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体を自己管理する能力と食物への感謝の心の育成 ~総合的な学習の
体を自己管理する能力と 食物への感謝の心の育成 ~総合的な学習の時間「食べ物と体」を通して~ 熊本市立清水小学校 椙山 京子 目 次 はじめに 1 Ⅰ 研究主題 1 Ⅱ 仮説 2 Ⅲ 実践の構想 2 Ⅳ 実践 1 給食への関心を高め、意識を変える 4 2 朝ごはんへの関心を高め、意識を変える 5 3 おやつへの関心を高め、意識を変える 9 4 その他の取り組みで食べ物への関心を高め、意識を変える 13 Ⅴ 成果と課題 1 成果 17 2 課題 19 おわりに 19 はじめに 食 べ 物 が 豊 か な 社 会 の 中 で 、今 、「 食 育 」が 大 き く 取 り 上 げ ら れ て い る 。平 成 1 8 年 3 月 に は「 食 育 推 進 基 本 計 画 」が 出 さ れ た 。そ の「 は じ め に 」で 、「 食 の 大 切 さ に 対 す る 意 識 が 希 薄 に な り 、健 全 な 食 生 活 が 失 わ れ つ つ あ る 。… 今 や 我 が 国 の 食 を め ぐ る 現 状 は 危 機 的 な 状 況 を 迎 え て い る と 言 っ て も 過 言 で は な い 。例 え ば 、脂 質 の 過 剰 摂 取 や 野 菜 の 摂 取 不 足 、朝 食 の 欠 食 に 代 表 さ れ る よ う な 栄 養 の 偏 り や 食 習 慣 の 乱 れ が 子 どもも含めて見受けられる。これらに起因して、肥満や生活習慣病の増加が見られ、 過度の痩身等の問題も指摘されるようになってきている。…」とある。 担 任 し て い る 学 級 の 子 ど も の 食 の 現 状 を 見 て も 、給 食 で 魚 、豆 、野 菜 、き の こ 等 嫌 い な も の は た め ら い な く 減 ら し た り 残 し た り す る 光 景 が 見 ら れ る 。ま た 、朝 食 を 抜 い て 登 校 し て く る 者 も い る 。朝 食 を と っ た と い っ て も パ ン 1 枚 と い う 子 ど も 、あ る い は 栄 養・量 と も に 不 足 し て い る と い う 子 ど も は 少 な く な い 。体 型 を み る と 、肥 満 傾 向 の 子 ど も が 数 人 い る 。食 の と り 方 に 大 い に 関 係 し て い る と 見 ら れ る 生 活 の 様 子 を 見 る と 、 姿 勢 よ く い す に 座 れ な い 、落 ち 着 き が な い 、感 情 に 走 っ て 友 達 と す ぐ け ん か を す る 等 気 に な る 子 ど も が い る 。生 活 時 間 を 調 査 す る と 、就 寝 時 間 が 遅 く 、そ の た め 朝 す っ き り 起 き ら れ ず 、朝 食 が 進 ま な く て 、便 も 朝 か ら 出 な い 等 気 に な る 事 象 は 枚 挙 に い と ま が な い 。子 ど も た ち を 取 り 巻 く 環 境 を 見 る と 、「 孤 食 」や「 個 食 」、フ ァ ス ト フ ー ド 、 食品添加物、食物自体の汚染・栄養低下等不安材料はたくさんある。 今回、学習を通して、体つくりに食べ物が大事であることは、承知していながら、好 き 嫌 い を し た り 、好 き な 物 を 多 く 飲 食 し た り す る こ と を 、日 常 行 っ て い た 子 ど も た ち に 、 改めて自分の食生活を振り返り、食の大切さを考えさせる機会を作りたいと考えた。ま た 、 心 身 の 成 長 や 健 康 を 保 ち 続 け る 上 で 、望 ま し い 食 事 の と り 方 を 理 解 し 、自 ら 管 理 し て い く 能 力 を 身 に 付 け る と と も に 、食 物 を 大 事 に し 、生 産 や 調 理 に か か わ る 人 々 へ の感謝の心をはぐくみたいと考えた。 先に挙げた「食育推進基本計画」第3の2「学校、保育所等における食育の推進」 の 中 で 、「 子 ど も の 食 生 活 を め ぐ る 問 題 が 大 き く な る 中 で 、子 ど も の 健 全 な 育 成 に 重 要 な 役 割 を 果 た し て い る 学 校 、保 育 所 等 は 、そ の 改 善 を 進 め て い く 場 と し て 大 き な 役 割 を 担 っ て お り 」と あ り 、ま た 、「 食 育 推 進 に 当 た っ て の 目 標 値 」と し て 、小 学 生 に つ い て は 、朝 食 の 欠 食 率 を 平 成 2 2 年 度 ま で に 0 % と す る こ と を 目 指 し て い る 。今 回 の取り組みがその責の一端を担えればと思っている。 Ⅰ 研究主題 体を自己管理する能力と食物への感謝の心の育成 ~総合的な学習の時間「食べ物と体」を通して~ 子どもたちが、食への関心を高めながら、栄養のバランスの大切さを知り、体によい 食事やおやつのとり方を子どもたちが自ら考え、判断していけるように計画した。同時 に、学校栄養職員や給食技師の先生方との交流を通して、自分たちの食にかかわる多く の人々への感謝の心を育てることも配慮した。また、苗から育てた野菜を収穫したり、 世界の食糧事情を学習したりして、食べ物を大事にすることや、紅葉の下で食事をする 紅葉給食等の機会を作り、楽しく食べる工夫も試みたい。これらを総合的な学習の時 1 間(本校では「しみず学習」と呼ぶ。以下「しみず学習」と表記)の中に「食べ物 と体」の時間として位置づけ、学習していくことにした。 Ⅱ 仮説 1 食物への関心を高めながら、食事と体の関係を継続的に学習していけば、体によい 食事のとり方を考え、自分の体を管理していこうとするのではないか。 2 自分たちの食事にかかわる人々との交流をしていけば、食事に対する感謝の心が育 ち、自分たちの成長に対するまわりの人々の思いが分かるのではないか。 