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株式会社秀峰(福井県福井市)
】Server/特許庁 産業財産権活用企業実例集2008/産業財産権活用企業実例/04 近畿地域 2009.02.25 17.38.11 P 株式会社秀峰(福井県福井市) ~特殊印刷技術でものづくり日本大賞も受賞~ 1.曲面印刷への挑戦 元は銀行マンだった村岡社長は、眼鏡の流通機構の革新と直販体制の構築を目的とし て、1 9 8 3年(昭和5 8年)に株式会社秀峰を創業した。国内外で特許を取得した特殊眼鏡を 販売するなどの事業を展開していたが、その反面失敗も経験し、紆余曲折の道のりであっ た。 今のような特殊印刷分野に進出したきっかけは、結婚式の引き出物である。当時ギフト 産業に乗り出そうとした村岡社長は結婚式の引き出物の金杯に出席者の顔写真を印刷する アイデアを持っていたが、曲面へのダイレクトな印刷はどこの印刷業者からも「出来ない」 と言われ、計画は頓挫していた。ならば自分たちでやってみようと現在工場のある福井市 小稲津町にプレハブを建て、研究すること3年、ついに曲面印刷技術が完成した。 そして、同社は印刷業に特化し、福井県の特産品である眼鏡、漆器、箸への印刷を開始 した。特に、眼鏡への印刷技術については、当時転写紙を使用する方法が一般的であり、 時間とコストがかかる割には仕上がりが均一でないという欠点があったが、同社の技術に よりそれらの欠点は解消されることとなった。 2.多種多様な印刷技術 近 畿 地 域 「ひとがやらないことをやる」という社長のポリシー通り、同社が得意とするのはドッ トの小さい印刷、極細導電配線印刷、ポリエステル材・アルミ材等の材料に浸透させて立 体感を出す加工や、印刷マスキング技術による金属エッチング加工、印刷上に異物が乗ら ない特殊印刷により印刷上以外が盛り上がることで手触り感、高級感を出す凹凸印刷など である。 特に曲面に印刷する場合には、画像が伸びないよう予めドットを小さくする必要がある 0程度のドットで特殊な版が作成可能であ が、同社の技術によれば、一般印刷業界の1/1 る。また、短時間に印刷できることから、デザイナーが来社してその日のうちに印刷物を 持ち帰ることもできる。 極細導電配線印刷は印刷上にメッキを付ける方法のため、従来の配線技術(フォトエッ チング)とは違い、エッチングを行わず、クロム及び剥離剤を使用しないため、環境にも 配慮した技術といえる。 現在これらの技術は携帯電話、眼鏡のフレーム、髪留めなどのアクセサリー及び自動車 部品等広範囲に応用されている。 平成1 9年には「特殊印刷方式による球曲面への高精度印刷技術、及びこれを応用した多 機能技術」で第2回ものづくり日本大賞内閣総理大臣賞を受賞している。 98 近畿地域 】Server/特許庁 産業財産権活用企業実例集2008/産業財産権活用企業実例/04 近畿地域 特許活用企業事例集 2009.02.25 17.38.11 P Vol. 3 株式会社秀峰(福井県福井市) 3.積極的な出願 特許は防御力であり、独占できる物を作らないと生き残っていけないとの考え方から、 1 0年で1 0 0件と、特許出願を積極的に行っている。 明細書のキーとなる部分は自社で作成しているが、出願については、村岡社長が以前か ら交流のある特許事務所に出願書類の作成、先行技術調査や知的財産の管理などを依頼し ている。 ●保有権利に基づく製品例 局面へのフルカラー印刷 令 600倍に拡大 10ミクロンで印刷配線 ●会社概要 名称及び代表者名 株式会社秀峰 本 社 所 在 地 福井市大土呂町2-5-5 創 業 1982(昭和57)年 金 4億3,000万円 資 本 代表取締役 村岡 貢治 従 業 員 数 70名 主 要 製 品 特殊眼鏡、特殊印刷(球面、曲面印刷)、極細配線通電印刷 電 話 0776-39-0800 L http : //www.shu-hou.co.jp U R 近畿地域 99 】Server/特許庁 産業財産権活用企業実例集2008/産業財産権活用企業実例/04 近畿地域 2009.02.25 17.38.11 P 株式会社井之商(滋賀県大津市) ~採光の贈りもの「スカイライトチューブ」で太陽光のある生活を提供~ 1.町の電気屋からの発明へ 株式会社井之商は、自然を活かす技術で、社会に役立つことを理念として、太陽光照明 システム「スカイライトチューブ」事業を展開している企業である。 同社の井上社長は、元々、滋賀県の「町の電気屋さん」として地域密着型の電気機器の 小売業を営んでいたが、周辺に進出する大型家電量販店との価格競争が激化するにつれ て、将来に不安を持つようになり、新たな事業の必要性を感じた。そして、 「何かオンリー ワンになれるものはないか。 」と新たな事業を模索し、顧客にアンケートを実施した結果、 「家の中が、昼間なのに太陽の光があたらなくて暗い。 」 というニーズを見出した。そして、 これをヒントに、1 9 9 5年、太陽光照明システム「スカイライトチューブ」 の開発に着手し、 2 0 0 4年、 「ゼロエネルギー太陽光照明と電気照明・換気との一体化」をテーマに創造法の 認定を受けて、同事業を本格的に開始した。 2.「スカイライトチューブ」と「スカイマスター」 「スカイライトチューブ」は、屋根面に設置したドーム内のシェル型の反射鏡で太陽光 を効率よくキャッチし、特殊なアルミ製チューブ内をプリズム反射させながら室内に導く というシンプルな構造で、これまで太陽光の届きにくかった部屋や廊下に、柔らかい自然 近 畿 地 域 光を取り込む太陽光照明システムである。 開発当初、井上社長の中には、 「太陽光は直進する。 」ということしかなかったが、太陽 光照明に大いなる可能性を感じ、4 0 0 0件を超える顧客の豊富な人脈を活用して開発に取り 組んだ。そして、海外から鏡の反射率より高い材料を探してきたり、屋根に空けた穴から の雨漏りや紫外線の問題を独自の方法で解決するなど、様々な工夫を重ねて「スカイライ トチューブ」を完成させた。 この太陽光照明システムは、自然光を利用するため、昼間の電気節約や CO2排出削減 ができることが大きな特徴で、関西ニュービジネス協議会大賞を初めとする多くの賞を受 賞している。 平成1 6年に本格的な販売を始めて以来、販売台数は累計で9 0 0台を突破し、現在は、家 庭用のみならず、企業向けの「スカイマスター」も開発して、事業を拡大している。 同社は、さらなる太陽光エネルギーを生かした技術で「電気代のいらない照明の時代」 を目指し、今も開発を続けている。 3.知財専門家の活用 同社は、知財についてはさほど意識は高くなかったが、滋賀県中小企業支援センターの 専門家派遣制度を利用した際、知財専門家として弁理士の派遣を受け、これを機に特許を 意識するようになったという。今では、専門家派遣で知り合った弁理士に先行技術調査を 100 近畿地域 】Server/特許庁 産業財産権活用企業実例集2008/産業財産権活用企業実例/04 近畿地域 特許活用企業事例集 2009.02.25 17.38.11 P Vol. 3 株式会社井之商(滋賀県大津市) 依頼するほか、井上社長が思い描くアイデアを図面化できるよういろいろと相談やアドバ イスを受けて発明の権利化に努めている。 同社は、自然を活かす力で社会の役に立つという理念のもと、社会貢献できる技術の開 発を目指している。 ●保有権利に基づく製品例 スカイライトチューブ施工後 企業向けスカイマスター ●会社概要 名称及び代表者名 株式会社井之商 本 社 所 在 地 滋賀県大津市平津1丁目22番14号 創 業 1975(昭和50)年 金 1,000万円 資 本 代表取締役 井上 昇 従 業 員 数 9名 主 要 製 品 採光装置「スカイライトチューブ」「スカイマスター」 電 話 077-537-3976 L http : //www.skylighttube.co.jp U R 近畿地域 101 】Server/特許庁 産業財産権活用企業実例集2008/産業財産権活用企業実例/04 近畿地域 2009.02.25 17.38.11 P 株式会社宇治田原製茶場(京都府宇治田原町) ~ネーミングと商標権の知財戦略~ 1.商標導入による知的財産の活用 株式会社宇治田原製茶場は、全国的にも有名なお茶の産地京都の宇治田原町で昭和元年 に創業し、日本茶の製造・卸売並びに通信販売を行っていたが、販売の拡大とともにおよ そ3 0年前からは、すべて通販カタログによる消費者への直販に切り換えた。 会社設立当初は、商品のネーミングの際は、商標権についてあまり重要視していなかっ た。商標権の活用を見直す機会となったのは、昭和5 2、3年頃、同社が製造・販売したお 茶の銘柄にその商標権をもつ者からクレームを受けたことであった。これを契機に商標の 重要性に目覚め、以来、先行商標調査を実施するようになった。現在は弁理士との相談は 欠かさず、先行調査についても知的財産担当者を通じて弁理士に先行商標調査を依頼して いる。なお、商標を意識し始めた3 0年前は京都の弁理士会に行き、 「文字商標集」を手め くりで確認していた。 2.商品のネーミング 同社の商品は、営業担当の3 0名が「お茶」 、 「健康食品」 、 「一般食品」 、 「雑貨」に分かれ てネーミングを検討しており、長い期間の販売が可能な基幹商品と2ヶ月程度の販売期間 の季節物の商品とに分けて商標権の対策を講じている。季節物の商品の場合には、他社が 近 畿 地 域 保有する登録商標に抵触していないかの確認を行った上でネーミングを行い、基幹商品の 場合には、抵触のみならず、登録商標として長く利用できるように、その商品名が商標登 録可能であるかの調査も行うこととしている。なお、商品名を権利化できるまでは、他社 の侵害行為になるおそれがあるため、カタログには使用しないように配慮している。 商標登録の目的は、他社の商標を侵害しないためというよりは他社製品との差別化を図 るためであり、同社では、お客様への想いがこもり、お客様に喜ばれ、お客様の満足度を 上げる様なネーミングを目指している。 3.通信販売のネーミング権利の獲得 カタログに掲載する新商品は、商品のカタログへの掲載を望むメーカー、企業からの申 込みによるもののほか、市場ニーズ(顧客による無作為アンケートにより判断)に基づい て担当者が新商品を立案する。 他社製品の場合であっても、通信販売カタログに掲載する商品については、同社独自の 商品設計を行い、ネーミング決定権は同社が獲得し、基本的に同社の担当者がネーミング を行う。 同社がネーミング権を有するのは、通信販売は紙面が限られていることもあり、登録商 標にとらわれず読者の目にとまることが重要であると考え、商品のイメージにあったネー ミングで、読者を惹きつけるためである。 102 近畿地域 】Server/特許庁 産業財産権活用企業実例集2008/産業財産権活用企業実例/04 近畿地域 特許活用企業事例集 2009.02.25 17.38.11 P Vol. 3 株式会社 宇治田原製茶場(京都府宇治田原町) 4.商標権による流通戦略 同社の主要流通戦略の通販カタログで使用している「茶の間」は、家族が集いお茶を飲 みながら団らんする場であり、なにげない一杯のお茶がもたらす、 「和みのひととき」の 大切さを通して、今忘れられている日本の家庭の「茶の間」の大切さがいつか見直される ときが来ることを確信し、また「全国の皆さまに、居ながらにして宇治田原製茶場の良質 なお茶をお楽しみいただきたい」 という思いから名付けられた。 (1 9 8 0年通信販売雑誌 「月 刊茶の間」発行) 。 カタログの名前である「月刊 茶の間」は、創刊当初は他社が類似の商標登録を行って いた。発行部数が増加するにつれ、警告を受ける可能性を危惧して、弁理士に相談し、権 利を不使用で取り消したうえで、平成7年に自社の商標として権利化した。 ネーミングの保護活用等に力を入れることで、他社への防御や自社商品の円滑な流通を 図れるよう商標権の対策を施している。 ●保有権利に基づく製品例 こいまろ茶袋 通販カタログ「月刊 茶の間」 ●会社概要 名称及び代表者名 株式会社宇治田原製茶場 本 社 所 在 地 京都府綴喜郡宇治田原町郷之口小字紫坊4番地1号 創 業 1926(昭和元)年 金 5,000万円 資 本 代表取締役 従 業 員 数 240名 主 要 製 品 緑茶・食品を中心とする通信販売 電 話 0774-99-8080 L http : //www.chanoma.co.jp/ U R 安井 徳昭 近畿地域 103 】Server/特許庁 産業財産権活用企業実例集2008/産業財産権活用企業実例/04 近畿地域 2009.02.25 17.38.11 P 尾池工業株式会社(京都府京都市) ~伝統技術を利用して新たな事業領域に挑戦~ 1.伝統技術を元に多様な高機能フィルムを開発 尾池工業株式会社は、京都の伝統産業である刺繍用の金銀糸の製造販売を原点とし、 1 8 7 6 (明治9)年に創業した。1 9 5 6年に先代社長が京都市工業研究所(現京都市産業技術研究 所)で真空蒸着技術のデモを目にしたことがきっかけとなり、国産初の半連続真空蒸着機 を導入し、技術開発の結果、連続真空蒸着技術を生み出した。これにより同社は金銀糸用 蒸着フィルムの量産化を実現し、金銀糸業界においてその地位を築いた。その後はこの技 術を元にして応用研究を重ね、業界に先駆けて転写箔や包装材料、工業材料など付加価値 の高い真空蒸着製品の開発を行ってきた。 2.基幹技術を発展させ環境にも配慮した商品へ 同社の転機となった商品に 「エルジー」 がある。同社では、従来の伝統技術を革新して真 空蒸着技術を使うことで省力化、量産化、コストダウンを実現してきたが、それをさらに 発展させて厚さ2ミクロン、大きさ2 0ミクロンの軽量な高輝度メタリックパウダーを開発 した。このパウダーを用いれば多彩な色調を出すことが可能なため、漆器への加飾、イン キ材料への添加、家電製品の装飾など伝統工芸製品以外の産業にも幅広く活用されている。 また、同社は、制電性や紫外線カットなどの機能を転写する機能性転写フィルムの開発 にも成功し、建材や産業材などに幅広く利用されている。 次に開発したナノレベルの鱗片状の蒸着微粉「リーフパウダー」では、球状微粉や従来 の蒸着微粉に比べ比表面積が大きく、高アスペクト比を実現しており、この形状特性によ り塗膜への緻密感やフリップフロップ性を付与するなど塗装や印刷時に優れた意匠効果を 発揮している。この商品は、メッキの代替となることから環境へも配慮したものとなって いる。 同社では、こうした真空蒸着技術や事業製品に関連する多くの特許を保有している。 近 畿 地 域 3.開発段階から特許を意識 同社は、新しい製品開発に取りかかる際には、常に特許を意識している。