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スギ精英樹クローン識別のためのSCARマーカーの開発(PDF:984KB)
林育研報 B u ll .F or .T r e e .B r e e d .C e n t e rN o . 2 3,2 0 0 7 I~jjfj 53~62 ) l :I スギ精英樹クローン識別のための SCARマーカーの開発 渡 遺 敦 史 (1) ・ 西 山 和 美 (2) AtsushiWatanabe(1)andKa zumiNishiyama(2) DevelopmentofSCARmarkerstodiscriminateplus-treeclonesofJ apanese Cedar , C r y p t o m e r i αj a p o n i c αD.Don 要旨 : RAPDマーカーによって行われてきたスギのクローン識別をより再現性の高い DNAマーカーである SCAR マー カーに変換することを試みた。 2 7のRAPDマーカーのうち 1 8マーカーについて SCARプライマーの設計に必要な塩基 4塩某伸長させる方法とソフトウヱアによって 配列を得るととができた。 SCARプライマーは. RAPDプライマーを 1 最適プライマ一部位を探索する方法の二つの方法で行い,両者の相違を比較した。その結果,単純に 1 4塩基伸長させ たプライマ一対では多型をボす割合が高く,より効率的なマーカー開発が可能であった。多型を示すマーカーのいく つかは,対立遺伝子の関係にあると考えられる複数フラグメントを同時に増幅した。最終的に,増幅が明瞭であった SCARプライマーは 9プライマーであり マーカー数は 1 2であった。これらのマーカーを用いることによってスギの マーカーがスギのクローン識別に普遍的に利用可能であることが明らかとなった クローン識別を行った結果, SCAR 一方で,これまでの RAPD 分析から得られた識別本よりも低い値を示した。今後は,より高い精度でクローン識別を 行うためにも SCAR マーカーの蓄積が必要である。 Summary:Wea t t e m p t e dt oc o n v e r tRAPD(randoma m p l i f i e dp o l y m o r p h i cDNA)markerswhichh a v ebeen usedt od i s c r i m i n a t e] a p a n e s ec e d e r( C η φt o m e r i aj a p o n i c aD.Don)p l u s t r e ec 1 0nesi n t oSCAR( s e q u e n c e d c h a r a c t e r i z e da m p l i f i e dr e g i o n )markerst h a tg u a r a n t e eh i g hr e p r o d u c i b i l i t y .T w e n t y s e v e nRAPDmarkers 1 0nedandsequenced,ofwhich,s e q u e n c e sd e r i v e dfrom1 8RAPDmarkerswerep r o v i d e dt od e s i g n werec SCARp r i m e rp a i r s .SCARp r i m e rp a i r swered e i g n e dbytwok i n d so fp r o c e d u r e s .Onei sd e s i g n i n g2 4 m e r p r i m e rp a i r s, s i m p l ya d d i n g1 4 m e rt o1 0 mero fRAPDp r i m e r sb a s e dons e q u e n c e sd e t e r m i n e dnewly, and x p a n s i o no f o t h e ri sd e s i g n i n gnewp r i m e rp a i r sbys o f t w a r e .Comparingw i t ht h etwod i f f e r e n tp r o c e d u r e s,e RAPDp r i m e r swasmoree f f e c t i v et or e v e a lpolymorphismsamongc 1 0neso f] a p a n e s ec e d a r .SomeSCAR h a twasl i k e l yωbea l l e l e .E v e n t u a l l y , n i n eSCARp r i m e rp a i r sw i t h p r i m e rp a i r sy i e l d e dt w oo rmore企agmentst 1 2markerswereunambiguous.Wh ensome] a p a n e s ec e d e rp l u s t r e ec 1 0neswered i s c r i m i n a t e du s i n gt h e d e v e l o p e dSCARmarkers,t h e s emarkerswereu s e f u lt obec 1 0nei d