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ブロー成形用新規 PP 素材の
開発
住友化学工業(株) 樹脂開発センタ−
城 本 征 治
永 松 龍 弘
鈴 木 治 之*
ポリプロピレン事業部 荻 原 俊 秀
Development of the New Polypropylene Suitable
for Blow Molding
Sumitomo Chemical Co., Ltd.
Plastics Technical Center
Seiji S H I R O M O T O
Tatsuhiro NAGAMATSU
Haruyuki S U Z U K I
Polypropylene Division
Toshihide OGIHARA
The new polypropylene(PP)suitable for blow molding has been developed. The new PP gives good
controllability of parison thickness because of its very small dependence of die swell on shear rate.
Furthermore, the productivity of blow molding can be improved by reducing the molding cycle time,
because the cooling rate of the new PP is high.
On the other hand, physical properties of the new PP has been also improved. Impact strength of
the new PP is surprisingly higher than that of conventional PP and high density polyethylene for blow
molding. Moreover, the new PP has advantages such as high flexibility and good transparency.
はじめに
4.5 万トン、PP が 3.5 万トン、そして PVC が 1.3 万ト
ンであった 1,2) 。
プラスチック容器はガラス容器、金属容器と比較
近年の環境問題意識の高まりにより、PVC の使用
して軽量性に優れるため、広範に利用されている。
量は減少傾向にある。また、容器包装リサイクル法
プラスチック容器の成形方法は数多くあり、例えば、
の施行に伴い、容器の軽量化が積極的に推進されて
射出成形、ブロー成形、真空成形が挙げられる。ブ
いる。容器の軽量化方法として、低比重化と薄肉化
ロー成形は射出成形と比較して多くの利点を有してい
の 2 つの方法がある。比重に関して各材料を比較する
る。例えば、細口容器・中空率が高い容器などの形
と、PET が 1.3 ∼ 1.4、HDPE が 0.94 ∼ 0.96、LDPE
状の自由度が高い、金型コストが安い等が挙げられ
が 0.92 ∼ 0.93、PP が 0.89 ∼ 0.91 であり、PP が最も
る。また、真空成形と比較して製品の寸法精度が高
低比重である。さらに、PP は耐熱性、耐薬品性、透
い、生産性が高い、製造コストが低い等の利点を有
明性等多くの利点を有するため、容器の軽量化に最
する。
適な材料であると考えられる。しかし、PP は低温で
ブロー成 形 には、ポリエチレンテレフタレート
の衝撃強度が十分ではなく、またブロー成形性にも
(PET)
、高密度ポリエチレン(HDPE)
、低密度ポリエ
劣るため、本用途に PP を拡大展開するためにはこれ
チレン(LDPE)
、ポリプロピレン(PP)
、ポリ塩化ビニ
らの課題を克服しなければならない。
ル(PVC)の 5 種類の樹脂が主に用いられている。これ
このような背景の下、樹脂開発部、ポリプロピレ
