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道路交通事故死者数の 長期的推移とその予測
卒業論文 道路交通事故死者数の 長期的推移とその予測 物理科 5 年 1 組 23 番 天貝宏樹 (99D2101023I) 序文 1.車の歴史 紀元前3500年∼3000年頃の古代文明黎明期に「車輪」が発明されて以来、車輪は 人力車や馬車などに使われ、車として人類の生活のらゆる所で活躍して来た。18世 紀には蒸気機関の発明により「自動車」が誕生し、1860年のエンジン発明から26年後 の1886年には現在の様なエンジンを搭載した近代自動車が発明された。そして1896 年には、アメリカのデュリア兄弟達の手により、「デュリア自動馬車会社」が設立され、 人類初の近代自動車の商業生産が始まった。さらに1903年にはヘンリー・フォードが 「フォード自動車会社」を設立し、ベルトコンベアを利用した本格的な「量産システム」 を築きあげられ、全世界へ向けた近代自動車の普及が始まった。 2.これまでの道路交通事故の大まかな動向 1959年に自動車が一般家庭へ普 道路交通事故における発生件数、 及し始めてから50年も経っていない。 死傷者数および死者数の推移 18000 しかし、警視庁発表資料によると道路 1400000 16765 16000 交通事故(人身事故に限る。以下本 1200000 1167855 14000 13904 稿において同じ。)は戦後、1960年代 1000000 936721 12000 に交通事故による死傷者数が著しく 11451 800000 10000 増 大 し 、 1970 年 ま で に 負 傷 者 数 は 8326 8466 8000 600000 997,861人、死者数は167,65人へと増 517775 6000 加している。 400000 425944 4000 政府発表の平成15年度版交通安 200000 2000 全白書によると、このような負傷者数 0 0 の急激な上昇は自動車普及によるモ 1966 1976 1986 1996 事故発生件数 負傷者数 24時間以内死者数 ータリゼーションの急速な進展に対し て道路整備、信号機、道路標識等の 交通安全施設が不足していたことはもとより、車両の安全性を確保するための技術 が未発達であったことや、交通社会の変化に対する人々の意識が遅れていたことな ど、社会の体制が十分に整っていなかったことが要因であるとしている。 このため、交通安全の確保は焦眉の社会問題となり、1970年(昭和45年)に交通安 全対策基本法(昭45法110)が制定され、国を挙げての交通安全対策が進められた。 同法では、交通の安全に関する総合的かつ長期的な施策の大綱である交通安全 基本計画の作成について定めており、昭和46年度より5年間を計画期間とする交通 安全基本計画が実施され、現在では平成13年度から17年度までの第7次交通安全基 本計画が実施されている。第1次及び第2次交通安全基本計画ではこれに基づく諸 対策により昭和45年の死傷者数を997,861人から昭和54年には604,748人に減少させ ることができたが、その後交通事故発生件数、及び死傷者数、死者数が増勢に転じ、 発生件数及び死傷者数は基本計画の甲斐なく現在も一貫して増加傾向にあるが、死 者数は1992年(平成4年)の11,451人をピークに現在まで減少しつづけている。 このように死者数が減少した要因として交通安全白書によれば、基本的には道路 交通環境の整備、交通安全思想の普及徹底、安全運転の確保、車両の安全性の確 保、道路交通秩序の維持、救急・救助体制等の整備等、交通安全基本計画に基づく 諸対策を、国を挙げて長年にわたり総合的に推進してきたことが挙げられ、同時に政 府のみならず地域社会、企業、学校、家庭等の取組も大きく寄与してきたとしている。 3.本研究の目的 交通安全基本計画による試みが実を結び、最近の交通事故による死者の数は全 体的には減少し続けている。しかし、これを詳細に見ると 24 歳以下の若者層での減 少は著しいが、逆に 65 歳以上の高齢者層では増加しており、年齢層により死者の状 況が異なっていることがわかる。その主な要因は、人口や免許保有者の高齢化その ものにあること、そしてその他にも事故確率(運転免許保有者あたりの死傷者数の割 合で定義)や、事故遭遇率(単位人口数当たりの死傷者の割合で定義)、あるいは致 死率(事故に遭った、あるいは起こした時の、全死傷者数に対する死者数の割合で定 義)の年齢層による差も強く影響していることがうかがえる。本研究では、警視庁発行 の交通統計から、最近の交通事故の傾向について年齢層に着目した分析を行い、将 来の人口や運転免許保有者の年齢構成の変化を考慮した将来の交通事故死者数を 予測する事を目的とする。 