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読むこと - 佐賀県教育センター

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読むこと - 佐賀県教育センター
個人・グループ研究の部 国語科
研究主題 「読むこと」から思考力・表現力を育てる国語科の学習指導の研究
-確かな読みを基に対話をさせる授業の提案-
多久市立中央小学校 教 諭 古川 能正
1
主題設定の理由
平成 20 年3月に示された学習指導要領の総則に,教育活動を展開する中で「課題を解決するために
必要な思考力・判断力・表現力その他の能力をはぐくむ」1)とあり,
「児童の発達段階を考慮して,児
童の言語活動を充実する」2)ことが明記された。こうした方針を受け,国語科学習指導要領の改訂の
要点には「話すこと・聞くこと」
「書くこと」
「読むこと」の各領域において取り入れる,言語活動例
が示されている。つまり,国語科では,各領域に言語活動を取り入れ,思考力・判断力・表現力の強
化を図ることが求められていると考える。また,言語そのものを対象に学習を進める国語科で培った
思考力・判断力・表現力は,他教科における言語活動の根幹を支える力になると考える。
平成 23 年度に行われた佐賀県学習状況調査国語から,指導法改善の工夫点として「読み取った内容
を,相手や目的,条件に合わせて書き換えるような指導の工夫」と「文章の内容だけではなく,表現
の仕方にも注意して読むような指導の工夫」が挙げられている。これらのことからは,文章を読み取
る力に加え,読み取った内容について思考し,表現する力の育成が求められていると考える。
本校6年生に 23 年度に実施した標準学力検査(CRT テスト)国語の領域別の正答率では,
「話すこと・
聞くこと」の領域が 10.6 ポイント上回っていたのに対し,「読むこと」は,1.7 ポイント上回るに留
まっていた。また,2つの新聞記事を比較し共通点や相違点を読み取る問題では,正答率が期待正答
率を 10 ポイント下回っていた。これらのことから,本校6年の児童は,文章を比較検討するなど思考
を要したり,思考したことを表現したりする力に課題を抱えていることがうかがえる。また,4月に
行ったアンケートでは,
「国語の授業をどのような時に楽しいと感じるか」という問いに対して,「読
書の時間」や「物語の読み聞かせをしてもらう時間」という回答が多かった。このことから,児童の
興味や関心は,思考力や表現力を要する教材を読み解く場面より,物語の面白さを直感的に味わう場
面に向いていると考える。
「話す・聞く」に関わる実態として,自分の考えを話すことはできているも
のの,友達の考えをつかみながら対話をすることにはまだ慣れていない。
そこで,本研究では物語教材の学習に「比較」
「関係付け」
「仮定」という3つの思考の方法(以下思
考の方法)を意識させた対話活動を取り入れることで,児童の思考力と表現力の育成を目指す。1単位
時間に取り入れる対話活動は以下の3段階である。まず,教材文に向かい自分の考えをもつ「教材と
の対話」の段階。次に,2人で考えや感想を出し合う「二人の対話」の段階。そして,読み取ったこ
とを基に考えや意見を出し合い,考えを練り上げる「みんなの対話」の段階である。これら3段階の
対話活動に,文中の言葉や人物の考えを比較させたり(比較),教材の各場面を関係付けさせたり(関係
付け),
「もしも○○ならば~」と仮定したりして考えさせる(仮定)ことで物語の世界観や人物像を浮
き彫りにさせる。3つの思考の方法を使って思考してきた児童は,表現する際にも思考の方法を利用
して表現すると考える。つまり,思考する際に「比較」
「関係付け」「仮定」といった思考の方法を意
識させることは,考える筋道を示すと同時に,自分の考えを友達に伝えるときの手掛かりになると考
える。このような学習を行うことで,児童の思考力や表現力を高めることができると考え本研究主題
を設定した。
2
研究の目標
国語科の物語教材の学習に3段階の対話活動を取り入れ,思考の方法(比較・関係付け・仮定)を意
識させることで思考力や表現力を高める指導方法の在り方を探る。
- 1 -
3
研究の仮説
国語科の物語教材の学習に3段階の対話活動を取り入れ,思考の手掛かりとなる「比較」
「関係付け」
「仮定」を意識させれば,思考や表現の仕方が身に付き,国語科における思考力や表現力の高まりに
つながるであろう。
4
研究の方法
(1) 文献や先行研究を基にした国語科における思考力・表現力に関する理論研究
