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高齢社会における交通のあり方に関する一考察 One consideration on

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高齢社会における交通のあり方に関する一考察 One consideration on
東京交通短期大学 研究紀要第16号 2011.3
高齢社会における交通のあり方に関する一考察
One consideration on the ideal method
of the traffic in aging society
岡 本 久
Hisashi Okamoto
【目 次】
1.はじめに
2.高齢人口の推移
3.高齢者の経済・社会的側面と交通行動の実態
4.交通事業者の高齢者対策
5.高齢社会における交通のあり方
6.むすび
1.はじめに
わが国における人々の高齢化は急速に進行しており、このことによって様々な影響が生じることが予
想されている。国連の世界保健機関(WHO)の定義では、65 歳以上の人のことを高齢者としており、
戦後生まれの世代で人口の最も多い「団塊の世代」
(1947 年~ 1949 年生まれ)と言われている人たちは、
まもなく高齢者の仲間入りする状況にある。わが国では、核家族化が進み、高齢者の単身または夫婦の
みの世帯が増加の一途を辿っているのも現実である。
高齢者には引きこもりで全く外出しない(できない)人々、歩行困難や視力的・聴力的に不自由等々
で、移動に際しては介助の必要な人々が存在する一方、毎日の生活を元気で活動的に送っている人々(以
下、
「アクティブシニア」と称す)も存在する。つまり、
「高齢者」という一括りで論じられない多様な人々
で高齢者は構成されている。高齢化社会へと着実に突入している状況下、交通業界では多様な高齢者に
対応したハード・ソフト面における種々の課題が指摘されている。
本論は、高齢者を取り巻く環境、高齢者の交通行動の実態を踏まえ、交通事業者による高齢者対策事
例(国内外)をまとめた上で、今後の交通のあり方について若干の提言を含めて論じたものである。
2.高齢人口の推移
わが国の人口構造は少子高齢化が急速に進行しており、総務省統計局データ(国勢調査)によると、
2005年現在の65 歳以上人口は2682万人で、総人口の21%を占め、5 人に 1 人が高齢者であることが示さ
れている。総人口に占める高齢者人口の割合の推移を(図表1及び図表 2)でみると、1955年(S30年)以
− 35 −
高齢社会における交通のあり方に関する一考察
降は増加の一途を辿り、1985年(S60年)には 10%を超え、次第に拡大幅を広げている。特に 2005年(H17)
における後期高齢者(75歳以上人口)は、2000年(H12)と比較すると、317万人(35.2%)増と大幅に増加
している。
今後わが国の人口構造は、「日本の将来推計人口(平成 18 年 12 月推計)」国立社会保障・人口問題研
究所によると、平均寿命が男 78.53 歳、女 85.49 歳から男 83.67 歳、女 90.34 歳へ延びる仮定で、45 年
後の 2055 年は高齢化率が約 40%と想定している。
このように、わが国高齢化社会の進展は、単純に増大する高齢者の問題や高齢者の老後生活に欠かす
ことのできない福祉・年金等、所得保障の問題のみではなく、本稿で取り上げている高齢者の「交通権 1)」
を始め、社会との関わり方、生きがい等々、多面的な角度で捉える必要がある。
(図表1)高齢者人口割合の推移
4 0 .0
3 9 .6
(%)
3 6 .5
3 1 .8
3 5 .0
2 9 .3
3 0 .0
2 5 .0
2 3 .1
2 1 .0
1 7 .3
2 0 .0
1 5 .0
1 0 .0
5 .3
7 .9
7 .1
6 .3
5 .7
1 4 .5
1 2 .0
1 0 .3
9 .1
5 .0
0 .0
年
55
19
年
60
19
年
65
19
年
70
19
年
75
19
年
80
19
年
85
