...

136(平成18年9月)(PDF文書)

by user

on
Category: Documents
1

views

Report

Comments

Transcript

136(平成18年9月)(PDF文書)
畜産技術センター情報
No.136
<トウモロコシの収穫作業>
2006.9
広島県立畜産技術センター
広島県庄原市七塚町 584
TEL:0824−74−0331
◇ ◆ ◇ ◆ も く じ ◆ ◇ ◆ ◇
◇研究速報◇
子実消化性を高めた飼料イネ TMR による飼料利用性と乳生産向上
技術--------------------------------------------------------------------------------------- 1
遺伝子型検査を活用した種雄牛の選抜------------------------------------------ 2
◇課題紹介◇
稲こうじ病罹病イネが混入した飼料イネホールクロップサイレージ
がウシの生産性に与える影響の解明とその回避技術の確立--------------- 3
集落法人による TMR センターへの安定的自給粗飼料供給のための
低コスト生産技術と利用技術の開発--------------------------------------------- 5
中山間水田における飼料イネを基軸とする耕畜連携システムの確立
(地域総合確立試験)--------------------------------------------------------------- 6
乳用牛性判別胚の生産技術の開発------------------------------------------------ 7
広島県独自の有機性資源循環システムの開発--------------------------------- 9
環境に配慮した小規模移動放牧における繁殖和牛の飼養管理技術------ 11
◇研究トピック◇
カウトレーナーによるふん尿の牛床・牛体汚染の防止効果--------------- 12
簡易バイオプシー法を用いたウシ性判別産子の生産にはじめて成功--- 14
◇ニュース◇
河野副主任研究員が関西畜産学会賞を受賞------------------------------------ 16
県立畜産技術センターOB藤川氏が枡田賞を受賞--------------------------- 17
第6回広島県堆肥共励会,盛大に開催!--------------------------------------- 18
◇研究速報◇
子実消化性を高めた飼料イネ TMR による
飼料利用性と乳生産向上技術
1 成果の概要
飼料イネの利用拡大のために,高泌乳牛への給与で問題となる子実排せつを低減する技
術開発のなかで,飼料イネの育種,機械による圧搾破砕の効果,飼料イネの脱粒性程度の
影響,子実の消化性を改善した飼料イネでの泌乳前期の飼養効果について検討し,乳生産
を向上させる技術を開発した。
2 技術の内容
(1)消化性を阻害するケイ酸含量の低い品種の「GR1」は可消化養分総量が高く,植物体
の粗灰分含量の低下が寄与しており,育種へ応用する利点がある。
(2)子実を圧搾,破砕する物理的加工処理は,子実排せつ率を 15%程度にまで顕著に低下
させ,乳量,乳糖率や無脂固形分率を向上させる。また,子実の破砕は主として採食時
に行われ,飼料を嚥下可能な粒度にする際の抵抗(乾物摂取量当りの採食時間の増加)
が子実破砕の機会を増加させており,切断長の長いものは子実排せつ率の低下に寄与す
る。飼料イネの切断長は 3cm 程度が推奨される。
(3)子実が枝梗から外れる際の抗張強度(脱粒性程度)の大きいものは子実排せつ率を有
意に低下させる。抗張強度の育種的強化は,圃場における刈取ロスを軽減するとともに,
給与における栄養的損失を抑制し,生産性の向上に寄与する可能性が示唆される。
(4)分娩後 10 週程度までの TMR 中の稲発酵粗飼料(切断長 3cm)の乾物混合割合は泌乳
成績維持には,25%程度が望ましい。なお,分娩後 10 週以降であれば,30%でも問題な
い。
3 今後の展開と活用
(1)消化性向上に効果のある低ケイ酸含量品種の開発や抗張強度の強化について,今後の
飼料イネの育種への導入が計画されている。
(2)飼料イネ WCS を用いた TMR 調製の指標として,TMR 供給センターや酪農家が活用
できる。
(3)これらの知見をもとに,飼料イネ WCS の広域流通,広域利用を推進するため,大都
市で滞留している食品製造副産物と組み合わせ,貯蔵性および嗜好性を向上させた発酵