(2) 国語科における思考力・表現力に関するアンケートを基にした児童の実態調査
(3) 授業実践を行い「比較」
「関係付け」
「仮定」を意識させた3段階の対話活動を位置付けた学習指
導の在り方の検証及び考察
5
研究内容
(1) 理論研究を基に,国語科における思考力・表現力が高まる対話活動の在り方を明らかにする。
(2) 標準学力検査(CRTテスト)の結果及びアンケートによる実態調査を分析することで,児童の思考力
と表現力の課題を明らかにし,思考の方法の有効な取り入れ方を探る。
(3) 思考の方法を意識させた3段階の対話活動の有効性を示すために,6年生の教材「海のいのち」
(11時間)を用いた授業実践を行い,仮説を検証する。
6
研究の実際
(1) 文献等による理論研究
国語科の学習指導要領では,教育の目標に「国語の能力の根幹となる,国語による表現力と理解
力を育成することが,国語科の最も基本的な目標である」3)と記されている。また,研究者の大江
平治は「思考力を伸ばすためには考える技能を習得し活用することである」4)とし,
「思考力,表現
力,理解力は連動している。これらの力は,思考や表現技能の使い方を教え,活用することによっ
て育つ」5)と述べている。このことから,思考するための技能,即ちものごとを理解するための方
法として「比較」
「関係付け」
「仮定」という3つの思考の方法を学習に位置付ける。思考の方法を
意識して使うことは,教材文を読み解くための鍵になると同時に,自分の考えを表現する際の手掛
かりにもなると考える。
つまり,
大江が述べているように思考力と表現力と理解力は連動しており,
思考の方法を意識して教材を読み取らせることは,読み取った内容を理解し,理解したことを友達
に表現する際の手掛かりになると考えた。
以上のことから,国語科における思考力と表現力育成のために,次の2つのことをポイントとし
て研究を行った。1つ目は3つの思考の方法を意識させて学習に向かわせること,2つ目は思考の
方法を意識させた3段階の対話活動を取り入れることである。
(2) 研究の構想
ア 教材との対話における3つの思考の方法(「比較」
「関係付け」「仮定」)の意識のさせ方
読み取る学習では,教材に使用されている言葉から,
人物像(気持ちや考え)や人物同士の関係,
あるいは教材の主題に迫ることになる。そこで,以下に挙げる読みの手立てを用いて3つの思考
の方法の意識付けを行った。教材文を読み深める際には,赤色鉛筆を児童一人一人に持たせ,自
分の考えの根拠となる言葉に赤で傍線を引かせた。
(ア) 比較を意識させる「くらべ読み」
登場人物の気持ちや考えの変化を捉えさせるためには,言葉や場面を比較させることが有効
であると考える。そこで,教材文を読み解く際の根拠となる言葉に線を引かせ,その言葉を省
- 2 -
いたときに受けるイメージとその言葉があるときに受けるイ
付けて考える必要がある。そこで,以前の学習で赤の傍線を
ー
ジ
の
違
い
は
、
話
し
手
の
宿
題
に
対
す
引いた言葉を読み返し,学んでいる場面と関係があると考え
図1 比べ読みの例
メージの違いを比較させたり,言葉を変えてイメージを比較
読み」として意識させた。児童に「くらべ読み」を意識して
もたせることになり,登場人物の気持ちや考えに迫り,めあ
てや課題についての考えをもちやすくなると考える。
(イ) 関係付けを意識させる「つなげ読み」
登場人物の言動の訳や心情の変化の訳を知るためには,以
前の場面の内容や登場人物の言動を,学んでいる場面と関係
②
を
比
較
し
た
と
き
に
受
け
る
イ
メ
② ①
言
葉
文
末
表
現
を
変
え
て
比
べ
た
例
宿
題
を
忘
れ
て
し
ま
い
ま
し
た
。
宿
題
を
忘
れ
ま
し
た
。
【
く
ら
べ
読
み
】
)
使わせることは,言葉一つ一つから受けるイメージを明確に
①
(
させたりする(図1)。このような言葉同士の比較を「くらべ
る
考
え
方
の
違
い
を
表
し
て
い
る
。
た部分をノートに抜き出させた。このように場面を超えて「関係付け」をさせることを「つな
げ読み」として意識させた。児童に「つなげ読み」を意識して使わせることは,登場人物の言
動や心情の変化の訳を以前に学習した場面と関係付けてと捉えさせることになり,より登場人
物の気持ちに迫ることができると考える。
(ウ) 仮定を意識させる「仮定読み」
仮定とは,本来とは異なる場合を仮にあてはめる思考の方法である。登場人物の言動を仮定
し,本来とは違った結末を考えることで,人物の言動の訳が浮き彫りになったり,主題につい
