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未確立環境影響予測モデル(干潟生態系関連)検討調査業務 報

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未確立環境影響予測モデル(干潟生態系関連)検討調査業務 報
平成 18 年度 環境省請負調査報告書
平 成 18 年 度
未確立環境影響予測モデル(干潟生態系関連)検討調査業務
報 告 書
平 成 19 年 3 月
株式会社 セ
ル
コ
目
次
頁
第 1 章 業務概要 ························································ 1
1. 業務目的 ·························································· 1
2. 業務の進め方 ······················································ 1
3. 業務内容 ·························································· 1
(1) 年度計画の作成 ···················································· 1
(2) 文献資料の収集・整理 ·············································· 2
(3) 新しい技術ガイドのあり方の検討 ···································· 4
(4) 技術ガイドの原稿(素案)の作成 ···································· 4
(5) 専門家からの助言の取り入れ ········································ 6
1) 専門家による懇談会の運営 ·········································· 6
2) 個別ヒアリング ···················································· 8
3) 専門家による留意点に関する寄稿 ···································· 9
(6) 協議・打合せ ······················································ 9
(7) 報告書等の作成 ···················································· 9
第2章 検討結果 ························································ 10
(干潟生態系に関する環境評価技術ガイドブック(素案))
1.技術ガイドのあり方(はじめに) ······································ 10
1-1 本書の目的・特徴 ··················································· 10
1-2 現行の干潟生態系に係る環境アセスメントの課題と改善すべき方向 ······· 10
1-3 技術ガイドの特徴と使用方法・留意点 ································· 12
1-4 技術ガイドのポイント ··············································· 14
2. 干潟の環境特性 ······················································ 17
2-1 干潟と干潟生態系 ··················································· 17
2-2 干潟の環境要素 ····················································· 22
2-3 干潟の機能 ························································· 29
2-4 干潟の開発と現状、環境保全の視点 ··································· 36
3. 干潟生態系に影響を及ぼす開発事業 ···································· 39
i
頁
4. 干潟生態系に係る環境アセスメント ···································· 45
4-1 干潟生態系の環境アセスメントの基本的な考え方 ······················· 45
4-2 対象とする事業の内容(事業特性)と影響要因の把握 ····················· 61
4-3 地域特性の把握 ····················································· 64
4-4 調査対象とする干潟及び調査地域の設定 ······························· 65
4-5 調査対象干潟の概況調査と結果の整理 ································· 68
4-6 環境影響評価の項目の選定 ··········································· 72
4-7 調査・予測手法 ····················································· 85
4-7-1 調査手法(原案) ················································· 85
4-7-2 予測手法の検討 ·················································· 103
(とりまとめの方針・目次構成・記載内容の概要)
5. 参考資料 ·························································· 109
6. 参考文献 ··························································· 139
第3章 今後の課題 ····················································· 141
【 資料編 】
・第1回懇談会議事要旨
・第2回懇談会議事要旨
・委員への個別ヒアリング議事要旨
・委員からの寄稿原稿
・収集文献リスト
ii
第1章 業務概要
1. 業務目的
浅海域に広がる干潟生態系は、水質の浄化機能を有するとともに、鳥類をはじめとす
る生物の生息地として重要な生態系であるが、遠浅な地形は埋立てが容易であるため、
現在でも開発行為による減少が続いている。事業の実施による干潟生態系への影響を最
大限回避・低減するためには、干潟生態系の現況を適切に把握した上で調査・予測を行
い、より良い環境保全措置を講ずること等が必要であるが、陸域とは大きく異なる特徴
を持つ干潟生態系に関する環境アセスメントに適した技術手法は確立・普及していない。
このため、本業務では、最新の科学的知見等に基づき、干潟生態系に関する環境アセ
スメントを適切に行うために必要な技術手法等を検討・開発し、技術ガイドとしてとり
まとめ、その普及を図ることを目的とする。
2. 業務の進め方
業務の進め方は、以下に示す(図1参照)
。
平成 18 年度においては、
「技術ガイド」の調査・予測手法の検討に係る前段にあたる
方針や目次構成等の記載すべき概要等までの検討を行うものとする。
なお、平成 19 年度は、代表的な干潟について現地視察を行い、こうした知見を踏ま
えて、調査・予測手法の検討を行い、最終的な「技術ガイド(素案)
」を作成する予定
である。
3. 業務内容
(1) 年度計画の作成
今年度業務の進め方や作業工程等について、環境省担当官と十分協議した上で、年
度計画を作成する。作成に当たっては、
「平成 17 年度末確立環境影響評価予測モデル
(干潟生態系関連)検討調査」
(以下「平成 17 年度業務」という。
)の成果を最大限活
用し、効率的な年度計画とする。
以上の検討結果を踏まえ、調査の進め方、作業工程等を示した実施計画書を作成し
た。
- 1 -
(2) 文献資料の収集・整理
文献検索サービス等を利用して過去の環境アセスメントの事例、学術文献、その他
国内外の文献資料を収集し、以下の情報を整理して収集文献リストを作成した。
①干潟生態系に関する一般的な情報
②干潟生態系の環境アセスメントに係る技術手法に関する情報
- 2 -
H18年度業務
計 画 準 備
実施計画書の作成等
資料・文献の収集・整理
H17年度報告書、基本的事項、主務省令・技術指針、既存の環
境影響評価書、干潟の調査・予測に関する文献・資料 等
第1章 技術ガイドのあり方についての検討
第2章 干潟の環境特性
・干潟の定義
・干潟生態系の特性(干潟の構成要素、機能、成因等)
・干潟の現状と課題
・干潟の環境保全の視点等
第3章 干潟生態系に影響を及ぼす
開発事業の検討
H18年度
報告書の作成
H19年度業務
第4章 干潟生態系の環境アセスメント
の整理・検討
①環境アセスメントの基本的な考え方
②対象とする事業の内容と影響要因
③地域特性の把握
④対象とする干潟及び調査対象範囲
⑤調査対象干潟の概況調査,調査結果の整理
⑥調査・予測項目の選定
⑦調査手法(素案の検討)
(調査地域及び調査地点、調査期間及び調査時期、
調査方法等の素案)
⑧予測手法(素案の検討)
(予測地域、予測対象時期、予測方法等についてとりまとめ
の方針、記載内容の概要)
⑦’調査手法(最終)
⑧’予測手法(最終)
⑨評価
⑩環境保全措置
⑪事後調査
第5章 事例・ケーススタディ ≪事例集≫
・調査手法、予測手法等の事例、
・ケーススタディ (調査計画書例の作成)
①H19年度報告書の作成、
②干潟生態系の環境アセスメント
に関する技術ガイドの作成
図1
作業の進め方の模式図
- 3 -
専
門
家
と
の
懇
談
会
の
開
催
代
表
的
干
潟
の
視
察
(3) 新しい技術ガイドのあり方の検討
干潟生態系に関する環境アセスメントを適切に実施する上で参考となる新しい技術
ガイドのあり方(盛り込むべき内容・視点、全体構成等)を検討した。検討に当たっ
ては、平成 17 年度業務の成果を最大限反映させるものとした。
(4) 技術ガイドの原稿(素案)の作成
「(2)文献資料の収集・整理」及び「(3)新しい技術ガイドのあり方の検討」の成果
を踏まえ、干潟生態系に関する環境アセスメントに係る新しい技術ガイドの素案を作
成した。技術ガイド(素案)の目次(案)は次ページに示すとおりである。
今年度は、
「第1章 技術ガイドのあり方(はじめに)
」から「第4章6. 環境影響評
価の項目の選定」の素案の作成と「第4章 7. 調査・予測手法」のとりまとめの方針・
目次構成・記載内容の概要等について検討を行った。
- 4 -
干潟生態系に関する環境影響評価技術ガイド(素案)の目次(案)
第1章 技術ガイドのあり方(はじめに)
1.本書の目的・特徴
2.現行の干潟生態系に係る環境アセスメントの課題と改善すべき方向
3.技術ガイドの特徴と使用方法・留意点
4.技術ガイドのポイント
第2章 干潟の環境特性
1.干潟と干潟生態系
2.干潟の環境要素
3.干潟の機能
4.干潟の開発と現状、環境保全の視点
第3章 干潟生態系に影響を及ぼす開発事業
第4章 干潟生態系に係る環境アセスメント
1.干潟生態系の環境アセスメントの基本的な考え方
2.対象とする事業の内容と影響要因
3.地域特性の把握
4.調査対象とする干潟及び調査地域の設定
5.調査対象干潟の概況調査と調査結果の整理
6.環境影響評価の項目の選定
7.調査・予測手法
7.1 調査手法
(1) 調査地域及び調査地点
(2) 調査期間及び調査時期
(3) 調査方法
(4) 調査結果の整理・解析
7.2 予測手法
(1) 予測地域
(2) 予測対象時期
(3) 予測方法
(4) 予測結果の整理・解析
8.評価
9.環境保全措置
10.事後調査
第5章 事例・ケーススタディ(調査計画書例の作成)
1.調査手法、予測手法の事例
2.ケーススタディ(調査計画書例の作成)
〔参考資料〕
環境影響評価法に基づく基本的事項
主務省令
参考文献、資料リスト
- 5 -
(5) 専門家からの助言の取り入れ
科学的・技術的助言を適切に取り入れるため、環境省担当官と協議の上、専門家を
選定し、以下の作業を実施した。
1) 専門家による懇談会の運営
昨年度の成果を踏まえ、同様の懇談会形式で専門家から助言の取り入れを行った。
主な作業は以下に示す。
①協議資料作成
②懇談会の開催・運営
③議事録等整理
専門家は3名とし、懇談会形式の会議を開催し、「(3)で検討した新しい技術ガイド
のあり方」や「((4)で作成した原稿素案」について検討した。また、「(2)で収集した技
術手法」についても、わが国の自然特性や環境アセスメント制度における事業特性の
観点から有効性等を検討した上で、今後普及を目指すべき技術手法を検討した。
- 6 -
a) 懇談会の設置
懇談会のメンバーは表2に示すとおりである。
表2 懇談会のメンバー(敬称略)
懇談会委員
(五十音順、敬称:略)
氏 名
清 野
聡 子
野 原
精 一
風呂田
利 夫
所
属 ・ 役 職 名
東京大学大学院 総合文化研究科
広域システム科学科 助手
独立行政法人 国立環境研究所
アジア自然共生研究グループ流域生態系研究室 室長
東邦大学 理学部
東京湾生態系研究センター センター長
環境省
氏 名
所
属 ・ 役 職 名
土 居
健太郎
総合環境政策局環境影響評価課 課長補佐
杉 村
素 樹
総合環境政策局環境影響評価課 評価管理係長
加 藤
麻理子
総合環境政策局環境影響評価課 評価管理係
浜 村
信 明
総合環境政策局環境影響評価課環境影響審査室 環境専門員
注:杉村係長は第1回懇談会後、転属となったため、第2回懇談会以降は後任の加藤係員が出席した。
事務局
氏 名
所
属 ・ 役 職 名
赤 澤
豊
株式会社 セルコ 代表取締役
牧 嶋
正 身
株式会社 セルコ 環境部 部長
大久保
直 利
株式会社 セルコ 環境部河川環境室 室長
- 7 -
b) 懇談会開催及び検討テーマ
懇談会は2時間程度とし、以下のとおり、2回開催した。また、専門的なテーマに
ついては、個別に各委員へヒアリングを3月に行った。
表3 懇談会の開催
開催日時
【第1回懇談会】
平成 18 年 12 月 26 日
14:30~16:30
検討テーマ
①技術ガイドブックのあり方
②対象となる事業について
③干潟生態系の環境評価の基本的な考え方について
④対象となる事業の内容と影響要因、地域の特性の把握について
⑤対象となる干潟と調査範囲、干潟の概況調査と干潟の特性の整理・解析
【第2回懇談会】
平成 19 年2月 13 日
①第1回資料の修正・加筆について
②調査・予測の項目の選定について
14:30~16:30
個
別
風呂田委員
ヒ
ア
野原委員
リ
ン
清野委員
グ
①目次構成について
②調査手法の構成、記載方法・内容について
③干潟生態系で扱う調査項目について
④ケースタディーについて
⑤技術ガイドブックの普及について
⑥第2回資料の修正・加筆について(干潟のあるべき姿等)
①目次構成について
②予測手法の構成、記載方法・内容について
③定量予測と定性予測について
④環境保全措置と事後調査について
⑤第2回資料の修正・加筆について(干潟のあるべき姿等)
①目次構成について
②環境アセスメントにおける地域住民とのコミュニケーションについて
③干潟の地形のみかたについて
④干潟生態系の環境保全について
⑤第2回資料の修正・加筆について(干潟のあるべき姿等)
2) 個別ヒアリング
懇談会の委員とは別に、個別の技術的事項(漂砂・海岸工学等)について専門家へ
のヒアリングを2時間程度実施した。
- 8 -
3) 専門家による留意点に関する寄稿
干潟生態系に関する環境アセスメントを実施する上での留意点等について、懇談会
委員に各分野の視点から、干潟生態系における環境アセスメントに当たって留意する
事項について寄稿を依頼した。
(6) 協議・打合せ
本調査を進めるに当たって、調査着手時、中間時2回、最終報告書とりまとめ時の
計4回の協議打合せを行った。
また、平成 19 年度の業務を円滑に進めるため、課題の抽出・整理を行った。
(7) 報告書等の作成
以上の成果をとりまとめて、報告書を作成した。
報告書 (A4・軽印刷)
10部
関連資料(収集した資料、懇談会資料、議事要旨等) 1部
電子媒体(上記情報を納めたCD-ROM)
- 9 -
1部
第2章 検討結果
(干潟生態系に関する環境評価技術ガイドブック(素案))
1.技術ガイドのあり方(はじめに)
1-1 本書の目的・特徴
<目 的>
本書は、干潟生態系に係る環境アセスメントを実施するにあたり、干潟生態系の保全に
ついて適切な配慮がなされ、事業を実施する地域の自然的、社会的な特性に応じた事業の
計画策定及び実施がされるために必要な技術手法等をとりまとめ、持続可能な社会を構築
していくための技術資料として作成したものである。
<特 徴>
本書は、干潟生態系という影響を受ける環境要素に着目して、環境アセスメントに必要
な考え方と技術手法を示したものである。ここで示した考え方や手法は、環境影響評価法
の対象事業であるか否かや事業規模の大小にかかわらず、干潟生態系への影響を考える際
に基本となるべきものであり、干潟に関わる多くの方々の参考にしていただきたい。
また、本書は環境影響評価法の対象事業を中心に記載したものであるが、干潟生態系の
保全という観点から、干潟生態系に影響を与えるおそれのある開発事業を幅広く検討・整
理した(第3章)
。こちらも参照していただきたい。
1-2 現行の干潟生態系に係る環境アセスメントの課題と改善すべき方向
<干潟の成因・機能に着目した調査・予測>
環境影響評価法に基づく基本的事項では、
「生態系」に区分される選定項目については生
物種の「上位性・典型性・特殊性」という視点でとらえ、調査・予測を行うこととしてい
る。
「上位性・典型性・特殊性」という視点は、陸域生態系では、一次生産者である草本や
木本といった植物相の上位に、植物を餌とする昆虫や鳥類といった動物、それらの動物を
餌とするオオタカなどの猛禽類やキツネなどの肉食の哺乳類が高次の消費者として位置す
る食物連鎖が成立している。これは、生態系の特徴を把握する1つの視点として有効であ
る。
しかし、干潟では、一次生産者の主体はライフサイクルが短い底生藻類で、その上位に
底生動物、魚類、鳥類といった生物が位置している。さらに多くの干潟では採貝などの漁
- 10 -
業が行われ、人間が「最上位」に位置する場合が多い。
干潟生態系は、変化の大きなフロー型の系であること、また、開放系であることからも
陸域生態系の様な「上位性」を位置づけることは、必ずしも適切ではないと考えられる。
一方、干潟という地形自体が不安定で、波浪等により容易に変化するなど、干潟の成因
も生態系を考える上で重要である。さらに物質循環、生物生産といった干潟という場が有
する機能も干潟生態系を捉える上で重要な視点である。
このため、干潟生態系を考えるにあたり、
「上位性・典型性・特殊性」という生物種の視
点に加え、成因や機能にも着目して、調査・予測することが必要である。
<個々の干潟の特性に応じた環境アセスメントの実施>
現行の環境アセスメントの実務の中では、
環境影響評価法に基づく基本的事項(以下、
「基
本的事項」という)
、環境影響評価法の規定により事業の種類ごとに主務大臣が定める基
準・指針(以下、「主務省令」という)の記述意図や記載内容を十分把握・理解せずに、事業
の種類ごとに対応して作成されている技術ガイドに記載してある例示や、既に審査が終了
した既往案件の環境影響評価書の記述内容を参考にして、アセス図書を作成している例が
みられる。
個々の干潟は、それぞれ固有の生息生物や成因、機能があり、また、事業の特性も個々
に異なるので、全ての干潟の環境アセスメントにそのまま転記して利用できる万能な「マ
ニュアル」はない。事業特性と対象となる干潟の特性を的確に把握し、個々の干潟生態系
に応じた調査・予測方法を検討し、環境アセスメントを実施する必要がある。
<干潟生態系の取扱い方>
従来の技術ガイドでは、干潟、藻場、サンゴ礁を並列に列挙している例があるが、それ
ぞれの成因や機能は大きく異なっている。また、干潟をプランクトン、魚類等と並列に列
挙しているが、生物生息の場である干潟とそこに生息するプランクトン等の生物とは、異
なった次元の環境要素である。干潟生態系については、こうした並列的な把握ではなく、
環境要素の相互の位置関係の中で把握する必要がある。
<データ整理と解析>
個々の干潟における現況については、多くの調査が実施されている。特に注目されてい
る干潟については水質、底質、生物等の環境要素の膨大な現況データが得られている場合
がある。しかし、こうした現況データは、干潟生態系の全体像という観点から分析・解析
- 11 -
されることなく、単に現況把握にとどまっていたり、調査手法が異なるため過去のデータ
と比較できない状況にあるものが多い。
また、干潟の成因や物質循環機能、生物生産機能等の干潟生態系の機能に関する調査・
予測について、古くから検討が行われ多くの検討結果がある。しかし、これらを統合して
一つの干潟生態系としての全体像を示した調査・予測の事例は少ない。
今後実施する現況調査の結果や予測、解析等の結果は、再現性等も考慮した利用可能な
形式で収集、整理して蓄積し、保管、管理、活用を図ることが必要である。
<干潟生態系に関する調査手法>
個々の干潟における干潟生態系の特性は多種多様であり、調査手法を画一的に定め、統
一することは難しい。一方、各干潟の特性に応じて調査手法が異なると、他の干潟の調査
結果や蓄積された過去の調査結果との比較が難しい。こうした相反する課題の中で、定形
的な調査手法を確立することは難しいことであるとともに、調査手法を定形化して確立す
ることが意義あることであるかという疑問が生じる。
調査手法については、個々の調査結果の解析データを積み上げながら、どのような方法
が適切であるか、順応的手法で対応する必要がある。
<実務的な予測手法の開発>
生態系に関する予測は、現時点では研究レベルのものが多く、実際に環境アセスメント
という制度において採用できる段階に達しているものは少ない。事業実施に伴う環境影響
を予測し、適正で具体的な環境保全措置を検討するためには、干潟生態系の変化と保全措
置の効果を予測する必要がある。適切な予測手法や環境保全対策は、事後調査結果等を蓄
積し、当初の予測結果との対比により解析するなど、順応的手法により段階的に開発して
いくことが必要である。
1-3 技術ガイドの特徴と使用方法・留意点
<基本的姿勢>
干潟生態系に係る環境アセスメントを実施するにあたり、まず「基本的事項」
、
「主務省
令」
、事業の種類ごとに対応して作成されている「技術ガイド」を良く読み、内容と意図を
理解することが必要である。
- 12 -
次に本書の内容を理解し、開発事業の特性と各地域の環境特性、干潟の特性を考え、個々
の干潟生態系の特性に応じた考え方、アプローチの方法を検討し、環境アセスメントを実
施するものとする。
環境アセスメントを実施するにあたっては、合意形成を早い段階から行い、地域住民か
らの情報・意見を収集し、専門家の意見・助言を取り入れながら調査計画を作成・検討し
ていくことが重要である。そのためには地域住民等が理解しやすい情報提供・共有の手法
として、図やイラスト等を活用して視覚的に分かりやすく表現した「環境情報図」の作成
などの工夫をすることが必要である。
<技術ガイドの使用上の留意点>
本書は、基本的・標準的な調査・予測手法を示したものではなく、干潟生態系に関する
環境影響を調査・予測する場合の1つの考え方、アプローチの方法を整理し、とりまとめ
たものである。
各種事業の実施に伴う干潟生態系への環境影響については、個々の事業計画と干潟生態
系の特性に応じた調査のストーリーを想定し、調査・予測を実施する考え方を基に例示を
した。
環境アセスメントを実際に行うにあたっては、
個々の干潟生態系の特性を踏まえて、
独自のストーリーを設定することが重要である。
調査・予測にあたり、本書では、チェックすべき項目を示し、留意すべき事項を整理し
ている。環境アセスメントを行うにあたっては、本書の「4-1(10)p56」に示したチェック
リストを参考に個々の干潟生態系の特性を踏まえ、検討項目に抜けがないよう、確認する
ことが重要である。
現在、一般的に利用されている調査・予測手法については、
「4-7 p85」に適用範囲、留
意点を整理しているが、あくまでも各干潟生態系に応じた調査・予測手法を用いて環境ア
セスメントを実施することが必要である。
本書では、調査・予測結果の表示等に写真や図、表、グラフを用いて記載し、幅広い主
体に理解しやすい表現に努めている。これらは、あくまでも例示であり、個々の干潟生態
系の調査・予測結果を表示するにあたっては、各干潟生態系の特性を示すのにふさわしい
表現を用いることが求められる。
- 13 -
1-4 技術ガイドのポイント
本技術ガイドの重要な考え方・ポイントを整理し以下に示す。
(1)干潟生態系の特性の把握について
①「干潟」は、地形的には、潮間帯にあたる部分を指すが、
「干潟生態系」として捉え
るべき範囲は、干潟に生息する生物の生活圏、干潟の機能及び成因と関わりのある
範囲を一体のものとして、
潮上帯から干潟沖合の浅海域まで広く考える必要がある。
②干潟生態系は、他の干潟や周囲の環境とも常に密接に関係しながら成立している開
放系であるため、干潟のネットワークの視点を持ち、水の流れ、土砂の供給、生育・
生息する生物の生活史等にも留意して、広い範囲で対象干潟の位置づけ等を捉える
必要がある。
③干潟は、
海域と陸域の接点に位置することから非常に複雑な生態系を形成しており、
また、
「定期的な攪乱を受け緩やかに遷移している状態(短期的には動的平衡状態)
」
にある。干潟生態系は、変化の大きなフロー型の系であり、かつ開放系であること
から、平衡状態を壊す影響要因が加わると、連鎖的な影響が生じやすいことを理解
することが重要である。
④干潟生態系は、無機的環境と生物の相互作用によって「生物生息機能」
、
「物質循環
機能」
、
「生物生産機能」
、
「親水機能」
、
「景観形成機能」等の多くの機能を有してお
り、これらの機能を的確に把握することが重要である。
⑤干潟生態系は陸域生態系とは異なる特色を持ち、特に明確な「上位性」の位置づけ
が困難であることから、底生生物等を中心とした「典型性」や「特殊性」への着目
が重要である。また、多くの干潟で採貝などの漁業や潮干狩りなどの親水活動など
に見られる、人間との関わりの視点も重要である。
(2)干潟生態系の調査・予測・評価の流れの考え方について
①個々の干潟は、それぞれ固有の生息生物や機能、成因があり、また、事業の特性も
個々に異なるので、定型的な手法を適用すればよいということではなく、対象とす
る干潟生態系の特性に対応した環境影響評価の項目の選定及び選定項目の調査・予
測手法を十分に検討し、環境アセスメントを実施する必要がある。
②これまでは、調査の全体計画が必ずしも明確にされずに、生物・生態系に関する選
- 14 -
定項目に関係する環境要素について単に調査をしただけで、現況の評価や予測に効
果的に使われないデータが多かった。そこで、調査・予測の「目的」と「項目」
、
「手
法」の関係・流れを明確にし、
「どのような影響」について「どのように予測し」
、
そのために「何を調査する」という一貫性のあるストーリーを持った調査計画を作
成することが重要である。
③調査範囲の設定の際は、干潟に及ぶ直接的・間接的影響を十分に検討して、単に事
業実施区域を中心に設定するのではなく、事業の実施により影響を受けると想定さ
れる干潟を的確に選定し、その干潟を中心に干潟生態系の影響を把握できる調査範
囲を設定することが重要である。
(3)地域住民・専門家等の参加について
①干潟生態系の特性を把握し、調査計画を検討するにあたっては、地域住民等の参加
を早い段階から行い、地域住民からの情報・意見を収集し、専門家の意見・助言を
取り入れながら調査計画を作成・検討していくことが重要である。調査計画の全体
像を作成して共有しておくことが、手戻りなく効率的・効果的な調査の実施につな
がる。
②地元に詳しい人しか知らない情報や、保全の考え方に関する意見等を持っている地
域住民や専門家等を、協働で環境アセスメントを進めていく「当該干潟の情報提供
パートナー」と考え、その情報や意見を引き出すように努めることが重要である。
③環境アセスメント図書は、専門的かつ膨大な情報量で「分かりにくい内容」になり
がちであるが、地域住民等が理解しやすい情報提供・共有の手法として、図やイラ
スト等を活用して視覚的に分かりやすく表現した「環境情報図」の作成などの工夫
をすることが必要である。
- 15 -
事業の規模・要件
第一種事業
ス
ク
リ
第二種事業
ー
事業概要等の書面
知事意見
許認可権者等※1の判定
地域住民の参加
情報収集・意見の聴取
信頼性と理解の向上
・調査・検討結果への信頼性
・予測技術への信頼性
・現在・将来のイメージの具体化
↓
<解析結果・技術者への信頼>
地域住民の意志決定の促進
・利害得失の把握と相互理解
・客観的な見解に基づく判断
・納得の有無
↓
<客観的かつ冷静な判断>
法アセス必要
法アセス不要
法アセスの対象外
方法書の作成
ス
コ
ー
◎地域住民をパートナーとして情
報(現状と過去)の提供や意見を
聞く
◎専門家の意見・助言等
・事業計画、干潟の資料、分析結
果(干潟の環境情報図など)の紹介
と共有
↓
<全員が正しく理解>
<お互いの立場を共有>
ニ
ン
グ
手
続
方法書の公告・縦覧
←(意見:環境の保全の見知からの意見を有する者)
←(知事意見) ←(市町村長意見)
←(必要に応じ技術的助言:主務大臣)
調査・予測・評価の実施
環境保全措置の検討
準備書の作成
準備書の公告・縦覧
←(意見:環境の保全の見知からの意見を有する者)
←(知事意見) ←(市町村長意見)
評価書の作成
←(許認可権者の意見) ←(環境大臣の意見※2)
必要に応じ
評価書の補正
←(審査:許認可権者)
許認可等
事業の実施
環境保全措置の実施
事後調査の実施 等
注)
許認可権者等 ※1
①許認可をする者、②補助金交付の決定をする者、③独立行政法人の監督をする府省、④直
轄事業を行う府省
環境大臣の意見 ※2
環境大臣が意見を述べるのは許認可権者が国の機関である場合に限られる。
図1-1 環境アセスメントの手続きの主な流れと地域住民等の参加
- 16 -
ピ
ン
グ
手
続
2. 干潟の環境特性
2-1 干潟と干潟生態系
(1)干潟の定義
ポイント
・
「干潟」は、地形的には、潮間帯にあたる部分を指す。
・
「干潟生態系」として成立する範囲は、干潟に生息する生物の生活圏や干潟の機能、成因と
関わりのある範囲として、潮上帯から干潟沖合の浅海域まで含む「干潟」及び「その周辺の
陸域及び沖合浅海域」を干潟と一体のものとしてとらえる必要がある。
・干潟の価値は、面積で一律に決まるのではなく、生息する生物の多様性や生物の生活史にお
いて重要な役割を果たしているか否か、機能や成因等で判断する必要がある。
干潟は、一般的には「干潮時に広く出現する砂泥底の平坦面」で、面積や底質の性状
で区分した明確な定義はない。干潟を地形的に区分すると潮間帯にあたる部分を指すが、
干潟生態系という視点に立って干潟の地形的な成因から考えると、干潮時に単に露出す
る部分だけを干潟とするのではなく、干潟前面に形成される前置斜面と呼ばれる部分や
潮上帯にあたる後背湿地まで含めて考える必要がある(図2-1)
。また、干潟に生息
する生物種や群集の生態から考えると、干潟の鳥類や魚類が生息するために必要な範囲
は、潮間帯から後浜と呼ばれる潮上帯に形成されるヨシ原や干潟前面の浅場も干潟と一
体のものとして重要な場所となっている。つまり、干潟生態系という視点から考えた場
図2-1 本調査における「干潟生態系」の範囲
(「干潟保全再生の技術と活用」
風呂田利夫著(社)建設コンサルタント協会会報誌 221 号 2003 年 10 月を基に作成)
- 17 -
合、潮上帯から干潟沖合の浅海域までの「干潟及びその周辺域」を干潟のエコシステム
としてとらえることが必要である。
干潟生態系の保全という視点からは、干潟面積の大小の関わらず、生物の生活史にお
いて産卵場や稚仔魚期の生育場等として重要な役割を果たしている場合があることに
留意が必要である。
(2)干潟の分類
自然に形成された干潟は、地形的な成因等の特徴から、前浜干潟、河口干潟、入江干
かた こ
潟、潟湖干潟の4つに分類することができる。さらに、人工的に砂泥を投入して造成さ
れた人工干潟を加えると5つに分類される。干潟を分類し、類型化することは、干潟の
成因や干潟を特徴づける環境要素を把握する際に重要で、現況把握の調査手法や事業に
伴う影響要因を抽出するときの一つの視点を提示することとなる。
表2-1 自然干潟の地形的特徴による分類
地形的特徴による分類
前浜干潟
河川などによって運
ばれた砂泥が海に面
して前浜部に堆積し
て形成された干潟
河口部や河川感潮域
に河川の運んだ砂泥
河口干潟
が堆積して形成され
た干潟
リアス海岸など埋れ
谷等の入江奥部の河
入江干潟
口部に形成される干
潟
浅海の一部が砂州、
砂丘、三角州等に
よって外海から隔て
潟湖干潟
られてきた浅い汽水
域の区域に形成され
た干潟
干潟に影響を与える水塊の区分
主要なもの
その他の水供給源
干 潟 の 事 例
海
富津干潟(東京湾:千葉県富津市)、奥田海岸
(伊勢湾知多半島:愛知県美浜町)、和白干潟
小河川
(福岡県福岡市東区)、中津干潟(大分県中津
市)、七浦海岸(有明海:佐賀県鹿島市)、泡瀬
干潟(沖縄県沖縄市)等
隣接する大きな河川 盤洲干潟(千葉県木更津市)、八代干潟(有明
海:熊本県八代市)、古見干潟(沖縄西表)、干
(下げ潮時影響大) 立海岸(沖縄県八重山郡竹富町字西表)等
河川
琵琶瀬川河口(北海道厚岸郡浜中町)、汐川干潟
(愛知県田原市)、吉野川河口干潟(徳島県徳島
市)、球磨川河口干潟(有明海:熊本県八代
(上げ潮時影響大) 市)、浦内川河口干潟(沖縄県八重山郡竹富町字
西表)等
海
海
河川
(上げ潮時影響大)
隣接する大きな河川
海
(下げ潮時影響大)
江奈干潟(神奈川県三浦市)、立ヶ谷干潟(和歌
山県西牟婁郡白浜町)等
風蓮湖(北海道根室市、野付郡別海町)、蒲生干
潟(宮城県仙台市)、松川浦干潟(福島県相馬
市)、網張干潟(沖縄県石垣市名蔵)等
(「干潟等湿地生態系の管理に関する国際共同研究(平成 10~14 年)」平成 15 年 9 月
独立行政法人 国立環境研究所より作成)
環境省が平成7~8年度に実施した第5回自然環境保全基礎調査(海辺調査)による
と、干潟の面積は、全国で約5万 ha あり、そのうち前浜干潟が 64%と最も大きく、次
いで河口干潟 31%、潟湖干潟3%で、人工干潟が 0.3%となっている。なお、上記の調
- 18 -
査年度では、
「入江干潟」は「河口干潟」の一部として区分されているため、面積の統
計的なデータはない。
補足説明
干潟は、大きく5つに分類されるが、干潟に影響を与える水塊の区分、有機物や栄養塩の供給
源、土砂の供給源、潮位差等により様々な分類が可能である。干潟を分類する場合、干潟を特徴
づける環境要素が個々の干潟で異なることを理解し、対象としている干潟にとって、どのような
環境要素が重要であるかを把握し、区分することが大切である。
前浜干潟の例
河口干潟の例
和白干潟(昭和 56 年撮影:1/10,000)
汐川河口干潟(昭和 58 年撮影:1/10,000)
入江干潟の例
潟湖干潟の例
江奈干潟(昭和 58 年撮影:1/10,000)
蒲生干潟(昭和 59 年撮影:1/10,000)
写真1-1 各分類の干潟
(出典:
「国土画像情報(カラー空中写真)」国土交通省)
- 19 -
(3)干潟生態系
1)干潟生態系の概念
生態系とは、EIC ネットの環境用語集(http://www.eic.or.jp/(財)環境情報普及セン
ター)によれば、エコシステム(ecosystem)と同義語として、
「食物連鎖等の生物間の
相互関係と、生物とそれを取り巻く無機的環境の間の相互関係を総合的にとらえた生物
社会のまとまりを示す概念。まとまりのとらえ方によって、一つの水槽の中や、一つの
ため池の中の生物社会を一つの生態系と呼ぶこともできるし、地球全体を一つの生態系
と考えることもできる。1935 年にイギリスの植物学者タンスレイ(A. G. Tansley)が
生態系という概念を提唱し、広まった。
」としている。また、広辞苑によれば、
「ある地
域の生物の群集とそれらに関係する無機的環境をひとまとめにし、物質循環・エネルギ
ー流等に注目して機能系としてとらえたもの」としている。
こうした視点に立つと、干潟の生態系は、
「干潟を形成させている成因」
、
「干潟を構
成している構成要素(環境要素)
」
、
「構成要素の上に成り立っている機能」により成立
している(表2-2)
。
以下に生態系の生物間相互関係、無機的環境、機能について概説し、次項で「干潟の
環境要素」
、
「干潟の機能」について詳述する。
表2-2 干潟生態系の概念
構成要素 生物(上位性・典型性・特殊性)
(環境要素)
無機的環境(地形・水質・底質 など)
生物生息機能
機 能
物質循環機能
生物生産機能
その他の機能(親水機能・景観形成機能 など)
成 因
生物的成因
無機的環境成因
- 20 -
2)干潟生態系の生物間相互関係
森林の生態系では、草や木といった植物が生産者となっており、その上に植物を食べ
る昆虫類や草食性の鳥類や哺乳類が位置し、昆虫類を食べるカエル等の両生類、両生類
や小型鳥類やネズミ等の小型哺乳類を食べるヘビ等のは虫類の順となっている。そして
オオタカ等の猛禽類や肉食性のキツネ等のほ乳類が頂点にいる。
一方、海洋の生態系は、植物プランクトンが生産者として大きな役割を果たしており、
その食物連鎖は、植物プランクトンを餌とする動物プランクトン、これらを食べるイワ
シ等の小型魚類、その魚類を食べるマグロやブリ等の大型魚類の順位となっている。
これに対し干潟の生態系では、生産者は、珪藻を主体とした底生藻類で、この上にゴ
カイ等の底生動物、ハゼ等の魚類、シギ・チドリ等の鳥類という位置づけになっている
ことに加えて、人間が古くから漁業や潮干狩り等の形で生態系の最上位に位置けられ、
相互に大きな影響を与えあってきたという特徴がみられる。概念的には陸域の生態系で
も最上位に人間が存在するが、人間がオオタカやキツネ等の肉食動物を食物として食べ
るという構図は、過去のものとなっている(図2-2)
。
森林
海洋
干潟
猛禽類
ほ乳類
海鳥
魚食性魚類
(人間)
鳥類
爬虫類
鳥類等
魚類
魚類
動物プランクトン等
底生動物
生産者:植物プランクトン
海藻類
生産者:底生藻類
海藻草類
両生類等
昆虫類等
生産者:草本・木本
図2-2 生態系の食物連鎖の一例
3)干潟生態系の無機的環境
干潟生態系では陸域生態系に比べ、流況、波浪、水質、底質といった無機的環境が、
干潟の生物の生息や再生産(繁殖)に強く影響を与えているのが特徴である。また、陸域
においては生態系を成立させている「場」自体は、容易に変化することはないが、干潟
では埋立て等の直接的な要因がなくても流れや波といった無機的環境の変化により、干
潟自体が消失したり、干潟生態系が変化することがある。
- 21 -
4)干潟生態系の機能
干潟生態系では、
「生物生息機能」や「物質循環機能」
、
「生物生産機能」といった機
能があり、これらの機能は、沖合海域や周辺に分布する干潟が相互に関係し、広い地域
で相互に関連し合いながら成立しているのが特徴である。これに対し、森林のような陸
域生態系では、生物の生活史や物質循環の大部分が一つの森林といった「場」の中でほ
ぼ成立している場合が多い。
干潟生態系では、生物の生活史や物質循環が一つ一つの独立した干潟で個別に成立し
ていることは少ない。例えば内湾の干潟に生息するアサリについてみると、卵や幼生の
時期は、沖合の海域を浮遊し、成長に伴ってたどりついた干潟や浅海域に着底し、稚貝
として底生の生活を開始する。卵や浮遊幼生は、湾内の流れによって拡散するため、産
卵した干潟と着底した干潟は、必ずしも同じとは限らない。つまり、ある干潟に供給さ
れるアサリの稚貝は、他の干潟での産卵によって発生した浮遊幼生によって維持されて
いる。浮遊幼生期を生活史として持つ底生動物に限らず、魚類や鳥類といった干潟の生
物の生息は、干潟や他の海域や陸域が相互に関連し合いながら、
「場」のネットワーク
の中で成立している。
また、干潟の機能として注目される物質循環機能についても、陸域生態系では、生物