19
年
90
19
年
95
19
年
00
20
年
05
20
年
10
20
年
20
20
年
30
20
年
40
20
年
50
20
注 1)2005 年までは、実績値(総務省統計局ホームページより)
注 2)2010 年以降は、「日本の将来推計人口(出生中位推計値)」(国立社会保障・人口問題研究所)
1955 年 1960 年 1965 年 1970 年 1975 年 1980 年 1985 年 1990 年 1995 年 2000 年 2005 年 2010 年 2020 年 2030 年 2040 年 2050 年
(図表2)年齢 3 区分別にみた人口推移
1)年齢「不詳」を含む。 2)一部の外国人を除く。 3)沖縄県を除く。 4)沖縄県の 70 歳以上を除く
出典:法務省統計局ホームページ
1) 交通権(こうつうけん)とは、交通機関を使って自由に移動できる権利(移動権)を言う。
また、広い意味では“移動の自由”として定義されている。 − 36 −
高齢社会における交通のあり方に関する一考察
3.高齢者の経済・社会的側面と交通行動の実態
高齢者の交通行動を把握するためには、彼らを取り巻く経済・社会的状況を幾つか指摘する必要があ
ろう。前述の通り、わが国の高齢者人口は 40 年後には、ほぼ 10 人に 4 人の割合までに達するものと推
計されている。従前まで、高齢者は静かで穏やかな非活動的な生活を送っているイメージが浮かぶ。し
かしながら、現在では前期高齢者(65 ~ 74 歳)を中心とした高齢者の中には、機会があれば外で働きたい、
社会との繋がりを持ち、社会的貢献をしたいとする活動的な考え方を持ったアクティブシニアが増加し
ている。いずれにしても、一日中、家に居てテレビを楽しみ、植木の手入れをする等々の従前までのイ
メージで捉えることはできない。
以下、高齢者の経済・社会的なプロフィールについて、統計データ等を用いながら明らかにしてみたい。
3.1 高齢者の経済的側面
高齢者の年収を「平成 16 年全国消費実態調査」
(平成 21 年調査は、現時点では未発表)に基づき(図表 3)
で見てみると、世帯主が 55-59 歳(本調査時点では団塊の世代に当たる)である世帯が 770 万円と最も
高い結果を示している。前期・後期高齢者の世帯では 462 万円、387 万円と、平均を下回っているものの、
世帯主が 29 歳以下の世帯より上位の水準を示している。
上記の結果によると、高齢者世帯は年収面では 30 歳代~ 60 歳未満に比べて低いものの、子供の教育費、
住宅取得等の面を考慮すると、年収的・貯蓄残高的(図表 4 参照)にも比較的家計面ではゆとりのある
生活を送っているものと考えられる。
(図表3)世帯主の年齢別年収比較(平成 16 年)
(万円/年)
(万円 / 年)
1000
726.1
800
600
588.7
770.1
556.5
462.8
373.7
400
387.7
200
0
平均
-29歳
30歳代
40歳代
55-59歳
65-74歳
75歳-
前期高齢者
後期高齢者
注)総務省「平成 16 年全国消費実態調査」より作成
(図表4)世帯主の年齢別 1 世帯当たり貯蓄残高(平成 16 年)
(万円)
(万円)
2500
1849
2000
1500
2034
2035
1454
1082
1000
636
500
235
0
平均
-29歳
30歳代
40歳代
注)総務省「平成 16 年全国消費実態調査」より作成
− 37 −
55-59歳
65-74歳
75歳-
前期高齢者
後期高齢者
高齢社会における交通のあり方に関する一考察
3.2 高齢者の社会的側面
高齢者の所在不明に関する報道が最近目立っており、社会問題にもなっている。地域社会とのつながり、
家族間の人的結びつきの希薄化によって、高齢者はますます孤立していると言われている。(図表 5)に
よると、近所の人たちとの交流面では、年々近所同士の結びつきが低下している点が明らかにされている。
(図表5)近所の人たちとの交流
100%
4.9
4.9
5.1
7.1
5.8
80%
30.7
35.6
40.7
40.9
