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無線LANシステムの下りMU-MIMO伝送に おける高効率パケット

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無線LANシステムの下りMU-MIMO伝送に おける高効率パケット
Master's Thesis / 修士論文
無線LANシステムの下りMU-MIMO伝送に
おける高効率パケットアグリゲーション方
式に関する研究
野村, 佳秀
三重大学, 2015.
三重大学 大学院工学研究科 博士前期課程 電気電子工学専攻 計算機工学研究室
http://hdl.handle.net/10076/14853
修士論文
無線 LAN システムの下り MU-MIMO 伝送
における高効率パケットアグリゲーション
方式に関する研究
平成 26 年度修了
三重大学 大学院工学研究科
博士前期課程
電気電子工学専攻 計算機工学研究室
野村
佳秀
三重大学 大学院工学研究科
目次
1. 序章
1
1.1
研究背景....................................................1
1.2
本研究の目的................................................4
1.3
本論文の構成................................................5
2. 無線 LAN システムの変遷と主要技術
6
2.1 無線 LAN の技術的変遷........................................6
2.2 マルチレート伝送..............................................8
2.3 MIMO.........
..............................................10
2.3.1 SU-MIMO........
........................................11
2.3.2 MU-MIMO...............................................12
2.3.3 無線 LAN における MIMO 伝送使用時の送信手順.............12
2.4 パケットアグリゲーション.....................................14
2.4.1 A-MSDU 方式.............................................14
2.4.2 A-MPDU 方式.
............................................14
2.4.3 A-MSDU と A-MPDU の併用方式...
.........................15
3. MU-MIMO 伝送向けのパケットアグリゲーション技術
16
3.1 MU-MIMO 伝送時のパケットアグリゲーションにおける要求事項..16
3.1.1 時間利用効率向上..
.......................................16
3.1.2 オーバーヘッド割合削減....................................17
3.1.3 通信サービスの QoS 保証...................................18
3.2 従来のパケットアグリゲーション方式............................19
3.2.1 受信端末選択......
........................................19
3.2.2 無線フレーム設定..
........................................19
3.2.3 動作例......
..............................................20
3.3 従来のパケットアグリゲーション方式の問題点....................21
4. フレーム誤りを考慮した VoIP 優先高効率パケットアグリゲーション方式 23
4.1 提案方式の概要.
..............................................23
4.2 受信端末選択...
..............................................24
4.2.1 VoIP 優先選択.............................................24
4.2.2 通常伝送時のデータ端末選択...............................26
4.3 無線フレーム設定.............................................27
4.3.1 第一段階:無線フレーム時間長とパケット連結個数の決定.....27
4.3.2 第二段階:A-MSDU フレームにおけるパケット連結個数の決定.28
5. 特性評価モデル
31
5.1 トポロジーモデル.............................................31
5.2 伝搬モデル.....
..............................................32
三重大学 大学院工学研究科
5.3
5.4
5.5
マルチレート伝送.............................................33
MU-MIMO 伝送時の送信時間..................................34
トラヒックモデル.............................................36
6.
計算機シミュレーションによる特性評価
37
6.1 評価条件.....
...............................................37
6.1.1 シミュレーション条件....................................37
6.1.2 評価項目..
..............................................37
6.1.3 比較対象システム........................................39
6.2 伝送誤りのない伝送チャネルにおける特性評価..................40
6.2.1 無線フレーム時間長均一化の有効性評価....................40
6.2.2 VoIP 優先選択の有効性評価...............................44
6.3 伝送誤りのある伝送チャネルにおける特性評価..................48
6.3.1 許容フレーム誤り率設定..................................48
6.3.2 伝送特性評価............................................49
7.
まとめ
54
参考文献
55
謝辞
57
研究業績
58
三重大学 大学院工学研究科
1
第1章
1.1
序論
研究背景
近年,無線通信の普及により,家庭や企業内で無線 LAN (Local Area Network)の需要
が高まっている.従来の無線 LAN では,主にコンピュータが接続され,データ通信サ
ービスが主流であった.しかし近年スマートフォンやタブレット等の無線 LAN 接続可
能端末が多く登場し,多種多様な端末が無線 LAN に接続されている.また音声通信サ
ービス等のリアルタイム通信サービスが普及し,多種多様な通信サービスが提供されて
いる[1].従って無線 LAN では,接続端末台数の増加による通信データ量が増大し,か
つ通信サービス毎の要求 QoS(Quality of Service)が多様化している.このような背景から,
一度に多くのデータ送信が可能な大容量通信と,周波数や電力等の限られた無線資源を
効率的に使用可能な高効率伝送と,遅延制約等の通信サービスの QoS 保証が要求事項
として挙げられる.
従来の無線 LAN 規格 IEE802.11n[2]では,SU-MIMO(Single-User Multi Input Multi
Output)伝送を採用し,大容量通信を目指している.SU-MIMO 伝送とは,複数アンテナ
を持つ一つの AP (Access Point)と複数アンテナを持つ一つの端末間で,仮想的なチャネ
ルである空間ストリームを複数形成し,同時刻・同一周波数で並列伝送を実現すること
で送信データ量を増大させる技術である[3][4].しかし端末の多様化により,軽量化を
目指す小型端末が複数接続されている無線 LAN では,小型端末が搭載するアンテナ数
が少ないため,AP のアンテナ数が端末のアンテナ数を上回り,形成可能空間ストリー
ム数が減少する.結果として,小型端末が原因でチャネル利用効率が劣化し大容量通信
の実現が困難となる[5].そこで次世代無線 LAN 規格 IEEE802.11ac[6]では,多受信端末
対応の MIMO 伝送である MU-MIMO(Multi-User MIMO)伝送を採用する.MU-MIMO 伝
送とは,AP の複数アンテナを用いて,空間ストリームを複数の端末に割り当てる空間
分割多元接続技術であり,無線 LAN に小型端末が接続されている環境においても,チ
ャネル利用効率の劣化を防ぐことができ,大容量通信が可能となる[7][8].従って,近
年の無線 LAN において増大するトラヒック量を収容可能となると考えられる.
一方,高効率伝送に対して IEEE802.11ac は,マルチレート伝送とパケットアグリゲ
ーション技術を採用する[9][10].マルチレート伝送とは,IEEE802.11b から採用され,
受信信号強度等のチャネル状態に適応して伝送レートを変更することで,伝送誤りを一
定以内に抑えることが可能となる.従って,伝送誤りによる再送のオーバーヘッド割合
を削減することで,限られた無線資源を有効的に活用することが可能となる.
また,パケットアグリゲーション 技術は,IEEE802.11n から採用されており,
MAC(Media Access Control)層において複数パケットを連結して,送信 1 回あたりの
RTS/CTS(Request To Send/Clear To Send)交換のハンドシェーク手順等による制御オーバ
ーヘッド割合を削減する技術である.パケットアグリゲーション技術には,
三重大学 大学院工学研究科
2
A-MSDU(Aggregated-Mac Service Data Unit)方式と A-MPDU(Aggregated-Mac Protocol
Data Unit)方式の 2 種類が定義されている.A-MSDU 方式は,MAC ペイロードである
MSDU を複数連結させる方式であり,連結後の MAC ヘッダ(トレーラも含む)は単一
となる.そのため,フレーム誤りが生じた場合は,A-MSDU フレーム全体を再送しな
ければならない.一方,A-MPDU 方式は,MAC フレームである MPDU を複数連結させ
る方式であり,連結後の MAC ヘッダは連結される MPDU 数と同数となる.このため,
オーバーヘッド割合は増加するが,フレーム誤りが生じた際に A-MPDU フレーム全体
を再送する必要はなく,誤りの生じた MPDU のみ再送することができる[11][12].
IEEE802.11ac では,パケットアグリゲーション技術に A-MSDU 方式と A-MPDU 方式の
併用方式を採用し,パケットアグリゲーション性能の最大限活用を目指している.
しかし,パケットアグリゲーション技術を下り MU-MIMO 伝送で使用する場合,高
効率化の観点では,MU-MIMO 伝送で形成する一部の空間ストリームにおいて情報を伝
送しない時間区間の抑制について考慮しなければならない.MU-MIMO 伝送では,AP
は複数の端末との間に空間ストリームを形成し,並列伝送を行う.そのため空間ストリ
ーム毎に無線フレーム時間長に差異がある場合,一部の空間ストリームでは,データ伝
送が行われない時間である空きチャネル時間が発生し,チャネル利用効率を劣化させる.
従って下り MU-MIMO 伝送におけるパケットアグリゲーションでは,空間ストリーム
の形成先である受信端末をどう選択するのかと,各受信端末宛の空間ストリーム上の無
線フレームにどの連結方式でどれくらいのパケットを連結するかを決定する無線フレ
ーム設定に関して検討する必要がある.
これまでに空きチャネル時間の削減に関して検討されている MU-MIMO 向けのパケ
ットアグリゲーション方式[13]は,単一の伝送レートでデータ通信のみを対象とし,か
つパケット連結方法は A-MPDU 方式のみを使用する場合を念頭にして策定されており,
FIFO (First In, First Out)に従う受信端末選択と,各空間ストリーム上の無線フレームデー
タサイズを均一にする無線フレーム設定を行っている.これにより対象システムでは,
空きチャネル時間を削減することが可能となっている.しかしマルチレート伝送下では
伝送レートは端末毎に異なるため,空間ストリーム間の無線フレームデータサイズを均
一にしても無線フレーム時間長が不均一となり,空きチャネル時間が発生し,チャネル
利用効率が劣化する.従ってマルチレート伝送を考慮し,空間ストリーム間の無線フレ