商品化できな いと意味がないとの認識のもと、開発段階から先行技術調査には力を入れており、知財担 当者だけでなく開発担当者が自ら調査できるよう社内の研修、ひいては人材育成を大事に している。海外特許出願などは弁理士を活用しているが、国内出願は自社で対応が可能な 体制となっている。 また研究者のインセンティブ向上のため、特許に関する報奨金制度も設けている。 大学の町京都に所在することから、大学との共同研究の機会は多く産学連携にも取り組 んでいる。 4.事業領域の拡大を目指しての製品開発 近年は情報関連製品の需要増加に伴って、タッチパネル用透明導電性フィルム、フラッ トパネル用光学フィルム、フレキシブル回路基板用導電性フィルム等の売上が堅調に推移 104 近畿地域 】Server/特許庁 産業財産権活用企業実例集2008/産業財産権活用企業実例/04 近畿地域 特許活用企業事例集 2009.02.25 17.38.11 P Vol. 3 尾池工業株式会社(京都府京都市) している。同社では、今後、市場の拡大が期待される環境・エネルギー関連製品や自動車 関連製品をターゲットに事業領域の拡大を目指している。 ドライコーティングもしくはウェットコーティングのみを行っている同業者が多い中、 「ドライもウェットもコーティングなら尾池工業」という意識のもと、独自のテクノロジー に磨きをかけ、優れた素材を提供できるよう果敢に製品開発や事業展開を行っている。 ●保有権利に基づく製品例 エルジー 鱗片状蒸着微粉 透明導電性フィルム使用 リーフパウダー 成型用蒸着フィルム 「エコモールド」成型品 ●会社概要 名称及び代表者名 尾池工業株式会社 本 社 所 在 地 京都市下京区仏光寺通西洞院西入ル木賊山町181番地 創 業 1876(明治9)年 金 2億240万円 資 本 代表取締役 尾池 均 従 業 員 数 600名 主 要 製 品 金属蒸着フィルム、反射防止フィルム、透明導電性フィルム他 電 話 075-341-2151 L http : //www.oike-kogyo.co.jp U R 近畿地域 105 】Server/特許庁 産業財産権活用企業実例集2008/産業財産権活用企業実例/04 近畿地域 2009.02.25 17.38.11 P シーシーエス株式会社(京都府京都市) ~ビジネス方針と一体化した知財戦略で無駄のない権利化~ 1.画像処理用 LED 照明のリーディングカンパニー シーシーエス株式会社は、FA の検査工程において、キズやヒビ、異物混入などの不良 箇所の検出を行うための画像処理に用いる LED 照明とその制御装置の製造メーカーであ る。1 9 9 3年に設立し、1 5周年を迎えたばかりの若い会社だが、同製品分野の国内シェアは 6 0%、海外シェアも4 0%を超える企業である。従来、画像処理にはハロゲンランプが光源 として用いられていたが、近年は、LED の高輝度化に伴い、熱の発生や消費電力が少な く、より柔軟な配置が可能な LED が多く用いられるようになった。このため LED 照明の 研究・開発に早くから取り組んでいた同社は、業界の先駆的な企業となった。 2.ビジネス方針と一体化した知財戦略で無駄のない権利化 同社の経営陣は常に知財に関する状況を把握し、技術者でもある社長の指揮の下でビジ ネス方針に沿った知財戦略を進めており、 取得した特許の7割以上が製品に使用されている。 出願の可否と出願の内容については、社長と顧問弁理士が参加する検討会で決定され る。また、拒絶理由への応答等権利化に至るまでの対応や、権利化後の他社との調整など も、社長自らが参加し、事業の方向性に一致した特許の活用に努めている。 新技術は出願し権利化するのが同社の基本的な方針であるが、リバースエンジニアリン グにより模倣される可能性があることから、製造方法の技術については、 あえて出願せず、 ノウハウとして管理をしている。 近 畿 地 域 3.徹底した先行技術調査で侵害を回避 同社では、新技術の構想・開発段階から先行技術および他社の技術動向の調査を行い、 調査結果を開発テーマの選定に利用するとともに、権利侵害の可能性を徹底して回避する よう努めている。研究担当者が自由に調査できる環境を整備するため、パトリス、日本パ テントデータサービス、IPDL などの検索エンジンを導入している。また、特許性がない と判断した技術についても、営業の側面から権利化が有利と判断された場合などには、意 匠出願を行い、デザイン面から保護を図っている。 出願時における先行技術調査は発明者本人および知財担当者が行っているが、弁理士を 活用することもある。また、技術開発の段階に応じてレビューを実施、開発初期を中心に 各段階における他社の特許情報を確認し、権利化済みの技術はもちろんのこと、出願中の ものであってもそれを回避するための設計変更を随時行っている。 同社では、顧客企業からの相談・ニーズにより開発が行われることが多く、共同研究を 行うケースも少なくないため、先方企業が持つノウハウの取り扱いや、同社のアイデアに 基づく発明の帰属の問題、秘密保持契約などには充分な注意を払っている。 4.権利侵害に対しては守りと攻めを併用 同社の特許侵害に対する基本姿勢は「守り」であり、他社権利に抵触して製品が出荷で きなくなることは、あってはならないことと位置づけている。また、製品やカタログには 「特許取得済」 「特許出願済」と明示し、他社参入の障壁を築くとともに権利侵害の防止に 努めている。 106 近畿地域 】Server/特許庁 産業財産権活用企業実例集2008/産業財産権活用企業実例/04 近畿地域 特許活用企業事例集 2009.02.25 17.38.11 P Vol. 3 シーシーエス株式会社(京都府京都市) 展示会や営業活動で発見した模倣品に対しては、その製品の確認を行い、情報をデータ ベース化するとともに、同社の権利を侵害している場合には警告を行うなど、妥協を許さ ない強い姿勢で臨んでおり、訴訟にまで発展したケースもある。 5.社内研修で知財に厚みを 同社では、技術開発経験者が知財実務を担当している。知財担当者は、普段から開発担 当者とのコミュニケーションを大事にしており、知財に関する相談にはすぐに応じられる 環境を作っている。 また、月に1度、弁理士や経営コンサルタント等を講師に招いて、開発担当者を対象と した知財研修を実施するなど、 “普段行っている研究開発の中にも、特許になるアイデア がある”という考えを社内に根付かせている。開発担当者の知財に関する意識を向上さ せ、最終的には、発明者となる人を多く出すのが狙いだという。 ●保有権利に基づく製品例 フラット・ドーム照明 LFX シリーズ リング照明 LDR2/SQR シリーズ ●会社概要 名称及び代表者名 シーシーエス株式会社 本 社 所 在 地 京都市上京区烏丸通下立売上ル桜鶴円町374番地 創 業 1993(平成5)年 金 4億6,035万円 資 本 代表取締役社長 従 業 員 数 203名 主 要 製 品 画像処理用 LED 照明装置とその制御装置 電 話 075-415-8280 L http : //www.ccs-inc.co.jp/top.html U R 米田 賢治 近畿地域 107 】Server/特許庁 産業財産権活用企業実例集2008/産業財産権活用企業実例/04 近畿地域 2009.02.25 17.38.11 P 株式会社富永製作所(京都府京都市) ~特許を武器に異分野へ進出~ 1.ガソリン計量機の老舗メーカー 株式会社富永製作所は、明治2 0年創業のガソリン計量機の老舗メーカーである。 