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電子環境下における北米大学図書館の出版サービス
ー平成24年度海外派遣事業調査報告一
菅 原 光
抄録:筆者は,平成24年度国立大学図書館協会海外派遣事業に申請し,北米大学図書館における出版サー
ビスを調査した。アリゾナ大学図書館,パデュー大学図書館,ミシガン大学図書館における訪問調査と,大
学図書館が担う出版サービスに関する文献調査から,アメリカの大学図書館では出版サービスに着手する大
学が増加しているということ,ただし,出版サービスと言ってもその活動内容は多様であること,またどう
いった出版物を扱っているのかも同様に個々の大学で特色があること,最後に,出版サービスは学術情報の
流通促進に貢献する図書館からの提案であるといったことが明らかになった。
キーワード:北米大学図書館,電子環境下,図書館サービス,出版学術情報,情報発信
1.はじめに ・ 握を試みた。その手法は個別機関へのアンケートと
近年,ICTの発達や学術情報の電子化によって, 十数人の図書館経営者層を対象としたインタビュー
大学における教育・研究活動は高度化・多様化が進 である。この調査結果を踏まえてHahnは,北米大
んでいる。それに伴い大学図書館も,ICTを使っ 学図書館などにおける出版サービスを「Research
た情報発信や所蔵資料のデジタル化,電子媒体資料 Library Publishing Services:New Options for
の購読,統合検索の導入など,様々な変化を求めら University Publishing」にまとめている。それによ
れている。こうした電子環境下において我々は,今 ると,回答のあった80の研究図書館のうち,約
後どのようなサービスを利用者に提供することにな 40%の回答館が既に出版サービスに取り組んでお
るのだろうか。 り,残りの約20%が今後実施すべく整備を計画中
筆者はかねてより,研究者や学生が研究や学修の であることが明らかとなった3}。このことから出版
過程で行う学術情報のインプット・アウトプット サービスは,研究図書館の中で「急速に一般化し
に,大学図書館がどのように関与できるのかに関心 て」おり,もはや課題は「研究図書館が出版サービ
を持ってきた。そこで平成24年度国立大学図書館 スを行うべきかどうかではなく,どのようなサービ
協会海外派遣事業に申請し,学術情報のアウトプッ スを提供できるかになっている」と指摘してい
トに焦点を当てた北米大学図書館における出版サー る4)。その他調査の結果として,主に雑誌の出版が
ビスを調査することにした。具体的には,北米大学 行われていること,オープンソースの開発が出版
図書館において進みつつあるこのサービスを,どう サービスを可能とし,またコンテンツの普及を促進
いった職員が担い,どのような学術情報を,いかな していること,そして,研究図書館が研究者や編集
る方法で出版・発信しているのかを調査することに 者からの様々な要望に応じながら出版サービスに取
した。またこの調査に併せて本稿では,大学図書館 り組んでいることなどが報告された。
職員に今後求められる新たな役割も検討したい。 もう一つは,パデュー大学,ジョージア工科大
学,ユタ大学の各大学図書館が中心となって,
1口 先行研究 ARL, Oberlinグループ, University Librariesグ
北米大学図書館が取り組む出版サービスについて ループ(URG), Affinityグループに所属する研究
は,これまでにいくつかの実態調査が行われてき 図書館などの出版サービスを調査したものである。
た。本節ではその中から,Hahnによる調査Scho一 この調査結果は2012年に「Library Publishing Ser−
larly Publishing and Academic Resources Coalition vices:Strategies for Success Research Report」と
(以下,SPARCという)による調査を取り上げるu2)。 して公表された。この報告においても,最終回答ま
調査が行われた当時,The Association of Re一 で得られた約40館のうち,約55%の回答館が既に
search Libraries(北米研究図書館協会。以下, 出版サービスを行っている,ないしは関心があるこ
ARLという)のOffice of Scholarly Colnmunication とが明らかにされており,北米大学図書館などにお
ディレクターであったHahnは,2007年にARL所 ける出版サービスへの関心の高さが窺える。また,
属の研究図書館を対象とした出版サービスの実態把 取り扱っている出版物として電子ジャーナルの比率
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大学図書館研究XCIX(2013.12)
が高いこと,図書館だけで出版サービスを担う体制 を行った。合わせて,各大学の出版サービスに関す
の他,学内の関連部署(出版局やITセンターな る関連文献から得られた知見を本稿で報告する。以
ど)と連携して行っていること,出版サービスを可 下に簡単ではあるが,訪問先と対応者の一覧を整理
能にするプラットフォームとしてOpen Journal しておく。
