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エコポイント変更・終了のインパクト
みずほ日本経済インサイト Japan みずほ総合研究所 経済調査部 エコノミスト 松本 惇(03-3591-1414) [email protected] 2010/12/15 エコポイント変更・終了のインパクト ~2011 年度の薄型テレビ販売は前年比 60%減~ ○ 家電エコポイント制度の変更・終了により薄型テレビ販売は大幅に増減。2010 年 10~12 月期 の個人消費は薄型テレビで 0.4%Pt 押し上げられるも、2011 年 1~3 月期は 0.3%Pt、4~6 月期は 0.1%Pt 押し下げられる見込み。2011 年度は 0.6%Pt の押し下げ要因に ○ アナログ放送停波後の薄型テレビ販売は激減。2018 年度まで薄型テレビ販売台数は年率 1000 万台を下回る可能性大 (1) はじめに 個人消費回復の牽引役であ 2009 年の春から 2010 年の夏にかけ、個人消費は回復を続けてきた。雇用・所得環境 ったエコカー補助金は終了。 に厳しさが残る中、回復を主導したのはエコカー減税・補助金や家電エコポイント制度 エコポイントも 2011 年 3 月に (以下、エコポイント)といった耐久財購入支援策であった。2009 年 4~6 月期から 2010 打ち切られる予定 年 7~9 月期にかけてGDPベースの個人消費はおよそ 4%増加したが、そのうち 3%Pt 近くが購入支援策の対象となった自動車と薄型テレビによるものだった。 しかし、牽引役の一つであったエコカー補助金は 2010 年 9 月に終了した。エコカー減 税は継続されるが、補助金終了による実質的な値上がりと終了前の駆け込みの反動で、 新車販売台数の 10~11 月平均は対 7~9 月期平均比▲32.7% (みずほ総合研究所によ る季節調整値)と急激に落ち込んでいる。補助金によって生じた需要先食いの反動はし ばらく続くとみられ、自動車販売が個人消費を牽引することはもはや期待し難い。 もう一つの牽引役であるエコポイント制度は継続しているが、2010 年 12 月以降、付与 ポイントの減額や対象製品の絞込みが段階的に行われていく。エコポイントは薄型テレビ のほか、エアコン、冷蔵庫が対象製品となっているが、特に効果の大きかったのが薄型テ レビである。エコポイント制度の変更・終了の前後では駆け込みとその反動などから薄型 テレビ販売が大きく増減し、個人消費にアヤをつけると考えられる。実際、10 月の薄型テ レビ販売は前月比+27.6%(みずほ総合研究所による季節調整値、後注 1)と大幅に増 加したほか、報道によると 11 月は 10 月以上に増加した模様である。その分、12 月には大 幅な反動減が予想される。耐久財以外の消費が力強さを欠く中、こうしたアヤが当面の個 人消費に与える影響は大きいとみられる。また、エコポイント終了後については、アナログ 放送停波(2011 年 7 月)後に薄型テレビ販売が急激に落ち込むという見方がある。その動 向は 2011 年度の個人消費を占う上で重要なファクターとなる。 本稿では、エコポイント制度の変更・終了による影響を踏まえた上でアナログ放送停波 までの薄型テレビ販売の増減を考え、それが個人消費に与える影響について分析する。 また、アナログ放送停波後の中長期的な薄型テレビ販売の動向についても考える。 (2) エコポイント制度の概要と薄型テレビ販売の現状 エコポイントによって薄型テレ ビ価格は実質的に値下がり 最初に、エコポイント制度の内容や薄型テレビ販売の動向について概観しておこう。エ コポイントは、所定の省エネ基準を満たした薄型テレビ、エアコン、冷蔵庫を購入する際 に一定のポイントを付与して実質的な購入価格を引き下げ、需要を喚起することを狙った 制度である。図表 1 のようにサイズなどに応じたポイントが付与され、消費者はそれを商品 当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料 は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものでは ありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。 