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色素増感太陽電池
色素増感太陽電池 指導者 研究者 安達隆太 下島将太郎 黒田順子 中地功貴 林下歩樹 1 研究の動機 昨年度の先輩方の色素増感太陽電池の研究発表を見て、様々な色素による染色によって発電 効率が大きく異なるという点に興味を持った。 近年、原子力発電に代わるクリーンなエネルギーとして注目を集める太陽電池について自分 たちで研究し、深刻さを増す地球環境の問題に微力ではあるが貢献できることに魅力を感じた。 どのような色素がより効率が良い太陽電池になるのかを自分達なりに探求したいと思った。 2 研究の目的 色素の種類や色素が持つ特徴によって 起こる太陽電池の発電効率の違いを、制作した太陽電 池を様々な色素で染色しそれを比較することによって調査する。そこから効率よく発電できる 色素増感太陽電池を作成することを目指す。 3 色素増感太陽電池の仕組み 色素増感太陽電池とは、次の反応が繰り返されることで発電できる電池である。 ① TiO 2 上の色素に光が当たると、電子が放出される。 ② 放出された電子は酸化チタン( TiO 2 )を経由して導電性ガラスに達し、外部へ流れる。 ③ 電子を放出して陽イオンとなった色素は、電子を放出した側の電極から供給される電子 を、電解液中のヨウ化物イオン(I¯)を経由して受け取り、元の状態に戻る。 I₃¯+2e¯ →3I¯ I¯ I₃¯ 3I¯→ I₃¯+2e¯ 3-1 4 仮説 黒色は光を最も吸収する。このことか色素が黒色に近いほど発電効率が良いと考えた。 5 1 実験方法 色素増感太陽電池の作成 材料 ・負極 ・厚さ 2mm 大きさ 5cm×5cm の導電性ガラス・・・1 枚 ・ペースト ・ポリエチレングリコール(分子量 20000)・・・1.00g ・二酸化チタン(日本アエロジル)・・・3.000g ・蒸留水・・・7.0g ・濃硝酸・・・7 滴 ・正極 ・厚さ 2mm 大きさ 5cm×5cm の導電性ガラス・・・1 枚 ・6Bの鉛筆 ・電解液 ・ヨウ素液・・・0.18g ・ヨウ化カリウム・・・ 0.83g ・炭酸プロピレン・・・ 10ml ・色素液 ・ハイビスカスティーの色素(ハイビスカスティーをお湯で出したもの) ・コーヒーの色素(コーヒーをお湯で出したもの) コーヒー(R):レギュラーコーヒー コーヒー(I):インスタントコーヒー ・アニリンブラック ・ビートの色素(ビートをすりつぶし布でくるんでしぼっ たもの) ・カントリーマアムの色素(カントリーマアムをすりつぶし布でくるんでしぼったもの) ・ニンジンの色素(ニンジンをすりつぶし布でくるんでしぼったもの) ・ブロッコリーの色素(ブロッコリーの青い芽の部分をすりつぶし布でくるんでしぼっ たもの) ・ネギの青い部分の色素(ネギの青い部分をすりつぶし布でくるんでしぼったもの) ・ホウレンソウの色素(ホウレンソウをすりつぶし布でくるんでしぼったもの) 3-2 作成方法 ① ポリエチレングリコール (1g)、二酸化チタン粉末(3g)、蒸留水(7g)、濃硝酸(7 滴)を乳 鉢に入れ、30 分間すりつぶすようにしてよく混ぜ、ペーストを作る。 ② 色素液を作る。作り方は上記の材料参照。 ③ 導電性ガラス 1 枚をメンディングテープでマスキングする。 ④ ① の ペ ース ト をス キ ージ ー 法 で導 電 性ガ ラ スに 塗 る 。ま ず 、ペ ー スト を 導 電性 ガ ラス の上に垂らし、ガラス棒で均一に薄く伸ばす。 ⑤ ④の導電性ガラスを 100℃に熱したホットプレートの上にのせ、ペーストを乾かす。 ⑥ ⑤の導電性ガラスをステンレス板の上にのせ電気炉で焼き付ける。400℃まで単調に温 度を上昇させ、400℃になったところで電源を切り、電気炉 のフタを閉めたまま冷却す る。 ⑦ ⑥の導電性ガラスを電気炉から取り出して冷却し、②の色素液の中に約 24 時間つける。 ⑧ 別の導電性ガラスの導電面に 6B の鉛筆で炭素を塗りつける。 ⑨ 電 解 液 と し て ヨ ウ 素 (0.18g)、 ヨ ウ 化 カ リ ウ ム (0.83g)、 炭 酸 プ ロ ピ レン (10ml)を ビー カーに入れて混ぜ、溶液を作る。 ⑩ 色 素 か ら取 り 出し た ⑥の ガ ラ スの 導 電面 の 両端 に メ ンデ ィ ング テ ープ を 貼 り( シ ョー トしないようにするため)、正極と導電面どうしをあわせて 2 枚の導電性ガラスの隙間 に⑨で作成した電解液を流し込んで両端をクリップで留める。 