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ラッセルのパラ ドクスとフレーゲの論理主義

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ラッセルのパラ ドクスとフレーゲの論理主義
ラ ッセルのパ ラ ドクス とフレーゲの論理主義
田
畑
博
(平 成 2年 6月 30日
敏
受理
)
じめ に
`よ
フレーゲの,「 言語の哲学」ではな く「数学 の哲学」を考えるとき,ひ とはある種 の絶望感 に襲わ
れる。「数学の哲学」 におけるフレーゲの仕事が,「 今なお興味深い ものではあるが,根 本的な点で古
めか しい」 (ダ メット1))だ けであれば, まだ しも救われる。 しか し,「 ラッセルのパ ラ ドクス」 に代
表される種 々の論理的矛盾の発見によって,「 算術 は論理学に還元できる」 とい う,フ レーゲがその
生涯を賭けて遂行 しようとした「論理主義」のプログラムは破綻 した,あ るいは もっと悪 いことに
,
そもそも「論理主義」は不可能である, とい う常識 (?)す ら存在するかに見える。 しか し,果 たして
その通 りなのだろうか ?「 論理主義」 は完全 に死滅 したのであろうか ?こ の小論の 目的は,実 はそ う
ではない とい うこと,「 論理主義」は復活 しうる,少 なくとも論理的に再構成 しうるとい うことを,N.
コ ッキアレッラが最近提出した解釈のに拠 って示す こと
ある。以下
論全体の概要を示す。ま
,で
,小
ず,フ レーゲの「論理主義」に決定的打撃を与えたパ ラドクスのラッセルによる発見の経緯を見て (§
1),フ レーゲ自身のそれについてのインフォーマルな説明を聞 く
(§
2)。
ついで,フ レーゲの体系 に
即 して承盾が導出されることを確認 したのち (§ 3),フ レーゲの修正の試みにも拘 わらず新 たな矛盾
が出現 したとい う歴史的経過に触れる(§
理主義」を論理的に再構成す る(§
6)。
4)。
そうして,新 たな反省に基づ く立直 しを図 り(§ 5),「 論
更に,こ の再構成された体系の
めて (§ 7),ひ とまず,結 論 と見通 しに到る(§
)無 矛盾性 を確か
(相 対的な
8)。
sl.パ ラ ドクスの発見
まず,フ レーゲの 『算術 の基本法則』3)の 中に,論 理的矛盾 とい う形 で発見 されたパ ラ ドクスが い
かなるもので あったか,と い うことを確認することか ら始めることにす る。十年余 りに亘 ってなされ
た文通 の端緒 をなすフレーゲ宛 の手紙 (1902年 6月 16日 付)に おいて,ラ ッセルはやや輿奮 した回調
でそのパ ラ ドクスに触れてい る。
畑
博
敏
「 Wを ,“ それ自身に述語づ けられない述語である"と い う述語だ とします。 Wは Wに 述語 づ け
られるで しょうか ?[Wが Wに 述語づ けられるとして も,述 語づ けられない として も,そ の]
どちらか らも,矛 盾が生 じます。 したが って,Wは 述語ではない,と 結論 しなければな りませ
ん。同様 に,一 つの全体 として見 られた ときの,そ れ 自身の要素ではない諸 クラスの,(一 つ
の全体 としての)ク ラス とい うもの も,存 在 しません。以上のことか ら,一 定 の状況下では
,
確定 した集合が一つの全体 を形成 しないことがある, と私 は結論 します。
」
4)
ここでは,二 つの異なる形でパ ラ ドクスが述べ られてい る。一つ は,言 わば大雑把な形 でのD「 述
語づ け」 の語法で述べ られた矛盾 であ り,他 方 は,ク ラス
(な い しは集合)に 関する「メンバー性」
の語法で述べ られた矛盾である。
第一の定式化 は大雑把なものではあって も,そ のような把握 の背景 となる動機が きわめて異常 なも
ので あるとか,ま たは文法的に破格 な現象 を扱 うものだ, とい う訳 では もちろんない。た しかに,通
常,わ れわれは言葉 によって,言 葉以外 の「 もの」 や「 こと」 に言及する場合が多 い。例 えば,“ こ
の りん ごはまだ酸 っぱい"と か “こんど納入 されたワープロはE「 字装置がよく故障する"等 々, と。
しか し場合によっては,言 葉 によって,対 象 としての言葉その ものについて,あ るい は言葉 のはたら
きや性質について,語 ることもある。例 えば,“「静か だ」 は形容詞ではな く形容動詞に分類 される"
とか,“ ギリシア語のアオリス トの用法はフラ ンス語 の単純過去 のそれに似てい る"等 々,と 。したがっ
て,述 語 とい うものを,そ れ自身に述語づ けられるか否かで分類することは,当 然考えられる。述語
がそれ 自身に述語づ けられるのは,述 語 の表現 して いる性 質が,対 象 としての述語その ものにあて は
まるとき,か つ そのと きのみである。例 えば,“ 日本語で表現 で きる"と い う述語 は,れ っきとした
日本語で表現 されているから,つ まり,こ の述語が表現 しようとす る性質にそれ自身あてはまるか ら
,
それ自身 に述語づ けられ る。 また “
無臭である"と い う述語 も,対 象 としてのこの言葉 。この述語そ
の ものに匂 い はないか ら,そ れ自身 に述語づ けられる。 しか し,“ lang"と い う ドイツ語 は, ドイツ
語 の単語 としては “
ι
usammentreffend"や “
deutschamenkanね ch"に 比べ ると決 して長 くはないか ら
,
それ自身 に述語づ けられる とは言えないであろうし,“ 甘味のある"と い う述語 も,(比 喩的に使われ
ないか ぎり)そ れ自身 に述語づ けられ は しない。 こ うして,あ らゆる述語 を,そ れ自身に述語づ けら
れるものとそうでない ものとに分類 しようとすることは,さ して不 自然な企てではない。しか し,“ そ
れ自身 に述語づ けられない"と い う,述 語分類 のための言葉 を新たな述語 と認定 し
(こ
の認定 自体 の
妥当性 は もちろん問題にな りうるが今 は問わない),こ の述語 について,こ れが いずれの部類 の述語
に分類 されるか, と不用意 に問 うた途端,背 理 に陥るのである。すなわち,“ それ自身に述語づ けら
れない"と い う述語がそれ自身に述語づ けられるならば,こ の述語は自らが表現する性質 (=不 可 自
己述語性)を それ自身有 してい るか ら,そ の性質 によってこの述語 はそれ自身に述語づ けられないこ
とになる。逆に,述 語 “それ自身に述語づ けられない"が それ自身に述語づ けられない な らば,こ の
ラ ッセルのパ ラ ドクスとフレーゲの論理主義
3
述語 は 自ら表現 して い る性質 を有す ることになるか ら,「 述語 づ け」 の定義 によって,こ の述語はそ
れ自身に述語づ けられ ることになる。 こうして,い ずれに分類 されて もその反対の類に戻 されて しま
う。 これは背理である。
それに対 して,第 二の定式化 では,ク ラスとその要素 の関係 ,す なわち,「 メンバ ー性
(要 素性)」
の語法によって,矛 盾 の導出が語 られる。 “
要素 aは クラス Aの メンバ ーである"を “a∈
すならば,今 日の標準的な語法
(第 一階述語論理)で
A"と 記
は,以 下 のよ うな手順 で矛盾が導かれる。まず
つ ぎのよ うな,内 包 の原理 (Comprehensbn Principle)と
,
呼 ばれる法則が前提 されて い る, と考えられ
る6):
(CP)
・……………………………………………………
・
・……………[1]
ヨ yVx(x∈ yPFx)… ……・
Fx"が 与 えられた とき, Fで ある こ
(Xに つい ての任意 の述語 “
とが,そ れの要素 たることの必要十分条件 である ような,ク ラス y
I
が存在す る)。
“
Fx"と して特 に,“ ∼ (X∈
X)"(Xは それ自身に属 さない,Xは それ自身の要素ではない)を 取 る。
す ると,[1]よ り
が直ちに導かれる。 この存在命題 [2]で 存在が主張されているようなクラスを,“ R"と す る。その
とき,[2]よ り
,
(す べ ての ものについて,
れ自身 に属 さない
Rに 属す る (Rの 要素 で ある)こ とがそ
(そ れ自身の要素でない)こ
とに対 して必要十分
である)
となる。全称命題 [3]が 前提する任意 の対象の うち,特 に先ほどのクラス “R"を 取 る
称ケ」
化)と ,[3]よ り
,
が出て,こ れか ら命題論理
(ト
ー トロジーの変形)つ によって
RGR&∼
が導 かれ る。 これ は矛盾 であ る。
,
(R∈ R)
(い
わゆる全
4
田
畑
博
敏
§2.フ レーゲ自身のインフォーマルな説明
それでは,フ レーゲ自身は, ラッセルの発見 したパ ラ ドクスをどのように理解 し,説 明したのであ
ろうか ?フ レーゲにとって,「 述語づけ」 は「概念への対象の帰属 (fallen
「 aは Fで ある
(対 象 aが 性質 Fを
unter)」
という関係である。
もつ)」 (Fa)と 語ることは,「 概念への対象 の帰属関係」を主張
することである。 しか も,フ レーゲの場合,ク ラスは概念の外延 として登場する。フレーゲは,F算
働の冒頭で
ラ ドクスの出現 の経緯を, まず 日常の言葉使 い
術の基本法則』第二巻の「あ とが き」
,パ
によって,(整 理すれI⇒ つ ぎのように説明している。
人間のクラスについて,そ れが人間であると主張するひとは誰 もいない。 ここに,「 それ自身に属
さない
(そ
れ自身の要素ではない)ク ラス」の例がある。 したがって
,
「 ξはそれ自身に属さない
(そ れ自身の要素ではない)ク
ラスである」
とい う概念があることになる。そして,こ の概念の外延 は
,
それ自身に属さない
ということになる。 これを,「
C」
)諸 クラスのクラス
(そ れ自身の要素ではない
とする。すなわち
,
C=そ れ自身に属さない諸クラスのクラス
とする。
さて,こ のとき
,
Cは Cに 属す るか ?
