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特別シンポジウム 「在宅ケアとジェンダー」

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特別シンポジウム 「在宅ケアとジェンダー」
2008年度
特別シンポジウム
在宅医療助成(指定公募)
完了報告書
「在宅ケアとジェンダー」
申請者:中野
(医療法人ナカノ会
一司
ナカノ在宅医療クリニック 院長
鹿児島大学医学部 臨床教授)
〒890-0007
鹿児島県鹿児島市伊敷台6丁目27-10
平成 21 年 4 月 6 日提出
特別シンポジウム「在宅ケアとジェンダー」概要
1.開催時期
2009 年 2 月 28 日(土)15:45-17:45
2.開催場所
かごしま県民交流センター
〒892-0816
鹿児島県鹿児島市山下町 14-50
Tel: 099-221-6600(代表)
3.主催
Fax: 099-221-6640
第 11 回日本在宅医学会大会
大会長
中野一司
(医療法人ナカノ会 ナカノ在宅医療クリニック 院長
鹿児島大学医学部 臨床教授)
4. 共催
財団法人
在宅医療助成
勇美記念財団
5.プログラム
座長:中野一司 (医療法人ナカノ会理事長・ナカノ在宅医療クリニック院長・
鹿児島大学医学部臨床教授)
シンポジスト:
1 在宅ケアとジェンダー
上野千鶴子(東京大学大学院教授、社会学者)
2 在宅ケアとジェンダー∼政治・行政・ジャーナリズム∼
大熊由紀子(国際医療福祉大学大学院教授、志の縁結び係)
3 在宅ケアとジェンダー
樋口恵子(NPO法人高齢社会をよくする女性の会理事)
特別シンポジウム
在宅ケアとジェンダー
座 長
中野 一司
医療法人ナカノ会 理事長
ナカノ在宅医療クリニック 院長
鹿児島大学医学部 臨床教授
演 者
上野 千鶴子
東京大学大学院 教授、社会学者
1948年富山県生まれ。
京都大学大学院社会学博士課程修了、平安女学院短期大学助教授、シカゴ大学人類学部
客員研究員、京都精華大学助教授、国際日本文化研究センター客員助教授、ボン大学客
員教授、コロンビア大学客員教授、メキシコ大学院大学客員教授等を経る。1993年東京
大学文学部助教授(社会学)、1995年東京大学大学院人文社会系研究科教授。
専門は女性学、ジェンダー研究。この分野のパイオニアであり、指導的な理論家のひと
り。近年は高齢者の介護問題に関わっている。
1994年『近代家族の成立と終焉』(岩波書店)でサントリー学芸賞を受賞。
『上野千鶴子が文学を社会学する』(朝日新聞社)、
『差異の政治学』
『当事者主権』(中西正司
と共著) (岩波書店)、
『家族を容れるハコ 家族を超えるハコ』(平凡社)、
『老いる準備』(学
陽書房)、『おひとりさまの老後』(法研)など著書多数。新刊に『おひとりさまマガジン』
(文藝春秋)がある。
大熊 由紀子
国際医療福祉大学大学院教授、志の縁結び係
ある日、医師だらけの家に生まれ、幼いときはカンゴクチャンをめざす。取り違え事故
必至の粗忽さを自覚して生化学者志望に転向。現実の研究者に幻滅し、さらに転向。朝
日新聞科学部次長をへて1984年論説委員。医療・福祉の社説を17年間担当。日本の寝た
きり老人は「寝かせきり」にされた犠牲者と気づき北欧の社会システムを紹介。この学
会の第1回のシンポに呼んでいただく。阪大大学院教授(ソーシャルサービス論)をへて現
職。趣味は志ある方々の縁結び。
「ゆきえにし」で検索すると先頭に出てくる「えにし」
のHPでお待ちしています。
樋口 恵子
NPO法人高齢社会をよくする女性の会 理事長
東京大学文学部美学美術史学科卒業・東京大学新聞研究所本科修了後、時事通信社・学
習研究社・キヤノン株式会社を経て、評論活動に入る。
「女性と仕事の未来館」初代館長、内閣府男女共同参画会議議員、厚生労働省社会保障審
議会委員、男女共同参画会議委員、社会保障国民会議委員、などを歴任。
現在、評論家・NPO法人「高齢社会をよくする女性の会」理事長・東京家政大学名誉教