同社は、 創業当初、ポンプや貯水槽、バルブなど水道関連器具の製造を行っていたが、1 9 1 8年に国 産初のガソリン計量機(手動)を開発して以来、約9 0年間の永きに渡り、ガソリンスタン ドに設置されるガソリン計量機をはじめ、POS システムなど、社会の根幹を支えるエネ ルギー流通に欠かせない燃料供給システムを製造、販売してきた。 また、液体や圧縮ガス等の危険物を取り扱う同社の技術は、ガソリンスタンド分野以外 にも、船舶給油設備や油糟所、工場のプラント施設など、様々な分野に応用されている。 2.代表的な特許技術と最新の特許技術 現在、同社が保有している特許のほとんどは、燃料供給設備に関するものである。 主力製品であるガソリン計量機においては、現在ではスタンダード機種となった、一つ の筐体でガソリンも軽油も供給できるマルチ型ガソリン計量機を日本で初めて提唱し、市 場の圧倒的支持を得た。さらに、ガソリンと軽油の誤給油の問題に対しては、世界で初め てコンタミプルーフ(誤給油防止)機能を開発した。同機能は、給油ノズルを自動車の給 油口に挿入すると、内部のガスを感知し、間違った油種(ガソリン車に軽油を入れようと 近 畿 地 域 した場合など)であれば給油をストップするもので、同社の代表的な特許技術である。 昨今、ガソリンスタンド業界では市場の拡大が望めない状況になってきており、同社で は数年前から新しい事業を求めて技術開発に着手してきた。そして、洗車設備の排水処理 に電解水が使えないかという発想をきっかけに、電解水の持つ殺菌力に着目し、希塩酸添 加剤や高分子隔膜を使用せずに、必要なレベルの殺菌力を有する電解水を大量に生成でき る「中性電解水アクアリーテ」の開発に成功した。この電解水生成装置で生成された中性 電解水の殺菌効果は様々な細菌に対して確認されており、かつ、殺菌効果が長期的に持続 する。しかも中性で低濃度のため、安心・安全性が高いという特性を有している。また、 同社は、大学等と連携・協力して、ノロウイルスや鳥インフルエンザウイルスの不活性効 果も確認しており、今後の用途拡大を見込んでいる。 現在、同装置は、学校や保育園、介護施設、食品関係施設等での手洗いや器具洗浄、歯 科医療分野における治療機材の洗浄等、殺菌を必要とする各種分野向けに販売されている。 なお、同技術については、殺菌力の効果や生物への影響等に関する基礎データを蓄積す るとともに、特許出願も行っており、米国特許を取得している。 3.特許関連支援ツールを積極的に活用 株式会社富永製作所では、 「開発した技術は特許で守る。 」を基本とし、特許出願を推奨 している。特許出願の要否については、同社の職務発明委員会で審査を行い、最終的には 108 近畿地域 】Server/特許庁 産業財産権活用企業実例集2008/産業財産権活用企業実例/04 近畿地域 特許活用企業事例集 2009.02.25 17.38.11 P Vol. 3 株式会社富永製作所(京都府京都市) 担当役員が承認する。 知財にかかる社員教育にも力を注いでおり、知財に関する各種セミナーには積極的に社 員を参加させている。 同社は、2 0年以上前から自社に関連する分野の出願を抽出し、社内データベースを構築 して先行技術調査等に活用しており、それを補完する形でIPDLや特許庁の中小企業等 特許先行技術調査支援事業なども活用している。 また、特許流通アドバイザーの指導や流通データベースへの登録、知財ビジネスマッチ ングフェアへの出展などを通じたビジネスパートナーの募集なども行っている。 このほかにも、必要に応じて早期審査制度を利用するなど、特許関連支援ツールは積極 的に活用している。 ●保有権利に基づく製品例 ガソリン計量器 ベストマルチ 中性殺菌電解水生成装置 アクラリーテ(Ⅰ型) ●会社概要 名称及び代表者名 株式会社富永製作所 本 社 所 在 地 京都市中京区西ノ京南両町88 創 業 1887(明治20)年 金 5,400万円 資 本 代表取締役社長 斉藤 房一 従 業 員 数 285名 主 要 製 品 給油機器、周辺機器、船舶給油設備、工事・油設プラント 電 話 075-802-1181 L http : //www.kyoto-tmc.co.jp U R 近畿地域 109 】Server/特許庁 産業財産権活用企業実例集2008/産業財産権活用企業実例/04 近畿地域 2009.02.25 17.38.11 P 株式会社三栄水栓製作所(大阪府大阪市) ~技術とデザインにこだわった事業展開を守るための知財戦略~ 1.コンセプトは「うるおい創造企業」 株式会社三栄水栓製作所は、昭和2 9年水道用品の卸販売会社として創業を開始した企業 で、現在は『生活空間という視点から、人と水の新しい出会いづくりを追求。ひとりひと りにやさしい機能、ここちよい形、そして資源である水をムダにしない工夫。数々の水ま わりアイテムの提供を通じて、これからも人と水のうるおいある関係を創造』を企業コン セプトに、水道、ガス用器具の製造販売を行っている。 2.技術とデザイン重視の事業展開 同社の業界では大手2社が高いブランド力を有しているため、その対抗手段として、技 術とデザインに拘った製品で差別化を図っていくことが同社の基本方針である。このた め、大学数校との産学連携による新製品の開発にも力を注いでいる。 また、同社の知財戦略の基本方針は、技術とデザインを権利化して守ることであり、特 許のみならず意匠・商標の権利化も積極的に行っている。 3.ライセンス戦略の推進 同社では、これまでも必要に応じてライセンスアウト、 ライセンスインを行ってきたが、 近 畿 地 域 保有特許の積極的活用という観点から、他社で利用可能性がある技術については、特許流 通データベースへの登録と自社ホームページへのリンク、特許流通アドバイザーの利用な どを通じて、積極的にライセンスアウトしている。 4.先行技術調査の徹底と特許権利範囲の強化 同社は、過去、特許侵害の警告を受けた経験があり、知財の重要性を痛感したという。 そうした経験も踏まえ、特許調査は広い範囲を徹底して行うよう心がけ、 その調査方法も、 特許電子図書館(IPDL)以外に複数の民間のデータベースを目的に応じて使い分けてい る。 特許管理については、従来は研究開発部門が担当していたが、現在は管理本部の中に特 許担当部門を置いている。明細書の作成にあたっては、知財担当者が作成に関与し、権利 範囲の強化に努めている。また、弁理士に出願を一任するのではなく、年間顧問契約を結 んで月数回程度客観的な意見を聴取して参考にしている。 5.整備された体制の中で発明意欲を促進 同社は、特許法改正を機に、3年前に職務発明規程を見直し、成功報酬の上限を撤廃す るとともに、売り上げにつながる特許およびノウハウ技術については経営陣も参加する評 価委員会で個別に評価を行うこととした。 110 近畿地域 】Server/特許庁 産業財産権活用企業実例集2008/産業財産権活用企業実例/04 近畿地域 特許活用企業事例集 2009.02.25 17.38.11 P Vol. 3 株式会社三栄水栓製作所(大阪府大阪市) また、社員への知財教育の一環として、知財研修を実施するとともに、OJT を通じて 開発部門への発明に関するヒアリングも行っている。 同社では、こうした環境整備により、開発担当者の発明意欲や知財意識の高揚を図って いる。 ●保有権利に基づく製品例 シングルワンホール混合栓 マッサージストップシャワーヘッド 水道用コンセント ●会社概要 名称及び代表者名 株式会社三栄水栓製作所 本 社 所 在 地 大阪市東成区玉津1丁目12番29号 創 業 1954(昭和29)年 金 9,800万円 資 本 代表取締役社長 従 業 員 数 570名 主 要 製 品 水栓金具 電 話 06-6972-5921 L http : //www.san-ei-web.co.jp/ U R 西岡 利明 近畿地域 111 】Server/特許庁 産業財産権活用企業実例集2008/産業財産権活用企業実例/04 近畿地域 2009.02.25 17.38.11 P 株式会社松井製作所(大阪府大阪市) ~特許紛争の経験を生かし、知財管理体制の徹底を目指す~ 1.知財活動の強化のきっかけは特許紛争 株式会社松井製作所は、明治4 5年(1 9 1 2年)に医療・理化学機器メーカーとして設立さ れ、昭和3 0年代後半のプラスチック分野への参入後は、プラスチック原料の輸送、乾燥、 混合、温度調節、リサイクル装置など様々なプラスチック成形合理化機器を開発し、グロー バルに事業を展開してきた企業である。 同社の知的財産への取組は、2 6年前に欧州企業の日本法人から特許侵害訴訟を提起され たことがきっかけである。結果は和解に終わったが、そこに辿り着くまでには多大な労力 と費用を費やした。同社では、この経験を踏まえ、開発部門では、開発テーマ申請書の必 須項目として先行技術調査結果の記載を義務づけるとともに、知的財産室では、開発テー マに関連する特許文献を集めて開発部門に提供するなど、開発段階からの先行技術調査を 徹底している。 2.「生きた特許」の取得・維持への取り組み 6年前、開発部門の部長が特許担当に就任し、改めて当時の特許権取得状況を確認した ところ、同社の特許権は他社にとって何の参入障壁にもなっていなかったことが判明し、 同社では、これを機に、知財活動を強化する様々な取組を開始したという。例えば、「生 きた特許」を取得・維持するための条件として、①使用している特許(あるいは将来使用 する特許)か?②販売価値のある特許か?③他社を抑止できる特許か?の3つの基準を設 定し、また、パテントマップを作成して他社の出願動向分析等を行うことで、自社技術の 保護と優位性を確保している。 近 畿 地 域 3.海外への出願戦略 同社の売上高の割合は海外:国内が1:2であるが、販売台数では海外と国内は同程度 である。同社では、販売台数や費用対効果を考慮し、国内では、防衛的な観点から応用特 許の出願を進め、海外では、基本特許の取得を目指して、中国と米国を中心に、必要に応 じて欧州や台湾などにも出願している。海外出願は高額なため、出願の際には評価委員会 (製造部門長、技術開発部門長、営業部門長、営業部門の実施担当者、マーケティング部 門員、販売推進委員、知財室その他の計8名の委員で構成)の承認を義務づけている。 また、ブランド戦略として、中国のグループ会社が製造した製品を含む全製品に、同社 の世界共通の基本仕様(プラットホーム)であることを示す商標「plas-aid」を付し、こ の商標が付いた製品には日本でのメンテナンスを保証することで、同社ブランドに対する 安心と信頼のイメージ作りを行っている。 4.職務発明規程の整備による効果 同社では、以前から行っている出願時報償と登録時報償に加え、一昨年、実施報償も整 備した。また、実施報償の対象となった発明者と発明の概要は、マツイグローバルネット 112 近畿地域 】Server/特許庁 産業財産権活用企業実例集2008/産業財産権活用企業実例/04 近畿地域 特許活用企業事例集 2009.02.27 18.25.03 P Vol. 3 株式会社松井製作所(大阪府大阪市) ワークを通して放映される社長のビデオレターによって、国内外にある1 5の拠点全て(国 内1 0拠点、中国2拠点、台湾、タイ、アメリカ)に紹介している。これにより、全社員が 自社の保有特許を把握できるため、特許の利用が促進され、開発者にとっても、特許を取 得するインセンティブになるだけでなく、発明者として全社員に知られることで士気高揚 につながるという。 ●保有権利に基づく製品例 図1 低速粉砕機 全体 図3 減圧乾燥機 本体 図2 図4 低速粉砕機 減圧乾燥機 清掃状態 乾燥機内部 ●会社概要 名称及び代表者名 株式会社松井製作所 本 社 所 在 地 大阪市中央区城見1-4-70 OBP プラザビル17階 創 業 1912(明治45)年 金 2億円 資 本 代表取締役社長 松井 宏信 従 業 員 数 370名 主 要 製 品 プラスチック成形に関する、成形材料の乾燥機、空気輸送機、配合装置、 金型の温度コントロール装置などの開発、生産、販売、設置工事、エンジ ニアリング 電 話 06-6942-9555 L http : //www.matsui-mfg.co.jp/index.html U R 近畿地域 113 】Server/特許庁 産業財産権活用企業実例集2008/産業財産権活用企業実例/04 近畿地域 2009.02.25 17.38.11 P 大河内金属株式会社(兵庫県尼崎市) ~専用機の開発による生産性アップでアルミ取り扱い国内トップクラスを目指す~ 1.生産性と付加価値の向上で成長 大河内金属株式会社は、1 9 4 9年の創業以来、非鉄金属の材料販売、特に切断加工品の販 売を基礎に多様な営業を展開している企業である。特に、アルミニウム合金については、 多種類、多サイズの在庫の確保、加工技術の向上等に努力するとともに、自動円板加工専 用機の開発にも成功し、生産性が向上した結果、5年間で事業規模が倍増した。また、在 庫機能の内製化と大型化する材料に対する切断能力の強化、多様な加工ニーズに対応する ための工場新規建設など、計画的に投資を行い、企業規模を拡大している。 2.製造特許取得で取引先にアピール 大手電機メーカーとの取引の中で、特許取得の流れができた。 1 9 8 5年ごろに力を入れていた円盤加工の分野で需要が見えてきていた。しかし、通常の 汎用旋盤では競争力を得られず、工賃も安い。そこで、同社は、社長のアイデアをベース に2工程を一度で行える自動専用機の開発に着手した。 そして、最初に開発した専用機については、取引先の大手家電メーカーから権利化する べきとのアドバイスを受け、実用新案権を取得した。 その後は、新しい専用機を開発すると積極的に特許化を試み、これまでに8件の特許を 近 畿 地 域 取得している。 同社では、自社開発製品に関する特許を取得したことが得意先に製品をアピールする格 好の材料になったとして、その効果を高く評価している。 3.経営哲学に基づいた生産性向上へのこだわりが生んだ自動専用機と特許 「社員みんなが豊かになるように経営している」という大河内社長の経営哲学から、同 社では、給与を同業種の水準より高く設定しているという。しかし、そのためには高い生 産性を実現する必要があり、同社では、 「汎用機よりも専用機の方が生産性は高い」と考 えて自動専用機の自社開発に踏み切った。他社への販売実績もある特許製品の自動円板加 工専用機(DAC シリーズ)はこうして開発されたものである。 