...

パソコンとセンサーを活用した蒸気圧測定臆遮る 物質の状態

by user

on
Category: Documents
17

views

Report

Comments

Transcript

パソコンとセンサーを活用した蒸気圧測定臆遮る 物質の状態
Akita University
秋 田大学教育文化学部教育実践研究紀要
第2
6
号
2
(
)
0
4
年
村井
亮人 *
パソコンとセ ンサーを活用 した蒸気圧測定 臆遮る
物質の状態変化 に関する探究活動 †
秋 田県立湯沢北高等学校
岩田 吉弘**
秋 田大学教育 文化学部
本研究 は,パ ソコ ンとセ ンサ ーを利用 して メ タノール とェ クノールの蒸気 圧 を測定 す る
ことによ り,物質 の特性 につ いて理解 を深 め る実験教材 の作成 を 目的 と した.高校化学 の
授業 にお いて,蒸気圧 につ いて は実験教材 の例 が ほ とん どな く,講義 中心 の分野 で あ り,
気 液平衡 や気体 の法則 な ど生徒 に とって理 解 に苦労 す る ところで もあ る.
実験 の教材化 によ り, 簡単 な操 作 で文献値 と非常 に類似 した蒸気圧 曲線 を得 る ことがで
き,蒸気圧 につ いて理解 す る ことがで きるよ うにな った. さ らに,課 題研究 や探 究活動 ,
理科 ク ラブ活動等 で も利用 す る ことがで きる教材 に出来上 が った. また,生徒 がパ ソコ ン
とセ ンサ ーを利用 して問題 を解決 して い くとい う探究心 の育成 に も役立 っ結果 が得 られ た.
キー ワー ド :蒸気圧,パ ソコ ンとセ ンサ ー,状態変化,探求活動 , CBL
1
. は じめ に
夕処理 のプ ログ ラムが少 ない ことが原 因 で あ ろ う.
したが って,実験 にお ける計測 や デ - 夕処理 に活用
1
年 3月 に発表 され た高等学校学習指導要領
平成1
した教材 もほ とん どな い.パ ソ コ ンを用 いた実験例
で,理科 ,第 3隷 「各科 目にわ た る指導計画 の作成
は, 現 行 の化 学 I
Bの教 科 書 (
8種 類 ) の中 で, 反
と内容 の取 扱 い」 の 2
(
3
)
で は, 「各科 目の指 導 に当
応熱 の測定 と中和 滴定 につ いて 2種 類 の教科書 の中
た って は,観察,実験 の過程 での情報 の収集 。検索 ・
で簡単 に取 り上 げ られ るに留 ま って い る.
計 測 ・制御,結 果 の集計 ・処理 な どにお いて,パ ソ
一
一万, アメ リカ合衆 国で は, コ ンピュー タを観察,
コ ンや情報通信 ネ ッ トワー クな どを積極 的 に活用 す
実験 を支援 す る知 的 な道具 と して位 置づ ける視点 か
る こと.
