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卒業論文の正しい書き方 - Researchmap

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卒業論文の正しい書き方 - Researchmap
卒業論文の正しい書き方
大正大学人間学部教育人間学科
学籍番号 097777
犬塚 美輪
2013/12/13
指導教員:滝沢 和彦 先生
目次
第1章
よい卒論を書こう ···································································· 1
1.卒論とは何か ....................................................................................................... 1
2.よい卒論とは ....................................................................................................... 2
(1) 卒論の内容
2
(2) 卒論の形式
3
第2章
卒論の書き方 ········································································· 3
1.まずは全体の構成を考えるー目次から書くー .................................................... 4
2.本文を書く .......................................................................................................... 4
4
(1) イイタイコトをはっきりと
(2) 短い文を書く
5
(3) 途中で名前を変えないで
6
(4) 漢字で書くかひらがなで書くか
6
3.図表を書く .......................................................................................................... 6
4.引用文献を示す ................................................................................................... 7
第3章
まとめー指導を受ける心構えー ·················································· 7
引用文献 ····································································································· 9
謝辞 ··········································································································· 9
第1章 よい卒論を書こう
1.卒論とは何か
「別に研究者になるわけでもないのに,卒論なんて面倒だなあ」と思っているかもしれな
い。だが,本当に卒論は面倒な苦行で,研究者以外には必要ないものなのだろうか。実際,
アメリカの多くの大学では,卒論を書くことは優秀な学生のみに許される特権であり,本
学のような義務ではない。だとすると,多くの学生には不要なもののように思われる。
しかし,卒論を書きあげることは,社会に出てからも有用な能力を活用する課題であり,
決して研究者になるためだけの課題ではない。表 1 に,卒論完成に必要な活動を列挙する。
卒論は,アカデミックな文脈において,こうした活動を実践することである。こうした活
動を実践していく能力があれば,卒論を書くことはそれほど難しくはなく,楽しい活動に
なるだろう。
ただし,多くの学生にとって,表 1 に挙げた活動の実践は容易ではない。卒論を他のち
ょっとしたレポートと同じだと勘違いしたり(1 の失敗),
「まだまだ余裕」と間違った認識
を改めなかったり(2 の失敗)
,
「二万文字くらい三日もあれば書ける」と思いこんだり(3