Systemsがよく利用されていることなどが明らか ①アリゾナ大学(2012年10月29日訪問)
にされている。 ・Jeremy Frumkin氏(Assistant Dean for Tech一
こうした調査報告から我々は,北米大学図書館に nology Strategy)
おいて出版サービスへの関心が高まっていること ・Dan Lee氏(Director of the Of6ce of Copyright
や,実際に提供されているサービスの概要を知るこ Management&Scholarly Communication)
とが可能となっている。 ・Christine Kollen氏(Data Curation Librarian)
②パデュー大学(2012年11月1日訪問)
1.2「出版サービス」の定義 ・Charles Watkinson氏(Director and Head of
本稿は北米大学図書館における出版サービスを調 Purdue Librariesl Scholarly Publishing Services)
査対象とし,その具体的な活動を把握することを目 ・David Scherer氏(Scholarly Repository Spe一
的としている。ではこれから言及していく「出版 cialist)
サービス」とは,そもそもどのような活動を指して ③ミシガン大学(2012年11月3日訪問)
いるのか。本節では次章以降の事例紹介に先立ち, ・Meredith Khan氏(Publishing Services&Out一
既出の先行調査を手掛かりに「出版サービス」の定 reach Librarian)
義を紹介する。 ・Natsuko Nicholls氏(CLIR/DLF Data Curation
まず「Research Library Publishing Services: Fellow)
New Options for University Publishing」では,冊 ※所属,肩書きは2012年11月現在のもの
子体や電子媒体といった発信手段は問わず,「いか
なるフォーマットにせよ研究成果を発信するために 2.アリゾナ大学の事例報告
図書館が提供するサービス」を出版サービスとして 2.1アリゾナ大学および図書館の概要
いる5)。ただし,図書や雑誌等,既に何らかの手段 アリゾナ大学は1885年,アリゾナ州のツーソン
を通して発信された研究成果を改めてデータベース で開校した州立の総合研究大学である。筆者が訪問
上で保管し,それを公開するだけでは出版サービス した2012年現在,学部学生が約3万2千人,大学
に含まれないとしている。 院生が約7千人所属しており,彼らは18の学部
また,「Library Publishing Services:Strategies (colleges)及び12の専門学部(schools)で学んで
for Success Research Report」でも同様の説明がさ いる6)。
れている。機関リポジトリに加え,冊子で保管され また,アメリカ国立科学財団(National Science
ている図書館所蔵資料などをデジタル化してイン Foundation)の調査によると,研究・開発のため
ターネット上で発信する活動も,出版サービスには に投資されている金額が全米の公立大学の中で19
含まれないと説明されている。 番目に大きい大学と位置付けられている。これは私
以上のことから「出版サービス」は,図書館が既 立大学を含めても30位以内に入る程の規模である7)。
出の研究成果を改めて発信する諸活動は含まず,研 アリゾナ大学図書館は1891年の授業開始ととも
究者や学生が新たに研究成果を生産する過程に関与 にキャンパス内に設置され,1927年,1976年に新
し,公表することができるようにするために図書館 築され現在に至っている。2012年6月現在,約600
が提供する一連のサービスと言えるのではないか。 万冊の図書(冊子体),約120万冊の電子ブック,
約7万5千タイトルの電子ジャーナルを利用者に提
1.3本稿で用いる資料,データ 供している。また果たす機能によって分けられた9
本稿は,筆者が直接訪問して行ったインタビュー つのチームに143人の図書館職員が所属している8}。
調査を元に,北米大学図書館における出版サービス
の一端を明らかにする。インタビュー調査の対象 2.2 アリゾナ大学の出版サービス
は,既に出版サービスに取り組んでいる北米大学図 アリゾナ大学図書館では,Scholarly Publishing
書館の中から,アリゾナ大学,パデュー大学,ミシ and Data Managementと呼ばれる部署が出版サー
ガン大学を選出した。これら訪問大学に対して事前 ビスを担当しており,この部署に所属するJeremy
に質問項目を送付し,それに基づいたインタビュー Frumkin氏, Dan Lee氏, Christine Kollen氏にイ
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電子環境下における北米大学図書館の出版サービス
ンタビューを行った。部署内においてJeremy氏は トフォームを用意し,電子ジャーナルを公開したい
電子出版システムや機関リポジトリの管理を,Dan という研究者・学生の利用に供している。2012年
氏が研究成果の発信に関わる著作権の管理を, 現在,このシステムを使って6つの学術雑誌が発行