3 食事の楽しさやありがたさを知れば、食への意識が変わってくるのではないか。 4 保護者に学習の情報を流し、協力を求めれば、食生活は改善され、子どもたちの意 識もいっそう変わってくるのではないか。 Ⅲ 実践の構想 食育の学習に入る前に、しみず学習の時間をこれからどのように行っていくかについ てプレゼンテーションをして、子どもたちが見通しをもてるようにした。105時間の うちで「食べ物と体」について学習すること、それは成長期のみんなにとても大切な学 習であることを話した。表1は、4月当初に立てた年間計画である。 表1 表1 「食べ物と体」に関する年間指導計画 2 1 食物への関心を高めるために 朝・昼・夜の食事、おやつ等食べられないことがない環境だからこそ、お腹を満たす ために漫然と食べ、好きなものは食べ、嫌いなものは残すということが繰り返されてい るように思われる。食べることが体をつくることと密接であるという知識を得ることが できれば、もっと食事への関心を高め、食物の栄養について考え、それをバランスよく とる大切さを実感することができるであろう。ひいては、望ましい食事のとり方を理解 し、自分で管理していこうとする心が育つのではないかと考える。 炭水化物・脂肪・たん白質・ビタミン・ミネラル等の栄養について学習し、よりよい 体をつくるために、どういう献立や食べ方がいいのかを考えさせていくようにした。 2 食事にかかわる人々との交流を通して 「 い た だ き ま す 。」 と 食 事 前 に 言 う 子 ど も た ち で あ る が 、「 い た だ く 」 と い う 感 謝 の 心 はなかなか育っていない。好きなものは競い合って食べるが、嫌いなものは、食事前に 減らすか、食後に残す光景が給食で見られる。食器にごはん粒をたくさんつけたまま返 す子どもも少なくない。給食ができるまでに、どれだけたくさんの人たちがかかわって いるのかに気付く必要がある。特に、自分たちの成長を考え、栄養のバランスよく、ま たおいしくつくってくれる給食室の先生方に感謝の心をもつことは大事である。そこで 「 い た だ く 」と い う 気 持 ち を 育 て る た め に 、学 校 栄 養 職 員 や 給 食 技 師 と の 交 流 を 考 え た 。 学校栄養職員とは、授業をいっしょに行うことで、給食技師とは、触れ合いの時間を設 けることで、その専門性や人柄に触れていければと思った。 また、保護者の代表として、日頃から食育に関心の高い方にお話をしてもらい、あわ せて、子どもの成長に対する親の願いを話してもらうことにした。そうすることで、家 庭で出される食事に対して関心をもち、感謝の気持ちが出てくると考えた。 3 食の楽しさやありがたさに気付くために 遠足の時、子どもたちは実に楽しそうにお弁当を食べる。外で食べるおいしさは子ど もなりに格別な味がするのであろう。そこで、給食を外で食べることで、楽しさを味わ うことができるのではないかと考え、紅葉の下で食べる紅葉給食を計画した。 食べることが保障されている子どもたちに、世界では食べることが満足にできず、飢 えで死んでいく子どもたちがたくさんいることを知ることも、食べられることへの感謝 の心を育てるものと思われる。知ることだけに終わらせないために、種から育てた桜草 を売って、その売上金を食糧が十分にない国の子どもたちに送ることも計画した。 4 保護者と協力して 食事の多くは家庭でとるものである。子どもたちが栄養について学習しても、それを 満たす食事が食卓に上らなかったり、好き嫌いを克服する気持ちが育っても、それを後 押しする家庭の協力がなかったりしたら、今回のねらいはなかなか達成できない。 学校で学習したことは、学級通信等で知らせ、保護者の関心を高めたいと考えた。ま た 、学 級 懇 談 会 で は 、毎 回 、食 に つ い て 話 を し 、食 育 の 大 切 さ を 感 じ 取 っ て も ら え れ ば 、 子どもたちの食の環境はぐんとよくなると思う。 これら4つのことを大切にしながら、給食・朝ごはん・おやつ・その他に視点を当て て分けて取り組んだ実践を、以下に述べていく。 3 Ⅳ 実践 1 給食への関心を高め、意識を変える ( 1 )「 食 べ 物 何 で も そ う だ ん ア ン ケ ー ト 」( 5 月 調 査 ) 苦手な食べ物、食べ物の悩み、体の悩み等についてアンケートをとった。苦手な 食べ物として、野菜を挙げている子どもが18名いた。次に多いのが豆で15名、 チーズ11名、魚7名、レバー6名であった。想像以上に野菜を苦手にしている子 どもは多かった。植物性たん白質を多く含む豆嫌いの子どもも多く、食べることの 重 要 性 を 学 習 し て い く 必 要 を 感 じ た 。 食 べ 物 の 悩 み で は 、「 ト マ ト が ど う し て も 食 べ ら れ な い 」「 味 の な い 豆 は 苦 手 だ 」「 苦 手 な も の を 口 に 入 れ る と 吐 き そ う に な る 」 等 が あ っ た 。 体 の 悩 み で は 「 太 り す ぎ て い る 」「 少 食 で 、 ち ょ っ と 食 べ る 量 が 多 い とお腹が痛くなってしまう」があった。 (2)調理場の見学 給食室で調理されている様子を子どもたちはこれまで見たことがなかった。大き ななべに入った油で麺が揚げられているのを見て、子どもたちは歓声をあげた。手 前では、大きな缶詰を大きな缶切りで開け、ザルにあげられるフルーツを見て、自 分たちもやってみたいようであった。学校栄養職員に次々と質問をしていた。 (3)学校栄養職員への質問 子どもたちが、給食室で感じ たことや疑問に思ったことにつ いて、学校栄養職員に教室に来 て話をしてもらった。1食の値 段(210円)から、国から補 助金をもらって給食がまかなわ れていること、食品添加物を含 まない材料や調味料を使ってい ること、給食室の先生たちは健 康管理に気を付けていること、 地域の店舗から食材や調理器具 が卸されていること等、子ども たちにとっては、初めて知るこ とが多くあった。自分たちが食 べる給食にたくさんの人たちが かかわっていることを改めて子 どもたちは実感することができ たようである。