本論 1.交通事故死者のマクロ的傾向 死者数(人) 1−1.交通事故死者における年齢層別及び状態別の傾向 交通事故死者における年齢層別・ 1200 状態別のマクロな傾向を見るため に年齢を 0∼24 歳、25∼44 歳、45 1000 ∼64 歳、65 歳以上に分けて過去 8 800 年間(平成 7 年∼平成 14 年)のデー タの推移より最小二乗法を用いて 600 回帰直線を求め、その勾配を年あ 400 たりの増分として定義した。 図1は その一例である。 200 図2は縦軸に当事者の年齢層を、 0 横軸にここで定義した勾配を取った 6 8 ものである。 y = -24.452x + 1188 10 12 平成 図1 自動車運転中(0∼24歳) 当事者の年齢層 65歳以上 45∼64歳 25∼44歳 14 自動車運転中 自動車同乗中 自動二輪車運転中 自動二輪車同乗中 原付運転中 原付同乗中 自転車乗用中 歩行中 その他 0∼24歳 -200 -150 -100 -50 年当たりの増分(人/年) 図2 年齢別・状態別死者数の傾向 0 50 図2の特徴としては、0∼24 歳の年齢層での減少が顕著であり、全ての状態で減少 している。全年齢層の中で最も大きく減少しているのは 0∼24 歳の運転中と同乗中の 合わせた自動車乗車中と自動二輪者乗車中で、その次に大きく減少しているのは、 45∼64 歳の歩行中、25∼44 歳の自動車乗車中の順である。それに対してとりわけて 増加しているのは 65 歳以上の自動車乗車中、25 歳∼44 歳の自動二輪車運転中、 原付運転中である。冒頭で死者数全体では減少傾向にあることを説明したが、図2で 見て取れる通り年齢層により死者の状況が異なっていることがわかる。 1−2.運転免許保有者、人口の年齢構成の変化 図3は運転免許保有者数、図4は総人口の年齢層別推移を示している。平成 7 年 から平成 14 年でいずれも 24 歳以下の若年層の減少と、65 歳以上での増加が大きく、 前述の年齢層別死者数の増減の様子と対応していることがわかる。すなわち、交通 事故死者数の増減は、人口、運転免許保有者の年齢構成変化の影響を強く受けて いると考えられる。 平成14年 平成10年 平成7年 65歳以上 平成14年 平成10年 平成7年 65歳以上 年齢層 45∼64歳 年齢層 45∼64歳 25∼44歳 25∼44歳 0∼24歳 0∼24歳 0 10000 20000 30000 40000 50000 人口数(1000人) 図3 総人口数 0 10000 20000 30000 運転免許保有者数(1000人) 図4 運転免許保有者数 40000 2.平成 14 年度の交通事故データに見る特徴 2−1.年齢層別の事故確率と致死率 車両運転者が事故を起こす確率(事故確率という)を「免許保有者数あたりの死傷 者数の割合」と定義し、死亡事故になりやすさを示す指標として致死率(=死者数/ 死傷者数×100)を用いる。ただし、事故確率が高いからといって事故を起こしやすい 運転をしているのか、あるいは、運転する機会が多いだけなのかの区別はできない。 また事故確率とは別に、事故に遭う確率(事故遭遇率という)を「単位人口当たりの死 傷者数」と定義する。この事故確率と事故遭遇率、及び致死率の特徴を年齢層別に わけて以下に説明する。現象をより明確に説明するために、0∼24 歳の年齢層を運 転免許を取得できない 0∼15 歳と、取得可能となる 16∼24 歳で分けて分析した。 3.500 事故確率 事故遭遇率 致死率 3.000 確率(%) 2.500 2.000 1.500 1.000 0.500 0.000 0-15 16-24 25-44 年齢層 45-64 65- 図5 年齢層別事故確率、事故遭遇率及び致死率 図5は縦軸にそれぞれの確率、横軸に年齢層を取ったものである。これを見ると、事 故遭遇率は 0∼15 歳が一番低く、16∼24 歳で突飛するが、加齢と共に減少している。 また、事故確率の推移は 16∼24 歳の若年者の事故確率が一番高く、加齢に伴って その割合は減少するが 65 歳以上の高齢者で増加する。これは若年者ほど運転する 頻度が高い、あるいは事故を起こしやすい運転をする傾向にある他、高齢者ほど加 齢に伴う知覚能力、運動能力の低下及び判断能力の低下が原因で事故を起こしや すい傾向にあるからだと思われる。また、注目すべきは若年者と高齢者の事故確率 が高いにもかかわらず、若年者の致死率は低く死亡事故につながることは少なく、ま た逆に高齢者の致死率は非常に高く、一旦事故に遭うと(起こすと)死亡事故になる 確率が非常に高いことである。