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再生可能な地中熱の利用による 「札幌版次世代コミュニティ暖房

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再生可能な地中熱の利用による 「札幌版次世代コミュニティ暖房
平成 24 年度
札幌市大学提案型公募研究
採択課題
再生可能な地中熱の利用による
「札幌版次世代コミュニティ暖房」の可能性に関する研究
平成25年3月22日
研究代表者
斉藤
雅也(札幌市立大学)
共同研究者
中原
宏 (札幌市立大学)
同
菊田
弘輝(北海道大学)
同
佐藤
孝一(北海道大学病院)
平成 24 年度 札幌市大学提案型公募研究 採択課題
再生可能な地中熱の利用による
「札幌版次世代コミュニティ暖房」の可能性に関する研究
-目次-
第1章
研究の概要
1.1. 研究の背景と目的 --------------------------------------------------------------------------
1
1.2. 本研究の政策課題解決への寄与 --------------------------------------------------------
2
1.3. 期待される研究の成果・効果 -----------------------------------------------------------
3
1.4. 地中熱利用暖房システムの概要----------------------------------------------------------
4
第2章
結果と考察
2.1. 札幌市内の地中熱ヒートポンプのある高断熱建築の温熱環境実測(Task 1)
2.1.1. 実測調査の概要 ----------------------------------------------------------------------
5
2.1.2. 実測調査の結果と考察 --------------------------------------------------------------- 7
2.1.3. 実測調査のまとめ----------------------------------------------------------------------- 15
2.2. 欧州都市・建築における先進事例の視察調査とワークショップ(Task 2)
2.2.1. 視察調査とワークショップの概要 ---------------------------------------------
16
2.2.2. 視察調査の内容-----------------------------------------------------------------------
18
2.2.3. 視察調査とワークショップのまとめ ------------------------------------------- 34
2.3.「地中熱需要 MAP」と「札幌版次世代コミュニティ暖房」(Task 3)
2.3.1. 「地中熱需要 MAP」の作成方法 ------------------------------------------------- 35
2.3.2. 「全暖房熱需要」の計算方法------------------------------------------------------ 37
2.3.3. 「全暖房熱需要」の計算結果------------------------------------------------------ 39
2.3.4. 「地中熱需要 MAP」 ---------------------------------------------------------------- 43
2.3.5. 「札幌版次世代コミュニティ暖房」の実現性--------------------------------- 47
2.3.6. 「地中熱需要 MAP」と「コミュニティ暖房」に関する考察 ----------- 49
-----------------------------------------------------------------------
50
-------------------------------------
51
(2)「札幌市まちづくり戦略ビジョン」へのパブリックコメントについて-------
52
-------------------------------------
54
(4)「札幌市都市計画基礎調査」の「地域カルテ」による分類地区----------------
55
(5)「地域カルテ」の参考資料(中央区・C-03 山鼻北地区)------------------------
56
第3章
統括結論
参考資料
(1)「札幌市まちづくり戦略ビジョン」について
(3)「札幌版次世代住宅基準」について(抜粋)
第1章
研究の概要
1.1. 研究の背景と目的
本研究は、再生可能エネルギーのひとつである地中熱に着目し、それを暖房の熱源とし
て数世帯の戸建住宅で共有する「コミュニティ暖房」を提案し、札幌の気候特性や住宅の
熱特性(断熱性)、経済性に基づき、「札幌版次世代コミュニティ暖房」の可能性を提示す
ることを目的としている。
欧州では、数十世帯~200 世帯を有する街区、コミュニティ単位で、太陽熱、バイオマス、
地中熱が暖房・給湯用の熱源として積極的に利用されている。一方、札幌市を例にすると、
市街地中心部や南区の真駒内地区、厚別区の厚別東地区において大規模な地域熱供給の事
例があるが、小・中規模の熱供給、ならびに太陽熱、バイオマス、地中熱利用の事例は個
別ではあったとしても、地域熱供給の例としては一切ない。また、数世帯規模の小規模な
コミュニティ単位の熱供給の事例もない。
今後、太陽熱や地中熱の利用とともに、比較的に規模の小さな「コミュニティ暖房」の
普及を進めるには、これらの小・中規模の熱供給方法や熱源として地中熱を採用した場合
の利点や課題を評価する必要がある。そこで本研究では、以下の項目(Task 1~3)を明ら
かにすることとする。
Task 1: 札幌市内で地中熱を暖房用熱源にしている新築の保育園施設の温熱環境、設備
機器の運転実績を実測し、建物の断熱性と機器のエネルギー効率、温熱快適
性の関係を把握する。
Task 2: 欧州の地中熱利用・コミュニティ暖房施設の先進事例を視察し、現地研究者と
国際ワークショップを通して導入に必要とされる諸条件を明らかにする。
Task 3: 札幌市 都市計画部が管理する「札幌市都市計画基礎調査」のデータに基づき、
札幌市各区および任意の戸建住宅の高密度地区を対象にした、地区ごとの「全
暖房熱需要」を試算し、その結果を用いて「地中熱需要 MAP」を作成する。
以上の結果に、大よその経済性の評価を加えて「札幌版次世代コミュニティ暖房」の基
礎資料を提示する。
1
1.2. 本研究の政策課題解決への寄与
本研究は、現在、策定中の「札幌市まちづくり戦略ビジョン」※1 の重点戦略のひとつ「環
境(持続可能な都市を構築するスマート札幌の推進)」に寄与する。この重点戦略に対する
札幌市民の期待も大きい※2。
これまで地中熱利用は、導入時のコストに対して、運用時の暖房や給湯のエネルギーコ
ストの削減効果が不透明であることが、住宅への導入・普及の足かせとなっていた。本研
究では、地中熱利用システム導入のためのイニシャル(初期)コストに対するペイバック
期間、ランニング(運用)コスト等の経済性についても検討の範疇に入れるので、熱源選
択の際に地中熱が有効な選択肢に発展することが期待される。
また、「札幌市都市計画基礎調査」データを基に作成される、高密度な戸建住宅のある地
域を対象にした「地中熱需要 MAP」によって、例えば、暖房熱需要が極端に大きな地域で
は、住宅の高断熱化をコミュニティ単位で進めるための資料になり得る。よって、高断熱
住宅の普及策として既に 2012 年度から開始されている「札幌版次世代住宅基準」※3 との相
補的連携を図り、制度の普及・啓蒙に貢献することができる。
さらに、ハード技術面だけでなく、コミュニティの快適な温熱環境の提供に繋がるので、
「札幌市まちづくり戦略ビジョン」※1 のもうひとつの重点戦略「地域(つながりと支え合
いによる安心で魅力ある地域づくり)」として、例えば、居住快適性の向上が疾病予防に繋
がるなどのソフト面(地域健康社会)に関わる戦略の推進にも寄与すると考えられる。
--------------------------------------------------------------------------------------------------※1
巻末の参考資料(1)「札幌市まちづくり戦略ビジョン」を参照のこと。
※2
巻末の参考資料(2)
「札幌市まちづくり戦略ビジョン」の「基本目標 16」に対するパブリックコ
メントの内容について(抜粋)を参照のこと。
※3
巻末の参考資料(3)「札幌版次世代住宅基準(抜粋)
」を参照のこと。
2
1.3. 期待される研究の成果・効果
本研究の成果は、札幌市まちづくり戦略ビジョン重点戦略の「環境首都:札幌の実現に
向けた次世代エネルギーシステムの推進」に寄与する。特に、「暖房熱需要MAP」および
「地中熱需要 MAP」は、①自立・分散型エネルギーネットワークシステムの展開、②持続
可能な集約型都市構造(コンパクトシティ)への強化等を、札幌独自の形で推進できる。