e n t i f i c a t i o nw h i l ed i s c r i m i n a t i o npowero f SCARmarkerswasl o w e rt h a nRAPDmarkerst h a thavebeenr e p o r t e d .Th e r e f o r e, i ti se s s e n t i a lt od e v e l o p 1 0 n e sw i t hh i g hc o n : f id e n c e . f u r t h e rmoreSCARmarkerst od i s c r i m i n a t e] a p a n e s ec e d e rp l u s t r e ec (1)林木育種センター 干3 1 9 . 1 3 0 1 茨城県 H立市十王町伊師 3 8 0 9 . 1 F o r e s tT r e eB r e e d i n gC e n t e r 3 8 0 9 1 I s h i,J u o,H i t a c h i,I b a r a k i3 1 9 . 1 3 0 1J a p a n ( 2 ) 林木育種センタ一関西育種場 干7 0 9 4 3 3 5 岡山県勝田郡勝央町植月中 1 0 4 3 Ka n s a iR e g i o n a lB r e e d i n gO f f i c e,F o r e s tT r e eB r e e d i n gC e n t e r h o o,Kat s u t a,Okayama7 0 9 4 3 3 5J a p a n 1 0 4 3U e t s u k i n a k a,S aAT phd 林木育種センター研究報告 第 2 3号 1 はじめに スギ (Cry 戸t o m e r i a. j ρ αonicaD.Don) は,最も重要な林業樹種の一つであり,成長や通直性または病虫害妊 6 5 1個体が選抜され,クローン増殖されて 抗性など諸形質に優れたスギ個体は精英樹としてこれまでに全国で 3, きた。これら精英樹クローンは育種母材として様々な公的機関で継続的に管理されている。方,管理が長期間 にわたる結果,植栽ミスやミスラベリングが生じる可能性が以前より指摘されている(後藤ら. 2 0 0 0 )。さらに, スギはさし木造林が盛んであり,精英樹として選抜されたクローンの中にはさし木品種が含まれている(宮原ら, 1 9 9 4 ;後藤ら. 1 9 9 9 ;佐々木ら, 2 0 0 2 )。従って,同一クローンが異なる名称のクローンとして取り扱われてい る場合もあり,適切な系統管理は林木育種における大きな課題の 4 つとなっている。そこで,種々の子法を利用 することによってスギクローンの識別法の開発が行われてきた。例えば,アイソザイム分析によってさし木由来 の品種を構成するクローン数の推定 ( M i y a z a k iandS a k a i,1 9 6 9 ;奥泉・大庭. 1 9 9 0 ;Okuizumi,1 9 9 3 ) やスギ結 9 91 ) RAPD ( randomampi 1 f i e dp o l y m o r p h i cDNA) 分析 ( W i l l i a m se t 英樹の識別が試みられている(戸丸, 1 0 a l .1 9 9 0 ) は情報量が多いこと,分析が比較的容易であることから,スギ品種または個体の識別に関する多数の 9 9 4 ;高田・白石, 1 9 9 5 ;後藤ら, 1 9 9 9 ;金山ら, 2 0 0 2 ;西山ら, 2 0 0 2 ;佐々木ら, 報告が行われている(宮原ら, 1 2 0 0 2 )。最近では,スギのマイクロサテライトもしくは SSR ( s i m p l esequencer e p e a t ) が多数開発されたこと M o r i g u c h ie ta l .,2 0 0 3; T a n ie ta l "2 003b; T a n ie ta l .,2 0 0 4 ),より精度の高い識別法の確立が期待されて から ( 2 0 0 6 ) は公表された SSRマーカーを利用して関東育種基本区内スギ精英樹 835クローンを識別し おり,平尾ら ( マーカーは自動蛍光シーケンサーの使用によってフラグメントサイズを正確な数値データに変換して蓄 た 。 SSR マーカーは共優性で 積することが容易であり, SSRマーカーの遺伝子型をデータベース化できる。さらに, SSR あることから,クローン識別に留まることなく,親子鑑定といった研究や分析にも容易に発展できる ( M o r i g u c h ie t a l .,2 004;Gotoe ta l .,2 0 0 5 )。従って,現時点で SSRマーカーは最も有効な分析手法である一方 で,マーカーを効果的に活用するためには高額の機器が必要であり,ランニングコストは必ずしも安価ではない。 とれら機器やコスト面の関係から SSRをマーカーとして十二分に活用できる機関は限定されており,クローン識 別には簡易な設備でも対応可能であり,より安価かつ分析が容易なマーカーを開発することができれば,多くの 機関で系統管理に必要なマーカーシステムを作ることができる。 