型 TMR を用いた給与技術について,現在検討中である。
【飼養技術部】
1
◇研究速報◇
遺伝子型検査を活用した種雄牛の選抜
1 成果の概要
本県では,直接検定候補牛について,親が持つ産肉形質にプラスの効果を及ぼす遺伝子
型を子が受け継いでいるか検査し,その結果を直接検定牛選定に活用している。
(1)BMS(脂肪交雑)にプラス効果がある遺伝子型(プラス型)を保有している「安芸
糸福」は,平成 15 年度分割卵検定牛として導入された。分割卵検定肥育牛の肉質成
績は,育種価の推定値より良好な成績であった。算出された育種価と併せて評価を行
い,平成 18 年度に基幹種雄牛として選抜された。
(2)38 頭の「糸福(鹿児島)
」産子で直接検定候補牛の遺伝子型検査を行い,プラス型
を保有していた 17 頭の中から,発育・線形等の優れた 5 頭を選定し,平成 14 年度直
接検定を行った。検定の結果,プラス型を保有している「雪乃萬寿」と「夢高野」の
2 頭が種雄牛候補牛として選抜され,現在,現場後代検定中である。
2 技術の内容
育種価
遺伝子型
育種価算出のためには,肥育産子の肉
質成績が必要であり,各々の産子の肉質
成績が出る約 5 年先まで算出できない。
その期間は,両親の育種価を足して 2 で
割った値で育種価の推定値を算出するた
め,右図の 3 頭の育種価の推定値は同じ
になる。
一方,両親からの遺伝子型は,数多く
同じである
異なっている
の組み合わせで産子に伝わるため,右図
図 育種価と遺伝子型の違い
の 3 頭の遺伝子的能力は異なっている。
そのため,産肉形質にプラスの効果があ
る染色体を探索し,1 対の染色体のうちプラス型である方を判明させ,保有の有無を検査
することで,親が持つ遺伝的能力を受け継いだ能力の高い産子を確実に選定することが可
能となる。
3 今後の展開と活用
(1)
「安芸糸福」の選抜方法と同様に,
「安芸糸福」
,
「宮島」
,
「北国7の 8」
,
「宝栄 2」及
び「9 大幸」の後代種雄牛を造成する際に,遺伝子型検査の結果を活用できる。
(2)
「雪乃萬寿」と「夢高野」が基幹種雄牛として選抜されると,遺伝子型検査の結果を活
用できる範囲が広がる。
(3)膨大な肉質成績と血縁情報に基づいた育種価を用いた現在の育種改良方法に,遺伝子
型の情報を付加することで,優秀な種雄牛を確実に造成することが可能になる。
【生物工学部】
2
◇課題紹介◇
稲こうじ病罹病イネが混入した飼料イネホールクロップ
サイレージがウシの生産性に与える影響の解明と
その回避技術の確立
1 背景・目的
現在,飼料イネの増産に向けた取り組みがなされる一方で,多くの飼料イネに稲こうじ
病の発生が見られ,飼料イネを給与する農家では,これを不安視している。そのため,本
県の活性化行動計画に示された,
「水田を中心とした自給粗飼料生産の拡大」
を阻害する要
因になっている。そこで,稲こうじ病罹病飼料イネのウシへの影響程度を明らかにし,そ
の影響を回避する技術を,栽培・サイレージ調製・給与方法の3つの側面から確立する。
2 期待される効果
(1)安心・安全を付与した飼料イネホールクロップサイレージの給与量が増加する。
(2)飼料イネ生産量が増加し,飼料自給率が向上する。
3 研究内容とスケジュール
(1)稲こうじ病罹病イネが混入した WCS のウシへの給与試験
ア 飼料摂取量の調査---------------------------------------------------------(H18∼20)
イ 嗜好性,生産性に影響しない摂取許容量の算定----------------(H18∼20)
(2)ウシへの影響回避方法の開発
ア 栽培時の防除方法の検討(種子消毒による防除,出穂前
の湛水処理,刈り取り後の湛水処理,薬剤散布)--------------(H18∼20)
イ サイレージ調製時の影響回避技術(アンモニア処理)--------(H18∼19)
ウ 給与時の影響回避技術(鉄の添加,水酸化カルシウム添
加,市販吸着剤の添加)------------------------------------------------(H18∼19)
エ 毒素量の簡易測定法の開発---------------------------------------------(H19∼20)
【飼養技術部】
3
研 究 課 題 の 概 要 図
背景
罹病種子と罹病残渣 記録的な多雨 刈取時期の遅れ
(晩生品種)
平成 16 年,飼料イネに稲こうじ病が多発
WCS は黒っぽくなる
飼料イネ WCS への稲こうじ病菌の混入 ウシは食べなくなる
疾病との関連を疑う
〔罹病した稲〕
畜産農家の不安増大
ウシへの毒性は?
