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516メガイアワビ種苗の放流方法(平成20年度)(PDF:677KB)

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516メガイアワビ種苗の放流方法(平成20年度)(PDF:677KB)
あたらしい
水産技術
No.516
メガイアワビ種苗の放流方法
平成 20 年度
-静 岡 県 産 業 部-
要
1
旨
技術、情報の内容及び特徴
メガイアワビは、県内沿岸の岩礁域で漁獲される重要資源である。近年低迷している漁獲
量を増加させるために種苗放流が行われているが、従来よりも小型種苗でも生残率が高く効
果的な放流方法を開発した。
(1)種苗の購入から放流まで
放流の際に、付着している稚貝を無理に手ではがすと活力が低下するので、半分に割
った竹などに付着させて放流する。
(2)放流時期の選定
放流時期は、害敵による食害を抑えるために、食害生物の活動が低下する冬期(12~3
月)に行う。
(3)放流場所の選定、放流方法
アワビは切れて漂着したカジメ類を食べるので、カジメ群落の中の転石場に放流する。
転石場は石の隙間が害敵からの隠れ場となるため、転石数が 1 ㎡あたり 30 個以上の場所
に放流する。放流の際には、貝の付着した竹を転石で覆い隠して転石により稚貝が保護
されるようにする。
(4)放流方法の改善による効果予測
以上のような方法で放流を行うことで、現状よりも小型の種苗でも生残率が向上する
と考えられる。また、放流経費あたりの生残数は 15~20mm サイズの種苗で多く、適切な
放流を行うことで、従来よりも放流効果が高くなると考えられた。
2
技術、情報の適用効果
従来の放流方法と比較して稚貝の生残率が向上することで、資源への添加量が増加する。
また、漁獲量の増加が期待でき、放流貝の再生産が行われれば資源増加につながる。
3
適用範囲
県内の沿岸域でメガイアワビの種苗放流を実施している地区
4
普及上の留意点
磯根漁場の資源管理の観点に立ち計画的な種苗放流を行う必要がある。
目
はじめに
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1
アワビ類の漁獲量と放流数の推移
2
アワビ種苗放流の現状と課題
3
メガイアワビ種苗の放流方法
(1)種苗の購入から放流まで
1
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(3)害敵から隠れる場所の多い場所の選定
3
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
4
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
5
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
5
(4)餌環境から見た放流場所の選定
(5)放流サイズ
1
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(2)食害の少ない放流時期の選定
(6)転石数に注目した放流適地
4
次
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
6
放流方法の改善による放流効果の予測
(1)生残率の改善予測
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(2)経費を考慮した放流方法
おわりに
7
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
8
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
9
はじめに
アワビ類は県内の岩礁域に生息し、主に潜水器や素潜りなどの採介漁業により漁獲されて
います。県内に生息するアワビ類はメガイアワビ、クロアワビ、マダカアワビ、トコブシの
4 種 類 で す が 、こ の う ち メ ガ イ ア ワ ビ と ク ロ ア ワ ビ は 市 場 単 価 が 高 く 重 要 な 資 源 で あ る た め、
資源を持続的に利用するために操業日数や漁獲サイズ制限などの資源管理や、種苗放流によ
る資源増殖が行われています。
ここではメガイアワビ種苗の放流について、従来よりも小型のサイズの種苗でも生き残り
が良く効果的な放流方法について紹介します。これにより、種苗放流にかかるコストの一部