2 電流電圧の測定 回路図のように回路を組み、 OHP の上に OHP の光源から一定の距離に作成した太陽電池を固 定し、一定の光を当て、 0Ωから 2KΩの間で抵抗を変えて電流と電圧を記録し、両者の関係を 表したグラフ(電流電圧曲線)を作成する。 3 色素増感太陽電池の出力特性 色素増感太陽電池の出力特性は図 1 に示す電流電圧曲線で表される。色素増感太陽電池の出 力特性を示す値として次のものがある。 開放電圧・・・太陽電池の起電力である。電池に内部抵抗 があるため、電流が流れると太陽電池の端子電圧は減少する。 可変抵抗を取り外すと、回路に電流が流れなくなるので (端子電圧)=(電池の起電力)だから 色素増感太陽電池の起電力を測定することができる。 3-3 6 予備実験 予備実験を行った結果、計測されるデータが昨年度の研究で測定されたデータの値を大きく 下回るという問題が発生した。 理想的な電圧値:200mV~500mV 実際に測定された電圧値:0mV~100mV 実験の方法を見直し、原因を液漏れだと考えた。 ① [改良前] ②[改良後] これはペースト側の導電性ガラスのメンディングテープの貼り方 を図示したものである。黒 色の部分がメンディングテープ、濃い灰色の部分がペーストを表している。左図 (①)が改良前、 右図(②)が改良後である。改良前は、図上部のメンディングテープが貼られていない位置が電 極となり、同じ位置からヨウ素液を入れていた。しかしその際、電極から逆起電力が発生した 事が測定結果に支障を来した。 改良後は②のように、電極をメンディングテープで完全に塞ぎ、ヨウ素液が電極に触れない ような仕様に変更した。また、ヨウ素液を入れる位置も電極から離れた側面に変更することに よって、液漏れが発生してしまう可能 性を限りなくゼロに近いものにすることに成功した。 本実験では②の方法で試料を作成し、測定を行う。②の方法で歩留まりが向上したことによ り、効率よく実験を進めることが出来た。 3-4 7 本実験 コーヒー、ホウレンソウ、ハイビスカス、ニンジン、ブロッコリー、ネギ、ビート、カント リーマアム、アニリンブラックの色素を使い実験した。 以下のグラフがその結果である。 2.5 電流(mA) コーヒー(I) 2 ハイビスカス ほうれん草 にんじん 1.5 ブロッコリー 染色なし 1 カントリーマアム 白ネギの青い部分 ビート 0.5 コーヒー(R) アニリンブラック2回目 アニリンブラック1回目 0 0 50 100 150 200 250 300 350 400 450 500 電圧(mV) 分類 ハイビスカ スティー コーヒー (R) 染色なし アニリンブ ラック 1 回 目 ビート コーヒー (I) 最大発電効 率 分類 0.285 0.0319 0.0993 0.000266 0.0279 0.404 カントリー マアム ニンジン ブロッコリ ー 白ネギの青 い部分 ホウレンソ ウ 最大発電効 0.0940 0.218 0.143 アニリンブ ラック 2 回 目 0.00303 0.0799 0.406 率 発電効率(W)=電流(I)×電圧(V)より、発電効率は図の右上にいけばいくほど良いという ことになる。比較には色素ごとに算出した発電効率の最も高い値を採用して いる。よって、コ ー ヒ ー (I)≒ ホ ウレ ン ソウ > ハ イ ビ ス カ ス> ニン ジ ン > ブ ロ ッ コリ ー> 染 色 な し > カ ント リー マアム>ネギ>ビート>アニリンブラックという順に発電効率が良いといえる。 色素が黒色に近いほど発電効率が良いという仮説を立てたが、黒色であるアニリンブラック が最も低い値をだした。このことから、色素が黒色に近いほど発電効率が良いとはいえないこ とがわかった。 3-5 8 考察 アニリンブラックの発電効率が非常に低かった理由については、アニリンブラックはアニリ ンを完全に酸化させた場合に生じる物質であったため、光を当てて も色素が酸化されず電子が 放出されなかったことと、アニリンブラックを着色したために酸化チタンに光りが届かず酸化 チタンから微量のイオンしか放出されなかったという二点が考えられる。 e¯ 光 光 TiO₂ アニリンブラック 次に天然色素の分類に基づき色素をそれぞれフラボノイド系、ベタレイン系、カロチノイド 系、クロロフィル系に分けた。 