」とな って い る1
)
. しか し, これ までのパ ソ
Comput
e
rBas
e
dLaborat
ory) とい っ
ら, CBL (
コ ンの利 用 は,通信 ネ ッ トワー ク等 の利 用 に とどま
た考 え方 が あ り, コ ンピュー タを理科 の実験室 に設
り,実験 にお け る計測 や デー タの処理 にはほ とん ど
置 して,実験 の過程 での観察 や測定 。制御 , デー タ
使 われて いな いのが現状 で あ る.計測 に はセ ンサ ー
処理,通信 に利 用 す る ことが考 え られて い る. そ こ
とパ ソ コ ンを接 続 した シス テムが必要 で あ る. しか
で,1
9
7
0
年代末 か ら,教育現場で利用で きるセ ンサー
し,理科教育現場 に普及 してい るパ ソコンとセ ンサー
とコ ンピュー タを接続 した システ ム とデ ー タ処理 の
を接 続 す る システ ム とその シス テムに対 応 したデ -
プ ログ ラムの開発 が進 め られ,市 販 品 も多 く,普及
2004年 1月2
3日受理
TDe
v
e
l
opme
ntofa Mat
e
r
i
alf
o
rTe
ac
hi
ng l
nv
e
s
t
i
一
gat
i
ngSki
l
l
sBas
e
dont
heNot
i
onofPhas
eChange
s
byMe
as
ur
i
ngt
heVaporPr
e
s
s
ur
eUs
i
ngPCandt
he
Se
ns
o
r
*
Aki
t
o MURAI
,Yuz
awaki
t
a Se
ni
o
r Hi
gh Sc
hoo
l
,
Yuz
awa,Aki
t
a
**Yos
hi
hi
r
ol
wATA,Fac
ul
t
yofEduc
at
i
onandHuman
St
ude
i
s
,Aki
t
aUni
v
e
r
s
i
t
y,Aki
t
a
第2
6
号
2
0
0
4
年
も進 ん で い る. CBL を利 用 した科 学 教 育 につ いて
の評価 に関す る多 くの研究 が あ り, その結果,化学
につ いて は,生徒 の物質化学 の概念 の学習 や グ ラフ
化 の技術 を獲得 す る ことがで きるとされて い る2
)
.
観察,実験等 を行 う過程 でのパ ソコ ンの利用 で は,
観 察 ・実験 の代替 と してで はな く, 自然 を調 べ る活
動 を支援 し, 強化 し,触発 す る ことを助 ける知 的で
i
l
l
i
l
Akita University
創造 的 な道具 と して位 置づ けが重要 で あ る3
)
. その
夕) は, イ ンター フェース (
Se
r
i
alBoxl
nt
e
r
f
ac
e,
よ うな観点 か ら, これ まで本研究室 で は, CBLを
Ve
r
ni
e
r
) を シ リアル ポー トに接続 して用 いた. こ
の実験で用 いた蒸気圧測定装置の概略を図 1に示す.
圧力 セ ンサー (
SDDI
N,Ve
r
ni
e
r
) は, プ ラスチ ッ
用 いた 「
水 の凝固 と融解」,「
気体 の圧力 と温度 の関
係」及 び 「中和滴定」 の教材 開発 を行 って きた 4).
物質 の状態 の単元 の中には定量的 な扱 いをす る項
ク製 のチ ューブで ゴムス トッパ ーアセ ンブ リにつな
目が多 い. なかで も蒸気圧 につ いて は,気 一液平衡
2
0
0
mg
) の口にね じ込 む. この
ぎ,三角 フラス コ (
の概念 や分圧 の法則 か ら物質量 の計算 などを含 み,
圧力 セ ンサ ーは, イ ンター フェースの DI
N コネク
高校生 に とって理解す ることが非常 に難 しい分野 で
ターの ポー ト 1に接続 した.温度 セ ンサ ー (
DCT-
あ る. そ こで生徒実験や演示実験 を通 して理解 を高
N コネ
DI
N,Ve
r
ni
e
r
) は, イ ンター フェースの DI
クターの ポー ト2に接続 した. デー タの取 り込 み 。
め ることが望 まれ る.
高校 で は,ふつ う圧力 セ ンサーは用意 されて いな
解析 プログラム (
Dat
aLogge
r,Ve
r
ni
e
r
)を用 いた.
いので,圧力変化 か ら蒸気圧 を求 める実験教材 はほ
2
mg用 注射筒 にメ タノール (
純度 9
9.
8%, Nac
ar
ai
とんどない.このため圧力一定 (
大気圧)にお ける体
純度 9
9.
9%,蒸留精
Te
s
que
) も しくはェクノール (
積変化か ら蒸気圧 を求 め る実験 5) が提案 されている.
製) を入れ, ゴムス トッパ ーアセ ンブ リにつないだ.
