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10 西村純子 andSchumn1983

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10 西村純子 andSchumn1983
10
エンプティ・ネスト期における夫婦関係
西村純子
1.問題の所在
m
a
r
i
t
a
lq
u
a
l
i
t
y
)は家族のライフサイクルにそって、
アメリカにおいては、夫婦関係の質 (
U 字型カーブをえがくといわれている[R
o
l
l
i
n
sandCannon,1
9
7
4
;Anderson,R
u
s
s
e
l
l,
andSchumn1983ほか〕。それは新婚期には高く、子どもの成長にしたがって低下し、子
どもが独立しはじめると再び上昇するというものである。このような U字型のパターンは、
確実なものであるといわれている一方で、その解釈について確定的な見解は出されていな
い
。
それは、家族のライフサイクルの段階と夫婦関係の質に関する横断的な研究において
は
、 1
)結婚継続年数、 2
)時間の経過と共に離婚によって各結婚コーホートから多くの結婚
が解消されること、 3
)結婚コーホート聞の差違、の影響が交絡していることによるもので
あるといわれている [
Glenn,
1
9
9
0
J。
U 字型カーブにどのような要因が関係しているかを識別するための研究の多くは、家族
のライフサイクルの初期の段階、すなわち子どもが生まれることと夫婦関係の質の関係に
焦点があてられていて、子どもが独立すること、すなわちエンプティ・ネスト期に入るこ
とと夫婦関係の質との関連についての研究は相対的に少ない。
エンプティ・ネスト期(または脱親期)とは、末子が巣立つてから老年期に入るまでの
Borland,1
9
8
2
J 。そこに研究の焦点があてられるようになったのは、 1960
期間を指す [
年代以降である。それは、平均寿命の延びや一家族あたりの子どもの数の減少等にともな
って、子どもが巣立つた後の夫婦だけで過ごす期間の長期化が認識されるようになったこ
とによるものと思われる。 20世紀はじめには 2年ほどであったエンプティ・ネスト期が
1970年代には 1
3年にまで延びたということは、家族のライフサイクルパターンの最も大
G
l
i
c
k
,1
9
7
7
J。
きな変化のひとつで、あったといわれている [
エンプティ・ネスト期が個人の、または家族のライフサイクル上、どのような時期であ
19
6
8
J は脱親期
るかに関しては、かつては相反する見解が示されていた。 Deutscher [
(
p
o
s
t
p
a
r
e
n
t
h
o
o
d
)は大多数の人にとっては好ましい時期であると評価されていることを
h
i
r
i
b
o
g
a[
1
9
7
1
J は末子が独立することは親にとっては「解放」と
示し、 Lowenthalと C
して予期されていること、また子どもが独立することによって夫婦関係が調和を取り戻す
ood と Wolfe [
1
9
6
0
J は、子育てに没頭することによって覆い隠
ことを示した。一方、Bl
されてきた夫婦の葛藤が、子どもが独立して家を出ると表面化してくると論じ、 Spenceと
Lonner [
19
7
1
J は、エンプティ・ネスト期への移行期は多くの女性にとって、困難な時期
19
7
1
J は、精神病院におけるインタビューで、子どもを過
であると示唆した。また Bart [
保護にしている女性、子育てに没頭しすぎている女性は、子どもが独立したあと、気落ち
し、欝の症状を呈しやすいと論じた。これらエンプティ・ネスト期に関する初期の研究は、
少数のサンブρルについてのインタビュー調査によるものが多い。大規模な量的調査による
970年代後半からである。 Glenn [
1
9
7
5
J は 6つのナ
研究が行われるようになったのは 1
-110-
ショナル・サーベイによる横断的研究で、脱親期に入ることは、男性についてははっきり
とした影響が認められなかったが、女性に関しては心理的な w
e
l
l
b
e
i
n
gを低くするもので
はなく、むしろ高めるものであり、それは結婚の幸福度が高まることによるものであると