とい う問題が起 こる。 この問題 に取 り組 む際,確 認 してお くべ き,概 念 と概念 の外延 としてのクラス
との間で成 り立つ原則が,二 つある。一つは
,
(※ )対 象
aが 概念 Gに 帰属す る (fЛ ttn
unter)と
き, aは その概念 Gの 外廷 どG(C)で あるところ
のクラスに属す る
とい う原則 であ り, もう一つは
,
(※
※)対 象 aが クラスに属す るとき, aは 当のクラスがそれの外延 どG(ε )と なってい るところ
の概念 Gに 帰属す る
とい う原則である。
"
さて,Cは Cに 属す るか ?
(i)Cが Cに 属する
と仮定する。 この とき,(※ ※)に よって, Cは ,ク ラス Cが それのタト
延 となってい るところの概念
,
すなわち,「 ξはそれ自身に属 さない クラスである」 とい う概念に帰属する。言 い換 えると,Cは C
ラ ッセルのパ ラ ドクスとフレーゲの論理主義
5
に属 さない。以上 によ り
,
Cが Cに 属 す るな らば,Cは Cに 属 さな い
とい っこ とになる。
逆に
,
(
)Cが
Cに 属 さない
と仮定す る。する とこのとき,Cは それ自身に属 さない クラスの一つである。言 い換 えると,Cは 「 ξ
はそれ 自身に属 さない クラスである」 とい う概念 に帰属す る。それゆえ,(※ )に よって, Cは ,こ の
概念 の外延であるクラス,つ まり,そ れ自身に属 さない諸 クラスの クラス,す なわち Cに 属す る。以
上により
,
Cが Cに 属 さないならば,Cは Cに 属す る
とい っことになる。
こ うして,い ずれにせ よ,論 理的矛盾 (Cは Cに 属 しかつ属 さない)に 陥る。
§3.矛 盾の形式的導出と原因の摘出
パ ラ ドクスについて 日常語でイ ンフ ォーマ ルな説明 をした後に,フ レーゲは,『 算術 の基本法則』
の体系内部で矛盾が導かれることを,彼 の概念記法 (Begrffsschrrt)に よって示 してい る。そ してそ
の過程で,矛 盾 の導出に使 われた諸原理の中で「怪 しい」 ものを検討 し直す ことによって,矛 盾発 生
の原因を突 きとめようとする。それは以下 のようになされる
(フ
レーゲ自身の記法や説明法 を今 日の
ものに一部変更する)1の 。
まず,“ △はそれ自身に属 さない クラスである"は
ヨG(と G(ε
,
)=△ &∼ G(△ ))
と書ける。そこで,“ それ自身に属さない諸クラスのクラス"を “C"と 略記する
C=か ヨG(と
G(C)=α
&∼ G(α
))。
・………………………………(〒 )
すると,こ の略記法 (〒 )に よって,“ Cは それ自身に属さないクラスである"は
ヨG(占
と表 現 さ れ る。
G(C)=C&∼ G(C))
(Vb),す な わ ち
どF(ε
きF(ε
)=濃
)=濃 G(α )→ (Fx'Gx)に よ って
G(C)=α &∼ G(α ))
G(C)=C&∼ G(C))。
ヨG(と
→ (F(C)言 ヨG(と
:
,
,
田
畑
敏
博
…
これと,上 の(〒 うと,基 本法則(Ⅲ a):(a→ 。)→ C(bl→
f la))の 事例
:
lF(C)● ヨG(き G(C)=C,∼ G(C)))→
(ヨ G(き O(ε )=C&∼ G(C))→ F(C))
および命爆論理によって
,
G(C)=C&∼
ヨ G(き
(■
G(Cl)→
(き
F(C)=C→
F(C))。
…… (■ )
“F"を 全称化して
)の
,
ヨG(と
G(C)=C&∼ G(C))→ VG(と G(0)=C→ G(C)),
…………(β )
つまり,Cが それ自身に属さないクラスであれば,Cは それ自身に属するクラスである。
他方,基 本法則 (Ⅱ b)ivF(Mβ F(β ))→ Mβ G(β )に より,
VC(と G(ε
F(ξ )'を
“
`
ヨG(`G(0)=ξ
VG(と
→ [歳
(ヨ
)=C→
&―
O IC))→
∼G(ξ ))'と すると,(γ
G(C)=C→
C(と G(ε )=α &∼
(ど
F(C)=C→
)か
F(C))。 …(γ )
ら
,
G(C))
G(r)))=c→ ヨG(と G(ε )‐ C&∼ G(Cl)](δ
'(ヨ C(ε G(C)=α &∼ G(')))=c.は c=Cで
こ こで 上 の略 記 法 (〒 )に よ り,
)
あ る こ と に注
意すると,(δ )か ら
,
VG(占 G(C)=c→
C IC))→ ヨC(き C(C)=C&∼ G(Cl)
(ε
)
が出る つまり, Cが それ自身に属するタラスならばICは それ自身に属.さ ないクラスである。この
.。
(ε
gl
)か ら,定 理α
i(p→ ∼ p)→ ∼ pに よ│っ て
,
ヨG(む
(ζ
)と (r)か
G(C)=C&∼
C(⑥ )。 ………………………………………・(ζ )
G(8)=C→
G(⑥ )。 ……Ⅲ………… ………中……中………(7)
ら
VG(― と
ところが,命 題(ζ )と (7)は 矛盾であ―
る。誤りは法則lVb)に しかありえない。したがって,(Vb)は
がいない。
偽であるにち―
ラッセルのパ ラ ドクス とフ レーゲの論理主義
こうして,フ レーゲの探索によって捜査線上 に浮かび上がって きた最有力の容疑者
(矛 盾 を引 き起
こ した原 因)は ,法 則 (Vも ),す なわち
(Vb):む F(C)=濃
・
・
・
・―
G(α )→ (Fx PGx)・・・
・
・
・
・― ・
・
・
・
・… [6]
・
とい う原理であ った。 これ は,ま さに以前 か らその 自明性 につ いて フ レーゲ 自身が懸念 を抱 きなが ら
1)と
も基本 法則 とせ ざる を得 なか ったユ
ころの法則 (V):
(V):む F(ε )=汐 G(α )=Vx(Fx#Gx)…
の半分 :ど
F(C)=か
……………………・[7]
G(α )→ Vx(Fx,Gx)と 同値 で ある。実際,矛 盾 を引 き起 こした原因であ
る法則 (Vb)の 否定形が,直 接 に他 の諸原理か ら導 けるので ある。 (上 の導出が (Vb)の 誤 りで ある
ことの間接証明ならば,今 度 は同 じことの直接証明が与 えられることになる。
)こ の直接的な (Vb)の
否定の導出について,フ レーゲはまずインフォーマ ルに説明 した後,二 通 りの形式的な導出を実行 し
1動
てみせ る。
以下 に,そ のインフォーマルな説明を聞こ う (形 式的導出の方 は省略する)。
まず,値 域 (Wertverlauf)と い うもの一一 これの特殊例が概念の外延である一― は,そ の存立 に疑
わ しい点があるので,F算 術 の基本法則』I巻 §
25で の一般的な第二 階関数 “
Mβ φ(β )"の 記法 を使 っ
て
,
G(C)=α &∼
Mβ ヨG(Mβ G(β
)
G 〓
かヨG(ど
(α
)),す なわちCは
β&∼ G(β
で置き換える。基本法則 (Ⅱ b)i VGMβ G(β )→ Mβ F(β
“Mβ
φ (β
)=a→
を取 る。すると,(Ⅱ
φ
(a)"を
取
り ,第 一 階 関 数 “F(ξ
)"と
,
))
)で ,第 二階関数
し て ,“ ヨ
b)の 事例 としてつ ぎのことが成 り立つ
G(Mβ
“
Mβ φ(β )"と して
G(β )=ξ
,
&∼ G(ξ ))"
:
VG(Mβ G(β )=a→ G(a))― → [Mβ ヨ G(Mβ G(β )=β &∼ G(β ))
→ヨG(Mβ G(β )=a&∼ G(a))]。
