...

エルサルバドル次期大統領選挙に立候補しよう(PDF/1.01MB)

by user

on
Category: Documents
9

views

Report

Comments

Transcript

エルサルバドル次期大統領選挙に立候補しよう(PDF/1.01MB)
タイトル
実践者/団体名
エルサルバドル次期大統領選挙に立候補しよう
千葉県立佐倉南高等学校 教諭 小島江津子
実施日・期間
2013年9月2日~11日 計4回
主な実施場所
佐倉南高校 体育館(9月2日)社会科教室(3日~11日)
参加者及び人数
目標・ねらい
具体的な
取り組み内容及び
工夫・配慮した点等
教材・資料
1年生地理B受講生 204人
今年度8月7日~17日 JICA 教員研修(エルサルバドル)に参加した。そこで
得られた途上国の問題やその解決策、日本の支援のあり方など様々な情報を生
徒に伝え、遠いよその国のこととしてではなく主体的に考えさせることで、人々
が幸福となるような社会づくりを模索する姿勢を育成し、世界の国々への関心、
理解をもった生徒を育成する。
・ 視聴覚教材や景観写真を用いて、日本との違いを発見させる。
・ グループディスカッションによって、気付いたことの共有や学び合う場を設
定し、言語活動を充実させる。
・ 模造紙に6つの問題点と対策を記入するためのレイアウトを用意して、考え
る内容を整理しやすくした。
9月2日全校集会:パワーポイントによる写真・動画、民族衣装
9月3日以後の地理B授業:写真、模造紙
授業の詳細は別添参照
授業期間前後に、エルサルバドルの資料コーナーを社会科教室に設置。
成果
・写真や動画や民族衣装を通して、エルサルバドルという国について好奇心を
持って生徒が取り組んだ。
・班別活動を通して、自分の気付いたことだけでなく、他の人の気付きも共有
でき、視野が広がった。
・地理の授業で、様々な国の様子を写真や動画で見せる機会があるが、ただ、
見せるのではなく、生徒に観察させ、気付いたことを共有しあう授業を実施
することが容易となった。
・日本での今の生活や価値観に疑問を持たずに生活してきた生徒達にとって、
世界の国の様子を知り、考えるきっかけとなった。
発展
・地理の授業でのVTR視聴の時間において、生徒の学習活動を拡大すること
ができた。例えば、ヨルダンのベドウィンの生活を紹介したVTRをこれまで
にも見せていたが、フォトランゲージの手法やグループ学習が定着したので、
ただVTRを見せるだけに止まらない学習活動になった。
-1-
1.テーマ学習「エルサルバドル次期大統領選挙に立候補しよう」
(1)エルサルバドル旅行記(全校集会)
パワーポイント計37枚構成30分間でエルサルバドル国の概要と海外協力隊の活動紹
介をした。VTRの中で現地の学生が民族衣装で踊る場面を見せながら、生徒代表者に民族
衣装を着てもらった。新聞記事は9月7日付け千葉日報
(2)エルサルバドル次期大統領選挙に立候補しよ
う(地理B授業)
社会科教室にエルサルバドルの地図と訪問先
及び協力隊員の写真・現地の教科書や教材・民族衣
装・石臼などを展示した。
ア
1校時
①テーマの提示
現大統領フネス氏の写真を提示。ニュースキャスターとして国の現状を見てきた経歴か
ら大統領に当選したこと、貧困対策の「学校へ行こう」キャンペーンを実施して支持率も
高いこと、次の2月で任期が終了することを伝えた。その上で、今回はシミュレーション
として班毎にエルサルバドルの大統領選挙に立候補するとしたらどんな政策を主張する
べきかを考える授業をしていくことを伝える。
②現状認識:「大統領になるにはこの国の現状を知る必要がある」
フォトランゲージ:写真からわかることを模造紙に書く→問題点を6つ(貧困、犯罪、
人材流出、ごみ問題、災害に脆弱、障害者の人権)に精選して、教員の問いかけに答えな
がら、エルサルバドルの現状を認識する。
フォトランゲージを通して生徒に伝えた6つの問題点は以下のとおり。
貧困:壊れかけた家や品物や服装の写真から貧困の程度を知る。