ーム時間長を均一にする必要がある.またパケット連結時に A-MPDU 方式のみを使用
しているため,オーバーヘッド割合削減に限界がある.そのため IEEE802.11ac と同様
に A-MSDU 方式と A-MPDU 方式の併用方式を使用する必要がある.但し,伝送誤りが
発生する環境で A-MSDU 方式を使用すると,パケット連結個数の増加に伴いフレーム
誤り率も増加するため,フレーム誤り率を考慮したパケット連結が求められる.
さらに近年増加しているリアルタイムアプリケーションである音声通信サービス
(VoIP service)が混在する場合,従来のパケットアグリゲーション方式では通信サービ
スの要求 QoS を保証できない可能性がある.音声通信サービスでは,双方向に送信さ
三重大学 大学院工学研究科
3
れる音声パケットに対してリアルタイム性が重視されている.すなわち,各パケットに
厳しい許容遅延時間が設定されており,許容遅延時間を超えた伝送は無意味となる.従
って伝送遅延への対応が求められる[14].
三重大学 大学院工学研究科
4
1.2
本研究の目的
本研究では,無線 LAN システムにおける下り MU-MIMO 伝送時のパケットアグリゲ
ーションを対象とし,VoIP とデータ通信サービスが混在するマルチレート伝送環境に
おいて,チャネル利用効率向上,A-MSDU フレームの誤り率軽減と,VoIP パケットの
遅延時間保証が可能な制御方式を開発提供することを目的とする.これらの目的を達成
するために,MU-MIMO 向けのフレーム誤りを考慮した VoIP 優先高効率パケットアグ
リゲーション方式を提案し,その特性評価を通じて有効性を示していく.
提案方式の受信端末選択では,許容遅延時間を超える可能性のある VoIP パケットの
宛先端末を優先的に受信端末として選択する VoIP 優先選択を導入することで,VoIP パ
ケットの遅延時間を保証する.またデータパケットに対しては,単位時間あたりの伝送
情報量が高い端末を優先的に受信端末として選択することで,システムスループットを
向上させる.本論文では,マルチレート伝送を考慮したデータ端末選択方法を複数提案
し,比較検討を行う.一方無線フレーム設定では,マルチレート伝送を考慮して無線フ
レーム時間長を均一にすることで,空きチャネル時間の発生を極力防ぐ.また A-MSDU
方式と A-MPDU 方式の併用方式の使用を前提とし,A-MSDU フレーム構成時にパケッ
ト連結個数を適切に制限することで,フレーム誤り率を許容値以内に収める.以上の動
作により,音声/データ通信サービスが混在するマルチレート伝送環境下の無線 LAN に
おいて,提案パケットアグリゲーション方式は,VoIP パケットの遅延時間保証,シス
テムスループット向上,パケット配信成功率向上が実現可能になると考えられる.
三重大学 大学院工学研究科
5
1.3
本論文の構成
本論文は次のように構成される.2 章では無線 LAN システムの変遷と主要技術,3
章では MU-MIMO 伝送向けのパケットアグリゲーション技術,4 章ではフレーム誤りを
考慮した VoIP 優先高効率パケットアグリゲーション方式,5 章では特性評価モデルを
記述する.6 章では計算機シミュレーションによる特性評価の結果を示し,音声/データ
通信サービス混在するマルチレート伝送環境下での提案方式の有効性を示す.最後に 7
章では,本研究のまとめを行う.
三重大学 大学院工学研究科
6
第2章
無線 LAN システムの変遷と主要技術
2 章では,本研究に関連する無線 LAN の変遷と主要技術について説明する.2.1 節で
は各無線 LAN 規格の技術的変遷について記述する.2.2 節では受信信号強度等のチャネ
ル状態に適応して伝送レートを変更させるマルチレート伝送について記述する.2.3 節
では MIMO について述べ,SU-MIMO と MU-MIMO の違いと MIMO 使用時の伝送手順
について記述する.2.4 節ではパケットを連結させ,送信 1 回あたりのオーバーヘッド
割合を削減するパケットアグリゲーション技術について述べ,
A-MSDU 方式と A-MPDU
方式とこれら二つの併用方式の三種類のパケットアグリゲーションについて記述する.
2.1
無線 LAN の技術的変遷
無線 LAN では,IEEE により策定された初の無線 LAN 規格 IEEE802.11 から現在使用
されている IEEE802.11ac まで様々な技術が開発されてきた.本節では,各無線 LAN 規
格の特徴と主要技術について策定順に記述する.
まず,1997 年 6 月に IEEE802.11[15]が策定された.IEEE802.11 では,変調方式に DSSS
(Direct Sequence Spread Spectrum:直接拡散方式)を採用し,周波数帯は 2.4[GHz] 帯
の ISM (Industrial, Scientific and Medical)バンド,チャンネル幅は 22[MHz],伝送速度の
理論値は 2[Mbps]であった.特徴としては,物理レイヤ規格と MAC レイヤ規格から主
に構成され,一つの MAC レイヤ規格で複数の物理レイヤ規格をサポート可能であるこ
とと,MAC レイヤで CSMA/CA (Carrier Sense Multiple Access with Collision Avoidance) 方
式を採用している点が挙げられる[16].CSMA/CA 方式は,チャネルが一定時間以上継
続して空いていることを確かめてから情報を送信するアクセス方式である.この待ち時
間は,最小限の時間にランダムな待ち時間を加えたもので,直前の通信があってから一
定時間後に複数の端末が一斉に送信する事態を防止している.実際に情報が正しく送信
されたか否かは受信側からの ACK(Acknowledge)信号が到着するかどうかで判定し,
ACK 信号がなければ通信障害があったとみなして情報の再送信を行う.CSMA/CA 方
式は,簡単かつ実際的なアクセス制御方式であり,この後の一連の無線 LAN 発展の基
礎をなす技術である.
続いて 1999 年 10 月に IEEE802.11b が策定された.IEEE802.11b では,DSSS をベース
に CCK(Complementary Code Keying:相補型符号変調方式)を採用することにより,
伝送速度の理論値を 2[Mbps]から 11[Mbps]まで増加させた.
CCK とは,
DSSS の一種で,
DSSS ではランダムであった拡散符号に Complementary Code を用いて,拡散符号におい
ても,情報を重量することで一度に送信する情報量を増加させ,高速化を図っている.
また 802.11b からマルチレート伝送が採用された.マルチレート伝送とは,伝送誤り率
またはフレーム誤り率を適切な値に維持するために,受信信号強度等のチャネル状態に
適応して伝送レートを変更させる技術である.詳しくは 2.2 節で説明する.
また IEEE802.11b が策定された同時期に IEEE802.11a も策定された.IEEE802.11a は
周 波 数 帯 に 5[GHz] を 使 用 し , 変 調 方 式 は OFDM ( Orthogonal Frequency-Division
三重大学 大学院工学研究科
7
Multiplexing:直交周波数分割多重方式)を採用した.OFDM 方式では,データをサブ
キャリアと呼ばれる複数の搬送波に分割し,周波数方向に並列に送信するマルチキャリ
ア変調方式の一種であり,各サブキャリアを直交させることでサブキャリア間の間隔を
密に配置し,限られた周波数帯域を有効利用でき,マルチパスや干渉波の影響を少なく
できる.OFDM 方式により,伝送速度の理論値を 54[Mbps]まで増加することに成功し
た.
続いて 2003 年 6 月に IEEE802.11g が策定された.IEEE802.11g は,IEEE802.11b の上
位互換規格として開発され,周波数は IEEE802.11b と同じ 2.4GHz 帯を使用する.
IEEE802.11a と同様に OFDM 方式を採用し,伝送速度の理論値を 54[Mbps]まで増加さ
せた.
続いて 2009 年 9 月に IEEE802.11n が策定された.IEEE802.11n は,
周波数帯は 2.4[GHz]
または 5[GHz],周波数帯域は最大 40[MHz],変調方式は IEEE802.11g 同様 OFDM 方式
を使用し,64QAM(Quadrature Amplitude Modulation)まで利用する.また MIMO を使用
し,最大 4 本のアンテナを同時に使用し送受信を行うマルチストリーミングや通信手順
の見直し,複数のチャネルを結合するチャネルボンディング(チャネル結合)などによ
り,高速化・安定化を実現した.MIMO については 2.3 節で詳しく説明する.さらにパ
ケットアグリゲーション技術を新たに導入し,パケットを連結させることでオーバーヘ
ッド割合を削減させ,高効率化を実現した.パケットアグリゲーションについては 2.4
節で詳しく説明する.これらの技術により,4 ストリーム MIMO 使用時に伝送速度の理
論値を 600[Mbps]まで増加させた.
最後に 2014 年 1 月に IEEE802.11ac が策定された.IEEE802.11ac では,IEEE802.11n
で用いる変調方式の改善と周波数帯域の拡張と MIMO の拡張とマルチユーザ化を実現
することで,互換性を保ちながら,高速な通信を可能にした.IEEE802.11ac の変調方式
は,IEEE802.11n の 64QAM に加えて,より高密度に信号を送る 256QAM を利用可能と
する.これにより,同じ帯域幅であっても約 33%速度向上が可能となった.また周波
数帯域は,80MHz 幅または 160MHz 幅まで利用できるようになった.さらに最大 8 ス
トリーム MIMO まで利用することが可能となった.最後にマルチユーザ対応の
MIMO(MU-MIMO)の採用により,AP の伝送能力を最大限に発揮させることが可能とな
った.これらの技術により,伝送速度の理論値を 6[Gbps]まで増加することに成功した.
三重大学 大学院工学研究科
8
2.2
マルチレート伝送
無線 LAN では,無線フレームの再送によるオーバーヘッド割合を削減するために,
ビット誤り率あるいはフレーム誤り率を適切な値に維持する必要がある.そこで,受信
信号強度等のチャネル状態に適応して伝送レートを適切な値に変更させ,ビット誤り率
やフレーム誤り率を低減可能なマルチレート伝送が IEEE802.11b から採用されている.
伝送レートを低くすれば,雑音に対するロバスト性が高くなり,結果としてビット誤り
率やフレーム誤り率の値を低く抑えることができる.マルチレート伝送を採用すること
により,チャネル状態が悪い端末に対して,再送回数を増加させず,正確なデータを復
調させることが可能となり,高効率かつ高信頼度の通信が可能となった.
マルチレートの規定値として,無線 LAN 規格 IEEE802.11b では 11, 5.5, 2, 1 [Mbps]の
4 種類,IEEE802.11a/g では 54, 48, 36, 24, 18, 12, 9, 6 [Mbps]の 8 種類,IEEE802.11n/ac で
は端末毎のチャネル状態を表す指標である MCS(Modulation and Coding Scheme)レベル
を割り当てており,IEEE802.11n では 8 種類,IEEE802.11ac では 10 種類存在する.MCS
レベルは高いほど高レートで伝送可能となる.これらの伝送レートは各ベンダのアルゴ
リズムによりチャネル状態に応じた適切なものが設定されるが,製品によっては手動で
上記の伝送レートの一つを指定して固定できるものも存在する.ただし,前述の伝送レ
ートはデータフレームに対する伝送レートであって,確認応答である ACK フレーム等
の制御フレームには適用されず,一般的にデータフレーム送信時より低いレートが使用
される.
図 1,図 2 に無線 LAN 下りリンクにおいて,同量のデータフレームを送信する際の
マルチレート伝送使用時と単一レート使用時の伝送の様子を示す.図 1 ではチャネル状
態の良い端末に,図 2 ではチャネル状態の悪い端末に対する送信を示す.図 1 ではデー
タ伝送速度の違いにより,マルチレート伝送時の方が送信完了までの時間を短縮可能で
あることが分かる.一方図 2 では,単一伝送レート使用時のデータ送信が失敗し,再送
のオーバーヘッド割合が高くなるため,図 1 同様に,低レート伝送を行うマルチレート
伝送使用時の方が高効率となる.
三重大学 大学院工学研究科
9
図1
チャネル状態の良い端末に対するマルチレート伝送
図2
チャネル状態の悪い端末に対するマルチレート伝送
三重大学 大学院工学研究科
10
2.3
MIMO
使用する周波数帯域を拡大することなく高速伝送が可能な技術として,空間的に信号
を多重する MIMO 伝送がある.MIMO では,送信側と受信側の両方に複数のアレーア
ンテナを用い,SDM(Spatial Division Multiplexing Access:空間分割多重伝送)[17]と空間
ダイバーシチ[18]により,限られた周波数帯域で高速伝送が可能となる.SDM では,
AP に設備されている複数のアンテナと端末に設備されている複数のアンテナを利用し
て複数の仮想的なチャネルである空間ストリームを形成し,空間ストリーム毎に異なる
データを送信する.
ここで M 次元送信ベクトルを x,N 次元受信ベクトルを y,N 次元雑音ベクトルを n,
