...

デザイン教育に関する諸外国の情勢

by user

on
Category: Documents
18

views

Report

Comments

Transcript

デザイン教育に関する諸外国の情勢
デザイン教育に関する諸外国の情勢
○いずれの国でも、実践的な教育が重視されている。産学共同プロジェクトも多い。美術系からの脱皮は、韓国・中国でも課題か。
○米国・英国は、デザイン力に加え、ビジネスへの実務的対応(Professional Practice)の能力を重視。
○米国・英国は、マネジメント系に対するデザイン教育も存在する。
米 国
○企業との共同プロジェクトなど実践的な教育(IIT など)
○通常の ID コース(修士課程)の中にも、マネジメントな
どに関連した科目がある。
・Pratt Institute
ID
- Professional Practice:契約、知的財産権、ロイヤルティ
・IIT (Illinois Institute of Technology)
- Social Implications of Design:デザインの社会的影響
- Design Policy:世界中のデザイン政策の意図と構成
- Strategic Design Planning:デザインと戦略との連携
○実務経験のあるデザイナー向けのデザイン・マネジメン
ト・コース(修士)では、徹底したマネジメントを指導。
・Pratt Institute
- Leadership, Team,
- Financial Reporting and Analysis, Money Markets
- Financing Companies and New Ventures
- Communications, Negotiating
デザイン
- Strategic Marketing, Advertising and Promotion
マネジメント
- Managing Innovation and Change
- American Business History
- Business Law , Intellectual Property Law
- Business Strategy, Business Planning
- Managerial Decision-Making
- New Product Management and Development
- Marketing Professional Services
○「デザイン」関連の科目が存在
ビジネススクール
○デザインの知見を有する教授陣の存在(MIT 等)
9
英 国
○企業との共同プロジェクトなど実践的な教育
・ Royal College of Art など
○通常のコースの中にも、マネジメントなどに関連した科
目がある。
・Royal College of Art
- Professional Practice: 交渉、権利、価格、財務など
○デザイン・マネジメント・コース(修士)では、企業実
務に直結した指導
・The Surrey Institute of Design
-ビジネスの戦略、プロセス、インプリメンテーションを
重視
-ブランド開発、ブランド・マネジメントを重視
-企業実務家も講師に迎えて指導
-デザイナー向けの短期コース(数日間)も開催
○プロダクト・デザインの知見を有する教授陣の存在
・LBS (London Business School) など
デザイン教育の
位置付け
韓 国
中 国
○「産業デザイン振興総合計画」において、デザイン教育 ○全国のデザイン教育機関は約 200。
の重視も掲げられている。
○大学内にデザイン事務所が開設され、産学共同の実践の
・ デザイン教育の質の向上
場となる。当該デザイン事務所が、実質的に、中国デザ
・ デザイナー養成基盤の整備
インのトップクラスと言われる。
○これまでの美術系学校の中でのデザイン教育からの脱皮
を図るための努力が進められていると思われる。
・ソウル大学校
−産業デザイン学科:1 学年 40 名前後
−IIT の流れを汲むオーソドックスな教育
−工芸美術から産業デザインへの脱皮を図る
・弘益大学校
−美術、工芸、建築・都市開発、産業デザインなど、
多くのデザイン関連の学科を有する
・韓国科学技術院
−産業デザイン学科: 技術色が強い
デザイン教育の例
−科学的思考・工学的基礎・美的センスの調和を目指す
・国際デザイン大学院
−韓国唯一の大学院大学
−学生数:80 名
−産業界との連携によるデザイン開発プロジェクト推進
−デザイン・エンジニアリング・マーケティングの融合
を目指す
−海外の優れたデザイン教育機関と提携
−独立系の ID のリーダー養成を目指す
−英語による教育
○デザイン教育に、工学系と美術系の二つの系譜があると
思われる。デザイン・マネジメントなどの潮流への対応
状況は不明。
・北京理工大学
−工業設計学部:製品デザイン、視覚伝達デザイン、
環境デザイン、総合デザインなどの学科
・中央工芸美術学院
−工業デザイン学部:国内最大規模のデザイン教育機関。
学生約 1,300 名。
−テキスタイル・服飾、陶磁器、グラフィック、環境、
装飾、工業デザイン
−科学研究と実用性の一体化
・上海交通大学
−工業設計学部。約 300 名。
−思考力、分析力、伝達能力の実用性を重視。
−他学科との交差を強調
・上海大学美術学院
−美術的なアプローチからのデザイン
(資料)米国、英国は、各校の資料による。韓国・中国に関しては、
