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意図学習された単語の再認におけるBGM文脈依存効果

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意図学習された単語の再認におけるBGM文脈依存効果
修士論文審査会 2011/2/22
意図学習された
単語の再認におけるBGM文脈依存効果
情報学研究科
漁田研究室
7093-0043 西村孝太郎
Isarida Laboratory
発表の構成
1. 序論
– エピソード記憶と環境的文脈
– BGM文脈研究
– 問題と目的
2. 実験的検証
– 実験1
– 実験2
– 実験3
3. 全体的考察
– 結果のまとめ
– 今後の検討課題
Isarida Laboratory
記憶・環境的文脈
• エピソード記憶 (episodic memory)
– 出来事の記憶,思い出
焦点情報 (focal information): エピソードの中心となる情報
+
文脈 (context) : 焦点情報以外の周辺情報
• 環境的文脈
– たまたま焦点情報と一緒に存在する環境情報
– ex. 場所,背景色,匂い,フォント,BGMなど
本研究のテーマは「BGM文脈依存効果」
Isarida Laboratory
BGM文脈依存効果
BGM (Background-music)が学習時と想起時において,
一致した場合のほうが一致しない場合よりも記憶成績がよくなる現象
学習セッション
テストセッション
BGMを流しながら符号化
学習時と想起時
異なるBGM
DC条件
学習時と想起時
同じBGM
SC条件
Different Context: DC < Same Context: SC
Isarida Laboratory
BGM文脈依存効果の先行研究
• 音楽のジャンル (クラシック,ジャズ) ではなく,楽曲のテン
ポの変化 (速い,遅い) のみ○
(Balch,Bowman & Mohler, 1992; Balch & Lewis, 1996)
• 学習内容を操作した場合,偶発学習○意図学習×
(漁田・漁田・林部, 2008)
• 楽曲の熟知性を操作した場合,未知楽曲 (UM) では安定
し,既知楽曲 (FM) では不安定
(漁田・漁田, 2008; 西村, 2009; 新林, 2010)
実証は全て再生法
Isarida Laboratory
再認法
• 方法
– 項目を学習した後,学習した項目 (旧項目) と学習していない項目
(新項目) を混ぜて提示し,学習時にあったか否かを報告させる
• 再認成績 (Hit率)
– Hitが高いほど成績がいい
– HitとFAの反応は人によって傾向が異なる
• 再認弁別 (CRS = Hit - FA)
– 旧項目と新項目をどれくらい区別できているか
Isarida Laboratory
旧項目
新項目
あった
Hit
FA (False Alarm)
なかった
Miss
CR
(Correct Rejection)
ICE理論(Item-Context-Ensemble)
• グローバル照合理論群 (global matching theories) のひとつ
• 内容
– 項目 (Item)と文脈 (Context) は基本的にそれぞれ独立に処理される
– 項目と文脈にアンサンブルが形成されたときのみ文脈依存効果が生じる
※アンサンブル:項目と文脈が一緒に提示された経験の記憶
記憶の判断=項目の熟知度+文脈の熟知度(+アンサンブル)
旧文脈
新文脈
情報
旧項目
新項目
旧項目
新項目
項目(I)
-
+
*
-
文脈(C)
+
*
+
*
+
*
-
-
アンサンブル(E)
E
+
-
-
-
CRS: Hit – FA (アンサンブルが形成される場合)
旧項目の文脈依存効果 (2*+E-1*) – 新項目の文脈依存効果 (1*-0) = E
再認弁別CRSではアンサンブルの分だけ文脈依存効果が生じる
Isarida Laboratory
ICE理論(Item-Context-Ensemble)
アンサンブルが形成されない場合
• HitでもFAでも同程度の文脈依存効果が生じる
旧文脈
新文脈
情報
旧項目
新項目
旧項目
新項目
項目(I)
-
+
*
-
文脈(C)
+
*
*
+
+
*
-
-
アンサンブル(E)
-
+
-
-
-
CRS:Hit – FA (HitとFAの文脈依存効果の大きさが同じ)
旧項目の文脈依存効果 (2*-1*) = 新項目の文脈依存効果 (1*– 0)
再認弁別CRSでは文脈依存効果が相殺される
Isarida Laboratory
ICE理論の問題点
• 実証は焦点情報に近接した環境情報の視覚文脈や背景絵画
文脈,背景写真文脈で報告されてきた
– Murnane & Phelps (1993, 1994, 1995), Dougal & Rottelo (1999)
– Murnane, Phelps, & Malmberg (1999)
– 漁田・梶山・酒井・漁田 (2010)
文脈
場所
焦点情報に近接した文脈では,
熟知性のみで判断しやすいのでは?