また、地中熱利用の採用例が増えると、「経済:創造性を活かした産業群の育成」におけ
る、①エネルギー転換に対応した環境産業の創造、②創造性を活かしたイノベーションの
誘発など、札幌独自の産業を後押しすることが期待される。
さらに、「地域」に掲げられている施策の中の例えば、「災害に備えた地域防災体制づく
り」については、冬季の災害非常時のコミュニティ暖房の“自立性”を住民同士で検討す
るなどの機会が期待できるので、コミュニティ暖房が地域活動を活発化する仕組みとして
常時・非常時を問わず機能すると考えられる。
なお、地中熱利用は、現在、環境省が注目していて、平成 25 年度から 3 ヵ年の予定で調
査予算、普及振興のための予算が総額 4.5 億円計上され、今後の普及促進が期待されている
状況である※1、2。
※1
環境省:地中熱利用ヒートポンプシステムの普及促進を図るための技術開発推進事業(2012)
http://www.env.go.jp/guide/budget/spv_eff/review_h24/sheets_h25f/sheets/25-002.pdf
※2
環境省:先進的地中熱利用ヒートポンプシステム導入促進事業(2012)
http://www.env.go.jp/guide/budget/spv_eff/review_h24/sheets_h25f/sheets/25-034.pdf
(いずれも2013.3.8アクセス)
3
1.4. 地中熱利用暖房システムの概要
本研究で実測対象とする「地中熱」による暖房システムの模式図を図 1-1 に示す。地盤深
さ 70~80mの土中に蓄積されている熱エネルギーを冷媒によってヒートポンプに運び(1
次側と呼ぶ)
、熱交換を行ない、ヒートポンプ内部にて電力が投入された圧縮機でさらに昇
温された冷媒を介して熱交換された温水を室内へ供給する(2 次側と呼ぶ)仕組みである。
通常の、外気を熱源とする「空気熱源式ヒートポンプ」よりも土中温度が一定のため、成
績係数(COP)および、搬送系動力を含むシステム成績係数(SCOP)が高い(参照 p.14)。
圧縮機から出る冷媒
地中からの冷媒
室内に供給される温水
地中熱ヒートポンプ
ヒートポンプに戻る温水
膨張器から出る冷媒
地盤深
70-80m
地中に戻る冷媒
図 1-1 地中熱を利用した暖房システムの熱の流れ
(クローズドループシステム:わが国では一般的なシステム)
地中熱ヒートポンプ暖房システムの初期導入コスト(機器費用・工事費用)は、一般的
な 1 世帯(120 ㎡程度)あたりの暖房システム(灯油セントラル)が 150 万円程度なのに
対して、地下への採熱管の埋設工事費分が余分にかかるために 300 万円程度である(概ね 2
倍)※1。これまでの実績の多くは国や地方自治体からの補助(工事費の概ね 3 割)によっ
て、初期費用を 230~240 万円としている例が多い。なお、最近では地盤深さを 10m程度
にして採熱管を数多く打つ等の工法が開発され、初期コストの削減が図られ、150 万円以内
にして従来型の成果と同程度の熱性能、設備性能が得られている報告もある※2。
※1
長野克則:住宅における地中熱の利用について(2009)
http://www.pref.aomori.lg.jp/soshiki/energy/enerugi/files/handout_No.2-1.pdf (2013.3.8 アクセ
ス)
※2
北海道住宅新聞(2006)
http://www.iesu.co.jp/shinbun/2004/16-3-5.htm (2013.3.8 アクセス)
4
第2章
結果と考察
2.1. 札幌市内の地中熱ヒートポンプのある高断熱建築の温熱環境実測(Task 1)
2.1.1. 実測調査の概要
2012 年 10 月に札幌市厚別区に竣工した「S
認定こども園」は、コンクリート造外断熱工法、
地中熱ヒートポンプ暖房を採用している。
この建物の延床面積は、560 ㎡程度で、一般
的な札幌市内の戸建住宅を想定すると、外壁面
積は当然、異なるが、概ね 4~5 世帯(120 ㎡程
表 2-1 実測建物の概要
名称
S 認定こども園
所在地
札幌市厚別区
施工年月
2012 年 10 月
開園日
2013 年 4 月
床面積
延床面積:560.16m2
基礎:押出法ポリスチレンフォーム
度/世帯)の床面積に相当する。そこで、対象
保温板
建物の温熱環境および設備機器の運転効率の実
測を、2012 年 12 月中旬~2013 年 3 月中旬まで
外壁の仕様
実施した。本節ではその結果と考察を述べる。
をそれぞれ示す。
保温板
4号
を示す。また、図 2-1 に建物の平面図および測
内観の写真、図 2-3(次頁)に測定風景の写真
屋根:押出法ポリスチレンフォーム
100mm
壁:ビーズ法ポリスチレンフォーム
表 2-1 に実測建物「S 認定こども園」の概要
定点の配置図、図 2-2(次頁)に建物の外観・
200mm
窓の仕様
200mm
ダブル Low-E 透明 3 層ガラス
地中熱ヒートポンプ温水床暖房
暖房設備
(定格 10.8kW)
熱損失係数
0.9W/m2・K(換気負荷を考慮)
図 2-1 実測対象建物「S 認定こども園」の平面図(左)と測定点の配置図
5
図 2-2 「S 認定こども園」の外観(上)と室内空間(下の左・右)
図 2-3 室内温熱環境と機器性能実測の様子
(左:室温・グローブ温の測定、右の 4 枚:ヒートポンプの冷媒温度・電力の測定)
6
2.1.2. 実測調査の結果と考察
図 2-4 から図 2-7 に、2012 年 12 月、2013 年 1 月、2 月、3 月の室内測定点における空
気温度とグローブ温度の経時変化をそれぞれ示す。
図 2-4 室内温熱環境(2012 年 12 月 12 日~31 日)
図 2-5 室内温熱環境(2013 年 1 月 1 日~31 日)
図 2-6 室内温熱環境(2013 年 2 月 1 日~28 日)
7
図 2-7 室内温熱環境(2013 年 3 月 1 日~14 日)
実測は竣工後であったが、室内は未入居(2013 年 4 月より利用開始予定)のため、室温
が最低温度に設定され、2012 年 12 月~2 月の室温は 15~18℃であった。3 月に入り、開
園準備のためにスタッフが出入りするようになったため、室内での要求温度はやや上昇し、
室温は 18~20℃に達している。
外気温が最低になる 1~2 月期であっても室温は(低めに設定されているが)終日安定し
ている。また、室温と同様にグローブ温度もほぼ同程度か、0.5℃ほど高い状態で推移して
いる(日射の影響と考えられる)。また室内の場所による差異はあまりない。室温とグロー
ブ温度が同じ程度か、グローブ温度がやや高い状態である理由は、建物の熱損失係数が
0.9W/(㎡・K)
(熱回収あり)の高断熱建築によるものと考えられる。なお、室内にスタッ
フや園児が在室している場合は、内部発熱の影響があるので、図 2-4 から図 2-7 の結果に概
ね 2~3℃上昇した室温に成り得ると予想される。
図 2-8 から図 2-11 に、2012 年 12 月、2013 年 1 月、2 月、3 月の実測建物の垂直温度(壁
内部・表面を含む)の経時変化をそれぞれ示す。
図 2-8 垂直温度分布(2012 年 12 月 12 日~31 日)
8
図 2-9 垂直温度分布(2013 年 1 月 1 日~31 日)
図 2-10 垂直温度分布(2013 年 2 月 1 日~28 日)
図 2-11 垂直温度分布(2013 年 3 月 1 日~14 日)
9
図 2-8~図 2-11 の垂直温度分布をみると、地中熱ヒートポンプから温水配管によって熱
が供給される 1 階床下ピット表面温度を最高温度として、徐々に下がっていく傾向にある
ことがわかる。12~1 月は試運転を兼ねて毎日、地中熱ヒートポンプが稼働していることが
わかるが、2 月以降は 5 日間に一回程度の稼働に変わっていることがわかる。外気温がマイ
ナス 5℃程度にも関わらず垂直温度分布には概ね変化がない(高い断熱性を有している)。
図 2-12 から図 2-15 に、2012 年 12 月、2013 年 1 月、2 月、3 月の地中熱ヒートポンプ
を出入りする冷媒温度(2 月以降、2 次側の温水温度を追加)の経時変化をそれぞれ示す。
図 2-12 地中熱ヒートポンプを出入りする冷媒温度の経時変化(2012 年 12 月 12~31 日)
図 2-13 地中熱ヒートポンプを出入りする冷媒温度の経時変化(2013 年 1 月 1~31 日)
10
図 2-14 地中熱ヒートポンプを出入りする冷媒温度の経時変化(2013 年 2 月 1~28 日)
図 2-15 地中熱ヒートポンプを出入りする冷媒温度の経時変化(2013 年 3 月 1~14 日)
ヒートポンプ稼働時における 1 次側の地中からの冷媒温度は 12℃、戻り温度は 10℃程度
である。また、圧縮機を出た冷媒温度は 65℃、膨張弁を出た冷媒温度は 25℃程度、2 次側
の温水の往還温度は、在室者がないために往還温度差がなく 27~28℃である。
図 2-16 から図 2-19 に、2012 年 12 月、2013 年 1 月、2 月、3 月の地中熱ヒートポンプ
への投入電力と冷媒・温水搬送系の投入電力の経時変化をそれぞれ示す。
11
図 2-16 地中熱ヒートポンプへの投入電力の経時変化(2012 年 12 月 12~31 日)
図 2-17 地中熱ヒートポンプへの投入電力の経時変化(2013 年 1 月 1~31 日)
図 2-18 地中熱ヒートポンプへの投入電力の経時変化(2013 年 2 月 1~28 日)
12