分類 フラボノイド 系 ベタレイン系 カロチノイド 系 クロロフィル 系 色素 コーヒー ハイビスカス ホウレンソウ ビート ニンジン ブロッコリー ネギ 最大発電量(m w) 0.404 0.289 0.406 0.0279 0.218 0.143 0.0799 これを見ると、フラボノイド系とベタレイン系が、カロチノイド系とクロロフィル系より高 い値を出しているのがわかる。 発電効率が高いフラボノイド系とベタレイン系に共通する特徴を調査したところ、この 2 つ には極性があるということがわかった。 極性とは「原子が結合する際に、それぞれの原子がもつ電気陰性度の差によって生じる電子の 偏り」のことである。酸素とチタンの電気陰性度の差により、 酸化チタンには電気的な偏りが 生じる(酸素が負、チタンが正)。また、酸素と水素の電気陰性度の差により、OH 基にも 極性 が生じる。 3-6 (酸素が負、水素が正)。 極性をもつ色素は電気的な偏りのため静電気力が引力となって、酸化チタンに近づきやすく なる。このため酸化チタンに電子を渡しやすくなり発電効率がよくなる。極性を持たない色素 は原子間に偏りがないため、極性をもつ分子ほど酸化チタンに近づかない。このためチタンに 電子を渡しにくいので、発電効率が悪くなると考えた。 カントリーマアムは、カカオ色素以外の物質を多 数種含んでいる。このため、電流電圧曲線 と作成した試料との関係を明らかにすることは困難である。 3-7 9 まとめ メンディングテープを電極部分に貼ることにより、試料の歩留まりが向上した。 アニリンブラックに関しては、色素で染色をしない試料に比べて発電効率がよくなかったこ とから、黒色に近いほど発電効率がよいというわけではない。 フラボノイド系やベタレイン系の色素の発電効率が比較的良い。これらの色素には極性があ り、カロチノイド系やクロロフィル系の色素には極性がないためである、という可能性が示唆 される。 10 今後の課題 ・色素をフラボノイド系、ベタレイン系、カロチノイド系、クロロフィル系に分け、それぞれ の測定データを多く集めて、極性を持つ色素ほど発電効率が良いという仮説を実証する。 ・昨年度先輩方が染色液の吸収スペクトル、透過スペクトルを調べ、今年もそれを継続して染 色液の吸収スペクトル、透過スペクトルを計ったが、色素とスペクトルの関係を明らかにでき なかった。ここの関係を明らかにしたい。染色液の濃度がそれぞれの色素ごと違っていたため、 それを一定にしてスペクトルを測定したい。また、染色液と二酸化チタンに吸着した色素の色 が違っていたことがあり、二酸化チタンに吸着した色素のスペクトルも測定したい。 ・この研究では単一の色素を持つもので実験を重ねていたが、複数の色素が含まれたもの(コ ーヒーとホウレンソウの染色液を混ぜるなど)で実験したい。 11 参考文献 化学Ⅰ 新訂版 井口洋夫 ほか 実教出版 理数科課題研究報告集「色素増感太陽電池」 キリア化学(url:http://www.kiriya-chem.co.jp/) 3-8 12 謝辞 本研究を遂行するにあたり、始終私たちの研究を先導し 適切なアドバイスを下さった指導者 の安達隆太先生に心から感謝いたします。また、黒田順子先生には研究するにあたって不明瞭 な点をご教授していただきました。有り難うございました。 担任の澤柳博文先生には本研究をまとめるにあたり、多くの協力をして頂きました。厳しい 激励の言葉は研究に多大な影響を与えてくれました。本研究の責任者である久保田宏先生には 研究の発表などにあたりお世話になりました。有り難うございました。 教育センターの若狭先生には色素増感太陽電池の基礎的な部分において一方ならぬお世話に なりました。若狭先生に頂いた資料がなければ本研究を完成させることは出来なかったでしょ う。 化学研究室の窪田正利先生と森田純子先生には太陽電池を作成する際に化学室と必要な機材 をお貸し頂きました。有り難うございました。 森林環境科の宮下理人先生には光のスペクトルを計る際に用いる際に必要な分光光度計をお 貸しして頂きました。インテリア科の横沢先生には太陽電池のベースとなる導電性ガラスの切 断をして頂きました。有り難うございました。 教頭の花井先生には課題研究発表の際に本研究の不十分な部分を指摘し、アドバイスまで頂 きました。有り難うございました。 最後になりますが、目的は違えど共に志をもち突き進んだ仲間である二年一組の友人たち、 本研究を理解し協力してくださった私達の両親に感謝の意を表します。 3-9