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リズムに乗って三文字中国語が踊る! ―iPod を活用した中国語初級教材
リズムに乗って三文字中国語が踊る! ― を活用した中国語初級教材― 清原文代(大阪府立大学総合教育研究機構) [email protected] 【要旨】 清原文代『リズムで学ぶ三文字中国語 iPod 徹底活用』は iPod 対応の CD-ROM 付きの中国語初級教科書 である。同書はいつでもどこでも学べるモバイルラーニング端末としての iPod を有効に活用し、初学者に耳 から中国語を定着させることを目的としている。基本となるフレーズは三文字と非常に短く、初学者でも容 易に憶えられる。その三文字フレーズをラップ調のリズムに乗せて発音しており、飽きずに何度も繰り返し て聞くことが可能である。さらにリズムに合わせて文字が踊るアニメがついているため、耳だけなく目から も中国語を楽しく学ぶことができる。また書籍には基本の三文字フレーズに加えて、三文字フレーズ中のキ ーワードの単語を用いた他のフレーズや例文、対話及び簡単な文法解説が用意されており、基本の三文字フ レーズを元にさらに語彙や表現を増やすこともできる。 1. iPod でいつでもどこでも中国語 清原文代『リズムで学ぶ三文字中国語 iPod 徹底活用』(アルク 2007 年 8 月、以下『リズムで学ぶ三文 字中国語 』とする)は iPod に対応した CD-ROM が付属する中国語入門者及び初級者を対象とした教材であ る。まずは付属 CD-ROM に収録されているアニメのサンプルが以下のアルクの Web サイトで公開されてい るので1、ご覧いただきたい。 http://home.alc.co.jp/db/owa/cn_rhythm3moji 付属 CD-ROM に収録されているアニメはパソコンでも再生できるが、ビデオ再生に対応した iPod(iPod 第 5 世代、iPod nano 第 3 世代、iPod touch)で見ることができる。 ビデオ再生に対応していない iPod や他社製の MP3 プレーヤーのための MP3 音声も収録している。MP3 音 声には歌詞を表示するための ID3 タグを使って中国語と日本語のテキストが書き込んであり、iPod の場合は 再生中に真ん中の決定ボタンを数回押すことによって表示される2。 iPod などのデジタル音楽プレーヤーがあれば、通勤通学といったちょっとした隙間の時間を使って中国語 を学ぶことができる教材、それが『リズムで学ぶ三文字中国語 』なのである。 なお、デジタル音楽プレーヤーを持たない学習者のために、CD プレーヤーで音声を再生できるようにもし てある。 2. ラップに乗せて文字が踊る 中国語のフレーズはすべて三文字からできており、それをラップ調のリズムに乗せて3中国語とその日本語 訳を交互に読んでいる。日本語訳が入っているため意味がわからないというストレスがなく、ラップ調のリ ズムに乗せることによって、学習者は楽しく飽きずに何度も中国語を聞くことができる。 (例)食べる,ギョーザを食べる。4 Web サイトのものは公開用に音質を落としてある。 初代 iPod など一部の古い iPod には ID3 タグを表示する機能がない。2003 年 4 月発売の iPod 第 3 世代以降に対応。 3 リズムに乗せているが、中国語の発音の特徴である声調はくずしていない。 1 2 これを 3 回繰り返す。3 回繰り返しても 30 秒ほどであり、気軽に聞ける長さである。 アニメでは音声に合わせて文字が踊る。1 回目は中国語簡体字と日本語が交互に、2 回目は中国語の表音ロ ーマ字であるピンインと日本語が交互に、3 回目は中国語簡体字にピンインのルビをふったものと日本語が 交互に表示され、最後に中国語簡体字・ピンイン・日本語が書かれたカードがだめ押しで表示される。アニ メを見ることによって文字からも中国語を学ぶことができる。 3. なぜ三文字フレーズなのか? 三文字フレーズを使った教材は私のオリジナルではなく、以前から三文字フレーズを使った教材が存在し ており5、古くは王応麟(1223~96)の作と伝えられる識字教育用の教材はその名も『三字経』といい、「人 之初,性本善,性相近,習相遠。……」 (人が生をうけたそのはじめ、人の性はもともと善である。本性は相 似かよっているものの、習慣によって遠く隔たってしまう。……)6のように全編が三字句で構成されている。 