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機械的条件刺激を用いた筋電図平均加算法による ヒト母指球筋から橈側
山形医学 2005;23(2):107-115 機械的条件刺激を用いた筋電図平均加算法による ヒト母指球筋から橈側手根伸筋への促通の解析 小川恵一,鈴木克彦*,藤井浩美*,佐藤寿晃*,仲野春樹*,寒河江正明*, 宮坂卓治**,内藤 輝*,渡辺 皓 山形大学医学部看護学科基礎看護学講座 *山形大学医学部情報構造統御学講座形態構造医学分野 **信州大学医学部内科学第三講座 (平成17年4月6日受理) 要 旨 条件刺激として電気刺激を用いた筋電図平均加算(EMG-A)法による解析から、手の 筋支配の正中神経(MIH)から橈側手根伸筋(ECR)への促通性脊髄反射(促通)が示 された。本研究では、条件刺激として叩打刺激を用いた EMG-A 法により、MIH に支配 される筋のうち母指球筋(TM)から ECR への反射を調べた。対象は健常者6名とした。 TM の叩打刺激と MIH の電気刺激により、最大収縮の1 0%収縮中の ECR に誘発される 反射を解析した。同刺激で誘発される TM の Tendon (T)波と Hoffman (H)波の潜時を 計測した。誘発された反射に対する TM および ECR の振動刺激(8 0−90Hz)の効果に ついても調べた。TM の叩打刺激と MIH の電気刺激により6名の被験者全ての ECR に それぞれ潜時2 8. 0±3. 9ms と2 4. 0±3. 9ms、増加量8 3. 2±7 6. 4%と2 8. 2±16. 7%の促通 ( p<0. 0 1)が誘発された。被験者毎の叩打刺激と電気刺激による促通の潜時差は、同じ 刺激で誘発された T 波と H 波の潜時差とほぼ同じ値となった。この促通は TM に対する 振動刺激により消失または減少し、ECR への振動刺激では変化しなかった。以上より、 TM から ECR に促通がみられること、叩打刺激と電気刺激で誘発される促通は同じ経路 で発現すること、促通の求心性神経はⅠa 線維であることが示された。 キーワー ド :促通、母指球筋、橈側手根伸筋、叩打刺激、筋電図平均加算法 らの興奮性(促通性)や抑制性の入力により運 緒 言 動ニューロンの興奮性を調節する脊髄反射回路 (以下、反射回路と略)がある 1),2)。近年、post- 運動の調節機構の一つに、筋に由来する低閾 stimulus time-histogram(PSTH)法 3) に よ る 値求心性線維(Ⅰ群線維:筋紡錘由来のⅠa 線 解析から、手の筋を支配する正中神経(median 維とゴルジの腱器官由来のⅠb 線維がある)か nerve innervating hand muscles: MIH)から橈 別刷請求先:内藤 輝(山形大学医学部情報構造統御学講座形態構造医学分野) 〒990-9585 山形市 飯田西 2 − 2 − 2 − 107 − 小川,鈴木,藤井,佐藤,仲野,寒河江,宮坂,内藤,渡辺 側手根伸筋(extensor carpi radialis: ECR)運動 1中手骨に沿って中心間距離が1. 5 cm となる ニューロンへの促通性反射回路(促通)の存在 ようにして貼付した。不関電極として接地電極 が明らかとなった4)。鈴木ら5) は、筋電図平均加 (2×3 0 cm,NM-522S,日本光電,東京)を用 算(electromyogram-averaging : EMG-A)法 に い、上腕 遠位の全周に 巻いた。条件刺激前6 0 よる解析から、同促通の運動ニューロンプール ms から後1 40 ms(合計2 00 ms)までの筋電図 に対する効果について報告している。しかし、 を増幅器(生体電気用増幅器ユニット,1253A, これらの報告では、条件刺激に手根部での MIH NEC 三栄,東京)で2, 00 0倍に増幅後、著者ら 電気刺激を用いた解析を行っており、正中神経 が製作した全波整流器を用いて整流し、パーソ 支 配 の手 の 筋 に は母 指 球 筋(thenar muscles: ナルコンピュータのアナログ・デジタル変換器 TM;短母指屈筋,短母指外転筋,母指対立筋) を通して0. 2ms 分割で記録した。 と第1・2虫様筋があるため、求心性線維がど 条件刺激 ( 叩打刺激、電気刺激、振動刺激) ちらの筋に由来するのかまでは調べていない。 TM に 対 す る 叩 打 刺 激 は、機 械 刺 激 装 置 そこで本研究では、条件刺激として機械的叩打 (DPS-280SP,ダイヤメディカルシステム,東 刺激を用いた EMG-A 法により、TM から ECR 京)を用いて行った。刺激装置の先端部(0. 5× 運動ニューロンプールへの反射の効果を調べ 1. 0 cm)を母指球(遠位掌側手根皮線より5. 0 た。なお、叩打刺激を用いた EMG-A 法の報告 −6. 5 cm 遠位)にあて、5 ms 以内で変位幅3 は本研究が初めてである。 mm 以内の叩打刺激を行った6)-9)。強度は、T 波 が誘発される強さとし、示・中指の動きが起こ 対象 と方法 らない強さとした。 