Christine氏は図書館が所蔵する資料のデジタル化 されており,それぞれの編集担当者が雑誌の編集作
を担当しているとのことだった。この部署では他 業を進めている。そのタイトルは以下の通りで,国
に,研究者に対する著作権の啓蒙や実験の過程で派 際的な投稿を受付ける学術雑誌からアリゾナ大学で
生した研究データなどのマネジメント,博士論文の 学ぶ大学院生の研究成果発表の場として機能してい
電子化と公開などを担っており,学内の研究成果や る出版物まで,異なる性格の定期刊行物が分野に偏
図書館の所蔵資料の公開・発信を担う7名の図書館 りなく作成されている121。
職員が所属している。これら部署の所掌や各人の担
当業務はアリゾナ大学図書館のwebサイトにて公 ・『Radiocarbon』(ISSN:0033−8222)
開されているので参照されたい9}。 考古学・地球物理学・海洋学などで使われる炭素
アリゾナ大学図書館は北米でも早くから出版サー 14や他の放射性同位元素,またその技術に関連
ビスや学術情報のオープンアクセス化に取り組んで する論文やデータを収録
おり,その活動は「SPARC Leading Edge」と呼ば
れたプロジェクトの下,SPARCのサポートを受け ・「Journal of Ancient Egyptian lnterconnections』
て行われてきた1°}。 (ISSN:1944−2815)
その契機は,1990年代初頭から2000年代の初頭 地中海・近東・アフリカの地域研究と古代エジプ
まで遡ることができる。アリゾナ大学図書館では, ト学を統合し,学際的な研究成果を収録
1990年代前半に図書館に割り当てられていた学術
雑誌の購読費用が大幅に削減されるという事態に直 ・『Journal of Methods and Measurement in the
面した。しかし,こうした決断を下した大学経営者 Social Sciences』(ISSN:2159−7855)
を非難するのではなく,背景として商業雑誌の価格 社会科学における方法論と研究デザイン・測定・
が高騰を続けている状況があることを,図書館職員 データ分析に焦点を当てた論文を収録
が大学経営者層や教員に説明し続けたそうである。
その努力が好意的に受け止められ,アリゾナ大学内 ・『Journal of Political Ecology』(ISSN:1073−0451)
で昆虫学を専門としその分野の学術雑誌の編集委員 環境に対する政治経済や人間の諸活動の影響に関
を務めていた研究者が,2001年から図書館と協力 する研究成果を収録
して『The Journal of lnsect Science』という学術雑
誌をweb上でオープンアクセス出版する取り組み ・『Coyote Papers』(ISSN:0894−4539)
を始めることになった。その研究者が,アリゾナ大 言語学に関するサークルや言語学を専攻している
学からウィスコンシン大学に研究の場を移すまでの 大学院生の研究成果を収録
5年間,アリゾナ大学図書館が作成にかかる費用や
電子出版システムを負担・提供して出版が続けられ ・「Arizona Journal of Interdisciplinary Studies』
た111。 (ISSN:2166−5281)
図書館による出版サービスはその後も継続的に行 人文科学や芸術の分野などを専攻する学生が主導
われており,その中心的な業務内容は電子出版シス して作成する学際的な研究を収録
テムを用意し,それを利用者に使ってもらうという
ホスティングサービスである。また,筆者が訪問し またこの他に,既に終刊となってしまったが4誌
た当時は実施していなかったが,利用者からの依頼 のアーカイブスを,同じくOpen Journal Systems
を受けて原稿や著作権の消失した著作物をEspres一 を使って公開している。図書館は,個々の雑誌の編
so Book Machineを使って紙に印刷・製本するサー 集作業そのものには関わらず,専らシステムの導
ビスを始めている。 入・メンテナンスのみを行っているとのことだった。
電子出版を可能とするシステムとして,カナダの こうした出版サービスを行っていくために,学内
サイモンフレーザー大学やアメリカのブリティッ のIT部門と連携をしているとのことである。ま
シュ・コロンビア大学を中心とするPublic Know一 た,アリゾナ大学にはアリゾナ大学出版会がある
ledge Projectが開発を進めているOpen Journal が,現在は密接な連携はしていないとのことだっ
Systemsというオープンソースの電子出版プラッ た。図書館・出版会の両者が研究者や学生の研究成
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大学図書館研究XCIX(2013.12)
果を発信する役割を担っているが,出版会の方は査 リゾナ大学図書館と異なる組織体系で行われてお
読を経た図書を紙媒体で出版するという伝統的な大 り,Purdue University Press(以下, Pressとい
学出版会の業務を担っている。一方,図書館が担当 う)という組織が図書館内で担当している。こちら
する出版サービスは現在電子出版システムを使った でディレクターを務めるCharles Watkinson氏にイ