これは “p→ (q→ ∼ p)"と い う形なので,対 偶 と巾等律 よ り,つ ぎの “p→ ∼ q"を 得 る
:
VG(Mβ G(β )=a→ G(a))→
∼ [Mβ ヨG(Mβ G(β
)=β &∼
……(μ )
G(β ))=a]。 ・
再び,対 偶 に よ り
Mβ ヨG(Mβ G(β )=β &∼ G(β ))=a→
ヨG(Mβ G(β )=a&∼ G(a))。 ……………………………(ν )
畑
博
敏
)=ξ &∼ G(ξ ))"の 代 わ り
に “
Mβ F(β )"と お くと,(ν )は ,Mβ F(β
)=Mβ F(β
)
に ↓
簡単 のために,“ ヨG(Mβ G(β
“
F(ξ )"と おき,“ a"の 代わり
F(Mβ F(β ))と なっているから
,
先件が削除されて,結 局 (ノ )よ り
,
F(Mβ F(β ))
を得る。すなわち,第 一階関数F(x)が アーギュメントのときの,第 二階関数Mβ φ (β )の 値Mβ F(β )
が , もとの第一 階関数 に帰属す る。
他方 ,す ぐ上 と同 じ置 き換 えに よって,(ν )か ら
,
ヨ G[Mβ
G(β )=Mβ F(β )&∼ G(Mβ F(β ))]
を得る。すなわち,第 二階関数Mβ φ (β )の アーギュメントとなったとき,F(ξ )が そうなったと
き の 値 Mβ
(β
G(β )と 同 じ値 Mβ F(β
)を 取 る (ie Mβ
)つ まりMβ F(β )は ,そ れ自身 [≧ G(ξ
F(β )=Mβ G(β ))が ,
しか し,こ の 値 Mβ
G
)]に 帰属 しない ところの概念G(ξ )が 存在す る。言
1よ
い換えると, 1ア ーギュメントの第一階関数をアーギュメントとして取 るすべ ての第二階関数Mβ φ
(β
)に 対 して,つ ぎのような二つの概念F(ξ
Mβ F(β
),G(ξ )が 存在する
:
)=Mβ G(β )で あるが,F(Mβ F(β ))か つ∼G(Mβ F(β ))で ある
,
つ ま り, Mβ F(β )=Mβ G(β )― → [F(Mβ F(β
ここに,法 則 (Vb):と
F(C)=浅
)'G(Mβ F(β ))]で はな い
!
G(α )→ (Fxユ Gx)の 反例 が存在す る。
こうして,フ レーゲは,法 則 (Vb)の 否定を他 の法則か ら直接 に導 くことによって,矛 盾発生の真
の原因を,こ の法則 (Vb)と 断定するのである。
§4.修 正 と新 しい矛盾
法則 (Vb)の 否定形 に到 る導出過程 を観察する ことによって,フ レーゲは,(Vb)の 反例 となる二つ
の概念――すなわち,そ れ らの外廷 は同一であるカド
,そ のタト延が一方 の概念 には帰属 して も,他 方 の
概念には帰属 しない よ うな二つの概念一― に,「 概念 φの外延 である」 とい う
)概 念が関
(第 二 階の
与 してい ることに気づ く。 これまで「外延」 の同一性 の基準 は,〔 7]の 法則 (V)に よって与えられて
い たが,(V)の 半分 で あ る (Vb)(=[6])が 否定 されるか ざり,い まや新 しい基準が要求 される。
フレーゲは,そ れをつ ぎの ものとする
:
「一方 の概念 の外延が他方の概念の外延 と同一であるのは, まさしくつ ぎの場合 である,す なわ
ち,第 一の概念に帰属す る対象が,そ の第一の概念 自身の外延 を除 き,す べ て第二の概念 に帰
ラ ッセルのパ ラ ドクス とフレーゲの論理主義
9
属 し,ま た逆 に,第 二 の概 念 に帰属 す る対 象 が ,そ の 第二 の概念 自身 の外延 を除 き,す べ て 第
一の概念 に帰属す る場合」。1め
す る と,法 則 (V)に 取 って代 わ るべ き もの は
,
(V′
):
むF(C)=
濃G(α
'Vx[xキ
)
どF(C)&xキ かG(α
)→ (FxPGx)]… … [8]
であ り,矛 盾の元凶と見られた (Vb)に 取って代 わるべ きものは
,
(V′
b):と
F(C)=か G(α )→
となる。 このとき,確 かに,以 前 のような形
こ うい う風 になる。F(ξ )を ,ヨ F(ど
い概 念 の タト延 "と し,c=う
→ [Cキ C→
ヨF(ど
(Fxユ Gx)]…・[9]
3参 照)で の矛盾 は,防 止することがで きる。 (実 際
,
F(C)=ξ &∼
ヨ F(き F(ε
F(C)=C&∼
(§
F(C)→
[xキ と
)=α &∼
F(ξ )),つ まり “ξはそれ自身 に帰属 しな
F(α ))と す る と,(V′ b)よ り,C=占 G(α
F(C))ユ G(C)│]。
)
こ こで ,Cキ Cは 常 に偽 で あ るか ら,こ の
式 は常 に真 で あ る。 す なわ ち ,そ こ か ら矛 盾 が 出 る こ とは 阻止 され た 。)
フレーゲは この修正 によって,『 算術 の基 本法則』 の体系が維持 で きると考 えたようである。 とこ
ろが,後 になって,フ レーゲの修正案 (V′ b)に 対応す る法則 を含 む体系か ら矛盾が導 ける ことが見出
1つ
された。 クヮイ ンは,(v′ b)の クワイン版 である
,
Vy[yキ 文F(x)→
(y∈
支F(x)'F(y))]… … … … … … … … … [10]
F(x)以 外 のすべ ての ものは
(概 念 Fに 対応す るクラス抽象体支
,
このクラス抽象体 に属する ときかつ そのときのみ, Fで ある)
とい う仮定 と,少 な くとも二つの対象が存在することを主張する
とい う仮定,お よび基本的 と思われる他 のい くつ かの定義か ら,矛 盾 を導 いて見せた。1働
§5.論 理主義は死んだ ? ――反省 と展望――
それでは,新 たな矛盾 の出現 によってフレーゲの体系 は崩壊 し,彼 の「論理主義」は死んだ ことに
なるのであろ うか ?以 下で私は,
N.コ ッキアレッラに拠 って,そ うではないこと,論 理主義の再構
成が可能であることを示 したい。
その前にまず,フ レーゲの論理主義が いかなるものであったか, とい う反省か ら始め よう。 フレー
ゲの論理主義は
,
畑
餃
博
(1)算 術 (実 質上,幾 何学を除 く全古典数学)の 諸概念は,純 粋 に論理的な概念によって定義できる
,
(2)算 術 の諸法則 は,純 粋 に論理的な演繹 によって,基 本法則から導出できる
,
の二点に要約 される。 ここで注意すべ きことは,算 術がクラスに関する「メンバー・シ ウプの理論」
に遠元されるのではな く,「 述語づ けの理論」に還元されるとい うことである。つ まり,フ レーゲの
言 う「論理」はクラスの理論ではな く,第 二階述語論理である, ということである。
さて,算 術 はさまざまの “もの"を 取 り扱 う。フレーゲは,不 飽和性をその特徴 とする「関数」と
,
飽和性をその特徴 とす る「対象」 とい う,「 関数 対 対象」の基本的区別を設定 し,更 に関数の間
にレベルの差を設けた。 しか し,対 象の間にはレベルの差は設けていない。そして,算 術 を実際に展
開するに際しては,高 階の関数の直接的な扱 いを避けて,関 数 と対象の基本的区別に帰着させようと
する。例えば,(1)第 二階の概念 に第一階の概念を対応 させ,(2)第 一階の概念 に値域 (Wertverlauf)と
呼ばれる特殊な対象
(関 数としての値域が外延である)を
対応させる。(例
:「
4の 平方根が存在す る」
