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医薬品業界の現状とジェネリック医薬品市場

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医薬品業界の現状とジェネリック医薬品市場
今月のトピックス No.145-1(2010年3月24日)
医薬品業界の現状とジェネリック医薬品市場
1.医薬品業界を取り巻く状況
・日本人の死因別死亡率をみると、1981年にがんが1位となって以降、がんによる死亡率が一貫して
上昇しており、2008年には2位の心疾患、3位の脳血管疾患を大きく引き離し、死亡者数全体の三割を
占めるに至っている(図表1-1)。
・高血圧や高脂血症などは現在の薬剤で医療ニーズが比較的満たされている一方、がんやアルツハイ
マーなどは薬剤の貢献度が低く、新薬メーカーは現在の薬剤治療では満たされない医療ニーズ(「アン
メットメディカルニーズ」)への対応が求められている(図表1-2)。
・アンメットメディカルニーズに対する画期的な新薬として期待されているのが、抗体医薬*などの
バイオ医薬品である。世界の承認医薬品数に占めるバイオ医薬品の割合は上昇傾向にあり、創薬
並びに医薬品販売の主体はバイオ医薬品へと移行しつつある(図表1-3)。
・しかし、こうした創薬ニーズの変化は、医薬品の開発成功率低下と相まって、新薬メーカーの研究
開発費を増加させる要因になっている。これに、2010年前後に大型医薬品の特許期間が相次いで満
了する「2010年問題」が加わることもあり、新薬メーカーは2005年度以降、新薬開発に積極的に取
り組んできたことから、1社当たりの研究開発費負担は急速に高まっている。創薬ニーズの変化は
国内新薬メーカーの収益を更に圧迫する要因とみられている(図表1-4)。
* 抗体医薬とは、生体が本来持つ免疫細胞を人工的に合成し、医薬品としたもの。がん細胞に特有の
分子を認識して働きかける分子標的薬の一種で、従来の抗がん剤で見られた正常な細胞への副作用が少
ないといわれている。
図表1-1 日本人の死因別死亡率の推移
がん(30.0%)
死 250
(
亡
率 200
心疾患
(15.9%)
人
150
口
十
万 100
対
50
)
脳血管疾患
(11.1%)
肺炎(10.1%)
図表1-2 治療満足度と薬剤貢献度
0
70 75 80 85 90 95 00 05 06 07 08 (年)
(備考)1. 厚生労働省「人口動態統計」
2. ( ) 内は08年の死亡者数全体に占める割合
図表1-3 世界の承認医薬品数に占めるバイオ医薬品
60
50
(品目)
40
35%
30
20
25%
20%
15%
10%
10
0
5%
0%
図表1-4 国内新薬メーカーの研究開発費推移
600 (億円)
40%
30%
現在の薬剤で比較的
100 (%)
消化性潰瘍
医療ニーズが満たされている
19 がん
高脂血症
5 脳神経系疾患
痛風 高血圧
糖尿病
39 脳血管系疾患ほか
うつ病
心不全
関節
リウマチ
50
白血病
統合失調症
前立腺がん
乳がん
脳出血
胃がん
大腸がん
子宮がん
肺がん
現在の薬剤では医療ニーズ
アルツ
肝がん
を満たせていない
ハイマー
0
(アンメットメディカルニーズ)
0
50
100 (%)
治療の満足度
(備考)
厚生労働省薬害肝炎の検証及び再発防止のための医薬品行政の
あり方検討委員会資料(2009.7.29)より作成
治療に対する薬剤の貢献度
300
500
新規承認有
効成分によ
る医薬品
うちバイオ
医薬品
バイオ医薬
品比率(右
目盛)
(年)
90 92 94 96 98 00 02 04
(備考)1. Efpia「The Pharmaceutical Industry Figure 2007」
2. バイオ医薬品比率には、線形近似曲線を示す
研究開発費
売上高研究開発費率 (右目盛 )
25%
20%
400
15%
300
10%
200
100
0
5%
0%
96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 (年度)
(備考)1.各社IR資料より作成
2. 国内新薬メーカー20社の平均
今月のトピックス No.145-2(2010年3月24日)
2.ジェネリック医薬品業界を取り巻く状況
・先進国は、高齢化率(全人口に占める65歳以上人口の比率)が2000年に14%を超え「高齢社会*」と
