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JPEC 世界製油所関連最新情報
2012 年 8 月 30 日(水)
JPEC 世界製油所関連最新情報
2012年 8月号
(2012 年 7 月以降の情報を集録しています)
一般財団法人 石油エネルギー技術センター
調査情報部
目 次
概
況
1. 北 米
4 ページ
(1) RFS の見直しを求める 2 つの動き
1)セルロース系バイオ燃料生産の現状と RFS 見直し要請
2)石油関係以外の団体による RFS 見直し要請
(2) BP の Carson 製油所を Tesoro が買収
(3) ブリティッシュコロンビア州 Kitimat 近郊の製油所建設計画について
2. ヨーロッパ
(1) 「Biofuels Barometer」にみる EU のバイオ燃料状況
(2) Stanlow 製油所にみる製油所運営管理と銀行の関わり
10 ページ
3. ロシア・NIS諸国
13 ページ
(1) ロシアの製油所の Euro-5 対応に向けた情報
(2) ロシアのヨーロッパ向け高品質ディーゼル輸出についての情報
4. 中 東
(1) クウェートの Al-Zour 製油所新設プロジェクトの進展状況
(2) イラク、クルディスタン地域で製油所拡張計画
16 ページ
5. アフリカ
18 ページ
(1) 南アフリカ共和国、PetroSA の Mossel Bay 製油所が新たな原料を確保へ
(次ページに続く)
1
6. 中 南 米
20 ページ
(1) ベネズエラ PDVSA の El Palito 製油所増強プロジェクトが進展
(2) ブラジル、Braskem の国内の石油・バイオ関連設備建設の状況
7. 東南アジア
22 ページ
(1) マレーシア Petronas が進める、石油化学プロジェクト RAPID の進展
(2) インド RIL の Jamnagar 製油所・石油化学コンプレックス拡張計画の概況
8. 東アジア
(1) Sinopec の中国最大級の製油所建設計画
(2) 中国 Sinopec、BASF との石油化学合弁事業をさらに拡大
25 ページ
9. オセアニア
(1) Caltex Australia の Kurnell 製油所の閉鎖が決定
27 ページ
※ この「世界製油所関連最新情報」レポートは、2012 年 7 月以降直近に至る
インターネット情報をまとめたものです。当該レポートは石油エネルギー技術
センターのホームページから閲覧することができます。
 http://www.pecj.or.jp/japanese/overseas/refinery/refinery.html
2
概 況
1.北米
・セルロース系エタノール供給体制の整備の後れ、また減産が予想されるトウモロコシ
の飼料と燃料用途の競合による価格高騰が深刻化している状況から、米国 EPA のエタノ
ール配合基準(RFS)の妥当性を巡り大きな議論が引き起こされている。
・製油所では、Tesoro の BP の製油所買収の動き、カナダ・ブリティッシュコロンビア
州のオイルサンド由来原油を処理する異業種による大型製油所の新設計画を紹介する。
2.ヨーロッパ
・欧州ではバイオ燃料の消費の伸び悩みを示す統計が発表されたが、この傾向は 1 年前
の傾向と同じである。
・インド Essar は、英国 Stanlow 製油所の経営に関して、Barkleys 銀行との提携を発表
したが、これは欧州における銀行による製油所経営への参画の動きとして注目される。
3.ロシア・NIS 諸国
・ロシアは Euro-5 基準の燃料製造体制の拡充を目指し、多くの製油所設備の近代化プロ
ジェクトを進めているが、その中から最近完成した事例を紹介する。
・ロシアの欧州向け高品質ディーゼルの輸出が供給体制の拡充や輸出課税の緩和等によ
り増加している。欧州製油所の閉鎖・低稼働や米国からの供給減等がその背景にある。
4.中東
・クウェートから、これまでも注目を集めてきた大規模製油所 Al-Zour 製油所プロジェ
クトの推進計画が新たに発表された。
・イラクのクルディスタン地域の製油所が大型製油所への拡張計画を発表したので、そ
の概要を紹介する。
5.アフリカ
・南アフリカ共和国の PetroSA の GTL 製油所への新たな天然ガス供給計画を紹介する。
6.中南米
・Orinoco 産原油処理の拡大を目指す、ベネズエラ国営 PDVSA の El Palito 製油所拡張
プロジェクトの進展状況を紹介する。
・ブラジルの Braskem は、同国内で従来型の石油化学プラントとバイオ系プラントの両
面から建設プロジェクトを進めている。
7.東南アジア
・マレーシア国営石油会社 Petronas の製油所・石油化学コンプレックス建設プロジェク
ト“RAPID”では参画企業など体制が固まりつつある。
・インド RIL の Jamnagar 製油所・石油化学コンプレックスは、石油化学部門の設備拡張
に重点を置き各種プラントの建設計画が明らかにされつつある。
3
8.東アジア
・中国の Sinopec は、東部の Jiangsu 省で国内最大級の製油所・石油化学コンプレック
ス建設を計画中である。
・Sinopec と BASF は合弁事業 BASF-YPC プロジェクトの拡張を進める一方、新たな石油
化学プロジェクトを検討している。
9.オセアニア
・事業継続の可能性が検討されていたオーストラリア Caltex の Kurnell 製油所閉鎖方針
が発表された。これにより 2014 年中にシドニー地区の製油所が無くなることになる。
1. 北 米
(1) RFS の見直しを求める 2 つの動き
最近、米国の再生可能燃料基準(RFS:Renewable Fuel Standard)の見直しを環境保
護庁(EPA)に求める動きが強まっている。この動きを伝える情報を注意深く読むと、内
容が異なる少なくとも 2 つの動きがあることが読み取れる。
その一つは、米国燃料・石化製品製造業者組合(AFPM:American Fuel & Petrochemical
Manufacturers、旧称 NPRA)や西部州の石油関連事業者団体である Western States
Petroleum Association(WSPA)等が、
「セルロース系バイオ燃料は、市場に殆ど出回っ
ていないにも拘らず、それらを RFS で使用を規定し、ガソリンに混合を義務付けるのは
現実的ではなく、不当にガソリンの使用を制限しようとするものである」として EPA と
の間で紛争を起こしている事項に関する内容の情報である。
他の一つは、今年、半世紀ぶりと言われるほどの干ばつが米国中西部の穀倉地帯を直
撃し、トウモロコシの大幅な収穫減少が確実視される中、年間消費の約 35%を占めるト
ウモロコシの飼料用としての供給が RFS により圧迫され、価格が押し上げられていると
して、畜産業界や食品業界の団体が RFS の見直しを迫る一大キャンペーンを展開してい
る内容の情報である。
以下に、これら 2 種類の動きとガソリン需要との関係を簡単に報告する。
1)セルロース系バイオ燃料生産の現状と RFS 見直し要請
RFS に基づく 2012 年のセルロース系バイオ燃料使用義務量は、2011 年 7 月に報告して
いる通り、再生可能燃料の合計量として 152 億ガロン(6,000 万 m3)
、セルロース系バイ
オ燃料として 345 万~1,290 万ガロン(1.3 万~4.9 万 m3)と規定されており、混合でき
ない場合には相応のペナルティが科せられることになっている。
RFS に基づき EPA が発行する再生可能識別番号(RINs:Renewable Identification
Number)は、本来、バイオ燃料の製造、使用および取引の追跡のために付与されるもの
であるが、ある一定の条件下で翌年への持越しが可能であると共に、バイオ燃料の義務
4
量を混合できなかった企業への売買取引が出来る制度になっている。
この RFS の RINs 制度が上記した“ペナルティ”にあたり、この制度の存在により米国
内製油所が(AFPM の言う「不当に」
)支払った金額は、これまでに 2 億ドルに上るとし
ている。この事に対し、AFPM やその他の団体が、市場に供給されていないセルロース系
バイオ燃料をも加味し、ガソリンに混合することを義務付けている RFS は、非現実的で
結果的にはガソリンの消費に不当な制約を加えているとして、これまで数度に亘り請願
や提訴を繰り返してきている所以である。
最近では、
これらの請願に対し、
EPA は 2012 年 5 月に拒否する旨の裁定をしているが、
これを不服として AFPM 等の団体は RFS の執行停止を求めた提訴を 6 月に裁判所に行って
いる。この動きに対して、再生可能燃料協会等のバイオ燃料工業界の 6 団体が、共同で
ワシントン特別区の連邦巡回控訴裁判所に仲裁手続きを 6 月に申請するなど、目まぐる
しい動きを示している。
この様な状況下、米国石油協会(API)の Jack Gerard 会長が、7 月 10 日に開催され
た議会下院の「エネルギーと電力に関する小委員会(U.S. House Energy and Commerce