授・
「高齢社会NGO連携協議会」代表(複数代表制)。後期高齢者医療制度検討会メンバー。
著書『祖母力』(薪水社)、『私の老い構え』(文化出版局)など
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特別シンポジウム1
在宅ケアとジェンダー
上野 千鶴子
東京大学大学院 教授、社会学者
介護保険施行後8年間の経験と情報は、在宅介護の現場についても多くの蓄積をもたらした。長いあいだ、在
宅介護の担い手は女性であることが自明視されてきた。それは見えない、感謝されない、選べない労働だっ
た。ところで選べない介護を「強制労働」だと喝破したのはメアリ・デイリーである。強制労働は、強制収
容所にだけあるのではない。出て行けない場である家庭もまた、ケアする側にとってもケアされる側にとっ
ても「収容所」となる。日本では介護する側もされる側もその圧倒的に多くが女性であり、介護がジェン
ダー問題であるという認識がようやく共有されるようになってきた。日本の女性には、「介護を強制されな
い権利」としての人権は存在しない。介護される側にとっても、「ケアを受ける権利」としての人権は少し
も保証されていない。わたしの報告では、「ケアの人権」アプローチにもとづいて、在宅ケアの現場でケア
する側、ケアされる側にジェンダーがどのように作用しているかを、これまでの研究成果にもとづいて分析
してみたい。
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特別シンポジウム2
在宅ケアとジェンダー ∼政治・行政・ジャーナリズム∼
大熊 由紀子
国際医療福祉大学大学院 (医療福祉ジャーナリズム)
福祉と医療・現場と政策をつなぐ「えにし」ネット・志の縁結び係&小間使い
I・男性たちがつくった「日本型福祉政策」(1979年)、その結果は・・・。
たとえば、日本の精神科病院のリーダーの病院で
II・女性が加わった介護対策検討会報告(1989年)と高齢者介護・自立支援システム研究会報告(1994年)
■ 多くの高齢者は、できる限り住み慣れた家庭や地域で生活を送ることを願っており、高齢者が無理な
く在宅ケアを選択できるようにすることが重要。
■ ただし、家族介護に過度に依存し家族が過重な負担を負うようなことがあってはならない。
従って、次のような方向を目指すことが重要。
• 高齢者が必要なサービスを、必要な日に、必要な時間帯に受けられる体制
• 一人暮らしや高齢者のみの世帯も可能な限り在宅生活が続けられるように支援
• 重度の障害を持つ高齢者や一人暮らしの要介護高齢者は24時間対応を基本
III・女性たちが各地でつくりあげたケアの現場
詳しくは『「寝たきり老人」のいる国いない国』『恋するようにボランティアを∼優しき挑戦者たち』『福祉
が変わる医療が変わる』(ぶどう社)、『ケア∼その思想と実践』(岩波書店)をどうぞ。
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特別シンポジウム3
在宅ケアとジェンダー
樋口 恵子
NPO法人高齢社会をよくする女性の会 理事長
1. 日本在宅介護名物「介護嫁」
―無償労働プラス無視労働―
日本の高度経済成長は、就業構造を雇用者化し、それに伴う「総移動状況」ともいうべき人口移動をもた
らし、地域の過疎過密を生んだ。男尊女卑を主軸とする大家族制度は解体し、性別役割分業をシステム化し
た核家族が普及した。両者のはざまで、どちらの家族においても最も長く残ったのは介護の女性役割であり
嫁役割である。伝統的男尊女卑家制度における嫁役割覧最もきびしい仕事を引き受ける。実家より婚家優先
があたりまえ覧に加えて、男は仕事・女は家庭という性別役割分業家庭においても、効率的な稼ぎ手が男女
のいずれかを考えれば女性が引き受けるのは当然であった。
嫁介護はかくして先進諸国における日本名物となる。政府の親子同居を推奨する日本型福祉政策、介護嫁
表彰などがこの傾向に拍車をかけた。嫁が行う介護労働は、誇示してはならず、不平を言ってはならず、無