雑誌の発行に留まっているものの,教員だけではな ンタビューを行った。Pressには編集や校正,出版
く自分達の研究成果を公表したいという学生の要望 後のマーケティングといった出版実務に特化した職
にも応えてシステムを提供していることから,学内 員と,機関リポジトリのコンテンツ収集やシステム
のニーズを柔軟に受け入れてサポートしている様子 のメンテナンスを担当する職員が所属しており,学
が窺えた。 内研究成果の発信をこの部署が担当している。
出版サービスを図書館員が担当するに当たって必 こうした組織がいかにして図書館内に位置付けら
要なスキルの向上,研修の機会については,電子出 れるようになったのか。元々はそれぞれ別々に活動
版システムのベンダーが提供しているWebinar をしていたPressと図書館が統合することになった
(オンライン研修)に参加したり,Association of のは,2008年に行われたPressのディレクターと
College and Research Libraries(ACRL)のワーク 図書館長との意見交換により, Pressが図書館に吸
ショップに参加したりしているとのことだった。 収される形で統合するのが良いという結論に至った
最後に現在抱えている課題をいくつか教えていた からである。1960年に設立されて以来,査読済み
だいた。1つは図書館がこうしたサービスを行って の学術的な図書や雑誌を冊子にして出版してきた
いることの周知,もう1つは出版会との連携をどの Pressが,研究成果の電子的公開やオープンアクセ
ように進めていくかということだった。出版会とは ス,研究データのマネジメントという課題に直面
取り扱う出版物の棲み分けがあることを先に述べた し,資料のデジタル化や機関リポジトリのサービス
が,学内にはそうしたフォーマルでかつハイクオリ を進めてきた図書館に統合されることになったので
ティな研究成果とは見なされなくても,自分達の研 ある’5)。
究成果を公開したいと願っている研究者や学生がま こうした言わば2つのルーッを持つ現在のPress
だいるはずだとのことだった。そういった要望を, が刊行する出版物には,査読を経た上で出版される
図書館の出版サービスとして実現していきたいとの 図書や雑誌に加え,学生の研究成果をまとめた学際
ことだった。 的な雑誌やテクニカルリポート,会議論文集といっ
た確立した流通経路の確保が難しい灰色文献,そし
3.パデュー大学の事例報告 て利益の追求を目的としないオープンアクセス誌な
3.1パデュー大学および図書館の概要 ども含まれる。筆者が訪問した2012年には,26冊
パデュー大学は1869年,インディアナ州ウェス の図書が新規に作成・販売され,また3タイトルの
トラファイエットに創立された州立の総合研究大学 雑誌が継続して販売されていた。図書についてはそ
である。2008年現在,約4万人の学生が所属し, の全てが冊子の他にPDF・EPUB形式でも提供さ
学部生に対して200以上,大学院生に対して70以 れている。また,6タイトルのオープンアクセス誌
上の専攻科目を提供しており,特に理系とビジネス が提供されていた。
分野での高い社会的評価を得ている。また2010年 これら多様な出版物を刊行するまでにPressはど
にノーベル化学賞を受賞した根岸英一氏が特別教授 のようなサービスを提供するのか。そのサービス内
の職位にあることでも知られている13)。 容は,以下のように整理することができる。
2011年度の統計によると,パデュー大学には
キャンパス内に13の図書館機能を持つサービスポ 1.Authoring
イントが設置されている。280万冊の冊子・電子 企画段階のサービス。出版戦略や著作権に関す
ブックを所蔵し,4万タイトルの雑誌(冊子体と電 るアドバイス,出版に必要なツールを紹介する
子ジャーナルを合わせた数),500以上のデータ
ベースを利用者に提供している。また果たす機能に 2.Production
よって分けられた9つのチームに185人の図書館職 出版準備段階のサービス。できあがった原稿の
員が所属している川。 校正やXMLを使った電子化,紙への印刷やそ
の他様々な電子書籍フォーマットヘファイルを
3.2パデュー大学の出版サービス 変換する
パデュー大学図書館における出版サービスは,ア
51
電子環境下における北米大学図書館の出版サービス
3.Dissemination スをより充実させるため,研修プログラムの策定に
出版物を配布する段階のサービス。Amazon 取り組んでいるということだった16)。こうした取り
などの商用データベースへのコンテンツ登録 組みによって,大学図書館が出版サービスを提供す
または自大学で用意しているデータベースへの るためにはどういった知識が必要なのか,どういっ
登録や,アクセシビリティの向上を図る たツールがあるのかといったことが広く公開され,
またサービスが標準化されると,それを参考に日本
4.Preservation の大学図書館でもより関心が高まる可能性がある。
コンテンツを保存する段階のサービス。Digital
Object Identifierの付与やCLOCKSSを使った 4.ミシガン大学の事例報告
コンテンツの保存,またコンテンツの利用情報 4.1 ミシガン大学および図書館の概要
をCOUNTERによって管理している ミシガン大学は1817年,ミシガン州に創立され
た州立の研究型総合大学である。キャンパスはア