1時間では足り なかったので、子どもたちの質 問をプリントにまとめ、学校栄 養 職 員 に 答 え て も ら っ た( 図 1 )。 図1 学校栄養職員への質問 設備や献立等の質問が多かった が 、中 に は 、 「 な ぜ 、給 食 の 先 生 に な っ た の か 。」 「 ど ん な 気 持 ち で 作 っ て い る の か 。」 4 等、給食を作る人への関心を示す質問があった。また、食に対する悩みを書き、給 食室の先生から、ていねいな回答をもらって、安心した様子の子どもがいた。次は その子の感想である。 「私は食事の量が多いと、すぐおなかをこわしてしまって少ししか食べられない。 給食室で、家庭の何倍もあるおなべや、一度にたくさん洗えるような流し台を前 に、白いエプロンを着た先生方が、体全体を動かして、給食を作っていた。その 日から、おかずをへらそうとしても、何か、おかずがかわいそうな気がしてけっ きょくへらせなかった。今日、松本先生から無理をしないで食べてくださいとい う返事をもらった。これから、以前のように大きなおかずとごはんの二つをへら さず、一つだけにするようにしようと思う。何とか食べられそうなときは、へら さ な い よ う に し た い と 思 う 。」 ( 4 )「 す て ら れ る 食 べ も の 」( N H K 教 育 番 組 「 た っ た ひ と つ の 地 球 」) の ビ デ オ を 見 る 番組は、ゴミ収集車に入れられるゴミの1割は食べられるものであるという紹介 から始まった。ゴミ袋を開けてみると、売れ残った商品のパンがぎっしりと入って い た 。「 ウ ワ ー ッ 、 も っ た い な い 。」 と い う 子 ど も た ち の 声 が 聞 か れ た 。 学 校 に も 残 さいはある。ある小学校で食べ残しのごみを出さないようにしている取り組みが紹 介された。一人一人が食べ残しをしないように努力したり、残ったら他のクラスに 持って行き食べてもらったりしていることで、給食室に返ってくる残さいはごくわ ずかであった。また、この学校では、花壇で野菜を育てており、子どもたちが野菜 の成長を楽しみに水掛けをしていた。ビデオを見ながら、低学年のころ、生活科で 育 て た ト マ ト の こ と を 思 い 出 し 、「 あ れ か ら 、 食 べ ら れ る よ う に な っ た 。」 と い う 子 どももいた。自分たちのクラスの残さいについても客観視することができたようだ。 このころから、給食当番が、食缶に入った給食を全部つぎ分けるようになり、少し ずつ残さいも減っていくようになった。 2 朝ごはんへの関心を高め、意識を変える ( 1 )「 朝 ご は ん ア ン ケ ー ト 」 1 週 間 調 査 学級通信で朝ごはん調査をするこ とを前もって家庭に知らせた後、1週 間、朝自習の時間を使い、それぞれに 図2のような記録をさせた。その後、 全員の朝ごはんの様子を集計してプ レ ゼ ン テ ー シ ョ ン を し 、 見 せ た 。( こ のプレゼンテーションは、学級懇談会 で 保 護 者 に も 見 て も ら っ た 。) 朝ごはんのメニューに色別シール (炭水化物・脂肪は赤シール、たん白 質・脂肪は黄色、ビタミン・ミネラル 類は緑、カルシウムは金色)をはる。 子どもたちは、自分の朝ごはんにどの 色が足りないかを知り、色が偏ってい 5 図2 1週間の朝ごはん調査 ることに気付くことができた。全般的に、色の種類が少なく、色に偏りのある子ど もが多かった。図2は、緑色がないことが分かる。この子どもは、朝から便が出な いことを疑問に思っているので、野菜類のとり方が少ないことを教えると、すぐに 納得した。逆に、きちんと全色が毎回の朝ごはんにはられる子どももいて、安心し た様子を見せていた。栄養のバランスに対する配慮に改めて気付き、保護者への感 謝の意を表す子どもがいた。この学習は、学級通信に載せ、家庭に知らせた。 ( 2 )「 朝 ご は ん っ て 大 事 な の ? 」( N H K 教 育 番 組 「 1 0 m i n . ボ ッ ク ス 」)の ビ デ オ を 見 る 番組を視聴して、ごはんやパン等の炭水化物が 腸で分解され、ブドウ糖に変わっていき、血液に よって全身に運ばれることを子どもたちは知った。 そして、脳の活動のエネルギー源はブドウ糖だけ であり、朝ごはんをしっかり食べないと、学習に 集中できないことが理解できた。また、朝食を抜 くことで、体が食事を脂肪に変え、それを溜め込 むようになり、太りやすい体質になることも分か った。さらに、子どもたちにはショッキングであ ったが、糖尿病や動脈硬化等の生活習慣病を引き 起こすことが分かった。そして、年々小学生の発 症が増えていることも知った。理想の朝ごはんと して紹介されたのは、エネルギー源となるごはん やパン等の炭水化物、睡眠中に冷えた体を温める 温かい飲み物、心を落ち着かせ、やる気を出させ るたん白質、そして、ビタミンやミネラルをとる 図3 学習したことを学級通信に ことであった。 朝ごはんの大切さを全員が実感した時間であった。 学 習 し た こ と は 、家 庭 に も 随 時 学 級 通 信 で 知 ら せ た 。 ( 図 3 )一 般 的 に 注 目 さ れ て い る 朝 ご は ん と 学 力 の 関 係 に つ い て も 、広 報 物 か ら 抜 粋 し て 、家 庭 に 知 ら せ た 。 ( 図 4 )子 ど も た ち が 朝 ご は ん の 大 切 さ を 忘 れ な い よ う に 、教 室 に「 朝 ご は ん パ ワ ー 3 つ の ひ み つ 」 ( 図 5 )を 掲示した。 図5 朝ごはんパワー3つのひみつ 【熊本県教育委員会「食生活教材」より】 図4 学級通信で情報を提供 6 (3)自分で朝ごはんの献立を立て、学校栄養職員のアドバイスをもらう 1週間の朝ごはん調査で足りなかった栄養を考えながら、献立を立てた。子どもた ちは、思った以上にスムーズに立てることができた。