...

507中山間地域における茶園景観の活用と保全(平成20年度

by user

on
Category: Documents
8

views

Report

Comments

Transcript

507中山間地域における茶園景観の活用と保全(平成20年度
あたらしい
農業技術
No.507
中山間地域における
茶園景観の活用と保全
平成 20 年度
-静 岡 県 産 業 部-
要
1
旨
技術、情報の内容及び特徴
(1)大井川中流域の茶園景観の特徴として、河川沿岸(主要道沿い)の景観に占める茶園
占 有 率 が 比 較 的 高 い こ と 、 河 川 沿 岸 に は 地 形 に 沿 っ た 緩 傾 斜 茶 園 が 多 く 連 続 性 が ある
こと等があげられます。
(2)地域内外の住民を対象とした評価実験の結果から、山間部の茶園景観や丘陵から見下
ろ せ る 景 観 の 評 価 が 高 い 傾 向 が あ り 、 地 域 住 民 で は 「 開 放 感 が あ る 」「 整 然 と し た 」、
地 域 外 住 民 で は 「 静 か な 」「 自 然 が 豊 か な 」 と い う 印 象 を 強 く 与 え る 景 観 の 人 気 が 高
くなりました。
(3)茶園景観の活用策として、川根茶のイメージアップ(自然豊かな茶園景観を商品パッ
ケ ー ジ 等 へ 利 用 )、 川 根 茶 園 八 景 の 創 設 、 グ リ ー ン テ ィ ー ツ ー リ ズ ム へ の 活 用 、 フ ィ
ルムコミッションへの茶園景観の提供等が考えられます。
(4)茶園景観の保全策(耕作放棄の抑止策)として、茶園管理の法人化、茶工場を核とし
た 共 同 摘 採 等 に よ り 地 域 内 で 労 働 力 を 確 保 す る 方 法 や 、 一 社 一 村 し ず お か 運 動 、 茶園
オーナー制を活用することにより地域外から労働力を確保する方法が考えられます。
2
技術、情報の適用効果
( 1 )優 良 茶 園 景 観 を 川 根 茶 の 販 売 戦 略 や 観 光 に 有 効 活 用 す る こ と に よ り 、茶 業 経 営 の 向 上、
茶産地のイメージアップが期待でき、地域振興が図られます。
(2)耕作放棄茶園の増加は地域の景観を著しく損ねるとともに生産体質の弱体化にもつな
が り ま す 。 茶 園 の 景 観 と し て の 価 値 を 評 価 し 耕 作 放 棄 の 抑 止 に 役 立 て る こ と に よ り、
中山間地茶業の振興と存続が図られます。
3
適用範囲
静岡県内の中山間茶産地。
4
普及上の留意点
大井川中流域(川根地域)を対象とした調査及び実験の結果であり、他地域では本結果
や手法を参考として各所の状況に応じて振興策を検討してください。
目
はじめに
1
次
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・ 1
大 井 川 流 域( 川 根 地 域 )の 茶 園 景 観 の 特 徴
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1
・・・・・・・・・・・・・・・・・
1
( 1 )主 要 道 沿 い の 車 窓 景 観 に お け る 茶 園 占 有 率
( 2 )大 井 川 鉄 道 の 車 窓 景 観 に お け る 茶 園 の 出 現 時 間
・・・・・・・・・・・・・・・
2
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
5
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
5
(3)茶園景観の特徴と成立要件
2
茶園景観の評価
( 1 )茶 園 景 観 の 選 定
( 2 )住 民 に 対 す る 評 価 実 験
3
優良茶園景観の活用策
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
5
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
8
( 1 )川 根 茶 の イ メ ー ジ ア ッ プ
( 2 )川 根 茶 園 八 景 の 創 設
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
8
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
8
( 3 )グ リ ー ン テ ィ ー ツ ー リ ズ ム へ の 活 用
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
( 4 )フ ィ ル ム コ ミ ッ シ ョ ン へ の 茶 園 景 観 の 提 供
4
茶園景観の保全策
・・・・・・・・・・・・・・・・・
9
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
9
( 1 )地 域 内 で 労 働 力 を 確 保 し 茶 園 管 理 を 行 う 事 例
(2)地域外から労働力を確保し茶園管理を行う事例
おわりに
8
・・・・・・・・・・・・・・・・
9
・・・・・・・・・・・・・・10
