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DGRC NEWS vol. 1(2) - Drosophila Genomics and Genetic Resources

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DGRC NEWS vol. 1(2) - Drosophila Genomics and Genetic Resources
DROSOPHILA GENETIC RESOURCE CENTER NEWS VOL. 1 2
MARCH 1, 2006
DGRC NEWS
京都工芸繊維大学 ショウジョウバエ遺伝資源センター
ニュースレター
目 次 1.系統情報
(1)主たる寄託系統について
(2)その他の寄託系統について
2.事業活動
本年度事業内容
(1)系統の収集について
(2)系統の維持について
(3)系統の提供について
(4)セミナー・講習会
3.トピックス
4.ショウジョウバエ関連研究集会について
(1)第28回分子生物学会年会
(2) その他ショウジョウバエ関連国際シンポジウム
5.研究紹介
「受精過程に関与する雄不妊突然変異体の解析」
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MARCH 1, 2006
1. 系統情報
(1)主たる寄託系統について
センターニュースでは、当センター維持系統の活用を促進するため、ショウジョウバエ研究に役立
つ、今話題の系統を使用法とともに紹介しています。本号では、University of California Los
Angels校(UCLA)より寄託を開始したFRT配列を組み込んだ致死系統(約800系統)について紹介し
ます。これらの系統はUCLAのUtpal Banerjee教授らの指導により、学部学生コンソーシアム( UCLA
Undergraduate Consortium for Functional Genomics students(UCLA URCFG))により作成された
ものです。これらの系統を用いると、例えば複眼原基などの組織において、それらの致死変異ホモのク
ローンを作成することができます。これまで遺伝解析が容易でなかった発生後期の器官形成などに必要
な遺伝子の探索と解析に役立ちます。
ショウジョウバエの成虫複眼は、800個の個眼が規則正しく並んだ結
晶のような構造をしていますが、個眼にわずかな異常を生じる程度でもそ
れらの集合体である複眼の構造には異常が増幅して反映されます。した
がって感度の高い実験系としてシグナル伝達因子の遺伝学的スクリーニン
グなどに使われてきました。しかし、細胞の基本機能に関わる遺伝子の突
然変異がホモになると、通常、胚発生の時期に致死となってしまうため、
複眼形成など後期発生に及ぼす影響を調べることが難しいという問題点が
あります。そこで突然変異のヘテロ個体を作成し、その複眼原基細胞に体
細胞組換えを誘発して突然変異ホモのクローンを作成、これに由来する複
眼の表現型を解析するという方法がとられます。このとき体細胞組み換えに
必要な酵母由来のFRT配列をショウジョウバエの各染色体上にあらかじめ挿入させておき、これに作用
するFLPリコンビネースを組織特異的に発現させれば、そこでFRT配列間の組換えを高頻度に誘発させ
ることができます。たとえば複眼原基の前駆細胞から発現誘導できるようにey遺伝子のエンハンサーに
FLPを連結したey-FLPを用いれば、ホモクローンに由来する複眼構造が観察でき、この突然変異が複眼
形成におよぼす効果を解析できます。
(UCLA URCFG)では、学部生の教育プログラムとしてFRT-致死系統1375系統を作成、収集していま
す。それらは、ブルーミントン系統センターとSzeged系統センターに保存されている第2、3染色体
上のP因子挿入致死突然変異にFRT配列(2L(FRT40A), 2R(FRT42D), 3L(FRT80B),
3R(FRT82B))をそれぞれ組み換えにより導入したものです。このうちブルーミントン系統セン
ターに由来する致死突然変異をもつ780系統について当センターで受け入れ、提供できるように準備
を進めています。残りは、Seged系統センターから提供を受けられます。URCFGでは各FRT-致死系統
に関するデーターベース(http://www.bruinfly.ucla.edu)も作成しており、複眼表現型、P因子挿入
位置、挿入遺伝子、復帰テストの結果に関する情報が得られます。成虫複眼上に表れた突然変異ホモク
ローンの光学顕微鏡、および走査電顕写真も添えられており、複眼表現型は、4つのタイプに分類され
ています。これらの系統は、複眼形成に関するとって貴重なバイオリソースになるのみならず、FLP遺
伝子を別の組織的的に誘導ができる工夫をしたり、hs-FLPを使って全細胞で体細胞組換えを誘発したり