51.2
60%
付 き合 いは ほ とん ど して な い
あいさつをす る 程 度
40%
親 し くつ き あ っ て い る
64.4
59.5
54.1
52.0
43.0
平成5年
平成10年
平成15年
平成20年
20%
0%
昭和63年
注1)内閣府「高齢者の地域社会への参加に関する意識調査」より作成
注 2)調査対象は、全国 60 歳以上の男女
上記のように、全体的には高齢者の人的交流関係が薄れている一方、高齢者の個々人ベースでは社会
とのつながりを求めて、種々のグループ活動への参加率が高まっている。(図表 6)は高齢者のグループ
活動への参加状況を示したもので、何らかの活動に参加している割合が 10 年前に比べて顕著に高まって
いることが窺える。中でも、「健康・スポーツ」「地域行事」「趣味」活動への参加率の増加が顕著である。
以上の点から窺える点は、近所同士の繋がりよりも高齢者のコミュニティ活動、文化活動、スポーツ
活動などの場を通じて、彼らは人的な繋がりを形成する努力がなされているようである。
(図表6)高齢者のグループ活動への参加状況
(複数回答)
(% )
60
5 9 .2
平 成 10年
平 成 20年
4 3 .7
40
3 0 .5
1 8 .3
20
1 7 .1
2 0 .2
2 4 .4
1 2 .8
6 .7
6 .4 9 .3
5 .0 5 .9
2 .3
0 .8
その他
子育て支援
高齢者支援
− 38 −
4 .8 7 .2
安全管理
注)資料等は(図表 5)に同じ。
4 .1 7 .1
生産・就業
教育・文化
生活環境改善
地域行事
趣 味
健康・スポーツ
参加したものがある
0
1 0 .6
高齢社会における交通のあり方に関する一考察
3.3 高齢者の交通行動の実態
高齢者の交通行動を把握するために、ここでは国土交通省「平成 17 年調査 全国都市交通特性調査」
を中心に整理する。
まず、一日の平均トリップ 2) 数を(図表 7)でみると、非高齢者(5 ~ 64 歳)の一日当たりトリップ
数が 2.45 であるのに対し、高齢者は、一日当たり平均トリップ数が 1.72 と、非高齢者に比べて少ない
傾向を示している。しかしながら、これを昭和 62 年から平成 17 年までの変化でみると、非高齢者は平
均トリップ数がマイナス 0.3 であるのに対して、高齢者はプラス 0.13 と逆に増加している点が特徴づけ
られる。
以上の点から、高齢者の平均トリップ数で見る限りにおいては、非高齢者に比べて外出数は少ないも
のの、年々外出する機会が増加している傾向にあることがわかる。
また、高齢者の自動車による平均トリップ数でも着実に増加しており、昭和 62 年から平成 17 年まで
に 2.55 倍の増加を示している(非高齢者の同変化では 1.16 倍と横ばいにある)。
このように、高齢者の移動頻度は今後ともある程度は増加するものと想定されることから、高齢者が
安心・安全に移動できるシステムをハード・ソフト両面で支援する必要がある。
(図表7)年齢別トリップ数(全国・平日)
(トリップ/人・日)
非高齢者(5〜64歳)
3
2.75
2.64
1.5
2.45
1.11
1.07
1.05
0.96
1
0.5
(トリップ/人 ・ 日)
0
S62
(トリップ/人・日)
2.47
2.5
2
H04
H11
全手段
自動車
H17
高齢者(65歳以上)
3
2.5
2
1.5
1.59
1
0.27
0.5
(トリップ/人 ・ 日)
0
S62
1.69
1.61
1.72
0.57
0.44
H04
H11
0.69
全手段
自動車
H17
注)国土交通省「平成 17 年調査 全国都市交通特性調査」より作成
次に、高齢者が外出する場合の利用交通手段利用率を三大都市圏と地方都市圏別に(図表 8)で見ると、
三大都市圏および地方都市圏ともに昭和 62 年では「徒歩・その他」による移動割合が多かったものの、
平成 17 年度では自動車利用割合が増加している点が窺える。鉄道利用は鉄道網が整備されている三大都
2) 「トリップ」とは、人がある目的をもって、ある地点からある地点へ移動した単位を言い、目的がかわるごとにト