焦点情報から離れた環境情報の
BGMや場所文脈ではどうだろうか?
Isarida Laboratory
BGM
背景色
単純視覚
焦点
情報
フォント
再認での文脈依存効果
文脈
Hit
場所
FA
SC>DC SC<DC
再認弁別
SC>DC
漁田(1991, 2009)
背景色
>
≒
>
漁田・漁田・岡本 (2005) Rutherford (2004)
単純視覚
>
>
≒
Murnane & Phelps (1993), 他多数
フォント
>
>
≒
漁田・梶山・酒井・漁田 (2010)
*>はSC>DC,<はSC<DCで有意な差がある ≧≒≦は有意な差がない
• Hitにおける文脈依存効果は,全ての文脈に見られる
• 視覚文脈と場所文脈とではFAと再認弁別の効果が異なる
• 視覚文脈でも効果が分かれる (背景色 or 単純視覚・フォント)
再認弁別の結果はFAの結果に影響される?
Isarida Laboratory
学習時間と文脈依存効果の関係
• 場所文脈・意図学習・再認法の場合,文脈依存効果が提示
速度1.5秒○4.0秒× (漁田・漁田, 1991, 2009)
Percentage Recognized
70
CRS
SC
DC
60
50
40
30
20
10
1.5
Presentation Rate
4
ICE理論: 学習時間によって文脈依存効果の大きさは変化しない
アウトシャイン仮説: 学習時間によって変化する
場所・再認の結果とICE理論の予測は
Isarida Laboratory
どちらが正しいのだろうか?
問題と目的
• BGM文脈依存効果についての報告は,再生法のみ
– 再認法では報告されていない
– BGM文脈でICE理論を支持する報告はない
• 焦点情報から離れた文脈では,ICE理論とは異なる結果が報告
されている
• 本研究の目的
1. 再認法でもBGM文脈依存効果が生じるか否か
– 自由再生と再認では文脈依存効果の生じ方が異なるのか
– 学習内容:意図学習
– 漁田・漁田 (1991, 2009) の手続きと類似させるため
2. 再認法でBGM文脈依存効果が生じるなら,その文脈依存効
果サイズが,学習時間に伴って変化するか否か
– 場所・再認実験の結果と類似するか否か
Isarida Laboratory
結果の予測 – 文脈依存効果
エピソード記憶の想起
ICE理論
SC
CRS
SC
DC
Hit
FA
CRS
DC
SC
DC
Hit
FA
SC
DC
• ICE理論: 再認テスト時におけるテスト項目と文脈の熟知性によって決まる
– アンサンブルが形成されると,文脈依存効果が起きるが,文脈は熟知性について旧
項目・新項目ともに引き上げる⇒旧文脈の熟知性に基づいてSCの方が高くなる
– アンサンブルが形成されないと,再認弁別は打ち消される
• エピソード記憶の想起: 文脈手がかりが利用される
– 旧項目と文脈が連合するため,Hit率が上昇
– FA率は旧項目と新項目の弁別が高められ減少もしくは文脈と新項目との間に関連
性がないため変化しない
Isarida Laboratory
結果の予測 – 学習時間による文脈依存効果
ICE理論: アンサンブル形成
アウトシャイン仮説
CRS
SC
CRS
SC
DC
1.5 s/item
4.0 s/item
DC
1.5 s/item
4.0 s/item
• ICE理論
– 項目強度と文脈効果サイズは独立
– 文脈熟知性が一定に保たれるならHitとFAの文脈依存効果の大きさが提示
速度によって変化しない
– 文脈依存効果の大きさは学習時間によって増加する
• エピソード記憶の想起 (アウトシャイン仮説)
– 文脈手がかりと項目手がかりが競合
– 項目の提示速度が増加するほど項目強度が増加
– 学習時間に比例して文脈依存効果の大きさが減少
Isarida Laboratory
実験1
• 実験参加者:
静岡大学学生84名 (各条件21名ずつ割当てた)
• 2要因参加者間計画:
文脈 (SC vs. DC)
× 提示時間 (1.5秒 vs. 3.0秒, 提示間隔0.5秒)
• 材料:
– 熟知価3.0以上のカタカナ三音節名詞80個
– 旧項目: 40個 新項目: 40個
– 例: アタマ・カンシ・シクミなど
Isarida Laboratory
BGM
漁田・漁田 (2008),西村 (2009)で用いたBGMを利用
実験参加者にとって未知の楽曲 (UM)
FAST
SLOW
レプタイル
トリステーザ
ムーランルージュのテーマ
ヘッドライト
Isarida Laboratory
実験1 - 手続き
学習セッション
10秒
##
40個
記銘項目
意図学習
提示速度
1.5秒or3.0秒
BGM
項目
....
