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ウズベキスタンにおける市場経済化改革

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ウズベキスタンにおける市場経済化改革
ウズベキスタンにおける市場経済化改革
国際地域一般・高山ゼミ
アジア・アフリカ地域担当
1.記事の要約
“Uzbekistan
An embarrassing friend”
2004 年 11 月 11 日発表予定
文科一類一年 410384F
千先翔子
The Economist July 17th, 2004
今年はウズベキスタン政府にとって苦しい年になった。欧州復興開発銀行に続いて、アメ
リカ政府までもが同国への援助の多くを停止したのである。2001 年 9 月のテロ後、アメリ
カ政府はウズベキスタン政府と協力関係を結び、同国に多額の経済・軍事援助を与えた。
しかし、同国の政治・経済改革が遅々として進まず、人権抑圧も甚だしかったため、今年
アメリカ政府は去年よりさらに援助を削減することを決定した。
2.論点
1991 年独立後、ウズベキスタンは段階的市場経済化を行うとする漸進改革主義路線を一
貫して採ってきたが、実際には改革は一部を除きほとんど進展していない。独立後、積極
的に経済改革を推進してきたカザフスタン・キルギスタンとも比較しながら、ウズベキス
タンが今まで行ってきた改革の成果や今後取り組むべき課題について議論したい。
3.ウズベキスタン
○独立
――
1991 年 8 月、ソ連解体で独立。正式名称ウズベキスタン共和国。
○人口
――
約 2500 万人(中央アジア 5 ヶ国1のうち最大。域内の約 2 分の 1)
○地理的条件
砂漠地帯。二重内陸国2。カザフスタン、キルギスタン、タジキスタ
――
ン、アフガニスタン、トルクメニスタンと国境を接している。
○民族構成
――
ウズベク人(77.2%)、ロシア人(5.2%)、タジク人(4.8%)など。
○政治
――
共和制(カリモフ大統領による強権政治)
○宗教
――
イスラム教スンニ派が優勢。
4.経済情勢
4-1 経済の特徴
○基本路線:漸進改革主義(グラジュアリズム)…
IMF 型の急進的市場化政策をとらず、
当面国家による管理を維持し、段階的自由化・市場化を図る。
○単純な経済構造
1
2
…
綿花関連産業・鉱物資源採掘に特化。
カザフスタン、ウズベキスタン、キルギスタン、タジキスタン、トルクメニスタン。
海に出るまでに 2 回国境を越えなければならない国のこと。
1
○国家による経済コントロールの維持
→
自由な競争の妨げ、改革法の形骸化に
・国内市場ほぼ全領域での価格コントロール
・綿花、穀物の国家発注制度
・貿易、為替管理に対する規制(96∼)…輸入代替工業化戦略3、外貨強制売却義務、
輸入税の引き上げなど。
・大企業の政府所有
・金融制度への政府の介入度大
4-2 貿易
・2003 年貿易収支
…
7 億 6080 万ドル(輸出:37 億 2500 万
・主な輸出品:綿花、金
輸入:29 億 6420 万)
主な輸入品:機械、食料品
・主な輸出先:ロシア、イタリア、タジキスタン
主な輸入元:ロシア、韓国、ドイツ
●綿花などの重要産業の保護、貿易規制によって貿易黒字を生み出している。
4-3 直接投資
・政府は外資導入に積極的だが、低調。
>2003 年外国直接投資受入額は 7000 万ドル。中央アジア・コーカサス諸国全体に占
める割合はわずか 1.2%。政府は 1994 年から外資優遇措置をとり、2000 年から大規
模な投資を期待して石油・ガス分野で開放政策をとってきた。
・低迷している理由
①貿易・為替規制
②経済データの公開性の低さ
③地理的条件。二重内陸国であり輸送コストがかかる。
④近代的インフラが不十分
⑤石油・天然ガス資源の輸出へのポテンシャルの低さ4
5.改革
5-1 独立後の状態
・ソビエト時代、集権的計画経済下にあったため、独自に機能する制度的条件がなかった。
・市場、徴税制度、発達した銀行システムの欠如。
3
工業製品の厳しい輸入制限と国内製造業の振興をもって、輸入品から国産品への代替を促進することで
国内経済の工業化を図る開発戦略を意味する。
4石油、天然ガスはウズベキスタンの主要産業であるが、 国内需要の大きさと二重内陸国という地理的条
件から、石油・天然ガス輸出の可能性は限定的と評価されている。特に原油生産は自給レベルに過ぎない。
2
5-2 市場経済化改革
5-2-1 計画経済と市場経済
ウズベキスタンにおける市場経済化改革とは、計画経済から資本主義市場経済への体制転
換を実現するための経済改革である。計画経済と市場経済の機能原理を比較すると、
計画経済