ごはんかパンを主食にして、魚 や卵焼き等の主菜、味噌汁やサラダ等の副菜、そして飲み物や果物を添える立派な朝 ごはんができた。前回視聴した「朝ごはんって大事なの?」のビデオが影響している ように感じられた。子どもたちの立てた献立を、学校栄養職員に見てもらい、全員に ア ド バ イ ス を も ら っ た ( 図 6 )。 子 ど も た ち に 、「 こ れ を お う ち で 作 っ て み よ う 。」 と 呼 び か け 、 関 心 を 高 め た 。 図6 献立への学校栄養職員のアドバイス (4)学級懇談会で、朝ごはんの状況を話し、朝ごはん作りに協力してもらう 図7 子どもたちの朝ごはんの状況 図7は、7月の学級懇談会にプレゼンテーションとして、保護者に見せたものの一 部である。同時に、子どもたちの朝ごはん調査の記録や朝ごはんの献立を見てもらっ た。保護者の目は真剣であり、改めて、家庭の朝ごはんについて考え、見直してもら う機会となった。 「 朝 起 き る の が 遅 く 、食 べ る 時 間 が な い 。」 「 朝 か ら 少 し し か 食 べ な い 。」 7 「 ご は ん を 嫌 い 、パ ン を 好 む 。」等 、日 頃 の 食 事 の 様 子 を 保 護 者 の 話 か ら 知 る こ と が で きた。子どもたちが栄養について学習したことをもとに、献立を立てたことを知り、 保護者として改善していこうとする様子が窺えた。数日後、子どもたちに朝ごはんの 献立を尋ねたことがあるが、随分改善されている家庭があり、保護者の意識が変わっ たことが分かった。 このように保護者の理解を得るような場を設けたことで、我が子の立てた朝ごはん 計画に、夏休みの間、それぞれの家庭が快 く協力してくれることになった。 夏休み後に提出された献立シートに、保 護者のたくさんの言葉が添えてあった。 (図 8) 「台所にこれからいっしょに立とうと思 い ま す 。」「 い っ し ょ に 買 い 物 が で き ま し た 。」「 久 し ぶ り に 家 族 で 朝 食 を と り ま し た 。」「 昆 布 と 鰹 か ら 出 し 汁 を と っ た ら 、 子 ど も が お い し い と 言 い ま し た 。」「 栄 養 素 を 分けて考えればいいんだと、改めて食事に つ い て 考 え さ せ ら れ ま し た 。」等 、と て も 好 評であった。 子どもたちも生き生きと朝ごはん作り をしたことが文章から読み取れ、親子の調 理中の温かい会話や食事のときのにこやか な様子が想像された。 このことは、協力へのお礼とともに、す ぐ 学 級 通 信 で 知 ら せ た 。( 図 9 ) 図8 保護者の言葉が添えられた献立シート 図9 学級通信で保護者の声を伝える 8 3 おやつへの関心を高め、意識を変える 給食、朝ごはんと学習を進めてきたあと、最後におやつの学習へと進んでいく。おや つは、給食や朝ごはんとは違って、自己判断で購入したり、口に入れたりすることが多 い。体への自己管理能力を育てやすい学習素材だと考えた。 (1)夏休み前に、学校栄養職員から、飲み物の糖分について学ぶ 夏休みに、ついついとりすぎになる飲料水の糖分について学習し、自己管理できる ようにすることをねらった。ペットボトル500ミリリットル中、スポーツドリンク は25グラム、ジュースやコーヒーは50グラム、コーラは55グラムの糖分が入っ ていることを、糖度計を使いながら学習した。1日にとっていい糖分は20グラムで あるので、それらを飲み干すだけで、1日分以上の糖分をとっていることを知った。 朝・昼・夜のごはんの中にも調味料として入っているので、合計すると相当の糖分を とることが理解できた。のどが乾いたら、努めて水やお茶を飲むようにすることがい いということを納得できたようである。 (2)夏休みの10日間のおやつ調査をする 表2 10日間のおやつ調査 夏休み前に、糖分に ついて学習しているが、 糖分摂取の自己管理は なかなか困難なので、 子どもたちに意識して もらうために、10日 間のおやつを記録させ た。 ( 表 2 )こ れ は 、毎 日どれぐらいの飲み物 やおやつをとっている かを、これまで記録し て振り返ったことがな い子どもたちにとって、 大変有効な方法であっ た。糖分をとりすぎる 子どもには多少の抑止 力にもなったと思う。 この記録は、全員分 を集計して、プレゼン テーションをし、みんなのおやつを振り返った。飲み物で一番飲まれていたのは、お 茶や麦茶であった。次に、炭酸飲料、そして、果物ジュース、スポーツドリンクの順 であった。やはり、炭酸飲料とスポーツドリンクは多かったものの、お茶や麦茶が一 番であったのは、学習の成果だと考える。 お や つ は 、夏 と い う こ と も あ っ て 、ア イ ス ク リ ー ム や 氷 菓 子 が 断 然 多 か っ た 。次 に 、 果 物 、そ し て 、ス ナ ッ ク 菓 子 で あ っ た 。ア イ ス ク リ ー ム や ス ナ ッ ク 菓 子 の 糖 分 や 塩 分 、 油分については2学期に学習する予定であったが、その必要性をさらに強く感じた。 9 (3)砂糖をとるよさ、とりすぎによる弊害、塩分・油分について学習する 「 ど う し て 甘 い も の を と り す ぎ て し ま う の だ ろ う 。」 と 子 ど も た ち に 投 げ か け る と 、 「 食 べ る と 、ホ ッ と す る 。」 「 落 ち 着 く 。」等 の 答 え が 返 っ て く る 。3 年 生 の と き に 、砂 糖の量については学校栄養職員とともに学習済みであったが、もう一度おさらいして 確 認 し た 。( 熊 本 県 教 育 委 員 会 「 食 生 活 教 材 」 参 照 ) 「さとうには、どんな役目があるのかな?」 「さとうをとりすぎると、どうなるのかな?」 「おやつを食べると、どんないいことがあるのかな?」 図 10 いろいろなものに含まれる砂糖 1日にとっていい砂糖の量20グラムを袋に詰め、子どもたちの前に提示した。ペ ットボトル500ミリリットルに含まれるさまざまな飲料水の砂糖の量を改めて想像 し 、 そ の 多 さ に び っ く り し て い た 。