ParanandMichelmore ( 1 9 9 3 )は , RAPD分析によって得られたフラグメントの DNA 塩基配列を決定し,新 たなプライマーを設計することで目的のマーカーを特異的に PCR 増幅する SCAR ( s e q u e n c ec h a r a c t e r i z e dam- p l i f i e dr e g i o n s ) マーカーを開発した。 SCARマーカーは容易に分析可能であり,再現性が高く,簡易な設備で マーカー化した報告例は数多い ( Hernandeze tal . .2001・ 対応可能である。これまでにも有用なマーカーを SCAR T a n ie ta l .,2 0 0 3 a )。スギのクローン識別を目的とした SCARマーカーはすでに報告されている(久枝ら, 2 0 0 0 ) が,プライマーおよび塩基配列情報は公表されていないため,現段階で広く利用できないのが現状である。さら に , ーつの SCAR マーカーが保有する情報量は少なく,遺伝的に近縁な個体聞の識別にも対応可能とするために はより多くの SCARマーカーを開発し,プライマー情報を蓄積していく必要性がある。スギについては RAPD マーカーによってクローン識別がこれまでも行われており,これらの情報を活用することでマーカーの開発は比 較的容易である。 2 0 0 2 )が公表した 2 5マーカーを中心に SCARマー そこで,これまで報告された RAPDマーカーのうち,西山ら ( ﹁ ﹁υ 巳d スギ精英樹クローン識別のための SCAR マーカーの開発 カーへと発展させた。その際,二つの異なる方法によってプライマーを設計し,多型を得るための効率性につい て検討した。対象とした RAPDマーカーは,特定の虫害抵抗性個体の識別に利用するため開発されていたことか ら , SCARマーカーが他のスギ精英樹クローンの識別にも普遍的に利用可能か検討した。 2 材料および方法 SCARマーカーの識別能力の評価には,スギカミキリ抵抗性個体 3 8クローン(植木ら, 2 0 0 0 ;西村・佐々木, 2 0 0 1 ;西山ら, 2 0 0 2 )および関東育種基本区内の精英樹からランダムに 96クローン,計 1 3 4クローンを供試した。 各クローン供試個体数は l個体である。 RAPD分析は,西山ら ( 2 0 0 2 ) に従った。得られた RAPDフラグメントは,アガロースゲルから切り出した後, GelE x t r a c t i o nK i t (QIAGEN) によって精製した。精製したフラグメント DNAは , TOPOTAc l o n i n gk i t ( In v i t r o g e n ) によってクローニングし,それぞれ 8コロニーをピックアップした。アルカリミニプレップ法に よってプラスミド DNAを調整し,プラスミド DNAを鋳塑として, ABI 3100g enetic analyzer (Applied 塩基配列を決定した。プライマー設計には G eneFisher( G i e g e r i c h B i o s y s t e m s )によって各フラグメントの DNA e ta l .,1 9 9 6 ) を利用した。 新たに設計したプライマーセットを用いて, PCRは 2.0mMMgC , b 0.2mM各 dNTP,0 . 5 u n i t /1 0¥ l 1TaqDNA In v i t r o g e n ),0 . 2 5¥ lM p r i m e rの反応溶液組成で行った。 PCR反応は, DNAEnginePTC-200 (MJ polymerase ( AmpPCRSystem9700 ( A p p l i e dB i o s y s t e m s ) を用いて行った。 PCRは初期慣として R e s e a r c h ) もしくは Gene 0Cに設定し アニーリング温度を 6 0 1サイクルととに 1o Cずつ下げ 1 0サイクル経過後 5 0Cになった時点でア 0 ニーリング温度を固定して残る 2 0サイクルを行う t o u c hdownPCRを用いた。すべてのサイクルで変性は 9 4C 0 , 1 市長反応については 7 2C90秒に固定した。増幅産物は 2%アガロースゲルで電気泳動後, U Vトランス 3 0秒 0 イルミネータ~J-:で検出した。 3 結果と考察 3 . 1 SCARプライマーの設計 SCARプライマーの開発には,スギカミキリ抵抗性クローン識別マーカーとして公表した 2 5のRAPDマーカー (西山ら, 2 0 0 2 ) のうち.フラグメントサイズが短いため, DNA 塩基両日列決定後プライマー設計が困難と予想、さ U06/250・A09/250・B11/2 0 0 ) を除外した 2 2マーカーと,新たに迫加した 5マーカーを含め れる 3マーカー ( た計 2 7マーカーを対象とした。クローニング後,十分な PCR増幅産物が得られなかったマーカーと 1000bpを超 えるフラグメントサイズを示したマーカーについては十分な数のポジティブコロニーが得られなかったことから, 8の RAPDマーカーについて DNA 梅基配列を決定した(友一 1 ) PCRもしくはクローニングの際に生 最終的に 1 0 じる a r t i f a c tを考慮し,複数コロニ一間で一致した取基配列のみを SCARプライマー設計の候補として選抜した。 8つの RAPDマーカーでは塩基配列が異なる複数のフラグメントの存布が明らかとなった。例えば, Bll/70 0で は 7 03bpと686bpを示すフラグメントが混有していた。