が軽減されて種苗放流が行いやすくなり、効果的に資源を増やすことができると考えられま
す。
1
アワビ類の漁獲量と放流数の推移
県 内 の ア ワ ビ 漁 獲 量 の 経 年 変 化 を 図 1 に 示 し ま し た 。 昭 和 30 年 頃 は 30 ト ン 程 度 が 漁 獲 さ
れ て い ま し た が 、昭 和 30 年 代 後 半 か ら 増 加 傾 向 と な り 昭 和 48 年 に 95 ト ン に 達 し 、そ の 後 一
時 的 に 減 少 し た も の の 昭 和 62 年 に 最 高 の 104 ト ン を 記 録 し ま し た 。平 成 に 入 る と 漁 獲 量 は 急
激 に 減 少 傾 向 と な り 、平 成 8 年 以 降 は 31~ 39 ト ン と 低 迷 し て お り 、平 成 14 年 以 降 に 45~ 51
ト ン と 増 加 傾 向 が 見 ら れ た も の の 、 直 近 の 平 成 18 年 に は 再 び 31 ト ン に 減 少 し て い ま す 。
県内各地先の漁場では、アワビ資源を増大させるために、漁業者によりメガイアワビ、ク
ロ ア ワ ビ の 種 苗 放 流 が 行 わ れ て い ま す 。 種 苗 放 流 は 昭 和 52 年 か ら 始 ま り 、 昭 和 59~ 平 成 5
年 に は 県 内 で 年 間 約 100 万 個 が 放 流 さ れ て い ま し た が 、近 年 は 減 少 傾 向 に あ り ま す 。平 成 18
年 の 放 流 数 は ク ロ ア ワ ビ 14 万 個 、 メ ガ イ ア ワ ビ 16 万 個 、 合 計 30 万 個 で す 。
漁 獲 量 を 地 区 別 に み る と ( 図 2)、 熱 海 市 か ら 河 津 町 ま で の 東 伊 豆 地 区 で は 、 昭 和 40 年 代
後 半 以 降 は 10~ 20 ト ン で 比 較 的 安 定 し て 推 移 し て い ま す 。 平 成 に 入 っ て 減 少 傾 向 で し た が、
140
120
漁獲量
放流数
120
100
放
100 流
︵
80
数
︵
漁
獲 80
量
60
60
万
40 個
︶
︶
ト
ン 40
20
20
0
0
30
図1
35
40
45
50
55
年
60
H2
7
12
静岡県におけるアワビ類の漁獲量と放流数の推移
- 1 -
17
平 成 14~ 17 年 に は 20~ 24 ト ン へ 増
加傾向が見られます。放流数は昭和
52 年 以 降 増 加 し て お り 、近 年 で は 25
万個程度が放流されています。
下 田 市 と 南 伊 豆 町 の 漁 獲 量 は 15
~ 50 ト ン で 、 静 岡 県 全 体 の 3~ 6 割
を占める主産地です。下田市では、
かつて漁獲量が多かった田牛、白浜
地区で減少しており、南伊豆町では
近年全体的に減少傾向であり、平成
14 年 以 降 は 両 市 町 と も 約 10 ト ン の
漁獲となっています。放流数は、か
つ て 40 万 個 以 上 が 放 流 さ れ た こ と
がありましたが、漁獲量の減少に伴
い 最 近 で は 20 万 個 以 下 に 減 少 し て
います。
松崎町から富士市および蒲原町か
ら大井川町では、従来から漁獲量は
10 ト ン 以 下 と 少 な く 、沿 岸 に 岩 礁 域
のある由比町や静岡市、焼津市で数
トンずつ漁獲されています。放流数
も両地区とも 5 万個以下で少なくな
図2
海域別のアワビ類の漁獲量と放流数の推移
っています。
吉 田 町 か ら 御 前 崎 市 で は 、以 前 は 20~ 30 ト ン が 漁 獲 さ れ 、伊 豆 地 区 に 並 ぶ 主 産 地 で し た が、
近年は磯焼けにより、アワビ類の餌となる海藻のカジメ、サガラメ群落が消失したため、漁
業 生 産 も ほ と ん ど 無 く な っ て い ま す 。放 流 数 も 、か つ て は 30 万 個 以 上 が 放 流 さ れ て い ま し た
が、磯焼けの影響でほとんど行われなくなっています。
2
アワビ種苗放流の現状と課題
ア ワ ビ の 種 苗 は 、静 岡 県 温 水 利 用 研 究 セ ン タ ー な ど の 種 苗 生 産 機 関 か ら 、殻 長 約 20mm で 漁
協 等 に 販 売 さ れ ま す 。購 入 し た 20mm の 稚 貝 を そ の ま ま 海 に 放 流 し て も 、サ イ ズ が 小 さ い た め