に対 して,「 概念 “4の 平方根"は 充たされる」力減寸応する。
)す なわち,フ レーゲによれば,「 第二
階の関数 は一定の仕方で第一階の関数 によって表現 され,そ してその第二階関数のアーギ ュメントと
して現れる第一階関数は,そ れの値域によって表現される
(『
25)。 すなわち
算術 の基本法則』§
,
VQヨ F∀ G[Q(G)'F(と G(C))]・ ………………………………………………[12]
である。 このように,概 念に対 して二重の相関物――第二階の概念 に対応する第一階の概念,お よび
第一階の概念に対応する値域 とい う対象一― をフ レーゲは設定 した。このことの集約的宣言が,法 犀」
(V):
である。つ ま りここでは,右 辺での第一階概念間の相 互包含 とい う第二階概念が,左 辺で,そ れら第
一階概念に対応する対象 としてのこれらの概念の外延 (=値 域)の 同一性 とい う,第 一階 の概念で置
き換 え可能である,と 主張 されてい る。 しか し,先 に見た ように,こ の法貝Jこ そ,パ ラ ドクスの元凶
であった。
パ ラ ドクス を避けつつ,以 上のような フレーゲの論理主義の要求 を満たす体系 には, どのようなも
のが あるであろうか ?フ レーゲの 『算術 の基本法則』 の体系 には,命 題論理 の外 ,つ ぎの四つ の基本
1°
法貝1が ある
(■
:
a)i VxFx→ Fa
(Ⅲ b)iVF(Mβ Fβ )→ Mβ Gβ
):G(a=b)→ G(VF(Fb→ Fa))
(V):む F(C)=と G(α )'Vx(FxPGx)
(Ⅲ
(Ⅶ ):
ιε (a=ε
)。
パ ラ ドクスが出ない程度 にはこの体系 よ り弱 く, しか も,そ れ以外 の点では,フ レーゲの論理主義 を
実行 しうるに十分なほど強 い体系があるだろうか ?節 を改めてそれを取 り扱 うことにす る。
ラ ッセルのパ ラ ドクスとフレーゲの論理主義
11
§6.論 理主義の再編成に向けて
さて前節では,フ レーゲのいう「論理」の体系 として,彼 自身の第二階述語論理の体系が提示 され
た。このフレーゲの体系 とほぼ同程度の強さを持ち, しか も,①
(フ
レーゲの体系での (Vb)に 対応
して)パ ラドクス発生の原因となる内包の原理 (CP)に 考察の焦点を絞ることがで き,② 明示的に (CP)
を原理としている他の体系 との比較が しやすい,と い う点で優れている第二階述語論理の体系 として
,
171
以下の体系を用意する。
命題論理
ー トロジー)
(ト
(Al)Vu(φ → ψ)→ 〈
Vuφ ttVu″ )・ ………………………………………uは 個体 または述語変項
(A2)φ → Vuφ ……・……… … … …… ……… uは
中に 自由 には現 れない個体 また は述語変項
'の
(A3)ヨ x(a=x)・ …… ……………………………………… aは 単称 名 で ここにxは 自由 には現 れ な い
(LL:ラ イプニ ッツの法則 )a=b→
……………… a,
(φ tt
ψ)
bは 単称 名 で, ″は aの い くつ か を bで 置 き換 えて式 φか ら得 られ る式
・,xn)言 φ]
(CP:内 包 の原理 )ヨ Fコ Vxl… Vxn[F(xl,・ ・
………… Fnは φに 自由には現 れず ,xl,… ,xnは φに自由 に現 れ る互 い に異 な る個体 変項
推論規則 :モ ドゥス・ ポネ ンス (MP)卜 α,卜 α→ β⇒卜β
普遍汎化 (UG)卜 φ⇒卜Vuφ
ここで,概 念
(一 般 に関数)の 相関物 を表現す る工 夫,す
なわち,フ レーゲの「概念の外延」
:
どF(ε )に 相当す る工夫 として, λ抽象体 (λ ―abstract)を 導入す る。 (む ろん, λ記号 はフレーゲの
ものではないが,複 合述語 の表現 として気息記号がついた と(C2=1)の よ うな記法 をフレーゲは用 い
ている (PVc p 161 ff)。 フレーゲにとって,こ の記法は「名詞化 された述語」を意味 しない。その点
,
λ記号 を導入 す る こ とはフ レー ゲか ら離 れ る よ う に思 われ るが,こ れ は フ レー ゲの どG(C)
と きG(C)の 両方の役割 を兼ね備 えることがで きると同時に,法 則 (V)を も救 えるのである。§7参
照。
)こ の λ抽象体 は,つ ぎの λ変換原理 (λ ―cOnversbn P
(λ
nciple)に
10
従 う。
・。
xn φ](al,中 ●
,an)→ φ(a1/xl,… ,an/Xn)
― Conv)
[λ xl・
これ を一 般化 す る と
,
(V海 ―Conv) vxl―・Vxn([λ
とな る。 また, λ抽象体 が述語 変 (定 )項 で あ るこ とを主 張す る,つ ぎの法則 を定 め る。
(Id i同 一 性
) [λ
xl…
xn P(xl,一 ,Xn)]=P,… ………… …… ここで Pは n項 述語変 (定 )項
12日
畑
博
敏
そ して, λ抽象体 を含む第二階述語論理のための論理文法 を明確 に定める。それは以下 の もので あ
る。
タイプ 0の 表現 は単称名 を,タ イプ 1の 表現 は命題形式 または整成式 を, n≧ 1な るタイプ n
+1の 表現 は ■項述語 を表す として,タ
する
イプ nの 有意味表現MEnを つ ぎのように帰納的 に定義
:
(1)任 意 の個体変 (定
)項 aに つ き a∈ MEO,任 意 の n項 述語変
(定
)項 Fnに つ き Fn∈ MEn+1
およびFn∈ MEσ
(2)a, b∈ MEOな らば,(a=b)∈ MEl;
(3)π
G MEn+1か つ al,中 ●,an∈ MEOな
(4)φ
∈MElか つxl,…・,xnが 相異なる個体変項ならば
ら tゴ , π
(aL・ ・・,an)∈ MEl;
,
[λ
・xn φ]∈ MEn十 二
xl・・
;
(5)φ
∈MElな らば∼ φ∈MEl;
(6)φ
, ″∈MElな らば,(φ → ″)∈ MEl;
(7)φ
∈MElか つ aが 個体 または述語変項な らば,Vaφ ∈MEl;
(8)φ
∈MElな らば,[λ φ]∈ MEσ
(9)n>1な ら1ゴ ,MEn⊆ MEO。
さて,既 に述 べ たように,こ の体系においてパ ラ ドクス発生 に直接関わるのは内包 の原理 (CP),
・,xn)→ φ]で ある。なぜ なら,こ の原理 こそ,任 意 の条件 φに
すなわちヨFnvxl… Vxn[F(xl,・ ・
よって創 られる新 しい述語 の存在 を主張 しているか らである。そこで,(CP)を 含意 し1",し か も(CP)
よ り単純で λ抽象体 を含む式
:
(CP λ)ヨ Fn([λ xl… xn φ]=F)
に考察 を集 中す る。 (こ れは,フ レーゲが,C=濃 ヨG(ど G(ε
相当する一― §3の
(〒
)=α &∼
G(α
))と
おいたことに
)参 照。
)こ うす ることによって,パ ラ ドクス発生 の原因を, ス抽象体 に関す る
内包 の原理,す なわち (CP λ)に ,集 中的に求める ことが可能 となる。 ところで,パ ラ ドクス を防 ぐ
には,関 数,ひ いては概念 間 にあるとフレーゲが見な してい る階層構造 を反映するような,表 現間の
構文論的な次元差
(層
別化 stradicahon)を
,特 に (CP λ)に 現れ る λ抽象体 に対 して,設 定せねばな
らない。そ こで,大 雑把 に言って,つ ぎの三段階 の層別化 2の を,一 般 に λ抽象体 ,お よびその 中の