MIH に対する電気刺激は、双極表面電極(直 対象 径 1 cm,電極間距離 2 cm,陰極を近位側)と 健常者6名(男4名、女2名、2 1−4 1歳)の 電気刺激装置(SEN-7203,日本光電,東京) 、 右上肢を対象とした。被験者には、山形大学医 アイソレータ(SS-104J,日本光電,東京)を 学部倫理委員会で承認された研究目的および実 用いて行った。刺激波形は、パルス幅 1 ms の 験方法を説明し、実験参加の同意を書面により 矩形波とした。刺激部位は、橈側手根屈筋腱と 得た。 長 掌 筋 腱 の 間 で 遠 位 掌 側 手 根 皮 線 か ら2. 5− 実験肢位 4. 5cm 近位に陰極をおいた。強度は、 TM の 被験者は椅子に座り、前腕から手の背側に手 motor (M)波の閾値(motor threshold: MT)直 関節軽度背屈位と母指対立位を保持できるよう 下(1×MT)とした1),10),11)。叩打および電気刺激 に製作した装具(長対立副子:long opponens の間隔は、0. 8−1. 2 sec のランダムとした。 splint)を装着し、前腕を回内位にして、肘掛 振動刺激(8 0−9 0Hz)は、振動刺激装置(ハ の上に固定した。 ンディバイブ,MD-011,大東電機工業,東大 筋電図の記録 阪)を用いて行った1),6),12)-15)。TM への刺激は、振 ECR および TM の筋電図は、表面電極により 動部に取り付けた長さ5. 0cm、直径1. 2cm の突 双極誘導して記録した。電極として銀塩化銀小 起を母指球に、ECR への刺激は、振動部(直径 型生体電極(直径 8mm,NT-211,日本光電,東 5. 8×7. 0cm の球状)を筋腹に当てて行った。 京)2枚を用い、ECR では上腕骨外側上顆より 随意収縮 7−1 0cm 遠位の筋腹中央で筋の走行に沿って 被験者は、手関節背屈により ECR の最大収 中心間距離が2 cm となるように、 TM では遠 縮の1 0%収縮を維持するようにした。ECR の 位掌側手根皮線より2−3cm 遠位の母指球で第 最大収縮時の筋電図を全波整流後、著者らが製 − 108 − ヒト母指球筋から橈側手根筋への促通の解析 表1.Results of an EMG-A study with mechanical and electrical conditioning stimuli in six subjects. subject effect T.S. H.T. M.S. T.I. E.N. S.K. facilitation(peak) facilitation(peak) facilitation(peak) facilitation(peak) facilitation(peak) facilitation(peak) mean±SD mechanical conditioning stimulation latency(ms) duration(ms) amplitude(%) electrical conditioning stimulation latency(ms) duration(ms) amplitude(%) 33 33 26 25 25 26 9 9 17 16 14 14 32 32 59 122 222 32 29 29 22 22 20 22 10 11 10 13 13 8 24 11 16 49 49 20 28.0±3.9 13.2±3.4 83.2±76.4 24.0±3.9 10.8±1.9 28.2±16.7 作した積分器を用いて積分した波形の振幅を ECR の振動刺激の効果を調べた。 1 0 0%とし、その1 0%の振幅をオシロスコープ (digital storage oscilloscope,VC-6723,日立, 結 果 東京)に提示し、被験者はその表示に合わせる ようにして収縮を持続した5)。 EMG-A 法の 加 算 回数 は、叩 打刺 激 が1 0 0− 筋電図平均加算法 2 0 0回程度で、電気刺激が3 0 0回以上で再現性の 全波整流した筋電図を平均加算処理プログラ 高いデータが得られた。 ム(MTS00140,Ver.1. 5,ギガテックス社,宮 TM の叩打刺激により、6名の被験者すべて 。条件刺激前10− の ECR に促通( p<0. 0 1)が誘発された。この 6 0ms の平均振幅をコントロールとし、刺激1 促 通 の 潜 時 は そ れ ぞ れ3 3、33、2 6、2 5、2 5、 回ごとのコントロールと刺激後の山(peak)あ 26 ms(平均±標準偏差: 28. 0±3. 9ms)、振幅 城)により平均加算した 5),16),17) るいは谷(trough)の振幅を計測し、加算回数 の増加量は32、3 2、5 9、1 2 2、2 2 2、3 2%(8 3. 2 分のデータを Student's t-test により検定し、振 ±7 6. 4%)であった(表1,図1A) 。MIH の 幅が有意に高いところを促通、低いところを抑 電気刺激により、すべての被験者の ECR に促 制と 判定した5),11),16)-18)。促 通あるい は抑制の量 通( p<0. 0 1)が誘発された。潜時はそれぞれ は、コントロールの振幅を1 0 0%とし、それに対 2 9、2 9、22、2 2、2 0、2 2 ms(2 4. 0±3. 9 ms) 、 する割合(%)で示した。