に 生 残 率 が 低 く 放 流 効 果 は 期 待 で き ま せ ん 。そ の た め 、漁 業 者 等 に よ り 30mm 程 度 ま で 飼 育 し
た後に放流されます。これを中間育成といい、放流サイズを大きくして生残率を向上させる
とともに放流場所に近い海域で飼育することで、放流海域に馴化させ種苗の活力を向上させ
る 役 割 が あ り ま す 。 稚 貝 が 20mm か ら 30mm ま で 成 長 す る に は 数 ヶ 月 間 か か り ま す が 、 そ の 間
に餌を切らさないことや、育成施設の管理が必要となります。
近 年 放 流 数 が減 少 している原 因 の一 つとして、漁 獲 量 の低 迷 により漁 業 経 営 が悪 化 し、稚 貝 の購
買 力 が低 下 していることが考 えられます。また、稚 貝 を購 入 し た 後 も 中 間 育 成 に 手 間 が か か る こ と
も一因と考えられます。近年の漁獲量が低迷しているのは、放流数が減少することで資源の
- 2 -
増殖が妨げられて、これが漁獲量の減少につながり種苗の放流数が減るという悪循環に陥っ
ているとも考えられます。この悪循環を断ち切るためには、まず種苗の効果的な放流により
資源を増やすことが必要です。
3
メガイアワビ種苗の放流方法
(1)種苗の購入から放流まで
アワビ稚貝を種苗生産機関から購入すると、ブロック等に付着して湿ったタオルに包まれ
た状態で輸送されます。漁場内に分散して放流するために、稚貝を適当な数に分割する必要
がありますが、付着している稚貝を無理に手ではがすと稚貝がダメージを受けて活力が低下
し、放流後の生残率が低下してしまいます。放流貝の活力を低下させないで放流するために
は、できるだけ人の手に触れる回数を少なくする必要があります。そのために、稚貝を半分
に 割 っ た 竹 な ど に 付 着 さ せ て 放 流 を 行 い ま す ( 図 3)。
購入した稚貝を竹に付着させるには、あらかじめ適当な数の竹を用意して池の中のカゴに
入れておき、ここに稚貝を収容します。稚貝は暗いところを好むので、自然に竹に移動して
付着します。稚貝を竹に付着させた状態
で海底に放流することで、放流作業に伴
うダメージを少なくして、生残率を高く
することができます。
放流の際に1箇所への放流数が多すぎ
ると、密度が高くなり成長不良を起こす
ことがあります。そのため、1 箇所への
放 流 数 は 300 個 程 度 に 抑 え る 必 要 が あ り
ま す 。 直 径 10~ 12cm、 長 さ 30cm 程 度 の
竹 に は 、 20~ 30mm サ イ ズ の 種 苗 が 約 300
個付着するので、放流前に放流箇所数と
放流数にあわせて、あらかじめ付着させ
る竹の数や長さを調整する必要がありま
図3
割った竹に付着させたアワビ稚貝
す。
100
(2)食害の少ない放流時期の選定
放流した稚貝が減耗する最大の原因は、
害敵による食害です。稚貝を捕食する生物
は、カニ、ヒトデの他にベラ、カワハギ等
の魚類やタコなど数多くいます。このよう
な害敵の少ない場所を放流前に見つけるの
生
残
率
%
40
20
8月
期を選んで放流する必要があります。放流
月 の 水 温 25.2℃ の 時 に は 32% 、 12 月 の 水
60
0
は困難なため、害敵の活動が活発でない時
時 期 に よ る 生 残 率 の 違 い を 調 査 し た 結 果 、8
80
図4
- 3 -
放流した月
12月
放流時期による稚貝の生残率の比較
温 17.6℃ の 時 に は 79% で 、 12 月 の 方 が 2 倍 以 上 生 残 率 は 高 い こ と が わ か り ま し た ( 図 4)。
魚 類 は 春 か ら 秋 に か け て 活 発 に 行 動 し( 図 5)、エ ビ や カ ニ も 初 夏 か ら 秋 に 活 発 に 行 動 す る た
め 、こ の 時 期 に は 食 害 を 受 け や す い と 考 え ら れ ま す 。従 っ て 、放 流 は 12 月 か ら 翌 年 3 月 の 水
温が低く害敵の活動が低下している時期に行うことが必要です。しかし、ヒトデは寒い時期
に 活 発 に 行 動 し ま す し 、 タ コ は 年 中 活 動 し て お り 稚 貝 だ け で な く 親 貝 も 捕 食 し ま す ( 図 5)。
これらに対しては、駆除等の対策をとる必要があります。
図5
稚 貝 の 食 害 生 物 の カ ワ ハ ギ (左 )と タ コ( 右 )
タコは冬期も活動し成貝も捕食する
(3)害敵から隠れる場所の多い場所の選定
