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講座
生産情報システムの環境・設計・改善[Ⅴ]
設計編:コンピュータと人間の役割
慶應義塾大学
金沢 孝
1 何か変だな?
になりますから、1 番目に出庫してラ
出庫数をひくと、その時点の在庫数が
インに届けます」と答えた。
求められる。すなわち、在庫管理とは
15 年ほど前のことであろうか、ある
工場長が「わかった、では俺が操作
在庫そのものの管理ではなく、入出庫
工場で工場長と一緒に生産ラインを回
をしよう」と言うと、倉庫管理者は「い
の管理であり、在庫はその結果に他な
っていた時に、ラインが部品欠品で止
や倉庫システムの変更操作はシステム
らない。
まっている場面に遭遇した。工場長が
部門の許可がないとできません。たと
それゆえに、システム化によって、
「欠品部品はいつベンダーから届くの
え工場長でも許されません」というこ
入出庫記録の精度がどれだけ向上した
だ」とライン管理者に聞いたところ、
とになり、工場長は唖然としたという
かがカギとなる。入出庫記録に関して
「部品は欠品していますが、ベンダー
話である。
は、バーコードなどによる情報取得の
からの納入を待つ必要はなく、工場内
このイツワ話は、本来はコンピュー
電子化が進められており、記録のモレ
の自動倉庫にあります」という返答で
タを道具として使う立場にいる人間が、 とミスという観点では精度は向上して
あった。
いつのまにかコンピュータに使われる
いるのに、在庫管理の精度は向上して
「それなら何故ラインストップして
人間になってしまったことを意味して
いないのである。
いるのだ?早く自動倉庫から出しこ
いる。本来の人間とコンピュータの役
在庫管理の精度に関しては、入出庫
い」ということになった。ライン管理
割分担が、何か変な分担へと変貌して
記録の精度が向上しているのだから、
者は申し訳なさそうに、出庫依頼はし
しまったようである。
システムの問題ではなく人間のミスが
ているが、自動倉庫から出庫できない
生産管理の基本機能の一つに在庫管
原因だという論調が普通である。人間
らしいと答えた。では自分が自動倉庫
理がある。在庫管理の精度は生産管理
はミスをおかす動物であり、数え間違
に行って出庫を指示するといって、工
の基本であり、その他の生産管理機能
い、伝票処理の間違い、入出力操作の
場長と私は自動倉庫に向かった。
の精度に影響する。在庫管理は部品・
間違いなどが皆無でないことは事実で
自動倉庫に着くと倉庫管理者が待っ
仕掛品・製品などに対して行われ、そ
ある。しかし、これらのミスに対する
ている。
「部品はどうなっているのだ」
れらの多くはシステム化されている。
ポカよけ対策は打たれており、人間の
と工場長が尋ねると、
「自動倉庫の中
多くの在庫管理のシステム化によっ
ミスだけが在庫精度低下の要因とは思
にあるのですが出せません」と倉庫管
て、システム化以前と比べて在庫管理
理者が答えた。何をバカなことを言っ
の精度は向上したかを見てみると、不
ているのだと詰め寄ると、
「今は午前
入出庫における例外的な処理と、
思議なことに向上していないのである。 ては、
ですから、倉庫は入庫モードでしか動
在庫管理の基本は入庫と出庫であり、
情報とものの不一致の二つが考えられ
きません。昼食後になれば出庫モード
それまでの在庫数に、
入庫数をたして、
る。前者の例外的な処理について考え
1
えない。
精度が向上していない他の要因とし
てみよう。在庫管理システムは、ある
のの電子化ではなく、ものと情報の不
目指しすぎたのではなかろうか。その
前提に基づく入出庫ルールを想定して
一致という新たな問題が発生する。
結果としての問題点を人間が尻拭いし
設計されている。実際の入出庫では、
世の中では、電子化された入出庫デ
ている姿を見るにつけ、コンピュータ
前述した自動倉庫のイツワ話のような
ータによって計算されるコンピュータ
に頼りすぎたという反省も必要かなと
出庫が必要になったり、ルール外の入
上の在庫数が正とされる。それが実態
感じている。
出庫が必要になったりするが、在庫管
の在庫数と合わなければ、原因は人間
理システムはこれらを受けつけない。
のミスにあるとされ、実際の在庫数を
そのために、システムをゴマカした例
コンピュータに合わせるという、奇妙
外的な入出庫が行われることになる。
とも思えることがまかり通っている。
生産管理システムにおいては、頻度
システム化以前には、倉庫番という
上述したように、システム上にもミス
が多くなりつつある環境変化への対応
コワイおじさんが倉庫を管理していた。 の要因はあり、それが在庫数の精度低
と、複雑化したシステムの統合化の二
おじさんも入出庫ルールに従うように
下の主要な要因になっているのが実態
つが問題になっている。日々発生する
管理していたが、発生した例外的な入
ではなかろうか。
環境変化への対応を迫られたシステム
2 何が起こっているのかな?