114 近畿地域 】Server/特許庁 産業財産権活用企業実例集2008/産業財産権活用企業実例/04 近畿地域 特許活用企業事例集 2009.02.25 17.38.11 P Vol. 3 大河内金属株式会社(兵庫県尼崎市) ●保有権利に基づく製品例 自動円板加工専用機 DAC シリーズ フランジ加工専用機 ●会社概要 名称及び代表者名 大河内金属株式会社 本 社 所 在 地 兵庫県尼崎市鶴町7-25 創 業 1949(昭和24)年 金 2,500万円 資 本 代表取締役社長 大河内 弘一 従 業 員 数 55名 主 要 製 品 アルミ及びアルミ合金の製品販売、加工販売、輸入販売 電 話 06-6411-6852 L http : //www.okouchi.co.jp/ U R 近畿地域 115 】Server/特許庁 産業財産権活用企業実例集2008/産業財産権活用企業実例/04 近畿地域 2009.02.25 17.38.11 P 極東産機株式会社(兵庫県たつの市) ~ハイレベルな知財管理体制が“攻めの特許”を実現~ 1.職人の畳製造から、技術化・多角化により事業展開 極東産機株式会社は、1 9 4 8年に畳製造機器メーカーとして設立され、2 0 0 8年に6 0周年を 迎えた老舗企業で、 「 “職人さん”の手仕事を自動化・省力化させる」ことをコンセプト に、コンピューター式畳製造システム、カーテン自動縫製システム、壁紙自動糊付機等の 設計、製造、販売を行っている。 同社は、1 9 7 1年、居住スタイルの欧米化による市場の変化に対応するため、インテリア 業界初の壁紙自動糊付機を開発、次いで、 1 9 8 1年には、畳製造の後工程も含めたコンピュー ター式畳製造システムを開発した。その後、1 9 8 5年に半畳サイズをベースにした和風マッ トを開発、1 9 8 9年にカーテン自動縫製システムを開発、1 9 9 1年からは、地場産業である素 麺、醤油の関連省力機器も手がけるなど、幅広いニーズに対応して事業の多角化を図ると ともに、地域の活性化にも寄与している。 2.攻めの特許とこれを支える知財マインド 同社は、1 9 6 5年に第一号特許を出願したのを皮切りに、 「特許を武器に事業展開」を推 し進めている。とりわけ1 9 8 1年に開発したコンピューター式畳製造システムにおいては、 「特許で先発企業を攻める」との意志が顕著であった。こうした現社長の知財に対する強 近 畿 地 域 い認識は、先代社長から受け継がれたもので、同社が現在までに取得した権利は2 0 0件を 超えている。 現社長はさらに、社員の知財マインドを養成するため、年3~4回、顧問弁理士を招い て特許に関する勉強会を実施している。また、社内発明報償規程を整備して出願時と登録 時に発明者に報償金を支払うことで、社内全体の知財マインドの向上に努めている。 3.高いレベルの知財管理体制 同社が社内全体の知財マインドを高める理由は、知財担当者だけでなく、 役員をはじめ、 実際にモノや技術を創出する研究開発部門、ユーザーとの接点である営業部門、総務・経 理部門に至るまで、 「社員の知財マインドが非常に重要な意味を持つ」との考えによるも のである。 また、知財管理体制については、専任の知財担当者1名を研究開発本部に配するととも に、権利取得や侵害訴訟実務をサポートする3名の弁理士と顧問契約を結び、万全の体制 を構築している。 同社では、日常的に先行技術調査を実施しており、 併せてライバル会社の動向も注視し、 市場ターゲットを明確にした上で、技術を継続活用すべきか、 あるいは継続価値がなくなっ たものとして一線から外していくのかを判断している。また、自社で出願した特許に対し ては、特許審査請求後の拒絶理由通知に対する応答もほとんど自社で対応している。 116 近畿地域 】Server/特許庁 産業財産権活用企業実例集2008/産業財産権活用企業実例/04 近畿地域 特許活用企業事例集 2009.02.25 17.38.11 P Vol. 3 極東産機株式会社(兵庫県たつの市) 近年は、海外の動向にも注意を払い、権利取得している中国や韓国などで情報収集を行 い、 実際に侵害があった場合に採るべき手段を考えるなど、 先手先手の取組みを行っている。 ●保有権利に基づく製品例 カーテン縫製機器 パーマネントフィニッシャー 壁紙自動糊付機 コンピューター式畳製造システム マルチロボット コンピューター式畳製造システム 両用ロボット ●会社概要 名称及び代表者名 極東産機株式会社 本 社 所 在 地 たつの市龍野町日飼190番地 創 業 1948(昭和23)年10月 金 4億1,575万円 資 本 代表取締役社長 頃安 雅樹 従 業 員 数 250名 主 要 製 品 インテリア省力機器、畳・襖製造機器、カーテン縫製機器、食品機器、特 殊産業用機器 電 話 0791-62-1771 L http : //www.kyokuto-sanki.co.jp/index.htm U R 近畿地域 117 】Server/特許庁 産業財産権活用企業実例集2008/産業財産権活用企業実例/04 近畿地域 2009.02.25 17.38.11 P 株式会社神島組(兵庫県西宮市) ~「必要とされる企業」を目指して~ 1.知人の一言をきっかけに新技術を次々と開発 株式会社神島組は、昭和1 5年に設立された総合建設業である。当初は公共事業を中心に 地域での事業展開を行っていたが、現社長は、知人からの一言をきっかけとして、“当社 にしかできないこと”がなければダメだ」と考えるようになり、「お客様に必要とされる 企業」 、 「オンリーワン技術」 、 「岩盤掘削日本一」を目指して自社技術の開発に着手した。 同社は、 「オンリーワン技術」の裏付けとして研究成果を積極的に特許化する方針であ り、平成1 1年に初の特許出願を行った後も、次々と新技術を開発しては特許権を取得して いる。平成2 0年1 1月現在、同社は2 2件の特許権を保有しており、岩盤の掘削・処理工法か らリサイクルに至るまでの一連の新技術を活用して事業を全国展開している。 2.「岩」に特化した開発戦略 技術開発にあたり、過去の工事の記録を分析した結果、 「岩」と「水」に関する工事に、 スケジュールの遅延や騒音、振動等の苦情が多いことに気がついた。そして、この課題の 解決が他社との差別化につながると考え、同社の得意分野である「岩」に的を絞って技術 開発を進めていった。 同社は、 「岩は叩いて割るもの(圧縮力破壊) 」 という業界の常識を覆し、せん断力と引っ 近 畿 地 域 張りに着目した。そして、岩にパイプを差し込み、パイプの先端に付いた爪を岩の内部で 上向きに食い込ませる工法で、騒音・振動を発生させずに、従来の5%の力で容易に岩盤 を破砕する装置を開発した。 また、従来は岩を撤去・移動させるにはワイヤーを使用するか、その場で細かく砕いて いたが、ワイヤーを使用できない場合があるうえ、岩を砕くには手間と時間がかかってい た。そこで、岩に細い穴を開けてパイプを差し込み、パイプの先に付いた羽根を外側に開 いて吊り上げる装置も開発した。 3.建設業の知財戦略 同社は、特許権を取得した技術を国土交通省の新技術情報提供システム(NETIS)に登 録することで、新技術による工事の受注拡大を図っている。特許権の取得は、経営事項審 査(公共工事の入札に参加する建設業者の企業規模・経営状況などの客観事項を数値化し た建設業法に規定する審査)の評価には、直接は反映されないものの、実感として受注率 の向上に貢献しているという。 新技術の開発を始めた当初は、特許出願の手続き等は全て弁理士に依頼していたが、現 在では、一部の手続き書類を社内で作成している。また、特許庁による審査請求料等の減 免制度を活用することにより、費用の削減を図っている。 