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11
はじめに
静岡県内の中山間地域は古くから良質茶の産地と知られ、県内茶業において重要な役割を
担ってきました。しかし、不利な生産条件に加え、近年の茶価の低迷やリーフ茶需要の減少
から、小規模で零細な個々の茶業経営は年々厳しさを増しており、茶園面積は漸減し耕作放
棄茶園も散見されるようになっています。
中山間地域における茶生産は、機械化や規模拡大による低コスト化には限界があり、付加
価値を高める必要があります。地域の立地条件を活かした特徴的な茶づくりはもとより、周
辺の豊かな自然環境やクリーンな地域のイメージを製品に付加するような販売戦略が重要で
あ る と 考 え ら れ ま す 。国 土 保 全 や 保 健 休 養 と い っ た 農 業・農 村 の 持 つ 多 面 的 機 能 が 評 価 さ れ、
グリーツーリズムが盛んに行われている中で、茶の消費者である都市住民が憩いの場として
中山間地域を訪れた時、茶園を含む地域景観は産地イメージの向上に重要な役割を果たすと
考えられます。
そこで、本研究では、大井川中流域(川根地域)をモデルとして、茶園景観を観光客の目
線からとらえ、その特徴と景観に対する住民意識を明らかにするとともに、得られた結果を
茶を主体とした地域振興に役立てることを目的として、茶園景観の活用策と保全策を提案し
ました。
1
大井川流域(川根地域)の茶園景観の特徴と成立要件
(1)主要道沿いの車窓景観における茶園占有率
川根町身成(現島田市身成)を始点として、
河 川 沿 い の 主 要 地 方 道( 県 道 64 号 線 ,国 道 362
→
号 線 他 )を 終 点 寸 又 峡( 川 根 本 町 千 頭 )ま で 北
上 し 、1km ご と に 車 窓 か ら デ ジ タ ル カ メ ラ( 広
角 ,720 万 画 素 )で 3 方 向( 前 ,左 ,右 )を 撮
影 し ま し た 。次 に 、印 刷 し た 写 真 の 全 体 面 積 と
茶園占有率=茶園部分の面積/写真全体面積
上 記 例 50.9cm 2 /147cm 2 =34.6%
茶 園 部 分 の 面 積 を 測 定 し 、 地 点 ( 1km) ご と の
画 像 中 の 茶 園 占 有 率 を 算 出 し ま し た ( 図 1)。
図1
茶園占有率の算出方法
なお、比較対象として県内の代表的な中山間茶産地である安倍川流域(静岡市)及び天竜
川流域(浜松市)についても同様の調査を行いました。
調 査 結 果 を 図 2 に 示 し ま し た 。始 点 か ら 終 点 ま で に 合 計 46 地 点 の 車 窓 景 観 が 得 ら れ ま し た 。
こ の 区 間 の 車 窓 景 観 中 の 茶 園 占 有 率 は 平 均 5%で 、占 有 率 10%以 上 が 46 地 点 中 9 地 点 あ り ま し
た。特に占有率が高い地点では、山すその低地部分や河岸段丘の斜面において比較的緩傾斜
の 茶 園 が 連 続 的 に 見 ら れ ま し た 。37km 地 点 以 降 、寸 又 峡 に 至 る ま で は 、周 囲 は 山 林 で 集 落 は
な く 茶 園 は 見 ら れ ま せ ん で し た 。 一 方 、 安 倍 川 流 域 の 占 有 率 は 平 均 3%で 、 同 10%以 上 が 40
地 点 中 3 地 点 あ り ま し た 。天 竜 川 流 域 に お い て は 、占 有 率 は 平 均 1%で 、同 10%以 上 が 38 地 点
中 2 地点でした。以上のことから、他の茶産地と比較して、大井川流域(川根地域)におけ
る茶園の出現頻度は高いことが明らかになりました。
- 1 -
30%
全4 6ヶ所
平均占有率5 %
画像中の
茶園占有率
25%
20%
15%
10%
5%
0%
0
5
10
15
20
25
地点(km)
30
35
40
45
大井川流域(川根町身成*~寸又峡)
30%
全4 0ヶ所
平均占有率3 %
←42%
画像中の
茶園占有率
25%
20%
15%
10%
5%
0%
0
5
10
15
20
地点(km)
25
30
35
40
安倍川流域(静岡市賤機~梅ヶ島)
30%
全3 8ヶ所
平均占有率1 %
画像中の
茶園占有率
25%
20%
15%
10%
5%
0%
0
5
10
15
20
地点(km)
25
30
35
40
天竜川流域( 浜松市二俣~佐久間ダム)
図2
三河川流域の車窓景観における茶園占有率
*現 島 田 市 身 成
(2)大井川鉄道の車窓景観における茶園出現時間
60
から千頭駅の区間の車
50
窓景観(進行方向左)
をデジタルビデオカメ
ラで連続撮影し、走行
茶園が見える時間(秒)
大井川鉄道大和田駅
遠景
近景
40
30
20
10
時間中に茶園が映って
いる時間を算出しまし
た。
大井川鉄道(大和田
-千頭間)の走行時間
0
1
3
5
7
9
11
13
15
17
19
21
23
25
27
29
31
33
35
37
39
41
走行時間(分)
大
和
田
家
山
抜
里
図3
笹
間
渡
地
名
塩
郷
下
泉
田
野
口
徳
山
青
部
崎
平
千
頭
大井川鉄道の車窓景観中の茶園出現頻度
は 約 41 分 で 、 そ の う ち 車 窓 か ら 茶 園 が 見 え る 時 間 は 約 17 分 あ り ま し た 。 逆 方 向 ( 千 頭 - 大