ら 5 種類の樹脂の 1999 年度における日本国内のブロー
ン部、千葉工場、石油化学品研究所、樹脂開発セン
成形向け総使用量は約 63 万トンであった。内訳は、
ターからなるプロジェクト体制で PP 材料の開発に取
PET が 36 万トン、HDPE が 17.5 万トン、LDPE が
り組んだ。その結果、優れたブロー成形性および製
品物性を発現する、従来にない新規なブロー成形用
PP“AS821”を開発したので、ここにその特徴を報告
* 現職:日本ポリスチレン
(株)大阪研究所
20
する。
住友化学 2001-II
ブロー成形用新規 PP 素材の開発
ブロー成形性の向上
た。ここで、ダイスウェルとは押出された溶融樹脂の
厚さと樹脂を押出すダイの間隙との厚さの比であり、
1.ブロー成形方法
押出により樹脂が膨張変形する割合を表す。また、
ブロー成形方法を第 1 図に示す。ブロー成形方法
剪断速度とは流動により変形する速度を表し、押出
は以下の 4 つの工程からなる。
量が多い場合やダイギャップが狭い場合は剪断速度
工程 1:押出機による樹脂の溶融、パリソン形成工程
が高くなる。
工程 2:金型によるパリソンの型締工程
既存 PP は、ダイスウェルが剪断速度に対して大き
工程 3:パリソンのブローアップ、冷却工程
く変化した。一方、HDPE は、既存 PP と比較してブ
工程 4:製品の取出工程
ロー成形性が良好であると市場で評価されている。こ
通常、パリソン押出工程ではドローダウンの防止
れは、HDPE のドローダウン(パリソンの自重による
のために、樹脂を押出すダイの間隙(ダイギャップ)
垂れ下がり量)が小さいことのみならず、第 3 図に示
を調整する。また、第 2 図に示すように、ボトルのブ
したようにダイスウェルの剪断速度依存性が比較的小
ローアップ比に対応してパリソン厚さを調整すること
さく、ほぼ一定の値を示すという溶融特性に起因し
により、偏肉の発生を防止している。
ていると考えられる。
一方、“AS821”は、ダイスウェルの剪断速度依存
第1図
性が非常に小さく、ダイスウェルが剪断速度によら
ダイレクトブロー成形工程
ずほぼ一定の値を示した。この特異的な流動性に起
因して、AS821 がブロー成形用途での易成形加工性
を発現することを確認した。次に材料“AS821”のブ
ロー成形性を示す。
第3図
1. パリソン形成
2. 型締
3.ブローアップ・冷却
ダイスウェルの剪断速度依存性、210℃
4. 製品取出
2.2
既存PP
ダイレクトブロー成形におけるパリソン
厚さコントロール
低ブローアップ比
・狭いダイギャップ
・薄いパリソン
2.0
HDPE
AS821
ダイスウェル(−)
第2図
1.8
1.6
1.4
高ブローアップ比
・広いダイギャップ
・厚いパリソン
1.2
101
102
103
104
剪断速度(s−1)
2.流動性の制御によるブロー成形性の向上
新規に開発した PP 系ブロー用グレード“AS821”
は、非常に特異的な流動挙動を示す。
3.開発材料の位置付け
ブロー成形性を定量的に評価するために、ピンチ
第 3 図に新規開発材料“AS821”、ブロー成形用と
オフ金型を用いてパリソン押出特性を測定した。ス
して市販されている既存 PP および HDPE の 210 ℃
クリュ直径が 50mm のブロー成形機を用いて、樹脂
における剪断速度とダイスウェルの関係を示した。実
温度が 210 ℃、押出量が 5 ∼ 20kg/h、ダイギャップ
験には PP および HDPE の代表的なブロー成形用市販
が 1 ∼ 3mm の条件でパリソンを成形後、ピンチオフ
グレードを用いた。流動性の指標となるメルトフロー
金型によりパリソンを等間隔に分割してサンプリング
レート(MFR)は、“AS821”が 1.3g/10min、既存 PP
した。第 4-1, 2, 3 図にダイギャップと単位長さ当た
が 1.2g/10min、そして HDPE が 0.4g/10min であっ
りのパリソン重量の関係を示す。
住友化学 2001-II
21