の失敗。実際は 3 カ月はかかる)する学生は多い。また,積極的に卒論を進めている仲間
がいるのに,その仲間に教えてもらおうとしなかったり,やり方をまねさせてもらおうと
しない学生も少なくない(4,5 の失敗)。考えることを放棄して,「先生どうしたらいいで
すか」と丸投げするはめになる学生もいる(6 の失敗)
。
表 1 に挙げた活動を行なうには,これまでの講義やゼミで学んできたことが応用できれ
ばよい。しかし,人間にとって,異なる文脈で学んだ知識やスキルを応用することは簡単
なことではない。指導教員に怒られ,失敗を繰り返しながら,徐々にできるようになって
いくことが多い。
卒論が最後までうまくいかない学生は,これらの特徴のうち,2 つ以上ができない(3 つ
以上だと卒論が提出できないので「うまくいかない」どころではない)
。もちろん,はじめ
はなかなかうまくいかない学生が多い。しかし,これらの活動を,卒論執筆のプロセスで
「新たに学ぼう」とする学生は,めきめき成長する。
「卒論は大変だけど,色々な力がつい
てきました!」と元気に卒論にとりくんでいくことができる。
卒論を書く,ということは,アカデミックな世界(大学)のある場所(講義やゼミ)で
学んだ様々なスキルを,異なる文脈(卒論)で発揮することができる,また新たな文脈で
表 1.よい卒論を書くために必要な力
1. 課題を理解する
2. 事態の重要性を把握する
3. 自分自身の力を的確に把握する
4. 他者と協力する
5. 他者から学ぶ
6. 創造性を発揮しようとする
1
より広い世界
アカデミックな文脈
講義・ゼミ
応 用
応 用
卒論
新たな課題
(仕事など)
図 1.卒論の位置づけ
学んでいくことができる,という証明だと言える。これからアカデミックな世界の外で,
自分の力を発揮するという大きな課題を前にした大学 4 年生が,いわばその手慣らしとし
ての応用課題に挑むというのが卒論なのである(図 1)
。
2.よい卒論とは
では,どのような卒論がよい卒論なのだろうか。どのような卒論を書けば,評価される
のだろうか。本節では,これを卒論の内容と形式の二点から概観する。
(1)卒論の内容
まず,卒論の内容は何か主張があるものでなくてはならない。「部活動は生徒のライフス
キル向上に有効だ」でもよいし,
「異なる文脈で記銘を繰り返すほど想起確率が上がる」で
もよい。
「パンダを保護するべきではない」でもよいし「レゲエミュージックの魅力はボブ・
マーリーにすべて集約される」でもよい。
ただし,その主張が「主張するに値するもの・こと」であることも重要である。どのよ
うな問いが問うに値するか,また,主張を展開することが可能な問いは何か,これを十分
見極める必要がある。問いの適切さを自分だけで判断するのは難しい。適切な主張をする
ためには,まず知識が必要である。あなたが好きで詳しいものやこと(たとえばサッカー
やファッション)について,知識や経験のない他者が主張を展開してきたら,「なんだこい
つ」とムッとするはずである。さらに,そういう人が展開する主張は的外れなものがほと
んどである。知らないことについて適切な主張をすることは難しい。知識を身に付け,適
切な主張をするための下地を作ろう。
適切な主張をするために必要なものの二つ目は,指導してくれる先生や友人と,そのテ
ーマについて熱く語ることである。「レゲエの魅力はボブ・マーレーに集約されるよな!」
と主張したら「ボブ・マーレーって誰?」とか「ええ?おれはジャネットケイだと思うけ
ど」とかなんか反応が返ってくるはずだ。「ボブ・マーレーっていうのはさ」
「ジャネット
ケイとボブ・マーレーの違いはさ」と話しているうちに,自分の主張が磨かれていく。
また,主張が説得力を持たない場合は,
「主張として認めるに値しない」と評価される。
主張の説得力は,どのような根拠が挙げられるかによる。「根拠はオレの勘」が評価されな
いのは言うまでもない。
「根拠はテレビで茂木健一郎が言っていたこと」だとちょっとだけ
説得力があがるが十分ではない(全くない)
。より根拠として説得力があるのは,対象とす
る人物(たち)自身が記したもの,もしくは,自分またはほかのだれかが行った「緻密な
2
論理構成の説明」である。
したがって,卒論の内容として重要なのは,主張とその説得力だと言ってよい。対象と
する人物(たち)自身の言葉や行為を根拠として,あるいは緻密な論理構成を根拠として,
自分の主張を説明し,読んだ人が「なるほど。××だったのか!」と思うような文章を書
くことが卒論である。