振動刺激の効果は、 振 幅 の 増 加 量 は2 4、1 1、16、4 9、4 9、2 0% 振動刺激前と振動刺激中の促通あるいは抑制量 (2 8. 2±1 6. 7%)であった(表1,図1B) 。叩 を Student's t-test により検定した。有意水準 打刺激と電気刺激で誘発された促通の潜時差 は危険率1%未満とした。 は、それぞれ 4、4、4、3、5、4ms(4. 0±0. 6 実験手順 ms)となった(表2) 。 TM から ECR への反射について以下の手順 TM に誘発された T 波の潜時は3 5、3 4、3 1、 で解析した。 2 6、2 9、27ms(30. 3±3. 7ms)、H 波の潜時は ① TM の叩打刺激と MIH の1× MT の電気刺 3 1、3 0、27、2 4、2 4、2 4 ms(2 6. 7±3. 2 ms) 激で、最大収縮の10%収縮中の ECR に誘発 であった(表2,図1C,D) 。T 波と H 波の潜 される反射を記録した。 時差は、それぞれ 4、4、4、2、5、3 ms(3. 7± ② TM の 叩 打 刺激 に より 誘 発 され る TM の 1. 0ms)となった。したがって、被験者毎に上 Tendon(T)波と MIH の電気刺激により誘発 述の促通の潜時差とほぼ同じ値となった。 される TM の Hoffmann(H)波を記録した。 叩打刺激と電気刺激で誘発された促通は TM ③ ① で み ら れ た 反 射 に 対 す る TM お よ び に対する振動刺激により6名中3名で消失し、 − 109 − 小川,鈴木,藤井,佐藤,仲野,寒河江,宮坂,内藤,渡辺 図1.A, B: Peaks (facilitation) induced by mechanical conditioning stimulation (MS) to the thenar muscles (TM) and electrical conditioning stimulation (ES) to the median nerve innervating hand muscles in a subject. Facilitation (latency: 33 ms, amplitude: 32%, p<0.01) in the extensor carpi radialis (ECR) is provoked by MS (A) and that (latency: 29 ms, amplitude: 24%, p<0.01) is by ES (B). C, D: T-wave (latency: 35 ms) and H-wave (latency: 31 ms) provoked in TM. Note that the difference between latencies of the two peaks (A, B) is equivalent to that between those of the T-wave (C) and Hwave (D). 表2.Latencies of T-wave and H-wave of thenar muscles in six subjects (ms). subject T-wave H-wave difference difference* T.S. H.T. M.S. T.I. E.N. S.K. 35 34 31 26 29 27 31 30 27 24 24 24 4 4 4 2 5 3 4 4 4 3 5 4 mean±SD 30.3±3.7 26.7±3.2 3.7±1.0 4.0±0.6 *Difference between latencies of facilitation by MS and ES calculated from data in table 1. 3名で有意に減少( p<0. 01)した(図2) 。し かし、ECR への振動刺激では変化はみられな 考 察 かった。 MIH から ECR への促通については、緒言で 述べたように、これまで条件刺激として手根部 − 110 − ヒト母指球筋から橈側手根筋への促通の解析 図 2.Effects of tonic vibration stimuli to thenar muscles on facilitation of the extensor carpi radialis. A and C are the same figures as 1A and B. The facilitation provoked by MS (A) and ES (C) are diminished by the stimuli (B, D). での MIH 電気刺激を用いた PSTH 法と EMG-A 3. 9ms、増加量8 3. 2±7 6. 4%、MIH に対する電 。PSTH 法で 気刺激により潜時2 4. 0±3. 9 ms、増加量28. 2± は、運動閾値よりもかなり小さい条件刺激強度 1 6. 7%の促通が誘発された。電気刺激による結 (0. 5−0. 6× MT)で促通が誘発されたことか 果 は鈴 木ら 5) の 報告と 一致 して いる。