間の食う・食われるといった食物連鎖のピラミッドとして表現されることが多いが、干
潟では、生物間の食物連鎖に加え、水や底泥を介した物質のやり取りとして成立してお
り、特に広域において移流・拡散する水は、物質循環に重要な役割を果たしている。
2-2 干潟の環境要素
ここでは、干潟を構成する要素のうち、無機的な環境要素について解説し、生物につ
いては次項の干潟の機能の「生物生息機能」で解説する。
干潟を成立させている無機的環境の要素としては、位置、地形、物理・化学的な環境
要素があり、時間的、空間的に相互に関連しあう中で、これらの要素の上に生物種、生
物群集が成り立っている(図2-3)
。
- 22 -
図2-3 干潟を形成する環境要素の模式図
(「海の自然再生ハンドブック第2巻干潟編 海の自然再生ワーキンググループ著(株)ぎょうせい」を基に作成)
(1)位 置
干潟の位置についてみると、干潟は、一般的には大きな河川の流入する内湾に形成さ
れるが、干潟が形成される位置により、干潟の性状や成因が異なってくる。海域別に大
潮時の潮位差(「潮位表」気象庁における潮位実況)をみると、太平洋側では1~3mあ
るが、日本海側では 40~60cm と小さいため、日本海側では広大な干潟は発達しない。
一方、有明海では、3~5mという潮位差により、干潮時には広大な干潟が出現する。
また、波浪の影響を受けやすい外洋に面している干潟では、底質の粒度は粗くなり、静
穏な内湾の奥部に位置する干潟では、粒度は細かくなる。
生物の生息環境から干潟の位置をみると、干潟は、広域を生活圏とする渡り鳥の中継
地となっており、休息、採餌の場として大きな役割を果たしている。繁殖地のシベリア
から東南アジア、オセアニア等に移動するシギ・チドリ類の中継地として、どこに、ど
のような面積の干潟が分布するか、広域的な視点で把握する必要がある。
また、ハゼ類等の干潟の生物についても、干潟沿岸の浅海域で産卵するなど、各生活
史における生育段階に応じて干潟を含む海域を利用している。干潟の位置は、生息する
生物の生活史・生活圏という視点から把握することが必要である。
また、前項でアサリの産卵、浮遊幼生、着底について述べたが、干潟に生息する生物
- 23 -
は、周辺に分布する干潟と関連しながら生息しており、干潟のネットワークという視点
で、干潟の分布、位置を把握することが必要である。
人為的な開発という視点から干潟の位置をみると、干潟に対する利用や開発の圧力は、
背後地が市街地か農地かなどの土地利用によっても異なる。例えば埋立てや干拓は、地
権者との交渉の容易さや土地規制の状況にもよるが、背後地の地価から算出した用地取
得費と埋立てによる事業費を比較し、埋立事業費の方が安価な場合は実施されやすい。
つまり都市化された沿岸部ほど地価が高く、開発の圧力は大きい傾向がある。
また、干潟に供給される土砂や有機物量、栄養塩類の量は、干潟に流入する河川の流
域が市街地か農地か森林かといった状況によっても異なるため、流入河川の流域の面積
や土地利用を把握することが重要である。
(2)地 形
干潟の地形は、干潟の地形的な成因に係る広域的な視点と、干潟そのものの微地形に
着目した視点でとらえる必要がある。干潟の地形的な成因の大きな要素として流入河川
からの土砂の供給があり、流域の広さや土地利用の状況、ダム等の有無により干潟の形
成の状況は異なってくる。また、干潟の土砂は、沿岸方向と岸沖方向の移動により供給
されるが、港湾や突堤の建設により、沿岸方向の土砂の移動が変化すれば、干潟の地形
や底質性状にも影響を与えることになる。
干潟を地形的な特徴でみると、干潟は海岸に形成された前置層の上面に存在し、特に
前置斜面と呼ばれる干潟前面の地形は、自然干潟の形成過程でできる特異な地形となっ
ている。干潟前面に形成されるこの斜面は、河川からの土砂の供給と波浪等による侵食
と堆積のバランスで成立している。
干潟は一見すると均質な平坦面のように思えるが、様々な微地形で成り立っている。
干潟には、ところどころに澪(みお:tidal creek )と呼ばれる水路があり、干満に
応じて海水の流入、流出や魚類等の生物の移動の経路となっている。また、勾配も一様
ではなく、凹凸があり、窪みに水が溜まった部分と水はけの良い部分がある。底質の粒
径の違いはこうした微地形により異なり、干潟の生物はそれぞれの環境に適応し、生息
場としている。
- 24 -
コラム
【干潟の形成】
干潟は、海岸前置層の上面に存在している。河川により運ばれた土砂、主として洪水時に大量
に持ち込まれた土砂が海岸部で堆積して前置層を形成する。この前置層は、洪水の土砂供給のた
びに成長しつづける。したがって、干潟の存在は、前置層の形成がなくてはならない。すなわち
継続的な土砂供給機構の存在の元で成り立っている。このことは、浚渫等の工事により前置斜面
の形状が変化すると干潟も変形することを意味している。また、干潟の人工的な造成に当たって
はその海岸において前置層の形成と維持が可能であることが前提で、波や海流による土砂流出量
が供給量を上回る場合には干潟地形は長期的には維持されない。
前置層の形成は、土砂が水中でゆっくりと堆積してできたもので、それにより土砂粒子間に豊
富な水分と間隙があることも、干潟生態系の形成にとって重要な要素である。
干潟の地形模式図
(「干潟保全再生の技術と活用」風呂田利夫著
(社)建設コンサルタント協会会報誌 221 号 2003 年 10 月を基に作成)
(3)波・流れ
波や流れは、干潟の土砂が堆積するか、侵食されるかを左右し、干潟の地形に大きな
影響を与える。一般的に自然干潟では、沿岸漂砂等により干潟に一定の供給があれば、
台風等の波浪により一時的に干潟が侵食されても、再び波浪の作用により沖合の土砂は
沿岸部に寄せられ、元の地形に戻るようになっている。前項で述べた前置斜面の構造は、
干潟ができる過程で形成されるものであるが、この地形を浚渫等で破壊すると、干潟先
端部が波浪等により侵食を受けて地形的に安定する形状になるまで崩れるため、干潟面
積が縮小し、干潟としての地形は維持されない。このため人工的に干潟を造成する場合
には、こうした干出しない前置斜面の地形的な特徴についても検討を加えて計画する必
要がある。
- 25 -
また、流れについても沿岸流という流れの作用により、遠く離れた河川から流出した
土砂を絶えず干潟に供給する仕組みになっている。そのため、土砂が移動する沿岸部に
突堤等の構造物や水深が急に深くなる航路等を設置すると、下流側の土砂の供給が減少
し、干潟面積の縮小、消失につながることがある。
(4)水質
干潟における水質環境は、満潮時に干潟の上を覆う水の水質と底泥の間隙水の水質を
区分して把握する必要がある。満潮時に干潟を覆う水は、干潟表面に接することにより
底泥の間隙水と物質交換を行い、相互の水質環境に影響を与えている。
閉鎖的な内湾等では、夏季に水温躍層が生じ、成層が形成され上下層の水塊が混ざり
にくくなる。有機物の多い海域では微生物等による有機物の分解過程で酸素が消費され、
下層では酸素が供給されにくく、貧酸素水塊が形成されやすくなる。吹送流等により下
層の貧酸素水塊が浮上し沿岸に到達すると、干潟を含む浅海域の生物の生息に大きな影
響を与える。干潟の水質については、干潟前面の沖合を含めて、鉛直的、水平的な分布
についても把握することが必要である。
干潟では、干満に伴い陸になったり水面になったりするため、水域の面積や形を特定
することが難しい。また、河川水の流入や干潟前面の浅海域の水が往き来し、干潟の水
質は、刻々と変化している。ある時刻における水質の現況を把握することは可能である
が、物質の流れ、収支といった経時的な変化を把握することは、非常に難しい。同様に
底泥の間隙水の現象についても経時的な変化を把握することは難しい。なお、このこと
は、干潟の浄化作用等の物質収支の現況の把握や数値モデルを作成する場合のモデルの
現況再現の検証が難しいことを意味している。
干潟の水質環境のうち、生物の生息に影響を与える主な要素の特性を表2-3に示す。
- 26 -
表2-3 水質環境要素の特性
項
目
塩 分
水素イオン濃度
(pH)
濁 り
有機物
栄養塩類
特
性
・海水と河川水等の淡水との混合により濃度が決まる。
・陸水や降雨の流入による影響を把握できる。
・河口干潟等では干満により大きく変動する。
・生物の生息条件としては大きな環境要素の一つである。
・海域では緩衝作用により 8 前後の値で比較的安定している。
・光合成で OH イオンが増加するとアルカリ側に傾く。
・生物の繁殖や成長の条件として重要な環境要素の一つである。
・水中の浮遊する懸濁物質の量である。
・SS、透明度、透視度、濁度等の項目として測定される。
・土粒子起因のものとプランクトンや浮遊する有機物起因のものがある。
・土粒子は陸域からの流入や底土の巻き上げによる。
・水中の有機物量は、TOC、COD、BOD、O-N、O-P 等の項目として測定される。
・陸域からの流入するものと海域で生産されるものがある。
・懸濁態と溶存態のものがある。
・懸濁態はプランクトン等の生物と非生物(デトリタス)に区分できる。
・溶存態(非生物)は、河川からの流入や底質からの溶出に起因するものが主体である。
・水中の栄養塩類は、溶存態で存在し、NH4-N、NO2-N、NO3-N、PO4-P、SiO2 等の項目
で測定される。
・陸域から流入するものと海域で生産されるものがある。
・栄養塩類は、微生物による有機物の分解により、主に生産される。
・干潟では、有機物の分解が盛んで、水中への栄養塩類の供給も多い。
・栄養塩類は、底生藻類や植物プランクトン等の植物に利用され、有機物に変換され
る。
・植物の増殖に必須で、過度に存在すると赤潮の原因となる。
(5)底質
砂浜と干潟の大きな相違は、底質の保水力の差にあり、砂浜は、保水力が低く水はけ
が良いため干潮時の乾燥が著しく、干潟は、高い保水力により干潮時にも干潟表面に海
水が保持され、多くの生物が生息できる環境となっている。
底質は、水質と異なり、性状や濃度が連続的に変化しないという特性が挙げられる。
水質は、拡散の作用により均一になろうとする性質があり、ある地点の濃度から周辺の
濃度を推定することが可能である。地形や流況、河川の流入の有無等の条件により異な
るが、pHや塩分、CODでは、1点の濃度で 100~500mの範囲の水質の現況を把握で
きると考えられる。一方、底質は、数m離れれば、全く異なった性状になることがあり、
1地点の濃度の値がもつ代表性は、水質に比べ非常に低く、不連続な分布特性をしてい
る。
底質の性状や濃度は、鉛直方向にも大きく異なっている。干潟の表面では、干出時に
- 27 -
空気に接することや主に珪藻類からなる底生藻類による光合成により、酸素が十分存在
するが、下層では酸素の供給がないため還元状態になっていることが多い。干潟生物の
生息する深さをみると、アサリやゴカイ等の底生動物は、5~10cm と比較的浅い底泥中
に生息するが、マテガイでは 30cm 程度、アナジャコでは深さ1mを超える巣穴も確認
されている(「干潟の生物観察ハンドブック」秋山章男・松田道生著 1974 年)
。底生藻類
も底泥にもぐるといわれており、底質の性状や生息している生物の鉛直方向の分布特性
を把握することも重要である。
干潟の底質環境のうち、生物の生息に影響を与える主な要素の特性を表2-4に示す。
表2-4 底質環境要素の特性
項
目
粒 度
酸化還元
電位 差
硫化物
有機物
特
性
・粒度組成、中央粒径等の項目として測定される。
・底生動物の生息条件として重要な環境要素である。
・一般に粒径が細かい底泥は保水性が高く、水分や有機物を多く含む。
・粒径が細かい底質は、吸着能力も高い。
・このため粒径が細かい底質は重金属等の汚染や有機汚濁が発生しやすい。
・底質の酸化状態か還元状態かを示す電位差。
・底質表面は、酸素と触れているため、酸化状態となっている。
・酸素の供給のない下層は、通常は還元状態となっている。
・粒径が細かい底質は、酸素の溶入がしにくく、還元状態になりやすい。
・有機物が多い底質は、微生物による分解により酸素が消費されるため、さらに還元
状態になりやすい。
・有機物による汚濁の目安となる。
・有機物中のS(硫黄)が還元状態で金属と化合して生成される。
・有機物の多い底泥で、タンパク質が嫌気的に分解され、還元状態になると、硫化物
が生成される。
・生物の生息に有害で、硫化物の多い底質では無生物域となることがある。
・特に有機物の分解が盛んな水温の高い夏季にこの傾向が著しい。
・底質中の有機物量は、IL、COD、TOC 等の項目として測定される。
・底生藻類などの生物起因のものと非生物起因のものに区分される。
・有機物量が多い底質は、還元状態になりやすく、硫化物が発生しやすい。
・このため、有機汚濁した底質は生物の生息が難しい。
・底質中の栄養塩類は、間隙水中に溶存態として存在し、NH4-N、NO2-N、NO3-N、PO4
-P、SiO2 等の項目として測定される。
栄養塩類
・微生物による底質中の有機物の分解により、主に生産される。
・干潟で生成された栄養塩類は水中に供給され、底生藻類や植物プランクトン等の植
物に利用され、有機物に変換される。
- 28 -
(6)その他の環境要素
上記の他にも気温、水温、日照、風等、干潟の生息生物や諸機能に影響を与える様々
な環境要素がある。干潟生態系を把握するためには、各干潟にみられる生息生物や機能
の特性を抽出し、その特性に寄与している環境要素について、水平的、鉛直的な分布や
経時的な変化を把握することが必要である。
2-3 干潟の機能
(1)干潟の機能の概要
干潟の機能は、干潟生態系の重要な要素であり、干潟に生息する生物や無機的環境に
よって成立している。これらは、干潟という場が支える機能であり、生物に直接関係す
る機能として、①生物生息機能、②物質循環機能、③生物生産機能がある。また、その
他の機能として、④親水機能、⑤景観形成機能が挙げられる(図2-4)
。
主な干潟の機能
親水機能
景観形成機能
レクリエーション、
自然体験・環境学習
自然景観
自然海岸・自然水際線
主に生物に関係する機能
生物生息機能
物質循環機能
生物生産機能
生物の生育・生息
種の保存・多様性
食物連鎖
水質浄化
産卵・稚仔の生育
漁業生産
無機的環境
地形(地盤高)
潮汐・流れ・波
水質(塩分等)
底質(粒度・性状等)等
生 物
相互作用
微生物
植物(海藻草類・塩性植物等)
動物(底生動物・魚・鳥等)
(上位性、典型性、特殊性)
干潟の環境要素
無機的環境成因
生物的成因
干潟の成因
図2-4 干潟生態系における機能の位置づけ
- 29 -
(2)生物生息機能
干潟は、地形や潮汐作用等により多様な環境が形成され、底質や水質の違いにより底
生藻類や海藻草類、底生動物、魚類、プランクトン、昆虫類、鳥類等の様々な生物が生
息し、種の保存、生物多様性の観点から重要な場となっている。干潟の生物については、
上位性、特殊性、典型性といった生物種としての位置づけを把握するとともに、干潟を
生活史の中のどの生育段階で利用しているか、生活圏の中でどのような行動様式で利用
しているかを把握することが必要である。生物種に対する影響についても生活史や生活
圏という視点から把握することが必要である。
干潟の生物を生活史から区分すると、貝類やゴカイ類といった底生動物は、海域で浮
遊幼生期を経た後、着底した干潟でほぼその一生を過ごすことになる。また、マコガレ
イ等の魚類は、稚魚期は干潟や沿岸の浅海域で生活するが、成長してからは沖合で生活
する(図2-5)
。干潟に生息する生物について、生活史のどの段階で干潟を利用して
いるかを区分して把握する必要がある。
干潟の生物を生活圏から区分すると、干潟に着底して生息する底生動物の大部分は、
干潟で終日を過ごしているが、サギ類やシギ・チドリ等の鳥類は、干潮時に干出面に飛
来して採餌の場として利用し、スズキ、ボラ等の魚類は、冠水時に採餌のため干潟に来
遊する。また、日本に春秋の時期に訪れるシギ・チドリ等の渡り鳥は、夏季はシベリア
等で繁殖し、冬季は遠く東南アジアやオセアニア等を越冬地として利用し、その移動の
中継地として日本の干潟を利用している(図2-6)
。干潟に生息する生物について、
どのように干潟を利用しているかを区分して把握することが必要である。
干潟の特徴的な生物としては、植物では、高潮帯付近から上部に生育するヨシ等の塩
性植物群落、潮間帯や潮下帯から沖合浅海域に生育するアオサ類やアマモ類等の海藻草
類、砂泥底の表面に着生する主に珪藻等の底生藻類が挙げられる。
動物では、干潟底面の地盤高や底質に応じて巣穴を作るゴカイ等の環形動物、貝類等
の軟体動物、エビ、カニ類等の節足動物等の多種多様な底生動物が生息している。また、
ハゼ類等の魚類は干潟前面に生息し、カレイ類、ボラ、スズキ等の魚類は、冠水時に干
潟に来遊する。
- 30 -
これらの干潟に生息する生物は、潮汐に伴う干出による乾燥や河川流入等による塩分
の変化、土砂の堆積や侵食等の激しい環境変化に適応し、生息している。生きている化
石と呼ばれるカブトガニや有明海の干潟に生息する固有種であるワラスボ、ムツゴロウ
等、種の保存の場として学術的にも重要な場となっている。
このように、干潟は、多種多様な生物が生育・生息する場としての生物生息機能を有
し、これらの生物が活動することにより、物質循環や生物生産が維持されることから、
生物生息機能は干潟の機能として最も重要なものとなっている。
補足説明
・干潟の生物は、食う・食われる関係で相互の生息に影響を与えており、食物連鎖における位
置づけを把握することが必要である。
・干潟の生物は、卵や幼生の時期は沖合の海域で浮遊生活するなど、広い海域を生活圏として
いる。干潟の生物の生息がどのような範囲で成立しているかを把握する必要がある。
・干潟には、着底後、ほぼ一生を干潟で生活する底生動物や幼稚仔の時期だけ干潟で生活する
魚類等の生物がいる。生活史の中で干潟をどう利用しているかを把握する必要がある。
・干潟には、日々の干満に合わせて干潟に来遊し、採餌場、休息場として利用する魚類やシギ・
チドリ等の渡り鳥のように春秋の限られた期間だけ中継地として利用する生物がいる。生活
圏として干潟をどう利用しているかを把握する必要がある。
- 31 -
注:海生動物の大半は、卵から孵化したものは成体より小さく、構造が単純である。これらは次第
に成長し、形を変え(変態)て成体の姿になる。このように、卵から産まれて成体になるまでの
形態のものを一般に幼生という。図中のトロコフォラ幼生、ヴェリジャー幼生等は生育段階を
示す名称である。幼生は、海生動物の種類や生育段階により形態が異なる。
図2-5
干潟に生息する生物の生活史
(「日本海洋プランクトン図鑑」保育社 1991 年、
「日本の淡水魚」山と渓谷社 1993 年9月を参考に作成)
- 32 -
図2-6 渡り鳥(シギ・チドリ類)の生活圏
(
「フィールドガイド 日本の野鳥」
(財)日本野鳥の会 1994 年1月を参考に作成)
(3)物質循環機能
干潟の物質循環は、河川からの流入や流れによる系外への流出、干満による干出、冠
水等の物理的な作用や生息生物の食物連鎖という生物的な作用により行われている。
干潟は、こうした物質循環を通して、流入した有機物を吸収、分解して除去し、水を
浄化する作用を持っている。
図2-7 干潟の物質循環模式図
(「海の自然再生ハンドブック第2巻干潟編 海の自然再生ワーキンググループ著(株)ぎょうせい」を基に作成)
- 33 -
干潟における有機物の吸収、分解・無機化や栄養塩の吸収といった水質浄化作用は、
次の二つに大別される。
①干潟内で一時的に固定し、貯留する作用
・水中の懸濁した有機物が沈降やろ過により砂泥層に固定される作用
・生息生物が水中の栄養塩、有機物を吸収や摂餌により体内に取り込む作用
②干潟から系外に運び出す作用
・微生物による有機物の分解、無機化、脱窒素により系外(大気中)に運び出す作用
・底生動物等の活動に伴うエネルギー消費により系外(大気中)に運び出す作用
・干潟に飛来する鳥類や来遊する魚類が摂餌後の移動により系外に運び出す作用
・漁業、養殖業によって魚介類、海藻草類を採取することにより系外に運び出す作用
・水とともに潮流により系外に運び出す作用
これらの作用のうち、物理的な作用は、主に干潟の地形や底質、潮位差に依存し、生
物的な作用は、生物の代謝量や食物連鎖、漁獲量等に依存している。
補足説明
・干潟における浄化作用は、流入する負荷の量、干潟内で分解される量、一時的に固定される
負荷の量、系外に移動する負荷の量のバランスで成立している。
・流入する負荷の増加や干潟における物質循環機能の低下が起こると干潟や沖合海域の水質汚
濁をもたらすので、物質循環機能が維持されているかについて負荷の収支バランスを把握す
ることが必要である。
鳥 類
シギ・チドリ類
カモメ類等
魚 類
スズキ等
魚 類
ハゼ類等
二枚貝類
アサリ等
腹足類
(巻貝)
ウミニナ等
魚 類
稚魚・幼魚
小型の甲殻類
ヨコエビ類等
甲殻類
エビ・カニ類等
環形動物
ゴカイ等
動物プランクトン
植物プランクトン
干 潟
底生藻類
バクテリア
無機栄養塩類
デトリタス
図2-8
溶存有機物
動植物体
糞 塊
水 域
干潟における物質循環(食物連鎖)の模式図
(
「干潟の生物観察ハンドブック」秋山・松田 1974 年 東洋館出版社 を参考に作成)
- 34 -
(4)生物生産機能
干潟は、砂泥底の表面に着生する底生藻類が、豊富な光条件のもとで活発な光合成を
行い、有機物を生産し、高い一次生産力を有している。この高い一次生産に支えられ、
底生動物や魚類等の動物が生息し、食物連鎖を通じてより上位の生物の生息(成長)を
可能にしている。また、魚類等の稚仔の生育場として利用されており、沿岸域の生物資
源の涵養の場となっている。
干潟は、人間の生産活動の場としても重要性が高く、アサリ、バカガイ等の二枚貝や
クルマエビ等の水産有用種が高密度に生息し、良好な漁場として漁業生産の場となって
いる。また、干潟が分布する沿岸域では古くからノリの養殖やクルマエビ等の養殖場と
して利用されている。
補足説明
・アサリの採貝といった漁業や潮干狩り等のレクリエーションにより干潟内の生物(有機物)
が陸域に運ばれ、海域の浄化に役立っている。生物生産機能の低下は、物質循環機能の低下
をもたらし、水質の汚濁の要因ともなる。
・各機能を相互に連携した機能としてとらえることが必要である。
(5)その他の機能
干潟は、内湾の奥部や河口付近に形成されるため、多くの干潟は都市近郊に分布し、
古くから潮干狩りや釣りの場所として利用され、地域の風物詩となっている。近年では
干潟に飛来するシギ・チドリなど多くの野鳥を観察する場所としても普及している。ま
た、自然に対する関心の高まりから、自然学習や環境学習の場としての利用も盛んであ
る。このようなことを通しての自然との触れ合いをもたらすなど親水機能を有している。
また、景観という観点からみれば、干潟は陸と海の接線であり、潮の干満や季節の変
化によって様々な景観を創り出し、人々に安らぎの場を提供しているといえ、干潟は景
観を形成する重要な要素ともなっている。
- 35 -
2-4 干潟の開発と現状、環境保全の視点
(1)干潟開発の歴史と背景
干潟は、歴史的に人間との関わりの深い場所である。生物生産機能の項でも述べたよ
うに、高い生産力によりアサリ等の貝類の好漁場となっており、また、河川の流入があ
り、背後地は緩やかな地形であることが多いため、水や食料が得やすく、可住地として
集落を作りやすい適地で、古くから人とのつながりが深い場所となっている。また、干
潟は、静穏な内湾の奥部に形成されやすく、そうした沿岸域は港の適地でもあり、遠浅
な地形は、高度な土木技術を必要とせずに経済的にも低コストで埋立てることが可能な
ため、開発されやすい場所となっている。
特に東京湾や大阪湾といった大都市圏の沿岸部では、地価が非常に高く、地権者も多
いため、買収により陸域で土地を取得するより、埋立てて取得する方が早期に広大でま
とまった土地を安価に取得できることから、高度成長期には盛んに埋立てが行われた。
この顕著な例として東京湾の干潟の面積を昭和 20 年以前と昭和 53~54 年で比較すると、
9千 ha 以上あった干潟は、2千 ha 以下に激減している。
昭和 40 年代に埋立てが盛んだった東京湾等では、その後、市民の自然に対する関心
の高まりや急速な埋立ての進行に対する反省から、干潟の消失は少なくなった。しかし、
北海道や九州などの地方では、その後も沿岸部の開発計画において土地取得等の問題と
いう理由から埋立てや干拓が行われ、干潟の減少が続いている。
10
10
(東京湾)
8
面積(千ha)
面積(千ha)
8
(八代海)
6
4
2
6
4
2
0
0
S20年以前
S53~54年
H1~4年
前浜干潟
河口干潟・他
H7~8年
S20年以前
S53~54年
前浜干潟
H1~4年
H7~8年
河口干潟
図2-9 干潟面積の変化
注:調査時により干潟の区分が異なるため区分別の面積が増減することがある。
(
「自然環境保全基礎調査」環境庁より作成)
- 36 -
(2)干潟の現状と課題
干潟は、藻場、サンゴ礁とともに浅海域における特異な生態系を形成する場所として、
極めて重要である。干潟に生息する生物種やその生態の解明、食物連鎖からみた生態系
の構造の研究、浄化作用・エネルギーフローといった物質循環の研究は、古くからなさ
れてきた。しかし、機能や成因を含めた干潟生態系の体系的な調査・研究事例は少なく、
また、開発事業に伴う影響要因と環境要素に関する総合的な調査・研究は、これまでほ
とんど行われてはこなかった。そのため、干潟生態系に関する環境アセスメントの事例
や調査・予測資料の蓄積は極めて少なく、特に定量的な予測の事例はほとんどない状況
である。これは、干潟で行われている様々な現象を総合的にとらえ、干潟生態系への影
響を体系的に把握することの難しさとも関連していると考えられる。
本書では、干潟生態系を捉える際に、
「干潟に生息する生物と生物を取り巻く無機的
環境」という狭義の概念に加え、機能と成因という要素を具体的に示し、干潟生態系の
概念をより明確に提示している。こうした総合的な概念で、干潟生態系をとらえること
が適切かどうか、干潟生態系への影響を予測することが可能かどうかについては、今後
の調査・予測資料の蓄積と環境アセスメントの実施事例による検証が必要であると考え
られる。
(3)環境保全の視点
干潟生態系は、生息する生物と生物を取り巻く無機的環境とともに、干潟の機能、干
潟の成因という要素で構成されている。干潟生態系の保全を考える場合には、生物種の
上位性、典型性、特殊性の観点とともに、干潟の地形的な成因や物質循環、生物生産の
機能の保全についても検討する必要がある。
ポイント
<干潟生態系を把握する視点>
①干潟生態系を生物の生活史という時間的スケールで把握する。
②干潟生態系を生物の生活圏という空間的スケールで把握する。
③干潟生態系の成因を時間的スケールで把握する。
④干潟生態系の成因を空間的スケールで把握する。
⑤干潟の機能を把握する。
⑥陸域生態系との相違を把握する。
- 37 -
- 38 -
3. 干潟生態系に影響を及ぼす開発事業
干潟そのものや干潟生態系に影響を及ぼす要因については、図3-1-1、図3-1
-2に示すとおり整理した。これらの影響要因を有するあるいは発生する可能性のある
開発事業は、干潟生態系に関する環境アセスメントの対象事業と考えた。
干潟生態系への影響要因と表3-1-1~表3-1-4に示した開発事業の一般的
な事業内容(詳細は「4-2 対象とする事業の内容(事業特性)と影響要因の把握」p61 参
照)とを対比すると、環境影響評価法及び都道府県・政令市における環境アセスメント
条例における対象事業が挙げられる。また、対象事業と同種の事業で、規模が小さくて
も干潟そのものや干潟生態系に大きな影響(特に土砂供給に影響を及ぼす事業)を及ぼ
す事業もある。
さらに、堤防、突堤等の海岸保全施設や河川の砂防堰堤等の施設は、環境影響評価法
の対象事業とはなっていないが、特に、土砂の供給への影響が想定される。また、既存
の干潟や周辺において、人工干潟の造成や養浜工、覆砂を行う場合は、現状の干潟生態
系に影響を及ぼし別の種類の干潟生態系に変えてしまうことが考えられる。
これらの事業を計画・実施するにあたり、干潟への影響について配慮することが必要
である。
干潟そのものへの影響要因
各要因が干潟にど
のような影響を与
えるか把握しておく
必要がある
各要因が干潟にど
のような影響を与
えるか把握しておく
必要がある
直接的な影響
・埋立て(一部又は全部)
埋立て、干拓、廃棄物処
分場、発電所、飛行場等
・構造物の設置
道路・鉄道の橋梁、突堤、
航路、風力発電の風車等
間接的な影響
・土砂の供給量の変化
ダム、堰、放水路、砂防
堰堤等
・流況、波浪の変化
埋立地、航路、突堤、離
岸堤、橋梁 等
干 潟
干潟生態系への影響要因
有機物、栄養塩類の供給への影響
干潟の消失
(一部又は全部)
水質・底質
の 変 化
( 部
全
生息生物の生息状況の変化
(生物相、生物量)
ダム、堰、放水路、廃棄物処分場、
発電所、下水処理場等
魚類等の水生生物の回遊や
鳥類の飛来等の移動への影響
・流況、波浪の変化
埋立地、航路、突堤、離岸堤、橋梁等
・道路、鉄道の橋梁、風力発電の風車、
火力発電所の煙突等、
生物生息機能
物質循環機能 の変化
生物生息機能
干潟生態系への影響
環境保全措置
・回 避
・低 減
・代償措置
図3-1-1 干潟生態系に影響を及ぼす要因(例1)
- 39 -
- 40 -
図3-1-2 干潟生態系に影響を及ぼす要因(例2 影響の流れ)
表3-1-1 環境影響評価法の対象事業の種類と規模
対象事業
第一種事業
第二種事業
(環境アセスメントが必要かどうか
(必ず環境アセスメントを行う事業) を個別に判断する事業)
1 道路
高速自動車国道
首都高速道路など
一般国道
緑資源幹線林道
すべて
4車線以上のもの
4車線以上・10km以上
4車線以上・7.5km~10km
幅員6.5m以上・20km以上
幅員6.5m以上・15km~20km
2 河川
ダム、堰
放水路、湖沼開発
湛水面積100ha以上
湛水面積75ha~100ha
土地改変面積100ha以上
土地改変面積75ha~100ha
3 鉄道
新幹線鉄道
すべて
鉄道、軌道
長さ10km以上
長さ7.5km~10km
滑走路長2,500m以上
滑走路長1,875m~2,500m
水力発電所
出力3万kw以上
出力2.25万kw~3万kw
火力発電所
出力15万kw以上
出力11.25万kw~15万kw
地熱発電所
出力1万kw以上
出力7,500kw~1万kw
4 飛行場
5 発電所
原子力発電所
6 廃棄物最終処分場
すべて
面積30ha以上
面積25ha~30ha
面積50ha超
面積40ha~50ha
8 土地区画整理事業
面積100ha以上
面積75ha~100ha
9 新住宅市街地開発事業
面積100ha以上
面積75ha~100ha
10 工業団地造成事業
面積100ha以上
面積75ha~100ha
11 新都市基盤整備事業
面積100ha以上
面積75ha~100ha
12 流通業務団地造成事業
面積100ha以上
面積75ha~100ha
7 埋立て、干拓
13 宅地の造成の事業(「宅地」には、住宅地、工場用地も含まれる)
住宅・都市基盤整備機構
面積100ha以上
面積75ha~100ha
地域振興整備公団
面積100ha以上
面積75ha~100ha
○港湾計画
埋立て・掘込み面積の合計300ha以上
港湾計画については、港湾環境アセスメントの対象になる。
(出典:環境省ホームページ「環境アセスメントガイド」
)
- 41 -
表3-1-2 都道府県・政令市における環境アセスメント条例の対象事業一覧
(平成 18 年4月1日現在)
名 称
埋
立
て
、
開
拓
土
地
区
画
整
理
事
業
工
業
団
地
造
成
事
業
●
-
●
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-
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-
-
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-
-
(
-
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-
-
-
●
●
-
●
-
●
レ
ク
リ
エ
l
シ
ョ
ン
施
設
都
計
第
2
種
工
作
物
土
石
採
取
●
●
●
●
●
●
●
-
●
●
●
●
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
鉱
物
採
掘
発
生
土
砂
処
分
場
等
下
水
終
末
処
理
場
浄
水
配
水
施
設
用
地
建
築
物
新
設
-
-
-
-
●
-
-
-
-
-
-
●
-
-
●
●
●
●
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-
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-
-
●
●
-
-
-
-
-
●
●
-
-
●
●
-
-
●
-
-
-
●
●
-
工
場
事
業
場
ガ
ス
供
給
・
熱
供
給
試
験
研
究
団
地
-
-
●
-
-
-
-
-
●
-
●
-
-
-
●
●
-
-
-
-
●
●
●
-
学
校
用
地
墓 公 複
地 園 合
・
事
墓
業
園
備 考
)
●
●
●
●
●
●
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●
●
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●
●
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●
●
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●
●
●
●
●
●
●
●
●
鳥取県環境影響評価条例
島根県環境影響評価条例
岡山県環境影響評価等に関する条例
広島県環境影響評価に関する条例
山口県環境影響評価条例
徳島県環境影響評価条例
香川県環境影響評価条例
愛媛県環境影響評価条例
高知県環境影響評価条例
福岡県環境影響評価条例
佐賀県環境影響評価条例
長崎県環境影響評価条例
熊本県環境影響評価条例
大分県環境影響評価条例
宮崎県環境影響評価条例
鹿児島県環境影響評価条例
沖縄県環境影響評価条例
札幌市環境影響評価条例
仙台市環境影響評価条例
さいたま市環境影響評価条例
千葉市環境影響評価条例
横浜市環境影響評価条例
川崎市環境影響評価に関する条例
名古屋市環境影響評価条例
京都市環境影響評価等に関する条例
大阪市環境影響評価条例
神戸市環境影響評価等に関する条例
広島市環境影響評価条例
北九州市環境影響評価条例
福岡市環境影響評価条例
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
-
●
●
-
-
-
●
●
●
●
-
●
)
神奈川県環境影響評価条例
新潟県環境影響評価条例
富山県環境影響評価条例
奈良県環境影響評価条例
- ●● ●● ●
- ●● ●● ●
● ●● -● ●
- ●● ●● -
- ●● ●● -
- ●● -● -
- ●● ●● ●
● ●● ●● ●
- ●● -● ●
● ●● ●● ●
- ●● -● -
- ●● ●● ●
畜
産
施
設
● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● - ● - - - ● ● ● - ● - ● ● ● - - - - - 売市場、市街地開発事業、大都市地域住宅街区整備事
業、建築物建築目的の土地造成
和歌山県環境影響評価条例
●
●
-
●
●
-
●
●
-
●
-
●
農
用
地
造
成
事
業
東京都環境影響評価条例
(兵庫県)環境影響評価に関する条例
●
●
-
●
●
-
●
●
●
●
●
●
住
宅
団
地
造
成
事
業
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
福井県環境影響評価条例
山梨県環境影響評価条例
長野県環境影響評価条例
岐阜県環境影響評価条例
静岡県環境影響評価条例
愛知県環境影響評価条例
三重県環境影響評価条例
滋賀県環境影響評価条例
京都府環境影響評価条例
大阪府環境影響評価条例
●
●
●
●
●
-
●
●
-
●
●
●
宅
地
の
造
成
の
事
業
法 法
)
法
流
通
業
務
団
地
造
成
事
業
北海道環境影響評価条例
青森県環境影響評価条例
岩手県環境影響評価条例
宮城県環境影響評価条例
秋田県環境影響評価条例
山形県環境影響評価条例
福島県環境影響評価条例
茨城県環境影響評価条例
栃木県環境影響評価条例
群馬県環境影響評価条例
埼玉県環境影響評価条例
千葉県環境影響評価条例
ふるさと石川の環境を守り育てる条例
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
新
都
市
基
盤
整
備
事
業
(
)
法
新
住
宅
市
街
地
開
発
事
業
(
河 鉄 飛 発 電 廃 廃
川 道 行 電 気 棄 棄
ダ 等 場 所 工 物 物
ム
作 処 処
堰
物 分 理
放
場 施
水
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● リゾートマンション
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- 土地改変
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● 別荘団地
- 土地開発事業、研究所
● リゾートマンションリゾートホテル、河川・海岸改変
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- 地方港湾、スキー場
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● 都計29条開発行為
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● ゴルフコース、スキー場、港湾計画
●
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- ゴルフ場
-
● 土地改変事業、港湾計画
- 土地造成、港湾計画
- 港湾計画
- 港湾計画
- ゴルフ場、土地改変
- ゴルフ場、防波堤、養殖場、港湾計画
● 土地形状変更
● 研究所、別荘団地
開発行為(施行規則未制定、条例別表から暫定
● 記載)
●
- 自然科学研究所、開発行為に係る事業
- 開発行為、防波堤、商業施設、研究施設
- 開発行為
- 開発行為
自動車ターミナル駐車場、地下利用施設、開発
- 行為
- 防波堤、兵庫県条例対象事業
●
- 土地造成
- 土地造成
(出典:環境省ホームページ「環境アセスメントガイド」
)
- 42 -
表3-1-3 海岸保全施設の主な構造物
施設の名称
漂砂制御施設
主な機能
主な構造物の例
離岸堤,潜堤や人工リーフ,消波堤, 突堤, ヘッド
波や流れを制御することにより, 漂砂量 ランド, 養浜工( サンドバイパス, サンドリサイク
を制御し, 海岸線の侵食や, 土砂の過 ルなどを含む) , 護岸(緩傾斜護岸,崖侵食防止
度堆積を防止するもの
のための法面被覆工を含む) , 地下水位低下工
法,これらの複合防護工法
台風や低気圧の来襲時における水位上 堤防, 護岸および胸壁, 消波施設( 離岸堤, 人
波浪・高潮対策施設 昇と高波の越波による浸水から背後地 工リーフ, 消波堤, 養浜工など) との複合施設,
を守るもの
高潮防波堤,防潮水門
津波の遡上を未然に防ぎ背後地を浸水
津波対策施設
堤防,胸壁および護岸,津波防波堤,防潮水門
から守るもの
飛砂や飛沫の発生や背後陸域への侵 堆砂垣, 防風柵, ウインド・スクリーン, 静砂垣,
飛砂・飛沫対策施設
入を防止するための施設
被覆工,植栽,植林
海岸を保全し, さらに優れた海岸環境を
人工海浜,親水護岸,擬岩を用いた崖侵食防止
積極的に創造するために,海岸利用,生
海岸環境創造施設
工, 人工干潟, 藻場の造成, 生態系に配慮した
態系の保全,水質浄化, エネルギー利
構造物,曝気機能付き護岸,波力発電施設など
用などの観点で特別に配慮した施設
河口処理施設
附帯設備
洪水や高潮に対して, 河川の流下能力 導流堤, 暗渠, 河口水門, 人工開削, 堤防の嵩
と治水安全性を確保するための施設
上げ工,離岸堤,人工リーフ
堤防や護岸などとともに設置するもの 水門および樋門,排水機場, 陸こう, 潮遊び, 昇