(財)国際デザイン交流協会アジア太平洋デザイン交流センターの諸資料からまとめた。
10
以下では、上記の 4 ヶ国の内、米国、英国におけるデザイン教育の状況を中心に、詳細
に分析する。
<米 国>
米国では、デザイナー(学生、現役デザイナー)に対するマネジメント教育、マネジメ
ント系に対するデザイン教育の双方が実施されている。
(1)デザイナーに対するマネジメント教育
米国における他の分野の高等教育と同様に、デザイン分野においても、実務的な大学院
教育(主に修士課程)教育が実施されている。
(わが国でも、自然科学系・社会科学系では
同様の取り組みが近年増加してきているが、デザイン系ではまだそのような状況ではな
い。
)
デザインに関する主たる高等教育機関では、何らかの形で、マネジメント関連の教育が
実施されている。デザイン・マネジメントを主たる専攻とするコースも存在する。
わが国におけるような美大系のデザイン教育機関である Art Center College of Design
(ACCD)にも見られるように、このようなマネジメント重視の教育は、従前からの確立され
た取り組みではなく、近年の試行錯誤の成果であると思われる。
以下、具体例を分析する。
11
① Pratt School of Art and Design (通称:Pratt)
Pratt は、米国における代表的なデザイン高等教育機関である。以下のように多くの学科
を有しており、デザイン・マネジメントの専門コースもある(太字・下線部分)
。
図表 Pratt におけるコース一覧
Art and Design Education (U) (G)
Creative Arts Therapy (G)
Arts and Cultural Management (G)
Communications Design (U)
Graduate Communications/Packaging Design (G)
Computer Graphics and Interactive Media (U) (G)
Design Management (G)
Fashion Design (U)
Fine Arts (U) (G)
History of Art (U) (G)
Industrial Design (U) (G)
Interior Design (U) (G)
Media Arts (U)
Associate Degrees (AOS) in Illustration, Graphic Design and Digital Design and
Interactive Media
(資料)Pratt School of Arts and Design
(注)リストにおける、(U)は「学部」
、(G)は「大学院」を示している。また、下線等は UFJ 総合研究所。
○インダストリアル・デザイン・コース(修士)
この内、インダストリアル・デザインの修士課程におけるカリキュラムを、以下に示し
ている。Professional Practice など、デザイン・ビジネス関連の実践的な科目もある(太
字・下線部分)
。
図表 インダストリアル・デザイン・コースのカリキュラム
History of Industrial Design
Drawing
Drafting
Industrial Design
3-D Design
Portfolio/Presentation Techniques
Professional Practice
Space Analysis
3-D Computer-Aided Industrial Design
Production Methods
Industrial Design Technology
Graduate Color Workshop
12
Internship
Special Projects Course
Directed Research
Thesis Project
(資料)Pratt School of Arts and Design
(注)下線等は、UFJ 総合研究所
この内、「Professional Practice」では、デザイナーの「法的権利・責任・義務」の考え
方や、
「契約、特許、著作権、ロイヤルティ」のあり方について、指導がなされる。この科
目においてはまた、ビジネスにおけるデザイナーのプロとしての責任、デザイン・コンサ
ルティング会社における就業、インダストリアル・デザインのプロとして自らを確立して
いくための段階的なプロセス、などについても取り扱われる。
図表 Professional Practice のシラバス
This course covers the concepts of legal rights, responsibility, and obligations of
the designer, and reviews contracts, patents, copyrights, and royalties. The course
also covers areas of professional responsibility within a corporate environment,
working for design consultants, and the step-by-step procedure for establishing a
professional industrial design practice.