Subcommittee on Energy and Power)
」の席上、エタノール混合率 15%(E-15)のガソリ
ン使用許可が時期尚早であることと RFS の不当性を述べている。
現在施行されている RFS は、エタノール並びにバイオ燃料の使用量増加には繋がった
が、現状では当初の目的を外れているばかりか消費者の重荷になっていると証言し、見
直しの必要性を訴えている(*1)。
米国エネルギー省(DOE)
、米国農務省(USDA)及び国務省(DOS)が助成金を支給し、
支援しているセルロース系バイオ燃料の実用化に向けたプロジェクトは数多く報道され
ているが、石油系各種団体が“使用は非現実的”とするセルロース系バイオ燃料製造プ
ロジェクトの現状を、最近のインターネット情報に照らしてみると以下の通りである。
i)KiOR, Inc(*2)
テキサス州の再生エネルギー大手企業 KiOR,Inc は、7 月下旬に米国内で初めてセルロ
ース系エタノールの燃料としての登録を EPA に行っている。自動車燃料を生産する企業
は、製品の販売に先立って、この燃料登録をする必要があるためである。
同社はミシシッピ州 Columbia に工場を新設しており、植物性繊維(Plant fiber)を
原料にディーゼルやガソリンの製造を行う。設備能力は 1,100 万ガロン/年であるが、当
面、50 万~100 万ガロン/年程度の生産を今年の第 4 四半期より開始し、約 1 年後にフル
生産に入る予定である。
ii)INEOS Bio(*3)
KiOR の登録より遅れたが、INEOS Bio が NPE Holdings との合弁企業である INEOS New
Planet BioEnergy(INPB)を通じて、EPA へのバイオエタノールの生産及び販売に必要
5
な登録を 8 月に完了している。
同社の技術は、非食品系バイオマス(廃棄物と考えられる)を原料にバイオ燃料を製
造するもので、フロリダ州 Vero Beach 近くに 800 万ガロン/年の設備を持っているが、
フル生産に入れる時期は年末以降になると報じられている。
iii)その他
前記 2 社がセルロース系バイオ燃料の実生産の点で先行しているが、他にも 2013 年下
期に生産が期待できる企業がある。カンザス州の Abengoa Bioenergy(生産能力 2,300
万ガロン/年)とアイオワ州の Poet(同 2,000 万ガロン/年)である。
これらの企業ではトウモロコシの穂軸、茎、葉と言った所謂食用に供する種子部以外
の廃棄物を原料としてバイオ燃料を生産するものであるが、EPA への登録を済ませ実用
化段階に至るのは、かなり先になるのではないだろうか
(*1)
http://republicans.energycommerce.house.gov/Media/file/Hearings/Energy/2012071
0/HHRG-112-IF03-WState-GerardJ-20120710.pdf
(*2) http://investor.kior.com/releasedetail.cfm?ReleaseID=700905
(*3) http://www.ineosbio.com/76-Press_releases-43.htm
2)石油関係以外の団体による RFS 見直し要請
前記した通り、50 年来の干ばつに見舞われている米国中西部の穀倉地帯では、トウモ
ロコシの大幅な収穫減少が見込まれており、米国農務省(USDA)が 8 月に発表した予測
を見ても 10~15%の減少になっている(*4)。
実際にはこれ以上の減少になるのではないかと報道されている中、今後も繰り返され
ると見られる異常気象や水資源の枯渇・水質悪化に対する不安から、食品業界や畜産業
界は米国議会を巻き込んで RFS の見直しを EPA に迫っている。
食品・畜産業界の団体が危機感を募らせている理由はトウモロコシ価格の高騰にあり、
USDA の資料に基づき 2012 年-2013 年のトウモロコシ需要を見てみると、その背景を理解
できる。USDA の最新データでは、図 1 に示す通りトウモロコシの合計収穫量約 118.8 億
ブッシェル(4.19 億 m3)の内、エタノール用途が 41.3%、飼料用が 34.3%、食品・種子・
工業用が 8%となっている。
6
図1.米国産トウモロコシの用途別消費量
RFS 規制に基づきエタノール使用義務量が確実に増加し、今後トウモロコシの収穫量
が変動すると考えられる状況下では、食品、飼料用トウモロコシにしわ寄せが集まるの
は避けられない状況になっている。そこで、食品・畜産業界では、トウモロコシ原料の
エタノール製造が食品価格や穀物相場へ与える影響、RFS 規制との間に存在する明らか
な強い関係を検証し、議会に対して RFS の見直しを要請している。
要請を受けた議会では 8 月 1 日付けで 156 人の下院議員が、また、8 月 7 日には 26 人
の上院議員が EPA 長官宛てに連邦政府の RFS 規制の見直しを求める書簡を送っている(*5
~6)。
更に、国際連合食糧農業機関(FAO:Food and Agriculture Organization)の José
Graziano da Silva 代表も、米国での干ばつでトウモロコシ収穫が激減する中で、トウ
モロコシの多くが連邦法に基づいてエタノール生産に回り、食料や飼料への供給はこれ
まで以上に少なくなることを憂慮して、米政府に対してトウモロコシを原料とするエタ
ノール生産の即時差し止めを促している(*7)。
食品・畜産業界がインディアナ州の農業・食料業界のコンサルタント会社である
FarmEcon LLC に依頼してまとめた資料が「The RFS, Fuel and Food Prices, and the Need
for Statutory Flexibility」と題する報告書である(*8)。
同資料は 2012 年 7 月に公表されているが、この報告書に記されている事項は、2007
年の RFS 基準の導入以来エタノール生産量は増加しているが、エネルギー供給面及び米
国の輸入原油への依存の低減には結びついておらず、ガソリンの輸出量増加現象として
現れているに過ぎないと結論付けている。報告書の主要事項を列記すると;
① トウモロコシ価格の変動率は RFS が導入された 2007 年以来 2 倍以上になり、現状政
策の継続は、食料品価格および諸物価抑制面では効果が無く、反対に作用している。
② 2007 年以来、食品価格の高騰はトウモロコシ、大豆、小麦等の穀物価格の高騰と深
い関係を示している。
③ 熱量換算でエタノールとガソリンを比較するとエタノールはガソリンより高価であ
る。
④ 現状のエタノール製造コストを見た場合、ガソリン中に混合するエタノールを 10%
7
(E10)以上にすることは得策ではなく、エタノール単品として輸出する方がベター
である。この背景の下、2011 年のエタノール輸出量は 12 億ガロンに達している。
⑤ RFS 基準に則り混合義務が発生した高価で燃費効率の悪いエタノールにより、2011
年の単年で約 145 億ドル(ガソリン単価にして 10 セント/ガロン)の節約可能な費用
が燃料費として使用されたことになる。
⑥ 2007 年以降今日に至るまでエタノール生産量は増加したがガソリン増産、原油の輸
入量削減、製油所稼働率向上には何ら寄与していない。
⑦ 統計的には原油の輸入量は減少しているが、この減少は米国内で生産された原油量の
増加と製油所得率の向上の賜物であり、エタノール生産量増加が輸入原油の減少に寄
与した訳ではない。
(*4) http://www.ers.usda.gov/media/868958/fds12h.pdf
(*5)
http://goodlatte.house.gov/system/uploads/156/original/RFS_Waiver_Letter_08.02
.12.pdf
(*6)
http://www.hagan.senate.gov/files/documents/8.7.12%20Letter%20to%20EPA.pdf
(*7)
http://www.ft.com/intl/cms/s/0/85a36b26-e22a-11e1-b3ff-00144feab49a.html#axzz2
4G1fc8Mp
(*8)
http://www.farmecon.com/Documents/RFS%20issues%20FARMECON%20LLC%207-16-12.pdf
(2) BP の Carson 製油所を Tesoro が買収
2010 年 4 月にメキシコ湾の石油掘削施設「Deepwater Horizon」で発生した爆発火災・
原油流出事故の賠償資金捻出を余儀なくされている BP は、2013 年末までに 380 億ドル
相当の資産売却を計画し、これまでに 265 億ドル相当の資産を売却してきている。
この資産売却計画に含まれる米国内製油所として、2011 年 2 月にはカリフォルニア州
Los Angeles 近郊の Carson 製油所(26.6 万 BPD)のほかテキサス州 Houston 南部の Texas
City 製油所(47.5 万 BPD)の売却を発表している(2011 年 2 月号参照)