図 2-19 地中熱ヒートポンプへの投入電力の経時変化(2013 年 3 月 1~14 日)
地中熱ヒートポンプの稼働時の全投入電力は 2500Wであるのに対して、1 次側(地中か
らヒートポンプまでの冷媒搬送)用のポンプ動力が 150W、2 次側(ヒートポンプから室内
(床下ピット)への温水搬送)用のポンプ動力が 200Wである。搬送系を合計すると 350
Wになる。よって、地中熱ヒートポンプの圧縮機(コンプレッサー)への投入電力は 2150W
(=2500-350)となる。
図 2-20 から図 2-23 は、地中熱ヒートポンプの成績係数(COP)とシステム成績係数
(SCOP)を日平均外気温とともに月毎に示したものである。図 2-20 の 12 月では、前半は
外気温が氷点以上(+)で、暖房負荷があまり大きくないため、地中熱ヒートポンプの運
転が安定しておらず、SCOP、COP のいずれも概ね 1.5 程度で、月の後半になり、外気温
が氷点下(-)になり、2.0~3.0 程度に上昇する。図 2-21(1 月)以降については、ヒー
トポンプの運転状況が安定し、SCOP で 3.5、COP で 4.0 程度得られていることがわかる。
図 2-20 日平均外気温と地中熱ヒートポンプへの SCOP・COP(2012 年 12 月 13~31 日)
13
図 2-21 日平均外気温と地中熱ヒートポンプへの SCOP・COP(2013 年 1 月 1~31 日)
図 2-22 日平均外気温と地中熱ヒートポンプへの SCOP・COP(2013 年 2 月 1~28 日)
図 2-23 日平均外気温と地中熱ヒートポンプへの SCOP・COP(2013 年 3 月 1~14 日)
14
2.1.3. 実測調査のまとめ
2012 年 12 月から 2013 年 3 月までの実測によって以下のことがわかった。
1) 室内温熱環境は、外気温が最低になる 1、2 月期においても終日概ね一定室温、グロー
ブ温度を保ち、建物の高い断熱性を有している(なお、竣工直後で建物の使用開始時期
が 2013 年 4 月以降になることから、室温は概ね 15~18℃、グローブ温度も同程度であ
った)。
2) 時期の違いに関わらず安定した垂直温度分布より、床下に仕込まれた温水パイプからの
放熱が室内に効率より伝達している。
3) 地中熱ヒートポンプのシステム成績係数(SCOP=室内供給熱量/ヒートポンプへの全
投入電力)は、1,2 月期において 3.5 で、1 次側と 2 次側を合わせた搬送系動力(電力)
は、全投入電力の 14%程度(=350W/2500W)である。
なお、本研究では、成績係数 COP=(室内供給熱量/ヒートポンプ内部の圧縮機への
投入電力)であるとして、システム成績係数 SCOP を本来の成績係数とみなすことに
する。
本建物の延床面積は、560 ㎡程度で、一般的な札幌市内の戸建住宅を想定すると、外壁面
積は当然、異なるが、概ね 4~5 世帯(120 ㎡程度/世帯)の床面積に相当するので、以上
の 1)~3)の結果を、次々節 2.3 で扱う「コミュニティ暖房」による「地中熱利用 MAP」の
作成に活用する予定である。
15
2.2. 欧州都市・建築における先進事例の視察調査とワークショップ(Task 2)
2.2.1. 視察調査とワークショップの概要
地中熱利用暖房システムと地域暖房システムの先行事例の視察と現地研究者とのワーク
ショップを実施した。視察の日程と訪問先を表 2-2 に示し、以下に視察概要を記す。
表 2-2 視察調査・ワークショップの日程と訪問先
1) 日程:平成 25 年 2 月 17 日(日)~20 日(水)(現地 2 泊、機中 1 泊 4 日間)
2) 訪問都市:オーストリア共和国・ザルツブルグ州
3) 訪問先:
a) Stadtwerk Lehen(ザルツブルグ市, Salzburg)※ワークショップを実施。
b) Biomass-Solar district heating system(オイゲンドルフ市, Eugendorf)
c) Biogas from gras, heat, electricity, feed-in gas grid(オイゲンドルフ市, Eugendorf)
d) MSc Baumeister GMBH(アンテリング市, Anthering)
4) 出張者:斉藤 雅也(研究代表者:札幌市立大学)
菊田 弘輝(共同研究者:北海道大学)
5) 対応者:Helmut Strasser 氏(SIR: Salzburg Institute for Regional Planning and
Housing)
Norbert Dorfinger 氏(Project Manager, Salzburg AG)
Robert Gabriel 氏(MSc Baumeister GMBH・代表・建築家)
Korn Satoko Tanaka(コーン田中 聖子)氏(MSc Baumeister GMBH・建築家)
視察概要(日時はすべて現地時間)
2/17(日)出国。成田、ミュンヘンを経由し、同日の夜、現地ザルツブルグ市内に入る。
2/18(月)の朝、ザルツブルク市西部の再開発地区にある Stadtwerk Lehen の Salzburg
AG + SIR(Salzburger Institut for Raumordnung und Wohnen)の研修施設に入った。9
~11 時に日本・オーストリアの研究者・実務家による、地域熱供給、コミュニティ暖房、
地中熱利用について討論するワークショップ(以下、WS)を行なった。SIR(Salzburg
Institute for Regional Planning and Housing)の Helmut Strasser 氏にオーガナイズいた
だいた。同 WS の後、同地区で実際に運用されている「太陽熱+ヒートポンプを活用した
地域暖房・給湯システム」および、
「断熱改修をした既存住宅棟」、「関係する機械設備シス
テム」を、Strasser 氏と Norbert Dorfinger 氏(ザルツブルグ AG(ザルツブルグの電気・
ガス・水道供給会社のマネージャー)の案内で視察した。
昼食後、Strasser 氏の案内で、ザルツブルク市の郊外のオイゲンドルフ市郊外にある訪
問先 b), c)の地域暖房エネルギー供給施設を視察した。用務地の地場産業のひとつの林業の
廃材として出る木材チップ燃料による地域暖房システムを訪問した。さらに、酪農業から
16
出る牧草を利用したバイオガス供給による地域暖房システムを訪問し、エネルギー供給の
実態をそれぞれヒアリングした。
2/19(火)朝、ザルツブルク市在住の日本人建築家の田中コーン聖子氏の案内で、同氏が
勤務する訪問先 d)のザルツブルク州アンテリング市にある設計事務所 MSc Baumeister
GMBH の事務所ビルを訪問した。同事務所の所長を務める Robert Gabriel 氏により事務所
地下にある「地中熱・冷を利用した暖冷房システム」について解説いただいた。およそ 300
㎡程度の事務所の一部(150 ㎡)を地中熱によって冷暖房する仕組みで概ね高効率(成績係
数:4.5)で運転されていることがわかった。その後、同事務所がアンテリング市内に改修
計画を実施している工事中の戸建住宅をコーン・田中氏に案内いただいた。高い断熱性を
有し、太陽熱および地中熱ヒートポンプを活用した建築であることが確認できた。
視察後、アンテリング駅からザルツブルク中央駅、ミュンヘン中央駅を経由して 2/20(水)
に帰国。以上の視察内容の写真と解説を次節 2.2.2 に記す。
17
2.2.2 視察調査内容
平成 25 年 2 月 18 日(月)午前
訪問先 a) Stadtwerk Lehen の地域熱供給の事例
Pilot project funded by EU (Concerto),
Building of Tomorrow-Program(BMVIT), Land Salzburg
1)オーストリア共和国・ザル
ツブルグ市中心部の様子。
奥(左手)に見えるのは、
世界文化遺産のホーエン
ザルツブルグ城。川の右岸
側エリアに訪問した
Stadtwerk Lehen 再開発
地区がある。
2)ザルツブルグ市中心部の
Stadtwerk Lehen 再開発地区
の 会 議 室 で 行 な っ た Work
shop の様子。地域熱供給のサ
イズ・太陽熱や地中熱利用の
可能性について議論した。
※ ( 下 の 写 真 ) Stadtwerk
Lehen 地区の航空写真(再
開発事業の開始当初)と対
象地区(青枠が新築部)。
18
3)ザルツブルグ市の中西部にある Stadtwerk
Lehen の様子。オフィス棟と住宅棟の複
合再開発エリア。オフィス棟は今秋の竣
工に向けて建設中。住宅棟は既に運用が
開始されている。エリア内の新築住宅棟
は 15 棟(合計 200 世帯)の構成になっ
ている。地域熱供給エリア全体では、新
旧住宅を合わせて 1123 世帯(新 550+
旧 623)
。旧住宅は築年数 60~70 年。
Stadtwerk Lehen, Salzburg, Austria
4)ザルツブルグ市の中西部にある Stadtwerk Lehen の様
子。オフィス棟と住宅棟の複合再開発エリア(2007
~)。住宅棟の外観と集合住宅用の日射熱利用による貯
湯タンクの様子。旧住宅の断熱改修による熱需要のコ
ントロールを実施し、再生可能エネルギー(日射)で
30%以上賄う計画としている。以下、WS 時のスライ
ド(抜粋)。
---------------------------------------------------------------------------