(資料)Pratt School of Arts and Design
(注)下線は、UFJ 総合研究所
○デザイン・マネジメント・コース(修士)
次に Pratt における、デザイン・マネジメント関連のコース(修士課程)に関する設立趣
旨や科目等を以下に整理した。デザイナーにマネジメントのトレーニングや能力が欠如し
ておりマネージャーの役割を果たせないでいることや、デザイナーが自らのプロとしての
実践をマネージすることが重要となっていることを踏まえ、それらの能力を涵養する必要
性がある、という設立の問題意識は、わが国における状況(デザイナー側の状況、マネジ
メント側の状況の双方とも)と、よく似ていることが分かる。
また、上記の一般のインダストリアル・デザインのコースにおいても重視されていた、
Professional Practice をマネージする能力は、このマネジメントのコースでも重要視され
ている。
なお、同校におけるこのデザイン・マネジメント専攻のコースは、応募資格を厳格にし
ており、デザインの高等教育(学部レベル)を受け、更に 3 年以上の実務経験を有するこ
とが要件となっている。この他に、大学院に入るための一般的な要件も満たしている必要
がある。
13
図表 Pratt におけるデザイン・マネジメント・コースについて
Undergraduate and graduate design education throughout the world focuses
primarily on the training of professional designers within their specific disciplines.
Current design practice forms both inter-disciplinary and multi-disciplinary teams
of designers and others to accomplish tasks. The role of team leader or design
manager may be assigned to a designer who lacks the training and skills to
effectively manage within today's complicated and sophisticated business
environment. Because of this lack of an adequate education in the management of
design, this leadership role is frequently assigned to individuals with M.B.A.s and
no design experience-people who are qualified to manage, but much less qualified to
guide design decisions or establish design policies and strategies.
Additionally, designers must know how to manage their own professional
practices in order to prosper within today's existing economic structures. Many
have only the most rudimentary knowledge of how to manage.
The goal of this program is to prepare design professionals for the management
of their own professional practice as well as to assume a leadership role in corporate
environments.
The Design Management Program (DMP) requires students to have an
undergraduate degree in one of the design disciplines with a minimum three years
professional experience prior to application in addition to the standard rules for
admission to a graduate program at Pratt.
(資料)Pratt School of Arts and Design
(注)下線は、UFJ 総合研究所
次に、このデザイン・マネジメント専攻の修正課程におけるカリキュラムを以下に示す。
デザイン・マネジメント専攻の修士課程として、徹底したビジネス・マネジメントの教育
が施されていることが分かる。マーケティング、戦略、事業計画などに加え、チームにお
けるリーダーシップ、コミュニケーション・交渉、財務・金融関連、契約・知的財産権関
連などに関連する科目もあり、多岐にわたる科目において指導がなされていることが分か
る。
(わが国における取組みへの示唆となりうる科目には、下線を付した。
)
図表 デザイン・マネジメント・コースのカリキュラム
Leadership Behavioral Simulation
Leadership and Team Building
Computers in Management
Financial Reporting and Analysis
Management Communications
Design Management
Advertising and Promotion
Managing Innovation and Change
American Business History
Design Operations Management
Money and Markets
14
Negotiating
Directed Research
Business Law
Financing Companies and New Ventures
Intellectual Property Law
Strategic Marketing
Business Strategy
Managerial Decision-Making
Design Futures
Marketing Professional Services
New Product Management and Development
Business Planning
(資料)Pratt School of Arts and Design
(注)下線は、UFJ 総合研究所
15
②イリノイ工科大学(IIT)インスティチュート・オブ・デザイン