リップもかわる。1 回の移動でいくつかの交通手段を乗り換えても 1 トリップと数える。目的が変わると 2 番目
のトリップとなる。変わるごとにトリップとしてカウントする。
− 39 −
高齢社会における交通のあり方に関する一考察
市圏が地方都市圏に比べてシェア面で 2 倍を示しているが、鉄道利用は年々減少傾向を辿っている。
(図表8)高齢者の代表交通手段利用率
三 大 都 市 圏(平日)
0%
20%
40%
S62
15.6
8.2
15
H04
14.8
7.7
23.3
H11
14.8
H17
12.3
6.4
60%
16.2
14.5
29.3
5.6
80%
100%
45.1
33.6
鉄道
バス
39.7
17
32.5
16
32.5
自動車
二輪車
徒歩・その他
地 方 都 市 圏(平日)
0%
S62 2.8
8.9
20%
40%
18.7
24.5
H04 2.8 8.1
H11 2.4 7.0
H17 1.9 6.0
31.0
38.6
48.6
60%
80%
100%
45.1
21.1
鉄道
36.9
20.0
31.9
17.0
26.5
バス
自動車
二輪車
徒歩・その他
注1)国土交通省「平成 17 年調査 全国都市交通特性調査」より作成
注 2)「徒歩・その他」の内、「その他」は車いす等の補助器具を含む
上記のように、高齢者の移動手段としては「徒歩・その他」「自動車」による移動が主たるものとなっ
ている。また、その移動目的は私事の「買物」が主たる目的として挙げられている。
次に、高齢者による交通事故件数が増加している点も見逃すことのできない問題点である。平成 17
年の交通事故死者数は 2,924 人で、その内 65 歳以上の占める割合は 42.6%にも達している。実に5人に
2人は 65 歳以上の高齢者となっている。その内訳をみると 、歩行中の事故が圧倒的に多く、次いで自
転車での移動中となっている。
人は高齢になるにつれ、運動神経の衰えと共に反応が鈍くなり、視力・聴力も衰えてくる。例えば、
道路を横断中、車が来ていることは認識していても、自分では渡れると判断し事故になる場合、車のク
ラクションが聞こえにくく事故になる場合、薄暮時や夜間の見通しがきかない時間帯で事故になる場合
等々、枚挙に暇がない。
また、最近問題視されているのが「高齢ドライバー問題」である。高速道路の逆走、ブレーキとアク
セルの踏み間違え等、初歩的な運転ミスの多くは高齢者によるものとマスコミで報道されている。この
問題の対策として、高齢者対象の安全教室、運転免許証自主返納、高齢者向け自動車開発などの動きが
見られる。
(図表 9)に示す通り、高齢者の免許所有者増に伴い、上記のように、自動車による移動が増加しており、
今後も高齢者の移動ツールとして、自動車は必要不可欠なポジションを維持するであろう。いずれにし
ても、この問題については高齢ドライバー自身が運転能力面での自己理解を行った上で、各自に適した
対応が必要と考える。
− 40 −
高齢社会における交通のあり方に関する一考察
(図表9)高齢者の運転免許者数の推移
注 1.警視庁及び総務庁資料による。
2.( )内は高齢者人口に占める運転免許保有者数の割合(%)である。
以上述べてきた高齢者の交通行動に関する諸点をまとめると、以下の通りである。
① 高齢者のトリップ数は、非高齢者に比べて少ないものの、時系列変化で見ると、年々外出する機会が
増加している。また、移動目的は「買物」による外出割合が多い。
② 高齢者が外出する際の移動手段としては「徒歩」等が主体であるが、近年自動車による移動が増加し
ている。
③ 三大都市圏と地方都市圏の比較で見ると、鉄道利用割合は三大都市圏に多く、逆に地方都市圏では僅
少に過ぎない。また、両都市圏とも鉄道利用割合は減少傾向を辿っている。
④ 高齢者による交通事故(徒歩、自転車等)が近年多発しており、その対策は喫緊の課題である。
⑤ 高齢ドライバーの増加に伴い、高齢者による交通事故が多発しており、高齢者対象の安全教室、運転
免許証自主返納、高齢者向け自動車開発などが望まれる。
4.交通事業者の高齢者対策