すれば各研究者が対象とする組織に対する突然変異の効果を調べることが可能です。またovoD1などの
優性雌不妊突然変異をもつ染色体を用いれば、生殖系列細胞クローンを作成してその母性効果を調べる
ことも可能です。現在、3月半ばに公開できるように全系統のダニ、カビの検疫をおこなっているとこ
ろです。公開時期については、当センターのホームページでお知らせいたします。
引用文献:(1) Chen et al., PloS Biolo. 2005 3:207-209
2. 事業活動
本年度事業内容 (1)系統の収集について 当センターでは、系統専門委員会を設けて収集系統の選定についてユーザー側からの意見を伺いまし
た。当センターの教員に加えて、本年度は、以下の3先生に系統専門委員をお願いしています。
塩見晴彦 氏:徳島大学 ゲノム機能研究センター分子機能研究部門 教授
谷村禎一 氏:九州大学大学院 理学研究院生物科学部門細胞機能学講座 助教授
松尾隆嗣 氏:首都大学東京 都市教養学部生命科学コース細胞遺伝学研究室 助手
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(i) 平成17年度第1回系統専門委員会(12月20日開催)
谷村委員からの提言
・論文発表された有用系統について、センターから系統委託を依頼したらどうか。
・センター維持系統のなかに、たとえば生物時計の突然変異系統など行動に関連したものが少な
い。
・キイロショウジョウバエの野生集団とその関連の系統がもう少しあってもよい。
(具体的な有用系統についての情報を谷村委員からセンターに提言いただき、それに基づきセン
ターから各研究機関に系統の提供依頼をすることとしました。)
松尾委員からの提言
・野生集団のinbred 系統があるとよい。
・Exelixis社の作成した系統を提供してもらえるとよい。
(Exelixis社はブルーミントン系統センターにのみ系統委託をするという契約になっているの
で、残念ながら現状況では当センターでは受け入れることができません。その代りにこれらと
は別の系統を移入することにより、センターの独自性を確保、発展させてゆく予定です。)
その他、系統の郵送について(国内と海外)、組換えDNA実験に関わる逃亡防止についてなどの
項目について現在の対応と問題点等を意見交換しました。郵送に関してはホームページにも関
連記事があります(http://www.dgrc.kit.jp/article/animal_transport2.html)。
(2)系統の維持について
1.維持系統の品質管理について
当センターでは2005年10月現在16,525系統が、保存および提供のために維持されています。これら
すべては20名の非常勤技術補佐員(サポーター)の協力よって維持されています。ショウジョウバエ
の飼育瓶の洗浄と飼料作成には7名、提供用系統の維持、取出し、梱包に8名、バックアップ系統の維
持に5名、品質管理補助2名があたっています。提供用系統は、飼育瓶3本で維持されており、毎週一
度のエサ替え、生育状況の観察とケアを行っています。しかし、生物を継代維持する上で生じる問題
に、本センターではどのように対処しているかをご紹介します。
(1)衰弱して維持困難になった系統の救済について
サポーターがエサ替え・維持しているなかで、個体数が減少している、片方の性(特に雌)が極端に
少なくなっている、微生物の繁殖で環境が悪化しているなど、問題のある系統が見つかると、週番の研
究スタッフが居るʻ病院ʼに届けられます。研究スタッフは、
1) それらの系統の状態をチェック(診察)する。
2) サポーターに飼育上のアドバイスをする。
3) 重症のものは研究スタッフが管理し、回復をはかる(入院)。
4) 必要ならば、交配により系統を再確立する。
という方法で、系統の維持・救済に努めます。
救済された系統は順次「退院」して通常の維持に戻されますが、それでも常時100~200系統ほどは
「入院」によるケアを受けている状態です。過去3年の記録では、のべ1,500以上の系統が「入院」に
よって救済されています。それにしても、年間1%以下の入院率で維持されており、サポーターの維持
技術の高さが示されるデーターになっています。
(2)遺伝子型のモニタリングについて
継代飼育しているうちに、新しい変異・復帰変異が生じる事は避けられません。そのため、系統とし
て維持されるべき表現型が変化する事が起こります。高い品質の系統を維持するという事で、ルーチン
化したモニタリングは行っておりますが、1万6千もの系統を常時モニタリングすることは、不可能な
規模です。そこで、系統の品質維持という観点から下記のような対策で対応しています。
1) 診察に出された系統は維持状態だけでなく、可視表現型についてもチェックする。
2) 利用者からのフィードバックから、疑義の生じた系統をチェックする。
3) 問題点をデータベースの系統情報(コメント欄)に記載する。
4) 系統の選択を行うか、系統を作り直す。