中国最古の詩集である『詩経』が四言詩であり、中国語の成語の大部分が四文字であることからわかるよう に、四文字(4 音節)が中国語の基本的なリズムであるが、三字の場合は後に一字分(1 音節分)の休止が入 ってそれと合わせて 4 音節分のリズムとなり、この句末の休止が初学者にとっては息を整え次のフレーズを 発音する準備をする時間になると考えられる。 『リズムで学ぶ三文字中国語 』もこのような伝統に連なるものであるが、ラップ調のリズム+文字が踊る アニメによって、ふだん様々な娯楽コンテンツに囲まれているため、単なる朗読では飽き足らない現代人も 楽しく学べ、iPod に対応することによって忙しい現代人がいつでもどこでも学べるモバイルラーニング教材 という特長を持っている。 4. 三文字でこれだけ言える 三文字フレーズは一見短すぎて実用的でないように思えるが、1 音節が表意文字である漢字 1 文字で表記 される中国語ではそうではない。本教材には基本となる三文字フレーズが 50 個収録されているが、その目録 は以下のとおりである。基本的な語彙や文法事項を含みつつ、且つ生活の場で役立つ表現を選んだ。 # ギョーザを食べる ビールを飲む 映画を見る 音楽を聞く ! 日本語を話す $ 漢字を書く ! 中国語を勉強する ちょっと両替する 買い物をする " これが欲しい いくらですか (値段が)高すぎる “吃子”の“吃”(食べる)のようにキーワードになる単語を取り出して日本語訳をつけるとかえって誤解を招くよう なフレーズについては、キーワードとなる単語を取り出すことをせず、フレーズ全体の訳をつけるだけにとどめている。 例えば“打”(電話をかける)や“”(ビザを取る)などがそうである。これらのフレーズで「かける」や「取る」 といった訳が出てくるのは「電話」や「ビザ」といった目的語をとっているからであり、 “打”=「かける」“”=「取る」 と憶えてしまうと学習者は誤用例を容易に導きだしてしまう。キーワードを取り出しているフレーズについても、実際に は単純な一対一の訳語ですむわけではないのだが、初級段階の学習者に対してなるべく誤用を誘発しないキーワードを取 り出すようにしている。 5 相原茂『漢語精粋 ベーシックリーダー22』(白帝社 1990 年)には、「好儿童,在家庭,帮大人,做事情……」 (良き 児童は、家庭に在りて、大人を助け、仕事をする……)で始まる辛安亭『児童三字経』が付されている。相原氏の解説に よれば『児童三字経』は社会主義中国が最も希望に燃えていた 1955 年に通俗読物出版社から出版された識字教材である。 日本では琉球官話の教科書に「三字格」と呼ばれる三文字のフレーズ集がある。現代では林修三『三文字式 はじめての 中国語会話―2 週間でとりあえず何とかなる! 』(日本実業出版社 1995 年)などがある。林氏は自身の経営する有朋塾に おいて長年三文字フレーズを使った中国語教育を行ってきたそうである。 6 通釈は加藤敏氏、 大修館書店「漢字文化資料館」よりの転載。http://www.taishukan.co.jp/kanji/archive/sanjikyo.html 4 T? 大きすぎる 8&I 領収書を書く mF= どこにいますか oDt どう行きます Zk, 右へ曲がる x)3 飛行機に乗る 8J 車を運転する -9 エアコンを切る M3 空港に行く 4; 何時に来ますか rfW 1 泊する X? 記入し間違えた Kq ビザを取る u(s 家を借りる 1 電話をかける &#` ケータのメールを送る 5/ 小包を送る \$? お腹が空いた ![s 席を予約する "sV お腹が痛い :"s お腹を壊す vh* 服を作る vAB 商売をする UQi 商談をする p+w 仕事を探す a< 荷物を運ぶ 2O 日本に帰る L0 お茶をどうぞ \e 要りません jN@ 誰かいますか Ej? 無くなった f^ ちょっと待って e>W 2 日かかる c タバコを吸わないで C%S ゆっくり話して 7gQ 医者を呼ぶ H.b お名前は? __G ありがとう 5. 書籍を読んで表現を増やす 成人の学習者には音声だけでなく文字でも内容を確認して憶えたいという要求がある。iPod を使ったモバ イルラーニングはいつでもどこでも音声や動画を使って学べるという点ですぐれているが、iPod の液晶画面 の大きさから考えるとテキストをじっくり読むにはあまり適さない。その欠を補うものとして『リズムで学 ぶ三文字中国語 』の書籍がある。書籍では上記の 50 フレーズそれぞれについて、そのフレーズに使われて いる単語の一つをキーワードとして表現を増やしていくための三文字~十文字程度のフレーズや文・対話が あり、さらに簡単な文法解説がある。 