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医療保険と 介護保険財政

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医療保険と 介護保険財政
第 3部
医療保険と
介護保険財政
106
第1章
公的総医療・介護費の将来推計
1.前提条件
(1)医療保険制度のフレームワーク
ここでは、第 2 部の需要予測を受けて、医療・介護費の将来推計を行う。
まず、これまで日本医師会が主張してきたとおり、医療保険と介護保険とを統合
し、医療保険制度を高齢者医療制度および一般医療保険制度の 2 本立てとすること
を前提とする。高齢者医療制度は 75 歳以上を対象とし、主として公費でまかなう。
一般医療保険制度は 74 歳以下を対象とし、主として保険料(被保険者と事業主)
でまかなう。現在、
公費は一般被保険者の保険料を補うためにも投入されているが、
これを外し、公費を高齢者のために集中投入して財源を確保する。逆に一般被保険
者から高齢者医療への拠出金を廃止し、その分を一般医療保険の保険料に充当する。
一般医療保険制度については、保険者の統合・再編の方向が打ち出されている。こ
れについては、第 1 ステップとして被用者保険、国民健康保険それぞれの財政調整
を行い、第 2 ステップとして被用者保険と国保間の財政調整を行う。その上で、広
域化を実現することを目指していく。
図表 3-1-1. 高齢者医療制度の概念図
108
(2)1日当たり単価の伸び率
1日当たり単価の伸び率については、これまで以下の前提を置いていた。
・高齢者医療制度においては、老人医療費の出血を止めることが重要政策課題
であるとの観点から、1日当たり単価の伸びを年率 0.5%程度と設定する。
・一般医療保険制度の1日当たり単価の伸びは、医科診療費および歯科診療費
は年率 2.5%程度、その他は年率 0.5%と設定する。
最近の1日当たり単価の伸び率(年率)を見てみよう(詳しくは 3−①現状の 1
日当たり単価の伸び率参照)。
一般被保険者では、入院は 3%程度伸びているが、外来1は伸び率 0%、すなわち
横ばいとなっている。
高齢者では、入院の伸び率は 2%を切る水準、外来にいたってはマイナスとなっ
ている。外来単価は、高齢者の一部負担割合が変更された 2002 年 10 月以前に減少
しはじめている。このことから、制度変更の影響だけでなく、大きな流れの傾向と
して高齢者の 1 日当たり単価は頭打ち傾向にあるといえる。
このような動向を踏まえ、今回の推計では、1日当たり単価の伸び率(年率)に
ついて、以下のように前提を見直す。なお、入院と外来とでは明らかに傾向が異な
り、特に高齢者の外来単価は診療報酬の改定によって受ける影響が大きいので、今
回から入院と外来とを区分した。
一般被保険者については今後の技術革新も想定されることから、過去 3 年間の平
均的推移に若干の上乗せをし、入院 4.0%、外来 1.0%とした。
高齢者については、特に後期高齢者について独自の医療提供のあり方を検討し、
医療費単価の伸びを無理なく抑制していくことを目指す。たとえば、終末期医療に
対する医療の適正化、長期入院患者に対する独自の診療報酬支払方式などである。
このような施策を通じて、高齢者の1日当たり単価については入院 1.0%、外来
0.5%の伸びを実現させることとする。
【前提条件】
1
・一般
(医科・歯科診療費)入院 4.0%、外来 1.0%、(その他)1.0%
・高齢者
(医科・歯科診療費)入院 1.0%、外来 0.5%、(その他)0.5%
本「グランドデザイン」では、入院外のすべてを外来としてまとめている。
109
2.総論.2017 年の公的総医療・介護費の全体像
(1)公的総医療・介護費の定義
ここでの医療・介護費は、現行制度下2で現物給付されているもの、現金給付され
ているもの、一部負担分(全額自費の一部を含む)、保険者等の管理コストの合計で
ある。以下、これを「公的総医療・介護費」3と呼ぶ。
第 1 部に示したように、国民あるいは患者の満足度は十分に高いとはいえない。
個別状況に応じた医療を受けているとは感じていないし、より広い範囲の情報を求
めるなどインフラ整備についてもさまざまなニーズがある。こういったニーズに応
えるため、どのように医療が提供されるべきかについて、検証されつづけなければ
ならない。当然、その結果によっては、追加の費用増を招くこともある。費用負担