( 図 10) 飲み物の他にも、ケーキ、チョコレート、プリン、ドーナツ、飴等、子どもたちが 好きなおやつの中に、かなりの砂糖が入っていることを知った。 一 方 、「 栄 養 が と れ る 」 お や つ の と り 方 が あ る こ と も 理 解 で き た 。 保 育 園 通 い を し ていたころ、牛乳と果物で3時のおやつをとったことを思い出した子どももいた。 最後に夏休みによく食べていたスナック菓子に着目した。スナック菓子の問題点は、 塩分と油分である。塩分と油分という言葉は、これまでの学習の中でしっかり押さえ たことはなかったが、家庭で保護者から聞かされているのであろう、子どもたちの中 から、その言葉が出た。子どもたちに人気のあるポテトチップスは塩分や油分がイメ ージしやすく、その量の多さをすぐ想像することができた。 10 おやつのとり方を考えることで、体によいとり方が実行できることを再認識できた。 (4)あるおやつの記録をもとに、問題点を話し合う学習をする こ の 学 習 は 、 校 内 で 研 究 授 業 を し 、 職 員 に 見 て も ら っ た 。 事 前 の 研 究 会 で は 、「 食 育推進基本計画」を紹介した。授業研究会では、本校の子どもたちの食と体のことに ついて話し合いがもたれた。職員全体で食育の重要性を考えるよい機会となった。 授業では、T1を担任が、T2を学校栄養職員が担当し学習を進めた。表3が展開 である。 表4 表3 おやつに関する学習の展開 教材として提示した1週間のおやつ例 表4は、ある人がおやつについ て悩んでいるので、みんなで考え てアドバイスしてあげようと提示 したプリントである。 子どもたちに気付いてほしいも のを意図的に書き入れた。 「飲みも の」では、スポーツドリンク、炭 酸ジュース、コーラをたくさん飲 んでいること。おやつでは、スナ ック菓子やポテトチップスをたく さ ん 食 べ て い る こ と 。飲 み 物 と「 お か し・ア イ ス・く だ も の 」等 の お や つ の 組 み 合 わ せ で 、 相当の糖分をとっていること。しかし、中には、牛乳とサンドイッチ、お茶とふかしいも 等、栄養を考えた飲み物やおやつのとり方等をしているものもあること。できれば、ふか しいものような手作りおやつにも気付いてくれればと書き入れた。 しかし、考えてみると、子どもたちは日常、ジュースを1日500ミリリットルぐらい は 、飲 ん で い る 。実 際 と 学 習 が 離 れ て し ま う と 意 味 が な い と 、学 校 栄 養 職 員 と 話 し 合 っ た 。 そこで、500ミリリットルは多いけれども、もし飲むとすれば、おやつとの組み合わせ 11 を考えること。糖分がたくさん入ったものを毎日続けてとらないこと。このことを押さえ ることにした。 子 ど も た ち は 、 プ リ ン ト を 挟 ん で 、 2 人 組 で し ば ら く 考 え た 。( 図 11) 一 番 初 め に あ が ったのは、スポーツドリンクの1リットルであ った。 「500ミリリットルで砂糖は25グラム だから、50グラムは入っていることになりま す 。」 「 炭 酸 ジ ュ ー ス や コ ー ラ も 多 す ぎ ま す 。」と 、 飲み物の糖分にすぐに気付いた。これまでの学 習で、飲み物に入っている砂糖の量は、知識と して定着している。食べ物の糖分の多さにも気 付くことができた。 しかし、 「 で は 、み な さ ん は 実 際 に 5 0 0 ミ リ 図 11 2人組で考える リ ッ ト ル の ジ ュ ー ス は 飲 ま な い ん で す ね 。」と 尋 ねると、 「 飲 み ま す 。」と 答 え る の で 、 「それでは 悩 ん で い る 人 の ア ド バ イ ス に は な ら な い 。」と 返 して、もう一度考えさせることにした。知識だ けで実践が伴わない学習では意味がないという 考えからであった。そして、出てきたのが、毎 日続けて糖分の多いものをとらないようにする こと、食べ物との組み合わせを考える、という ことであった。 次に考えてほしかったスナック菓子の塩分と 図 12 学校栄養職員の説明 油分についても、問題だと指摘できた。子ども たちに身近なポテトチップスの袋を見せ、裏 に表示してある原材料を読み上げた。大袋1 袋 の 中 に 、意 外 に も 塩 分 は 1 グ ラ ム で あ っ た 。 もっと多いと思っていた子どもたちは、意外 そうな声をあげた。油分は30グラム入って いた。こちらはその多さに逆に驚いていた。 ここで、学校栄養職員に塩分と油分について 話 を し て も ら っ た 。( 図 12) 塩分は1日8~10グラムが適量と言われ ている。朝・昼・夜の食事に塩分は入ってい 図 13 説明を聞く子どもたち るので、ポテトチップスの塩分1グラムを少 ないと思ってはいけないことを子どもたちは知った。油分については、子どもたちの大好 き な ハ ン バ ー ガ ー を 例 に 挙 げ た 説 明 で 、 子 ど も た ち は 真 剣 な 表 情 で 聞 い て い た 。( 図 13) 塩分や油分をとりすぎると、体に悪く、生活習慣病という病気にかかることを知った。 生活習慣病は以前視聴した番組で知っていたので、その怖さは感じているようであった。 野菜サンドについては、野菜が入って栄養によい、しかも牛乳を飲んでいるので体によい という意見が出た。 「 栄 養 が と れ る 」と い う お や つ の 役 目 も 理 解 で き て き た と 言 え る 。ふ か 12 しいもは、手作りおやつだからいいという意 見が出た。実際に家庭でいつも手作りおやつ を用意してある家庭の子どもは、手作りのお いしさを話した。その内の一人は、家庭で食 品添加物の怖さを教えられていて、そのこと に触れた。そこで、駄菓子の袋をデジタルカ メラで写し、それをテレビに映して、どんな も の が 食 品 添 加 物 な の か を 見 た 。