安全なのか?
課題
1. 栽培上の課題
(1)罹病種子の混在:比重が軽いため,塩水選が困難,種子消毒剤が無い
(2)胞 子 の 飛 散:罹病残渣の飛散
(3)薬 剤 散 布:薬剤の使用が限定
(4)刈 取 時 期:早生品種を用いる等,刈取時期を早めれば防げると考えられるが,広
島県では主に,耕種・畜産両農家が連携した集落農場型農業生産法人
のかたちで飼料イネの栽培・利用に取り組んでおり,水稲を収穫した
後で飼料イネの収穫を行うことから,必然的に作付けは遅くなり,品
種も晩生品種を利用せざるを得ない。
2. 調製・給与上の課題
(1)ウシへの影響 ①病原性の有無が不明
(2)調製時の課題 ①サイレージとして保管中の毒素量の変化が不明
②薬剤を用いて調製時に解毒する方法が分からない
(3)給与量・給与方法
①毒素量測定方法がない
②育成牛・乾乳牛・泌乳牛への給与限界量が分からない
③給与時に薬剤を添加して解毒・吸着する方法が分からない
研究内容
1. 稲こうじ病の栽培時における防除法を検討する。
・出穂 20 日前から湛水を保ち,胞子の飛散防止
・出穂 20 日前に薬剤防除
2. 稲こうじ病菌汚染飼料の,ウシに対する病原性の有無及び摂取許容量を明らかにする。
3. 飼料イネ WCS 中の稲こうじ病菌毒素の解毒方法を探る。
4. WCS 中の毒素量を推定するための簡便な測定方法を開発する。
4
◇課題紹介◇
集落法人によるTMRセンターへの安定的自給粗飼料
供給のための低コスト生産技術と利用技術の開発
1 背景・目的
農業の担い手として,集落単位で農地を集積し法人経営を行う集落農場型農業生産法人
(集落法人)が重要となってきている。集落法人は,収益の上がる転作作物を求めている。
飼料作物は,水稲と作業競合しない時期での周年栽培が可能であり,他の作物に比べ省力
的で低コストに栽培できるので,転作作物として有望である。また,既に導入されている
ダイレクトカット収穫可能な飼料稲専用収穫機により収穫できるので,機械の有効利用が
図られる。
現状では自給粗飼料の利用は生産地の近辺に限定されている。混合飼料(TMR)供給
センターを活用することで広域利用を推進し,自給粗飼料の利用を拡大する必要がある。
そこで,作業競合しない時期での転作田における飼料作物栽培技術の開発,ダイレクト
カットサイレージを用いた乳牛用TMR調製給与技術の開発を行い,飼料作物周年栽培に
よる集落法人の経営強化と自給粗飼料の安定供給を目指す。
2 期待される効果
(1)転作田において飼料作物の周年栽培が確立し,集落法人の経営が安定する。
(2)転作田での堆肥の利用量が増加する。
(3)自給粗飼料の安定供給が可能となり,TMR センターで調製する TMR 中の粗
飼料に占める自給粗飼料割合が増加する。
(4)酪農経営体で自給粗飼料の利用が増加する。
3 研究内容とスケジュール
(1) 作業競合しない時期での転作田における低コスト
飼料作物生産技術の開発
ア 作業競合しない時期に栽培可能な転作田に適する草種の選定-------(H18∼19)
イ 堆肥を利用した高収量,低コスト栽培技術の検討-----------------------(H19∼22)
ウ ダイレクトカットロールベールラップサイレージの
鳥獣害防止貯蔵方法の検討-------------------------------------------------------(H19∼20)
(2) ダイレクトカットサイレージを用いたTMR調製給与技術の開発---(H19∼22)
4 その他
(1)共同研究名
農林水産省委託プロジェクト研究「粗飼料多給による日本型家畜飼養技術の開発(え
さプロ)
」
(2)共同研究機関
独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 畜産草地研究所 ほか 58 機関
【飼養技術部】
5
◇課題紹介◇
中山間水田における飼料イネを基軸とする耕畜連携
システムの確立(地域総合確立試験)
1 背景・目的
広島県においては,転換田の有効利用,高度利用にむけ,飼料イネの生産や給与,ふん
尿の地域内還元などの取り組みが行われ,飼料イネの作付面積は 120ha にまで増加してい
る。
泌乳牛において,乳量,乳成分を維持する混合飼料(TMR)中の飼料イネホールクロッ
プサイレージ(WCS)の乾物混合割合は,泌乳中期牛で 26∼30%,泌乳前期牛で 25%と
する結果が明らかにされ,粗飼料として飼料イネ WCS を単体で給与する場合の飼養指標