てより理解が深まったりすることができると考える。そこで,仮定して考えることを「仮定読
み」として意識させた。
「仮定読み」を意識させることは,登場人物のもつ背景やこれまでの物
語の筋を踏まえた思考をさせることになり,主人公の言動の訳や主題に迫らせることができる
と考える。また,仮定を使い表現することは相手に自分のもつイメージを明確に伝えたり,考
えを補強したりすることにもなると考える。
イ
友達との対話における3つの思考の方法の意識のさせ方
「教材との対話」に続く「二人の対話」
「みんなの対話」は,3つの思考の方法を使い教材から
読み取ったことを,教材の言葉を根拠に挙げながら考えを表現する場である。思考と表現は別な
ものではなく,思考を表出することが表現であると考える。つまり,
「比較・関係付け・仮定」と
いう3つの思考の方法を利用して物語を読み取ってきた児童は,友達に自分の考えを伝える時に
も,3つの思考の方法に沿いながら表現すると考える(図2)。また,思考したことを3つの思考
の方法を利用して表現することは,思考したことをより分かりやすく表現する際の手掛かりとな
ると考える。
・言葉を入れ替えて比べてみよう。(比較)
・Aの場面での考えとBの場面の行動は関
係があると思う。(関係付け)
・もし○○していなかったら,きっと違う
行動をしていたと思う。(仮定)
児童の意識
思考の方法を利用し読み取る
比較・関係付け・仮定
教
思考の方法を利用した表現
比較・関係付け・仮定
材
きっと主人公は,Aの場面で○○と考え
ていたから,Bの場面で◇◇という行動を
したと思います。(関係付け)
図2 3つの思考の方法を取り入れた構想図
- 3 -
ウ
思考の方法を意識させた3段階の対話活動を位置付けた学習課程モデル案
国語科の学習で児童が考えの根拠を明らかにし,考
えをまとめて練り上げていく過程に,3段階の対話活
動を位置付けた(図3)。また,思考の手掛かりとなる
ように,比較・関係付け・仮定という3つの思考の方
法を意識させる。
1単位時間の流れ
教材との対話
・言葉を手掛かりに考えをまとめる
思考の方法による考えのまとめ
二人の対話
3つの思考の方法は,教材文中の言葉を基に根拠を
明らかにしたり,自分の考えを表現したりする際に有
効に働くと考える。まず,教材との対話の段階では教
材文の言葉を手掛かりにめあてに沿って考えをまとめ
る。考えをまとめさせる際に,比較を意識させる「く
らべ読み」
,関係付けを意識させる「つなげ読み」
,仮
・考えの確認と再構成
思考の方法を基にした発言
みんなで対話
・考えを練り上げる
思考の方法を基にした発言
自他の考えを考慮した練り上げ
定を意識させる「仮定読み」をさせ,考えと考えの根
図3 学習課程モデル案
拠を明確にもたせる。次に「二人の対話」では,隣の席の友達に自分の考えと考えの根拠となる
教材文の言葉について意見の交流をさせる。交流させる際には,3つの思考の方法を利用させ考
えを確認させたり,友達の考えを聞いて自分の考えを再構成させたりする。最後に「みんなで対
話」では,二人の対話で話し合ったことを基に,全体でめあてに沿って教材を読み深め考えを練
り上げさせる。
以上のように対話活動を学習過程に取り入れ,
思考の方法を意識させることで国語科における,
思考力と表現力の育成を目指す。
(3) 仮説を取り入れた授業の実際
ア
研究授業「海のいのち」の概要(平成 24 年 10 月 31 日 6年1組 児童数 16 名)
本単元は学習指導要領に示される「C 読むこと」に関わり,
「登場人物の相互関係や心情,場
面についての描写をとらえ,優れた叙述について自分の考えをまとめること」を目指す。
本教材は,父を失った太一が村一番の漁師へと成長する姿を通し,海に生きる漁師の海に対す
る考え方を描き出した物語である。漁師の海に対する考え方とは,海の恵みにより生きる生命
(人・魚・海藻類)は,海によって生かされているという認識に立ったものである。即ち,海に生
きる生命は,全て等しく海によって生かされていると捉えられる。また,海に生きる生命があっ
てこそ,海は海として生きていけるということになる。つまり,題名である「海のいのち」とは,
海に生きる一つ一つの個別の「いのち」であると同時に,海全体の「いのち」であるとも考えら
れる。物語は主人公である太一の視点から語られている。したがって,児童は太一の一人称視点
に寄り添い,太一の考えの変化を読み取っていくことになる。太一の考えの変化や「海のいのち」
の捉え方を,教材文の言葉や場面に注目させて読み取らせ,お互いの意見を交流させるのに適し