和田間)では約 6 分でした。地区別に見ると、抜里~笹間渡、徳山駅周辺、崎平~千頭で近
景 が 、塩 郷 ~ 下 泉 、田 野 口 ~ 徳 山 で 遠 景 の 茶 園 景 観 が 多 く 見 ら れ ま し た( 図 3)。抜 里 地 区 で
は、鉄道の近傍に区画整理事業による平坦で整形な茶園が広がり、徳山駅から青部駅にかけ
ては、市街地に点在する小区画な茶園が車窓に次々に映ります。塩郷から田野口付近にかけ
ては、河 川 対 岸 の山 すそや河 岸 段 丘 の斜 面 に住 宅 と混 在 する緩 傾 斜 茶 園 が連 続 的 に見 えます。
- 2 -
(3)茶園景観の特徴と成立要件
( 1 ) 及 び ( 2 ) の 調 査 結 果 や 達 観 か ら 得 ら れ た 川 根 地 域 の 茶 園 景 観 の 特 徴 を 表 1 に 示し
ました。
表1
大井川流域(川根地域)の茶園景観の特徴
①河川沿岸(主要道沿い)の景観に占める茶園占有率は比較的高い。
②河川沿岸には地形に沿った緩傾斜茶園が多く石段積み茶園は少ない。
③対岸の茶園も遠景に含まれ連続性がある。
④一部で耕作放棄茶園が散見され、市街地を中心に住宅と茶園が混在している。
次に、大井川、安倍川、天竜川の各流域の茶産地における茶業データ及び地形条件、産地
の分布状況を比較することにより、大井川流域(川根地域)の茶園景観の成立要件を考察し
ました。
地 形 断 面( 図 4)か ら 大 井 川 流 域 の 河 川 両 岸 は 平 坦 な 低 地 や 比 較 的 緩 や か な 傾 斜 地 が 多 く 、
地形に沿った茶園造成が行われてきました。これが、緩傾斜茶園が多く見られる大きな要因
と考えられます。これに対し、安倍川や天竜川流域では、河川の両側は急峻な地形となって
います。
大井川流域(川根本町地名)
標
高
安倍川流域(静岡市平野)
標
高
天竜川流域(浜松市龍山町瀬尻)
標
高
図4
三河川流域の地形断面図(景観中の茶園占有率が高い地点)
また、大井川流域において、茶園景観の出現頻度が高く連続性があるのは、産地の立地状
況と河川の蛇行が大きく関係していると考えられます。集落単位の茶園のまとまりを 1 つの
産地としてプロットしたものを図 5 に示しました。
安倍川や天竜川流域では、支流沿いに横方向への広がりが大きく産地間の距離も長いのに
対 し 、大 井 川 流 域 で は 沿 岸 の 18 の 産 地 が 狭 い 範 囲 に 連 な る よ う に 分 布 し て い ま す 。こ れ ら の
産地の場所はこの流域に見られる多くの河岸段丘とほぼ一致しています。この河岸段丘は、
何万年という周期で隆起浸蝕を繰り返しながら幾層にも分かれて河床が下がり形成されたと
されています
1)
。茶の栽培は低位段丘上の集落を中心に上側の台地や傾斜地に広がり
第に産地としてまとまっていったと考えられます。
- 3 -
1)
、次
安倍川流域
表 2 に示したとおり、大
大井川流域
天竜川流域
井川流域の調査ルートであ
寸又川
る川根町身成から寸又峡ま
安倍川
での直線距離に対する河川
天竜川
長 の比 は 1.86 となりました。
本 流 部( 寸 又 川 分 岐 点 ま で )
大井川
に 限 れ ば 1.98 と な り 、安 倍
川 の 1.27 と比 較 するとかな
り大きく、蛇行の激しさを
中河内川
気田川
示しています。蛇行する河
川の流れに挟まれた部分は
笹間川
阿多古川
河岸段丘が突き出すように
藁科川
連なるため、対岸から見る
図5
と、段丘ごとに分布する茶
三河川流域における茶産地の分布
園景観が連続的に映っていくことになります。
表2
調査ルート上の地形
・河川長/直線距離
三河川流域の地形条件及び茶業データの比較
大井川流域
安倍川流域
天竜川流域
52.8km/28.4km=186%
41.0km/32.4km=127%
43.1km/25.2km=171%
130m- 500m
60m- 890m
40m- 250m
川根本町、川根町
旧静岡市の中山間地域
785ha
1,381戸
18
965ha(推 定 )
1,673戸 (推 定 )
9
旧天竜市・龍山村・佐久間
町・水窪町・春野町
355ha
882戸
3
(本 流 部 47.8km/24.1km=198%)
・標高(始点-終点)
茶業データ
・対象地区
・茶 園 面 積( 農 林 業 セ ン サ ス 2))
・茶栽培農家戸数
・沿岸の主要茶産地数
川 根 地 域 の 茶 業 の 始 ま り は 古 く 、17 世 紀 以 前 か ら 栽 培 や 製 造 が 行 わ れ て い た と さ れ て い ま
す。江戸中期以降、次第に高級茶としての名声が高まり、明治中期から今日に至るまで各種
の品評会で多数の入賞を収めてきました。自園自製の形態が多く家族労働を基本に労働集約
的な手摘みによる上級茶生産が近年までの川根茶業の特徴です
3)
。生業である茶は日常生活
と密着し、経営は小規模ながら屋敷に隣接して茶園が植えられ栽培されてきた結果、住宅と
茶園が一体的になった景観が形成されたと考えられます。また、近年では、兼業化や後継者
難により耕作放棄茶園が増加している地区も見られます。
以上、考察された茶園景観の成立要件を表 3 に示しました。