この実験 で は,液体 の蒸気圧が ゼ ロとみなせ る温度
5
0
0
ml
)5つ に O
o
Cか ら4
0℃ の異 な る温
ビーカー (
,O
o
C
での圧力 を基準 にす る必要がある.水 の場合 は
度 の水 を用意 した.
における蒸気圧が小 さいので実験で きるが,メタノー
か ら蒸気圧変化 を間接的 に調べ ることにな るため,
2.
2. 操作 とデータ解析
図 1に示す注射筒 にメ タノール もしくはエタノー
ルを約 1
mg入 れ, 取 り込 み ・解析 プ ログ ラムを起
生徒が蒸気圧 を直感 的 に捉 えに くい欠点 があ る. こ
動 し,圧力 セ ンサー と温度 セ ンサーの校正 フ ァイル
のよ うな状況 のため,概念 や法則 を十分理解 で きな
を読 み込 み,待機す る.温度範囲 は
いまま,机上 の計算 や グラフか らの解釈 を行 ってい
0
0
hPa(
0.
5
at
m)か ら1
5
0
0
hPa(
1
.
5
at
m)
圧力範 囲 は5
るのが現状 であ る.蒸気圧 につ いての授業 は,蒸気
に設定す る.約 2
0℃ の水 を ビーカーに準備 し,三角
圧曲線の グラフを利用 して,座学 のみにな っている.
フラス コと温度 セ ンサーを浸す. 3分以上放置 した
ルや エタノールのよ うに蒸気圧 が高 い物質への適用
が難 しい. また,体積変化 を測定 し, ボイルの法則
そ こで本研究 で は,蒸気圧 の測定 を題材 と して,
,O
o
Cか ら5
0
℃,
観察 とデータ処理 の支援, さ らにパ ソコンを利用す
後, 温度 と圧力 を記録 す る.匝 司 の ボ タ ンを ク
リック し,注射筒 内のメタノールあ るいはエ タノー
る新 しい探究活動 の開発 を 目指 した.温度 セ ンサー
ル約 1
mlを三角 フラス コに注入 す る. 3分以上放置
と圧力 セ ンサーの 2つを同時 にパ ソコンに接続 し,
データ取 り込 み ソフ ト, およびデー タ解析 ソフ トを
し,温度 と圧力 の示度 が一定 にな った ら,[
壷冠 の
ボタ ンを ク リック し, このデー タを保存す る.
活用 した.実験 の過程 での観察 と計測, データ処理
か ら4
0
℃ の異 な る温度 の水 に三角 フラス コと温度 七
O
o
C
と化学概念 の学習 およびパ ソコンとセ ンサーの利用
注射筒
で可能 とな る発展学習 を視座 においた. なお,主 に
利 用 した機 器 は Ve
r
ni
e
rSo
f
t
war
e& Te
c
hnol
ogy
製 (
米 国,以下 Ve
r
ni
e
r
) で, これ はイ ンターネ ッ
トを利用 して購入 した. これ には,取 り込 み ・解析
プ ログラム, イ ンター フェース, および, セ ンサー
が含 まれて いる. Ve
r
ni
e
r製 品 は国産 に比べ るとか
な り安価 であ る6).
2
. 実験操作 と解析
2
.
1
. 装置
パ ソコ ン (
Pe
r
f
or
ma5
2
8
0, ア ップル コ ンビュi
l
i
]
琴
図 1 装置の概略図
秋 田大学教育文化学部教育実践研究紀要
Akita University
1
2
00
ンサ ーを順次浸 し, 同様 の操作 で温度 と圧力 のデー
タを保存 す る.
1
1
6
0
温度 と圧力 の測定後,取 り込 み ・解析 プ ログ ラム
t
aLogge
rを用 いて蒸気圧 を計算 した. また,
の Da
発展学習 にお いて, クラウ ジウス-クラペイ ロ ンの
式 に必要 な蒸気圧 の 自然対数値 と絶対温度 の逆数 の
暮l
- l
.こ
し.
.