た教材であると考える。
イ
指導計画(全 11 時間)
時
○
1
2
内容を考えて場面分けをしよう。
○
3
学習活動
場面を分け,重要語句・難解語句に
ついて共通理解する。
登場人物の人物像を読み取り,考え
を交流する。
太一と太一の父はどんな人物か読み
取ろう。
指導・支援
場面を分けさせ,物語を読み進める上で,必要となる知識
を確認する。
○ 難解語句を,辞書で一人調べをさせる。
○ 物語を初めて読んでの感想を書かせる。
○ 登場人物の人物像を,描写を基に探らせる。
○ 太一の父の漁師に対する考え方を太一の描写を基に読み
取らせる。
○ 太一の父の死と「瀬の主」の関係を描写から読み取らせ,
「瀬の主」のイメージを膨らませる。
○
- 4 -
○
4
与吉の考えを読み取り,意見を交流
する。
与吉じいさの考えを読み取ろう。
○
5
太一の成長と太一の考えの変化を読
み取ろう。
○
(
6
)
本
時
8
~
⒒
ウ
太一の考えの変化を読み取り,意見
を交流する。
太一はなぜ「瀬の主」を殺さなかった
のか考えよう。
○
7
太一の考えの変化を読み取り,意見
を交流する。
全文を読み返し意見を交流する。
「海のいのち」とはどのような意味
か考えよう。
○
物語で一番心に残っている場面を
選び,話し合わせる。
心に残った場面の発表会をしよう。
○
与吉の漁師に対する考え方を太一の父の考えと比較させ
ることで読み取らせる。
○ 父の「海のめぐみ」という言葉と与吉の考え方を関係付け
て考えさせる。
○ 太一の成長に伴い,太一の考えも変化していることを以前
の場面と比較させることでつかませる。
○ 太一の考えと与吉や父の考えとを関係付けて考えさせる
ことで「瀬の主」に対する考えを読み取らせる。
○
太一の漁師に対する考えを「村一番の漁師」と「一人前の
漁師」という言葉を比較し意味付けさせることで読み取る。
○ この場面での太一の言動と以前の場面での太一の考え方
とを比較させることで,太一の考えの変化について捉えさせ
る。
○ 題名がなぜ「海のいのち」となっているかを考えさせるこ
とで,作者の考えに触れさせる。
○ 「村一番の漁師」の「幸せ」ということについて,以前の
場面と関係付けたり,比べたりして考えさせる。
○ 心に一番残っている場面を挙げさせ,主題とのかかわりを
明らかにさせながら,自分の考えを発表させる。
○ 友達の考えと自分の考えを比較したり,関係付けたりして
話合いをさせる。
教材「海の命」(6/11)の授業の実際
本時は,父を倒した巨大なクエを探し求める青年太一がクエと対峙し,クエを捕らえるか否か
を自問自答する場面である。太一が見つけたクエの描写は,巨大で美しく,それでいて恐ろしい
魚として描かれており,村一番の漁師であった父を倒した〈瀬の主(クエ)〉に相応しいものであ
る。しかし,太一が威嚇しても動じないクエの描写からは,穏やかなイメージが伝わってくる。
父を倒したクエを捕えることは,太一にとって父を乗り越えることであり,一人前の漁師となる
ためには必要なことであると,太一は考えている。討たなければという気持ちと討ちたくないと
いう矛盾した気持ちで葛藤し,太一は涙する。結果として太一は,クエを獲らないことを選ぶ。
「おとう,ここにおられたのですか。
」と語りかける太一には,クエを父の仇や自分の功名心を満
たすための獲物とする見方はない。それは,クエも父も自分も,すべてがこの海により生かされ
育まれてきた「いのち」であることに気付き,海に生きる漁師として,海と共存するという考え
方を太一が理解したからと意味付けることができる。この場面は,これまでの学習で学んできた
海に生きる漁師の考え方を踏まえ,描写から太一の考えの変化を読み取ることで,題名になって
いる「海のいのち」に迫ることができる場面である。
学習では,まず,
「一人読み」をさせ,教材に描かれている太一の考えを,根拠となる言葉に傍
線を引かせながら考えをノートに書き込ませる。続く「二人の対話」では,お互いの考えを交流
し合い相手の考えを確認したり,相手の考えを聞いて自分の考えを再構成させたりする。そして,
「みんなで対話」では,
「二人の対話」において意見を交わしたことを踏まえながら,友達の考え
と自分の考えを関係付けさせながら対話させ,より豊かな読みへと練り上げさせる。
特に対話活動の基となる自分の考えを明確にもたせるために,以下3つの手立てをとる。1つ
目は,言葉を置き換えてイメージの違いを比較させること(比べ読み)。2つ目は,以前の場面に
おいて学んだ海に生きる漁師の考え方を引き合いに出しながら考えさせること(つなげ読み)。3