ブロー成形用新規 PP 素材の開発
ダイギャップと単位長さ当りのパリソン
重量の関係
第4図
単位長さ当りのパリソン重量(g/20mmL)
1. HDPE
た。このため、“AS821”は扱いやすい「易成形性材
料」であるといえる。こうした特徴から、
“AS821”は
6
市場でもブロー成形性が良好であると評価されている。
4.生産性の向上
5
ブローボトルの生産性向上のためには、押出量の
増加と成形サイクルの短縮が必要である。
4
最初に押出量の増加について考える。第 4 図に示
したように、既存 PP は同一ダイギャップであっても
押出量の増加によりパリソン重量も増加する。この
5kg/h
10kg/h
20kg/h
3
2
0
1
2
3
ため、ダイギャップを再調整する必要があり、生産
性の向上が難しい材料である。一方、HDPE および
4
ダイギャップ(mm)
“AS821”は、同一ダイギャップ条件で押出量を増加
しても、パリソン重量変化が非常に小さいため、ダイ
2. 既存PP
単位長さ当りのパリソン重量(g/20mmL)
ダイギャップに対してパリソン重量がリニアに応答し
ギャップの再調整が不要であり、生産性の向上に適
6
した材料である。
次に成形サイクルの短縮について考える。成形サ
5
イクルの短縮には、成形サイクルの大部分を占める
冷却時間の短縮が有効である。一般にブローボトル
は底部が最も肉厚であり冷却され難く、冷却時間が
4
短過ぎると、樹脂が溶融状態でボトルが取り出され
ることになる。ボトル底部の冷却が十分でないと、
5kg/h
10kg/h
20kg/h
3
2
第 5 図に示すようにボトル取出後に底部内面が冷却、
収縮して、底部が外側へ膨張変形し自立できなくな
る。特に HDPE は収縮率が高いため、冷却時間短縮
0
1
2
3
4
ダイギャップ(mm)
によるブローボトル底部の変形が大きい。
単位長さ当りのパリソン重量(g/20mmL)
3. AS821
6
第5図
冷却不足によるボトル底部の変形
5
4
3
2
5kg/h
10kg/h
20kg/h
0
1
2
3
基準高さ
測定位置
4
(ボトル底部の変形)
ダイギャップ(mm)
ブロー成形サイクル短縮の限界を比較するために、
いずれの材料もダイギャップの増加に比例して単
以下の方法によりブローボトルを成形した。スクリュ
位長さ当りのパリソン重量が増加する傾向を示した。
直径が 50mm のブロー成形機を用いて、樹脂温度が
各材料を比較すると、HDPE はダイギャップの変化
210 ℃、押出量が 20kg/h、ブロー圧力が 0.6MPa、
に対してパリソン重量がリニアに変化した。一方、
金型温度が 15 ℃の条件でブローボトルを成形した。ボ
既存 PP はダイギャップの変化に対するパリソン重量
トルは内容量が 750ml、断面が扁平形状、底部が上
変化が、リニアな関係を示さなかった。このため、パ
底形状であり、重量は 44g とした。第 6 図に冷却時
リソン重量の制御が難しい材料である。
“AS821”は
間とボトル底部の変形量の関係を示す。
22
住友化学 2001-II
ブロー成形用新規 PP 素材の開発
第6図
冷却時間とボトル底部高さの関係
第7図
インモールドラベルボトルと断面観察写真
4
3
底部高さ(mm)
AS821
ボトル
既存PP
2
ラベル
ラベルエッジ
1
ボトル内面
基準高さ
0
−1
HDPE
第8図
落下により破壊したインモールドラベル
ボトル
−2
0
5
10
15
20
25
30
冷却時間(s)
ボトル
冷却時間が 14 秒以下になると、HDPE のボトルは
ラベル
クラック
自立できなくなった。一方、PP は HDPE とは逆の傾
向を示し、ボトルが自立できなくなることはなかっ
ボトル内面
た。ボトル底部に溶融部分が発生する時間で冷却時
間の下限を判断すると、
“AS821”は 10 秒、既存 PP
グレードは 12 秒であった。これは“AS821”の方が結
晶化温度が高いためと考えられる。
以上より、
“AS821”は既存 PP、HDPE のブローグ