で, 周辺の土地や水面の利用上から必 降路および階段工, えい船道および船揚場, 管
要となる施設
理用通路および避難路
(出典:
「2000 年版 海岸保全施設設計便覧,
(社)土木学会」
)
- 43 -
表3-1-4 漁港漁場整備等の事業の内容
事 業
事業の目的
事業の内容
漁港・漁場施設を総合的に改良等 ① 漁港の外郭施設、水域施設、係留施設、輸送施設、漁港施設用地
することにより、漁港・漁場施設の の改良等
利用を増進させるとともに、水産資
源の生息環境の保全、品質・衛生 ② 漁場施設の新設又は改良等
管理強化、高齢者等への配慮、新
漁港漁場機能高度化事業 技術を応用した施設の導入等によ
る既存の漁港・漁場施設の機能の ③ 一定期間採捕の制限等を行い資源保護に資する資源保護礁の整備
高度化、多機能利用の増大を図る
ことを目的としている。
④ 漁船等の航行の安全を図るための浮標灯等の設置(水域保全施設
緊急整備事業)
生産力が低下した漁場の生産力 ① 漁港公害防止対策事業
の回復や、水産資源の生息場の 汚泥その他公害の原因となる物質が堆積し、又は水質が汚濁している
環境改善により、水産資源の生息 漁場において実施する。しゅんせつ事業、導水事業、覆土事業及び耕う
環境を保全・創造していくことを目 ん事業。
的とした事業。
② 環境保全創造事業
効用の低下している漁場の生産力の回復や水産資源の生息場の環境
漁場環境保全創造事業
改善を図るために行うもの。
・堆積物の除去
・底質改善(しゅんせつ、作れい、耕うん、客土、覆土 等)
・海水交流施設(水路 等)の設置
・着定基質(石材、コンクリートブロック 等)の設置等による藻場、干潟
の造成 等
漁港区域内の水質汚濁、悪臭等 ① 公害防止対策事業
は、漁港の利用、漁獲物の衛生管 漁港区域内の水域における汚泥その他公害の原因となる堆積物の除
理、漁業者の就労環境、漁村の生 去、又は水質改善を図るための導水施設の整備のうち、公害防止計画
活 環 境 な ど に 悪 影 響を 及ぼ しま に基づいて実施するもの。
す。そこで、これらを防ぐために、
漁港区域内の水域における環境 ② 水域環境保全事業
保全対策を実施することを目的とし 漁港区域内における水質の保全等水域の環境保全のために行う次の
漁港水域環境保全対策事業 た事業。
事業
・水質底質改善施設(汚泥・ヘドロの除去、覆砂、藻場・干潟の整備)
・漁港浄化施設(導水施設、浄化施設)
・廃油処理施設(漁船から発生する廃油を処理する施設)
・清掃船(清掃用船舶の建造、購入、補修)
・廃船処理(漁港区域内に放棄され漁業活動の障害となっている廃船
及び放置座礁船の処理)
自然環境の保全に対する国民の ① 自然調和型漁港づくり
関心や、海の恵みの持続的な利用 漁港施設の整備にあたって、良好な漁場環境を保全しつつ沿岸域の高
のため我が国周辺水域の漁場環 度利用を図っていくため、自然環境との調和及び周辺環境への影響を緩
境の保全の必 要性 が高 ま り 、藻 和するための構造物、工法等の採用、自然環境への影響を緩和させる
場・干潟生態系などの自然環境と 技術の集積・普及を図る。
の調和に配慮した構造の漁港施
② サンドバイパスによる効率的な漁港整備
設整備の推進や、沿岸漂砂等によ (漁港内堆積砂活用推進事業)
り漁港の泊地や航路にたい積した
沿岸漂砂等により泊地や航路埋没等の対策に苦慮している漁港を対
自然調和・活用型漁港づくり 砂を近隣の侵食海岸や貝類増殖 象に、ライフサイクルコストを用いた検討を行い、経済的と判断された場
場等へ輸送する施設整備、産業副
推進事業
合、埋没対策として、砂輸送施設(パイプライン、ベルトコンベア等)を整
産物の有効利用の観点から間伐 備。
材等を利用した魚礁の設置など、
地域資源を活用した効率的な漁港 ③ 間伐材を活用した効率的な漁場整備
漁場整備をモデル的に実施し、自 (木材活用推進事業)
然環境と調和した漁港漁場づくりを 水産生物のい蝟集や増産効果を高めるため、旱魃材等木材と鋼材や
コンクリートを組み合わせた構造の漁礁を設置し、その蝟集効果や耐久
推進する事業。
性等についてモニタリングを行いつつその効果等を検証。
海岸保全施設整備事業
海岸環境整備事業
高潮、津波、波浪、海岸侵食など <高潮対策事業>
による被害が発生する恐れのある 高潮、津波、波浪等による被害から守るための、海岸保全施設の新
地域について、海岸保全施設の新 設・改良。
設や改良などの事業。
<侵食対策事業>
国土を海岸侵食から守るための、海岸保全施設の新設・改良。
国土の保全と、海岸部の総合的な <緊急養浜事業>
レクリエーション機能の整備を行う 著しい侵食に対して養浜の実施により前浜を回復
事業。
<自然環境との調和・個性ある地域づくりと事業>
・史跡・景勝岩及び交流促進施設の防護などを行う事業。
・利用・景観への配慮や生物の生息、生育環境の保全・回復を行うた
めの既存の海岸保全施設の改良などを行う事業。
(水産庁漁港漁場整備部ホームページより作成)
- 44 -
4. 干潟生態系に係る環境アセスメント
4-1 干潟生態系の環境アセスメントの基本的な考え方
干潟生態系の環境アセスメントを適切に行うには、環境影響評価法に基づく基本的事
項及び主務省令に記載されている内容をよく理解した上で、干潟生態系の特性を把握し、
個々の干潟に応じた調査計画を立案し実施していくことが大切である。
(1)干潟生態系の特性
「干潟」は、地形的には、潮間帯にあたる部分を指すが、
「干潟生態系」の範囲は、
干潟に生息する生物の生活圏や干潟の機能、成因と関わりのある範囲として、潮上帯か
ら干潟沖合の浅海域まで含む「干潟」及び「その周辺の陸域及び沖合浅海域」を干潟と
一体のものとしてとらえる必要がある。
干潟の価値は、単にその面積で一律に決まるものではなく、生息する生物種の多様性
や生物の生活史において重要な役割を果たしているか否か、機能や成因等で判断する必
要がある。
干潟の生態系は、
「干潟を形成している成因」
、
「干潟を構成している構成要素(生物、
底質、水質等)
」
、
「構成要素の上に成り立っている機能」により成立している。
「構成要
素の上に成り立っている機能」としては、
「生物生息機能」や「物質循環機能」
、
「生物
生産機能」等があるが、さらにこれらの機能は、それぞれの干潟で個別に成立している
ことは少なく、沖合海域や周辺に分布する干潟が相互に関係し、広い地域で相互に関連
し合いながら成立しているのが特徴である。
また、干潟は、海域と陸域の接点に位置することから、浅海域の海域生態系の特性に
加え、後浜に形成されるヨシ原などの陸域生態系の特性を併せ持つものもあり、干潟生
態系は非常に複雑な生態系を形成している。
干潟生態系の環境アセスメントに当たっては、干潟生態系の特徴に配慮して、以下の
点に留意することが重要である。
① 干潟の地形と基質
② 干潟の成因
③「生物生息機能」
、
「物質循環機能」
、
「生物生産機能」等の各機能
④ 生物の生活史、季節による移動
⑤ 他の干潟との関連(干潟のネットワーク等)
⑥ 食物連鎖
- 45 -
海域生態系と陸域生態系の違い
海域生態系は、主に植物プランクトンが基礎生産を担っていることから、樹木等の大型植物が基
礎生産を担う陸域生態系に比べ、系の回転速度(生産速度/生物量)が一般に大きい。また、陸域
生態系では大型植物を出発点とする腐食連鎖が卓越するが、海域生態系では生食連鎖が卓越するの
が特徴である。さらに、海域では基礎生産者である植物プランクトンや主な一次消費者である動物
プランクトンは、流れとともに常に移動し、それに伴って多くの海生生物も移動する上、海生生物
は、成長過程で生活型や食性を変化させるものが多い。
海域生態系は変化の大きなフローの生態系、陸域生態系は安定した植物群落に支えられたストッ
クの生態系といえる。
海域生態系のもう一つの特徴としては、陸域生態系のように長期的に安定した基盤(植物群落等)
がないため、生物の分布は物理・化学的な要素に規定されることになる。特に、開発の対象となり
やすい浅海域では、海底の基質の状態(基質の固さなど)や位置(外海と内海・内湾等)により分
布する生物は大きく異なる。
(出典:
「自然環境のアセスメント技術(Ⅰ)
」1999 年 環境庁企画調整局、
「自然環境のアセスメント
技術(Ⅱ)
」2000 年 環境庁企画調整局)
(2)環境影響評価法に基づく基本的事項及び主務省令
1)基本的事項
基本的事項は、環境影響評価法の規定により事業の種類ごとに主務大臣が定める基
準・指針に関して、事業の種類に拘わらず横断的に基本となる事項を環境大臣が定めた
ものである。具体的には、以下の3つで構成されている。
①事業の特性やその事業が立地する周辺地域の状況により、法律の対象事業として環
境アセスメントの手続を行うか否かの判定を行うこととされている第二種事業の判
定に当たっての基準(判定基準)に関する基本的事項。
②事業者が環境アセスメントの項目や調査等の手法を選定するに当たっての指針(環
境影響評価項目等選定指針)に関する基本的事項。
③事業者が環境保全のための措置を検討するに当たっての指針(環境保全措置指針)
に関する基本的事項。
また、上位計画段階の環境アセスメントとして実施される港湾計画についても、同様
に環境影響評価の項目や手法の選定指針及び環境保全のための措置に関する指針に関
して、基本的事項を定めている。
「環境影響評価項目等選定指針に関する基本的事項」と「環境保全措置指針に関する
基本的事項」について参考資料1に示す。
- 46 -
2)主務省令
主務省令は、環境アセスメントの対象となる事業の種類ごとに主務大臣が定めたもの
で、以下の内容で構成されている。
①第二種事業の届出様式
②第二種事業の判定の基準
③方法書の作成
④環境影響を受ける範囲と認められる地域
⑤環境影響評価の項目並びに当該項目に係る調査、予測及び評価を合理的に行うため
の手法を選定するための指針
⑥環境保全のための措置に関する指針
⑦準備書の作成
⑧評価書の作成
⑨評価書の補正
干潟が存在する海岸での開発事業の例として「公有水面の埋立て又は干拓の事業」に
係る主務省令の「方法書の作成」
、
「環境影響評価の項目並びに当該項目に係る調査、予
測及び評価を合理的に行うための手法を選定するための指針」
、
「環境保全のための措置
に関する指針」を参考資料2に示す。
また、
「発電所の設置又は変更の工事の事業」及び「公有水面の埋立て又は干拓の事
業」に係る主務省令の地形、生物、生態系に関する調査、予測に関する参考手法を参考
資料3、参考資料4に示す。
- 47 -
(3)干潟生態系の環境アセスメントの作業手順
開発事業を対象に行う環境アセスメントは、事業実施区域を中心として影響を把握す
るために必要な調査地域を設定し行われる。一方、本書では、干潟生態系という影響を
受ける環境要素に着目しているため、事業の実施により影響を受けると想定される干潟
を選定し、その干潟を中心に干潟生態系の影響を把握できる調査地域を設定し行う点が
大きな相違点である。
事業特性及び
地域特性の把握
環境影響評価
項目の選定
調査、予測の
手法の選定
調査、予測
の実施
干潟を対象に行う環境アセスメントの流れ
開発事業を対象に行う環境アセスメントの流れ
事業計画
事業計画
事業特性及び
地域特性の把握
調査対象
干潟の選定
環境影響評価
項目の選定
調査対象干潟
の概況把握
調査、予測の
手法の選定
調査、予測
の実施
図4-1-1 環境アセスメントの流れの相違点
また、環境影響評価法における影響評価(環境アセスメント)の定義は、
「事業の実施
が環境に及ぼす影響について環境の構成要素に係る項目ごとに調査、予測及び評価を行
うとともに、これらを行う過程においてその事業に係る環境の保全のための措置を検討
し、この措置が講じられた場合における環境影響を総合的に評価することをいう。
」と
されている。
つまり、環境アセスメントは、
「何を評価すべきか」を明らかにして調査、予測を行
うことが重要である。
したがって、スコーピングで調査計画(方法書)を作成する際に、事業特性より事業
が干潟生態系に与える影響要因を十分に把握し、干潟生態系の特性(干潟の構成要素、
干潟の機能、干潟の成因)のうち、どのような影響の内容に重点を置いて評価するかを
先ず選定することが必要である。選定した影響の内容・評価項目を適切に行うための予
測手法を選定し、選定した予測手法に必要な情報とその調査方法を選定する、といった
手順で検討し、調査から予測、評価に至るストーリーを作ることが必要である。
実施段階では、設定した目的とストーリーに沿って調査、予測、評価を進めていくこ
とが必要である。このように目的とストーリーを作ることにより、調査や予測で得られ
た結果を踏まえて項目や手法を柔軟に見直しながら、実態にあった適正なストーリーへ
の変更が可能となる。
- 48 -
干潟生態系の環境アセスメントのスコーピングから実施段階への手順の概略は、図4
-1-2に示すとおりである。
(4)地域住民・専門家等との合意形成の重要性について
干潟生態系の特性を把握し、調査計画を検討するにあたっては、地域住民等からの情
報・意見を収集し、専門家の意見・助言を取り入れながら調査計画を作成・検討して、
調査計画の全体像を作成して共有しておくことが重要である。
地元に詳しい人しか知らない情報や、保全の考え方に関する意見等を持っている地域
住民や専門家等を、協働で環境アセスメントを進めていく「当該干潟の情報提供パート
ナー」と考え、その情報や意見を引き出すように努めるとともに、地域住民等が理解し
やすい情報提供・共有の手法として、図やイラスト等を活用して視覚的に分かりやすく
表現した「環境情報図」の作成などの工夫をすることが必要である。
地域の住民等の参加による環境影響評価の項目や調査・予測手法の選定のための検討
手順の参考例は、図4-1-3に示すとおりである。
- 49 -
スコーピング
1.事業内容(事業特性)の把握 p61
3.地域特性の把握 p64
2.影響要因の検討・抽出
影響要因の検討・抽出 p62
4.調査対象とする干潟の設定 p65
5.対象とする干潟の調査地域の設定 p67
6.調査対象とする干潟の概況把握 p68
8.調査から予測・評価に至る
ストーリーの設定 p54,p73
、
評価する重要な影響内容
↓
そのための予測手法の想定
↓
そのための調査手法の想定
11.予測手法の選定 p72,p101
(選定項目毎に①予測地域、
②予測対象時期、
③予測方法を選定する。)
(
合意
形成
9.環境影響評価の項目の選定(選定項目) p72
10.調査手法の選定 p72,p85
(選定項目毎に①調査地域及び調
査地点、②調査期間及び調査時期
③調査方法を選定する。)
取者地
域
情 の
報専住
の門民
共家 ・
有か N
らP
意の O
見情 ・
交報漁
換の業
提協
供同
・組
意合
見
の漁
聴業
)、
、
7.干潟の概況調査結果の整理 p69
(構成要素・機能・成因等)
12.調査計画(方法書)の
作成、見直し
ストーリーに沿って調査、予測の実施
13.干潟生態系に関する
調査の実施
、
他の環境要素に関する
調査の実施
15.予測の実施・予測結果
スト ーリ ーと 合わ
ない 結果 の場 合、
スト ーリ ーの 見直
しを行う。
合意
形成
16.環境保全措置の検討
17.事後調査計画の検討
18.評 価
19.準備書の作成
図4-1-2 干潟生態系の環境アセスメントの手順
- 50 -
)、
14.調査結果の整理・解析
他の環境要素に関する
予測の実施
報組地
の合域
共 の
有漁住
業民
意者 ・
見 N
交 P
換専 O
門・
家漁
と業
の協
情同
(
実施段階
対象干潟周
辺の地形図、
海図、空中写
真等により作
成する。
① 基 本図
⑤ 影響 評 価す べ き 内容 の 想定
洗い出した影響を及ぼす可能性のある要因毎に、評価すべき内容を
抽出する。(「4-6」 p72))
Ⅲ.・・・・・・・・・・・・・・・
Ⅱ.沿岸流・波浪の変化
(2)水 質 ・
底質の変化
(1)地 形 の
変 化 (漂 砂 )
チドリ
重要種
前置斜面
⑤物質循環
(浄 化 )へ の
②上位種へ
の影響
④産卵育生
場への影響
⑥・・・
・
事業特性と地域特性
(「4-2 p61、「4-5」 p64)
砂泥
⑥選 定 し た影 響 評価 内 容の 重 要度 (優 先 順位 )
抽出した評価すべき内容を影響要因毎に、事業特性・地域特性を踏
アサリ
砂泥
まえながら、影響評価内容の重要度(優先順位)を整理する。
(「4-6 p72)
漁場
波浪
藻場
ハゼ
沿岸流
Ⅰ.干潟の消失
河川
砂泥
コアジサシ
産卵場
専門家、地
域の住民、
NPO、 漁
業協同組
合、漁業者
の情報、意
見を加えて
干潟の現状
図を作成す
る。
河川
NPO
チドリ
泥
ゴカイ
産卵場
重要種
前置斜面
砂泥
アサリ
砂泥
漁場
波浪
沿岸流
藻場
循環流
がある
ハゼ
カレイ漁場
河川
砂泥
①の
重影
要響
種へ
の影響
凡 例
重要度大:
重要度中:
重要度小:
① 地 形へ
の 影響
(漂 砂)
(「4-2」 p61)
河川
チドリ
ゴカイ
泥
産卵場
埋 立 地
重要種
前置斜面
砂泥
アサリ
砂泥
沿岸流
波浪
漁場
藻場
循環流が
なくなる
ハゼ
カレイ漁場
砂泥
河川
⑥・・・
⑤・
物質循環
④(浄
産卵
化育
)へ生の
③場典へ型の種影へ響
の上
影位
響種 へ
②
①の重影要響種 へ
の影響
(2)水 質 ・
底質の変化
⑥・・・
⑤・
物質循環
④(浄
産卵
化育
)へ生の
③場典へ型の種影へ響
②の上影位響種 へ
①の重影要響種 へ
の影響
影響評価内容の重要度を基に、対象干潟の重要な影響評価項目を選
定し、予測手法の選定、予測に必要な調査手法の選定を行う。
(「4-6 p72)
事業特性と影響要因
コアジサシ
産卵場
(1)地 形 の
変 化 (漂 砂 )
⑦影 響 評価 項 目、調 査 ・予 測手 法 の選 定
選定した
影響評価内容
(選定項目)
漁業者
④事 業 が干 潟 に及
ぼす 影 響の 検 討図
Ⅲ.・・・・・・
Ⅱ.沿岸流・波浪の変化
⑥・・・
・物 質 循 環
⑤
(浄
の
④
産化
卵)へ
育生
③場
典へ
型の
種影
へ響
②の上影位響種 へ
住民
③ 干 潟の 現 状
⑥・・・
⑤・
物質循環
④(浄
産卵
化育
)へ生の
③場典へ型の種影へ響
の上
影位
響種 へ
②
①の重影要響種 へ
の影響
(「4-5」 p68)
泥
ゴカイ
③典型種へ
の影響
概況調査結
果を整理す
る。
河川
② 干 潟の 現 状
(意見交換の素図)
①重要種へ
の影響
事業が干潟
に及ぼす影
響について
専門家、地域
の住民、NP
O、 漁業協
同組合、漁
業者と意見
交換し、影響
を及ぼす可
能性のある
要因を洗い
出す。
⑤
へ
② 水質・
底質へ
の影 響
予測手法
定性予測
定量予測
①汀線変化モデル
②・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
定性予測
定量予測
①移流拡散モデル
②・・・・・・
定性予測
③貴 重 種
への 影 響
①生息場の地形・
面積変化
②生息環境の変化
(水質・底質等)
④上 位 種
への 影 響
⑤典 型 種
への 影 響
⑥ 産卵 ・
育 生場 へ
の 影響
①対象生物の生理・
生態
②対象生物の生活史
定量予測
①HEP
②JHGM
③・・・・・・ ・
調査手法
選定 し た 予測 方 法 に必
①既 存 資 料文 献 調 査
要な 予 測 条件 、 パラメー
②現 地 調 査
ターの 情 報 を得 る 。
・必 要 な 各情 報 毎 に
①水 深 、②波 浪 ③ 潮流 、
調査 時 期 、調 査 頻 度、
④・選
・定
・し
・・
・
・
・・
・既
・存資
・・料
・文
・献
・調査
た 予測 方 法に必・・①
・・要
・な
・予
・・
測 条件、 パラメー
② 現 地調 査
ターの 情 報 を得 る 。
・ 必 要 な各 情 報 毎に
① 水 深 、② 波浪③ 潮流 、
調 査 時 期、調 査 頻 度、
④ ・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・
・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・
・ ・ ・ ・ ・・
①貴重種、②上位種、③典型種、
④産卵・育生場
干潟の生息環境区
分毎の生物生息状
況の把握
必要な情報の選定
【動物】
①鳥類調査、②魚類調
査、③底生動物調査等
【植物】
①塩性植物、②海藻草
類、③底生藻類調査等
①既存資料文献調査
②現地調査
【干潟の生息環境区分】
①底質(泥・砂泥・砂・・・)
②冠水時間(岸沖方向)
③ ・・・・・・・・・・
①既存資料文献調査
②現地調査
・必要な各情報毎に生息
環境に応じた調査時期、
調査頻度、調査方法を
選定
図4-1-3 環境影響評価項目、調査・予測手法の選定の検討手順(参考例)
- 51 -
(5)干潟生態系の環境アセスメントで扱う項目
本書では、干潟生態系の環境アセスメントで扱う主な環境影響評価項目は、干潟の成
因に関連する「地形・地質」
、干潟生態系を構成する「植物」
、
「動物」及び「生態系」
を取り上げる。他の「水環境」
、
「大気環境」などの環境アセスメント項目も「干潟生態
系」を構成する環境要素である。特に、流況、水質、底質などの「水環境」の項目は、
干潟生態系と関連が深く、
「植物」
、
「動物」
、
「生態系」の予測に当たって、不可欠であ
る。したがって、各分野における調査、予測を行うに際し連携して実施することが必要
である。
干潟生態系の予測条件として
必要な環境影響評価項目
大気質
騒音
大気環境
振動
干潟生態系で扱う主な環境影響評価項目
土壌環境
地形・地質
土砂供給
植 物
動 物
生態系
地形の変化(形状、地盤高等)
土砂供給量の変化
背後地湿地植生・海岸植生と重要な種
藻場と重要な種
干潟を特徴づける重要な種
生物(上位性、典型性、特殊性)
干潟の生物生息機能
干潟の物質循環機能
干潟の生物生産機能
水質
条件
水環境
底質
地下水
海象
土砂による濁り
塩分の変化
水の汚れ
粒度組成の変化
底質の汚れ
湧水量の変化
沿岸流の変化
波浪の変化
相互に関連
その他干潟の環境影響評価項目
景 観
触れ合い活動の場
干潟の景観機能
干潟の親水機能
図4-1-4 干潟生態系で扱う環境影響評価項目
(6)干潟生態系の調査、予測に当たっての留意事項
干潟は、海からも陸からも影響を受けやすいという地形的な条件のもとで、多種多様
な生物が生息する固有の生態系が形成されている。しかし、広大で遠浅な地形は、古く
から埋立てや干拓の適地とされ開発が行われており、人為的な影響が少なからず及んで
いる。こうした干潟で、対象事業が及ぼす影響を予測する場合、影響が他の事業の影響
と複合して生じることが考えられる。特に、影響が顕在化するまでに時間を要する流況
の変化や土砂供給量の変化による干潟地形への影響などについては、他の影響要因との
複合や過去からの環境変化に留意し、調査や予測を行う必要がある。
予測手法は、原則、定量予測を行うものとし、先ず定量的な手法の適用が可能か否か
を検討する。定量的予測手法の適用が困難な場合は、可能な範囲(例えば地形の変化、
個々の注目種(上位種、典型種、特殊種)の変化など)まで定量予測を行い、全体につい
ては「生物の生理的・生態的特性」
、
「現況調査で得られた結果」
、
「類似事例や科学的知
見」などに基づいた定性的な予測手法を行う。
- 52 -
(7)環境影響評価法における調査、予測、環境保全措置の関係
環境アセスメントは、複数の事業計画案や複数の環境保全措置(影響の回避・低減化
の効果)の検討を踏まえて行うこととなっている。したがって、スコーピング段階で、
複数の事業計画案や環境保全措置が検討されている場合には、複数の事業計画案の影響
や環境保全措置(例えば事業予定地の変更等)による効果を予測するための情報収集も
含めて調査・予測を計画する必要がある。また、調査・予測は一連の検討フローの中で
行われるものであり、その過程で環境保全措置の検討あるいは事業計画へのフィードバ
ックが繰り返されることとなる。
予測の実施段階では、複数の事業計画案や環境保全措置のケース毎に予測を行い、必
要であれば方法書に記載しなかった新たな予測手法を取り入れるなど、柔軟な対応が望
まれる。新たな予測手法を取り入れた場合には、準備書にその検討過程について記載す
ることも必要である。
予測の結果を準備書に記載する際には、影響の予測結果、複数の環境保全措置の効果
予測の比較や、最も影響が少ないと予想される事業計画等に対する事業者の見解や判断
を整理して述べることとなる。
影 響 要 因 の 把 握
事
業
計
画
回避・低減策の検討
調 査
環境保全措置
(複数案)の設定
予 測
評 価
準備書の作成
(公告・縦覧)
(説明会)
意見(意見を有する者)
意見(知事等)
評価書の作成
図4-1-5 調査、予測、環境保全措置の関係
- 53 -
(8)干潟生態系の環境アセスメントにおける環境保全の方向性(考え方)
干潟生態系の環境アセスメントにおける環境保全とは、原則、
「現状の干潟生態系の
保全」であり、消失した干潟を代償措置で人工干潟を造成する際に、例えば「現状の泥
干潟」を「砂干潟」にするような環境保全措置は、損なわれた環境要素と同種の環境要
素を創出するのではなく、異なった環境要素を創出しているので環境保全措置ではない
こととなる。
一方、
「地域が目指す干潟の姿(地域のニーズ)」や「
「当該水域における上位計画(水
域の自然再生計画など)」により、例えば「昔(昭和 30 年代)の干潟」に戻すという環
境保全の考え方もある。また、現状の干潟の持つ機能の潜在的能力を高める「干潟の持
つポテンシャルの向上」という環境保全の考え方もある。これらの環境保全措置を実施
する場合は、残存干潟や周辺の干潟、水域の環境変化に悪影響を及ぼさないように留意
するとともに関係機関と十分な協議・調整を図っていく必要がある。
環境影響評価法に基づく基本的事項における環境保全措置の検討に当たっての留意事項(抜粋)
環境保全措置の検討に当たっては、環境への影響を回避し、又は低減することを優先するものとし、
これらの検討結果を踏まえ、必要に応じ当該事業の実施により損なわれる環境要素と同種の環境要素
を創出すること等により損なわれる環境要素の持つ環境の保全の観点からの価値を代償するための
措置(以下「代償措置」という。
)の検討が行われるものとすること。
(9)調査から予測・評価に至るストーリーの作成例(仮説の設定)
調査計画(方法書)を作成する際に、
「どのような影響」について「どのように予測
し」
、そのために「何をどのように調査する」といった、調査・予測の「目的」と「項
目」
、
「手法」の関係を明確にしつつ、調査・予測の実施の各段階でその達成状況をチェ
ックすることにより、実態に即した適正なストーリーへの変更が可能となる。
事業特性
概況調査
調査計画の作成
ストーリー作り
(調査・予測の目的
と方法を決める)
YES
調査の実施
チェック
(想定した結
果が得られ
たか)
予測の実施
NO
チェック
(目的の影
響が予測で
きたか)
NO
YES
次のステップ
図4-1-6
PDCAサイクルによる検証
- 54 -
<ストーリーの例:アサリの生物生産の高い干潟の埋立事業>
<影響の流れ>
:影響の流れ
:調査すべき情報の選定の流れ
干潟の埋立て
:影響の内容
:調査すべき情報
干潟の減少
アサリの
生息環境の減少
現状のアサリ
生息量の把握
鳥類などの
捕食生物の減少
捕食生物の
現状の把握
干潟ネットワーク
による他の干潟
のアサリの生息
量の減少
他の干潟の
アサリの生息量
の把握
地形(水深)・潮流・波浪の把握
<ストーリーの設定>
影響の流れもとに環境影響評価項目、調査・予測手法の選定を行う。
地域の概況調査結果
・埋立地計画地及びその周辺は、砂泥干潟が分布
・アサリが代表的な生物で、アサリ漁が盛んである
埋立事業による影響要因
・埋立地の存在による干潟の消失
・周辺水域の潮流、波浪の変化
埋立事業により想定される影響の内容(影響評価項目)
・干潟の消失による典型種のアサリの生息場の減少
・潮流、波浪による周辺干潟の衰退によるアサリの生息場の減少
・アサリの生物生産機能の低下(漁業への影響)
・幼生分散を通した干潟ネットワークへの影響(他の水域への影響)
・周辺水域の生態系への影響
予測手法の選定
・埋立地の存在による干潟地形変化
→汀線変化モデル、水深変化モデル
・生息場の減少によるアサリ個体群の変化
→減少率(現状の生息量と消失する場所の生息量との関係)
・幼生分散を通した干潟ネットワークへの影響
→現状における他の水域との生息量の関係の有無
・アサリを捕食する生物の変化
→食物連鎖の関係と捕食生物の生息状況から予測
調査手法の選定
・埋立地の存在による干潟地形変化
→地形(水深)、潮流、波浪、風向・風速、粒度組成等
・生息場の減少によるアサリ個体群の変化
→アサリの生息量、季節変化、生活史等
・幼生分散を通した干潟ネットワークへの影響
→他の水域との生息量(漁獲量)、経年変化等
・アサリを捕食する生物の変化
→捕食生物の生息状況等
注:影響評価項目及び予測手法に必要なデータを得るため
に必要な調査手法を選定する。
- 55 -
(10)干潟生態系の環境アセスメントのチェックリスト
調査計画を策定する時に抜け落ちはないか、考え違い(想定違い)はないか等を確認
するために、留意事項を含めてチェックリスト(例)を作成した。チェックリストは、
方法書の作成段階(調査計画段階)と環境アセスメントの実施段階に区分して整理した。
なお、対象となる事業特性や干潟の環境特性により、チェックリストの内容が異なる
ことがあることに留意する。
<調査計画段階のチェックリスト>
①事業内容(事業特性)
②地域特性の把握
③影響要因の検討、抽出
④調査対象とする干潟の選定
⑤調査対象とする干潟の調査地域の設定
⑥調査対象とする干潟の概況調査、調査結果の整理
⑦環境影響評価項目の選定(評価する影響の内容の選定、ストーリーの設定)
⑧調査手法の選定
⑨予測手法の選定
<実施段階のチェックリスト>
⑩調査の実施、調査結果の整理・解析
⑪予測の実施、予測結果の整理・解析
⑫環境保全措置の検討
⑬事後調査計画の検討
⑭評価
チェックリストの参考例を次ページに示す。
- 56 -
表4-1-1(1)
干潟生態系の環境アセスメントのチェックリスト(参考例)
1.事業内容
(事業特性)
ー
□ 事業内容を十分把握したか
□ 事業の種類
□ 事業の目的
□ 事業の実施区域の位置(適切な縮尺の平面図上で概要を示す。)
□ 事業の規模(埋立面積等)
□ 構造物の種類、構造、配置
□ 供用時の利用、環境負荷源内容・規模
□ 工事の工種・施工方法・工事期間、工事工程等(工種毎に施工方法、施
工に用いる機械、車両に種類・台数、工事期間、工事工程を示す。)
□ 工事に使用する材料の種類・量(例:埋立材の土砂の種類と粒径、有害
物質の含有量等)
□ 計画の熟度
2.地域特性の把握 □ 干潟の現状について把握したか
□ 干潟の分布状況
□ 海岸の地形、海底の基質(砂、泥、岩等)
□ 河川の状況(位置、流量、流速、流路の状況等)
□ 海岸保全施設等の種類、位置、規模等
□ 沿岸の流れ(流向、流速)
□ 波浪(波高、波向き)
□ 風向、風速
□ 漂砂の方向、量
□ 自然的状況
□ 大気環境(気象・大気質・騒音・振動等の状況)
ス
□ 水環境(水象・水質・底質等の状況)
□ 土壌、地盤の状況(土壌汚染・地盤沈下)
コ
□ 地形、地質の状況(陸上、海底の地形・地質)
□ 動植物の生息、生育の状況、生態系の状況(干潟生態系を含む)
□ 景観、人と自然との触れ合い活動の状況(干潟の景観、利用を含む)
□ 社会的状況
ピ
□ 人口・産業の現状及び推移
ン
□ 土地利用の現状と推移、土地利用の規制等の指定状況
□ 河川、海域の利用の現状、水域利用の規制等の指定状況
グ
□ 交通の状況
□ 学校、病院等の環境保全に配慮が特に必要な施設の位置等
□ 下水道の整備状況
□ 環境の保全を目的として法令等により指定された地域、規制内容等
3.影響要因の検
□ 直接的な影響要因を把握したか
討・抽出
□ 干潟における地形の改変の有無
(□浚渫、□土捨て、□覆砂、□土砂採取、□その他( ))
工
事 □ 干潟への環境負荷の有無
中
(□濁りの発生する工事、□騒音・振動の発生する工事、
□その他干潟生態系に影響のある工事( ))
存 □ 埋立地、構造物等の有無
在
(□埋立地、□構造物の設置、□航路、等)
時
□
干潟への環境負荷の有無
・
(□干潟への排水、□施設からの騒音・振動、□干潟の利用、
利
□その他干潟生態系に影響を及ぼすと考えられる行為)
用
時
□ 間接的な影響要因を把握したか
□ 沿岸流、波浪の変化が生じる構造物の有無
□ 干潟周辺で浚渫、土砂採取の有無
□ 河川からの土砂供給を阻害する構造物、工種の有無
□ 干潟周辺での環境負荷の有無
□ 他事業における影響の有無
(□過去に行われた他の事業、□将来計画されている事業、
□過去からの干潟生態系等の環境の変化)
- 57 -
表4-1-1(2)
ス
コ
ー
ピ
ン
グ
干潟生態系の環境アセスメントのチェックリスト(参考例)
影響要因と把握した干潟の現状とを勘案し、調査対象とする干潟を選定し
4.調査対象とする
□ たか
干潟の選定
□ 影響の想定される干潟があるか
□ 影響が想定される干潟がない場合、その理由を整理したか
5.調査対象とする □ 干潟生態系が成立している範囲(潮上帯から潮下帯)を調査地域としたか
干潟の調査地域
□ 調査対象干潟の選定で検討した影響範囲と周辺を調査地域としたか
の設定
6.調査対象とする □ 既存資料収集整理をしたか
干潟の概況調査(干
□ 自然的状況(大気環境、水環境、・・・動植物、景観等)
潟及びその周辺地
□ 社会的状況(人口、産業、土地利用、交通、・・・等)
域)、結果の整理
□ 干潟の特性(生物の生息状況等の構成要素、機能、成因等)
□ 空中写真、深浅測量図等により干潟の微地形を把握したか
□ 空中写真、深浅測量図、地形図等を基にしてした基本図を作成したか
□ 聞き取り調査(地元の専門家、漁協、NPO等)をしたか
□ 干潟地形の近年の変化(形状、面積、粒径など)
干潟に生息する魚類、甲殻類、貝類、鳥類等の生物の生息状況と近年
□
の変化
□ 干潟及び周辺での漁業場、漁獲対象種、漁獲量の推移
□ 澪、深み等の微地形の場所
□ 現地踏査をしたか
□ 既存資料等で不明な点の確認したか
既存資料等で確認した微地形等の干潟の状況や周辺の流入河川、既
□
存護岸等の状況の確認したか
□ 情報について以下のように整理したか
□ 出典、調査年月日を必ず明記する。
可能な限り位置や分布状況等の情報を地図上に標記し、事業の実施区
□
域との位置関係を明らかにしておく。
□ 経年変化は、グラフ、図を用いて、わかりやすく表現する。
重要種や注目すべき種の分布等は、盗掘防止のため位置等が明らかな
□
らないように、詳細地点を示さないなどの配慮が必要である。
生物と環境要素の関係は、生物と微地形・底質(主に粒度)、潮の干満
□
(冠水時、干出時)等による生息、分布状況について整理する。
□ 生物の干潟の利用について、生活史等をもとに整理する。
生物生息機能については、干潟の微地形・底質等から生息空間を区分
□
し、各々の生息生物から代表的な生物種を整理する。
生物生産機能については、代表的な生物の生活史等をもとに産卵・育
□
成場として利用する代表的な生物を整理する。
物質循環機能については、干潟の水質・底質状況、生物の生息状況
□ (種類・量)や周辺水域の水質・底質の状況等を整理し、物質循環の概
略のフロー図を作成する。
概況調査結果を整理し、干潟及び周辺地域における事業実施における
問題・課題となる事項の抽出整理する。
上記を基に意見交換のための干潟の環境情報図(素図)を作成したか
環境影響評価項目の選定等に当たっては、専門家、地域住民等から検討
会やヒアリング等により十分に情報の共有、意見交換を行い、合意形成を図
る。
事業計画、影響要因、概況調査の結果から重要な評価すべき影響の内容
の選定を行う。
調査から予測・評価に至るストーリー(仮説)の設定を行う。
重要な評価すべき影響内容を予測するための予測手法の選定を行う。
選定した評価項目、予測手法を実施するために必要な調査手法の選定を
する。
現況把握のために必要な情報の種類と予測のために必要な情報の種類は
異なることがある。
□
□
7.環境影響評価の
項目の選定
□
(選定項目)
□
□
□
□
□
- 58 -
表4-1-1(3)
ス
コ
ー
ピ
ン
グ
干潟生態系の環境アセスメントのチェックリスト(参考例)
8.調査手法の選定 □ 選定項目毎に以下の事項を設定したか
□ 必要な調査すべき情報の種類を選定したか
□ 調査地域及び調査地点
□調査すべき情報の種類、調査目的(予測のための調査と現況把握の
ための調査 等)、地域の特性、事業の内容・規模により異なる。
□影響の伝搬や干潟生態系の広がりを考慮して設定する。
□干潟の生物は生活史の段階により生息場が異なる。
□生物の再生産(繁殖、分散)から見ると、同一水域にある干潟間のネッ
トワークは考慮する必要がある。
□土砂の供給・移送に係る項目は、主たる土砂供給源より流下方向に
広範囲に考える必要がある。
□行政的な区分(港湾区域、行政区界等)により設定しない。
□干潟は均一な環境ではなく、微地形に応じた調査地点を設定する必
要がある。
□ 調査期間及び調査時期
□調査すべき情報の種類、調査目的(予測のための調査と現況把握の
ための調査等)、地域の特性により調査期間、調査時期が異なる。
□干潟生物の現状把握では、基本的には1年間とするが、調査時期は
生物により出現時期が異なる。
□干潟生物の生活史、利用パターンを把握し、調査時期を設定する。
□ 調査法
□調査は文献資料によるものと現地調査によるものがある。前者は広域
的な調査で経年変化を見る場合に、後者は予測範囲における予測の
ための詳細な 調査に適している。
□水質、底質等の物理化学的な項目には、環境基準、日本工業規格等
で定められた方法がある。
□生態系の調査には、決められた方法はない。多様な生態系を把握す
るには、個別に干潟の特性に応じた適切な調査手法を検討し、選定
する必要がある。
□同じ項目の調査法には種々の方法があり、それぞれの方法には目
的がある。
□各々の調査法には利点と欠点、限界があり、調査目的に応じた方
法を選定する必要がある。
□一つの調査法で必要な結果が得られない場合は、複数の調査法
を用いることも必要である。
9.予測手法の選定 □ 選定項目毎に予測手法を選定したか
□ 予測地域
□選定項目に応じて地域の特性、事業の内容・規模により異なる。
□生息場の消失など直接的な影響を受ける範囲を含む、環境要素の変
化が生じる範囲。
□予測対象とする生物の利用する範囲
□干潟のネットワークについて考慮したか
□ 予測対象時期
□生物の生活史を考慮したか
□ 予測法
□予測方法は定量的予測手法としたか
□定量的予測手法が何処まで用いられるか検討したか
□定性的予測手法を用いる場合、十分な「生物の生理的・生態的特
性」、「類似事例や科学的知見」の情報が得られたか
- 59 -
表4-1-1(4)
実
施
段
階
干潟生態系の環境アセスメントのチェックリスト(参考例)
10.調査の実施、調
現地調査の実施しに当たり、調査目的及び各調査すべき情報の内容を理
査結果の整理・解析 □ 解したか
□ 現地調査時に気づいた現象を確認した場合、記録、写真撮影しておく
□ 現地調査に用いる採集機材等は干潟の特性に応じて工夫したか
□ 生物の同定者の氏名、所属、連絡先を調査結果等に記載したか
□ 生物の標本を作製したか
□ 調査結果は、調査の目的に応じた方法で整理をしたか
□ 整理した結果は、分かりやすく干潟の環境情報図等で示したか
得られた結果が、当初想定したものと異なる場合は、必要に応じて選定項
□
目、調査手法を再検討したか
□ 得られた結果から干潟生態系の現状特性を解析したか
11.予測の実施・予 □ 予測に用いた前提条件を整理したか
測結果
□ 予測方法の適用範囲を確認したか
□ 予測結果を分かりやすく図等で示したか
□ 予測に当たって、不確実な点を整理したか
得られた結果が、当初想定したものと異なる場合は、必要に応じて選定項
□
目、予測手法を再検討したか
12.環境保全措置 □ 干潟生態系への影響を回避し、低減することを優先して検討したか
の検討
□ 上記の事項が不可能な場合、その理由等を明らかにしたか
代償措置を講ずる場合、干潟生態系の保全の方向性を地域の住民等と十
□
分に意見交換、検討したか
□ 実行可能な環境保全措置か
□ 環境保全措置を採用する際に不確実な点について整理したか
13.事後調査計画の □ 実施可能な調査計画としたか
検討
調査の項目及び手法は、事後調査の結果と環境影響評価の結果との比較
□
検討が可能なように設定したか
14.評価
採用した環境保全措置が予測された影響を十分に回避又は提言できるかど
□
うかについて、見解を明らかにしたか
□ 代償措置は、複数案検討した結果にもとづいて評価したか