について、国民、患者のそれぞれ 7 割以上は「所得の高い、低いに関係なく国民全
員が同じレベルの医療を受けられる仕組み」を支持している(第 1 部第 2 章Ⅲ3-3
公平性参照)。こういった現実も踏まえて広い意味での医療・介護費の水準および負
担の方法を検討していくことは重要な課題であるが、ここでは、その第一歩として
現行の公的保険下における医療・介護費(公的総医療・介護費)について検討して
いく。
(2)2017 年の公的総医療・介護費
結論から述べると、2017 年の公的総医療・介護費は 51.2 兆円と推計された。
「2016
年医療のグランドデザイン」で推計した医療・介護費は 51.7 兆円であった。前回試
算時から 0.5 兆円減っているのは、次の理由による。
① 今回、入院・外来に区分して1日当たり単価の伸び率の前提を置き直した結果、
全体の伸び率がこれまでに比べて低下した。
② 最近の患者数が減少傾向にあることから、これを踏まえて 2017 年の患者数を
推計し直した(第 2 部参照)。
2003 年 4 月時点で施行されているもの(健康保険法、国民健康保険法、老人保健法、介護保
険法)
3 「国民医療費」と合致するものではない。
「国民医療費」は、医療機関等における傷病の治療
費を推計したものであり、保険者等の管理コストは含まれていない。また 2000 年 4 月からの介
護保険制度施行に伴い、介護保険の費用も「国民医療費」には含まれていない。
2
110
③ 介護費については最近の傾向を踏まえて大きく伸びると見込んだ。
④ 管理コストのうち、国保の病院・診療所の収入でまかなわれており、保険から
補てんされていないものを除いた(
「2016 年医療のグランドデザイン」では含
まれていた)。
2000 年の公的総医療・介護費は推計 36.5 兆円である4。2017 年には 51.2 兆円に
なると推計されるので、2000 年から 2017 年まで、公的総医療・介護費は平均的に
年率 2.0%で増加すると予測される。
図表 3-1-2. 2017 年
公的医療・介護費推計結果
*「2016 年医療のグランドデザイン」では、介護療養病床の費用を入院費用に包含してい
たが、今回は介護費に含まれている
日医総研報告書第 48 号「日本の医療・介護保険財政 2000 −保険者の統合・再編をにらんで−」
より
4
111
3.各論.費目別推計結果
① 現状の1日当たり単価の伸び率
日医総研の医療費経年変化監視システム(通称「医療費短観」)を用いて、1日当
たり単価の伸び率を確認する。なお、
「2016 年医療のグランドデザイン」では入院・
外来を合わせて伸び率を推計していたが、先述したとおり入院と外来の傾向が大き
く異なってきているので、区分して検討する。
【入院】
2001 年 3 月をピークに1日当たり単価の伸び率は頭打ちになっている。最近
(2002 年 10 月)の前年同月比増減率は、高齢者 1.6%、被用者本人 3.1%、被用
者家族 2.9%、国保 2.2%であった。
【外来】
一般については 2001 年 9 月以降、高齢者については 2002 年 3 月以降、1日当
たり単価の伸び率は縮小傾向にある。2002 年 10 月の前年同月比増減率は、高齢
者▲1.1%、被用者本人 0.2%、被用者家族▲0.3%、国保▲0.3%であり、被用者
本人を除いて伸び率はマイナスとなっている。
医療費短観とは
移動年計により医療費の傾向を監視している。移動年計とは、その時点から過去
1 年分の合計値をいう。たとえば 4 月の値は前年 3 月から当年 4 月までの合計、5
月の値は前年 4 月から当年 5 月までの合計である。どの月の移動年計にも、すべて
の月が含まれるので、インフルエンザなどの季節要因を排除することができる。こ
こでは、このようにして計算された移動年計をもとに前年同月比をとっている。
112
図 表 3-1-3. 1 人 1 日 当 た り 単 価 の 推 移 ( 前 年 同 月 比 )
入院1人1日当たり単価
被用者本人
前
年
同
月
比
増
減
率
被用者家族
国保
老人保健
10.0%
8.0%
6.0%
4.0%
2.0%
0.0%
98.10
99.04
99.10
00.04
00.10
01.04
01.10
02.04
02.10
年月
外来(入院外)1人1日当たり単価
被用者本人
被用者家族
99.04
00.04
国保
老人保健
3.0%
前
年 2.0%
同 1.0%
月
比 0.0%