次に、やはり米国における代表的なデザイン教育機関である、イリノイ工科大学(IIT)
の事例を分析する。
IIT は、ドイツにおけるバウハウスの流れをくむデザイン教育研究機関として、米国シカ
ゴに、1944 年に設立された学校であり、修士課程・博士課程を有する。
「デザイン」
「工学(技術)」「ビジネス(経営)」の「三位一体」の「デザイン理論」が
有名である。また、使い手の人的要素である「ヒューマン・ファクター」を重視したデザ
インである「ヒューマン・センタード・デザイン」の教育及びコンサルティングを実践し
ていることで知られている。
○インダストリアル・デザイン・コース(修士)
代表的なコースである、インダストリアル・デザイン・コース(修士課程)のカリキュ
ラムを、以下に示す。このような科目の他に、企業が参加した実践的な「研究開発プロジ
ェクト」が多く存在している。これらのプロジェクトには、IIT の学生や大学院生も参加し
て、そこで実践的な経験を積むことが可能となっている。
デザイン技術に加えて、デザインの社会的なインパクトに関する科目、デザイン関連の
公共政策に関する科目、そして、企業戦略や意思決定などのマネジメントに関する科目が
存在している。
図表 IIT におけるインダストリアル・デザイン・コースのカリキュラム
Image
Principles and Methods of Design Research
Philosophical Context of Design Research
Social Implications of Design
Design Planning
Design Policy
Communication Planning
Product Planning
Technological Development and Design Innovation
Rule System Description Language
Strategic Design Planning
Design Planning and Technological Innovation
Design Planning and Market Forces
Advanced Design Planning
16
Structured Planning
Information Structuring
Computer Applications in Design
Computer-Supported Design Processes
Design Analysis
Design Synthesis
Decision Support Techniques
Form-Generation Processes
Artificial Intelligence and Design Problem-Solving
Advanced Communication Design
Advanced Product Development
Advanced Control Technology
Intelligent Products
Interface Design
Interactive Media
Diagram Development
Behavioral Analysis and Design
Cognitive Human Factors
Social Human Factors
Cultural Human Factors
Visual Language
Metaphor and Analogy in Design
Meaning and Form
Dynamic Diagrams
Theories of Information and Communication
Physical Human Factors
Image Processing Applications
Documentary Methods
Special Topics in Documentary Photography
Case Studies of Advanced Design Projects
Case Study Development
Systems and Systems Theory in Design
Production Methods
Design Workshop
Photography Workshop
Communication Design Workshop
Product Design Workshop
Design Planning Workshop
Graduate Seminar in Design
Interactive Media Workshop
Systems Design Workshop
Research and Thesis for MS Degree
Research and Demonstration Project
Special Problems
(資料)IIT
(注)下線等は、UFJ 総合研究所
17
この内、デザインに関する公共政策(Design Policy)に関しては、世界におけるデザイ
ン政策の形成と意図とを分析するとしており、特に、政策実施機関と政治経済構造の関係、
デザイン政策の成果の評価指標とに注力している。
図表 Public Policy のシラバス
Investigates the formation and intent of design policy by governments across
the world. Particular attention is focused on the relationship of organizations
implementing these policies to the political and economic structure of different
countries, and on measures assessing their success.
(資料)IIT
(注)下線等は、UFJ 総合研究所
また、戦略的デザイン計画(Strategic Design Planning)では、組織の全体的な戦略計
画とデザイン計画とが、双方のプロセスと目的において、どのように関係付けられるのか
を分析するとしている。
図表 Strategic Design Planning のシラバス
Focuses on how the processes and goals of design planning can relate to the
overall strategic plan of an organization. It includes topics related to technological
innovation, market trends, financial analysis, and other forces that influence the
future of an organization.