このような出版戦略,著作権に関するアドバイ ナーバー校,ディアボーン校,フリント校の3校か
ス,出版に必要なツールの紹介といった企画の段階 ら構成され,アナーバー校が中核となっている。パ
から,公表された研究成果の保存,利活用に至る一 ブリック・アイビーと称される他,英紙タイムズ
連の流れ全てをPress内の職員とアウトソースを組 (The Times)の世界大学ランキング2012年版にお
み合わせてサポートしている。 いて18位にランクインするなど,社会的に高い評
自大学で電子的に発信する手段としてPressは, 価を得ている大学である。学部生に対して約200の
Digital Commonsを「Purdue e−Pubs」と名付けて 専攻科目を提供しており,2012年現在,約2万7
使い,コンテンツを公開している。Digital Com一 千人の学生が所属している。
monsは,カリフォルニア大学バークレー校に所属 2012年度の統計によると,ミシガン大学には約
する3人の学者によって設立されたbepress(Ber− 20の図書館が置かれ,総勢500名の図書館職員が
keley Electronic Press)が提供する,研究成果の電 勤務している17)。
子出版を担う電子出版サービスである。機関リポジ
トリ機能の他,研究成果を出版するまでに必要な編 4.2 ミシガン大学の出版サービス
集上の管理機能も含む,学術情報の流通を支援する ミシガン大学図書館で行われている出版サービス
サービスとなっている。アリゾナ大学図書館が利用 もパデュー大学図書館と似た組織体系の下で行われ
しているOpen Journal Systemsは自分達で用意し ていた。ミシガン大学には「MPublishing」という
たサーバにそれをインストールしてローカルで使う 組織が図書館内にあり,こちらで「Publishing Ser一
システムだが,このDigital Commonsは提供元の vices&Outreach Librarian」の肩書きを持つ
bepressがホスティングサービスを提供しており, Meredith Khan氏にインタビューを行った。
自館でシステムを管理せずともコンテンツをアップ まず,MPublishingが提供する主なサービス内容
ロードすることができる他,オリジナルのデザイン を整理しておこう。
も適用できるため,雑誌毎のサイトを体系的に公開
することができる。パデュー大学の構成員は無料で ・「University of Michigan Press」
このシステムを利用することができる。 ミシガン大学図書館に所属し,図書や雑誌の紙媒
こうした日々の出版サービスに加えてPressは, 体や電子的出版を担う
北米の大学図書館における出版サービスの充実化に
も尽力している。前述の調査報告書,「Library ・「Copyright Office」
Publishing Services:Strategies for Success」のとり 研究者や学生が自らの著作物を発表・再利用した
まとめをしたり,北米大学図書館の出版サービスを り,他人の著作物を利用したりする際の著作権処
向上させるための研修を創出したりと,対外的な活 理に関するアドバイスや情報提供をする
動にも取り組んでいた。その一例として,北米大学
図書館が主体となって行う出版サービスに関する情 ・「Deep Blue」
報交換の場,研修の場として,「Library Publishing ミシガン大学の機関リポジトリ。ミシガン大学の
Coalition」と名付けられた活動が昨年から本格的に 研究成果を投稿,発信,保存する
動いており,全米約50の出版活動を行っている大
学図書館が共同で,大学図書館における出版サービ
52
大学図書館研究XCIX(2013.12)
・「Print on Demand Services」 で持続的に管理,提供することができるようになっ
ミシガン大学教員の絶版本を再販したり,未発表 ている。
の著作物を必要な時に紙媒体へ出版したりする。 またミシガン大学は,こうした学術情報の電子的
またオンデマンド印刷機を図書館内に用意し,博 な発信だけではなく,オンデマンドの印刷製本が可
士論文や教科書などのオンデマンド印刷を行う 能なEspresso Book Machineを導入して紙媒体に
よる研究成果の流通にも貢献していた。これから生
・「Publishing Consultation Services」 産される博士論文や雑誌,教科書などを教職員や学
新規に図書や雑誌の出版を検討する利用者の相談 生が決められた価格で紙媒体に印刷することができ
や冊子から電子的発信への移行など,出版に関す る他,図書館の事業として絶版となった図書の復刻
るコンサルテーションを主に行う や著作権の切れた図書の再版をし,それをHathiT−
rustやAmazonと連携して広く流通させることに
MPublishingのwebサイトには2012年11月現 も取り組んでいた。
在で約60名の職員が名を連ねており,図書館員か 最後となったが,ミシガン大学が提供するこれら
ら編集者,システムのプログラマー,デザイナーと サービスを通して教職員や学生の研究成果を公開し
いうように,およそ出版業務のほとんどを自前で提 てもらうため,学内者向けワークショップを開催す
供できる大規模な組織となっている18)。 るなどして,自分達の活動の広報や利用者教育にも