券などと交換することが出来る。また、買い替えをしてリサイクルを行った場合には、追加 的に買い替えポイントが付与される(薄型テレビとエアコンは一台あたり 3000 点、冷蔵庫 は 5000 点)。 図表1 家電エコポイント対象製品と付与ポイント 薄型テレビ エアコン 冷蔵庫 サイズ 付与ポイント 冷房能力 付与ポイント 定格内容積 付与ポイント 26V未満 7000点 2.2kW以下 6000点 250L以下 3000点 26V、32V 12000点 2.8kW、2.5kW 7000点 251~400L 6000点 37V 17000点 3.6kW以上 9000点 401~500L 9000点 40V、42V 23000点 501L以上 10000点 46V以上 36000点 (注)1.買い替えポイント(薄型テレビとエアコンは3000点、冷蔵庫は5000点)は含まない。 2.付与ポイントは半減される前(2010年11月末)までの値。 (資料) 総務省資料よりみずほ総合研究所作成 エコポイントによって薄型テレ ビ販売は大きく盛り上がり とりわけ、エコポイント導入によって需要が大きく喚起されたのが薄型テレビであった。 アナログ放送停波に向けて潜在的な需要が大きかったほか、地上デジタル放送への対 応を迅速に進めるという政府の方針を背景に、付与ポイントがエアコンや冷蔵庫より高か ったことが影響したとみられる。エアコンと冷蔵庫については、エコポイントが導入されて から 2010 年夏にかけて需要があまり喚起されなかった。2010 年の 10~11 月については エコポイント半減前の駆け込みでエアコン・冷蔵庫の販売も増加した模様だが、薄型テレ ビと比べればその度合いは小さい。個人消費に占めるウェイトが低い(総務省「家計消費 状況調査」によると 2009 年のエアコン、冷蔵庫のウェイトはいずれも薄型テレビの 3 分の 1 以下)ことにも鑑み、本稿はエコポイント制度の変更などが個人消費に及ぼすインパクトを 考える上で、薄型テレビだけに注目することにした。 薄型テレビ販売の動向をみると、元々、アナログ放送停波に向けて増加基調であった が、エコポイント導入後はそのテンポが加速した(図表 2)。2007 年度と 2008 年度の薄型テ レビ出荷台数はそれぞれ 880 万台、1010 万台であったが、2009 年度は 1589 万台、2010 年度上半期の年率換算値は 1960 万台まで増加している。この結果、地上デジタル放送 対応テレビ(以下、地デジ対応テレビ)の世帯普及率もエコポイント導入前のトレンドから大 きく上振れており、2010 年 7~9 月期時点で 84.8%に達した(図表 3)。現在の地デジ対応 テレビの一世帯あたりの平均保有台数は 1 台強であると試算され(後注 2)、ほぼ一家に一 図表2 薄型テレビの出荷台数 300 図表3 地上デジタル放送対応テレビの世帯普及率 (万台) 250 実際の普及率 エコポイントが無かった場合の普及率 84.8% (%) 90 80 73.4% 70 200 60 150 100 50 40 30 50 0 2007 2008 2009 2010 (月/年) (注) みずほ総合研究所による季節調整値。直近は2010年10月。 (資料) (社)電子情報技術産業協会資料よりみずほ総合研究所作成 Q1 Q2 2008 Q3 Q4 Q1 Q2 2009 Q3 Q4 Q1 2010 Q2 (注)1.総務省の調査時点(2008年3月、2009年3月と9月、2010年3月と9月)に おける 地上デジタル放送テレビの世帯普及率を補完した。 2.エコポイントが無かった場合の普及率は2009年3月までのトレンド並みに 上昇するとした。 (資料) 総務省資料からみずほ総合研究所試算 Q3 台は地デジ対応テレビがある計算になる。このように薄型テレビ販売を盛り上げ、家計の 地デジ対応を加速させたエコポイントであるが制度が段階的に縮小され、終了を迎える。 