高齢者のモビリティ確保のためには、交通事業者の高齢者対策は必要不可欠な点であると共に、今後
その重要性はますます増大するものと考えられる。
「高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化に関する法律(通称、交通バリアフリ
ー法)」が 2001 年 5 月に制定されて以降、鉄道駅等におけるエレベーター、エスカレーターの設置を含
む段差の解消、低床・広ドアバスの導入、シルバーシートの設置等、高齢者を含めた交通弱者のための
施設整備を推進するべく、運輸省(現、国土交通省)は指導を行ってきた。その後、全ての人がより安
全・快適に外出できることを目指した「バリアフリー新法」という新しい法律が 2006 年 12 月に施行され、
各交通事業者による高齢者(交通弱者)対策は急速な展開をみせている。
高齢者対策の進捗状況について、公共交通事業者等からの(国土交通省)「移動等円滑化実績等報告書
の集計結果概要」にもとづいて以下に眺めてみたい。
先ず、旅客施設(鉄道駅、空港、バスターミナル、旅客船ターミナル)の“段差の解消”面について
みると、平成 21(2009)年度末現在、対策対象(1 日当たりの平均利用者数が 5,000 人以上)とされる
鉄道駅 2,808 駅の内、2,160 駅が対策済みとなっており、全体の 77% が対策済みである。これを対前年
− 41 −
高齢社会における交通のあり方に関する一考察
度比でみると、5.6 ポイント増を示している。鉄道駅における階段等の段差解消は、他交通機関に比べて
対策すべき駅数が多い点もあり、他機関の旅客施設に比べて適合率は下位にあるものの、着実に段差解
消は進行していることが窺える(図表 10-1 参照)。
次に、“車両等”の対策面についてみると、移動円滑化基準に適合している車両等における適合率で
最も高いのが航空の約 70%、鉄道車両およびバス(低床バス)の約 45%、旅客船の 18%と続いている。
上記の施設面に比べると、本対策面は若干後れをとっている(図表 10-2 参照)ものの、年々着実に適合
率の目標値に近づいている。
(図表 10-1)
○ 旅客施設(1日当たりの平均的な利用者が 5,000人以上のもの)
旅客施設全体…77.2%(H20 年度末 71.6%)
〈段差の解消〉
移動等円滑化基準(段差
の解消)に適合している
全体に対する割合
旅客施設数
(目標値:100%/H22 年) H21年度末 H20年度末 H21年度末 H20年度末 H21年度末 対前年度増減 H20年度末
施設総数
鉄軌道駅
2,808
2,816
2,160
2,007
40
43
35
36
87.5%
3.8%
83.7%
7
8
7
7
100.0%
12.5%
87.5%
21
21
19
19
0%
90.5%
バスターミナル
旅客船ターミナル
航空旅客ターミナル
76.9%
90.5%
(100%)
5.6%
71.3%
1)「段差の解消」については、バリアフリー新法に基づく公共交通移動円滑化基準第 4 条(移動経路の幅、傾斜路、エレベーター、
エスカレーター等が対象)への適合をもって算定。
2)航空旅客ターミナルについては、障害者等が利用できるエレベーター・エスカレーター・スロープの設置はすでに平成13年3月末
までに100%達成されている。
出典)国土交通省総合政策局安心生活政策課「公共交通事業者等からの移動等円滑化実績等報告書の集計結果概要」
(図表 10-2)
○ 車両等
移動等円滑化基準に
全体に対する割合
適合している旅客施設数
(目標値:100%/H22 年) H21年度末 H20年度末 H21年度末 H20年度末 H21年度末 対前年度増減 H20年度末
鉄軌道車両
52,548
52,225
24,004
21,570
45.7%
4.4%
41.3%
車両等の総数
(目標値:約50%/H22)
バス
59,359
低床バス
(目標値:約100%/H27)
うちノンステップバス
(目標値:約30%/H22)
福祉タクシー
(目標値:約18000台/H22)
旅客船
(目標値:約50%/H22)
