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比較法による消費者契約法4条3項改正案検討‐状況の濫用規定創設の

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比較法による消費者契約法4条3項改正案検討‐状況の濫用規定創設の
437
比較法による
消費者契約法 ₄ 条 ₃ 項改正案検討
状況の濫用規定創設の可能性―
―
前田研究会
Ⅰ 日本法の問題点
₁ 現行消費者契約法について
₂ 消費者契約法 4 条 3 項改正の検討必要性
₃ 仮 説
Ⅱ 各国における救済方法
₁ フランス
₂ オランダ
₃ ドイツ
₄ イタリア
₅ イギリス
Ⅲ 比較・考察
₁ 要 件
₂ 効 果
₃ 取消権に対する制限(契約改訂)
Ⅳ 消費者契約法 4 条 3 項改正案
Ⅴ ブラックリスト
Ⅰ 日本法の問題点
消費者契約法の契約締結過程に関する規律のうち、現在、不退去および退去妨
害による困惑( ₄ 条 ₃ 項 ₁ 号・ ₂ 号) として規定されている事項について、外国
438 法律学研究53号(2015)
法との比較によりその改正案を検討する。具体的には、まず同条の要件・効果、
立法趣旨・沿革の調査により問題点を明らかにし、改正案の仮説を立てる。次に、
フランス、オランダ、ドイツ、イタリア、イギリスといった各国における対処状
況(条文状況、要件・効果、事例)を調査する。最後に、それらを比較・考察し、
消費者契約法 ₄ 条 ₃ 項の具体的な改正案を提案する。
₁ 現行消費者契約法について
( 1 ) 趣旨・沿革
消費者契約分野における我が国の法制度は、特定の事業分野に適用範囲を絞っ
た特別立法(以下では「業法」という)を積み重ねるという仕方で整備されてきた1)。
この業法による消費者契約問題へのアプローチは、各業種に応じたきめ細かい
サービスを可能にするという長所を持つ反面、業法によってカバーされない業種
において生ずる問題には対応ができないという弱点を含む2)。また、業法上の規
定に違反した場合の法律効果は、原則として行政的・刑事的なものであって、民
事的効果が伴わない。そこで、①適用対象が業種の垣根を越えて包括的であるこ
と、②契約の無効・取消しといった私法上の効果について定めることの二つの新
しい要素を持つ消費者契約法が2000年から施行された。
消費者契約法 ₁ 条は同法の目的について、「消費者と事業者との間の情報の質
及び量並びに交渉力の格差にかんがみ、事業者の一定の行為により消費者が誤認
し、又は困惑した場合について契約の申込み又はその承諾の意思表示を取り消す
ことができることとするとともに……消費者の利益を不当に害することとなる条
項の全部又は一部を無効とする……ことにより、消費者の利益の擁護を図り、
もって国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与することを目的とす
る」と規定する。
つまり、消費者契約における消費者と事業者間の情報力や交渉力の格差といっ
た問題を解決するために、消費者が事業者の不適切な勧誘により結ばされた契約
から離脱できるというルールと、自己の利益を不当に害する契約条項を無効と主
張できるというルールを規定した。
実体的規定は締結過程規制( ₄ ~ ₇ 条)と契約内容規制( ₈ ~10条)の ₂ 本立て
である。このうち締結過程規制については ₄ 条が取消事由を定めている。具体的
には、情報提供に問題がある場合の取消し、困惑させる状況がある場合の取消し
に分けられる。前者には不実告知による取消し( ₁ 項 ₁ 号)、断定的判断による取
439
消し( ₁ 項 ₂ 号)、不利益事実の不告知( ₂ 項)が含まれており、後者には不退去
による取消し( ₃ 項 ₁ 号)、退去困難による困惑の取消し( ₃ 項 ₂ 号)が含まれて
いる。
( 2 ) 消費者契約法 4 条 3 項の条文と要件
消費者契約法 ₄ 条 ₃ 項(困惑類型)
消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費
者に対して次に掲げる行為をしたことにより困惑し、それによって当該消費
者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すこと
ができる。
一 当該事業者に対し、当該消費者が、その住居又はその業務を行っている
場所から退去すべき旨の意思を示したにもかかわらず、それらの場所から退
去しないこと。
二 当該事業者が当該消費者契約の締結について勧誘をしている場所から当
該消費者が退去する旨の意思を示したにもかかわらず、その場所から当該消
費者を退去させないこと。
消費者契約法 ₄ 条 ₃ 項において、事業者から消費者への不適切な強い働きかけ
の回避に関する民事ルールが設けられている。消費者は、事業者の一定の行為に
より困惑し、それによって当該消費者契約の申込みまたはその承諾の意思表示を
したときは、これを取り消すことができることとされている。
「困惑」とは、困
り戸惑い、どうしてよいか分からなくなるような、精神的に自由な判断ができな
い状況をいう。畏怖をも含む、広い概念である3)。
以下の要件を満たしたとき、取消権が認められる。
不退去類型( ₄ 条 ₃ 項 ₁ 号)……①消費者がその住居または業務を行っている
場所から退去すべき旨の意思を示したこと、②それにもかかわらず事業者が退去
しないこと、③ ②の不退去行為により消費者が困惑したこと、④消費者の困惑
と意思表示との間に因果関係があること4)。
退去妨害類型( ₄ 条 ₃ 項 ₂ 号)……①契約締結の勧誘をしている場所から消費
者が退去する旨の意思を示したこと、②それにもかかわらず消費者を退去させな
いこと、③ ②の退去妨害行為により消費者が困惑したこと、④消費者の困惑と
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意思表示との間に因果関係があること5)。
( 3 ) 消費者契約法 4 条 3 項の意義
本規定は、民法上の強迫の要件を緩和して、消費者契約からの離脱をより容易
にする意味を持つ。強迫による取消しでは、①二段の故意、②強迫行為、③違法
性、④因果関係が必要とされるが、困惑では①と③は要求されておらず、②は不
退去、監禁行為によって置き換えられている。特に、民法96条の強迫による取消
権付与の要件として、生命・身体に対する侵害という厳格な要件が存在する6)。
このため、消費者が事業者の不適切な行為によって契約を締結した場合に、この
規定を活用して速やかにこれを解消することは、一般に困難である。
₂ 消費者契約法 4 条 3 項改正の検討必要性
( 1 ) 消費者契約法 4 条 3 項の限界
近時の消費者問題として、先物取引、ワラント取引、変額保険、その他のハイ
リスク・ハイリターンの取引、原野商法、ネズミ講・マルチ商法等、不当な取引
に対して、消費者契約法はどこまで救済できているのだろうか。
既述したように、消費者契約法は、意思表示の取消しの根拠となる不当勧誘類
型としては、誤認類型として不実告知、断定的判断の提供、不利益事実の故意の
不告知の ₃ タイプ、困惑類型として、不退去、退去妨害の ₂ タイプしか規定して
いない。とりわけ、困惑類型が限定されすぎていて、恋人商法や、親切商法、
SF 商法(催眠商法)などが入らない7)。
( 2 ) 他の救済方法
これらに対する民事的な救済方法としては、消費者契約法による取消権付与の
ほかに、民法90条の公序良俗違反による無効、民法709条の不法行為による損害
賠償が考えられる。
民法96条の強迫、消費者契約法 ₄ 条 ₃ 項の困惑による取消し、特定商取引法に
よる救済が困難な場合、民法90条を根拠に公序良俗違反を理由とする契約の無効
が問題とされることが多い。暴利行為論8)は、公序良俗違反の一類型として知ら
れているものである。民法90条ではもともとはこのような類型を念頭に置いてい
なかったが、ドイツから暴利行為論が導入され、「相手方の窮迫・軽率・無経験
に乗じて過大な利益を獲得する行為は公序良俗に反する」という命題が確立され
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てから、1970年代後半以降、消費者契約の領域で用いられることが多くなってき
た。
「窮迫・軽率・無経験に乗ずる」というのではなく「優先的地位にある」と