つ目は,太一の行動や考えを本文とは違った視点から見つめさせること(仮定読み)である。以上
の手立てを取り入れることで,
思考の筋道が明確になり,
発言する際の手掛かりとなると考える。
(ア) 抽出児に見る3つの思考の方法を意識させた「教材との対話」と「二人の対話」の考察
対話活動に3つの思考の方法を利用させたことによる児童の国語科での思考力・表現力の高
まりについて,授業実践における3名の抽出児の記述と発言を基に考察を行う。表1に3名の
- 5 -
抽出児の国語科の学習に関するプロフィールを記す。また,表2に授業実践(6/11)の導入から
「二人で対話」までの授業の詳細を記し,思考の方法の利用に関わる児童の発言はゴシック体で
表記する。また,研究の考察に関わる部分には下線を引いている。
表1 抽出児のプロフィール
L児
M児
N児
めあてに沿い比較・関係付
け・仮定を利用して考えをまと
めることができる。また,対話
活動では,考えを聞き手に分か
りやすく話すことができる。
めあてに沿い比較・関係付
け・仮定を利用して考えること
ができる。しかし,対話活動で
は,考えをうまく話すことがで
きないことがある。
めあてから何を考えてよい
かつかめないことがあり,関係
付けや仮定を利用した思考を
苦手としている。対話活動で
は,考えをうまく話すことがで
きないことがある。
表2 「教材との対話」のワークシート記述と「二人で対話」における抽出児の発言
○ 前時までの学習を振り返る
〈〉囲みは教材文から抜き出した言葉
T01 太一の〈夢〉とはどのようなものでしたか?
C01 父を倒した〈瀬の主(クエ)〉を捕まえること。/〈村一番の漁師〉になること。
T02 では,今目の前にいるクエはどのようなクエですか?
C02 〈青い宝石のひとみ〉/〈刃物のような歯〉/〈まぼろしの魚〉等
T03 どうしてこのような表現をしているのかな。
C03 父を倒した〈瀬の主〉で,今まで追い求めていた〈瀬の主〉だから,太一から見ると〈刃物
のような歯〉や〈青い宝石のひとみ〉となっていて,ちょっと怖いけど宝物みたいに見えたと
思います。
L児 〈まぼろしの魚〉と書いてあるので,捕まえて父親
を超える村一番の漁師になりたいという功名心をもっ
ている太一だからこそ,宝物のようにきれいに見えた
と思います。
T04 なるほど。ところが,この場面の最後で太一は〈瀬
の主〉をどうしたのかな。
L児 捕まえなかった。
T05 そうですね。捕まえなかったのですね。この場面で
どのように考えが変わったのでしょうね。今日は,そ
こを考えていきましょう。
めあて
太一はなぜ「瀬の主」を殺さなかったのか考えよう。
T06 では,めあてに沿って太一の考えの変化が分かるところを「一人読み」してください。
【教材との対話(一人読み)】
L児の記述の一部
M児の記述の一部
N児の記述の一部
【国語のノート】
まず,国語のノー
トの上から6行目
の位置に線を引か
せた。その線の上部
に,考えの根拠とな
る言葉があるペー
ジ数と行数を書か
せた。線の下部に
は,左に掲載してい
るように,自分の考
えを書かせた。今回
は,考えを文章で書
かせたが,場合に応
じてキーワードだ
けを書かせること
もある。
- 6 -
【二人の対話】
N児 〈瀬の主を殺さないですんだ〉というところに線を引きました。
「くらべ読み」してみると〈殺
さなかった〉ではなく〈殺さないですんだ〉となっていて,
〈大魚はこの海のいのちだと思えた〉
と書いてあって,太一は〈おとう〉や〈与吉じいさ〉の言っていたことが分かって〈殺さない
ですんだ〉と安心していると思います。
M児 私も似ていて〈もう一度笑顔を作った〉というところと,
〈おとう,ここにおられたのですか〉
というところを「つなげ読み」しました。この時,太一は〈瀬の主〉を〈おとう〉だと思った
と思います。笑顔を作ったのは,功名心を捨てることと,
〈瀬の主〉を〈おとう〉と重ね合わせ
ることで,殺す必要のない〈海のいのち〉だと考えたからだと思います。
N児 漁師は〈海のいのち〉を逆に守らないと,魚が捕れなくなってしまって漁師も生きられない
から,必要のない〈海のいのち〉を殺すのは,そういうことがまだ分かっていない人がするこ
とだと思います。
導入では,太一から見た〈瀬の主〉の描写を挙げさせ,太一が〈瀬の主〉を捕えたがっているこ
とを確認した。児童からは太一は〈瀬の主〉を「今まで追い求めていた〈瀬の主〉だから,宝物み
たいに見えた」や「功名心をもった太一だからこそ,宝物のように見えた」ということを描写を根
拠に挙げながら読み取ることができていた(前頁表2)。
