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2009年度共同研究等助成事業報告集

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2009年度共同研究等助成事業報告集
-1-
―日中医学協会助成事業―
ヒト感染性マラリア原虫中国流行地株の分子疫学
研 究 者 氏 名
金子修
日本研究機関
長崎大学熱帯医学研究所原虫学分野
中国共同研究者
曹雅明、王各各、朱晓彤
中国研究機関
中国医科大学基礎医学院抗感染免疫研究室
要旨:
中国南 部で は依然 とし て三日 熱マ ラリア が流 行し問 題と なって いる 。三日 熱マ ラリア 原虫 はヒト 体内
で は赤血 球内 で増殖 する が、ロ ゼッ ト形成 や細 胞接着 現象 を起こ し、 病原性 との 関連が 予想 される が詳
細 はあき らか でない 。そ こで、 三日 熱マラ リア 原虫感 染赤 血球表 面に 発現し てい ると考 えら れ、ヒ ト免
疫と思われる選択圧がか かっている多型抗原 PvSTP1 について、2004 年と 2008 年に収集した原虫を用
いて、①2004 年に見られたアミ ノ酸アレルが 2008 年にも存在するか、 ②アレルの頻度分布は4年間で
一定か、③特定の型の PvSTP1 が三日熱マラ リア原虫の病原性と関連するかに ついて解析した。2004 年
の 21 配 列、2008 年の 13 配列を用いて解析を行ったと ころ、2004 年に見られ 2008 年では有意に減少し
て 見られ なく なった アミ ノ酸ア レルが 21 ある 一方、2004 年に見られず 2008 年にみられるようになった
アミノ酸アレルが 4 つあった。さらに、2004 年と 2008 年の間に CRD ではアレル頻度が VAR と比較して
変 化が少 ない ことが 分か ったた め、 ① CRD が平 衡淘汰 にさ らされ てい る可能 性、 ②宿主 免疫 を逃れ るた
めに VAR の多 型性を 用い て抗原 変異 を起こ して いる可 能性 、の二 点の 可能性 を考 えた。 これ を明ら かに
す るため に中 立遺伝 子の アレル 頻度 の変化 の解 析を行 うこ とが必 要と 考えら れる 。また 、特 定の PvSTP1
ア レルと 病原 性との 関連 は見ら れな かった が、 さらに 多く の塩基 配列 を加え て解 析を行 う必 要があ る。
Key Words
緒
三日熱マラリア、抗 原、多型性、
言:
中国の 南部 では依 然と して三 日熱 マラリ アが 流行し 、他 の感染 症と の合併 によ る間接 的な 死亡や 体力
低 下に伴 った 生産性 の低 下によ る経 済的損 失が 問題と なっ ている 。三 日熱マ ラリ ア原虫 はヒ ト体内 では
赤 血球内 で増 殖する が、 感染赤 血球 が非感 染赤 血球に 接着 するロ ゼッ ト形成 と呼 ばれる 現象 を起こ し、
病 原性と の関 連が予 想さ れてい るが 、詳細 はあ きらか でな い。我 々は 最近、 熱帯 熱マラ リア 原虫の 感染
赤血球表面に発現する SURFIN と言う 分子を同定したが、その三日熱マ ラリア原虫の相同体である
PvSTP1 は三日熱マラリア原虫感染赤血球表 面に発現していると考えられる [1]。このような分子は、マ
ラ リア病 原性 の解析 のカ ギとな るの みなら ず、 ヒト免 疫に も直接 さら される ワク チン候 補と 考えら れる
ため、PvSTP1 の解析は重要な課題である。
現在までに、我々の教室では抗 PvSTP マウス抗体をすでに作成し、 分子レベルでの基礎的解析を行っ
て いるが 、同 時に、 曹博 士が 2004 年に 収集し 、保管 して いた中 国の 雲南省 、浙 江省、 湖北 省の3 つの
異なる地区の三日熱マラリア原虫 DNA(各地区 20 標本づつ)について PvSTP の塩基配列を決定した。そ
の 結果、 PvSTP は非 常に 多型で 、多 くのア レル が存在 する ことが わか った。 また 、集団 遺伝 学的統 計解
析 により 、ヒ ト免疫 によ ると思 われ る淘汰 圧を 検出す るこ とがで きた 。
そこで、本研究では PvSTP1 のアレル頻度 が経年的に変化するのかどうかを、2004 年と 2008 年に収
集した原虫を用いて、①2004 年度に見られたアレルがまだ 存在するかどうか、② アレルの頻度分布は安
定して存在しているのか(抗原変異を起こすか)、③特定の型の PvSTP1 が三日熱マラリア原虫の病原性
と 関連す るか を解析 する ことで 、将 来、こ の分 子を標 的と するコ ント ロール 戦略 を立て る基 礎情報 を得
る ことを 目的 として 行っ た。
-2-
対象と方法:
A. 三日熱マラリア患者からの マラリア原虫の採取
三 日熱マラ リア原 虫標 本は、 2008 年、 中国国 内の雲 南省 のマラ リア 流行地 にお いて患 者の 同意を 得た
後 にマラ リア 感染血 液を 濾紙に 採取 するこ とで 曹雅明 によ り集め られ た。
B. DNA 抽出と PCR 増幅、塩基配列決定(図1)
濾紙からのマラリア原虫 DNA の抽出を市販の DNA 抽出試薬(EZ1 DNA Tissue Kit; Qiagen)を用い
て行った。抽出した DNA を鋳型として、 KOD-Plus- DNA polymerase を用いて PvSTP1 の細胞外領域を
コードする DNA 断片の PCR 増幅をおこなった。PvSTP1 には SalI 型と IVD10 型があるため、5'側プライ
マーは SalI 型特異的プライマー(TTTCATTTCAAAAATATGTATTACTCTTG)と IVD10 型特異的プライマー
(TTTCATTTCAAAAATATGTATTACTCTTG)、3’側プライマ ーは共通プライマー(AAGAAGGAAAA
TAAATGTGATAAAGCC)を用いて Initial PCR を行い、この PCR 産物を鋳型として、SalI 型 Nested 用プ
ライマー(GAAAACAAACTTATAATATAATGCA)もしくは、IVD10 型 Nested 用プライマー(ACATAGTA CTAT
GTGTCTTGAAATATG)と Initial PCR に用いた 3’側プラ イマーを用いて Seminested PCR を行った。 塩
基 配列決 定は PCR 産 物を 鋳型と する 直接シ ーク エンス 法に より行 った 。反応 は2 回に分 けて 行い、 一つ
は 5' primer により、もう一つは 3' primer によりシ ークエンス反応を行うこと により、PCR 増幅反応
中 のエラ ーが 入らな いよ うに注 意し た。
図 1 . P v S T P 1 の 模 式 図 。 細胞外領域にある Cystein-rich domain
(CRD)と Variable domain(VAR)、細胞内領域にある
Tryptophan-rich domain(WRD)、および膜貫通領域(TM ) を示す 。
図の下に、Initial PCR と Seminested PCR により増幅される部位を
示 す。ス ケー ルバー = 100 アミ ノ酸。
C. 統計学的解析
得 られた塩 基配列 より 、予想 アミ ノ酸配 列を 決定し 、 2004 年度 に雲 南省の 三日 熱マラ リア 原虫か ら得
られた PvSTP1 のアレルと比較した。多型を示す 全てのアミノ酸部位について 、アミノ酸の頻度分布が