表3
大井川流域(川根地域)の茶園景観の成立要件
①河川幅が比較的広く両岸の地形があまり急峻でないこと。
②狭い範囲に比較的まとまった茶産地が連続的に立地していること、また河川の
蛇行が激しいこと。
③古くから茶業への依存度が高く住宅と茶園が一体となっていること。
- 4 -
2
茶園景観の評価
(1)茶園景観の選定
川 根 町 ( 現 島 田 市 川 根 地 区 、 以 下 略 ) 及 び 川 根 本 町 内 で 撮 影 し た 茶 園 景 観 ( 400 枚 程 度 )
を、地形や周辺の土地利用などの立地条件から数タイプに分類しました。そのうち優良な景
観 の 視 点 場 10 ヶ 所 を 選 定 し 、 統 一 条 件 下 で 再 度 撮 影 し ま し た ( 図 6)。 視 点 場 の 選 定 に 当 た
っては、手前(近景)に茶園が広がり背景(遠景)の山、河川、空、住宅などと調和がとれ
ていることや、ある程度の開放感があり見渡せる視点であることに留意し、なるべく多くの
地 区 か ら 選 ぶ よ う に し ま し た 。 撮 影 は 、 広 角 ( 焦 点 距 離 28mm) の デ ジ タ ル カ メ ラ ( 720 万 画
素 ) を 用 い 、 原 則 と し て 2007 年 4 月 下 旬 ( 一 番 茶 生 育 期 ) の 晴 天 時 に 行 い ま し た 。 10 ヶ 所
の う ち 、 No.1 か ら No.6 は 低 地 や 丘 陵 地 か ら の 景 観 、 No.7 か ら No.10 は 標 高 の 高 い 山 地 か ら
の景観です。
No.1
低地,市街地
No.5
低 地 , 市 街 地 ・山 林
No.2
丘 陵 , 市 街 地 ・山 林
No.3
低地,市街地
No.6
低 地 , 市 街 地 ・山 林
No.7
山地,山林
No.4
丘 陵 , 市 街 地 ・山 林
No.8
山地,山林
図 6 評 価 用 に選 定 した景 観 10 ヶ所 の写
真及び立地状況(地形,周辺土地利用)
No.9
山 地 ,山 林
No.10
山 地 ,山 林
(2)住民に対する評価実験
被 験 者 は 、地 域 住 民 と し て 川 根 町 及 び 川 根 本 町 の 茶 生 産 者 60( 男 51,女 9)名 、地 域 外 か
ら の 来 訪 者( 地 域 外 住 民 )と し て 想 定 し た 静 岡 県 消 費 生 活 モ ニ タ ー 98( 男 10,女 88)名 と し
ました。
写 真 を ラ ミ ネ ー ト 加 工 し た も の を 被 験 者 に 提 示 し 、写 真 ご と に SD(Semantic Differential)
- 5 -
法 *に よ る 質 問 を 行 い ま し た( 図 7)。例 え ば 、No.1 の 景 観 に つ い て 、
「 あ な た は 、こ の 景 観 を
見て静かな感じがしますか?」という質問を行い、7 段階から選択してもらいました。評価
尺度の選定に際しては、過去の農村景観研究における知見
4~ 5)
を参考にするとともに、事前
に行った予備調査をから得られた印象を示す形容詞を対にして整理しました。
ま た 、10 ヶ 所 の う ち 行 っ て み た
い(又は好きな)景観を選択して
もらうとともに、好ましくない景
観構成要素を選択肢から選択して
もらい、いずれも 3 つ以内の複数
回答可としました。評価実験から
かなり
非常に
静かな
7
開放感がある
7
ほっとする
7
遊んでみたい
7
親しみやすい
7
整然とした
7
調和した
7
自然が豊か
7
得られたデータをもとに、地域住
民と地域外住民の間の茶園景観に
図7
-6
-6
-6
-6
-6
-6
-6
-6
どちらでもない
やや
やや
- 5 -4 - 3
- 5 -4 - 3
- 5 -4 - 3
- 5 -4 - 3
- 5 -4 - 3
- 5 -4 - 3
- 5 -4 - 3
- 5 -4 - 3
かなり
-
-
-
-
-
-
-
-
2
2
2
2
2
2
2
2
非常に
- 1 騒がしい
- 1 囲まれ感がある
- 1 落ち着かない
- 1 そう思わない
- 1 親しみにくい
- 1 雑然とした
- 1 調和していない
- 1 人工的
SD 法 に よ る 評 価 尺 度 ( 8 項 目 7 段 階 )
対する意識差についてを統計的手法を用いて解析しました。
*SD 法 : 好 き ・ 嫌 い 、 強 い ・ 弱 い 、 高 い ・ 低 い な ど 対 立 す る 形 容 詞 を 両 極 と し 、 5~ 7 段 階 な ど の 複 数 の
段階で傾向を調査する評価方法のこと。様々なイメージ調査などで広く利用されている。
ア
選好性
景 観 No.1 か ら No.10 の 選 好 度 を 図 8 に 示 し ま し た 。選 好 度 は 、行 っ て み た い( 又 は 好 き
な )景 観 と し て 10 ヶ 所 の う ち か ら 、そ の 景 観 を
選択した被験者の割合です。全体的な傾向とし
1
て山 間 部 の景 観 の選 好 度 が高 くなり、特 に No.10
2
は地域外住民の評価が高くなりました。また、
3
標 高 の低 いところでも No.4 のような丘 陵 から見
4
下ろせる景観は地域住民の評価が高くなりまし
5
地域住民
景観No.