また 今 ら、求心性神経としてⅠa 線維の関与を、促通 回、叩打刺激と電気刺激で ECR に誘発された の脊髄通過時間(中枢潜時)が同名筋促通(単 促通の潜時差は、同じ刺激を用いて誘発された 法による解析が報告されてきた 4),5) シナプス性促通)とほぼ同じになったことから、 TM の T 波と H 波の潜時差とほぼ同じ値となっ 反射回路として単シナプス性回路を強く示す結 た。これは叩打刺激と電気刺激で誘発される促 果が得られている。EMG-A 法では、 1× MT の 通が同じ経路で発現していることを示すもので 刺 激 強 度 で1 0% 収 縮 中 の ECR に、潜 時2 7±4 ある。 ms で2 5±6%の収縮の増加がみられ、PSTH 法 叩打刺激はⅠa 線維に限定した刺激になると で報告された促通の潜時との比較から、この増 されているが 9)、実験では、刺激の放散による 加が促通の効果によるものと判定している5)。 同名筋促通、すなわち今回の解析では ECR 同 しかし、このような条件刺激では、求心性神経 名筋促通の誘発に最も注意する必要がある。一 が TM 由来なのか第1・2虫様筋由来なのかの 方、振動刺激については、筋に数十から百数十 鑑別はできない。 Hz の振動を加えると、その筋の H 波や T 波が 今回の解析では、6名の被験者全ての ECR 著明に減少または消失することが知られてお に、TM に 対 す る 叩 打 刺 激 に よ り 潜 時2 8. 0± り、これはⅠa 線維に対するシナプス前抑制の − 111 − 小川,鈴木,藤井,佐藤,仲野,寒河江,宮坂,内藤,渡辺 効果とされている1),6),12)-15)。今回、TM の叩打刺 (把持) 、操作する上で欠かせない筋であるこ 激により ECR に誘発された促通は、TM の振動 と、物を把持する際には、手関節は機能的肢位 刺激により6名中3名で完全に消失し、3名で とされる背屈位をとるのが通常であり、この時 減少した。また、ECR の振動刺激では変化しな ECR の収縮が必要であることなどから、把持動 かった。これらの結果は、今回用いた叩打刺激 作を円滑に遂行する際に有効に機能することが が、TM 由来のⅠa 線維に限定した刺激となっ 考えられた。 ていること示している。 今回、EMG-A 法の条件刺激に叩打刺激を初 ヒト上肢では、これまで同名筋促通を除いて めて応用したが、再現性の高い結果が得られる 4 0余りの促通性や抑制性の反射回路が調べられ 加算回数は1 0 0−2 0 0回であり、3 0 0回以上必要 2),7)-9) て おり 、MIH か ら は、腕 橈 骨 筋(BR) 、 とする電気刺激 5) よりも少なかった。また、誘 ECR、尺 側 手 根 伸 筋(ECU) 、橈 側 手 根 屈 筋 発される促通の量も叩打刺激の方が大きかっ (FCR) 、尺 側 手 根 屈 筋(FCU) 、浅 指 屈 筋 た。電気刺激では、1× MT の刺激強度を用い (FDS) 、指伸筋(ED)へのⅠa 線維あるいはⅠ ており、α線維よりも閾値の低い(直径の大き 群線維による単シナプス性促通が報告されてい い)Ⅰa 線維を興奮させる刺激となっている。 。このうち ECR への促通については、 叩打刺激では T 波の誘発される刺激強度を用い 今回の解析から、少なくとも TM 由来のⅠa 線 たが、この刺激では1× MT の電気刺激に比べ 維の関与が示されたことになる。ネコ前肢に対 より多くのⅠa 線維を興奮させることができた するⅠa 線維 を入力 とした 反射 回路の 解析で と考えられる。 は、BR、ECR、ECU、FCR、FCU への単シナ PSTH 法は個々の運動ニューロンに対する反 プス性促通が報告されているが、FDS と ED へ 射の有無、EMG-A 法は運動ニューロンプール 2), 4) , 9) る 2),19)-21) 。したがって、 に対する反射の効果を調べるものである1)-3)。 MIH から FDS と ED への促通の回路は、手指を 実験について比較してみると、今回の報告を含 頻繁に用いるようになった上肢で発達してきた め著者らの経験では、EMG-A 法の方が、より の回路は報告されていない 可能性が高い。 少ない実験回数(PSTH 法の1 0から2 0分の1) 、 Ⅰ群線維を求心性神経とする反射回路は、姿 短時間の実験(PSTH 法:3−8時間、EMG- 勢の保持や運動の滑らかさに機能すると考えら A 法:2−3時間)で結果が得られるという感 れている1),2)。動物前肢の反射回路については、 触を得ている。しかし、EMG-A 法では、加算 ネコに対する筋電図学的解析から、ほとんどの 回数を増やしても基線が安定せず、正確な潜時 回路について起立や歩行運動に関連した機能的 の計測が難しいという欠点がある5)。一方、叩 意義が考察されている2),19)-21)。一方、ヒト上肢に 打刺激と電気刺激を比較してみると、著者ら ついては、筋電図や神経筋刺激などによる解析 は、今回の報告を含め他の反射回路における から、いくつかの反射回路について、把持動作、 EMG-A 法と PSTH 法の解析の両方で、叩打刺 手根および肘の屈伸運動、前腕の回内外運動な 激の方がより有効という結果を得ている26)-28)。 どと関連した機能的意義が考察されてい しかし、著者らは、いくつかの回路では叩打に る 22)-25) 。