出庫については、 今度だけだぞ とい
自動化・無人化という夢は永遠の課
部門は、生産管理システムの日々の運
うお叱りはあったが、それなりに対応
題であり、この夢へのチャレンジが多
用に支障をきたさないように、目前の
してくれた。
くの企業で行われており、中にはそれ
変化に個別的な対応をせざるをえず、
在庫管理システムによって多くの入
を実現化しているところもある。10
全体的な一貫性を考える時間的な余裕
出庫の精度は向上したが、ルール違反
数年前になろうか、腕時計の全自動化
はほとんどない。
の例外的な入出庫に対応するためのゴ
ラインを見せてもらったことがある。
全体的な一貫性を考える余裕を持て
マカシ的入出庫が行われるために、在
その素晴らしさに驚く半面、1 種類の
るシステム更新のキレメは最近もはや
庫精度は低下してしまう。例外的な入
製品をこれだけ多く作って売れるもの
なく、のべつ幕なしにシステム変更に
出庫の可否よりも、生産管理のスムー
なのかと不思議に思った。
追われているのが実感ではなかろうか。
このような状況では、システムの ス
ズな運用と在庫管理の正確さを大切に
実はこの 1 種類の製品というのが自
する倉庫番のおじさんがいなくなり、
動化ラインのミソである、と気づいた
パゲッティ状態
誰が在庫管理に責任を持っているかが
のはそれから大分たってからである。
1
はなく、すでにスパゲッティ状のディ
曖昧になってしまった。
種類の製品を作り続けるという前提が
スクにデータとロジックを追加するの
もう一つの要因である、情報ともの
なりたってこそ、自動化ラインは実現
で、スパゲッティ状態はさらに助長さ
の不一致の問題を考えてみよう。入出
できるのである。 汎用化 に関連させ
れてしまう。
庫の主体はものであるが、直接ものを
て考えれば(4)、汎用化した多製品を作
後者のシステムの統合化は、上記の
数えることは技術的に困難であるので、 る自動化ラインは実は存在しないので
変化対応などによってスパゲッティ状
それに替わる手段として、ものに対応
態になったシステムの一貫性欠如に対
する情報を記載した伝票を用いて数え
ることになる。
ある。
(4)
に注意を払う余裕
生産管理システムの狙いの一つにも
する対応という側面と、生産管理シス
自動化はあり、多くの企業で生産管理
テムのカバー範囲の広がりによってシ
いられる納品書がある。納品書を電子
自動化へのチャレンジがされているが、 ステムの高度化が求められるという側
面の 2 つがあるが、どちらかといえば
前述した時計の事例のように、運用条
化すれば、前述したように記録のモレ
件をはっきりさせ、見る夢の大きさを
これらの伝票の一つに納品検収に用
とミスを撲滅できるような錯覚に陥る。 小さくしたゆえに、時計の全自動化ラ
後者の意味合いが強い。
システム部門としてはこの統合化の
ここで錯覚と言ったのは、納品書とも
インは実現化したことに注意を払う必
大切さと必要性は理解しているが、統
のは対応しているようで対応していな
要がある。
合化の方法論なり、手段を持ち合わせ
いからである。ものはなくても納品書
生産管理業務の自動化を目指したこ
ているわけではない。また、システム
は提出できる、ものを納めても納品書
れまでの努力は、コンピュータの能力
部門は既存のシステム保守や変化対応
の提出を忘れる、といった不具合が起
を過信したとは言わないまでも、あま
の修正作業で精一杯であり、統合化に
こりうる。伝票の電子化は直接的なも
りにも多くの生産管理機能の自動化を
時間を割くだけの余裕を持っていない
2
のが実情である。
そこで、統合化ソフトという方法論
決まりきった簡単なことはシステム
と、多くのSEを抱えたコンサルティ
ング会社の登場となる。トップやユー
ザーに取ってみれば、彼らの提案は前
述した二つの問題の解決を期待させる
ものである。これまで 2 つの問題を解
こうと努力してきたシステムの専門家
であるシステム部門から見れば、統合
化ソフトがすべての問題を解決してく
れる魔法の道具とは思えないが、部分
ルーチン(Structured)ワーク
・反復される判断や早い調整/操作
セミルーチン(Semistructured)ワーク
ノンルーチン(Unstructured)ワーク
・発生頻度の低い事態への対処
的にでも解決されそうな提案に誘惑を
あいまいで変化することは人間
かられる。
いくつかの企業でこの統合化ソフト
例外処理は人間にしかできない !!!!!