( 図 14) そ の後、食品添加物について学校栄養職員に補 図 14 説してもらった。一人の子どもの意見から、 駄菓子の袋から食品添加物に気づく 学び合いができ、食品添加物について知るこ と が で き た 。「 今 度 、 袋 の 裏 を 見 て み よ う 。」 と い う 声 が 子 ど も た ち の 中 か ら 聞 か れ た 。 最 後 に 、お や つ 選 び を し た 。 「 5 時 間 授 業 で 帰 り ま す 。帰 っ た ら 、少 し お 腹 が す い て い ま す 。 さ あ 、 ど ん な お や つ を 選 び ま す か 。」「 友 達 と 遊 ん だ 後 、 こ れ か ら 学 校 で 部 活 動 が 始 ま り ま す 。お や つ は 、何 に し ま す か 。」と い っ た よ う な 、場 の 設 定 を し て 、ホ ワ イ ト ボ ー ド に はってある飲み物やおかしの中からおやつを選ぶようにした。子どもたちはとても喜んで 参加した。これから部活動が始まる子どもが 選んだのは、お茶とサンドイッチであった。 「小腹が空くので、サンドイッチで栄養をと ります。飲み物はお茶です。多分、部活動に はスポーツドリンクを持って行くので、甘い 飲 み 物 は や め た い と 思 い ま す 。」と い う こ と で あ っ た 。( 図 15) 栄 養 と し て の お や つ の と り 方、飲み物と食べ物との組み合わせ、続けて 甘い飲み物をとらないという考えがしっかり 図 15 状況に合ったおやつを選んで発表する 入っている答えであった。体つくりの自己管 理が期待できる答えであった。 授業を終えて、感想を書いたが、これからのおやつのとり方を考えるという内容が多か った。次はその一例である。 「おやつをとるときは、砂とうの量・塩分・油分をひかえ目にして、飲み物との組み 合わせも考えていきたいです。ただたんにおいしいものを食べるのではなくて、健康 や栄養を考えながら食べようとみんなで話し合いましたが、わたしもカルシウムやビ タミン等をできれば入れていこうと思いました。手作りのおやつは、自分でとう分・ 塩分・油分をちょうせつできるのでいいなと感じました。自分でも作ってみようと思 います。毎日の健康に関する大切なお勉強ができました。学習したことをもっともっ と生かしていこうと考えています。」 4 その他の取り組みで食べ物への関心を高め、意識を変える (1)保護者による栄養の話を聞き、親の願いを知る 普段から、食育に関心をもち、子どもたちの今の食の現状に不安をもっている保護 者 が い た の で 、「 親 と し て の 願 い を 込 め て 、 授 業 を い っ し ょ に し ま せ ん か 。」 と お 誘 い 13 した。そこで、この授業を実施することができた。 エプロンシアターで始まった学習は、食道・胃・小腸・大腸 と 話 が 進 ん だ 。( 図 16) 小 腸 は 、 エ プ ロ ン か ら 外 し て 、 6 メ ー トルほどになり、子どもたちを感嘆させた。大腸から出るウン コの色やかたさや大きさで、健康かどうかが分かるという話に なると、子どもたちは聞き入っていた。 栄養のバランスを考えた食事をとることが大切であり、元気 の も と は 食 べ 物 で あ る こ と を 力 説 さ れ た 。( 図 17) そ し て 、 自 分の命を大事にして大きくなってもらいたいと話を終えられた。 図 16 エプロンシアター 子 ど も た ち は 終 始 、 話 に 聞 き 入 り 、( 図 18) 食 べ 物 が 自 分 た ちの体つくりに必要であることを実感したようであっ た 。( 図 19) 質 問 も た く さ ん 出 た 。 一 番 関 心 を 示 し た の は 、ウ ン コ が 健 康 の バ ロ メ ー タ ー で あ る こ と で 、 「ウ ン コ を し っ か り 見 た い 。」と い う 子 ど も が 少 な く な か っ た。これまで、ウンコの話題になると、にやにやして しっかりその大切さを受け取ろうとはしなかったので あるが、こうした感想が出ることは、真摯に受け止め ている証拠である。 図 17 元気のもとは食べ物と力説 次に挙げてい るのは、学習後の子どもたちの感想である。 「 友 達 の お 母 さ ん の 話 を 聞 い て か ら 、体 の こ と は 大 切 で あ る と 感 じ ま し た 。赤 の 元 キ ッ ズ 、黄 色 の 元 キ ッ ズ 、緑 の 元 キ ッ ズ 、白 の 元 キ ッ ズ は そ れ ぞ れいいはたらきをしていていいなと思いました。 そ れ に 、ウ ン コ で 体 調 が 悪 い と 分 か る の を 初 め て 知 り ま し た 。売 っ て あ る お や つ の 中 に は 、食 べ 物 ではない原料が入っていて、それを食べているのが 図 18 話に聞き入る子どもたち 分かったので、びっくりしました。最後は生命の鎖ということを話してくださいまし た。今日はいそがしいのに来てくださって、ありがとうございました。」 「小腸のトンネルは、子どもと大人では 長さがちがうのにびっくりしました。子 どもは5~6メートル、大人は6~7メ ートルでした。砂糖のとりすぎは体に悪 く、栄養のバランスが悪いとウンコも出 にくいのを初めて知りました。スナック がしを食べていましたが、これからは、 砂糖を少なくしたり、おやつを少なくし たりしようと思いました。サンドイッチ 図 19 子どものノートから やいも等栄養になるものをとっていこうと思います。それに、きらいな食べ物をどん どんへらしていこうと思いました。これからも体のことを考えていきます。」 14 (2)野菜の収穫し、調理して食べる 理科でツルレイシを育てたが、一般 的に子どもたちには苦手な食材なので、 学 校 栄 養 職 員 に レ シ ピ( 図 20)を 作 っ てもらい、子どもたちに配った。給食 で も 人 気 の あ っ た「 ゴ ー ヤ の ツ ナ あ え 」 で、子どもたちにも好評であった。 畑では、サツマイモも育てた。