しかし、上肢は、摂食や書字など種々 よる同名筋促通の誘発が避けられない、深部に の複雑な動作に用いられるため、さらに多くの ある筋、筋腹や健が入り組んだ筋では単独の叩 運動について解析し反射回路の意義を考察する 打が出来ないなどの制限も経験している。この 必要がある。なお、今回調べた TM から ECR へ ような制限は、電気刺激では、刺激部位、電極、 の促通について考えてみると、TM がヒトで発 刺激強度などの選択でかなりの程度まで回避で 達してきた筋であり、箸や筆などの道具を握り きる1),2)。今後、PSTH 法と EMG-A を組み合わ − 112 − ヒト母指球筋から橈側手根筋への促通の解析 せることで、また、電気刺激と叩打刺激を組み motoneurones supplying biceps and triceps 合わせることで、より効率の高い実験系の組立 muscles in man. Exp Brain Res 1989; 78: 465478 てが可能になるものと思われる。 今回、TM から ECR への促通について前腕回 内位で調べたが、未だ他の肢位での解析は成さ れていない。今後、この促通について回外位や 中 間 位 の 解 析 も 進 め る 必 要 が あ る。ま た、 MIH に支配される筋としては TM の他に第1・ 2虫様筋がある。今後、これらの筋から ECR への反射についても調べたい。 8 . Kats R, Penicaud A, Rossi A: Reciprocal Ia inhibition between elbow flexors and extensors in the human. J Physiol (lond) 1991; 437: 269286 9 . Cavallari P, Kats R, Penicaud A: Pattern of projections of group I afferents from felbow muscles to motoneurones supplying wrist muscles in man. Exp Brain Res 1992; 91: 311319 研究を進めるにあたり、協力頂いた東北文化学園 10. 田中勵作:H反射−ヒトにおける神経生理学 大学・田中勵作教授、本学医学科学生およびギガ 研究の一技法.日本生理学雑誌,1986;48:719- テックス有限会社・加藤勝彦氏に感謝申し上げま 734 す。本研究の一部は、山形ヘルスサポート協会の助 11. Capaday C, Coby FW, Stein RB: Reciprocal inhibition of soleus motor output in humans 成を受けて行われた。 during walking and voluntary tonic activity. J Neurosci Methods 1998; 64: 607-616 文 献 12. Abbruzzese M, Minatel C, Faga D, Favale E: 1 . 田中勵作:随意運動制御の脊髄神経機構.神 Testing for pre-synaptic and post-synaptic 経科学レビュー3.東京;医学書院,1989:61- changes in the soleus H reflex pathway following selective muscle vibration in humans. 91 2 . 内藤輝:運動の脊髄神経機構.ヒト上肢筋神経 Neurosci Lett 1997; 231: 99-102 13. Ashby P, Stalberg E, Winkler T, Hunter JP: 結合の研究.山形医学 2003;21:155-169 3 . 進藤政臣:運動単位発射による反射検査法. Annual Review 神経.東京;中外医学社,1992: Further observations on the depression of group Ia facilitation of motoneurons by vibration in man. Exp Brain Res 1987; 69: 1-6 52-60 4 . Marchand-Pauvert V, Nicolas G, Pierrot- 14. Ashby P, Verrier M: Human motoneuron Deseilligny E: Monosynaptic Ia projections responses to group I volleys blocked pre- from synaptically by vibration. Brain Res 1980; 184: intrinsic hand muscles to forearm mononeurones in humans. J Physiol (lond) 511-516 15. Gillies JD, Lance JW, Neilsen PD, Tassinari 2000; 525: 241-252 5 . 