□ 代償措置は、残存干潟や周辺干潟への影響も含めて評価したか
- 60 -
4-2 対象とする事業の内容(事業特性)と影響要因の把握
(1)対象とする事業の内容(事業特性)の把握
対象とする事業の内容(事業特性)の把握は、基本的事項及び主務省令では「対象と
なる事業に係る環境影響評価の項目並びに調査、予測及び評価の手法を選定するに当た
って、選定を行うに必要と認める範囲内で、影響を及ぼす事業の内容(事業特性)に関
し、以下の情報を把握する。事業特性に関する情報の把握に当たっての留意事項として、
当該事業に係る内容の具体化の過程における環境保全の配慮に係る検討の経緯及びそ
の内容についても把握することが含まれるものとする。
」とされている。
表4-2-1 事業特性に関し把握する情報
項
目
①対象事業の種類
内
容
例
埋立事業、ダム事業、発電所(火力発電所)事業等
②対象事業実施区域の位置
対象事業の実施区域の位置は、適切な縮尺の平面図上で概
要を示す。また、事業の実施区域は、事業計画の塾度に応じ
て適切に示す。
③対象事業の規模
対象事業の規模は、面積、延長、幅等、事業の種類毎に規
模がわかるように示す。
④対象事業の工事計画の概要
対象事業の工種ごとに施工方法、施工機械、工事期間、工
事工程を示す。
⑤その他の対象事業に関する事項
環境保全の配慮に係る検討の経緯及びその内容等を示す。
- 61 -
(2)対象とする事業の影響要因
干潟に影響を与える事業については、環境影響評価法の対象事業と干潟の成因に影響
を及ぼす突堤や離岸堤など設置する事業(海岸保全事業など)について、事業毎に影響
要因と干潟生態系への影響を表4-2-2に整理した。
表4-2-2 各事業の影響要因の抽出・整理(参考例)
事 業
影響要因
想定される干潟生態系への主な影響
・道路用地を埋立で確保する場合は、埋立事業と同じ
・河口域での橋梁の存在は、橋脚による干潟の消失、流れの変化に
よる干潟地形の変化、鳥類の移動経路への影響
・河口域の橋梁や海岸に接した道路は、自動車が走行することによる
騒音・振動、夜間の照明による生物への影響
道路(橋梁)の存在
1.道路事業
2.1 ダム事業
2.2 堰事業
2.河川
事業
2.3 湖沼水位調節施設事業
2.4 放水路事業
3.鉄道事業
4.飛行場事業
5.発電所事業
6.廃棄物の最終処分場事業
7.埋立て・干拓事業
8.土地区画整理事業
9.新住宅市街地開発事業
敷 地 の 10.工業団地造成事業
造成事業 11.新都市基盤整備事業
12.流通業務団地造成事業
13.宅地の造成の事業
港湾計画
海岸保全等の事業
その他の
事 業
自動車の走行
橋梁工事、護岸工事、
埋立工事等
ダム堤体の存在
ダムの供用
堰の存在
堰の供用
堤防及び水門の存在
水門の供用
・埋立事業と同じ
・主に土砂供給の減少(土砂のトラップ))による干潟地形の変化(干
潟の衰退)
・河川水量の減少による干潟の水質の変化
・河川からの土砂供給の変化、新たな流路ができることによる沿岸
流、漂砂の変化による干潟地形の変化
放水路の存在・供用
鉄道施設(橋梁等)の存在
列車の走行
橋梁工事、護岸工事、
埋立工事等
飛行場の存在
飛行機の運航
護岸工事、 埋立工事等
地形の改変、施設の存在
施設の稼働(温排水)
護岸工事、 埋立工事等
最終処分場の存在
・道路事業と同じ
・埋立事業と同じ
・飛行場用地を埋立で確保する場合は、埋立事業と同じ
・飛行機の離発着による生物(特に鳥類)への影響
・埋立事業と同じ
・発電所施設の設置や埋立による影響、埋立事業、港湾計画と同じ
・温排水による生物への影響
・埋立事業と同じ
・処分場を海域に設ける場合は、埋立事業と同じ
処分場を海域に設ける場合は、
・浸出水による水質・底質・生物への影響
最終処分場の供用
・ゴミ処分によるハエ、カラス、ユリカモメ、ネズミの増加による他の生
物への影響
埋立工事、護岸等の施工 ・主に濁りによる生物への影響
・埋立地の存在による干潟に消失、波浪・沿岸流の変化、漂砂の変
埋立地の存在
化、地形の変化
堤防及び護岸工事
・主に濁りによる生物への影響
埋立工事
敷地の存在
・敷地を埋立で確保する場合は、埋立事業と同じ
護岸工事、 埋立工事等
・埋立事業と同じ
水域施設の存在
・泊地、航路等の深い水域の存在による沿岸流、沿岸漂砂の変化
(泊地、航路等)
・深い水域の夏季成層の形成による水質、底質、生物の変化
外郭施設の存在
(護岸,防波堤,防砂堤,防 ・外殻施設の存在による波浪、沿岸流、沿岸漂砂の変化、
潮堤及び導流堤など)
埋立地の存在
・埋立事業と同じ
海岸保全施設等の存在
離岸堤,潜堤、人工リーフ,消波 ・沿岸流、波浪の変化(侵食、漂砂堆積の変化)
堤, 突堤, ヘッドランド, 養浜工 ・現状の干潟に養浜工等を行う場合は、埋立事業と同じ
, 護岸、導流堤, 暗渠, 河口水
門, 人工開削、水門および樋門,
排水機場など
河川・砂防事業
砂防堰堤等の設置
土砂採取事業
砂・砂利の採取
・主に土砂供給への影響(ダム事業,堰事業と同じ)
・干潟及び周辺水域における海砂の採取による地形、沿岸流の変化
・河川における砂利採取による土砂供給量の変化
- 62 -
干潟生態系に影響を及ぼす影響要因は、大別すると以下のとおりである。
①埋立てによる用地の確保(埋立地の存在)
②突堤、堤防等の海岸・港湾・漁港等の施設や橋梁(河口域)の存在
③河川のダム、堰、水門、砂防堰堤の存在、供用
④施設の供用による処理水(温排水含む)の放流、自動車・列車の走行による騒音、
振動、夜間照明の発生
⑤埋立工事や護岸工事等の工事による濁りの発生・拡散
また、干潟生態系への影響の内容で大別すると以下のとおりである。
表4-2-3 干潟への影響の内容と影響要因(参考例)
影響の
区分
影響の内容
影響要因
主な事業
・埋立地の存在
・埋立事業、道路、鉄道、発電、廃
・干潟の消失による生物の
・橋梁・突堤、防波堤等の
棄物処分場、海岸保全等の事業
生息場の減少
施設の存在
・埋立地の存在
直
・橋梁、突堤、防波堤等の ・埋立、道路、鉄道、放水路、海岸
接 ・流況、波浪等の変化
保全等の事業
的 ・魚類等の移動経路の変化 施設の存在
・放水路の存在
存
在
・鳥類の移動経路の阻害
・橋梁、高架、煙突等の高
・道路、鉄道、発電所等の事業
い構造物の存在
・埋立地の存在
・流況、波浪等の変化によ
・埋立、道路、鉄道、放水路、海岸
・橋梁・突堤
る干潟地形、水質、底質の
・防波堤等の施設の存在 保全等の事業
間 変化及び生息生物の変化
・放水路の存在
接
・河川からの土砂供給量の
的
減少による干潟の衰退
・ダム、堰、水門、砂防堰
・ダム、堰、水門、砂防等の事業
・河川流量の減少による干 堤の存在、供用
潟の水質変化
供
用
・道路、鉄道事業及び工業団地造
直 ・施設の供用による干潟の
・処理水放流、騒音・振動
成、新住宅市街地開発等の敷地の
接 水質・騒音・振動・光による
の発生、夜間照明
造成に関する事業
的 生息生物の変化
間 ・施設の供用による干潟の
接 水質 変 化に 伴 う 底 質変化 ・処理水の放流
的 及び生息生物の変化
・工業団地造成、新住宅市街地開
発等の敷地の造成に関する事業
・埋立工事
直
・埋立事業、道路、鉄道、発電、廃
・工事中の濁りの発生・拡
・橋梁・突堤、防波堤等の
接
棄物処分場、海岸保全等の事業
散による生息生物の変化
施設の建設工事
工 的
事
中 間 ・工事中の濁りの発生・拡 ・埋立工事
・埋立事業、道路、鉄道、発電、廃
接 散による水質、底質の変化 ・橋梁・突堤、防波堤等の
棄物処分場、海岸保全等の事業
的 及び生息生物の変化
施設の建設工事
- 63 -
4-3 地域特性の把握
ここでは、地域特性の把握は、事業の影響要因の抽出結果を受け、主に調査対象とす
る干潟を設定する目的で、影響要因により影響が伝搬する範囲及びその周辺において、
以下の情報の把握を中心に行う。情報の把握は、最新の文献、資料等に基づき行うが、
経年的な変化を把握する場合は、過去の文献、資料を収集・整理する。
①干潟の状況(位置、分布)
②海岸の状況(地形、海底の基質(砂、泥、岩等)
)
③河川の状況(位置、流量、流速、流路の状況等)
④海岸保全施設等状況(種類、位置、規模等)
⑤沿岸の流況(流向、流速)
⑥波浪(波高、波向き)
⑦風向、風速
⑧漂砂の方向、量
また、環境影響評価の項目の選定に必要な情報を得るために、基本的事項及び主務省
令で示されている以下の項目についても情報の把握を行うものとする。
【地域特性に関する情報】
イ 自然的状況
(1) 気象、大気質、騒音、振動その他の大気に係る環境の状況(環境基準の確保の状況を含む。
)
(2) 水象、水質、水底の底質その他の水に係る環境の状況(環境基準の確保の状況を含む。
)
(3) 土壌及び地盤の状況(環境基準の確保の状況を含む。
)
(4) 地形及び地質の状況
(5) 動植物の生息又は生育、植生及び生態系の状況
(6) 景観及び人と自然との触れ合いの活動の状況
ロ 社会的状況
(1) 人口及び産業の状況
(2) 土地利用の状況
(3) 河川、湖沼及び海域の利用並びに地下水の利用の状況
(4) 交通の状況
(5) 学校、
病院その他の環境の保全についての配慮が特に必要な施設の配置の状況及び住宅の配置
の概況
(6) 下水道の整備の状況
(7) 環境の保全を目的として法令等により指定された地域その他の対象及び当該対象に係る規制
の内容その他の状況
(8) その他の事項(地域の開発史など)
なお、地域特性に関する情報の把握にあたっての留意事項は、以下のとおりである。
① 入手可能な最新の文献、資料等に基づき把握する。
② 出典が明らかにされるように整理する。
③ 過去の状況の推移及び将来の状況並びに当該地域において国及び地方公共団体
が講じている環境の保全に関する施策の内容についても把握する。
- 64 -
4-4 調査対象とする干潟及び調査地域の設定
(1)調査対象とする干潟の設定
調査対象とする干潟の設定は、①事業特性(事業の種類、事業実施区域、規模等)
、②
事業の干潟生態系への影響要因及び影響の内容、③地域特性(干潟の位置、分布状況や
地形、流れ、波浪、漂砂(土砂の供給と移送)
、海底の基質など)の状況をもとに、影響
の伝搬範囲を想定し、その影響範囲内にある干潟とする。
影響の内容は、「直接的な影響」と「間接的な影響」に分けて調査対象とする干潟を検討
する。
直接的な影響は、干潟の埋立てや構造物の建設、干潟への処理水(温排水含む)の放流
等を行う影響要因であり、事業の実施区域と干潟の位置が重なることから、調査対象と
する干潟の設定は容易である。
一方、間接的な影響は、埋立地、構造物の存在による流れ、波浪等の変化に伴う干潟
の地形、海底の基質、水質等の環境要素の変化や処理水等の放流による汚濁物質の拡散
に伴う干潟の水質、底質等の環境要素の変化などがある。これらの影響の範囲について
は、干潟の「成因」
、
「構造」
、
「機能」等を分析することで影響範囲を設定する。
影響範囲の想定に当たっての留意事項としては、事業特性、影響要因と影響の内容、
地域特性により、想定される影響が空間的、時間的に大きな幅を持つことが挙げられる。
例えば、事業規模が小さくても沿岸流を大きく変える事業では、広範囲の干潟に影響
を及ぼす。また、土砂供給量の減少に伴い、干潟の前置層が徐々に侵食、変形し、干潟
の縮小が長期間に渡って生じることもある。
河川
河川
土砂供給
土砂供給
埋立計画地
(流れの変化による土
砂供給の減少、波浪
による侵食
→干潟の縮小)
埋立地の存在
干潟
(埋立による
干潟消失)
干潟
干潟の縮小
沿岸流
沿岸流
波浪
波浪
図4-4-1 埋立地の存在による影響要因の例
- 65 -
河川
河川
(突堤等の建設によ
る土砂供給の遮断
→干潟の縮小)
土砂供給
突堤等の計画
沿岸流
干潟
土砂供給
突堤等の建設
沿岸流
干潟への
土砂供給
干潟
土砂供給
量の減少
波浪
波浪
図4-4-2 広域的な影響要因の例(その1)
ダムの建設
河川
河川
土砂供給
干潟
沿岸流
(河川でのダムや護岸工
事等による土砂供給の
減少→干潟の縮小)
土砂供給量
の減少
干潟
沿岸流
干潟への
土砂供給
波浪
土砂供給
量の減少
波浪
図4-4-3 広域的な影響要因の例(その2)
- 66 -
(2)対象とする干潟生態系の調査範囲の設定
干潟生態系の調査地域の設定は、
「干潟生態系」として成立する範囲(潮上帯から潮下
帯)と調査対象干潟の設定で検討した影響範囲を含む範囲とその周辺の地域とする。
前置斜面
(潮下帯)
調査地域
影響範囲
海域
干潟生態系の
成立する範囲
干潟
陸域
後背湿地
(潮上帯)
図4-4-3 干潟生態系の調査範囲概念図
既存文献・資料等による広域調査、現地調査、予測の対象地域の範囲の関係は以下の
ように考えられている。
既存文献・資料等による広域調査地域>予測地域≧現地調査地域
(出典:
「自然環境のアセスメント技術(Ⅱ)
」2000 年 環境庁企画調整局)
また、埋立事業では、調査地域等は図4-4-4に示すような範囲としている。
図4-4-4 公有水面埋立事業における地域、区域の概念図
(出典:港湾分野の環境影響評価ガイドブック」1999 年(財)港湾空間高度化センター 港湾・環境研究所)
- 67 -
4-5 調査対象干潟の概況調査と結果の整理
(1)調査対象干潟の概況調査
調査対象干潟の概況調査は、干潟及びその周辺の環境特性を把握し、適切な干潟生態
系の環境アセスメントの計画を立てる上で、環境影響評価項目並びに調査・予測手法を
検討・選定するために重要な基礎的な調査である。
調査は、既存の文献・資料、空中写真の収集・整理、地元の専門家、漁協、NPO等
の関係機関への聞き取り調査、現地踏査により行う。
調査すべき情報の種類と内容は、表4-5-1に示すとおりである。調査に当たって
の留意事項としては、対象となる事業内容と影響要因の検討結果を考慮しながら、必要
な情報を把握するために収集する情報の種類を柔軟に変更、追加していく必要がある。
表4-5-1 調査対象干潟の概況調査の調査すべき情報の種類と内容
調査方法
調査すべき情報の種類と内容
干潟生物の生息状況
注目種の生息・分布状況
干
潟 主要種の生活史、生理・生態特性
生 食物連鎖
態 干潟の機能
系 干潟の成因
の 微地形(空中写真等による)
特 注目すべき環境
性 干潟の地形、基質の変化
その他
大気環境(気象・大気質・騒音・振動等の状況)
既存資料収集整理 自 水環境(水象・水質・底質等の状況)
然
土壌、地盤の状況(土壌汚染・地盤沈下)
的
状 地形、地質の状況(干潟の分布、基質を含む陸上、海底の地形・地質)
況 干潟周辺の動植物の生息、生育の状況、生態系の状況、重要種(貴重種)の有無
景観、人と自然との触れ合い活動の状況(干潟の景観、利用を含む)
人口・産業の現状及び推移
土地利用の現状と推移、土地利用の規制等の指定状況
社 河川、海域の利用の現状、水域利用の規制等の指定状況
会
交通の状況
的
状 学校、病院等の環境保全に配慮が特に必要な施設の位置等
況 下水道の整備状況
環境の保全を目的として法令等により指定された地域、規制内容等
地域の開発史(沿岸や干潟の開発の歴史)
干潟地形の近年の変化(形状、面積、粒径など)
聞き取り調査
干潟に生息する魚類、エビ・カニ類、貝類、鳥類等の生物の生息状況と近年の変化
(地元の専門家、漁
重要種、注目種の生息、分布状況
協、NPO等の関係機
干潟及び周辺での漁業場、漁獲対象種、漁獲量の推移、保護水面
関)
澪、深み等の微地形の場所
微地形等の干潟の状況
流入河川の状況
既存護岸等の構造物の位置等の状況
現地踏査
周辺を含む土砂の侵食、堆積状況
既存資料等で不明な点の確認
その他
- 68 -
(2)概況調査結果の整理
調査対象干潟の概況調査で得られた情報を整理するに当たっての留意点は、以下の事
項が挙げられる。
① 出典、調査年月日を必ず明記する。
② 経年変化は、グラフや図を用いて、わかりやすく表現する。
③ 可能な限り位置や分布状況等の情報を地図上に標記し、事業の実施区域との位
置関係を明らかにしておく。
凡 例
泥
砂泥
N
干潟
の底
質
埋立地
の位置
砂
前置斜面
アサリ
生 ウミニナ
シ
コアジサシ
の産卵場
ギ
来
○
渡
○ ◎
△
△
△
★ ◎
○ △
★
★
○ ●
の
★
△
◎
類
▲
★
産卵場
ドリ
▲
チ
▲
魚介類の
地
-10
-2
m
息 カニ類
生 ゴカイ類
物 マハゼ
貴重
藻 場
○
●
△
▲
★
◎
資料
①「○○○調査報告書」
○○○県 2003 年 3 月
②○○○漁協へのヒアリング
結果 2006 年 7 月 10 日
③○○○NPO へのヒアリング
結果 2006 年 7 月 12 日
④「○○干潟生物観察記録」
○○○自然観察会 2004 年 3 月
⑤現地踏査結果(2006 年 8 月 5
日)
○
●
○
★
0m
○
カモ類の
渡来地
●
◎
○ ●
●
波浪
沿岸流
0
500m
図4-5-1 得られた情報の整理図(参考模式図)
④ 重要種(貴重種)の分布等、取り扱いに配慮が必要な情報については、位置等が
明らかにならないように、詳細地点を示さないなどの配慮が必要である。
⑤ 生物間の関係については、生息生物より食物連鎖の関係を整理する。
(「2-3(3)物質循環機能」p33 参照)
⑥ 生物と環境要素の関係は、生物と微地形・底質(主に基質)、潮の干満(冠水時、
干出時)等による生息、分布状況について整理する。
⑦ 生物生息機能については、干潟の微地形・底質等から生息空間を区分し、各々
の生息生物から代表的な生物種を整理する。
- 69 -
朔望平均干潮面
朔望平均干潮面
平均満潮面
平均干潮面
泥
陸域
A
砂泥
B
前置斜面
海域
砂
河川
潮下帯
B
環境区分
潮下帯
泥
底質(基質)
河川・澪
潮溜まり
-
砂
低 潮帯
低潮帯
-
泥
砂泥
中 潮帯
高 潮帯
潮間帯
潮間帯
中潮帯
-
【植物】
底生藻類
【動物】
砂泥
-
-
テナガツノヤドカ
リ、ニホンスナモグ
リ、アラムシロ、
【植物】
【植物】
【植物】
アオサ
底生藻類
アオサ、アマモ
【動物】
【動物】
砂
【動物】
スズキ、ボラ、マハ
テナガツノヤドカ
マハゼ、アサリ、マ
ゼ、ウリタエビジャ
リ、ニホンスナモグ
テガイ、バカガイ、
コ、バカガイ、
リ、アラムシロ、
高潮帯
【動物】
シギ・チドリ類、ヤ
マトオサガニ、ゴカ
イ類
潮上帯
A
潮上帯
【植物】
・ヨシ原
【動物】
オオヨシキリ、クロ
ベンケイガニ
【植物】
底生藻類
【動物】
シギ・チドリ類、チ
ゴガニ、
【動物】
シギ・チドリ類、タ
マキビガイ、クロ
ベンケイガニ
【植物】
底生藻類
【動物】
シギ・チドリ類、ウミ
ニナ、タマキビガ
イ、ゴカイ類
【動物】
シギ・チドリ類、タ
マキビガイ、ニホ
ンスナモグリ
【植物】
・アオサ、アマモ
【動物】
カモ類、コサギ、スズキ、ボラ、マハゼ、アベハゼ、シラタエビ、モクズガニ、アサリ、バカガイ 等
-
-
-
【植物】
・アオサ
【動物】
アベハゼ、シラタ
エビ、アサリ、
-
図4-5-2 干潟の環境毎の生息生物整理(参考例)
⑧ 生物の干潟の利用について、干潟で確認できる時期(表4-5-2参照)や生活
史(「2-3(2) 生物生息機能 図2-5 干潟に生息する生物の生活史」p32 参照)
等をもとに整理する。
⑨ 生物生産機能については、漁業資源となる代表的な生物の整理、生物の生活史
等をもとに産卵・育成場として利用する代表的な生物の整理をする。
⑩ 物質循環機能については、干潟の水質・底質状況、生物の生息状況(種類・量)
や周辺水域の水質・底質の状況等を整理し、物質循環の概略のフロー図を作成す
る (「2-3(3)物質循環機能」p33 参照)
。
- 70 -
表4-5-2 生物が干潟で確認できる時期(整理参考例)
月
生 物
1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
産卵期(河川中下流)
稚仔魚
幼魚
成魚(河川)
産卵期(干潟の沖合)
仔魚期(浮遊生活)
稚魚・幼魚・若魚(干潟)
成魚(沿岸)
産卵期(干潟の沖合)
仔魚期(浮遊生活)
稚魚・幼魚・若魚
成魚(深場・浅場を回遊)
産卵期(干潟の沖合)
仔魚期(浮遊生活)
稚魚・幼魚(干潟)
成魚(干潟の沖合)
産卵期(干潟)
仔魚期(浮遊生活)
活動期(干潟の表面)
干潟の巣穴(干潟)
産卵期(干潟の沖合)
仔魚期(浮遊生活)
稚魚・幼魚(干潟)
成魚(干潟・沖合)
繁殖期(背後地の樹林地)
ねぐら(背後地の樹林地)
採食地(干潟)
繁殖地(ユーラシア大陸の高緯度地方)
越冬(干潟)
繁殖地(ユーラシア大陸の高緯度地方)
越冬は太平洋諸島など
中継地
繁殖地(ユーラシア大陸の高緯度地方)
越冬はニューギニア島、オーストラリア大陸
中継地
繁殖地(ユーラシア大陸の中緯度地方)
越冬
越冬(オーストラリアの沿岸部など)
繁殖地(海岸・川原の砂地・砂礫地)
越冬(東南アジア等の熱帯域)
繁殖地(水辺の近いヨシ原、干潟の後背湿地など)
抱卵期(干潟)
幼生期(浮遊生活)
稚ガニ・成体活動期(干潟)
冬眠(巣穴:干潟)
産卵期(干潟)
卵・幼生期(浮遊生活)
稚ガニ・成体
産卵期(干潟の沖合)
卵・幼生期(浮遊生活)
稚エビ(干潟等の浅場)
成体(干潟の沖合)
産卵期(干潟)
卵・幼生期(浮遊生活)
着生稚貝(干潟)
稚貝・成貝(干潟)
産卵期(干潟)
卵・幼生期(浮遊生活)
着生稚貝(干潟)
稚貝・成貝(干潟)
産卵期(干潟)
卵・幼生期(浮遊生活)
着生稚貝(干潟)
稚貝・成貝(干潟)
種子
発芽
葉状部
地下茎
遊走子・配偶子(浮遊期)
着生葉状体
浮遊葉状体
糸状体(貝殻等の中)
葉状体
ノリの養殖(東京湾)
アユ
スズキ
マコガレイ
魚
類
イシガレイ
トビハゼ
マハゼ
コサギ
(留鳥)
ヒドリガモ
(冬鳥)
ムナグロ
(旅鳥)
鳥
類
アオアシシギ
(旅鳥)
ユリカモメ
(冬鳥)
コアジサシ
(夏鳥)
オオヨシキリ
(夏鳥)
カ
ニ
類
・
エ
ビ
類
クロベンケイガニ
アシハラガニ
クルマエビ
アサリ
貝
類
ハマグリ
バカガイ
海
藻
類
・
海
草
類
備 考
アマモ
アオサ
アサクサノリ
凡例
:干潟に生息している時期、 :干潟に生息していないあるいは確認できない時期
注:生物の干潟で確認できる時期は、地域によって異なる。
- 71 -
4-6 環境影響評価の項目の選定
(1)環境影響評価の項目の選定の手順
環境影響評価の項目について検討した結果は、方法書としてとりまとめ、スコーピン
グ手続を通じて得られた意見を踏まえて適切な項目を選定する。
環境アセスメントでは、
「何を評価すべきか」を明らかにして、調査から予測、評価
を進めていくことが重要である。
環境影響評価の項目を選定する際には、事業特性、地域特性、地域が目指す干潟の姿
(地元のニーズ、専門家の意見)などから「何が環境保全上重要な環境要素になるか」
、
「どのような影響が問題になるか」
、
「対象とする干潟の環境保全の方向性はどうあるべ
きか」などを検討した結果を踏まえることが重要である。
なお、環境影響評価法に基づく基本的事項では、環境影響評価の項目を選定するに当
たっての留意事項として以下の事項を挙げている。
① 項目の選定の理由を明らかにすることが必要である。
② 必要に応じ専門家等の助言を受けること等により客観的かつ科学的な検討を行う。
なお、専門家等の助言を受けた場合には、当該助言の内容及び当該専門家等の専門
分野を明らかにすることが必要である。
③ 環境アセスメントの実施中において環境への影響に関して新たな事実が判明した
場合等においては、必要に応じ選定項目を見直し、又は追加的に調査、予測及び評
価を行う。
(B)事業特性
(D)
(C)影響要因
環境保全上重要な
環境要素
(A)対象干潟の地域特性の整理
どのような影響が
問題か
《情報》
地 元
専門家
ヒ
検ア
討リ
会ン
なグ
ど ・
(E)
影響の内容
の想定
地元のニーズ
専門家の意見
地域が目指す
干潟の姿
見直し
干潟の環境保全の
方向性
NO
(F)影響評価内容
の重要度の整理
(G)
影響評価
項目の選定
当初想定した
条件・内容と整合
調査・予測の実施
(H)予測手
法の選定
(I)調査手
法の選定
方法書の作成
OK
準備書の作成
図4-6-1 環境影響評価項目の選定の手順
(2)環境影響評価項目の選定の検討手順の例
干潟生態系は、生物や無機的環境の構成要素と成因に加え、干潟が持つ機能により「定
期的な攪乱を受け緩やかに遷移している状態(短期的には動的平衡状態)
」を保った状
態にある。したがって、平衡状態を壊す影響要因が加わると連鎖的な影響が生じること
を理解することが的確な環境影響評価項目、調査・予測手法の選定の入り口である。
干潟生態系の調査・予測については、既存資料による情報や知見の蓄積が乏しく、ま
た微地形や季節変動等も見られる複雑な成り立ちであるため、現状調査においても網羅
- 72 -
的に全てを把握することは困難である。直接的な影響だけではなく、成因や機能等が複
雑に絡み合うことで間接的な影響も生じやすい。そのような前提において、干潟の「定
期的な攪乱を受け緩やかに遷移している状態(短期的には動的平衡状態)
」を的確に把
握し、手戻りが生じないような調査・予測・評価を的確かつ効率的に行うためには、当
該干潟の様々な側面からの情報を持っている地域住民や専門家等の情報・意見を確実に
引き出しながら調査計画を立てることが必要である。そのためには、干潟の現状や事業
特性と影響要因についての情報を共有し検討していくことが大切であるが、干潟生態系
の全体像をイメージするのはなかなか難しく、環境影響評価項目や調査・予測手法だけ
を示しても「分かりにくい環境アセスメント」となってしまいがちである。
そこで、環境影響評価項目の選定の検討手順として、情報を分かりやすく示した模式
図を使ったスキームを例として示す。
環境影響評価項目の選定の検討手順は、以下のとおりである。
【ステップ1:対象干潟の現状の整理 図4-6-1の(A)】
対象干潟の概況調査結果(
「4-5 調査対象干潟の概況調査と結果の整理」参照)を基
に、干潟の現状(成因、構成要素、機能)について図に整理する(図4-6-2参照)
。
干潟の成因に関する整理は、図上に対象干潟の位置や干潟の前置斜面、潮下帯、潮間
帯、潮上帯(後背湿地)の位置、干潟の底質分布状況(泥、砂泥、砂等の基質)
、沿岸流
の流向、波浪の向き、干潟周辺海域の水質、流入河川の位置や流量、水質等について示
す。
干潟の構成要素、生物生息機能、生物生産機能の整理は、干潟の成因について整理し
た図面上に、微地形(澪、凹凸、潮溜など)を示すとともに、生息環境毎に注目種(上
位種・典型種・特殊種)や重要種の概ねの生息場所を示す。また、産卵場所・稚仔が確
認される場所や漁場として利用している場所についても情報があれば示す。なお、干潟
生物は、季節による消長があることから確認される時期(周年、季節)を明らかにし、
図に反映させたり、表を作る等して整理しておく必要がある。
干潟の物質循環機能の整理は、生息生物の食物連鎖を中心に整理し、干潟の水質、底
質の状況を加えて、物質循環の概略のフロー図を作成する。対象とする物質は、一般的
には炭素(C)や窒素(N)
、リン(P)が扱われている。
【ステップ2:事業が干潟に及ぼす影響の整理 図4-6-1の(B)(C)】
ステップ1で整理した干潟の現状を基に、事業の影響要因(「4-2 対象となる事業内
容(事業特性)と影響要因の把握」参照)が干潟にどのような影響を及ぼす可能性がある
かを検討する(図4-6-3参照)
。
整理の手順例は以下のとおりである。
①事業特性から事業の実施場所や規模をステップ1で作成した図上に示す。
- 73 -
②事業特性から想定される影響要因を抽出し、各々の影響要因が直接な影響を及ぼす
と想定される環境要素を抽出し、図面に示す。
③直接的な影響からさらに生じると考えられる間接的な影響について検討・抽出し、
図面に示す。
④作成した図面を基に、事業の影響要因が干潟にどのような影響を及ぼす可能性があ
るかを検討する。
【ステップ3:影響評価内容の検討 図4-6-1の(D)(E)(F)】
影響が想定される内容について洗い出し、事業特性・地域特性を踏まえながら、影響
評価内容の重要度を整理する(図4-6-4~5参照)。
整理の手順例は以下のとおりである。
①影響の内容の想定
ステップ2で干潟に影響を及ぼす可能性がある影響要因を検討した結果を基に、影
響が想定される内容について洗い出す。
《例》干潟の埋立てによる影響要因の一つである「埋立地の存在」について、影響が
想定される内容としては、
「干潟(生物の生息場)の消失」によって、消失場所に生息す
る「注目種(上位種・典型種・特殊種)
」や「重要種」等の生物への影響、消失場が産
卵場所となっている場合は、
「産卵への影響」
、漁場となっている場合は「漁業への影
響」や、干潟面積の減少による「物質循環機能への影響」が挙げられる。また、埋立
地の存在により、埋立地周辺の「沿岸流」や「波浪」への影響が想定される。これら
が変化することにより残存干潟の地形への影響が想定され、それに伴い残存干潟の生
態系への影響が想定される(
「4-2 対象となる事業内容(事業特性)と影響要因の把握」
の表4-2-3参照)
。
②影響評価内容の重要度の整理
影響が想定される内容について、各々、事業特性(事業規模、埋立地の位置、環境
保全対策 等)や地域特性(ステップ1で整理した内容(沿岸流や波浪の状況、注目種
重要種等の生物生息状況、漁業等の干潟の利用状況等)や、当該水域における干潟の
位置付けや歴史的な背景、地域が目指す干潟の姿など)を基に影響評価内容の重要度
(優先順位)を整理する。
《例》干潟の埋立てにより影響が想定される内容として、「干潟(生物の生息場)の消
失」による消失場所に生息する「重要種への影響」
、
「典型種への影響」
、
「上位種への影
響」
、
「特殊種への影響」や「産卵場への影響」が挙げられた時、埋立て場所に「重要
種が生息しない」
、
「産卵場となっていない」場合は、
「典型種への影響」
、
「上位種への
影響」に比べ重要度は低いと考えられる。また、
「典型種への影響」
、
「上位種への影響」
- 74 -
は、埋立面積の大きさが影響度を左右すると考えられるが、
「重要種への影響」
、
「特殊
種への影響」や「産卵場への影響」の場合、埋立面積よりも場所により影響度が異な
ってくると考えられる。
【ステップ4:影響評価項目、調査・予測手法の選定 図4-6-1の(G)(H)(I)】
ステップ3で整理した影響評価内容の重要度を基に、対象干潟の重要な影響評価項目
を選定し、予測手法の選定、予測に必要な情報を得るために調査手法の選定を行う(図
4-6-6参照)
。選定した影響評価項目を予測する手法は、原則、定量予測を行うも
のとし、先ず定量的な手法の適用が可能か否かを検討する。全てを定量的予測手法の適
用が困難な場合は、可能な範囲(例えば地形の変化、個々の注目種の変化など)まで定
量予測を行い、全体については「生物の生理的・生態的特性」
、
「現況調査で得られた結
果」
、
「類似事例や科学的知見」などに基づいた定性的な予測手法を選定するなどできる
限り定量的な予測に努める。調査すべき情報の種類は、選定した予測手法を的確に行う
ために必要な項目を選定する。
《例》干潟の物質循環(水質浄化)が予測項目に選定された場合、検討の結果、定量的
な予測手法として「低次元生態系モデル」の適用が可能とすると、調査項目は当モデ
ルに必要な予測条件(動植物プランクトン量、底生藻類量、底生動物量、水質 等)や
パラメータ(拡散係数、生産速度、分解速度、沈降速度、濾過性生物の濾過速度 等)
となる。
なお、調査は、予測に必要な情報の他に、干潟生態系を構成する生物の状況(重要種
の分布、生息・生育状況等や、上位種・典型種・特殊種等の注目種・群集の生態、他の
生物種との相互関係、生息・生育環境の状態等)を把握するために必要な情報について
も行う必要がある。ステップ1で整理した干潟の現状は、あくまで概況調査の結果を取
りまとめたものであり、不十分な情報も多い。したがって、想定した影響の内容が正し
いかを確認するために、概況調査からの現状整理を現地調査によって補足・裏付けして
いくことが重要であり、そのために必要な調査・測定をあわせて実施する必要がある。
- 75 -
《干潟の成因》
有機物
栄養塩
土砂
海 域
土砂
凡 例
場
要 物 理 ・化 学
素
生 物
移 動
食物連鎖
河 川
供 給 (流 量 )
淡水
海水
移送・供給
有機物
栄養塩
動
的
平
衡
沿岸流
波浪
干潟
汽水
砂・泥
湧水
地下水
有機物・栄養塩
侵食・流出
前置層
前置斜面
低潮帯
潮下帯
中潮帯
潮間帯
《干潟の生物生息機能・生物生産機能》
他の干潟
アサリ
移
海 域
稚貝
産卵
移
浮遊幼生
動
ウミネ
砂
オサガニ
移
動
アラムシロ
ベンケイガニ
移
動
泥
ゴカイ
ヤドカ
砂泥
底生藻類
成魚
オオヨシキリ
シギ・チドリ
マハゼ
移動
ヨシ等
岩
澪
アマモ
後背湿地
親
水
機
能
》
産卵
稚魚幼魚
ゴカイ
アサリ
動
《
イソギンチャク
フジツボ
凹凸
稚貝
移
潮溜
スズキ
波浪
潮溜
コサギ
浮遊幼生
潮 上 帯 (後 背 湿 地 )
干潟は多様な環境に多様な生物が生息。
産卵育生場、漁場となっている。
動
干 潟
マハゼ
沿岸流
高潮帯
前置層
河 川
系外
海 域
流
入
《干潟の物質循環機能》
人為的負荷
有機物
栄養塩
沿岸流・潮汐
二枚貝類
アサリ等
動 物 プラン ク トン
栄養塩
底生藻類
デトリタス
系外
人 間
(漁 業 ・ レク
リ エー ショ
魚 類
ハゼ類
植 物 プラン ク トン
有機物
移動
干 潟
魚 類 (スズキ等)
移動
生物の
排泄物・
死骸
鳥 類
シギ・チドリ類
カモメ類等
魚 類
稚魚・幼
巻貝
ウミニナ
小型の甲殻類
ヨコエビ類等
甲殻類
エビ・カニ類
環形動物
ゴカイ等
バクテリア
前置層
図4-6-2【ステップ1】対象干潟の現状(成因、構成要素、機能)整理(参考図)
- 76 -
- 77 -
移動
海 域
生物の
排泄物・
死骸
有機物
栄養塩
沿岸流・潮汐
系外
有機物
栄養塩
デトリタス
河 川
小型の甲殻類
ヨコエビ類等
魚 類
稚魚・幼
魚 類
ハゼ類
鳥 類
シギ・チドリ類
カモメ類等
波浪
沿岸流
干 潟
移動
環形動物
ゴカイ等
動
的
平
衡
移送・供給
(漁 業 ・ レク
リ エ ーショ
人 間
系外
土砂
水質・
底質の
変化
生息生
物の変
化(構
種、生
息量)
潮間帯
バランス
が壊れる
低潮帯
侵食・流出
の干
変潟
化面
積
潮下帯
甲殻類
エビ・カニ類
水
の
質
変
・
化
底
質
前置斜面
海水
供 給 (流 量 )
ダ
ム
建
・
設
堰
の
地
形
の
変
化
高潮帯
干潟
埋
立
地下水
潮 上 帯 (後 背 湿 地 )
湧水
波浪
浮遊幼生
他の干潟
アサリ
動
動
マハゼ
海藻草類
産卵
稚魚幼魚
移
底生藻類
植物プランクトン
移
産卵
成魚
アサリ
浮遊幼生
海 域
稚貝
沿岸流
稚貝
岩
底生動物
魚 類
鳥 類
影響
要因
環境
要素
前置層
バクテリア
動物プランクトン
砂
干 潟
干
潟
の
消
失
人工干潟造成(砂・砂泥・
泥)による代償措置
《干潟の生物生息機能・生物生産機能》
水
の
質
変
・
化
底
質
有機物・栄養塩
汽水
淡水
前置層
中潮帯
砂・泥
有機物
栄養塩
河 川
図4-6-3【ステップ2】事業が干潟に及ぼす影響の整理(参考図)
前置層
巻貝
ウミニナ
有機物
栄養塩
土砂
海 域
《干潟の成因》
突堤、離岸堤、航
路、橋梁の建設
処理水の放流
二枚貝類
アサリ等
人為的負荷
バクテリア
底生藻類
植 物 プラン ク トン
動 物 プラン ク トン
魚 類 (スズキ等)
《干潟の物質循環機能》
流
入
凡 例
砂泥
重要種
泥
塩性植物
後背湿地
移動
橋
梁
の
建
設
間接的な影響要因
直接的な影響要因
食物連鎖
移 動
生 物
物 理 ・化 学 的
場
移動
海 域
- 78 -
有機物
栄養塩
有機物
栄養塩
⑤物質循環
(浄 化 )へ の
⑥・・・
・
②上位種へ
の影響
③典型種へ
の影響
③典型種へ
の影響
④産卵育生
場への影響
①重要種へ
の影響
②上位種へ
の影響
(1)地 形 の
変 化 (漂 砂 )
⑥・・・
・
の干
変潟
化面
積
(2)水 質 ・
底質の変化
環形動物
ゴカイ等
甲殻類
エビ・カニ類
干 潟
検討
(漁 業 ・ レク
リ エ ーシ ョ
人 間
系外
低潮帯
侵食・流出
動
的
平
衡
土砂
地下水
地
形
の
変
化
潮 上 帯 (後 背 湿 地 )
湧水
埋立地
波浪
浮遊幼生
動
動
マハゼ
海藻草類
産卵
稚魚幼魚
移
前置層
⑥・・・
・物 質 循 環
⑤
(浄
の
④ 産化
卵)へ
育生
③場
典へ
型の
種影
へ響
②の上影位響種 へ
生 物
食物連鎖
移 動
鳥 類
⑥・・・
⑤・
物質循環
④(浄
産卵
化育
)へ生の
③場典へ型の種影へ響
の上
影位
響種 へ
②
①の重影要響種 へ
の影響
(1)地 形 の
変 化 (漂 砂 )
動
(2)水 質 ・
底質の変化
移
⑥・・・
⑤・
物質循環
④(浄
産卵
化育
)へ生の
③場典へ型の種影へ響
の上
影位
響種 へ
②
①の重影要響種 へ
の影響
Ⅱ.沿岸流・波浪の変化
干 潟
泥
塩性植物
後背湿地
選定した影響評価項目
砂泥
重要種
埋立地
間接的な影響要因
直接的な影響要因
動物プランクトン
Ⅰ.干潟の消失
①の
重影
要響
種へ
の影響
干
潟
の
消
失
凡 例
場
物 理 ・化 学 的
底生動物
影響
要因
環境
要素
魚 類
岩
バクテリア
砂
凡 例
重要度大: 重要度中:
重要度小:
(例)事業規模が小さ
く、水域が極めて静穏
な場所で、水質も比
較的清浄な場所にお
ける埋立て
重要な予測・評価
内容の選定(重要
度により大・中・小
に分ける)
底生藻類
植物プランクトン
移
産卵
成魚
アサリ
浮遊幼生
海 域
稚貝
沿岸流
稚貝
《干潟の生物生息機能・生物生産機能》
他の干潟
アサリ
Ⅰ.埋立事業計画の特性
①事業規模、②埋立地の
位置、③環境保全対策 等
Ⅱ.対象干潟の地域特性
①沿岸流、波浪の状況
②重要な生物等の生物生
息情報
③当該水域における干潟
の位置付け、歴史的な背
景、目指す姿
④漁業等の干潟の利用状
況
水質・
底質の
変化
高潮帯
水
の
質
変
・
化
底
質
埋
立
て
干潟
有機物・栄養塩
淡水
前置層
中潮帯
汽水
砂・泥
有機物
栄養塩
河 川
生息生
物の変
化(構
種、生
息量)
潮間帯
バランス
が壊れる
供 給 (流 量 )
移送・供給
移動
潮下帯
波浪
沿岸流
⑥・・・
⑤・
物質循環
④(浄
産卵
化育
)へ生の
③場典へ型の種影へ響
の上
影位
響種 へ
②
①の重影要響種 へ
の影響
小型の甲殻類
ヨコエビ類等
魚 類
稚魚・幼
魚 類
ハゼ類
⑤物質循環
(浄 化 )へ の
前置層
影響内容の想定
バクテリア
巻貝
ウミニナ
二枚貝類
アサリ等
水
の
質
変
・
化
底
質
前置斜面
海水
鳥 類
シギ・チドリ類
カモメ類等
埋立地
有機物
栄養塩
土砂
海 域
《干潟の成因》
図4-6-4【ステップ2、3】事業が干潟に及ぼす影響の整理模式図と影響評価項目の選定【参考図】例1:埋立事業
④産卵育生
場への影響
河 川
人為的負荷
Ⅱ.沿岸流・波浪の変化
デトリタス
底生藻類
植 物 プラン ク トン
動 物 プラン ク トン
魚 類 (スズキ等)
①重要種へ
の影響
Ⅰ.干潟の消失
生物の
排泄物・
死骸
沿岸流・潮汐
系外
《干潟の物質循環機能》
埋立てにより干潟が消失する。
埋立地の存在により沿岸流や波
浪が変化することが想定される。
流
入
- 79 -
移動
海 域
⑤物質循環
(浄 化 )へ の
⑥・・・
・
②上位種へ
の影響
③典型種へ
の影響
④産卵育生
場への影響
前置層
③典型種へ
の影響
②上位種へ
の影響
①重要種へ
の影響
水
の
質
変
・
化
底
質
小型の甲殻類
ヨコエビ類等
魚 類
稚魚・幼
魚 類
ハゼ類
⑥・・・
・
⑤物質循環
(浄 化 )へ の
④産卵育生
場への影響
波浪
沿岸流
検討
環形動物
ゴカイ等
甲殻類
エビ・カニ類
(漁 業 ・ レク
リ エ ーショ
人 間
系外
潮間帯
水質・
底質の
変化
生息生
物の変
化(構
種、生
息量)
地下水
地
形
の
変
化
潮 上 帯 (後 背 湿 地 )
湧水
動
動
マハゼ
海藻草類
産卵
稚魚幼魚
移
(例)
・事業実施河川は、土
砂供給量が大きい。
・取水量の多い事業。
・対象干潟が開けた水
域に位置し、水質が良
好。
①地形へ
の変化
Ⅰ.干潟
の成因の
変化
底生藻類
植物プランクトン
移
産卵
成魚
アサリ
浮遊幼生
海 域
稚貝
沿岸流
稚貝
凡 例
重要度大: 重要度中:
重要度小:
重要な予測・
評価内容の選
定(重要度に
より大・中・小
に分ける)
波浪
浮遊幼生
他の干潟
アサリ
《干潟の生物生息機能・生物生産機能》
水
の
質
変
・
化
底
質
高潮帯
干潟
ダム・堰の供用
有機物・栄養塩
汽水
淡水
前置層
中潮帯
砂・泥
有機物
栄養塩
河 川
Ⅰ.ダム・堰事業計画の特性