これは RAPD分析を行った際に,サイズがわずかに異 なるフラグメントが複数増幅されていたにもかかわらずアガロースゲル電気泳動では十分に分離できなかった ためと考えられる。 Hernandeze ta l .( 2 0 01 )は RAPDフラグメントのダイレクトシーケンスがより効率的で あることを報告した。しかし,今回の分析では,復数フラグメントが混在するマーカーが見出されたことから, ← 林木育種センター研究報告 5 6 第 2 3号 ダイレクトシーケンスは必ずしも最良の力会法ではないと考える。 ld]-RAPDマーカー由来の異なった塩基配列を示すフラグメントは,全てプライマー設計を行った。一方, RAPD分析の結果から予想されるサイズを示さなかったフラグメントや RAPDプライマーの配列を塩基配列中に 含んでいないフラグメントについては除外した。結果的に, SCARプライマー設計の候補となったフラグメン卜 数はおとなった(表-1)。 P a r a nandMichelmore ( 19 9 3 ) は RAPDマーカーの SCAR 化に際し, 1 0塩基の RAPDプライマー配列を単純 に1 4塩基{伸長させることによって SCARプライマーとした。一方,塩基配列を基に最適なプライマ一部位を探索 し新たな領域にプライマーを設計した報告も多い。そこで,それぞれのフラグメントについて, Paranand 19 9 3 ) 同様に RAPDプライマーを 1 4塩基伸長させた 2 4塩基のプライマー(以後, RA) とソフト Michelmore ( ウェアを利用して最適なブライマ一部位の探索を行ったプライマー(以後 GF) の二種類を作成し(図-1),得 られる結果の相違について検討した。二つの異なる方法によって設計するプライマ一部位がほぼ重複していた場 合には,ソフトウェアが最適と判断したプライマーのみを作成した(表 1。 ) 3 . 2 SCARマーカーのスクリーエング 6個体を用いて行った。その結果, RAでは設計した 1 8プラ スクリーニングは供試個体からランダムに選んだ、 1 イマー中 1 0プライマーで多型が認められた(表-1) RAとは異なる部位にプライマーを設計した GFでは, 1 8 0 プライマー中わずかに 3プライマーのみで多型が認められた。 RAとGF でプライマ一部位がほぼ重複する残る 8 プライマーについては 3プライマーが多型を示した。以上の結果より, RAPD分析によって得られる多型の多く がプライマ一部位の突然変異に起因しており, SCAR マーカーの開発に際し RAPDプライマ一部位を単純に仲長 させたプライマーを用いた方がより効率的に多型を得ることが可能と考える。 スクリーニングの段階で多型が認められたプライマーは, RA および GFを併せて 1 6プライマーであった(去 1)。このうち, c j s c a r0 6,c j s c a r0 8からは一本の明確なフラグメントが得られた(図 2)。同 -RAPDフラグ メント由来で GFおよび RA 共に多型を示した c j s c a r3 4とc j s c a r3 5(共に Q04/670向来)は,フラグメントパター ンが同一であり,より増幅が明確であった RAのプライマー ( c j s c a r3 5 ) のみを選択した。同様に,同一 RAPD フラグメント由来の GFおよび RAである c j s c a r3 6とc j s c a r3 7 (共に Q04/670由来)では異なるフラグメントパ j s c a r2 0(E1O/350向来)と c j s c a r2 2(E1O/ ターンを示したことから,それぞれのプライマーを有効と判断した。 c 4 6 0由来)は, RAPDフラグメントの出来が異なっていたにもかかわらず, I 斗宇のフラグメントパターンを示し, 増幅がより明確であった c j s c a r20由来のフラグメントをマーカーとした。 c j s c a r1 2とc j s c a r1 4もまた, RAPD フラグメントの由来が異なっておりさらに得られたフラグメントパターンは 3フラグメントの有無によって 泳動像が構成されていたことから,これらのフラグメントは対立遺伝 fの関係にある可能性が高い。 c j s c a r2 7 j s c a r2 7と同様に G11/6 1 0 (Gll/61O由来)もまた,二つのフラグメントが同時に増幅した個体が認められた。 c 由来である c j s c a r2 8はc j s c a r2 7と同ーのフラグメントパターンであり,マーカーとしては用いなかった。一方 で , c j s c a r3 0(N08/400由来)からは,不明確なフラグメントが検出された。 PCR増幅条件を詳細に検討するこ とでより明確な泳動像が得られる可能性があることから ( T a n a k ae ta l .,2 0 0 4 ),アニーリング温度を 5C高く 0 するととによって再分析した結果,不明確であった多くのフラグメントが消失し,クローン識別には問題ないと 判断した(図 2)。しかし, c j s c a r0 1( A 0 4 / 6 1 0由来), c j s c a r1 6( B 11/8 0 0由来)および c j s c a r4 1 (U01/3 5 0 円 巳d i スギ精英樹クローン識別のための SCARマーカーの開発 由来)については, PCR 条件の検討後も不明確な増幅が認められたことからクローン識別には用いなかった。