いうだけで足りるという判決も出てきており、適用範囲が広がってきている。こ
のほか、民法709条を根拠に、事業者の不当な勧誘により被った損害の回復を求
める方法として不法行為に基づく損害賠償請求も考えられる。
裁判例には、事業者の不退去・退去妨害以外の態様による不当な困惑惹起行為
によって消費者契約が締結された場合につき、民法90条の公序良俗違反により契
約の効力を否定したものや、不法行為に基づく損害賠償請求により被害救済を
図ったものが少なからず存在している。これらは民法の一般法としての性格から、
その要件はなお厳しく、同規定による解決には限界がある。そこで、消費者契約
法において、消費者契約における当事者の情報・交渉力格差と従来の被害実態を
踏まえて、これに対処できるよう改正をする必要がある。
( 3 ) 消費者契約法 4 条 3 項の検討経緯
各地の消費生活センター等には、民法の強迫とまではいかないが、消費者の自
由な意思形成を抑圧する不適切な勧誘によって契約を締結させられた消費者から
の苦情・相談が、多数寄せられていた。そこで、消費者契約法は、そのような場
面の一部に対処するために、 ₄ 条 ₃ 項にて困惑による取消権について規定した。
しかしながら、極めて厳格な適用範囲の限定があるために、本来の趣旨に完全に
応えられているとは言い難い。
第一報告「消費者契約法(仮称)の具体的内容について」中間報告では、
「事
業者が消費者を威迫した又は困惑させた場合であって、当該威迫行為又は困惑行
為がなかったならば消費者が契約締結の意思決定を行わなかった場合」の取消権
を認めている。第二報告「消費者契約法(仮称)の制定に向けて」においても、
「事
業者から消費者への不適切な強い働きかけの回避に関する規定」とされ、「消費
者を威迫し、又はその私生活若しくは業務の平穏を害するような言動をするこ
と」とやや広くなった。しかし、最終報告「消費者契約法(仮称)の具体的内容
について」に至り、「当該消費者がその住居若しくは就業場所から当該事業者に
退去するよう求める旨の意思を示したにもかかわらずこれらの場所から退去しな
い行為、又は当該事業者が勧誘をしている場所から当該消費者が退去したい旨の
意思を示したにもかかわらず当該消費者の退去を困難にする行為」とした9)。そ
の類型に退去・不退去という限定がかけられたため、威迫により困惑しただけで
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はこの規定にあたらず、様々なカバーのできない事例が発生した。これは、基準
の明確化を求める経済界からの声に押されて、後退させられたことによって生じ
た問題である10)。
₃ 仮 説
( 1 ) 仮説 1 (沖野)11)
前述したように、困惑類型に関する条文には不退去・退去という制限がかけら
れた。この点、制定された当時、沖野は困惑類型を幅広く規制することを提案し
ていた。以下が提案された条文である。
信義誠実違背の接近・勧誘を理由とする取消し
① 事業者が、契約勧誘意図を秘匿して不意打ち的に接近し、執拗なあるい
は威迫的な勧誘を行い、不安心理や困惑を引き起こし、または、消費者の
知識・判断力の不足に乗じ、その他信義誠実に反する態様で、消費者に契
約を締結せしめた場合、当該事情の下では消費者が当該契約締結を拒絶す
ることが実質上期待できない状況であったとき、消費者は、契約を取り消
すことができる。
② 前項の取消権は、消費者に締結拒絶を期待できない状況が止んだ時から
₁ 年内に行使することを要する。
③ 第 ₁ 項の取消しは、善意の第三者に対抗できない。
威迫困惑行為、状況の濫用、一般類型についてそれぞれに取消権を付与してい
る。他に損害賠償規定についても定められている。以下、威迫困惑行為と状況の
濫用について説明する。
(a) 威迫・困惑行為
消費者契約法の検討経緯である中間報告や、その趣旨を考慮して提案している。
「威迫・困惑」行為にとどまらず、問題となる不当な勧誘行為を現実の問題事例
に即して類型化する必要がある。沖野案では、問題事例に即した具体的事例とし
て、①契約意図を秘匿しての不意打ち的接近、②執拗な・威迫的な勧誘、③不安
心理や困惑の惹起、④知識・判断力不足への便乗を掲げている。
(b) 状況の濫用
中間報告が問題視するのは、消費者が十分に自由な意思決定をできない状況や
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原因を事業者が積極的に作り出している場合である。これに対し、例えば判断力
の不十分さ、知識・経験の乏しさ、困窮した状態等、既存の消費者の状況を悪用
する類型が考えられ、これらは「状況の濫用」とでもいうべき類型である。沖野
案では、知識不足・判断力不足という消費者の状況をとりあげ、これに「つけこ
む」行為を不当としている。他方、それ以外の状況につけ込む行為については、
内容の不当さを加味して、取消権等を認めることとしている。
( 2 ) 仮説 2 (鹿野)12)
現在もなお、消費者契約法 ₄ 条 ₃ 項について鹿野が沖野と同じような提案をし
ている。
消費者契約法 ₄ 条 ₃ 項について、①困惑類型の拡大、②困惑類型を包含する上
位概念の設置、③状況の濫用による取消規定の設置、④一般規定(受け皿規定)
の立法化、⑤損害賠償責任規定の導入を提案しており、沖野案と①③④⑤につい
て類似している。①については、現行法における困惑類型が不退去・退去妨害の
二つの類型しか規定しておらず、対象となる行為類型が限定的である点を指摘し
ている。「不退去」「退去妨害」に加えて「執拗な勧誘」「契約目的を隠匿した接
近行為」等のさらなる類型などを例示として掲げながらも、それを包含する上位
概念として「意に反する勧誘の継続」と「それによる困惑」という形に取消しの
要件を改めることなどにつき、検討する必要があるという。
状況の濫用による取消規定については、事業者が消費者の判断力の低下、心理
的な不安、誤解状況、立場の弱さなどにつけ込んで勧誘することにより、消費者
が本来であれば不要とするような契約を締結したといった、状況濫用を要件とす
るような取消規定の導入を提案している。具体的には「高齢者の判断能力の減退
につけ込んだ勧誘行為」「霊感商法など不安心理につけ込んだ勧誘行為」
「先物取
引など複雑でリスクのある取引につき消費者の知識の不十分さにつけ込んだ勧誘
行為」「従業員などの立場の弱さにつけ込んだ勧誘行為」を規制する。
( 3 ) 当研究会の仮説13)
沖野・鹿野の案では、困惑類型の拡張、状況の濫用による取消規定の設置に加
えて、将来起こり得る不当勧誘の防止を目的とした一般規定と、損害賠償規定の
必要性も指摘されていた。沖野案が提案されたのは制定当時であり、現状に対応
したものとは言えない。鹿野案は改正案に向けて検討すべき点を指摘しているに
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過ぎず、具体的な条文内容までは踏み込んでいない。
当研究会においては、威迫困惑の類型の拡張、「状況の濫用」による取消規定
の設置の当否とその具体的内容について議論された。消費者契約法の制定背景と
近年の問題となる事例から、困惑類型の拡張の必要性は明らかである。状況の濫
用による取消規定とは、威迫・困惑のように消費者が十分に自由な意思決定がで
きない状況や原因を事業者が積極的に作り出している場合にとどまらず、消費者
の知識、既存の消費者の状況を利用し、それを悪用するような類型についても、
消費者に取消権を付与するものである。
イタリアとオランダの状況の濫用規定、フランスの経済的強迫やその法理を盛
り込んだ債権法改正案、ドイツの公序良俗規定、イギリスの強迫、非良心性、不
当威圧の法理といったものが、状況の濫用による取消規定を考察する上で大いに
参考になるであろう。特にイタリアとオランダには明文規定が存在し、その効果
も契約改訂という特殊なものを取り入れている。
以下では、外国法との比較により、状況の濫用による取消規定の設置について
具体的な改正案の内容を考察していく。
Ⅱ 各国における救済方法
₁ フランス
フランスでは、状況の濫用に関する取消しに関し、強迫を拡張することで対応
してきた。そこでフランスの伝統的な判例法理である経済的強迫、さらにはこの
法理を盛り込んだ債権法改正案を考察することによって、状況の濫用法理を盛り
込んだ消費者契約法 ₄ 条 ₃ 項の改正の方針が見えてくるのではないかと考える。