∫
3
. 結果 と考察
出 1
(
)
BO
- メ
タ
ノ
ール(24.5℃)
・
- -エタノ-ノ以26.
5
℃)
l
(
)
40
1
000
0
3
.1
. 米国製 セ ンサ ー類 とソフ トウエアの国 内利用
米 国製 のセ ンサ ー-パ ソコ ンのイ ンター フェ-ス
-
/
・
R
関係 を表 す グラフを作成 す る. さ らに, この グ ラフ
の傾 きか ら蒸発熱 を算 出す る.
-
′
言 1E
20
a
-
50
1
00
1
5
0
200
25
0
3
00
時間 〔S〕
図2
: メタノールおよびエタノールの蒸発による圧力変化
やその電源 は, 1
1
5
VAC,6
0
Hzの電源向 けに設計 さ
れて い る.国 内の 1
0
0
VAC,5
0
Hzを用 いて もデー タ
を測定 で きることか ら, この システムで物質 によ っ
解析 ソフ トで セ ンサ ー類 の校正 を行 なえば,性能 を
.
3
.に示 す よ う
て蒸気圧 が決 まる ことは もちろん ,3
発揮 し,実験 にま った く支 障 はない.一度校正 を行
に温度上昇 による蒸気圧増加 の実験 も可能 で あ る.
えば,校正 フ ァイルを フロ ッピーデ ィス クや- - ド
なお, メ タノールや エ タノールに含 まれ る水分 とフ
デ ィス クに保存 で きる. このため実験 のたびに校正
ラス コ内の水分 は誤差 を与 え る. これ ら試薬 は必 ず
をす る必要 もな く,複数 の グル ープで同 じ実験 を行
密封保管 した ものを用 い,三角 フラス コ内 はあ らか
う場合 は,校正 フ ァイルを配布 す る ことで対応 で き
じめ乾燥 させ る必要 があ る.
る.また,取 り込 み ・解析 プログラムの Da
t
aLogge
r
図 2に示 す よ うに,本研究 で取 り上 げた システム
は英語 の OS用 で あ るが, 日本語 の Ma
c
OSで使用
の利 用 によ って, 温度 と圧 力 が直接数 値 と して現
して も, ご くまれ に表示 に文字化 けが出 るほか は,
れ る.生徒 は蒸気圧 が デー タ上 に現 れて くることに
支障 な く利用 で きた.
よ る視覚 的 な解釈 を得 る ことがで き,指導上 で は,
解析 において ボイル 。シャルルの法則 や分圧 の法則
3
.
2
. 圧力 セ ンサー による蒸気圧測定
この装置 にお いて,蒸気圧 が気 一液平衡 に達す る
を利用す る ことで気体 の法則 と も関連 づ けることが
で きる.
まで長 時間必要 であ ると,授業 時間内での実験 が終
了 しな くな る. そ こで室温付近 での メ タノールお よ
びエ タノールを三角 フ ラス コに注入 し,時間 に対 す
3
.
3
. 蒸気圧 の温度変化
図 1に示す装置での蒸気圧 の温度変化 の測定 では,
る圧力 の変化 を調べた.結果 を図 2に示す. メタノー
閉 じ込 め られて い る空気 に対 して, ボイル 。シャル
ルあ るいはエ タノールの蒸気圧 が加 わ るため圧力 は
ルの法則 が成 り立 って い ることが必要 にな る. これ
次第 に増加 し,一定 にな る.一定 にな った ときの圧
0℃ の範 囲 で成立
はすで に雄鹿 ら4) によ り,0か ら6
4
0
hPa (
2
4.
5℃)
, エタ
力 の増加分 はメ タノールで 1
す ることが確 か め られて い る. フラス コ内を一定温
0
hPa(
2
6
.
5
℃) とな り, 水銀柱高 さで示
ノールで9
度 に保 っ ため, ビーカーに入 れ る水 の温度 を変 え る
1
0
mmHg,6
8
mmHgとな った.文
す と, それぞれ 1
ことによ り, メタノール とェ タノールの蒸気圧 の温
2
4
mmHg(メ タノール),6
4.