a
d
l
o
f
f[
1
9
8
0
Jは 1
8歳から 64歳までの既婚の白人約 1900人に関して、子ど
示唆した。 R
もが巣立つた親は、子どもを持たない人、まだ子どもと一緒に住んでいる人より憂欝度が
低いという結果を得た。またWh
i
t
e と Edwards [
19
9
0
J によると、エンプティ・ネスト
期に入ることが親の結婚満足度を高めることが縦断的研究によっても明らかにされている。
このように、比較的最近の研究によると、エンプティ・ネスト期は心理的状況が安定し、
o
s
t
l
a
u
n
c
hhoneymoon' [Whi
t
eandEdwards,1
9
9
0
J の時期
夫婦関係も良好であり、 p
であるということができる。また家族発達論によると、子どもが離家しはじめた親の課題
は
、
「子どもへの統制を緩め、親役割よりも配偶者役割が優越するよう、役割を再構築す
る」ことであるといわれている [
A
l
d
o
u
s,1
9
7
8
J 。これらのことから、エンプティ・ネス
ト期においては、それ以前の時期と比べて、夫婦関係に何らかの変容がおこっているので
はなし、かと考えられるが、それが夫婦関係のどのような領域においてあらわれてくるかの
ということは、必ずしも明らかにされていない。
そこで本稿では、 NSFHデータを用いて、これまでいわれてきた、エンプティ・ネスト
期に夫婦関係の質が向上するとし、う傾向を確認しつつ、エンプティ・ネスト期にあるひと
とそうでないひとの夫婦関係がどのような側面において異なっているのかということを明
らかにしていきたい。その際、横断的研究の弱点としてしばしば指摘されている年齢、結
婚継続年数、コーホート効果の交絡の影響をできるだ、け小さくするために、年齢を大まか
にコントロールし、エンプティ・ネスト期に入った人とそうでない人の比較を行う。
2
. 仮説
m
a
r
i
t
a
lq
u
a
l
i
t
y
) を測定する尺度は、夫婦問で行われる特定の行動 (
e
g
.
夫婦関係の質 (
コミュエケーション)から結婚全体の評価 (
e
g
. 結婚満足度)まで、幅広い内容を含んで
obins,1
9
8
2
J 。ゆえに、夫婦関係の質に関する実証レベル
用いられてきた [HustonandR
の研究にはしばしば混乱がみられることが指摘されている [
Finchanand Bradbury,
1
9
8
7
J。夫婦関係の質 (
m
a
r
i
t
a
lq
u
a
l
i
t
y
) という概念は、結婚全体に関する評価 [Finchan
9
8
7
J 、結婚に関する幸福度[Glenn,1
9
9
0
J に限定して用いるべきだと
andBradbury,1
a
r
i
t
a
lq
u
a
l
i
t
y
いう議論もあるが、まだ一致した見解はない。そこでここでは何をもって m
とするかとし、う議論は避け、 m
a
r
i
t
a
lq
u
a
l
i
t
yとし、う概念に含まれる尺度を分類し、それら
がどのような性質のものであるかを認識したうえで用いることとする。
Glennによる 1980年代の夫婦関係の質に関するレビュー論文 [
1
9
9
0
Jによると、 m
a
r
i
t
a
l
q
u
a
l
i
t
yとしづ概念に含まれるものは、結婚全体に関する個々人の主観的評価と、コミュニ
ケーションや葛藤といった関係の特質を示すものとに大きく分けられる。また Orden と
Bradburn [
19
6
8
J は、結婚全体の評価には幸福一葛藤(緊張)の 2つの独立した次元があ
m
a
r
i
t
a
lq
u
a
l
i
t
y
)を、結婚全体
るということを提案している。よってここでは夫婦関係の質 (
-111-
の個人の主観的評価に関しては幸福の度合いと困難の有無、関係の特質に関しては、特定
領域における公平感と意見の食い違い、コミュニケーションの頻度、に分類して分析をす
すめる。
よって次のような作業仮説が導かれる。
エンプティ・ネスト期にいる人はそうでない人より
1、結婚全体について、より幸福だと感じている/困難を感じていない
2、特定領域の事柄について、より公平だと感じている/意見の食い違いを感じて
いない
3、コミュニケーションの頻度が高い
3、方法
3
.