( 1 ) 条文状況
(a) 沿 革
フランスにおいては近年民法典改正議論が盛んであり、その中で状況の濫用に
対する規制を強迫の拡張という形で従来の判例法理である経済的強迫を明文化さ
せることで組み込もうとしているのが現状である。これは世界各国において取り
組まれている民法改正による同意の瑕疵の新類型創設という立法的解決の潮流を
汲んだもので、経済的依存状況の濫用的搾取を法的制裁の対象とすべきという考
えに基づいたものである14)。
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フランスではこの理論を基に状況の濫用法理を盛り込んだ改正案が提案されて
いる。この章では二つの改正案について詳しく見ていきたい。
(b) 現行のフランス民法典
現行のフランス民法1109条では「錯誤ヲ以テ承諾ヲ為シタル時叉ハ暴行ニ因リ
已ムコトヲ得ス承諾ヲ為シタル時叉ハ詭欺ヲ受ケテ承諾ヲ為シタル時ハ法ニ適シ
15)
タル承諾アリトセス。」
と規定している。本条では、意図的・故意的な人間の
行為によって畏怖が生じる場合に強迫が成立する16)。
(c) カタラ案
フランス債権法改正準備法案(カタラ案)1114- ₃ 条17)
₁ 項「強迫は、一方当事者が、窮迫状態又は依存状態の影響の下に、約束を交
わし、他方当事者は約定から明らかに過大な利益を得るために、この弱い立場に
つけこむ場合にも、同じく存する。」
₂ 項「弱い立場は、特に、被害を受けた当事者の繊細さ、両当事者間の以前の
関係の存在又は経済的な不公平を考慮しつつ、状況を総合し判断される。
」
(d) 司法省案
フランス司法省契約法改正案
58条18)強迫は(その場の)状況や弱者の立場、強制力の存在のない時に結ばれ
たものでない契約を濫用する時にも適用される。
( 2 ) 要件・効果
(a) 経済的強迫の法的根拠
人間の行為に帰することができない一定の外的状況により同意の自由が奪われ
た場合に強迫に該当するかが一つの争点となる。フランス民法1111条19)による
と、第三者が強迫を行った場合も相手方による場合と同様、無効化を許容すると
している。これは強迫が危険を伴う行為であり、危険行為に対する社会防衛の見
地あるいは未然の防止の必要性はあるものの、同意の瑕疵を引き起こす威迫が契
約の相手方に由来する必要はないということである。したがって状況の濫用によ
る同意の瑕疵は強迫にあたると考える素地がある20)。
もっとも単なる外的状況の存在だけではなく、強い立場の当事者による過度の
利益を獲得するためにそのような状況につけ込んだ濫用があることを必要とする
のが改正案に集約されたフランス学説の立場である。
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(b) 要 件
① カタラ案
カタラ案1114- ₃ 条の要件は、a)窮迫および依存の状態の存在と、b)同意か
ら過度の利益を引き出すことである。
a)の基準つまり ₁ 項の弱い立場の基準は経済的不均衡を考慮している。また
過去の判例では一方当事者の立場上の弱さや契約当事者間の経済力の不均衡だけ
では不十分としていて、強い立場の当事者が過度の利益を獲得する目的でそのよ
うな状況につけ込む濫用が必要であるとしている。ここでの依存状況は一方当事
者の置かれる経済的苦境から生じる両当事者間の不均衡により、依存側の当事者
にとっては、弱い立場ゆえに相手方との自由な契約交渉が不可能となり、強者の
契約締結をするほかないという状況を指す21)。
② 司法省案
司法省案の58条の要件は、状況や弱者の立場、強制力の濫用である。前段で説
明したカタラ案との最大の違いは、カタラ案が1114- ₃ 条 ₂ 項において弱者の経
済的不均衡等を考慮するのに対し、司法省案では契約内容の均衡性への言及が存
在しないことである22)。
(c) 経済的強迫の法理
これらの改正案の根拠となる判例は、破毀院第一民事部2002年 ₄ 月 ₃ 日判決
(カナス事件)である。破毀院は、a)経済的強迫の外的状況と、b)過度な不当な
利益を得るような濫用的搾取を経済的強迫の成立要件としている23)。
(d) 効 果
カタラ案1115条 ₁ 項24)、司法省案59条 ₁ 項ともに相対無効25)を生じるとしてい
る。またカタラ案1115条 ₂ 項26) によるとフォートによる損害賠償義務があるの
に対し、司法省案59条 ₃ 項27)では契約前の状態に戻すことを要求している。
₂ オランダ
日本の消費者契約法改正案を考えるにあたって、状況の濫用のような法理で現
在カバーしきれていない部分を補えないかという仮説がある。その点オランダは、
状況の濫用法理が民法に明文化されている数少ない国の一つである。またオラン
ダには、その効果として契約改訂という特殊規定があり、日本の消費者契約法改
正案の参考になる点は多いと考えられる。
447
( 1 ) 条文状況
状況の濫用規定はオランダ新民法典(NWD) ₃ -44条に定められている。
₁ 項で法律行為が状況の濫用によって成立した場合、取り消すことができる旨
が定められている。
₄ 項では、相手方が法律行為を必要状態、従属、軽率、異常な精神状態、無経
験といった特殊な状況の結果として行う気にさせられていることを知り、または
知るべきである者が、そうすべきでないにもかかわらず相手方にその法律行為を
なすように促した場合は、状況を濫用している28)。
( 2 ) 要件・効果
上記 ₃ -44条によれば、要件は(a)表意者の置かれている「特別な状況」を、
(b)「濫用」したといえる場合に認められ、
(c)この状況の濫用によって契約が
締結された場合に表意者に取消権が与えられる。
(a)の特別な状況は ₄ 項に挙げられているが、これは例示列挙である。これら
の状況は窮状等の「特殊な経済的状況」と未経験などの「特殊な心理的な状況」
(自己の利益について十分に見通すことができない状況) の二つに分けられる。また
オランダでは労働契約の合意解約においても状況の濫用が使われ、そこから不意
打ち性と時間の圧迫も考慮要素に入ると考えられる29)。
(b)の濫用性の要件として、相手方が悪意、有過失であることが挙げられる。
表意者の損害の有無およびその程度は、濫用性の判断においてその「一要素」と
して考慮されるに過ぎない。つまり、要件ではない30)。
効果は取消しである。またオランダの状況の濫用には、取消しの効果を制限す
る規定が NWD ₃ -54条に定められている。こうした規定は後述するようにイタ
リアにも存在する。
₁ 項 相手方当事者が、契約が維持されるときに取消権者が被る不利益を有
効な仕方で解消するような、契約内容の修正提案を適時になした場合には、
取消権は消滅する。
₂ 項 裁判官は、当事者の一方の請求により、契約の無効に代わって、その
契約の効果を不利益の解消のために改訂することができる31)。
つまり、相手方のイニシアティブで契約の改訂をなすことを認めている。取消
448 法律学研究53号(2015)
権者が契約改訂の提案を受け入れた場合、取消権は消滅し、契約が変更される。
受け入れを拒否した場合、取消権は消滅し、かつ契約は元の内容のまま存続する。
しかし、 ₂ 項の規定により、有効な代替提案の受け入れを拒否して取消権を失っ
た者でも、裁判官による適切な契約内容の調整を受けることができる。
₃ ドイツ
ドイツにおける暴利行為規定と再交渉義務論は、今回、日本の消費者契約法 ₄
条 ₃ 項の改正案を検討するにあたって大いに参考になると考えた。日本民法90条
の公序良俗違反規定には暴利行為規範が解釈的に読み込まれているが、この規範
を正面から明文化するべきではないかという案がある。暴利行為とは公序良俗違
反の一類型として知られているものである32)。そこでドイツ民法(BGB)138条
の公序良俗違反規定について調査する必要があると考えた。また、BGB138条 ₂
項には暴利行為についての規定が明文化されており、これは「状況の濫用」規定
と一定の類似性があるのではないかと考える。さらにドイツにおいて存在する契
約改訂における再交渉義務論33)についても調査した。
( 1 ) BGB138条の法理
(a) 条文状況
公序良俗違反:BGB138条34)
①善良の風俗に反する法律行為は、無効である。
②特に、ある給付について、他人の強制状態、未経験、判断力の不足また
は著しい意思薄弱に乗じて、自己または第三者に対し、その給付と比べて著