以 上の結果から,クローン識別に有効としたプライマー数は 9プライマーであり(表-2),マーカー数は 1 2と なった(図 2)。 3, 3 SCARマーカーを利用したスギ精英樹の識別 2 0 0 2 ) は,スギカミキリ抵抗性個体として選抜された 38クローンについて 25の RAPDマーカーを利 西山ら ( 用して識別した結果,ボカスギ系統の 4クローンを除く 34クローン ( 8 9, 5 % ) が識別可能であると報告した。同 様に, SCARマーカーを適用した結果, 9プライマー 1 2マーカーの組み合わせによって 28の DNA型 (73.7%) に 分類できた。 6タイプは 2クローンで同ーの DNA型を示し,それぞれのクローンを識別できなかった。ボカス ギ系統 4クローンもまた, RAPDマーカ一同様に全て同ーの DNA 型であったのに加え, RAPD分析では異なるク ローンとされた 1クローンがボカスギ系統と同じ DNA 塑を示した。さらに新たに開発した SCAR マーカーが普 遍的に利用できるか検討するため,関東育種基本区内スギ精英樹からランダムに選抜した 96クローンについて 識別を行った結果, 64のDNA型 ( 6 6 . 7 % ) に識別できた。金山ら ( 2 0 0 2 )は , RAPD分析を用いて関東スギ精英 樹約 800クローンの識別を行い, 73.6%の識別が可能であったことを報告している。 RAPDマーカ一同様に1/0 データである SCARマーカーは,フラグメントの有無が 1 :1であった時,そのマーカーの識別能力は最大となり, 1:1からの偏りが増大するにしたがって識別能力は減少する傾向にある ( T e s s i e re ta l .,1 9 9 9 )。本研究におい ても,フラグメントの有無が 1:1に近い値を示したのは 3マーカーのみであった。新たに開発した SCARマー カーはスギ精英樹のクローン識別に普遍的に利用可能であることを示すと同時に,精度の高い識別をするために はより識別能力の高いマーカーを開発し,マーカー数を蓄積することが必要不可欠である。 しかし, PCRとアガロースゲル電気泳動によって高い再現性を得ることができる SCARマーカーは現在までに 公表されているマーカーの中でも最も安価かつ容易な分析手法である。例えば, RAPD分析では,複数回の PCR によってマーカーの再現性を評価する必要性があった(後藤ら, 1 9 9 9 ;金山ら, 2 0 0 2 ;西山ら, 2 0 0 2 ) SCARマー 0 カーは,目的とするフラグメントの塩基配列が明らかとなれば,単純にプライマー配列を伸長することによって, 容易に追加できる o 久枝ら ( 2 0 0 0 )は , SCARマーカーの m u l t i p l e xPCRによって労力の減少を提案した。 SCAR マーカーは,特別な設備を必要としないマーカーであり,林木育種においてクローン識別を継続的に実施してい く上で,最も現実的なマーカーのーっと考える。 4 引用文献 G i e g e r i c h,R .,Meyer,F .andS c h l e i e r r n a c h e r,C .:G e n e F i s h e r-s o f t w a r es u p p o r tf o rt h ed e t e c t i o no fp o s t u l a t e dg e n e s . .Conf .I n t e l. lS y st .Mol .B i ol .4 :6 8 7 7( 1 9 9 6 ) . P r o c .I nt 後藤 晋・家入龍二・宮原文彦:福岡県におけるスギさし木品種と精英樹の RAPD分析,日林誌 8 1,1 8 7 1 9 3( 1 9 9 9 ) 後藤 晋・宵原文彦・家入龍て・川内博文:RAPD分析によるスギ挿し木品種の識別とその利用,林木の育種 1 9 7,6 - 8( 2 0 0 0 ) Goto,S .,Watanabe,A . , Miyahara,F .andMori,Y .:R e p r o d u c t i v es u c c e s so fpol 1end e r i v e dfroms e l e c t e dandn o n s e l e c t e ds o u r c e sandi t si m p a c tont h eperformanceo fc r o p si nan e m a t o d e r e s i s t a n t] a p a n e s eb l a c kp i n es e e d i l v a eG e n e t i c a5 4,6 9 7 6( 2 0 0 5 ) o r c h a r d .,S o o r a 林木育種センター研究報告 第 2 3号 Hernandez,P .,del aRosa,R . ,R a l l o,L . , Dorado,G .andMartin,A.:Developmento fSCARmarkersi no l i v e( O l e a e u r o p a e a )byd i r e c ts e q u e n c i n go fRAPDp r o d u c t s :a p p l i c a t i o n si no l i v egermplasme v a l u a t i o nandm a p p i n g .Theor Appl .Gene t .1 0 3,7 8 8 7 9 1( 2 0 0 1 ) 平尾知士・渡遺敦史・福田陽子・近藤禎二・高田克彦 :SSR マーカーを利用したスギ精英樹のクローン識別, 言 志 日森林 8 8,2 0 2 2 0 5( 2 0 0 6 ) 久枝和彦・白石 進・栗延 晋:M uPS(Multiplex-PCRo fSCARm a r k e r s ) 分析を用いた九州産スギ精英樹の識別.