N×M のチャネル行列を H とする MIMO システムを図 3 に示す.図 3 より,受信ベクト
ルは
𝒚𝟏
𝒙𝟏
[ ⋮ ] = H[ ⋮ ] + 𝒏
𝒚𝑵
𝒙𝑴
(2.1)
と表すことができる.また,チャネル行列 H は
𝒉𝟏𝟏
𝑯=[ ⋮
𝒉𝑵𝟏
⋯ 𝒉𝟏𝑴
⋱
⋮ ]
⋯ 𝒉𝑵𝑴
(2.2)
と表すことができる.H が既知であれば,式(2.1)より
𝒙𝟏
𝒉𝟏𝟏
[ ⋮ ]=[ ⋮
𝒙𝑴
𝒉𝑵𝟏
⋯ 𝒉𝟏𝑴 −𝟏 𝒚𝟏
⋱
⋮ ] ([ ⋮ ] - 𝒏)
𝒚𝑵
⋯ 𝒉𝑵𝑴
(2.3)
と変換できるため,送信ベクトルx1~x𝑀 を求めることができ,受信機において復調す
ることが可能となる.
以上のような通信方式は時空間符号化と呼ばれ,使用するアンテナ数の増加に伴い,
伝送可能情報量も増加させることが可能となる.
三重大学 大学院工学研究科
11
図3
MIMO システム
SU-MIMO
MU-MIMO
図 4 SU-MIMO と MU-MIMO
MIMO には基地局と端末で一対一の通信を行う SU-MIMO と,基地局と端末で一対多
の通信を行う MU-MIMO の二種類がある.現在の無線 LAN 規格である IEEE802.11n で
は SU-MIMO,次世代無線 LAN 規格である IEEE802.11ac では MU-MIMO が採用されて
いる.SU-MIMO と MU-MIMO のイメージ図を図 4 に示す.
2.3.1 SU-MIMO
SU-MIMO は IEEE802.11n での主要技術で,基地局と端末で一対一での MIMO 伝送の
ことである.一対一での MIMO 伝送では,チャネル推定を行いやすく,正確に伝送路
状態を把握することが可能である.SU-MIMO では,受信側がチャネル行列 H を既知信
号などを基に推定し,受信信号を送信側の個々のアンテナから送信されたデータ信号に
分離する必要がある[19].代表的な信号分離アルゴリズムとして ZF(Zero Forcing)法,
MMSE(Minimum Mean Square Error:最小自乗誤差) 法,MLD(Maximum Likelihood
Detection)法がある.ZF 法では,推定したチャネル行列 H の逆行列(H-1)を各受信信
号 y に乗ずることで各送信信号 x を検出する.ZF 法は回路構成が簡易なため,比較的
小さなハードウェア規模で実現可能であるが,MLD 法に比べ伝送特性が劣るという欠
三重大学 大学院工学研究科
12
点がある.一方 MLD 法は理論上もっとも良好な伝送特性を実現可能であるが,信号処
理に伴う演算量が非常に多い(信号の多重数や変調多値数に対して指数関数的に増加す
る)ため,ハードウェアの規模が大きくなる.信号分離アルゴリズムに関しては,現在
さまざまな研究機関において,性能向上のため盛んに研究が行われている.
しかし SU-MIMO では一対一で MIMO 伝送を行うため,携帯端末等の小型でアンテ
ナ数の少ない低速端末が基地局に多数接続されている環境では,MIMO 伝送で形成する
空間ストリーム数が減少し,基地局が持つアンテナを最大限に活用できなくなる.従っ
て通信を終了するまで時間がかかり,他の端末は無線空間の空きを待つ時間が発生する
ため,端末あたりのスループットが接続されている低速端末数に反比例する形で低下し
てしまうといった問題がある.
2.3.2 MU-MIMO
MU-MIMO 伝送は IEEE802.11ac で採用される技術で,SU-MIMO をマルチユーザ化し
た技術である.MU-MIMO 伝送は SDMA(Space Division Multiplexing Access:空間分割多
元接続)とも呼ばれており,送信側でアダプティブアレーアンテナを用いて,ビームフ
ォーミング制御をすることで,同一時間,同一周波数で複数の端末と通信する並列伝送
を可能としている[20].
ビームフォーミング技術は,AP の複数のアンテナから位相や電力の異なる電波を放
射し,受信端末の位置において送信側の各アンテナから到来する所望の受信信号を強め
合うように調節し,他の端末の位置では,干渉となる受信信号を弱め合うように調節す
る技術である.しかしビームフォーミング技術を使用するためには,受信端末の位置や
送信側から受信端末への伝搬路状態といった情報を送信側が把握する必要がある.それ
らの情報を推定する方法は,送信側から受信端末に向けて試験用の信号を送信し,その
受信状況を送信側にフィードバックすることで,受信端末の位置や伝搬路状態を推定す
る.この情報を基に,送信側はビームフォーミング技術を使用し,送信先の端末毎に複
数の異なる指向性を形成することが可能となる.
無線 LAN 下り伝送における MU-MIMO 伝送では,携帯端末など小型でアンテナ数の
少ない低速端末が AP に多数接続されている環境でも,AP の持っている伝送能力を最
大限に活かせる空間ストリーム設定が可能であるため,待機中の端末が受信機会を待つ
時間が減少し,スループットの低下を抑えることが可能となる.SU-MIMO 伝送と比較
すると,基地局の最大空間ストリーム数までスループットを増加させることが可能とな
り,端末あたりのスループットはあまり低下しない.また多くのアンテナを備えるデス
クトップ PC やテレビなどの高速端末については,空間ストリーム数を多く配分するこ
とで映像などの大容量データの高速通信を実現することが可能となる.
2.3.3 無線 LAN における MIMO 伝送使用時の送信手順
無線 LAN 下りリンクにおいて,SU-MIMO 使用時と MU-MIMO 使用時の送信手順を
三重大学 大学院工学研究科
13
図 5 に示す.図 5 より,AP はまずビジー状態のチャネルからキャリア信号が検出され
なくなり,アイドル状態に移行したと判断するまでの時間である DIFS(Distributed
Inter-Frame Space)の期間待機する.DIFS の間,キャリア信号を検知しなければ,ランダ
ム時間(BO:バックオフ)待機し,ハンドシェーク手順である RTS/CTS の動作に入る.
RTS/CTS とは,AP は送信要求信号である RTS を AP の信号の届く範囲に送信し,受信
端末は確認信号である CTS を AP にフィードバックする.MIMO 伝送では,AP が受信
端末への伝搬路状態を把握するために,受信端末は CTS と同時に AP と端末間の伝搬路
状態の情報を表す CSI(Channel State Information)を付加する.
ここで,SU-MIMO 伝送では,AP と端末の一対一の MIMO 伝送であるため,端末か
らのフィードバックである CTS と CSI は一つとなるが,MU-MIMO 伝送では,一対多
の MIMO 伝送であるため,受信端末数分の CTS と CSI が必要となる.図 5 では,
MU-MIMO 伝送時の受信端末数が 3 台であるため,3 つの CTS 送信時間を要する.
その後,AP は MIMO 伝送(DATA)を行い,受信端末はデータの受信確認であるブ
ロックアック(BA)を AP へ返す.ここでも CTS 同様に,MU-MIMO 伝送では受信端
末数分の BA を AP へ返す.以上のような送信手順により,一回の MIMO 伝送は終了す
る.
図5
SU-MIMO と MU-MIMO の伝送手順
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14
図 6 A-MSDU フレーム
2.4
パケットアグリゲーション
パケットアグリゲーション(フレームアグリゲーション)とは,MAC 層において,同
じ端末宛てのデータパケットを複数連結させ一つの無線フレームとする技術で,一回の
無線フレーム送信で大量のデータを送信することができる.従ってプリアンブルやヘッ
ダ等のオーバーヘッド割合の削減や,ハンドシェーク手順によるオーバーヘッド割合の
削減が可能となり,伝送効率を向上することができる.パケットアグリゲーション技術
は IEEE802.11n から採用されており,パケット連結には,MAC ペイロードを連結する
A-MSDU 方式と,MAC フレームを連結する A-MPDU 方式がある.
2.4.1 A-MSDU 方式
A-MSDU 方式では,図 6 のように MAC ペイロードである MSDU を複数連結させる
方 式 で あ る . A-MSDU フ レ ー ム は , IEEE802.11 の 同 期 信 号 の ビ ッ ト 列 で あ る
PLCP(Physical Layer Convergence Protocol)プリアンブルと,変調方式やデータ長などの
情報を含んだ PLCP ヘッダと,MAC ペイロードを連結させた A-MSDU を持つ.A-MSDU
の中には MAC ヘッダ,連結されたペイロード,チェックサムを用いた誤り検出用デー
タである FCS(Frame Check Sequence)が一つずつ存在する.このような A-MSDU フレー
ムを作成することによって,オーバーヘッドを削減することが可能となる.しかし
A-MSDU フレームには,誤り検出のための FCS が一つしかなく,フレーム誤りが生じ
た際,誤り制御単位が連結後の MAC フレームとなるため,A-MSDU フレーム全体を再
送しなければならない.従って A-MSDU フレームを構成する際には,A-MSDU フレー
ムの誤り率を考慮して,パケット連結を行う必要がある.
2.4.2 A-MPDU 方式
A-MPDU 方式では,図 7 のように MAC ヘッダを含んだ MAC フレームである MPDU
を複数連結させる方式である.A-MPDU フレームには PLCP プリアンブルと PLCP ヘッ
ダは一つだが,MAC ヘッダと FCS は個々の MAC フレーム毎に存在する.このため
A-MSDU 方式よりもオーバーヘッド割合が増加してしまう.しかしフレーム誤りが生
じた際は,誤り制御単位が連結前の MAC フレームであるため,A-MPDU フレーム全体
を再送する必要はなく,フレーム誤りとなった MAC フレームの再送信だけで済むとい
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15
った利点がある.従って伝送誤り率が高い環境においては,A-MSDU 方式よりも
A-MPDU 方式でパケット連結を行うことで,再送回数を削減することが可能となる.
2.4.3 A-MSDU と A-MPDU の併用方式
A-MSDU 方式と A-MPDU 方式の併用方式は,
図 8 のように,
第一段階として A-MSDU
フレームを構成し,第二段階として構成した A-MSDU フレームを一つの MPDU とみな
し,A-MPDU フレームを構成する方式である.利点としては,伝送誤り率が高い環境
においても,フレーム誤り率が高くならない範囲で,可能な限り多くのパケットを連結
できることである.図 8 では,MAC ペイロードである MSDU の連結個数を多くしてい
る.従って A-MSDU 方式と A-MPDU 方式の併用方式は,A-MSDU フレームを構成し,
それらを A-MPDU 方式により連結することで,A-MPDU 方式のみを使用した場合に比
べて,オーバーヘッド割合を削減することが可能となる.さらに伝送誤り率によって
A-MSDU 方式のパケット連結個数を調節することができるため,最適なパケットアグ
リゲーション手法と言える.
IEEE802.11ac では,A-MSDU 方式と A-MPDU 方式の併用方式が採用している.
図 7 A-MPDU フレーム
図8
A-MSDU と A-MPDU の併用方式
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16
第3章
MU-MIMO 伝送向けのパケットアグリゲーション技術
3 章では,MU-MIMO 伝送向けのパケットアグリゲーション技術について記述する.
3.1 節では MU-MIMO 伝送時のパケットアグリゲーションにおける要求事項,3.2 節で
は従来のパケットアグリゲーション方式,3.3 節では従来のパケットアグリゲーション
方式の問題点について記述する.
3.1
MU-MIMO 伝送時のパケットアグリゲーションにおける要求事項
IEEE802.11ac では,パケットアグリゲーション技術と MU-MIMO 伝送を併用してい
る.MU-MIMO 伝送時のパケットアグリゲーションは,高効率化のために,時間利用効
率向上とオーバーヘッド割合削減を満たす必要がある.また通信品質を向上するために,
通信サービスの QoS 保証も満たす必要がある.
3.1.1 時間利用効率向上
MU-MIMO におけるパケットアグリゲーションでは,高効率化のために,チャネル状
態に応じて伝送レートを変更させるマルチレート伝送を考慮し,時間利用効率を向上さ
せることが要求事項として挙げられている.MU-MIMO 伝送では,各端末に向う空間ス
トリーム上で最も長い無線フレームが送信完了となるまで,端末側は ACK を返すこと
ができない.従って各空間ストリーム上の無線フレーム時間長に差異がある場合,一部
の空間ストリームでは他の送信時間よりも早く送信が完了するため,情報が伝送されな
い時間区間である空きチャネル時間が発生し,時間利用効率が劣化する.そこで空間ス
トリーム間の送信時間を均一にする必要がある.そのため各受信端末の MCS レベルを
確認し,各端末宛ての伝送レートを考慮した上で,パケット連結を行わなければならな
い.
各空間ストリーム上の無線フレーム時間長が均一である場合の例を図 9 に示す.図 9