の導入が進められている。その背景に
図表1 人間とコンピュータの役割分担
は、優れた能力を持っているコンピュ
ータが十分に活用されていないのは、
社内のシステム開発力やシステム運用
力に限界がある、すなわちシステムを
開発・運用する社内の人間の役割に限
界があるといった考え方があろう。統
合化ソフトの導入といったシステムの
外部開発を一度頼むことは、その後の
継続的な依頼をコミットしたことにな
る(3)のに気がついているのであろうか。
システムの大規模化という問題は何
故起こったのであろうか。この原因に
はいろいろあろうが、その中の一つに
にコンピュータと人間の役割分担があ
ると考えている。
生産管理業務を見ると、手順が明確
に定義されマニュアルに従って行える
業務があるかと思えば、逆に手順が不
明確で、発生都度あるいは担当者によ
って処理内容が異なる業務もある。業
務手順の明確さに着目すると、手順が
決まった反復判断や調整などのルーチ
ンワーク(Structured Work)と、発生頻
度の低い事態への対処などのノンルー
チンワーク(Unstructured Work)に大
別され、その中間にセミルーチンワー
ク(Semistructured Work)がある。
ぞれの特徴に応じて、コンピュータと
ける仕事のスタイルを見てみると、以
人間が分担すべきではなかろうか。図
前に作成された在庫一覧表に何やら書
表1に示すように、ルーチン業務は手
きこみながら仕事をしている。現状の
順が明確であるゆえにシステム化でき
コンピュータ能力と利用環境から考え
るし、業務量は多かろうともコンピュ
れば、毎日最新の在庫一覧表に更新す
ータの早くて正確という特徴を生かせ
ることは可能であるのに、担当者は
るので、コンピュータが得意とする業
様々な事柄と対応を在庫一覧表に記録
務である。
しながら、過去と現在を見比べながら
一方その反対であるノンルーチンワ
仕事をしている。
ークは、発生頻度が少ないことに加え
ある一定期間の出来事を参照しなが
て、処理内容が明確でないので、内容
ら業務を行うスタイルは、ある事象が
を判断し対応を検討することが都度必
起こる毎に都度業務を行うものの反対
要になる。あいまいで都度変化する業
である。
コンピュータ用語的に言えば、
務への対応は人間にしかできない。人
現状の仕事のやり方はリアルタイム的
間が備えるパターン認識的な能力が対
ではなく、ある期間の履歴を参照しな
応を可能にするのである。システム化
がら行うバッチ的なものと言える。
を考えると、ルーチンワークと逆に、
現状のバッチ的な業務スタイルを、
プログラミングすることは困難である。 一定期間に起こったことをある時点に
生産管理業務は、手順の明確さによ
まとめて処理することから Time 型
って、コンピュータが得意とするもの
と呼ぶことにする。生産管理の処理サ
と、人間が得意とするというか、人間
イクルを期間でみると、月、週、日毎
に適したものに分けられる。これらを
などがある。一方のリアルタイム的な
分類することなく、すべてをシステム
業務スタイルを、ある事象が起きた時
化しようとしたことが、システムの大
点の情報に基づいて即座に対応するこ
規模化につながったと考えている。
とから Event 型 と呼ぶことにする。
在庫管理を例にして、生産現場にお
手順の明確さが異なる業務は、それ
3
生産管理における仕事の進め方は、