これは前述したような加齢に伴う能力低下に加えて、 外力に対する抵抗力の低下などによるものと考えられる。 2−2.年齢層別・状態別の死者数 図6は年齢層別に状態別死者数をグラフにしたものである。状態別で一番多いの は歩行中で、死者全体の約 34.4%を占めているがグラフを見てもわかる通りその内 の半数以上が 65 歳以上の高齢者層である。歩行中に次いで多いのが自転車乗用中 であり、死者数全体の 29.7%を占め、その内の殆んどが 0-24 歳の若年者層と 65 歳 以上の高齢者層で占めているのが特徴である。その他の特徴としては自動二輪車乗 車中では 0-24 歳の若年者に、自転車乗車中では 65 歳以上の高齢者に偏っている。 また、原付乗車中では年齢層ごとの大きな偏りは見られない。 1800 1600 1400 死者数(人) 1200 自動車乗車中 自動二輪車乗車中 原付乗車中 自転車乗車中 歩行中 1000 800 600 400 200 0 0-24 25-44 45-64 年齢層 図6 年齢層別・状態別死者数(平成14年) 65- 図6で自動二輪乗車中を除く状態に注目すれば、いずれも全体に占める割合は高齢 者に大きく偏っている。一見すると図5にあるような高齢者の事故遭遇率が低いという 事実に矛盾するように思われるがこれは前述した高齢者の加齢に伴う事故確率や致 死率の増加が原因である。すなわち、今後日本が迎える人口構成の高齢化は交通 事故死者数を押し上げる大きな問題であると言える。 以上をまとめると、 1. 最近 8 年間の交通事故死者数の年齢層別推移は、人口、運転免許保有者 の年齢構成の変化を強く反映し、24 歳以下の若年者層で減少し、一方 65 歳以上 の高齢者層で増加している。 2. 交通事故での死者数という面から見ると、 1. 24 歳以下の若者は致死率は低いが事故を起こす確率が高い 2. 高齢者は事故を起こす確率は若者程高くないが他の年齢層に比べ れば高く、一旦事故に遭うと死亡に至る確率が高い と言うことができ、メカニズムは異なるが共に危険な年齢層である。 以上より、年齢層ごとの事故確率、致死率、および人口、免許保有者数を考慮すれ ば、将来の死者数を正確に予測できると考えられる。以下、この考えに沿って将来の 交通事故死者数を試算する。 3.交通事故死者数の予測 3−1.計算方針 1. 交通事故における死者の状態を年齢別に以下の二つのグループに分ける。 運転免許保有者数比例部・・・原付以上の車両運転者 人口数比例部・・・歩行者、自転車乗用者、自転車以上の車両同乗者 ただし、0∼24 歳の年齢層は運転免許を取得できない年齢層の 0∼15 歳と、運転 免許を取得できる 16∼24 歳に分け、0∼15 歳では全ての状態の死者数が人口数 に比例すると見なす。 2. 年齢別に人口数当たりの死亡率、免許保有者数当たりの死亡率を算出し、 その将来値を過去の推移より推計する。 3. 年齢層別人口数、免許保有者数の将来値を推計し、2で求めた死亡率と掛 け合わせて死者数とする。 3−2.死亡率の算出と推計 将来値の推計に当たっては過去のデータ推移から近似曲線求め、その近似曲線 を外挿することで決定する。その際、近似曲線の算出には最小二乗法を採用する。 1.単位運転免許保有者数当たりの死亡率の算出 図7は3−1で定義した運転免許保有者数比例部の単位運転免許保有者数当たり の死亡率をグラフにしたもので、65 歳以上の高齢者の例である。グラフを見てもわか るとおり、このデータを近似する曲線は対数近似が一番適当であると思われる。以後、 他の年齢層でもこの単位運転免許保有者数当たりの死亡率にはこの対数近似が成 り立つとして推計する。 18.000 死亡率(1/1000) 16.000 14.000 12.000 y = -7.9795Ln(x) + 31.522 2 R = 0.9509 10.000 1 10 平成(年) 図7 単位免許保有者数当たりの死亡率(65歳以上) 100 2.単位人口数当たりの死亡率の算出 図8は3−1で定義した人口数比例部の単位人口数当たりの死亡率をグラフにした もので、65 歳以上の高齢者の例である。グラフを見てもわかるとおり、このデータを近 似する曲線もまた、対数近似が一番適当であると思われる。以後、他の年齢層でもこ の単位運転免許保有者数当たりの死亡率にはこの対数近似が成り立つとして推計 する。 死亡率(1/1000) 14.000 12.000 10.000 y = -5.1491Ln(x) + 23.309 2 R = 0.9963 8.000 1 10 平成(年) 図8 単位人口数当たりの死亡率(65歳以上) 100 3−3.