から分かるように,空きチャネル時間は発生しない.次に各空間ストリーム上の無線フ
レーム時間長が不均一である場合の例を図 10 に示す.図 10 から分かるように,短い無
線フレーム時間長を格納している空間ストリーム上に空きチャネル時間が発生し,時間
利用効率が劣化する.従って空きチャネル時間を最小限に抑えるためには各無線フレー
ム時間長を均一にする必要がある.
さらに高効率化するために,各空間ストリーム上の無線フレーム送信時に,単位時間
当たりの伝送情報量が多い端末を受信端末として選択する必要がある.従って受信端末
選択時に,可能な限り連結するパケット個数を増加可能で,かつ伝送レートが高い端末
を選択する必要がある.
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17
図9
均一な無線フレーム時間長
図 10 不均一な無線フレーム時間長
3.1.2 オーバーヘッド割合削減
MU-MIMO におけるパケットアグリゲーションでは,高効率化のために,二つの要因
からなるオーバーヘッド割合の削減が要求事項として挙げられる.
まず RTS/CTS 交換等のハンドシェーク手順や無線フレーム内のヘッダによるオーバ
ーヘッド割合を削減しなければならない.そのためには,パケット連結する際に可能な
限りパケット連結数を増加させ,連結後の無線フレーム時間長を増加させる必要がある.
続いてビット誤りが発生する環境においては,再送によるオーバーヘッド割合に注意
しなければならない.実際の無線 LAN 使用環境では,障害電波,通信データの衝突,
外気の状態,伝搬経路の障害物といった様々な要因により,伝送失敗による再送という
事態が発生する.そこでパケットアグリゲーションでは,可能な限り再送回数を削減す
るために,フレーム誤り率に影響を及ぼす連結後の MAC フレームサイズを適切な値に
する必要がある.従って MU-MIMO におけるパケットアグリゲーションでは,2.4.3 節
で述べた A-MSDU と A-MPDU の併用方式を使用する際,A-MSDU フレームは伝送誤り
に弱いため,フレーム誤り率を考慮してパケット連結個数を調整する必要がある.
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18
3.1.3 通信サービスの QoS 保証
MU-MIMO におけるパケットアグリゲーションでは,通信品質を向上させるために,
無線 LAN で行われる各通信サービスの QoS を保証することが要求事項として挙げられ
ている.QoS とは通信の品質を定量的に表現するもので,通信の帯域速度,パケットの
遅延時間やジッタ量,パケットの損失率等が挙げられる.
従来の無線 LAN では,データ通信サービスが主流であり,代表的な QoS として,パ
ケット廃棄率が挙げられる.これはデータパケットを送信先まで確実に届けるためであ
る.そのために,バッファサイズの増大等を行い,システム容量を増加させることや,
送信失敗時に再送を行うといった手法が行われてきた.データ通信サービスは,無線
LAN で元来行われているサービスであるため,その QoS 保証は十分に提供できている.
しかし近年の無線 LAN では,多種多様な通信サービスが提供され,代表的な新しい
通信サービスとして音声通信サービス(VoIP)が登場してきた[21].VoIP 技術は,一定
時間の音声を音声符号化によりデジタル信号に変換させ,デジタルデータを VoIP パケ
ットに分割して IP ネットワーク上に送出する.従って代表的な QoS として,遅延時間
とジッタが挙げられる[22].これらの要求 QoS を保証するために,MU-MIMO における
パケットアグリゲーションでは,VoIP パケットの優先伝送により,遅延時間を厳守す
る必要がある.
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19
3.2 従来のパケットアグリゲーション方式
ここで従来検討されている下り MU-MIMO 伝送向けのパケットアグリゲーション方
式について記述する.従来のパケットアグリゲーション方式は,AP が単一の伝送レー
トで送信を行うことを想定し,パケットアグリゲーションは A-MPDU 方式に従う場合
について検討している.MU-MIMO 伝送時の空きチャネル時間の発生を防ぐ方法として,
各空間ストリーム上の無線フレームのパケット連結個数を等しくし,無線フレームのデ
ータサイズを均一にしている.
3.2.1 受信端末選択
従来のパケットアグリゲーション方式の受信端末選択では,まず可能な限り形成する
空間ストリーム数を増大可能な空間ストリーム数設定を行う.空間ストリーム数 m は
以下の式に従い決定する.
m = min ( ε , M )
(3.1)
ここで,ε はバッファ内にあるパケットの宛先端末数,M は最大空間ストリーム数(AP
のアンテナ数)をそれぞれ表す.式(3.1)を採用することによって,可能な限り多くの空
間ストリームを形成し,AP のアンテナを最大限に活用することが可能となる.
次に空間ストリームの形成先端末を選択する.選択方法は,全ての端末を平等に選択
するために,FIFO に従いバッファ格納順に選択する.つまり AP は,バッファに格納
されているパケットの中で,最も格納時間の長いパケットの宛先から順に受信端末を選
択する.
3.2.2 無線フレーム設定
従来のパケットアグリゲーション方式の無線フレーム設定では,形成した各空間スト
リーム上の無線フレームをどのように構成するか決定する.無線フレーム設定は,
MU-MIMO 伝送時の空きチャネル時間の発生を防ぐために,各受信端末宛の無線フレー
ム上でパケット連結個数を均一にする.つまり無線フレームデータサイズを均一にする.
各空間ストリームにおけるパケット連結個数 b は以下の式に従い決定される.
b = min ( Φ , B )
(3.2)
ここで,Φ は受信端末宛毎に算出したバッファ内パケット個数の最小値 ,B は
IEEE802.11ac で規定されている最大 A-MPDU サイズでパケット連結を行う際の最大パ
ケット連結個数をそれぞれ表す.
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20
3.2.3 動作例
従来のパケットアグリゲーション方式の動作を図 11 に示す.図 11 では,バッファ内
のパケットの宛先が MT1,MT2,MT3 の三種類であるため,ε=3,また空間ストリーム数
は二本とすると,M=2 となるため伝送される空間ストリーム数 m は式(3.1)より二本
となる.続いて空間ストリームの形成先端末は,バッファの先頭に格納されているパケ
ットの宛先端末である MT1 と MT2 が受信端末として選択される.
次に無線フレーム設定では,受信端末として選択された MT1 宛てのパケットが二個,
MT2 宛てのパケットが三個となるため,Φ=2,また,最大パケット連結個数は 64 個と
すると,B=64 となるため,各空間ストリーム上に格納する無線フレーム内のパケット
連結個数は式(3.2)より二個となる.
以上のようなパケットアグリゲーション方式により,同一レート伝送を行う環境にお
いては,各端末宛の無線フレーム時間長を均一にでき,MU-MIMO 伝送時の空きチャネ
ル時間を削減することが可能となる.
図 11
従来のパケットアグリゲーション方式
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21
3.3
従来のパケットアグリゲーション方式の問題点
無線 LAN 下りリンクにおいて,前述のような誤りの生じる伝送路で,マルチレート
伝送が行われ,かつ音声/データ統合伝送を行う場合,従来のパケットアグリゲーショ
ン方式は以下の三つの問題点を生じさせる.
一つ目の問題点は,3.2.3 節で示したように各空間ストリームに格納する無線フレー
ムで連結するパケット個数を均一にする無線フレーム設定を行っているため,マルチレ
ート伝送下では,空きチャネル時間が発生してしまう問題である.マルチレート伝送環
境下では,端末毎に異なる伝送レートを持つため,無線フレームのデータサイズを均一
にしただけでは,無線フレーム時間長が均一になるとは限らず,空きチャネル時間が発
生する場合がある.
マルチレート伝送下において従来方式を採用した場合,空きチャネル時間が発生する
様子を図 12 に示す.図 12 では,パケット連結個数が二個の場合を示しているが,MT1
と MT2 の伝送レートが異なるため,送信中の空きチャネル時間が発生し,チャネル利
用効率が劣化してしまう.
二つ目の問題点は,パケット連結方式で A-MPDU 方式のみを採用しているため,
オーバーヘッド削減が不十分であるといった問題である.2.4.2 節で述べたように
A-MPDU 方式は伝送誤りには強いが,MAC フレームを連結するため,MAC ヘッダ等
のオーバーヘッド割合が高いといった欠点がある.従って IEEE802.11ac でも採用され
ている A-MSDU と A-MPDU の併用方式を採用し,オーバーヘッドを削減する必要があ
る.しかし A-MSDU フレームはフレーム誤りに弱いため,フレーム誤り率を一定値以
内に収めるようにパケット連結個数を調整する必要がある.
三つ目の問題点は,受信端末選択が FIFO に従い選択しているため,音声通信サービ
スのような遅延時間に制約のある通信サービスのパケット許容遅延時間内に送信でき
ない可能性があるという問題である.従来方式では,単一のデータ通信サービスを想定
しているため,FIFO による端末選択により全てのパケットを平等に扱うことは問題な
かったが,VoIP サービスでは,遅延時間を厳守する必要があるため,FIFO による端末
選択ではなく VoIP 端末を優先して端末選択を行う必要がある.
図 13 に,データ通信サービスと音声通信サービスのパケットがバッファ内に混在す
る場合の,従来方式の受信端末選択を示す.図 13 では,FIFO に従う受信端末選択のた
め,
遅延時間に制約のある VoIPMT1 を受信端末として選択できず,
DataMT1 と DataMT2
が選択されてしまう.これにより,VoIP パケットを許容遅延時間内に送信不可となり,
VoIP パケットが破棄されてしまう.
そこで,本論文では,データ/音声通信サービスが混在し,マルチレート伝送使用環
境にも対応可能な高効率パケットアグリゲーション方式を提案する.詳しくは 4 章で説
明する.
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22
図 12
図 13
マルチレート伝送下での従来方式の無線フレーム設定
データ/音声通信サービス混在環境での従来方式の受信端末選択
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23
第4章
フレーム誤りを考慮した VoIP 優先高効率パケットアグ
リゲーション方式
4 章では,提案方式であるフレーム誤りを考慮した VoIP 優先高効率パケットアグリ
ゲーション方式について述べる.4.1 節では提案パケットアグリゲーション方式の概要,
4.2 節では提案方式の受信端末選択,4.3 節では提案方式の無線フレーム設定について述
べる.
4.1
提案方式の概要
本研究では,システムの動作環境として伝送誤りが発生し,かつデータ/音声端末が
混在し,マルチレート伝送が使用される環境を想定する.1.2 節で述べた目的を達成す
るために,VoIP パケットを許容遅延時間内に送信する方法,マルチレート伝送下でも
送信中の空きチャネル時間を削減する方法と,フレーム誤り率を削減する方法を検討し,
以下のパケットアグリゲーション方式を提案する.
提案方式の空間ストリーム数設定では,3.2.1 節と同様に従来方式と同じ方式を使用
することで,可能な限り多くの空間ストリームを形成し,AP のアンテナを最大限に活
用する.
提案方式の受信端末選択では,遅延制約のある VoIP パケットを許容遅延時間内に送
信することを目指し,VoIP 優先選択を導入する.また VoIP 優先選択を行う必要がない
場合(これを通常伝送と呼ぶ)は,システムスループットを向上させることが可能と思
われるデータ端末選択方式を複数提案し,比較検討を行う.
提案方式の無線フレーム設定では,マルチレート伝送を考慮した無線フレーム時間長
均一化を行い,送信中の空きチャネル時間を削減すること,及び A-MSDU 方式と
A-MPDU 方式の併用方式の適用を前提に,A-MSDU フレームにおけるパケット連結個
数の制限を行い,フレーム誤り率を低減することを目指す.
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24
4.2
受信端末選択
提案方式の受信端末選択は,VoIP パケットの遅延時間保証と,システムスループッ
ト向上を目的とする.VoIP パケットの遅延時間保証に対しては,VoIP 端末を優先的に
受信端末選択として選択する VoIP 優先選択を導入する.通常伝送時のデータ端末選択
時には,システムスループット向上を目指し,制御オーバーヘッド割合削減に重点を置
いた方式である「総無線フレーム時間長優先方式」と,単位時間あたりの伝送情報量に
重点を置いた方式である「伝送情報量優先方式」の二種類を提案する.
4.2.1 VoIP 優先選択
AP は,VoIP パケットの許容遅延時間内伝送を保証するために,以下のいずれかの条
件を満たす場合,VoIP 端末を優先してバッファ格納順に受信端末として選択する.