2 で例に挙げた「6s(ギョーザを食べる)であれば、キーワードの「(食べる)を使った表現と して以下のようなものを紹介している7。 '(食事をする) n'(朝ご飯を食べる) ]'(昼ご飯を食べる) Y'(夕ご飯を食べる) 吃面条(麺類を食べる) O(日本料理を食べる) d(薬を飲む) G6s@(あなたはギョーザを食べますか) \6s(食べます。私はギョーザを食べます) \PB(食べません。私はシューマイを食べます) GRD(あなたは何を食べますか) \l(私は魚を食べます。) この後に当否疑問文を作る助詞@ や否定の副詞 に関してそれぞれ数行のごく短い説明が入る。 これらのフレーズ・例文・対話の MP3 音声も CD-ROM に収録されており、パソコンや iPod、他社製 MP3 プレーヤ ーで再生することができる。この部分はリズムに乗せず、初学者向けのゆっくりした朗読で録音されている。日本語訳も 録音されている。三文字フレーズと同様に ID3 タグを利用して中国語と日本語テキストを埋め込んであり、iPod の場合 は再生中に真ん中の決定ボタンを数回押すことによって表示される。 8 実際の書籍にはピンインがついているが、本稿では省略した。 7 本教材はとにかくフレーズを憶えることを前面に出したものであり、文法を中心した教材ではないため、 文法項目の出現順は難易度順や品詞別にはなっておらず、またその説明の分量も非常に限られたものである が、大学の第二外国語の中国語で学ぶ文法項目9の大半をカバーしている10。 その他、いくつか項目では豆知識として類義語の比較などの短いコラム記事を添えている。これらすべて を読みやすいように三文字フレーズ 1 項目につき見開き 2 ページにまとめてある。 紙幅の都合でピンインの読み方について全面的に解説する部分はないが、巻末に「中国語の発音、ここが ポイント」と題して、日本語話者がピンインを読む際に読み間違いやすい点を挙げている。また声調変化や ju・qu・xu の発音については本文中で説明している。 6. まとめ 中国語の学習を始めたばかりの学習者からよく聞かれるのは「発音が難しい、憶えられない。」という声で ある。言語はまず音声言語がありきであるのは論を俟たないであろうが、発音の学習自体は成人の学習者に とってはやや知的刺激に欠けるところがあるのは否めない。実際「発音が難しい、おもしろくない」という ことでそこで学習意欲を失ってしまう学生が毎年存在する。これには日本語話者が中国語を学ぶ場合、漢字 を見てつい中国語がわかったような気になってしまい、音声言語としての中国語を軽視しがちなことも影響 している。音声を何度も繰り替えし聞いてもらい、初学者にまず耳から中国語に親しんでもらう方法はない か?と考えた際に思い浮かんだのが CM である。数十秒の CM の中で流れるフレーズや CM ソングを何度も 繰り返し耳にしているうちに憶えてしまった経験をお持ちの方は少なくないであろう。三文字という短いフ レーズをラップ調のリズムに乗せ、さらに iPod などデジタル音楽プレーヤーでいつでもどこでも聞くことを 可能にすることによって、何度も繰り返し聞いて中国語が耳について離れない状態にすることを目指してい る教材、それが『リズムで学ぶ三文字中国語』である。 中国語教育学会が 2007 年 3 月に『中国語初級段階学習指導ガイドライン』として大学の第二外国語で週 2 回 2 年間 学ぶ際のめやすを発表している。http://www.jacle.org/storage/guideline2.pdf 10 本書で取り上げた文法事項を出現順に挙げておく。 助詞 副詞“不” 疑問代名詞“什么” 前置詞“” 動詞の重ね型 +動詞 助動詞“会” 人称代名詞 疑問代名詞“怎么” 完了を表す助詞“了” 動詞+“一下” 動詞+継続時間 助動詞“要” 助動詞“想” 連動文 指示代名詞 疑問代名詞“几” 数詞 助動詞“能” 形容詞+“一点儿” 前置詞“到” 連体修飾語を作る助詞“的” 動詞“在” 疑問代名詞“哪里” “哪儿” 前置詞“在” 前置詞“往” “是~的” 前置詞“把” 経験を表す助詞 時点+動詞 結果補語“” 二重目的語文 結果補語“好” 副詞“都” 選択疑問文 新しい事態の出現を表す助詞“了” 様態補語 動詞“是” 前置詞“跟” 進行を表す副詞“在” 結果補語“到” 動詞“帮” 趨勢を表す“要~了” “快要~了”” “快~了” “就要~了” 動詞+回数 “多”+動詞 存在を表す動詞“有” 前置詞“从” 副詞“别” “不要” 前置詞 助詞“呢” 副詞“不用” 9