「教材との対話(一人読み)」の段階では,N児は本文の〈殺さないですんだのだ。
〉というとこ
ろに線を引いていた。そして,
〈殺さずにすんだ〉という言葉を〈殺さなかった〉という言葉と比
較(比べ読み)することで,
「安心している」と記述し,その理由を「殺したくなかったけど,殺さ
ないと村一番の漁師になれないと思っていた」と記述している(表2:N児のワークシート記述)。
これは,
「くらべ読み」をすることで,表現から受けるイメージを比較し,太一が功名心と海と共
存する漁師の考え方の間での葛藤を読み取ることができたからであると考える。また,M児は,
〈も
う一度笑顔を作った〉と〈おとう,ここにおられたのですか〉を「つなげ読み」し,太一が一度笑
顔を作ったことを,功名心を捨てるためとしている(表2:M児のワークシート記述)。さらに「も
し,功名心を捨てず,
〈おとう〉と重ね合わせなかったら」と太一が選んだ結末とは別の結末につ
いて「仮定読み」をしている。
「つなげ読み」と「仮定読み」をすることで,太一の行動の理由に
ついて読み深めていることがうかがえる。
「二人の対話」では,N児は,
「くらべ読み」したことを基に,太一の考えを「〈おとう〉や〈与
吉じいさ〉の言っていたことが分かって〈殺さないですんだ〉
」と話している (表2:N児とM児の「二
人の対話」)。また,〈大魚は海のいのち〉という言葉と関係付けながら太一が「安心している」心境
について触れた発言をしている。このことから,N児は自分の考えを比較や関係付けという思考の方
法を利用することで,的確に表現できていることが見て取れる。続いて,N児の〈大魚は海のいの
ち〉という発言を受けM児は,
「教材との対話」で考えた〈瀬の主〉と〈おとう〉を重ね合わせる
ことの意味について「殺す必要のない〈海のいのち〉」と捉え直している。これは,「つなげ読み」
をして得たM児の考えに〈海のいのち〉という言葉を取り入れることで,より鮮明に自分の考えを
表すことができると考えたからと思われる。さらに,N児は,M児の発言を受け,必要以上に〈海
のいのち〉である魚を殺すことは,海と共存する漁師としての考え方が「分かっていない」とM児
の言葉を使いながら発言している。これらのことから,3つの思考の方法を使うことで,自分の発
言内容をより的確に表現することができ,対話がスムーズに進んでいることがうかがえる。また,
対話をすることで,一人では気付けなかった教材文中の言葉を認識したり,お互いの発言を生かし
たりしながら読みを深めることができたと考える。
以上のように,
「教材との対話」と「二人の対話」において3つの思考の方法を利用させること
は,教材を基にした思考の筋道を明確にし,表現の際の手掛かりになると考える。
(イ) 全体での対話に見る思考力,表現力の高まりの考察
- 7 -
3つの思考の方法を利用して考えをまとめたり,表現させたりしたことによる思考力・表現力の
高まりについて,
「みんなで対話」での抽出児の発言を基に考察を行う。表3に思考の方法の利用に
関わる児童の発言はゴシック体で表記する。また,
研究の考察に関わる部分には下線を引いている。
表3 「みんなで対話」の様子と抽出児の発言
【みんなで対話】
~前略~
C04 〈おだやかな目だった。
〉というところと,
〈おとう,ここにおられたのですか〉というところ
を「つなげ読み」しました。太一が〈おとう,ここにおられたのですか〉と言ったのは,全く動
こうとはせずに,おだやかな目で太一を見ていたクエの姿が,太一にとって〈おとう〉に思えた
からだと思います。もし,おだやかな目で見ておらず,対抗しているようだったら,太一はその
魚に挑んで行って,〈おとう〉とも思わなかったと思います。
T07 クエに出会った時には,太一はクエをどのように見ていましたか。
C05 獲るべきものと見ている。/獲物と見ている。
T08 はじめ太一は,クエを獲るべきもの,獲物と見ていましたが,結局,殺せなかったのですね。
クエをどのように見るようになったのでしょうね。
L児 クエを獲物として見ていたのが,〈海のいのち〉と考えるようになったと思います。なぜかと
いうと,
〈おとう〉が〈海のめぐみ〉というところと,
〈殺さずにすんだ〉というところを「つな
げ読み」してみると,クエが暴れもせずに穏やかであったので,父が〈海のめぐみだからなあ〉
と言ったのをこの場面で太一は思い出して,このクエを獲物ではなく,〈海のいのち〉と考えな
おして,殺すことができなかったと思います。
C06 ぼくもC04さんと同じで,
〈まったく動こうとはせず〉というところに線を引きました。もし,