①事業規模、②施設の位置
③環境保全対策 等
Ⅱ.対象干潟の地域特性
①沿岸流、波浪の状況
②重要な生物等の生物生息情報
③当該水域における干潟の位置
付け、歴史的な背景、目指す姿
④漁業等の干潟の利用状況
⑤干潟の成因
⑥・・・・・・
移動
の干
変潟
化面
積
低潮帯
侵食・流出
動
的
平
衡
土砂
バランス
が壊れる
供 給 (流 量 )
移送・供給
干 潟
潮下帯
鳥 類
シギ・チドリ類
カモメ類等
Ⅲ.水質(塩分)の変化
バクテリア
巻貝
ウミニナ
二枚貝類
アサリ等
海水
前置斜面
有機物
栄養塩
土砂
海 域
《干潟の成因》
岩
底生動物
魚 類
鳥 類
砂泥
重要種
⑤物質循環
(浄 化 )へ の
⑥・・・
・
③典型種へ
の影響
④産卵育生
場への影響
②上位種へ
の影響
①重要種へ
の影響
Ⅱ.干潟の地形変化
③典型種へ
の影響
②上位種へ
の影響
①重要種へ
の影響
⑥・・・
・
⑤物質循環
(浄 化 )へ の
④産卵育生
場への影響
Ⅲ.水質(塩分)の変化
泥
塩性植物
後背湿地
移動
間接的な影響要因
直接的な影響要因
食物連鎖
選定した影響評価項目
前置層
バクテリア
生 物
物 理 ・化 学 的
移 動
動物プランクトン
砂
干 潟
影響
要因
環境
要素
凡 例
場
図4-6-5【ステップ2、3】事業が干潟に及ぼす影響の整理模式図と影響評価項目の選定【参考図】例2:ダム・堰事業
①地形へ
の影響
①重要種へ
の影響
河 川
人為的負荷
影響内容の想定
デトリタス
底生藻類
植 物 プラン ク トン
動 物 プラン ク トン
魚 類 (スズキ等)
有機物
栄養塩
Ⅱ.干潟の地形変化
有機物
栄養塩
Ⅰ.干潟
の成因の
変化
生物の
排泄物・
死骸
沿岸流・潮汐
系外
《干潟の物質循環機能》
ダム・堰の存在により、土砂流出
量が減少し、干潟への土砂供給量
が減少することが想定される。
ダム・堰の供用に伴い取水され、
河川流量が減少し、干潟の水の塩
分が高くなることが想定される。
流
入
- 80 -
⑦物質循環(浄化)
への影響
⑥産卵育生場への
影響
⑤典型種への影響
④上位種への影響
③重要種への影響
②水質・底質へ
の影響
①地形への影響
(漂砂)
選 定 した影 響 評 価 項 目
(選 定 項 目 )
②対象生物の
生活史
①対象生物の
生態・生理
①植物プランクトン量
②動物プランクトン量
③水質(栄養塩、有機物、DO)
④デトリタス
⑤底生藻類量
⑥底生動物量(濾過食者、堆積物食者)
⑥・・・・
①既存資料文献調査
②現地調査
・必要な情報毎に生息環境に応じ
た調査時期、調査頻度、調査方法
を選定
①既存資料文献調査
②現地調査
・各調査項目毎に調査時期、調査頻度、
調査方法を選定
必要な情報の選定
【動物】
①鳥類調査、②魚類調査、③底生動
物調査、④動物プランクトン調査
⑤卵稚仔、⑥バクテリア調査、⑦哺
乳類調査、⑧昆虫調査 等
【植物】
①塩性植物、②海藻草類、③底生藻
類調査、④植物プランクトン調査
等
①既存資料文献調査
②現地踏査
【干潟の生息環境区分】
①底質(泥・砂泥・砂・礫・岩)
②冠水時間(岸沖方向)
③澪・潮溜まり
④塩分・・・・・
①既存資料文献調査
②現地調査
・必要な情報毎に調査時期、
調査頻度、調査方法を選定
①既存資料文献調査
②現地調査
・必要な情報毎に調査時期、
調査頻度、調査方法を選定
①干潟の生息環境区分毎の生物生
息状況の把握
選定した予測方法に必要な予測条件、パラ
メーターの情報を得る。
④産卵育生場
③典型種
②上位種
①重要種
①水深
②潮流
③水質
④底質
⑤波浪(波高・周期)
⑥・・・・
選定した予測手法に必要な予測条件、パラ
メーターの情報を得る。
①水深
②波浪(波高・周期)
③潮流
④粒土組成
⑤・・・・
選定した予測手法に必要な予測条件、パラ
メーターの情報を得る。
調査手法
図4-6-6 【ステップ4】影響評価項目、調査・予測手法の選定(参考図)
定 量 予 測
①低次元生態系モデル
②浅海域生態系モデル
③・・・・・・・・・・・
定 性 予 測
定 量 予 測
①HEP
②JHGM
③・・・・・・・
②生息環境の変化
(水質・底質等)
①生息場の地形・
面積変化
定性予測
①移流拡散モデル
②・・・・・・
定 量 予 測
定 性 予 測
①汀線変化モデル(海浜流の計算が必要)
②水深変化モデル(海浜流の計算が必要)
定 量 予 測
定 性 予 測
予測手法
(3)干潟生態系における環境要素と影響要因
当該事業の影響要因が影響を及ぼしうる環境要素と、環境要素の変化に伴って生じる
干潟生態系への影響は、個々の事業や干潟により異なるため、事業特性と当該干潟の地
域特性を十分把握し、干潟生態系へ及ぼされる影響を把握することが必要である。
環境影響評価法に基づく基本的事項では「対象事業の種類ごとの一般的な事業の内容
を明らかにするとともに、この内容を踏まえつつ、別表に掲げる影響要因の細区分の内
容を規定し、影響要因の細区分ごとに当該影響要因によって影響を受けるおそれのある
環境要素の細区分(
「参考項目」
)を明らかにするものとする。
」としている。これは、
事業者自らの創意工夫を活かし、事業特性や地域特性に応じた効果的な環境アセスメン
トが行われることを明確にする規定である。
干潟生態系に影響を及ぼすおそれのある影響要因について網羅的に整理し、表4-6
-1に別表の参考例として示す。なお、本表は、環境影響評価法における特定の対象事
業を想定したものではない。また、表中の備考欄には、環境要素の変化により影響を受
ける主な干潟生態系の例を示した。
干潟生態系における影響要因によって影響を受けるおそれのある環境要素の検討手
順は、前述した図4-6-2~6に示したとおりである。これらの検討結果より、別表
を作成し、事業の影響要因によって影響を受けるおそれのある環境要素を明らかにする。
参考例として、図4-6-4~5に示した「事業が干潟に及ぼす影響の整理模式図と
影響評価項目の選定【参考図】例1:埋立事業」及び「事業が干潟に及ぼす影響の整理
模式図と影響評価項目の選定【参考図】例2:ダム・堰事業」で検討した結果をもとに
作成した、影響要因と環境要素との関連を表4-6-2、表4-6-3に示す。
- 81 -
表4-6-1 干潟生態系と関連する影響要因と環境要素との関連(参考例)
影響要因の区分
工 事
堤
防
及
び
護
岸
の
工
事
細区分
環境要素の区分
埋
立
て
の
工
事
浚
渫
工
事
河
口
域
で
の
橋
梁
工
事
河
口
域
で
の
河
道
掘
削
河
川
改
修
工
事
存在・供用
海
砂
の
採
取
建
設
機
械
の
稼
働
細区分
大気質
大気環境
騒 音
振 動
粉じん
● ●
資
材
搬
入
車
両
・
船
舶
の
通
行
埋
立
地
・
干
拓
地
の
存
在
堤
防
・
護
岸
・
突
堤
・
離
岸
堤
等
の
存
在
航
路
・
泊
地
の
存
在
ダ
ム
、
堰
の
存
在
、
供
用
河
口
域
で
の
橋
梁
の
存
在
施
設
の
利
用
に
よ
る
排
水
の
排
出
備考
レ
ク
リ
エ
|
シ
ョ
ン
施
設
の
利
用
● ●
影
響
を
受
け
る
主
な
干
潟
生
態
系
鳥類 等
窒素酸化物
建設作業騒音
● ● ● ● ●
● ●
道路交通騒音
鳥類 等
●
建設作業振動
● ● ● ● ●
鳥類 等
● ●
道路交通振動
鳥類・魚類 等
●
鳥類・魚類 等
悪 臭
土砂による濁り
● ● ● ● ●
●
塩分の変化
水 質
環境の自然的
構成要素の良
好な状態の保
持
水 溶存酸素量(DO)
の
有機物
汚
れ 栄養塩類
○
粒度組成の変化
水環境
底 質
河川流量
地下水
海象
土壌環境
・
その他の
環境
底 酸化還元電位
質
の 有機物
汚
れ 栄養塩類
動 物
●
干潟生物全般
○ ○ ○ ○
●
干潟生物全般
○ ○ ○ ○
●
干潟生物全般
○ ○ ○
底生動物 等
○
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
○ ○ ○ ○
○
干潟生物全般
底生動物 等
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
○ ○ ○ ○
○
底生動物 等
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
○ ○ ○ ○
○
底生動物 等
淡水の流入量の変化
●
湧水量の変化
干潟生物全般
○ ○
塩分・湿性植物
潮汐流の変化
○ ○ ○
○ ● ●
○
地形・浮遊幼生
海浜流の変化
○ ○ ○
○ ● ●
○
地形・浮遊幼生
波浪の変化
○ ○ ○
○ ●
○
干潟地形・成因
● ○ ●
● ○ ○ ○ ○
干潟地形・成因
● ○
干潟地形・成因
○ ○ ● ● ○
干潟地形・成因
干潟面の地盤沈下
土砂供給量の変化
● ○
背後地湿地植生・海岸植生と重要な
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
種
藻場と重要な種
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
干潟を特徴づける重要な種
● ○ ○ ○ ○ ○ ○ 生物生息機能
● ○ ○ ○ ○ ○ ○ 生物生息機能
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ● ○ ○ ○ ○ ○ ○ 干潟生物全般
上位性(鳥類、水産高次魚介類な
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ● ○ ○ ○ ○ ○ ● 生態系の注目種
ど)
典型性(代表種、主要水産魚介
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ● ○ ○ ○ ○ ○ ● 生態系の注目種
類、潮干狩り生物など)
生物の多様性
の確保及び自
然環境の体系
的保全
生
物 特殊性(重要種など)
生態系
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ● ○ ○ ○ ○ ○ ● 生態系の注目種
群集構造の変化
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ● ○ ○ ○ ○ ○ ●
生物移動経路の変化
景 観
環境への負荷
○ ○ ○
土 壌
土砂供給
植 物
人と自然との豊
かな触れ合い
干潟生物全般
●
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
地形・地質 干潟の地形の変化
地 盤
○
●
○ ○ ○ ●
触れ合い活動の場
○ ○
● ● ● ○ ● ○
干潟の生物生息機能
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ● ○ ○ ○ ○ ○ ● 生態系全般
干潟の物質循環機能
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ● ○ ○ ○ ○ ○
干潟の生物生産機能
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ● ○ ○ ○ ○ ○ ● 生態系全般
干潟の景観形成機能
● ○ ○ ○ ○ ○
干
潟
の 散策、潮干狩り、環境学習、環境
親 保全活動、科学研究フィールド
水 など
機
能
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ● ○ ○ ○ ○ ○
生態系全般
景観形成機能
親水機能
廃棄物等
温室効果ガス等
注:●印は直接的影響要因、○印は間接的影響要因
は長期的な影響
は短期的な影響
注:本表は、環境影響評価法における特定の対象事業を想定したものではなく、干潟生態系に影響を及
ぼすおそれのある影響要因について網羅的に整理したものである。
- 82 -
表4-6-2 事業が干潟に及ぼす影響要因と
環境要素との関連(参考例①:埋立事業)
影響要因の区分
細区分
環境要素の区分
工事
堤 埋
防 立
及 て
び の
護 工
岸 事
の
工
事
細区分
大気質
大気環境
騒 音
振 動
粉じん
存在
埋 埋
立 立
地 地
に ・
よ 干
る 拓
干 地
潟 の
の 存
消 在
失
備考
影
響
を
受
け
る
主
な
干
潟
生
態
系
●
●
鳥類 等
●
●
鳥類 等
●
●
鳥類・魚類 等
窒素酸化物
建設作業騒音
道路交通騒音
建設作業振動
鳥類 等
道路交通振動
鳥類・魚類 等
悪 臭
土砂による濁り
水 質
環境の自然的構成
要素の良好な状態
の保持
水環境
底 質
地下水
海象
土壌環境
・
その他の
環境
塩分の変化
水 溶存酸素量(DO)
の
有機物
汚
れ 栄養塩類
粒度組成の変化
底
酸化還元電位
質
の 有機物
汚
れ 栄養塩類
湧水量の変化
干潟生物全般
○
○ 干潟生物全般
○
○ 干潟生物全般
○
○ 干潟生物全般
○
○ 干潟生物全般
○
○
○
○ 底生動物 等
○
○
○
○ 底生動物 等
○
○
○
○ 底生動物 等
○
○
○
○ 底生動物 等
○
○ 塩分・湿性植物
潮汐流の変化
○
○ 地形・浮遊幼生
海浜流の変化
○
○ 地形・浮遊幼生
波浪の変化
○
○ 干潟地形・成因
●
● 干潟地形・成因
● 干潟地形・成因
土 壌
土砂供給
動 物
生物の多様性の確
保及び自然環境の
体系的保全
生態系
土砂供給量の変化
背後地湿地植生・海岸植生と重要な
○
種
藻場と重要な種
○
干潟を特徴づける重要な種
上位性(鳥類、水産高次魚介類な
ど)
典 型 性 ( 代 表 種 、 主要 水産 魚介
生 類、潮干狩り生物など)
物 特殊性(重要種、人気生物など)
群集構造の変化
生物移動経路の変化
干潟の生物生息機能
干潟の物質循環機能
干潟の生物生産機能
景 観
環境への負荷
●
地形・地質 干潟の地形の変化
干潟面の地盤沈下
地 盤
植 物
人と自然との
豊かな触れ合い
●
触れ合い活動の場
○ 干潟地形・成因
○
●
● 生物生息機能
● 生物生息機能
○
●
○
○
●
● 干潟生物全般
○
○
●
● 生態系の注目種
○
○
●
● 生態系の注目種
○
○
●
● 生態系の注目種
○
○
●
●
●
○
○
●
● 生態系全般
○
○
●
● 生態系全般
○
○
●
● 生態系全般
●
● 景観形成機能
●
● 親水機能
干潟の景観形成機能
干
潟
の
散策、潮干狩り、環境学習、環境保全
親
水 活動、科学研究フィールドなど
機
能
●
○
○
廃棄物等
温室効果ガス等
注:●印は直接的影響要因、○印は間接的影響要因、 は長期的な影響、 は短期的な影響
- 83 -
表4-6-2 事業が干潟に及ぼす影響要因と
環境要素との関連(参考例②:ダム・堰事業)
細区分
堰
の
工
事
工事
護
岸
の
工
事
(
河
口 河
付 口
近 付
近
環境要素の区分
細区分
存在・供用
ダ 取
ム 水
・
堰
の
存
河 在
口
付
近
掘
削
の
工
事
( (
影響要因の区分
)
) )
大気質
大気環境
騒 音
振 動
粉じん
備考
影
響
を
受
け
る
主
な
干
潟
生
態
系
●
●
鳥類 等
●
●
●
鳥類 等
●
●
●
鳥類・魚類 等
窒素酸化物
建設作業騒音
道路交通騒音
鳥類 等
建設作業振動
道路交通振動
鳥類・魚類 等
悪 臭
土砂による濁り
水 質
環境の自然
的構成要素
の良好な状
態の保持
水環境
底 質
河川流量
地下水
海象
土壌環境
・
その他の環
境
塩分の変化
水 溶存酸素量(DO)
の
有機物
汚
れ 栄養塩類
粒度組成の変化
底 酸化還元電位
質
の 有機物
汚
れ 栄養塩類
●
●
●
干潟生物全般
●
○
干潟生物全般
干潟生物全般
○
○
○
○
干潟生物全般
干潟生物全般
○
○
○
○
○
底生動物 等
○
○
○
○
○
底生動物 等
○
○
○
○
○
底生動物 等
○
○
○
○
淡水の流入量の変化
○
底生動物 等
●
干潟生物全般
湧水量の変化
塩分・湿性植物
潮汐流の変化
○
地形・浮遊幼生
海浜流の変化
○
地形・浮遊幼生
波浪の変化
○
地形・地質 干潟の地形の変化
干潟面の地盤沈下
地 盤
●
干潟地形・成因
○
干潟地形・成因
干潟地形・成因
土 壌
土砂供給
植 物
動 物
生物の多様
性の確保及
び自然環境
の体系的保
全
生態系
土砂供給量の変化
背後地湿地植生・海岸植生と重要な
○
種
藻場と重要な種
○
○
○
干潟を特徴づける重要な種
○
上位性(鳥類、水産高次魚介類な
○
ど)
典型性(代表種、主要水産魚介
○
生 類、潮干狩り生物など)
物
景 観
触れ合い活動の場
●
○
干潟地形・成因
○
○
○
生物生息機能
○
○
○
生物生息機能
○
○
○
○
干潟生物全般
○
○
○
○
生態系の注目種
○
○
○
○
生態系の注目種
生態系の注目種
特殊性(重要種、人気生物など)
○
○
○
○
○
群集構造の変化
○
○
○
○
○
生物移動経路の変化
干潟の生物生息機能
○
○
○
○
○
○
○
生態系全般
○
○
○
○
○
生態系全般
○
○
○
○
○
生態系全般
○
○
景観形成機能
○
○
親水機能
干潟の物質循環機能
干潟の生物生産機能
人と自然と
の豊かな触
れ合い
●
干潟の景観形成機能
干
潟
の
散策、潮干狩り、環境学習、環境保
親
全活動、科学研究フィールドなど
水
機
能
○
○
○
環境への負 廃棄物等
荷
温室効果ガス等
注:●印は直接的影響要因、○印は間接的影響要因、 は長期的な影響、 は短期的な影響
- 84 -
4-7 調査・予測手法
4-7-1 調査手法(原案)
(1)総 論
環境影響評価法に基づく基本的事項では、選定した項目ごとに調査を以下のように行
うものとしている。
調査は、選定項目について適切に予測及び評価を行うために必要な程度において、選定項目
に係る環境要素の状況に関する情報並びに調査の対象となる地域の範囲(以下「調査地域」と
いう。
)の気象、水象等の自然条件及び人口、産業、土地又は水域利用等の社会条件に関する
情報を、国、地方公共団体等が有する既存の資料等の収集、専門家等からの科学的知見の収集、
現地調査・踏査等の方法により収集し、その結果を整理し、及び解析することにより行うもの
とする。
①「植物」及び「動物」に区分される選定項目については、陸生及び水生の動植物に関し、生
息・生育種及び植生の調査を通じて抽出される重要種の分布、生息・生育状況及び重要な群落
の分布状況並びに動物の集団繁殖地等注目すべき生息地の分布状況について調査し、これらに
対する影響の程度を把握するものとする。
②「生態系」に区分される選定項目については、地域を特徴づける生態系に関し、①の調査結
果等により概括的に把握される生態系の特性に応じて、生態系の上位に位置するという上位
性、当該生態系の特徴をよく現すという典型性及び特殊な環境等を指標するという特殊性の視
点から、注目される生物種等を複数選び、これらの生態、他の生物種との相互関係及び生息・
生育環境の状態を調査し、これらに対する影響の程度を把握する方法その他の適切に生態系へ
の影響を把握する方法によるものとする。
(「第二 環境影響評価項目等選定指針に関する基本的事項」
、一の(4)及び二の(2)より抜粋)
干潟生態系の環境影響評価に係る調査は、
「4-6 環境影響評価の項目の選定(p72 参
照)
」で示した手順により選定した項目ごとに予測・評価を的確に行うために必要とな
る精度が確保されるように留意しつつ、収集すべき情報について調査・測定を実施する。
また、干潟生態系を構成する生物の現状(上位種・典型種・特殊種等の注目種・群集、
重要種とその生息・生育環境)については、概況調査からの現状整理を現地調査によっ
て補足・裏付けしていくことが重要であり、そのために必要な調査・測定をあわせて実
施する必要がある。
干潟生態系の調査では、主体として干潟の成因(干潟の形成等)と注目種・群集、重
要種に関する調査を行うことになるため、干潟の成因に関連する地形(漂砂等)、注目
種・群集、重要種の生態及び他の生物との関係(食物連鎖:物質循環)や干潟のマイク
ロハビタットとの関係、干潟に生息する時期(生活史)が調査の中心となる。
なお、干潟の場合は生物種の上位性、典型性、特殊性をどのように定義するかが重要
である。干潟生態系は開放系であり、上位種である鳥類や魚類は広い開放系の空間の中
で、一時的・部分的に干潟を利用しているものが多い。典型種は、干潟の機能を支えて
いるものであり、干潟の生物では特に重要である。特殊種は、いわゆる重要種(貴重種)
である。これらのことを踏まえて、調査目的に応じて調査する情報の何を中心に調査す
るか検討する必要がある。
- 85 -
調査は、既存の文献資料や専門家等の科学的知見の収集、現地調査による方法で行い、
その結果を整理・解析する。
調査手法の選定に当たっての留意事項は、以下のとおりである。
1)調査地域及び調査地点
a)調査地域
環境影響評価法に基づく基本的事項では、調査地域の設定について以下のように示さ
れている。
【調査地域】
調査地域の設定に当たっては、調査対象となる情報の特性、事業特性及び地域特性を勘案し、
対象事業の実施により環境の状態が一定程度以上変化する範囲を含む地域又は環境が直接改変
を受ける範囲及びその周辺区域等とすること。
(「五 調査、予測及び評価の手法の選定に関する事項」
、(1)のイの抜粋)
調査地域の範囲は、対象とする事業の内容・規模及び地域の特性や調査する項目によ
り異なる。
海生生物の調査地域の範囲は、間接的な影響として生息環境である水域の水質が対象
事業の実施により影響が及ぶと想定される範囲と同一の範囲とすることが多く、事業の
内容、規模や地域特性にもよるが、発電所建設事業等では、事業区域の周辺1km の範囲
内を設定することが多い。
干潟生態系の構成要素や機能に係る調査地域は、対象事業により影響が広範に及ぶと
想定される水質の調査範囲と同一として設定するのが一般的であると考えられる。しか
し、干潟生態系の成因に係る項目は、土砂の供給・移送を考えると、対象事業区域より
遠方の干潟でも、土砂の供給・移送を遮断するなどの影響要因がある事業は、長期的に
干潟への一定程度以上の変化を生じさせる可能性がある。したがって、土砂の供給・移
送に係る項目について、対象事業が土砂の供給・移送に係る影響要因を有する場合は、
より広い範囲を調査地域として検討する必要があると考えられる。
また、干潟に生息する貝類や甲殻類等多くの生物は、干潟で卵から成体まで一生を送
るのではなく、幼生期は湾内等の水域で浮遊して生活し、必ずしも元の干潟に戻るとは
限らない。貴重種や一般種の再生産(繁殖・幼生拡散)から考えると、湾内等同一の水
域にある干潟間のネットワークは重要であり、より広い範囲を調査地域として検討とす
る必要がある。
- 86 -
b)調査地点
環境影響評価法に基づく基本的事項では、調査地点の設定について以下のように示さ
れている。
【調査の地点】
調査地域内における調査の地点の設定に当たっては、選定項目の特性に応じて把握すべき情報
の内容及び特に影響を受けるおそれがある対象の状況を踏まえ、地域を代表する地点その他の情
報の収集等に適切かつ効果的な地点が設定されるものとすること。
(「五 調査、予測及び評価の手法の選定に関する事項」
、(1)のウの抜粋)
一見一様に見える干潟の環境は、複雑な構造を有していることを理解し、調査の目的
や必要とする情報の内容に応じた調査測線や地点を設定する必要がある。干潟における
調査地点の設定は、グリッドや測線を設け画一的に行う事例が多くみられるが、生物や
底質等の項目については、そのような方法では干潟を代表する地点とはならない場合が
多い。以下に、調査地点の設定における留意事項を示す。
① 干潟は複雑な構造を有しているため、どこをどのように調査するかを決めることは
容易ではない。干潟の環境が一様であると考えたり、干潟の全体像が分からないまま、
単にアプローチが簡単であるなどの理由で調査がしやすい場所で調査を行うことが
ある。干潟を調査するときには、干潟の全体像の把握方法や測点の設定方法が重要で
ある。
② 対象とする干潟がどれくらいの大きさで、どこにどのように砂洲、泥質・砂質、澪
筋等が分布しているかなどの全体像の把握を最初に行うことが大切である。全体像を
把握する効果的な方法の一つとして空中写真の判読がある。
③ 特に生物多様性の調査では、マイクロハビタット(凹凸地、砂利・岩場、澪筋、潮
溜まり等)に注意して調査する必要がある。今までのグリッドや測線で調査する方法
だと、測線と測線の間にマイクロハビタットがあると、そこにしか生息しない生物は、
確認されないという結果になる。しかし、空中写真で判読して、ここにマイクロハビ
タットがありそうだと地形判読し、調査測線や地点を設定することが大切である。
④ 空中写真は垂直写真の他に、斜め写真(カメラを地面に垂直に向けて撮影したもの
が垂直写真、傾けて撮影したものが斜め写真)も干潟を含めた背後地の状況や波の方
向等を把握するのにわかりやすい場合もあり、必要に応じて活用すると良い。
⑤ 地域の住民、漁業者、NPO等から情報を提供していただき、
「ここに貴重種がい
る」
、
「ここにシギ・チドリが集まる」という情報を活用するのも効果的な方法の一つ
である。
- 87 -
2)調査期間及び調査時期
環境影響評価法に基づく基本的事項では、調査期間及び調査時期の設定について以下
のように示されている。
【調査の期間及び時期】
調査の期間及び時期の設定に当たっては、選定項目の特性に応じて把握すべき情報の内容、地
域の気象又は水象等の特性、社会的状況等に応じ、適切かつ効果的な期間及び時期が設定される
ものとすること。この場合において、季節の変動を把握する必要がある調査対象については、こ
れが適切に把握できる調査期間が確保されるものとするとともに、年間を通じた調査について
は、必要に応じて観測結果の変動が少ないことが想定される時期に開始されるものとすること。
また、既存の長期間の観測結果が存在しており、かつ、現地調査を行う場合には、当該観測結
果と現地調査により得られた結果とが対照されるものとすること。
(「五 調査、予測及び評価の手法の選定に関する事項」
、(1)のエの抜粋)
選定した項目に応じて、その調査すべき情報によって調査する期間、時期が異なり、
季節によって変動するものもある。さらに、干潟では、潮の満ち引きによる干出時と冠
水時では、環境が大きく変化する。
特に、生物は干潟での生活・利用パターンが様々であり、調査対象とする生物それぞ
れの特色を把握した上で、適切かつ効果的に調査できる期間、時期を設定する必要があ
る。
例えば、鳥類の生息状況を把握する場合、種類によって干潟での生息時期(飛来時期
等)が異なり、周年を通じて調査しないと鳥類相を把握できない。また、シギ・チドリ
類やカモ類等は、干出時と冠水時では確認できる分布状況が異なる。
海藻草類の消長時期は種類により異なり、ノリ類等の海藻の多くは冬に繁茂するが、
アオサ類は春から夏に繁茂する。また、海草のアマモ類は春から夏にかけて繁茂する。
水中に生活する魚類、プランクトン等は、干潟には冠水時に出現するので、潮時や月
齢に留意して調査時間帯を設定する必要がある。
底生動物は、干潟が広く干出する大潮時の干潮時に調査を行った方が、干潟表面に生
息する生物や干潟の底質・微地形の状況を観察しながら詳細な調査をすることが可能で
ある。
このように、干潟の生物を調査するには、生物の生活史を理解しておくことが大切で
ある(
「表4-5-2 生物が干潟で確認できる時期(整理参考例)
」p71 参照)
なお、最近は気象条件の変動等によって、必ずしも生物の出現時期が周知の時期に出
現しないことがあるので、調査実施時に現地の状況等の情報を収集し、適切な調査時期
に変更することも必要である。
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3)調査法
水質や大気、騒音・振動等の物理化学的な項目の調査については、公定法があるが、
干潟生態系の調査には決められた方法はない。既往の技術指針等に示されている調査法
の事例や過去の類似事業の環境影響評価書に書かれた調査法は、あくまでも参考資料で
あり、調査対象とする干潟の特性に応じた適切な調査法を選定し、採集道具を工夫する
必要がある。調査法の選定に当たっての留意点を以下に示す。
① 現地調査法は、選定項目と調査すべき情報及び調査地域(あるいは調査地点)の
状況(水深、土質、波浪、流速等)を勘案し、必要とするデータが取得できる方法を
選定する必要がある。一つの調査法で必要とするデータが得られない場合は複数の
調査法を用いることも必要である。
② 一つの調査法では、精度や範囲に限界があり、地域の住民等が注目している生物
種が確認されない場合がある。いろいろな方法を用いて調査すると、それまでと違
う結果が出てきた事例がある。事前に既存の資料、地域の住民・漁業者・NPO等
への聞き取り調査、
事前踏査等によりどのような生物が生息しているのかを把握し、
対象とする干潟を特徴づける生物が把握できるような調査法を選定することが大切
である。
③ 調査する情報(鳥類、魚類、底生動物など)の調査法には種々の方法がある。それ
ぞれの調査法には、調査する情報の「何が調べられる」などの目的があり、得られ
た結果を整理・分析する上で、その調査法の利点・限界等を明確にしておくことが
大切である。
④ 定性調査は干潟全体を総合的に見る方法で、種の多様性や重要種(貴重種)を把握
する調査である。定量調査は、生物生産機能や物質循環機能など生物の現存量を把
握する調査である。
調査目的により両方を組み合わせて行うなど工夫が必要である。
⑤ 生物を採集する道具は、
沿岸海洋で用いられている一般的な道具(プランクトンネ
ット、採泥器、漁具等)があるが、干潟では調査時間帯(干出時と冠水時)、調査場
所の地形・底質の状況に応じて採集道具の形状や大きさ等を調査目的により工夫す
る必要がある。
⑥ 水質や底質の分析は、環境基準等に定められた分析方法があり、分析結果は環境
計量士の関与により一定の精度が保証されている。しかし、生物調査では、例えば、
底生動物調査においては、採集器、採集面積、採集深さ等の条件により調査結果は
異なり、さらに生物の同定者の経験、同定能力、得意分野によっても結果は異なっ
てくる。また、同定者に対する資格等の要件はなく、結果の精度を保証する担保性
が乏しい。このため、調査結果の精度が推定できるよう、調査結果には採集年月日、
時間、採集法(採集器、採集面積、採集深さ等)や調査員及び同定者の氏名、所属、
連絡先、経験等を表示することが必要である。
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⑦ 種の同定の再現性を図るため、重要種(貴重種)の生物は、写真撮影が可能なもの
はできる限りその種の特徴がわかる写真を撮影記録したり、種の同定のために採集
した試料は、標本として保管・管理をすることが不可欠である。なお、試料の保管
については、保管する場所、期間や費用の問題が発生するので、責任と費用負担等
についても検討が必要となる。
【採集データラベルの例】
○○○○((株)○○○○○)
採集データラベルには、水系名、河川名、地区名、地
区番号、採集地の地名、緯度・経度、採集年月日、採集
者名を表記する。ラベルサイズは、スクリューバイアル
用を縦 15mm×横 35mm とし、広口瓶用を縦 30mm×横
50mm とする。
【同定ラベルの例】
○○○○((株)○○○○○)
同定ラベルには、重要種標本 No.、学名、和名、科名、
同定年月日、同定者名を表記する。ラベルサイズは、ス
クリューバイアル用を縦 15mm×横 35mm とし、広口瓶
用を縦 30mm×横 50mm とする。
○○○○
((株)○○○○)
□□□□
((株)△△△△)
○○○○
((株)○○○○)
□□□□
□□□□
((株)
((株)△△△△)
△△△△△)
○○○○
((株)○○○○)
□□□□
((株)△△△△)
図4-7-1 標本等の調査員、同定者の氏名等の記載例
(出典:
「平成 18 年度版 河川水辺の国勢調査基本調査マニュアル[河川版](底生動物調査編)」国土交通省)
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4)調査結果の整理、解析
環境影響評価法に基づく基本的事項では、調査の整理の方法について以下のように示
されている。
【調査によって得られる情報の整理の方法】
調査によって得られる情報は、当該情報が記載されていた文献名、当該情報を得るために行わ
れた調査の前提条件、調査地域等の設定の根拠、調査の日時等について、当該情報の出自及びそ
の妥当性を明らかにできるように整理されるものとすること。
また、希少生物の生息・生育に関する情報については、必要に応じ公開に当たって種及び場所
を特定できない形で整理する等の配慮が行われるものとすること。
(「五 調査、予測及び評価の手法の選定に関する事項」
、(1)のオの抜粋)
調査結果の整理、解析に当たっての留意事項は、以下のとおりである。
① 調査結果の整理に当たっては、結果の精度を保証する担保性を持たせるために、調
査結果の精度を把握できるよう、調査結果には採集年月日、時間、採集法(採集器、
採集面積、採集深さ等)や調査員及び同定者の氏名、所属、連絡先、経験等を表示す
ることが必要である。
② 調査結果が専門的かつ膨大な情報量となり、
「分かりにくい環境アセスメント図書」
になりがちであるが、地域住民や専門家等と協働で環境アセスメントを進めていく
ためには、地域住民等が理解しやすい情報提供・共有の手法として、図やイラスト
等を活用して視覚的に分かりやすく表現した「環境情報図」の作成などの工夫をす
ることが必要である。
③ 得られた結果が、
スコーピング段階で当初想定していた干潟生態系の特性と大幅に
異なる場合等は、影響評価項目の選定を見直す必要がある。
④ 得られた結果を基に調査目的に対応した解析を行い当該干潟生態系の特性を明ら
かにする。
- 91 -
(2)各 論
各選定項目及び調査する情報の調査手法については、選定項目及び調査する情報の特
徴や① 調査地域及び調査地点、② 調査期間及び調査時期、③ 調査法等の選定に際し
ての考え方や留意点を示す。
なお、具体的な調査法については参考例として資料編に示す。
1)干潟の地形
干潟の地形は、地盤の大小の凹凸や澪筋、潮溜まりなどの微地形が分布し、非常に多
様な地形となっている。また、干潟の地形勾配は非常に緩やかであり、潮の満ち引きに
より干出時に微地形の湿潤・乾燥の度合いが異なる。このように干潟は、多様な環境が
あり、それぞれの環境に応じて多種多様な生物の生息空間となっている。
したがって、干潟の地形を把握することは、現状の干潟生態系の特性の解析や、生物
調査の調査地点を設定する上で重要な項目である。
また、干潟の地形は、河川からの土砂供給と波浪、沿岸流による土砂の移送・供給、
侵食により形成されている。こうした干潟の成因を把握することは、事業の実施に伴う
干潟生態系への影響の予測を行う上で重要である。
a)調査地域及び調査地点
ァ)現状の干潟地形
調査地域は、対象とする干潟の「干潟生態系」として成立する範囲(潮上帯から前置
層を含む潮下帯)と事業の影響範囲を含む地域とする。
調査地点は、予め既存の深浅測量図や空中写真、現地踏査により微地形を考慮し、岸
沖方向に設定した測線上において微地形を把握できる地点を工夫して設定する。
イ)干潟の地形形成
調査地域は、①沿岸方向
【陸 域】
は、沿岸の土砂移送(漂砂)
干潟
の連続する区間、②岸沖方
干潟
岸
沖
方
向
の
範
囲
向は、干潟の潮上帯から海
底の土砂移送(漂砂)の移動
限界水深までの範囲、③分
土 砂( 漂
砂) の 移
布する土砂の岩石種や鉱物
組成が類似な領域の範囲を
基本として、調査・予測手
法に応じて設定する。
動限界水
深
鉛岸方向の範囲
【海 域】
図4-7-1 地形変化の調査地域参考図
- 92 -
b)調査期間及び調査時期
ァ)現状の干潟地形
調査期間は、干潟地形の季節的変化を把握したい場合は、台風や出水による攪乱を受
ける前後の年2回以上は必要である。
調査時期は、測量方法により異なる。例えば、干潟の低潮帯より上部において海浜測
量により直接測量する場合は、干潟が干出面が大きい大潮時の干潮時に実施した方が、
微地形等を観察しやすい。また、潮下帯より沖側の浅海域において深浅測量で音響測深
(水深約 2.5m以深)をする場合は、波による誤差を軽減するために水深が深くなる大潮
時の満潮時に実施するなどの工夫が必要である。
イ)干潟の地形変化
干潟の地形変化に関する調査ついては、海浜流の解析や蛍光砂の流れの解析による方
法では、潮汐や風、波浪に左右されることから、年間の風配図や月齢等を参考にして大
潮時を含む調査期間及び時期を設定する。例えば、海浜流の場合は、15 昼夜連続観測を
四季に応じて各1回ずつ行う方法や、一昼夜連続観察を月1~2日間ずつ通年行う方法
などがある。
また、漂砂や海浜流には、風や波浪の状況が影響するので、漂砂、海浜流を観測する
時は、風と波浪を観察する必要がある。調査は、対象とする干潟で通年連続観測するな
どの方法がある他、近傍に気象庁や国土交通省等の観測所がある場合は、これらの観測
結果を用いることも可能である。
c)調査法
ァ)現状の干潟地形
干潟とその周辺の地形の測量の方法には、水深に応じて海浜測量と深浅測量がある。
海浜測量とは、前浜と後浜を含む範囲の等高・等深線図を作成する作業をいう。海浜
測量は、海岸線に沿って陸部に基準線を設けて、所定の間隔に測点を設置し、測点ごと
に基準線に対し直角の方向に横断測量を実施して行う。
深浅測量とは、前浜より沖合の浅海域において、水底部の地形を明らかにするため、
水深、測深位置(船位)及び水位(潮位)を測定し、横断面図を作成する作業をいう。
水深の測定は、一般には音響測深機を用いて行う。
イ)干潟の地形変化
干潟を構成する土砂が、波や流れなどの作用によって移動する現象を把握する方法と
既存の深線図や空中写真により汀線等の地形変化を把握する方法がある。
土砂の移動方向や汀線等の地形変化の調査方法としては以下のものがある。調査目的
や予測手法に応じて、これらの方法を単独あるいは組み合わせて行う。
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① 海浜流調査
調査地域の海浜流を測定し、
土砂の移動等を解析する方法である。
海浜流の測定は、
トレーサー追跡法(フロート、染料等を投入し、その軌跡を追跡することにより海浜流
を測定)と流向流速計(電磁流速計や超音波流速計等)を用いて海浜流を測定する方法
がある。前者は、トレーサーを追跡するため一度に調査する範囲に限界がある。後者
は、詳細な海浜流のデータが取れるが、岸沖方向、沿岸方向に複数箇所に流速計を設
置する必要がある。
② 蛍光砂による流れの解析
調査地域の土砂の移動より土砂の移動量を解析する方法である。土砂の移動は、調
査地域の砂を蛍光塗料で染め、海底に投入し、その後底質サンプリングにより、含ま
れている蛍光砂数を解析することにより把握する。
適用に際しては、1回の調査に長時間を要する、泥干潟の場合には蛍光砂に替えて
別のトレーサー(泥粒子に吸着する供給源の河川特有の化学物質など)を検討する必
要がある等の留意点がある。
③ 過去と現在の深浅測量図、空中写真の比較による方法
過去に行われた深浅測量図や空中写真、又は定期的に深浅測量や空撮を行い、海浜
縦断面の特徴や汀線位置を把握して、干潟の地形変化を解析する方法である。
調査地域の既存の深浅測量図がない場合は経年変化図が作成できない。地形変化が
小さい干潟では測量時期の間隔が短いと侵食の傾向が把握しづらいなどの留意点があ
る。
空中写真は、
広域的な汀線変化や漂砂方向の概況を把握するのに適している。
また、
経年的に見ていくと構造物の存在による汀線変化の状況も把握できる。さらに、調査
計画の策定時に空中写真を活用することにより、干潟の微地形を把握でき、調査地点
の設定に参考になる。なお、撮影時の潮位による補正が必要であり、満潮時の空中写
真は利用しにくいことに留意が必要である。
④ 干潟を構成する底質堆積物の粒度分析や重鉱物(輝石、角閃石等)分析のよる解析
干潟の底質の粒度組成や重鉱物分析により、土砂の供給源や堆積した年代等を推定
できる。泥干潟の場合は、重鉱物分析が困難であり、代わりとしては泥粒子に吸着す
る化学物質の分析などが考えられる。
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2)鳥 類
鳥類の多くは、干潟では非定住型動物であり、季節に応じて干潟を利用するシギ・チ
ドリ類やカモ類、採餌に干潟を利用するサギ類などがいる。
干潟における鳥類の位置付けは、食物連鎖の上位種であるが、非定住型動物であるこ
とを理解しておく必要がある。また、干潟という特殊な環境に飛来するシギ・チドリ類