一 佐賀・長崎県産スギ精英樹について 3,5 5 5 6( 2 0 0 0 ) ,日林九支研論文集 5 金山央子・後藤陽子・近藤頑二:関東育種基本区のスギ精英樹のクローン識別における RAPDi 去の有効性,日林誌 8 4, 1 0 0 1 0 3( 2 0 0 2 ) 宮原文彦・松田 学・前田 徹・白石 進 :RAPD分析による福岡県産スギ伝来品種の構成クローン数の推定,日林論 1 0 5, 2 9 3 2 9 4( 1 9 9 4 ) .andS a k a i,K.:Useo fzymographyf o ri d e n t i f i c a t i o no fac l o n ei nCryptomeriaj a p o n i c aD .D o n . ] .J p n .F o r . M i y a z a k i,Y Soc5 1, 2 3 5 2 3 9( 1 9 6 9 ) MoriguchiY . ,I w a t a ,H .,U j i n o I h a r a, T .,Yoshimura,K . ,T a i r a,H .andTsumura,Y . : Developmentandc h a r a c t e r i z a t i o n o fm i c r o s a t e l l i t emarkersf o rCryptomeriajaponicaD .Don.Thor .App . lGenet .1 0 6, 7 5 1 7 5 8( 2 0 0 3 ) MoriguchiY .,T a i r aH .,T a n iN.andTsumuraY .:V a r i a t i o no fp a r e n t a lc o n t r i b u t i o ni nas e e do r c h a r do fCryptomeria j a 戸o n i c ad e t e r m i n e du s i n gm i c r o s a t e l l i t em a r k e r s .C a n . ] .For .R e s .3 4,1 6 8 3 1 6 9 0( 2 0 0 4 ) 西村慶二・佐々木峰子:林木育種のプロジェクト(5)一地域虫害抵抗性育種事業一,林木の育種 1 9 9,3 2 3 6( 2 0 0 1 ) 西山和美・渡遺敦史・久保田正裕:RAPDマーカーによるスギカミキリ抵抗性個体の識別,日林誌 8 4,2 6 2 2 6 6( 2 0 0 2 ) 奥泉久人・大庭喜八郎:アイソザイムの 4遺伝子座の遺伝子型による集殖されたオピスギ系 1 4品種,ヤブクグリおよ 2,5 0 1 5 0 7( 1 9 9 0 ) びメアサのさし木品種内クローン数の推定,日林誌 7 Okuizumi,H .:C l o n ea n a l y s i so fc o l l e c t e dS u g i c u t t i n gc u l t i v a r so ft h eKyushuR e g i o nbyt h em u l t i l o c u sg e n o t y p e so f t w e l v eisozymel o c. iJ .J p n .For .S o c .7 5,2 9 3 3 0 2( 19 9 3 ) P a r a n,1 .andMichelmore,R .W.: Developmento fr e l i a b l ePCR-basedmarkersl i n k e dt odownymildewr e s i s t a n c egenes i nl e t t u c e .Theor .App . lGenet .8 5,9 8 5 9 9 3( 1 9 9 3 ) 佐々木峰子・平岡裕一郎・藤 j 幸義武 :RAPDマーカーによるスギザイノタマパエ抵抗件一クローンの個体識別,九州森林 5,1 4 6 1 4 7( 2 0 0 2 ) 研究 5 高田克彦・自伝 進 :RAPDマーカーを用いた九州地方のスギさし木品種の分類,九大演報 7 5,1 1 4( 1 9 9 5 ) Tanaka,A . ,M i y a z a k i,K . , Murakami ,H .andS h i r a i s h i,S .:Sequencec h a r a c t e r i z e da m p l i f i e dr e g i o nmarkerst i g h t l y l i n k e dt ot h ematingf a c t o r so fLentinulae d o d e s .Genome4 7,1 5 6 1 6 2( 2 0 0 4 ) T a n i,N .,Kawahara,T . ,Y oshimaru,H .andHoshi,Y .:D evelopmento fSCARmarkersd i s t i n g u i s h