学習セッション
終了
四文字熟語
完成課題
Isarida Laboratory
10秒
席移動
保持期間
5分
##
80個
再認
....
BGM
テストセッション
テストセッション
終了
質問紙でのアンケート
(BGMの熟知感をチェック)
SC条件:学習時と同じBGM
DC条件:学習時とテンポの異なるBGM
実験1 – 結果
Hit
文脈の主効果 F (1,80) = 4.81, MSE = 0.01, p < .05
速度の主効果 F (1,80) = 9.52, MSE = 0.01, p < .01
交互作用
F<1
FA
CRS
文脈の主効果 F (1,80) = 11.07, MSE = 0.02, p < .01
速度の主効果 F (1,80) = 26.20, MSE = 0.02, p < .01
交互作用
F<1
0.28
0.24
0.22
0.2
0.18
0.16
0.14
0.12
0.1
1.5秒 Presentation Rate
文脈依存効果: CRS・Hit○ FA×
学習時間効果:
Hit・CRS:学習時間に応じて増加
FA:学習時間に応じて減少
Isarida Laboratory
0.7
0.65
Percentage Recognized
Hit・CRS: SC > DC FA:SC≦DCと異なる傾向
SC
DC
FA
0.26
Percentage Recognized
文脈の主効果 F (1,80) = 4.81, MSE = 0.01, p > .25
速度の主効果 F (1,80) = 9.52, MSE = 0.01, p < .05
交互作用
F<1
3秒
SC
DC
CRS
0.6
0.55
0.5
0.45
0.4
0.35
0.3
0.25
0.2
1.5秒 Presentation Rate
3秒
実験2
• 実験参加者:
大学生100名 (各条件25名ずつ割当てた)
• 提示時間
– 提示時間を長期にした場合でもBGM文脈依存効果
が生じるか
– 1.5秒 vs. 3.0秒 ⇒ 2.0秒 vs. 4.0秒, 提示間隔0.5秒
• 材料・手続き・BGM・文脈: 実験1と同じ
Isarida Laboratory
Hit
0.9
Hit
文脈の主効果 F (1,96) = 2.10, MSE = 0.01, p < .20
速度の主効果 F (1,96) = 7.24, MSE = 0.01, p < .01
交互作用
F<1
0.85
Percentage recognized
実験2 – 結果
0.8
0.75
0.7
0.65
0.6
2秒
文脈の主効果 F (1,96) = 4.94, MSE = 0.01, p < .05
速度の主効果 F (1,96) = 23.3, MSE = 0.01, p < .01
交互作用
F (1,96) = 4.45, MSE = 0.01, p < .04
Percentage recognized
CRS
Presentation Rate
4秒
FA
0.3
FA
文脈の主効果 F (1,96) = 1.37, MSE = 0.01, p > .20
速度の主効果 F (1,96) = 8.94, MSE = 0.01, p < .01
交互作用
F<1
SC
DC
SC
DC
0.25
0.2
0.15
0.1
0.05
2秒
Presentation Rate
4秒
CRS
0.75
SC
DC
文脈依存効果:Hit・CRS 2秒○ 4秒×
学習時間効果: 2.0秒と4秒とでは異なる傾向
4.0秒条件下では差がない
Isarida Laboratory
Percentage Recognized
0.7
0.65
0.6
0.55
0.5
0.45
0.4
0.35
0.3
2秒
Presentation Rate
4秒
実験3
• 実験参加者:
大学生40名 (各条件20名ずつ割り当てた)
• 一要因参加者間計画: 文脈 (SC vs. DC)
• 提示時間
– 提示時間3.0秒と4.0秒の間では,再認成績にどのような影
響を及ぼしているのか
– 3.5秒, 提示間隔0.5秒
• 材料・手続き・BGM・文脈: 実験1・2と同じ
Isarida Laboratory
0.9
Percentage Recognized
実験3 – 結果
0.85
文脈依存効果:Hit・FA・CRS×
0.75
0.7
0.65
0.6
0.2
0.18
0.16
0.14
0.12
0.1
0.08
0.06
0.04
0.02
0
FA
SC
DC
0.8
CRS
Percentage Recognized
Isarida Laboratory
0.8
0.5
P ercenta ge R ecognized
CRS : t (38) = 1.37, p > .20
SC
DC
0.55