た。
地域外住民
※地域外n=98、地域n=59
※複数回答(3つまで)可
6
7
イ
8
茶園景観に対する住民間の意識差
SD 法 により得 られた平 均 点 の住 民 間 の差 を統
9
計的手法により検定を行った結果、全体的に地
10
域外住民は地域住民よりも各景観を高く評価す
0%
20%
40%
60%
80%
選択率
る 傾 向 が 見 ら れ ま し た 。 10 ヶ 所 の 景 観 の う ち
No.5, 6, 10 に つ い て は 、 半 数 以 上 の 評 価 尺 度
図8
地域住民及び地域外住民の茶園
景観の選好度
において地 域 外 住 民 のほうが有 意 に評 価 が高 く、
特に、
「 整 然 さ 」や「 調 和 の よ さ 」に つ い て 高 く
な り ま し た 。 No.7 に つ い て は 、 地 域 住 民 の ほ う が 高 く 評 価 し ま し た 。( 表 4)
- 6 -
表4
目的変数
y
=
景 観 の選 好 度
(その景 観 を選
んだ人 の割 合 )
No.1
偏回帰
係数
a1
重み 1
No.2
茶園景観に対する住民間の意識差
No.4
No.5
No.6
No.7
No.8
No.9
No.10
静かな
* 0.35
0.15
** 0.57
0.20
** 0.61
** 0.37
-0.11
0.05
* 0.24 ** 0.32
開放感がある
-0.10 -0.05
0.40
0.16
** 0.60
** 0.36
-0.22
0.23
0.22 ** 0.42
ほっとする
0.38
0.22
** 0.50
0.15
** 0.74
** 0.39
-0.16
0.20
0.11 ** 0.35
遊んでみたい
0.01
0.03
0.38
0.00
* 0.47
0.01 ** -0.54
0.19
0.02
0.20
親しみやすい
* 0.45
0.14
* 0.46
0.28
** 0.58
0.20
-0.35
0.12
-0.14
0.30
整然とした
-0.34 -0.09
* 0.39
0.05
** 1.01
* 0.32
-0.23 ** 0.60
0.25
0.40
調和した
-0.27
0.01
0.30
0.19
** 1.05
** 0.56
-0.28
* 0.51
* 0.27 ** 0.57
自然が豊か
0.35
0.18
0.33 * 0.39
** 0.61
** 0.51
0.11
0.12 ** 0.47 ** 0.60
※ 表 中 の 数 値 は 、 SD 法 に よ り 得 ら れ た 平 均 点 の 差 ( 地 域 外 住 民 - 地 域 住 民 )。 - (負 )の 符 号 は 地 域 住 民 の ほ う
が評価が高いことを示す。
※ 表 中 の ア ス タ リ ス ク は 、Mann-Whitney の U 検 定 に よ り デ ー タ 分 布 に 有 意 差 が あ っ た も の( **:0.01>,*:0.05>)。
評 価 尺 度 \ 景 観 No.
No.3
説明変数
x1
+
評価尺度 1
の設 問 に
対 する得 点
偏回帰
係数
a2
重み 2
説明変数
定数項
x2
+ ・・・・
+
b
...式 1
評価尺度 2
の設 問 に
対 する得 点
*重 回 帰 分 析 とは、目 的 変 数 と説 明 変 数 の関 係 を調 べ、関 係 式 を作 成 しこれを用 いて、予 測 式 を作 ったり、説 明 変 数 が
目 的 変 数 に及 ぼす影 響 度 を明 らかにする手 法 である。偏 回 帰 係 数 が大 きいほど目 的 変 数 への影 響 度 が高 くなる。
次に、各景観の選好度が、いくつかの評価
地域住民
開放感のある
尺度が影響を及ぼし合って成り立っているも
.68
の と 考 え 、目 的 変 数 を「 各 景 観 の 選 好 度 」、説
整然とした
.50
静かな
地域外住民
.48
及ぼす評価尺度は、地域住民では「開放感」
や「 整 然 さ 」、地 域 外 住 民 で は「 静 か さ 」や「 自
民 で は「 開 放 感 が あ る 」
「 整 然 と し た 」と い う
選好度
.16
R2=.21**
.32
.72
その結果、各景観の選好度に大きく影響を
然 の 豊 か さ 」で し た( 図 9)。つ ま り 、地 域 住
.27
静かな
明変数を「各評価尺度における得点」として
重 回 帰 分 析 *を 行 い ま し た ( 式 1)。
.22
.62
自然が豊か
.54
.25
選好度
- .13
R2=.25**
親しみやすい
評価尺度と選好度を結ぶ矢印上の数値は偏回帰係数。
評価尺度間を結ぶ矢印上の数値は評価尺度間の相関係数。
R2は重相関係数(**:0.01>)、数値が大きいほど重回帰式の精度が高い
ことを意味する。
印象を強く与える景観の評価が高くなり、地
図9
域 外 住 民 で は「 静 か な 」
「 自 然 が 豊 か な 」と い
各景観の選好度を目的変数とする
重回帰分析の結果
う印象を強く与える景観の評価が高くなると
電線電柱
いうことです。
ウ
住宅建造物
ガードレール
好ましくない景観構成要素
鉄塔
好ましくない景観構成要素として、電線・
の人工物が選択されました。防霜ファンにつ
小屋
構成要素
電柱、住宅建造物、ガードレール、鉄塔など
防霜ファン
道路
地域外住民
いては、地域外住民よりもむしろ地域住民の
その他
ほうが好ましくないと考える割合が高く、地