現状では Time 型が主流であり、Event
した情報によって計算された標準原価
のから離れる。
にあることは明白であるのに、
なんたる
型は少ないように思われる。生産管理
それ以降の情報の遊離を見ると、受
の仕事は即時性とスピードが求められ
領書がベンダーに、検査依頼書が検査
ており、Event 型すなわちリアルタイ
部門に、納品書が経理に残ることにな
前述した例外処理こそ人間の仕事で
ム的な業務へ変革する必要があり、こ
り、現品移動表だけがものと一体とな
あるという観点から、
この標準原価の修
れがコンピュータを利用する理由にも
っている。これらの過程で検査不良や
正作業こそ人間の仕事だと言うのは間
なっている。
人間が関与していないデー
損傷によって部品数が減ったとすると、 違いであり、
ことであろうか。
著者がコンピュータと出会った 30
その情報はオンライン端末から更新さ
タがコンピュータによって処理されて
年ほど前には、オンライン・システム
れることになろうが、その変更が遊離
いることが問題なのである。
やリアルタイム・システムの形態と有
した伝票に反映されることわけではな
効性の議論をしたものであるが、最近
い。
この両者は互いに相反する利点と欠
点を持っており、
一概にどちらが良いと
この議論はあまり聞くことがなくなっ
更新されたオンライン情報を参照す
た。これはオンラインとリアルタイム
れば問題ないが、ものと遊離して陳腐
は言えない。
著者が後者を薦める理由は、
が当たり前になったからであろうが、
化した伝票データに基づいて生産管理
LANとD/Bの構築よりも、個別システム
一方ではコンピュータがオンライン/
が行われると、様々な情報不一致が起
の構築に重きを置くからであり、
個別シ
リアルタイム的に稼動していても、利
こることになる。ベンダーと社内の各
ステムが稼動するのであれば、LANも
用者から見るとその有効性に限界を感
部署では情報が必要であり、それらを
D/Bもいらないという考え方からである。
じている面があるように思える。
提供する道具として多数枚のカーボン
Time 型からEvent 型への変革におい
レス伝票が利用されているが、ものか
ては、システムや業務の変更はもちろ
ら遊離して陳腐化したそれらの伝票が
ん必要であるが、それ以上に大切なこ
逆にアダとなることも起こっている。
生産管理システムは多くの生産現場
とは、担当者などの人の気持ちと仕事
伝票とものの情報不一致によって、
でなくてはならない道具として使用さ
のやり方がリアルタイム的に変われる
コンピュータと実際のデータに差異が
れており、システムやコンピュータを
かである。これまでバッチ的な仕事に
生じてしまう。問題の原因が伝票デー
止めるとか、人間だけで生産管理を行
慣れた人にとっては、リアルタイムへ
タの陳腐化にあるゆえに、伝票データ
うことはとても考えられない。しかし
の変革はなかなか難しいので、むやみ
がおかしいというアクションに結びつ
一方では、生産管理業務のすべてが自
にその変化を押しつけることなく、時
けば良いが、実態としては、コンピュ
動化され、コンピュータがすべてを処
間をかけながらその変化を見守る必要
ータのデータが正であるという前提の
理する生産管理システムもなさそうで
があろう。
元に、陳腐化した伝票の情報修正を人
ある。
生産管理システムの運用を困難にし
間が行っている姿は奇妙なものである。
3 こうしたらどうだろうか!