。
これ等の 2 製油所の売却時期は 2012 年 3 月号で報告している通り、当初、2012 年秋
としていたが、
1 年間先送りして関心を持つ企業との交渉が続けられていた。
今回、
Carson
製油所と共に関連設備としてのパイプライン網や貯蔵設備、販売店網を含めて Tesoro
Corp.に売却することを決めている。売買に伴う金額は、同製油所設備並びに販売店事業
の買収費用として約 11.8 億ドル、在庫評価価格として約 13 億ドルと発表されている。
より詳しく内容を見ると、Carson 製油所の付帯設備として、パイプライン(このパイ
プライン設備には Los Angeles 国際空港への燃料輸送ラインも含まれている)のほか、
カリフォルニア州南部、ネバダ州及びアリゾナ州で「ARCO」ブランドを掲げる約 800 箇
所の販売店網、同地域の「ampm」コンビニエンスストア網のフランチャイズ権、3 箇所
8
の海上ターミナル、4 箇所の陸上貯蔵ターミナル、4 箇所の製品貯蔵ターミナルが含まれ
ている。
加えて、カリフォルニア州では最大規模となる 400MW のガス焚コジェネ設備(Watson
工場)の権益 51%と年間 35 万トンのアルミニウム製造用電極負極材の生産設備として、
コークスか焼設備も含まれている。コジェネ設備は製油所向け電力が主体となっている
が、余剰分は市販されている。
今回の売買は、両社がメリットを享受できる取引であるとの大方の見方であるが、連
邦取引委員会(Federal Trade Commission)やカリフォルニア州司法長官の承認を得る
必要があり、懸念材料が無い訳でもない。
カリフォルニア州の製油所数はエネルギー情報局(EIA)のデータに基づくと 18 箇所
で、この内、稼働中の製油所数は 16 箇所で、稼働中の製油所の合計精製能力は約 186.5
万 BPD である。同州で最大の製油所能力を保有しているのは Chevron Corp.で、同社の
合計能力は 50.3 万 BPD であるから、約 27%の精製能力シェアを持っていることになる。
Tesoro はカリフォルニア州 Martinez に Golden Eagle 製油所(16.6 万 BPD)と
Wilmington に Los Angeles 製油所(9.7 万 BPD)を持っているので、Carson 製油所能力
を加えると Tesoro の同州における存在は大幅に強化されて 3 製油所体制になり、合計処
理能力は 52.9 万 BPD で、同州の精製能力の約 28%を握ることになる。
従って、カリフォルニア州におけるガソリン製造企業は、今後、Tesoro 及び Chevron
の 2 社に委ねられる構造になり、公正取引上は若干の問題が残ることになっている。事
実、既に消費者団体の一部から、競争原理が崩れることやガソリン価格の高騰を懸念し
て買収に反対の声が上がり始めている。
(3) ブリティッシュコロンビア州 Kitimat 近郊の製油所建設計画について
カナダ及び米国太平洋岸を主体に業務を展開しているマスメディアの Black Press
Group Ltd.を主宰する David Black 氏が、ブリティッシュコロンビア州 Kitimat 近郊に
製油所を建設するために、新たに設立した Kitimat Clean Ltd.の名前で環境評価報告書
提出の手続きに入ったと報じられている。
製油所建設候補地は、Kitimat の北約 25km、Terrace の南 25km にある DuBose の地で、
カナダのパイプライン会社 Enbridge が、同国中央部のアルバータ州から太平洋岸まで建
設を計画している「Northern Gateway パイプライン」が通過する地点である。製油所建
設着工は早ければ 2014 年で 2020 年の完成を予定しているとされる。
当該製油所では、
「Northern Gateway」で輸送されるアルバータ州産のオイルサンド由
来原油を処理し、ビチューメンと希釈剤込みの精製能力として最大 55 万 BPD とする、設
備投資額も 130 億ドルと言われる一大プロジェクトである。
9
「Northern Gateway パイプライン」
の計画完成予定は 2017 年で輸送能力が 52.5 万 BPD
であるから、同パイプラインの工期を念頭に置き、輸送原油の 100%を製油所で処理する
構想の内容と言えそうである。
報道されているところでは、ブリティッシュコロンビア州 Kitimat における一定の雇
用の確保を謳っているほか、オイルサンド由来の原油と石油製品としての軽質油の漏洩
を比較し、原油の漏洩は地域環境に与えるダメージが大きく、出荷設備やタンカーでの
事故では汚染が拡大する可能性が高いが、石油製品としての漏洩事故は、比較的簡単に
環境復旧が進むとの見方がされているようだ。
雇用の確保問題については、地元住民、特に先住民族の雇用が進むとして歓迎されて
いるところはあるが、漏洩事故が発生した場合、オイルサンド由来原油より軽質油とし
ての石油製品の方が処理し易いとする意見には、疑問を呈する人も多いのではないだろ
うか。
問題は他にも報じられている。石油精製事業のマージンは薄く、現状では世界的に精
製能力が余剰であると見られているところから、当該計画の事業性、実現を疑問視する
エネルギー企業は多い。更に、同計画を支援する機関・実業家は今のところ現れておら
ず、計画自体を懐疑的に見ている実業家や政府関係者が多い。
パイプライン建設を計画している Enbridge のバックアップも定かではなく、同パイプ
ライン建設に権益を持つ企業やオイルサンド生産者の中には、製油所建設より原油とし
て輸出することを望んでいるところは多いようだ。
David Black 氏としては、製油所建設プロジェクトに中国の参入を期待する向きがあ
ると言われているが、
「Northern Gateway パイプライン」に権益を持つ中国自体、石油
製品を輸入するより原油を輸入し、中国国内で精製する方が融通性、利便性、順応性等
の点でメリットを持っていると報じられている。
いずれにせよ、当該計画はまだ揺籃期の段階と判断できる。異業種の精製事業への進
出は、Delta Airlines の Trainer 製油所買収の成功例はあるが、一般的には単独企業と
しての展開は難しく、協力機関の参加・支援は欠かせない。
今後、投資機関やパイプライン設置企業としての Enbridge のバックアップを獲得する
など、充分に時間をかけて議論を重ねる必要がある。いずれにせよ、当該計画の実現に
は、乗り越えなくてはならない数多くのハードルが存在しているように思われる。
2. ヨーロッパ
(1)「Biofuels Barometer」にみる EU のバイオ燃料状況
EurObserv'ER が毎年報告している EU 加盟 27 カ国の年次報告書“Biofuels Barometer”
10
が今年も公表された。昨年の状況は 2011 年 8 月に報告しているので参照願いたい。当該
報告書によると、昨年と同様の傾向が認められ、EU27 カ国の 2011 年のバイオ燃料消費
量は減少しつつある状況が記されている。
EU としても、もはやバイオ燃料の急速な消費を望むことは出来ないとして、再生可能
エネルギーに関する EU 指令「Renewable Energy Directive:2020 年までに輸送部門で
消費される再生可能エネルギー割合を 10%以上とする」の“目標数値の達成を如何に進
めるか”の観点から、
“達成に向けた検証をどの様なシステムで行えばよいか”
、に関心
が移りつつある。
EurObserv'ER がまとめた統計数値を見ると、
図 2 に示された数値で分かるように、
2010
年から 2011 年にかけてバイオ燃料消費量は伸び悩みを見せている。
2010 年から 2011 年に掛けての伸び率は僅か 3%に過ぎず、
昨年の報告にあったように、
2009 年から 2010 年に掛けての数値は 10.7%、2008 年から 2009 年に掛けては 24.6%、2007
年から 2008 年に掛けては 41.7%の成長率であったことと比較すると、停滞している状況
が分る。昨年示した成長率 3%の数値は、石油換算では 136 万トンの増加に過ぎない。
図2. EU-27 カ国における輸送部門のバイオ燃料消費量推移(出典:資料 9)
報告書によると 2010 年から 2011 年に掛けてバイオ燃料消費比率を上昇させた国はフ
ィンランド(4 → 6%)、ポーランド(5.75 → 6.2%)、イタリア(3.5 → 4%)、スペイン(5.83
→ 6.2%)、ブルガリア(3.5% → 5%)、オランダ(4 → 4.25%)及びデンマーク(3.5%)とな
っているが、いずれの国も僅かな伸びに止まっている。
ヨーロッパではバイオ・ディーゼルの使用割合が高く市場の 78%を占め、バイオ・エタ
11
ノールの割合は 21%である。バイオガスも 0.5%の割合で使用されているが、全量がスウ
ェーデンでの使用であり、同国でのバイオ燃料の使用割合 13%の殆どの量を占める結果
となっている。この点も昨年同様である。
更に、昨年のバイオディーゼルの成長率が 2.4%であったことに比し、バイオエタノー
