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く ま ん ち 便 り

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く ま ん ち 便 り
く ま ん ち 便 り
VOL.9
発行者
2013.1.1
生物多様性調査研究所「くまんち」
文責
田勢美代子
新年あけましておめでとうございます。昨年中は、くまんち活動をご支援頂き誠にありが
とうございました。昨年は皆様にとりましてどんな一年だったでしょうか。
くまんちでは、やはりクマさんはじめたくさんの生きもの達と関わった一年でした。中で
も特に大変だったのは昨年5月に保護した子グマの出来事でした。春頃に予測された花粉
の飛散状況をみて、今年は花粉の量が少ないとの予測からドングリの実りも不作になるだ
ろうと心配しておりました。
(花粉の量とドングリの実りの量は比例しているといわれてい
るため)そんな5月のある日、会津若松市から西に20キロ離れた町役場から突然連絡が
来ました。子グマを保護したがどうしたらよいかとのことでした。母グマは射殺され残さ
れた子グマの処遇に困っているようでした。一昨年の集中豪雨で破壊された道路の工事を
している中で、現場の近くにあった巣穴に住む母グマの方を射殺してしまったそうです。
親子グマはそこで冬眠をし、春になったので工事現場の近くを頻繁に歩くようになってい
たようです。なぜ、子グマがもう少し大きくなり母グマと共に巣穴から出られる大きさに
なるまでそっと見守れなかったのかと抗議をしましたが、工期があるし現場の作業員の安
全を確保する為と人間側の都合だけで母グマを簡単に射殺してしまったということが分か
りました。その後、町は子グマの処遇を県に問い合わせましたが放獣しなさいとの回答だ
ったため、このまま放獣したらきっと生きてはいけないと少しは人の情がわいてきたのか、
くまんちへ連絡をくれました。私たちはすぐ役場へ向かいました。そこには、本当に小さ
な子グマがダンボール箱に入れられ怯えていたのか小さく縮こまっていました。抱き上げ
るとオスの子グマだということが分かりました。突然親を失いはじめて見る人間の姿に恐
怖でいっぱいの目をしていました。その不憫な姿に怒りが収まりませんでしたが、急ぎそ
の子グマの受け入れ先を探すことになりました。ちょうど次の日が土日で役場が休みだっ
たのでひとまず役場の一室にケージを持ち込み、4時間おきにミルクの給餌に行くことに
なりました。同時にくまんちメンバー、京都の協力団体「いきもの多様性研究所」
(通称
いき研)
、東京のうさぎボランティアさんに協力を依頼し、片っ端から全国の動物園で受け
入れてくれるところを探しました。しかし、なかなか受け入れてくれる施設は見つからず、
親切にいろいろと教えてはくれるもののすぐには無理との返答で、皆途方にくれていまし
た。月曜には役場が開いてしまう、それまでしか役場には置いておけないと期限を切られ
ておりました。
土曜の早朝5時頃、子グマの給餌に向かう高速道路の車中から偶然見えた虹を見て、絶望
の中に希望の一筋の光をみたような気がしました。もしかしたら、どこか受け入れてくれ
る施設が見つかるかもしれないと心のどこかで思ったことを今でも覚えています。子グマ
はなかなかミルクを飲んではくれず、もしかしたらハチミツを混ぜれば飲んでくれるかも
しれないと思い、一か八か試してみることにしました。すると、ペロペロとなめ出しまし
た。そして、排泄が自力でできていないことに気付き、子猫を育てた経験からもしや温か
く濡らした布で刺激をしてあげたら排泄してくれるかもと思い刺激をしてみるとなんと排
尿してくれました。かなり我慢していたのか、しばらく排尿していました。
それからは、どんどんミルクを飲んでくれるようになり、まずは危機を脱したと感じまし
た。また、5月とは言え、夜になると気温が下がり肌寒くなるのですが、今までは母グマ
が体温で温めてくれていたのが急にひとりぼっちになり自力で体温を維持することができ
ず、寒そうに丸まっていたので湯たんぽで温めてあげました。そして、ほんのわずかな時
間でしたが毛布にくるみ抱き上げたところ、肌のぬくもりで安心したのか腕の中でうとう
と眠りにつきました。なんて残酷なことを人間はするのだろうと胸が痛みました。
その後、奇跡的に三重県にある私設動物園の「大内山動物園」の園長さんが子グマを受け
入れてくれることになりました。そこの動物園は、廃園になった動物園から動物を引き受
けたり、サルをたくさん保護していたり、最近では津市で保護されたブタさんなども保護
されています。子グマを連れて動物園を伺ったとき、なんて温かな雰囲気の動物園なのだ
と感じました。鉄でできている獣舎も木枠で覆われており、近くには沢水も流れ動物達の
飲み水もきれいで、園内とても静かで落ち着いた雰囲気でした。また、若い職員の方々も
とても心温かな方々ばかりでここの動物園なら子グマを安心してお願いできると心の底か
ら思いました。くまんちにいた時間はほんのわずかでしたが別れ際、どうかこの子が幸せ
になりますようにと願いながら動物園の方に託すときに涙が流れてきました。
今回のことは、全国でたくさん殺されたクマたちの中での命を救えたほんのわずかな小さ
な奇跡です。多くのクマたちは無抵抗のまま殺されていきました。その無念さを思うと
とても切なくなりますが、人間のあり方が今後の社会の未来を考える上でも問われている
のだと思います。
辛いお話ばかりでしたが、最後にちょっといい話をお知らせします。この子グマの一件で
役場は電気柵を30機購入し、クマが出で来る場所に設置をしてなんとかクマとの共存の
道を探って下さっているとの事でした。先日は、交通事故にあったタヌキを保護し、くま
んちまで運んでくださいました。
現在、大内山動物園に保護された子グマですが、名前を「プー君」と付けられ、新しいク
マ舎も建ててもらい、すくすくと元気に育っているそうです。是非ホームページをご覧下
さい。
人の心には、必ず善と悪が住んでいると思います。私たちがこれからを生きていく中で
究極の選択に迫られた時にどんな立場であろうと善を選べる人間でありたいと願います。
行く行くはそれが社会のために、子孫のために、回りまわって自分自身のためになるよう
な気がいたします。
今年一年皆様にとって素晴らしい一年でありますようにと願っております。
本年も変わらぬご支援をどうぞ宜しくお願い申し上げます。
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