(資料)IIT
(注)下線等は、UFJ 総合研究所
18
③アート・センター・カレッジ・オブ・デザイン (通称:ACCD)
芸術系の教育機関であり、デザインの高等教育機関としても知られている ACCD では、
デザイン教育に関する反省と危機感から、90 年代後半になって古いカリキュラムが一掃さ
れ、マネジメント系の科目が増やされた。このように、米国のデザイン教育におけるマネ
ジメントの重視も、古くから既に十分に確立されてきたものではなく、その意味では、近
年の社会経済状況を踏まえた変革への様々な試行錯誤により産み出されてきたものである
ことが理解できる。以下は、2001 年末に米国ビジネス・ウィーク誌に掲載された記事(学
長へのインタビューを含む)からの抜粋であり、ACCD においてマネジメント関連のカリ
キュラムを重視するに至る経緯が示されている。
図表 ACCD におけるカリキュラム見直し
デザイナーをマネージャーに
∼リチャード・コシャレク、学生に起業家的発想を求める∼
○リチャード・コシャレク(Richard Koshalek)は 2 年前にパサデナのアートセンター・
カレッジ・オブ・デザイン(ACCD)を運営してみないかという話を持ちかけられた。デ
ザインの世界では輝かしい名声を博していたアートセンターだったにもかかわらず、コ
シャレクはこの話に飛びつかなかった。確かに、ここの卒業生は自動車メーカーのビッ
グ・スリーやフォルクスワーゲン/アウディなどでトップ・カーデザイナーとして腕を
振るっていた。うち 2 人は、新型フォルクスワーゲン・ビートルをこの世に送り出して
いる。またほかの卒業生も、ノキアの電話のデザインやら、広告代理店で広告デザイン
を手掛けるなど、広範囲にわたって華々しい活躍をしている。
○しかしロサンゼルスの現代美術館のディレクターを退いたばかりのたたき上げの建築家
であるコシャレクは、アートセンターの名声だけでは引き受ける気にならなかった。彼
はアートセンターの理事会に対し、こう冷たく言い放った。
「学生に企業のマネジャーや
社会のリーダーになる術を教えていない名門美術学校の運営なんか、ごめんだ」と。と
ころが理事会はどうしたことか、彼のビジョンを受け入れたのだった。
○コシャレクが新しいポストに就いて 2 年が経ち、彼は現在アートセンターのカリキュラ
ム再編に取り組んでいる。企業リーダーとしての素養を身につけるコースを開講しよう
としているのだ。同センターはまた、程近いカリフォルニア工科大学と提携して、人文
科学コースも開講しようとしている。大多数の卒業生は立派な椅子や車のスケッチを描
19
けても、高度なデジタル・デザインツールを扱った経験がないまま、企業に就職してい
く。そこでコシャレクが最初に取り組んだことのひとつが、新しいテクニカルセンター
を設立することだった。現在このテクニカルセンターはまだ計画段階にあるが、バーチ
ャルなプロトタイプをデザインする方法や、わずか数時間で実際のモデルを自動的に制
作する方法を指導する予定だ。
○コシャレクは、デザイナーも管理職のポストに就くべきだという持論を唱えるばかりで
なく、個々の企業に対してしっかりとした意見をもっている。例えば、アメリカの自動
車メーカーはスタイリングで主導権を握る機会を逃してしまったと見ている。また消費
財の分野では、ソニーやノキアが実権を握っている。本誌記者デビット・ウェルチは先
頃、コシャレク氏と数時間にわたって対談した。そのときの模様を以下に掲載する。
Q: 企業デザイナーは、社内から取り残されていると不満に思っています。現在でもそ
うですか。
○大学でさえ、そうです。クリエーターを隔絶しています。企業も、いまだにクリエータ
ーたちを孤立状態においています。
Q: 状況は変わっているのでしょうか。クリエーターたちは経営層に加わるために、よ
り優れた訓練を受けるようになっているのですか。大学側もその助けをしているのですか。
○アートセンターでは、カリキュラムを全面的に見直しています。これからは一般教養科
目がもっと大きな役割を果たすようになるでしょう。カリキュラムはさらに複雑に、そ
して広範囲にわたっていくでしょう。アートセンターの学生はこれまで、自動車、工業
製品、フィルムなどのデザインといった専門分野の訓練だけを受けていました。でもこ
れからは、コミュニケーションや文化的意識といった他の分野についても訓練を受けま
す。
Q: ですが企業では今もなお、MBA や弁護士が経営層に昇進しています。デザイナー
は本当に企業リーダーになれるのでしょうか。
○デザイナーは最も優れた「問題解決者」であると、私は強く感じています。もしデザイ
ナーが適切な教育を受ければ、CEO にも、大都市の市長にもなれるでしょう。
(資料)
「ビジネス・ウィーク」2001 年 12 月 10 日号より。記事の中から本稿に関連する部分のみを抜粋
した。和訳は UFJ 総合研究所。
20
④Design Management Institute(DMI)によるデザイン実務家向けの専門教育
上記のような高等教育機関における教育に加えて、実務に従事する現役デザイナーに対
しては、DMI のようなデザイン関連機関による専門教育が実施されている。DMI ではこの
ような教育に、Professional Development Program(プロ開発プログラム)との名称を
用いている。複数のテーマに関する短期間のコースが、全米の複数の都市で開設されてい
る。(下記図表を参照。
)デザインを戦略の中で以下に活用していくかとの視点に加えて、
デザイナーのプロとしてのビジネス展開の方策についても重視されている。
なお、DMI は、デザイナーや研究者、コンサルタントなどからなる会員組織である。
(本
部は、マサチューセッツ州ボストン)
図表 DMI による 2003 年のプログラム
Managing Design for Strategic Advantage (2 日間のプログラム、5 都市)
Creating the Perfect Design Brief (2 日間のプログラム、5 都市)
