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トルコにおける鉄道の現状

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トルコにおける鉄道の現状
海外トピックス
風力発電の電気を一部使用して走行する電車(マルメ,スウェーデン)
トルコにおける鉄道の現状
の
ぐち はる
み
野 口 知 見 調査研究センター研究員
らも未整備な区間が多い。低速・低密度な鉄道の
利便性は低く,1950年代に65%であった貨物輸送
はじめに
シェアは,近年では4%にまで,また,旅客輸送
シェアは同42%から1 . 7 % にまで低下している。
シルクロードの終着点に位置し,かつてはヨー
一方,高速鉄道路線は,2012年現在,首都アン
ロッパとアジアの交易拠点として栄えたトルコで
カラからアンカラ西部の都市エスキシェヒールへ
あるが,同国における鉄道は,政府による道路偏
の路線(439 km)と,トルコ中南部の都市コンヤへ
の2路線が開業している。こちらは,
重の輸送網整備によって,衰退の一途を辿ってきた。 の路線(449 km)
しかし近年,近隣諸国との物流の効率化,道路混
最高時速250 km の近代的なスペイン製車両が投入
雑対策,環境汚染対策等として鉄道が見直され,
され,1日あたり6 , 000人から8 , 000人を輸送して
高速鉄道の整備や既存路線の改修といった鉄道復
いる。全車両エアコン完備で,座席で音楽が聴け
興計画が加速しつつある。また,同国では,EU 加
るエンターテインメント機能も備える。アンカラ~
盟を見据えた鉄道組織改革の動きも注目されてい
エスキシェヒール間の移動時間は在来線時の3時
る。本稿では,これらの動きを踏まえ,トルコに
間から1時間半に,アンカラ~コンヤ間の移動に
おける鉄道の現状をまとめる。
至っては,在来線時には西に大きく迂回していた
路線を高速鉄道では直線ルートとしたため,10時
1.トルコ国鉄の現状
間半から1時間15分にまで短縮され,利便性が大
きく向上した。
トルコにおける鉄道は,運輸省下のトルコ国鉄
トルコでは,1990年代から,これまでの道路輸
が運営しており,機関車,客車,貨車の製造・メ
送偏重政策によってもたらされた道路混雑や環境
ンテナンスを行う3つの子会社もその傘下に抱え
汚染といった弊害が認識され始め,政府は2002年
ている。鉄道の総延長は11 , 940 km であり,うち
に鉄道投資の強化を発表し,2003年からは高速鉄
888 km は2009年以降,一部営業を開始している高
道の建設に着手した。今後2023年までに,既存路
速鉄道路線である。
線の改修・アップグレードと併せて,10 , 000 km の
在来線は,もともとオスマン帝国時代に外国の
高速鉄道を含む14 , 503 km の新規路線を建設する
複数企業が個別に建設したものを1924年に国有化
ことが予定されている。
して延伸したものであるが,第二次大戦後は政府
が道路偏重の輸送政策を採ったため,主要都市へ
2.進行中の鉄道計画
のネットワークが未完成な上に老朽化が著しい。
また,約8割が単線・非電化であり,信号設備す
94 運輸と経済 第 72 巻 第 8 号 ’
12 . 8
現在,前述のアンカラ~エスキシェヒール間の
運輸調査局
高速鉄道路線を延伸し,トルコ最大の人口を誇る
人的・物的輸送機能における地理的ポテンシャル
古都,イスタンブールへと接続する路線が2013年
は高く,政府は,計画の進捗によって国内輸送の
~2014年の完工を目指し,建設中である。全線が
効率化を図るだけでなく,国際輸送についてもそ
開通すれば,両都市間の移動時間は在来線時の6
のポテンシャルを活かしたいと考えている。
時間30分から,3時間にまで半減する。自動車に
しかし一方で,今後の課題となるのは,国鉄本
よる所要時間5時間30分と比べても,競争条件が
体の組織改革である。トルコは,EU の発足当初
大きく改善されるため,政府は完成後の両都市間
から EU への加盟を申請しており,2005年からは
の鉄道輸送シェアを,現行の10%から78%まで高
正式な加盟交渉を開始している。しかし,加盟の
めたいとしている。
前提条件として受け入れなければならない EU の
また,同路線は,イスタンブールからさらに,
法体系の中には,上下分離やオープンアクセスと
ブルガリア国境の街,エディルネへと延伸される。 いった EU の共通運輸政策も含まれる。また,ト
イスタンブールでは,日本の ODA を通じた建設
ルコ国鉄における経営状況は,高速鉄道の開通に
プロジェクト,マルマライ計画が進捗しており,
よる収入の増加が見込まれるものの,依然として
同都市のヨーロッパサイドとアジアサイドを分断
慢性的な赤字経営が続いている。2010年の鉄道部
していたボスポラス海峡に地下トンネルが建設さ
門営業費用26億3 , 036万リラ(1トルコリラ≒44 . 1円,
れることで,両エリアを接続する,初の鉄道路線
2012年7月現在)に対し,同営業収入は6億5 , 688万
が開通する予定である。海底トンネルは,主にイ
リラであった。補助金として,8億6 , 774リラが投
スタンブールの通勤列車に利用されるが,3線構
入されたが,収支均衡には程遠い。政府は,EU
造で整備されるため,貨物を含む長距離路線も運
加盟に向けた環境整備と,国鉄経営立て直しのため,
行が可能となる。
1997年に国鉄民営化を視野に入れた改革案を発表
合わせてアンカラからは,中央アナトリアの都
したが,一部の工場や,国鉄管轄下の港の売却,
市スイヴァスへの高速鉄道延伸計画が進められて
人員削減等が行われた他は,抜本的組織変革には
おり,路線はさらに東に延伸されてアゼルバイジ
至っていない。これまでも,EU や世界銀行の指導
ャン等の中央アジア諸国へと接続される予定であ
のもと,組織改革に向けた各種スタディがまとめ
る。
られてきたが,改革が進まない背景には,国鉄本
これらが完成すれば,ヨーロッパ諸国と中央ア
体や労組による反対運動もあるという。
ジア諸国を接続する,正に「鉄のシルクロード」
が整備されることとなる。
おわりに
3.今後の課題
国鉄民営化に向けた方針が示されながらも,遅々
として再編が行われない中,2011年11月,トルコ
このように,トルコにおける新規鉄道整備は順
政府は,遂に国鉄の上下分離や,経営や安全性を
調な進捗が見られており,ヨーロッパとアジアを
監督する独立機関の設立を盛り込んだ運輸部門復
繋ぐ鉄道の建設については,EU や中国からも借
興法案を成立させた。
款がなされる等,期待を集めている。トルコは,
しかし,今後同法案に基づいた順調な組織改編
北は黒海,西はエーゲ海,南は地中海と三方を海
が行われるかは不明である。鉄道の輸送力強化と
に面し,ギリシャ,ブルガリア,アルメニア,グル
共に,国鉄経営の健全化,EU 加盟を見据えた環
ジア,アゼルバイジャン,イラン,イラク,シリア
境整備に向けた,組織面での効率化がなされるかが,
の8カ国と国境を接している。欧亜両大陸を結ぶ
今後のトルコ国鉄にとっての正念場となる。
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