4
mmHg(ェ
献値 7) の 1
度変化 を調 べ た.温度 の上昇 に ともな う空気 の圧力
クノール) ともよ く一致 した ことか ら,圧力 が一定
変化 は以下 の式 で,求 め ることがで きる.
にな った ときに気 一液平衡 に達 した もの と考 え られ
る. 図 2の とお り, およそ 2分 で圧力 の値 が一定 に
な る ことか ら,実 際 に実験 す るときは 3分程度 の放
I ,aLr
-芸 荒
×po
(
1
)
置で,気一液平衡 での蒸気圧 を測定 す る ことがで き
ここで Poとt
oはメ タノールや エ タノールを注入
る. この よ うに比較 的短 時間で一定温度 での蒸気圧
す る前 の空気 の圧 力 (
at
m) と温度 (
o
c),p alr と t
第2
6
号
2
0
0
4
年
1
1
3
Akita University
は測定時の空気の圧力 (
at
m) と温度
(
o
C
)である.
v
a
。は,
その結果,全圧 P に対 す る蒸気圧 の分圧 P
以下 の差 し引 きで計算で きる.
Pv
a
,-p-P air
(
2)
習がで きる.
測定温度 をさ らに高温 あるいは低温 と広範囲に測
定す ることも考え られ る. しか し, この装置では圧
力 セ ンサーと三角 フラス コ間のチューブが室温 にお
かれ るため,測定温度が室温か ら離れ るほど誤差が
メタノール, エタノールそれぞれの結果を図 3およ
大 きくなる. この方法で は,特別 な恒温槽 を用 いる
び図 4に示す. グラフには文献値 7) か ら計算 した蒸
ことな く,0か ら4
0
℃程度 とい った安全 な温度範囲
o
Cか ら4
3.
6
気圧 曲線 も示 してある. メタノールで O
で,高校 の実験 として十分 な内容 を実施で きる点が
℃, エタノールで O
o
Cか ら4
4.
6
℃ の温度範囲で各 5
優れているといえ る.
点調べたが, いずれの場合 も実験結果 は文献値 とよ
く一致 している. この結果か ら生徒 はメタノール と
3
.
4
. 蒸発熱の算出
エタノールで,蒸気圧が高 いのはメタノールである
蒸発熱 は,液体 中で分子間の引力をたち切 って,
ことを判断 し, さ らにいずれ も温度が上昇す るにつ
分子の集団をば らば らにす るのに必要 なェネルギー
れて,蒸気圧が増大す ることを理解で きる. この解
である.高校化学で はこのよ うな定性的な説明がな
2)
析 において,(
1
)
式ではボイル ・シャルルの法則 ,(
されているが,定量的な考察 にはエ ン トロピーの概
式で は分圧 の法則 と関連づ け られ,気体 の性質 の復
念が必要 とな り,高校 の範囲外 となる.しか し,3
.
3
.
で求めた蒸気圧 と温度 の関係 およびクラウジウスクラペイロンの式か ら蒸発熱を求めることがで きる.
ほとん どの教科書 において, エタノールの蒸発熱が
表 などで示 されていることか ら, ここでは発展的な
学習 として取 り上 げる.
クラウジウス-クラペイロンの式か ら以下 の関係
が導 ける.
・
np - %
・B
(
3,
ここで 1
nP は蒸気圧 の自然対数, △Hv
a
。は蒸発熱
0
1
0
2
0
4
0
3
0
5
0
温度【
c
c〕
図 3 メタノールの蒸気圧曲線
(
J/mol
),T は絶対温度 (
K),B は定数 である.1
/T
に対 す る 1
nP をプ ロ ッ トし, y-mx+bに当て は
めれば, グラフの傾 き m は m--△H
v
a
。
/
Rとなる.
