...

(その7)(PDF形式:2052KB)

by user

on
Category: Documents
7

views

Report

Comments

Transcript

(その7)(PDF形式:2052KB)
5.「誰のためのものづくりか」∼マーケット
サイドの構造変化を受けて∼
の所得層の底上げが急速に進んでいる。特に、低所得層
から中間層へのシフトは顕著なものであり、今後につい
(1)市場環境の変化
ては、富裕層についても3倍近く伸びると見込まれてい
近年、世界市場における新興国市場の占める割合が急
る(図215-1)
。
速に増大しており、新興国市場を中心とした成長市場を
同様に、我が国と中国の所得層の変化を比較すると、
獲得することが、更なる飛躍への原動力となるものと考
中国の低所得層の減少と、
中間層の増加が際立っている。
えられる。
一方で、我が国の所得層は、富裕層世帯が微増している
それを物語るのが、新興国における中間層の急激な増
加である。近年、先進国である G7と比較して、新興国
図215-1
ものの中国など新興国の伸びと比較すると僅かであり
(図215-2)
、国内市場に成熟感があることがうかがえる。
G7と新興国における各所得層の世帯数の推移
<G7>
<新興国 27>
(百万世帯)
900 800 700 600 500 400 300 200 100
0
(百万世帯)
100 200 300 400 500 600 700 800 900
0
26
568
5
4
744
低所得層
( 5,000ド
ル未満)
459
3
234
98
69
中間層
( 5,000 ∼
35,000ドル
未満)
110
77
56
151
556
801
116
90 年
9
152
00 年
220
10 年
20 年(見込)
90 年
24
富裕層
( 35,000ド
ル以上)
00 年
71
10 年
207
264
20 年(見込)
備考:新興国27とは、BRICs、BRIICS、VISTA、NEXT11、JFIC18に含まれる国(除イラン・バングラディッシュ))。
資料:Euromonitor international 2011
図215-2
日本と中国における各所得層の世帯数の推移
<日本>
(百万世帯)
400
<中国>
200
0
0
200
272
0
0
0
低所得層
(5,000ド
ル未満)
330
194
91
0
4
15
10
11
中間層
(5,000∼
35,000ドル
未満)
18
188
284
6
90 年
00 年
10 年
20 年(見込)
資料:Euromonitor international 2011
82
26
36
40
46
(百万世帯)
400
富裕層
(35,000ド
ル以上)
0
90 年
1
00 年
11
10 年
56
20 年(見込)
第 2章
また、新興国の中間層が厚みを増すにつれて、企業が
我が国ものづくり産業が直面する課題と展望
合った製品を提供する必要が増大した。
また、各国のジニ係数とその変化をみると、新興国は
年当時は、中間層以上(年間所得5,000ドル以上)のセ
先進国に比べて国内における格差が大きいことが分か
グメントにおいて、世界全体の所得層の最頻値と、先進
る。また、特に中国とインドについては、1990年代初
国 の 所 得 層 の 最 頻 値 の 差 は 僅 か で あ っ た。 し か し、
頭から2000年代の後半にかけて所得格差の拡大が進ん
2006年になると、先進国の所得がやや増加するととも
でおり(図215-4)
、新興国市場の中でも所得層の多層
に、低所得層が大量に中間層に流入したことで、
(中間
化を視野に入れる必要が生じたといえる。
値は引き続き5,000ドル地点にとどまり、先進国と世界
格差が大きいのに対して、インドでは小さいなど、所得
全体の最頻値の差は拡大した(図215-3)。この結果、
の地域的な偏在性にも差がある(図215-5)
。したがっ
中間層以上のセグメントにおいて、全世界的に統一され
て、
当該国内における製品の価格設定のあり方だけでも、
た価格帯による製品展開は難しくなり、富裕層は富裕層、
新興国ごとに異なるアプローチが必要となる。
1
我が国ものづくり産業を取り巻く構造変化と企業のビジネスモデルの変化
さらに、同じ新興国でも、中国では都市と地方の所得
節
層以上のセグメントにおける)世界全体の所得層の最頻
第
対応すべき顧客の所得水準の幅が拡大している。1970
中間層は中間層などと、それぞれ需要者側の要求水準に
図215-3
世界の所得分布の変化(1970年→2006年)
図215-4
0.0
0.1
各国のジニ係数の変化
0.2
0.3
0.4
0.5
0.6
0.7
0.8
OECD
インドネシア
1990年代前半
インド
2000年代後半
中国
ロシア
アルゼンチン
ブラジル
南アフリカ
備考:1. ジニ計数とは、所得分配の不平等さを測る指標。数値が1に近い