などは特殊種にも位置付けられる。
a)調査地域及び調査地点
調査地域は、
「干潟生態系」として成立する範囲(潮上帯から潮下帯)と事業の影響範
囲を含む地域とする。
調査地点や調査ルートについては、鳥類の重要な生息場や渡来地が必ず把握できるよ
うに設定する他、干潟全体を概ね観察できるように設定する。設定に当たっては、既存
資料、地域のNPOや住民等から得られる情報を有効に活用する。
b)調査期間及び時期
鳥類の生息状況を把握する場合、種類によって干潟での生息時期(飛来時期等)が異
なり、通年に渡って調査しないと鳥類相を正確に把握できない(表4-7-1、表4-
5-2 p71)
。調査時期は、調査対象干潟の既存資料や地域でのヒアリングで得られた
情報を基に適切な時期を設定する。また、シギ・チドリ類やカモ類等は、干出時と冠水
時では確認できる利用・分布状況が異なるので、朝から夕方までを通じた時間で適宜調
査を行うなど配慮する必要がある。
表4-7-1 鳥類の調査時期の参考例
調査時期
早春~初夏
設 定 理 由
留鳥・夏鳥の繁殖が見られる時期
春
春の渡りの時期(シギ・チドリ類等)
秋
秋の渡りの時期(シギ・チドリ類等)
冬
カモ類等の越冬期
c)調査法
鳥類は、干潟では非定住型動物であり、対象干潟での生息種、分布状況、利用形態(採
餌、繁殖、塒、休憩など)を把握することが必要である。
鳥類の現地調査の方法としては、一般に①ラインセンサス法、②定点観察法、③ポイ
ントセンサス法、④任意観察法などがある。干潟では、シギ・チドリ類、カモ類等を対
象に定点観察法が主に用いられているが、調査目的に応じて調査法を単独あるいは組み
合わせるなどして検討する。
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3)魚 類
魚類の多くは鳥類と同様に干潟では非定住型動物であり、干潟を採餌場、産卵場、稚
仔魚の生育場として利用している。魚類は、物質循環機能や生物生産機能を検討する上
では重要な項目となる。また、干潮時でも干潟に生息するムツゴロウ、トビハゼなどの
魚類もおり、特殊性の観点からも注目される種があることに留意が必要である。
a)調査地域及び調査地点
調査地域は、
「干潟生態系」として成立する範囲(潮上帯から潮下帯)と事業の影響範
囲を含む地域とする。
調査地点は、干潟を利用する多くの魚類が、潮汐による上げ潮時に干潟へ入り、下げ
潮時に潮下帯、沖合へと移動すること等を踏まえ、調査対象とする干潟の地形状況(澪
筋、凹地など)を考慮して設定する。
b)調査期間及び時期
魚類の生息状況の季節変化を把握できるように、魚類の生活史(表4-5-2 p71)
を考慮して適切な期間、時期を設定する。
また、海水の移動の大きい大潮時の上げ潮時から下げ潮時に調査を実施するなどの魚
類の生態に留意して、効果的な時間帯に調査を行うなど工夫する。
c)調査法
魚類については、漁具(刺網、投網、地曳網、定置網等)を用いた採集法により調査を
する場合が多く、その他潜水観察法、標本船(干潟及び周辺で操業している漁業者からの
漁獲物の買い上げ等)による方法がある。調査目的及び地域の特性に応じて調査法を単
独あるいは組み合わせるなどして検討する。いずれの調査法も、漁業権との関係から特
別採捕許可の取得、地元の漁業協同組合との調整や協力が不可欠である。
漁具による採集を行う場合、漁具の特徴をよく理解し、対象とする魚類の生態、大き
さを考慮して漁具や目合い、大きさを選定する必要がある。必要に応じて干潟の地形、
水深等により適した漁具を工夫して作成することも必要である。
また、干潟を利用している多くの魚類は、潮の満ち引きにより沖合と干潟を行き来し
ており、魚類の捕獲には、潮の満ち引きを利用して採集するなど工夫が必要である。
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4)底生動物
底生動物は、干潟では定住型動物で、典型種であり、干潟の環境に応じて多種多様な
底生動物が生息している。また、物質循環機能の面からも重要な役割を果たしているな
ど、干潟の生物調査では非常に重要性が高い項目である。
a)調査地域及び調査地点
調査地域は、
「干潟生態系」として成立する範囲(潮上帯から潮下帯)と事業の影響範
囲を含む地域を基本とする。
干潟は、一様な地形ではなく複雑な地形をしており、それに応じて底質も異なる。こ
のような多様な生息環境毎に底生動物も生息する種が異なる。また、底生動物は、干潟
面の干出する時間(岸沖方向)によっても生息する種が異なる。調査地点は、これらの
ことに留意して設定する必要がある。
b)調査期間及び時期
底生動物の干潟での生息状況の季節変化を把握できる適切な期間、時期を設定する。
また、底生動物は、繁殖により卵や幼生を放出する。稚貝、稚エビ、稚ガニなどの幼体
の移入を把握できるように底生動物の生活史を考慮して適切な期間、時期を設定する。
調査時間帯は、干潟の地形等の状況が把握できる大潮時の干潮時に行うことが望まし
い。なお、潮下帯や低潮帯、水深のある澪などで船上より調査を行う場合は、安全に作
業できる時間帯に行うなどの配慮が必要である。
c)調査法
底生動物の調査法は、定量調査と定性調査に大別され、把握しようとする内容に応じ
て適切に検討する。重要種の生息状況や生息する種の多様性を把握する場合には、調査
面積が狭くなる定量調査より、調査面積を広くした定性調査が優先するなどの配慮が必
要である。一方、物質循環機能や生物生産機能に関係する調査では、底生動物の生息量
のオーダー等が把握できる定量調査が必要となる。
干潟表面に生息する底生動物は観察や採集が比較的容易であるが、多くの底生動物は
土中に生息している。これらの底生動物は、泥ごと採集してフルイで選別し採集するこ
とになる。フルイの目合いは一般に1mm 目を使用することが多いが、調査の目的に応じ
て目合いを変える工夫が必要である。例えば、貝類の現存量を調査する時、重量が重要
であれば、重量に影響する大型の個体が確実に採集できるよう5mm 目のフルイを用いて
多くの地点で採集する、あるいはアサリの稚貝の移入量を調査する時は稚貝がフルイ目
から抜け落ちないように 0.5mm より細かい目合いにするなどの工夫をする必要がある。
採集する深さも底生動物の種類により異なることから、既存資料や地域の住民、NP
O、漁業者等からの情報によりどのような底生動物が生息するか予め把握し、採集深さ
- 97 -
を設定する必要がある。
定量採集は、方形枠を用いて一定面積を採集するが、統計的に解析するには、底生動
物の採集は少なくとも1地点につき 0.1m2を3~4箇所程度採集し、それぞれ別々に分
析するのが望ましい。
5)卵・稚仔
干潟は、魚類や底生生物などの産卵・生育場として利用されており、干潟の生物生産
機能や干潟のネットワークを把握する上でも卵稚仔調査は重要である。
a)調査地域及び調査地点
調査地域は、
「干潟生態系」として成立する範囲(潮上帯から潮下帯)と事業の影響範
囲を含む地域とする。
調査地点は、上げ潮時に稚仔が干潟へ入り、下げ潮時に潮下帯、沖合へと移動するこ
とから、調査対象とする干潟の地形状況(澪筋、凹地など)を考慮して設定する。また、
藻場が分布する場合は、産卵場や稚仔が潜んでいることが多いので調査地点に含めるよ
うに留意する。
b)調査期間及び時期
魚類、底生動物と同様に、産卵時期、干潟への稚仔の着生時期など水生動物の生活史
に留意して、季節の変化が把握できる適切な調査期間及び時期を設定する。
調査時間帯は、水深がある程度ないと採集できないので、大潮時の満潮時など潮位に
留意して設定する。
c)調査法
卵・稚仔の採集は、プランクトンネットや小型の曳網、押網を用いた水平曳きによる
採集法やポンプを用いて採水しプランクトンネットで濾す方法などがある。
一般に普及しているプランクトンネットは海洋で用いられるものであり、口径等の間
口の大きさが干潟では利用できないものが多い。干潟の水深にあった間口の大きさに工
夫する必要がある。
ネット等の目合い(0.3mm~3mm 程度)は、採集対象とする卵や稚仔の大きさにより選
定する。
- 98 -
6)動物プランクトン
動物プランクトンは、干潟生態系において魚類、稚魚や底生動物などの餌料として重
要であり、物質循環機能を把握・検討する上では考慮すべき項目の一つである。
a)調査地域及び調査地点
調査地域及び調査地点は、魚類、卵・稚仔と同様である。
b)調査期間及び時期
動物プランクトンは、種類により季節の消長があるので、季節の変化が把握できる適
切な調査期間及び時期を設定する。
調査時間帯は、水深がある程度ないと採集できないので、大潮時の満潮時など潮位に
留意して設定する。
c)調査法
動物プランクトンの採集は、ネット法(目合い 0.1mm~0.3mm)が一般的な方法である。
一般に普及しているプランクトンネットは海洋で用いられるものであり、口径等の間口
の大きさが干潟では利用できないものが多い。干潟の水深にあった間口の大きさに工夫
する必要がある。
7)塩性植物
ヨシ原やマングローブなどの塩性の植物が分布している干潟がある。これらの植生は、
干潟の生物の環境の一つとして重要である。
a)調査地域及び調査地点
調査地域は、
「干潟生態系」として成立する範囲(潮上帯から潮下帯)と事業の影響範
囲を含む地域を基本とする。
調査地点は、空中写真などを用いて、予め植生が分布する範囲を確認し、設定する。
b)調査期間及び時期
植物相の調査は、植物種により開花時期や結実時期などが異なり、種の同定が行える
時期に設定する。
植生図及び群落調査は、植物がよく繁茂している時期に設定する。
c)調査法
植物相の調査は、現地踏査により、目視観察し出現種を確認する。
植生図は、予め空中写真の読みとりにより予察図を作成し、現地踏査により植生区分
- 99 -
を補正し相観植生図を作成するなどの方法がある。
植物群落の構成植物の状況を把握するには、群落ごとに代表地点で行うコドラート調
査や岸沖方向に設けた測線上で行うベルトトランセクト調査などの方法がある。
8)海藻草類
干潟に見られる海藻草類は、アオサ類、ノリ類等の海藻類とアマモ類等の海草類であ
る。海藻類は、胞子により有性生殖を行い、岩、石、貝殻等の基盤に付着している。海
草類は種子により有性生殖を行い砂泥底に根を張って生育している。これらの海藻草類
が、群落を形成している場所が藻場である。干潟では低潮帯から潮下帯に主に分布する。
藻場は、魚類等の産卵、生育場として重要である。
a)調査地域及び調査地点
調査地域は、
「干潟生態系」として成立する範囲(潮上帯から潮下帯)と事業の影響範
囲を含む地域を基本とする。
調査地点は、空中写真などを用いて、予め海藻草類の分布する範囲を確認し、設定す
る。
b)調査期間及び時期
海藻草類は、季節による消長があり、海藻草類の生活史(多くの海藻草類は、春に繁
茂)に留意して繁茂している時期に調査を行う。
c)調査法
海藻草類については、目視観察と坪刈り法が一般的であり、両方を併用する場合が多
い。
9)底生藻類
底生藻類は、干潟表面の土粒子に付着している微小な藻類で、干潟における1次生産
者で、底生動物などの餌料として重要であり、これまで測定例は少ないが、物質循環機
能を検討するにあたり重要な項目である。
a)調査地域及び調査地点
調査地域は、
「干潟生態系」として成立する範囲(潮上帯から潮下帯)と事業の影響範
囲を含む地域を基本とする。
干潟は、一様な地形ではなく複雑な地形をしており、それに応じて底質も異なる。ま
た、岸沖方向によって干出する時間が異なる。調査地点は、これらのことに留意して設
定する必要がある。
- 100 -
b)調査期間及び時期
底生藻類は、種類により季節の消長があるので、季節の変化が把握できる適切に調査
期間及び時期を設定する。
調査時間帯は、干潟の底生藻類の生育状況や地形等の状況が把握できる大潮時の干潮時
に行うことが望ましい。
c)調査法
コドラートにより採集し、分析する方法が一般的である。種の同定や細胞数の計数は、
調査目的によって必要な場合は行うものとし、底生藻類の現存量を把握したい場合は、
クロロフィル量で代用が可能である。
10)植物プランクトン
植物プランクトンは、底生藻類と同様に干潟の1次生産者であり、動物プランクトン
や底生動物の餌料として重要であり、物質循環を検討するにあたっては、重要な項目の
一つである。
a)調査地域及び調査地点
動物プランクトンと同様である。
b)調査期間及び時期
植物プランクトンは、種類により季節の消長があるので、季節の変化が把握できる適
切な調査期間及び時期を設定する。
調査時間帯は、水深がある程度ないと採集できないので、大潮時の満潮時など潮位に留
意して設定する。
c)調査法
植物プランクトンの採集は、採水法が一般的である。採水量は、植物プランクトン量
に応じて1~5L 程度採水し、分析する。種の同定や細胞数の計数については調査目的
により必要な場合は行うものとし、植物プランクトンの現存量を把握する場合は、クロ
ロフィル量で代用が可能である。
- 101 -
11)干潟生態系
a)調査地域及び調査地点
調査地域及び調査地点は、干潟の植物、動物の調査地域及び調査地点と同様である。
b)調査期間及び時期
現地調査は、干潟の植物、動物の調査期間及び時期と同様である。
c)調査法
干潟生態系の調査法は、干潟の植物、動物の現況調査結果を基本とし、既存の文献・
資料、専門家からの科学的知見のヒアリング、現地調査等により実施する。既存の文献・
資料は、極力最新のものを用いる。
具体的には、現況調査結果を整理し、干潟の様々な環境を類型区分する。類型区分ご
とに生息生物から典型種、特殊種を選定する。干潟全体での食物連鎖(物質循環)のフ
ロー図を作成し、上位種を選定する。
選定した注目種(上位種、典型種、特殊種)について、①生理・生態(生活史、生育・
生息条件など)②注目種と他の生物との関係、③注目種の分布、生息量、生息環境の現
状について調査する。
- 102 -
4-7-2 予測手法の検討
予測手法については、
「①総論」
、
「②各論」に分けて検討し記載する。
「①総論」では、干潟生態系の予測に当たっての考え方や留意事項について示す。
「②各論」では、干潟の地形変化や干潟生態系の機能、生物種等に関する具体的な定
量予測手法について、
「モデルの特徴」
、
「適用範囲」
、
「留意点」等について示す。
(1)総 論
環境影響評価法に基づく基本的事項では、選定した項目ごとに予測を以下のように行
うものとしている。
予測は、対象事業の実施により選定項目に係る環境要素に及ぶおそれのある影響の程度につ
いて、工事中及び供用時における環境の状態の変化又は環境への負荷の量について、数理モデ
ルによる数値計算、模型等による実験、既存事例の引用又は解析等の方法により、定量的に把
握することを基本とし、定量的な把握が困難な場合は定性的に把握することにより行うものと
する。
(「第二 環境影響評価項目等選定指針に関する基本的事項」
、一の(5)より抜粋)
予測手法は、干潟の成因や干潟生態系の構造、機能のどの部分への影響を予測の対象
にするのか、どのような注目種・群集(上位種、典型種、特殊種)、重要種(貴重種など)
を対象にするのかを考慮して、地域特性・事業特性を踏まえて、最も適した手法を選定
する。干潟生態系では、注目種・群集、重要種等の生物種以外に、干潟生態系が成り立
っている干潟そのものの地形変化や重要な機能である物質循環機能を対象とすること
が必要なこともある。
予測には、定量的な手法と定性的な手法があるが、現時点の科学水準における可能な
範囲で、定量的な手法により予測を行うことを基本とする。生態系全体の変動を予測で
きるモデルは現時点ではないため、干潟生態系や生息場である干潟の環境要素の変化を
予測することにより、注目種・群集、重要種への影響を検討するのが現実的である。直
接的な影響は、生息場である干潟の改変の程度から干潟生態系の構成要素への影響につ
いて定量的に予測することを基本とする。間接的な影響については、構成要素の相互関
係から波及する影響を可能な限り定量的に予測することを基本とする。
定量予測が困難な場合は、どの部分が定量予測できないか明らかにした上で、既存の
事例や専門家の意見などを参考に定性的に予測を行う。定量的に予測できる事象は、一
部の環境要素の限られた側面に過ぎないことや精度について理解しておくことが大切
である。また、定量的な調査が可能であっても、定量的な予測ができない項目があるこ
とも理解しておく必要がある。
なお、予測手法の選定に当たっての留意事項は、環境影響評価法に基づく基本的事項
では、以下のとおりである。
- 103 -
① 予測法
選定項目の特性、事業特性及び地域特性を勘案し、選定項目に係る評価において必要とされ
る水準が確保されるよう、具体的な予測の方法(以下「予測法」という。
)を選定するものとす
ること。
② 予測地域
予測の対象となる地域の範囲(以下「予測地域」という。
)は、事業特性及び地域特性を十分
勘案し、選定項目ごとの調査地域の内から適切に設定されるものとすること。
③ 予測の地点
予測地域内における予測の地点は、選定項目の特性、保全すべき対象の状況、地形、気象又
は水象の状況等に応じ、地域を代表する地点、特に影響を受けるおそれがある地点、保全すべ
き対象等への影響を的確に把握できる地点等が設定されるものとすること。
④ 予測の対象となる時期
予測の対象となる時期は、事業特性、地域の気象又は水象等の特性、社会的状況等を十分勘
案し、供用後の定常状態及び影響が最大になる時期(当該時期が設定されることができる場合
に限る。
)
、工事の実施による影響が最大になる時期等について、選定項目ごとの環境影響を的
確に把握できる時期が設定されるものとすること。
また、工事が完了した後の土地等の供用後定常状態に至るまでに長期間を要し、若しくは予
測の前提条件が予測の対象となる期間内で大きく変化する場合又は対象事業に係る工事が完了
する前の土地等について供用されることが予定されている場合には、必要に応じ中間的な時期
での予測が行われるものとすること。
⑤ 予測の前提条件の明確化
予測の手法に係る予測地域等の設定の根拠、予測の手法の特徴及びその適用範囲、予測の前
提となる条件、予測で用いた原単位及びパラメータ等について、地域の状況等に照らし、それ
ぞれその内容及び妥当性を予測の結果との関係と併せて明らかにできるように整理されるもの
とすること。
⑥ 将来の環境の状態の設定のあり方
環境の状態の予測に当たっては、当該対象事業以外の事業活動等によりもたらされる地域の
将来の環境の状態(将来の環境の状態の推定が困難な場合等においては、現在の環境の状態と
する。
)を明らかにできるように整理し、これを勘案して行うものとすること。この場合におい
て、地域の将来の環境の状態は、関係する地方公共団体が有する情報を収集して設定されるよ
う努めるものとすること。
なお、国又は地方公共団体による環境保全措置又は環境保全施策が講じられている場合であ
って、将来の環境の状態の推定に当たって当該環境保全措置等の効果を見込む場合には、当該
措置等の内容を明らかにできるように整理されるものとすること。
⑦ 予測の不確実性の検討
科学的知見の限界に伴う予測の不確実性について、その程度及びそれに伴う環境への影響の
重大性に応じて整理されるものとすること。この場合において、必要に応じて予測の前提条件
を変化させて得られるそれぞれの予測の結果のばらつきの程度により、予測の不確実性の程度
を把握するものとすること。
(「五 調査、予測及び評価の手法の選定に関する事項」
、(2)の抜粋)
- 104 -
(2)各 論
選定項目の具体的な予測手法の参考例について、今年度は、目次構成・記載内容の案
について示す。また、記載例として「干潟の地形変化」について示した。
目次構成、記載内容(案)は、以下のとおりとする。
【各論の目次構成及び記載内容について(案)
】
(2) 各 論
1) 干潟の地形変化
a) 予測法
定量予測法について各モデルの特徴、適用範囲、留意点、参考資料を示す。
b) 予測地域
c) 予測時期
2) 干潟生物種及び干潟生態系
a) 予測手法の概要
注目種、重要種及び干潟生態系の予測法について現状の概要を示す。
b) 定量的な予測法
① 注目種(上位種、典型種、特殊種)
、重要種に関する予測法
個体群持続可能性分析(PVA)、アメーバ法等の特徴、適用範囲、留意点、
参考資料を示す。
② 干潟の物質循環に関する予測法
低次生態系モデル、浅海域生態系モデル等の特徴、適用範囲、留意点、参考
資料を示す。
③ 漁業資源量に関する予測法
環境要因評価法、構造モデル法等の特徴、適用範囲、留意点、参考資料を示す。
④ 代償措置に関する予測法
HGM、JHGM、HEP、BST等の特徴、適用範囲、留意点、参考資料を
示す。
⑤ その他の予測法
IBI等の特徴、適用範囲、留意点、参考資料を示す。
- 105 -
1)干潟の地形変化
a)予測法
漂砂による汀線変化や海底地形変化の予測法は、汀線変化モデルや海底地形変化モデ
ル等の数理モデルを用いた数値計算がある。
これらのモデルは、①波浪解析→②海浜流解析→③漂砂移動の解析の手順で行われる。
①波浪解析
観測で得られた波浪データや年間の風向・風速データを用いた波浪推算
②海浜流解析
観測で得られた海浜流のデータや波浪解析で得られた情報を基に海浜流モデ
ルによる解析
③漂砂移動の
解析
海浜流解析で得られた情報を基に汀線変化モデルや海底地形変化モデル等に
よる解析
表4-7-2 予測法の特徴等
モデル
汀線変化
モデル
等深線変化
モデル
海底地形変形
モデル
特
徴
汀線を代表とする一本の
等深線の変化を計算する
設定した複数の代表等深
線の変化を各等深線毎に
沿岸漂砂量の収支を計算
することでその前進ある
いは後退量を求めること
ができる。各等深線に沿岸
漂砂量を設定することが
可能なことから,水深方向
の沿岸漂砂量分布が考慮
できる点が特徴である。
3 次元モデルである。
各地点での局所的な波と
流れの条件から、地点ごと
の漂砂の方向や量を算定
し、漂砂量の平面分布から
さらに底質量の保存式に
基づいて各位置の底面高
の時間変化量を推算する
ことにより、最終的に空間
的な海浜変形を予測する。
適用範囲
使用に当たっ
ての留意事項
参考資料
長期予測モデル
(1~20 年)
数km~数十km
長期予測モデル
(1~10 年)
数km~十km
砂を対象と
したモデルで
あり、泥をあつ
かう場合は、泥
粒子の沈降、浮
上の要素を取
り入れる必要
がある。
現状では時
空間スケール
や空間的精度
短期予測モデル
に、計算機の計
(1回の時化、月、
算時間による
季節)
限界が生じて
数百m~数km
おり、何らかの
簡略化が必要
とされる。
- 106 -
「汽水域の河川環
境の捉え方に関す
る手引書」 平成 16
年 5 月 汽水域の河
川環境の捉え方に
関する検討会
「海岸環境工学
海岸過程の理論・観
測・予測方法」本間
仁、堀川 清司 東
京大学出版会
「海岸施設設計便
覧 2000 年版」海岸
工学委員会編(社)
土木学会
など
二次元海浜流計算
与えられた条件の下で波の場を計算し、これに伴う radiation stress を外力として引き続
き海浜流の場を求める。こうして生じた流れは当然波の場を変化させ、したがってまた流れの
場も変化する。この相互干渉を正しくとらえるためには反復計算が必要である。
一方、得られた波と流れを漂砂量ならびに海浜地形変化の計算における営力として利用する
場合には、これが再び波と流れの分布に影響するので、この間にさらに大きな計算のループが
構成される。
流れの計算はそれ自体独立したものとは限らず、しばしばその前段にある波の計算および後
続する地形変化の計算などとの連関において考えねばならない。したがって、この計算にはか
なり複雑な波と地形条件に対しても安定であること、および計算所要時間が過大でないこと、
という2つの要件が課されることになる。
汀線変化モデル
汀線変化の計算は、波の場の計算、その結果から求まるところの沿岸漂砂量を用いて以下の
仮定の基に計算される。
1) 基本的に沿岸漂砂量の収支により汀線が変化する。
2) 沿岸漂砂は漂砂活動が活発な上縁と沖側限界水深で定義される漂砂帯内(移動高さ)での
み生じる。
3) 海底断面は漂砂帯内では汀線の前進・後退に合わせて初期断面地形に対し岸沖方向平行
に変化する。
沿岸漂砂量の算定式には「波浪エネルギーフラックスモデル」
「沿岸流モデル」
「混合モデル」
等が提案されている。
等深線変化モデル
このモデルは,汀線変化モデルが汀線を代表とする一本の等深線の変化を計算するのに対し,
設定した複数の代表等深線の変化を等深線毎に沿岸漂砂量の収支を計算することでその前進あ
るいは後退量を求めることができる。等深線毎に沿岸漂砂量を設定することが可能なことから,
水深方向の沿岸漂砂量分布が考慮できる点が特徴である。
水深方向の漂砂量分布の与え方は、
「宇多高明,河野茂樹(1996)
:海浜変形予測のための等
深線モデルの開発、土木学会論文集、№539/II-35」
、
「合田良實・渡辺則行(1990)
:沿岸流速
公式への不規則波モデルの導入について、海岸工学論文集、第 37 巻」などにより提案されて
いる。
海底地形変形モデル
海浜地形変化の予測モデルはいわゆる 3 次元モデルである。このモデルにおいては、波浪変
形計算と海浜流計算の2つのサブモデルにより計算される各地点での局所的な波と流れの条件
から、地点ごとの漂砂の方向や量を算定し、漂砂量の平面分布からさらに底質量の保存式に基
づいて各位置の底面高の時間変化量を推算することにより、最終的に空間的な海浜変形を予測
する。
漂砂すなわち底質の移動現象は一般に波や流れなどの流体運動以上に複雑でわかりにくく、
われわれの知識もまだ十分とはいいがたい。簡単にいうならば、波や流れの計算では基本式の
主要部分は与えられていて、それをいかに効率的にしかも精度よく解くかということが問題で
あるのに対し、地形変化の計算では底質量保存式は別にして、それに含まれる漂砂量を評価す
るための算定式自身がまだ確立されていないという段階にある。
(資料:
「汽水域の河川環境の捉え方に関する手引書」平成 16 年 5 月
汽水域の河川環境の捉え方に関する検討会)
- 107 -
時間 スケ ール
空 間ス ケー ル
図4-7-2 海浜変形モデルの適用範囲
(資料:
「大気・水・環境負荷分野の環境影響評価技術(Ⅲ)<環境保全措置・評価・事後調査の進め方>
(大気・水・環境負荷分野の環境影響評価技術検討会報告書)」平成 14 年 10 月 環境省)
b)予測地域
干潟の地形の調査地域と同様とする。
c)予測時期
汀線変化モデルや海底地形変化モデル等の数理モデルを行うための波浪や海浜流の
計算には、対象干潟の注目種・群集や重要種の生活史において波浪や流れとの関わりが
ある時期の代表的な波浪を用いる必要がある。たとえば、高波浪による擾乱が支配要因
である場合には年最大波などを、通常時の流れが支配要因である場合は平均的な波浪を
外力として与える。波浪の設定にあたっては、近隣の海象観測所のデータを参考にする
とともに、対象干潟における波浪や流れの実態との整合を考慮する必要がある。
- 108 -
5.参 考 資 料
参考資料1 環境影響評価法に基づく基本的事項
第二 環境影響評価項目等選定指針に関する基本的事項
一 一般的事項
(1) 対象事業に係る環境影響評価の項目並びに調査、予測及び評価の手法は、法第十一条第一項の
規定に基づき、環境影響評価項目等選定指針の定めるところにより、選定されるものである。
(2) 環境影響評価の項目の範囲は、別表に掲げる環境要素の区分及び影響要因の区分に従うものと
する。
(3) 調査、予測及び評価は、選定された環境影響評価の項目(以下「選定項目」という。
)ごとに行
うものとする。
(4) 調査は、選定項目について適切に予測及び評価を行うために必要な程度において、選定項目に
係る環境要素の状況に関する情報並びに調査の対象となる地域の範囲(以下「調査地域」という。
)
の気象、水象等の自然条件及び人口、産業、土地又は水域利用等の社会条件に関する情報を、国、
地方公共団体等が有する既存の資料等の収集、専門家等からの科学的知見の収集、現地調査・踏
査等の方法により収集し、その結果を整理し、及び解析することにより行うものとする。
(5) 予測は、対象事業の実施により選定項目に係る環境要素に及ぶおそれのある影響の程度につい
て、工事中及び供用時における環境の状態の変化又は環境への負荷の量について、数理モデルに
よる数値計算、模型等による実験、既存事例の引用又は解析等の方法により、定量的に把握する
ことを基本とし、定量的な把握が困難な場合は定性的に把握することにより行うものとする。
(6) 評価は、調査及び予測の結果を踏まえ、対象事業の実施により選定項目に係る環境要素に及ぶ
おそれのある影響が、事業者により実行可能な範囲内で回避され、又は低減されているものであ
るか否かについての事業者の見解を明らかにすることにより行うものとする。この場合において、
国又は地方公共団体によって、選定項目に係る環境要素に関する環境の保全の観点からの基準又
は目標が示されている場合は、これらとの整合性が図られているか否かについても検討するもの
とする。
(7) 調査、予測及び評価に当たっては、選定項目ごとに取りまとめられた調査、予測及び評価の結
果の概要を一覧できるように取りまとめること等により、他の選定項目に係る環境要素に及ぼす
おそれがある影響について、検討が行われるよう留意するものとする。
二 環境要素の区分ごとの調査、予測及び評価の基本的な方針
(1) 別表中「環境の自然的構成要素の良好な状態の保持」に区分される選定項目については、環境
基本法第十四条第一号に掲げる事項の確保を旨として、当該選定項目に係る環境要素に含まれる
汚染物質の濃度その他の指標により測られる当該環境要素の汚染の程度及び広がり又は当該環境
要素の状態の変化(構成要素そのものの量的な変化を含む。
)の程度及び広がりについて、これら
が人の健康、生活環境及び自然環境に及ぼす影響を把握するため、調査、予測及び評価を行うも
のとする。
(2) 別表中「生物の多様性の確保及び自然環境の体系的保全」に区分される選定項目については、
環境基本法第十四条第二号に掲げる事項の確保を旨として、次に掲げる方針を踏まえ、調査、予
測及び評価を行うものとする。
ア 「植物」及び「動物」に区分される選定項目については、陸生及び水生の動植物に関し、生
息・生育種及び植生の調査を通じて抽出される重要種の分布、生息・生育状況及び重要な群落
の分布状況並びに動物の集団繁殖地等注目すべき生息地の分布状況について調査し、これらに
対する影響の程度を把握するものとする。
イ 「生態系」に区分される選定項目については、地域を特徴づける生態系に関し、アの調査結
果等により概括的に把握される生態系の特性に応じて、生態系の上位に位置するという上位
性、当該生態系の特徴をよく現すという典型性及び特殊な環境等を指標するという特殊性の視
- 109 -
点から、注目される生物種等を複数選び、これらの生態、他の生物種との相互関係及び生息・
生育環境の状態を調査し、これらに対する影響の程度を把握する方法その他の適切に生態系へ
の影響を把握する方法によるものとする。
(3) 別表中「人と自然との豊かな触れ合い」に区分される選定項目については、環境基本法第十
四条第三号に掲げる事項の確保を旨として、次に掲げる方針を踏まえ、調査、予測及び評価を行
うものとする。
ア 「景観」に区分される選定項目については、眺望景観及び景観資源に関し、眺望される状態
及び景観資源の分布状況を調査し、これらに対する影響の程度を把握するものとする。
イ 「触れ合い活動の場」に区分される選定項目については、野外レクリエーション及び地域住
民等の日常的な自然との触れ合い活動に関し、それらの活動が一般的に行われる施設及び場の
状態及び利用の状況を調査し、これらに対する影響の程度を把握するものとする。
(4)
別表中「環境への負荷」に区分される選定項目については、環境基本法第二条第二項の地球
環境保全に係る環境への影響のうち温室効果ガスの排出量等環境への負荷量の程度を把握するこ
とが適当な項目に関してはそれらの発生量等を、廃棄物等に関してはそれらの発生量、最終処分
量等を把握することにより、調査、予測及び評価を行うものとする。
三 環境影響評価の項目並びに調査、予測及び評価の手法の選定に当たっての一般的留意事項
(1) 事業者が環境影響評価の項目並びに調査、予測及び評価の手法を選定するに当たって一般的に把
握すべき情報の内容及びその把握に当たっての留意事項を、環境影響評価項目等選定指針において
定めるものとする。
この場合において、当該情報には、当該事業の内容(以下「事業特性」という。
)並びに当該事
業に係る対象事業が実施されるべき区域及びその周囲の地域の自然的社会的状況(以下「地域特
性」という。
)に関する情報が含まれるよう定めるものとする。また、事業特性に関する情報の把
握に当たっての留意事項として、当該事業に係る内容の具体化の過程における環境保全の配慮に
係る検討の経緯及びその内容についても把握することが含まれるものとする。地域特性に関する
情報の把握に当たっての留意事項として、入手可能な最新の文献、資料等に基づき把握すること、
これらの出典が明らかにされるよう整理すること、過去の状況の推移及び将来の状況並びに当該
地域において国及び地方公共団体が講じている環境の保全に関する施策の内容についても把握す
ることが含まれるものとする。
(2) 事業者が、環境影響評価の項目並びに調査、予測及び評価の手法を選定するに当たっては、選
定の理由を明らかにすることが必要である旨、環境影響評価項目等選定指針において定めるもの
とする。
(3) 事業者が、環境影響評価の項目並びに調査、予測及び評価の手法を選定するに当たっては、必
要に応じ専門家等の助言を受けること等により客観的かつ科学的な検討を行うべき旨、環境影響
評価項目等選定指針において定めるものとする。なお、専門家等の助言を受けた場合には、当該
助言の内容及び当該専門家等の専門分野を明らかにすることが必要である旨、環境影響評価項目
等選定指針において定めるものとする。
(4) 環境影響評価の実施中において環境への影響に関して新たな事実が判明した場合等において
は、必要に応じ選定項目及び選定された手法を見直し、又は追加的に調査、予測及び評価を行う
よう留意すべき旨、環境影響評価項目等選定指針において定めるものとする。
四 環境影響評価の項目の選定に関する事項
(1) 環境影響評価項目等選定指針において、対象事業の種類ごとの一般的な事業の内容を明らかに
するとともに、この内容を踏まえつつ、別表に掲げる影響要因の細区分の内容を規定し、影響要
因の細区分ごとに当該影響要因によって影響を受けるおそれのある環境要素の細区分(以下「参
考項目」という。
)を明らかにするものとする。この場合において、次の事項に留意するものとす
- 110 -
る。
ア 影響要因の細区分は、環境影響評価を行う時点における事業計画の内容等に応じて、(ア) 当
該対象事業に係る工事の実施、(イ) 当該工事が完了した後の土地(他の対象事業の用に供す
るものを除く。
)又は工作物(以下「土地等」という。
)の存在(法第二条第二項第一号トに掲
げる事業の種類に該当する事業以外の事業にあっては土地等の供用に伴い行われることが予
定される事業活動その他の人の活動を含む。
)のそれぞれに関し、物質等を排出し、又は既存
の環境を損ない若しくは変化させる等の要因を整理するものとする。
イ 環境要素の細区分は、法令による規制・目標の有無、環境に及ぼすおそれのある影響の重大
性等を考慮して、適切に定められるものとする。
(2) 個別の事業ごとの環境影響評価の項目の選定に当たっては、それぞれの事業ごとに、影響要因
を事業特性に応じて適切に区分した上で、参考項目を勘案しつつ、事業特性及び地域特性に関す
る情報、法第二章第二節に規定する手続を通じて得られた環境の保全の観点からの情報等を踏ま
え、影響要因の細区分ごとに当該影響要因によって影響を受けるおそれのある環境要素の細区分
を明らかにすべき旨、環境影響評価項目等選定指針において定めるものとする。
この場合において、対象事業の一部として、当該対象事業が実施されるべき区域にある工作物
の撤去若しくは廃棄が行われる場合、又は対象事業の実施後、当該対象事業の目的に含まれる工
作物の撤去若しくは廃棄が行われることが予定されている場合には、これらの撤去又は廃棄に係
る影響要因が整理されるものとすること。
五 調査、予測及び評価の手法の選定に関する事項
(1) 事業者による調査の手法の選定に当たっての留意事項を環境影響評価項目等選定指針において
定めるものとする。当該留意事項には、次に掲げる事項が含まれるものとする。
ア 調査すべき情報の種類及び調査法
選定項目の特性、事業特性及び地域特性を勘案し、選定項目に係る予測及び評価において必要
とされる精度が確保されるよう、調査又は測定により収集すべき具体的な情報の種類及び当該情
報の種類ごとの具体的な調査又は測定の方法(以下「調査法」という。
)を選定するものとする
こと。地域特性を勘案するに当たっては、当該地域特性が時間の経過に伴って変化するものであ
ることを踏まえるものとすること。
法令等により調査法が定められている場合には、当該調査法を踏まえつつ適切な調査法を設定
するものとすること。
イ 調査地域
調査地域の設定に当たっては、調査対象となる情報の特性、事業特性及び地域特性を勘案し、
対象事業の実施により環境の状態が一定程度以上変化する範囲を含む地域又は環境が直接改変
を受ける範囲及びその周辺区域等とすること。
ウ 調査の地点
調査地域内における調査の地点の設定に当たっては、選定項目の特性に応じて把握すべき情報
の内容及び特に影響を受けるおそれがある対象の状況を踏まえ、地域を代表する地点その他の情
報の収集等に適切かつ効果的な地点が設定されるものとすること。
エ 調査の期間及び時期
調査の期間及び時期の設定に当たっては、選定項目の特性に応じて把握すべき情報の内容、地
域の気象又は水象等の特性、社会的状況等に応じ、適切かつ効果的な期間及び時期が設定される
ものとすること。この場合において、季節の変動を把握する必要がある調査対象については、こ
れが適切に把握できる調査期間が確保されるものとするとともに、年間を通じた調査について
は、必要に応じて観測結果の変動が少ないことが想定される時期に開始されるものとすること。
また、既存の長期間の観測結果が存在しており、かつ、現地調査を行う場合には、当該観測結
果と現地調査により得られた結果とが対照されるものとすること。
- 111 -
オ 調査によって得られる情報の整理の方法
調査によって得られる情報は、当該情報が記載されていた文献名、当該情報を得るために行わ
れた調査の前提条件、調査地域等の設定の根拠、調査の日時等について、当該情報の出自及びそ
の妥当性を明らかにできるように整理されるものとすること。
また、希少生物の生息・生育に関する情報については、必要に応じ公開に当たって種及び場所
を特定できない形で整理する等の配慮が行われるものとすること。
カ 環境への影響の少ない調査の方法の選定
調査の実施そのものに伴う環境への影響を回避し、又は低減するため、可能な限り環境への影
響の少ない調査の方法が選定されるものとすること。
(2) 事業者による予測の手法の選定に当たっての留意事項を環境影響評価項目等選定指針において
定めるものとする。当該留意事項には、次に掲げる事項が含まれるものとする。
ア 予測法
選定項目の特性、事業特性及び地域特性を勘案し、選定項目に係る評価において必要とされる
水準が確保されるよう、具体的な予測の方法(以下「予測法」という。
)を選定するものとする
こと。
イ 予測地域
予測の対象となる地域の範囲(以下「予測地域」という。
)は、事業特性及び地域特性を十分
勘案し、選定項目ごとの調査地域の内から適切に設定されるものとすること。
ウ 予測の地点
予測地域内における予測の地点は、選定項目の特性、保全すべき対象の状況、地形、気象又は
水象の状況等に応じ、地域を代表する地点、特に影響を受けるおそれがある地点、保全すべき対
象等への影響を的確に把握できる地点等が設定されるものとすること。
エ 予測の対象となる時期
予測の対象となる時期は、事業特性、地域の気象又は水象等の特性、社会的状況等を十分勘案
し、供用後の定常状態及び影響が最大になる時期(当該時期が設定されることができる場合に限
る。
)
、工事の実施による影響が最大になる時期等について、選定項目ごとの環境影響を的確に把
握できる時期が設定されるものとすること。
また、工事が完了した後の土地等の供用後定常状態に至るまでに長期間を要し、若しくは予測
の前提条件が予測の対象となる期間内で大きく変化する場合又は対象事業に係る工事が完了す
る前の土地等について供用されることが予定されている場合には、必要に応じ中間的な時期での
予測が行われるものとすること。