害敵による食害を抑えるためには、放流時期を選定する他に、稚貝の隠れ場所が多い所を
選んで放流することが必要です。アワビの稚貝は、カジメ群落の中の転石場で目にすること
が多いことが知られています。これは、石が重なり合ってできる隙間が稚貝の隠れ場所とな
り、害敵から守られると考えられます。従って、このような転石場へ放流する必要がありま
す が 、 後 で 説 明 す る よ う に 、 ゴ ツ ゴ ツ し た 20~ 30cm の 石 が 2~ 3 段 に 積 み 重 な っ て い る よ う
な 転 石 場 が 放 流 に 適 し た 場 所 で す( 図 6)。こ の 場 所 で 、稚 貝 を 付 着 さ せ た 竹 を 上 か ら 見 え な
く な る よ う に 石 で 覆 っ て 放 流 し ま す( 図 7)。こ う す る こ と で 、稚 貝 は 自 力 で 積 み 上 げ た 石 の
隙間に移動して外敵から保護されます。また、積み上げた石により波浪で竹が飛ばされるの
を防ぐことができます。
図6
図7
カジメ場の間に広がる転石場
稚貝が付着した竹を石で覆って
海底に固定する
- 4 -
(4)餌環境から見た放流場所の選定
ふ化後のアワビ稚貝は、石の表面に付着した
珪藻や小さな海藻を食べていますが、殻長が
15mm よ り 大 き く な る と カ ジ メ 等 の 海 藻 を 食 べ
るようになります。アワビは、カジメの葉が切
れ て 石 の 間 な ど に 漂 着 し た と こ ろ を 食 べ( 図 8)、
着生しているカジメによじ登って葉を食べるこ
とはありません。従って、稚貝の放流場所は、
カジメ群落周辺で餌のカジメが漂着するような
場所でなければいけません。
図8
漂着したカジメを食べるアワビ
(5)放流サイズ
一般的には、稚貝のサイズが大きい方が放流後の生残率は高いと考えられますが、稚貝を
大きく育てるまで時間や費用がかかります。小さいサイズで放流すれば育成のコストは抑え
られますが、高い生残率は期待できません。それでは、どのくらいの大きさで放流すれば良
いのでしょうか。これを調べるために、放流試験により稚貝のサイズ別生残率を求め、生き
残りの良い放流サイズについて検討しました。
ま ず 、殻 長 30mm 以 上 で は 、サ イ ズ が 大 き く な っ て も 生 残 率 に 違 い は あ り ま せ ん で し た( 図
9)。30mm 以 下 で は 、15mm 未 満 の 稚 貝 は そ れ 以 上 の サ イ ズ と 比 較 し て 生 残 率 が 低 い こ と が わ か
り ま し た( 図 10)。15~ 30mm の 稚 貝 で は 、サ イ ズ 別 生 残 率 に 差 が あ る 場 合 と 無 い 場 合 が あ り 、
一 定 の 結 果 は 得 ら れ ま せ ん で し た ( 図 11)。 15~ 30mm の 稚 貝 は 、 放 流 す る 場 所 に よ っ て 適 し
たサイズが異なるのではないかと考え、放流適地の条件について検討を行いました。
1.5
相
対
生
残
率
1.5
相
対 1.0
生
残 0.5
率
1.0
0.5
0.0
0.0
30~34
35~39
40~44
10~14
45~
殻長 ㎜
図9
15~19
20~24
25~29
殻長 ㎜
殻 長 30mm 以 上 の 生 残 率 の 比 較
図 10
殻 長 30mm 未 満 の 生 残 率 の 比 較
30~ 34mm を 基 準 に し た 生 残 率 。 生 残 率
15~ 19mm を 基 準 に し た 生 残 率 。
はあまり変わらない
10~ 14mm の 生 残 率 が 低 い
- 5 -
相
対
生
残
率
1.5
1.5
1.0
1.0
0.5
0.5
0.0
0.0
15~19 20~24 25~29 30~34
35~
15~19 20~24 25~29 30~34
殻長㎜
図 11
35~
殻長㎜
殻 長 15~ 30mm の 生 残 率 の 比 較
30~ 34mm を 基 準 に し た 生 残 率 。 生 残 率 に 差 が あ る 場 合 ( 左 ) と
無い場合(右)がある
(6)転石数に注目した放流適地
これまでに説明したとおり、稚貝の生き残りには害敵による食害が大きく影響しますが、
放流前に害敵の影響を把握するのは困難です。転石場には稚貝が害敵から隠れる場所が多く
あることから、放流する前に放流適地を判断するための基準として、転石場の石の数に着目
して転石数と稚貝の生残率の関係について検討しました。