条件(1):バッファ内滞在時間が許容滞在時間 DS を超える VoIP パケットが存在する

条件(2):バッファ内の VoIP パケットの宛先数が最大空間ストリーム数(AP のアン
テナ数)以上,或いは AP に接続されている VoIP 端末と等しい
条件(1)は,VoIP パケットを許容遅延時間内に送信するために用いる.許容滞在時間
DS は,VoIP パケットがバッファ内に滞在可能な時間を示している.図 14 に,VoIP パ
ケット生起時刻から許容遅延時間経過時刻までの流れを示す.DS の設定方法は,図 14
に示すように,MU-MIMO 伝送の平均送信時間𝑇tx_mean と,VoIP 端末を含む MU-MIMO
max
伝送の最大送信時間𝑇tx_vo
と,VoIP パケットの許容遅延時間 𝐷a より,以下の式で DS を
予め算出する.
max
𝐷s = 𝐷a - ( 𝑇txmean + 𝑇tx_vo
)
(4.1)
条件(2)は,MU-MIMO 伝送の受信端末を VoIP 端末のみとする確率を高くするために
用いる.VoIP 伝送では,AP は同じ宛先の次の VoIP パケットが到着する前に,先行パ
ケットを送信しなければならないため,
VoIP パケットを連結送信することができない.
従ってもし受信端末に VoIP 端末とデータ端末が同時に選択されている場合は,空きチ
ャネル時間を削減するために無線フレーム時間長を短くしなければならなくなる.もし
くは,空きチャネル時間が多く発生した状態で MU-MIMO 伝送を行わなければならな
くなる.前者の場合では,オーバーヘッドが増加し,後者の場合では,チャネル利用効
率が劣化する原因となる.従って受信端末に VoIP 端末とデータ端末が同時に選択され
ないように条件(2)を採用する.
上記の条件により VoIP 端末を優先的に受信端末として選択した後,余剰空間ストリ
ームが存在すれば,AP はデータ端末を受信端末として選択し,余剰空間ストリームに
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25
割り当てる.この際,空間ストリーム間の無線フレーム時間長を極力均一にするために,
MCS レベルの大きいデータ端末(伝送レートの高い端末)から順に選択する.以上のよう
な VoIP 優先選択を導入することによって,VoIP パケットを許容遅延時間内に送信する
ことが可能になると考えられる.
AP のアンテナ数が 2 本で,バッファ内にデータパケットと VoIP パケットが混在する
状況での提案方式の受信端末選択の一例を図 15 に示す.図 15 では,条件(1)を満たす
VoIPMT1 がまず受信端末として選択され,その後,MCS の高い DataMT3 が選択される.
図 14
バッファ内許容滞在時間 DS の設定
図 15
提案方式の受信端末選択
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26
4.2.2 通常伝送時のデータ端末選択
前述の VoIP 優先選択条件(1)と(2)を満たさない場合,全ての空間ストリームの宛先は
データ端末とする.ここでは,以下の三種類のデータ端末選択方法を提案し,比較検討
する.