なった。高齢化率は今後も上昇が続くと見込まれており、なかでも日本は、高齢化率が21%を超え
る「超高齢社会」に2010年までに突入すると予想されている(図表2-1)。高齢化の進展に伴い
先進国では一人当たり薬剤費が増加傾向にあり、各国とも医療費の抑制が政策課題となっている
(図表2-2)。
・先進国では新薬に比べ安価なジェネリック医薬品の普及が進んでいる。ジェネリック医薬品とは、
新薬の特許期間(原則として20年、うち開発期間10~15年を除く5~10年が独占販売期間)満了後に上
市される医薬品で、新薬と同じ有効成分、同じ効能・効果を持ち、研究開発費の低減や開発期間の短縮が
可能なことから廉価で販売される。日本においては保険制度上の違いなどがあることから、医薬品に占め
るジェネリック医薬品のシェア(数量ベース)は20.2%にとどまっている(図表2-3)。
・政府は医療費抑制の観点から、ジェネリック医薬品のシェアを2012年度までに30%以上にするとい
う数値目標を2007年に掲げ、普及促進策を進めている。2003年には、医療機関による安価な薬剤
採用へのインセンティブを働かせるため、従来までの出来高払い制度に加えてDPC(診断群分類包括
評価)を用いた医療費の定額支払制度が導入された。また、2010年度の薬価改定においては、
ジェネリック医薬品の採用割合に応じて入院基本料や調剤基本料が点数加算されることとなり、
ジェネリック医薬品の採用は相応の割合で進むと思われる。(図表2-4)。
* 内閣府の高齢社会白書によれば、高齢化率が7%を超えた社会を「高齢化社会」、14%を超えた
社会を「高齢社会」としている。また比率が更に高まり、21%を超えた社会は「超高齢社会」と
よばれている。
図表2-1 65歳以上人口比率の推移
35
(%)
1,200
推計
日本
28
図表2-2 一人当たり薬剤費の推移
米国
ドイツ
イギリス
フランス
800
22 6
22.6
21
1,000
(ドル)
先進国
600
14
14.4
日本
400
世界
7
200
発展途上国
0
0
96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 (年)
50 55 60 65 70 75 80 85 90 95 00 05 10 15 20 25 (年)
(備考)
1.UN「World Population Prospects:The 2008 Revision」
2. 2009年以降は中位推計.国連分類のMore developed regionsを
先進国、Least developed countriesを発展途上国とした
(備考)IHS Global Insightより作成
図表2-4 ジェネリック医薬品の普及促進策
年度
図表2-3 先進国のジェネリック医薬品のシェア
(2008年、数量ベース)
アメリカ
68.6%
ドイツ
63.7%
イギリス
60.9%
世界
施策 ジェネリック医薬品の シェア(%)
2002 薬価改定・ジェネリック医薬品院外処方加算
12.2%
国立病院でのジェネリック医薬品採用促進
2003 DPC制度の導入
2004 薬価改定
2006 薬価改定・処方箋様式変更
16.4%
16.8%
16.9%
安定供給・全規格対応・情報提供への対応(メーカー)
2007 ジェネリック医薬品のシェア目標設定 12年度までに30% 17.2%
効能効果の相違是正、信頼性向上への対応(メーカー)
ジェネリック医薬品の薬価収載2回/年
フランス
39.8%
日本
2008 薬価改定・処方箋様式変更・調剤体制加算
2009 国立病院のジェネリック医薬品採用リスト公表
2010 薬価改定(新薬創出加算、長期収載品追加引下げ)
20%
40%
20.2%
薬局での代替調剤を努力義務化
20.2% (2009年)
0%
‐
60%
(備考)1.日本ジェネリック製薬協会資料
2. 日本のみ2009年9月時点の厚生労働省調査
80%
‐
調剤体制加算変更・入院基本料加算
(備考)1.厚生労働省中央社会保健医療協議会資料より作成
2.シェアは数量ベース.2002-2007年度は日本ジェネ
リック製薬協会資料、2009年度は厚生労働省調査
今月のトピックス No.145-3(2010年3月24日)
3.ジェネリック医薬品市場の分析
・2008年の薬剤点数から推定する医薬品全体の市場規模は約6兆円であり、このうちジェネリック医