Stadtwerk Lehen, Salzburg, Austria
5)ザルツブルグ市の中西部にある Stadtwerk
Lehen の様子。住宅棟の屋上にある太陽
集熱パネルの様子。右端と左端に太陽光
発電パネルがある。太陽集熱の方が主力
になっている。住宅棟は RC 外断熱工法
が採用されている。新築の住宅棟では、
年間暖房・給湯用負荷が 20kW/㎡以下に
なるよう計画されている。
Stadtwerk Lehen, Salzburg, Austria
19
6)ザルツブルグ市の中西部にある Stadtwerk
Lehen の様子。住宅棟の屋上に設置され
た集熱パネル(全住宅棟で 2,000 ㎡)の
様子。各棟には、Micro Net(下記、設
備系統図を参照)と呼ばれる制御システ
ムがあり、そこから各住戸に送熱・送電
される仕組みになっている。
なお、Salzburg では、水道・ガス・電
気の全てが同じ会社(第 3 セクター)で
運営されているので、この種のプロジェ
クトは日本に比べて実施しやすい環境に
ある。
Stadtwerk Lehen, Salzburg, Austria
7)集合貯湯タンク(200 ㎥)の外観。2000 ㎡の屋上集熱パ
ネルから温水が生成され、貯湯タンクに投入される。
Stadtwerk Lehen, Salzburg, Austria
8)住宅棟群の中央に配置
されている「集合貯湯
タンク(200 ㎥)」に
表示されている日射
寄与率を表示するモ
ニター。上:太陽光発
電パネルの発電効率、
下:太陽熱給湯の集熱
率を表わす。
Stadtwerk Lehen, Salzburg, Austria
20
9)ザルツブルグ市の中西
部 に あ る Stadtwerk
Lehen の集合貯湯タン
クの下部の様子。設備
機械室と近距離で繋
がっているので送熱
ロスが少ない。供給さ
れる送水温度は概ね
60℃、還水温度 30℃
である。
Stadtwerk Lehen, Salzburg, Austria
10)Stadtwerk Lehen の機械設備室の様子。
集合貯湯タンクの横下部に併設されて
いる。25 ㎡程度の面積でコンパクトに
機器が収納されている。日射集熱によ
って温められた温水を 2 次側の需要に
応じてヒートポンプで再昇温させる複
合システム化を図っている。
なお、日射熱やヒートポンプですべ
ての熱需要を賄う発想ではなく、あく
まで「予熱方式」の補助機能としての
役割を担っている。
Stadtwerk Lehen, Salzburg, Austria
11)Stadtwerk Lehen の機械
設備室の様子。写真
は、機械室に設置され
ている圧縮式ヒート
ポンプ(160kW)
。貯
湯タンクの中間層の
温水を昇温して貯湯
タンクに還すシステ
ムを採用(参照:写真
7))。ヒートポンプが
無しに比べて 1.24 倍
ほどの熱量を貯湯タ
ンクで確保できてい
Solar district heating + Ground air heat pump の複合システム
る(還水温度が 30℃
以下の場合)。
Stadtwerk Lehen, Salzburg, Austria
21
12)ザルツブルグ市の中
西部にある Stadtwerk
Lehen の住宅棟の西面
バルコニーの様子。
Stadtwerk Lehen, Salzburg, Austria
13)Stadtwerk Lehen に
隣接する旧住宅群
で断熱改修が行わ
れる前の住宅の様
子。築年数 60~70
年。
Salzburg, Austria
14)Stadtwerk Lehen に隣接する旧住宅群で
断熱改修済みの住宅の様子。写真 13)
と比較すると壁厚や窓の仕様が異な
る。断熱改修後の住宅棟では、年間暖
房・給湯負荷を 30kW/㎡以下に抑える
よう設計されている(新築棟は年間
20kW/㎡以下)
。
Renovated Apartment, Salzburg, Austria
22
15 ) ザ ル ツ ブ ル グ 市 の 中 西 部 に あ る
Stadtwerk Lehen の
「地域熱供給システム」
の熱供給網(敷地内に設置されている掲
示板)。住民のみならず、外部からの視
察者を意識したサインデザイン。
Stadtwerk Lehen, Salzburg, Austria
16)ザルツブルグ市の中
西部にある Stadtwerk
Lehen の「地域熱供給
システム」において、
各住戸の光熱水エネ
ルギー使用量(電力、
ガス、水)の PC によ
るモニタリングシス
テム(見える化)の画
面。WS で提供されたス
ライド(抜粋)。住民
によるモニタリング
によって 10%の軽減
効果があることがわ
かっている。
Stadtwerk Lehen, Salzburg, Austria
17)ザルツブルグ市街地
にある CHP プラント
の 外 観 。 Stadtwerk
Lehen よりも大規模
な地域熱供給である
が、効率は高くない
(ロスが大きい)。ザ
ルツブルグ市内に 2
ヶ所設置されている。
今後、大規模から小・
中規模への切り替え
時期に入る予定。
CHP plant, Salzburg, Austria
23
平成 25 年 2 月 18 日(月)午後
訪問先 b) Biomass-Solar district heating system (Eugendorf)
18)ザルツブルグ市か
ら自動車 20 分の
郊 外 ( Eugendorf
市)にあるバイオ
マス熱供給プラン
ト nahwaerme の
外観。
Biomass-Solar district heating system, Eugendorf, Austria
19 ) バ イ オ マ ス 地 域 熱 供 給 プ ラ ン ト
nahwaerme の所長による地域熱供給網
に関する説明の様子。200 世帯ほどの一
般住宅と 5 カ所ほどの大規模施設への熱
供給を行なっている。エリアの熱需要量
に対して熱供給量の関係が十分で、ほど
よい需要があることが鍵になっている
との説明があった。
Biomass-Solar district heating system, Eugendorf, Austria
20)バイオマス熱供給プラント nahwaerme
の地域材のストックヤードの様子。冬季
間は写真にあるストックで約 2 週間分の
燃料に相当する。
Biomass-Solar district heating system, Eugendorf, Austria
24
21 ) バ イ オ マ ス 熱 供 給 プ ラ ン ト
nahwaerme の地域材のストックヤ
ードの様子。集成材の屋根の上には太
陽集熱パネルが設置されていて、
10%程度の熱負荷を予熱によって賄
っている。
Biomass-Solar district heating system, Eugendorf, Austria
22)バイオマス熱供給プ
ラント nahwaerme の地
域材のストックヤードの
様子。奥の木材を裁断し
て細かくしてボイラーに
投入する。
Biomass-Solar district heating system, Eugendorf, Austria
23)バイオマス熱供給プラント nahwaerme のボイラーの様
子。2基のボイラーからの排熱を回収することによって高効
率化を図っている。
Biomass-Solar district heating system, Eugendorf, Austria
25
24)バイオマス熱供給プラント nahwaerme の送熱管(使用
されていないもの)の様子。直径 15 ㎝程度の送水管で断熱
材が被覆されている様子。
Biomass-Solar district heating system, Eugendorf, Austria
25)バイオマス熱供給プ
ラント nahwaerme の機
械室内部の様子。ボイラ
ーの外観。このプラント
では 2 基のボイラーが稼
働している。夏季は 1 基
のみ運転する。
Biomass-Solar district heating system, Eugendorf, Austria
26)バイオマス熱供給プ
ラント nahwaerme のコ
ントロール室のコンピュ
ーターのモニター画面。
一般的な監視装置の例。
稼働状況は極めて安定し
ている。
Biomass-Solar district heating system, Eugendorf, Austria
26
27)バイオマス熱供給プ
ラント nahwaerme のコ
ントロール室のモニター
画面の様子。ストックヤ
ードの屋根面に太陽集熱
パネルが設置され、予熱
を行ない、貯湯タンクに
連結されている。予熱効
による省エネルギー効果
は概ね 10~15%程度。
Biomass-Solar district heating system, Eugendorf, Austria
28)ザルツブルグ州の各家庭に設置されている水道・電力・ガ
スのモニタリング装置+分岐板。家庭用のモニタリングシステ
ム(日本の HEMS)の役割を担っている。
写真(下)は、その系統図で電気・熱(ガス)・水道がすべ
て一元化されている説明がなされている。
Biomass-Solar district heating system, Eugendorf, Austria
-------------------------------------------------------------------------------※本施設の紹介動画(ドイツ語による): http://www.youtube.com/watch?v=tzkQt_HDnjQ