年齢別人口数の将来推計 人口の将来推計については国立社会保障・人口問題研究所が平成 14 年 1 月に発 表した「日本の将来推計」のデータから中位水準のデータを選び、将来人口数とし た。 3−4.運転免許保有者数の将来推計 運転免許保有者数は人口数の変動による影響を強く受けることから直接推計する ことは難しい。そこで単位人口数当たりの運転免許保有者数として運転免許保有率 を定義し、その推移から将来値を推計し、3−3で用いた人口数と掛け合わせて将来 の免許保有者数とする。 国土交通省道路局発表の「交通需要推計」によれば、運転免許保有率の推計に成長 曲線 Gˆ: t t年における免許保有率 Rate MAX Gˆ t = t:西暦年 1 + α exp(− βt ) Rate MAX , α , β:パラメータ を用いており、本稿でもこの近似式を用いることにする。パラメータの決定に当たって は最小二乗法によるフィッティングを行う。 3−5.計算結果 図9は 20 年後の平成 34 年までの年齢別推計結果を折れ線グラフに、またその合計 数を棒グラフにしたものである。 4500 12000 4000 11000 合計 0∼24歳 25∼44歳 45∼64歳 65歳以上 3500 3240 死者数(人) 3000 2800 2737 10000 9000 2500 8000 2000 1902 死者数(人) 10679 7000 1500 6000 1000 5000 500 0 4000 7 10 13 16 19 22 25 平成(年) 図9 交通事故死亡者数の将来推計 28 31 34 4.考察 4−1.計算結果の考察 図9を見ると、推計開始の平成 15 年から全体の死者数は減少していき、平成 24 年 から増加に転じるが、4 年後の平成 28 年にはまた減少に転じ、その後も減少しつづけ る。すなわち、死者数全体の傾向としては過去も含めて今後も減少していき、政府に よる各種の対策は有効であったように思われる。しかし、年齢別のグラフを見てわか るとおり、0∼24 歳、25∼44 歳、45∼64 歳の年齢層で減少しているのに対して、65 歳 以上の高齢者は目立って増加傾向にあり、高齢者が死者数を押し上げている状況が 見て取れる。もちろん、今後新たな施策が実施されるので、今回の予測の通りになる とは限らないが、日本社会の高齢化は交通事故死者数増加の大きな要因の一つで あることは疑いようの無い事実であると言える。すなわち、今後の交通事故による犠 牲者を減らす為には高齢化に合わせた交通安全対策が求められる。 割合(%) 4−2.日本の交通安全対策の問題点 平成 14 年の高齢者の死者数は 40.0 3144 人を数え、死者数全体の 37. 高齢者の人口比 35.0 8%を占めている。65 歳以上の人 30.0 交通事故死亡者におけ 口数は全人口数に占める割合は る高齢者の割合 25.0 18.5%である。図10は前述した 平成 14 年の高齢者の人口比と交 20.0 通事故死者数に占める高齢者の 15.0 割合を先進諸外国と比較したもの 10.0 である。これを見れば、どの国も 5.0 交通事故死亡者数における高齢 0.0 者の割合は人口比を若干上回る 米 英 独 仏 伊 日 図10 交通事故死亡者における高齢者の割合 程度にとどまっているのに対して と 高齢者の人口比(平成14年) 日本では突飛している事がわかる。 諸外国のデータと比較しても交通 事故による高齢者の死亡者が人口比の約 2 倍以上も死亡している事は先進国として 恥ずべき特徴であり、日本政府が高齢者の交通安全対策を怠ってきた結果としか言 いようがない。また、もともと住宅地を国道が貫く道路構造に問題があること以前から 言われてきた事であるのに、経済や産業の都合を優先させ、歩道作りは二の次にさ れてきたという根源的な問題もある。勿論、行政だけに問題があるわけではなく、図5 にあるような若年者層の危険運転傾向の他、高齢者の加齢に伴う判断力や運動能 力の低下を認知不足といったドライバーの意識やモラルの問題もある。 4−4.高齢化社会に向けた安全対策への提言 これまで述べてきた事から、交通事故による犠牲者を減らすには高齢者をいかに 交通事故から守るかと言う事が大切であると言える。そのためには先ず、運転者と非 運転者の意識差をなくし、特に高齢者に運転者から、歩行者/自転車乗用者がどう 見えるか、また逆に非運転者から、自動車運転者がどう見えるかをそれぞれの立場 にたった理解をさせる事が非常に有効であると思われる。また、何度も言っているよう に加齢に伴う運動能力の低下、判断の遅れなどを高齢者自信に自覚できるようにさ せることや、危険運転をする傾向にある若年者層に交通安全意識をもたせる為の教 育を行う事も有効である。