薬品の市場規模は約4,000億円弱と全体の約7%である。ジェネリック医薬品市場をDPC対象病
院、出来高払い病院、診療所、調剤薬局に分解すると、調剤薬局が2,050億円(52.6%)と最も大き
く、DPC対象病院は236億円(6.0%)に過ぎない(図表3-1)。
・DPC対象病院は、制度導入当初の政府目標(2012年度までに1,000病院)を大きく上回り2009年度
中に1,200病院を超え(全国の一般病床数の52.6%)、今後更に増える見通しである。DPC対象
病院では、薬剤費等のコスト引き下げが採算改善に直結することからジェネリック医薬品の採用率
は高く、DPC対象病院数の増加はジェネリック医薬品市場の拡大につながると考えられる(図表
3-2)。
・ジェネリック医薬品の潜在市場として医薬品市場全体を考えると、薬剤点数では調剤薬局の割合が
56.0%と過半を占めるものの、このうち一部については医師がすでに処方箋段階で薬剤を指定して
おり、薬剤師による代替調剤が可能な部分は38.4%にとどまる(図表3-3)。
・ジェネリック医薬品の採用について、医療機関にヒアリングしたところ、ジェネリック医薬品より
も特許期間の満了した先発医薬品(長期収載品)を志向する傾向が高く、また、ジェネリック医薬
品の中からの選択基準としては、DPC対象病院、出来高払い病院では「他病院での採用実績」を
評価し、調剤薬局では「周辺病院での採用リスト」を重視するという声が聞かれた(図表3-
4)。
図表3-1 セグメント別ジェネリック医薬品市場規模
(2008年)
DPC対象病院
236億円
(6.0%)
調剤薬局
2,050億円
(52.6%)
ジェネリック
ジ ネリック
売上高
3,899億円
図表3-2 DPC対象病院数の推移
1,800
(施設)
1,500
出来高払い
病院
747億円
(19.2%)
274 07,08年度
準備病院
1,200
900
1,283 1,283
600
診療所
866億円
(22.2%)
(備考)1.厚生労働省「平成19年9月薬価調査」
「平成20年社会医療診療行為別調査」より作成
2. 1ヵ月分の薬剤点数をもとに年間分として算出
716
300
0
医療用医薬品
売上高
5兆9,052億円
調剤薬局
(56.0%)
決定権が
医師にある
(61.6%)
診療所
(16.3%)
(備考)
1.厚生労働省「平成20年社会医療診療行為別調査」
「平成21年度後発医薬品の使用状況調査(速報)」より作成
2. 1ヵ月分の薬剤点数をもとに年間分として算出
03
04
06
07
08
10 (年度)
09
図表3-4 市場セグメントの特徴
薬剤の
決定権
採用薬剤の
選択基準
DPC対象
病院
出来高払い
病院
医師
薬事委員会
(=経営者)
価格の安さ
診療所
医師
(=経営者)
調剤薬局
医師
薬剤師
DPC対象病院
(2.9%)
出来高払い
病院
(24.8%)
144
359
(備考)
1. 厚生労働省中央社会保険医療協議会資料(2009.4.15)
より作成
2. 2010年度は見込み
図表3-2 医薬品市場規模と薬剤決定権の比率
(2008年)
薬剤師による
代替調剤が可能
(38.4%)
82
359
(備考)ヒアリングより作成
信頼性と
薬価差益
(長期収載品)
ジェネリック医薬品の
中からの
選択基準
他病院での実績
高付加価値性
収益性
収益性
患者負担
周辺病院の
採用リスト
収益性
患者負担
今月のトピックス No.145-4(2010年3月24日)
4.今後のジェネリック医薬品市場
・政府によるジェネリック医薬品普及促進政策は、当面継続されると見込まれることから、ジェネ
リック医薬品市場は一定の成長が続くと考えられる。市場拡大を見越し、新薬メーカー、外資メーカー
あるいは異業種からジェネリック医薬品市場への参入が相次いでおり、国内ジェネリック専業メーカーの
競争環境は厳しさを増すと想定される。とりわけ、既存の病院向け販売チャネルやブランド力を有する新
薬メーカーの参入は、ジェネリック専業メーカーにとって脅威となろう。また、ジェネリック医薬品市場自体
についても、新薬メーカーの長期収載品への依存度が高まる中で、長期収載品との競合激化が予想
される(図表4-1)。なお、中長期的には、新薬の特許満了品目数の減少に伴いジェネリック医薬品の
開発品目数が減少、ジェネリック医薬品市場は縮小していくリスクが考えられる。
・国内のジェネリック専業メーカー(専業メーカー)、新薬兼業ジェネリックメーカー(兼業メーカ