Managing Innovation and Creativity (2 日間のプログラム、3 都市)
Fast Track Your Experience Strategy (2 日間のプログラム、2 都市)
Strategies for Designing Meaningful Brand Experiences(2 日間のプログラム、2 都市)
Using Design Research for Product and Brand Innovation
(2 日間のプログラム、3 都市)
Senior Executive Workshop:
Strategies for Developing, Maintaining, and Sustaining a Powerful Brand
(3 日間のプログラム)
(資料)Design Management Institute
DMI ではまた、先進諸国の企業や公共機関(病院等)におけるデザイン活用事例を、
「Case Study」として教材化している。これらは、マネジメント向けにデザイン活用のケ
ース・スタディとして開発されたものであり、各々約 20 頁にまとめられている。DMI が
教材化して、Harvard Business School Publishing から出版・販売されている。
21
(2)マネジメント履修者に対するデザイン教育
デザインを戦略的に活用する主体である企業経営者を育成する主要なビジネス・スクー
ルにおけるデザインの位置付けも調査したところ、決して主たる存在ではないものの、デ
ザインやイノベーションに関するコースも存在しており、また製品デザインに関する知
識・見識を有する指導者が教授陣の中にいることが分かる。後者は、MIT スローンスクー
ルやハーバード・ビジネススクールなどである。
①MIT・Management of Technology Program (MOT)
MIT のビジネススクールであるスローンスクールにおいては、指導者の中に、デザイン
に関する知見を有する教授がいるコースが存在する。MOT プログラムには、以下のような
教授がいる。
○James M. Utterback, Chair, MIT Management of Technology Program (MOT)
Utterback, who looks at the emergence of dominant product designs, studies how to
develop products in keeping with a company's overall strategy. He also considers
how to move concepts effectively to market. In his book "Mastering the Dynamics of
Innovation" (Harvard Business School Press, 1994), he focuses on the creative and
destructive effects of technological change on the life of a company.
General Expertise Product design, technological innovation, manufacturing
(資料)MIT
○John R. Hauser, Kirin Professor of Marketing
International Center for Research on the Management of Technology (ICRMOT)
John Hauser is an authority on a wide range of marketing and product development
areas, including the design and marketing of new products, voice-of-the-customer
methods, customer satisfaction incentives, market research methods, new product
forecasting models, competitive marketing strategy, and metrics to manage product
development. His latest research focuses on virtual customer methods, automated
marketing, and product development metrics.
General Expertise Marketing, product development, management of technology
(資料)MIT
22
○Steven D. Eppinger, Professor & Co-Director LFM/SDM,
Management Science (MS)
Steven Eppinger is an expert in product development and project management
whose research deals with how to understand and improve complex development
processes, such as those for automobiles, airplanes, and computer systems, and
how to organize teams consisting of hundreds or thousands of people. He also
examines design methods and practices for small and large products alike.