増 -1.0%
減
-2.0%
率
-3.0%
98.10
99.10
00.10
年月
日 医 総 研 「医療費経年変化監視システム」より
113
01.04
01.10
02.04
02.10
② 入院・外来医療費(医科)
2017 年の入院・外来医療費(医科)は、次のように推計される(図表 3-1-6)。
一般
入院 104,912 億円
外来 116,700 億円
高齢者
入院
50,726 億円
外来 47,425 億円
推計のステップは以下のとおりである。
【ステップ1】1人1日当たり点数=総点数÷診療実日数
社会医療診療行為別調査から1人1日当たり点数を求める
(図表 3-1-4)
。
【ステップ2】 (1人1日当たり点数×10 円)×1日当たり患者数≠国民医療費
社会医療診療行為別調査はその年の 6 月1ヶ月審査分の調査である。一
方、患者数はある1日の調査にもとづくものである。年間を通じた調査で
はないため、1人1日当たり点数に 10 円をかけ、さらに1日当たり患者
数をかけた年間総点数は、その年の国民医療費総額には合致しない。
そこで、社会医療診療行為別調査から推計される年間総点数と国民医療
費とのギャップを補正係数として、1999 年の1人1日当たり仮点数を求
める。この点数に患者数をかければ国民医療費に合致するという点数であ
る(図表 3-1-5)。
【ステップ3】
1999 年の 1 人 1 日当たり仮点数×伸び率
=2017 年の 1 人 1 日当たり点数
1999 年の1人1日当たり仮点数に、前提条件として置いた1日当たり単
価の伸び率(年率)をかけて 2017 年の1人1日当たり点数を求める(図
表 3-1-5)。
【ステップ4】2017 年の点数×2017 年の患者数=2017 年の公的総医療費
第 2 部で推計した 2017 年の患者数に、ステップ3で求めた 2017 年の1
人1日当たり点数をかけて公的総医療費を求める(図表 3-1-6)。
※注 1)現状の患者数は「患者調査」のデータによる。患者調査は 3 年に一
度の調査であり、現在の最新データは 1999 年のものである。一方、
114
社会医療診療行為別調査、国民医療費については 2000 年の結果も発
表されているが、年度の整合性がとれないので、すべて 1999 年ベー
スで計算した。
※注 2)歯科診療医療費、薬局調剤医療費、入院時食事療養費については、
小さい費用に対して推計の推計を重ねることになるので補正は行っ
ていない。
【ステップ 1 】
図表 3-1-4. 入院・外来1日当たりの年齢階級別点数
*1 人 1 日当たり点数=総点数÷診療実日数
出展:厚生労働省「社会医療診療行為別調査」
115
【ステップ 2,3】
図表 3-1-5. 入院・外来1日当たりの病院・診療所別単価
116
【ステップ 4】
図表 3-1-6. 2017 年における入院・外来費用の推計(医科)
117
③ 歯科診療医療費
1999 年の歯科診療医療費は 25,443 億円(2000 年は 25,575 億円)であった。患
者数は減少するが単価が上昇すると予測されるので、2017 年の歯科診療医療費は
29,521 億円と推計される。
図表 3-1-7. 2017 年における歯科診療医療費の推計
118
④ 薬局調剤医療費
1999 年の薬局調剤医療費は 24,251 億円(2000 年は 28,081 億円)であった。薬
局調剤医療費は外来患者数に対してかかる。外来患者数が増加し、単価が上昇する
と予測しているので、2017 年の薬局調剤医療費は 32,541 億円になると推計される。
図表 3-1-8. 2017 年における薬局調剤医療費の推計
119
薬局調剤医療費は、1999 年 24,251 億円から 2000 年 28,081 億円へと 15.8%増加
している。ここでは今後の外来1日当たり単価の伸びを一般 1.0%、高齢者 0.5%と
予測しているが、それを大きく上回る伸びである。これは、医薬分業率が上昇して
いるためである。
分業率が 0%の場合には、医療機関では処方料が発生し、処方せん料は発生しな
い。逆に分業率 100%の場合には、医療機関では処方料の算定がなくなり、すべて
処方せん料となる。処方料と処方せん料には点数格差があるため、医薬分業率の伸
び以上に、薬局調剤医療費が増加している。
このまま伸びれば、2017 年の薬局調剤医療費はさらに大きなものとなる。しかし、
ここでは処方料と処方せん料との技術料格差を適正化させるべきであるとの前提に