市場経済
生産手段の所有
社会的所有
私的所有
経営主体
勤労者
資本家
生産目的
社会的欲求の充足
利潤の私的獲得
需給調整
計画化
市場
所得分配
労働に応じた分配
利潤や賃金の獲得
5-2-2 改革内容
改革は大きく 3 分野に分けられる。
・経済自由化:公定価格制度や中央集権的資源配分メカニズムの縮小、撤廃。
貿易活動と為替管理の規制緩和。
・企業改革:私的企業活動の法制化、国有企業の私有化(小規模私有化、大規模私有化)
・金融改革:銀行システムの二層化(国有銀行と商業銀行)、証券市場の創出
5-2-3 改革の進め方
問題となるのは、
○順序(シークエンシング)
市場経済移行政策をどのような順序で実施するか。
○スピード
・急進主義
…
短期集中的に改革を実施。ロシア・東欧・カザフスタン・キルギスタン。
・漸進主義
…
移行政策を段階的に実施。ウズベキスタン、トルクメニスタンなど。
5-2-4 市場経済化がもたらすもの
○プラス
・経済自由化、企業改革 → 利潤獲得意欲、経営責任の強化 → 企業の経営改善
・貿易、為替規制の緩和 → 貿易活発、直接投資増加 → 良質な輸入品の普及、経済成長
○マイナス
・価格の自由化→物価上昇、実質所得の低下
・生産低下5(表 3 参照)
移行開始後、多くの移行国において GDP は大きく減少した。J・コルナイは、このような大幅な生産低
下を「転換不況(transformational recession)」と呼んだ。
5
3
・企業改革→失業の発生
・貧困の増加
・急速な貿易の自由化は、国内産業に壊滅的打撃を与えかねない。
5-3 ウズベク・モデル:漸進改革路線
・経済自由化:価格自由化、反独占法、外国投資法などを制定。
→経済諸法の規定は様々な政令・制度により形骸化6
・企業改革:私的企業活動の法制化、小規模の国有企業の私有化
→中・大規模国有企業、優良企業の私有化進まず。
・金融改革:銀行法、債券市場法などを制定。
→形骸化。政府系金融機関が支配的。債券市場未発達。
(表 1,2 参照)
●2001 年、カリモフ政権は IMF に複数為替レート7の解消、貿易管理の緩和を公約し、
2003 年 10 月、為替レートの一本化、外為規制の緩和を実行。WTO 加盟を目指す。
しかし、貿易規制の緩和、企業・金融改革は進んでいない。
5-4 カザフスタン・キルギスタン:急進改革路線
・経済自由化:独立後すぐ公定価格を廃止、賃金も自由化(キルギスタン)
独立後暫くは価格統制を維持、93 年から徹底した自由化(カザフスタン)
国家発注制度、貿易ライセンス制度の廃止
94∼96 年
98 年
自由主義的な為替制度の導入
自国通貨交換原則の法制化
キルギスタンは WTO 加盟
・企業改革:私的企業活動の法制化、小規模の国有企業の私有化、中堅企業の支配株売却
→巨大企業の支配株は政府が所有
・金融改革:銀行システムの二層化推進、⇒民間企業が銀行システムの中心
→しかし、融資活動の質が低く、銀行の経営破綻が多い。証券市場未発達。
6
例えば、96 年に公定価格や配給制が廃止された後も、反独占法の政府裁量権に基づき、「独占認定企業」
の価格や利益率に関する公的許可制が機能している。
7 ウズベキスタンは 93 年通貨ソムを導入したが、その後公定レートとは別に商業銀行の対顧客取引に適用
される商業レートを設けた。このため、公定レート、商業レート、非合法の闇レートが成立。96 年以降3
つのレートが大幅に乖離し問題となっていた。現在この制度を維持している国はミャンマー、トルクメニ
スタン、イラン、スーダン、北朝鮮などごくわずかな国に過ぎない。
4
5-5 中央アジア諸国内の比較
ウズベキ
カザフス
キルギスタ
トルクメニ
タジキスタン
スタン
タン
ン
スタン
経済戦略
改革慎重
改革推進
改革推進
改革慎重
内戦8後、改革
主要産業
綿花
石油、ガス
農牧、水資源
ガス、綿花
アルミニウム
実質 GDP 累積
−13%
−38%
−41%
−57%
−58%
1.0%
9.0%
6.3%
11.4%
10.2%
308 ドル
1688 ドル
334 ドル
648 ドル
187 ドル
32 ドル
494 ドル
87 ドル
159 ドル
25 ドル
変化(90∼98)
実質 GDP 成長
率(2003 年)
一 人 当 た り
GDP(2002 年)
一人当たり FDI
額(1989∼99 年
累積)
出所)EBRD, 大野【2002】,ロシア東欧貿易会【2001】
・90 年代、ウズベキスタンは国家の経済管理によってソ連崩壊によるダメージを最小限に。
しかし、近年成長は鈍化。特に一人当たり GDP は減少傾向。
・独立後 90 年代前半、5 ヶ国とも生産低下。中でも急速に市場経済化改革を進めたカザフ