になっている。さらに,より広範で安定した飼料イネ WCS の利用を進めるために,育成
期等における給与馴致方法や,乾乳期および泌乳最盛期において,飼料イネ WCS と他の
粗飼料との組合せで栄養的に補完した TMR の調製,給与技術について検討し,飼料イネ
WCS の生産,給与技術マニュアルを作成する。
2 期待される効果
(1)飼料イネ WCS の摂取が未経験の育成および経産牛における馴致方法が明らかになる。
(2)乾乳牛における飼料イネ WCS を用いた給与量が明らかになる。
(3)泌乳牛において,飼料イネ WCS 混合割合を 20%程度とした TMR の調製,給与技術
が明らかになる。
3 研究内容とスケジュール
(1)育成および経産牛における飼料イネ WCS 給与の馴致期間の検討----------------(H18)
(2)飼料イネ WCS の切断長が飼料摂取量および泌乳成績に及ぼす影響
ア 乾乳期の乾物摂取量に及ぼす影響を検討--------------------------------------------(H18)
イ 泌乳前期における乾物摂取量と泌乳成績に及ぼす影響を検討---------------(H18∼19)
(3)農家実証試験とマニュアルの作成--------------------------------------------------------(H19)
4 その他
(1)共同研究名
農林水産省委託プロジェクト研究「中国中山間水田における飼料用稲を基軸とする耕
畜連携システムの確立」
(2)共同研究機関
独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 近畿中国四国農業研究センター
ほか 7 機関
【飼養技術部】
6
◇ 課題紹介 ◇
乳用牛性判別胚の生産技術の開発
1 背景・目的
酪農経営において計画的に優良な後継牛を生産するために,確実な雌牛生産技術の開発
が望まれている。
現在行われている性判別技術は体内受精胚を用いる方法であり,酪農家が飼養する泌乳
最盛期の牛からの胚生産は,ホルモンに対する反応性が低いため困難となっている。また,
受精胚の性判別も判別に用いる細胞を金属刃で切断採取するため,受精胚に対するダメー
ジが大きく,このことが受胎性や胚の保存性を大きく低下させ,普及の大きな妨げとなっ
ている。
そこで,本研究では,酪農家が希望する優良牛の一年一産を維持しつつ,確実に雌の後
継牛を生産する新しい技術構築と現場実証を行う。
2 期待される成果
(1)泌乳最盛期の搾乳牛からも,経膣採卵・体外受精による移植可能な性判別済み胚を
生産できる。
(2)酪農家が希望する優良な自家後継牛を確実に生産でき,牛の淘汰・更新が計画的に
行える。
(3)乳牛への和牛胚移植により,酪農家の副産物(子牛)収入が増加し経営の安定につ
ながる。
(4)酪農家からの和牛生産によって広島牛の増頭が期待できる。
3 研究内容とスケジュール
(1)搾乳牛に未成熟卵子を数多く生産させる技術の開発 (H18∼21)
(2)効率的に卵子を採取できる時期(分娩後 40∼80 日)の検討 (H18∼21)
(3)性判別用の細胞採取方法(細胞剥離)の検討 (H18∼21)
(4)性判別済み胚の保存方法(ガラス化)の検討 (H19∼21)
(5)性判別済み胚(新鮮・ガラス化保存)の移植による受胎性試験 (H18∼22)
(6)受胚牛の効率的な発情同期化法の検討
(H18∼22)
(7)子宮深部への移植による受胎率改善方法の検討
(H18∼22)
(8)畜産技術センターにおける実証試験
(H21∼22)
(9)県内酪農家における実証試験
(H21∼22)
【生物工学部】
7
体外受精胚を活用した酪農経営基盤安定と広島牛増頭
泌乳最盛期(分娩後 40∼80 日)
①
♀
人工授精による子牛生産
♀
②
経膣採卵・体外受精・性判別
後継雌牛の確実な生産
③
経膣採卵・体外受精
和牛生産による副収入増加
◇課題紹介◇
広島県独自の有機性資源循環システムの開発
1 背景・目的
有機性汚泥や家畜ふん尿などの有機性産業廃棄物の県内発生量は年間 400 万トンにも及び,
堆肥
化等の処理がなされているものの,供給過剰等により処理が滞り環境汚染も散見されている。今後
も発生量の増加が見込まれるため,廃棄物の減量化が図れ,省資源・省エネルギー化につながる技
術の開発が求められている。
こうしたなか,広島県産業科学技術研究所西尾プロジェクトで取り組んでいる乾式メタン発酵技
術は,省スペ−スで発酵残渣の排水処理が不要という特徴を有することから,有機性汚泥等の廃棄