ー)の費用構造を外資ジェネリックメーカー(外資メーカー)と比較すると、外資メーカーの営業
利益率は専業メーカー、兼業メーカーに比較してかなり高い。外資メーカーは、販売管理費の大部
分を広告宣伝費が占め、積極的な広告活動を展開する一方、広告宣伝費を除く販売管理費を徹底し
て抑えている。これに対し、専業メーカー、兼業メーカーは、病院向けMR(医薬情報担当者)を
抱え、販売に多大なコストを負担している点が対照的である(図表4-2)。
・今後は、薬価引下げ圧力が依然として続くことから、専業、兼業を問わずジェネリックメーカーにとって、更
なる低価格戦略の推進が生き残りのカギとなる。スケールメリットの追求やコスト構造の見直しを進め、一
層の価格競争力をつけるとともに、創薬技術や医療ニーズの変化に対応した商品・領域戦略、剤型
改良などの高付加価値化といった差別化戦略が求められよう(図表4-3)。
図表4-1 新薬メーカーの長期収載品比率(2008年度)
武田薬品工業
アステラス製薬
第一三共
中外製薬
田辺三菱製薬
エーザイ
大日本住友製薬
塩野義製薬
小野薬品工業
参天製薬
46.4% (80.6%)
24.5% (73.4%)
71.0% (71.6%)
33.4% (71.3%)
49.2% (71.3%)
32 6%
32.6%
(80.4%)
75.3% (89.4%)
34.6% (67.6%)
90.9% (82.7%)
77.4% (79.5%)
0
50
100 (%)
(備考)
1. 各社IR資料等より作成
2. 国内の主な製品の売上高に占める長期収載品の割合を推計
3. ( )内は主な製品の売上高が国内売上高に占める割合
創薬開発
現
図表4-2 ジェネリックメーカーの費用構成
(百万円)
売上高
売上原価
販売管理費
うち広告宣伝費
営業利益
研究開発費
ジェネリック専業メーカー
36,885 (100%)
20,859 (56.6%)
11,640 (31.6%)
652 (1.8%)
4,386 (11.9%)
2,029 (5.5%)
新薬兼業メーカー
44,260 (100%)
21,060 (47.6%)
19,380 (43.8%)
497 (1.1%)
3,820 (8.6%)
4,611 (10.4%)
外資ジェネリックメーカー
481,277 (100%)
251,153 (52.2%)
138,316 (28.7%)
105,957 (22.0%)
91,511 (19.0%)
31,443 (6.5%)
(備考)
1. 各社IR資料等より作成
2. ( )内は各項目の売上高に占める割合。1$=90円で換算
3. ジェネリック専業:日医工、沢井製薬、東和薬品、富士製薬工業
新薬兼業:日本ケミファ、あすか製薬、科研製薬
外資:Teva,Mylan,Hospira,Ranbaxy
図表4-3 国内医薬品メーカーの今後の姿
状
新薬メーカー
2010年問題
競争激化、収益への影響
開発成功率低下
今後の姿
M&Aによる体力強化
研究開発費の増加
技術革新による創薬戦略
の変化
M&Aによる海外
メーカーの体力強化
社会ニーズ
がんなど治療満足度の低い
疾病への医療ニーズ
ズ
医 療 費 削 減
国内政策
外資ジェネリックメーカー
の台頭
DPC対象病院制度の導入
ジェネリック医薬品使用促進策
ジェネリック医薬品の品質基準引上げ
(備考)日本政策投資銀行作成
ブランド延命策
(適応症の拡大等)
ジ ェネ リ ック 医 薬 品 市 場 の 拡 大
ー
先進国:
高齢化の進展→医療費抑制
新興国:
人口増加・経済成長
→市場拡大
低
へ価
の格
ニ薬
新薬メーカーの長期収載品
への依存度高
海外比率引上げ
研究開発への特化
中堅を中 心 とし たジェネ
リックメーカーへの移行
ジェネリックメーカー
ジェネリック医薬品市場の
拡大により売上増加、競争激化
今後の姿
スケールメリットの追求
高付加価値化
中長期的には、開発品目数の
減少により市場縮小のリスク
長期販売(5年以上)、
全規格対応など負担増
領域特化
中小で は受託 製造メ ー
カーへの移行
[産業調査部 寺沢 良子]
___________________________
お問い合わせ先 株式会社日本政策投資銀行 産業調査部
Tel: 03-3244-1840
E-mail: [email protected]
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