5) 重大な疑義がある場合は、公開を取り下げる。
(3)絶滅した系統、疑義により取り下げた系統の再収集
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救済できなかった系統や、重大な疑義があるために取り下げた系統については、寄託元にその系統が
維持されている場合、相談の上、再収集を図ります。なお、ブルーミントン系統センターとは汎用性の
高い基本系統は持ち合いにして、万一のときに補填ができるような協力体制にしています。
(4)ダニ汚染のない系統の維持管理状況について
本センターでは、外部研究機関から寄託されたすべての系統について厳密なダニ、カビの検疫をおこ
なっています。
1) 外部機関より受け入れ後、ただちに検疫管理室にて隔離維持する。
2) 3~4週間後に実体顕微鏡下にてダニ、カビの一次検疫を行う。
3) 一次検疫を合格した系統から成虫だけ取出し、二次検疫を同様に行う。
4) ダニの見落としを 防止するため二人以上の検疫者による検査を行います。
5) 維持系統の無作為抜き取り検疫(300~系統/月)を行う。
以上のように検疫業務を継続し、ダニ、カビ汚染のない系統の維持管理に努めています。
万が一、本センターから提供された系統に汚染等が見つかりましたら、至急[email protected]まで連絡く
ださい。
(3)系統の提供について
1.センター利用に関するQ&A
本センターの事業としてキイロショウジョウバエの有用な遺伝資源系統の収集・維持・提供を行って
いますが、センターを最大限ショウジョウバエ研究者に利用していただくために、これまでに受けた質
問とそれに対する回答などをʻQ & A「よくある質問と答」ʼの形式でまとめ、ウェブページに公開しま
した(2006年1月)。ほぼ同じ内容で日本語と英語の記述があります。アクセスは、日本語版はhttp://
kyotofly.kit.jp/stocks/dgrcqandaj.php、英語版はhttp://kyotofly.kit.jp/stocks/dgrcqandae.phpにお
願いします。
ほとんどはこれまで実際にあった質問で、これまで個別にメールで対応してきたものです。収集・維
持・提供について、ユーザーの立場から必要と思われることを優先して選択しました。質問に偏りや系
統立っていない部分もあると思いますが、「よくある質問と答」の項目などこれからも追加していく予
定です。Q & Aを読んでもわからないことがありましたら、どうぞお気軽にお問い合わせ下さい。
2.課金システムについて
2005年7月の日本ショウジョウバエ研究会第7回研究集会において、山本センター長が、2005年10
月からショウジョウバエの提供にあたり手数料を徴収する旨ご説明いたしました。料金体系は米国イン
ディアナ大学ブルーミントン系統センターにほぼ準じる予定でした。しかし、課金はまだ開始しており
ません。現在、料金体系も再度見直し、2006年度始めに、郵送料および消耗品代金、登録手数料など
の最低実費コストについてのみ課金をお願いする予定です。課金の決裁はクレジットカードによって行
う予定です。料金体系の詳細は追ってご説明いたしますが、大まかには以下の料金を徴収することを予
定しています。郵送料は元払いの郵送料、消耗品代金はプラスチックびんやスポンジ栓、段ボール箱等
の代金、登録手数料はセキュアサーバの証明に必要な代金、クレジットカードの代行手数料などです。
(4)セミナー、講習会について
1.第17回 公開セミナー
日時:2005年12月20日(火)14時00分~16時30分
場所:京都工芸繊維大学 総合研究棟4階 多目的室
参加人数:35名
講演者: 谷 村 禎 一 氏
九州大学大学院理学研究院生物科学部門助教授
演題:『ショウジョウバエの味覚と摂食行動の行動生理学』
要旨: 摂食、求愛、産卵場所の選択などの昆虫の行動において味覚は重要な役割を果たしている。
ショウジョウバエの外部味覚器は、口部の唇弁と肢の先端にあるフ節にある毛状の感覚子である。1本
の感覚子には、2個か4個の味細胞(S, W, L1, L2)があり、感覚子の先端と脳に突起と軸策を伸ばして
いる。電気生理学的記録、行動テストの結果から、ショウジョウバエの味覚世界が明らかになってき
た。個々の味細胞は糖(S)、塩(L1, L2)、水(W)、苦味物質(L2)に反応する。高濃度の塩と苦味物質は同
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じL2味細胞で受容される。糖と水と低濃度の塩は好ましい味と判断され、高濃度の塩と苦味物質は忌
避すべき味と認識される。味細胞でどのように味が受容され、脳に伝えられるのかについて、生理、分
子、細胞レベルの研究を紹介した。
講演者: 松 尾 隆 嗣 氏
首都大学東京都市教養学部生命科学コース助手
演題:『ショウジョウバエにおける寄主選択行動進化の遺伝的基盤』
要旨: セイシェルショウジョウバエはキイロショウジョウバエから見て最も近縁な種の一つであり