物の減量化やエネルギー回収が図れるとともに,装置の製造・販売による新たな環境産業の育成に
つながる技術として期待されている。
しかし,この技術を実用化していくためには,アンモニア除去に係るランニングコストの低減化
等の課題が残っており,県立試験研究機関が総力を挙げて課題解決に取組んでいく必要がある。
有機性廃棄物の減量・資源化及び環境関連産業の育成を図るため,複数の県立試験研究機関が連
携して,乾式メタン発酵技術の実用化に取組むとともに,他のリサイクル技術との比較・評価を行
うにことにより県内有機性廃棄物の排出実態に即した最適なリサイクルシステムを構築する。
2 期待される成果
(1)脱アンモニア技術の開発
本研究で検討する脱アンモニア技術は,アルカリ及び酸添加が不要となるため,薬品費の削減
や,薬品添加による汚泥量の増加に伴う残渣処理費用の削減につながる。
アンモニアを液状,または固形状で除去できれば,アンモニアガスの吸収工程が不要となる。
重金属や臭気成分も除去できれば,発酵残渣の堆肥化後の価値を高めることができる。
(2)発酵副産物(発酵残渣・アンモニア)の有効利用
乾式メタン発酵残渣を効率的に堆肥化等できれば,処理費用の削減につながる。また,乾式メ
タン発酵残渣を堆肥化した事例はなく,農作物に必要な微量元素の濃縮等が確認できれば堆肥化
後の価値を高めることができる。
(3)適応廃棄物の拡大
乾式メタンを食品残渣や家畜ふん尿(鶏ふん)に適用した事例はなく,対象処理物を広げること
で,処理装置の受け入れ先を下水処理場以外にも広げることが可能となる。
3 研究内容とスケジュール 4 共同研究機関
(1)脱アンモニア技術の開発 保健環境センター
ア 各技術の検証-----------------------------------------(H18) 県立食品工業技術センター
イ 最適技術検討-----------------------------------------(H18) 県立西部工業技術センター
ウ 実証施設設計-----------------------------------------(H18∼19) 県立東部工業技術センター
エ 実証試験-----------------------------------------------(H19∼20) 県立農業技術センター
(2)発酵副産物(発酵残渣・アンモニア)の有効利用
ア 発酵残渣
(ア)堆肥化・炭化の検討-----------------------------(H18∼20)
(イ)農地への利用可能性の検討-------------------(H19∼20)
(ウ)安全性の確認--------------------------------------(H19)
イ アンモニア
(ア)飼料価値向上貯蔵性の検討-------------------(H18∼19)
(イ)現場実証---------------------------------------------(H20)
(3)適応廃棄物の拡大
ア アンモニア発酵条件の検討-----------------------(H18∼19)
イ 乾式メタン発酵条件の検討-----------------------(H18∼19)
ウ 油脂含有物の発酵条件検討-----------------------(H18∼20)
エ 発酵微生物叢の解析---------------------------------(H18∼20) 【環境資源部,飼養技術部】
9
◇課題紹介◇
環境に配慮した小規模移動放牧における
繁殖和牛の飼養管理技術
中国地方の中山間地域では,耕作放棄地の増加により景観の悪化,農作物への獣害
が問題となっています。そこで,耕作放棄地解消対策の一環として,点在する比較的
小規模(20∼50a)の耕作放棄地,保全管理農地,荒廃地を電気牧柵で囲って牛を放
牧していく小規模移動放牧技術の調査研究を実施していくことになりました。期間は
平成 18∼21 年度の4年間で,(独)農業・食品産業技術総合研究機構と山口県立畜産
試験場との共同研究で実施します。
【背 景】
過疎化、高齢化
耕作放棄地の増加
粗飼料生産基盤低下
【現 状】
景観、生活環境の悪化
農作物への獣害
繁殖牛経営の悪化
中山間地域
【不 安】
【期 待】
点在する放棄地や荒廃地に
電気牧柵を張って繁殖牛を
放牧し,草がなくなれば転
牧する小規模移動放牧を導
入すれば,農地管理と低コ
スト和牛生産ができる
周辺環境は悪化しないか?