償労働であると同時に無視労働であった。介護保険制度はその流れを変えている。制度施行後、家族介護者
の続柄は急速に「嫁」から「娘」へシフトし、男性介護者の比率は1977年の9.0%から2004年には28.2%と3割
近くに達している。
2. 男性介護者の増加とジェンダー
―男介の世代に向けて―
男性介護者の増加は新たなジェンダーにかかわる問題を明るみに出している。
「男性介護者白書」(津留正敏ほか編)によれば、男性が主たる介護者になった場合「男のくせにといったジェ
ンダー規範や、家計の大黒柱としての経済的課題、家事・介護スキルの未習熟と言った困難要因も多いが、
逆に、介護の社会化を促進し、家族介護の多様な進化・展開にも作用する有利な側面も多く備えている。」
高齢者虐待の加害者の第1位は息子であり被害者は80歳以上の母親が多い。長年の性別役割分業の結果と
も言える事実を踏まえつつ、増加する男性介護者のさらなる増加が見込まれる団塊の世代=男介の世代に向
けて、どのようなメッセージが必用かつ有効かを考えたい。
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【シンポジウムを終えた感想】
本シンポジウムを企画した理由は、1)ジェンダー問題とは社会的性差別問題で、2)
医療、介護、福祉分野は女性職場で、多職種連携の職場自体がジンダー社会、3)親の介
護のために娘が仕事を辞めるが、何故、息子(男)ではなく娘(女)なのか、4)介護労
働の報酬が安い理由は、もともと女性(嫁)の無償の労働であったため、5)少子高齢社
会を救うのは、高齢者の雇用確保と、本当の意味での
男女共同参画社会
の実現、など
の問題を提起し、解決の糸口を探るのが目的であった。
現在、不況嵐が吹きまくる中、高度経済成長期を経て、国として充分豊かになり、天寿
を全うするまで長生きできる超高齢社会を迎えた今、今後わが国が目指すことは、社会保
障こそ大きな雇用を生み出す成長産業という視点で、本シンポジウムを企画した。
キーワードは、以下の 2 つ
1)超高齢社会の到来(成長社会から成熟社会への脱皮)
2)情報社会の到来
で、果たすべきパラダイムシフトは、
1)競争社会から共生社会へのパラダイムシフト
2)キュア社会からケア社会へのパラダイムシフトのための、社会的相変化
3)産業構造としては、土木工事の公共事業から、福祉、環境の公共事業へのパラダイム
シフト
4)福祉産業は、女性の雇用を創出する。男性社会(ジェンダー社会)から、男女共同参
画社会へのパラダイムシフト、で上野千鶴子氏、大熊由紀子氏、樋口恵子氏の3シンポジ
ストにそれぞれ、ご講演いただいた。
上野千鶴子氏からは、介護や家事は、もともと嫁が家庭内で行っていた、不払い(無賃)
労働で、選択の余地のない、ある意味、選択のできない
強制労働
であった。それが、
介護保険導入後、介護や家事は立派な労働として認められるようになったが、もともと無
賃労働であったがため、その労働単価は低く抑えられている。日本では介護する側もされ
る側もその圧倒的に多くが女性であり、介護がジェンダー問題であるという認識がようや
く共有されるようになってきた、というお話であった。大熊由紀子氏からは、北欧の事情
とジェンダー問題が紹介された。樋口恵子氏からは、古い家父長制度から現在の核家族ま
での家族の変遷が紹介され、介護の問題はジェンダー問題との認識で、やはり介護の社会
化が今後の高齢者社会を良くすることが明らかにされた。
やはり、今後の高齢社会を救うのは、人工の半分を占める女性で、本当の意味の男女共同
参画社会の実現が必要と考えられた。また、介護分野にもっとお金を流す必要があり、介
護職が誇りを持って働ける社会作りが必要と思われた。
中野一司(医療法人ナカノ会
ナカノ在宅医療クリニック 院長
鹿児島大学医学部 臨床教授)
「財団法人 在宅医療助成 勇美記念財団の助成による」
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