しく不均衡である財産上の利益を約束させる、または、与えさせる法律行為
は、無効である。
(b) 要件・効果
① 要 件
BGB138条 ₂ 項の要件は、a)著しい給付の不均衡という客観的事情、b)不利
益を被る側の窮迫等の主観的事情、c)利益を得る側が a)b)を知りつつそれに
乗じたという主観的事情である35)。a)は内容的要件であり給付に対して著しく
不均衡な財産的利益を約束させ、または与えさせることである。それに対して b)
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は手続的要件である。この要件は1976年ドイツ民法改正により、
「窮迫、軽率、
無経験の利用」から「窮迫、無経験、判断能力の欠如または著しい意思薄弱の利
用」へと若干拡張された36)。つまり BGB138条 ₂ 項は過大利得規範であると解さ
れる。なお、この条項を参考として、従属状態(ホステス保障に関する裁判例等)
や信頼関係の濫用(弁護士が依頼者の信頼を濫用して不動産を著しく安価に買い取っ
た事例)も日本民法に加えるべきではないかという案も存在する 。ドイツの暴
37)
利行為では a)b)c)の ₃ 要件を満たす必要があるが、c)の立証が非常に困難
であったため ₂ 項は判例においてはあまり用いられなくなった。しかし、その後、
判例は、 ₂ 項の主観的要件が満たされない場合であっても、著しい給付の不均衡
に加えて、その他の非難されるべき主観的事情が存在する場合には、準暴利行為
として、BGB138条 ₁ 項により無効とするようになった38)。
② 効 果
効果は BGB138条 ₁ 項により絶対的無効である。
( 2 ) 再交渉義務論
ドイツには日本の法理にも大きな影響を及ぼした行為基礎論がある。行為基礎
とは、「固有の契約内容にはなっていないものの、契約締結の際に現れており、
相手方にとって認識可能であったが異議の述べられていない一方当事者の表象、
または、両当事者に共通する表象であり、一定の事情の存在または将来の発生に
関するもので、行為意思がそれに基づいているところのもの」であり、締結時に
これが欠けている、または契約の締結後の事情変更で脱落する場合は契約の改訂
または解消が認められるというものである。しかしこれは必ずしも認められるわ
けではなく、契約を当初の内容のまま貫徹することで、法および正義に反し、当
事者にとって期待不可能な帰結をもたらすことになることを回避するために不可
欠であると判断される場合にのみ限定される。また判例は契約の改訂を優先して
いて、改訂が当事者にとって期待不可能であると判断された場合にはじめて、解
消が認められる。これはドイツ債権法313条に明文化されている39)。そしてドイ
ツには契約改訂において再交渉義務の法理が存在する。これは明文化されてはい
ない。再交渉義務とは裁判官が契約の改訂を行うのではなく、当事者自身が交渉
を行うというものである。ホルンやネレは再交渉義務のメリットを当事者自治の
観点から肯定している40)。
450 法律学研究53号(2015)
₄ イタリア
イタリアについては今まで注目されることが少なかったが、1942年に誕生した
現行のイタリア民法では新しいがゆえに状況の濫用の規定が存在している。そし
て契約内容を変更し契約の取消しを避けるという、契約変更の申込みの規定さえ
も存在している。そのため、日本の消費者契約法 ₄ 条 ₃ 項改正の参考になるので
はないかと考える。
イタリア民法は1447条と1448条で状況の濫用を定め、1450条で契約変更の申込
みを定めている。特徴としては以下の三つが挙げられる。第一に、1447条は身体
に対する危険に関するもので、1448条は財産に対する危険に関するものである。
第二に、1448条の要件では損害の程度が ₂ 分の ₁ 以上と数値化されており、これ
は他の国にはない特徴である。第三に、オランダ民法典と同様、契約変更の申込
みについて定めている。
( 1 ) 身体に対する危険〜1447条〜
1447条の条文は以下の通りである。
1447条(危険な状態において締結された契約)
「当事者の一方がその身体に対
する重大な損害の現在の危険から自己または他人を救済するための、相手方
当事者に知れている、余儀なき必要によって、不公平な条件で債務関係を負
担した契約は、債務を負担した当事者の請求に基づき、取り消すことができ
る。裁判官は取消しの宣告において、事情により、他の当事者にその提供さ
れた労力につき公平な補償を割り当てることができる。
」41)
(a) 1447条の要件
1447条の要件を整理すると以下のようになる。
a) 危険な状態、つまり契約者・他人の身体に対する重大な損害の脅威42)
まず危険は、①現在であり、②身体に関係する必要がある。ただし、③物に対
する危険は含まれない。②については身体以外にも名誉といった他の権利に関係
することもある。
次に危険の状態は、①危険の回避可能性、②危険の甚大さと威迫された当事者
の態度の不均衡、③威迫された当事者への原因の帰責可能性から除外されない。
451
そして危険の状態と意思表示との間に因果関係が必要であり、危険の状態は当事
者の意思を決定づけるものでなければならない。また、意図的な出来事によって
も意図的ではない出来事によっても危険の状態は生じる。
最後に損害の重大性は、ミラベッリによれば、当事者の物理的・心理的な条件
との関係により個別に判断されなければならない43)。
b) 契約者が従わなければならない条件の不公平さ
不公平さに関しては学説の対立がある。サントロは給付間の不均衡といった経
済的・技術的な基準で決められるべきだと主張する。一方でミラベッリは、不公
平さはそのような経済的・技術的な基準ではなく、むしろ倫理的・社会的な基準
との関係で決められるべきだと主張する。
c) 利益を得た当事者による危険な状態の認識
危険の状態に関しては、危険の状態と表意者による単なる決定の表示によって、
当事者の認識は成り立つ。
(b) 1447条の効果
1447条の効果は、「債務を負担した当事者の請求により契約を取り消すことが
できる」というものである44)。
ただ、不公平さについて経済的・技術的な基準で決められるべきだという、上
記要件 b)におけるサントロの説に立てば、契約の当事者が給付の経済的な価値
の不衡平さを解消し契約変更を相手方に対して申し込むことで、契約取消しを避
けることができる(1450条)。
( 2 ) 財産に対する危険〜1448条〜
1448条の条文は以下の通りである。
1448条(損害による取消しの一般的訴権)「当事者の一方の給付と他の当事
者のそれとの間に不均衡があり、且つその不均衡が他の当事者がそれを利用
してそれから利益を得たところの一方の当事者の困窮の状態に係る場合には、
損害を受けた当事者は契約の取消しを請求することができる。前項の訴権は
その損害が損害を受けた当事者によって履行されたまたは約された給付が契
約の当時有していた価額の 2 分の 1 を超過していない場合には認められない。
損害は請求の提出された時まで継続していることを要する。射倖契約は損害
を理由として取り消されることはできない。分割の損害に関する規定は妨げ
452 法律学研究53号(2015)
られない。」45)
(a) 1448条の要件
1448条の要件を整理すると以下のようになる。
a) ₂ 分の ₁ 以上の損害46)
損害に関しては契約締結により完了した給付の経済的な価値が基準となり、そ
の価値の算定では方式と付随的な給付が考慮される。ただ損害の評価方法は最終
的には裁判官の分別のある判断に委ねられる47)。
b) 損害を受けた当事者の困窮の状態
困窮の状態に関して、困窮の状態は必ずしも貧困に一致しない。むしろ、当事
者の利益の性質とその立場を考慮し、それに対して、対応する給付を伴う契約を
通じて実現するための経済力で備えられるような当事者の側での困窮の顕著な重
大性で足りる。そして、困窮の状態と当事者の意思表示との間に心理的な因果関
係が必要である。
c) 困窮の状態の利用
ミラベッリによれば、困窮の状態の利用は、利益を得ようとする当事者の行動
であって、困窮の状態の単なる認識のみでは要件に該当しない。困窮の状態の利
用の要件は、利用の反対当事者の困窮の状況から引き出される利益の一般的認識
で足りる。
(b) 1448条の効果
1448条の効果は、
「損害を受けた当事者は契約の取消しを請求することができ
る」というものである48)。1447条と同様、契約の当事者は給付の経済的な価値を