述語
(λ
(i)同
(■
抽象体 も含む)と 項に対 して,用 意する
:
次層別化 :項 どうしはすべ て同次元,述 語 とλ抽象体 は項 よ り丁度 一次元高い
)単 純層別化
;
:述 語 “="の 両辺 に現れる項 どう しは同次元,そ の他 の項 どうしは同また は異次元
述語 とλ抽象体 はそれ らに伴 う項 の最大次元 よ り丁度 一次元高 い
;
,
ラッセルのパ ラ ドクスとフレーゲの論理主義
13
いう
累積層別化 :項 どう しは同または異次元,述 語 とλ抽象体はそれ らに伴 う項 の最大次元 よ リー次
元以上高い。
(i)の 層別化が最 も厳
しく,い う
が最 も緩やかである。すると,例 えば,層 別化 な しではパ ラ ドクス を生
み出す,(cP λ)の 事例 である式
:
ヨF([λ x∃ G(x=G&∼
G(x))]=F)
は,累 積的に層別イ
と
いうされてはいるが,単 純にもtiガ 同次的にも(i)層 別化されていない。また,パ ラ
ドクスを誘発すべ く,更 に巧妙 に仕組 まれた (CP λ)の 事例
ヨF(λ
も,累 積的伸う
かつ単純 に(
z[λ xyヨ
G(x=G&∼
:
G(y))](z, z)]=F)
)層 別化 されてはい るが,同 次的には(i層
21)し
これ ら[13],[14]か らはパ ラ ドクスが導けるのである。
(CP
牙U化 されていない。そ して確かに
,
たがって,パ ラ ドクス を防 ぐためには
,
λ)は 一一 ゆえに (CP)は 一― ,同 次的に層別化 されてい なければならない。そ して,こ の「同次
層別化」 の条件 は,パ ラ ドクス防止 を目指すか ぎり, λ抽象体 にのみ課せ られるだ けで十分である。
すると,フ レーゲの「論理主義」再構成 のための基礎 となるわれわれの体系 は,名 詞化 された述語
を含 み,同 次的に層別化 された (hbmogeneouЫ y strahfied)λ 抽象体 を持 つ第二 階述語論理 とい うこと
になる。 これを,(λ HST*)と 略記する
(“
*"は 式 中に現れる λ抽象体が同次層別化 されてい るこ
とを示す)。 すなわち
,
(λ
HST*)=(命 題 論 理 *)十 (Al*)+(A2*)十 (A3*)+(LL*)
*)十
十 (λ 一 COnv*)十 (CP λ
(Id*)十 MPtt
UG
さて,こ の体系 (λ HST*)の 無矛盾性 につ い て は,以 下 の こ とが わか って い る。単項述語 づ け をメ
ンバ ー シ ップ と見 なす こ とよ り,(λ HST*)は ,ク ワイ ンの集合論 NFを 少 し修正 した,
R.ジ ェ ンセ
ン(Ronald Jensen)の 体系NFU(New Foundation wtth ttrdements)2動 に相対的に無矛盾である。ところ
で,ジ ェンセンはNFUが 弱ツェルメロ集合論2働 に相対的に無矛盾であること,す なわち
,
(%)弱
ツェルメ ロ集合論が無矛盾 な らば,NFUも 無矛盾 で あ る
24)し
こ とを示 した。
たが って,こ の二 つ の こ とか ら
,
(♯
)弱 ツェルメロ集合論が無矛盾ならば,(λ
HST*)も 無矛盾である
畑
博
敏
とい うことが帰結 す る。
§7.相 対無矛盾性
ところで,(LL*)と
(λ
―Conv*)と か ら,一 般化 されたフレーゲの基本法則
(Vb*)[λ
・
・xn φ]=[λ
xl・
:
・
・xn ψ]→ Vxl… Vxn(φ
xl・
#ψ )… …… [15]
が,(ス HSTキ )に おい て導 け る。20そ して,フ レーゲの診断によれば,こ れがパ ラ ドクス発生 の張本
人であった。 しか し,(♯ )に よって, もし弱 ツェルメロ集合論が無矛盾ならば,(Vb*)か ら矛盾は出
ないこ とになる。つ ま り,わ れわれの体
HST*)で は,法 則
(Vb工 )は 生 き残るのである。 しか
(Va*):
し,(Vbキ )の 逆命題である
Vxl… Vxn(φ
は一 ― こ れ は 外 延 性 の 原 理
(λ
'ψ
)→
[λ
xl… xn
φ]=[λ xl… xn ψ]… … … [16]
(Principle of Extensionaltty:Ext*)で
あ る が 一 ―
,(λ HST*)か
ら は 導
けな い。 しか し,フ レー ゲ に とって ,こ の外延性 の原理 は論理 の基 本法則 の一つ であ った。 す なわ
2①
ち,こ の原理 はで きるか ぎ り確保 してお くべ き法則 の一つ だ とフ レー ゲは確 信 して い たのであ った。
ゆ えに,こ の原理 も再構成 され た「論理主義」 の体系 に加 えるこ とにす る と,結 局 の ところ,わ れわ
れ はつ ぎの結論 に到達す る。
フレーゲの「論理主義」の再構成 =(λ HsT・ )十 (Ext*)
さて この と き,(λ
HST*)十 (Ext*)の 無 矛 盾 性 ,お
よび, どの 程 度 この 体 系 に 算 術 を還 元 で き
るか とい う こ とは ,ク ワイ ンの 集 合 論 NFの ,ジ ェ ンセ ンに よる ヴ ァ リエ ー シ ョンで あ る ,NFUと
の 関係 に掛 か って くる。 これ につ い て は,つ ぎの こ とが わか って い る。 まず
x∈
y,Dfヨ F(y=F&F(x))
と定 義 す る こ とに よ り,ジ ェ ンセ ンの 集 合 論 NFUは ,(λ
HST*)十 (Ext*)に
述 語 づ け をNFUの メ ンバ ー シ ップ と解 釈 す る こ とに よ り,単 項
まれ る。 したが って ,単 項
十 (Ext*)と 全
(λ
(λ
,
(λ
含 まれ ,逆 に ,単 項
HST*)2の 十 (Ext*)│よ NFUに 含
HST*)十 (Ext*)と NUFは 同等 で あ る。 しか る に単 項
HST*)十 (Ext*)は
(λ
HST*)
共 無 矛 盾 ,す な わ ち ,一 方 が 無 矛 盾 の と きか つ そ の と き
の み 他 方 も無 矛 盾 で あ る。 この こ と と,§ 6の 最 後 の パ ラ グ ラ フで の ジ ェ ンセ ンの結 果 (%)と か ら
,
つ ぎの こ とが 導 か れ る。
ラ ッセルのパ ラ ドクスとフレーゲの論理主義
(♯
15
HST*)十 (Ext*)が 無矛盾 ◇ NFUが 無矛盾
♯)(λ
弱 ツ ェルメ ロ集合論 が無矛盾 ⇒
(λ
HST*)十 (Ext4)が 無矛盾
§8.結 話と前途偕見
こうして,フ レーゲの「論理主義」の体系 を
(Vb)が 救 われ,ま た,NFUに 相対的に
(し
(λ
HST*)十 (Ext*)と 定めることによって,法 則
たがって弱ツェルメロ集合論 に相対的に)無 矛盾性 が確
保で きた。算術 の論理へ の遠元 も,NFUが それを実行で きる
281こ
程度 には,実 行可能である。
(と
想定 される)の と,少 なくとも同
れで,フ レーゲの「論理主義」 はひとまず再構成できたと言える。
ところで,以 上見てきたように,フ レーゲは第二階述語論理 を「論理」 と考えているが, しか し
,
これが「論理」 と呼ぶに最 もふ さわしい体系であるのかどうか,こ れはまた別の問題である。特に
現在「論理」 とい う語で普通 に理解されている第一階の述語論理 との,表 現力の比較一― 「完全性」
,