Eppinger is coauthor of Product Design and Development (McGraw-Hill, 1995,
2000), a widely used textbook on structured methods for product development.
General Expertise Aircraft industry, automotive industry, concurrent engineering,
product development, project management
(資料)MIT
23
②ビジネス・スクールにおけるデザイン関連科目
米国で実施されたインタビュー調査(下記参照)によると、デザインは、
「創造性」
「イ
ノベーション」などと共に、現在のビジネス・スクールにおいては、主要科目として位置
付けられているわけではない。米国におけるトップ・レベルのビジネス・スクールの教育
における、数量分析重視(感性よりも)、論理重視(事業実務よりも)、基礎理論重視(企
業実務よりも)
、過去重視(将来よりも)
、経験・前例重視(コースの革新性よりも)の姿
勢がその原因として分析されている。
他方で、これらのインタビュイー(ビジネススクールの学科長など)も、今後はビジネ
ス・スクールにおいても、企業実務家・役員向けの教育(Corporate and executive
education programs)がますます重要になっていく点、これらの教育においてはデザイン
や創造性・革新性などの実践的な視点やツールの重要性が高い点、を認めている。その意
味では、今後の実務家教育の充実とともに、デザイン及び関連科目の存在が重要視される
方向にあると考えられる。
図表 上位ビジネス・スクールにおけるデザイン関連科目の設置状況
デザイン関連科目
デザイン(コア科目)
デザイン(選択科目)
デザイン(その他)
デザイン・マネジメント(コア科目)
デザイン・マネジメント(選択科目)
デザイン・マネジメント(その他)
創造性(コア科目)
創造性(選択科目)
創造性(その他)
イノベーション(コア科目)
イノベーション(選択科目)
イノベーション(その他)
あ る
0
1
9
0
2
9
0
4
9
0
6
11
な い
15
14
6
15
14
6
12
8
4
12
6
1
(資料)Thomas Lockwood, “Design in business education – A square peg in a round world?”
Design Management Journal, Vol.13, Number3, Summer 2002
(注)1: 米国ビジネス・スクール Top 30 校の内、15 校へのインタビュー調査(Brigham Young,
Columbia, Harvard, Indiana, MIT, Michigan State, NYU, Purdue, Stanford, UC Haas, Colorado,
North Carolina, Pennsylvania, Virginia, Wisconsin)
2: 単位は校数。
24
<英 国>
米国と同様に英国においても、デザイナー(学生、現役デザイナー)に対するマネジメ
ント教育と、マネジメント系におけるデザイン教育の双方が存在する。また後述するよう
に、初等中等教育におけるデザイン教育も重視されていることも、英国のデザイン教育の
特色としてあげられよう。
(1)デザイナーに対するビジネス教育
①Royal College of Arts(RCA)
英国を代表するデザイン教育機関である RCA では、Professional Practice(プロとして
の実践)専門の指導者を置き、クラスでの指導に加えて、在校生及び卒業生からの個別相
談に応じている。
図表 RCA におけるビジネス実践教育
○ 企画書
○ デザイン保護
○ プレゼンテーション技術 (1 対 1、対少人数、対大聴衆)
○ プロジェクト・マネジメント
○ 交渉技術
○ 価格設定
○ 新ビジネスの組成
○ インターネット
(資料)RCA 及び Jeremy North 氏の HP より
25
②The Surrey Institute of Arts and Design, University College
同校では、以下のように、デザイン・マネジメント専攻のコースが、大学院に設置され
ている。
○デザイン・マネジメント・コース(修士)
このコースでは、デザイン活用が戦略的なビジネスツールとして経済的に重要であると
の認識に基づいて、このテーマを実践的に掘り下げていくことを重視している。同時に、
デザインによるブランド構築と、ブランド・マネジメントも重視している。
図表 デザイン・マネジメント・コースのコース概要
The economic importance of design and its use as a communication and strategic
business tool has reinforced the status of Design Management and placed it high on
the business agenda.