立っているので、外来医療費と同じ伸び率を用いて計算した。
図表 3-1-9. 薬局調剤医療費と医薬分業率の推移
(億円)
薬局調剤医療費
(%)
医薬分業率
28,081
30,000
60.0
24,251
薬
局 20,000
調
剤
医
療 10,000
費
20,018
16,787
14,449
38.1
12,662
32.1
26.8
18.8
20.1
22.8
0
40.0 医
薬
分
業
20.0 率
0.0
95年度
96年度
97年度
98年度
99年度
出典:厚生労働省「国民医療費」、「社会医療診療行為別調査」
120
00年度
⑤ 入院時食事療養費
1999 年の入院時食事療養費は 1 兆 791 億円(2000 年は 1 兆 29 億円)であった。
単価は微増するが、入院患者数が減少すると予測しているので、2017 年の食事療養
費は 1999 年より減って 1 兆 519 億円になると推計される。
図表 3-1-10. 2017 年における入院時食事療養費の推計
121
⑥ 介護サービス費用
1)2017 年における所在地別サービス受給者数
第 2 部で、所在地別サービス受給者数を、
「施設」107.8 万人(構成割合 20.7%)、
「グループホーム(以下 GH)等」10.9 万人(同 2.1%)
、
「在宅」402.2 万人(同
77.2%)の合計 520.9 万人と推計した。また、所在地別にみた要介護度分布を、
過去の推移から仮定し、下表のように推計した。
図表 3-1-11.2017 年における所在地別サービス受給者数
2) 所在地別要介護度別にみた 1 人当たり費用
図表 3-1-12 に、2002 年 12 月サービス分の、所在地別にみた要介護度別 1 人
当たり費用を示す。
図表 3-1-12.所在地別にみた要介護度別 1 人当たり費用( 2002.12 サービス分)
*在宅の費用は、GH および特定施設も含んだ1人当たり費用である。
出典:厚生労働省「介護給付費実態調査月報」
122
3) 2017 年における介護費用
ここでは、以下の仮定を置いた上で、2017 年における介護費用を推計した。
(仮定)
1. 単価の伸び率は、全年齢一律の年率 0.5%。
2. 所在地別要介護度別 1 人当たりサービス量は、2002 年 12 月と変わらない。
3. GH 等の 1 人当たり費用は、2002 年 12 月の「GH」「特定施設」の要介護度
別費用を、2017 年における各々のおおよその受給者割合(6:4)で按分し
たものとした(要支援の場合は、特定施設の 2002 年 12 月の費用を参考に
した)。
具体的には、2017 年の所在地別にみた要介護度別サービス受給者数に、単価
の伸び率を見込んだ上での要介護度別 1 人当たり費用を掛けて、
「施設」5 兆 1,156
億円(介護費用の 50.0%)
、
「GH 等」3,032 億円(同 3.0%)、「在宅(居宅介護支
援、GH 等を除く)」4 兆 4,261 億円(同 43.2%)
、
「居宅介護支援」3,914 億円(同
3.8%)の合計 10 兆 2,363 億円と推計した。
図表 3-1-13.2017 年における介護費用推計
4) 2017 年における年齢階級別介護費用
次に、要介護度別の「施設」「施設類似型」
「在宅」の 1 人当たり費用は、各
年齢階級で同じと仮定し、2017 年における年齢階級別所在地別介護費用をみた。
その結果を図表 3-1-14 に示す。
123
図表 3-1-14.2017 年における年齢階級別所在地別にみた介護費用
124
⑦ 管理コスト
2000 年度の保険者および審査・支払機関の管理コストの連結合計は推計 16,972
億円5であった。管理コストには精査し、圧縮する余地も大きいと思われるが、ここ
ではひとまず現状横ばいとした。
なお、「2016 年医療のグランドデザイン」では、1999 年度の連結管理コストを
23,269 億円としていた。国保病院・診療所の自らの収入でまかなわれており、国保
事業から補てんされていない管理コスト等が含まれていたためであるが、今回はこ
れを除いた。
【費用推計に用いた患者数】
図表 3-1-15.施設種類別年齢階層別患者数(2017 年)
日医総研報告書第 48 号「日本の医療・介護保険財政 2000 −保険者の統合・再編をにらんで−」
より。
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