オ 予測の前提条件の明確化
予測の手法に係る予測地域等の設定の根拠、予測の手法の特徴及びその適用範囲、予測の前提
となる条件、予測で用いた原単位及びパラメータ等について、地域の状況等に照らし、それぞれ
その内容及び妥当性を予測の結果との関係と併せて明らかにできるように整理されるものとす
ること。
カ 将来の環境の状態の設定のあり方
環境の状態の予測に当たっては、当該対象事業以外の事業活動等によりもたらされる地域の将
来の環境の状態(将来の環境の状態の推定が困難な場合等においては、現在の環境の状態とす
る。
)を明らかにできるように整理し、これを勘案して行うものとすること。この場合において、
地域の将来の環境の状態は、関係する地方公共団体が有する情報を収集して設定されるよう努め
るものとすること。
なお、国又は地方公共団体による環境保全措置又は環境保全施策が講じられている場合であっ
て、将来の環境の状態の推定に当たって当該環境保全措置等の効果を見込む場合には、当該措置
- 112 -
等の内容を明らかにできるように整理されるものとすること。
キ 予測の不確実性の検討
科学的知見の限界に伴う予測の不確実性について、その程度及びそれに伴う環境への影響の重
大性に応じて整理されるものとすること。この場合において、必要に応じて予測の前提条件を変
化させて得られるそれぞれの予測の結果のばらつきの程度により、予測の不確実性の程度を把握
するものとすること。
(3) 事業者による評価の手法の選定に当たっての留意事項を環境影響評価項目等選定指針において
定めるものとする。当該留意事項には、次に掲げる事項が含まれるものとする。
ア 環境影響の回避・低減に係る評価
建造物の構造・配置の在り方、環境保全設備、工事の方法等を含む幅広い環境保全対策を対象
として、複数の案を時系列に沿って又は並行的に比較検討すること、実行可能なより良い技術が
取り入れられているか否かについて検討すること等の方法により、対象事業の実施により選定項
目に係る環境要素に及ぶおそれのある影響が、回避され、又は低減されているものであるか否か
について評価されるものとすること。この場合において、評価に係る根拠及び検討の経緯を明ら
かにできるように整理されるものとすること。
なお、これらの評価は、事業者により実行可能な範囲内で行われるものとすること。
イ 国又は地方公共団体の環境保全施策との整合性に係る検討
評価を行うに当たって、環境基準、環境基本計画その他の国又は地方公共団体による環境の保
全の観点からの施策によって、選定項目に係る環境要素に関する基準又は目標が示されている場
合は、当該評価において当該基準又は目標に照らすこととする考え方を明らかにできるように整
理しつつ、当該基準等の達成状況、環境基本計画等の目標又は計画の内容等と調査及び予測の結
果との整合性が図られているか否かについて検討されるものとすること。
なお、工事の実施に当たって長期間にわたり影響を受けるおそれのある環境要素であって、当
該環境要素に係る環境基準が定められているものについても、当該環境基準との整合性が図られ
ているか否かについて検討されるものとすること。
ウ その他の留意事項
評価に当たって事業者以外が行う環境保全措置等の効果を見込む場合には、当該措置等の内容
を明らかにできるように整理されるものとすること。
(4) 環境影響評価項目等選定指針において、(1)又は(2)に規定するところにより留意事項を示すに
当たっては、対象事業の種類ごとの一般的な事業の内容を踏まえつつ、参考項目の特性、参考項
目に係る環境要素に及ぼすおそれのある影響の重大性、既に得られている科学的知見等を考慮し、
(1)又は(2)に規定する留意事項の趣旨を踏まえ、調査法、調査地域、調査の期間及び時期、予測
法、予測地域、予測の対象となる時期等のそれぞれについて、事業者が地域特性等を勘案するに
当たって参考となる調査又は予測の手法(以下「参考手法」という。
)を定め、これを留意事項と
ともに示すことができるものとする。
(5) 参考手法を定める場合には、環境影響評価項目等選定指針において、個別の事業ごとの調査及
び予測の手法の選定に当たって、それぞれの事業ごとに参考手法を勘案しつつ事業特性及び地域
特性に関する情報、法第二章第二節に規定する手続を通じて得られた環境の保全の観点からの情
報等を踏まえ選定すべき旨、定めるものとする。
六 参考項目又は参考手法を勘案して項目又は手法を選定するに当たっての留意事項
参考項目又は参考手法を勘案しつつ、事業特性及び地域特性に関する情報、法第二章第二節に
規定する手続を通じて得られた環境の保全の観点からの情報等を踏まえ、項目及び手法を選定す
るに当たっての留意事項として、以下の内容を環境影響評価項目等選定指針において定めるもの
とする。
(1) 参考項目及び参考手法を定めるに当たって踏まえられた対象事業の種類ごとの一般的な事業の
- 113 -
内容と個別の事業の内容との相違を把握するものとすること。
(2) 環境への影響がないか又は影響の程度が極めて小さいことが明らかな場合、影響を受ける地域
又は対象が相当期間存在しないことが明らかな場合、類似の事例により影響の程度が明らかな場
合等においては、参考項目を選定しないこと又は参考手法よりも簡略化された形の調査若しくは
予測の手法を選定することができること。
(3) 環境影響を受けやすい地域又は対象が存在する場合、環境の保全の観点から法令等により指定
された地域又は対象が存在する場合、既に環境が著しく悪化し又はそのおそれが高い地域が存在
する場合等においては、参考手法よりも詳細な調査又は予測の手法を選定するよう留意すべきこ
と。
第三 環境保全措置指針に関する基本的事項
一 一般的事項
(1) 対象事業に係る環境保全措置は、法第十二条第一項の規定に基づき、環境保全措置指針の定め
るところにより、検討されるものである。
(2) 環境保全措置は、対象事業の実施により選定項目に係る環境要素に及ぶおそれのある影響につ
いて、事業者により実行可能な範囲内で、当該影響を回避し、又は低減すること及び当該影響に
係る各種の環境の保全の観点からの基準又は目標の達成に努めることを目的として検討されるも
のとする。
二 環境保全措置の検討に当たっての留意事項
環境保全措置の検討に当たっての留意事項を環境保全措置指針において定めるものとする。当
該留意事項には、次に掲げる事項が含まれるものとする。
(1) 環境保全措置の検討に当たっては、環境への影響を回避し、又は低減することを優先するもの
とし、これらの検討結果を踏まえ、必要に応じ当該事業の実施により損なわれる環境要素と同種
の環境要素を創出すること等により損なわれる環境要素の持つ環境の保全の観点からの価値を代
償するための措置(以下「代償措置」という。
)の検討が行われるものとすること。
(2) 環境保全措置は、事業者により実行可能な範囲内において検討されるよう整理されるものとす
ること。
(3) 環境保全措置の検討に当たっては、次に掲げる事項を可能な限り具体的に明らかにできるよう
にするものとすること。
ア 環境保全措置の効果及び必要に応じ不確実性の程度
イ 環境保全措置の実施に伴い生ずるおそれのある環境影響
ウ 環境保全措置を講ずるにもかかわらず存在する環境影響
エ 環境保全措置の内容、実施期間、実施主体その他の環境保全措置の実施の方法
(4) 代償措置を講じようとする場合には、環境への影響を回避し、又は低減する措置を講ずること
が困難であるか否かを検討するとともに、損なわれる環境要素と代償措置により創出される環境
要素に関し、それぞれの位置、損なわれ又は創出される環境要素の種類及び内容等を検討するも
のとし、代償措置の効果及び実施が可能と判断した根拠を可能な限り具体的に明らかにできるよ
うにするものとすること。
(5) 環境保全措置の検討に当たっては、環境保全措置についての複数案の比較検討、実行可能なよ
り良い技術が取り入れられているか否かの検討等を通じて、講じようとする環境保全措置の妥当
性を検証し、これらの検討の経過を明らかにできるよう整理すること。この場合において、当該
検討が段階的に行われている場合には、これらの検討を行った段階ごとに環境保全措置の具体的
な内容を明らかにできるように整理すること。
(6) 選定項目に係る予測の不確実性が大きい場合、効果に係る知見が不十分な環境保全措置を講ず
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る場合、工事中又は供用後において環境保全措置の内容をより詳細なものにする場合等において
は環境への影響の重大性に応じ、代償措置を講ずる場合においては当該代償措置による効果の不
確実性の程度及び当該代償措置に係る知見の充実の程度を踏まえ、当該事業による環境への重大
性に応じ、工事中及び供用後の環境の状態等を把握するための調査(以下「事後調査」という。
)
の必要性を検討するとともに、事後調査の項目及び手法の内容、事後調査の結果により環境影響
が著しいことが明らかとなった場合等の対応の方針、事後調査の結果を公表する旨等を明らかに
できるようにすること。
なお、事後調査を行う場合においては、次に掲げる事項に留意すること。
ア 事後調査の項目及び手法については、事後調査の必要性、事後調査を行う項目の特性、地域特性
等に応じて適切な内容とするとともに、事後調査の結果と環境影響評価の結果との比較検討が可
能なように設定されるものとすること。
イ 事後調査の実施そのものに伴う環境への影響を回避し、又は低減するため、可能な限り環境への
影響の少ない事後調査の手法が選定され、採用されるものとすること。
ウ 事後調査において、地方公共団体等が行う環境モニタリング等を活用する場合、当該対象事業に
係る施設等が他の主体に引き継がれることが明らかである場合等においては、他の主体との協力
又は他の主体への要請等の方法及び内容について明らかにできるようにすること。
- 115 -
参考資料2 埋立事業に係る主務省令
公有水面の埋立て又は干拓の事業に係る環境影響評価の項目並びに当該項目に係る調査、予測及び評
価を合理的に行うための手法を選定するための指針、環境の保全のための措置に関する指針等を定め
(平成十年六月十二日農林水産省・運輸省・建設省令第一号 平成一八年三月三十日最終改正)
る省令
(抜粋)
(方法書の作成)
第二条 令別表第一の七の項の第二欄又は第三欄に掲げる要件に該当する対象事業(以下「対象埋立て
又は干拓事業」という)に係る事業者(以下単に「事業者」という)は対象埋立て又は干拓事業に係る
方法書に法第五条第一項第二号に規定する対象事業の内容を記載するに当たっては次に掲げる事項
を記載しなければならない。
一 対象埋立て又は干拓事業の種類(対象埋立て又は干拓事業に係る埋立ての事業又は干拓の事業
の別。第五条第一項第一号イにおいて同じ。)
二 対象埋立て又は干拓事業が実施されるべき区域(以下「対象埋立て又は干拓事業実施区域」とい
う。)
及び対象埋立て又は干拓事業に係る埋立干拓区域の位置
三 対象埋立て又は干拓事業の規模(対象埋立て又は干拓事業に係る埋立干拓区域の面積。
第五条第
一項第一号ハにおいて同じ。)
四 前三号に掲げるもののほか、
対象埋立て又は干拓事業の内容に関する事項(既に決定されている
内容に係るものに限る。)であって、その変更により環境影響が変化することとなるもの
2 事業者は、対象埋立て又は干拓事業に係る方法書に法第五条第一項第三号に掲げる事項を記載する
に当たっては、入手可能な最新の文献その他の資料により把握した結果(当該資料の出典を含む。
)
を第五条第一項第二号に掲げる事項の区分に応じて記載しなければならない。
3 事業者は、対象埋立て又は干拓事業に係る方法書に第一項第二号に掲げる事項及び前項の規定によ
り把握した結果を記載するに当たっては、その概要を適切な縮尺の平面図上に明らかにしなければ
ならない。
4 事業者は、対象埋立て又は干拓事業に係る方法書に法第五条第一項第四号に掲げる事項を記載する
に当たっては、当該環境影響評価の項目並びに調査、予測及び評価の手法を選定した理由を明らか
にしなければならない。この場合において、当該環境影響評価の項目並びに調査、予測及び評価の
手法の選定に当たって専門家その他の環境影響に関する知見を有する者(以下、
「専門家等」とい
う。
)の助言を受けた場合には当該助言の内容及び当該専門家、等の専門分野を併せて明らかにし
なければならない。
5 事業者は、法第五条第二項の規定により二以上の対象事業について併せて方法書を作成した場合に
あっては、対象埋立て又は干拓事業に係る方法書において、その旨を明らかにしなければならない。
(環境影響を受ける範囲と認められる地域)
第三条 対象埋立て又は干拓事業に係る法第六条第一項に規定する環境影響を受ける範囲であると認
められる地域は、対象埋立て又は干拓事業実施区域及び既に入手している情報によって一以上の環
境要素に係る環境影響を受けるおそれがあると認められる地域とする。
(環境影響評価の項目等の選定に関する指針)
第四条 対象埋立て又は干拓事業に係る法第十一条第三項の規定による環境影響評価の項目並びに当
該項目に係る調査、予測及び評価を合理的に行うための手法を選定するための指針については、次
条から第十二条までに定めるところによる。
(事業特性及び地域特性の把握)
第五条 事業者は、対象埋立て又は干拓事業に係る環境影響評価の項目並びに調査、予測及び評価の
手法を選定するに当たっては、当該選定を行うに必要と認める範囲内で、当該選定に影響を及ぼす
対象埋立て又は干拓事業の内容(以下「事業特性」という。
)並びに対象埋立て又は干拓事業実施区
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域及びその周囲の自然的社会的状況(以下「地域特性」という。
)に関し、次に掲げる情報を把握し
なければならない。
一 事業特性に関する情報
イ 対象埋立て又は干拓事業の種類
ロ 対象埋立て又は干拓事業実施区域の位置
ハ 対象埋立て又は干拓事業の規模
ニ 対象埋立て又は干拓事業の工事計画の概要
ホ その他の対象埋立て又は干拓事業に関する事項
二 地域特性に関する情報
イ 自然的状況
(1) 気象、大気質、騒音、振動その他の大気に係る環境(次条第三項第一号イ及び別表第一におい
て「大気環境」という。
)の状況(環境基準の確保の状況を含む。)
(2) 水象、水質、水底の底質その他の水に係る環境(次条第三項第一号ロ及び別表第一において「水
環境」という。
)の状況(環境基準の確保の状況を含む。
)
(3) 土壌及び地盤の状況(環境基準の確保の状況を含む。
)
(4) 地形及び地質の状況
(5) 動植物の生息又は生育、植生及び生態系の状況
(6) 景観及び人と自然との触れ合いの活動の状況
ロ 社会的状況
(1) 人口及び産業の状況
(2) 土地利用の状況
(3) 河川、湖沼及び海域の利用並びに地下水の利用の状況
(4) 交通の状況
(5) 学校、
病院その他の環境の保全についての配慮が特に必要な施設の配置の状況及び住宅の配置
の概況
(6) 下水道の整備の状況
(7) 環境の保全を目的として法令等により指定された地域その他の対象及び当該対象に係る規制
の内容その他の状況
(8) その他の事項
2 事業者は、前項第一号に掲げる情報の把握に当たっては、当該対象埋立て又は干拓事業の内容の
具体化の過程における環境の保全の配慮に係る検討の経緯及びその内容を把握するよう留意するも
のとする。
3 事業者は、第一項第二号に掲げる情報の把握に当たっては、次に掲げる事項に留意するものとす
る。
一 入手可能な最新の文献その他の資料により把握すること。この場合において、当該資料の出典を
明らかにできるよう整理すること。
二 必要に応じ、関係する地方公共団体又は専門家等からその知見を聴取し、又は現地の状況を確認
するよう努めること。
三 当該情報に係る過去の状況の推移及び将来の状況を把握すること。
(環境影響評価の項目の選定)
第六条 事業者は、対象埋立て又は干拓事業に係る環境影響評価の項目を選定するに当たっては、別
表第一に掲げる一般的な事業の内容(同表備考第二号イ及びロに掲げる特性を有する埋立て又は干
拓事業の当該特性をいう。以下同じ。
)によって行われる対象埋立て又は干拓事業に伴う環境影響を
及ぼすおそれがある要因(以下「影響要因」という。
)について同表においてその影響を受けるおそ
れがあるとされる環境要素に係る項目(以下 「参考項目」という。
)を勘案して選定しなければな
らない。ただし、次の各号のいずれかに該当すると認められる場合は、この限りでない。
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一 参考項目に関する環境影響がないこと又は環境影響の程度が極めて小さいことが明らかである
場合
二 対象埋立て又は干拓事業実施区域又はその周囲に、参考項目に関する環境影響を受ける地域その
他の対象が相当期間存在しないことが明らかである場合
2 事業者は、前項本文の規定による選定に当たっては、一般的な事業の内容と事業特性との相違を把
握するものとする。
3 事業者は、第一項本文の規定による選定に当たっては、対象埋立て又は干拓事業に伴う影響要因が
当該影響要因により影響を受けるおそれがある環境要素に及ぼす影響の重大性について客観的かつ
科学的に検討しなければならない。この場合において、事業者は、事業特性に応じて、次に掲げる
影響要因を、物質の排出、土地の形状の変更、工作物の設置その他の環境影響の態様を踏まえて適
切に区分し、当該区分された影響要因ごとに検討するものとする。
一 対象埋立て又は干拓事業に係る工事の実施(対象埋立て又は干拓事業の一部として行う対象埋立
て又は干拓事業実施区域にある工作物の撤去又は廃棄を含む) 。
二 対象埋立て又は干拓事業に係る工事が完了した後の土地又は工作物の存在(別表第一において
「土地又は工作物の存在」という。)
三 対象埋立て又は干拓事業の目的として設置される工作物の撤去又は廃棄が予定されている場合
にあっては、当該撤去又は廃棄
4 前項の規定による検討は、次に掲げる環境要素を、法令等による規制又は目標の有無及び環境に
及ぼすおそれがある影響の重大性を考慮して適切に区分し、当該区分された環境要素ごとに行うも
のとする。
一 環境の自然的構成要素の良好な状態の保持を旨として調査、予測及び評価されるべき環境要素
(第四号に掲げるものを除く。別表第一において同じ。)
イ 大気環境
(1) 大気質
(2) 騒音
(3) 振動
(4) 悪臭
(5) (1) から(4)までに掲げるもののほか、大気環境に係る環境要素
ロ 水環境
(1) 水質(地下水の水質を除く。別表第一において同じ。)
(2) 水底の底質
(3) 地下水の水質及び水位
(4) (1) から(3) までに掲げるもののほか、水環境に係る環境要素
ハ 土壌に係る環境その他の環境(イ及びロに掲げるものを除く。別表第一において同じ。)
(1) 地形及び地質
(2) 地盤
(3) 土壌
(4) その他の環境要素
二 生物の多様性の確保及び自然環境の体系的保全を旨として調査、予測及び評価されるべき環境要
素(第四号に掲げるものを除く。別表第一において同じ。)
イ 動物
ロ 植物
ハ 生態系
三 人と自然との豊かな触れ合いの確保を旨として調査、予測及び評価されるべき環境要素(次号に
掲げるものを除く。別表第一において同じ。)
イ 景観
ロ 人と自然との触れ合いの活動の場
- 118 -
四 環境への負荷の量の程度により予測及び評価されるべき環境要素
イ 廃棄物等(廃棄物及び副産物をいう。次条第六号及び別表第一において同じ) 。
ロ 温室効果ガス等(排出又は使用が地球環境の保全上の支障の原因となるおそれがある物をいう。
次条第六号において同じ) 。
5 事業者は、第一項本文の規定による選定に当たっては、前条の規定により把握した事業特性及び
地域特性に関する情報を踏まえ、必要に応じ専門家等の助言を受けて選定するものとする。
6 事業者は、前項の規定により専門家等の助言を受けた場合には、当該助言の内容及び当該専門家
等の専門分野を明らかにできるよう整理しなければならない。
7 事業者は、環境影響評価の手法を選定し、又は環境影響評価を行う過程において項目の選定に係
る新たな事情が生じた場合にあっては、必要に応じ第一項本文の規定により選定した項目(以下「選
定項目」という。)の見直しを行わなければならない。
8 事業者は、第一項本文の規定による選定を行ったときは、選定の結果を一覧できるよう整理する
とともに、選定項目として選定した理由を明らかにできるよう整理しなければならない。
(調査、予測及び評価の手法)
第七条 対象埋立て又は干拓事業に係る環境影響評価の調査、予測及び評価の手法は、事業者が、次
に掲げる事項を踏まえ、選定項目ごとに次条から第十二条までに定めるところにより選定するもの
とする。
一 前条第四項第一号に掲げる環境要素に係る選定項目については、汚染物質の濃度その他の指標に
より測られる環境要素の汚染又は環境要素の状況の
変化(当該環境要素に係る物質の量的な変化を含む。
)の程度及び広がりに関し、これらが人の健康、
生活環境又は自然環境に及ぼす環境影響を把握できること。
二 前条第四項第二号イ及びロに掲げる環境要素に係る選定項目については、陸生及び水生の動植物
に関し、生息種又は生育種及び植生の調査を通じて抽出される学術上又は希少性の観点から重要な
種の分布状況、生息状況又は生育状況及び学術上又は希少性の観点から重要な群落の分布状況並び
に動物の集団繁殖地その他の注目すべき生息地の分布状況について調査し、これらに対する環境影
響の程度を把握できること。
三 前条第四項第二号ハに掲げる環境要素に係る選定項目については、地域を特徴づける生態系に関
し、前号の調査結果その他の調査結果により概括的に把握される生態系の特性に応じて、上位性(生
態系の上位に位置する性質をいう。別表第二において同じ。
)
、典型性(地域の生態系の特徴を典型
的に現す性質をいう。別表第二において同じ。
)及び特殊性(特殊な環境であることを示す指標とな
る性質をいう。別表第二において同じ。
)の視点から注目される動植物の種又は生物群集を複数抽
出し、これらの生態、他の動植物との関係又は生息環境若しくは生育環境を調査し、これらに対す
る環境影響その他の生態系への環境影響の程度を適切に把握できること。
四 前条第四項第三号イに掲げる環境要素に係る選定項目については、景観に関し、眺望の状況及び
景観資源の分布状況を調査し、これらに対する環境影響の程度を把握できること。
五 前条第四項第三号ロに掲げる環境要素に係る選定項目については、人と自然との触れ合いの活動
に関し、野外レクリエーションを通じた人と自然との触れ合いの活動及び日常的な人と自然との触
れ合いの活動が一般的に行われる施設又は場及びその利用の状況を調査し、これらに対する環境影
響の程度を把握できること。
六 前条第四項第四号に掲げる環境要素に係る選定項目については、廃棄物等に関してはその発生
量、最終処分量その他の環境への負荷の量の程度を、温室効果ガス等に関してはその発生量その他
の環境への負荷の量の程度を把握できること。
(参考手法)
第八条 事業者は対象埋立て又は干拓事業に係る環境影響評価の調査及び予測の手法(参考項目に係
るものに限る。
)を選定するに当たっては各参考項目ごとに別表第二に掲げる参考となる調査及び予測
の手法(以下この条及び別表第二において「参考手法」という。
)を勘案して選定しなければならない。
2 事業者は、前項の規定による選定に当たっては、一般的な事業の内容と事業特性との相違を把握
- 119 -
するものとする。
3 事業者は、次の各号のいずれかに該当すると認められる場合は、必要に応じ参考手法より簡略化
された調査又は予測の手法を選定することができる。
一 当該参考項目に関する環境影響の程度が小さいことが明らかであること。
二 対象埋立て又は干拓事業実施区域又はその周囲に、当該参考項目に関する環境影響を受ける地域
その他の対象が相当期間存在しないことが想定されること。
三 類似の事例により当該参考項目に関する環境影響の程度が明らかであること。
四 当該参考項目に係る予測及び評価において必要とされる情報が、参考手法より簡易な方法で収集
できることが明らかであること。
4 事業者は、次の各号のいずれかに該当すると認められる場合は、必要に応じ参考手法より詳細な
調査又は予測の手法を選定するものとする。
一 事業特性により、当該参考項目に関する環境影響の程度が著しいものとなるおそれがあること。
二 対象埋立て又は干拓事業実施区域又はその周囲に、次に掲げる地域その他の対象が存在し、かつ、
事業特性が次のイ、ロ又はハに規定する参考項目に関する環境要素に係る相当程度の環境影響を及
ぼすおそれがあるものであること。
イ 当該参考項目に関する環境要素に係る環境影響を受けやすい地域その他の対象
ロ 当該参考項目に関する環境要素に係る環境の保全を目的として法令等により指定された地域
その他の対象
ハ 当該参考項目に関する環境要素に係る環境が既に著しく悪化し、又は著しく悪化するおそれ
がある地域
(調査の手法)
第九条 事業者は、対象埋立て又は干拓事業に係る環境影響評価の調査の手法を選定するに当たって
は、前条に定めるところによるほか、次の各号に掲げる調査の手法に関する事項について、それぞ
れ当該各号に定めるものを、選定項目について適切に予測及び評価を行うために必要な範囲内で、
当該選定項目の特性、事業特性及び地域特性を勘案し、並びに地域特性が時間の経過に伴って変化
するものであることを踏まえ、当該選定項目に係る予測及び評価において必要とされる水準が確保
されるよう選定しなければならない。
一 調査すべき情報選定項目に係る環境要素の状況に関する情報又は気象、水象その他の自然的
状況若しくは人口、産業、土地利用、水域利用その他の社会的状況に関する情報
二 調査の基本的な手法国又は関係する地方公共団体が有する文献その他の資料の入手、専門家
等からの科学的知見の聴取、現地調査その他の方法により調査すべき情報を収集し、その結果
を整理し、及び解析する手法
三 調査の対象とする地域(以下「調査地域」という。
)対象埋立て又は干拓事業の実施により選
定項目に関する環境要素に係る環境影響を受けるおそれがある地域又は土地の形状が変更され
る区域及びその周辺の区域その他の調査に適切な範囲であると認められる地域
四 調査に当たり一定の地点に関する情報を重点的に収集することとする場合における当該地点
(別表第二において「調査地点」という。
)調査すべき情報の内容及び特に環境影響を受けるお
それがある対象の状況を踏まえ、地域を代表する地点その他の調査に適切かつ効果的であると
認められる地点
五 調査に係る期間、時期又は時間帯(別表第二において「調査期間等」という。
)調査すべき情
報の内容を踏まえ、調査に適切かつ効果的であると認められる期間、時期又は時間帯
2 前項第二号に規定する調査の基本的な手法のうち、情報の収集、整理又は解析について法令等に
より定められた手法がある環境要素に係る選定項目に係るものについては、当該法令等により定め
られた手法を踏まえ、適切な調査の手法を選定するものとする。
3 第一項第五号に規定する調査に係る期間のうち、季節による変動を把握する必要がある調査の対
象に係るものについては、これを適切に把握できるよう調査に係る期間を選定するものとし、年間
を通じた調査に係るものについては、必要に応じ調査すべき情報に大きな変化がないことが想定さ
- 120 -
れる時期に調査を開始するように調査に係る期間を選定するものとする。
4 事業者は、第一項の規定により調査の手法を選定するに当たっては、調査の実施に伴う環境への
影響を回避し、又は低減するため、できる限り環境への影響が小さい手法を選定するよう留意しな
ければならない。
5 事業者は、第一項の規定により調査の手法を選定するに当たっては、調査により得られる情報が
記載されていた文献名、当該情報を得るために行われた調査の前提条件、調査地域の設定の根拠、
調査の日時その他の当該情報の出自及びその妥当性を明らかにできるようにしなければならない。
この場合において、希少な動植物の生息又は生育に関する情報については、必要に応じ、公開に当
たって種及び場所を特定できないようにすることその他の希少な動植物の保護のために必要な配慮
を行うものとする。
6 事業者は、第一項の規定により調査の手法を選定するに当たっては、長期間の観測結果が存在し
ており、かつ、現地調査を行う場合にあっては、当該観測結果と現地調査により得られた結果とを
比較できるようにしなければならない。
(予測の手法)
第十条 事業者は、対象埋立て又は干拓事業に係る環境影響評価の予測の手法を選定するに当たって
は、第八条に定めるところによるほか、次の各号に掲げる予測の手法に関する事項について、それぞ
れ当該各号に定めるものを、当該選定項目の特性、事業特性及び地域特性を勘案し、当該選定項目に
係る評価において必要とされる水準が確保されるよう選定しなければならない。
一 予測の基本的な手法環境の状況の変化又は環境への負荷の量を、理論に基づく計算、模型によ
る実験、事例の引用又は解析その他の手法により、定量的に把握する手法
二 予測の対象とする地域(第四項及び別表第二において「予測地域」という。
)調査地域のうちか
ら適切に選定された地域
三 予測に当たり一定の地点に関する環境の状況の変化を重点的に把握することとする場合におけ
る当該地点(別表第二において「予測地点」という。
)選定項目の特性に応じて保全すべき対象の
状況を踏まえ、地域を代表する地点、特に環境影響を受けるおそれがある地点、保全すべき対象
への環境影響を的確に把握できる地点その他の予測に適切かつ効果的な地点
四 予測の対象とする時期、期間又は時間帯(別表第二において「予測対象時期等」という。
)工事
の実施による環境影響が最大になる時期その他の予測に適切かつ効果的な時期、期間又は時間帯
2 前項第一号に規定する予測の基本的な手法については、定量的な把握が困難な場合にあっては、
定性的に把握する手法を選定するものとする。
3 第一項第四号に規定する予測の対象とする時期については、予測の前提条件が予測の対象となる
期間内で大きく変化する場合にあっては、必要に応じ同号に規定する時期での予測に加え中間的な
時期での予測を行うものとする。
4 事業者は、第一項の規定により予測の手法を選定するに当たっては、予測の基本的な手法の特徴
及びその適用範囲、予測地域の設定の根拠、予測の前提となる条件、予測で用いた原単位及び係数
その他の予測に関する事項について、選定項目の特性、事業特性及び地域特性に照らし、それぞれ
その内容及び妥当性を予測の結果との関係と併せて明らかにできるようにしなければならない。
5 事業者は、第一項の規定により予測の手法を選定するに当たっては、対象埋立て又は干拓事業以
外の事業活動その他の地域の環境を変化させる要因によりもたらされる当該地域の将来の環境の状
況(将来の環境の状況の推定が困難な場合及び現在の環境の状況を勘案することがより適切な場合
にあっては、現在の環境の状況)を明らかにできるよう整理し、これを勘案して予測が行われるよ
うにしなければならない。この場合において、将来の環境の状況は、関係する地方公共団体が有す
る情報を収集して推定するとともに、将来の環境の状況の推定に当たって、国又は関係する地方公
共団体が実施する環境の保全に関する施策の効果を見込むときは、当該施策の内容を明らかにでき
るよう整理するものとする。
6 事業者は、第一項の規定により予測の手法を選定するに当たっては、対象埋立て又は干拓事業に
おいて新規の手法を用いる場合その他の環境影響の予測に関する知見が十分に蓄積されていない場
- 121 -
合において、予測の不確実性の程度及び不確実性に係る環境影響の程度を勘案して必要と認めると
きは、当該不確実性の内容を明らかにできるようにしなければならない。この場合において、予測
の不確実性の程度については、必要に応じ予測の前提条件を変化させて得られるそれぞれの予測の
結果のばらつきの程度により把握するものとする。
(評価の手法)
第十一条 事業者は、対象埋立て又は干拓事業に係る環境影響評価の評価の手法を選定するに当たっ
ては、次に掲げる事項に留意しなければならない。
一 調査及び予測の結果並びに第十四条第一項の規定による検討を行った場合においてはその結果を
踏まえ、対象埋立て又は干拓事業の実施により当該選定項目に係る環境要素に及ぶおそれがある影
響が、事業者により実行可能な範囲内でできる限り回避され、又は低減されており、必要に応じそ
の他の方法により環境の保全についての配慮が適正になされているかどうかを評価する手法である
こと。
二 前号に掲げる手法は、評価の根拠及び評価に関する検討の経緯を明らかにできるようにするもの
であること。
三 国又は関係する地方公共団体が実施する環境の保全に関する施策によって、選定項目に係る環境
要素に関して基準又は目標が示されている場合には、当該基準又は目標と調査及び予測の結果との
間に整合が図られているかどうかを評価すること。
四 前号に掲げる手法は、次に掲げるものであること。
イ 当該基準又は目標に照らすこととする考え方を明らかにできるようにするもの。
ロ 工事の実施に当たって長期間にわたり影響を受けるおそれのある環境要素であって、当該環境
要素に係る環境基準が定められているものについては、当該環境基準と調査及び予測の結果との
間に整合が図られているかどうかを検討するもの。
五 事業者以外の者が行う環境の保全のための措置の効果を見込む場合には、当該措置の内容を明ら
かにできるようにすること。
(手法選定に当たっての留意事項)
第十二条 事業者は、対象埋立て又は干拓事業に係る環境影響評価の調査、予測及び評価の手法(以
下この条において「手法」という。
)を選定するに当たっては、第五条の規定により把握した事業特
性及び地域特性に関する情報を踏まえ、必要に応じ専門家等の助言を受けて選定するものとする。
2 事業者は、前項の規定により専門家等の助言を受けた場合には、当該助言の内容及び当該専門家
等の専門分野を明らかにできるよう整理しなければならない。
3 事業者は、環境影響評価を行う過程において手法の選定に係る新たな事情が生じたときは、必要
に応じ手法の見直しを行わなければならない。
4 事業者は、手法の選定を行ったときは、選定された手法及び選定の理由を明らかにできるよう整
理しなければならない。
(環境保全措置に関する指針)
第十三条 対象埋立て又は干拓事業に係る法第十二条第二項に規定する環境の保全のための措置に関
する指針については、次条から第十七条までに定めるところによる。
(環境保全措置の検討)
第十四条 事業者は、環境影響がないと判断される場合及び環境影響の程度が極めて小さいと判断さ
れる場合以外の場合にあっては、事業者により実行可能な範囲内で選定項目に係る環境影響をでき
る限り回避し、又は低減すること、必要に応じ損なわれる環境の有する価値を代償すること及び当
該環境影響に係る環境要素に関して国又は関係する地方公共団体が実施する環境の保全に関する施
策によって示されている基準又は目標の達成に努めることを目的として環境の保全のための措置
(以下「環境保全措置」という。
)を検討しなければならない。
- 122 -
2 事業者は、前項の規定による検討に当たっては、環境影響を回避し、又は低減させる措置を検討
し、その結果を踏まえ、必要に応じ、損なわれる環境の有する価値を代償するための措置(以下「代
償措置」という。
)を検討しなければならない。
(検討結果の検証)
第十五条 事業者は、前条第一項の規定による検討を行ったときは、環境保全措置についての複数の
案の比較検討、実行可能なより良い技術が取り入れられているかどうかの検討その他の適切な検討
を通じて、事業者により実行可能な範囲内で対象埋立て又は干拓事業に係る環境影響ができる限り
回避され、又は低減されているかどうかを検証しなければならない。
(検討結果の整理)
第十六条 事業者は、第十四条第一項の規定による検討を行ったときは、次に掲げる事項を明らかに
できるよう整理しなければならない。
一 環境保全措置の実施主体、方法その他の環境保全措置の実施の内容
二 環境保全措置の効果及び当該環境保全措置を講じた後の環境の状況の変化並びに必要に応じ当
該環境保全措置の効果の不確実性の程度
三 環境保全措置の実施に伴い生ずるおそれがある環境への影響
四 代償措置にあっては、環境影響を回避し、又は低減させることが困難である理由
五 代償措置にあっては、損なわれる環境及び環境保全措置により創出される環境に関し、それぞれ
の位置並びに損なわれ又は創出される当該環境に係る環境要素の種類及び内容
六 代償措置にあっては、当該代償措置の効果の根拠及び実施が可能であると判断した根拠
2 事業者は、第十四条第一項の規定による検討を段階的に行ったときは、それぞれの検討の段階に
おける環境保全措置について、具体的な内容を明らかにできるよう整理しなければならない。
(事後調査)
第十七条 事業者は、次の各号のいずれかに該当すると認められる場合において、環境影響の程度が
著しいものとなるおそれがあるときは、対象埋立て又は干拓事業に係る工事の実施中及び竣功後の
環境の状況を把握するための調査(以下この条において「事後調査」という。
)を行わなければなら
ない。
一 予測の不確実性の程度が大きい選定項目について環境保全措置を講ずる場合
二 効果に係る知見が不十分な環境保全措置を講ずる場合
三 工事の実施中及び竣功後において環境保全措置の内容をより詳細なものにする必要があると認
められる場合
四 代償措置について、効果の不確実性の程度及び知見の充実の程度を勘案して事後調査が必要であ
ると認められる場合
2 事業者は、事後調査の項目及び手法の選定に当たっては、次に掲げる事項に留意しなければなら
ない。
一 事後調査の必要性、事業特性及び地域特性に応じ適切な項目を選定すること。
二 事後調査を行う項目の特性、事業特性及び地域特性に応じ適切な手法を選定するとともに、事後
調査の結果と環境影響評価の結果との比較検討が可能となるようにすること。
三 事後調査の実施に伴う環境への影響を回避し、又は低減するため、できる限り環境への影響が小
さい手法を選定すること。
3 事業者は、事後調査の項目及び手法の選定に当たっては、次に掲げる事項をできる限り明らかに
するよう努めなければならない。
一 事後調査を行うこととした理由
二 事後調査の項目及び手法
三 事後調査の結果により環境影響の程度が著しいことが明らかとなった場合の対応の方針
- 123 -
四 事後調査の結果の公表の方法
五 関係する地方公共団体その他の事業者以外の者(以下この号において「関係地方公共団体等」と
いう。
)が把握する環境の状況に関する情報を活用しようとする場合における当該関係地方公共団
体等との協力又は当該関係地方公共団体等への要請の方法及び内容
六 事業者以外の者が事後調査の実施主体となる場合にあっては、当該実施主体の氏名(法人にあっ
ては、その名称)並びに当該実施主体との協力又は当該実施主体への要請の方法及び内容七前各号
に掲げるもののほか、事後調査の実施に関し必要な事項
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参考資料3「発電所の設置又は変更の工事の事業」に係る主務省令の地形、生物、生態系
に関する調査、予測に関する参考手法(抜粋)
Ⅰ.環境要素の区分:重要な地形及び地質 影響要因の区分:地形改変及び施設の存在
(1) 調査の手法
1.調査すべき情報
イ 地形及び地質の状況
ロ 重要な地形及び地質の分布、状態及び特性
2.調査の基本的な手法
文献その他の資料及び現地調査による情報の収集並びに当該情報の整理及び解析
3.調査地域
対象事業実施区域及びその周辺区域
4.調査地点
地形及び地質の特性を踏まえ、前号の調査地域における重要な地形及び地質に係る環境影響を予測
し、及び評価するために適切かつ効果的な地点
5.調査期間等
地形及び地質の特性を踏まえ、第三号の調査地域における重要な地形及び地質に係る環境影響を予
測し、及び評価するために適切かつ効果的な時期
(2)予測の手法
1.予測の基本的な手法
重要な地形及び地質について、分布、成立環境の改変の程度を把握した上で、事例の引用又は解析
2.予測地域
第三号の調査地域のうち、地形及び地質の特性を踏まえ、重要な地形及び地質に係る環境影響を受
けるおそれがある地域
8.予測対象時期等
重要な地形及び地質の特性を踏まえ、地形及び地質に係る環境影響を的確に把握できる時期
Ⅱ.環境要素の区分:重要な種及び注目すべき生息地(海域に生息するものを除く)
影響要因の区分:地形改変及び施設の存在
(1) 調査の手法
1.調査すべき情報
イ 哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類、昆虫類に関する動物相の状況
ロ 重要な種及び注目すべき生息地の分布、生息の状況及び生息環境の状況
2.調査の基本的な手法