航空機
(目標値:約65%/H22)
―
59,973
―
27,117
25,038
45.8%
4.1%
41.7%
―
15,298
13,822
25.8%
2.8%
23.0%
―
11,165
10,742
―
―
―
791
906
142
149
18.0%
1.6%
16.4%
514
507
361
326
70.2%
5.9%
64.3%
1)「移動等円滑化基準に適合している車両等」は、各車両等に関する公共交通移動円滑化基準への適合をもって算定。
2)平成 21 年度末のバスの総数は、現時点での速報値である。
いずれにしても、交通事業者の高齢者対策はハード面に限ってみると、旅客施設、車両等の対策が着
実に実施されていることが把握された。一方、ソフト面での対策としては、その実施状況に関する客観
的データが揃っていないため、ここでは述べることはできないが、少なくともハード面での対策に比べ
− 42 −
高齢社会における交通のあり方に関する一考察
て若干出遅れているようである。
例えば、車椅子による鉄道利用者の乗降介助等は JR 各社で徹底されており、好評を得ている。しか
しながら、高齢者がスムーズに移動するためのきめ細かな対応(対策)は必ずしも十分とは言えないの
が現実である。
「平成 21 年度版国土交通白書」によると、ハード面での対策とあわせて、国民一人一人による高齢者、
身体障害者等に対する理解と協力、すなわち「心のバリアフリー」の推進を図るため、1)高齢者等の介
助体験・擬似体験等を行う「交通バリアフリー教室」の開催や、2)国、地方公共団体、事業者等が連携
し、鉄道駅及び駅周辺におけるバリアフリーボランティアの実施、3)公共交通機関のバリアフリー化の
状況をインターネットで情報提供する「らくらくおでかけネット」の構築等ソフト面の施策についても
積極的に推進しており、今後官民一体の取り組みが期待される。
欧米では 1970 年代に、通常の交通機関が使えない層(高齢者、身障者)のために提供される公共交
通サービス(スペシャルトランスポート・サービス~以下、「ST サービス」と称す)が始まり、80 年代
に普及し、多くの都市が ST サービスの特徴とされるドア・ツー・ドアサービスのシステムを有している。
ST サービスは、なんらかのハンディにより通常の交通機関が使えない層のために提供される公共交
通のひとつであり、高齢者・身障者にモビリティを与えるものである。これが広義の ST サービスであり、
タクシー、高齢者・身障者送迎バス、ドア・ツー・ドアミニバスなどすべての高齢者・身障者用のモー
ドが含まれる。狭義での ST サービスはドア・ツー・ドアの本格的なシステムを指すことが多いようで
ある。
ST サービスの事例は(図表 11)の通りである。
(図表 11)海外における ST サービス事例
都市別
呼 称
①ダイヤル・ア・ライド
ST の主力であり、電話で予約するシステムで、多くがボランタ
リー団体により運行されている。自治体による割引パスや補助も
ある。
②コミュニティバス
歩行が著しく困難な人が対象である。ダイヤル・ア・ライドと異
なり特定のグループを対象としたクローズなシステムが多い。
③モビリティバス
私企業に依託して運行させており自治体からの補助金がある。バ
スは少し大型で5~6の車いす設備がついている。通常1~2/
日便と本数は少ない。固定ルート・スケジュールで運行されてい
る。健常者も乗れる。
④タクシーカード
ロンドンについては£7まで£1で利用できる。差額はロンドン
の自治体が補填する。一定枚数の福祉タクシー券を出す自治体も
ある。タクシーの新しいものは車いすをつめるようになっている。
ロンドン
①タクシーチケット
ストックホルム
ベルリン
概 要
②デマンドバスシステム
ス ト ッ ク ホ ル ム 自 治 体 が バ ッ ク ア ッ プ し、Transport Service
Committee が運営している。一定の基準で通常の公共交通機関の
利用が困難と認められた人にはまず年 72 枚のチケットが与えら
れる。
①テレバス
ドイツ連邦、ベルリン市、コンサルタントによってプロジェクト