復元し契約内容を修正することで取消しを避けることができる(1450条)。
(c) 1448条と暴利行為の関係について
判例は、1448条によって取り消せる場合と、原因の違法により無効である場合
を区別し、暴利行為については暴利という原因により絶対的無効になるとしてい
る。
( 3 ) 契約変更の申込み〜1450条〜
1450条の条文は以下の通りである。
1450条(契約変更の申込み)
「取消しの請求を受けた契約者はその契約を公
453
平に戻すに充分な契約の変更を申込むことによって取消しを避けることがで
きる。」49)
契約内容の修正について相手方の許諾は必要なく、契約変更の申込みが相手方
に到達した時点で修正された契約は有効になる。しかし相手方がその申込みを拒
絶した場合には、修正された契約が十分に衡平さを回復しているか裁判官によっ
て判断される50)。
₅ イギリス
イギリスでは、強迫、不当威圧、非良心性の法理といったもので不当な勧誘か
ら消費者を救済することが考えられる。強迫は経済的強迫を含む不当威圧に関す
るもので、不当威圧は当事者の信頼関係を要件とした状況の濫用規定である。非
良心性は交渉力の格差などから加害者の非良心性を認める規定である。当事者の
信頼関係に要件として着目した不当威圧は、優れた柔軟性を含んだ状況の濫用規
定として、日本の消費者法の一つの参考となる。
( 1 ) 条文状況
英米法において、消費者保護を目的とする契約法はコモン・ローとエクイティ
に含まれる。コモン・ローが過去の判例を根拠に、それに矛盾しない形で現行の
判決を行うことで成立しているのに対し、エクイティは、コモン・ローの硬直化
により救済できない被害者に対応するため大法官51)が与えた個別的な救済措置
が、雑多な法準則の集合体として集積したものである。
( 2 ) 要件・効果
(a) 強迫(コモン・ロー)
① 強迫とは
1973年12月 ₅ 日のバートン対アームストロング事件枢密院判決とこれをイング
ランドで適用した1976年報告のシベン・シボター丸事件高等法院判決52)が、強
暴に至らない不当圧力によるいわゆる「経済的強迫」を認めた。それ以降、強迫
とは、相手方を契約締結に引き込んだ不当圧力で、相手方は不当圧力に屈服する
以外に選択の余地がなかったことを指す。
454 法律学研究53号(2015)
② 要 件
要件は以下の三つである。
a) 不当圧力の相手方への行使。
圧力が犯罪または不法行為または契約違反(履行拒絶など)を犯すという非合
法的な内容の威嚇をすることに限定されており、それ以外の行為によって契約に
至った場合は救済措置が取れないため、その適用範囲は狭いと言える。また要件
が「行為」に限定されているため、当事者間の関係など、目に見えない形での圧
迫にも対応することができない。
b) 被害者にとって圧力に屈する以外に実際上選択の余地がなかったこと。
c) その行為とそれにより被害者が受けた影響が契約締結に関して明白な因果
関係を持つこと。
このことは加害者の不当威圧が被害者の契約締結を惹起したことを指している。
③ 効 果
効果は「取消権と原状回復」であり、契約自体が無効となるが、取消し前まで
の契約は有効であったこととする53)。
(b) 不当威圧(エクイティ)
① 不当威圧(過剰影響力)とは
当事者間における特殊な信頼関係により、契約が公正だと言えない場合を指す。
これは当事者間の人間関係に着目した状況の濫用を規制するルールである。
② 要 件
不当威圧があったという事実の証明が困難な場合の推定要件は以下の二つであ
る。
a) 取引の一方当事者に「明白な不利益」があるかどうか。
「(友情、慈善など、)
普通の人の動機では説明しかねること」。
この要件が過剰影響力の存在を証明した判例に、バークレイズ銀行事件がある。
この事件は、夫の不実表示により家を担保として提供することになった妻が訴え
を起こしたものである。妻は、夫の会社に対して何ら財産上の権利を持っていな
かったので、ウィルキンソン貴族院裁判官の見方では、そのような妻が、会社の
債務のために担保を提供すること自体が尋常の動機では説明できないという理由
で、銀行は夫妻間の過剰影響力を認識したと擬制された。
b) 当事者間に信頼関係(relationship of trust and confidence)があるかどうか。
つまり信頼関係の濫用が過剰影響力の行使となる。
455
この信頼関係の立証には次の二通りがある。
一つは、法的に、常に信頼関係の存在が推定される場合で、例えば信託の受託
者と受益者、弁護人と依頼人、医者と患者などがこれにあたる。宗教指導者と門
徒(シスター)、親子なども同様である。
もう一つは、原告が個別の立証責任を負う事実上の信頼関係で、例えば、銀行
員と顧客、老人と身の回りの世話をする人、夫婦(夫婦間の力の関係はイギリス社
会でも家庭によるので、どちらが強者でどちらが弱者かは事案ごとに判断せざるを得な
い)。
コモン・ローの強迫の要件と比較すると、その行為が明らかな不法行為である
必要はなく、また被害者に他の選択肢がない状態である必要もないため、適用範
囲が大幅に広がっている。
③ 効 果
効果は「取消権の発生」と「原状回復」である。この取消権は、不当威圧を行っ
た者に対してのみでなく、不当威圧の行われている事実を知って契約を締結した
悪意の第三者に対しても行使することができる54)。
ただし、不当威圧による取消権は、善意無過失の第三者には対抗できず、消滅
する。また、当事者の原状回復が不可能な場合と、被害者が取消原因の存在に気
づいた後に契約を追認した場合も同様に消滅する。
さらに、不当威圧はエクイティによって認められた取消原因であり、動産売買
ができず目的物を引き渡した場合などにおいて、契約の効力を長らく未確定にし
ておくことはできないので、その取消しの主張は遅滞なくしなければならない55)。
(c) 非良心性(エクイティ)
① 非良心性とは
判例では、さらに、ある合意が過酷かつ非良心的であると認められる場合には
それを裁判所において強制することはできないという法理が展開されてきた。こ
れを非良心性の法理という56)。
当初のリーディングケースでは、ある特定の取引がエクイティにおいて無効と
されるためには、①一方の当事者(犠牲者)が「貧しくかつ無知」であること、
②給付の不均衡が存在すること、および③その当事者が独立の助言を受けなかっ
たことが必要とされ、その適用は非常に限定されていた57)。
しかしその後、多くの現代的取引(特に約款による取引) においては、交渉力
の不均衡のゆえに契約条項が一歩的に押しつけられているという実態が指摘され
456 法律学研究53号(2015)
るようになるにつれ、①の要件が次第に緩和された。当事者の交渉力に著しい不
均衡が存在し、その優越する交渉力を濫用する等相手方の非難すべき行為様態が
見られる場合には、さらに②③の要件が備わることを条件として、当該取引が非
良心的ゆえに無効とされるようになった58)。
② 要 件
要件は以下の二つである。
a) 当事者の交渉力に著しい不均衡が存在し、その優越する交渉力を濫用する
等相手方の非難すべき行為様態が見られること。
不当威圧が当事者間の信頼関係から過剰影響力を推定するのに対し、この非良
心性の要件では交渉力の格差そのものを証明する必要がある。そのため不当ない
し不公正な条項として一般に問題とされる事例に広くこれを適用することは困難
であり、非良心性の法理の適用場面は厳格に制限されている59)。
b) 給付の不均衡が存在すること。
この点は不当威圧の「明白な不利益」と同様の要件である。
c) その当事者が独立の助言を受けなかったこと。
不当威圧は助言を受け得た場合でも、当事者間の関係から過剰影響力を推定で
きるが、非良心性の場合は、被害者が助言を受け得た状態であった場合は射程か
ら外れてしまう。
③ 効 果
取消しではなく無効である。
Ⅲ 比較・考察
今回、当研究会では、消費者契約法 ₄ 条 ₃ 項において、現行法上、退去、不退
去の二つに絞られているブラックリストを拡張し、かつ状況の濫用のような包括
的な一般類型を設けることで、二重のフィルターをかけ、より多くの事例に ₄ 条
₃ 項で対応することを可能にすべきではないかと考えた。これまで検討してきた
各国(フランス・オランダ・ドイツ・イタリア・イギリスの ₅ ヶ国)の要件・効果を
比較することで、日本の消費者契約法における新たな一般規定を創出するための
参考にしたいと思う。そこで、まず各国の困惑に関する一般規定の条文を基に要