選択方式①:FIFO

選択方式②:総無線フレーム時間長優先方式

選択方式③:伝送情報量優先方式
選択方式①では,FIFO に従って古い順に端末を選択する.従って全端末をある程度
平等に選択でき,さらに選択された端末は,前の送信で受信端末として選択されていな
い可能性が高いため,多くのパケットを連結可能になると思われる.しかし高効率通信
に対しては,端末毎の伝送レートを考慮していないため,不十分と思われる.
選択方式②では,端末毎の総無線フレーム時間長が長い順に端末を選択する.従って
各空間ストリーム上の無線フレーム時間長を可能な限り長くすることができ,オーバー
ヘッド割合を削減することが可能となると考えられる.選択手順は,以下の通りである.
AP はまずバッファ内にある全てのパケットを宛先毎に分類し,各端末宛ての全てのパ
ケットを連結させた場合の総無線フレーム時間長を,各端末の伝送レートを考慮して算
出する.その後,各端末宛ての総無線フレーム時間長の降順にデータ端末を受信端末と
して選択する.しかし伝送レートが低い端末を優先的に選択することになるため,大容
量通信の観点では,不十分である可能性がある.
選択方式③では,端末毎に「総情報量×伝送レート」の値の降順に選択する.従って
可能な限りパケットを連結でき,さらに伝送レートが高いデータ端末を優先的に受信端
末として選択することが可能となる.この場合の選択手順は,AP はまずバッファ内に
ある全てのパケットを宛先毎に分類し,宛先毎のバッファ内の総情報量を算出する.次
に端末毎に「総情報量×伝送レート」の値を算出し,この値の降順にデータ端末の選択
を行う.しかし選択方式②よりもオーバーヘッド割合が増加すると考えられるため,高
効率通信の観点では,不十分である可能性がある.
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4.3
無線フレーム設定
提案方式の無線フレーム設定では,MU-MIMO 伝送時の空きチャネル時間を削減する
ために,一つの空間ストリーム上の無線フレーム時間長を基準にし,他の空間ストリー
ムでは,無線フレーム時間長を合わせこむ操作を行う.これにより,各空間ストリーム
上の無線フレーム時間長を均一にする.その後,フレーム誤り率を設定値以下に抑える
ために,A-MSDU フレーム構成時のパケット連結個数に制限を設け,パケット連結を
行う.これにより,フレーム誤り率を削減する.無線フレーム設定の流れとして,第一
段階では,各空間ストリーム上の無線フレーム時間長と,それに連結されるパケット個
数を決定する.第二段階では,A-MSDU フレーム構成時のパケット連結個数を決定す
る.
4.3.1 第一段階:無線フレーム時間長とパケット連結個数の決定
第一段階の無線フレーム時間長とパケット連結個数の決定においては,VoIP 優先伝
送時と通常伝送時は基準長の決定方法が異なる.
(1) VoIP 優先時
VoIP 優先伝送時は,空間ストリーム上の VoIP 端末宛ての無線フレーム時間長のうち
最大のものを基準長 Ltgt として選択する.これは VoIP パケットは連結送信ができないた
め,VoIP 端末宛ての最長の無線フレーム時間長を基準長とすることで,空きチャネル
時間を効率的に削減することが可能となるからである.
従って AP はまず 4.2.1 節の VoIP
優先選択で算出した総無線フレーム時間長に基づき,選択された受信端末の中で VoIP
端末宛ての最大の無線フレーム時間長を基準長 Ltgt として選択する.その後,他の空間
ストリーム上の無線フレーム時間長を,パケット連結個数を調節して,基準長付近に合
わせこむ.この際,パケットを一つずつ連結させていき,無線フレーム時間長が基準長
以上となるまで繰り返す.以上より,各空間ストリーム上で受信端末宛ての無線フレー
ム時間長が決定し,同時にパケット連結個数も決定する.
提案方式の VoIP 優先伝送時の無線フレーム時間長とパケット連結個数決定の様子を
図 16 に示す.図 16 では,VoIP 端末宛てで最長の無線フレーム時間長である VoIPMT2
の無線フレーム時間長が基準長として選択される.他の受信端末宛ての無線フレーム時
間長は,基準長を超えるまでパケットを連結するため,DataMT1 宛ての総パケット連結
個数は 4,DataMT2 宛ての総パケット連結個数は 6 となる.
(2) 通常伝送時
通常伝送時は,空間ストリーム上の無線フレーム時間長の中で最小のものを基準長と
して選択する.これは,空きチャネル時間を極力削減するためである.基準長決定後の
操作は VoIP 優先伝送時と同様である.
提案方式の通常伝送時の無線フレーム時間長とパケット連結個数決定の様子を図 17
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図 16 VoIP 優先伝送時の無線フレーム設定
図 17 通常伝送時の無線フレーム設定
に示す.図 17 では,受信端末のうち最小の無線フレーム時間長である DataMT3 の無線
フレーム時間長が基準長として選択される.
以上より,各空間ストリーム上の無線フレーム時間長を極力均一にすることができ,
空きチャネル時間を削減することが可能となる.
4.3.2 第二段階:A-MSDU フレームにおけるパケット連結個数の決定
第二段階では,A-MSDU フレーム内に連結するパケット個数を決定する.この際
A-MSDU フレームの誤り率を許容値以内に収めるために,各 A-MSDU フレーム内のパ
ケット連結個数制限を行う.VoIP 優先伝送時,通常伝送時のいずれも同一の方法で決
定する.パケット連結個数の上限を算出する方法は以下の通りである.
まず予め設定された A-MSDU フレームの許容フレーム誤り率を満たす最大 A-MSDU
フレーム長(ビット数)を算出する.伝送チャネルのビット誤り率 𝑝𝐵𝐸𝑅 ,A-MSDU フ
レーム長 𝐿MSDU の場合,フレーム誤り率 𝑝FER は一般に式(4.2)で与えられる.
𝑝FER = 1 - ( 1 − 𝑝BER )𝐿MSDU
(4.2)
req
従って式(4.2)より,A-MSDU フレームの許容フレーム誤り率𝑝FER を満たす最大 A-MSDU
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29
フレーム長𝐿max
MSDU は式(4.3)で求められる.
req
𝐿max
MSDU = log (1 − 𝑝BER ) (1 − 𝑝FER )
(4.3)
req
予め設定される許容値𝑝FER については,特性評価の中で最適値を議論する.
次に最大 A-MSDU フレーム長𝐿max
MSDU 内において,連結可能な最大パケット個数を決
定する.MSDU フレーム内のパケット連結個数 𝑏MSDU の場合,A-MSDU フレーム長
𝐿MSDU は式(4.4)で算出できる.
𝐿MSDU = 𝐿MH + (𝐿DATA × 𝑏MSDU )
(4.4)
ここで 𝐿MH [bits]は MAC ヘッダのビット数,𝐿DATA [bits]は各通信サービスのパケット
サイズを示す.従って最大 MSDU フレームサイズ𝐿max
MSDU 内において,連結可能な最大
max
パケット個数𝑏MSDU
は式(4.5)で求められる.
max
𝑏MSDU
=
𝐿MSDU − 𝐿MH
𝐿DATA
(4.5)
最後に,決定したパケット連結個数単位で A-MSDU フレームを順次構成していく.
但し,最後尾の A-MSDU フレームは最大連結個数にならず,一般に少なくなる.最後
にこれらの A-MSDU を連結した A-MPDU フレームを構成する.この操作を全ての受信
端末宛ての無線フレームで実施する.
図 18 に受信端末にデータ端末のみ選択されている時の提案方式のパケット連結個数
制限による無線フレーム設定の一例を示す.図 18 では,A-MSDU フレームを構成する
際の許容フレーム誤り率を満たす最大パケット連結個数が 4 個であるため,最後尾の
A-MSDU 以外は全て 4 個のパケットが連結される.最後に,全ての A-MSDU を連結さ
せ,A-MPDU フレームを構成する.
以上より,A-MSDU 内のパケット連結個数を制限することにより,フレーム誤りに
よる配信成功率の劣化を防止することが可能となる.
三重大学 大学院工学研究科
30
図 18 パケット連結個数制限
三重大学 大学院工学研究科
31
第5章
特性評価モデル
5 章では,提案方式であるフレーム誤りを考慮した VoIP 優先高効率パケットアグリ
ゲーション方式の特性を評価するために行った計算機シミュレーションの特性評価モ
デルを述べる.評価環境は,無線 LAN における下りリンクで,データ/音声通信サービ
スが混在し,AP が MU-MIMO 伝送を使用する環境とする.5.1 節では評価システムの
トポロジーモデル,5.2 節では無線空間での伝搬モデル,5.3 節ではマルチレート伝送,
5.4 節では MU-MIMO 伝送時の送信時間,
5.5 節ではトラヒックモデルについて述べる.
5.1
トポロジーモデル
トポロジーモデルは,図 19 に示すような一つの AP を中心としたスター型トポロジ
ーを用いる.受信端末台数は,データ端末台数が NDA 台で固定,VoIP 端末台数が NVO
台でネットワークトラヒックによって変化する.各端末は AP から半径 r[m]以内に一様
に分布する.
図 19
トポロジーモデル
三重大学 大学院工学研究科
32
5.2
伝搬モデル
伝搬経路は,距離減衰係数 α の伝搬損失を受ける.伝搬損失 𝐿𝑑 は以下の式(5.1)に
従い算出する.
𝐿𝑑 = (4𝜋𝑑𝑓 / 𝑐)𝛼
(5.1)
ここで 𝑑[m]は AP と受信端末間の距離,𝑓 [Hz]は使用搬送波周波数,𝑐 [m/s]は光速を表
す.従って受信端末での平均受信電力𝑃𝑟ave は伝搬損失を受け,式(5.2)で表される.
𝑃𝑟ave = 𝑃𝑡 / 𝐿𝑑
(5.2)
ここで𝑃𝑡 [dBm]は AP の送信電力を表す.瞬時受信電力𝑃𝑟ins は,フェージングの影響を受
けるため,平均値が𝑃𝑟ave の指数分布に従って変化する.
送信する無線フレームは雑音の影響を受け,伝送誤りが生じる.伝送誤り率は全ての
伝搬経路で等しく,
そのビット誤り率を𝑝BER とすると,
A-MSDU フレームの誤り率 𝑃FER
は 4.3.2 節の式(4.2)に従う.
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33
マルチレート伝送
5.3
各端末の MCS レベル(伝送レート)は瞬時受信電力𝑃𝑟ins に依存する.AP は受信端末
の瞬時電力が表 1(文献[6]参照)に示されている最小受信電力を満たす最大の MCS レ
ベルを使用して信号伝送を実施する.また表 1 の伝送レートは、帯域幅は 80[MHz],ガ
ードインターバルは 800[ns]を使用した際の 1 空間ストリームでの理論値を示している.
マルチレート伝送は,データパケット送信時にのみ使用され,制御フレーム送信は,
最小レートである MCS レベル 0 で実施する.
表 1 各 MCS レベルでの伝送レート
MCS
最小受信電力
伝送レート
レベル
[dBm]
[Mbps]
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
-76
-73
-71
-68
-64
-60
-59
-58
-53
-51
29.25
58.5
87.75
117.0
175.5
234.0
263.25
292.5
351.0
390.0
変調方式
符号化率
1OFDMシンボルあたり
のビット数(LDBPS)
BPSK
QPSK
QPSK
16-QAM
16-QAM
64-QAM
64-QAM
64-QAM
256-QAM
256-QAM
1/2
1/2
3/4
1/2
3/4
2/3
3/4
5/6
3/4
5/6
三重大学 大学院工学研究科
117
234
351
468
702
936
1053
1170
1404
1560
34
5.4
MU-MIMO 伝送時の送信時間
図 20 に MU-MIMO 伝送の送信時間の詳細を示す.一回の MU-MIMO 伝送に要する合
計送信時間 𝑇all [µs]は以下の式で表される.
𝑇all = 𝑇DIFS + 𝑇BO + 𝑇RTS∗ + {m×(𝑇SIFS +𝑇CTS∗)}+ 𝑇send+ {m×(𝑇SIFS +𝑇BA )} (5.3)
ここで𝑇BO [µs]は平均バックオフ時間,𝑇DIFS [µs]はアイドル状態に移行したと判断する
までの時間,
𝑇RTS∗ [µs]は RTS 信号の送信時間,m は使用する空間ストリーム数,𝑇SIFS [µs]
は最小フレーム間隔,𝑇CTS∗[µs]は CTS 信号の送信時間,𝑇send [µs]は A-MPDU フレーム
の送信時間,𝑇𝐵𝐴 [µs]はブロックアックの送信時間を示す.また𝑇RTS∗ ,𝑇CTS∗ ,𝑇send ,𝑇BA
は以下の式に従う.
𝑇RTS∗ = 𝑇PB (𝑚) + ⌈(𝐿SF + 𝐿RTS∗ + 𝐿TB )/𝐿DBPS ⌉ × 𝑇𝑠
𝑇CTS∗ = 𝑇𝑃𝐵 (1) + ⌈(𝐿SF + 𝐿CTS∗ + 𝐿TB )/𝐿DBPS ⌉ × 𝑇𝑠
𝑇send =𝑇PB (𝑚) + ⌈𝐿SF + { 𝑏MPDU × (𝐿MH + ( 𝑏MSDU × 𝐿DATA ) + 𝐿MD } + 𝐿TB }/
𝐿DBPS ⌉ × 𝑇𝑠
𝑇BA = 𝑇PB (1) + ⌈(𝐿SF + 𝐿BA + 𝐿TB )/𝐿DBPS ⌉ × 𝑇𝑠
(5.4)
(5.5)
(5.6)
(5.7)
ここで𝑇𝑠 [µs]は一つの OFDM シンボルあたりの送信時間,𝐿DBPS [bits]は一つの OFDM シ
ンボルあたりのビット数,𝑇PB (𝑚)[µs]は物理層のプリアンブルとヘッダの送信時間,
𝐿SF [bits]はサービスフィールドのビット数,𝐿RTS∗ [bits]は RTS のビット数,𝐿TB [bits]
はテールビットのビット数,𝐿CTS∗[bits]は CTS と CSI のビット数, 𝑏MPDU は A-MPDU
フレーム内の A-MSDU フレームの連結個数,𝐿MH [bits]は MAC ヘッダのビット数,
𝑏MSDU は A-MSDU フレーム内のパケット連結個数,𝐿MD [bits]は MPDU デリミタのビ
ット数, 𝐿BA [bits]はブロックアックのビット数を表す.送信時間に用いるパラメータを
表 2 に示す.
図 20 MU-MIMO 伝送の送信時間
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35
表2
送信時間に用いるパラメータ
Symbol
Value
Unit
バックオフ時間
TBO
139.5
[µs]
RTS のビット数
𝐿RTS∗
160+{46×(m-1)}
[bits]
CTS のビット数
𝐿CTS∗
112+(1872×m)
[bits]
ブロックアックビット数
𝐿BA
256
[bits]
物理層のプリアンブル,ヘッダ時間
𝑇PB (𝑀)
36+(4×m)
[µs]
1 OFDM シンボルあたりのビット数
𝐿DBPS
117~1560
[bits]
1 OFDM シンボルあたりの送信時間
𝑇𝑠
4
[µs]
サービスフィールドのビット数
𝐿SF
16
[bits]
テールビットのビット数
𝐿TB
6
[bits]
マックデリミタ
𝐿MD
32
[bits]
マックヘッダ
𝐿MH
288
[bits]
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36
5.5
トラヒックモデル
全てのパケットは AP で生起する.パケット生起後は,AP 内の共通バッファに格納
される.バッファオーバーフローが生じた際は,バッファ内の最も古いパケットが破棄
される.トラヒック生起モデルは,通信サービスで異なる.
データトラヒックでは,パケットの生起間隔が平均 γ[µs]の指数分布に従う.生起間
隔 γ は可変であり,
トラヒック負荷の大小に応じて変化する.データ端末台数は NDA[台]
で固定とする.生起した各データパケットの宛先端末は,生起時に全てのデータ端末か
らランダムに決定される.またデータパケットサイズは𝐿DA [bits]で一定であり,伝送
誤りが生じた際は最大𝑅TX 回まで再送を行う.
VoIP トラヒックでは,パケットは固定の一定間隔𝑇VO [ms]で生起し,トラヒック負
荷の変化に対応して VoIP 端末台数 NDA[台]が変化する.パケット生起は VoIP 端末毎に
生起し,初期生起時間は 0[ms]~𝑇VO [ms]内の一様分布で与える.また VoIP パケットサ
イズは𝐿VO [bits]で一定とし,伝送誤りが生じた際は再送を行わずパケットを破棄され
る.VoIP パケットが廃棄される要因は三種類存在し,バッファオーバーフロー,送信
失敗,及びバッファ内の VoIP パケットが許容遅延時間を超過した場合である.
以上より,
データ/VoIP トラヒックの合計トラヒック負荷 G [Mbps]は以下の式に従う.
𝐺 = (𝐿DA /γ) + (𝐿VO ×𝑁VO /𝑇VO )
(5.8)
ここでデータパケット生起間隔 γ は,VoIP 端末が増加するにつれて減少させ,データト
ラヒック量と VoIP トラヒック量が 100:1 となるように γ を調節する.
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37
第6章
計算機シミュレーションによる特性評価
6 章では,5 章で述べた特性評価モデルに従い,評価条件と計算機シミュレーション
の評価結果を示す.6.1 節では計算機シミュレーションの評価環境,6.2 節では伝送誤り
のない伝送チャネルにおける評価結果,6.3 節では伝送誤りのある伝送チャネルにおけ
る特性評価を示す.
6.1
評価条件
本研究における評価条件として,6.1.1 節でシミュレーション条件,6.1.2 節で評価項
目,6.1.3 節で特性評価における比較対象システムを記述する.
6.1.1 シミュレーション条件
計算機シミュレーションで用いた主要パラメータを表 3 に示す.
表 3 シミュレーション諸元
AP のアンテナ数
セル半径
データ端末数
VoIP 端末数
ビット誤り率
送信電力
使用周波数帯
最大 A-MSDU サイズ
最大 A-MPDU サイズ
データ最大再送回数
距離減衰係数
バッファサイズ
データパケットサイズ
VoIP パケットサイズ
VoIP バッファ内許容滞在時間
VoIP 許容遅延時間
VoIP 生起間隔
M 4
r 20
𝑁DA
𝑁VO
𝑝BER
𝑃𝑡
f
10
2~20
1×10-5
-1
5
11454
1
𝑅𝑇𝑋 3
α 2
500
𝐿DA 4800
𝐿VO 1600
Ds 5
Da 20
𝑇VO 20
[m]
[dBm]
[GHz]
[bytes]
[Mbytes]
[kbytes]
[bits]
[bits]
[ms]
[ms]
[ms]
6.1.2 評価項目
提案パケットアグリゲーション方式のシステム特性を評価する指標として,システム
スループット特性,5%スループット特性,空きチャネル比率,パケット配信成功率,
VoIP パケット廃棄率の各特性を用いた.各評価指標の定義を以下に示す.