図表 4 に示すように、2010 年 12 月からは付与されるポイントがほぼ半減し、2011 年 1 月 からはポイント付与が省エネ基準 5 つ星かつ買い替えの場合に限定される。そして、同年 3 月には終了する予定となっている。以下では、エコポイント制度の変更・終了による影響 を踏まえた上で、アナログ放送停波までの薄型テレビ販売の動向を検討する。 家電エコポイント制度変更・終了のスケジュールと薄型テレビ販売への影響 図表4 家電エコポイント制度の変更内容 2010年10月 薄型テレビ販売への影響 ポイント数 支給対象 プラスの影響 現行のまま 4つ星以上 ポイント半減前 の駆け込み需要 マイナスの影響 11月 12月 駆け込みの反動、 ポイント半減による需要減 ほぼ半減 5つ星かつ 買い替えのみ 2011年1月 対象製品限定などによる 需要減 2月 エコポイント終了前 の駆け込み需要 3月 4月 ゼロ エコポイント終了による 需要減と駆け込みの反動 エコポイント制度の終了 5月 アナログ放送停波前 の駆け込み需要 6月 (資料) 総務省資料からみずほ総合研究所作成 (3) アナログ放送停波までの薄型テレビ販売予測と個人消費への影響 2010 年 10~11 月は駆け込み 12 月からのエコポイント半減を前にした駆け込み需要によって、2010 年 10 月と 11 月 需要で薄型テレビ販売が急増 の薄型テレビ販売は急増した。10~11 月の薄型テレビの平均販売台数は、7~9 月期の 平均販売台数から 66.3%増加した模様である(みずほ総合研究所の季節調整値、後注 3)。 雇用者所得やテレビ価格などを説明変数として推計すると、10 月と 11 月の駆け込みダミ ーに対する弾性値が 0.35 と 0.61 となり、駆け込み需要によって 10 月の販売は 35%、11 月は 61%程度押し上げられたと推測される(図表 5)。 図表5 係数 定数項 標準誤差 t検定統計量 ▲ 7.78 6.25 1.23 0.48 2.56 * ▲ 1.04 0.03 ▲ 31.88 * 駆け込みダミー (2010年3月=1) 0.18 0.03 5.81 * 駆け込みダミー (2010年10月=1) 0.35 0.04 8.95 * 駆け込みダミー (2010年11月=1) 0.61 0.04 15.61 * 雇用者所得 販売価格 ▲ 1.24 薄型テレビ販売関数 自由度修正済み決定係数 F検定統計量 推計期間 0.99 884.52 * 2005年1月~2010年11月 (注)1.ダミー以外は全て対数値。 2.雇用者所得=雇用者数×実質賃金。販売価格は消費者物価(テレビ)。 3.2010年11月の雇用者所得、販売価格は10月から横ばい。 4.2010年11月の薄型テレビ出荷台数は各種報道などから 前年比+200%として季節調整をかけた。 5.*は有意水準5%で有意にゼロと異なることを示す。 6.F検定は定数項以外の係数が同時にゼロという帰無仮説に 対する検定。 (資料) (社)電子情報技術産業協会「民生用電子機器国内出荷統計」資料 などからみずほ総合研究所推計 12 月は駆け込みの反動など から薄型テレビ販売は激減 しかし、12 月になると、駆け込みの反動が生じることに加え、エコポイント半減に伴う実 質的な価格上昇が押し下げ要因となる。まず、11 月までの駆け込み需要が剥落すること により、駆け込みがなかった場合の水準(=10 月の販売実績÷1.35)程度まで需要の ベースが下がる。それによって、12 月の薄型テレビ販売台数は 10~11 月の平均台数を 36%下回る。さらに、ポイント半減による実質的な購入価格上昇の影響を勘案する必要 がある。ここではテレビ価格に対する「助成率」を求め、エコポイント半減による実質的な 値上げ幅とみなす。助成率は「薄型テレビ販売価格に占めるエコポイントの割合」で計算 した。パネルサイズごとの助成率を求め、販売台数のシェアでウェイト付けして薄型テレビ 全体の平均的な助成率を試算すると、2010 年 9 月時点では 25.1%となる(図表 6)。