収穫 の 秋 、サ ツ マ イ モ を 掘 り 、そ れ を 洗 い 、 ふかして食べた。 図 20 次 は 、そ の と き の 子 ど も た ち の 感 想 で 学校栄養職員からの簡単レシピ ある。 「今日、学校でできたいもをふかしいもにして6時間目が終わって食べました。いも は、大・中・小に分けられて、ぼくは大を取りました。長細い形で、けっこう大きか ったです。まず、一口かじると、とってもとってもとってもあまくて、おいしくて、 食べるのをやめられませんでした。食べているうちに、いもが半分にわれて、そのう ちの半分をそのまま食べ、後の半分に塩をつけて食べました。それもとってもとって もおいしかったです。でも、ちょっぴりからかったです。もう一度あんないもを育て て 、 学 校 で 食 べ て み た い で す 。」 「食感は、ブニュッというやわらかい感じでした。皮といっしょに食べても食べなく てもおいしかったです。特に、塩をつけるとペロッと食べてしまうほどのおいしさで した。外はむらさき、中は黄色のほかほかのなかみが特においしくてたまりませんで した。次はさとうをつけてみたいです。今度いもがとれたときは、みんなで料理をし て 食 べ て み た い で す 。」 「わたしはふかしいもって何だろうと思っていました。いもってことは分かっていた けど、どんなのだろうと思っていました。家ではレアポテトを作って食べています。 天草のいもがたくさんあるからです。自分たちで苗を植え、育てたいもはおいしいで す。ふかしイモは皮もやわらかくて、皮も食べました。おいしかったです。塩をつけ たら、もっとからいようなあまいような気がして、おいしかったです。毎日水かけを し て 育 て て よ か っ た で す 。」 ふかしいもは、想像以上に好評であった。育てたいもをみんなで食べる楽しさを味 わうことができた。 (3)紅葉給食をする 本校の正門前の紅葉はとても美しい。その下で給食をとったら食欲が増すのではな か ろ う か と 考 え 、紅 葉 給 食 を 行 っ た 。( 図 21)子 ど も た ち は と て も 楽 し そ う で 、残 さ いもなかった。 子どもたちは、紅葉給食について次のような感想を述べている。 「今日の給食は、とーってもおいしかったです。なぜかというと、4年2組全員がも みじの下で食べたからです。清水の森には、落ち葉がいっぱい落ちていました。給 食の用意ができるまで、落ち葉をひろったり、しゃべったりして、遊びました。い 15 つもの給食より、とてもにぎやかでし た。そのとちゅうで、ヒラヒラヒラと はっぱが、おでんの中に入ってきまし た。ちょうどいいタイミングでした。 また、いつかもみじの下で、食べたい と思います。」 「今日わたしたちは、もみじの下で給 食を食べました。清水の森で食べた給 食はとてもおいしかったです。私は、 AちゃんとMちゃんと食べました。や っぱり、外で食べるのっていいなあと 図 21 思い、また、こういうきかいがあった 紅葉給食の様子 らいいなあと思いました。これは秋の思い出になります。」 (4)食料が十分でない国の子どもたちの現状を知り、自分たちにできることを考える 「 飢 え る 国・飽 食 の 国 」 ( N H K 教 育「 地 球 デ ー タ マ ッ プ 」)の ビ デ オ を 見 た 。地 球 上 で 、 1日あたり、2万5千人もの人たちが飢えで死んでいる実態を知り、食べられること は、当たり前なのではないことを実感することができた。毎日きちんと食べられるこ と に 感 謝 し 、海 や 大 地 の 恵 み を 残 さ ず 食 べ る こ と の 大 切 さ を 子 ど も た ち は 理 解 で き た 。 知識とともに子どもたちの感性に訴えることができたと思う。 さらに、食糧が十分でない国の子どもたちに少しでも役に立てるように、子どもた ち が 種 か ら 育 て て き た 桜 草 を 地 域 の 人 に 買 っ て も ら い 、売 上 金 を ユ ニ セ フ に 送 金 し た 。 「 ぼ く は 今 ま で 食 べ 物 の こ と な ん て 、何 と も 思 っ て い ま せ ん で し た 。で も 、今 日 の テ レビで、ほかの国では何日も食べずに栄養失調になって、死んでいく子どもがいるん だと知りました。今、ぼくが食べているお肉も、トウモロコシをすごく食べている牛 を育ててできたものです。牛にたくさんトウモロコシを食べさせるので、作物のねだ んが高くなって、アフリカの人は高いねだんの作物を買えなくなる人がいるのです。 ぼ く は 、 さ く ら 草 を 売 る ぞ と 思 い ま し た 。」 (5)給食技師との交流を図る 「食べ物と体」の学習の最後の段階として、給食に中心をもどし、お世話になって いる給食技師との交流会をした。給食技師との交流はこれまでになく、先生方の名前 や顔を知る機会も少なかった。交流会は子どもたちのインタビューに先生方が答える 形で始まった。給食への思いやうれしかったことや失敗したことなどを子どもたちは 興味深げに聞いた。最後に一人の先生が趣味の三味線を披露してくれた。 次 の 日 、 給 食 室 で 、 学 校 栄 養 職 員 に 、「 給 食 の 先 生 に お い し か っ た で す と 伝 え て く だ さ い 。」 と 言 う 子 ど も の 姿 が あ っ た 。 (6)これからの食生活について考えをまとめ、みんなの意見を聞く 1 年 間 の 学 習 の 総 ま と め と し て 、自 分 の 食 生 活 を ど う 変 え て い く か を 文 章 に ま と め 、 それぞれ発表することにする。互いの意見を聞き合うことで、また自分の考えを深め ることができると思う。4月からの自分の意識の変容に気付き、その変容を自覚しな がら、子どもたち自身が実践していける力を身に付けるところまで高めたい。 16 Ⅴ 成果と課題 1 成果 (1)仮説1について 食物への関心を 高めながら 、食事と 体の関係 を継続的に学習 していけば 、体に よい食事のとり方を考え、自分の体を管理していこうとするのではないか。 