牛は脱柵しないか?
草だけで栄養分は足りるか?
栄養管理技術
の確立
野草植生の動態調査
土壌・地目の調査
放牧牛の発育調査
家畜管理条件
の解明
排せつふん尿の
周辺環境への影響
周辺河川の水質の
調 査
脱柵防止の指標作成
ひ陰による損耗防止
指導普及向けマニュアルの作成
【期待される成果】
野草地における小規模移動放牧技術が確立される
耕作放棄地の増加に歯止めがかかる
環境汚染への不安が解消される
地域に小規模移動放牧の導入が促進される
【飼養技術部・環境資源部】
11
◇研究トピック◇
カウトレーナーによるふん尿の牛床・牛体汚染の防止効果
1
はじめに
繋ぎ式の飼養では,
ふん尿によって牛体や牛床が汚染される
(汚
れる)という問題があります。これらを防止できれば,毎日の作
業である牛床清掃や,搾乳時の乳房清拭作業が能率的にできるよ
うになり,乳房炎罹患の危険を低減できます。
写真1 カウトレーナー器具一式
そこで,カウトレーナー(写真 1)設置による効果を検討しま
した。
2
カウトレーナーの設置方法
1) トレーナーの設置位置は,基本的に,き甲部(最も高い位
置)から,握り拳(10cm 程度)分ほど前の位置で,握り
拳分ほど高い位置にセットします(写真 2)
。
10cm
2) ふんや尿の落下位置を目安にしながら,通常の起立位置
を確認し,体長に対する牛床の長さや,ません棒の位置
なども考慮して調整します。
3) 牛は排尿・排ふん時には背中を丸めます(写真 3)が,
カウトレーナーに触れないように背中を伸ばすのではな
写真2 カウトレーナー位置
く,カウトレーナーに触れないように後方に下がる行動
をします。
4) 背中を丸めてもカウトレーナーに接触せず,ふん尿がふん尿
溝に落ちると,カウトレーナーは適正な位置です。
5) 設置直後のカウトレーナーへの通電は,乳牛の挙動が確認で
きる昼間にとどめ(3 日程度)
,カウトレーナーに慣れてきた
ら,連続通電します。
6) 牛の状態により,微調整します。カウトレーナーの位置が牛
に近すぎ,飼料摂取時に感電すると,飼料摂取をしなくなる
ことがあるので注意が必要です。
写真3 背中を丸めての排尿行動
3
効果と費用
カウトレーナーを設置すると,毎日の作業である除ふんや,搾乳時の乳房清拭作業が格段
に容易になります(写真 4,5)
。30 頭の搾乳牛へのカウトレーナー設置に必要な費用は,表
に示したとおりで,1 頭当りの費用は,2,056 円です。
表 30 頭規模でのカウトレーナー設置費用
部品名
カウトレーナー
カウショッカー(配電機)
ガイシ
単芯コード
単価
1,092
26,250
105
51
計
12
数量
30
1
4
50
金額
32,760
26,250
420
2,250
61,680
◇研究トピック◇
写真 4 カウトレーナー設置前
写真5 カウトレーナー設置後
牛体・牛床のふん尿による汚染
【飼養技術部】
13
◇研究トピック◇
簡易バイオプシー法を用いたウシ性判別産子の生産にはじめて成功
1 要旨
乳用牛から採取した卵子を体外受精後,桑実期胚になった胚から今回,当センターで開
発した簡易バイオプシー法(細胞剥離法)を用いて細胞の一部を採取し,その細胞の性判別を
行った後,胚盤胞期胚を借り腹ウシに戻し,判定通りの雌乳用牛が誕生した。
この技術を用いた性判別産子の誕生報告は今回が全国で初めてである。
また,この技術によって性判別済みの高品質な移植胚を生産することができ,農家にと
って希望する性別の産子を効率的に生産できるなどのメリットが期待できる。