形態的にはとてもよく似ているにもかかわらず、その食性は一風変わっている。 すなわち、悪臭を放
つことで知られる「タヒチアン・ノニ」の果実を繁殖場所としているのである。この悪臭の主成分はヘ
キサン酸とオクタン酸であるが、キイロショウジョウバエやオナジショウジョウバエはこの2つの脂肪
酸を忌避するのに対し、セイシェルショウジョウバエだけは誘引される。 種間雑種を用いた遺伝学的
マッピング、およびキイロショウジョウバエにおける遺伝子ターゲティング法により、ヘキサン酸に対
する反応の種間差異をもたらす原因遺伝子座として Odorant binding protein57e を同定した。
Obp57e は Obp57d と共にクラスターを形成しており、化学感覚毛に付随する同一の細胞で共発現し
ていることが知られている。 キイロショウジョウバエの近縁30種からこの領域のゲノム配列を決定し
比較した結果、Obp57d/eクラスターのダイナミックな進化の様子が明らかになった。 昆虫の食性の
進化をもたらす遺伝的基盤について議論した。
2.第18回公開セミナー
学内教育研究推進事業「細胞骨格を基盤とした細胞増殖および分化の理解に向けた研究」との合同セ
ミナー
日時:平成18年2月23日(木)14時00分~17時00分
場所:京都工芸繊維大学 総合研究棟4階 多目的ホール
参加人数:55名
(1)京都工芸繊維大学研究教育推進事業「細胞骨格」セミナー 講演者:宮 田 清 司 氏
本学大学院工芸科学研究科助手
演題:『コンドロイチン硫酸プロテオグリカンによる脳神経系ネットワークの構築制御』
講演者:山 口 政 光 氏
本学応用生物学科教授
演題:『疾患モデルショウジョウバエの開発』
(2)第18回ショウジョウバエ遺伝資源センター公開セミナー
講演者:塩 見 春 彦 氏
徳島大学ゲノム機能研究センター分子機能研究部門教授
演題:『ショウジョウバエをモデル生物として用いた脆弱X症候群発症機構の解析』
要旨: 脆弱X症候群は最も高頻度に精神遅滞を伴う遺伝性疾患であり、精神遅滞以外にも多動、自
閉症様行動、感覚刺激に対する異常な反応、睡眠障害等の様々な行動障害が見られる。 患者では脳の
高次機能(特に可塑性)に直接関わることが確実視されている樹状突起上スパインの形態異常が見られ
るが、その分子機構は不明である。本疾患の原因は翻訳過程に関与するRNA結合タンパク質をコード
するFMR1遺伝子の機能喪失であることが判明している。 私達は、FMR1遺伝子の機能を理解するため
に、ショウジョウバエFMR1遺伝子(dFMR1)の機能解析を進めてきた。dFMR1変異体は概日リズム
や性行動の異常、そして記憶障害を示す。 さらに、私達は生化学的解析によりdFMR1 タンパク質
が、細胞質においてRNAi(RNA干渉)関連分子と複合体を形成していることを明らかにした。 これ
は「RNAi分子装置の異常による疾患」というヒト分子遺伝学の全く新しい領域を開くさきがけとなっ
た。
真核生物遺伝子発現制御の新パラダイムであるRNAiはFireらにより1998年に発表された2本鎖RNA
により誘導される配列特異的な遺伝子発現抑制機構である。 ここ数年、RNAiおよびRNAi関連分子経
路が関与する新しい生物学の発見が続いている。 その中でも特に、miRNAや内在性siRNAおよびそれ
らと特異的な複合体を形成する蛋白質(Argonaute蛋白質等)はゲノム品質管理、細胞増殖、細胞死、
細胞運命系譜決定、幹細胞維持、発生段階の時間的制御等、様々な生物学的プロセスに関与しているこ
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とが明確になってきた。dFMR1とRNAi関連分子との相互作用の発見をキッカケとして、私達は脆弱X
症候群発症機構の研究からRNAサイレンシング研究へと仕事を展開している。
(3)ショウジョウバエ遺伝資源センター分析機器講習会
センター内の共同利用可能機器である質量分析計(Applied Biosystems社製Voyager-DE STR)の
講習会を開催しました。学内使用希望者に対してメーカーの担当者によるプロテオミクス解析の概要説
明とサンプルの質量分析実習をおこないました。
日時:12月19日、1月16日 10時~17時
参加人数:10名
3. トピックス
嵯峨団地「学道会館」落成記念式典および国際シンポジウムの開催について
本学における生物遺伝資源の研究、維持・提供事業の重要性ならびに文部科学省のナショナルバイオ
リソースプロジェクト「ショウジョウバエ」事業継続に向けての理解を賜り、日本新薬(株)より研
修・宿泊施設「学道会館」の建設資金を寄付いただきました。その竣工記念式典およびショウジョウバ
エ遺伝資源センター解説5周年記念を兼ねた国際シンポジウムを以下のように開催します。
1.学道会館竣工記念式典
日時:平成18年3月6日(月) 場所:京都工芸繊維大学 嵯峨キャンパス 学道会館