Hit : t (38) = 1.00, p > .30
FA : t (38) = 0.97, p > .30
HIt
0.75
0.7
0.65
0.6
0.55
0.5
SC
DC
–
–
–
–
文脈依存効果: Hit・CRS ○ FA×
Hit・CRS: SC > DC
FA: SC ≦ DC
1.5・2.0・3.0秒○
2.学習時間における文脈依存効果
– 提示速度が増加するにつれて減少
– 3.5秒: Hit・CRS: SC ≧ DC
FA: SC ≦ DC
– 4.0秒: Hit・FA・CRS×
Isarida Laboratory
0.8
0.75
0.7
SC
0.65
DC
0.6
0.55
0.5
0.3
Percentage Recognized
1. 実験1・2から再認弁別において
BGM文脈依存効果が生じた
HIt
0.85
1.5秒
2秒
3秒
3.5秒
FA
4秒
SC
DC
0.25
0.2
0.15
0.1
0.05
1.5秒
2秒
0.8
Percentage Recognized
全体的考察
結果のまとめ
Percentage Recognized
0.9
3秒
3.5秒
4秒
CRS
0.7
0.6
SC
0.5
DC
0.4
0.3
1.5秒
2秒
3秒
3.5秒
4秒
エピソード記憶の想起と熟知性判断
• エピソード記憶の想起
– 文脈と項目が連合: CRS○
• ICE理論による熟知性判断
– アンサンブルが形成された場合: CRS○
CRSの成績だけではどちらの予測が正しいか不明
そこでFAの成績に注目
Isarida Laboratory
エピソード記憶の想起と熟知性判断
エピソード記憶の想起
SC
DC
熟知性判断
SC
DC
• エピソード記憶の想起
– FA:旧項目と新項目との弁別が高められ減少 (SC ≦ DC)
• ICE理論による熟知性判断
– Hit・FAで,文脈の熟知度を反映する (SC ≧ DC)
提示速度1.5・2.0・3.0・3.5秒条件ではSC<DC傾向
Isarida Laboratory
BGM文脈はエピソード記憶の想起を
手がかりとしている
学習時間効果による文脈依存効果の変化
• 提示速度3.5・4.0秒条件ではなぜ生じなかったのか?
• アウトシャイン仮説 (Smith, 1988)
– 項目手がかりが強いと環境的文脈は手がかりとして隠蔽される
– 学習時間が増加するにつれてBGM文脈依存効果が減少
– BGM文脈依存効果が隠蔽された可能性が・・・
アウトシャイン仮説
熟知性判断
CRS
0.75
SC
DC
SC
SC
DC
DC
Percentage Recognized
0.7
0.65
0.6
0.55
0.5
0.45
0.4
0.35
0.3
1.5 s/item
Isarida Laboratory
4.0 s/item
1.5 s/item
4.0 s/item
2秒
Presentation Rate
4秒
BGM文脈と他文脈との比較
文脈
Hit
BGM
FA
SC>DC SC≦DC
再認弁別
SC>DC
実験1・実験2 (提示速度2.0秒)
BGM
≧
≦
≧
実験2 (提示速度4.0秒) ・実験3
場所
>
<
>
漁田 (1991, 2009)
背景色
>
≒
>
漁田・漁田・岡本 (2005) Rutherford (2004)
単純視覚
>
>
≒
Murnane & Phelps (1993), 他多数
フォント
>
>
≒
漁田・梶山・酒井・漁田 (2010)
*>はSC>DC,<はSC<DCで有意な差がある ≧≒≦は有意な差がない
• BGM文脈の結果は場所文脈の実験結果と類似
– FA率がSC < DC傾向
• 視覚文脈とは傾向が異なる
Isarida Laboratory
BGM文脈と他文脈
• 焦点情報から離れた文脈: BGM・場所・背景色
– Hit・再認弁別: 文脈依存効果○
– FA: SC ≦ DC or SC ≒ DC
– エピソード記憶を想起し,文脈を手がかりとしている
• 焦点情報に近接した文脈: 単純視覚・フォント
–
–
–
–
Hit・FA: 文脈依存効果○ SC > DC
再認弁別× SC ≒ DC
ICE理論の予測どおりHitとFAで文脈依存効果が相殺される
熟知性で判断
焦点情報と文脈の距離によってFAの文脈依存効果の
生じ方が異なり,その結果再認弁別も異なる結果になる
Isarida Laboratory
今後の検討課題
• BGM文脈が持つ機能の解明
– 本研究の追試
BGM: FMの使用・UMの変更
学習時間の統制など
• 様々な文脈での実験を行うことの重要性
– 先行研究の再検討
– 多様な環境情報の機能の解明
– 匂い・ビデオなど
Isarida Laboratory
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