前述した自動化の例をみれば、その
遊離データの一例として、
ある会社で
用途を単一製品に限定すれば自動化設
から分離してさまよい歩く多くの 情
の標準原価の管理を見てみよう。
この会
備は十分に機能するが、多品種の製品
報 がある。情報がものと対応してい
社では月末に、
標準原価と実績原価の差
に適用するとなかなかうまく動いてく
れば、ものの変化に応じて最新内容に
異が製品別に集計される。
本来の目的は
れない。この観点から、多種多様なケ
更新できるが、ものと遊離した情報を
標準原価より高い実績原価の原因を追
ースがある生産管理システムの自動化
最新に保つことはなかなか困難である。 求して、原価管理を行うことであり、実
は容易でないことが想定できる。すべ
ている要因の一つに、実態の もの
部品注文において注文書、受領書、
績原価が問題となるはずである。
ての生産管理を自動化してコンピュー
タにまかせるといった夢は止めにして、
検査依頼表、物品移動表、納品書が 5
ところが実際には、
原価差額の大きい
枚綴りの伝票として発行されるのは普
製品の、
何と標準原価を見直すという作
単純で手順の明確な業務に限定したシ
通に見られる例である。ベンダーは注
業が行われている。
差額上位の製品の標
ステム開発を行うといった方針に変更
文書によって生産を行い、注文書は保
準原価を修正して、
原価差額は微小でし
する必要があろう。
管して、完成部品に残りの 4 枚の伝票
たという報告になる。
この本末転倒の作
前述した工場長の話を考えれば、人
をつけて納品する。ここで注文書がも
業になってしまう原因が、
実態から遊離
間の都合に合わせて働くべきコンピュ
4
構築することは容易なことである。
ータであったはずが、コンピュータの
ラム化された一部の例外処理を行うだ
都合に合わせて人間が働く、という逆
けである。場合によって融通性をきか
これまでのシステム化では、多くの
転現象がいつの間にか起こっている。
せることができるゆえに、人間の役割
ケースを扱えるほど素晴らしいプログ
コンピュータの運用に様々な制約があ
であった例外処理をコンピュータにま
ラムである、といった価値観があった
ることは認めるが、そうかといってそ
かせたことが問題だったわけである。
ように思える。SEは業務分析ででき
の制約が主となり、人間がそれらに従
コンピュータの能力は急速に伸びて
るだけ多くの事例を明らかにし、それ
おり、その能力をもってすれば、例外
らすべてを扱えるようなシステム設計
っているという姿はいただけない。
自動化によって、ある処理は自動化
処理でも簡単にこなせるのではないか、 を追求してきた。その結果はスパゲッ
されるが、別の余分な操作が必要にな
というのが大方の意見であり、それに
ティ状態の COBOL 資産となったば
るのは普通のであることから、コンピ
従ってシステム化が進められてきた。
かりか、それでもまだ数限りない例外
ュータの担当する仕事が増えるにつれ、 その結果として完成した例外処理シス
ケースがいまだに残されているといっ
た実態である。
人間の担当する仕事が減って、仕事全
テムの処理結果が充分ではないばかり
体としての効率化が図られる、という
か、関連する多くの問題が起こってし
システム化における正しい心構えと
図式はどうも実現化されないようであ
まった。前述した変化対応を目指すシ
は、
「コンピュータの早く正確という
る。コンピュータ(システム部門)は
ステム設計、一貫性をもったデータベ
特徴を生かすシステム開発とは、例外
仕事を抱えすぎ、能力的にオーバーフ
ース設計、在庫管理の例外的な入出庫
処理をシステムから排除する」
、
「どう
ローぎみになったばかりか、人間が
処理、といった未整理な例外処理をヤ
しても必要であれば、その例外処理を
様々な後始末をせざるをえなくなって
ミクモにシステム化しようとする傾向
簡素化してからシステムに組み入れ
いる。
に歯止めをかける必要があろう。
る」
、
「改善するまではシステム化をス
前述した情物一体については、人間
例外処理が人間の役割であると述べ
が業務上の必要性から要求した多数枚
たが、例外処理を担当する人間は、コ
の伝票がプリントアウトされている。
ンピュータと違って与えられた例外を
前述した Time 型と Event 型の業務
これらの伝票はものから遊離するため
処理するだけではなく、人間にはそれ
スタイルを考える時、果たして人間は
に、ものの変化に対応した変更が行わ
以上の能力がある。それは問題となる
リアルタイム的な情報だけで仕事がで
れないという問題を引き起こし、陳腐
例外処理をなくすことであり、 改善
きるのか、という基本的な疑問が生じ
化した情報になってしまう。そのため
と呼ばれる。改善原則の一つに簡素化
てくる。これまでの業務スタイルは、
に、人間が後追いの仕事として突合せ
(Simplification)があり、この簡素化は
月初・週初の資料にその後の変更を書
をやっている。
例外処理的な事柄を整理・整頓するこ
き加えながら、月度・週間といったあ