主催:京都工芸繊維大学、 共催:京都バイオ産業技術フォーラム
14:00 ‒ 14:20 竣工式
14:30 ‒ 17:00 記念講演
挨拶 森脇和郎氏(理化学研究所特任顧問)
山下興亜氏(中部大学学長) 昆虫資源利用の現状と将来
Dr. Åsa Rasmuson-Lestander (Umeå University, Sweden)
ショウジョウバエ遺伝資源の開発と維持の歴史とその意義
Dr. Kenneth B. Storey (Carleton University, Canada)
環境変化における生命系の維持システム
Dr. Thomas Kaufman (Indiana University, USA)
基礎生物学とヒト遺伝病の解明に向けたモデルシステム
Dr. Dan L. Lindsley (University of California, San Diego, USA)
ショウジョウバエ研究の歴史とFlybaseにつながる発展について
17:00 ‒ 17:30 施設見学
2.国際シンポジウム「生物遺伝資源から学ぶ生命科学」
日時:3月7日(火) 13:00~18:30 場所:京都工芸繊維大学 嵯峨キャンパス 学道会館
主催:京都工芸繊維大学ショウジョウバエ遺伝資源センター
生物資源フィールド科学教育研究センター
講演者と講演タイトル
1. Dr. Kazuo Moriwaki (Former Director at RIKEN BRC, Japan)
“Biological Concerns for Model Animals”
2. Dr. Okitsugu Yamashita (Chubu University, Japan)
“Insect Hormone, Diapause and Molecular Mechanism of Metamorphosis”
3. Dr. Kenneth B. Storey (Carleton University, Canada)
“Metabolic Regulation and Biochemical Adaptation”
4. Dr. Thomas Kaufman (Indiana University, USA)
“Drosophila Centrosomin a Protein with a Seemingly Constrained Role in Development
but a Widely Divergent Phylogenetic History”
5. Dr. Åsa Rasmuson-Lestander (Umeå University, Sweden)
“Gene Silencing in Drosophila”
6. Dr. Dan L. Lindsley ( University of California, San Diego, USA)
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“Title should be announced later”
7. Dr. Norio Nakatsuji (Kyoto University, USA)
“Establishment and Distribution of Monkey and Human ES Cell Lines: Essential
Bioresources for Biomedical Research”
4. ショウジョウバエ関連研究集会について
(1)第28回日本分子生物学会年会
第28回年会が2005年12月7日(水)~10日(土)の日程で福岡市ヤフードーム、JALリゾート
シーホークホテル福岡ほかにて開催されました。このうちショウジョウバエ関連の発表は、シンポジウ
ム、ワークショップを含めて212演題あり、活発な討論がおこなわれました。学会期間中に文部科学
省ナショナルバイオリソースプロジェクト主催の特別企画「バイオリソース勢ぞろい」のシンポジウ
ム、展示がおこなわれました。当センターもナショナルバイオリソースプロジェクト「ショウジョウバ
エ」の事業紹介をおこないました。シンポジウムには260名、展示には3500名を超える来場者が
あり、ナショナルバイオリソースプロジェクトに対する研究者の関心、期待の高さが伺えました。
(2)その他ショウジョウバエ関連国際シンポジウム
(i) EMBO Workshop “Functional Organization of the Cell Nucleus”
May 5-8, 2006
Institute of Cellular Bilogy and Pathology, Charles University in Prague
Institute of Physiology, Academy of Sciences of the Czech Republic
http://lge.lf1.cunicz/embo06.html
(ii) CRETE XV EMBO Conference