土手法面
域外から訪れる人にとっては思ったよりも景
立木
観上気になっていないということが推察され
石垣
地域住民
※地域外n=98、地域n=56
※複数回答(3つまで)可
0%
ま し た 。( 図 10)
20%
40%
60%
80%
100%
選択率
図 10
- 7 -
好ましくない景観構成要素
3
優良茶園景観の活用策
(1)川根茶のイメージアップ(商品パッケージ等への利用)
川根茶は全国でも数少ないブランド力を持つ産地銘柄ですが、近年のリーフ茶需要は減少
傾向にあり、川根茶のブランド力を一層強化し需要を回復するための戦略が必要です。
静 岡 県 立 大 学 岩 崎 准 教 授 は 、 お 茶 の マ ー ケ テ ィ ン グ 戦 略 と し て 、 what( 何 を 売 る の か ) で
は な く why( な ぜ 買 う の か )に 注 目 し 、「 茶 の あ る ラ イ フ ス タ イ ル を 売 る 」こ と や「 緑 茶 の あ
る地域を売る」ことを提唱しています
6)
。
これまでのように、茶を売ることを主眼に置き高級茶を中心とした茶そのもののPRのみ
を行うのではなく、清流大井川や自然環境に恵まれた山間地の良いイメージを商品に付加す
ることは有効な販売戦略と考えられます。都市住民(=消費者)が好みそうなイメージの茶
園景観を選定し、茶商品のパッケージやパンフレット、HPなどに活用してはどうでしょう
か。
(2)川根茶園八景の創設(観光への利用、ビューポイントの整備)
昔の人々は何気ない風景を深く味わう手だてとして「八景式」を考えました
7)
。日本では
安 藤 広 重 が 描 い た「 近 江 八 景 」
「 金 沢 八 景 」な ど が 有 名 で す 。川 根 地 域 に は 自 然 と 調 和 し た 多
くの優良茶園景観があります。そこで、多くの景観から選りすぐられた「川根茶園八景」を
創設しビューポイントとして整備してはどうでしょうか。八景の場所の選定に際しては、観
光・茶 業 関 係 者 、景 観 研 究 者 、都 市 住 民( 消 費 者 )、地 域 振 興 リ ー ダ ー な ど が チ ー ム を 編 成 し
多面的に検討することが大切です。そのためには、現地に数回足を運び、写真では感じるこ
とのできない眺望や雰囲気を体感し、季節ごとの景観の良否、アクセスのしやすさ、観賞用
施設(ベンチ、柵等)の設置の可否、お茶体験によるもてなしの可能性等についても考慮す
る必要があると思われます。
( 3 )グ リ ー ン テ ィ ー ツ ー リ ズ ム へ の 活 用 (景 観 とお茶 体 験 を組 み合 わせた来 訪 者 へのもてなし)
緑茶の振興と静岡らしい観光を提案するため茶産地やお茶の歴史、お茶のおいしさを訪ね
る「グリーン・ティー・ツーリズム」が提唱されています
8)
。このグリーンティーツーリズ
ムに景観観賞やお茶体験を組み入れ、全国や海外からの来訪者に、茶を五感で体験してもら
ってはどうでしょうか。
味覚と嗅覚で茶の香味を楽しみ、視覚で景観を楽しみ、聴覚で山あいの静けさや川のせせ
らぎ、鳥のさえずりを聴き、触覚で茶芽の手触りやすがすがしい空気を感じるとともに、来
訪者が産地の人々のもてなしの気持ちを直接感じることができ、顔が見えることによる安心
感を得られます。
また、農業・農村体験には保健休養(癒し)効果があることが報告されています
9)
。 茶を
素 材 と し た 体 験 に は 、お 茶 摘 み 、茶 染 め 、茶 菓 子 づ く り や 茶 を 使 っ た 料 理 、闘 茶( 茶 歌 舞 伎 )、
写真コンテスト、地元生産者との交流などが考えられます。お茶摘みなどは生産時期や作業
の繁忙期と重なることが予想されますが、品種や整枝技術の導入、標高差の利用、多様な茶
種の生産等により摘採時期の延長を図るとともに、観光協会や日本茶インストラクターなど
の支援も含めて組織的に行うことにより対応することが望まれます。
- 8 -
( 4 ) フ ィ ル ム コ ミ ッ シ ョ ン *へ の 茶 園 景 観 の 提 供
川 根 地 域 に は 、清 流 大 井 川 、SL、渓 谷 な ど 優 れ た 映 像 素 材 が 豊 富 に あ り 、近 年 で は 、TV ド
ラマや映画の撮影も行われています。前述のとおり、乗用車や鉄道の車窓から連続的に見え
る茶園景観や山間部の優良茶園景観は希有な存在であり、これを映像化、画像化し、フィル
ムコミッションへ積極的に提供したいものです。ロケ地として採用され当地域の茶園景観が
TV や 映 画 を 通 じ て 全 国 に 配 信 さ れ れ ば 、誘 客 効 果 と と も に 茶 産 地 と し て の イ メ ー ジ ア ッ プ の
効果も期待できます。
*フ ィ ル ム コ ミ ッ シ ョ ン : 映 画 、 テ レ ビ ド ラ マ 、 CM な ど の あ ら ゆ る ジ ャ ン ル の ロ ケ ー シ ョ ン 撮 影 を 誘 致 し 、
実 際 の ロ ケ を ス ム ー ズ に 進 め る た め に さ ま ざ ま な サ ー ビ ス を 行 う 窓 口 機 関 で 、 民 間 、 NPO な ど 県 内 に 6 団 体
がある。
4
茶園景観の保全策
耕作放棄された茶園は地域の景観を著しく損ねます。耕作放棄地が発生するのは、茶業の
担い手の高齢化や後継者難に伴う労働力不足が大きな要因となっています。ここでは、事例