2004 年と 2008 年の群で有意に異なるかどうかを Fisher's exact test により検討した。また、PvSTP1
の 二つの 領域 、①種 々の マラリ ア原 虫の相 同体 間にお いて 保存さ れて いるシ ステ インが 豊富 な
Cystein-Rich Domain( CRD)と②種々のマラリア原虫の相同 体間において非常に多 型性に富む Variable
Domain(VAR)の間で、頻度分布が変 化しているアミノ酸部位の数が有 意にことなるかどうかをカイ二
乗検定で検討した。P<0.05 を有意に異なるとした。
結
果:
顕 微鏡検査にて三日熱マラリ ア原虫と診断された 52 標本について、IVD10 型 プライマーを用いて PCR
増幅をおこなったところ、27 標本について PvSTP1 遺伝子断片を PCR 増幅することが出来た。残りの 25
標本について SalI 型プライマーを持ちいて PCR 増幅 をおこなったところ、25 標本すべてについて、
PvSTP1 遺伝子断片の増幅ができた。これらの PCR 産物 の直接塩基配列決定を行っ たところ、IVD10 型プ
ラ イマー によ り増幅 された 27 の PCR 産物 のうち 、18 が重複 感染で 9 つ が単一 アレ ル優位 であ った 。SalI
型 プライ マー により 増幅 された 25 の PCR 産物の うち 、21 が 重複感 染で 4 つが 単一 アレル 優位 であっ た。
そ こで単 一ア レル優 位の 合計 13 の塩 基配列 を用 いて 2004 年 度に 15 標 本から 得ら れた 21 の塩 基配列 と
比 較解析 する ことと した 。
-3-
①2004 年度に見られ 2008 年度では有意に減 少して見られなくなったア ミノ酸アレルがある。
2004 年標本にみられたが、そ の頻度が有意に減少して 2008 年標本で は検出されなかったアミノ酸は
SalI 株のアミノ酸配列を基準として、N 2 8 、I 3 5 、N 1 3 8 、A 1 3 9 、P 1 4 1 、K 1 4 3 、S 2 8 3 、N 2 9 8 、E 3 1 8 、T 3 2 2 、P 3 2 5 、D 3 3 0 、
P 3 3 7 、 A 3 3 8 、 A 3 4 0 、 D 3 4 1 、 I 3 5 0 、 L 3 5 1 、 H 3 8 1 、 A 3 9 5 、 H 3 9 6 の 21 アミ ノ酸あ った 。逆に 、 2004 年標 本に は見ら
れ なかっ たが、その頻度 が有意 に増 加して 2008 年標 本で検 出され たア ミノ酸 は同 様に、T 1 4 3 、E 2 3 5 、Q 2 6 3 、
K 2 6 6 の 4アミ ノ酸で あっ た。
② VAR と 比べて CRD では アレル 頻度 分布は 比較 的安定 して いた。
2004 年と 2008 年の間で頻度分 布が変化していた個所は、CRD(アミノ酸部位 23-199)で見つかった
75 の多型部位中 15 個所であった、また、VAR( アミノ酸部位 200-416)で見つ かった 91 の多型部位中
35 個所 であっ た。CRD と VAR に おい て比較 した ところ、有 意に CRD の 方が、頻度 分布が 安定 して存 在し
ていることがわかった(P < 0.01)。
図 2 . P v S T P 1 細 胞 外 領 域 C y s te i n - r i c h d o m a i n ( C R D ) と V a r i a b l e
d o m a i n ( V A R ) に お け る 頻 度 分 布 の 変 化 し た 部 位 の 程 度 。 ス ケール バ
ー = 100 アミ ノ酸。
③特定の PvSTP1 アレルと発熱の有無 や原虫感染率との関連 は見られなかった。
2004 年と 2008 年の全てのサンプルをまとめた 34 塩基配列と患者発熱の有 無および感染率との相関を
検 討した が有 意な関 連を 見出す こと はでき なか った。
考
察:
本研究では PvSTP1 のアレル頻度 が経年的に変化するのかどう かを中心に解析を行っ たところ、2004
年と 2008 年の間に、CRD ではアレル頻度が VAR と比較して変化が少ないことが分 かった。CRD はシステ
イ ンに富 んだ 領域で 種々 のマラ リア 原虫間 で保 存性が 高く 、三日 熱マ ラリア 原虫 では 300 も のメン バー
を 持つ VIR と 呼ばれ る多 重遺伝 子族 にドメ イン ・シャ ッフ リング によ り使用 され るよう にな ってお り、
未 同定で はあ るが重 要な 機能を 有す ると考 えら れてい る。4 年間の年 月にも かか わらず 、こ の領域 の多く
の 多型部 位の アミノ 酸ア レル頻 度が 一定で ある こと、 VAR では アレル 頻度が 多く の多型 部位 で変化 して
い ること は、 CRD が 平衡 淘汰に さら されて いる か、あ るい は逆に VAR が多 型性に より抗 原変 異を起 こし
て いるか の可 能性が ある と考え られ る。マ ラリ ア原虫 抗原 に対す る平 衡淘汰 につ いては 、熱 帯熱マ ラリ
ア原虫の主要抗原である MSP1 につ いて解析が行われ、第 二領域と呼 ばれる多型部位が 異なる地域間でも
ア レル頻 度が 一定で ある ことが 報告 されて いる [2]。熱帯 熱マラ リア 原虫の MSP1 につ いては 、さら にア
レ ル頻度 は経 年的に は変 化しな いこ とが報 告さ れてお り、 熱帯熱 マラ リア原 虫と 三日熱 マラ リア原 虫と
言 う差は ある ものの 、 VAR のア レル頻 度の経 年変 化はさ らな る検討 を要 する。 その ために は、 中立遺 伝
子 に関す るア レル頻 度の 変化の 解析 と、さらに 後年の 標本 を用い てこ の点を 確認 するこ とが 必要で ある。
ま た、2008 年に解析した 配列数が少ないため、各 種の関連 解析の 検出 感度が 低く なって いる。そのため 、
-4-
重 複感染 がみ られた 標本 につい て大 腸菌を 用い たクロ ーニ ングを 行っ て、さ らに 多くの 塩基 配列を 加え
て 解析を 行う 必要が ある 。
参考文献:
1.
Winter G, Kawai S, Haeggstrom M, Kaneko O, von Euler A, Kawa zu S, Palm D, Fernandez
V, Wahlgren M. "SURFIN is a polymorphic antigen expressed on Plasmodium falciparum
merozoites and infected erythrocytes." J Exp Med 201(11):1853-63 (2005).
2.
Conway DJ, Cavanagh DR, Tanabe K, Roper C, Mikes ZS, Sakihama N, Bojang KA, Oduola
AM, Kremsner PG, Arnot DE, Greenwood BM, McBride JS. "A principal target of human
immunity to malaria identified by molecular population genetic and immunological
analyses." Nat Med 6(6):689-92 (2000).