“The 19th International Workshop on the Molecular and Developmental Biology of Drosophila”
at Crete Island, Kolymbari between June, 18-23, 2006
http://flybase.bio.indiana.edu/docs/news/announcements/meetings/crete/
(iii) Drosophila Research Conference
“The 47th Annual Drosophila Research Conference” at Houston, Texas, USA
March 29-April 2, 2006
http://www.drosophila-conf.org/
5.研究紹介
ショウジョウバエ遺伝資源センターは、ショウジョウバエ系統の維持、提供をおこなう系統センター
としてのみならず、ショウジョウバエの最先端研究の発信基地としての使命も持っています。本号で
は、当センターで行っている受精に関する遺伝子の研究を以下に紹介します。
受精過程に関与する雄不妊突然変異体の解析
大迫隆史、野上悠佳、柿崎文彦、原昌範、松林宏、山本雅敏
当センターでは、現在までに100以上の雄不妊突然変異体を単離し、細胞学的観察に基づきいくつか
のタイプに分類している。これらのタイプ毎に詳細な表現型を調査すると同時に遺伝子の同定を進める
ことによって、雄の妊性に関わる遺伝子の網羅的な解析を目指している。その中から、今回は受精に異
常を示す突然変異体の解析について紹介する。キイロショウジョウバエ雌は、交尾時に受け取った精子
を貯精し、その精子を10日以上利用して受精卵を生み続ける。貯精完了後の排卵に対する精子放出か
ら雌雄前核の融合までの過程をショウジョウバエにおける広義の受精過程と捉え、この過程に異常を示
す雄不妊突然変異体の表現型の解析と遺伝子の同定を行っている。現在までにmisfire (mfr)、wasted
(wst)、ms(2)n55 (n55)、ms(3)A3 (A3)の4つがこの分類に当てはまるものとして単離されてきてい
る。興味深いことに、これら4つの突然変異体の精子は卵に進入しても核の脱凝縮が起こらないという
共通の表現型を示す(図1)。これは、精子核周囲の細胞膜が崩壊しないことに起因すると示唆されて
いる。最近我々は、mfrがCaイオン依存的な膜融合に働くFerlinファミリーに属するタンパクをコード
することを明らかにした。このことは、受精卵内の精子細胞膜の崩壊がCaシグナリングと膜融合を伴
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うことを示唆している。この異常に加えて、wstとn55では貯精された精子が卵に進入するまでの過程
にも異常を示す。これらの精子は、交尾直後には正常に貯精されるが、数日後には殆どが失われてしま
う。これは、排卵に対する精子放出が正常に調節されないために、放出量がランダムであり、平均する
と正常の10倍以上の精子が放出されているためである(図2)。野生型では、排卵時の精子放出は数
本に調節されており、貯精された精子は極めて効率よく利用されている。wstとn55で観察される表現
型はこれまでに報告がなく、これら突然変異体の解析を通じて、貯精された精子がどのような機構に
よって有効利用されているのかを明らかにすることが期待される。
図1 wst雄と交尾した雌が産んだ卵を固定
し、DAPI(青)と精子特異的抗体(緑)で染色
した。B, Cは精子頭部(SH)付近の拡大図。
バーは10 μmを表す。 図2 wst/SM1(A, C)およびwst(B, D)雄と交
尾した雌が排卵時に放出した精子。C, Dはそれぞ
れA, Bの拡大図。精子尾部のGFP蛍光を緑、卵の
コリオンの自家蛍光を青で示す。矢尻は卵門、
バーは100 μmを表す。 (表紙の図)
観光地“嵯峨”ー桜満開の嵐山を背景にした渡月橋ー春の景色です。
(編集後記)
嵯峨キャンパスの太陽光発電に依存した街灯は、冬場の蓄電量は少ないため暗
くなるとすぐに切れてしまいます。桑畑は真っ暗になります。月を愛でる余裕
は消え早足で門に急ぎます。そんな中、建設中の宿泊・研修棟(仮称)のシル
エットが空に映える事があります。松ヶ崎から車で30分は離れている嵯峨
キャンパスで、国際シンポジウムをショウジョウバエ遺伝資源センター設立5
周年記念を兼ねて開催する予定ですが、国際的広報のʻ光ʼになる事を期待して
います。
発行責任者 山 本 雅 敏
〒616-8354 京都市右京区嵯峨一本木町 京都工芸繊維大学 嵯峨キャンパス
電話: 075-873-2660(代) / Fax: 075-861-0881 / E-mail: jpn-fly@ kit.jp
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