こうした体制は2009年に整備されて今日に至っ 力を注いでいる。
ているが,それまではいくつかの組織が学内研究成
果の発信や出版サービスを担っていた。その一つが 5.まとめ
2001年に図書館内に創設されたScholarly Pub一 本報告で,3つの北米大学図書館における出版
lishing Of丘ceである。ミシガン大学における研究 サービスを紹介した。それらと既存の先行研究を合
成果を特に電子的に発信するために,電子出版のた わせて,北米大学図書館における出版サービスの特
めの独自のプラットフォームや機関リポジトリシス 徴を整理する。
テムを開発したり,絶版本をオンデマンド印刷機を まず,アメリカの大学図書館において出版サービ
使って再販したりするなどの活動を行なってきた。 スへの取り組みが進みつつあることである。Hahn
また一方でUniversity of Michigan Press(大学出 による調査とSPARCによる調査や,訪問先の各大
版会)も1930年の設立以来,紙媒体を使って主に 学図書館において行われている出版サービスを伺
人文・社会科学系図書や学部学生が用いる教科書, い,増々その機能は強化・拡大されていくのではな
英語の語学教材などを作成し,一年間でおよそ170 いかと思われる。
タイトルの出版があった。これらの組織が,ミシガ 2つ目として,一言に出版サービスと言ってもそ
ン大学が研究成果の電子的発信の強化に取り組み始 の活動内容は多様であることも窺えた。今回の訪問
めた2009年に,大学出版会が統合される形で 調査では,アリゾナ大学のように電子出版システム
MPublishingという組織となっている。 の提供のみの場合もあれば,パデュー大学やミシガ
MPublishingもPurdue University Press同様, ン大学のように企画から発信の一連の流れに深く関
査読を経た上で出版される図書や雑誌の他,学生の わるケースもあり,出版サービスの提供方法は一様
研究成果をまとめた学際的な雑誌や,テクニカルリ ではない。またどういった出版物を扱っているのか
ポート,会議論文集といった資料の公開に取り組ん といった点も同様で、個々の大学でそれぞれ違いが
でいる。購読料を支払わなければ閲覧ができないも あった。しかし,電子出版プラットフォームを活用
の,オープンアクセスが可能なものの両方を出版し して研究成果を電子的に発信することに注力する点
ている。また既に終刊となっているものを含め,雑 は,3大学に共通する特徴であった。
誌は約30誌のコンテンツを公開している。 最後に,出版サービスは学術情報の流通に貢献す
ミシガン大学では研究成果の電子的公開のため る図書館からの提案であることが窺えた。公表され
に,Digital Library eXtension Service(DLXS)と た出版物を収集し利用者に提供する従来のサービス
いう電子出版システムを自前で作成し,そこでコン に加えて,図書館自らが学内外の学術情報の生成に
テンツを公開する他,他の大学図書館にもこのツー 関与しその流通促進へ寄与する活動は,これからの
ルを提供している。特徴はOpen Journal Systems 大学図書館のサービス像を考察する上で一つの参考
と似ているようで,複数の電子ジャーナルを分野や 事例を示しているように思われる。
雑誌の違いを超えて一つの共通プラットフォーム上 今回の調査を通して、大学図書館自らが電子出版
53
電子環境下における北米大学図書館の出版サービス
システムやオンデマンド印刷機を用意し,学内の研 8)University of Arizona Libraries、 University Librar一
究成果の発信に積極的に関与する姿勢を学ぶ機会を ies, The University of Arizona Organization Chart
得ることができた。学術情報の多様な流通手段を 2012・(online)・
我々大学図書館自身も提案できるよう,今後も国内 httP://www’lib「a「y’a「izonaedu/sites/default/創es/
外における出版活動に注目したい。 0「9cha「t’Pd£(accessed 2013’05’Ol)
最後となったが,私にこのような機会を与えてく9
=lllity°f A「iz°na Lib「a「ie3 Lib「a「y Teams
ださった国立大学図書館協会,そして現地にて快く http://wwwlibrary.arizonaedu/about/contact/team
インタビューに応えてくださった各大学図書館職員 Directory.php,(accessed 2013−05−01)
の皆様に厚くお礼を申し上げたい。ありがとうござ 10)SpARC. Leading Edge.(online),
いました。 http://www. sparc. arL org/membership/purchase−
commitment/leadingedge,(accessed 2013−05−01)
1)Hahn, Karla L. Research Library Publishing Ser. 11)Albanese, Andrew Richard・The Library as Publi−
vices:New Options for University Publishing. sher・Library・Information Science&Technology
