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職住一体型住宅における住み方とライフスタイル ~小規模自営事務所を

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職住一体型住宅における住み方とライフスタイル ~小規模自営事務所を
大阪市立大学大学院生活科学研究科居住環境学専攻 前期博士課程
修士論文発表梗概2009年2月
職住一体型住宅における住み方とライフスタイル
−小規模自営事務所を事例として−
M07HB017
中辻
優
1.研究の背景と目的
近年、女性の社会進出や育児・介護休暇取得者
1、職住一体型勤務者の生活と就労状況の実態
の増加に代表されるように家庭生活と仕事の両立
2、職住一体型住宅の現状
を求める意識が高まってきている。しかし家族形
3、職住一体型住宅における仕事と仕事空間の関
態の変化や、労働時間の長時間化などにより出
係
産・子育てや介護を行いながらの就業継続は困難
2.既往研究との関係
となる事態が生じている。こうした要求により、
①職住一体型住宅での仕事についての分析
フレックスタイム制や育児・介護休暇といった制
職住一体型住宅における仕事に関する研究は永田
度の実施・充実が行政や企業により進められ多様
康太郎らによるものがある。SOHO向け集合住
な働き方が模索されている。個人にとっては充実
宅に居住している4件を対象にヒアリング調査と
した人生を送るため、企業にとっては優秀な人材
家具配置の実測調査を実施し、職住一体型向け住
の確保や作業性の向上のため、仕事と家庭を両立
宅の使われ方について考察を行っている。
することができる柔軟な働き方が企業・個人の双
方から求められている。
ワークスペースと居住部分との関係について分
析を行っており、本来ワークスペースに納まるべ
そのような要求に答えることができる働き方の
き仕事用の家具や資料が居住部分にはみ出すこと
一つとして職住一体の働き方が近年見直されつつ
により、居住部分への仕事のあふれ出しが生じて
ある。職住一体の働き方は通勤時間の短縮によっ
いるとしている。また時間帯によって居住部分を
て生じる時間的な余裕、仕事と子育て・介護の両
仕事とプライベートの用途に使い分けている例が
立、集中して働くことでの生産性の向上などの効
見られ、室の用途は空間の特性よりも居住者の意
果によりワークライフバランスの向上に貢献する
識により左右されると結論付けている。
ことが可能となる。しかし、現状においては職住
本研究では、永田らの研究と同様にワークスペ
一体の働き方を想定した住宅の供給はあまり行わ
ースと居住空間にある家具・設備を調査すること
れていない。職住一体の生活では仕事の間に家
によって家具と仕事のあふれ出しの関係の検討を
事・自宅での接客業務など専用住宅とは異なった
行う。それに加えてワークスペース、居住部分で
生活様式が想定されるため、間取りや動線におい
行われている仕事を「場所を使う仕事」、「人と打
てその生活に適したものが提案されることが必要
ち合わせをする仕事」などのように作業内容によ
となる。
って分類し、居住部分へあふれ出しが生じやすい
本研究では、情報技術の進歩により今後さらに
普及することが見込まれる職住一体勤務の生活様
仕事にはどのようなものがあるのかを分析する。
②仕事空間の位置に関する分析
式がワークライフバランスを実現させる可能性を
職住一体型住居での仕事場の使われ方の分析が
もっていると考え、以下の3点に着目し職住一体
田中千賀子らによって行われている。アンケート
の生活に求められる課題を考察する。
調査を28件、ヒアリング・図面最終調査を17
大阪市立大学大学院生活科学研究科居住環境学専攻 前期博士課程
修士論文発表梗概2009年2月
件に対して行い、居住者像による仕事場の使われ
リング調査を行った。
方の違いについて分析している。扶養家族がいる
場合には仕事空間は子供がいる空間(居間、子供
4.結果・考察
の寝室)以外の空間であり、住宅規模が小さい場