なにを問い主張するか,どのような根拠を挙げるか,は卒論のテーマによって異なる。
上述したように,知識を得ることも必要なことを考えると,4 年生になって「思いついた」
テーマで卒論を書くのは無謀だ。3 年生からじっくりととりくみ,自分の問いと主張を形作
っていくことが重要である。
(2)卒論の形式
次に,卒論の形式を考えてみよう。卒論の形式は,内容が分かるように書かれていなく
てはならない。
「当たり前だよ」という声が聞こえてきそうだが,これは簡単なようで,慣
れていないと難しい。実際に学生が執筆した卒論の第一稿は,形式がメチャクチャなため
に,とりあえず読み始める気持ちが起こらず,
「ちょっと・・・あとにしよう・・・かな・・・」
とデスクの端に置かれることが多い。読む気を起こさせない時点でもう0点である。
このように書くと「もうダメだ」とあきらめたくなるかもしれない。しかし,内容と比
較すると形式を修正するのは容易である。よく誤解されることだが,分かりやすい文章の
形式は決まっている。したがって,分かりやすい文章の形式を知り,それを再現すれば,
とにかく読む気になる文章を書くことができるし,そこから読みやすい文章までの道のり
はそれほど遠くない。そこで,本論文では,大正大学の学生が,とにかく「先生が受け取
ってくれる」卒論をかくための「形式」に焦点を当て,以下で説明する。
第2章 卒論の書き方
本論文は,学生諸君が卒論を書くにあたって,内容が分かるように書くための基本が理解
できるように執筆したものである。そのため,本論文全体が「お手本」となるように書い
てある。したがって,形式・書き方については,本論文を忠実にまねすればよい。という
かまねすべきである。お願いだからまねしてほしい 1。本章では,本論文の書き方の特徴を
説明する。本章を理解し,論文全体の形式を見なおすことで,分かりやすい文章で卒論を
書くことができる。
本章で書くことは,多くの参考書に書かれている内容と基本的には同じである(戸田山,
2002;石井,2011;大正大学教育人間学科,2012)。ただし,同じ内容を,本学科の学生
に多くみられるパターンや陥りやすい間違いに着目して書き直したので,参考書より現実
感を持って捉えられるのではないかと思う。
1
私は本章の原則に反した論文は初稿の段階から受け取りませんし読みません。ちなみに,脚注は本文の
内容を補うためにも時々使います。ですが,こうした脚注の使い方(本文に書けないちょいネタを書く)
は論文ではあまり好ましくありませんので避けましょう。
3
1. まずは全体の構成を考えるー目次から書くー
卒論全体の筋が通っていることは,内容として大変重要である。頭の中はバッチリ論理的
に整理されているのに,卒論の筋が通っていない場合もあるかもしれないが 2,いくら「頭
の中ではわかってるんです!」と泣いてもムダである。
卒論を書き始めた学生に,目次を書いたか尋ねると「全部本文を書いてから作ります」
という答えることが少なくない。これは根本的に大きく間違っている。まず考えるべきは
目次(文章の構成)である。目次なくして本文なし。目次を書いて,
「この順番でこの内容
を説明しよう」と頭を整理してから書くほうが,ずっと整理された構成を第一稿から書く
ことができる。
過去には,友人に自分の問題意識から問いに至るまでを繰り返し話し,目次を生成した,
という学生がいた。相手にメモを取ってもらい,分かりにくいところは指摘してもらった
そうである。メモは,話された内容のポイントが列挙され,あとから補足した内容は,該
当箇所に挿入するように書かれていたという。そのメモをもとに目次を考えた,というの
である。このように,自分の頭を整理するための工夫を考えることも重要だ。
目次を作成する際に気を付けたいのが,番号の付け方である。手近な本を参考にいくつ
かのパターンをを見ると,ローマ数字(I,II,III)・数字(1.
,2.
,3)・カッコつき数字
((1),(2),(3))・丸数字(①,②,③)の順にレベルが下がることが一般的であることが
分かる。レベルが下がる,というのは大見出し・中見出し・小見出し,と順にその見出し
の指し示す内容の範囲が狭くなることを言う。卒論の場合には,本文で 4 つのレベルくら
いまで,目次には 3 つ目のレベルまでを表記するとよいだろう。
また,ローマ数字部分が,第○章という記述になったり,数字以降が,1-1,1-1-1,
あるいは 1.1,1.1.1 と徐々に下に数字がつくような書き方になることもある。どのやり方