今回の実践以前にも、断片的に食事と体の関係について子どもたちに話してき たことはあるが、食べ残しの事例を見ても、そう変化は見られなかった。だが、 こうして継続的に学習してきたことで、子どもたちの意識が変わってきたことを 実感として受け取ることができた。 給食に関して言えば、給食当番が食缶に何も残らないようにみんなにつぎ分け る。子どもたちは、量が多いときは減らしていたり、足りないときは増やしたり している。苦手な食材が入っていると、減らすことはあるが、以前のようにそれ をまったく食べないことはなくなってきた。そして、箸をつけたものは残さず食 べるようになってきた。子どもたちの意識が少しずつ変わってきていることが分 かる。 食べ物と体は密接に関係があることを、担任と学校栄養職員との授業、保護者 も加わった授業、ビデオ視聴等で子どもたちは知った。炭水化物・脂肪・たん白 質・ビタミン・ミネラルという言葉を覚え、その栄養を偏りなく食べることが、 心や体の成長に大きく影響していることを理解して、望ましい食事の在り方を考 えるようになった。栄養を偏りなくとっているかどうかのバロメーターとして、 毎日のウンコにも関心をもつようになってきている。肥満傾向にある子どもたち は、おやつのとり方を反省し、家庭で改善しようとそれぞれに努力している様子 が窺える。 (2)仮説2について 自分たちの食事 にかかわる人 々との交流 をし ていけば、食事に対 する感謝の 心 が育ち、自分たちの成長に対するまわりの人々の思いが分かるのではないか。 先ほども述べたが、残さいがぐんと減ってきている。学校栄養職員との交流は 今 年 度 、 回 数 を 増 し 、 子 ど も た ち も 親 し く 先 生 に 話 し か け て い る 。「 先 生 、 こ ん に ち は 。」「 先 生 、 今 日 の 給 食 お い し か っ た で す 。」 と に こ や か に 語 り か け る 姿 を 見る。食べ物は、様々な人の手を経て自分たちの口に入るということをはっきり と自覚している。そして、多くの人が自分たちの成長を願ってくれていることを 知った。 (3)仮説3について 食事の楽しさやありがたさを知れば、食への意識が変わってくるのではないか。 紅 葉 給 食 を し た と き 、 い つ も は 少 食 の 子 ど も が 、「 お か わ り し よ う か な あ 。」 と つぶやいた。学校にある美しい紅葉の下で食べられた喜びが食欲を増させている。 ふかしいもは、甘いおやつに囲まれている子どもたちにとって、普段関心をもた ないおやつだろうと思うが、自分たちが育てたことと、学級で食べることもあっ て、おいしく楽しく食べることができた。 17 (4)仮説4について 保護者に学習の情報を流し、協力を求めれば、食生活は改善され、子どもた ちの意識もいっそう変わってくるのではないか。 子どもたちと学習する度に、その内容を学級通信で知らせた。また、学級懇談会 で朝ごはんの現状を知ってもらったり、子どもといっしょに朝ごはんを作ってもら ったりしたことで、保護者自身の意識を変えることができたように思う。不定期に 朝ごはんの内容を子どもたちに尋ねるときがあるが、それぞれの家庭で栄養を考え た 献 立 が な さ れ 、 子 ど も た ち 自 身 が 「 朝 ご は ん が 変 わ っ た 。」 と 意 識 し て い る 。 一連の学習は表5の評価規準表に沿って進めてきた。すべて、おおむね達成でき ていると認識している。 表5 「食べ物と体」に関する評価規準表 18 2 課題 本実践で行った一連の学習を通して、子どもたちに付けたい食事への自己管理能力、 食べ物やそれらをつくってくれる人への感謝の心の芽は、少しずつ育ってきていると感 じている。しかし、こうした食育の学習が継続して実践されなければ、恵まれた日常の 中 で 、そ の 芽 も 消 え て い く と 思 わ れ る 。 「 食 育 推 進 基 本 計 画 」の 趣 旨 に 沿 っ た 、意 図 的 な 、 そして継続的な学習が望まれる。 今後、朝ごはんやおやつに関する追跡調査も行い、子どもたち自身でチェックしてい く必要があると思う。 学校栄養職員の専門性を生かし、担任と組んで、食育指導をしていくことが今後益々 大事であると思われる。連携した指導ができるように、常に情報交換をしていきたい。 保護者との協力も大事である。家庭と学校で子どもたちを育てることを家庭に働きか けていきたい。時には保護者用教材を使って、食について、いっしょに学んだり、日常 を振り返ったりする機会ができればと思う。 おわりに 食育が叫ばれる以前から、子どもたちの偏食や食への感謝の薄さにどうにかしなけれ ばという思いをもってきた。それは、自分以外の多くの先生も思ってきたことだろう。 今 回 、総 合 的 な 学 習 の 時 間 に 位 置 付 け 、計 画 的 に 1 5 時 間 と い う 多 く の 時 間 を 使 っ て 、 子どもたちとともに学習ができたことは、自分にとってよい経験になった。1年間積み 上げができてこられたのは、本校の学校栄養職員の協力によるところが大きい。様々な 資料を提供してもらい、授業への参加、紅葉給食への賛同、給食技師との連絡等、こち らの要求を快諾してくれたおかげである。心より感謝したい。 また、保護者の中に、食育への関心が強い方がいることを知ったことは、子どもたち に保護者の思いを伝えるという面からも、また、家庭との連携を図りながら食育を進め ていくという面からもよかったと思う。子どもたちの朝ごはんや生活時間について、と かく、家庭に非難の目がいくことが多いが、中には、職員以上に関心を示し、専門的知 識をもって子どもを見ている方がいらっしゃることを知らなければならない。今回の朝 ごはん作りのように家庭が快く協力してくれたことを考えると、家庭と学校がもっと協 力を深めていけば、子どもたちによりよい未来が開かれていくと強く思う。 参考文献 「食育推進基本計画」 食育推進会議 「食生活教材」―指導者用解説書― 平 成 18 年 3 月 熊本県教育委員会 19 平 成 17 年 3 月