ルの成長率はバイオディーゼルより大きい6.2%を示している点も昨年と同様の傾向であ
る。
(*9) http://www.eurobserv-er.org/pdf/baro212.pdf
(2) Stanlow 製油所にみる製油所運営管理と銀行の関わり
英国の Stanlow 製油所(29.6 万 BPD)は、2011 年にインドの Essar Oil が Royal Dutch
Shell plc より買収し(2011 年 3 月号参照)
、子会社の Essar Energy UK が同製油所を運
営管理してきている。
経済状況に明るさが見えないヨーロッパにおいて、同社は銀行からの借入金に対する
利息支払いの軽減を図り、製油所財務体制の健全化及び製油所運営の軽量化を模索して、
Barclays Bank plc と 7 月に業務提携をしている。
Essar Energy が今回の提携に踏み切った背景には、1 年前に同製油所を Shell から買
収した際に、3.5 億ドルの設備買収費用以外に 8 億ドル以上と言われている原油及び製
品在庫評価分の買収費用が必要となったことに加え、最近インド国内で Essar Oil の
Vadinar 製油所で製造された製品に対する税金の取り扱いで Essar Oil が敗訴し、多額
な納税義務が発生していることも影響しているようである。
今回 Essar Energy が Barclays Bank と契約した内容では、製品販売や顧客関係は従来
通り Essar Energy が主体的に取り扱うが、製油所に関わる原油並びに製品の所有権を
Barclays Bank が持ち、要求に応じて製油所へ原油を供給することになる。Stanlow 製油
所は英国で 2 番目の規模を誇るだけに在庫原油や在庫製品量も多く、これらにかかる費
用も高額になっているものと思われる。
この提携で Essar Energy にとっての利点は、現在 13 行から借入れていると言われる
借入れ金額の一括返済が出来ることに加え、原油・製品在庫を抱えないで済む事で、これ
等にかかる費用を軽減でき、製油所運転に融通性を持たせることが出来るとしているが、
反面、今後 Barclays Bank が同製油所の運営に大きく関わることになる。尚、今回の提
携の有効期限は 3 年間とされる。
銀行が何らかの形で大きく製油所運営に関わりを持つ形態は、ヨーロッパ地域では目
新しい事例のようであるが、目を米国に転じると珍しいことではなく、Goldman Sachs、
Morgan Stanley、J.P. Morgan Chase といった大手銀行が、今回の Stanlow 製油所の例
と同様の形態で製油所運営に関わっていることはよく知られている。
12
米国での製油所と銀行と関わりの一例としては、テキサス・カリフォルニア・ルイジア
ナ州で 5 製油所(処理能力 25 万 BPD)を運営する Alon USA Energy と Goldman Sachs の
提携や最近の Phillips 66(旧 ConocoPhillips)のペンシルベニア州 Trainer 製油所を買
収した Delta Air と J.P.Morgan Chase の提携を挙げることができる。
経済基盤が米国より脆弱と思われるヨーロッパの精製分野において、米国と同様の銀
行の係わりが通用するか否か疑問が残るとされている状況下での製油所と銀行の提携で
あるところが注目されている点である。
米国での例を含めても、今回の事例ほどに金額的にも大規模な取引はなかったと言っ
ている Barclays Bank は、今後ヨーロッパでは運転費用削減に向けて各石油会社は銀行
との提携を模索することが増えるのではないかとの見通しを持ち、Stanlow 製油所以外
の製油所とも交渉中であると伝えられている。
3. ロシア・NIS 諸国(New Independent States)
(1) ロシアの製油所の Euro-5 対応に向けた情報
ロシアのエネルギー相が国内製油所プロジェクトについて発表している。この発表に
よると 2012 年から 2015 年にかけて同国で新設あるいは改造される装置は 88 設備に上り、
この内の 40 設備はガソリンの高品質化を目的とし、
30 設備はディーゼルの高品質化用、
18 設備は水素化分解や接触分解装置等を主とするコンバージョン改善を目的にしたもの
になっている。
これらのプロジェクトを完了させることで、今後、ロシアは 2020 年までにヨーロッパ
向け Euro-5 基準(S 分 10ppm)の超低硫黄ディーゼル(ULSD)の輸出量を、現在の約 3,700
万トン/年から約 7,000 万トン/年のほぼ倍に近い量にまで増加させる計画であるとして
いる。ロシアでは製油所の近代化工事を国家プロジェクトと位置づけて 2011 年から進め
てきており、投資額も 2011 年から 2015 年までの 5 年間で 303 億ドルに上ると推定され
ている。
今回の同エネルギー相の発表では、今年中に完了するプロジェクトの概要も報告され
ているが、それによると、88 設備の内の 10 装置は新設設備として今年中に稼動すると
している。この内、4 装置は既に実用に供されている。
プロジェクトが完了し、既に稼動している 4 装置とは TNK-BP と Gazprom Neft の均等
出資会社となる Slavneft が管理・運営する Yaroslavnefteorgsintez (YANOS)製油所
のディーゼル水素化処理装置(約 1.7 万 BPD)
、Surgutneftegaz 製油所のディーゼル水素
化処理装置(約 4 万 BPD)
、Gazprom Neft の Omsk 製油所のガソリン水素化処理装置(約
2.4 万 BPD)
それに Lukoil の Volgograd 製油所のディーゼル水素化処理装置
(約 6 万 BPD)
である。
13
また、
Rosneft のAngarsk 製油所とOrsknefteorgsintez 製油所の接触改質装置、
Gazprom
Neft の Omsk 製油所の接触分解装置、TNK-BP の Saratov 製油所(SNPZ)のディーゼル水
素化処理装置の拡張・建て替え工事が今年中の稼動に向けて展開中で、一部装置は既に
稼動されているようだ。
今月度 JPEC で収集された情報でも、YANOS 製油所の異性化装置とアルキレーション装
置も稼動しており、Euro-5 基準のガソリン製造体制が整い、実生産が開始されている。
これにより同製油所では、ディーゼルとガソリンの全量を Euro-5 基準とする体制が整え
られたことになる。
また、TNK-BP 傘下の製油所としては最大規模の Ryazan 製油所(24 万 BPD)では、軽
油水素化処理装置の触媒交換やその他の改造で Euro-5 基準のディーゼル製造体制を整
えるばかりでなく、製造量の増強も行っている。
(2) ロシアのヨーロッパ向け高品質ディーゼル輸出についての情報
ロシアからヨーロッパ向け高品質ディーゼル輸出量が増加している。増加した要因は、
ロシアでこの時期に行われている定期的な保全工事が終了し始めていることがあるが、
製油所の近代化工事を国家プロジェクトと位置づけて 2011 年から取り組み、次第に実効
を上げ始め、高品質製品の製造が可能になった事も大きい。
加えて、ロシアの石油輸出関税引き下げに伴い、各製油所が競う様にして輸出量を増
加させようとしていることも要因に上げることが出来る。
更に、ヨーロッパでは稼働率の低下や多くの製油所運転停止で中間留分の生産量が減
少し、特にディーゼルの製品不足が顕著になりつつあるが、世界的傾向としては、ラテ
ンアメリカ地域の製品需要が好調であるため、これまで、米国からヨーロッパ向けに輸
出されていた製品がラテンアメリカ地域に向けられており、米国からの輸入に制約が出
ていることも要因の一つに加えることができる。
この様な状況を受け、ヨーロッパ地域としても距離的に近いロシアや中東地域、更に
はインドからの輸入を増加しつつあり、中東やインドとヨーロッパを結ぶ大型タンカー
の需要が増加傾向にあると言われている。
ロシアからの石油製品の輸出環境が緩んでいることは前述の通りであるが、中でもロ
シアがガソリン不足に陥り、輸出関税を大幅に上げて製品の国外流出を食い止め、国内
需要にまわす政策を採用した昨年の5月以降、最近では国内石油市場も落ち着きを見せ、
政府としても緩和に向けて動き出している。
この状況について、石油製品輸出関税の動向の観点から考察するには、独立行政法人
石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)のモスクワ事務所が毎月報告している「ロ
シア情勢」の中で、
「原油及び石油製品輸出税の推移」として記されているので、その数
値を比較すると参考になる(*10)。
14
ロシアからヨーロッパに向けた石油製品の輸出量が増加している背景には、これまで
記してきた状況があるものと考えられるが、最近のインターネット上で検索されている
情報を見ても、バルト海に面した出荷港の Primorsk から輸出される量は先月 6.5 万 BPD
であったが今月は 16 万 BPD にまで急増している。
この内、12.5 万 BPD は Euro-5 基準の 10ppm 以下の硫黄分のディーゼルであり、残る