レードと比較して、押出量の増加および成形サイク
にラベルエッジ部が L 字型となり、ボトルを落下した
場合、この部分がノッチとして機能するためにボトル
の衝撃強度が低下する。
ル短縮の観点から、生産性に優れる材料であると考
えられる。
2.モルフォロジー制御による物性の向上
“AS821”は当社独自の相溶化技術によりモルフォ
物性の向上
ロジーを改良した材料である 4)。このため、従来のブ
ロー成形材料と比較して衝撃強度が飛躍的に向上し、
1.要求性能
容器包装リサイクル法の施行に伴い、容器の軽量
化が可能な材料が強く求められている。さらに容器
また、HDPE や PP ブロックコポリマーと比較して良
好な透明性を有する。
樹脂のモルフォロジーを以下の方法により観察した。
の修飾方法の変化により、衝撃強度の高い材料が強
樹脂を熱プレス成形により厚さ 1mm のシートに成形
く求められている。
した。このシートを用いてミクロトームにて厚さ 80
多くのブローボトルは、グラビア印刷、シュリンク
∼ 90nm の切片を作成した。この切片を温度が 60 ℃
ラベル、接着ラベル、多層化等により表面修飾され
の条件で RuO4 の 1wt %水溶液の蒸気により 2 時間染
る。これらの修飾方法は技術が難しく、また、工程
色した。染色された切片を透過型電子顕微鏡(TEM)
が複雑でコストがかかる。近年、この問題を解決す
を用いて加速電圧が 200kV の条件で観察を行った。
る方法として、インモールドラベル(IML)が開発さ
第 9 図にエチレン系樹脂をブレンドして衝撃強度を
れた 3)。IML ボトルはブローアップ前の金型内に IML
改良したブレンド PP および“AS821”の TEM 観察に
を真空吸引してセットした後にブロー成形して製造さ
よるモルフォロジーを示す。通常、PP は低温での衝
れる。このように IML ボトルはブロー成形工程内に
撃強度を改良するために、エラストマーやエチレン系
表面修飾工程を含むため、工程数が少ないという利
樹脂をブレンドすることが多いが、その結果、透明性
点を有する。また、第 7 図に示すように IML ボトル
が悪化する。非相溶系樹脂の場合、分散粒子の壁間
はボトル表面とラベルに段差がなく外観の優れたボト
距離が小さい方が衝撃強度が高くなることが知られて
ルである。しかし、IML ボトルは、第 8 図に示すよう
いる 5 )。また、分散粒子の直径が小さい方が透明性
住友化学 2001-II
23
ブロー成形用新規 PP 素材の開発
が良好となる。
“AS821”はモルフォロジー制御によ
100
ブレンドPPとAS821のモルフォロジー、
2500倍
アイゾット衝撃強度、0℃(k J/m2)
衝撃強度と透明性のバランスに優れる。
第9図
ボトルの透明性とアイゾット衝撃強度の関係
第 11 図
り、分散粒子の壁間距離および粒径が小さいため、
良好
AS821
HDPE
10
PPブロック
コポリマー
既存PP
PPランダム
コポリマー
PPホモ
ポリマー
良好
1
100
80
60
40
20
ボトルのヘイズ(%)
1. ブレンドPP
2. AS821
め、実験に用いた樹脂の剛性(曲げ弾性率)と低温で
の衝撃強度(0 ℃におけるアイゾット衝撃強度)の関
係 を示 す。また、第 1 1 図 にブローボトルの透 明 性
3.開発材料の位置付け
開発材料“A S 8 2 1 ”の位置付けを明確にするため
に汎用 PP3 種類と代表的な PP および HDPE のブロー
(ヘイズ)と 0 ℃におけるアイゾット衝撃強度の関係を
示す。
グレードを用 いた。第 1 表 に実 験 に用 いた樹 脂 の
PP ホモポリマーは剛性が高く衝撃強度が低い。PP
MFR と密度を示す。また、第 10 図に“AS821”を含
ランダムコポリマーは透明性が高いが剛性、衝撃強
度が低い。PP ブロックコポリマーは透明性が低いが、
これら PP の中では衝撃強度が最も高い。これに対し
樹脂のMFRおよび密度
第1表