作 成日:2010 年 3 月 14 日
-5-
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-日 中 医 学 協 会 助 成 事 業 -
広東省における環境水調査によるポリオウイルス検出法の研究
研究者氏名
日本研究機関
吉田 弘
国立感染症研究所
共同研究者氏名
ウイルス二部主任研究官
郑 焕英
中国所属機関
広東省CDCポリオ実験室
副主任技師
研究要旨
広東省広州市をパイロットエリアとして、ポリオウイルスを検出すべく環境ウイルス
サ ー ベ イ ラ ン ス を 行 っ た 。 2008 年 4 月 か ら 2009 年 11 月 ま で の 流 入 下 水 調 査 の 結 果 、
① AFP(急 性 弛 緩 性 麻 痺 )サ ー ベ イ ラ ン ス と 比 べ 、ウ イ ル ス 分 離 頻 度 が 高 い こ と 、 ② ポ リ
オ ウ イ ル ス は 1-3 型 と も コ ン ス タ ン ト に 分 離 さ れ て お り 、VP1 領 域 に お け る 塩 基 置 換 は
生 ワ ク チ ン 株 と 比 較 し て 1% 未 満 で あ る こ と か ら 、OPV 定 期 接 種 の ア セ ス メ ン ト ツ ー ル
として有用であること、を示した。このことは広東省のような流動人口を多く抱える
省において、従来のAFPサーベイランスの補助的な役割として、高感度にワクチン
由来ポリオウイルス(VDPV)や輸入野生株を検出する方法として期待できる。
Key words: ポ リ オ 根 絶 計 画 、 環 境 サ ー ベ イ ラ ン ス
緒言
ポ リ オ 根 絶 計 画 で は 、 生 ポ リ オ ワ ク チ ン ( OPV) 投 与 に よ り ヒ ト 集 団 中 の 野 生 株 ポ リ
オ ( PV) ウ イ ル ス の 消 失 を 、 AFP(急 性 弛 緩 性 麻 痺 )サ ー ベ イ ラ ン ス 下 の 実 験 室 診 断 で 確
認 を し て い る 。 中 国 は 10 年 以 上 野 生 株 フ リ ー の 状 況 で あ る が 、 近 隣 の パ キ ス タ ン 、 イ
ン ド 等 で 流 行 し て い る た め 野 生 株 の 輸 入 の リ ス ク は 依 然 と し て 存 在 す る 。こ れ は PV 感
染の多くが不顕性であり健常者がリザーバーになるためである。
OPV 接 種 後 、ワ ク チ ン 株 は ヒ ト の 腸 管 で 増 殖 し 免 疫 を 誘 導 す る が 、同 時 に ウ イ ル ス ゲ
ノム上ではわずかに変異が起こり、糞便中に排泄される。集団免疫が高ければ排泄さ
れ た ウ イ ル ス が ヒ ト 集 団 に 広 ま る こ と は な い が 、OPV 接 種 率 が 低 下 す る と 、ヒ ト ― ヒ ト
感 染 を 繰 り 返 し ゲ ノ ム 上 に 変 異 が 蓄 積 し た 強 毒 型 ワ ク チ ン 由 来 株( VDPV)が 出 現 す る 。
中 国 で は VDPV に よ る 流 行 が 貴 州 省 (2004 年 )他 で 問 題 と な っ た 。
環 境 ウ イ ル ス サ ー ベ イ ラ ン ス は 、 ヒ ト か ら 環 境 水 に 排 泄 さ れ た PV を 調 べ る こ と で 、
顕性、不顕性感染に関わらず地域に流行するウイルスを高感度に検出できる可能性が
あ る ( 1)。 実 際 2007 年 に ス イ ス ジ ュ ネ ー ブ 市 で は 、 患 者 感 染 例 は な か っ た が チ ャ ド 由
来野生株が下水中より検出されたことにより、輸入リスク評価のツールとして有用性
が 認 め ら れ て い る 。 WHO は “ 2010-12 年 行 動 計 画 ”( 2) の 中 で 環 境 ウ イ ル ス サ ー ベ イ ラ
ン ス を 導 入 す る 計 画 で あ る 。 本 課 題 で は 、 2008 年 以 来 、 広 東 省 C D C と 共 同 研 究 を 行
っ て い る 環 境 ウ イ ル ス サ ー ベ イ ラ ン ス に よ り 、ポ リ オ ウ イ ル ス 野 生 株 輸 入 ・VDPV リ ス ク
対策方法として導入可能か検討する。
-7-
材料と方法
環 境 水 採 取 エ リ ア : 広 東 省 広 州 市 内 ( 人 口 約 1000 万 人 、 流 動 人 口 約 300 万 人 ) を 流 れ
る 珠 江( 1 箇 所 )及 び 天 河 地 区 猎 德 下 水 処 理 場 の 流 入 下 水( 2 箇 所 )に て 、2008 年 4 月
か ら 月 2 回 の 頻 度 で 2010 年 3 月 ま で 2 年 間 継 続 し た 。な お 既 に 河 川 、下 水 処 理 場 か ら
のサンプリングについては広州市監督官庁から承認済み。
ウ イ ル ス 分 離 同 定 : 流 入 下 水 ( 500m l ) を 出 発 材 料 に 、 疎 遠 心 ( 3000r p m 、 30 分 )
後 、 上 清 に 塩 化 マ グ ネ シ ウ ム を 添 加 ( 最 終 濃 度 0.05M) し 、 pH 3.5 に 調 整 。 加 圧 ろ 過
装 置 (KST142、 ア ド バ ン テ ッ ク )に 装 着 し た 陰 電 荷 膜 (A045A142、 ア ド バ ン テ ッ ク )に て
ウ イ ル ス 吸 着 。 3%
beef extract( 10m l ) 存 在 下 、 2 ㎜ プ ロ ー ブ を 用 い て 1 分 間 超
音 波 処 理 ( VP-5S、 タ イ テ ッ ク ) を 行 い ウ イ ル ス 誘 出 を 2 回 行 っ た 。 膜 よ り 誘 出 し た 濃
縮 液 を 0.45um フ ィ ル タ ー に て ろ 過 後 、 RD,HEp-2、 Vero、 L20B 細 胞 へ 0.2m l づ つ 接
種 、 2 代 継 代 を 行 っ た 。 な お RD,HEp -2、 Vero で CPE 陽 性 の 場 合 は L20B に 再 接 種 し ポ
リオウイルスの有無を確認した。分離ウイルスは、ポリオ抗血清を用いて中和法にて
型別同定を行った。
ポリオウイルス遺伝子解析
ポ リ オ ウ イ ル ス は R N A 抽 出 後 、ウ イ ル ス ゲ ノ ム VP1 領 域 を タ ー ゲ ッ ト と し た UG1,UC11
プ ラ イ マ ー セ ッ ト を 用 い て RT-PCR に て 増 幅 。得 ら れ た P C R 産 物 を ダ イ レ ク ト シ ー ケ
ン ス 法 で 塩 基 配 列 を 決 定 し 、 1-3 型 ワ ク チ ン 株 と 比 較 し た 。
結果
環 境 水 採 取:2008 年 4 月 か ら 2009 年 11 月 ま で 、下 水 処 理 場 流 入 口 1 号 、3 号 か ら 月 2
回
、 合 計 20 回 採 水 。 80 試 料 を 得 た 。
ウ イ ル ス 分 離 、 同 定 : 80 試 料 を RD、 HEp-2、 Vero, L20B に 接 種 し た と こ ろ 、 各 々 80、
61,15,29 株 分 離 さ れ た 。 こ れ ら の ウ イ ル ス に つ い て は ポ リ オ 以 外 の エ ン テ ロ ウ イ ル ス