1 サンプル
エンプティ・ネスト期は暦年齢だけで定義することはできない。 Deutscher 0968J は
、
脱親期(エンプティ・ネスト期)の夫婦について、
「普通、 40代から 50代であり、…最
も明白な変化は、子どもが家族単位としての夫婦から離れて家を出るということである」
としづ定義を採用している。また Brubaker 0985J においては、家族の後期の段階が退
職を境に 2つの段階に分けて論じられている。すなわち、エンプティ・ネスト期に入って
から退職までと退職から夫婦ともに死を迎えるまでである。よって本稿では、退職以前で、
、 50代の
エンプティ・ネスト期に入った人とそうでない人が混在すると考えられる、 40代
既婚者(同棲も含む)で、子ども(実子・養子・継子すべて含む)のいる人を分析の対象とす
8
.
1歳である。性別は男性 45.8%、女
る。対象となるサンブ ル数は 1996人、平均年齢は 4
ρ
性 54.2%となっている
黒人 13.5% 白人 78.1% ヒスパエック系 7.
4
%
、
人種別にみると
その他(アメリカン・インディアン、アジア系含む) 1
.1%である。
3
.
2 測定尺度
何をもってエンプティ・ネスト期とするかについての明確な定義は存在しない。多くの
研究が、末子の高校卒業をエンプティ・ネストの指標としているが、 Spence と Lonner
u
c
c
e
s
s
f
u
l
l
y
0971Jは、「子どもが家を離れること」とは子どもがうまく自立する(becomes
independent)ことであり、高校卒業から結婚まで幅をもって捉えられていることを論じて
いる。また Harkins 0978J においては、
抱くイメージが調査されているが、
「子どもが家を離れる」ということから母親が
住居を異にすること」
「進学のために家を出ること J I
という回答がそれぞれ約 40%を占めている。これらのことから、エンプティ・ネストの指
標には、子どもが自立し、かっ住居を異にしているという 2点が含まれると考えられる。
よって、たとえ子どもと別居していても、その子どもがまだ自立可能な年齢に達していな
いような場合は、エンプティ・ネストとは考えない。
エンプティ・ネスト期に入っているかいないかを示す変数として、同居している子ども
9歳以
がなく Osta1num,lsta2num,lstdnum=O) 、別居している(通学のためも含む) 1
-112-
上の子どもがいる人 (m473,m474=1,m455num学 0
) = 1、そうでない人 = 0とする変数
(emptyn
e
s
t
) を作成した。
m
a
r
i
t
a
lq
u
a
l
i
t
y
) を測定する変数として、結婚全体に関する個人の評価
夫婦関係の質 (
のうち、幸福感は、 e701(全体的にいって、あなたは自分の結婚をどう思っていますか)、
葛藤(緊張)は e
715(
過去 1年間に、あなたの結婚が困難に陥っていると考えたことがあり
7
0
3
(
a
:家事、 b
:賃金労働、 c
:お
ますか)を用いる。また、関係、の特質について、公平感は、 e
7
0
6
(
a
:家事、 b
:お金、 c
:一緒に時間を過ごすこと、
金の使い方)、意見の食い違いの頻度は e
d
:セックス、壬男(姑)との関係、 g
:子ども)によって測定する。コミュニケーションの頻度
に関しては、会話したり共に活動したりする頻度 (
e
7
0
4
) 、過去ひと月のセックスの回数
(
e
7
0
5
) を用いる。
3
.
3分析の方法
年齢とコーホートによる影響をコントロールするために、 4
0
"
'
4
9歳と 5
0
"
'
5
9歳の二つ
のコーホート別に、夫婦関係の質を測定するそれぞれの変数に関して、エンプティ・ネス
ト期に入っているか否かで、クロス表を作成し、エンプティ・ネスト期が夫婦関係の質が
より高い時期であるかどうかを検討する。その後、差のみられた変数について、その差が
結婚経過年数や総世帯収入の影響ではなく、本当にエンプティ・ネスト期に入ることによ
るものであるかを確かめるために
従属変数のうち連続変数として扱うことが可能なもの
については結婚経過年数と総世帯収入を共変量とした分散分析を行い、離散変数としてし
か扱うことができないものに関しては結婚経過年数が長いグループと短いグループ、総世
帯収入が多いグ、/レーブ と少ないグ、ループで 3重クロス表を作成して分析を行う。
p
4、結果と考察
3
0
.