(1)仕事と生活
合でも居間は団欒の場として残し仕事場と兼用せ
1日の平均就業時間は8時間が中心となってい
ず、居間以外の空間を利用するとしている。また
て、一般的な通勤勤務者と差は見られなかったが、
扶養家族がいない場合には十分な仕事場空間が確
週の就業日数では週6日以上働いている事例が半
保されない場合には、居間を利用して仕事場とす
数以上あった(図1)。毎日仕事をしている事例も
る事例が多いとしている。
1割程度見られ、在宅での仕事のデメリットでも
本研究では接客業務や模型作製など一時的にで
「休みが不定期」になることが6割近くで感じら
はあるが通常と異なる空間を必要とする仕事を行
れていて労働日数の長期化が在宅での仕事を行う
う際に、どのような空間が転用されやすいのか、
上での問題の一つとなっている。
利用頻度や家族構成、仕事場と居住空間の空間構
一日当たりの家事をする時間については総務省
成などの条件による特定の傾向はみられるのか分
の統計調査結果に比べ女性は短く、男性は長くな
析を行う。
る傾向にあった。しかし男女間の家事時間の違い
についてみると男性は就業時間が長く、女性は家
3.調査方法
本研究では自宅で自営の仕事を行っている者を
事時間が長くなる傾向にあり家事をしている時間
には大きな差が見られた(図2)。
調査対象とし、アンケート・ヒアリング調査を行
在宅ワークの欠点の一つとして生活圏が狭まる
った。その際、住生活に対する意識が高く、住居
ことがあり、社会との接点を持つために地域との
への要求を実現している可能性が高いと考えられ
関わりは在宅ワーカーにとって重要なものとなっ
る建築士を調査対象とした。両調査の詳細は以下
てくる。実際に、ほとんどの人が何らかの地域活
である。
動に関わっていた。しかし、在宅ワークを行って
①アンケート調査
いることにより地域との関わりが増えたという肯
京都府建築士会・兵庫県建築士会の会員名簿か
定的な意見がある一方で、通勤型の仕事と比べ時
ら現住所と勤務先住所が一致しているケース、ま
間の融通が利くため、地域活動や PTA の役員を頼
たは自宅電話番号と勤務先電話番号が一致してい
まれやすく負担に感じているといった賛否両論の
るケースを抜き出し、その中から京都府建築士
意見をきくことができた。適度な地域との関わり
会・兵庫県建築士会それぞれ250名ずつランダ
を持てるよう、在宅ワーカーの仕事の実態につい
ム抽出し、計500名にアンケートの送付を行っ
て周りの住民や関係者に知ってもらうことが必要
た。ただし女性の該当者が少数であったため、名
である。
前から女性と思われるものにていては優先的に抽
出した。
(2008年11月、アンケート回収数9
5通、回収率19.4%)
②ヒアリング調査
アンケート調査回答者の中から協力を得られた
6名に調査対象者の自宅、もしくは喫茶店でヒア
大阪市立大学大学院生活科学研究科居住環境学専攻 前期博士課程
修士論文発表梗概2009年2月
上で設置されていたが、トイレはやや低くなって
3
3
12時間以上(N=6)
いて生活と兼用しているものが多くなっていた。
10∼12時間(N=9)
2
8∼10時間(N=43)
9
14
0%
確保しており、生活と兼用している場合でも図3
10
4
6時間未満(N=8)
従業員がいる事例ではほとんどが専用の入り口を
3日以下
4日
5日
6日
7日
5
29
6∼8時間(N=27) 1 1
図1
3
4
のように入口付近で生活と仕事の動線を分離して
4
20%
40%
60%
いる事例が多くみられた。
80%
100%
仕事空間と生活空間の位置関係は家族以外の従
週の就業日数別1日の就業時間
業員の有無によって異なり、生活空間と階や廊下
を隔てて独立した位置は従業員の有無に関わらず
一定数みられたが、それ以外に従業員がいる場合
5時間未満
0
4時間未満
0
1
では「別棟」が、いない場合では「生活空間に隣
1
2
2
3時間未満
2時間未満
1時間未満
0
30分未満
0
全くやらない
0
0
図2
接した位置」がそれぞれみられた。望ましい仕事
1
女性
男性
5