3.5 万 BPD は硫黄分が 500ppm のディーゼルが Surgutneftegaz の Kirishi 製油所から輸
出されている。
ロシアの低硫黄ディーゼルの主要積出港は Primorsk と Vysotsk の両港であるが、なか
でも Primorsk 港は図 3 に示すように国営パイプライン会社の Transneft が、製品輸送パ
イプライン・システムで国内製油所 15 箇所を結んでおり Kstovo-Yaroslavl-KirishiPrimorsk 間の通称「Sever」又は「North」パイプラインの整備と共に Euro-5 基準のデ
ィーゼル取扱量の増強が進められている。
図3. ロシアの石油製品輸送パイプライン・システム(出典:Transneft 社 HP より)
もっとも、ロシア政府は Primorsk 港からの ULSD(超低硫黄ディーゼル)が輸出される
量を手放しに歓迎している訳ではなく、来る 11 月から約 8.5~9 万 BPD 程度に制限する
予定であると関係者の間では言われている。政府として製品性能の向上を要求し、ある
程度の輸出を歓迎しているものの、国内需要に対応できなくなる事を恐れての事である。
(*10)
http://oilgas-info.jogmec.go.jp/report_pdf.pl?pdf=1208_out_j_moscow_monthly%2e
pdf&id=4725
15
4. 中 東
(1) クウェートの Al-Zour 製油所新設プロジェクトの進展状況
クウェートは、既存の Mina Abdulla 製油所(27 万 BPD)と Mina Al-Ahmadi 製油所(46
万 BPD)の拡張・近代化計画を Clean Fuels Projects(CFP)として、同国 5 箇所目となる製
油所の新設計画を New Refinery Project(NRP)と位置付けて進めてきた(2011 年 7 月号、
2012 年 5 月号等)
。
Kuwait National Petroleum Company(KNPC)は今年 7 月末に、NRP の Al-Zour 製油所新
設プロジェクト推進の方針を改めて表明するとともに、建設に向けた今後の予定を発表
した。
Al-Zour 製油所プロジェクトは、2007 年 7 月に建設計画が公表され、2008 年 5 月に建
設関係の契約が日本の JGC や韓国の GS Engineering & Construction 等のコンソーシア
ムと締結されたにもかかわらず、2009 年 3 月に原油価格の低迷による投資資金不安等を
理由にキャンセルされた。その後、1 年前の 2011 年 6 月に再び建設の方針が発表される
という紆余曲折を経てきている。
Al-Zour 製油所建設の目的は、発電所や海水淡水化プラントへの燃料供給と高品質燃
料の生産製品輸出である。処理原油はクウェート産の中質・重質原油で、原油処理能力は
61.5 万 BPD で完成すれば中東地域最大規模となる。製品は発電向けの低硫黄重油(S 含
有率 1%) の他、高品質燃料製品を製造し、コスト・品質競争力を高めて世界市場への輸
出を目指している。完成予定は 2018 年。拡張計画(CFP)と合わせると、最終的にはク
ウェートの精製能力は現在の 4 製油所 93.6 万 BPD から、製油所数は 1 増1減の4製油所
で 145 万 BPD に拡大することになる。
KNPC は、現在プロジェクト管理・コンサルタント業務(PMC)契約先の選定を進めてい
る段階で、受注企業名が近日中に発表される。設計・調達・建設(EPC)業務については、
予備審査の入札が 8 月初旬に終了している。PMC に対し米・豪・仏・英の有力企業 5 社が入
札したと伝えられている。
先に述べたように、Al-Zour 製油所プロジェクトはその実現が危ぶまれていた。その
背景には、政府と議会間の意見の相違のため、重要な政策の決定が遅れ勝ちになるとい
う事情がある。然しながら、同プロジェクトは、現在のクウェート政府のエネルギー政
策の最優先項目に位置付けられているため、KNPC は積極的に計画を推進する方針を固め
ているものとみられる。
現在クウェートは、需要の高まりにより発電量が増大しているが、国産天然ガスでは
賄いきれず、LPG を輸入している状態である。EIA によると 2010 年の天然ガスの輸入量
は 270MMcf/d(約 760 万 m3/日)に達している。クウェートは 2015 年までに発電量を現在
の 11,300MW に対しさらに 10,000MW 増やし倍増させる計画で、発電用燃料供給を目指す
Al-Zour 製油所の必要性は高まっている状況にある(*11)。原油価格も高水準に留まって
16
いるため、現時点での製油所建設の実現の確度は高いと推察されるが、政策の安定は不
可欠である。
(*11) http://www.eia.gov/countries/cab.cfm?fips=KU
(2) イラク、クルディスタン地域で製油所拡張計画
イラクのクルディスタン地域では、クルディスタン地域政府(KRG:Kurdistan Regional
Government)とイラク中央政府との間に、油田開発や原油輸出などをめぐる問題があり、
またイラクとトルコを結ぶ原油パイプライン(Kirkuk-Ceyhan Oil Pipeline)に対する攻
撃もしばしば報道されている。こうした状況にあるクルディスタン地域で、本格的な生
産規模の製油所を目指す設備拡張計画が発表された。
イラクは、新設製油所を核として国内精製能力を 150 万 BPD へ拡大する計画がある。
同国の製油所の新設・拡張計画についてはこれまで 2012 年 5 月号や 2011 年 8 月号等で
報告してきた(同国の製油所の配置については図 4 を参照されたい)
。イラクの主要な地
域の建設・拡張計画が徐々に明らかになりつつある一方で、クルディスタン地域の製油
所に関する情報は乏しい状況にあったが最近、
総合石油・天然ガス企業KAR Group のKalak
製油所(Erbil 製油所)の拡張計画が発表された。
Kalak 製油所の建設はイラクの石油省と鉱工業省との契約の下で、18 ヶ月の工期で
2005 年に始まったが予算不足等で建設は遅延し、その後 KRG により民営化され KAR Oil
Refining Ltd.が 2009 年 7 月に操業を開始した。処理原油は、Khurmala Dome 油田で産
出する原油で、2 基の処理能力 1 万 BPD の原油常圧蒸留装置(CDU)により、ディーゼル
(429KL/日)、灯油(588KL/日)、重油を生産していた。
操業当初から、KAR は Kala 製油所を拡張する計画で、1 次計画として精製能力 2 万 BPD
の追加、2 次計画としてさらに 6 万 BPD を追加する拡張工事を進めてきた。
今回の拡張計画は、KAR Group による Kalak 製油所第 3 次拡張プロジェクトとなるも
のである。第 3 次計画は、原油処理能力 6 万 BPD の増強と、コンデンセート処理設備(能
力 1.5 万 BPD)を追加し、精製能力を最終的に 18.5 万 BPD まで拡張することを目標にお
いている。設備建設は、これまでも Kala 製油所建設にかかわってきた米国の Ventech
Engineers LLS に発注した。
Ventech の発表によると(*12)設備の構成は、常圧蒸留装置(CDU)、ナフサ水素化脱硫装
置、リフォーマー、異性化装置、脱メルカプタン装置、ユーティリティー設備等。Ventech
は各装置を同社のテキサス州パサディナの工場内でモジュール単位まで製作し、Kala 製
油所で組み立てる計画である。これにより、輸送コスト削減・工期短縮が可能になりプ
ロジェクト全体のコスト圧縮が実現するとしている。(Ventech はモジュラー製油所・ガ
ス処理設備・プラント移設分野で世界的な企業である)
17
トルコ共和国
Kalak 製油所
クルディスタン
シリア・アラブ
Mosul
共和国
Kirkuk
イラン・イスラム
Baiji
Khanaqin
共和国
K3-Haditha
Daura
Kerbala
Najaf
Nassiriyah
Muftiah
20,000BPD 以上
Basrah
20,000BPD 以下
新設計画
サウジアラビア王国
Kirkuk–Ceyhan Oil Pipeline
EIA(OGJ)情報等を参照
図 4. イラクの製油所の配置と Kalak 製油所の位置
第 3 次拡張プロジェクトが完了すると、Kalak 製油所はイラクの既存の製油所では、
Baiji 製油所(31 万 BPD)に次ぐ 2 番目の製油所となる。また新・増設計画が全て実現し
た後の国内 8 製油所(14-31 万 BPD)の中でも 4 番目の規模になり、クルディスタン地域唯
一の本格的製油所として重要な役割を果たすことになると見られる。
(*12) http://www.ventech-eng.com/PDFs/PR_08-06-12.pdf
5. アフリカ
(1) 南アフリカ共和国、PetroSA の Mossel Bay 製油所が新たな原料を確保へ