8
%
)、入
対象となる 1996人のうち、エンプティ・ネスト期に入っている人は 614人 (
6
9
.
2
%
)である。平均結婚経過年数は 21
.0年、平均の世帯収入は
っていない人は 1382人 (
51634 ドソレで、ある。コーホート別にみると、 40代では 1192人のうちエンプティ・ネスト
82人 (
1
5
.
3
%
)、入っていない人は 1010人 (
8
4
.
7
%
)、平均結婚経過年数
期に入っている人は 1
6
.
8年、平均世帯収入は 55154 ド、ルで、ある。 50代では 804人のうちエンプティ・ネス
は1
5
3
.
7
%
)、入っていない人は 372人 (
4
6
.
3
%
)、平均結婚経過年
ト期に入っている人は 452人 (
7
.
3年、平均世帯収入は 46130 ドルとなっている。
数は 2
クロス表による分析の結果は以下の通りである。
変数聞に統計的独立が認められ、かっエンプティ・ネスト期に入っているか否かで顕著
な差がみられた項目は、
40代男性一意見の食い違い(家事)、配偶者との会話・活動の頻度
40代女性一意見の食い違い(家事・共に時間を過ごすこと・子ども)、公平感(家事)、
配偶者との会話・活動の頻度
50代男性一意見の食い違い(家事・男姑との関係・子ども)、配偶者との会話・活動
-113-
の頻度
50代女性一意見の食い違い(子ども)、公平感(家事)、配偶者との会話・活動の頻度
で、あった(表は紙幅の都合により省略)。また結婚全体の幸福度はエンプティ・ネスト変
数と統計的独立が得られなかったが、 40代女性、 50代男性については「とても幸福」とい
e
s
t
/emptyn
e
s
tで 10%ほどの差がみられた。ここからまずいえる
う回答に、 nonemptyn
のは、全体として、エンプティ・ネスト期にある人とそうでない人に顕著な差がみられる
領域は、家事や子どもについての意見の食い違いの頻度、配偶者との会話・活動の頻度で
あるということである。女性については家事の公平感でも差がみられる。
次に男女問、コーホート聞の違いをはっきりとさせるために、これら差のみられた項目
について、意見の食い違いについては「全くなしリと回答したパーセンテージを、会話・
活動の頻度については「ほぼ毎日」、公平感については「互いにとって公平」、結婚全体
の幸福度については「とても幸福」と回答したパーセンテージを表 1から表 5に示す。
全体を通してわかることは、エンプティ・ネスト期にいる人はそうでない人より意見の
食い違いがないと答える人の割合が高く、配偶者との会話や活動の頻度が高い人が多く、
互いにとって家事が公平であると答える人の割合が高いということである。このことは、
エンプティ・ネスト期が、夫婦関係の質が高まる時期であることを示唆するものであると
考えられる。また、どの項目についても 40代より 50代の方が、意見の食い違いが「全く
ない j 等と回答している人のパーセンテージが高くなっている。
表 3から、家事領域に関して検討する。意見の食い違いについてはエンプティ・ネ
表 1,
スト期にある人の方が「全くなし、」と回答する人の割合が高くなっている。また 50代より
40代の方が、エンプティ・ネスト期にある人とそうでない人の差が大きいことがわかる。
50代に注目すると、男性はエンプティ・ネスト期にある人とそうでない人で、特に公平感
に関してはほとんど差がない。女性は意見の食い違いについてはあまり差がないが、公平
感はエンプティ・ネスト期にある人の方が「互いにとって公平 j と回答している割合が高
い。これは男性はエンプティ・ネスト期にあるかどうかに関わらす、家事を女性に任せて
いるためで、あり、女性はもともと家事を一手に引き受けているので夫と家事に関して意見
を交わすことも少なく、しかしそれでもエンプティ・ネスト期に入ると相対的に家事の量
も減るので、公平感を感じる人の割合が高くなると考えられるのではないだろうか。 50代
にあたる世代は、早婚化や女性の大学進学率の低下の現象がみられ、特に中産階級の女性
'
t
h
er
e
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u
r
nt
ot
r
a
d
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t