縦軸 は圧力の対数表示で, ここで はグラフの傾 きに
着 目す るため,圧力 の単位 は a
t
m,kPa,mmHgい
250
ずれで も同 じ結果 になるが,蒸発熱 を J単位で求 め
るためには,気体定数 は SI系の8
.
31
J/(
mol
・
K) と
200
'
「
ニ
'
美
文浜
献俵…
値 `
`
しなければな らない ことに注意 を要す る.
`
●
一
‥
/一̀
P
メ′
′
■
■
■
、
E
d
L
?1
5
0
_
亡
ー
也
城
蝶 t
OO
実験 データか ら求 めた蒸気圧 の自然対数 と絶対温
■
5
0
0
0
I
O
20
30
温度〔
℃】
図 4 エタノールの蒸気圧曲線
1
1
4
4
0
50
度 の逆数 との関係 を図 5と 6に示す.グラフか らymx+bの関係 が読 み取 れ, 取 り込 み ・解析 プ ログ
t
aLogge
rを用 い, 回帰 直線 を引 くこと
ラムの Da
が で きる. 傾 きを求 め る と, メ タ ノールが 4
6
7
4
(
相関係数 R は,0
.
9
9
0
)
, エタノールが5
4
0
4(
Rは
0.
9
8
5
) とな り, クラウ ジウス-ク ラペイ ロ ンの式
が成立 していることがわか る.次 に傾 きか ら蒸発熱
を求 めてみると, メタノ-ル3
8.
9
kJ/mol
,エタノー
秋 田大学教育文化学部教育実践研究紀要
Akita University
た. この教材 で は,パ ソコンや実験器具 の取扱 いに
不慣れで,取 り込 み o解析 プ ログラムの英語表示 に
︰
出 城峨
l
もとまど う生徒が いると考 え られ る. そ こでデ ィレ
<
OI
qヽ
r小
f)UL
クシ ョンはカ ラー印刷 と し,パ ソ■
コン上 の操作画面
一一:I
や器具 の図を貼 って,理解 の助 けと した.
このデ ィレクシ ョンを使 って,高校生 6名が実験
+
**債
し,実験後 にア ンケー トを行 った. その結果 ,5名
の生徒が蒸気圧 につ いて理解で きたと回答 している.
や は り画面 の記述が英語 であ ったため始 め とまどい
があ ったよ うだが,操作 は簡単であ った との感想 も
0.
0
0
31
0
.
0
0
3
2
0.
0
0
3
3
0
.
0
0
3
4
0.
0
03
5
0
.
0
0
3
6
0.
0
03
7
1/絶対温度【
1
/K〕
図 5 絶対温度の逆数-メタノールの蒸気圧の自然対数
あ った.蒸気圧曲線 の実験結果 も比較 的に良か った
ことか らも,簡単で有効 な実験であると判断 され る.
また,何 よ りもこんな実験 を学校授業 の内で もや り
たいとい う意見 も多 くあ った ことか ら,パ ソコ ンと
S
セ ンサーを使 った実験 をす ることで, なお一層 自分
▲
「
(出 城 礁
0 ](
で科学的 に問題 を解明 してい く探究心 も育成 された
と思われる.なお, このデ ィレクションはホームペー
3
2
'
小
H
)u
l
ジ上 で公開 して いる8).
-
+
1
=
ト
.
実
験
値
ヽ日
4
. 結論 と今後の課題
パ ソコ ンとセ ンサーを活用 した化学実験教材 の中
で,蒸気圧 の測定実験 による教材化 に成功 した.坐
0
.
0
031
0003
2
0.
0
03
3
00
03
4
0
.
0
03
5
00
0
3
6
0.
0
03
7
1/絶対温度【1/K〕
図 6 絶対温度の逆数-エタノールの蒸気圧の自然対数
徒 にとって定量的な扱 いをす る分野 で は知識だ けで
計算す る傾 向があるが,今回の研究 によ って,既習
事項 の気体 の性質 を確認 しなが ら蒸気圧 につ いて理
解 を深 め ることがで きる教材 にな った. また,色 々
ル4
4.