南アフリカ共和国の国営石油企業 PetroSA が、新たな原料供給ソースを確保し、世界
初の GTL(gas-to-liquid)製油所である Mossel Bay 製油所の長期安定操業の基盤を確保
18
することができる見通しとなった。
PetroSA の Mossel Bay 製油所では、メタンリッチな天然ガスから合成ガスを製造し
FT(Fischer Tropsch)反応を用いて、クリーンな低硫黄かつ低芳香族含有率の合成燃料や
高付加価値製品を製造している。最終製品は、ガソリン・灯油・ディーゼル燃料・プロ
パン・重油・アルコール等である。精製能力は、原油換算で 4.5 万 BPD である。
現在 Mossel Bay 製油所は、PetroSA の FA-EM 天然ガス田と South Coast 天然ガス田
と、南ア沖合いの Block-9 の Oribi と Oryx ガス田から天然ガスの供給を受けているが、
PetroSA は、Mossel Bay 製油所の原料を将来に亘って安定的に確保するために、天然ガ
ス供給源を開発する Project Ikhwezi を進めてきた(*13)。
Project Ikhwezi は 2009 年の 8 ガス井の試掘に始まり、F-O 鉱区において開発と鉱区
評価が集中的に実施された。その後 2011 年 3 月に開発が承認され、同年 5 月には英国の
世界的な海洋資源開発企業 Ensco と掘削リグ建設の契約を締結した。掘削作業は 2012 年
11 月に開始予定で、2015 年の第 2 四半期に完了する計画である。鉱区と Mossel Bay 製
油所の位置関係は図 5 を参照されたい。
掘削と並行して、海底パイプラインとインフラの建設が進められているが、海底パイ
プラインは Allseas が担当し 2012 年 9 月から 12 月の間に敷設される予定で、引き続き
2012 年 12 月から 2013 年 6 月の間にパイプラインを除く海底インフラが SBM により建設
が進められる予定である。
F-O 鉱区の新設プラットフォームで生産された天然ガスは、海底パイプラインにより
F-O 鉱区の北西 40km に位置する F-A プラットフォームを経由して Mossel Bay 製油所に
供給されることになる。
南アフリカ共和国
大
西
洋
Mossel Bay
製油所
ケープタウン
パイプライン
F-A プラットフォーム
Block 9
F-O 鉱区
Block 11B/12B
図 5. Mossel Bay 製油所と天然ガス鉱区の位置関係
19
PetroSA HP 資料を参照
Mossel Bay 製油所は、GTL 製油所の効率操業に不可欠な安定的なガス供給源を確保す
ることになり、大規模な Mthombo 製油所プロジェクト(2012 年 6 月号)が実現するまで、
PetroSA にとって唯一の製油所として同社の燃料事業を長期的に支えることになる。
(*13) http://www.petrosa.co.za/project_ikhwezi.php
6.中南米
(1) ベネズエラ PDVSA の El Palito 製油所増強プロジェクトが進展
EIA の発表データによると、ベネズエラは Orinoco Belt で産出する莫大な埋蔵量(可
採埋蔵量 5,130 億バレル)の資源の戦略的開発を進めており、現在合成原油(syncrude)
を約 50 万 BPD のスケールで生産し、重質原油生産目標を 2020 年までに 200 万 BPD に設
定している。
ベネズエラは国内製油所で重質・超重質原油の処理を目指している。ベネズエラ国営
石油企業 Petróleos de Venezuela,S.A.(PDVSA)の製油所増強プロジェクトに関しては、
先月号(2012 年 7 月)に、同社が保有する国内 2 番目の規模の Puerto la Cruz 製油所の
設備増強工事について報じたばかりであるが、PDVSA の国内 3 番目の El Palito 製油所
の増強プロジェクトが建設に向けて前進したことが報じられた(*14)。
El Palito 製油所拡張プロジェクトは 原油処理能力の倍増、Orinoco Belt 産の重質・
超重質原油処理、高品質燃料製品の製造を目的とするものである。PDVSA は今年 7 月に
設計・調達・建設管理契約(EPCm)を、これまで基本設計業務(FEED)を担当していた Foster
Wheeler・東洋エンジニアリング・ベネズエラの Y&V Ingeniería y Construccion とのコ
ンソーシアムとの間で締結した。契約額などは明らかにされていない。
El Palito 製油所の所在地は、カラカスの西 150km の Carabobo 州で 1960 年に操業を
開始し、拡張を続け現在の処理能力は 14 万 BPD である。計画によると建設予定設備は
(1)常圧蒸留装置:処理能力 14 万 BPD(総処理能力は 28 万 BPD となる)
(2)ナフサ水素化脱硫装置・CCR(連続接触改質装置):処理能力 2.45 万 BPD、
(3)VGO 脱硫装置:処理能力 5.8 万 BPD
(4)ディーゼル脱硫装置:処理能力 4.5 万 BPD
(5)水素製造装置:製造能力 8,000 万 Scf/d
この他に硫黄回収装置、フレア設備、アミン再生装置等が建設される。
PDVSA は、Puerto la Cruz 製油所でも設備増強プロジェクトを進め、現在の軽質・中
質原油仕様から重質・超重質原油の処理設備への転換を図り、重質・超重質原油能力は
20
現在の 18 万 BPD から 21 万 BPD に拡張する計画である。両プロジェクトの完了後、Puerto
la Cruz 製油所と El Palito 製油所の 2 製油所で Orinoco Belt 産の重質・超重質原油を
合計 49 万 BPD の精製能力で処理することが可能となり、PDVSA の精製事業部門は増産と
コスト競争力の向上による、売上げ増、収益増を目指すことになる。
(*14)http://phx.corporate-ir.net/phoenix.zhtml?c=80422&p=irol-newsArticle&ID=1
716298&highlight=
(2) ブラジル、Braskem の国内の石油・バイオ関連設備建設の状況
南米最大の石油化学企業 Braskem の最近のダウンストリーム分野の設備動向を紹介す
る。ブラジルは、米国に次いで世界 2 位のバイオ燃料(バイオエタノール+バイオディー
ゼル)生産国であり燃料生産やバイオ燃料に関する技術開発が活発である。世界的な総合
石油化学企業である Braskem も石油・天然ガス系石油化学とともに、サトウキビを原料
とするエタノールを出発原料としたバイオケミストリーに力を入れており、現在では世
界最大級のバイオポリマー製造者である。最近の Braskem 社のブラジル国内の石油ベー
ス・バイオ原料ベースの両面から見た石油化学事業の動向を、同社の発表を中心に見て
みることにする(*15)。参考までに各プラントの建設地を図 6 に示す。
1)ブタジエンプラントが試運転を開始
6 月中旬、Braskem はブラジル最南端の州 Rio Grande do Sul 州の Triunfo 石油化学
コンプレックスでブタジエンプラントの試運転を開始した。プラントの製造能力は 10.3
万トン/年で、建設費は 3 億レアル(1.5 億ドル)
。
2)新設 PVC プラントが稼動
ブラジル北東部の Alagoas 州 Marechal Deodoro の新設 PVC(ポリ塩化ビニル)プラン
トが完成し 7 月末に運転を開始した。建設費は 10 億レアル(5 億ドル)、製造能力は 20
万トン/年。ブラジルでは経済成長に伴うインフラ整備が進んでおり、新設プラントは市
場の建材・配管の材料となる PVC 不足の解消に貢献することが期待される。本プラント
の完成により Alagoas の PVC 製造能力は 46 万トン/年となり、Braskem 全体の製造能力
は 70 万トン/年となる。
3)W.R.Grace とグリーンケミカルを共同開発
Braskem と触媒化学企業 W.R.Grace は、農産物系の再生可能原料から高付加価値製品
を製造するためにプロセス技術や触媒技術を共同で開発する方針を 7 月上旬に発表した。
これにより Braskem は W.R.Grace の触媒技術を活用してバイオポリマー事業の強化を図
る。
4)ポリエチレン、ポリプロピレンプラント建設計画
Braskem は、エタノールベースのポリエチレン(PE)の第 2 プラントと同じくエタノー
ルベースのバイオ・ポリプロピレン(PP)プラントおよびナフサベースのバイオ PP プラン
トを建設する計画である。建設地はブラジル北東部の Bahia 州の工業地帯 Camaçari。
21
計画では、3 プラントとも 2012 年に着工予定であったが、建設を 2013 年に延期する
と 7 月末に発表した。このうち、エタノールベースの PP が最優先される予定である。エ
タノールベースの PP(green polypropylene)プラントは、製造能力が 3 万トン/年で、
投資額は 1 億ドルのプロジェクトと発表されている。