i
o
n
'
) C
S
k
o
l
n
i
c
k,1
9
9
1
J がみられるといわれて
に「伝統」への回帰 (
いる 1950年代に青年期をむかえた世代である。この世代は、性別役割分業などの伝統的な
価値観をより内面化している世代であるとも考えられ
エンプティ・ネスト期にあるかど
うかに関わらず、家事についても伝統的な性別役割分担がなされているのではないかと推
測される。
子どもに関する意見の食い違いについては他に比べて 40代の男性だけ、エンプティ・
ネスト期にあるかどうかによる差が小さい(表 2
) 。これは、 40代の男性は家庭や子ども
のことよりも、仕事によりエネルギーを費やしているからであろうか。
-114-
配偶者との会話・活動の頻度は、 40代
、 50代の男女とも、エンプティ・ネスト期にある
人の方がそうでないひとより「ほぼ毎日 J と回答した割合が高く、またその差も大きい。
)。
特に 50代の女性に、その差が顕著である(表 4
結婚全体についての幸福度は、コーホートや性別に関わらず、エンプティ・ネスト期に
)。
ある人の方が「とても幸福」と回答している人の割合が高い(表 5
これらのことから、エンプティ・ネスト期にある夫婦は、子どもが原因で夫婦が意見を
対立させることがなく、夫婦だけで会話したり活動したりする時聞が増大し、結婚全体に
ついての幸福度が高いと特徴づけることができる。
さらに、これまでみられたエンプティ・ネスト期にあるか否かの差が実際は結婚経過年
数や収入の影響であるかどうかを確かめるために、連続変数として扱うことのできる変数
(家事・子どもに関する意見の食い違いの頻度、配偶者との会話・活動の頻度、結婚幸福
度)については結婚経過年数と収入を共変量とした分散分析を行い、離散変数としてしか
扱うことのできない変数(家事に関する公平感)については結婚経過年数、総世帯収入(利
子、配当、その他の投資を含む)をコントロールした 3重クロス表を作成して分析する。
'
"
'
"
'表 8
)。
男女別、コーホート別の分散分析の結果は以下の通りである(表 6
40代男性一家事に関する意見の食い違い、配偶者との会話・活動の頻度ともにエンプテ
ィ・ネスト期にあるか否かの影響のみ認められる。結婚幸福度は、どの変数
の影響も認められない。
40代女性一家事・子どもに関する意見の食い違い、配偶者との会話・活動の頻度は、エ
ンプティ・ネスト期にあるか否かの影響のみ認められる。共に時間を過ごす
ことについての意見の食い違いは、結婚経過年数、収入の影響も認められず、
エンプティ・ネスト変数の影響も消えてしまった。結婚幸福度はエンプティ・
ネスト変数ではなく、結婚経過年数の影響が認められる。
50代男性一配偶者との会話・活動の頻度はエンプティ・ネスト変数の影響のみ、男・姑
との関係に関する意見の食い違いは、エンプティ・ネスト変数と結婚経過年
数の影響がみられた(表 6) 。子どもに関する意見の食い違いは、エンプテ
ィ・ネスト変数と収入の影響が認められた(表 7) 。家事に関する意見の食
い違い、結婚幸福度は、どの変数の影響も認められなかった。
50代女性ー配偶者との会話・活動の頻度、結婚幸福度はエンプティ・ネスト変数の影響
のみが認められた。子どもに関する意見の食い違いは、エンプティ・ネスト
変数と収入の両方の影響がみられた(表 8) 。
また家事に関する公平感については
「互いにとって公平である」という回答 = 1、そ
の他(自分にとって、相手にとって不公平)
=0とする変数を作成じ、結婚経過年数が長
いグループと短いグループ (25パーセンタイルと 75パーセンタイルで、分ける)、高収入
層と低収入層(同)に分けてクロス表を作成した。その分析の結果は以下のようになって
いる(表は省略)。
40代男性一結婚経過年数による影響は認められないが、同時にエンプティ・ネスト変数
-115-
の影響もあまりみられなくなる。収入は影響がみられ、低収入層は、エンプ
ティ・ネスト期に入つてない人の方が互いにとって公平と感じている割合が
高いが、高収入層では逆である。
40代女性一結婚経過年数、収入の影響が共に認められる。結婚経過年数が短いグ、ルーフ。
ではエンプティ・ネスト期に入っていない人の方が
互いにとって公平であ
ると感じている割合が高いが、長いグループでは逆の傾向がみられる。低収