件・効果を表 1 に整理する。
457
表 1 要件まとめ
要 件
①消費者の急迫等
②給付の不均衡
③相手方の①について
の悪意
フランス民法 ○(58条)強迫は(そ
○(58条)状況や弱者
(司法省案) の場の)状況や弱者の
の立場、強制力の存在
立場、強制力の存在の ×
のないときに結ばれた
ないとき
ものでない契約を濫用
する
フランス
○(1114- ₃ 条 ₁ 項)
○(1114- ₃ 条 ₂ 項)
○(1114- ₃ 条 ₁ 項
)
明らかに過大な利益を
(カタラ案) 窮迫および依存の状態
得るために
の存在
ドイツ民法
○(138条 ₂ 項 ) 不 利 ○(138条 ₂ 項 ) 著 し ○(138条 ₂ 項 ) 利 益
138条
益を被る側の窮迫等の い給付の不均衡という を得る側が①②を知り
主観的事情
客観的事情、内容的要 つつそれに乗じたとい
件(給付に対して著し う主観的事情、手続的
く不均衡な財産的利益 要件(窮迫・軽率・無
を約束させ、または与 経験の濫用)であり、
えさせること)
かつ利益を得る側のそ
の認識
イタリア民法 ○危険な状態、つまり ○契約者が従わなけれ ○利益を得た当事者に
1447条
契約者・他人の身体に ばならない条件の不公 よる危険な状態の認識
対する重大な損害の脅 平さ(不公平さを経済
威
的な基準で判断するサ
ントロ氏の学説に立て
ば②に該当する)
イタリア民法 ○損害を受けた当事者 ○ ₂ 分の ₁ 以上の損害 ○困窮の状況の利用
1448条
の困窮の状態
オランダ
○(44条 ₄ 項)表意者
○表意者が特別な状況
新民法
の置かれている「特別
によって法律行為をな
(NWD)
₃ -44条
な状況」
×
すよう誘引されている
ことを相手方が知りま
たは知るべきものであ
る場合
458 法律学研究53号(2015)
要 件
イギリス
①消費者の急迫等
②給付の不均衡
③相手方の①について
の悪意
◯信頼関係による過剰 ◯当事者一方に明白な
(不当威圧) 影響力
不利益があることが、
信頼関係の推定の要件
×
の一つとなっている
イギリス
○当事者の交渉力に著 ◯非良心性の要件に給 △当事者の交渉力に著
(非良心性) しい不均衡が存在し、 付の不均衡がある
しい不均衡が存在し、
その優越する交渉力を
その優越する交渉力を
濫用する等相手方の非
濫用する等相手方の非
難すべき行為様態が見
難すべき行為様態が見
られること
られること
○その当事者が独立の
助言を受けなかったこ
と
1 要 件
各国の要件を①消費者の窮迫等、②給付の不均衡、③相手方の①についての悪
意の三つに分けて検討する。
最初に①の消費者の窮迫等についてであるが、フランス債権法改正案のカタラ
案と司法省案、オランダ、ドイツ、イタリア、イギリス各国とも困窮、必要状態、
従属、過剰影響力……などと文言に多少の違いはあれ要件は非常に似ている。こ
の要件①は各国とも要件としており当研究会もこれを見習い、改正案にも盛り込
むべきであると考えた。そうすることで今まで 4 条で対応できなかったケースに
対応できるようになる。
次に②の給付の不均衡についてであるが、ここで違ってくるのが、フランス債
権法改正案のカタラ案1114- 3 条、ドイツ民法138条、イタリア民法1447条・1448
条、イギリス(不当威圧、非良心性) では契約の不公平さや過度な利益を要件と
しているのに対して、オランダ新民法 3 -44条ではこれを損害の有無およびその
程度は濫用性の判断における一要素に過ぎないとしている点である。また、フラ
ンス債権法改正案の司法省案58条も給付の不均衡に対する文言がなく、要件に含
まれていない。この要件②を改正案に取り入れるべきか否かであるが、当研究会
としては改正案にこの要件②を入れるべきだと考える。確かに②要件を取り入れ
459
表 2 効果まとめ
要件
①絶対無効
②相対無効
その他
フランス民法
②錯誤、詐欺又は強迫 当事者の一方に損害を
(司法省案)
によって締結した約定 生じさせた強迫、詐欺
は、相対無効の訴権を 又は錯誤は、契約の無
生じさせる
効 とともに、フォー
ト による損害賠償義
務を生じさせる
フランス
②相対無効
(カタラ案)
ドイツ民法
138条
①138条 ₁ 項 に よ り 絶
対的無効
②債務を負担した当事 ※1450条に契約変更の
イタリア民法
者の請求に基づき、取 申込みの規定あり
1447条
り消すことができる
イタリア民法 ①暴利の場合は絶対無 ②損害を受けた当事者 ※1450条に契約変更の
1448条
効になる
は契約の取消しを請求 申込みの規定あり
することができる
オランダ新民
法(NWD)
②表意者に取消権が与 ※オランダの状況の濫
えられる
用には、取消しの効果
を制限する規定あり
₃ -44条
→同法 ₃ -54 条
イギリス
(不当威圧)
イギリス
(非良心性)
取消権(悪意の第三者
も射程内)
取消権(悪意の第三者
も射程内)
ると消費者の救済可能範囲は狭まってしまう。しかし、一方で事業者にとっての
取引安全性・予測可能性が保護されることになる。今回の私たちの改正案で一般
規定を設ける場合、契約の取消しというケースが多用される可能性がある。だか
らこそ事業者側の予測可能性を保護することも大切だろう。また、詳しくは後述
するが当研究会は改正案の効果に契約改訂の特殊規定を置くべきだと考えている。
契約改訂規定を設ける場合、給付の不均衡といった金銭的に評価できるような基
460 法律学研究53号(2015)
準がなければ公平な改訂案を作るのは難しいと思われる。このような観点からも
要件②は改正案に盛り込むべきだと考える。
最後に、③の相手方の①についての悪意に関しては、フランス債権法改正案の
カタラ案1114- 3 条、オランダ新民法 3 -44条、ドイツ民法138条、イタリア民法
1447条・1448条ともにこれを必要としているので違いはない。一方、イギリスの
不当威圧では、相手方の主観要件は何ら要求されず、考慮されるのは、一方の明
白な不利益と、当事者間の特殊な信頼関係の濫用のみである。これは、不当威圧
においては、医者・弁護士等を被告とする訴訟において原告の主張・立証上の負
担を軽減するものである。本稿ではそのような特殊な信頼関係の存在を必ずしも
前提としない消費者契約法の規律を検討するものであるから、これを採用しない。
なお、イギリスの第一審で不当威圧が認められた事件について、第二審ではそ
の取引のあくどさに鑑み、非良心性法理を適用した事例も存在することから、特
殊な信頼関係が認定できない場合には、加害者の悪意を要求することで、イタリ
アやオランダのような状況の濫用による取消しの効果を達成している。
以上より、要件③に関しても改正案に盛り込むべきであろう。
₂ 効 果
次に各国の効果について考察する。上記のように①~③の三つに要件を分けた
場合、給付の不均衡を要件としないフランス債権法改正案の司法省案59条 3 項は
取消し(相対無効)および損害賠償が請求できる。そしてオランダ新民法 3 -44条
やイギリスも取消しであるのに対して、ドイツでは無効(絶対無効)とより手厚
い効果が設けられている。またイタリアでは、判例は、1448条によって取り消せ
る場合と、原因の違法により無効である場合を区別し、暴利行為については暴利
という原因により絶対的無効になるとしている。要件において①、②、③を必要
とするならば、ドイツ民法138条やイタリアの暴利行為のように効果を無効(絶
対無効)と厳しくする必要があるのではないかという異論もあるかもしれないが、
ドイツにおいては「著しい」給付の均衡、イタリア民法1448条においては「 2 分
の 1 以上の損害」で取消しになるところ、暴利行為についてはそれをはるかに超
える損害が発生する場合に絶対無効になるとされており、②の要件が厳しく制限
されているため効果もそれに伴って無効と厳しいものと説明できる。
したがって、当研究会の改正案においては、取消しという効果が望ましいと考
える。その方が無効という効果に比べて当事者に契約の存続に関する裁量権を与
461
えられるからである。
₃ 取消権に対する制限(契約改訂)
さらに、私たちの改正案では、契約改訂の規定を設けるべきだと考える。その
理由は、契約改訂の規定を置くことによって契約を改訂し存続させるか否かとい
う柔軟な対応ができるようになるからである。ただ、裁判所というのは多様な当
事者の利益が複雑に絡む契約に介入することは難しく、適切な判断ができないと