も混ざっているため検査続行中である。
L20B に 接 種 /再 接 種 し て 分 離 さ れ た ポ リ オ ウ イ ル ス に 関 し て は 2008 年 3 月 か ら 2009
年 11 月 ま で に 1 型 14 株 ,2 型 32 株:3 型 14 株 、計 60 株 が 分 離 さ れ た 。ま た 2008 年 6
月 を 除 き 毎 月 ポ リ オ ウ イ ル ス が 分 離 さ れ て い る ( 表 1)。 こ れ は 広 東 省 に お け る AFP サ
ー ベ イ ラ ン ス よ り 高 い 分 離 頻 度 で あ る (3)
1- 3 型 分 離 株 に つ い て 、 VP1 領 域 の 塩 基 配 列 を 調 べ た と こ ろ 、 ワ ク チ ン 株 と 1 % 以
下 の 違 い で あ り 、 す べ て Sabin-like 株 と 判 定 さ れ た ( 図 1 )。
考察
本 研 究 で は 従 来 の AFP サ ー ベ イ ラ ン ス と ポ リ オ ウ イ ル ス 分 離 頻 度 の 比 較 検 討 を 行 い 野
生 株 輸 入 ・VDPV 検 出 法 と し て の 妥 当 性 、ヒ ト 集 団 中 の エ ン テ ロ ウ イ ル ス 流 行 を 包 括 的 に
把握するツールとしての適用性を研究目的とした。先行研究を含め 2 年間の調査を通
じ 、① AFP サ ー ベ イ ラ ン ス に よ る ポ リ オ 分 離 率 に 比 べ 高 頻 度 に ポ リ オ ウ イ ル ス が 分 離 で
き る こ と 、 ② VP1 領 域 の 遺 伝 子 解 析 に よ り 分 離 株 は Sabin-like 株 で あ っ た こ と か ら 、
OPV 定 期 接 種 状 況 を 把 握 す る モ ニ タ リ ン グ ツ ー ル と し て も 適 用 で き る 可 能 性 、③ 未 同 定
ではあるもの多種のエンテロウイルスの地域流行の可能性、を示唆している。
野 生 株 ポ リ オ フ リ ー 地 域 で は 、集 団 免 疫 低 下 に 伴 う VDPV の ア ウ ト ブ レ ー ク の 危 険 性
が 存 在 す る 。本 研 究 で 行 っ た 遺 伝 子 解 析 の 結 果 、分 離 ウ イ ル ス 株 の 変 異 が 1% 以 内 で あ
る こ と か ら 、広 東 省 広 州 市 で は 、OPV 接 種 状 況 が 良 好 で あ る こ と が 示 唆 さ れ る 。こ の こ
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とは広東省のような流動人口を多く抱え、疾患サーベイランスが困難な省において、
従来のAFPサーベイランスの補助的な役割として、高感度にワクチン由来ポリオウ
イルス(VDPV)や輸入野生株を検出する方法として期待できる。
他方、新疆ウイグル自治区のように広大な面積を有し、流行国であるパキスタンに
隣接するような省では、国境地域に環境ウイルスサーベイランスを導入することで輸
入リスク対応として期待できる。
(研究協力者)
中 国 広 東 省 CDC
Dr.Ke Changwen
中 国 CDC ポ リ オ 実 験 室
Dr.XuWenbo, Dr.ZhangYong.
参考文献
1) 岩 井 雅 恵
吉田
中村一哉
小原真弓
堀元栄詞
長谷川澄代
倉田
毅
滝澤剛則
弘 環 境 水 サ ー ベ イ ラ ン ス に よ る ポ リ オ ウ イ ル ス 伝 播 の 監 視 - 富 山 県 IASR
Vol. 30 p. 180-181: 2009 年 7 月 号
2)http://www.wpro.who.int/sites/epi/documents/PolioWeeklyBulletin.htm
3)http://www.polioeradication.org/content/publications/GPEI_ProgrammeofWorkS
tructureNovember2009.pdf
作 成 日 : 2010 年 3 月 11 日
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図1
天河地区猎德下水処理場の流入下水(2 箇所)におけるポリオウイルス分離
(2008.4-2009.11)
横軸は採取月、縦軸は分離数を示す。P1,2,3 はそれぞれポリオ 1 型、2 型、3 型。
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-日中医学協会助成事業-
終末期がん患者の苦痛症状に対する鍼治療の有用性の検証
要
研究者氏名
大坂 巌
所 属 機 関
静岡県立静岡がんセンター緩和医療科
共同研究者
王 健
中国所属機関
遼寧中医薬大学付属病院鍼灸科
共同研究者
佐々木 弘
旨
終末期がん患者の苦痛に対して、補完代替医療(CAM)が患者の QOL を向上させられる可能性
がある。鍼灸治療は中医学の根幹をなす確立された標準的治療であり、CAM の中でも最も
evidence が豊富な治療である。がん患者の症状緩和に関する研究は存在するが、これらの多く
は抗がん治療が可能な状態の患者を対象としていることが多く、予後が限られている患者を対象
とした研究は皆無に等しい。今回、終末期がん患者に対して包括的症状評価ツールである MD ア
ンダーソン症状評価表日本語版(MDASI-J)を用い、鍼治療前後での種々の苦痛症状の変化を検
討した。あわせて EORTC-QLQ-C30 による QOL の変化も測定した。鍼治療は 1 名の鍼灸師が中医学
に基づいた診察を行い、虚証に対する治療(本治)を行った上で、主訴に対する治療(標治)を
行った。15 例に対して計 68 回の治療を行ったが、46 回の治療において評価が可能であった。治
療前後において、疼痛(P<0.001)、倦怠感(P=0.032)
、しびれ(P=0.004)が有意な低下を示し
た。MDASI-J にて 3 ポイント以上の低下は、6 例において認められた。改善した症状としては不
眠、食思不振、眠気、口渇、倦怠感、呼吸苦、しびれが多かった。QOL は有意な改善は認められ
なかった。治療開始から死亡日までは中央値 21.5 日であった。MDASI-J により明らかになった
潜在的な苦痛症状が本治により改善した可能性がある。症例数の蓄積により、治療効果が期待で
きる症状およびその時期などがより明確となることが期待される。
Key Words
緒
鍼治療,終末期,がん,苦痛症状,MDASI-J
言:
終末期がん患者の苦痛に対して、標準的な医療やケアのみでは対応不十分なことが多い。補完
代替医療(CAM)が患者の QOL を向上させられる可能性があることは以前より指摘されている。
鍼灸治療は中医学の根幹をなす確立された標準的治療であり、CAM の中でも最も evidence が豊
富な治療である。がん患者の疼痛、嘔気、倦怠感、呼吸困難感、口腔乾燥などの症状緩和に有効
であることが報告されている。しかし、これらの研究の多くは抗がん治療が可能な状態の患者を
対象としていることが多く、終末期がん患者を対象とした研究報告は皆無に等しい。終末期がん
-13-
患者の症状緩和に関しても鍼灸治療が有効であることが明らかにされれば、患者の QOL 向上に大