暴れていたら殺す気になっていたと思います。でも,全く動こうとはせずに,おだやかな目で見
ていたので,太一は殺す気にはならず,太一は,クエを獲物とは違う〈海のいのち〉と考えが変
わったのだと思います。
L児 考えが変わったと言うよりも,もともと太一は〈おとう〉や〈与吉じいさ〉から話を聞いてい
たから,
〈海のいのち〉という考えがあって,それにクエが暴れなかったし,穏やかだったから,
功名心とは違う〈海のいのち〉という考えが中心になったのだと思います。
~後略~
「みんなで対話」は,
「二人で対話」で話し合った意見を出し合い,全体で練り上げていく場であ
る。
C04児は,〈瀬の主〉が〈おだやかな目〉をしていることと,太一の〈おとう,ここにおられたの
ですか〉という言葉を関係付け,さらに,〈おだやかな目〉でなかったら,太一は〈瀬の主〉を捕え
ようとしていただろうと仮定して意見を述べている(表3)。これは,C04児の「太一は,
〈瀬の主〉
と〈おとう〉を重ね合わせている」という関係付けを利用した考えを補強し,聞き手にイメージを伝
える手段として仮定という表現方法を利用していると思われる。L児は,C04児の「太一は〈瀬の主〉
を倒そうと挑むが,
〈瀬の主〉は全く動こうともしないため,
〈おとう〉に思えた」という内容の発言
を受け,
「
〈瀬の主〉を〈海のいのち〉と考えるようになった」と発言している。その説明として,最
初の場面で〈おとう〉が言った「海のめぐみ」(「海のめぐみ」とは,海からとれる獲物はすべて「海
からの頂き物」とする考え方で最初の場面で学習している。)と関係付けて,
「父が〈海のめぐみだか
らなあ〉と言ったのをこの場面で太一は思い出して,このクエを獲物ではなく,
〈海のいのち〉と考
え直して,殺すことができなかった」と話している。つまり,L児は,最初の場面と学んでいる場面
を「つなげ読み(関係付け)」をすることで,太一の〈瀬の主〉に対する見方が,「獲物」から「海の
めぐみ」と変わったとしていることがうかがえる。
C06児の発言は,今までの話合いの流れを受け,
「もし,暴れていたら殺す気になっていたが,暴
れないクエを見た太一は,
〈瀬の主〉に対する考え方が,獲物という考え方から〈海のいのち〉とい
う考え方に変わっている」と仮定を使いながら発言をしている。その発言を聞いたL児は,「考え方
が変わったというより,
〈海のいのち〉という考え方が中心になった」と発言している。このことは,
- 8 -
L児の考えに以前の場面で学んだ,太一が少年の頃に聞いた〈おとう〉の〈海のめぐみ〉という言葉
と〈海のいのち〉という考え方とを関係付けることで,もともと太一には海に生きる漁師として海と
共存するという考え方が根付いていたことに気付いたからと思われる。
以上のように,3段階の対話活動を設定し,それぞれの対話活動に3つの思考の方法を意識して使
わせることは,児童の思考の筋道を明確にさせ,発言する際の手掛かりになると考える。また,この
ような学習を繰り返すことで,他教科においても,思考の方法を使いながら物事と向き合い思考し,
思考したことを的確に表現できる児童を育てることができると考える。
(ウ) 学級全体の傾向に見る思考力・表現力の高まりについての考察
まず,各時間における児童のワークシートの記述につ
いて,
「比較」
「関係付け」
「仮定」を利用し思考し,表現
することができた児童の人数を基に学級全体の思考力・
仮定を使っている
関係付けを使っている
比較を使っている
1時目
表現力の高まりについて述べる (図4)。思考の方法の
「比較」を利用して自分の考えの根拠を書いていた児童
2時目
は1時目から5時目まではクラスの人数の半数以上いる。3時目
これは,
「比較」という思考の方法は,人が物事を見たり
4時目
考えたりする際によく使う方法であり,
「くらべ読み」と
いう手立てを使うことで,更に意識して使うことができ
たからと見ることができる。6時目と7時目で「比較」
を使う児童が減ったのは,授業の内容が物語全体を踏ま
5時目
6時目
7時目
えた読み取りの授業であったために,
「関係付け」と「仮
0
定」
して考えることが多くなったからと思われる。逆に,
これは,1時目はそれ以前の場面が存在せず,関係付け
を使って思考することが少なく,物語の内容が深まる7
1時目
時目に向かい,以前の場面と「くらべ読み」をすること
2時目
4時目
につれ利用した人数が増えている。これは,登場人物の
5時目
本来とは逆の場合を仮定して,思考したことを表現した
ことによると思われる。即ち,
「仮定読み」を利用するこ