いう裁判所の能力に関する問題が存在する。具体的な規定内容を考える上で、こ
の問題となる裁判所の能力とともに、私的自治の問題に対応する必要がある。そ
こで、契約改訂案は裁判所ではなくまずは当事者が作ることとした上で、交渉力
格差に配慮して事業者が契約内容の再締結を裁判所に請求することもできること
とし、その請求の容認、さらには再交渉した契約の可否を裁判所が行う形にすれ
ば、両当事者の取引の安全が保たれるとともに、裁判所の能力についての懸念も
払拭されると考える。オランダ、イタリアには、契約の取消しや無効といった効
果だけでなく、契約の改訂という他国にはない特殊な効果規定がある。これによ
り契約をなくすのではなく、より公平な内容に改訂し契約を存続させるという柔
軟な対応も可能になっている。困惑のような一方が優越的な地位のもとで締結さ
れた契約については、その無効より、改訂による契約の存続を求める場合もある
と思われるのでこのような規定は有効かもしれない。この契約改訂規定を消費者
契約法に取り込むかを考える上で、再交渉義務の法理が存在するドイツの議論が
参考になる。この再交渉義務のメリットは二つあり、第一に、当事者の合意を促
すことによって、複雑な課題への対応を迫られる裁判所の負担を軽減することが
できる点、第二に、裁判官ではなく、当事者自身が改訂案の再交渉を行うことが、
両当事者の私的自治の観点からも望ましいという点である60)。事業者と消費者の
交渉力の格差に鑑みれば、給付の不均衡の数学的是正に限って当事者自身による
契約改訂を認めるのが望ましい。そして、②要件(給付の不均衡)の存在意義は、
かような点にもあることになる。
Ⅳ 消費者契約法 4 条 3 項改正案
消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者
が、窮迫等の状況におかれ、給付における不均衡が生じ、相手方たる事業者にか
462 法律学研究53号(2015)
くいう状況に関して悪意があり、それによって当該消費者契約の申込みまたはそ
の承諾の意思表示をしたときはこれを取り消すことができる。また、事業者は消
費者との合意により、均衡した給付関係の実現のため、契約を改訂することがで
きる。
Ⅴ ブラックリスト
今回当研究会では状況の濫用に関しては一般規定という広い枠組みで判断すべ
きという結論が出たが、必ずしもブラックリストの必要性がないわけではない。
この章では仮にブラックリストを作成するのであれば、どのような項目を入れる
かを参考資料として載せておく。
a) 退去
b) 不退去
c) 送りつけ
これは消費者が要求していないのに事業者が提供した製品について、事業者が
即時もしくは後の支払いや、製品の返還または保管を消費者に要求するというも
のである(イタリア消費法典26条 ₁ 項の f 61)、ドイツ BGB241a 条)。
d) 仕事ができなくなるといったメッセージ
これは製品を買わないと仕事の存続が危うくなると消費者に伝えるというもの
である(イタリア消費法典26条 ₁ 項の g62)、フランス消費法典 L122-11条 7 項63))。
e) 虚偽の景品
実際には賞品や景品がないのにもかかわらず、景品があたる可能性があるかの
ように消費者を思い込ませる場合のことを指す(イタリア消費法典26条 ₁ 項の h64)、
ドイツ BGB661a 条 )。
65)
f) 広告の中の子供への不当な働きかけ
広告の中に製品を購入するように、親を説得するようにと、子供への直接的な
勧誘を含む(イタリア消費法典26条 ₁ 項の e66)、ドイツ UWG67) ₃ 条、 ₄ 条 ₂ 項、フラ
ンス消費法典 L122-11条 ₁ 項 ₅
)。
68)
g) 遠隔コミュニケーション手段による執拗な勧誘
ここでの遠隔コミュニケーション手段とは事業者が電話・FAX・電子メールと
いった遠隔コミュニケーション手段によって繰り返しかつ要求されていない取引
勧誘を行うことである69)(イタリア消費法典26条 ₁ 項の c70)、ドイツ UWG71) ₃ 条、 ₇
463
条 ₂ 項・ ₃ 項、フランス消費法典 L122- ₈ 条 、L122- ₉ 条の 1 項 、L122-11条の ₁ 項
72)
の3
73)
)
。
74)
h) クーリングオフを含めた消費者の何らかの権利行使への妨害
消費者が自らの諸権利を行使するのを阻止しようとするのを、事業者が妨害す
ることを指す(イタリア消費法典26条 ₁ 項の d75))。
₁ ) 山本豊「消費者契約法( ₁ )~( ₃ )」法学教室241~243号(2000)77頁以下。
₂ ) 山本・前掲論文(注 ₁ ))、78頁以下。
₃ ) 内閣府国民生活局消費者企画課『逐条解説 消費者契約法』(商事法務、2003)
65頁。
₄ ) 内閣府国民生活局消費者企画課・前掲書(注 ₃ ))、60頁以下。
₅ ) 内閣府国民生活局消費者企画課・前掲書(注 ₃ ))、60頁以下。
₆ ) 平野裕之『民法総則』(日本評論社、第 ₃ 版、2011)236頁。
₇ ) 松本恒雄「消費者契約法の10年と今後の課題―民法(債権法)改正との関係を
含めて―」NBL959号(2011)45頁。
₈ ) 暴利行為論の説明については、大村敦志『消費者法』(有斐閣、第 ₄ 版、2011)
108頁以下に依拠した。
₉ ) 星野英一「『消費者契約法(仮称)の具体的内容について』を読んで」NBL683
号(2000)11頁以下。
10) 山本豊「消費者契約法( ₂ )」法学教室242号(2000)93頁。
11) 沖野眞已「『消費者契約法(仮称)』の一検討( ₁ )」NBL652号(1998)20頁以下。
12) 鹿野菜穂子「困惑類型」河上正二編著『消費者契約法改正への論点整理』(信山
社、2013)15頁以下。
13) 現代契約法制研究会「消費者契約法(仮称)の論点に関する中間整理」NBL664
号(1999)44頁以下。
14) 前田美千代「経済的強迫の成立要件―カナス事件―」松川正毅、金山直樹、横
山美夏、森山浩江、香川崇編『判例にみるフランス民法の軌跡』(法律文化社、
2012)145-146頁。
15) 前田達明『史料民法典』(成文堂、2004年)106頁。
16) 前田・前掲論文(注14))、139頁。
17) 山岡真治「フランス債権法改正準備草案における強迫に関する一考察( ₁ )」帝
塚山法学16巻(2008) ₁ 頁以下。
18) 条文訳は、http://droit.wester.ouisse.free.fr/textes/TD_contrats/projet_contrats_
mai_2009.pdf より作成内閣府国民生活局消費者企画課。
19) フランス民法1111条「債務を約した者に対してなされた強迫は無効原因となる。
また、強迫がその約定をなしたことで利益を受ける者以外の第三者によってなさ
れた時も同様とする。」条文訳は、山岡・前掲論文(注17))、 ₇ - ₈ 頁。
464 法律学研究53号(2015)
20) 前田・前掲論文(注14))、140頁以下。
21) 前田・前掲論文(注14))、145頁以下。
22) 前田・前掲論文(注14))、145頁以下。
23) a)は一方当事者が置かれる経済的苦境から生じる両当事者間の不均衡により、
依存側の当事者にとっては、その弱い立場ゆえに相手方との自由な契約交渉が不
可能となる状況で代替策もない状況を指し、b)は個人の正当な諸利益を直接的
に脅かす害悪の畏怖から利益を得るために得た搾取であるとしている。参考文献
は、前田・前掲論文(注14))、144、145頁以下。
24) 山岡・前掲論文(注17))、20頁以下。
25) この場合の無効というのは、詐欺、錯誤同様、相対無効になる。したがって無
効とする権利を認めたに過ぎない。以上、野澤正充「フランスにおける「対抗不
能」と「相対無効」」立教法 NO.40(1994)228、229頁以下、山岡・前掲論文
(注17))、13頁以下。
26) カタラ案1115条 ₂ 項「当事者の一方に損害を生じさせた強迫、詐欺又は錯誤は、
契約の無効とともに、フォートによる損害賠償義務を生じさせる。」翻訳は、山
岡・前掲論文(注17))、20頁。
27) 司法省案59条 ₃ 項「それに加え、損害を与えた強迫や詐欺や錯誤による契約の
取消しは、元通りの状態にすることを要求する。」
28) 消 費 者 庁 HP「 第 ₇ 回 消 費 者 契 約 法 評 価 検 討 委 員 会 資 料 」〈http://www.