(2013 年 3 月 10 日アクセス)
27
訪問先 c:Biogas from gras, heat, electricity, feed-in gas grid
29)2005 年以降、オーストリア国内ではバ
イオガスプラントが各地域で稼働中。
Eugendorf 地区でも周辺に点在する酪
農家から牧草を収集し、プラント内のタ
ンクで発酵させて、バイオガス専用自動
車の燃料を生産すると同時に、補助ボイ
ラーを併用して地域熱供給をしている。
Biogas from gras, heat, electricity, feed-in gas grid, Eugendorf, Austria
30)バイオガスプラントに併設されたガソリンスタ
ンドの様子。近隣の牧草提供者の酪農家にバイ
オガスが供給される仕組みになっている。
Biogas from gras, heat, electricity, feed-in gas grid, Eugendorf, Austria
31)バイオガスプラントの全体図。大きな
円形のタンクは発酵槽。主に、バイオ天然
ガスの生産施設に相当する。補助ボイラー
群は別の建物になる。
Biogas from gras, heat, electricity, feed-in gas grid, Eugendorf, Austria
28
32)バイオマス・プラント全体のエネル
ギーフロー図。
バ イ オ 天 然ガ ス の 生 産は 、 牧 草 から
90%分のガス(気体)をメタンガス燃
料(液化)する。燃料として取り出せる
割合は全体のエネルギー60%に相当す
る。一方、残り 10%分のガス(気体)
は主として地域熱供給の熱源として補
助ボイラーに投入されている。
Biogas from gras, heat, electricity, feed-in gas grid, Eugendorf, Austria
33)バイオ天然ガスプラントの機械室の
内部の様子。
Biogas from gras, heat, electricity, feed-in gas grid, Eugendorf, Austria
34)バイオ天然ガスプ
ラントの内部にある補
助ボイラー。ここから
地域熱供給網に送られ
る。
Biogas from gras, heat, electricity, feed-in gas grid, Eugendorf, Austria
29
平成 25 年 2 月 19 日(火)午前
訪問先 d) 建築設計事務所 MSc Baumeister GMBH(Anthering)
35)ザルツブルグ市から車で 20 分ほど
のアンテリング市にある建築設計
事務所の外観。軒の出(庇)のほか
に、外付けブラインドによる日射遮
へい自動制御システムがついてい
る。昼光の大きさ(日射量)を感知
してブラインドが開閉・昇降するシ
ステム。欧州では一般住宅や小規模
な事務所にも自動制御が普及して
いる。
MSc Baumeister GMBH, Anthering, Austria
36)事務所最上階から
の外の眺め。前方
はドイツ国内。サ
ッシは木製で、窓
ガラスはトリプル
(3 重)ガラスで
断熱性は極めて良
い。外壁は外張断
熱を採用。
MSc Baumeister GMBH, Anthering, Austria
37)外付けブラインド(日射遮へい)を室内側から見
る。冬の使用頻度も高い。断熱性とともに日射遮
へい性を向上させることが、暖冷房負荷の低減に
ダイレクトに繋がる。
MSc Baumeister GMBH, Anthering, Austria
30
38)
(半)地下室にある
地中熱ヒートポン
プ冷暖房システム
(左)。右側は貯湯
タンクの様子。
MSc Baumeister GMBH, Anthering, Austria
39)地下室にあるドイツ製(Alpha-InnoTec 社製)の
地中熱ヒートポンプ(8.9kW 出力)の設置の様
子。事務所建物の 150 ㎡の冷暖房を行なうシス
テム。成績係数 SCOP は 4.5 で、本研究 2.1 節
で実測している地中熱ヒートポンプ(フランス
製:10kW 出力)とほぼ同程度の成績係数である。
MSc Baumeister GMBH, Anthering, Austria
40)地下室にある地中熱ヒートポンプ
による冷暖房システムの配管。機器
から出ている配管のデザインが非
常に良い。メンテナンスも非常にし
やすい。ヒートポンプは静穏設計が
なされている。わが国では狭い(メ
ンテナンスが困難な)機械室に設備
機器を押し込む傾向にあるが、欧州
では極めてスペースに余裕がある。
MSc Baumeister GMBH, Anthering, Austria
31
41)当事務所が担当しているアンテリ
ング市内での住宅の改修現場の様
子(地中熱利用への転換工事を兼ね
ている)。
Anthering, Austria
42)当設計事務所が担当しているアン
テリング市内での戸建住宅の断熱
改修現場の様子(地中熱利用への転
換工事を兼ねている)。
Anthering, Austria
43)当設計事務所が担当しているアンテリング市内
での地中熱利用のための採熱管の埋設のためのボ
ーリング工事の様子。
Anthering, Austria
32
44)地中熱利用のために埋設工事が完
了した採熱管の様子。日本と方法は
同じクローズド・ループ式を採用。
70m深さまで埋設している。
Anthering, Austria
45)アンテリング市内の住宅群の様子。
1 住戸あたり 250~300 ㎡程度の延
床面積を有する。2.3 世帯で居住す
る住戸が多い。再生可能エネルギー
として、太陽熱、地中熱の利用によ
って暖冷房を行なう住戸が点在し
ている。
Anthering, Austria
33
2.2.3. 視察調査とワークショップのまとめ
2013 年 2 月 17 日から 20 日までの視察と現地での研究者とのワークショップの参加によ
って以下の 1)~4)が確認できた。
1) 訪問先 a) Stadtwerk Lehen (Salzburg 市)の地域熱供給の事例(写真 1)~17))では、
①断熱改修による住宅の熱需要を抑えること、②太陽熱利用による全熱需要の 30%以上
を担うこと、③太陽熱と空気熱源式ヒートポンプの併用で予熱することを重要な目標と
して、全熱需要の 14%を削減している※1。
2) 訪問先 b) Biomass-Solar district heating system (Eugendorf 市)の地域熱供給の事例
(写真 18)~28))では、①太陽熱による集熱で全体の 10%程度の熱需要を担うこと(予
熱の考え方)
、②周辺から持続的に採取可能な木質系バイオマスの有効利用によって 200
世帯の住宅と数軒の商業施設の熱需要を担い、地域創発の持続可能なプラントになって
いる。
3) 訪問先 c)Biogas from gras, heat, electricity, feed-in gas grid (Eugendorf 市)のバイオ
天然ガス基地+地域熱供給の事例(写真 29)~34))では、①周辺にある酪農家から廃
棄される牧草からバイオエタノールを全体の 60%のエネルギー効率で生産できること、
②残りのガスエネルギーで地域熱供給を行なっている。
4) 訪問先 d)MSc Baumeister GMBH(Anthering 市)の建築設計事務所の事例(写真 30)
~45))では、①地中熱ヒートポンプによる冷暖房が対象床面積 150 ㎡に対して高効率
(成績係数 COP は概ね 4.0~5.0(カタログ値 4.5)で運転されていること、②Anthering
市内の住宅では、断熱改修と地中熱利用の複合効果による計画が進んでいること、③
Anthering 市内の住宅の 1 住戸あたりの延床面積の平均は 250~300 ㎡程度、高断熱に
加えて、太陽熱の積極的な利用と、10kW 出力程度の地中熱ヒートポンプが、エネルギ
ー面・コスト面の双方にとって有利であることが示唆された。
以上 1)~4)の事例を総括すると、住宅の高断熱性を確保するとともに、太陽熱や地中
熱などの再生可能エネルギーは暖房・給湯の予熱用の熱源として活用することが重要で
ある。わが国(北海道)の戸建住宅の延床面積の平均は 100~120 ㎡程度なので、2.1 節
で示した実測結果から、4~5 世帯程度の戸建住宅群を高断熱化した上で、
「コミュニティ
単位」で太陽熱・地中熱を共有する暖冷房・給湯システムを確立することが有効である
と考えられる。熱源を共有するコミュニティ単位による暖冷房・給湯システムの構築は、
都市全体の暖房需要、延いてはエネルギー需要の全体を抑えるのに大きく寄与すると考
えられる。次節 2.3 では、札幌市内の地域ごとの戸建住宅の特性を用いてそのポテンシャ
ルを具体的に検討する。
------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------※1
Helmut Strasser, Boris Mahler, Norbert Dorfinger: Solar energy in urban community in City
of Salzburg, Austria, Sustainable Cities and Regions, World Renewable Energy Congress 2011.