きく貢献できる可能性がある。特に polypharmacy に陥りがちな緩和医療においては、薬物療法
以外の治療方法の選択肢が増えることの意義は非常に大きい。苦痛症状を有する終末期がん患者
に対して鍼灸治療を実施し、症状の改善度を検討することとした。
対象と方法:
2009 年 9 月~2010 年 2 月までに当院緩和ケア病棟に入院中の患者のうち、以下の適格基準を満
たし、鍼治療の希望がある患者に対して鍼治療を実施した。
【適格基準】
・
緩和ケア病棟入院中の患者
・
何らかの苦痛を有する患者
・
自記式質問票に回答可能な患者
【除外基準】
・
血小板減少症(PLT< 50,000/μL)がある患者
・
臨床的に予後が 1 週間以内と予測される患者
【方法】
1 名の鍼灸師(三島広小路治療院 佐々木弘鍼灸師)が中医学に基づいた診察を行い、虚証に
対する治療(本治)を行った上で、各種症状緩和に対する治療(標治)を行った。本治に対する
治療として、肺虚には太淵(LU9)や太白(SP3)、脾虚には太都(SP2)や太白(SP3)、肝虚には
曲泉(LR8)や復溜(KI7)
、腎虚には復溜(KI7)、陰谷(KI10)、尺沢(LU5)、太淵(LU9)など、
心虚には神門(HT7)などを主に取穴した。経穴の選定に関しては、あらかじめ王健教授のアド
バイスを受けた。施術は 1 回 30 分以内とし、原則的に週 2 回行った。治療当日の治療前と 1 日
後に、症状評価として MD アンダーソン症状評価票日本語版(MDASI-J)を、QOL 評価として
EORTC-QLQ-C15PAL ( The European Organization for Research and Treatment of Cancer
QLQ-C15PAL)の item15(1:とても悪いから 7:とてもよいの 7 件法)を各々測定した。
主要エンドポイントは MDASI-J により測定される鍼治療前後の 11 症状(疼痛、倦怠感、嘔気、
不眠、呼吸苦、食思不振、便秘、眠気、口渇、抑うつ気分、しびれ)のスコアの変化であり、副
次的エンドポイントは EORTC-QLQ-C15PAL により測定される鍼治療前後の QOL の変化とした。治
療前後での評価項目を t-検定にて各々の統計学的検討を行った。研究開始に際しては、当院倫
理審査委員会にて承認を受け、患者本人に同意を得た上で行った。
結
果:
計 15 例に対して計 68 回の鍼治療を実施したが、症状評価が実施できたのは計 46 回であった。
年齢は 42~83 歳であり、平均 65.2 歳(中央値 64 歳)、性別は男性 7 例、女性 8 例であった。PS
は 1 が 1 例、2 が 2 例、3 が 9 例、4 が 3 例であった。各症例の原疾患、転移部位、主訴、治療
回数および中医学にもとづく虚証は表 1 に示す。
-14-
表1 症例一覧
No.
原疾患
転移
主訴
虚証
治療回数
肺
脾
1
1
1
肝細胞癌
骨
腰痛、下肢しびれ、上肢脱力
13
2
胃癌
腹膜
腰痛
1
3
胆管癌
腹膜、肝、骨
腰痛、下肢しびれ、便秘
3
1
1
4
大腸癌
脳
半身痛
3
1
1
5
肺癌
脳、骨
肩痛
4
1
2
6
子宮頚癌
肺
下肢痛
6
7
卵巣癌
腹膜
便秘、腹部膨満感
3
8
前立腺癌
骨
倦怠感、肩痛
4
4
9
膀胱癌
肺、胸膜
肩凝り
2
1
10
膵癌
腰痛
1
11
肺癌
四肢のしびれ
18
17
12
胃癌
肝、腹膜
倦怠感
4
3
13
胃癌
肝
下肢のだるさ
3
14
肺癌
背部痛
2
2
15
乳癌
上肢のしびれ
1
1
治療前後において MDASI-J による改善を認めた
症状は、疼痛、倦怠感、しびれであった。また、
肝
腎
心
4
1
1
2
3
3
1
1
3
1
3
1
3
1
1
1
2
2
1
1
1
表 2 鍼治療前後での MDASI-J の変化
症状
治療前*
治療後*
P値
疼痛
4.1±2.3
3.4±2.3
<0.001
吸苦 3 回、食思不振 5 回、便秘 3 回、眠気 5 回、
倦怠感
4.4±1.5
3.8±1.6
0.032
口渇 4 回、抑うつ気分 3 回、しびれ 4 回であった
嘔気
1.4±2.3
1.1±2.4
0.230
が、増悪をみとめたものは嘔気 1 回、不眠 5 回、
不眠
2.4±2.3
2.5±2.4
0.882
呼吸苦 2 回、食思不振 1 回、便秘 1 回、眠気 5 回、
呼吸苦
3.5±2.3
3.2±2.0
0.302
口渇 1 回、抑うつ気分 1 回であった。
食思不振
2.9±3.1
2.5±2.7
0.136
便秘
1.1±2.1
0.9±1.8
0.393
眠気
3.1±2.6
3.1±2.2
0.894
口渇
5.1±2.4
4.6±2.3
0.103
抑うつ気分
2.7±3.2
2.3±3.1
0.133
しびれ
4.1±2.2
3.4±2.3
0.004
症状毎に 3 ポイント以上の改善を認めたものは、
疼痛 2 回、倦怠感 3 回、嘔気 2 回、不眠 5 回、呼
さらに、1 回でも 3 ポイント以上の改善を認め
た症例数は 6 例であり、内訳は不眠、食思不振、
眠気、口渇が 4 例、倦怠感、呼吸苦、しびれが 3
例、疼痛、便秘、抑うつが 2 例、嘔気が 1 例であ
った。
QOL は治療前と治療後は各々4.2±1.0、4.4±
1.2 であり、有意な改善は認められなかったが、6
*平均値±標準偏差
回において 2 ポイント以上の改善を認めたが、2 回において増悪を認めた。
治療開始から死亡日までの日数は 30.5±22.3(平均±標準偏差)日、中央値 21.5 日、最終治
療日から死亡日までの日数は平均 12.8±6.9 日、中央値 12.0 日であった。
-15-
考
察:
本研究においては、患者の包括的評価として MDASI-J を用いることにより、潜在的な苦痛症状
を明らかにし、本治法も加えることによる治療効果の変化を検討した。MDASI-J の変化に着目す
ると全体の平均としての変化は疼痛、倦怠感、しびれと限られた症状の改善にとどまったが、個々
の治療の前後で比較すると大きな変化が認められていた。このことから、鍼治療の効果を検討す
る際には全体の変化のみにとらわれることだけではなく、症例蓄積を重ねていくことの意義も考
慮しなければならないと考えられる。
鍼治療に関する多くの研究は標治が主体であり、中医学に基づく診断から本治も行った研究は
ほとんどない。患者の状態は流動的であり、実際に本研究においても治療毎に証が変化すること
が明かになった。このことは鍼治療に関する研究を行う上で熟慮されるべき点であるが、施術者
の経験や力量によるバイアスや再現性の点で limitation のひとつとなると考えられる。
今後は症例数の蓄積により、治療効果が期待できる症状、時期などがより明確にされうる。鍼
治療を通常の緩和医療に取り入れることにより、薬物療法以外の strategy が豊富になり、しい
ては終末期がん患者の QOL 向上の一助となりうる可能性がある。
参考文献:
1. Kwok OL, et al. Symptom distress as rated by advanced cancer patients,caregivers and
physicians in the last week of life. Palliat Med 2005; 19: 228-233.