を選んでもよいが,ここに述べた順番が逆転することがあってはならない。数字の下にロ
ーマ数字が置かれたり,丸数字の下にカッコつき数字があってはならない。断じてならな
い。目次に書くときは,見出しのレベルが下がるごとに,字下げをして表記すると分かり
やすい。本文もその字下げをした表記で見出しを付けるとよい。
目次ができると,俄然やる気が湧くはずだ。なるほど,自分が話したかったのはこうい
うことだのか,と初めて気づくことも少なくない。頭の中をすっきり整理して,いよいよ
文章の執筆である。
2. 本文を書く
(1)イイタイコトをはっきりと
ここで思いつくまま書いてしまってはせっかくの目次がムダである。まずは目次の内容に
ついて,重要なことを文にしてみよう。重要なこととは,その見出しに関して自分がイイ
タイコトそのものである。一文書いて改行,一文書いて改行,でよい。書けたら,その文
の内容を説明する文章をそれぞれのあとに続けて書く。初めに書いた文とその説明で一つ
の段落が出来上がる。この時,一文あるいは二文だけで構成される極端に短い段落ができ
2
見たことないですけどね。
4
たら立ち止まろう。別の段落と内容が重複しているか,説明が足りないかのいずれかであ
る。別の段落に統合したり,説明する文章を書き足したりすることが必要である。
次に,できた段落の順番を考えよう。段落ごとの繋がりが分かるように,接続詞を使う
とよい。ただし,論文で使うべき接続詞と使うべきでない接続詞があることに注意が必要
である(表 2)
。表 2 に示した「使うべきでない接続詞」は,理論的な展開を阻害するもの
(そして)と,子どもっぽいもの(だから,なので)に大別できる。
「子どもっぽいからと
言って使うべきでないというのはおかしい」と思う人は幼児語で話しかけられたらどうい
う気分になるかを考えてみるとよい。バカにされているような気分になるだろうし,相手
の知性にも疑いを持つだろう。相手を不快にさせたり自分の知性が疑われるようなことは
しないに限る。
こうしているうちに,目次で書いたのとは違う順番の方がよいことに気づいたり,足り
ない章や節があることに気がついたりするかもしれない。その場合は,目次の方を書きな
おしてよい。はじめに作った目次を基本として,常に全体像を意識して書くことが重要な
のである。
(2)短い文を書く
文や文章を書くときに注意しなくてはならないのは,句読点が極端に少なく(あるいは
多く)なっていないか,という点である。特に句点(。
)の少ない文章を書く学生が多いの
で注意したほうがよい。句点の少ない文がどうしてまずいか,この文を例に説明すると,
句点が少ないとどうしても一つ以上の話題が文の中に入ってきてしまい,内容が混乱する
ことで,その文で書き手が何を言いたいのかが分かりづらくなり,読み手にとっては何が
言いたかったんだろうということになってしまって,文法的にも問題が生じてしまうこと
もあるので, やめた方がよいのだ。このような文を書かないようにするためには,まず自
分のくせを知ることが重要である。指導してくれる先生やゼミの仲間に書いた文章を読ん
でもらおう。そして,文が長すぎないか,読点(,
)の数は適切か,よくチェックしてもら
うことが一番だ。
文が長くなって句点が少なくなってしまう,という人は,とにかく言い切ることを意識
することが重要だ。また,
「・・・・し,
」「・・・・・して,
」など,
「連用形+読点」は危
表 2.使うべき接続詞と使うべきでない接続詞
種類
使うべき接続詞
使うべきでない接続詞
順接
したがって,そのため
なので,だから,そして
逆接
しかし,だが
でも,だけど
転換
一方
付加
加えて,さらに
それに,そして
言い換え,まとめ
つまり,すなわち
というか,要するに
5
険なサインであることを覚えておこう。句点を打ち,接続詞を用いて次の文を書くほうが
分かりやすくなる場合が多いからである。
(3)途中で名前を変えないで
概念や尺度などに自分で名前をつけることがあるだろう。そのときは,その名前をずっと
使わなくてはならない。途中で一文字でも変えてはならない。一文字変えた途端に別のも
のになる例はたくさんあるはずだ。
「ライフスキル尺度」と名付けたのに,途中で「対人ス
キル」と呼んだり,
「日常生活スキル」と呼んだりしてはならない 3。
(4)漢字で書くかひらがなで書くか
ワープロを使って卒論を学生が多いため,
「漢字で書くべきところをひらがなで書いている」
という事態はほとんど目にしない。一方で,