9
kJ/mo
lとな り, 文献 値 6) の メ タノール3
5
.
2
な分野で探求活動 や課題研究 をす るために,生徒が
,エ タノール3
8.
5
kJ/
mo
lとよ く一致 して い
kJ/mol
課題 を発見す るために,観察 o実験 を行 って問題 を
る.高校生が クラウジウスークラペイ ロンの考 え方
解決す るために, そ して分か った ことを表現 してい
を理解す ることは困難 であろ うが,関係式 を与 え,
くために有用 な道具 と して活用で きるであろ う.
簡単 な回帰分析 をす ることで,かな り正確 に蒸発熱
を求 め ることがで きる.
今 回 は,温度 セ ンサ ー と圧力 セ ンサ ーの 2つ を
H セ ンサ ー,伝
使 った蒸気圧測定 を取扱 ったが ,p
パ ソコ ンとセ ンサーを活用 した実験 は,物質 の状
導度 セ ンサー,溶存酸素 セ ンサー,光度 セ ンサーな
態変化 の単元 にお ける探求活動 で,定量的 にデー タ
どさまざまな分野で活用で きる装置 もある. これか
を取扱 い,解析す ることを可能 とす る. この クラウ
らは, その有効 な活用 につ いて考 えていきたい.パ
ジウスークラペイ ロ ンの項 目を課題研究 や理科 クラ
ソ コンの普及が進んでいる中, このよ うなセ ンサー
ブで積極的 に取扱 うことは効果的 と思 われ る.蒸発
類 を準備す ることで,各 グループに 1台ずっ配置す
熱 を 自分 たちの実験 で求 め る探究活動 は生徒 にとっ
ることも可能 であろ う.
て感動的で,科学 への関心 を さ らに深 めると期待 さ
れ る.
生徒 が 自 ら考 え,問題 を見っ けて解決 して い くこ
とで,科学への興味 。関心 が大 き くなることを期待
したい. また, コンピュータを情報収集 の道具 だ け
3
.
5
. 「蒸気圧 の測定」教材 の実践
「蒸気圧 の測定」実験 のデ ィ レクシ ョンを作成 し
第2
6
号
2
0
0
4
年
に捕 らえず,問題解決への道具 と して利用 で きるよ
うにな って もらいたい. そのために も,本実験 だけ
1
1
5
Akita University
でな く, いろいろな種類 の実験 や探究活動 を行 って
い く必要 があ るだ ろ う.
謝辞
デ ィレク シ ョン作成 に協力 を惜 しまなか った瀬尾
絵理那氏,酉藤 由紀子氏 に感謝す る.
参考文献
1
) 文部省 ,1
9
99
年 3月 2
9日告示,高等学校学習指
導要領,第 2章各教科,第 5節理科,第 3隷各教
3
)
科 にわた る指導計画 の作成 と内容 の取扱 い(
2
) ShawnM.
Gl
ynnほか,竹村重和監訳 ,1
9
9
3
年,
「
理科学習 の心理学」,p
1
5
1
,東洋館 出版社
3
) 文部省 ,1
9
91
年 5月,中学校理科学習指導資料,
「指導計画 の作成 と学習指導 の工夫」,第 3章第 2
節 「
観察,実験 の過程での コンピュータ等 の利用」
4) 雄鹿洋美 ,1
9
9
9
年 3月,「
パ ソコンによる計測 ・
デー タ処理 を生 か した化学実験教材 の開発」,秩
4
集,
田大学教育文化学部研究紀要, 自然科学第 5
P1-7
5
) 藤井舜介,梶 山正 明 ,2
0
0
3
年, 「注射器 を用 い
て水蒸気圧 を測定 す る」,化学 と教育
高等学校
化学実験集,日本化学会 化学教育協議会 ,P6
4-
6
5
6
) 例 えば国産 ではスズキ教育 ソフ ト (
ht
t
p:
〝www.
s
uz
uki
s
of
t
.
c
o.
j
p) が あ る. Ve
r
ni
e
rSof
t
war
e&
Te
c
hnol
ogyの ホ ー ム ペ ー ジは, ht
t
p:
〟www.
ve
r
ni
e
r.
c
om/にあり,購入 は EdUSA,
I
nc
.(
ht
t
p:
〝www.
e
dus
a.
c
om/)か ら行 え る.