犯罪:銃を持ったガードマンと有刺鉄線で、日常的に強盗から身を守る必要があり、治安が悪
いこと。
人材流出:ATMの行列からアメリカへの出稼ぎ労働が200万人いること、一方で国内には
就職先が見つかりにくいこと。
ごみ問題:ごみが分別されていないこと、路上のビニルごみ・プラスチックごみから、先進国
の消費文化だけが入ってきてしまっている問題について。
-2-
災害に脆弱:幹線道路沿いの表土流出現場、川沿いの住宅の写真から、大雨の際にどのような
被害が発生するか。
障害者の人権:脊椎損傷により寝たきりになった人のベッドの写真から。障害者になったら一
生ベッドの上で生活するしかないという絶望感について。
貧しいから犯罪に走る人が増え、治安が悪いから海外企業の誘致が進まず経済が遅れ、就職
先もなく、だから、貧しさから脱出できない悪循環の中にあることを認識させる。
イ
2校時
①前回の確認
②対策案提示:「班で6つの問題点に対してそれぞれの対策案を出す」
フォトランゲージ:写真からわかることを模造紙に書く→現在、JICAが実施中の対
策、海外協力隊の取り組み例を紹介して対策を考える材料を提示。その上で生徒オリジナ
ルの対策案を班で出し合う。
貧困・犯罪・人材流出:「学校へ行こう」キャンペーンの無料給食配布、国立工業高校の実習、
100ドルパソコンの写真から、人材育成の重要性について。
ごみ問題:職業訓練校に設置された4つのゴミ箱の写真から、分別の意識付けについて。
災害対策:防災教育の実施風景から、防災意識を育てる活動の難しさについて。
障害者の人権:車椅子での移動が可能となった男性とリハビリに関わった青年海外協力隊員の
写真から、障害者が人としての尊厳をもって生きられる社会について。
③政策立案:
6つの対策案が出たところで、発表に向けた準備として教育大臣、
経済雇用大臣、福祉厚生大臣、防災大臣、それらを総括す
る大統領を誰が分担するかを決め、各大臣が6つの対策案
からどんな政策を提案するかを決める。政策案を模造紙に
清書。
④スローガン決定:政策案から班のスローガンを決定し、模
造紙に清書して完成。
-3-
ウ
3校時
① 審査用紙の配布と審査方法の解説
② 発表(大統領候補立会演説会)1班で5分以内。
③ 審査用紙の回収・集計・教員による講評(各班の良い点・改善点、活躍した生徒の良
かったところ)
(3)エルサルバドル授業実践の成果
全校集会や資料の展示、教員の写真紹介な
どによって、生徒が世界の国のことに関心をも
つようになった。大統領選挙に立候補しようと
いうシミュレーション学習では、遠い関係ない
国のこととして捉えがちな生徒に、途上国の現
状と対策を主体的に考えさせることができた。
話し合いの中で印象的だった生徒の発言を列記
する。
・ ゴミ分別の対策として、政府が清掃員を雇え
ば、雇用問題解決にもつながる。
・ ゴミ分別の教育を早い年齢から実施する。
・ 犯罪をなくすために、警察官をたくさん雇っ
て、犯罪者には厳罰化を進める。
・ 観光地開発や、儲かりそうな産業(コーヒー、
藍染め衣料、貝の養殖など)を政府が援助し、
人材を育成する学校を無償にする。
・ 海外へ出稼ぎに行く人の年齢制限をして、人材流出を防ぐ。または、海外で稼いだ人が帰
国して起業するように優遇する法律をつくる。
-4-
・ 治安を良くして、先進国の企業を誘致する。
・ (貧困の連鎖に気づいた生徒から)途上国が豊かになるのには外国からの支援がないと難
しい。
・ まだまだ知らないことが多すぎて現実的な政策を提案できない。
2.発展 授業実践「ヨルダンにおけるベドウィンの生活を知る」
地理Bの授業では、1年間を通して世界各国の気候風土と農業、衣食住などの生活様式、文
化などを取り扱うことで、地理的条件と生活様式との因果関係や、世界の多様性を理解するこ
とを授業の目標にしている。エルサルバドルの授業実践の後に実施した西アジアでの授業にも、
エルサルバドルでの授業や研修を活用して発展させる授業ができた。具体的には次のような授
業を行った。
(1)1校時
①砂漠気候とオアシス農業から「なつめや