同社は、公共事業費削減に伴う価格競争の激化が懸念される中、総合評価方式による公 118 近畿地域 】Server/特許庁 産業財産権活用企業実例集2008/産業財産権活用企業実例/04 近畿地域 特許活用企業事例集 2009.02.25 17.38.11 P Vol. 3 株式会社神島組(兵庫県西宮市) 共事業の入札において、特許を取得した新技術で他社との差別化を図り、さらなる受注拡 大を狙っている。 ●保有権利に基づく製品例 芯割ジュニア三脚架台 割り取りイメージ ツレール D-42 ●会社概要 名称及び代表者名 株式会社神島組 本 社 所 在 地 西宮市甲風園3丁目9番5号 創 業 1940(昭和15)年 金 2,000万円 資 本 代表取締役 神島 昭男 従 業 員 数 18名 主 要 製 品 公共・民間土木工事、新分野特許関連工事 電 話 0798-65-0121 L http : //www 2.ocn.ne.jp/~kamisima/ U R 近畿地域 119 】Server/特許庁 産業財産権活用企業実例集2008/産業財産権活用企業実例/04 近畿地域 2009.02.25 17.38.11 P 株式会社昭和(奈良県生駒市) ~あらゆるチタン加工に精通する研究開発型企業~ 1.チタンの昭和 株式会社昭和は、チタンの加工専門メーカーとして1 9 6 7年に創業以来、チタンを利用し た小型の熱交換機や化学機器類を開発して、めっき会社や水族館、或いは温泉旅館に販売 しながら、次々と用途を開発してきた。 チタンは、軽量で強く錆びにくいなど優れた化学的特性をもち、様々な用途に使用され る。他方、化学工業のように高い耐久性が要求される分野においては、チタン製品の寿命 が長いため、継続的に需要を維持するためには次から次へと新規製品の投入や販売先の開 拓を行う必要がある。 このため、同社では、切断・曲げ・プレス・溶接・機械加工までほぼすべての加工に対 応し、電極としての利用や、熱交換機・超高真空容器・圧力容器・原子力用機器など、チ タンを使った数々のオンリーワン製品を開発している。 2.環境分野への進出 中小企業や個人が新規市場を開拓することは簡単ではないが、同社では、 「大量消費型 の産業に依存しないこれからのビジネスはなんだろう?環境対策に活路を見出せない か?」と考えた末、自社の有する幅広いチタンの加工技術を環境分野に活用する道を模索 近 畿 地 域 し始めた。 1 9 8 0年代末、欧州を中心として、船底塗料の主成分である有機スズ化合物が海洋の生態 系に深刻な影響を与えるという、いわゆる環境ホルモン問題が大きく採り上げられた。 同社は、海水という極めて過酷な環境下では、チタンの優れた化学的性質が最大限活か せると考え、チタンの表面を改質して環境に一切影響を与えずに生物が忌避する表面を造 り出すことに成功した。 また、京都大学、奈良県との共同研究により、世界で初めてチタンの上に高活性な光触 媒機能を持つ強固なアナターゼ型酸化チタンを生成させ、これによって、環境汚染の原因 となる難分解性物質を高効率で分解する技術の開発にも成功している。 3.大学や公設試、大企業との共同研究により特許を取得 先代から会社を引き継いだ高安社長は、当時、従業員の離職率の高さに苦慮しており、 「中小企業は従業員が会社を辞めてしまう時、仕事も一緒に持っていってしまう。去る人 に仕事を持って行かれないようにしたい。更には人の辞めない一流の企業を目指したい。 そのためには特許が必要不可欠だ。 」と考えた。 そして、満足な実験機器も測定装置もなく、 十分な研究開発費もヒトもない状況の中で、 同社は、奈良県の研究開発補助金の利用、大学や公設試等との共同研究を積極的に進める ことで、特許の取得を図ってきた。 120 近畿地域 】Server/特許庁 産業財産権活用企業実例集2008/産業財産権活用企業実例/04 近畿地域 特許活用企業事例集 2009.02.25 17.38.11 P Vol. 3 株式会社昭和(奈良県生駒市) 大手ゼネコンとの共同開発では、建築構造物などのコンクリートにチタンを被覆してコ ンクリートそのものを保護する技術を開発し、製品化にも成功している。この技術は、地 価埋設構造物や海洋構造物の長寿命化に寄与するとともに、核廃棄物の安全な封入管理に 不可欠な技術となっている。 4.研究開発型のものづくり企業 同社は、チタン製部品の製造や加工の請負を主たる事業としており、「チタンの昭和」と いわれるほどの、あらゆる複雑な加工にも挑戦するものづくり企業であるが、同時に、従 業員の7分の1を研究者が占める研究開発型企業でもある。従業員4 7名のうち、 エネルギー 科学の学位を持つ研究開発部長以下7名が研究開発に携わっており、大学の研究室に研究 者を派遣して学位を取得させるなど、人材育成にも熱心である。 また、知財管理に対する意識も高く、専任の知財担当者も配置して研究開発成果の保 護、活用を図っている。 ●保有権利に基づく製品例 コンクリート壁面への チタンパネルライニング 土壌汚染浄化用装置外観 ●会社概要 名称及び代表者名 株式会社昭和 本 社 所 在 地 奈良県生駒市北田原町2443-1 創 業 1967(昭和42)年 金 9,185万円 資 本 代表取締役社長 高安 輝樹 従 業 員 数 47名 主 要 製 品 チタン製加工部品、不溶性電極、圧力容器、熱交換機 電 話 0743-72-0743 L http : //www.showa-titan.com U R 近畿地域 121 】Server/特許庁 産業財産権活用企業実例集2008/産業財産権活用企業実例/04 近畿地域 2009.02.25 17.38.11 P 三笠産業株式会社(奈良県広陵町) ~独自商品の開発が知財の重要性に着目するきっかけ~ 1.「創意工夫」「現状否定」で他社との違いを生む 三笠産業株式会社は1 9 1 2(大正元)年に創業し、もともとは樽用の木工呑口を製造して いたが、戦後はプラスチックキャップを手がけるようになった。創業当時は、県内に数十 の同業者が存在したが、独創的な商品を武器に他社との差別化を図り、成長してきた。 現在、同社のキャップは、調味料や酒類等の食品関係にとどまらず、化学・医療分野に 至るまで、あらゆる容器に使用されており、特に、調味料容器用キャップで高いシェアを 得ている。 2.知的財産により市場での優位性を確保 同社の躍進のきっかけとなったのが、1 9 6 3年(昭和3 8年)に開発されたプラスチック製 の「GS(ゴールドスペシャル)王冠」である。それまで使われていた金属製の王冠と異 なり、オープナーが不要なので手を傷つけず安全で、開栓したことが一目でわかるなど、 画期的な特性を持つ商品である。 この商品を市場に出す際、信用確保や宣伝効果、他社の参入の阻止など大きな効果をも たらす手段として着目したのが知的財産権である。日本国内のみならず海外でも特許を取 得したことが業績向上に役立って以来、知財の活用は同社にとって重要な経営戦略の一部 と位置づけられている。 開発においては、市場情報の収集・分析からニーズを発見していく場合と、ユーザーか らの開発依頼による場合があるが、どちらの場合も開発時に将来性や重要性が判断できる ものは、アイデアの段階から特許出願するように心がけている。また、製品の性質上、ア イデアだけの保護よりも実際の形状を保護することが大切であるとの考えから、意匠権の 取得、活用も積極的に行っている。 近 畿 地 域 3.独自の特許分類を整備して先行技術調査の精度を上げる 同社の知財管理は、法務部に所属する担当者2人によって行われている。 