, ”Hydrogen properties for fusion energy”, Berkeley)
(
)は蒸気圧等解析式から求めた計算値
現在核融合炉燃料サイクルへの水素同位体分離に適用が考えら
れている。D と T が核融合炉に供給され、消費されるとともに核融
合炉ブランケットで生産された T が途中で回収用あるいは燃焼で生じた H とともに低温蒸留で分離される。
全体の成分は6成分であり、蒸留塔の供給口が一つで、出口が二カ所である操作なので、6成分の分離を単
一の塔ではおこなうことができない。Fig. 6-18 に提案されているようないくつかの塔を組み合わせ、多成分
分離をおこなう必要がある。また中間成分の調整のため、触媒を充填した平衡器が各所に置かれ、(6-48)-(6-50)
式の同位体交換反応をおこない、H-D-T の分離をおこなう。
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