として開発された。西ベルリン市全域をカバーし、料金は無料。
運行時間は早朝5時~深夜1時で、ドア・ツー・ドア方式
②テレタクシー
全額市負担の身障者タクシー利用システム
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高齢社会における交通のあり方に関する一考察
わが国でも、枚方市、市社会福祉協議会、タクシー会社の三者が協力して、リフトつきストレッチャー(簡
易寝台)も乗れる大型ワゴン車の運行、移動困難な交通弱者を支援する世田谷ミニキャブ等の事例はあ
るが、一部地域にとどまっている状況にある。
5.高齢社会における交通のあり方
以上、高齢者を取り巻く環境、高齢者の交通行動の実情を見てきたが、ここではそれらを踏まえ、高
齢化社会に向けての交通のあり方について若干の考察をしてみたい。
既述の通り、高齢者には活動的な人々、非活動的な人々が混在しており、高齢者を一括りで論じるこ
とはできないことが明らかになった。また、今後の高齢化社会の特徴としては、榊原 3) によると、「高齢
になっても健康な人の割合が増加し、前期高齢者の大部分は、雇ってくれるところがあれば働きたいと
考えるか、定職がなくても応分の社会的貢献をしたいと考えるであろう」としている。このことから、
ますます高齢者の移動行動が「安全・安心」に実施されなくてはならないと考える。
本項では、今後の高齢社会における交通のあり方を論じるに当たって、論点をこれまでの“高齢者対
策の反省”と今後の“期待される交通の姿”の 2 点に絞って考えてみたい。
5.1 これまでの高齢者対策の反省点
既述の通り、
「交通バリアフリー法」が制定されて以降、鉄道駅、空港等の旅客施設内ではエレベーター、
エスカレーター等の設置により、高齢者、身体障害者の上下移動が円滑化された。また、車両面では低床・
広ドアバスの導入、シルバーシート(優先席)の設置等によって、高齢者や身体障害者等の人たちが移
動する上での利便性は向上している。このように、交通事業者の高齢者対策はハード面についてみると、
着実に進展し、かなり事態はよくなっているものの、発券・改札等の機械化が進むあまり、交通事業者
側との対面コミュニケーションの場が失われているのも事実である。
また、上記にようにハード面の対策は進展している反面、ソフト面での対策を見る限り、多くの問題
点を有していると思われる。優先席について一例を挙げれば、明らかに高齢者とみられる人が立ってい
る前で若者が平然と着席し、携帯電話の操作をしているといったモラルハザード的な光景はその代表例
である。これでは全く優先席の意味をなさない。札幌交通局では優先席にあたる座席を「専用席」と称し、
非高齢者や健常者が座ることに抵抗感を持たせている。このように、名称を変えるという簡単な工夫に
よっても、優先席の本来の目的が達成される一例である。
高齢者の移動という視点に立ってみると、これからはハード対策よりソフト対策が喫緊の課題であろ
う。大都市の交通網が複雑化するにつれ、高齢者にとっては乗降駅や乗換駅がわかりにくいとか、駅で
切符を買う際に、いくら運賃を入れるのかがわからないとか、非高齢者にとってはスムーズに行動がと
れても、高齢者になると思うようにいかないのも事実である。このように、今まで実施されてきた高齢
者対策には高齢者というスタンスに立たないとわからない多くのミスマッチが未だ存在していることを
改めて見直す時期に入っていると思われる。
3) 2009 年 9 月「運輸と経済」“潮流 : 高齢者の自立とモビリティ”
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高齢社会における交通のあり方に関する一考察
5.2 今後の期待される交通の姿
国土交通省の調査では、65 歳以降の日常生活に関する意識について聞いている。その調査結果による
と、地域や社会と積極的に関わり合いたいと考えている高齢者が多かった。アクティブシニアと言われ
ている元気な高齢者は買物やグループ活動参加のための外出頻度が高く、年間に数回の宿泊旅行や日帰