consumer.go.jp/seisaku/shingikai/keiyaku₇/file/shiryo₁-2.pdf〉。
29) 労働契約における合意解約の事例で1999年 ₂ 月 ₅ 日の最高裁判決では、熟慮の
ための時間があれば当該合意をしなかったと言えることという時間的圧迫の要素
を状況の濫用による取消しの考慮要素に挙げている。
30) 内山敏和「オランダ民法典における法律行為の現代化」早稲田法学会誌58巻 ₂
号(2008)124頁。
31) 内山敏和「オランダ法における状況の濫用( ₁ )」北海学園大学法学研究45巻
(2009)471-472頁。
32) 大村敦志『消費者法』(有斐閣、第 ₄ 版、2011)108頁。
33) フランスにおいても再交渉義務論の議論が存在し、カタラ案1135- ₁ 条から
1135- ₃ 条において事情変更が生じた場合の再交渉義務が示されている。ただし
フランスにおける状況の濫用規制はあくまで強迫の拡張が軸なのでここでは割愛
する。参考文献は中村肇「事情変更の顧慮とその判断過程について( ₁ )」成城
法学75号(2007)84頁。
34) ドイツ関係法律条文(関連部分訳)(訳=寺川永)については、(財)比較法研究
センター、潮見佳男編『諸外国の消費者法における情報提供・不招請勧誘・適合
性の原則』(別冊 NBL121号、2008)126頁。
35) 渡邉拓「インターネットオークションにおける暴利行為と契約責任」横浜国際
経済法学21巻 ₃ 号(2013)89頁。
465
36) 山本豊「契約の内容規制」山本敬三編『債権法改正の課題と方向性―民法100周
年を契機として―』(別冊 NBL51号、1998)67-68頁。
37) 山本・前掲論文(注36))、67頁。
38) 鹿野菜穂子「ドイツの判例における良俗違反」椿寿夫、伊藤進編『公序良俗違
反の研究』(日本評論社、1995)142頁以下。
39) 吉政知広「契約改訂規範の構造(一)―契約改訂プロセスにおける法の介入と
支援―」名古屋大學法政論集216号(2007)29-65頁。
40) 吉政知広「契約改訂規範の構造(二)―契約改訂プロセスにおける法の介入と
支援―」名古屋大學法政論集221号(2008)195-229頁。
41) 風間鶴寿訳『イタリア民法典―全訳 民法・商法・労働法―』(法律文化社、追
補版、1983)225頁。
42) BROCARDI.IT, Articolo 1447 Codice Civile Contratto concluso in istato di pericolo
〈http://www.brocardi.it/codice-civile/libro-quarto/titolo-ii/capo-xiii/art1447.html〉.
43) CIAN, G., TRABUCCHI, A., BAREL, B., Commentario breve al codice civile, Padova :
Cedam, 1984, p. 985.
44) 風間・前掲書(注41))、225頁。
45) 風間・前掲書(注41))、225頁。
46) BROCARDI.IT, Articolo 1448 Codice Civile Azione generale di rescissione per lesione
〈http://www.brocardi.it/codice-civile/libro-quarto/titolo-ii/capo-xiii/art1448.html〉.
47) CIAN, G., TRABUCCHI, A., BAREL, B., op. cit., pp. 986-987.
48) 風間・前掲書(注41))、225頁。
49) 風間・前掲書(注41))、225頁。
50) BROCARDI.IT, Articolo 1450 Codice Civile Offerta di modificazione del contratto
〈http://www.brocardi.it/codice-civile/libro-quarto/titolo-ii/capo-xiii/art1450.html〉.
51) イギリスの憲法事項省の大臣。2003年まではカンタベリー大主教に次ぐ第 2 位
の序列であった。
52) 幡新大実『イギリス債権法』(東信堂、新版、2010)242頁。
53) 強迫の場合は、強迫の不法行為を構成している場合が少なくない。
54) ぜいたくで金につまった母親に頼まれて、その娘が約束手形に母と連帯の署名
を し、 そ の 借 金 の 弁 済 の た め に 自 分 の 受 益 権 に 担 保 権 を 設 定 し た 場 合
(Lancashire Loans, Ltd. v. Black, (1934) 1 K. B. 380, C. A.)を見ると、この事件で
は、貸主も不当威圧の事実を知っていたのであるから、娘は貸主に対しても取消
権を行使することができるとされた(田中和夫『英米契約法』(有斐閣、新版、
オンデマンド版、2003)123頁)。
55) 原告が属していた修道会に対して行った財産寄与が不当威圧によるものだと主
張した事件(Allcard v. Skinner, (1887), 36 Ch.D. 145, C. A.)の場合、裁判所は当
該行為を不当威圧によるものと認めながらも、原告が修道会から出てきてから訴
えの提起までに ₆ 年経ち、少なくとも ₅ 年間は助言者といろいろと相談していた
466 法律学研究53号(2015)
そして遺贈の撤回をしている―というので、取消しが認められなかった。
―
56) 鹿野菜穂子「不公正条項コントロールをめぐるイギリス法の展開」鹿野菜穂子、
谷本佳子編『国境を越える消費者法』(日本評論社、第 ₁ 版、2000)146頁以下。
57) 鹿野・前掲論文(注56))、146頁。
58) 鹿野・前掲論文(注56))、146頁。
59) 鹿野・前掲論文(注56))、147頁。
60) 吉政・前掲論文(注39))、29-65頁、吉政・前掲論文(注40))、195-229頁、吉
政知広「契約改訂規範の構造(三)、(四)―契約改訂プロセスにおける法の介入
と支援―」名古屋大學法政論集235号(2010)247-276頁、241号(2011)153-199
頁。
61) イタリア消費法典26条 ₁ 項の f「職業人が提供したが消費者は要求していない製
品について、即時若しくは後の支払い、返還又は保管を要求すること。ただし、
54条 ₂ 項 ₂ 文による定めは別とする。」
62) イタリア消費法典26条 ₁ 項の g「製品やサービスを手に入れないと仕事や職業
の存続が危うくなると消費者に明瞭に伝えること。」
63) フランス消費法典 L122-11条 ₇ 項「消費者が、当該生産物または役務を購入し
ないと、事業者の雇用または生活手段が脅かされることを消費者に明示的に述べ
ること。」
64) イタリア消費法典26条 ₁ 項の h「実際には賞品やそれと同等の景品など存在し
ていないのに、真実に反して、特定の行為をすることによりそれを消費者が勝ち
取った、勝ち取るであろう、若しくは勝ち取る可能性があると思い込ませること、
又は、賞品や他の同等景品への要求に向けた行為は全て金銭の払い込み若しくは
消費者側での諸費用の負担にかかっていると思い込ませること。」
65) これは懸賞当選通知というもので、消費者がある価格の金銭を得ていたはずで
あるという印象を与える事業者は、消費者に上記の金銭を支払わなければならな
い。
66) イタリア消費法典26条 ₁ 項の e「2005年 ₇ 月31日立法命令177号及びその後の改
正による定めは別として、広告メッセージの中に、宣伝製品を購入するように、
又は両親や他の大人を説得するようにとの子供への直接的な勧誘を含むこと。」
67) UWG で消費者、特に児童または未成年の取引上の無経験、軽率、不安または
強制状態を利用する不公正な競争に対して差止請求を行うことができる。
68) フランス消費法典 L122-11条 ₁ 項の ₅ 「広告の中で、広告の対象である生産物
を購入するよう、または、それを彼らに買い与えるように両親その他の大人を説
得するよう、子供に直接的に推奨すること。」
69) またドイツ BGB312b ~ d 条においては通信販売における不招請勧誘への規制
がある。
70) イタリア消費法典26条 ₁ 項の c「電話、FAX、電子メール、又はその他の遠隔コ
ミュニケーション手段によって、繰り返しかつ要求されていない取引勧誘を行う
467
こと。ただし、契約債務の履行のために国内法により正当化される状況と限度に
おけるものは除く。」
71) UWG では広告の受け手が望んでいない広告、同意なしの電話広告、名宛人の
同意なしに自動電話機、FAX または電子メールを用いての広告は過大な迷惑にあ
たるとして差止請求をすることができる。
72) フランス消費法典 L122- ₈ 条「住居への訪問という方法により、形式のいかん
にかかわらず現金払いまたは分割払いでの役務に同意させるためにある者の脆弱
さまたは無知を濫用したものは、何人であれ、自らが引き受けようとしている役
務の射程を評価することもしくは役務に同意するようこの者を説得するために用
いられた計略や策略を見破られることがこの者にはできなかったこと、またはこ
のことが諸状況から明らかであるときは、 ₃ 年の拘禁刑および37万5000ユーロの
罰金またはそのいずれか一方のみで罰する。」
73) フランス消費法典 L122- ₉ 条の ₁ 項「電話または FAX の方法による契約 / 電話
またはファックスによる訪問販売の結果として。」
74) フランス消費法典 L122-11条の ₁ 項の ₃ 「電話、FAX、電子メール、その他あ
らゆる遠隔通信手段による、反復されかつ招請されていない勧誘を行うこと。」
75) イタリア消費法典26条 ₁ 項の d「保険証書に基づき損害賠償の請求をしようと
する消費者に、その請求の正当性を決定するために関係あるとは合理的には思わ
れ得ない証明書の提示を課すこと、又は、消費者が自らの諸権利を行使するのを
阻止する目的で、関係する通信への返信を常に怠ること。」
2014年度前田研究会
森 譲大朗 三浦 友稀 秋山 浩器 堀 貴之 小林 一帆
柴田小倭乃 長崎 卓也
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