すな わち、エコポイントによって消費者は実質的に 25%程度低い価格でテレビを購入すること ができていたことになる。しかし、エコポイント半減により 12 月の助成率は 15.3%まで低 下するため、10%程度の価格上昇が生じたのと同じことになる。図表 5 の推計によると、 薄型テレビ販売の価格弾性値は▲1.04 であるため、1%の値上がりで需要はおよそ 1% 減少する関係がある。したがって、ポイント半減に伴う実質的な価格上昇によって 12 月 の販売台数は約 10%押し下げられると計算できる(押し下げ幅=価格弾性値▲1.04×値 上げ幅 10%)。 以上を踏まえると、10~11 月平均の薄型テレビ販売台数は駆け込み需要によって 7~ 9 月期をおよそ 66%上回ったが、その反動と実質的な値上がりによる需要減により、12 月 は 10~11 月平均を 46%(駆け込みの反動で▲36%、実質的な値上がりで▲10%)下回 ると推計される。これを四半期ベースでみると、10~12 月期は前期比+41%という計算に なる。 家電エコポイントの助成率 図表6 11月まで支給される エコポイント 販売台数 シェア(%) 現在の 助成率(%) 12月からの 支給エコポイント 12月からの 助成率(%) 26V未満 10000点 22.9 28.2 7000点 26V 15000点 9.3 27.4 9000点 19.7 16.4 32V 15000点 36.1 24.8 9000点 14.9 37V 20000点 5.4 19.9 11000点 10.9 40V 26000点 14.3 24.7 14000点 13.3 12.2 42V 26000点 5.9 22.6 14000点 46V以上 39000点 6.2 20.6 20000点 10.6 加重平均値 ー 25.1 ー 15.3 ー (注)1.助成率=支給されるエコポイント÷販売価格。 2.エコポイントは1点=1円と仮定。買い替えリサイクルに対する交付(3000点)を含む。 3.販売台数シェア、販売価格は2010年9月の値。 4.助成率の加重平均値はインチ毎の助成率を販売シェアをウェイトとして計算。 (資料) 株式会社BCN資料を基に作成。 1~3 月期はエコポイント終了 次に、2011 年 1~3 月期の販売動向に影響を与える要因を整理する。販売を押し上げ 前の駆け込みが販売を押し上 る要因は、3 月末のエコポイント終了に向けた駆け込み需要である。一方、1 月からエコ げ。一方で買い替えポイント ポイントの支給対象が大きく絞り込まれることは、販売の押し下げ要因となる。具体的に の廃止は押し下げ要因に は、支給対象が 5 つ星製品、かつ、買い替えの場合に限定され、買い替えポイント(一律 3000 点)が交付されなくなる。 前述の図表 5 の推計結果によると、2010 年 3 月、10 月、11 月の駆け込み需要の大き さはそれぞれ 18%、35%、61%であった。2011 年 1~3 月期に生じる駆け込み需要の大 きさがどれくらいになるかは正確に分からないが、2010 年 10~11 月に大規模な駆け込み が発生した直後であり、それよりは規模が小さくなることは確実と思われる。2010 年 3 月に は省エネ基準の改定(3 月末までエコポイント付与の対象(4 つ星)であっても省エネ基準改 定により 4 月からは対象外(3 つ星)となる製品があった)を背景に小規模な駆け込み需要 が発生したが、今回はそれを参考に 2011 年 3 月に 18%程度の駆け込み需要(1~3 月期 にならすと 6%の駆け込み需要)が生じると仮定しよう。 次に、押し下げ要因について検討する。足元では、販売されている薄型テレビの殆ど がエコポイントの対象となっている模様である。しかし、5 つ星製品・買い替えに限定され ることによって 1 月からエコポイントの対象外となる製品のシェアが高まれば、テレビ全体 でみた助成率は低下することになる。また、買い替えポイントの廃止も助成率を押し下げ る要因となる。 5 つ星への限定については、2010 年 4 月に省エネ基準が改定された際の事例が参考 になる。2 月初めの時点では、「3 月まで対象となる製品」と「4 月以降も対象となる製品」 の販売シェアはほぼ同じであった(図表 7)。