空間の位置に関しても同様の傾向がみられ、従業
5
員がいる場合では生活空間と仕事空間の分離を望
7
む傾向が強く、従業員がいない場合では近接した
12
2
4
6
8
10
12
14
共働き家庭における男女別1日当たりの家
事時間
位置の希望がみられた(表2)。現実の仕事空間と
理想の仕事空間の位置のずれが生じている事例を
みると、ほとんどの事例で生活空間と仕事空間を
現在よりも離れた位置にすることを望んでいた。
(2)住宅と仕事空間
7割以上の事例で自宅で業者や顧客など外部の
在宅で仕事を行っている者の住宅は、持ち家一
ものとの打ち合わせを行っていた。接客がある事
戸建てが9割近くを占め、専用住宅に比べ床面積
例で接客のための空間を確保できているものは約
が大きく、室数が多くなっていた。独立した仕事
7割で、それ以外の事例ではリビングなどの生活
専用の空間が9割以上の事例で確保されていた。
空間を接客業務に利用していた。接客空間はほと
仕事専用の空間を確保できていない場合はリビン
んどが仕事専用空間の一角にとられていたが、中
グや物置の一部分の仕事スペースとしての兼用や、
には仕事空間とは別室に設けられているものも見
寝室の時間による転用が行われていた。仕事専用
られた。しかし、仕事空間と分割されていると仕
の空間を持っていない理由は室数の不足によるも
事空間への満足度が低くなる傾向にあり、仕事空
のと思われ、ほとんどの事例で独立した空間の確
間内に接客用のスペースを設けることが望ましい。
保を望んでいた。仕事空間の床面積についてみる
自宅での接客業務があるとした74事例のうち仕
と10㎡以下だと半数以上の事例で仕事空間に不
事空間専用の入口が設置されているものは44件、
満を感じており、パソコンやコピー機などの設備
トイレは26件だった。図6の事例では仕事専用
や資料のスペースを考慮すると、1人で使用する
のトイレの設置はできていなかったがドアを生活
場合であっても10㎡以上の床面積の確保が望ま
空間と仕事空間の両方に取り、生活空間への来客
しい。仕事専用の設備の設置数・割合についてみ
が立ち入らずにすむよう工夫しているがみられた。
ると、玄関は56%、トイレは37%、接客空間
は64%だった(表1)
。入口・接客空間は半数以
大阪市立大学大学院生活科学研究科居住環境学専攻 前期博士課程
修士論文発表梗概2009年2月
(3)仕事のはみ出し
本棚
洗面所
浴室
クローゼット
在宅ワークでは仕事が仕事空間に収まりきらず
に生活空間にはみ出してしまうことがあり、リビ
事務所
ングで子育てをしながら仕事をする、顧客との打
寝室
仕事動線
ち合わせを住宅のアットホームな雰囲気の中で進
本棚
めることができるといった肯定的なはみ出しと、
生活動線
B1F
▲
1F
仕事空間が狭く場所を取る仕事ができない、仕事
仕事場専用空間
空間が乱雑で顧客との打ち合わせに仕事空間を使
仕事生活兼用空間
えないといった理由からやむを得ず生活空間を使
LDK
っている否定的なケースがみられた。前者のはみ
出しは、職住一体型住居において、十分な仕事専
用空間を確保した上で得られる優位性ということ
2F
図3
ができる。後者のはみ出しは仕事空間の満足度の
仕事・生活動線を分離した住み方例①
低下を生じさせていて、必要十分な床面積の確
保・仕事空間のレイアウトなど使い方の変更が求
表1
仕事専用の設備・空間
入口
53
56%
仕事専用設備の
設置数・割合
められる。
トイレ
35
37%
接客空間
61
64%
前者の実例として図5を挙げる。夫婦で仕事を
していて、妻は家事をしながら仕事ができるよう
にオフィス2で仕事をし、本人は普段はオフィス
表2
従業員の有無別仕事空間の位置
階を隔てて独 廊下を隔てて 隣接し
LDK内
立した位置 独立した位置 た位置
1で仕事をしているが、子供の世話をしながら仕
事をする時にはダイニングで仕事を行っている。
個室
内
別棟
×
×
△
△
○
○
△
△
図6は否定的なはみ出しの実例で、クローゼット
20%以上=◎ 10∼19%=○ 9∼1%=△ 0%=×