文献その他の資料及び現地調査による情報の収集並びに当該情報の整理及び解析
3.調査地域
対象事業実施区域及びその周辺区域
4.調査地点
動物の生息の特性を踏まえ、前号の調査地域における重要な種及び注目すべき生息地に係る環
境影響を予測し、及び評価するために適切かつ効果的な地点又は経路
5.調査期間等
動物の生息の特性を踏まえ、第三号の調査地域における重要な種及び注目すべき生息地に係る
環境影響を予測し、及び評価するために適切かつ効果的な期間、時期及び時間帯
(2)予測の手法
1.予測の基本的な手法
重要な種及び注目すべき生息地について、分布又は生息環境の改変の程度を把握した上で、事
例の引用又は解析
- 125 -
2.予測地域
第三号の調査地域のうち、動物の生息の特性を踏まえ、重要な種及び注目すべき生息地に係る
環境影響を受けるおそれがある地域
3.予測対象時期等
動物の生息の特性を踏まえ、重要な種及び注目すべき生息地に係る環境影響を的確に把握でき
る時期
Ⅲ.環境要素:海域に生息する動物 影響要因:地形改変及び施設の存在
(1) 調査の手法
1.調査すべき情報
イ 魚等の遊泳動物、潮間帯生物(動物)、底生生物(動物)、動物プランクトン、卵・稚仔(以下「海
生動物」という。)の主な種類及び分布の状況
ロ 干潟、藻場、さんご礁の分布及びそこにおける動物の生息環境の状況
ハ 重要な種及び注目すべき生息地の分布、生息の状況及び生息環境の状況
2.調査の基本的な手法
文献その他の資料及び現地調査による情報の収集並びに当該情報の整理及び解析
3.調査地域
対象事業実施区域及びその周辺区域
4.調査地点
動物の生息の特性を踏まえ、前号の調査地域における海生動物及び干潟、藻場、さんご礁にお
ける動物の生息環境並びに重要な種及び注目すべき生息地に係る環境影響を予測し、及び評価す
るために適切かつ効果的な地点又は経路
5.調査期間等
動物の生息の特性を踏まえ、第三号の調査地域における海生動物及び干潟、藻場、さんご礁に
おける動物の生息環境並びに重要な種及び注目すべき生息地に係る環境影響を予測し、及び評価
するために適切かつ効果的な期間、時期及び時間帯
(2)予測の手法
1.予測の基本的な手法
海生動物及び干潟、藻場、さんご礁における動物の生息環境並びに重要な種及び注目すべき生
息地について、分布又は生息環境の改変の程度を把握した上で、事例の引用又は解析
2.予測地域
第三号の調査地域のうち、動物の生息の特性を踏まえ、海生動物及び干潟、藻場、さんご礁に
おける動物の生息環境並びに重要な種及び注目すべき生息地に係る環境影響を受けるおそれがあ
る地域
3.予測対象時期等
動物の生息の特性を踏まえ、海生動物及び干潟、藻場、さんご礁における動物の生息環境並び
に重要な種及び注目すべき生息地に係る環境影響を的確に把握できる時期
Ⅳ.環境要素:重要な種及び群落(海域に生育するものを除く)
影響要因:地形改変及び施設の存在
(1) 調査の手法
1.調査すべき情報
イ 種子植物その他主な植物に関する植物相及び植生の状況
ロ 重要な種及び重要な群落の分布、生育の状況及び生育環境の状況
2.調査の基本的な手法
文献その他の資料及び現地調査による情報の収集並びに当該情報の整理及び解析
3.調査地域
対象事業実施区域及びその周辺区域
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4.調査地点
植物の生育及び植生の特性を踏まえ、前号の調査地域における重要な種及び重要な群落に係る
環境影響を予測し、及び評価するために適切かつ効果的な地点又は経路
5.調査期間等
植物の生育及び植生の特性を踏まえ、第三号の調査地域における重要な種及び重要な群落に係
る環境影響を予測し、及び評価するために適切かつ効果的な期間、時期及び時間帯
(2)予測の手法
1.予測の基本的な手法
重要な種及び重要な群落について、分布又は生育環境の改変の程度を把握した上で、事例の引
用又は解析
2.予測地域
第三号の調査地域のうち、植物の生育及び植生の特性を踏まえ、重要な種及び重要な群落に係
る環境影響を受けるおそれがある地域
3.予測対象時期等
植物の生育及び植生の特性を踏まえ、重要な種及び重要な群落に係る環境影響を的確に把握で
きる時期
Ⅳ.環境要素:海域に生育する植物
影響要因:地形改変及び施設の存在
(1) 調査の手法
1.調査すべき情報
イ 潮間帯生物(植物)
、海藻草類及び植物プランクトン(以下「海生植物」という。
)の主な種
類及び分布の状況
ロ 干潟、藻場、さんご礁の分布及びそこにおける植物の生育環境の状況
2.調査の基本的な手法
文献その他の資料及び現地調査による情報の収集並びに当該情報の整理及び解析
3.調査地域
対象事業実施区域及びその周辺区域
4.調査地点
植物の生育の特性を踏まえ、前号の調査地域における海生植物及び干潟、藻場、さんご礁にお
ける植物の生育環境に係る環境影響を予測し、及び評価するために適切かつ効果的な地点又は経
路
5.調査期間等
植物の生育の特性を踏まえ、前号の調査地域における海生植物及び干潟、藻場、さんご礁にお
ける植物の生育環境への影響を予測及び評価するために適切かつ効果的な期間、時期及び時間帯
(2)予測の手法
1.予測の基本的な手法
海生植物及び干潟、藻場、さんご礁について、分布又は生育環境の改変の程度を把握した上で、
事例の引用又は解析
2.予測地域
第三号の調査地域のうち、植物の生育の特性を踏まえ、海生植物及び干潟、藻場、さんご礁に
おける植物の生育環境に係る環境影響を受けるおそれがある地域
3.予測対象時期等
植物の生育の特性を踏まえ、海生植物及び干潟、藻場、さんご礁における植物の生育環境に係
る環境影響を的確に把握できる時期
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Ⅴ.環境要素:地域を特徴づける生態系
影響要因:地形改変及び施設の存在
(1) 調査の手法
1.調査すべき情報
イ 動植物その他の自然環境に係る概況
ロ 複数の注目種等の生態、他の動植物との関係又は生息環境若しくは生育環境の状況
2.調査の基本的な手法
文献その他の資料及び現地調査による情報の収集並びに当該情報の整理及び解析
3.調査地域
陸域における対象事業実施区域及びその周辺区域
4.調査地点
動植物その他の自然環境の特性及び注目種等の特性を踏まえ、前号の調査地域における注目種
等に係る環境影響を予測し及び評価するために適切かつ効果的な地点又は経路
5.調査期間等
動植物その他の自然環境の特性及び注目種等の特性を踏まえ、第三号の調査地域における注目
種等に係る環境影響を予測し、及び評価するために適切かつ効果的な期間、時期及び時間帯
(2)予測の手法
1.予測の基本的な手法
注目種等について、分布、生息又は生育環境の改変の程度を把握した上で、事例の引用又は解
析
2.予測地域
第三号の調査地域のうち、動植物その他の自然環境の特性及び注目種等の特性を踏まえ、注目
種等に係る環境影響を受けるおそれがある地域
3.予測対象時期等
動植物その他の自然環境の特性及び注目種等の特性を踏まえ、注目種等に係る環境影響を的確
に把握できる時期
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参考資料4「公有水面の埋立て又は干拓の事業」に係る主務省令の地形、生物、生態系に
関する調査、予測に関する参考手法(抜粋)
Ⅰ.環境要素の区分:重要な地形及び地質 影響要因の区分:埋立地又は干拓地の存在
(1) 調査の手法
1.調査すべき情報
イ 地形及び地質の概況
ロ 重要な地形及び地質の分布、状態及び特性
2.調査の基本的な手法
文献その他の資料及び現地調査による情報の収集並びに当該情報の整理及び解析
3.調査地域
対象埋立て又は干拓事業実施区域及びその周辺の区域
4.調査地点
地形及び地質の特性を踏まえて調査地域における重要な地形及び地質に係る環境影響を予測し、
及び評価するために必要な情報を適切かつ効果的に把握できる地点
5.調査期間等
地形及び地質の特性を踏まえて調査地域における重要な地形及び地質に係る環境影響を予測し、
及び評価するために必要な情報を適切かつ効果的に把握できる時期
(2)予測の手法
1.予測の基本的な手法
重要な地形及び地質について、分布又は成立環境の改変の程度を踏まえた事例の引用又は解析
2.予測地域
調査地域のうち、地形及び地質の特性を踏まえて重要な地形及び地質に係る環境影響を受けるお
それがあると認められる地域
3.予測対象時期等
地形及び地質の特性を踏まえて重要な地形及び地質に係る環境影響を的確に把握できる時期
Ⅱ.環境要素の区分:重要な種及び注目すべき生息地 影響要因の区分:埋立地又は干拓地の存在
(1) 調査の手法
1.調査すべき情報
イ 鳥類その他主な陸生動物及び主な水生動物に係る動物相の状況
ロ 動物の重要な種の分布、生息の状況
ハ 注目すべき生息地の分布並びに当該生息地が注目される理由である動物の種の生息の状況及び
生息環境の状況
2.調査の基本的な手法
文献その他の資料及び現地調査による情報の収集並びに当該情報の整理及び解析
3.調査地域
対象埋立て又は干拓事業実施区域及びその周辺の区域
4.調査地点
動物の生息の特性を踏まえて調査地域における重要な種及び注目すべき生息地に係る環境影響を
予測し、及び評価するために必要な情報を適切かつ効果的に把握できる地点又は経路
5.調査期間等
動物の生息の特性を踏まえて調査地域における重要な種及び注目すべき生息地に係る環境影響を
予測し、及び評価するために必要な情報を適切かつ効果的に把握できる期間、時期及び時間帯
(2)予測の手法
1.予測の基本的な手法
動物の重要な種及び注目すべき生息地について、分布又は生息環境の改変の程度を踏まえた事例
の引用又は解析
- 129 -
2.予測地域
調査地域のうち、動物の生息の特性を踏まえて重要な種及び注目すべき生息地に係る環境影響を
受けるおそれがあると認められる地域
3.予測対象時期等
動物の生息の特性を踏まえて重要な種及び注目すべき生息地に係る環境影響を的確に把握できる
時期
Ⅲ.環境要素の区分:重要な種及び群落 影響要因の区分:埋立地又は干拓地の存在
(1) 調査の手法
1.調査すべき情報
イ 河川又は湖沼にあっては種子植物その他主な植物に係る植物相及植物の重要な種及び植生
の状況、海域にあっては海藻類その他主な植物に係る植物相及び植生の状況
ロ 植物の重要な種及び群落の分布、生育の状況及び生育環境の状況
2.調査の基本的な手法
文献その他の資料及び現地調査による情報の収集並びに当該情報の整理及び解析
3.調査地域
対象埋立て又は干拓事業実施区域及びその周辺の区域
4.調査地点
植物の生育及び植生の特性を踏まえて調査地域における重要な種及び群落に係る環境影響を予測
し、及び評価するために必要な情報を適切かつ効果的に把握できる地点又は経路
5.調査期間等
植物の生育及び植生の特性を踏まえて調査地域における重要な種及び群落に係る環境影響を予測
し、及び評価するために必要な情報を適切かつ効果的に把握できる期間、時期及び時間帯
(2)予測の手法
1.予測の基本的な手法
植物の重要な種及び群落について、分布又は生育環境の改変の程度を踏まえた布事例の引用又は
解析
2.予測地域
調査地域のうち、植物の生育及び植生の特性を踏まえて重要な種及び群落に係る環境影響を受け
るおそれがあると認められる地域
3.予測対象時期等
植物の生育及び植生の特性を踏まえて重要な種及び群落に係る環境影響を的確に把握できる時期
Ⅳ.環境要素の区分:地域を特徴づける生態系 影響要因の区分:埋立地又は干拓地の存在
(1) 調査の手法
1.調査すべき情報
イ 動植物その他の自然環境に係る概況
ロ 複数の注目種等の生態、他の動植物との関係又は生息環境若しくは生育環境の状況
2.調査の基本的な手法
文献その他の資料及び現地調査による情報の収集並びに当該情報の整理及び解析
3.調査地域
対象埋立て又は干拓事業実施区域及びその周辺の区域
4.調査地点
動植物その他の自然環境の特性及び注目種等の特性を踏まえて調査地域における注目種等に係る
環境影響を予測し、及び評価するために必要な情報を適切かつ効果的に把握できる地点又は経路
5.調査期間等
動植物その他の自然環境の特性及び注目種等の特性を踏まえて調査地域における注目種等に係る
- 130 -
環境影響然を予測し、及び評価するために必要な情報を適切かつ効果的に把握できる期間、時期及
び時間帯
(2)予測の手法
1.予測の基本的な手法
注目種等について、分布、生息環境又は生育環境の改変の程度(地形の変化に関する計算又は事例
の引用若しくは解析により把握された地形の変化の程度を含む。)を踏まえた事例の引用又は解析
2.予測地域
調査地域のうち、動植物その他の自然環境の特性及び注目種等の特性を踏まえて注目種等に係る
環境影響を受けるおそれがあると認められる地域
3.予測対象時期等
動植物その他の自然環境の特性及び注目種等の特性を踏まえて注目種等に係る環境影響を的確に
把握できる時期
- 131 -
参考資料5 干潟における調査法の参考例
(1)干潟の地形形成
表 干潟の地形形成に関する調査法の参考例
調査法
海
浜
流
調
査
トレーサー追跡法
流速計による観測
深浅測量図の比較
空中写真の比較
蛍光砂の流れの解析
特徴
適用範囲
フロート、染料等を投入し、
その軌跡を追跡することによ
り海浜流を観測する方法であ
る。追跡方法は、2台のトラン
シットや平板を用いて目視に
よるものと、ヘリコプターや気
球等を用いた写真撮影による
方法がある。前者はフロート数
が限られるが、後者は多数のフ
ロートを一度に観察できる。
最近では、GPS を内蔵したフ
ロートを用いた方法もある。
電磁流速計や超音波流速計
(ADCP)を用いて海浜流を測定
する方法。
電磁流速計は通常2成分の
流速が測れ、ADCP は鉛直成分
を含む3成分の流速も計測で
きる。
離岸流の発生箇
所や空間規模など
の流況を把握する
には、空中写真、 フ
ロート、GPS フロー
ト、および染料の使
用が適している。
過去に行われた深浅測量図や
定期的に深浅測量を行い海浜
縦断面の特徴を把握するとと
もに、それらのデータから汀線
位置を把握して汀線経年変化
図を作成する。得られた汀線経
年変化図をもとに侵食実態を
把握する.
第 2 次世界大戦直後に米軍が
撮影した空中写真や国土地理
院が数回にわたって撮影した
空中写真を収集して、各時期の
汀線形状を読みとり、それらを
比較して汀線経年変化図を作
成する。
干潟背後地の土地利用の変
化も把握できる。
現地の砂に蛍光塗料で染めた
蛍光砂を海底に投入し、その後
底質サンプリングにより、含ま
れている蛍光砂数を解析し、漂
砂量を求める方法である。
詳細な海浜流のデ
ータが取れるが、岸
沖方向、沿岸方向に
複数箇所に流速計 「改訂新版 河川砂防
を設置する必要が 技術基準(案)同解説
調査編」 建設省河川
ある。
局監修 1997 年 山海
堂
既存の深浅測量図
がない場合は、経年 「海岸環境工学」本間
変化図が作成でき 仁 監修 1985 年 東
ない。地形変化が小 京大学出版
さい干潟では、測量
時期の間隔が短い 「汽水域の河川環境
場合、侵食の傾向が の捉え方に関する手
引書」平成 16 年汽水
把握しづらい。
域の河川環境の捉え
方に関する検討会
空中写真の撮影時
の潮位による補正
「海洋観測指針」気象
が必要である。
丁編 1990 年 (財)
対象水域の広域
日本気象協会
的な汀線変化や漂
砂方向の概況を把
「海岸施設設計便覧
握するのに適して
2000 年版」 2000 年
いる。また、経年的
海岸工学委員会(財)
に見ていくと構造
土木学会
物の存在による汀
線変化の状況も把
など
握できる。
調査に長時間を要
する。
泥干潟の場合、蛍
光砂に替えて、別の
トレーサーを検討
する必要がある。泥
粒子に吸着してい
る供給源となる河
川特有の化学物質
などが考えられる。
干潟の底質の粒度組成や重鉱
堆積物の粒度分析や重 物分析により、堆積した年代等 泥干潟の場合、重鉱
を把握でき、河川特有な重鉱物
物分析が難しい。
鉱物分析のよる解析
の組成等により、供給源を推定
できる。
- 132 -
参考資料
なお、海浜流や漂砂は、風や波浪による影響を強く受けるため、調査時の風や波浪の
情報を取得する必要がある。
既存の近傍の気象観測所の風のデータを用いる時は、対象とする干潟と観測所の位置
関係、地形条件、建物等に留意して使用できるデータかどうか十分に検討する必要があ
る。
波浪の既存データは、国土交通省が観測しているデータ(全国港湾海洋波浪観測資料)
や気象庁が沿岸波浪を観測しているデータ(波浪資料)があり、対象干潟の位置する水
域に観測所がある時は利用が可能である。
参考 気象庁、国土交通省が波浪観測している観測地点
気象庁沿岸波浪計の観測開始時期
観測地点
観測実施官署
1 日 8 回観測開始
1 日 24 回観測開始
尻 羽 岬 釧路地方気象台
―
1985. 4. 1
松前
函館海洋気象台
1979. 1. 1
1992. 7.24
温海
山形地方気象台
1981. 3. 1
1985.11.23
江ノ 島
仙台管区気象台
1978. 4. 1
1992. 3.14
石 廊 崎 静岡地方気象台
1976. 4. 1
1988. 3.13
鹿島
松江地方気象台
1984. 4. 1
1994. 3.10
経 ヶ 岬 舞鶴海洋気象台
1976. 5. 1
1988. 3.22
福 江 島 長崎海洋気象台
1980. 4. 1
1989. 1.23
佐 多 岬 鹿児島地方気象台
1982. 3. 1
1992.10.21
佐 喜 浜 高知地方気象台
1977. 7. 1
1985.12. 5
喜屋武岬 沖 縄 気 象 台
1983. 2. 1
1991. 9.17
1 日 8 回観測 :日本時間 03, 06, 09, 12, 15, 18, 21, 24 時に観測
1 日 24 回観測:毎正時に観測
国土交通省が行っている波浪観測所
- 133 -
(2)干潟動物
1)鳥 類
表 鳥類の調査法の参考例
調査法
①ラインセンサス法
②定点観察法
③任意観察法
特徴
一定の調査ルート上を時速 1.5~2km程
度で踏査し、観察幅内(片側 25m~50m)に
出現する鳥類の種及び個体数等を鳴き声及
び直接観察などで確認し、記録する方法で
ある。
見通しのきく場所に定点を設定し、出現す
る種類、個体数等を鳴き声、直接観察により
記録する方法である。視野の範囲内の識別
が可能な範囲内までを対象とし、一定時間
観察を行う。
ラインセンサス法及び定点観察法による調
査以外の場所及び観察日・時間帯における
任意の観察調査で、鳴声、直接観察などで
確認し、記録する。また、繁殖期には、調査
地域の環境特性に応じて繁殖状況について
も調査する。
適用範囲
干潟で行う場合、
調査ルートが海岸
線背後となること
が多く、干潟全体の
把握は難しい。
主として海上、湖
沼、干潟等の見通し
がよく、観察距離が
遠い場所。時間帯に
よる鳥類の分布利
用状況を把握する
ことが可能である。
干潟の広さや地形
の状況に応じて観
察地点を設ける必
要がある。
任意の場所や時
間帯に観察でき、①
②の補足調査とし
て鳥類相を把握す
るには有効である。
参考資料
「自然環境アセスメン
ト技術マニュアル」
1995 年(財)自然環境
研究センター
「平成9年度版 河川
水辺の国勢調査マニ
ュアル(生物調査編)」
平成9年 (財)リバ
ーフロント整備セン
ター
「干潟の生物観察ハン
ドブック」昭和 54 年
秋山章男・松田道生
共著 ㈱東洋館出版
社
など
また、干潟の鳥類相については、既存の資料が多く、経年的に調査が行われているこ
ともあり、県や市町村の資料や地元NPO等の団体の資料を活用することも必要である。
- 134 -
2)魚 類
表 魚類の調査法の参考例
調査法
特徴
適用範囲
参考資料
刺網、投網、地曳網、定置網等の漁
漁具の特徴をよく理解して対 「平成9年度版 河川水
①漁具に
具を用いて捕獲し、種の同定、種別個 象とする魚類の生態、大きさを考 辺の国勢調査マニュア
よる採集
体数の計数及び全長、体重の測定を行 慮して漁具や目合いを選定する ル(生物調査編)」
法
うなどの方法がある。
予め設定した地点又は測線におい
て、潜水目視観察を行い魚類等の遊泳
② 潜水目
視観察法 動物の出現状況を記録するなどの方法
がある。
調査地域において操業している漁業
③ 標 本 船 者(漁船等)の中から標本となる漁業者
等 に よ る (漁船等)を選定し、漁獲物から魚類等
方法
の遊泳動物の種類、漁獲量を調査する
などの方法がある。
必要がある。
平成9年 (財)リバー
遊泳して観察するにはある程 フロント整備センター
度の水深が必要である。また、干
満の潮の流れで濁る干潟や透明 など
度が悪い水域では観察が難しく
なる。
漁業は、漁業権により漁法や目
合い等が決められており、小型の
魚種や個体を把握するのには向
かない場合がある。
3)底生動物
表 底生動物の調査法の参考例
調査法
定
性
調
査
法
定
量
調
査
法
そ
の
他
の
調
査
法
特
徴
対象とする干潟の様々な環境に生息する
底生動物を把握するために、予め設定した
ルート上を大潮時の干潮時に踏査し、干潟
表面に生息する底生動物及び環境を記録
①目視観
する。また、ルート上の代表点においてシャ
察
ベル等で底質を掘り返し、目視で確認でき
た底生動物を採集する。種名、個体数の多
寡を記録する。不明種については持ち帰り
同定するなどの方法
予め設定した地点で、一定面積の方形枠
内の底質を一定の深さまで採泥し、1mm 目
②コドラート のフルイにかけ、フルイ上に残った底生動
物をホルマリンで固定し、種の同定、種別個
法
体数の計数及び種別湿重量の測定を行う
などの方法
底質の状況に応じてエクマン・バージ型、ス
ミス・マッキンタイヤ型等の採泥器を用い採
泥し、1mm 目のフルイにかけ、フルイ上に
③採泥器に 残った底生動物をホルマリンで固定し、種
よる採集法 の同定、種別個体数の計数及び種別湿重
量の測定を行う。試料は1地点当たり複数回
採集し、これを混合して1調査地点の試料と
するなどの方法。
適用範囲
参考資料
対象干潟の広範囲を調
査するのに適している。
また、掘る深さは地点の
状況に応じて適宜替える
ことも可能である。
「平成9年度版
河川水辺の国勢
調査マニュアル
(生物調査編)」
平成9年 (財)
リバーフロント
整備センター
コドラートによる定量
採集は、底生動物の生息
量や生息密度を把握する
のに適している。
コドラートの大きさや
採泥する深さ、調査地点
数に費用的・物理的に限
界がある。
船上から水面下の底泥
を採泥する方法で、採泥
器の面積が決まっており
定量調査が可能である。
底質に礫が多い場合、採
泥が難しくなる。
「海洋観測指針」
気象丁編 1990
年 (財)日本気
象協会
「産業公害総合
事前調査におけ
る海域調査指
針」昭和 60 年
(財)産業公害防
止協会
「干潟の生物観
察ハンドブッ
ク」昭和 54 年
秋山章男・松田
道生 共著 ㈱
船により曳網するのが 東洋館出版社
ドレッジ、底曳網等を用いて曳網し、採集 一般的である。干潟では、
④ドレッジ
した底生動物をホルマリンで固定し、種の 魚類調査に用いる小型の など
又は漁具に
同定、種別個体数の計数及び種別湿重量 地曳網等によりエビカニ
よる採法
の測定を行うなどの方法
類等を採集する方法など
がある。
- 135 -
4)卵・稚仔
表 卵・稚仔の調査法の参考例
調査法
①ネット法
②採水法
特
徴
まるちネット(口径 1.3m、目合い
0.3mm ) 、 ま る な か ネ ッ ト ( 口 径
60cm、目合い 0.3mm)、まるとくネッ
ト(口径 45cm、目合い 0.3mm)や、
小型の曳網(目合い 0.3~3mm)、
押網(目合い 0.3~3mm)等を用い
て、一定速度で一定時間水平曳網
し、卵・稚仔を採取するなどの方法
である。採集した試料は、ホルマリ
ンで固定し、種の同定、種別個体
数の計数、卵径、全長の測定を行
うなどの方法がある。
水中ポンプを用いて採水した海
水を目合い 0.1~0.3mm のプランク
トンネットで濾過し濃縮し、試料と
するなどの方法がある。
適用範囲
参考資料
各種ネットの大きさにより、干潟の
水深によっては曳網ができないことや
口径が小さいほど採集量が減ることに
留意し、使用するネットや調査時間帯
を選定する必要がある。また、遊泳力
のある魚類の稚魚はネットでは採集が
難しい場合もあり、小型の曳網を用い
る方法もある。曳網の目合いは、対象
とする稚魚の大きさにより選定する。
目合いが細かいほど目詰まりしやす
い。
「産業公害総合
事前調査にお
ける海域調査
指針」昭和 60
年 (財)産業公
害防止協会
など
ネット法は測線の採集であるが、採
水法は地点の採集である。小型で遊泳
力の小さい卵や貝類や甲殻類の幼生の
採集に用いられる。
5)動物プランクトン
表 動物プランクトンの調査法の参考例
調査法
①ネット法
②採水法
特
徴
適用範囲
参考資料
卵稚仔と同様である。 「海洋観測指針」
北原式定量ネ ッ ト( 口径: 22.5cm、目合い :
水深が浅い場合、鉛直 気象丁編 1990
0.1mm) 、 ま る と く ネ ッ ト ( 口 径 45cm 、 目 合 い
0.3mm)等のプランクトンネットを用いて、海底上 曳きは難しく、水平曳きと 年 (財)日本気象
協会
約1mから海面まで鉛直曳きあるいは水平曳き なる。
し、動物プランクトンを採集するなどの方法であ
「産業公害総合事
る。採取した試料は、ホルマリンで固定し、種の同
前調査における
定、種別個体数の計数及び沈殿量の測定を行う
海域調査指針」昭
などの方法がある。
和 60 年 (財)産
卵稚仔の調査法と同様である。
卵稚仔と同様である。 業公害防止協会
水中ポンプを用いて採水した海水を目合い 0.1
~0.3mm のプランクトンネットで濾過し濃縮し、試
など
料とするなどの方法がある。
- 136 -
(3)干潟の植物
1)塩性植物
表 塩性植物の調査の参考例
調査項目
①植物相
②植生図
③植物群落
特
徴
現地踏査により、目視観察し出現種を確認する。
重要な種が確認された場合は、確認位置、個体数・
株数、生育環境の状況等を把握する。また、現地に
おいて同定が不可能な種については、サンプルを
採集し、同定を行うなどの方法がある。
植生図は、予め空中写真の読みとりにより予察図
を作成し、現地踏査により植生区分を補正し相観植
生図を作成するなどの方法がある。
区分された群落の構成植物の状況を把握する
には、群落ごとに代表地点で行うコドラート調査や
岸沖方向に設けた測線上で行うベルトトランセクト
調査などの方法がある。
コドラート調査は、植物社会学的方法(ブラウン-
ブランケの全推定法)により行い、地形条件、階層、
優占種、高さ、植比率、種数、被度、群度及び模式
断面図も植生調査票に記載する。コドラートの面積
は、対象が草原のときは1m2程度、マングローブな
どの樹林の場合は 100m2以上を目安とする。
ベルトトランセクト調査は、測線上に 0.5~1.0mの
幅内の優占種と高さ、生育種などを記録し、植生断
面図を作成する。
適用範囲
参考資料
重要種や種
の多様性を把
握するには植
物相の調査、
干潟を構成す
る環境の一つ
として植生の
分布状況を把
握するには植
生図の作成、
各植生(群落)
の構成植物や
環境の状況を
把握するには
植物群落調査
などがある。
「自然環境アセスメ
ント技術マニュア
ル」1995 年(財)自
然環境研究センタ
ー
「平成9年度版 河
川水辺の国勢調査
マニュアル(生物調
査編)」
平成9年 (財)リ
バーフロント整備
センター
など
2)海藻草類
表 海藻草類の調査法の参考例
調査法
①目視観察
②坪 刈 り 法
特
徴
調査地域全域にわたり、船上あるいは踏査し、
目視観察により海藻草類の分布域を把握する。
海藻草類の分布域において汀線に対して直角
になるように海側に複数の測線を設け、海藻草類
の分布限界水域まで船上目視観察及び潜水目
視観察により、生育している海藻草類の種類と被
度について記録するなどの方法がある。
各測線で藻場を代表すると考えられる場所にコ
ドラートを設置して「坪刈り」を行い、コドラート内
のすべての海藻草類を採集し、ホルマリンで固定
し、種の同定及び湿重量の測定を行うなどの方法
がある。
- 137 -
適用範囲
参考資料
ある程度の面積
で分布する海藻草
類を主に対象とし
ているので、特に船
上からの観察では、
単体や極小面積で
分布する海藻草類
の確認が難しい。
藻場を構成して
いる海藻草類の種
類を把握できる。ま
た、生育量を把握で
きる。
「 産業公害総合
事前調査におけ
る海域調査指
針 」 昭 和 60 年
(財)産業公害防
止協会
など
3)底生藻類
表 底生藻類の調査法の参考例
調査法
特
徴
参考資料
適用範囲
干潟表面の泥に垂直に、5cm×5cm、深さ 3~
物質循環を検討
5cm のプラスチックケースを差し込み、表層の底 する上では考慮す
質を分取し、底生藻類の分析試料とする。採取し べき項目の一つで
①コドラートに
た試料は、5%になるように中性ホルマリンで固定 ある。
よる採集
する。試料は人工海水またはろ過海水中に懸濁
させ、その一部を顕微鏡を用いて、種の同定、種
別に細胞数の計数を行うなどの方法がある。
4)植物プランクトン
表 植物プランクトンの調査法の参考例
調査法
①採水法
特
徴
バンドーン型採水器等の採水器を用い、表
層(水面下約 0.5m)より海水を一定量(プラン
クトン量に応じて1~5L 程度)採水し、ホルマ
リンで固定し、種を同定、種別に細胞数の計
数、沈殿量の測定を行うなどの方法がある。
- 138 -
適用範囲
参考資料
物質循環を検
討する上では
考慮すべき項
目の一つであ
る。
「海洋観測指針」気象丁編
1990 年 (財)日本気象協会
「産業公害総合事前調査におけ
る海域調査指針」昭和 60 年
(財)産業公害防止協会
など
6.参 考 文 献
6. 参 考 文 献
1)
「第2回自然環境保全基礎調査 海域調査報告書 海岸調査 干潟・藻場・サンゴ礁分布調査 海
域環境調査(全国版)」東洋航空事業株式会社 1980 年 環境庁
2)
「第4回自然環境保全基礎調査海域生物環境調査報告書(干潟、藻場、サンゴ礁調査)第1
巻干潟」環境庁編 1994 年 環境庁
3)
「第5回自然環境保全基礎調査 海辺調査 総合報告書」環境庁自然保護局編 1998 年 環境庁
4)
「干潟保全再生の技術と活用(建設コンサルタント協会会報誌 221 号)
」風呂田利夫著 2003
年 (社)建設コンサルタント協会
5)
「干潟等湿地生態系の管理に関する国際共同研究(平成 10~14 年)」国立環境研究所編集委員
会編 2003 年 独立行政法人 国立環境研究所
6)
「国土画像情報(カラー空中写真) http://w3land.mlit.go.jp/WebGIS 国土情報ウェブマッ
ピングシステム(試作版)
」国土交通省ホームページ
7)
「EIC ネットの環境用語集 http://www.eic.or.jp/」(財)環境情報普及センターホームページ
8)
「広辞苑 第5版」新村出編 1998 年 岩波書店
9)
「日本海洋プランクトン図鑑」 1991 年(株)保育社
10)
「日本の淡水魚」1993 年(株)山と渓谷社
11)
「フィールドガイド 日本の野鳥」1994 年(財)日本野鳥の会
12)
「干潟の生物観察ハンドブック」秋山章男・松田道生著 1974 年 東洋館出版社
13)
「海の自然再生ハンドブック 第2巻干潟編」海の自然再生ワーキンググループ著(株)ぎょ
うせい
14)
「藻場の復元に関する配慮事項」2004 年 環境省
15)
「自然環境アセスメント技術マニュアル」 自然環境アセスメント研究会編著 1995 年(財)
自然環境研究センター
16)「環境アセスメント技術ガイド 生態系」生物多様性分野の環境影響評価技術検討会編著
2002 年(財)自然環境研究センター
17)
「港湾分野の環境影響評価ガイドブック」1999 年 (財)港湾空間高度化センター、港湾海域環
境研究所
18)
「発電所に係る環境影響評価の手引」資源エネルギー庁編 1999 年 (株)電力新報社
19)
「環境影響評価情報支援ネットワーク http://assess.eic.or.jp/」環境省ホームページ
- 139 -
20)
「環境影響評価の基本的事項に関する技術検討委員会報告」 環境影響評価の基本的事項に
関する技術検討委員会 2005 年 環境省
21)
「漂砂と海岸侵食」椹木亨著 1982 年 森北出版(株)
22)
「海岸環境工学」堀川清司著 1985 年 (財)東海大出版会
23)
「日本の海岸侵食」宇多高明著 1997 年 (株)山海堂
24)
「自然環境のアセスメント技術(Ⅰ)
」環境庁企画調整局編 1999 年 大蔵省印刷局
25)
「自然環境のアセスメント技術(Ⅱ)
」環境庁企画調整局編 2000 年 大蔵省印刷局
26)
「自然環境のアセスメント技術(Ⅲ)
」環境省総合環境政策局編 2001 年 財務省印刷局
27)「干潟の順応的管理(海洋政策研究財団ニューズレター第87号)」国土技術政策総合研究所沿岸
海洋研究部 細川恭史著 2004 年 海洋政策研究財団
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第3章 今後の検討課題について
技術ガイド素案の作成にあたり、本年度は技術ガイド素案の「第4章 6.調査・予
測項目の選定」までを主な対象として重点的な整理・検討を行った。本年度の整理内容
と懇談会委員からの指摘等を踏まえ、次年度には技術ガイドの最終版作成に向けた検討
を行うこととなるが、今後さらに重点的に検討すべきと考えられる課題を下記に示す。
1.合意形成のための手法・考え方について
干潟生態系の環境アセスメントを効果的・効率的に進めるためには、まず地域特性及
び事業特性を的確に捉え、調査項目・手法を選定していく過程において、地域住民やN
PO、専門家からの情報・意見の収集等を行うプロセスを重視し、関係者間で情報を共
有し合意形成を図ることが必要である。また、干潟生態系の調査の全体像を見えやすく
し、細部のあまりに専門的な議論に陥らないようにすることも重要である。
今年度の検討では、得られた情報を分かりやすく表現した模式図を活用するスキーム
を一案として示したが、図やイラスト等を活用した視覚的に分かりやすい手法について、
さらに検討を進める必要がある。また、合意形成の考え方や、合意形成に資する手法(住
民等と共に行う現地調査やワークショップ等)についても、実際の干潟生態系の環境ア
セスメント手続きにおいて参考となるよう、より具体的に示していくことが望ましい。
2.環境アセスメントの項目について
今年度の検討では、干潟生態系の環境アセスメントにおいて重点をおくべき項目とし
て、
「植物」
、
「動物」
、
「生態系」及び「土壌環境」
(干潟の成因としての干潟地形)を主
たる対象とした。
「水環境」や「大気環境」等のうち、流況や底質など干潟生態系の予
測条件に関連の深いものについては、調査・予測において連携した実施が必要であるこ
と等を留意事項として記述した。また、
「景観」
、
「触れ合い活動の場」については、干
潟の持つ景観形成機能、親水機能等と密接に関連する項目であることから、調査・予測
にあたっての留意事項等をとりまとめる必要があり、今後さらに検討を進める必要があ
る。
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また、干潟はアサリ等の漁場としても重要な場所であり、人間と干潟の関わりという
点において漁業は重要な位置を占めている。今後、干潟生態系に関する環境アセスメン
トの中で、漁業という産業行為をどのように扱うかについても検討が必要である。
3.調査手法について
調査手法については、干潟生態系の「どこに」注目して「何を」明らかにしたいのか、
という目的及び内容等の整理を明確にした上で、個々の干潟ごとに最適な調査手法を選
択・実施するための考え方を丁寧に示し、関係者間で調査手法について合意することが
重要であり、① 調査地域及び調査地点、② 調査期間及び調査時期、③ 調査法、④ 調
査結果の整理・解析等のポイントについて、総論的に留意事項を示した。
具体的な調査について魚類、底生動物などの各論では、① 調査地域及び調査地点、
② 調査期間及び調査時期、③ 調査法等のポイントについて記述する際に目的に応じた
採集等の方法(定量的・定性的の考え方、調査精度と必要なデータ精度の考え方等)
)
等についての考え方や留意点を示すこととした。単なる引用等の安易な手法選定を避け
るため、専門的な調査法の種類や内容等の詳細をマニュアル的に列記・解説することは
せず、一般的な調査法を資料集に参考情報として例示するにとどめている。
今後は、これまでの調査マニュアルや実施例等における課題等を踏まえながら、ポイ
ントとして盛り込むべき内容や分かりやすい示し方等について、さらに検討が必要であ
る。
また、調査手法においては、生物種の同定の精度が大きな課題の一つとして挙げられ
るが、今年度は、
「同定者の氏名、所属、連絡先などを明記する」
、
「再現性を担保する
ための調査サンプルの保管」を留意事項の例として記述した。(なお、サンプルの保管
期間については、事業の影響の継続期間等を考慮して検討する必要がある。)今後、一
定の同定精度を確保するための方法について検討を深める必要がある。
(例えば、
「同一
事業では、同じ人が継続して同定する。
」
「生物分類技能検定等の資格を有する技術者が
同定する。
」など)
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4.予測手法について
予測手法については、基本的な考え方として、定量的な予測を原則とし、それが難し
い場合にはその理由を明示した上で定性的な予測を行うことを示した。最適な予測手法
を選択・実施するための考え方を丁寧に示し、関係者間で予測手法について合意するこ
とが重要であり、① 予測地域及び予測地点、② 予測期間及び予測時期、③ 予測法、
④ 予測結果の整理・解析について総論的に留意事項を示すこととした。
「5-3 調査手
法」と同様に、専門的な予測手法の種類や内容等の詳細をマニュアル的に解説すること
は避けるが、一般的な予測手法は資料集に参考情報として例示する。
今後は、特に予測モデルの適用等については、物理理論に基づいたモデルなのか、単
なる経験則によるモデルなのか、単純な整理により得られた概念式モデルなのか把握し、
モデルの適用可能範囲と限界を明らかにする必要があることなど、予測手法選定のポイ
ントの整理を行い、さらに検討を進める必要がある。
5.事後調査について
何のために事後調査を行うのか、いつまで継続するかという事後調査期間の考え方等
についての整理が必要である。
また、事後調査は順応的アプローチで行うべきものであり、事後調査開始時に決めた
項目を単に測定し続ければ良いというものではなく、結果を受けながら必要に応じて次
の年に行う項目の追加・削除等の検討を絞っていく必要がある。
6.ケーススタディについて
次年度は、これまで検討してきた内容を元にケーススタディを実施することが想定さ
れるが、その際には、全体を見渡せる規模の干潟を扱った方がわかりやすい。また、生
物の調査における同定精度や調査精度の違いが、調査・予測の結果とどのような関係性
があるかについて、ケーススタディにおいて検証することが一案として考えられる。
例えば、底生動物の調査におけるフルイ目の違いや採集面積の違い等に関する比較デ
ータはほとんど無い。また、生物の多様性の評価でも、種まで同定したものと属や科レ
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ベルまで同定したもので多様性の評価が変わってくるか、などを検討したものはこれま
でほとんど行われていない。
7.その他の今後の課題
技術ガイドの活用方法や、干潟生態系の環境アセスメントが適切に実施されていくた
めに必要な検討課題として、下記が挙げられる。
① 環境影響評価を実施して得られた調査結果等が、
実施例としてデータベース化され
て参照可能になることが望ましい。
② 環境影響評価を実施して得られた調査解析結果や予測解析結果について、
その結果
が広く共有され学術的観点の議論対象となるよう、学会発表等が行われていくこと
が望ましい。
③ 作成した技術ガイドが広く活用されるよう、一般販売を検討する。
④ 技術ガイドを用いたセミナー等を開催し、
作成した技術ガイドの内容の周知徹底を
図ることが望ましい。
⑤ 環境アセスメントの実務に関わる者、特に調査の発注者が考え方を理解した上で、
適切な調査の実施が可能になるような業務発注をするための、留意点等をまとめて
おくことも必要であると考えられる。
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