(online), Abstracts.126,18, p.49.
http://www. arl. org/storage/documents/publica 12)University of Arizona Libraries・Journal Publishing
tions/research−library−publishing−servicesmarO8. pdf, Se「vices・(online)・
(accessed 2013−05−01) http://www.library. arizona.edu/journal−publishing,
2)Mullins, James L, et al. Library Publishing Services: (accessed 2013−05−01)
Strategies for Success Research Report.(online), 13)Purdue University・Facts Online・(online),
http://docs. lib。 purdue. edu/lib_research/136/, http://www・purdue・edu/facts/people/students・
(accessed 2013−05−01). html,(accessed 2013−05−01)
3)Hahn, Karla L. Research Library Publishing Ser. 14)Purdue University・Additional Facts and Figures・
vices:New Options for University.(online), (online),
http://www. arl. org/storage/documents/publica http://www・purdue・edu/datadigest/additional/
tions/research−library−publishing.services−marO8. pdf p9116・html,(accessed 2013−05−01)
(accessed 2013−05.01) 15)Mullins, James L, et al. Library Publishing Servicesl
4)Hahn, Karla L. Research Library Publishing Ser− Strategies for Success Research Report・(online),
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01) 図書館学術サービス課レファレンス係〉
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大学図書館研究XCIX(2013.12)
Koh SUGAWARA
Publishing services in North American academic libraries
Abstract:In 2012 the author received an overseas training grant from the Japan Association of National
University Libraries to undertake a survey of the publishing services in North American academic libraries.
He conducted site visits of the libraries at the University of Arizona, Purdue University and Michigan
University, and through a literature review learned that an increasing皿mber of academic libraries in North
America are becoming involved with publishing services. The range of“ publishing services”is quite
varied as is the types of materials they handle, and depends on the unique characteristics of each university.
Finally, the author notes that libraries proposed offering publishing services as appropriate way to
contribute to the distribution of academic information.
Keywords:North American academic libraries/digital environment/library services/publishing/
scholarly information/information transmission
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