調査から、地域内外から茶園管理に必要な労働力を確保する方法について検討しました。
(1)地域内で労働力を確保し茶園管理を行う事例
担い手不足が進展する中で、地域内で労働力を確保し茶園管理を行っている事例として、
農 業 生 産 法 人 で あ る (有 )G・F は 、茶 園 管 理 部 門 の 法 人 化 に よ り 作 業 の 合 理 化 と コ ス ト 削 減 を
行 っ て い ま す 。 (農 )H・I 園 で は 共 同 摘 採 に よ り 相 互 の 労 働 力 の 補 完 を 行 う と と も に 生 葉 品 質
の 安 定 化 を 図 っ て い ま す 。JA か ら 分 社 化 し た ア グ リ セ ン タ ー 都 城 茶 事 業 部 は 、農 地 保 有 合 理
化事業を活用して借り受けた農地において、茶の植栽・成園化から生葉生産・荒茶加工まで
の茶業経営 を行うことにより、農 地 の 有 効 利 用 と 遊 休 農 地 の拡大防止 を図っています。
( 表 5、
図 11)
表5
地域内で労働力を確保し茶園管理を行っている事例
活動名
地区名
活動組織名
茶園管理部門の法人化
掛川市
(有 )G ・ F
茶工場による組織的茶園管理
浜松市春野町
(農 )H ・ I 園
活動開始年度
組 織 の 状 況 10,11)
構成員数
平 成 16 年 1 月 設 立
平 成 12 年 3 月 設 立
社 員 4 名 、 パート 3 名 、 臨 時 約 30
名
18ha
生葉生産、作業受託
組 合 員 16 名 、 パート 2 名 、 アルバイト 5
~ 6 名 /日 、 生 葉 会 員 15 名
16ha、 買 葉 6ha
共同摘採、製茶・販売
乗 用 型 茶 園 管 理 機 5 台 、可 搬 型 摘
採機 5 台他
生葉生産の共同化による作業合
理化とコスト削減
乗用型茶園管理機 3 台、可搬型摘
採 機 、 製 茶 機 械 120KL 他
共同化による経営合理化、生葉品
質の統一
特徴
全茶園を法人が借地(利用権設
定)
可搬型を中心とした共同摘採
(摘採以外は個別管理)
活用事業等
強い農業づくり交付金事業
新山村振興等農林漁業特別対策事
業
不耕作農地の借り受け・成園化、
正社員と登録社員による計画作
業
農 地 保 有 合 理 化 事 業 、国 庫 補 助 事
業(防霜ファン、茶工場)
成果及び今後
の 課 題 (問 題
点)
・作業能率の向上、コスト低減
・課 題:規 模 拡 大 と 雇 用 増 加 の バ
ランス維持
・生葉品質の安定、技術の高位平
準化
・課題:茶園評価法、共同摘採の
体制改善
・農地集積と計画的な規模拡大
・課 題:幼 木 の 成 園 化 に 伴 う 摘 採
集中及び管理作業の増大への
対応
茶園面積
事業内容
所有機械等
設立及び活動
の目的
- 9 -
JA 関 連 会 社 に よ る 茶 園 管 理
宮崎県都城市
(有 )ア グ リ セ ン タ ー 都 城 茶 事 業
部
平 成 13 年 7 月 設 立
正 社 員 6 名 、 年 間 雇 用 20 名 、 季
節 雇 用 23 名 、 シルバー 20~ 25 名
129ha
農 地 集 積 、植 栽・成 園 化 、生 葉 生
産・製茶・販売
乗 用 型 摘 採 機 5 台 、乗 用 型 防 除 機
8 台 、 製 茶 機 械 120KL 他
遊 休 農 地 の 発 生 防 止 、茶 生 産 事 業
図 11
共 同 摘 採 と ト ラ ッ ク へ の 積 み 込 み 作 業( 浜 松 市・H I 園 )
(2)地域外から労働力を確保し茶園管理を行う事例
地 域 外 から労 働 力 を確 保 し茶 園 管 理 を行 っている事 例 として、静 岡 市 梅 ヶ島 大 代 地 区 では、
一社一村しずおか運動を活用し、静岡大学と連携して学生を労働力として迎え入れ、地域の
活性化につなげています。京都府和束町では茶園オーナー制により、都市住民との交流を図
り な が ら 茶 園 管 理 作 業 へ の 参 加 を 促 し て い ま す 。( 表 6、 図 12)
表6
活動名
地区名
支 援 者 (組 織 )名
(事務局)
活動開始年度
作業支援状況
人数
回数
対象面積
作業内容
地域外から労働力を確保し茶園管理を行っている事例
学生による援農
静岡市葵区梅ヶ島大代地区
静岡大学農学部
( 静 岡 大 学 農 学 部 現 代 GP 運 営 委 員 会 )
平 成 19 年 度
茶園オーナー制
京都府和束町
和束町ほっこりサークル
(和束町商工会)
平 成 12 年 度
使用機械等
学 生 31 名
年間 6 回(うち 4 回は宿泊)
地 区 茶 園 面 積 12ha
茶園の除草、茶樹更新、改植園の抜根、施肥
山葵の調整・植付け、椎茸のほだ木運搬
二人用茶刈機、運搬車
サ ー ク ル 会 員 約 250 名 ( 作 業 は 希 望 者 の み )
不定期、随時
オ ー ナ ー 茶 園 12a
荒 廃 茶 樹 の 伐 採 ・ 抜 根 ( 初 年 度 の み )、 茶 摘 み 、
茶園の除草、敷草
バックホー等
目的
地区側
支援者側
労働力の確保、都市住民との交流
農作業体験学習
耕作放棄茶園の再生、都市住民との交流
地区住民との交流
活用事業等
現 代 的 教 育 ニ ー ズ 取 組 支 援 プ ロ グ ラ ム( 文 部 科
学 省 )、 静 岡 県 一 社 一 村 し ず お か 運 動
広域活性化事業(中小企業庁,当初 3 年間)