し」の試食をし、何に似た食べ物か述べ合う。
②ベドウィンの女性の民族衣装アバヤの試着。
③6×8センチの紙片を1人10枚程度配
布。VTR(12分程度)を見ながら、ベドウ
ィンの衣食住で日本と違うところ、気付いたこ
とをできるだけたくさん1枚に1項目記入して
いく。
④クラスを5人×8班に分割し、班毎に自分
の書いた紙片を持ち寄り、同じ内容ごとに分類
する作業をする。
⑤班で分類した紙片を模造紙に貼って、分類
名を書く作業をする。
(2)2校時
⑥各班の模造紙を掲示し、作品を紹介しあう。
⑦ベドウィンの生活と気候風土との因果関係
についての解説授業を行う。
(3)発展授業の成果
従来の授業では、⑦の解説授業だけ、あるいはVTRを見せて解説授業をしていた。しか
し、エルサルバドルでの研修を経験してからは、生徒が異文化を理解するためには、現地の
生活を主体的に観察する機会を用意することが大切であると感じるようになった。
「教室にい
ながら世界旅行を」というのであれば、教員がエルサルバドルで見たり聞いたりしたように、
生徒もVTRでよく観察するという課題設定が必要で、このような方法をとることで、漠然
とVTRを見るだけという状態の生徒がいなくなった。また、集めた観察カードを班で読み
合い、分類する作業を通して、生徒達がいくつもの視点から観察する重要性、さらに、自分
以外の人の別の視点にも目を向けることで生徒個々に新しい発見があった。
添付した資料は、班で観察カードをまとめたものである。単に、衣食住の違いだけでなく、
社会システムなどにまで着目して、より深く理解していることがわかる。
-5-
3.生徒からの感想
一連の授業後に生徒が書いた感想
文から、生徒の意識変化について触
れておきたい。
(ア)途上国に対するネガティブな感想
・ 僕達がエルサルバドル人と比べて
どれだけ幸せなのかをよく知らさ
れました。
・ ゴミだらけで、ろくな家もなくて
学校にも行けない貧乏な子供がい
て可哀想だと思った。
・銃や有刺鉄線がないと暮らせないなんて日本に生まれて良かったと思った。
(イ)世界の多様性と共存について気付いた感想
・国が豊かではないが、一生懸命工夫して自分たちの力で生きていることがすごいと感じた。
日本は比較的豊かな環境で食べ物もたくさんあり、食べ残しもたくさんある。途上国のこと
をもっと考えるべき。
・世界は文化も違えば宗教も言語もそれぞれ違う。だからこそ世界中が認め合っていかなけれ
ばいけないと思います。
・世界では色々な人たちが暮らしていて、人種も違えば宗教も違うというのに、同じ世界に住
んでいるというのが、不思議なことだと思います。
・日本は他の国に比べたら平和な方なんだなと改めて感じた。戦争をしている国や犯罪の多い
国もあって、日本も平和だとは言いきれませんが、恵まれてはいるなと思いました。それに、
それぞれの国の食文化や宗教などもすごく違って面白いと思いました。
(ウ)南北間格差とその解決について触れた感想
・日本やアメリカ等の国は、生活がしやすくて余分な物がたくさんある。途上国や難民が多い
国のことを私達は考えられていない。もう少し、目を向けたらいいと思う。
・自分は世界のことを全然知らないんだなと改めて思いました。当たり前のように生活してい
るけど、生活するのが厳しい国もたくさんあるんだなと思いました。
・日本の優れたエンジニアや農業技術者が途上国に教えに行けば、途上国の問題が解決してい
くと思う。そういうことがしやすいように国がもっと動けばいい。
今後、3月までに南アジア、東南アジア、東アジア、オセアニア、北米、南米、アフリカ
と世界各国を巡る授業の旅は続くので、そこでも世界の国々の多様性をより良い授業方法で
生徒に伝えていきたいと考えている。3年前にエコキャップ運動を生徒の発案で始めたよう
に、このような取り組みを重ねている中から、生徒が主体的に解決に向けた活動を提案して
いく機が熟すのを待ち、私たちが世界とつながっていること、世界の人々に目を向けていく
ことを授業で伝え続けていきたい。
-6-
Fly UP