入層ではエンプティ・ネスト変数による差がほとんどないが、高収入層では、
エンプティ・ネスト期に入っていない人の方が互いに公平と感じる割合が高
し
、
。
50代男性一結婚年数の長いグ、ノレープ、高収入層ではエンプティ・ネスト変数による差が
あまりないが、結婚年数の短いグ、ループ、低収入層ではエンプティ・ネスト
期に入っていない人の方が互いにとって公平と感じている割合が高い。
50代女性一結婚経過年数が短いグループ、高収入層ではエンプティ・ネスト期に入って
いる人の方が、互いにとって公平と感じている割合が幾分高いが、結婚経過
年数の長いグループ、低収入層ではエンプティ・ネスト変数による差は、あ
まりみられない。
以上のことからわかることは、まず、結婚経過年数や収入に関わらず、エンプティ・ネ
スト変数の影響がみられるのは、配偶者との会話・活動の頻度と 40代の家事についての意
見の食い違いである。 50代男女の子どもに関する意見の食い違いには、エンプティ・ネス
ト変数の他に、収入が影響している。公平感については、コーホート、性別、結婚経過年
数、収入の影響が錯綜してみられる。例えば、結婚経過年数の短いグループをみてみると、
40代女性、 50代男性は、エンプティ・ネスト期にある人の方が互いに公平と感じている人
の割合が高いが、 50代女性は逆の傾向がみられ、 40代男性についてはエンプティ・ネスト
変数による差がみられない。ゆえに、一概にエンプティ・ネスト期にある人の方がそうで
ない人より互いにとって公平と感じている人の割合が高いということはできない。
5、まとめと今後の課題
これまでの分析から、エンプティ・ネスト期がある特定分野における夫婦関係の質が高
い時期であるということが確認された。コーホートや性別、結婚経過年数、収入をコント
ロールしたうえでいえることは
エンプティ・ネスト期の夫婦はそうでない夫婦より、共
に会話したり活動したりする頻度が高いということである。子どもに関する意見の食い違
いの頻度も少ないが、それには収入も影響している。これは、子どもに関する夫婦の意見
の食い違いには、子育てにともなう支出(教育費等)にかかわる事柄が多いということを
示唆しているのではないか。他方、エンプティ・ネスト期に入っている人とそうでない人
であまり差のみられない領域もある。賃金労働やお金、セックスに関する事柄である。ま
た結婚全体についての主観的評価とエンプティ・ネスト期にあるかどうかということとの
関連は、男性よりも女性に多くみられるようである。
-116ー
今回の分析にはいくつかの間題点がある。ひとつは、人種聞の相違を考慮に入れていな
いということである。家族に関する規範、夫婦関係のありかた等はそれぞれのエスニック・
1982Jは
、 Empty
グループの持つ文化的背景によって異なっていると考えられる。 Borland[
NestSyndromeといわれる現象は、白人中産階級の特定のコーホートにみられる現象であ
るという仮説を立てている。しかしこれまでのエンプティ・ネスト期に関する研究は、白
人中産階級を対象としたものが大部分であり、この仮説はまだ実証的に検証されていない。
エスニック・グループによってエンプティ・ネスト期のもつ意味合いも異なると考えられ、
エンプティ・ネスト期の夫婦関係についても、今後人種間の相違に着目した分析が必要で
ある。また今回はクロス表を中心とした分析であり、分散分析においても結婚経過年数と
世帯収入をコントロールしたのみである。就業状況や拡大家族であるか否か等、他の要因
による影響も考え得るため、今回の分析のみで、エンフ。ティ・ネスト期の夫婦関係の質を特
徴づけることは早計であるといえる。今後、より詳細な分析を行っていきたい。
寿命の延びや子どもの数の減少にともなって、エンプティ・ネスト期は個人そして家族
のライフサイクル上、ますます大きな部分を占めるようになることが予想される。エンプ
ティ・ネスト期に関する研究は、今後もあらゆる視点から行われる必要性の高い分野であ
ると考えられる。
表1.家事についての意見の食い違いが全くないと回答したパーセンテージ
女性
男性
nonemptyn
e
s
t emptyn
e
s
t 差(%) nonemptyn
e
s
t emptyn
e
s
t 差(%)
%
N
%
N
%
N
% N
年齢
40-49
50-59
5
0
.