しかし、その後は消費者が 4 月以降も対象と なる製品を選好するようになり、4 月初めに販売された薄型テレビのほとんどを 4 つ星製品 が占めた。結果、助成率は低下しなかった模様である。今回、消費者は 5 つ星製品を選 好すると考えられる。5 つ星製品への限定が助成率に与える影響は限定的であろう。 図表7 エコポイント対象基準ごとにみた薄型テレビ販売の内訳(2010年2月~3月末) 3月まで対象 4月以降も対象 エコポイント制度の対象外 100% 80% 60% 50.9 40% 49.5 46.6 45.3 43.8 43.2 40.3 26.7 20% 13.4 0% 2/1 -7 2/8 -14 2/15 -21 2/22 -28 3/1 -7 3/8 -14 3/15 -21 3/23 -28 3/29 -4/4 (資料) 株式会社BCNの資料を基に作成。 エコポイントの対象が買い替えに限定されることによる影響を測る上では、潜在的な買 い替え需要がどの程度あるかが重要になる。買い替えを「今保有している非地デジ対応 テレビを廃棄して地デジ対応テレビを購入すること」とすると(後注 4)、足元までの薄型テ レビ販売の殆どが買い替えであった模様である(図表 8)。それでも、2010 年 12 月末時点 で買い替えられていない非地デジ対応テレビは約 4900 万台存在すると推測される(図表 9)。地デジチューナーなどで対応する家計もあることから、4900 万台全てが買い替えられ るわけではないだろう。しかし、2010 年 9 月時点での地デジ放送チューナーの世帯普及 率(総務省調査)が 12.4%にとどまっていることなどを踏まえれば、4900 万台の内の相当 部分がアナログ放送停波までに買い替えられる可能性が高い。潜在的な買い替え需要 はまだ大きいため、エコポイントの対象が買い替えに限定されることによる影響は軽微で あろう。 図表9 家計保有のテレビ台数の内訳 図表8 薄型テレビ出荷台数の内訳 2500 (年率、万台) その他(新規、買い増し等) 非地デジ対応TVからの買替 出荷台数 2000 (万台) 12000 非地デジ対応TV 地デジ対応TV 10000 8000 1500 6000 1000 4000 500 4900 万台 2000 0 2007 2008 2009 0 2010 2006 (注) 非地デジ対応テレビ保有台数の減少分が全て買い替えられたと想定。 (資料) 総務省、内閣府、電子情報技術産業協会の資料を基に みずほ総合研究所試算。 2007 2008 2009 2010 (注) 2010年10~12月期は予測値。 (資料) 総務省、内閣府、電子情報技術産業協会の資料を基に みずほ総合研究所試算。 (四半期) 買い替えポイント廃止により 一方、買い替えポイントの廃止は、図表 10 から分かるように平均的な助成率を 1 月か 2011 年 1~3 月期の薄型テレ ら 10.2%に低下させる要因となる。これは 5%程度の価格上昇に相当する。前掲図表 5 ビ販売は大きく減少 の推計による価格弾性値(▲1.04)に基づくと、1~3 月期の薄型テレビ平均販売台数は 5%押し下げられる計算になる。以上を踏まえると、2010 年 1~3 月期の平均販売台数は 対 12 月比+1%(駆け込み需要で+6%、買い替えポイントの廃止で▲5%)と試算できる。 ただし、四半期でみれば 1~3 月期は大規模な駆け込みが生じていた 10~12 月期比で ▲35%と大きく落ち込むであろう。 図表10 12月からの 支給エコポイント 家電エコポイントの助成率 12月からの 助成率(%) 1月からの 支給エコポイント 1月からの 助成率(%) 26V未満 7000点 19.7 4000点 11.3 26V 9000点 16.4 6000点 10.9 32V 9000点 14.9 6000点 9.9 37V 11000点 10.9 8000点 8.0 40V 14000点 13.3 11000点 10.4 42V 14000点 12.2 11000点 9.5 46V以上 20000点 10.6 17000点 9.0 加重平均値 ー 15.3 ー 10.2 (注)1.