知財担当者は、 社内における発明の奨励と発掘および権利化を行い、知財を軸に事業の優位性を確保する という重要な役割を担っている。また、知財重視の意識を社内に浸透させ、知財を尊重す る風土を確立するのも大切な業務の一つである。さらに、自社の特許情報の管理システム の整備運営も知財担当の役割として挙げられる。特に、同社独自の特許分類を作成してき め細かな先行技術調査を実施し、研究開発をサポートすることにより、効率的な研究開発 と知的財産の創出を推進している。 同社では、平成1 8年に発明規程の全面的な改定を実施するとともに、報奨金制度につい ても大幅な変更を行った。以前から実施していた承継報償に加え、登録報償、実績報償を 新設し、社内発明の奨励に力を入れている。社内発明を出願するか否かの判断は、月に一 度開催される執行役員クラスのメンバーで構成する「発明審査会」において検討し決定し ている。 4.現代の課題にも果敢に取り組む 容器リサイクル法が施行され、キャップの分別が必要になったことを契機として、使用 122 近畿地域 】Server/特許庁 産業財産権活用企業実例集2008/産業財産権活用企業実例/04 近畿地域 特許活用企業事例集 2009.02.25 17.38.11 P Vol. 3 三笠産業株式会社(奈良県) 後に容器本体からキャップが容易に取り外せる分別回収キャップを開発し特許を取得する ことで、 新たな市場の創出とシェアの獲得に成功した。 また、よりリサイクルしやすい容器 を開発するなど、 特許と販売戦略とをうまく組み合わせることにより業績を伸ばしている。 最近、同社が取り組んでいるテーマは、植物由来成分を主成分にした製品の研究開発と その権利化である。環境保護を意識した技術開発の背景には、容器のリサイクル化、ゴミ の減量化という課題があることは言うまでもない。同社は、時代のニーズに柔軟に対応す るためにも、自然環境やコンポスト等の中で分解させることができる生分解性樹脂による 製品の開発と特許取得を行い、新たな市場の開拓を目指している。 ●保有権利に基づく製品例 GS 王冠 砂 生分解 Cap 生分解 Cap(分解状態) ●会社概要 名称及び代表者名 三笠産業株式会社 本 社 所 在 地 奈良県北葛城郡広陵町大字寺戸53番地 創 業 1912(大正元)年 金 3億7,700万円 資 本 代表取締役社長 林田 壽昭 従 業 員 数 460名 主 要 製 品 液体食品調味料容器用プラスチックキャップ、小型 PET ボトル 電 U 話 R L (本社)0745-56-5581 http : //www.mikasa-ind.co.jp/ 近畿地域 123 】Server/特許庁 産業財産権活用企業実例集2008/産業財産権活用企業実例/04 近畿地域 2009.02.25 17.38.11 P 築野食品工業株式会社(和歌山県かつらぎ町) ~ステージごとの対応方針により、知財戦略を構築中~ 1.終戦後の食糧難の克服を志して事業をスタート 戦時中に“ひもじい”思いを経験した創業者の築野会長は、「日本のために、食糧関係 の仕事が何かできないものか」との熱い思いで、戦後日本の食糧難を克服すべく1 9 4 7年に 農林省指定の精麦工場を建設して精麦業を開始した。その後、日本の食生活が豊かになる につれ、麦の消費が減少するとの懸念を抱き、関係者のアドバイスも得て副業として始め たのが米糠から油を抽出する製油事業であった。当時、麦の販売は米屋を通して行われて おり、そこで発生する米糠の処分に頭を悩ましているという話をよく耳にしたが、これが 現在の築野食品工業株式会社(及び築野ライスファインケミカルズ株式会社)の事業のい わば“芽”となった。 その後、精製をはじめ脂肪酸蒸留等の諸設備を完成させる一方、1 9 6 2年に宝塚、1 9 6 8年 には大阪に、それぞれ原油抽出工場を設置した。また、その前年の1 9 6 7年には、姫路に集 荷基地を設置しており、そこを拠点に米糠の集荷網を拡張させ、大都市圏の米糠の集中集 荷により抽出部門の拡充に成功するなど、同社の発展の基礎が築かれた。 2.安全でおいしい米油の提供 1 9 6 8年、同業者において脱臭装置のトラブルによる「油症事件」が発生したのを機に、 近 畿 地 域 安心・安全な米油製造技術の開発に着手した。そして、同社は、日本植物油協会のメンバー 中、最初に真空方法による脱臭装置を完成させ、各メーカーに呼びかけるなどその普及に 努めた。 数年前、異分野メーカーが「健康」をうたった植物油で食品分野に参入し、そのライバ ルメーカーが対抗製品を開発すべく、風味の勝る油を世界中に探し求めたことがあった。 同社は、そのライバルメーカーから「世界中くまなく探した結果、健康的で、しかも“お いしい”油が、ここ和歌山で見つかった」と言われ、大変勇気づけられたという。 3.事業理念は「米は宝」 同社の事業展開の理念には、会長の草創期の精神が強く根付いている。日本人の食の基 本となる「米」に関するものを扱っていることから、これを独占することについて、必ず しも良としない考え方である。また、 「穀物は地球規模での宝である」 との理念からも、 「米」 に関するものは世界中で一緒に研究開発し、その結果をみんなで利用していくものとい う、どちらかといえば「独占」というよりも「標準化」戦略に近い方針をとっている。 4.同業社との交流にも注力する知財戦略 こういった基本理念の下、同社は必要な特許を取得しており、現在はその知財戦略を、 開発段階から権利取得に至るまでの各ステージに分けて夫々の対応方針を構築中である。 124 近畿地域 】Server/特許庁 産業財産権活用企業実例集2008/産業財産権活用企業実例/04 近畿地域 特許活用企業事例集 2009.02.25 17.38.11 P Vol. 3 築野食品工業株式会社(和歌山県かつらぎ町) 研究開発段階においては、自社が開発しようとする分野のパテントマップを、公設試や 特許関係アドバイザーの指導を得て作成し、十分に時間をかけてユーザーニーズの分析や 研究開発の方向性を検討している。また、開発に携わっている研究者が集中的に開発を進 められるよう、その環境にも配慮している。 出願段階においては、ノウハウ管理するものと権利化を進めるものとをしっかりと峻別 し、また、どの研究者がどの部分・段階の研究開発に関与していたかを可能な限り明確に し、次の開発戦略に活かせるようにする方針である。 また、出願後は、その商品(技術・製法)と同分野の他社出願に注意を払うとともに、 その企業の開発動向や事業展開状況を分析し、関連特許を保有する者とは、同社の事業展 開の理念に則って積極的に交流を図っている。 さらに、権利取得後はパテントマップの更新に努めるほか、当初ノウハウとしたものに ついても、もう一度権利化の要否について検証している。 ●保有権利に基づく製品例 バニリン2 化粧品採用例 認知症関係の サプリメント1 ●会社概要 名称及び代表者名 築野食品工業株式会社 本 社 所 在 地 和歌山県伊都郡かつらぎ町新田94 創 業 1947(昭和22)年2月 金 5,000万円 資 本 代表取締役会長 築野 政次 従 業 員 数 300名 主 要 製 品 米油、工業用油脂、米糠石鹸、米糠化粧品、米糠栄養補助飲料 電 話 0736-22-0061 L http : //www.tsuno.co.jp/j/main.htm U R 近畿地域 125