2. Bullinger M. Quality of life assessment in palliative care.J Palliat Care 1992; 8:
34-39.
3. Deng GE, et al. Integrative Oncology Practice Guidelines. J Soc Integr Oncol 2007;
5: 65-84.
4. NIH Consensus Conference, Acupuncture. JAMA. 1998; 280: 1518-24.
5. Takahashi H. Effects of acupuncture on terminal cancer patients in the home care
settings. 20th Annual AAMA Symposium 2008.
6. Helms JM. Acupuncture energetics: a clinical approach for physicians. Berkeley,
California: Medical Acupuncture Publishers, 1995
7. Filshie J. Safety aspects of acupuncture in palliative care. Acupuncture in Med 2001;
19: 117-122.
8. Groenvold M. The development of the EORTC QLQ-C15-PAL: A shortened questionnaire for
cancer patients in palliative care. Eu J Cancer 2006; 42: 55-64.
注:本研究は、第 15 回日本緩和医療学会学術大会および第 18 回日本ホスピス・在宅ケア研究会
にてポスター発表予定。
作成日:2010 年 3 月 13 日
-16-
-17-
-18-
-日中医学協会助成事業-
中国漢民族におけるCIDEA遺伝子V115F多型と肥満との相関に関する研究
研究者氏名
教授 村松 正明
日本所属機関
東京医科歯科大学難治疾患研究所分子疫学分野
中国研究機関
首都医科大学公衆衛生と家庭医学学院
指導責任者
教授 村松 正明
共同研究者
張 玲、戴 穎,辺 麗麗,王 嵬,華 琦
---------------------------------------------------------------------------------------------要旨
CIDEA遺伝子の非同義一塩基多型V115F(G/T)は、肥満とメタボリック症候群(MetS)に関連する新しい候補遺
伝子であると考えられる。しかし中国漢民族においては、CIDEAの影響は明らかにされていない。そこで本研究
では、CIDEAのSNPと、肥満およびMetSの関連を中国において検討した。対象は新規に本態性高血圧と診断された
中国漢民族患者351人(平均年齢51y、男:46%、女:54%)であり、横断研究を行った。理学的所見、生化
学検査等およびCIDEA V115F SNPを測定した。その結果、体重、腹囲、血清トリグリセリド値、高脂血症、腹部
肥満など複数のMetS形質とCIDEA遺伝子V115Fの相関を認めた。多変量解析の結果、GG遺伝子型グループにおいて
はTT+TG遺伝子型グループより高値であり、オッズ比はそれぞれ体重(OR=1.83, 95%CI:1.13-2.97)、肥満(1.91:
1.08-3.36)、腹部肥満(2.38:1.45-3.92)、高脂血症(2.09:1.28-3.43)、およびMetS発症(2.36:1.42-3.92)
であった。以上のようにCIDEA遺伝子は中国漢民族においてMetSとその関連した表現型の危険因子であると結論
した。
キーワード:CIDEA、一塩基多型、メタボリック症候群、 肥満、交互作用
緒言
メタボリック症候群(MetS)は過食、運動不足といったライフスタイル因子に依るところ大きいものの、遺伝子
もその発症に大きく関与しており、この両因子が絡み合って発症すると考えられる。MetSの病態にはインスリン
抵抗性、持続的炎症反応が知られており、これによって慢性的な代謝異常が引き起こされる。近年、肥満やMetS
に関連する多くの遺伝子が発見されたが、これらの結果は異なった民族でも再現されるかどうか十分に検証され
る必要がある。
CIDEA遺伝子はモデルマウスの実験より、エネルギー代謝に重要な機能を担っている事が明らかにされた。また
CIDEA は脂肪酸代謝にも関連している事が知られている。血中に遊離脂肪酸を過剰に負荷すると、インシュリン
抵抗性および高脂血症となるが、この理由として最も支持されている仮説は、炎症性サイトカインTNF-αの活性
を抑制することを介して、CIDEAが脂肪質の分解を低下させる、あるいはCIDEAが中性脂肪をエステル化すること
によって、
脂肪細胞に脂質滴を保存させることであると考えられている。
このようにCIDEAの機能障害によって、
MetSに繋がる種々の代謝異常が誘発される可能性が示唆されている。
一方、家系解析等より肥満、中性脂肪濃度、空腹時血糖、糖尿病と関連する連鎖領域として染色体18p11が知ら
れていた。CIDEAはこの領域の中にある候補遺伝子としても見出された。CIDEAは、4つのイントロンと5つのエク
ソンを持ち長さが23.22キロ塩基対ある。CIDEAには唯一の非同義SNP、V115Fが存在する。スウェーデン人におい
て、Gアレル(Vをコード)が肥満のリスクであることが報告された。一方、日本人における追試実験では、CIDEA
Tアレル(Fをコード)が日本人のリスクであることを私達は報告した。これらのCIDEA遺伝子多型と肥満•MetS
の形質の関係は相反する結果であり、更なる検討が必要である。そこで本研究では、MetSとその関連した表現型
の上で中国人集団内でV115F多型の影響を検討した。私達の知る限りでは、これは中国において実施されたはじ
めてのCIDEAの疾患関連研究である。
-19-
対象と方法
参加者は、2007年に首都医科大学付属玄武病院において新しく本態性高血圧と診断された中から任意に選択され
た患者である。参加者合計351人、163人の男性と188人の女性であり、年齢は50.86の±6.14年、年齢分布は18
歳から86歳である。悪性腫瘍、重度の心血管疾患、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、痴呆、結核、後天性免疫不全症
候群、感染症等の重篤な余病を持つ患者は除外した。各々の参加者は面談し、標準化されたアンケート取った。
身体検査とインタビューは、訓練された看護婦と医者によって行われた。総コレステロール(TC)、高密度リポ
タンパク質-コレステロール(HDLC)、トリグリセリド(TG)と空腹時血糖(FPG)は、ルーチン方法で測定した。
すべての参加者より書面によるインフォームドコンセントを得ており、本プロトコルは、首都医科大学の倫理委
員会で承認を受けた。
肥満、MetSの定義は中国において推奨されている2005年IDF最新版の基準に従った。即ち、中心肥満(腹囲:男
性の90cm、女性の80cmを持ち、且つ1)高血圧:140/90mm Hg以上、または高血圧治療の既往;2)高トリグリセリ