とで,人物の考えを浮き彫りにし,自分の考えの確かさ
8
10
12
14
16
3時目
と見ることができる。また,
「仮定」も同様に時間が進む
考えが,時間が進むにつれ複雑になるため,
「もし~」と
6
考えがうまく書けた
自分の考えをうまく伝えた
友達の考えがよく分かった
ていた児童は,1時目から7時目に向かい増えている。
とができたり,考えを表現したりすることができたから
4
図4 思考の方法の使用状況
思考の方法の「関係付け」を利用して自分の考えを書い
で,より登場人物の気持ちや言動の訳を的確につかむこ
2
6時目
7時目
0
2
4
6
8
10
12
14
16
を補強したものと考える。
図5 振り返りカードの状況
次に,毎時の学習終了後に書かせた,振り返りカードを基に対話活動に対する児童の意識の変化
について考察を行う(図5)。
「考えがうまく書けた」と感じた児童が全時間を通して 12 名以上(クラ
スの 75%)を保っている。また,
「自分の考えを友達にうまく伝えることができた」と感じた児童は,
10 名から 16 名の間で推移し,
「友達の考えがよく分かった」と感じている児童は,11 名から 16 名
の間で推移している。さらに,振り返りカードの記述には,
「前の部分と『つなげ読み』すると,理
由が話しやすかった。
」や「初めは発表することをうまくまとめられなかったけど,太一の考えを『も
し~』(仮定読み)と考えて,書くことができた。
」など考えたことをうまく表現できたことについて
- 9 -
の記述が多く見られた。これらのことから,対話活動において児童に思考の方法を利用させること
は考えを明確にもたせることができ,表現する際の手助けとなるということができると考える。
最後に,
「児童が国語の授業をどのように感じた
か」というアンケート結果を,4月 12 月で比較し
て考察する。質問項目は,国語の授業を場面ごと
に分け,楽しいと感じる項目を4つ選ばせたもの
12月
0
4
先生の説明を聞いたとき
答えが分かったとき
である。4月に行ったアンケートでは,
「物語を読
考えが伝わったとき
んだとき」を楽しいと感じる児童が最も多かった
考えを聞いたとき
(図6)。
手立てを取り入れた授業後の 12 月のアン
考えを言えたとき
ケートにおいては,
「考えを聞いたとき」が最も多
感想を書くとき
かった。また,
「考えが伝わったとき」が4月には
4月
物語を読んだとき
2
6
8 10 12 14 16
8名であったのに対し 12 月では 13 名に増え,
「考
図6 児童の意識の変容
えを言えたとき」もわずかではあるが7名から9名に増えていた。これは,4月では物語を読むと
いう興味や関心に関わることに楽しみを感じていたが,12 月では対話活動において相手に自分の考
えを伝えることの喜びや,相手と考えを出し合うという学びの過程に楽しさを感じる児童が増えた
ことによると考えられる。このことから,対話活動に3つの思考の方法を取り入れることで,児童
の国語科に対する楽しさの感じ方に変化が見られたことがうかがえる。
7
研究のまとめと今後の課題
(1) 研究のまとめ
今回の研究では,
「比較」
「関係付け」
「仮定」という3つの思考の方法を意識させた対話活動を行
わせることで,国語科における思考力・表現力を育む学習活動の在り方が見えてきた。このような
学習活動を行うことで,国語科の授業の各場面において,次の3つのことが児童の姿に見られるよ
うになった。①考えたことを的確に表現する児童が増えたこと,②「比較」
「関係付け」「仮定」と
いう3つの思考の方法を基に考えをまとめていく児童が増えたこと,③対話や話合いに意欲的に参
加できる児童が増えたことである。
この学習活動を繰り返すことで,国語科における思考力や表現力の育成のみではなく,各教科で
行う言語活動の資質の育成が期待できると考える。
(2) 今後の課題
ア
他教科における思考の方法の利用の研究
イ
「比較」
「関係付け」
「仮定」以外の思考の方法の発見と利用法の研究
《引用文献》
1)2) 文部科学省
『小学校学習指導要領』平成20年3月 p.13
3)
『小学校学習指導要領解説』平成20年8月 p.9
文部科学省
4)5) 吉川芳則・大江平治編著
『思考力,表現力を育てる文学の授業』2011年11月 p.24
《参考文献》
・西郷竹彦著
『ものの見方・考え方 教育認識論入門』 1994年 明治図書
・小森 茂著
『なぜ「言語活動の充実』なのか』2011年 明治図書
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