今回の計画の見直しは、世界の石油化学製品需要の低迷によるもので、Braskem は確
実な需要増が見込める石油化学製品の設備増強、近代化を優先したものと見られる。
ガイアナ
共和国
スリナム
ベネズエラボリバル
共和国
共和国
ギアナ
コロンビア
共和国
Marechal Deodoro (PVC)
ブラジル連邦共和国
Alagoas
Bahia
Camaçari(PE,PP)
ボリビア
多民族国
パラグアイ
共和国
アルゼンチン
Rio Grande
do Sul
Triunfo(ブタジエン)
ウルグアイ
東方共和国
図 6. Braskem のプラント建設地
(*15) http://www.braskem.com.br/site.aspx/Pressroom (Braskem Press room 参照)
7. 東南アジア
(1) マレーシア Petronas が進める、石油化学プロジェクト RAPID の進展状況
マレーシア国営石油・天然ガス企業 Petroliam Nasional Berhad(Petronas)が進めて
いる大型製油所・石油化学コンプレックス建設プロジェクト RAPID( Refinery and
Petrochemical Integrated Development)に関してはこれまでも、2012 年 1 月、2011 年
5 月等で経過を伝えてきたが、その後の半年間でプロジェクト参画企業やエンジニアリ
ング・プロセスの概要が、明らかになってきたので現在の状況を紹介する(*16)。
RAPID プロジェクトは、マレーシアの Johol 州の Pengerang に原油処理能力 30 万 BPD
の製油所を建設し、欧州規格の高品質ガソリンやディーゼル燃料を製造するとともに、
22
石油化学プラントを建設するものである。石油化学コンプレックスではナフサと LPG を
原料にポリエチレン、ポリプロピレン、合成ゴム他の種々の高付加価値化学製品を製造
する計画で、2016 年までの操業開始を目指している。
Petronas は RAPID の共同プロジェクトパートナーを募っていたが、3 月にドイツ BASF
と石油化学製品プラントの共同プロジェクトに向けた覚書を締結した。対象となる製造
品目はイソノナノール(isononanol)・ポリイソブチレン(poly isobutylene)
・非イオン
界面活性剤(non-ionic surfactants)・メタンスルホン酸(methanesulfonic acid)とその
原料。BASF と Petronas は開発・建設・運転を共同で実施する。なお出資比率は BASF が
60%、Petronas が 40%となる。
両社は 2010 年 12 月に、非イオン界面活性剤・イソノナノール・メタンスルホン酸・
C4 スペシャリティケミカルを製造する共同事業に向けて、技術面、市場面の検討や経済
性評価を 2011 年を目標に実施するための合意契約(MoU)を締結していた。合弁事業の投
資額は、10 億ユーロ(12.5 億ドル)と発表されていた。
5 月には、Petronas と伊藤忠商事株式会社は石油化学事業の共同事業化調査実施の覚
書を締結した。さらに伊藤忠とはタイの PTT Global Chemical Public Company Limited
を含めた 3 者覚書契約も締結し石油化学事業の事業化調査を行うことになった。
さらに、7 月に入り Petronas はイタリアの Vesalis とも共同プロジェクトに関する覚
書を締結した。Versalis が保有するエラストマー技術をベースに合成ゴムプラント建設
の検討を進める。
設備建設の進捗状況に目を向けると、プラントの基本設計業務(FEED)をフランスの
Technip へ発注したと 3 月に発表した(*17)。契約期間は 2013 年後半までと発表されて
いる。さらに、石油化学コンプレックス設備には、米国 CB&I の“Lummus Technology”
を採用することが決まった。CB&I は、エチレン・ブタジエン・ベンゼン・イソブチレン・
MTBE の 5 ユニットで構成される世界最大規模のスチームクラッカーにプロセス技術を提
供することになる(*18)。
(*16)http://www.petronas.com.my/media-relations/media-releases/Pages/article/P
ETRONAS-TO-DEVELOP-NEW-REFINERY-AND-PETROCHEMICALS-COMPLEX.aspx
以降の Petronas Media Releases
(*17)http://www.technip.com/en/press/technip-awarded-engineering-contract-petr
onas%E2%80%99-rapid-project-malaysia
(*18) http://www.cbi.com/investor-relations/news-releases/
(2) インド RIL の Jamnagar 製油所・石油化学コンプレックス拡張計画の概況
インドの Reliance Industries Ltd(RIL)は、収益拡大のために、総額 180 億ドルに上
る多方面への積極的な投資方針を表明しているが、石油事業にも多額の投資を計画して
いる。その中で RIL は石油化学製品の収益性とアジアの市場の需要増に期待して、石油
23
化学製品の増産を目指している。ここでは、RIL が 80 億ドルを投資し進めようとしてい
る世界最大級の Jamnagar 石油化学コンプレックス増強プロジェクトの概要を紹介する。
製油所・石油化学コンプレックス拡張プロジェクト全体のプロジェクトマネジメント
業務は、米国の Fluor Corporation が受注した。Fluor は①石油コークスガス化プラン
ト、②オフガスクラッカー、③石油化学製品プラント類、④発電設備、⑤ユーティリテ
ィー、⑥オフサイト設備等からなる世界最大級の設備のプロジェクト管理業務を担当す
ることになる。これまで発表された個々のプラント(プロセス)の概要は次のようになる。
1) 石油コークスガス化設備
Jamnagar 製油所は、既に Foster Wheeler ライセンスのディレードコーカ-(処理能力
3.22 万 BPD)を備えているが、RIL は石油コークスをガス化し燃料と水素等を製造して製
油所・石油化学プラントの増強に用いるとともに、発電、石油化学原料として活用する
計画である。同社は、ガス化プラントの設計・資材調達業務を米国のエンジニアリング
企業 Fluor と契約した(*19)。
2) エチレンクラッカー
製油所のオフガスを原料に石油化学原料を製造するために、オフガスクラッカー(
Refinery Off-Gas Cracker)を建設する。設備規模は世界最大級(100 万トン/年超クラス)
となる。ROGC プロセスのライセンサーには仏 Technip が選ばれ、豊富な実績のある SMK
加熱炉技術を含む Technip のエチレン製造プロセス技術が採用される(*20)。
3) パラキシレンレン・プラント
Jamnagar コンプレックスは、世界的規模のアロマ・コンプレックスとなる計画である
が、アロマプラントに CB&I の技術が採用される。パラキシレンレン・プラントに CB&I
が独占ライセンス権を保有する BP パラキシレンプロセスが採用されることになった
(*21)。BP のパラキシレンレン技術は、多様な原料処理に強い異性化触媒技術と高純度
製品が得られる晶析(結晶化)技術を組み合わせたもので、エネルギー効率が高いという
特徴を有している。
このように、Jamnagar プロジェクトの、原料ガス・オレフィン製造プラント・アロマ
プラントの基幹設備の概要が明らかになりつつあり、大規模な総合石化コンプレック
ス・プロジェクトが実現に向け進展している様子を窺うことができる。これまでの発表
では、設備規模や仕様、建設計画の内容の発表は充分ではないが、今後徐々に事業性評
価の状況や、設備の設計の進捗に合わせて情報を収集していく予定である。
(*19)
http://investor.fluor.com/phoenix.zhtml?c=124955&p=irol-newsArticle&ID=1691333
&highlight=india
(*20)
http://www.technip.com/en/press/technip-awarded-contract-one-largest-ethylenecrackers-world
24
(*21) http://www.cbi.com/investor-relations/news-releases/
8. 東アジア
(1) Sinopec の中国最大級の製油所建設計画
China Petroleum & Chemical Corp.(Sinopec)が、中国東部の Jiangsu(江蘇)省に国内
最大級の製油所を建設することを計画中であると伝えられた。なお同計画は、昨年 6 月
にも報じられていたものである。
今回の報道によると、Jiangsu に計画中の製油所の原油処理能力は、3,200 万トン/年
(64 万 BPD)で、中国最大規模で、石化コンプレックスを併設することになる。投資額は