その他の,体 系の もつ構文論的 `意 味論的諸性質がどれほど成 り立つのかという問題 を含めて一― は
「論理主義」 を実行する観点から見ても,重 要な論点 となろう。 しか し,そ れを検討す ることは,今
,
後に残された筆者の課題 としたい。
誰
ル″E″ り 胞s,Harvard U P(1978),88。 勝Б訳 :マ イケ ル・
カ921,ο ケ
1)Mtthael Dummett,“ Frege`Phユ oSophy",in T切 ケ
]
グメ ッ ト『真理 とい う謎』 藤 田晋吾訳 ,勤 草書房 (1986),45買 。
2) Nino B Cocchiarella,“ Frege,Russell and Logicism:A logical Reconstruction",in L Haaparanta&J Hintikka(eds),
ll¢ stz¢ ど
F″ ど,s夕 ″ケ
,D Reidel(1986),pp 197-252。
力tlt所 ″(1893-1903),以 下 CCAと 略記 す る。 また,頁 づ け はOImsか らの復刻 版
3)Gotdob Frege,Cη ttvttjz9'¢ γス万ι
力ITD加 じ
,tranu by M Furth,Uni oF Calfornia Press(1964),以 下
(1966)に よる。 [英 訳 (抄 訳 ):T力 ¢B,stじ と,ω s 9/4万 ι
BLAと 日
唇言已。]
4)G Frege,町 sM″
dt・
tれ ¢
γβ万″
力c″ ι
c力
S),Fdix Mdner(1976),以 下 Vflと 略記す る。 [英 訳
:PJtt力 dψ PDT''ι
'″
,M″ 脇 ││,
]
│ひ っ
ι働陸 勁 」ヮ
ησ
?,Badl Blackwe■ (1980),以 下列だ と略記。
サ
5)実 際 ,こ の手紙 に対す るフ レーゲの ラ ッセル宛返信 (1902年
不正確
6月 22日 付 )│こ お いて,フ レーゲは この定式化 を “
な"も の と評 して いる。 14/B ss 212 215,PA/rO pp 131 133。
6)フ
レーゲ 自身 もこの 内包 の原理 を前提 して いた。 とい うの は,こ の原理 の 第二 階述語論理一一 後述 の よ うに フ レーゲ
の体系 は これで ある
(§
5参 ЛR)一 ― での対応物であ る
,
,x.)● φ) (φ に Fは 自由 には現 れない
バ リエ ー シ ョンである
(Ⅱ b)iVF(Mβ F(β ))→ Mβ G(β )の
ヨFnvxl… VXn(F(xl,…
は,GGス
での フ レー ゲの基本法則
)
,
16田
畑
博
敏
VFn″ → ψ [φ /F(xl,… ,xn)]
から,ψ として ∼vxl… Vxn[F(xl,… ,xn)「 φ]を 取ることによって
,
∀Fn∼ VXl… VXn[0(xl,… ,xn)'φ ]→ ∼vxl… Vxn[φ ごφ
Vxl… Vxn[φ ど φ] vxl… VxR[φ
φ]→ ョFnvxl… VxR[F(xl,… ,xn)Pφ
]
]
「
ヨFnvxl… vxn[F(xl,… ,xn)Pφ
]
の ように導けるか らである。
7)念 のために変形過程を書 くと
(pギ ∼ p)s(p→ ∼ p)&(∼
,
p→ p)「
p▽ ∼ p)&(∼ ∼ p∨
(∼
p),∼ p&(p▽ p),p&一
p
8)GG4 ss253 265,BL/1 pp 127 143。
9)原 則 (※ )お よび (※ ※)を 合わせ ると,“ F(a)ra∈ 長F(x)"と
なるが,こ れはGcス の定理である。 これの導出には,後
述する問題の法則 (V)が使われる。GG4§ 54,s73,§ 55,s75, またBLス pp 123-126参
Л
R。
10)GGA s256 uf,BLス
11)GGA sv
p130 ff。
,BLA pp3-4参 照。
12)GGス s257■ f,BL4 p 133 ff。
13)GGA s262 uf,BLA p 139 ff参 照。
14)ク ヮインによれば,フ レーゲの修正案か ら矛盾が出ることを1938年 にレスニ
ェウスキーが示 したことをソボチ ンスキ ー
が報告 している。w v Quine,“ On Fregeる
Ulliv Of H
Way Out",Flrt″
,LXIV(1955),pp 145-159,れ Klemke ttd),島 scJs伽 形 v,
nds Press(1968),pp 485-501,の 註14参 照。
15)Quine,Op c■ pp 492-493。 矛盾導出の過程は以下のようになる まず
。
,フ レーゲの修正案のクワイン版 として,つ
ぎの ものを置 く
:
Vy[yキ 又F(x)→
(y∈
貫F(x)「 F(y))]・ ……………………………………………………… (1)
そ して,少 な くとも二つの対象 を仮定する。すなわち
,
ヨxヨ y(xキ y)O… ……………… ………………… …・
・……………………………………………………………・く2)
さらに,“ V",“ A",“ ι",“ W"と い う四つのクラス抽象体 を
V=支
(x=x)… … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … (全 体 クラス
(xキ x)… …………………………………………………………………………
(空 クラス
)
A=支
)
ιz=支 (x=z)・ …………………………………………………………… (zか ら成る
単元 クラス)
W=貫 VZ(x∈
z&z∈ x→ x=z)・ ……………………………………………………… (包 含・被包含同一
)
と定義 し,こ の四つに対応する(1)の 事例,ま たはその全称化 を用意する。 まず ゼzと Wか
ら
,
VzVy[yキ
ιz→
Vy[yキ W→
(y∈
・………………………………………………………………
ιzPy=Z)]・ ……・
・(3)
(y∈ Wご vz(y∈ z&z∈ y→ y=z))]… ……………………………………………(4)
とな し,つ ぎにVと Aに ついては以下が直ちに対応す る [∵
とy=yよ りyキ A→ ∼
(y∈
vユ y=y)「 y∈ V,お よびyキ A→
(y∈
(y∈
A ttyキ y)
A),こ れと対偶から]:
Vy(ytt V→ y∈ V)… …………………………………………………………………………………・(5)
∀y(y∈ A→ y=A)。 ………………・…………………・………… ……………………Ⅲ
……・……………(61
13)か
ら,全 称例化でvy[yキ ιy→
Vy(y+ι
(y∈
ιyPy=y)]と y=yよ り
,
y→ y∈ ιy)。 ……………………………………………………………………………………・
(7)
また, x∈ y&y∈ ιz&yキ ιzと お くと,(3)よ りy∈
VxVz[ヨ y(x∈ y&y∈
`zry=zだ
から
,
ιz&y■ とz)→ x∈ z&zキ ιz]… …… …………… ………………… ……。
(8)
ラ ッセルのパ ラ ドクスとフレーゲの論理主義
ここで, とy=Aと お くと,(7)よ りyキ A→ y∈
17
ところで(6)か らy∈ A→ y=A。
A。
それゆえ
,
…………………………
vy(ι y=A→ y=A)。 …………… ……………………………… …………
もし tz=zと お くと,(3)よ りyキ Z→
VzVy(多 =ι
(y∈
zPy=z)だ
か ら,yキ z→ ∼
(y∈
z)。