1 ㎡ あ た り の 転 石 数 が 10 個 か ら 40 個 の 異 な る 場 所 に 、放 流 サ イ ズ 、放 流 時 期 、1 箇 所 の放
流数の条件を変えて稚貝を放流し、約 1 ヶ月後に全て回収することでサイズ別の生残率を求
めました。各条件による生残率の違いを求めたところ、放流サイズが大きい場合、転石数が
30 個 以 上 の 場 合 で 生 残 率 が 高 い 傾 向 が あ る こ と が わ か り ま し た 。 ま た 、 1 箇 所 の 放 流 数 が 多
い ほ ど 生 残 率 が 下 が る 傾 向 も 示 唆 さ れ 、放 流 月 で は 1~ 3 月 が 最 も 生 残 率 が 高 い 結 果 と な り ま
し た ( 図 12、 13)。
5
ッ
生 4
残
率
3
の
オ
2
ズ
比 1
転石数
図 12
サイズ
放流数
10-12月
4-6月
1-3月
4300個
1200個
1000個
600個
300個
30mm-
25-30mm
20-25mm
15-20mm
15mm未満
40個
30個
20個
10個
0
放流月
放流条件の違いによる生残率のオッズ比の比較
生 残 率 の 高 い 条 件 は 、 転 石 数 は 1 ㎡ あ た り 30 個 以 上 、 1 箇 所 へ の
放 流 数 は 300 個 、 放 流 す る 時 期 は 1~ 3 月
- 6 -
図 13
転 石 数 が 1 ㎡ 当 た り 40 個 の 転 石 場
大 き さ が 20~ 30cm く ら い の 石 が 2~ 3 段 積 み 重 な っ て い る 。
4
放流方法の改善による放流効果の予測
(1)生残率の改善予測
放流実験から推定された生残率により、いろいろな放流条件による生残率を予測しました
(表 1)。生 残 率 の 最 大 値 は 、放 流 条 件 が 転 石 数 30 個 、サ イ ズ 30mm 以 上 、1 箇 所 の 放 流 数 300
個 、放 流 時 期 1~ 3 月 の 場 合 に 74%で 、最 小 値 は 、放 流 条 件 が 転 石 数 10 個 、サ イ ズ 15mm 未 満 、
1 箇 所 の 放 流 数 1,000 個 、 放 流 時 期 4~ 6 月 の 場 合 で 3%と 計 算 さ れ ま し た 。 両 者 の 間 に は 28
倍の差があり、このことは適切な放流を行わないと放流効果は非常に低く、反対に適切に放
流すれば高い放流効果が期待できることを表しています。次に、現状の放流条件を改善した
場 合 の 効 果 を 計 算 し ま し た 。現 在 の 放 流 条 件 を 転 石 数 10 個 、サ イ ズ 15~ 20mm、1 箇 所 の 放 流
数 300 あ る い は 600 個 、放 流 時 期 を 10~ 12 月 と す る と 、生 残 率 は 約 10~ 22%と 計 算 さ れ ま す 。
こ れ を 、転 石 数 を 30 個 、放 流 時 期 を 1~ 3 月 、1 箇 所 の 放 流 数 を 300 個 に 変 更 す る と (放 流 サ
イ ズ は 15~ 20mm で 変 更 無 し )、 生 残 率 は 65%と な り 現 状 の 約 4 倍 に 改 善 さ れ る と 考 え ら れ ま
す。
表1
放流方法の違いによる稚貝の生残率
最大値
転石数
最小値
現状
改善
30 個
10 個
10 個
30 個
30mm 以 上
15mm 未 満
15~ 20mm
15~ 20 ㎜
1 箇所放流数
300 個
1,000 個
放流月
1~ 3 月
4~ 6 月
生残率
74%
3%
放流サイズ
- 7 -
600 個 、 300 個
10~ 12 月
10%、 22%
300 個
1~ 3 月
65%
(2)経費を考慮した放流方法
転石数が異なる場所に放流した場合の
サ イ ズ 別 生 残 率 は 図 14 に 示 す と お り で 、
全ての転石数で種苗サイズが大きいほど
生残率が高くなる傾向があります。種苗
一般的な感覚と合っているのですが、稚
貝を大きくするためには時間とコストが
かかります。ここまで、小型サイズの稚
0.8
生
残
率
%
0.6
40個
0.4
30個
0.2
20個
貝でも放流効果が高い方法について検討
0.0
m3 0m
2 5-
放流 サイ
そ こ で 、稚 貝 放 流 の 予 算 を 10 万 円 と し
30 m
m
25 m
m
2 0-
です。
1 5-
- 15
きるだけ抑えて放流数を増やしたいから
20 m
m
10個
mm
してきたのは、放流にかかるコストをで
転石