7
) 日本化学会編 ,1
9
9
3
年 9月 3
0日発行,改定 4版
Summar
y
l
ti
sc
ommont
oc
l
ai
mt
hatt
het
e
ac
hi
ngoft
he
vaporpr
e
s
s
ur
ei
se
xt
r
e
me
l
ydi
f
f
i
c
ul
tduet
oal
ac
k
ofappr
opr
i
at
ei
ns
t
r
uc
t
i
onalmat
e
r
i
al
s
.Thi
si
n
t
ur
n i
sve
r
yl
i
ke
l
yt
ol
e
adt
oal
oc
ks
t
e
pt
ype
t
e
ac
hi
ng,i
nwhi
c
ht
hes
t
ude
nt
s
'par
t
i
c
i
pat
i
oni
s
ke
ptt
oami
ni
mum.Thepr
e
s
e
ntpape
ri
sar
e
por
t
ofde
ve
l
opi
ng t
hemat
e
r
i
alus
i
ng PC and t
he
s
e
ns
or i
nc
he
mi
s
t
r
yc
our
s
e
sf
or s
e
ni
or hi
gh
s
c
hooll
e
ve
ls
t
ude
nt
si
n Japan.Themat
e
r
i
al
s
pr
ove
dt
obes
uc
c
e
s
s
f
uli
nt
hef
ol
l
owi
ng t
hr
e
e
ways
.Fi
r
s
t
,t
hede
vi
c
ehe
l
pe
ds
t
ude
nt
ss
uc
c
e
s
s
f
ul
l
ydr
aw avaporpr
e
s
s
ur
ec
ur
vet
hankst
ot
he
mac
hi
ne whi
c
hc
oul
de
as
i
l
y be mani
pul
at
e
d.
Se
c
ond,t
hede
vi
c
ehe
l
pe
ds
t
ude
nt
sunde
r
s
t
and
notonl
yt
hephe
nome
nonoft
hevaporpr
e
s
s
ur
e
pe
rs
e
,
butal
s
ot
het
he
or
yunde
r
l
yi
ngi
t
.Thi
r
d,
i
t
wasf
oundt
hatt
hemat
e
r
i
alc
oul
dpot
e
nt
i
al
l
ybe
us
e
dnotonl
yf
ori
ns
t
r
uc
t
i
onataf
or
male
duc
at
i
onals
e
t
t
i
ng,butf
ore
xt
r
ac
ur
r
i
c
ul
arac
t
i
vi
t
i
e
s
.
I
naddi
t
i
ont
ot
he
s
e
,i
twass
ugge
s
t
e
dt
hatt
he
mat
e
r
i
alc
oul
dbehe
l
pf
ulf
ors
t
ude
nt
st
ode
ve
l
op
t
he
i
ri
nqui
r
i
ngmi
nd.Thepape
rc
onc
l
ude
swi
t
h
s
e
ve
r
als
ugge
s
t
i
onsf
orus
i
ngt
hemat
e
r
i
ale
f
f
e
c
t
i
ve
l
y.
Ke
yWor
ds:
VaporPr
e
s
s
ur
e
,PCandt
heSe
ns
or,
Phas
eChange
s
,I
nve
s
t
i
gat
i
on,CBL
(
Re
c
e
i
ve
dJanuar
y2
3,2
0
0
4
)
化学便覧基礎編 Ⅱ,丸善株式会社
8
) ht
t
p:
〝www.
i
pc
.
aki
t
au.
ac
.
j
p/∼
i
wat
a/
1
1
6
秋 田大学教育文化学部教育実践研究紀要
Fly UP