「ひらがなで書くべきところを漢字で書いてし
まう」ということは多い。表 3 に,ひらがなで書くべきなのに漢字にしてしまうものベス
ト 10 を掲載した。癖になっている場合もあり,すぐには直らないことが多い。また,特定
の一つだけではなく,ベスト 10 をすべて漢字で書くツワモノも少なくない。まずは自分の
書いたレポートと照らし合わせてみよう。
3.図表をかく
図表は読み手の理解を助けるために,提示したい情報を圧縮して示すことが目的である。
したがって,読みにくい表や,見て混乱する図ならない方がよい。図表を書くためのポイ
ントを表 4 に提示した。ただし,図表をかくルールは学術領域によって異なることもある。
一番よいのは,自分が最も参考にした論文や書籍の中の図や表をよく見て,内容だけでな
く書き方をまねすることが重要だ。
見やすい表を作るためには,エクセルは使用しない方がよい。少なくとも,エクセルで
作成した表をそのままプリントアウトしない方がよい。そもそもエクセルは表計算のため
のソフトなので,見やすい表を印刷する,という目的にはあまり適していない。フォント
(基本的にゴチック体)が読みづらい,改行が思うようにできない,印刷位置の指定がし
にいなどの問題がある。表はワープロソフトを利用して作成するほうがよいだろう。
表 3.ひらがなで書くべき漢字表記ベスト 10 4
為(ため)
,事(こと)
,何故(なぜ),と言うこと(いう),尚(なお),
出来る(できる)
,無い(ない)
,且つ(かつ)
,従って(したがって)
,
但し(ただし)
,纏める(まとめる)
,
3
本論文でも「ボブ・マーレー」
「ボブ・マーリー」と呼び方が変わってしまっている。これをやってはダ
メなんである。資料をもとにどちらかに統一すること(この場合は(「ボブ・マーリー」が一般的なような
のでそちらに統一するべき)
。自分では気づきにくいので,他の人に読んでもらおう。
4 11 列挙しているのは,
「ただし」と「まとめる」が同順位のため(苦しい言い訳)
6
表 4.表作成のポイント
観点
表の位置
全体の形式
ポイント
・本文中に貼り付けるなら上下左右の端に寄せる
・別紙で添付するなら 中央に印刷する
・内容がよくわかるタイトルをつける(表は上,図は下に)
・罫線は最低限にする
・行間には余裕を持たせる
・ゴチック体は最小限にする
・繰り返し同じことを記載しないで済むようにする
数値を示す
・表全体で小数点以下の数字を揃える(小数点以下第 2 位
までにするなら,3 ではなく 3.00 とする)
・小数点の位置を揃える
4.引用文献を示す
卒論の審査を行なう先生がまず見るのが「引用文献」のリストである。このリストの充実
で,卒論のできのよさが 8 割がた予測できると言っても過言ではない。引用文献を軽視し
ている学生はすぐに考えを改めるべきである。卒論の文献が少ない,インターネットの URL
が並ぶ,文献がよく分からない順番で並んでいる,という文献リストは,卒論不合格への
近道である。
引用文献について,重要なことは,
「自分が思いつく程度のことはすでにだれかが考えて
いるに違いない」と考えること,そして,文献を読んで,「もうすでにだれかがやってしま
った」とがっかりしないことだ。だれかが考えたことや調べたことは,自分のアイデアを
磨く材料である。反対に,
「ヤバイ」と思わなくてはならないのは「適切な先行研究や文献
がない」と思えるときである。文献は,自分の主張を支える土台だと考えよう。土台がや
わな家はすぐに倒れる。しっかりした土台を築くためには,十分かつ適切な文献が必要で
ある。
「文献がない」というのは,自分の卒論にとって致命的だということを覚えておこう。
「文献がない」という場合,考えられる可能性は二つである。第一の可能性は,並みい
る過去の偉人が思いつかなかったほどの素晴らしいアイデアが降臨した,という事態であ
る。残念だが,こういうことは宝くじレベルでしか起こらない。第二の可能性は,自分が
十分な文献調べをしていない,ということである。卒論の場合,危惧すべきはこの第二の
可能性である。必要な文献はあるのに「自分が考えていることとはちょっと違うから,こ
れは必要ない文献だ」と判断してしまい,結果として「文献がありません」という事態に
なる,ということもよくある。これはヤバイ 5。読んだ文献をまとめたうえで,指導してく
れる先生のところに駆け込むことをお勧めする。
さて,十分な量と質の文献を入手したとして,その文献を本文と文献リストに提示しな