ほど格差が大きい状態であることを意味する。
2. 一般に、「1990年代前半」は1993年、「2000年代後半」は2008
年を表している。
出所:OECD-EU Database on Emerging Economies and World Bank
Development Indicators Database.
出所:Adapted from Pinkovskiy and Xavier Sala-i-Martin, "Parametric
Estimations of the World Distribution of Income,"NBER working
paper 15433, October 2009.
図215-5
〈中国〉
中国・インドの所得分布(2006年)
〈インド〉
出所:Adapted from Pinkovskiy and Xavier Sala-i-Martin, "Parametric Estimations of the World Distribution of
Income,"NBER working paper 15433, October 2009.
83
以下では、自動車産業を例にとって、上記のような新
215-6)
。
興国市場の特徴を具体的に確認したい。
こ の20年 間 の 世 界 の 自 動 車 販 売 市 場 の 伸 び( 約
自動車産業においては、1980年代まで日米欧3極で
3,000万台)の中、
大部分が新興国市場の伸びであり(図
世界の自動車販売市場の約9割を占める時代が続いた。
215-7)、今後も中間層の伸びなどからその傾向は続く
しかし、BRICs、ASEAN4などの伸びにより、2010
ものと考えられる。
年には新興国市場が世界の過半を占めるに至った(図
図215-6
自動車の世界販売台数の変化(1990年→2010年)
資料:FOURIN「世界自動車調査月報」他より経済産業省作成
図215-7
自動車の国・地域別販売増加台数(1990年→2000年)とグローバル自動車市場の推移
㻕㻏㻓㻓㻓 㻔㻏㻚㻘㻘
㻔㻏㻘㻓㻓
㻔㻏㻓㻓㻓
㻘㻓㻓
㻓
㻕㻛㻙 㻕㻚㻓 㻕㻔㻕
㻔㻘㻗
㻙㻓
䕜㻕㻖㻛䕜㻕㻛㻕
䕜㻔 䕜㻘 䕜㻜 䕜㻖㻕
䕜㻘㻓㻓
資料:FOURIN「世界自動車調査年報」他より経済産業省作成
84
第 2章
我が国ものづくり産業が直面する課題と展望
中でも、国別に最も市場の拡大が見込まれるのが中国
増の1,447万台であり(図215-8)
、その中でも比較的安
市場である。2011年の乗用車販売台数は、前年比5%
価な中型車及び小型車の普及が進んでいる(図215-9)
。
図215-8
中国の乗用車排気量別販売構成(2007年〜2011年)
第
1,600
1,200
600
638万台
676万台
07
08
我が国ものづくり産業を取り巻く構造変化と企業のビジネスモデルの変化
1,033万台
1,000
800
1
1,447万台
節
1,376万台
1,400
400
200
0
09
10
11
(年)
備考:小型:A(全長:〜3.6m)、B(全長:3.7〜4.0m)
中型:C(全長:4.1〜4.3m)、C-MPV(全長:4.3〜4.4m)
大型:D、E2(全長4.5〜4.8m)、E1(全長:4.5〜4.8m)など
資料:FOURIN「世界自動車統計年刊2010」等より経済産業省作成
図215-9
1
(
x
8 万
区分 :C セグメ ント
中国の売れ筋車種の例(2011年・31行政区登録ベース)
・E
万
区分:Cセグメント
タ・
万
区分 :C セグメント
v
万
区分:Cセグメント
G ・C
万
区分:Cセグメント
備考:Cセグメントの主力排気量は1.6L、2.0L。
資料:FOURIN「世界自動車統計年刊2010」等より経済産業省作成
85
また、インドにおいても、2010年の乗用車販売は前
世界の自動車販売市場において新興国が中心的な位置
年比31%増の238万台を記録した。区分別では、小型
を占めるに従って、地場メーカーを含めた各国自動車メ
乗用車が、
前年比32%増の146万台を占めていた。また、
ーカーが新興国市場に続々参入した。現地仕様車や現地
所得水準の上昇により、ユーティリティ区分の車種が売
特有車が現地生産の主流となり、モデルチェンジを早め
れ筋に上がっていることも注目される。(図215-10・
たり、新車種投入を間断なく続けなければ、競争に打ち
11)
。
勝てない状況へと変化している。
図215-10
05
インドの乗用車車種別販売構成(2005〜2010年)
06
07
08
09
10
(年)
備考:小型:Mini(全長:〜3.4m)、compact(全長:3.4〜4.0m)。
中型:Mid-size(全長:4.0〜4.5m)。
ユーティリティ:車両総重量3.5t以下・定員13人以下。
高級:Exectlve(全長:4.5〜4.7m、