りで遠出する人も多いようである。一方、歩行困難や視力的・聴力的に不自由等々で、移動に際しては
介助の必要な人々も多く存在している。このように様々な高齢者が混在している社会における交通のあ
り方を考えるにあたっては、それぞれの高齢者に対応したきめ細かな施策が求められる。
喫緊の課題としては、地方に居住している高齢者の足をいかに確保するかである。
ローカル地域公共交通の実態は、ここで改めて詳述するまでもなく、全国各地で公共交通機関の路線
廃止や廃業が進んできた。このため、公共交通機関の全くない“陸の孤島”になった地域が急増し、高
齢者の中でも車を持たない交通弱者の交通権が保障されない状況になっている。
鉄道やバス等の交通事業者にとって、採算ベースを無視してまで交通事業を展開することはできない。
そこで、従来のバス事業と性格を異にし、市町村が主体的に関わり運行されるコミュニティバスの役割
が今後重要視されてくる。現在、浜松市や金沢市等、全国 51 箇所でコミュニティバスが運行されており、
その内 41 箇所は導入効果が認められている。
交通事業者の規制緩和によって、市場への参入・撤退等が緩和されている現在、高齢者の足を確保す
るためには、ある程度の公的負担を伴う公共交通サービスの提供が不可欠である。特に交通弱者と言わ
れる高齢者にとって、買物や通院といった日常的な生活、ひいては彼らの社会参加が阻害されないよう
にすることこそが国・地方の役割であると考える。
次に、アクティブシニアの移動手段として、今後その利用率が高まると想定されるマイカーについて
考えてみたい。
近々、高齢期を迎える 50 歳代の運転免許保有率は 84.9%で、現在の 60 歳代の保有率 71.9%を 13 ポ
イント程上回っている。これは、将来の高齢者世代は現在よりも自分自身で運転する外出頻度の増加を
暗示している。「高齢者ドライバー問題」については、前述の通り各自の運転能力を自分自身で判断し、
免許証の自主返納等々の適切な対応が大前提であるが、その前に「標識」「信号」等の設置箇所や見易さ
の工夫が求められる。また、免許証の更新については、通常 3 ~ 5 年で更新されるが、70 歳以上の高齢
者限定で、毎年更新する制度に改める方向で考えても良いのではなかろうか。
6.むすび
高齢者が希求している「安全・安心」に移動できるためには、まず外出しやすい環境づくりと共に、
特にローカル地域での公共交通の確保を優先的に考える必要がある。
また、何より重要なことは高齢者の視点に立った交通サービスの充実が挙げられる。最近では、高齢
になっても健康で元気な人が増加していると言われている。そのためにも、彼らの社会的参加を促進す
るべく、モビリティの確保を含めた交通環境を整備していく必要がある。
着実に高齢社会に向かっている状況下、少しでも高齢者が暮らしやすい豊かな社会を形成するために
は、本稿でみてきた高齢者対策に止まらず、地域・社会全体での総合的な取組みが実施されなければな
らない。
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高齢社会における交通のあり方に関する一考察
■参考文献
・総務省「平成 16 年全国消費実態調査」
・内閣府「高齢者の地域社会への参加に関する意識調査」
・国土交通省「平成 17 年調査 全国都市交通特性調査」
・国土交通省「公共交通事業者等からの移動等円滑化実績等報告書の集計結果概要」
・国土交通省「平成 21 年度版国土交通白書」
・運輸調査局 2009 年 9 月「運輸と経済」榊原胖夫“潮流 : 高齢者の自立とモビリティ”
・日々野直彦「少子高齢社会における交通のあり方に関する研究」
・土屋靖範・柴田悦子・森田優己・飴野仁子「交通論を学ぶ」
・日本交通学会「2008 年研究年報 交通学研究」
・総務省統計局ホームページ(http://www.stat.go.jp/)
・国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成 18 年 12 月推計)」
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