i n gp u r es e e d l i n g so f o n i n e n s i sfromM.b o n i n e n s i sxM.a c i d o s ah y b r i d sf o rc o n s e r v a t i o ni nBonin t h eendangereds p e c i e sMorusb ( O g a s a w a r a )I s l a n d s .C o n s e r v .Genet .4, 6 0 5 6 1 2( 2 0 0 3 a ) ., T a k a h a s h i, T . ,I w a t a,H .,Mukai,Y . ,U j i n o I h a r a, T . ,M atsumoto,A . ,Y oshimura,K . ,Y oshimaru,H .,Murai,M., T a n i,N Nagasaka,K.andTsumura,Y .:Ac onsensusl i n k a g emapf o rs u g i(Cryptomeriajapo叩 i c a )f romtwop e d i g r e e s, basedonm i c r o s a t e l l i t e sande x p r e s s e dsequencet a g s .G e n e t i c s1 6 5,1 5 5 1 1 5 6 8( 2 0 0 3 b ) Q υ F L 3 スギ結英樹クローン識別のための SCARマーカーの開発 T a n i,N .,Takahashi, T .,U j i n o I h a r a,T . ,I w a t a,H .,Yoshimura,K .a ndTsumura,Y .:D evelopmentandc h a r a c t e r i z a t i o n o fm i c r o s a t e l l i t emarkersf o rs u g i( C η ψt o m e r i aj a p o n i c aD .Don)d e r i v e dfromm i c r o s a t e l l i t e e n r i c h e dl i b r a r i e s . Ann .For .S c i .6 1, 5695 7 5( 2 0 0 4 ) 司 T e s s i e r,C .,David, , . JT h i s,P .,B o u r s i q u o t, , JM.andC h a r r i e r, A .:O p t i m i z a t i o no ft h ec h o i c eo fm o l e c u l a rmarkersf o r .T h e o r .App l .Genet .9 8,1 7 1 1 7 7( 1 9 9 9 ) v a r i e t a li d e n t i f i c a t i o ni nV i t i sv i n i f e r aL 戸丸伝弘・アイソザイムによるスギの人工林および精英樹の遺伝的変異に関する研究,筑波大学大学院学位論文, 1 7 5 p p ( 19 91 ) 値木忠二・加藤一隆・山口和穂:関西育種基本区におけるスギカミキリ紙抗性候補木の検定状説,林木の育種,特別号, 3 4 3 7( 2 0 0 0 ) , JG .K . , Kub 巳l i k,A . R . ,L iv ak,K.J .,R a f a l s k i, J . A .andTingey,S . V .: DNApolymorphismsa m p l i f i e dbya r b i t r a r y W i l l i a m s p r i m e r sa r eu s e f u la sg e n e t i cm a r k e r s .N u c l e i cA c i d sR e s .1 8,6 5 3 1 6 5 3 5( 19 9 0 ) 林木育種センター研究報告 60 第 23号 表 -1 明 ら か と な っ た 18RAPDマ ー カ ー の 塩 基 配 列 長 と 設 計 し た SCARプ ラ イ マ 一 対 に よ る 増 幅 結 果 R A P Dマーカ- bp RA GF 以内マー力一 bp GF G 11/350bp 339 cjscar25 RA Obp A04/61 650 cjscar01 P cjscar02 02 A04/610bp 666 cjscar03 M cjscar04 M 1 5 G11/610bp 643 cjscar27 P 03 A04/800bp 794 cjscar05 NA cjscar06 P 16 G11/610bp 603 cjscar28 P 04 A07/350bp 338 cjscar07 cjscar08 P 1 7 N08/400bp 400 cjscar29 0 1 M M 14 cjscar26 M M cjscar30 P cjscar32 M M 05 A07/350bp 375 cjscar09 M cjscar10 M 18 N08/400bp 402 cjscar31 M 06 B11/450bp 447 cjscar11 M cjscar12 M 1 9 P10/500bp 4 8 1 cjscar33 M 07 B 11/700bp 703 cjscar13 M 20 