助成率=支給されるエコポイント÷販売価格。 2.エコポイントは1点=1円と仮定。12月までは買い替えリサイクルに対する交付(3000点)を含む。 3.販売台数シェア、販売価格は2010年9月の値。 4.助成率の加重平均値はインチ毎の助成率を販売シェアをウェイトとして計算。 (資料) 株式会社BCN資料を基に作成。 2011 年 4~6 月期の薄型テレ ビ販売も減少 続いて、エコポイントが終了した後の 2011 年 4~6 月期の動向について考えよう。薄型 テレビ販売を押し上げる要因は、7 月のアナログ停波を前にした駆け込み需要である。3 月のエコポイント終了までに複数回にわたって駆け込みが発生した後でもあり、6 月の駆 け込み需要の大きさは 3 月(+18%、1~3 月期にならすと+6%)より小さくなるだろう。こ こでは 3 月の半分程度の駆け込みが 6 月に発生(6 月に+9%、4~6 月期にならすと+ 3%)すると仮定する。 一方、押し下げ要因としては、1~3 月期の駆け込み需要の剥落及びエコポイント終了 による実質的な価格上昇に伴う販売減、が挙げられる。駆け込み需要の剥落を勘案する と、4~6 月期の薄型テレビ販売台数は、駆け込みがなかった場合の 1~3 月期の水準 (=実際の 1~3 月期の販売台数÷1.06)まで押し下げられる。この時、前期比ベースで は 6%程度の減少要因となる。また、エコポイント終了によって助成率が 0%(10%の値上 げに相当)となるため、それによって販売は 10%程度押し下げられることになる。その結 果、2011 年 4~6 月期の薄型テレビ販売は前期比▲13%(駆け込み需要で+3%、1~3 月期の駆け込みの反動で▲6%、実質値上げにより▲10%)と試算される。 以上みてきた 2010 年 10~12 月期から 2011 年 4~6 月期までの薄型テレビ販売の予 想をまとめたものが図表 11 であり、GDPベースの個人消費に対する寄与度を示したのが 図表 12 である。薄型テレビは、2010 年 10~12 月期の個人消費を 0.37%Pt 押し上げる 要因となるが、2011 年 1~3 月期、4~6 月期はそれぞれ 0.32%Pt、0.12%Pt 個人消費を 押し下げる要因となるだろう。 図表11 薄型テレビ出荷台数の予測値 450 図表12 薄型テレビが個人消費に与える影響 (万台) 薄型テレビ販売 (前期比%) 10~12月期 平均 400 個人消費への影響 (寄与度%Pt) 1~3月期 平均 350 300 2010年7~9月期 26 0.24 10~12月期 41 0.37 2011年1~3月期 ▲ 35 ▲ 0.32 4~6月期 ▲ 13 ▲ 0.12 250 200 150 100 4~6月期 平均 50 0 2009 2010 2011 (注) 2010年11月の台数は前年比+200%として季節調整をかけた。12月 以降は、みずほ総合研究所の予測値ベース。 (資料) (社)電子情報技術産業協会資料よりみずほ総合研究所作成 (注) 個人消費に占めるテレビのウェイトは総務省「家計消費状況調査」に 基づき、2009年のテレビ支出ウェイト(0.91%)を用いた。 (資料) みずほ総合研究所による試算値 (4) アナログ放送停波後の薄型テレビ販売 2011 年度の薄型テレビ販売 は 1000 万台に届かず 最後に、アナログ放送停波後(2011 年 7~9 月期以降)の薄型テレビ販売について考え よう。2009 年度と 2010 年度の薄型テレビ販売は、専らエコポイント効果と地デジ対応期限 が差し迫ってきたことで盛り上がったが、こうした要因が無くなるアナログ放送終了後の販 売については定期的な買い替えがどれだけあるかにかかってくるだろう。1990 年頃よりテ レビの世帯普及率はほぼ 100%、平均保有台数はおよそ 2 台という状況が続いている。チ ューナーで対応した分など一部を除き、2011 年 7 月までにほとんどのテレビが地デジ対 応に買い替えられるとすると、その後の需要は故障などによる定期的な買い替え需要がメ インとなる。 