193 億人民元(30 億ドル)。建設開始予定は 2013 年で、フェーズ 1 で精製能力 1,200 万ト
ン/年(24 万 BPD)分を建設し、フェーズ 2 に残りの 2,000 万トン/年(40 万 BPD)分の増設
を計画している。
石油化学プラントでは、
フェーズ 1 に製造能力 100 万トン/年のパラキシレンプラント、
フェーズ 2 で製造能力 100 万トン/年のエチレンプラントの建設が計画されている。
また、
関連インフラとして埠頭の建設と容量 30 万トンの貯蔵施設の建設も計画されている。
製油所新設プロジェクトの目的は、中国の燃料製品・石油化学製品の旺盛な需要の伸び
に対応するためであることは言うまでもない。
中国最大、世界 2 位の石油製品の製造企業である Sinopec の現状を 2011 年の業績ベー
スで概観してみる。同社は、34 製油所を運営し、設備の新増設プロジェクトが進み精製
能力は総計 2.49 億トン/年(498 万 BPD)に達している。
2011 年の原油処理量は前年比 3.1%
増の 2.25 億トン/年(451 万 BPD)で、ガソリン 3,710 万トン/年(85 万 BPD)、ディーゼル
7,717 万トン/年(158 万 BPD)、灯油 1,373 万トン(30 万 BPD)、石油化学原料 3,738 万ト
ン(93 万 BPD)となり、精製得率は 95.1%を記録している。石油製品販売量は 1.62 億トン
/年に達している (*22)。
同社の 2011 年の収益を見ると、2011 年の精製事業部門は、2010 年の利益 159 億人民
元に対し、原油高の影響で 358 億人民元の損失を計上している。
Jiangsu 製油所の処理能力は、Sinopec の現有精製能力の 13%に相当する大きなものに
なる。設備機器の構成などは把握できていないが、重質原油処理能力が高く、高品質製
品を高い収率で生産することが可能な、コスト・品質ともに競争力に優れた最新設備を
備えた製油所となるものと予想される。着工予定が 2013 年ということになると、関係官
庁による認可の状況や、資金調達方法、処理原油・製品構成、装置構成、設計・建設工事
発注先等々が、今年中に明らかにされていくものと見られる。
(*22) http://english.sinopec.com/about_sinopec/our_business/refining_selling/
25
(2) 中国 Sinopec、BASF との石油化学合弁事業をさらに拡大
Sinopec とドイツの BASF は、中国において石油化学事業分野で合弁事業を展開してい
るが、その状況を紹介する。
両社は、取り扱い製品を増やしているが、新たにイソノナノール(iso-nonanol:INA)
の製造を検討している。INA はフタル酸ジイソノニル(diisononyl-phthalate:DINP)や非
R や DINCH○
R の原料となる次世代の可塑剤で、市場
フタル酸系の可塑剤である Hexamoll○
の拡大が期待されている。
Sinopec と BASF は、7 月末に大型 INA プラントの建設に関して、技術、営業販売、経
済性の観点から検討を進めるための覚書(MoU)を交わした。両社はプロジェクトを 50-50
の合弁事業とする計画である(*23)。
INA 製造プラント建設地は、中国 Guangdong 省(広東省)の南西部の Mowming 市(茂名
市)ハイテク工業地域で、製造規模は“world scale”とのみ発表されている。Evonok の
ドイツ Marl にあるプラントが生産能力 34 万トン/年で INA の世界最大級のプラントとさ
れているので、Sinopec-BASF のプラントも 10 万トン/年台の規模となると見られる。
Sinopec は、既に BASF との石油化学分野で合弁企業 BASF-YPC Company Limited(出資
比率 50-50)を 2000 年に設立し合弁事業を展開しており、今年初頭には 14 億ドルを投資
した第 2 期プロジェクトが完了している。
BASF-YPC のプラントは、Jiangsu 省 Nanjing 市 Luhe 区 (江蘇省南京市六合区)の
Nanjing Chemical Industry Park (NCIP:南京化学工業団地)内に建設され、全てのプロ
セスに BASF の“Verbund”技術が採用された。参考までに、第 1、2 期工事で建設された
製造設備を同社と BASF の HP 情報から纏めたものが表1となる。多製造品目の総合石油
化学コンプレックスである(*24)。
表 1. BASF-YPC の石油化学製品製造設備の製造能力一覧
装置名
処理(製造)能力 t/年
装置名
処理(製造)能力 t/年
エチレンプラント
740,000
ブタジエンプラント
エチレンオキサイド(EO)
330,000
イソブテン
60,000
エチレングリコール(EG)
300,000
ポリイソブチレン
50,000
ポリエチレン:LDPE
400,000
ブタノール
250,000
メチルアミン
40,000
アクリル酸
160,000
非イオン界面活性剤
60,000
アクリル酸エステル
215,000
エタノールアミン等
130,000
プロピオン酸
30,000
ギ酸
50,000
イソプロピルヘプタノー
ル
ジメチルホルムアミド
26
130,000
80,000
40,000
今後 Sinopec は BASF との合弁石油化学事業を、中国国内の複数の拠点で展開し、生産
品目もコモディティからスペシャリティケミカルまでの幅広い品揃えで事業展開するこ
とになる。
(*23) http://www.basf.com/group/pressrelease/P-12-349
(*24) http://www.basf-ypc.com.cn/en/about_us/company_profile
9. オセアニア
(1) Caltex Australia の Kurnell 製油所の閉鎖が決定
オーストラリアのシドニー地区にある2製油所の閉鎖をめぐる動きは、
2012 年7月号、
6 月号と続けて紹介し、2 製油所の内、Shell の Clyde 製油所の閉鎖時期の前倒しを伝え
たばかりであるが、もう一方の Caltex Australia の Kurnell 製油所(13.5 万 BPD)も操業
停止が決定した(*25)。
Kurnell 製油所の将来について検討を続けてきた Caltex Australia は、オーストラリ
アの石油精製・販売部門のサプライチェーンの再構築を行う方針を発表した。その中で
1956 年に建設された Kurnell 製油所は、もはやアジアの大型・近代的製油所と競合でき
ないことが明白になったと結論付けた。
Caltex は、Kurnell 製油所を 2014 年後半に閉鎖し、燃料製品の輸入基地に転換するこ
とを決定した。閉鎖と製品輸入基地への転換コストは 6.8 億豪ドル(約 7 億米ドル)、閉
鎖後の必要人員は 100 人を下回ると報道されている。因みに、現在同製油所は 430 人の
従業員と 300 人の業者を抱えている。
Kurnell 製油所の閉鎖により、Caltex Australia の製油所は Queensland 州 Brisbane
の Lyton 製油所(10.6 万 BPD)のみとなり、精製能力は半分以下の 44%となる。Caltex は
今後製品を輸入で調達し供給量に問題は無く、既に燃料製品の価格は輸入製品価格に基
づいて決められているため、価格面でも製油所閉鎖の影響は無いと説明している。
今年9月に閉鎖される Shell の Clyde 製油所に続く今回の Kurnell 製油所の閉鎖で、
来年中には、シドニー地区から製油所が消滅し、オーストラリア全体の精製能力は約 30%
減少することになり、各々2 製油所を保有している Caltex Australia と Shell は Mobil
とともに1製油所のみの操業となる。
その結果Kwinana 製油所(14万BPD)とBulwar Island
製油所を保有する BP のみが複数の製油所を操業する形となる。
今後オーストラリアでは、輸入石油製品への依存度が一段と高まることになる。製油
所の油槽所への転換等で製品輸入に対応すると見られるが、さらに物流インフラを整備
する必要性が生じることも予想される。
27
2 製油所の閉鎖は、2009 年に発表された Mobil の Port Stanvac 製油所に続く製油所閉
鎖の動きであるが、同国精製業が置かれている環境に変化は無い中、製油所閉鎖が一段
落するのか、さらに閉鎖が続くことになるのか予断を許さない。
(*25) http://www.caltex.com.au/Pages/ContinuingtofuelAustraliasfuture.aspx
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編集責任:調査情報部 ( [email protected] )
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