(9)
対偶 により,y∈ Z→ y=z。 ゆえに
,
…………………………10
……
Z&y∈ z→ y=2)… ……………………………………… ………
もしV=Aと すると,(5)の 対偶 よ り∼
A)→ y=Aで あるが,(6)よ
(y∈
りy∈ A→ y=Aだ か らデ イレンマにより
vy(y=A),す なわちすべ ての対象が唯―のクラスAで あることになって(21に 矛盾す る。ゆえに背理法
によ りVキ
A。
このことか ら(5)と (9)に より
,
……………………………1つ
A∈ V, ゼVキ A, ιιVキ A… ……………………………………………
(3)で yを
A,zを ιVと す るとAキ
しこつの左端 より,A∈ Vo
`ゼ
QOで zを ゼyと する と,
(7)の 対偶か ら∼ (y∈
tι
V→ (A∈
[`VPA=ι V),こ れ とtけ の右 の二つか ら,∼
ttV=Vと すれば矛盾。ゆえに,背 理法に よって
(A∈
`ι
V)。
しか
,
・―llか
・
・……………
…Ⅲ
… ……………………
Vキ V… … … … … … … … … … …・
ゼ
ty=ι ιy&y∈ ty→ y=ι y。 ゆえに, とy=ι yを 仮定す るとy∈
・.デ イレンマよ り, `y=y。 まとめて
ιy)→ y=ty。 ・
ゼy→ y=ι
yと
なるが,他 方
,
vy(ty=ι
……… '¨ ―l131
ιy→ y=ι y=ι ry)・ ……………
QDと 10か ら背理法により, ιVキ ιιVを 得 る。そ して これから再びDと 背理法 によって
… 10
ιιrVキ ιιV… ……………………………………………………………………………………
ここで, ゼ
`Vキ
Wか つ ∼
これ より,(8)で xを
(ι
``V,yを
ゼV∈ W)と 仮定す る。すると,14)で yを ιιVと お くことで
ヨz(ι ιV∈ z&Z∈ ιιV&ゼ `V■ z)。
yを ι
`V,2を Vに
z,zを ιVに 取 ると, ιιV∈ ιVか つ ιゼVキ ゼV。 これ と,(3)で
より
取 ることから, ιιV=Vを 得 る。 しか し,こ れはこかに矛盾。それゆえ,背 理法に
Ⅲ Ⅲ
………10
Ⅲ
Ⅲ
…
…
ιιV=W∨ ιιV∈ W… ………………………… …… ……… …… …… …………………
,
ここで, ιW=Wと 仮定す る。す ると10で yを とιV,zを
マによ り, ιιV=W。 しか しこの とき,lnに よって
→∼ pに より
Wに 取 って, とをV∈ W→
`ι
以上 より, ιW=W→
tWキ W。
V=W,こ れ と10か らデ イレン
`Wキ W。
ゆえに,(p→ ∼ p)
Ⅲ
… …………………………………………………………………… ………… ………10
ιWキ W… …………Ⅲ
これと,(71で yを Wに 取 るとWキ ゼW→ W∈ ιWを 得 ることか ら
……………………………… …………………… …………・tう
…………………………………Ⅲ
W∈ ιW… Ⅲ
,
10と ,(4)で yを とWと 取 ることとか ら
,
ιW∈ W'VZ(ι
10で zを Wと 取 り縮 小 す る と,ι
WCZ&Z∈
W∈ W→
∼
式 の 後 件 の 対 偶 よ り ιWキ W→
(ゼ
(ι
ιW→ ιW=Z)・ … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … …10
W∈ W&W∈
W∈ W&W∈
ゼW→ とW=W)。 そ れ ゆ え ,も し ιW∈
ιW)と な るが ,10,lDIこ よ って
Wと 仮 定 す る と,こ の
,
Ⅲ
Ⅲ
Ⅲ
……… 19
∼ (ι W∈ W)。 ………………………… …………… …・…… ……………… …………… ………
ι
ι
Wキ z)が 出る。 これ と,(8)で xを W,yを z,zを
これ と,101こ よって,10の 右辺 の否定 ,ヨ z(ι W∈ Z&Z∈ W&ι
W
と取 るこ ととか ら, ιW∈ W。 これ は10と 矛盾す る。
16)GG/1 ss 60-61,BLA p105の §47を 参 HR。
17)こ の体系 は最初 タル ス キ ー に よって考案 され,Vuφ
→ φ (普 通例化)も 公理 の一 つ であ ったが ,こ の式が他 の公理
か ら導 け るこ とが カ リシ ュ とモ ンタギ ューに よって示 されて
tion of Predicate Logic with ldetity",A々
い る。D Kalish and R Montague,“ On Tarskl'S Formariza―
カオア Aれ 脇 と兜″力″ G切″J'7(1965)pp 61-792兵 照。
敏
畑
18)λ 変 換 につ い て の一 般 的 記 述 に つ い て は
,Abnzo
19)(LL)か ら,[λ
Vxl… Vxn([λ
xn']=F→
xl―・
xl… xn
φ](xl,…
,xn)Pφ
によ り,ョ Fn([λ
・xn
xl・・
φ](xl,…
従 って,[λ
)。
在例化によ り,[λ xI… xn φ]=F→ ヨFnvxl…
xI… xn
xl… xn
,xn)'F(xl,
nCetOn U P(1941)参 照 。
・, xn))。
…
(v/λ ― COnv)よ り
,
φ]=F→ Vxl… vxn(F(xl,… ,xn)「 φ)。 存
Vxn(F(xl,… ,xn)Pφ
・
・xn']=F)→ ヨFnvxl… Vxn(F(xl,…
xl・
λ),す なわちヨFn([λ
C卿 97st伽 ,P
Church,勁 ¢傷 ,"Jfげ 助脇 b力
Vxl¨・Vxn([λ
,xn)'φ
)。
)。
こ れに普遍汎化 を施 し述語論理の法則
これか ら,本 文の次行で導入 される (cP
φ]=F)に よ り,(CP),す なわちヨFn(F(xl,… ,xn)'φ
20)厳 密には層別化 の定義 はこ うなる。式 または λ抽象体 φが同次的に
)が 出る。
層別化 されている (hOmogeneOuゞ y
strat
ed)の
は
が λ抽象体ならば φ自身 も含めて)中 に含 まれている項,述 語 λ抽象体の
,
集合に対する,以 下のような自然
'(φ
の
数 付値 tが 存在するとき,か つそのときのみである
:
(1)す
べ ての項 a,
bに 対 して, もし
(a=b)が
,中 に現れていれ 嗚 t(a)=t(b)oす なわち,等 号 のlul辺 に現れる
項 どうしはすべ て同次元である。
(21n≧ 1な るすべ ての nに ついて,す べ ての n項 述語表現 πと べての
す
項al,… ,anに 対 して, もしπ (al,… ,an)
が φに現れている整成式ならば,lr)it(萄 )=t(ak), 1≦
j,k≦ n,か つ
lHl t(π )=t(al)十 ユ。すなわち,一 般
の述語表現に伴 う項 どうしはすべ て同次元であ り (=(Tl),か つ
,述 語表現その ものの次元は項 の次元 よ り丁度一次
元高い (=(Hll。
13)す べ ての m∈
ωにつ き,す べ ての個体変項xl,…
,xm,お よびすべ ての整成式 ″に対 して, もし
中に現れていれば,│,t(xJ)=t(xk), 1≦
j,k≦ mか っ,l_lt([λ
[λ
xl…
xtt
ψ]が φ
ψ])=t(xl)+1。 すなわち, λ抽象体内
部に現れる述語表現 に伴 う項 どうしもすべ て同次元であ り (=?功