Premium(全長:4.7〜5.0m)、Luxury(全長:5.0m以上)。
資料:FOURIN「世界自動車統計年刊2010」等より経済産業省作成
図215-11
1位
区分:A2 Compact
インドの売れ筋車種の例(2011年・販売ベース)
z
R
7万台
区分:A2 Compact
(
1
万台
)
区分:A2 Compact
資料:FOURIN「世界自動車統計年刊2010」等より経済産業省作成
86
h
z i
8万 )
区分:A2 Compact
区分:ユーティリティ
第 2章
我が国ものづくり産業が直面する課題と展望
コラム
新車種投入により、インドの所得増加に伴うニーズ多様化に対応 ……………… スズキ(株)
スズキ(株)は、1983年にインド政府の国民車構想に参画するかたちで、小型乗用車の生産に乗り出した。
第
まず、投入したのが A1クラスの「Maruti 800」である。それまで高嶺の花であった乗用車を中間所得層で
も手が届くような価格で提供し、価格、性能の両面で評価され大ヒット、インドにモータリゼーションを巻
き起こし乗用車市場において圧倒的なシェアを獲得した。
節
その後、インド政府は1991年に経済自由化政策に舵を切り、競合他社も徐々にインド自動車市場に参入す
1
るようになって、競争環境は激しさを増す。そうした中でインド自動車市場では、量的な面だけでなく、質
的な面からも変化を遂げ、2002年以降、A2クラスの乗用車が急増し、市場でも大きな割合を占めるように
我が国ものづくり産業を取り巻く構造変化と企業のビジネスモデルの変化
なった。
また、A2クラスの消費者層は、車で移動すること自体が主たる目的である A1クラス消費者層と異なり、
デザイン、性能をより追求する傾向があり、消費者ニーズの多様化が進んだ。そうした消費者の変化に合せ
るように、同社では、ボリュームゾーンの A2クラスに新車種を相次いで投入。これら新車投入により、多様
化するニーズを的確にとらえ、急激に増加する A2クラスでの新規消費者獲得、シェア維持を実現している。
図1 インドにおける1人当たりの名目 GDPの推移と乗用車の販売台数推移及び、マルチ・スズキ・インディアの新車種発売時期
(インド・ルピー)
(万台)
250
リッツ
(A2)
09 年5月
A3
A2(うち、その他)
A2(うち、マルチスズキ)
A1
1人当たり名目GDP(右軸)
MPV
ユーティリティ
A6
A5
A4
A−Star
(A2)
08 年1月
200
マルチ800
(A1)
83 年 12 月
ワゴンR
(A2)
99 年 12 月
アルト
(A2)
00 年9月
150
100
70,000
60,000
エスティーロ
(A2)
06 年 12 月
50,000
スイフト
(A2)
05 年5月
40,000
30,000
20,000
50
10,000
0
02
03
04
05
06
07
08
09
10
0
(年)
備考:1.A1、2、3、4、5、6とは、それぞれ、車長が3,400mm以下、3,401mm以上4,000mm以下、4,001mm
以上4,500mm以下、4,501mm以上4,700mm以下、4,701以上5,000mm以下、5,001mm以上をいう。
2.「マルチスズキ」とは、スズキ(株)の連結子会社で、インド現地法人の「マルチ・スズキ・インディア」
のこと。
資料:1.一人当たりの名目 GDPは、IMF「World Economic Outlook Database, September 2011」
2.インドにおける乗用車の販売台数は、FORIN「世界自動車統計年鑑」
3.マルチ・スズキ・インディアの新車種発売時期は、(株)アイアールシー「インド自動車産業の実態
2010年版」
表2
マルチ・スズキ・インディアの車種一覧ディアの新車種発売時期
投入時期
価格(Rs)※
コンセプト
車種
セグメント
マルチ800
A1
1983年12月 192,769 取り回しが良く、経済性に優れ、一躍国民車に
ワゴンR
A2
1999年12月 289,265 室内空間、使い勝手に優れた背高ワゴンの代表格
アルト
A2
2000年9月
209,477 実用性、経済性に優れた最もポピュラーな小型車
スイフト
A2
2005年5月
409,461 実用性、デザイン性、快適性を追求したプレミアム車
エスティーロ
A2
2006年12月 289,265 流線型モノフォルムデザインが特徴的な背高ワゴン
A−Star
A2
2008年1月
318,250 欧州はじめ各国へ輸出されるインド製の世界戦略車
リッツ
A2
2009年5月
358,452 コンパクトながら背高ボディーのファミリーカー
備考:価格は、地域ごとに異なるため、最低価格を掲載。
資料:1.投入時期、価格は、(株)アイアールシー「インド自動車産業の実態2010年版」
2.コンセプトは、マルチ・スズキ・インディアの Sustainability Report 2011を参考に経済産業省作成
87
Fly UP