With the development of the ‘information society’ design has become the visual
representation of an organisation’s commitment to its consumer and business
needs, whether in the area of consumer product, public sector, service industry or
commercial business.
The programme has been designed to further the exploration and development of
design management theory and its application and implementation in the business
and commercial sector. There is a particular emphasis on the study of current
design and design management practice on a national and international basis and
across a full range of corporate communication, brand development, interior, retail
and environmental design.
The emphasis is on strategy, process and implementation and past students have
looked at a variety of businesses for example retail, entertainment and capital goods
manufacture. The subject is broad and there is increasing emphasis on brand
development and brand management. Students may enter the programme from a
range of subjects, including design practice, design management, business or
marketing.
The programme has close ties with industry. Through the Institute’s proximity to
London it is able to attract key practitioners in design management, who contribute
to the programme as visiting lecturers.
(資料)The Surrey Institute of Arts and Design, University College
(注)下線は、UFJ 総合研究所
26
○Design Management Professional Courses (短期間のコース)
同校では、上記とは別に、現役の実務家(デザイナー)に向けたデザイン・マネジメン
トに関する短期間のコースも、複数、開設されている。
図表 デザイナー向けマネジメント・コース
・Business & Design Communication Skills
−3 Days
−Fee £295
・Design Project Management
−3 Days
−Fee £295
・Management Skills for Designers
−2 Days
−Fee £200
(資料)The Surrey Institute of Arts and Design, University College
なお、同校の研究開発機関として、サステイナブル・デザイン・センター(Centre for
Sustainable Design: CfSD)がある。このセンターは、サステイナブル・デザイン分野
において、産学共同による実践的なプログラムを有しており、わが国でも有名である。特
に企業向けのトレーニング・ツールを多く開発して、企業向けのコンサルティングやトレ
ーニング実務にも多く関わっている。このセンターではまた、このような新たなデザイン
分野における企業の取組みを促進するために、デザイン用語ではなくビジネス用語による
コミュニケーションを重視する姿勢をとっている。
27
(2)マネジメント履修者に対するデザイン教育
英国においても米国と同様に、代表的なビジネススクールに、デザインに関する知識・
見識を有する指導者がいることが分かる。
①ロンドン大学ビジネス・スクール(London Business School)
以下のように、デザイン、イノベーション、創造力についての著作がある指導者が教鞭
についている例がある。
○Bettina von Stamm
(A)s a PhD (The Impact of Context and Complexity in New Product Development)
from London Business School, Bettina von Stamm has developed an expertise in
innovation, design, design management and creativity.
….She also teaches an elective course on the MBA programme at London Business
School titled, "Managing Innovation, Creativity and Design" for which she has
written a set on 10 case studies (sponsored by the British Design Council
www.designcouncil.org). The case studies, each complemented by additional
chapter on issues relevant to the case, will also be published as a book under the
course title (Wiley & Sons, Spring 2003).
Previous activities include developing and teaching a module on the 'Design Process'
of the distance learning MBA in Design Management of the University of
Westminster and a variety of consulting, research and training projects with clients
such as the BBC, IDEO, Ford, SKF and Ernst & Young International.
(資料)London Business School
②ビジネス・スクールにおけるデザイン関連科目
今後、更に詳細に調査分析する必要があるが、英国のビジネス・スクールにおいても、
米国と同様の傾向が見られ、デザイン関連のテーマの指導は、存在しているものの決して
主流ではない、との状況がある模様である。
28
<韓 国>
韓国におけるデザイン教育の概要は、上記の表に整理した通りであるが、デザインに関
する実務的な大学院教育が開始されている点、及び、国際的なビジネス展開を視野に入れ
て英語によるデザイン教育が実施されている点は、注目するに値しよう。
どちらも、わが国における本格的な取組みにはまだ見られないものであり、かつわが国
デザイン教育における課題を反映した取組みであるからである。デザインの国際競争力の
観点からは、このような韓国の姿勢と取組みに学ぶ必要性もあるのではないか。
29
Fly UP