34
2.3.「地中熱需要 MAP」と「札幌版次世代コミュニティ暖房」(Task 3)
2.3.1. 「地中熱需要 MAP」の作成方法
以下の手順で、まず、現状(既存)の戸建住宅の「地中熱需要 MAP」を作成する。
手順 1)まず、「札幌市都市計画基礎調査」の「地域カルテ」にある、札幌市各区の専用住
宅(以下、戸建住宅とする。専用住宅以外の共同住宅(マンション・アパートな
ど)、店舗兼用住宅は除く)の「老朽率」、「新規住宅率」と、それぞれの延床面積
のデータから、札幌市各区の戸建住宅「全暖房熱需要(MW)」を求める。
手順 2)さらに簡単のため、札幌市中央区・豊平区・南区の「地域カルテ」に分類されてい
る地区ごとの戸建住宅の「全暖房熱需要(MW)」を求める。計算方法は手順1)
と同様である。以上、現在(既存)の戸建住宅の「全暖房熱需要(MW)」を「ケ
ース1:現状」とする。
以上の「ケース1:現状」に対して、「ケース2:断熱A」と「ケース3:断熱B」を想
定する。それぞれ、戸建住宅の建替えや改修に伴う形で断熱性が向上することを想定した
ケースである。ケース2よりも、ケース3の方が高断熱住宅の割合が多い(p.38 を参照)。
次頁に示す図 2-24 は、任意の地区(図では、C 地区)における「ケース2:断熱A」の
戸建住宅の「全暖房熱需要」の求め方を示したものである。
3 ケースについての「全暖房熱需要(MW)」を求めた後、それぞれ「全暖房熱需要」に
対する太陽熱・地中熱利用の導入を想定する。いま、太陽熱の利用は、日中、南面窓(全
戸 10 ㎡均一)から入射する札幌の日射受熱量を想定し、地中熱の利用は、札幌市内各区、
各地区で設備導入率を 30%と想定している(後述の計算方法を参照)。図 2-24 は、
「全暖房
熱需要」に対する太陽熱と地中熱の利用率を図示したものである。
手順 3)太陽熱・地中熱を暖房用の熱源として利用した場合の各ケースの「全暖房熱需要」
に対する、太陽熱と地中熱(この場合は、ヒートポンプへの投入電力を含む)の
利用率を計算する。
手順 4)「地中熱需要 MAP」は、次頁の図 2-24 の最下段に示す図を、実際の地図上に色分
けして示したものである。以上、その他の詳細な計算条件は、後述の内容を参照
すること。
35
例)C 地区における専用住宅(戸建)の従来熱需要を計算する。
A 地区
B 地区
C 地区
新築 戸建住宅
老朽 戸建住宅
D 地区
その他 戸建住宅
断熱改修
新規高断熱
E 地区
断熱改修
【解析ケース】
ケース1
ケース 2
ケース 3
現状
断熱 A
断熱 B
全暖房熱需要
太陽熱・地中熱を利用した場合の「全暖房熱需要」に対する占有率を算出する。
MAP 化
グラフ化
地中熱ヒート
ポンプへの
電力
100
%
従来燃料
太陽熱
(灯油・ガスなど)
地中熱
100%
図 2-24 「全暖房熱需要」の計算フローと「地中熱需要 MAP」の作成例
(右:札幌市の各区単位を例にした場合)
36
2.3.2. 「全暖房熱需要」の計算方法
【対象地区】
資料:平成 22 年「札幌市都市計画基礎調査データ」の地区カルテの平成 21 年次データ
対象地区:札幌市全区(中央区、北区、東区、白石区、厚別区、豊平区、清田区、南区、
西区、手稲区)
中央区の 8 地区(中央、中央東、山鼻北、山鼻南、円山・伏見、宮の森、桑園、
中央西)
豊平区の 6 地区(豊平、美園・平岸、月寒、東月寒、西岡・福住、平岸・中の
島)
南区の 5 地区(澄川、真駒内、石山・常盤・藤野、藻岩・川沿、定山渓)
【対象建物】
対象建築用途:専用住宅(戸建住宅のみ/集合住宅、店舗等を除く)
建築分類:老朽 戸建住宅(木構造:築 20 年以上、簡易耐火構造:築 20 年以上、耐火構造:
築 35 年以上)
新築 戸建住宅(築後 5 年未満の建築物)
その他の戸建建築(老朽住宅と新築住宅以外)
【熱損失係数による暖房熱需要の計算】
「札幌版次世代住宅基準」の熱損失係数による階級(クラス)を考慮した。
熱損失係数[W/(㎡・K)]:老朽住宅(既存:3.0、建替後:1.3)
新築住宅(既存:1.6、断熱改修後:1.0, 1.3)
その他の住宅(既存:2.5、断熱改修後:2.0, 1.3)
温度設定:室温 20℃、外気温 -5℃(内外温度差:25℃)
その他:全室暖房を想定する。
暖房の同時使用率は 50%とする。
給湯負荷は考慮しない。
【太陽熱の供給】
太陽熱:52 W/㎡(南面窓面積当たり、Low-E 複層ガラス日射透過率)
窓面積:10 ㎡(1 軒あたりの南面窓面積)
【地中熱の供給】
地中熱ヒートポンプ(GSHP)の SCOP(成績係数):4.0
その他:地中熱暖房を導入している専用住宅の割合:30%
SCOP は、外気温による出力の変化がないと仮定する。
37
【解析ケース】
現状と建替後・改修後の熱損失係数[W/(㎡・K)]を以下の表 2-3 の通りとする。
表 2-3 解析ケースの熱損失係数
熱損失係数[W/(㎡・K)]
ケース名
老朽 戸建住宅
新築 戸建住宅
その他の戸建住宅
Q_old
Q_new
Q_mid
現状
3.0
1.6
2.5
断熱 A
1.3
1.0
2.0
断熱 B
1.3
1.3
1.3
※「札幌版次世代住宅基準」の熱損失係数による階級を参考にした。ただし、トップラン
ナー(0.5)、ハイレベル(0.7)住宅の普及率は全体の中ではあまり大きくないものとして、
スタンダード(1.0)、ベーシック(1.3)、ミニマム(1.6)の 3 階級を想定した。
【計算式】
地区単位で、上記の熱損失係数を用いケース毎(現状、断熱 A、断熱 B)に計算する。
<熱損失係数による地区の全暖房熱需要量[MW]の計算式>
・全暖房熱需要〔Ho_sum〕[MW]=(Q_old×A_old+Q_new×A_new+Q_mid×A_mid)
×Ko×(Ph/100)
<太陽熱と地中熱を利用した場合の供給熱量内訳>
・供給太陽熱量〔Hs_sum〕[MW]=Hs×Asw×(N_old+N_new+N_mid)
・供給地中熱量〔He_sum〕[MW]= Ho_sum×(Pe/100)×{(SCOP-1)/SCOP}
・ヒートポンプ投入電力〔Hp_sum〕[MW]=Ho_sum×(Pe/100)×(1/SCOP)
・現状の全暖房熱需要量〔Ho_rest〕
[MW]=Ho_sum-(Hs_sum+He_sum+Hp_sum)
A_old:老朽専用住宅の延床面積[㎡]
N_old:老朽専用住宅の戸数[戸]
A_new:新築専用住宅の延床面積[㎡]
N_new:新築専用住宅の戸数[戸]
A_mid:その他専用住宅の延床面積[㎡]
N_mid:その他専用住宅の戸数[戸]
Ko:内外温度差[℃](=室内温度[℃]-外気温[℃])
Ph:暖房の同時使用率(=50%)
Hs:太陽熱(透過日射量)[W/㎡](=52 W/㎡)
Asw:1 戸当たりの南面窓面積[㎡]
(=10 ㎡)
SCOP:地中熱ヒートポンプ(GSHP)の成績係数(投入電力にポンプ動力を含む)
Pe:地中熱暖房システムを導入している戸建住宅の割合(=30%)
38
2.3.3. 「全暖房熱需要」の計算結果
a) 札幌市、各地区における戸建住宅の「全暖房熱需要」計算結果(単位: MW)(表 2-4)
39
b-1) 各ケースの全暖房熱需要(絶対量)
図 2-25 札幌市・全区の戸建住宅の全暖房熱需要
図 2-26 札幌市中央区の戸建住宅の全暖房熱需要
図 2-27 札幌市豊平区の戸建住宅の全暖房熱需要
図 2-28 札幌市南区の戸建住宅の全暖房熱需要
40
b-2) 各ケースの全暖房熱需要(割合)
図 2-29 札幌市・全区の戸建住宅の全暖房熱需要
100%
60%
GSHP動力
地中熱
現状
従来燃料
20%
現状
40%
太陽熱
中央
中央東
山鼻北
山鼻南
円山・伏見
宮の森
桑園
図 2-30 札幌市中央区の戸建住宅の全暖房熱需要(割合)
図 2-31 札幌市豊平区の戸建住宅の全暖房熱需要(割合)
図 2-32 札幌市南区の戸建住宅の全暖房熱需要(割合)