鈴木克彦,仲野春樹,佐藤寿晃,藤井浩美,小 CA: Presynaptic inhibition of the monosynaptic 川恵一,渡辺皓,内藤輝:筋電図平均加算法を用 reflex by vibration. J Physiol (lond) 1969; 205: いた手の筋支配の正中神経から橈側手根伸筋へ 329-339 16. Petersen N, Morita H, Nielsen J: Evaluation の促通の解析.山形医学 2005;23:59-68 6 . Van Boxtel A: Differential effects of low- of reciprocal inhibition of the soleus H-reflex frequency depression, vibration induced inhibi- during tonic plantar flexion in man. J Neurosci tion, and tendon jerks in the human soleus Methods 1998; 84: 1-8 17. Petersen N, Morita H, Nielsen J: Modulation muscle. J Neurophysiol 1986; 55: 551-568 7 . Cavallari P, Kats R: Pattern of projections of of reciprocal inhibition between ankle exten- group I afferents from forearm muscles to sors and flexors during walking in man. J − 113 − 小川,鈴木,藤井,佐藤,仲野,寒河江,宮坂,内藤,渡辺 Physiol (lond) 1999; 520: 605-619 24. Naito A, Yajima M, Chishima M, Sun Y-J: A 18. 森田洋:脊髄抑制機能の評価と生理的意義. motion of forearm supination with maintence 臨床脳波 2003;45:148-155 of 19. Fritzet N, Illert M, De La motte S, Reeh P, stimulation to two elbow flexors in humans. Saggau P: Pattern of monosynaptic Ia connections in the cat forelimb. J Physiol (lond) 1989; 419: 321-351 elbow flexion produced by electrical J Electromyogr Kinesiol 2002; 12: 259-265 25. Fujii H, Sato T, Naito A, Kobayashi S, Sasaki T, Shinozaki K, Kasahara S: Functional 20. Caicoya AG, Illert M, Janike R: Monosynap- anatomical studies of extensor carpi radialis tic Ia pathways at the cat shoulder. J Physiol and pronator teres activities during wrist (lond) 1999; 518: 825-841 movements in humans. Neurosci Res 2002; 21. Illert M: Monosynaptic Ia pathways and motor behavior of the cat distal forelimb. Acta Neurobiol Exp 1996; 56: 423-433 suppl 26: 76 26. 泉山拓也,仲野春樹,佐藤寿晃,藤井浩美,鈴 木克彦,小川恵一,他:叩打刺激を用いた PSTH 22. Naito A, Yajima M, Fukamachi H, Ushikoshi 法によるヒト腕橈骨筋から上腕三頭筋への抑制 K, Sun Y-J, shimizu Y: Electromyographic の解析.解剖学雑誌 2005;80(抄録号) :169 (EMG) study of the elbow flexors during 27. 仲野春樹,宮坂卓治,寒河江正明,藤井浩美, supination and pronation of the forearm. 佐藤寿晃,鈴木克彦,他:PSTH 法を用いたヒト Tohoku J Exp Med 1995; 175: 285-288 円回内筋から橈側手根伸筋への反射回路の解析. 23. Naito A, Sun Y-J, Yajima M, Fukamachi H, Ushikoshi K: Electromyographic study of the 解剖学雑誌 2005;80 (抄録号):230 28. 佐藤寿晃,藤井浩美,鈴木克彦,小川恵一,仲 elbow flexors and extensors in a motion of the 野春樹,寒河江正明,他:ヒト腕橈骨筋から上腕 forearm pronation/supination while maintain- 三頭筋への抑制.PSTH 法および筋電図平均加 ing elbow flexion in humans. Tohoku J Exp 算法を用いた解析.