本当にとてもヤバイ。文献が 4~5 点(書き手が不明なインターネットサイトは基本的に含めません)と
言うときは「ない」も同然なので危機感を持って対処すべきです。
5
7
くては,読む人にとって存在しないのも同様である。本文に記載した内容には文献を示す
こと,示し方の詳細は,学問領域によって異なる。大正大学教育人間学科 (2012) を参照
しよう。ここに書かれたルールに従っていない場合は,論文を受け取ってもらえない,と
認識する必要がある。
第3章
まとめ:指導を受ける心構え
以上では,卒論を書くために必要最低限の形式について,大正大学生が犯しがちな間違い
をもとに記述してきた。第 2 章の内容は,必要最低限の,
「受け取ってもらう」ための書き
方解説であることを最後に強調したい。
よりよい卒論にするためには,第 1 章で述べたように,直接指導してくれる先生とよく
話し合い,仲間の力を借りながら,自分の力を発揮していかなくてはならない。特に先生
の力をうまく活かすことが重要である。そこで,最後に,先生から指導を受ける際の心構
えを 2 点挙げる。
第一の心構えは「いいからまず全部書いて持っていくことが大事」である。ちょこっと
書いては「添削してくださーい」という学生がいるが,教員の立場からするとこれは「無
茶ぶり」である。全体を通して書かれたものがあって初めて指導が成り立つ。ときに「こ
こまで書いて持ってきなさい」と途中で提出を求める先生もいるだろう。これは添削のた
めではなく,そのように〆切を作ることで学生のペースを上げさせることが目的である場
合がほとんどである。
「第 1 章を書いて提出したのに先生が添削してくれない」ってそれは
当り前ですよ,ということを肝に銘じるべし。先生はちゃんと読んでいる。だがまだ「添
削」
「指導」する段階ではないのである。
第二の心構えは,
「先生は,一度に,必要かつ十分な指導をすることができない」である。
先生がダメなのではない。特に不十分な点が多い原稿を目にした時,指導教員は「とにか
くまず直してもらわないことには話が始まらない」というところを中心に指摘をする。そ
れを直して持ってきたら,
「じゃあ次に何とかしないと明らかにまずい,まずすぎる」とい
うところを指導する。そこがなんとか直ったら,
「直さないと評価がかなり低くなるだろう
な」というところ,次に「直したらもっと良くなるぞ」と思われるところ,
「欲を言えばこ
こももうちょっと!」と指摘のレベルを上げていく。「なんだよ,一度に言ってくれよ」と
思うかもしれない 6が,それは傲慢というものである。はじめの原稿が不十分であればある
ほど,そして,先生の要求レベルが高ければ高いほど,OKはなかなか出ないと理解しよう。
よい卒論は「今の自分の力」で書くものではない。仲間や先生の助けを借り,卒論を書
く過程を通して学びながら,書いていくものである。先生たちは,すべての学生が,卒論
を通して卒業後の仕事や人生に有益な知識や力を高めることを期待している。大正大学で
卒業論文が必修なのは,そのような期待からである。これから卒論執筆を行なう学生諸君
の成長と先生方の健闘を祈り,本論文の結びとする。
6
私も卒論指導をしてくださった大学院生に対してそう思ったことがありました。今から思うと本当に申
し訳なく恥ずかしいので,ここで謝罪したいと思います。深谷先輩,小松先輩,石井先輩ごめんなさい。
8
引用文献
石井一成 2001.ゼロからわかる大学生のためのレポート・論文の書き方.ナツメ社.
大正大学人間学部教育人間学科(編)2012.
ゼミ・講義における大学生のためのコミュ
ニケーション基本ルールブック ver1.0.
戸田山和久 2002.論文の教室:レポートから卒論まで.NHK ブックス.
謝辞
調査にご協力くださいました大正大学の学生のみなさんにお礼を申し上げます。また,本
論文作成にあたっては,大正大学人間学部教育人間学科の先生方からご指導をいただきま
した。特に,滝沢和彦先生には,多くのご助言と励ましをいただきました。ありがとうご
ざいました。最後に,応援してくれた家族と一緒にがんばった仲間に感謝を伝えたいと思
います 7。
7
というように,お世話になった先生や家族に感謝を伝えよう。特に,調査や実験の協力者には感謝の言
葉を忘れずに。最終稿を作り,
「さあ提出」というときに書くと気持ちが盛り上がるのでお勧めである。10
月くらいに書いてもあまりピンとこないと思う。
9
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