内閣府「消費動向調査」によると、テレビの平均使用年数はおよそ 10 年である。したが って、ある年の買い替え需要は、概ねその年の 10 年前に購入されたテレビの台数(正確 には 10 年前に購入されたテレビのうち現在も残存している分)に等しくなると考えることが できる。例えば、2011 年度の買い替え需要は、10 年前(2001 年度)に購入されたテレビの うち、2011 年度時点で残存している分と近い数字になるはずだ。 2011 年 6 月末時点での家計保有のテレビストックを購入年度ごとに試算したものが図表 13 である(後注 5)。2001 年度に購入されたテレビのうち 6 月末時点で残存しているのは 482 万台である。よって、2011 年 7~9 月期、10~12 月期、2012 年 1~3 月期の定期的な テレビ買い替え需要の合計は 482 万台と見積もることができる。各期の販売台数が同じで あれば、7~9 月期以降の薄型テレビ販売は 161 万台(≒482 万台÷3)と、4~6 月期(490 万台)から 67%も落ち込み、個人消費を 0.61%Pt 押し下げる計算になる(図表 14)。また、 年度ベースでみると、2011 年度の薄型テレビ販売台数は 972 万台と 2010 年度から 62% 減少し、個人消費を 0.56%Pt 押し下げると計算される。 2018 年度まで薄型テレビ販売 2012 年度以降については、図表 13 で示されるように 2002 年度から 2008 年度までに 台数は年率 1000 万台を下回 購入されたテレビの台数がいずれも 1000 万台を下回っている。定期的な買い替え需要 る見込み。しかし 2019~2020 だけを考えれば、2012~2018 年度までの薄型テレビ販売台数は、1000 万台割れが続く 年度の販売は大幅増 可能性が高い。一方、2019~2020 年度に関しては、その 10 年前(エコポイントが導入され た 2009 年度と 2010 年度)の販売水準が高いため、高水準の買い替え需要が見込まれる。 このように、今回のエコポイント制度の導入・廃止は、中長期的な耐久財消費の波にも影 響を与えることになりそうだ。 図表13 2011年6月末時点での家計保有の テレビストックの内訳 購入年度 台数(万台) 図表14 薄型テレビ販売の動向と個人消費への影響 ストックに 占める割合(%) 薄型テレビ販売台数 万台 個人消費への影響 (寄与度%Pt) 前期比(%) 2001年度 482 4.4 2002年度 952 8.7 2011年4~6月期 490 ▲ 13 ▲ 0.12 2003年度 877 8.0 2011年7~9月期 161 ▲ 67 ▲ 0.61 2004年度 882 8.1 2011年10~12月期 161 0 0.00 2005年度 840 7.7 2006年度 825 7.6 2012年1~3月期 161 0 0.00 2007年度 928 8.5 2010年度 2536 62 0.56 2008年度 1010 9.2 2011年度 972 ▲ 62 ▲ 0.56 2009年度 1589 14.5 2010年度 2536 23.2 (注) 個人消費に占めるテレビのウェイトは総務省「家計消費状況調査」に 基づき、2009年のテレビ支出ウェイト(0.91%)を用いた。 (資料) みずほ総合研究所による試算値 (注) ブラウン管テレビ及び薄型テレビの合計。 (資料) (社)電子情報技術産業協会資料などからみずほ総合研究所試算 8 (5) おわりに 2010 年 10~12 月期の個人消 以上、エコポイントの減額や終了が薄型テレビ販売に与える影響について、詳しく検討 費は減少。その後も個人消費 してきた。結果を再度まとめたものが、図表 15 である。この結果を踏まえた上で、当面の の低迷が長期化する可能性 個人消費について考えてみよう。 が高い 2010 年 10~12 月期の薄型テレビ販売は前期比+41%と大幅に増加し、個人消費全 体を 0.37%Pt 押し上げることが見込まれる。