システムスループット𝑆SYS
AP から端末への送信が成功した際の,1 秒あたりの受信完了情報量[bps]を示し,
三重大学 大学院工学研究科
38
以下の式で算出する.
𝑆SYS =
PKT_VO
PKT_DA
(𝐿VO ×𝑁COMP
)+(𝐿DA ×𝑁COMP
)
𝑇SIM
[bps]
(6.1)
COMP
COMP
𝑁PKT_VO
は VoIP パケットの受信成功数,𝑁PKT_DA
はデータパケットの受信成功数,
𝑇𝑆𝐼𝑀 [s]はシミュレーション時間をそれぞれ表す.システムスループット特性は,当
該ネットワークで収容可能なトラヒック量を意味する.

5%ユーザスループット𝑆5%
データ端末のみを対象とし,端末毎に求めたスループットであるユーザスループッ
トの累積分布関数における下位 5%値を示す.5%ユーザスループット特性は,AP
から遠方に位置するユーザのスループット特性を示しており,端末間のユーザスル
ープットの差異を表す尺度として利用できる.

空きチャネル比率𝑅SP
1 回の MU-MIMO 伝送に対する平均空きチャネル時間の比率で,以下の式の式で算
出する.
1
𝑅SP = 𝑇 MAX
FRAME ×m
MAX
∑𝑚
𝑖=0{(𝑇FRAME × 𝑚) − 𝑇FRAME (𝑖)}
(6.2)
MAX
𝑇FRAME
[s]は各受信端末宛ての空間ストリームで最大の無線フレーム時間長,
𝑇FRAME (𝑖)[s]は i 番目の無線フレーム時間長,m は空間ストリーム数をそれぞれ表
す.空きチャネル比率より,一度の MU-MIMO 伝送での時間利用効率を調査する.

パケット配信成功率𝑝𝑆𝑈𝐶
生起パケットあたりの受信完了割合で以下の式で算出する.
𝑝suc =
PKT_VO
PKT_DA
𝑁COMP
+ 𝑁COMP
PKT_VO
PKT_DA
𝑁GEN
+ 𝑁GEN
(6.3)
PKT_VO
PKT_DA
𝑁GEN
は生起した VoIP パケット個数,𝑁GEN
は生起したデータパケット個数を
それぞれ表す.パケット配信成功率より,生起したパケットの中でどのくらいパケ
ットを送信完了できたかを調査する.

VoIP パケット廃棄率𝑝DROP
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39
廃棄された VoIP パケットの割合で以下の式で算出する.
𝑝DROP =
PKT_VO
𝑁DROP
PKT_VO
𝑁GEN
(6.4)
PKT_VO
𝑁DROP
は廃棄された VoIP パケット個数を表す.VoIP パケット廃棄率により,ど
れくらいの VoIP パケットが廃棄されているか調査する.
6.1.3 比較対象システム
比較対象システムとして,計算機シミュレーションでは提案方式と 3.2 節で述べた従
来方式を比較する.提案方式においては,4.2.2 節で述べた以下の三つの受信端末選択
方法を比較検討する.