数
サイズが大きい方が生残率は高いことは、
ズ
たとき、最も生き残りの良い放流方法を
試算しました。簡単にするために中間育
成コストは無視して、放流コストは種苗
図 14
転石数が異なる場所に放流した場合の
サイズ別生残率
代 の み と し 、10 万 円 で 放 流 サ イ ズ の 種 苗
を購入してそのまま放流した場合を仮定
し ま し た 。 種 苗 価 格 は 、 15mm 未 満 は 15
円 、 15~ 20mm は 20 円 、 20~ 25mm は 25
円 、 25~ 30mm は 30 円 、 30mm 以 上 は 35
転石
数
0
ほど価格が上昇して放流数は減少します
放流 サ イ
2 0-
りました。これは、種苗サイズが大きい
m-
10個
1 5-
15~ 20mm サ イ ズ の 生 残 数 が 最 も 多 く な
20個
3 0m
る と 図 15 の よ う に な り 、全 て の 転 石 数 で
1000
30 m
m
に放流した場合の稚貝の生残数を計算す
30個
2 5-
なります。これを、転石数の異なる場所
40個
2000
25 m
m
30mm は 3,333 個 、30mm 以 上 は 2,857 個 と
3000
20 m
m
は 5,000 個 、20~ 25mm は 4,000 個 、25~
4000
mm
入 数 は 、15mm 未 満 は 6,667 個 、15~ 20mm
1
0
万
円
当
生
残
数
個
- 15
円 と し ま し た 。こ の 時 の 10 万 円 の 種 苗 購
ズ
が、放流数の減少をサイズが大きくなる
ことによる生残率の向上で補えないため
です。この結果は、種苗価格により変わ
図 15
放 流 経 費 10 万 円 あ た り の 生 残 数
転 石 数 に か か わ ら ず 15~ 20mm サ イ ズ の 生 残 数
ってくる可能性がありますが、種苗サイ
が多い
ズの大型化に伴う価格上昇が、今回の試
算 の 種 苗 価 格 ( お お む ね サ イ ズ 1mm 増 加 あ た り 1 円 ) よ り も 大 き け れ ば 、 放 流 経 費 あ た り の
生残数は今回と同様にサイズが小さい方が多くなります。これとは反対に、サイズが大きく
- 8 -
なっても種苗価格が変わらないならば、大きな種苗のほうが有利になります。現状では、大
きな種苗を少なく放流するよりも、小さな種苗を数多く適切に放流する方が放流効果が高い
と考えられます。
おわりに
アワビ資源が低迷して親資源が少なくなっている状況で、資源を迅速に回復する方法は種
苗の放流しかありません。今回紹介した放流方法は、種苗を購入してから海に放流するまで
のごく短い時間に気をつけなければいけないことです。それは、放流する場所(餌海藻の間
の 転 石 数 の 多 い 場 所 )、 放 流 時 期 ( 冬 場 )、 放 流 方 法 ( 竹 に 付 着 さ せ て 石 で 覆 い 隠 す ) の 3 つ
で 、特 に 難 し い こ と で は あ り ま せ ん 。今 ま で の 放 流 方 法 を 、”稚 貝 の 生 き 残 り を 良 く す る に は
どうするか”という視点に立って再点検すれば、放流した稚貝の生残率を向上させることが
可能です。
20mm サ イ ズ の 稚 貝 が 適 切 に 放 流 さ れ れ ば 、漁 獲 サ イ ズ で あ る 11cm 以 上 に 成 長 す る の は 約 4
年 後 で す 。こ の 間 は じ っ と 我 慢 し て 待 つ し か な い の で す が 、放 流 し た 稚 貝 の 10% が 回 収 で き
るだけでも、放流コストと我慢に十分見合った収入をあげることが可能です。しかし、放流
した貝だからといって採りつくしてしまえば、再び資源が低下してしまいます。漁獲をしな
い で 漁 場 に 残 っ た ア ワ ビ は 子 孫 を 残 し て 、漁 場 の 資 源 を 増 や し て い る は ず で す 。こ の よ う に 、
アワビ稚貝の放流は”自分たちの漁場をどのように管理して利用していくのか”という資源
管理の観点から考えていく必要があります。
水産技術研究所伊豆分場
主任研究員
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高木康次
平成20年10月発行
静岡県産業部振興局研究調整室
〒420-8601
静岡市葵区追手町 9-6
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