2 従来の技術との比較
簡易バイオプシー法
○マイクロマニュピレーター等の機器を必
要としない方法
○桑実期胚の細胞をピペッティングにより
2∼3個剥離させるため,残りの胚細胞
にダメージが少ない。
○受胎性,凍結保存性の向上が期待される。
これまでの技術
高価な機器(マイクロマニュピレーター)に金属刃
を取り付け,胚盤胞期胚の栄養膜細胞の
一部を採取
金属刃による胚細胞への物理的傷害が大きい。
○受胎性や凍結保存性の低下が課題
3 成果の概要
経膣採卵 平成17年11月10日(供卵牛 フェザンセイバーサターン 分娩後 107 日)
体外受精 平成17年11月11日(精液 ロードビュータイディビースクリーチ ET)
性判別 平成17年11月16日(LAMP 法で判定)
受精胚移植 平成17年11月18日
出生年月日 平成18年 8月22日 メス 体重 47.2kg
写真1 剥離した性判別用細胞と受精胚
写真2 誕生した乳用牛メス仔牛
4 今後の計画
当センター内で例数を重ね(今後6例の出産を予定)
,技術の安定を図ると共に生まれ
た産子の正常性を調査し,民間への普及を図る。
性判別済み胚のガラス化保存技術を研究し,利便性の向上を図る。
【生物工学部】
14
簡 易バ イ オ プ シ ー 法 を 組 み 込 ん だ 性 判 別 シ ス テ ム
経膣採卵
体外培養
簡易バイオプシー
胚移植
性判別用サンプル
体外受精
少数サンプルで精度の高い性判定
経膣採卵による受精
胚の作出効率向上
受胎性の高い
♀
♂
性判別済み胚供給
性判 別用 細 胞の 採 取方 法
これまでの性判別胚生産
判定3時間
♂
♀
金属刃による胚盤胞期胚の栄養膜細胞切断
PCR法を利用した性判別
胚移植
簡易バイオプシー法を利用した性判別胚生産
判定40分
♀
簡易バイオプシー法による性判別用細胞採取
♂
LAMP法による性判別
胚移植
◇ニュース◇
河野副主任研究員が関西畜産学会賞を受賞
第 56 回関西畜産学会大会が 8 月 29∼30 日に大阪府で開催され,当センター飼
養技術部の河野幸雄副主任研究員が関西畜産学会賞を受賞しました。平成 7∼10
年度に実施した「広島牛高品質生産のための微量栄養素給与技術」,平成 11∼15
年度実施の「種雄牛の遺伝的産肉能力の明確化による合理的肥育技術」,平成 16
年度から実施している「広島牛の肉色向上技術の開発」の研究成果をまとめた「黒
毛和種肥育牛の肉質改善のための飼養管理技術」の課題内容が,高く評価された
ものです。
研究成果の内容は,まず複数の系統が存在する黒毛和種について系統毎に成長
ホルモン遺伝子型の遺伝子構成が大きく異なることを明らかにし,広島系と兵庫
系の肥育牛を用いた比較試験で成長に係るホルモン等の分泌量や飼料摂取能力,
増体能力,肥育期間中の体脂肪率の推移,皮下脂肪の細胞特性の違いを明らかに
しました。
さらに,枝肉格付け時点の肉色変動要因調査を実施し,肉色は脂肪交雑,牛肉
pH 及びミオグロビン含量の影響を強く受けることを明らかにするとともに,肉
色改善のための技術としては,牛肉pH の低下とミオグロビン含量の低減が重要
であること,バイパスグルコース製剤の給与が牛肉中のグリコーゲン含量を増加
させ,pH 異常肉の発生リスクの低減に有効であることを示しました。また,肉
色保持については,と畜前4週間に1日 1 頭 2.5gのビタミンEを飼料添加する
ことにより肉色の退色を遅らせるとともに,過酸化脂質の発生を抑える技術を開
発しました。