41
断熱B
現状
断熱A
断熱B
断熱A
断熱B
断熱A
断熱B
現状
断熱A
断熱B
現状
断熱A
断熱B
現状
断熱A
断熱B
現状
断熱A
断熱B
現状
0%
断熱A
熱供給比率
80%
中央西
c-1) 札幌市全区の太陽熱・地中熱の導入前後の全暖房熱需要(単位: MW)(表 2-4)
c-2) 札幌市中央区・豊平区・南区の戸建住宅における太陽熱・地中熱の導入前後の全暖房
熱需要(単位: MW)(表 2-5)
42
2.3.4. 「地中熱需要 MAP」
図 2-33~図 2-44 は、表 2-4 と表 2-5 の計算結果を札幌市の地図上に「全暖房熱需
要量(MW)
」別に 7 段階でわけた「地中熱需要 MAP」の作成例である。
a) 札幌市 各区の「全暖房熱需要 MAP」
図 2-33 札幌市各区「現状(左:現状、右:太陽熱・地中熱導入後)」MAP
図 2-34 札幌市各区「断熱 A(左:断熱のみ、右:断熱+太陽熱・地中熱導入後)」MAP
図 2-35 札幌市各区「断熱 B(左:断熱のみ、右:断熱+太陽熱・地中熱導入後)」MAP
43
b) 札幌市中央区の「全暖房熱需要 MAP」
図 2-36 札幌市中央区「現状(左:現状、右:太陽熱・地中熱導入後)」MAP
図 2-37 札幌市中央区「断熱 A(左:断熱のみ、右:断熱+太陽熱・地中熱導入後)」MAP
図 2-38 札幌市中央区「断熱 B(左:断熱のみ、右:断熱+太陽熱・地中熱導入後)」MAP
44
c) 札幌市豊平区の「全暖房熱需要 MAP」
図 2-39 札幌市豊平区「現状(左:現状、右:太陽熱・地中熱導入後)」MAP
図 2-40 札幌市豊平区「断熱 A(左:断熱のみ、右:断熱+太陽熱・地中熱導入後)」MAP
図 2-41 札幌市豊平区「断熱 B(左:断熱のみ、右:断熱+太陽熱・地中熱導入後)」MAP
45
d) 札幌市南区の「全暖房熱需要 MAP」
定山渓地区
図 2-42 札幌市南区「現状(左:現状、右:太陽熱・地中熱導入後)」MAP
定山渓地区
図 2-43 札幌市南区「断熱 A(左:断熱のみ、右:断熱+太陽熱・地中熱導入後)」MAP
定山渓地区
図 2-44 札幌市南区「断熱 B(左:断熱のみ、右:断熱+太陽熱・地中熱導入後)」MAP
46
2.3.5. 「札幌版次世代コミュニティ暖房」の実現性
ここで、5~6 世帯規模で行なう地中熱を利用した「コミュニティ暖房」の実現性につい
て簡単な検証を行なう。以下は、研究代表者(斉藤)が欧州でのワークショップ実施の際
に日本の地中熱利用の現状および初期導入コストの実態を伝えるために作成したスライド
(抜粋)である。図 2-45 は、札幌・東京で地中熱ヒートポンプを導入する際の初期コスト
の比較である。札幌と東京の差は別にして、わが国では各種補助制度などはあるが、工事
費込みで約 300 万円/ユニットになる。以上は第 1 章(p.4)でも述べた。
図 2-45 札幌・東京で地中熱ヒートポンプを導入する際の初期コスト
(図中の単位はユーロ、EUR1.0=JPY130 換算)
図 2-46 地中熱ヒートポンプを単独・コミュニティで導入する場合の比較例
47
図 2-46 は、地中熱暖房システムを単独で導入する場合と 5~6 世帯規模で行なう「コミ
ュニティ暖房」とした場合の初期コストの比較である(地中熱ヒートポンプのユニット設
置の際に別途、建築物が必要とされる場合の建設費は除いている)。
「コミュニティ」単位になると規模が単独世帯より大きくなるので、初期コストは大き
くなるが、コミュニティ全体で共有するので1世帯あたりの負担額は単独導入の場合より
も小さくなる。さらに単独導入で国や地方自治体などからの導入補助が無い場合は、運用
コストによって初期コストの上乗せ分を回収する場合(通常の空気熱源ヒートポンプとの
比較として)50 年以上かかるのに対して、「コミュニティ」単位による導入では 10 年と比
較的、現実的な回収期間となる。
以上から、戸建住宅において地中熱ヒートポンプ(GSHP)を導入する場合は、数世帯単
位の「コミュニティ暖房」として導入を進めることが有効である。出力としては、15kW 程
度が最適といえる。
なお、ヒートポンプや配管などの機器の格納施設は任意の1住戸に組み込み、共同で管
理するか、別途、建物を計画するかが選択肢としてある。別途、建物を計画する場合は、
電力会社やガス会社の住宅地区にある変圧所などの敷地をうまく活用するような行政によ
る調整が必要である。最近のヒートポンプ自体は技術革新が進み、かなり小型化している
ので、別建物になるケースはあまり想定されないといえる。参考までに、ザルツブルグ市
内の地域熱供給基地にある太陽熱回収によるヒートポンプユニット(160kW)でも1立方
メートル程度のサイズである。
図 2-47 地中熱(地下水)利用ヒートポンプの設置例※1
(左:単独世帯による利用、右:コミュニティによる利用)
Alpha-innotec 社(ドイツ)ウェブサイトより引用。
http://pdf.archiexpo.com/pdf/alpha-innotec/heat-pump-brochure/62300-54211.html
※1
(2013 年 3 月 12 日アクセス)
48
2.3.6. 「地中熱需要 MAP」と「コミュニティ暖房」に関する考察
以上のように、「地中熱需要 MAP」を作成し、札幌市の各地区の特性を考慮すると「コ
ミュニティ暖房」の可能性が具体的に見出せることがわかった。ここでは、本節の考察を
述べる。
図 2-25 以降に示した結果を振り返ると、札幌市全区においては、他の区に比べて比較的
に戸建住宅(専用住宅)の密度が大きい札幌市北区、東区、南区、西区、手稲区の「現状」
の「全暖房熱需要」が概ね 100MW を超える。北区は 200MW に達している。一方、中央
区、厚別区など集合住宅(共同住宅)が多い傾向なので、今回の戸建住宅のみを対象にし
た試算の影響が結果に表れていると言える。
図 2-26~図 2-28 の中央区、豊平区、南区の結果を見ると、中央区では「山鼻北」と
「宮の森」、豊平区では「西岡・福住」、南区では「石山・常盤・藤野」
、「藻岩・川沿」の
熱需要が大きい。どの地区も戸建住宅の占める割合が大きい地区なので、その傾向が計算
の結果に表れたと考えられる。
なお、札幌市の戸建住宅の全体(現状)の「全暖房熱需要」は約 1200MW(=120 万キ
ロワット)に達する。この値は、仮にすべての暖房熱を電力で賄う(電気ストーブ)とし
た場合に泊原子力発電所の 1 号機と 2 号機の合計ほどの電力を必要とする規模である。東
日本大震災を受けて、現在、都市や建築のエネルギー供給のあり方が問われているが、住
宅の高断熱化と再生可能エネルギーの熱源利用はセットで考えるべきであることを以上の
結果は示唆している。
表 2-4 と表 2-5 は、札幌市各区、中央区・豊平区・南区の各地区における太陽熱と地
中熱の導入前後の「全暖房熱需要」で、図 2-33 以降はそれらを MAP 化したものである。
このようにして、札幌市の他の区(今回、計算対象から外した各地区)においても同様の
手順で計算を行なえば、札幌市全体の地区ごとの「地中熱需要 MAP」を作成することがで
きる。
「地中熱需要 MAP」を見ると、塗色を段階的に「紫色」に変えていくこと(つまり、
高断熱化と太陽熱・地中熱利用の促進)が、延いては、都市・建築の暖房によるエネルギ
ー負荷を削減することに寄与する。
「全暖房熱需要」の大きい地区においては、住宅の高断
熱化と太陽熱や地中熱の積極的な「コミュニティ」単位による利用を推奨し、地域全体の
暖房(今回は無視したが給湯についても)エネルギー使用を抑えることを目指す価値があ
るといえる。
49
第3章
統括結論
本研究では、以下のことがわかった。
1)地中熱暖房システムを採用した高断熱建築(床面積 560 ㎡程度)の実測によって、外
気温が最低になる 1、2 月期においても終日概ね一定室温、グローブ温度を保ち、快適