解剖学雑誌 2005;80(抄録 Med 1998; 186: 267-277 号):230 − 114 − Yamagata Med J 2005;23 (2):107-115 Facilitation from Thenar Muscles to Extensor Carpi Radialis in Humans : A Study using an Electromyogram Averaging Method with Mechanical Conditioning Stimulation Keiichi Ogawa, Katsuhiko Suzuki*, Hiromi Fujii*, Toshiaki Sato*, Haruki Nakano*, Masaaki Sagae*, Takuji Miyasaka**, Akira Naito*, Hiroshi Watanabe Course of Theoretical Nursing, School of Nursing, Faculty of Medicine, Yamagata University, Yamagata, Japan *Department of Anatomy and Structural Science, Course of Biological Structure and Cognitive Integration Science, School of Medicine, Faculty of Medicine, Yamagata University, Yamagata, Japan **Deparment of Medicine (Neurology), Shinshu University School of Medicine, Matsumoto, Japan ABSTRACT Our previous study using an electromyogram-averaging (EMG-A) method with electrical conditioning stimulation (ES) showed effects of an excitatory spinal reflex arc (facilitation) from the median nerve innervating hand muscles (MIH) to the extensor carpi radialis (ECR) in humans. The present study showed the facilitation using the EMG-A method with mechanical conditioning stimulation (MS) to thenar muscles (TM). EMGs of ECR during 10% of the maximum contraction were recorded, and MS to TM and ES to MIH were delivered in six healthy human subjects. Changes in EMGs after the stimuli were evaluated using the EMG-A method. Latencies of the tendon (T)wave and Hoffmann (H)-wave of TM were measured. Tonic vibration stimulation (TVS, 80-90 Hz) was occasionally delivered to TM or ECR to appraise influence of the presynaptic inhibition on the homonymous group Ia afferents. Both MS and ES induced significant peaks ( p<0.01) in EMG-A in all the subjects. The difference between the latencies of the two peaks was equivalent to that of T-wave and H-wave in each subject. Both the peaks diminished with TVS to TM but remained with that to ECR. These findings suggest that both the peaks are provoked by the facilitation. The group Ia afferents must be responsible for the facilitation. Key words : facilitation, thenar muscles, extensor carpi radialis, mechanical conditioning stimulation, electoromyogram-averaging method − 115 −