生産現場で行なわれるビタミンAコントロールの飼養技術について適切な給与
量の解明や給与体系の開発を目的とした研究では,肥育素牛の血中ビタミンAの
保有状況,各種粗飼料中のβ―カロテンの含量調査,肥育牛のβ―カロテン摂取
と血中ビタミンA濃度との関係,増体との関係を明らかにしました。健康維持の
観点から血中ビタミンA濃度を 50IU/dl 程度を前提とした肥育試験を行ない,
肥育開始から24ヶ月齢までにビタミン A を抑制する体系が増体・肉質ともに優
れ,健康維持と高品質牛肉の生産を両立できることを明らかにしました。
現在は,肉色改善のための鉄出納試験等に取り組んでいます。今後さらに,生
産現場に山積している技術的課題の解決に向け,研究を推進していきます。
【飼養技術部】
16
◇ニュース◇
県立畜産技術センターOB藤川氏が枡田賞を受賞
■■■ 日本胚移植研究会大会 ■■■
日本胚移植研究会の第 13 回大会が 8 月 3∼4 日,広島県民文化センターで開催
され,全国から胚移植の生産や移植に携わる関係者 190 名が参加し,特別講演,
シンポジウム,一般講演及び枡田賞の授与が行われました。
枡田賞は「人工授精や受精卵移
植を通じて家畜の改良に顕著な
功績のあった者」に授与される賞
で,今回,当センターの先輩であ
る藤川修治氏が受賞されました。
広島県では 1982(S57)年から,
胚移植技術の実用化に向けた一
連の技術開発に取り組み,藤川氏
は当初から携わり,特に,技術を
生産現場で活用することを常に念頭に置き技術の安定化と平準化に努められたこ
とが高く評価されました。
また,特別講演とシンポジウムでは,「家畜の受精胚操作技術の現状と将来展
望」をテーマに遺伝子組み換え,顕微授精,核移植など胚移植技術の有効活用に
ついて活発な討議が行われ,今後の研究の方向を考えるうえでも有意義な大会と
なりました。
【生物工学部】
17
◇ニュース◇
第6回広島県堆肥共励会,盛大に開催!
−耕畜連携をより一層強化なものに−
8 月 30 日,県立農業技術センターにおいて,広島県及び(社)広島県畜産協会主
催の「第6回広島県堆肥共励会」が,畜産農家,堆肥センター関係者,県・市町
担当者など 100 名を超える出席のなか開催されました。
今回の出品点数は 70 点と今までにない多数の出品で,平成 16 年 11 月から全面
施行となった「家畜排せつ物の適正化及び利用の促進に関する法律」への各地域
の取り組みの表れではないかと思われます。
各地域で建設運営されている堆肥センターはもとより,大型畜産農家からの出
品も目立ち,良質堆肥づくりへ向けてこの共励会が果たしている役割をより一層
認識する機会となりました。
今回の共励会においては,出品者の地域での耕種農家との連携への取り組みが
審査項目に加えられ,堆肥の品質と共に審査が行われ,次の出品者が受賞されま
した。
牛ふん堆肥の部 1席 安芸高田市美土里堆肥センター
2席 甲奴町福田堆肥センター
3席 高堆肥センター
鶏ふんの部 JA尾道市堆肥センター
豚ふんの部 山田養豚場
共励会の授賞式後,農業技術センター圃場で家畜ふんペレット堆肥を利用した
水稲・大豆の栽培試験について生育状況を視察しながら,減化学肥料施用基準作
成に向けた説明がありました。
また,午後は㈱AML農業経営研究所 武田健所長による「土壌診断と家畜堆
肥を利用した施肥設計について」の講演があり,参加者全員が家畜堆肥の有効活
用への取り組み方向をより明確にした一日となりました。
【環境資源部】
18
Fly UP