しかし、エコカー補助金終了による新車販売 の落ち込み(個人消費への寄与度:▲1.2%Pt)による押し下げ分を打ち消すほどのインパ クトはなく、10~12 月期の個人消費は減少が避けられないだろう。2011 年 1~3 月期につ いては、新車販売の落ち込みに歯止めがかかるとみられる一方、薄型テレビ販売が前期 比▲26%となり個人消費を 0.32%Pt 押し下げると考えられる。雇用・所得環境に当面厳し さが残るとみられるほか、1 月からの所得税の扶養控除(年少親族に係る扶養控除)廃止 で家計の負担が高まる中、耐久財以外の消費に大きな盛り上がりは期待できない。1~3 月期の個人消費は全体で横ばい程度となるだろう。 2011 年度入り後は、耐久財購入支援策の終了によって、これまで自動車と薄型テレビ に支出されていた所得が衣料品やサービスなどに向けられる可能性はある。しかし、所得 が増えにくい状況は続きそうだ。2010 年度は子ども手当が所得の押し上げ要因となった ものの、2011 年度の子ども手当は、もはやマニフェスト通りの満額支給(1 カ月 26000 円) どころか、対象を限定した上での増額にとどまる可能性が高く、家計の可処分所得へのプ ラス効果は限定的とみられる。こうした中で、個人消費は力強さを欠くことになるだろう。エ コカー補助金、エコポイントという牽引役を失った個人消費は、低迷が長期化するリスク がある。■ 図表15 薄型テレビ販売の動向と個人消費への影響 個人消費への影響 (寄与度%Pt) 薄型テレビ販売台数 万台 前期比(%) 2010年7~9月期 615 26 0.24 2010年10~12月期 868 41 0.37 2011年1~3月期 563 ▲ 35 ▲ 0.32 2011年4~6月期 490 ▲ 13 ▲ 0.12 2011年7~9月期 161 ▲ 67 ▲ 0.61 2011年10~12月期 161 0 0.00 2012年1~3月期 161 0 0.00 2010年度 2536 62 0.56 2011年度 972 ▲ 62 ▲ 0.56 (注) 個人消費に占めるテレビのウェイトは総務省「家計消費状況調査」に基づき、 2009年のテレビ支出ウェイト(0.91%)を用いた。 (資料) みずほ総合研究所による試算値 (注1) 正確には薄型テレビ販売台数ではなく、薄型テレビ出荷台数である。出荷されたテレビが どの程度家計によって購入されているかは不明であるが、本稿では出荷台数の全てが家計に よって購入されたものと仮定して分析を行う。 (注2) 2010 年 9 月末での薄型テレビ出荷累計台数(2003 年以降)は約 6200 万台であり、世帯数 は 5300 万世帯(2009 年 12 月までの実績値を基に推計)、地デジ放送テレビの普及率は 83.8%(総務省調査)である。そのため、地デジ対応家庭の平均保有台数は、機械的に計算す れば 6200 万台÷(5300 万世帯×83.8%)≒1.4 台となる。 (注3) 11 月の実績値は未発表であるが、報道によると 11 月の薄型テレビ販売台数は 10 月以上 に盛り上がった模様である。10 月の出荷台数は前年比+144.8%であったので、11 月は前年 比+200%と仮定し季節調整を施した。 (注4) カラーテレビの平均使用年数は約 10 年である。地デジ対応テレビが本格的に販売された のは 2003 年以降であるため、平均使用年数を踏まえれば、現時点で地デジ対応テレビを廃 棄して新しい地デジ対応テレビを購入する家計の割合はあまり大きくないとみられる。 (注5) 2011 年 6 月末時点でのテレビストック合計は、「ストック合計=世帯数×テレビ普及率× 一世帯あたり平均保有台数」により計算した。世帯数、テレビ普及率、一世帯あたり平均保有 台数の値は、直近までの実績値(世帯数は 2009 年 12 月、普及率と平均保有台数は 2010 年 12 月)を基にして推計した。購入年度別のストック台数は、2002~2010 年度の購入分について は当該年度のテレビ出荷分が全て 2011 年 6 月末時点で残存していると仮定した。2001 年度 に関しては、ストック合計から 2002~2010 年度の購入分の合計を減じて求めた。