成果及び今後の
課 題 (問 題 点 )
・参 加 学 生 及 び 地 区 住 民 の 評 価 は 良 好 で 、地 区
内の活性化につながっている。
・課題:カリキュラム上の学生の誘導方法
・地区と都市の交流促進。
・問 題 点:交 流 イ ベ ン ト の 減 少 に 伴 う 会 員 の 漸 減 、
園主の耕作再開に伴う作業内容の縮小
図 12
静岡大学農学部学生による農作業支援と地元住民との交流
耕作放棄の大きな要因である茶園管理の労働力不足を地域内で補うために、茶工場を核と
した共同作業や生産組織による作業受託が取り組みやすいと考えられます。茶工場内で摘採
- 10 -
を共同化することにより生葉品質の安定などの副次的効果も期待できます。地域の中核的担
い手を中心として生産組織を構成することにより、機械の共有化や労働力の効率的な配置が
図られ、作業受託も可能となります。
耕作放棄防止のための方策を実践するには、個々の生産者レベルでは困難が伴います。労
働 力 の 相 互 補 完 や 作 業 受 託 組 織 の 育 成 に は 、共 同 茶 工 場 や JA が 主 導 と な り 体 制 整 備 を 行 う こ
と が 期 待 さ れ ま す 。 近 年 開 発 が 進 ん で い る GIS に よ る 茶 園 情 報 シ ス テ ム は 、 筆 ご と の 条 件 や
管理状況のデータを集約し視覚化することができることから、茶工場単位での導入も考えら
れます。一方、一旦耕作放棄された茶園を再生するには、伐採や再改植に要する経費も考慮
しなければなりません。また、急傾斜地など極端に条件の悪い茶園は耕作を断念し、他の作
目の栽培を選定したり、少しでも条件の良い茶園に労働力や設備を投資することが得策と思
われます。
静 岡 県 で は 、 一 社 一 村 し ず お か 運 動 ( 建 設 部 農 地 計 画 室 ) *を 進 め て お り 、 平 成 19 年 度 現
在県内の農山村 6 地区において、企業等が農作業の支援を行っています。企業側は社員教育
の 一 環 と し て 、農 山 村 に は 労 働 力 が 確 保 さ れ 、更 に 住 民 と 支 援 者 の 間 に 交 流 が 生 ま れ た 結 果 、
地域の活性化にもつながっています。
全国的には水田の耕作放棄を防止するため棚田オーナー制を実施している多くの事例が見
られます。茶についても中山間地の条件不利地域では、茶園オーナー制を導入することも考
えられます。茶園オーナー制度は、カバーできる面積も小さくオーナーの都合が優先される
ため労働力の安定確保という点では問題があります。しかし、都市住民との交流促進により
川根茶のファン拡大につなげる効果は大きいと思われます。
*一 社 一 村 し ず お か 運 動:都 市 部 の 企 業 と 農 山 村 地 域 に 住 む 人 の 交 流 を 促 進 し 、農 山 村 の 自 然 環 境 保 全 や 健
全な農業振興を図ることを目的とする。里山の保全や耕作放棄地の復元などの作業を協働で行う。
おわりに
本研究を進める中で、多くの方から「景観で飯は食えない」という御意見をいただきまし
た 。反 対 に 、
「 中 山 間 地 の 活 性 化 の た め に は 景 観 の 活 用 も 重 要 だ 」と い う 御 意 見 も あ り ま し た 。
近年では農業農村の多面的機能(国土保全、水源涵養、良好な景観の形成、保健休養、教育
など)への関心が高まり評価されるようになってきました。今後の産地存続のためには、貴
重な地域資源である茶園景観の活用方法を含め、
「 茶 」を 売 る こ と だ け で な く「 茶 の あ る 地 域」
を売るという発想が必要ではないでしょうか。本研究の成果が、川根地域だけでなく、本県
の中山間地茶業の活性化の起爆剤となることを期待します。
農林技術研究所茶業研究センター
- 11 -
主任研究員
鈴木利和
参考文献
1) 大石孝, 1996. 大井川の周辺と農村の移り変わり,p56-77.
2) 農林水産省, 2005. 2005 年農林業センサス.
3) 中川根町史編さん委員会, 2006. 中川根町史 近現代通史編,p86-93, 812-817,榛原郡川根本町.
4) 栗田英治・木村吉寿・松森堅治・長利洋, 2004. 棚田景観の評価構造と関係する物理的指標,農村計画論文集第 6 集,
p85-90.
5) 田之倉直子・横張真・山本勝利・加藤好武, 1999. 地元住民による水田景観の認知構造,ランドスケープ研究, 62(5),
727-732.
6) 岩崎邦彦, 2007. 川根茶マーケティング講演会配付資料.
7) 進士五十八・森清和・原昭夫・浦口醇二, 1999. 風景デザイン,p36-42,学芸出版社,京都市.
8) 相川香, 2007. お茶の新しい楽しみ方の提案,月刊茶 2007 年 12 月号,6-11.
9) 山本徳司, 2008. 農業・農村体験の教育・保健休養効果についての心理的・生理的評価,農業および園芸, 83(1),
86-94.
10) 静岡県農業水産部お茶室, 2006. 茶園管理組織経営体育成のすすめ,p14-26.
11) (有)アグリセンター都城, 2007. (有)アグリセンター都城事業概要資料.
- 12 -
平成20年10月発行
静岡県産業部振興局研究調整室
〒420-8601
静岡市葵区追手町 9-6
TEL 054-221-2676
Fly UP