, λ抽象体全体 の次元 は,そ れ ら内部 のJJtの 次元
よ り丁度一次元高い (=ll)。
xl… xn
もし,以 上の規定か らlr)と ?,を 落 とし,伸 )と llを より弱 い要求 :t(π
・, t(am)]お よび t([λ
)=1+max tt(al), ¨
・Xm ψ])=1+max[t(xl),¨ ・,t(xm)]で
Xl・ ・
置 き換 えるとき,す なわち,述 語 “="の 両辺 に現れる項 どうしのみ
が同次元で,一 般の述語表現および λ抽象体 に伴 う項 どうしは同次元で
も異次元で もよく, また述語表現 とλ抽象体の
次元 はそれ らに伴 うい くつ かの項 の持 つ最大次元 よ り丁度 一次元高い とき
, φは単純 に層 別化 されている ( mply
stradaed)と 言 う。 また(イ 〉 ?う と共に(1)も 落 とし,(Hl,l―
更に弱 い要求
:取 aX[t(al),… ,t(an)]<t(π
)お ょび
・
・xm ψ])で 置 き換 えるとき,す なわち
ど
,項 うしの次元は同次元で も異次元で も
よ く,ま た述語表現 とス抽象体 の次元はそれ らに伴 うい くつかの の つ
項 持 最大次元 よ リー次元以上高いとき, φは累積
的に層別化 されている (cumuladvely strattned)と 言 う。
max[t(xl),¨ ・,t(xm)]<t([λ
lを
xl・
21)[13]か らはつ ぎのように して矛盾が出る。まず
,λ xョ G(x=G&∼
とλ変換原理によ り, ヨc(x=c&∼
c(x)),F(x)。
G(x))=Fと
お く。ライプニ ッッの法則 :(LL)
(i)F(F)の とき。ョc(F=G&∼ G(F))。
F=G&∼ G(F)と
すると,∼ F(F)が 出て矛盾。(1)∼ F(F)の とき,vG(F=G→
G(F))で ある力ヽ F=Fだ か ら,F(F)が 出て矛盾。
[14]か らの矛盾 はこうなる。 [λ z[λ xyヨ G(x=G&∼ G(y))]](z,z)=Fと
お くと,(LL)と λ変換原理か ら,[λ
xyヨ C(x=c&∼ G(y))](z,2)'F(2)で ある。(i)F(F)の
とき,[λ xyヨ G(x=G&∼ G(y))](F,F)で
ある
か ら,再 び λ変換原理によ り,ヨ G(F=G&∼ G(F))。
F=G&∼ G(F)と お くと,∼ F(F)が 出て矛盾。い)∼ F
(F)の とき,∼ [λ xyヨ G(x=G&∼ G(y))](F,F)で あるか ら λ
, 変換原理によ り,∼ ョG(F=G&∼ c(F)),
すなわちVG(F=G→ G(F))。 F=Fだ から,F(F)が 出て矛盾 となる
。
22)ク ヮィンの集合論NFは ,“ ∈"を 原始述語に取 る 一
第 階述語論理 をベースと して
i Vz(z∈ xPz∈
y)→
x=yと
,量 化の公理以外 に,外 延性の公理
,xn∈ xnキ 1と い う形で層別化 された内包の原理 :ヨ y∀ x(x∈ yPF(x))を もつ集合
論である。クヮインによれ 吼 “yが 非 クラス,つ まり個体の ときは
,x∈ yは 「xは 個体yで ある」のことだと解 してよ
い"か ら, yが 個体の ときは,x∈ y「 x=yPx∈
lylと なって,こ れと外延性の原理 とか ら,y=lylと なる。す
ラ ッセルのパ ラ ドクスとフレーゲの論理主義
19
, a=lalに なって しまう。 これは一種の変則状況であると言
わざるを得ない。 この変則状況を打開 して原要素に しかるべ き地位 を与 えるため,外 延性 の原理 を,(ヨ z(z∈ x)&V
Z(2∈ Xど Z∈ y))→ X=yの 形 に制限 した ものがNFUで ある。NFに ついては,W V O Quine,“ New Foundadons for
なわち,メ ンバーを もたない原要素 (urdement)aが
ω,Harvard U P(1953)[邦 訳 :「 数P■ 論理学 の新 しい基礎」, クワイ
Mathemaical Logば ,in F7o/1,と ο
ξtc,ケ 駒崩歩げ 駒¢
ン『論理学的観点か ら』 中山浩二郎 ・持丸悦朗訳,岩 波書店 (1972),10卜 123頁 ]を ,NFUに ついては,註 24)で 示
すR Jensenの 論文 を参照。
23)弱 ツェルメロ集合論 とい うのは,“ ∈"と “="を 述語 に持 ち,1908年 に E.ツ ェルメロ (Emst Zermdo)が 与えた
集合論 の公理の うち,外 延性,対 ,和 ,巾 の各公型 と,制 限された分出公理 :ヨ yVz(2∈ yPz∈ x&φ )を もつ集合論
のことである。制限された分出公理 とは,条 件 φ中のすべ ての量化子が何 らかの集合に制限されてい ること,す なわち
,
φ中に含 まれる量化の表現が,Vx∈ y″
あるいは,ヨ x∈ yψ の形 を取 っている ものを言 う。
24)Ronald Jensen,“ On the Consistency of a slight(?)MOdinCatiOn Of Quine's Ar9ν
F92t″
JtFS9 1 9(1968),
ど,ι l伽 s",み ″ι
pp 250-263。
25)(LL*)よ り,[λ
るが,こ れに
(φ
(λ
xl・
・XR ψ]→
・
・xn φ]=[λ xl・ ・
([λ
xl… xn
―Conv*)を 適用 し,更 にUG,(Al*),(A2・
φ](xl,… ,xn)P[λ
)か ら,[λ
xI… xn
xl… xn
φ]=[λ
ψ](Xl,… ,xn))が 出
xl… xn
ψ]→ Vxl… ∀xn
Pψ )が 導ける。
26)フ レーゲの体系 において,外 延性 の原理 i Vxl… Vxn('Pψ )→
法則 (Va),す なわち∀x(FttPGx)→ とF(C)=占 G(α
)=と
)で ある
[λ
xl… xn
(Vb):と
F(。
定 していたのであった
27)単 項
(λ
(§
G(α
xⅢ
…xR ψ]に 相当す るのは
(GG4§ 52)。 この (Va)は
同値 な式 : とF(ε
)→ (FxPGx)と
であ り,こ れら二つの式 の連言 :き F(ε )=と G(α )'Vx(Fx'Gx)を
因 である
φ]=[λ
,
,パ
ラ ドクス発生 の原
)=と G(■ )→ Vx(FxPGx)の
フレーゲは論理の基本法則
逆命題
(V)と して認
3, 5参 照)。
HSTキ )と は,登 場す る述語表現 を単項述語 に制限 した
(λ
HST*)の 部分体系である。
28)小 論ではもっぱら,パ ラ ドクスの防止 とい う観点に的を絞 ったので,算 術 を論理に遠元するとい う,「 論理主義」 を
実行することについての細かい条件 を考察す る余裕がなかった。 これは今後の課題 としたい。
[付 記]小 論 は,第 三十九回西 日本哲学会
(1988123-4
於福岡大学)に おいて行った研究発表「Frege・ パ ラ ドクス
・論理」 の車稿 に加筆修正 して成 った ものである。発表当 日,会 場 で鋭い質問の矢 を投 じて争者 を当惑 させ奮起 させた水
。
崎博明 。飯田隆の両氏 をは じめ,拙 い発表 をお聴 き下 さ り有益 なア ドバ イス な与えられた詰先生 諸先輩方,常 々筆者を
励 まし学ぶこと ,知 ることの厳 しさと楽 しさを示 して下 さる松永雄二先生に,感 謝の言葉を申 し述べ たい。
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