既存の PP の代表的なブローグレードは PP ブロックコ
MFR
密度
(g/10min)
( kg/m3)
AS821
1.2
900
PPホモポリマー
1.0
900
ポリマー、既存の PP ブローグレードより高い衝撃強
PPランダムコポリマー
1.3
900
度を示すが、透明性に劣る。これらのブロー成形材
PPブロックコポリマー
0.8
900
料の中で“AS821”は際立って衝撃強度と透明性のバ
既存PPブローグレード
1.2
900
HDPEブローグレード
0.4
950
ランスに優れている。
樹脂
ポリマーと同程度の衝撃強度を示すが、剛性が低い。
HDPE の代表的なブローグレードは、PP ブロックコ
4.ブロー容器の物性向上、軽量化の可能性
曲げ弾性率とアイゾット衝撃強度の関係
第 10 図
( 1 )ブローボトルの落下強度の向上
ブローボトルの落下テスト方法を第 12 図に示す。最
アイゾット衝撃強度、0℃(k J/m2)
100
AS821
良好
第 12 図
HDPE
10
PPブロック
コポリマー
既存PP
PPホモ
ポリマー
PPランダム
コポリマー
良好
1
400
800
1200
1600
曲げ弾性率(MPa)
24
ボトルの落下テスト方法
2000
1st Step
2nd Step
ボトル底部より
同一ボトル側面より
10回繰返し落下
10回繰返し落下
住友化学 2001-II
ブロー成形用新規 PP 素材の開発
初にボトルに純水を 750g 充填し、パッキン付きキャッ
プにより密封した。次にボトルを温度が 5 ℃の恒温槽
100
落下を行い、連続してボトルの同一側面を下向きに
して 10 回繰返し落下を行った。テスト高さは 1.0、
1.5、2.0、2.4m で行った。
重量が 44g の IML ボトルの落下テスト結果を第 13
図 に 示 す 。高 さ 1 . 5 m で の 落 下 テ ス ト に お い て 、
“AS821”の未破壊率は 90 %であり、既存 PP ブロー
グレードの 10 %、HDPE の 40 %と比較して極めて高
ボトルの未破壊率、1.5m(%)
に 24 時間以上静置し、状態調整を行った。落下テス
トは、最初にボトル底面を下向きにして 10 回繰返し
い落下強度を示した。
AS821
良好
90
80
70
60
50
HDPE
40
30
ボトル重量=44g
20
10
既存PP
0
第 13 図
アイゾット衝撃強度と高さ1.5mでの未破
壊率との関係
第 14 図
1
良好
10
100
アイゾット衝撃強度、0℃(k J/m2)
インモールドラベルボトルの落下テストの
結果
100
第 15 図
未ラベルボトルの落下テスト結果
100
80
AS821
60
HDPE
40
ボトル重量=44g
20
既存PP
ボトルの未破壊率(%)
ボトルの未破壊率(%)
AS821
80
HDPE
60
40
ボトル重量=44g
20
0
0
0.5
1
1.5
2
2.5
3
3.5
高さ(m)
既存PP
0
0
0.5
1
1.5
2
2.5
3
3.5
高さ(m)
どの樹脂も第 8 図に示すように、ラベルエッジに沿
ってクラックが発生したが、“AS821”のクラック長さ
は他の樹脂と比較して半分以下であった。また、既
( 2 )軽量化したブローボトルの落下強度
存 PP ブローグレードのボトルの約半分は、ラベルエッ
容器包装リサイクル法に対応した軽量化の可能性を
ジから発生したクラックがボトル底部まで到達しガラ
検討した。第 16 図にボトル重量を 44 g から 40 g へ
ス状に破壊した。
10 %だけ軽量化した IML ボトルの落下テスト結果を
第 14 図に 0 ℃におけるアイゾット衝撃強度とボトル
示す。高さ 1.5m での落下テストにて、
“AS821”の未
の未破壊率の関係を示す。これより両者の間には強
破 壊 率 は 6 0 % であり、既 存 P P グレードの 0 % 、
い相関関係があることが分かり、IML ボトルの破壊
HDPE の 20 %と比較して高い落下強度を示した。ま