とである。
る期間の中で仕事をするというもので
コンピュータの特徴は早く正確に仕
トップする」といったことではなかろ
うか。
事をできるが、工夫できるのは人間で
人間は、処理すべき例外処理を与え
あった。仕事のやり方はバッチ的であ
あることを思い起こす必要がある。生
られると、
「例外処理のパターンを分
り、最新情報によるリアルタイム的な
産管理システムで活用されている機能
析したり層別する」
、あるいは「例外処
仕事ではない。
とは、この早く正確であるコンピュー
理をルーチン的な仕事とそうでない仕
タの特徴を生かした部分であり、問題
事に分離する」
といった改善によって、
ルは自ずからリアルタイム的なものに
を抱えている機能とは、逆に処理手順
究極的には例外処理を なくしてしま
なるが、人間が自分の業務スタイルを
に曖昧さが残っているために、運用上
う 能力を備えているゆえに、例外処
リアルタイム的に変えることは、働き
で人間による工夫が必要な機能である
理を担当する役割を果たすことができ
方の習慣を変えることになるので時間
ことから、コンピュータと人間の役割
るのである。
はかかる。生産管理システムがリアル
コンピュータを活用した業務スタイ
この改善によって、生産管理業務は
タイム性を急いで高めるほど、人間の
これまでのシステム開発において、
例外処理のない、手順化されたルーチ
現状の業務スタイルから離れることに
人間の役割であるはずの例外処理をコ
ン業務になる。このように改善された
なる。急いでリアルタイム性を高める
ンピュータに任せた(プログラム化)
生産管理であれば、コンピュータの能
ことは本当に必要なことであろうか。
わけであるが、コンピュータはプログ
力を最大限に生かせる情報システムを
生産管理面ではリードタイム短縮が
分担を再検討するべき時であろう。
5
着実に進んでいる。これは生産管理の
ことである。このような改善が行われ
各機能において、例外処理の簡素化が
た業務はルーチンワークとなり、その
着実に進められており、その結果とし
コンピュータ化は容易なことである。
てルーチンワークとして処理できるよ
この業務改善を基本にした生産管理シ
うになったためである。この簡素化の
ステム開発という新たな方向に進むべ
一つの理想としてカンバン方式があろ
き時ではなかろうか。
う。このカンバン方式にみられるごと
く、簡素化されルーチンワークになっ
次回は、
設計編:インターネット洪水、
た生産管理では、もはやコンピュータ
と題する講座の予定である。
は必要ないとも言えるのである。
カンバンという究極に至らないまで
参考文献と脚注
も、改善による簡素化が進められた結
(1) 金沢孝, 『現場中心の生産管理シ
果として、多くの企業の生産現場にお
ステム LICENS の提案』, 日刊工業新
いてリードタイムが短縮されている。
聞社, 1990
生産管理の改善は必ずしもコンピュー
(2) 川瀬武志, 『IE 問題の解決』, 日
タ主導であるとは限らない。思い起こ
刊工業新聞社, 1995
すべきことは コンピュータは道具で
(3) 金沢孝, 「講座 生産情報システム
ある という原則である。
の環境・設計・改善[Ⅲ] 環境編:シ
コンピュータには十分な能力があり、 ステム部門のあり方」, IE レビュー,
システム部門が生産管理システムを開
Vol.40, No.5, 1999
発・改良しているから、現状では機能
(4) 金沢孝, 「講座 生産情報システ
的には不充分な部分があろうとも、そ
ムの環境・設計・改善[Ⅳ] 環境編:
のうちに完璧な生産管理システムにな
集中化から分散化への変革」, IE レビ
るだろうといった希望がこれまではあ
ュー, Vol.41, No.1, 2000
った。この希望の基礎にあるのは、生
産管理機能のすべてをコンピュータの
役割としてゆだねれば、生産管理はう
まく行えるという考え方であり、人間
の果たす役割はその時点ではほとんど
ないというものである。
生産管理システムの機能アップが進
むにつれて、機能としては良くなって
くるが、それと同時に上述した問題点
金沢 孝(かなざわ たかし)
も現れてきており、もしかしたら、こ
慶應義塾大学
の希望は夢ではないのかと思われるよ
〒223-8522 神奈川県横浜市港北区
うになってきた。これをコンピュータ
日吉 3-14-1
と人間の役割分担に関して考えれば、
℡045(563)1141
やはり人間の役割は必要ではないかと
[email protected]
いう反省である。
略歴 1948 年静岡県生まれ。’79 年慶
生産管理において人間が果たすべき
應義塾大学大学院工学研究科博士課
役割は、例外的な事項に関する都度対
程管理工学専攻修了、慶應義塾大学理
応的な処理を行いながら、それら例外
工学部助手、’88 年工学博士、’89 年慶
の整理・整頓を通して業務を改善する
応義塾大学理工学部専任講師。
6
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