ド血症:空腹時トリグリセリド1.7mmol/l、以上;3)低HDL:空腹時のHDLコレステロール男性:1.0mmol/l以下、
女性:1.3mmol/l以下、;4)高血糖:空腹時血糖5.6mmol/l以上、のいずれか二項目がある事である。DNAは、-80C
で凍結保存された全血サンプルより標準的な方法により抽出した。PCR反応は 50 uL溶液:5uL 10×PCR Buffer
(50mM, KCl、20mM, Tris-HCl)、1uL: Fプライマー(20pmol/L)、1uL: Rプライマー(20pmol/L)、4uL dNTP
混合物(2.5mM)、0.25のU Taqポリメラーゼ、2uL DNA、で行った(30秒間の94°C変性、30秒間の52°Cアニー
リング、1分間の72°C伸張反応を40回繰り返した。遺伝子タイピングはPSQTM 96 MA機械(ジーン社、HK)で
行った。最後に94°Cで変性し、pyrosequencing法にてタイピングをした。統計解析にはソフトウェアSPSS 13.0
(SPSS Inc,Chicago、IL,USA)を使用し、カイ二乗検定、フィッシャー正確検定、一方向性分散分析、ロジステ
ィック回帰分析を行った。すべての確率値は両側検定でp< 0.05の時に統計学的に有意である判定した。
結果
CIDEA遺伝子多型V115F(G/T)を測定したところ、GG、GT、TT遺伝子型頻度は、29.91%、50.71%、19.48%であった。
遺伝子型分布は、Hardy-Weinbergの平衡に従っていた。体重、腹囲、腰囲、腹腰比率、BMI、および中性脂肪に
おいて、TT+TGグループがGGグループより高値だった(p<0.05)。年齢、SBP、DBP、TC、HDLCとFPGに関しては3
つの遺伝子型グループによる有意差はなかった。
MetSの各形質の有病率は、MetS:46.64%、肥満:28.21%、腹部肥満:65.81%、高脂血症:41.10%、高血圧:69.80%、
空腹時高血糖:35.04%だった。腹部の肥満と同様にMetSの流行、異脂肪血症はTT+TGグループでGGグループ(P
0.05)のそれより高かった。全体的な肥満において、女性より男性で高かった(32.5%対22.9%)。
TTグループとTGグループはMetSに関連した大部分の変数でGGグループより同じ程度に高いレベルを示したので、
以下の分析はTT+TGグループを1つにまとめてTキャリアーとし、GGグループと比較した。GGグループと比較してT
キャリヤーでは代謝性障害と相関しているパラメータが高値だった。体重(74.08の±17.50対66.76の±12.39)、
腹囲(90.26の±12.08対84.64の±12.08)、腰囲(103.07の±9.61対99.55の±11.83)、WHR(0.88.11±0.11
対0.85の±0.07)、HDLC(50.64の±46.18対53.58の±27.72)BMI(26.59の±5.40対24.54の±3.78)、FPG(104.95
の±34.12対98.06の±22.01)、TG(176.66の±126.52対138.81の±96.96)で有意差を認めた(p<0.05)。
単純回帰分析の結果、T キャリヤーグループが GG グループに比べて持つ危険度は、過体重(OR=1.82, 95%CI:
1.14-2.90) 肥満 1.92(1.10-3.36)、腹部肥満 2.16(1.35-3.46)、高脂血症 2.10(1.29-3.42)と
MetS2.17(1.35-3.39)であった。年齢、性、BMI で調節される多重ロジステック回帰分析では、関連は減弱した
が、統計的有意性は維持された。以上より CIDEA 遺伝子 V115F(G/T)遺伝子型は MetS の代謝性障害の形質との
間に有意な関係があると結論した。
-20-
考察
中国において肥満や MetS の人口は急速に拡大しており、その対応が急がれる。本研究において、CIDEA 遺伝子
が始めて中国漢民族における MetS 代謝性障害と関連している事を始めて見出した。CIDEA は肥満のための新し
い候補遺伝子としてこれまで注目されてきた。始めはスウェーデン人における研究において、CIDEA V115F(G/T)
が肥満と関係がある事が報告された。続いて日本人においても CIDEA V115F(G/T)が MetS の形質と相関してい
ることが示された。しかしスウェーデン人においては、リスクアレルは G アレルであり、日本人においては、リ
スクアレルは T アレルであり、正反対の結果となっていた。今回、中国人を対象とした研究の結果、CIDEA V115F
(G/T)が肥満などの代謝障害形質と関連し、T アレルがリスクアレルであることが明らかとなった。これは日
本人を対象とした研究結果と基本的に同じであり、少なくともアジア人においては T アレルキャリアーが高リス
クであることを支持する。中国人、日本人とスウェーデン人の間でこのような違いが生まれた原因は、当該の遺
伝子多型を含む haplotype ブロックの異質性あるいは北ヨーロッパとアジアの環境違いによって説明されるか
もしれない。本横断研究は高血圧外来受診の患者で行われたが、高血圧の有無で、CIDEA 遺伝子多型の効果を比
較すると、明らかに高血圧群の方でが肥満•MetS 形質との関連が強く見られた。このことは高血圧が CIDEA 遺伝
子多型と交互作用を起こしている事を示唆しており、この点は更なる研究が必要である。
以上、本研究は CIDEA 遺伝子 T アレルが中国人の MetS を起こす代謝性障害の表現形質の危険因子であることを
明らかにした。
注:本論文“Cell Death-inducing DNA Fragmentation Factor Alpha-like Effector A (CIDEA) Gene V115F (G/T)
Polymorphism Is Associated with Phenotypes of Metabolic Syndrome in Chinese Population.”Zhang L. et
al は現在投稿中。
作成日:2010 年 3 月 5 日
-21-
-22-
—日中医学協会助成事業—
神経因性疼痛における一酸化窒素の分子病態:カルシウム受容キナーゼの調節機構
日本側研究者氏名
渡邊 泰男
所
昭和薬科大学薬理学研究室 教授
属
機
関
中国側研究者氏名
宋涛
所
中国医科大学付属第一病院麻酔科 准教授
属
機
関
要旨
細胞は様々なレドックス反応「レダクション(還元)とオキシデイション(酸化)
」を基本として維持されている。近
年、このレドックス代謝に異常を起こすことが、脳梗塞、脊髄損傷、脳神経変性疾患等の種々の疾患に密接に関与してい
る可能性が強く指摘されている。また、これらの中枢神経障害に一酸化窒素(NO)が関与することが報告されている。
そして、この NO による中枢神経細胞死は NO 由来の反応性窒素酸化物による生体機能分子のレドックス制御機構の乱れ
による可逆的修飾であるグルタチオン化やニトロソ化を介して発現することも示唆されている。
一方、脳神経系において、
神経成長、成熟に関わる細胞内情報伝達はカルシウム/カルモデュリン(Ca2+/CaM)によって活性化されるカルシウム受容
リン酸化酵素、CaM キナーゼ群が絡んでいる可能性が示唆されている。近年、この CaM キナーゼ群ならびに NO が、神