機構がノッチ付きアイゾット衝撃試験と同様のメカニ
た、軽量化による落下強度の低下の割合も“AS821”
ズムで発生すると考えられ、IML ボトルのラベルエッ
が最も小さかった。
ジ部における L 字構造がノッチとして作用したと考え
られる。第 15 図にラベルを貼っていないボトルの落
( 3 )環境応力亀裂抵抗(ESCR)
下テスト結果も示す。いずれの樹脂においてもノッチ
樹脂の環境応力亀裂抵抗(ESCR)を下記の手順に
を有しないため落下強度は大幅に向上し、とりわけ
従って測定した。熱プレス成形した長さ 38mm、幅
IML ボトルと同様に“AS821”は高いボトル落下強度
13mm、厚さ 3mm のテストピースに、長さ 19.1mm、
を示した。
深さ 0.5mm のノッチを付けた。次にノッチの長さ方
以上より、“AS821”は非常に高い落下強度を有し
ており、IML ボトルに適した材料である。
住友化学 2001-II
向に対し平行に折り曲げ、イゲパール(CO-630)の 10
vol %水溶液に温度が 50 ℃の条件で浸漬した。
25
ブロー成形用新規 PP 素材の開発
第 16 図
軽量化したインモールドラベルボトルの
落下テスト結果
第 17 図に ESCR 測定結果を示す。比較のために代
表 的 な H D P E のブローグレードを数 種 類 用 いた。
HDPE-A がブロー成形性、ボトルの落下強度の評価
100
ボトルの未破壊率(%)
に用いた HDPE であり、これを含む全ての HDPE の
クラック発生までの時間は 150 時間以下であった。一
80
方、
“AS821”、既存の PP ブローグレードのクラック
60
発生時間は 1,000 時間以上であった。
AS821
以上より、“AS821”は、ブロー容器の落下強度に
優れ、容器の軽量化を行っても落下強度の低下は小
40
さい。また、ESCR も良好であるため、他の材料より
ボトル重量=40g
容器包装リサイクル法に適した材料である。
HDPE
20
おわりに
既存PP
0
0
0.5
1
1.5
2.5
2
3
3.5
当社の開発した新規なブロー成形用 PP “AS821”
高さ(m)
は、ダイスウェルの剪断速度依存性が小さいため、
良好なブロー成形性を有する。また、冷却速度が速
第 17 図
いため成形サイクルの短縮による生産性の向上も可能
ESCR測定結果
である。さらに、
“AS821”は高い衝撃強度、良好な
1200
PP
存
1
既
82
AS
容器包装リサイクル法に対応した材料である。
〉1,000h 〉1,000h
引用文献
800
1) Plastics age, 45(12), 82(1999)
2) Plastics, 5(6), 18(2000)
600
64h
0
4) S. Shiromoto, H. Suzuki, T. Nagamatsu, T.
PE
-E
D
PE
D
150h
H
D
H
110h
H
PE
-C
PE
H
130h
D
D
H
200
-B
-A
-D
3) T. Tanahashi, SEIKEIKAKOU, 8(3)
, 162(1996)
PE
クラック発生時間(h)
1000
透明性、低比重、良好な ESCR 等多くの利点を有し、
48h
Ogihara, and S. Hosoda, POLYPROPYLENE
2000, 9th Annual World Congress
5) S. Wu, Polymer, 26(11), 1855(1985)
PROFILE
26
城本 征治
Seiji S HIROMOTO
鈴木 治之
Haruyuki S UZUKI
住友化学工業株式会社
樹脂開発センタ−
主任研究員
日本ポリスチレン株式会社
大阪研究所
研究員
永松 龍弘
Tatsuhiro N AGAMATSU
荻原 俊秀
Toshihide O G I H A R A
住友化学工業株式会社
樹脂開発センタ−
主席研究員
住友化学工業株式会社
ポリプロピレン事業部, ポリプロピレン部
主任部員
住友化学 2001-II
Fly UP