な温熱環境が実現される。また、地中熱ヒートポンプのシステム成績係数(SCOP=室
内供給熱量/ヒートポンプへの全投入電力)は、1,2 月期において 3.5~4.0 である。
2)欧州の先進技術を導入した事例を視察した結果、住宅の高断熱性を確保するとともに、
太陽熱や地中熱などの再生可能エネルギーは暖房・給湯の予熱用の熱源として活用す
ることが重要であることがわかった。また、わが国(北海道)の戸建住宅の延床面積
の平均は 100~120 ㎡程度なので、4~5 世帯程度の戸建住宅群を高断熱化した上で、
「コ
ミュニティ単位」で太陽熱・地中熱を共有する暖冷房・給湯システムを確立すること
が有効であることが考えられた。
3)「札幌市都市計画基礎調査データ」の「地域カルテ」のデータから、戸建住宅を対象
にして、各区と各地区の「全暖房熱需要(MW)」を試算し、最終的に「地中熱需要
MAP」を作成した。その結果、中央区、豊平区、南区の 3 区の中で、中央区では「山
鼻北」、
「宮の森」、豊平区では「西岡・福住」、南区では「石山・常盤・藤野」、
「藻岩・
川沿」の暖房熱需要が大きく、住宅の高断熱化(建替え・改修)、太陽熱や地中熱利用
を促すことが効果的であることがわかった。
4)地中熱源を 5~6 世帯程度で共有する「コミュニティ」単位による暖房システムの構築
は、都市全体の暖房熱需要、延いてはエネルギー需要の全体を抑えるのに大きく寄与
するだけでなく、各世帯に目を向けると、1世帯あたりの初期コストを 200 万円ほど
に抑え、運用(ランニング)コストによる初期コストの回収を 10 年以内に抑えること
が予想された。
今後、経済面に関する評価についてさらに地区ごとの年間光熱水費の試算などの詳細な
検討を行なう必要がある。
50
参考資料(1)
「札幌市まちづくり戦略ビジョン」について
表 A-1 札幌市まちづくり戦略ビジョンの「重点戦略」の概要
(札幌市市長政策室
51
資料より抜粋)
参考資料(2)
「札幌市まちづくり戦略ビジョン」へのパブリックコメントについて
○道内の再生可能エネルギーを札幌で活用する仕組みとし、市町村における自然エネルギ
ー導入促進により、地域活性化、雇用創出を進めるべき。
⇒第2章第2節のとおり、北海道に豊富に賦存する再生可能エネルギー活用の可能性を生
かし、効果的に活用していく必要があると考えており、今後策定する<戦略編>におい
て、施策の方向性を設定します。
○何軒かで協力することにより高額なソーラーシステムの費用を皆で負担し、一家庭での
負担を軽減するなど、生活電力は無理でも、せめて融雪の熱源を町内会単位ぐらいの規
模で確保できるようなシステムを構築してはどうか。
⇒省エネルギー技術や次世代エネルギーシステムについて、ICT との連携などの研究・開発
が進められることにより、その利用が進むことを目指しており、エリア単位のエネルギ
ーの取組などについては、今後策定する<戦略編>において、施策の方向性を設定しま
す。
○先般の大規模停電にも見られるように、電力に依存した社会において、具体的な代替エ
ネルギーなしの脱原発依存社会の実現は困難ではないか。
⇒次世代エネルギーシステムの利用促進や省エネルギーの推進、循環型社会の構築、公共
交通機関の積極的な利用の推進などの取組の積み重ねにより、低炭素社会と脱原発依存
社会の実現を目指していく必要があると考えています。 また、低炭素社会・エネルギー
転換については、今後策定する<戦略編>にて、集中的に施策を展開していくこととし
ています。
○豊富な水資源を、安心・安全な自然エネルギーに変え、自然エネルギーへの依存度を高
めた循環型のまちづくりを行うべき。
○低炭素、脱原発を掲げているが、具体的な代替エネルギーにはどのようなものがあるか。
○再生可能エネルギーは地産地消でなければ意味がないと考えるので、下水汚泥だけでは
なく、食品残渣などを含めた札幌のバイオマスを積極的に利用すべき。
○発電について、①燃やせるゴミ、倒れた木、枯れた木を燃料とした発電、②風が強い日
本海側で風力発電、③北海道は山が多く水量が多いため、水力発電などを実施してはど
うか。
○北海道は温泉がたくさん出るので、温泉のお湯を利用した温室で、野菜や果物を作り、
販売してはどうか。
52
○資源循環型社会は結構なことだが、これをすることでどの程度市民にプラスになってい
るのか(なるのか)、数値で示してほしい。
⇒<ビジョン編>は目指すべき将来のまちの姿のイメージを描いたものであり、数値で示
すことにはなじまないものと考えています。 なお、今後策定する<戦略編>では、今後
10 年間の取組における展開イメージをロードマップとして示すことや、成果指標を設定
することを検討します。
○北欧には廃棄物処理工場とハウス園芸施設が併設されている施設がある。札幌市近郊の
農業との関わり方について中期展望を描いてはどうか。
⇒エネルギーの有効活用については、今後策定する<戦略編>において検討することとし
ており、いただいたご意見は、今後の参考にいたします。
○エネルギー消費を抑えたライフスタイルの実現とは、どういったものなのか教えてほし
い。
⇒公共交通機関の積極的な利用や節電・高効率なエネルギーシステムへの転換などの取組、
高断熱・高気密住宅の建築などによるエネルギーの消費量抑制・有効活用などを想定し
ています。
○「資源循環型」の社会を実現できたら良いと思う。
(原案賛成意見)
○資源やエネルギーを有効活用すること(太陽光や雪など)を頑張ってほしいと思う。
(原案賛成意見)
原典:
http://www.city.sapporo.jp/kikaku/vision/pc/documents/01_vision_shinokangaekata.pdf
(平成 25 年 3 月 18 日アクセス)
53
参考資料(3)「札幌版次世代住宅基準」について
表 A-2 札幌版次世代住宅基準の概要
(札幌市都市局パンフレットより抜粋)
54
参考資料(4)「札幌市都市計画基礎調査」の「地域カルテ」による分類地区(表 A-3)
(本研究では、中央区、豊平区、南区を対象とした)
区
中
央
区
北
区
東
区
白
石
区
厚
別
区
地区番号
地 区 名
C-01
中央
C-02
中央東
区
豊
平
区
地区番号
地 区 名
T-01
豊平
T-02
美園・平岸
T-03
月寒
T-04
東月寒
C-03
山鼻北
C-04
山鼻南
C-05
円山・伏見
T-05
西岡・福住
C-06
宮の森
T-06
平岸・中の島
C-07
桑園
K-01
北野西
C-08
中央西
K-02
北野東・清田
K-03
平岡
K-04
平岡東・里塚
清
田
区
N-01
鉄西・幌北
N-02
北・新川
N-03
麻生・新琴似
K-05
真栄・美しが丘
N-04
新琴似西
K-06
清田南
N-05
屯田
S-01
澄川
N-06
篠路
S-02
真駒内
N-07
拓北・あいの里
S-03
石山・常盤・藤野
E-01
光星
S-04
藻岩・川沿
E-02
北光・北栄
S-05
定山渓
E-03
栄町
W-01
八軒
E-04
丘珠
W-02
琴似・二十四軒・山の手
E-05
札苗
W-03
西野・平和・福井
E-06
伏古
W-04
西町・発寒南
E-07
苗穂
W-05
宮の沢・発寒西
E-08
元町
W-06
発寒北
SI-01
菊水
W-07
発寒
SI-02
北郷
TE-01
本町・富丘・西宮の沢
SI-03
北白石
TE-02
稲穂・金山
SI-04
東白石
TE-03
曙西・星置
SI-05
白石
TE-04
前田・曙東
SI-06
東札幌
TE-05
新発寒
A-01
厚別西・厚別北
A-02
厚別東
A-03
もみじ台
A-04
青葉・上野幌
A-05
厚別中央
南
区
西
区
手
稲
区
55
発行年月日:平成 25 年 3 月 22 日
公立大学法人札幌市立大学
発行責任者:斉藤 雅也
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