スタン、キルギスタンと内戦が起こったタジキスタンは、大幅な生産低下。97 年以降は
安定的成長。
(表 3 参照)
・石油、天然ガスのあるカザフスタン、トルクメニスタンには外国直接投資が集中。
・国家管理主義下にあり天然資源を持つトルクメニスタンの方が、市場経済化を推し進め
た天然資源を持たないキルギスタンより多くの投資を受け入れ、成長している。
→
・天然資源輸出のポテンシャルの低いウズベキスタンは、市場経済化を進めても、
どれだけ投資が増えるのか?という疑問
5-6 改革の阻害要因
・根本的な要因としては、カリモフ大統領の強権政治。
それを支える旧体制の政治エリート。
・国民、特に貧困層の市場経済化への不安
・市場経済化によるリスクの大きさ
1992∼1997 年まで続き、多くの死者(6 万人)、難民(30 万人)を出した。最終的にはロシア・イラン
の仲介により和平交渉が行われ、停戦。
8
5
6.私見
ウズベキスタンは独立後、漸進改革主義を標榜してきたが、それは国家による統制を正
当化する手段に過ぎなかった。一部改革も行われてきたが、市場経済化からはほど遠く、
国家が管理・統制するというシステムを根本的に変えるような試みはなされなかった。ソ
連解体後、十分なインフラ・制度のないまま急進的改革を進めたカザフスタン・キルギス
タン経済が大きな打撃を受けたのに対し、国家管理下にあったウズベキスタン経済は生産
低下を最小限に抑えることができ、回復も早かった。それにより自信を得たカリモフ政権
は今日までそのシステムを維持してきたのである。
しかし、近年ウズベキスタンの綿花モノカルチュア経済は行き詰まってきており、国際
機関や欧米諸国からも市場経済化が強く求められている。ウズベキスタンは早急にシステ
ムの転換を図る必要がある。勿論、市場経済化が進めば、今まで保護されてきた産業は打
撃を受け、全般的には経済は長く停滞するだろう。が、それでも長期的視点に立てば、こ
のまま国家管理システムを維持するよりは、ダメージは軽くすむと思われる。ウズベキス
タンでは天然資源輸出へのポテンシャルが低いため、経済成長の原動力となる直接投資を
ひきつけるのは容易ではないだろうが、市場経済化が進み貿易為替規制が緩和され、産業
の多角化が少しずつでも進めば、直接投資も増えていくだろう。
カリモフ政権がリスクを伴う市場経済化改革をどこまで断行するかどうかは未知数だが、
長年国際社会から批判されながら執拗に維持してきた複数為替制度をようやく昨年解消し
たことはかなりの前進である。同政権はここで改革を終わらせることなく、中長期的戦略
のもと市場経済化、特に貿易規制の大幅な緩和を積極的に推進していくべきである。企業・
金融改革は構造改革であるため、達成には時間がかかると思われるが地道に進めなくては
ならない。そして経済政策と同時に社会保障政策も打ち出し、市場経済化に伴うリスクに
対処していく必要がある。
◎参考文献
・石井明、木村汎編『中央アジアの行方』(2003 年,勉誠出版)
・岩﨑一郎、宇山智彦、小松久男編著『現代中央アジア論』(2004 年,日本評論社)
・宇山智彦著『中央アジアを知るための 60 章』(2003 年,明石書店)
・大野健一著『途上国のグローバリゼーション』(2002 年,東洋経済新報社)
・マリー=ラヴィーニュ『移行の経済学』(2001 年,日本評論社)
・溝端佐登史、吉井昌彦編『市場経済移行論』
(2002 年,世界思想社)
・ロシア東欧貿易会編『中央アジアにおける域内社会・経済安定化への取り組みと国際支
援』(2002 年,ロシア東欧貿易会)
・ロシア東欧貿易会編『中央アジア諸国の外国投資環境』
(2001 年,ロシア東欧貿易会)
・ガイラート=ジュマーエフ「独立以降のウズベキスタン経済と金融制度改革(上)」
『ロシ
ア・ユーラシア経済調査資料』840 巻 p.2-21, 2002
6
・――――,「独立以降のウズベキスタン経済と金融制度改革(下)」『ロシア・ユーラシア
経済調査資料』841 巻 p.2-13, 2002
・成田真樹子「ウズベキスタンの直接投資動向と投資環境の変遷」『東南アジア研究年報』
45 巻 p.1-12, 2003
・The Economist,”Uzbekistan The verdict” , March 27th,2004
・―――,
“Uzbekistan An embarrassing friend” , July 17th, 2004
・―――,
“Central Asia
Après moi le déluge(or my daughter)” , July 31st,2004
◎参考 Web site
・JETRO、外務省、EBRD、WB など
7
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