とれず、模型作りなどの場所をとる仕事はやむを
従業員
あり
従業員
無し
現在の位置
理想の位置
現在の位置
理想の位置
◎
◎
○
◎
◎
◎
◎
◎
○
△
◎
○
×
×
△
△
など生活のための収納があり作業机を置く場所が
得ずリビングで行っている。
しかし、面積の不足により仕事がはみ出してい
物置
台所
和室
浴室
洗面所
食堂
る事例でも①従業員の雇用がないこと、②仕事空
間から利用する生活空間の距離が近いこと、以上
机
収納
和室
の2つの条件を満たしている場合には生活空間の
冷蔵庫
FAX
和室
コピー機
机
PC
利用頻度が高いにも関わらず仕事空間への満足度
机
床の間
コピー機
机
PC
出書院
が高くなっていた。従業員の雇用がない場合で十
本棚
玄関
本棚
打ち合わせ
テーブル
本棚
本棚
仕事専用空間
図4
仕事・生活動線を分離した住み方例②
分な仕事空間の床面積を確保できず仕事のはみ出
しが想定されるのであれば、はみ出すことができ
る室の近い位置に仕事空間を設けることが望まし
い。
大阪市立大学大学院生活科学研究科居住環境学専攻 前期博士課程
修士論文発表梗概2009年2月
要求が強い。しかし、トイレは家族と共用も多く
なっていた。
仕事専用
空間1
接客コーナー
④建築士は接客業務の多い職種であるが、専用の
接客空間を確保できているのは7割にとどまり、
リビングなどの生活空間を利用しているケースが
納戸
みられた。
キッチン
仕事専用
空間2
⑤専用の仕事空間を確保していても、生活空間へ
の仕事のはみ出しは広くみられた。はみ出しには
ダイニング
寝室
子育てとの両立や気分転換などから生じる肯定的
仕事生活兼用
空間
図5
なものと、仕事空間面積の不足から生じる否定的
肯定的な生活空間利用の住み方例
なものの2つのタイプがみられた。前者について
は、仕事と生活を明確に分離しない在宅ワーカー
物入
のライフスタイルに適応した職住一体型住宅の利
バルコニー
広縁
ソファ
点といえる。
テーブル
リビングボード
押入
こたつ
以上より、職住一体型住宅においては独立した
DK
仕事生活
兼用空間
食器棚
リビング
冷蔵庫
ワゴン
レンジラック
仕事空間の確保のみでなく従業員の存在や接客業
トイレ
PS
下駄箱
務などの条件により、仕事空間への独立したアプ
玄関
ローチ動線や専用トイレなどへの要求が強くなる。
洗面所
すなわち、一般的な専用住宅の間取りの転用では
浴室
物入
押入
これらの条件を満たすことはできず、職住一体型
給湯器置場
本棚
CL
事務所
住宅としての独自のプランニングが必要となる。
CL
プリンター台
PC机
CL
PC机
寝室
机
TV台
バルコニー
そのため建築士という住空間への意識が高い職
机
種においても十分実現できていないケースが多く
仕事専用空間
みられた。今後、増加することが予想される職住
図6 否定的な生活空間利用の住み方例
一体型住宅では専用住宅とは異なる住要求を実現
していく必要がある。一方、仕事専用空間から生
5.まとめ
活空間へのはみ出し現象は日常的にみられ、仕事
①在宅ワーカーのライフスタイルは育児・介護と
と家庭生活を両立しようとする職住一体のライフ
の両立ができ、男性の家事への協力や地域活動へ
スタイルに対応した住み方として、住宅プランニ
の参加を促す一方、超過勤務が生じ易いという問
ングの前提とすべきといえる。
題を抱えていた。
②ほとんどの事例で仕事専用空間が確保されてい
6.今後の課題
たが、確保されていない事例でも独立した仕事専
他業種での在宅ワーク実施者の分析を行い建築
用空間を求めていて、生活空間から独立した仕事
関連事業者の特徴を浮き彫りにするとともに、在
専用空間への要求が強くなっていた。
宅ワークに共通の要求を見出し、職住一体型の住
③家族以外の従業員がいる場合は、生活空間から
宅計画の中にどのように組み込んでいくか検討す
独立したアプローチ動線、仕事専用のトイレへの
ることが今後の課題である。
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