提案方式①:FIFO

提案方式②:総無線フレーム時間長優先方式

提案方式③:伝送情報量優先方式
三重大学 大学院工学研究科
40
6.2
伝送誤りのない伝送チャネルにおける特性評価
マルチレート伝送環境下において,提案パケットアグリゲーション方式における無線
フレーム時間長均一化と VoIP 優先選択の効果を確認するために,伝送誤りのない伝送
チャネルで特性評価を行う.6.2.1 節では,無線 LAN にデータ端末のみ接続されている
環境において計算機シミュレーションを行い,無線フレーム時間長均一化の効果を評価
する.6.2.2 節では,データ/音声端末が接続されている環境においてシミュレーション
を行い,VoIP 優先選択の効果を評価する.
6.2.1 無線フレーム時間長均一化の有効性評価
図 21~図 25 にビット誤り率𝑝BER =0,VoIP 端末なし,データ端末数𝑁DA =10 の時の
空きチャネル比率,平均無線フレーム時間長,システムスループット特性,パケット配
信成功率,5%ユーザスループット特性を示す.
図 21 の空きチャネル比率より,提案方式はいずれも従来方式より空きチャネル比率
を削減できていることが分かる.これは提案方式のマルチレート伝送対応無線フレーム
設定により,空間ストリーム間で無線フレーム時間長を極力均一にできていることに起
因する.これにより,提案方式の無線フレーム時間長均一化の有効性が確認できる.ま
た提案方式で空きチャネル比率が異なる原因は,図 22 の平均無線フレーム時間長から
分かるように,無線フレーム時間長が異なるからである.無線フレーム時間長が長くな
ると,無線フレーム時間長を基準長付近に合わせこみやすくなるため,空きチャネル比
率の削減が可能となる.従って,総無線フレーム時間長の降順に受信端末選択する提案
方式②が最も空きチャネル比率が低く,伝送レートも考慮して端末を選択する提案方式
③が最も空きチャネル比率が高くなっている.
図 23 のシステムスループット特性より,提案方式はいずれも従来方式よりシステム
スループット特性が向上していることが分かる.これは図 21 の空きチャネル比率より,
提案方式の空きチャネル比率が減少していることに起因する.また提案方式③が最も高
いシステムスループットを獲得していることが分かる.この改善は伝送情報量基準で受
信端末選択を行っているため,多くのパケットを連結すること可能であることと,高い
伝送レートで送信可能な端末を優先して受信端末として選択していることに起因する.
一方,提案方式①では FIFO に従う受信端末選択を行っているため,伝送レートが高く,
またバッファ内のパケット個数が多い端末を受信端末選択として選択することができ
ないため,提案方式③よりも劣化している.最後に提案方式②では,総無線フレーム時
間長の降順に受信端末選択を行っているため,可能な限り無線フレーム時間長を長くで
き,オーバーヘッド割合を削減可能であるが,低レートの端末を優先して受信端末とし
て選択する状況となるため,結果として無線フレームの単位時間当たりの伝送情報量が
低下し,提案方式①,③よりも特性が劣化したと考えられる.
図 24 のパケット配信成功率より,提案方式はいずれも従来方式よりパケット配信成
三重大学 大学院工学研究科
41
功率の特性が向上していることが分かる.これは図 20 のシステムスループット特性改
善に起因している.
図 25 の 5%ユーザスループット特性より,提案方式①,③は従来方式よりも 5%ユー
ザスループット特性が向上している.また提案方式③が最も良い特性を示していること
が分かる.一方提案方式②では,従来方式よりもシステムスループット特性が向上して
いるにも関わらず,特性が劣化している.これは提案方式②では,低レートの端末を受
信端末として選択する傾向が強く,受信端末に選択される確率が少ない端末が存在して
いることに起因する.また提案方式①と③を比較すると,中負荷領域では提案方式③の
特性が,高負荷領域では提案方式①の特性が良くなる.提案方式③が高負荷領域で特性
が劣化する原因は,バッファオーバーフローの発生頻度が増加するため,各端末宛ての
バッファ内パケット数は常に等しくなり,実質伝送レートの高い順に受信端末選択を行
う状況となっているからである.
以上より,マルチレート伝送環境下において,提案方式の無線フレーム時間長均一化
が有効に動作していることが確認できる.さらに提案方式の受信端末選択におけるデー
タ端末選択方法は,提案方式③の伝送情報量優先方式が最も良い特性を示すことが分か
る.
図 21
空きチャネル比率(𝑝BER =0,𝑁VO =0,𝑁DA =10)
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42
図 22
図 23
平均無線フレーム時間長(𝑝BER =0,𝑁VO =0,𝑁DA =10)
システムスループット特性(𝑝BER =0,𝑁VO =0,𝑁DA =10)
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43
図 24
図 25
パケット配信成功率(𝑝BER =0,𝑁VO =0,𝑁DA =10)
5%ユーザスループット特性(𝑝BER =0,𝑁VO =0,𝑁DA =10)
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44
6.2.2
VoIP 優先選択の有効性評価
次に図 26~図 30 にビット誤り率𝑝BER =0,VoIP 端末数𝑁VO =2~20,データ端末数𝑁DA
=10 の時の VoIP パケット廃棄率,空きチャネル比率,システムスループット,パケッ
ト配信成功率,5%ユーザスループットを示す.
図 26 の VoIP パケット廃棄率より,全ての提案方式において,従来方式よりも VoIP
パケットの廃棄率を抑制できていることが分かる.これは提案方式の VoIP 優先選択に
より,VoIP パケットを許容遅延時間内に送信できていることに起因する.従って,提
案方式の VoIP 優先選択の有効性が確認できる.また提案方式③が最も低い VoIP 廃棄率
となる原因は,伝送情報量基準でデータ端末選択を行っているため,単位時間当たりの
伝送情報量が増加し,VoIP パケットがバッファオーバーフローで破棄される確率を抑
制できていることに起因する.
図 28 のシステムスループット特性より,提案方式③のみ従来方式よりも高いシステ
ムスループット特性を示しており,他の提案方式①,②では従来方式よりも特性が劣化
していることが分かる.また全ての提案方式では,高負荷領域になるにつれて特性が劣
化していることが分かる.これは,全ての提案方式で VoIP 優先選択を行っているため,
高負荷領域では,VoIP 優先選択が頻繁に行われ,VoIP 端末が含む伝送の割合が増加し,
パケット連結個数が減少するからである.一方,従来方式では VoIP 優先選択を行わず,
FIFO による受信端末選択を行っているため,高負荷領域でも VoIP パケットを送信せず
データパケットのみ送信でき,特性が劣化しない.
図 29 のパケット配信成功率より,提案方式③のみ従来方式よりもパケット配信成功
率が向上していることが分かる.これは図 28 のシステムスループット特性改善に起因
している.
図 30 の 5%ユーザスループット特性より,
中負荷領域以降において,各提案方式の 5%
ユーザスループット特性が劣化している.これは,各提案方式ではデータ端末選択時に
全ての端末を平等に選択せずに,優先する端末を決めていることに起因する.
以上より,マルチレート伝送環境下において,提案方式の VoIP 優先選択が有効に動
作していることが確認できる.しかし,VoIP 台数が多くなると,過剰な VoIP 優先選択
により,システムスループットが劣化してしまうことに注意する必要がある.
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45
図 26 VoIP 廃棄率(𝑝BER =0,𝑁VO =2~20,𝑁DA =10)
図 27
空きチャネル比率(𝑝BER =0,𝑁VO =2~20,𝑁DA =10)
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46
図 28 システムスループット特性(𝑝BER =0,𝑁VO =2~20,𝑁DA =10)
図 29
パケット配信成功率(𝑝BER =0,𝑁VO =2~20,𝑁DA =10)
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47
図 30
5%スループット特性(𝑝BER =0,𝑁VO =2~20,𝑁DA =10)
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48
6.3
伝送誤りのある伝送チャネルにおける特性評価
提案パケットアグリゲーション方式における総合的な性能を評価するために,伝送誤
りが発生する環境でシミュレーション評価を行った.また提案方式の受信端末選択時の
データ端末選択方法は 6.2.2 節の評価において提案方式③が最も良い特性を示したため,
本節の特性評価では提案方式③の方式のみを評価対象とする.6.3.1 節では許容フレー
ム誤り率設定,6.3.2 節では伝送特性評価結果について記述する.
6.3.1 許容フレーム誤り率設定
まず提案方式には A-MSDU フレームに連結するパケットの最大個数を決定するため
req
opt
に,許容フレーム誤り率𝑝FER を設定する必要がある.その最適値𝑝FER は伝送チャネルの
req
ビット誤り率に依存すると考えられるので,許容値𝑝FER を 0.1~0.4 まで変化させ,最適
opt
値𝑝FER を調査する.図 31 にビット誤り率𝑝BER =1×10-5,VoIP 端末数𝑁VO =2~20,デー
タ端末数𝑁DA =10 の時のシステムスループット特性を示す.図 29 のシステムスループ
ット特性より,許容フレーム誤り率 0.2 の時が最大システムスループットを獲得してい
𝑜𝑝𝑡
るため,以降の特性評価では許容フレーム誤り率𝑝FER =0.2 を使用する.
図 31 許容フレーム誤り率調査(𝑝BER =1×10-5,𝑁VO =2~20,𝑁DA =10)
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49
6.3.2 伝送特性評価
図 32~図 37 にビット誤り率𝑝BER =1×10-5,VoIP 台数𝑁VO =2~20,データ台数𝑁DA =
10 の時のパケットアグリゲーション数,空きチャネル比率,システムスループット,
パケット配信成功率,5%ユーザスループット,VoIP 廃棄率を示す.また提案方式にお
いて許容フレーム誤り率設定によるパケット連結個数制限を行わない場合も比較対象
とする.
図 32 のパケットアグリゲーション数より,提案方式は従来方式よりもパケットアグ
リゲーション数が減少していることが分かる.これは提案方式では VoIP 優先選択を行
っていることに起因する.また提案方式でパケット連結個数制限を行うとパケットアグ
リゲーション数が減少していることが分かる.これは連結個数制限により,フレーム誤
り率を削減し,再送パケットが少なくなるため,バッファ内に格納されているパケット
数が減少していることに起因する.
図 33 の空きチャネル比率より,提案方式は従来方式よりも空きチャネル比率を削減
できていることが分かる.これは提案方式の無線フレーム時間長均一化により,各空間
ストリーム上の無線フレーム時間長を均一にできていることに起因する.また提案方式
でパケット連結個数制限を行うと空きチャネル比率が若干増加していることが分かる.
これは空きチャネル時間の絶対量はほとんど変化しないが,連結個数制限を実施すると
パケットアグリゲーション数が減少し(図 32 参照)、無線フレーム時間長が縮小するこ
とに起因する.
図 34 のシステムスループット特性より,提案方式は従来方式よりも大幅にシステム
スループット特性を改善できていることが分かる.これは提案方式では,空きチャネル
比率を削減していることと,受信端末にデータ端末を選択する際に伝送情報量優先方式
を行っていることに起因する.さらに提案方式でパケット連結個数制限を行う場合は,
フレーム誤り率も削減可能となるため,パケット連結個数制限を行わない場合と比べて
スループットがさらに増加している.
図 35 のパケット配信成功率より,提案方式は従来方式よりもパケット配信成功率の
劣化を防いでいることが分かる.これは提案方式では,パケット連結個数を削減する無
線フレーム時間長均一化と,受信端末選択時に伝送情報量優先方式を行っていることに
起因する.また提案方式でパケット連結個数制限を行うとパケット配信成功率が増加し
ていることが分かる.これは提案方式でデータ端末宛ての A-MSDU フレーム内のパケ
ット連結個数制限が有効的に動作し,フレーム誤り率を許容値以内に抑えていることに
起因する.
図 36 の 5%ユーザスループットより,提案方式は従来方式よりも 5%ユーザスループ
ット特性が向上していることが分かる.また提案方式で連結個数制限を行うと特性が大
幅に向上していることが分かる.これらの結果は,システムスループット特性に依存し
ている.
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50
図 37 の VoIP パケット廃棄率より,提案方式は従来方式よりも VoIP パケット廃棄率
の劣化を防いでいることが分かる.これは提案方式の VoIP 優先選択が有効的に動作し,
許容遅延時間を超過する可能性のある VoIP パケットの宛先端末を優先的に受信端末と
して選択でき,VoIP パケットを許容遅延時間内に送信できていることに起因する.ま
た提案方式でパケット連結個数制限を行っても,VoIP パケット廃棄率は全く変化しな
いことが分かる.これはパケット連結個数制限はパケット連結が可能なデータ端末宛て
のパケットに対してのみ動作するため,パケット連結ができない VoIP パケットには動
作しないからである.
以上より, VoIP/データ端末統合環境で伝送誤りのあるチャネルにおいても,提案方
式の有効性を確認することができた.
図 32
パケットアグリゲーション数(𝑝BER =1×10-5,𝑁VO =2~20,𝑁DA =10)
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図 33
図 34
空きチャネル比率(𝑝BER =1×10-5,𝑁VO =2~20,𝑁DA =10)
システムスループット特性(𝑝BER =1×10-5,𝑁VO =2~20,𝑁DA =10)
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図 35 パケット配信成功率(𝑝BER =1×10-5,𝑁VO =2~20,𝑁DA =10)
図 36
5%スループット特性(𝑝BER =1×10-5,𝑁VO =2~20,𝑁DA =10)
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53
図 37 VoIP 廃棄割合(𝑝BER =1×10-5,𝑁VO =2~20,𝑁DA =10)
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54
第7章
まとめ
本研究では,データ/音声通信サービスが混在する環境で,マルチレート伝送を使用
する無線 LAN システムにおける下り MU-MIMO 伝送時のパケットアグリゲーションに
着目した.
従来のパケットアグリゲーション方式では,FIFO に従う受信端末選択と,A-MPDU
方式を使用して無線フレームデータ量を均一にする無線フレーム設定を行っているため,
マルチレート伝送下では,空間ストリーム間の無線フレーム時間長が不均一となり空きチャ
ネル時間が発生してしまう問題と,制御オーバーヘッド削減に限界がある問題が存在して
いる.さらに音声通信サービス(VoIP)が混在する環境では,VoIP パケットの許容遅延時間
を超過する可能性も問題となっている.
これらの問 題 に対 して,空 きチャネル時 間 の削 減 によるチャネル利用効率向上と,
A-MSDU 方式と A-MPDU 方式の併用を前提とした A-MSDU フレーム構成時のフレーム
誤り対策と,VoIP パケットの QoS 保証を目的とし,フレーム誤りを考慮した VoIP 優先
高効率パケットアグリゲーション方式を提案した.提案方式の受信端末選択では,許容
遅延時間を超える可能性のある VoIP パケットの宛先端末を優先的に受信端末として選
択する VoIP 優先選択を導入することで,VoIP パケットの遅延時間を保証する.またデ
ータパケットに対しては,単位時間あたりの伝送情報量が高い端末を優先的に受信端末
として選択することで,システムスループットを向上させる.一方無線フレーム設定で
は,マルチレート伝送を考慮して無線フレーム時間長を均一にすることで,空きチャネ
ル時間の発生を極力防ぐ.また A-MSDU フレームへのパケット連結個数を適切に制限
することで,フレーム誤り率を許容値以内に収める.
計算機シミュレーションによる伝送特性評価により,提案方式はシステムスループッ
ト増大,MU-MIMO 伝送中の空きチャネル比率削減,VoIP パケット廃棄率削減,パケ
ット配信成功率向上を実現可能であることを示した.結論として,提案方式は無線 LAN
下りリンクでマルチレート伝送を行い,かつ VoIP 端末が混在する環境下において,有
効であると言える.
本論文では提案方式において,無線 LAN において増大するデータ量とリアルタイム
伝送に対して QoS 保証を行いつつ,大容量・高効率伝送が可能であるという結果を示
した.今後の無線 LAN では,ビデオ会議等のリアルタイムアプリケーションが今以上
に進展し,尚且つ,端末台数増加により通信データ量もさらに増大すると予想される.
従って本研究で得られた成果は今後の無線 LAN 使用環境においても,通信サービスの
品質保証と大容量通信に提供に寄与できると考えられる.
今後の課題として,過剰な VoIP 優先選択の抑制が挙げられる.特性評価から明らか
になったように,VoIP 台数が過剰になるとシステムスループットが徐々に劣化してい
く.従って,ある一定台数まで VoIP 優先選択を行い,一定台数を超えると全ての VoIP
端末ではなく一部の VoIP 端末のみ優先制御を行うといった処理を考える必要がある.
三重大学 大学院工学研究科
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参考文献
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三重大学 大学院工学研究科
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謝辞
本研究を遂行するに当たり,多忙な時間を割いてご指導を賜った森香津夫教授,小林
英雄教授,内藤克浩助教,山本好弘技術員に深く感謝し御礼申し上げます.また,様々
な助言を下さいました通信工学研究室および計算機研究室の皆様に深く感謝いたしま
す.
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研究業績

野村 佳秀, 森 香津夫, 内藤 克浩, 小林 英雄, “無線 LAN システムの MU-MIMO 伝
送における VoIP 伝送を考慮した高効率パケットアグリゲーション方式,” 2013 年電
気関係学会東海支部連合大会講演論文集, F4-7, 2013 年 9 月.

野村 佳秀, 森 香津夫, 内藤 克浩, 小林 英雄, “無線 LAN システムの MU-MIMO 伝
送におけるマルチレート伝送と QoS 保証を考慮した高効率パケットアグリゲーシ
ョン方式,” 2014 年電子情報通信学会ソサイエティ大会講演論文集, B-5-98, 2014 年 9
月.

Yoshihide Nomura, Kazuo Mori, Katsuhiro Naito, and Hideo Kobayashi, “Packet
Aggregation Scheme for VoIP Packet Transmissions in MU-MIMO WLANs,” Proc. of
International Symposium for Sustainability by Engineering at Mie University
(IS2EMU2014-C), Sep. 2014.

Yoshihide Nomura, Kazuo Mori, Katsuhiro Naito, and Hideo Kobayashi, “High Efficient
Packet Aggregation Scheme for Multi-Rate and VoIP Packet Transmissions in Next
Generation MU-MIMO WLANs,” Proc. of the 2014 International Conference on Advanced
Technologies for Communications(ATC’14), N3.6, pp.517-521, Oct. 2014.

野村 佳秀, 森 香津夫 , 内藤 克浩, 小林 英雄, “無線 LAN システムの下り
MU-MIMO 伝送におけるマルチレート伝送を考慮した高効率パケットアグリゲー
ション方式,” 2014 年電子情報通信学会技術研究報告, Vol.114, No.372, RCS2014-265,
pp.265-270, 2014 年 12 月.

野村 佳秀, 森 香津夫, 内藤 克浩, 小林 英雄, “無線 LAN システムの MU-MIMO 伝
送におけるフレーム誤りを考慮した VoIP 優先高効率パケットアグリゲーション方
式,” 2015 年電子情報通信学会総合大会講演論文集, B-5-148, pp.*******, 2015 年 3
月.
三重大学 大学院工学研究科
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