Q04/670bp 685 cjscar34 P cjscar35 P 08 B 11/700bp 686 cjscar14 P 2 1 Q04/670bp 643 cjscar36 P cjscar37 P 09 B11/800bp 703 cjscar15 M cjscar16 P 22 Q20/370bp 357 cjscar38 M 10 B16/940bp 944 cjscar17 M cjscar18 M 23 Q20/370bp 357 cjscar39 M 1 1 E10/350bp 352 cjscar19 M cjscar20 P 24 U01/350bp 345 cjscar40 M cjscar41 P 1 2 E10/460bp 404 cjscar21 NA cjscar22 P 25 U03/330bp 336 cjscar42 M 1 3 E10/460bp 432 cjscar23 cjscar24 M 26 U03/400bp 389 cjscar43 M cjscar44 M M 1 ) GF;G eneFisherによるプライマー設計, RA;RAPDプライマ 2 ) P;多 型 , M;単型または変異なし, NA;増幅しない +14塩基 表 - 2 新 た に 開 発 し た SCARプ ラ イ マ ー の 塩 基 配 列 プライマー名 forward (デ→ 3つ r e v c r s 巳 ( 5ラ → 3') c j s c a r06 AAT CGG GCT GAA AGG GAA AGG AAG AAT CGG GCT GCA TAT ATT ATC GGG ~jscar 08 GAA ACG GGT GCA TGA ACA ACT AGT GAA ACG GGT GAG GAG ATA ATT GGC ~scar14 GAC CCG TAT CTA GTC TCA CTT TCT G GTA GAC CCG TAA CCA GAC ATG AAG G ~jscar 20 CAC CAG GTG AAG AGA GAA TAC ATA CAC CAG GTG ATC CAT TAG ATT GGA c j s c a r27 GCC CGT CGT CAA ATG CAA CTT CGA T CCC GTC GTT AGT GTA CGC CTA GTT C c j s c a r30 ACC TCA GCT CAC AGT ACA TGA AGA ACC TCA GCT CGT GCT AAT TCA TTA c j s c a r34 CGC TGA AAT TGG GTT GGT TTG GAA G TTA AAT CCG AGC CTG TGT GA c j s c a r36 CTG TAC GCT GTT AGT GTT G ACC TTT TAC CTG CCT GCT c J s c 訂 37 AGT GCG CTG ACC CTT GAA TGA TCA AGT GCG CTG AAA ACC TTT TAC CTG スギ精英樹クローン識別のための SCARマーカーの開発 6 1 c j s c a r 3 7 f lAGTGCGCTGA-CCCTTGAATG ATC 剖ATATGA TTCACTAGTT AGAAATAAAA OPQ04 ATGCAGCATA ATAATTTAAA TCCTTTTAAG GGGCTACATA GATGATTTTA GAATTAGAAT TTCGAGTAAT TCAAAGGAAT GCAACTGAAA GAGAAATGAG CTTGTTAAGC TAGCACAACT TCATAAATTT CAGGATTTTA GAAAAGACAA AACTGTACGC TGTTAGTGTT GATAGTATAT TTTTGAGTAG TAAACAATGT c j s c a r 3 6 f CAAATGCTCA CTAATTGGGT AGGCAGCGCC TACCATTTTC TGTTTTTACA AAAATACAAA ACCCAAGTAT TATAAGGCTC CAACACATTG ACACAGTACA ATGGAATAGC AATATACTCA TTGAAATTGC AAGTTAAAAT AAGATATATT ACCTTGCAGG CTTCATTTCA AATTACATTG ATGAGATTGA CATTATTAGC AGTATAAACT TGAATATAGA TAACAACATT TCTTATTTCC AGCGTATAAA TACCCTAGCG TAGTAGAATA CACCGTTATA TGTCGCTCAA CTCTCAACAC ATTACAACAA ACATCATTAT AAACTCGAAT AACAAACTTA GTGCATATCC c j s c a r 3 7 r 6 4 3bp AGCAATCATA GATAGCAGQC AGGTAAAAGG TTT-TCAGCGCACT[ c j s c a r 3 6 r 図 -1 SCARプ ラ イ マ ー の 設 計 一ーは GF,仁二二コは RAを表わす。 OPQ04 ρ “ ヮり 林木育係センター研究報告 第2 3片 c j s c a r0 6 c j s c a r30 c j s c a r08 c j s c a r3 5 c j s c a r1 2 c j s c a r36 0 c j s c a r2 c j s c a r37 c j s c a r2 7 図 2 SCARプライマーによる泳動結果