0 21
6
0
.
5 89
1
7
.
0
9
.
9
43.
4
5
5
.
0
199
88
5
7
.
3 59 ・1
3
.
9I
6
0
.
9 134 5
.
9
表2
. 子どもについての意見の食い違いが全くないと回答したパーセンテージ
女性
男性
nonemptyn
e
s
t emptyn
e
s
t 差(%) nonemptyn
e
s
t emptyn
e
s
t 差(%)
%
%
% N
N
N
%
N
年齢
40-49
50-59
34.
4 144
5
0
.
3 78
41
.7 1
0 7.
4
6
5
.
7 71 1
5.
4
3
3
.
8
3
8
.
2
153
58
1
9
.
7
5
3
.
5 38 6
3
.
7 114 2
5
.
5
表3
. 家事について「互いにとって公平」と回答したパーセンテージ
女性
男性
nonemptyn
e
s
t emptyn
e
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t 差(%) nonemptyn
e
s
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e
s
t 差(%)
% N
%
N
% N
%
N
年齢
40-49
50-59
年齢
3
3
.
0 145
5
0
.
6 85
6
9
.
3 314
7
8
.
0 138
7
9
.
5 35 1
0
.
2
7
9
.
9 123 1
.9
6
0
.
9
6
5
.
5
290
114
.7
7
2
.
6 77 11
.8
7
7
.
3 191 11
表 4. 配偶者との会話・活動の頻度が「ほとんど毎日」と回答したパーセンテージ
男性
女性
nonemptyn
e
s
t emptyn
e
s
t 差(%) nonemptyn
e
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e
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t 差(%)
%
%
N
% N
N
% N
40-49
団 0-59
3
7
.
1 169
5
4
.
2 97
2
6
.
5
6
3
.
6 28 7
3
.
5 114 1
9
.
3
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4
47.
4
4
.
3
227
77
6
8
.
2 75 2
0
.
8
79.
4 196 3
5
.
1
年齢
40-49
5
0
5
9
表 5. 結婚全体についての幸福度「とても幸福」と回答したパーセンテージ
男十生
女性
n
o
ne
m
p
t
yn
e
s
te
m
p
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yn
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s
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N
N
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%
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0 85
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.
9
4
5
.
5 20 59.
4 92 11
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38.
4
41
.3
181
71
.6
11
5
0
.
0 55 4 120 7
.
1
48.
表6
. 50代男性の男姑との関係についての意見の食い違いに関する分散分析表
平方和
自由度
平均平方
F
e
m
p
t
yn
e
s
t
1
1
1
242
2
.
5
2
1
2
.
0
6
6
.
2
0
9
1
31
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結婚継続年数
世帯収入
残差
2
.
5
2
1
2
.
0
6
6
.
2
0
9
.
5
4
5
4
.
6
2
9
*
3
.
7
9
4
*
.
3
8
4
.
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表7
. 50代男性の子どもについての意見の食い違いに関する分散分析表
平方和
平均平方
F
自由度
e
m
p
t
yn
e
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t
結婚継続年数
世帯収入
残差
5
.
1
7
1
.
0
2
2
7
.
2
3
0
208.816
1
1
1
205
5
.
1
7
1
.
0
2
2
7
.
2
2
6
1
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5
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0
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.
0
2
2
7
.
0
9
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表8
. 50代女性の子どもについての意見の食い違いに関する分散分析表
平方和
自由度
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平均平方
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結婚継続年数
世帯収入
残差
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2
.
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6
9
6
.
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0
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1
1
1
235
1
9
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1
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重点領域研究「ミクロ統計データ」・公募研究(課題番号 08209118)
「家族構造の国際比較のための基礎的研究一公共利用ミクロデータの作成と活用 -J
平成 8年 度 研 究 成 果 報 告 書 (1)
公共利用ミクロデータの活用による
家族構造の国際比較研究
-米国 N S F H調 査 デ ー タ の 利 用 を 通 し て ー
19 9 7年 3月
研究代表者石原邦雄
(東京都立大学)
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