経因性疼痛等の種々の慢性疼痛に密接に関与している可能性が強く指摘されている。しかし、これまでに、神経因性疼痛
のメカニズムを CaM キナーゼ群の NO 応答性ならびにレドックス反応性に着目して行われた研究はない。そこで、本研
究課題では、神経因性疼痛の分子病態を NO とカルシウム受容キナーゼの相互作用で理解し、予防法・治療法の基盤を築
くことを目的とした。その結果、ラット脊髄神経損傷モデルにおいて、後根画分の NO 修飾タンパクの検出を行ったとこ
ろ、損傷側に有意にニトロソ化タンパクの上昇が検出された。一方、分子・細胞レベルでの解析の結果、CaM キナーゼ I
が、部位特異的なグルタチオン化修飾を受けることによって酵素活性が可逆的に阻害されることを見出した。これらレド
ックス応答分子としてのキナーゼ群ならびにタンパクの制御機構解明は、脳神経傷害における新たなレドックス制御薬の
理論的基礎研究として位置付けられる。
-23-
Key Words
神経因性疼痛、CaM キナーゼ、一酸化窒素、ニトロソ化、グルタチオン化
緒言
近年、脳梗塞、変性疾患による中枢神経障害に一酸化窒素(NO)を始め様々なタンパク質リン酸化酵素が関与することが
報告されている。中でも、カルシウム/カルモデュ
リン(Ca2+/CaM)によって活性化されるリン酸化
酵素 CaM キナーゼは、神経シナプス形成、記憶・
学習に関わる機能分子でもあることが広く研究さ
れてきている。これまでに、私共は神経における
NO 産生の律速酵素である神経型 NO 合成酵素
(NOS)の CaM キナーゼによる部位特異的リン
酸化がNOシグナルを負に制御していることにより脳梗塞や神経伝達物質ドパミン信号系において重要な役割を果たして
いることを示唆してきた(図)[1-4]。
ところで、NO によるシグナル伝達には可溶性グアニレートサイクラーゼの活性化による cGMP を介する経路と、cGMP
に依存しないものがある。前者は、血管内皮依存性 NOS による血管平滑筋弛緩反応に代表される情報伝達メカニズムで
脳循環や血圧調節に関与する。後者の場合、NO そのものというより、NO 由来の反応性窒素酸化物による生体分子のシ
ステインチオールのグルタチオン化(RSSG)やニトロソ化(RSNO)反応を介するものである。近年、この後者の反応
性窒素酸化物などによる生体分子修飾が、脳神経変性疾患等の種々の疾患に密接に関与している可能性が強く指摘されて
いる。私共はこれまでに、CaM キナーゼ II の部位特異的システインチオールのニトロソ化によってキナーゼ活性が可逆的
に阻害され、
脳虚血時のCaMキナーゼII活性の低下がこの部位特異的NO修飾によることを示唆した[5]。
本研究課題では、
近年、
いくつかの神経機能がそれにより調節されているとされるCaMキナーゼIのレドックス応答性の分子基盤ならびに、
-24-
その脳神経細胞機能を明らかにすることを目的とした。そして、ペインクリニックでも重要懸案である神経因性疼痛のメ
カニズムを機能分子のレドックス応答性解析の為、ラット神経因性疼痛モデルにおける髄後根画分でのレドックス応答タ
ンパク質の検索を行った。
方法
神経因性疼痛モデルラットは、手技的な変動が少ない脊髄神経結紮モデルを用いた。腰髄後根画分での不特定多数の修
飾タンパクの検出は、抗ニトロソ化タンパク抗体を用いたウエスタンブロット法で解析した。CaM キナーゼ I のレドック
ス応答性の解析には、酸化ストレス刺激として SH 基選択性酸化剤(diamide)ならびに還元型グルタチオンを使用した。リ
コンビナント CaM キナーゼ I は大腸菌発現系にて精製し、キナーゼ活性測定には[γ-32P]ATP から合成ペプチド基質(シン
タイド2)への 32P 転位の検出によって行った。酸化修飾部位および種類解析は、CaM キナーゼ I の分子内のシステイン
残基の点変異体および ESI-四重極型 MS による質量分析法にて行った。グルタチオン化タンパクの検出には抗グルタチオ
ン化抗体を用いたウエスタンブロット法で解析した。
結果
1)CaM キナーゼ I のグルタチオン化による活性阻害
リコンビナント CaM キナーゼ I を Diamide
(0-3 mM) および還元型グルタチオン(125 µM)
処置し、酵素活性を測定すると 100 µM
Diamide でほほ完全に阻害された。この処置
により CaM キナーゼ I がグルタチオン化さ
れていることが、抗グルタチオン抗体を用い
確認できた。さらに、阻害された酵素活性は、脱グルタチオン化酵素であるグルタレドキシンによって回復され、同時に
-25-
脱グルタチオン化も観察された(図1)
。
2)Cys179 修飾による CaM キナーゼ I 活性阻害
CaM キナーゼ I の活性中心近傍の Cys179 の変異体(179CV)ミュータント
のリコンビナント酵素を作成した。そして、Diamide/グルタチオン処置によ
る CaM キナーゼ I 活性阻害を野生型と比較した。179CV は 125 µMグルタ
チオン、0-300 µM Diamide存在下で、酵素活性に大きな変化は見られなかっ
た(図2)
。CaMキナーゼ Iは Cys179以外に9つの Cys残基を有するがどの点変異体も Diamide/グルタチオン処置による活
性低下には抵抗性を示さなかった(データ表示せず)
。
3)CaMキナーゼ Iの Cys179残基のグルタチオン化修飾の検出
Diamide/グルタチオン処置によって
Cys179にグルタチオン化修飾が見られる
のかを、処置酵素のプロテアーゼ分解後、
ESI-四重極型 MS による質量分析法によ
って解析を行った。73%のペプチド回
収率で10個の Cys 残基のうち3つの
Cys 残基を含むペプチド (Cys179, Cys267, Cys349) が回収された。そのどの Cys 残基にもグルタチオン化修飾が検出された
(表)
。
-26-
4)細胞内 CaM キナーゼ I のグルタチオン
化による活性制御
Hela 細胞に野生型と 179CV 変異体の CaM
キナーゼ I を遺伝子導入し、Diamide(1 mM) 処
置後、CaM キナーゼ活性をを測定した。野
生型ではDiamide処置により酵素活性は殆ど
消失したが、
179CV 変異体は抵抗性を示した。
さらに、野生型の酵素活性消失は、その後のグルタレドキシン処置によって回復が見られた(図3)
。
5)ラット神経因性疼痛モデルにおける髄後根画分でのレドックス応答タンパク質の検索
脊髄神経結紮モデルを用い、腰髄後根画分での不特定多数の修飾タンパクの検出を、抗ニトロ
ソ化タンパク抗体を用いたウエスタンブロット法で解析した。障害側でのニトロソ化タンパクは
健側側に比べて有意に増加していることが分かった(図4)
。なお、障害側でのバンドは還元剤
処置によって消失することを確認した(データ表示せず)
。
考察
以上のように、今回の助成では、NO 信号系制御の新しい作用機序の解明を通して、NO 信号系制御薬創製の分子基盤
を築くことが出来た。つまり、CaM キナーゼ群が直接 NO の修飾を受けその活性が可逆的に制御されているという概念を
確立できた。これまでに、レドックス制御の乱れが、脳神経細胞障害を引き起こすとされている。実際に、いわゆるレド
-27-
ックス制御薬が、急性期脳梗塞の治療に使われている。しかしながら、各レドックス疾患において主因となる酸化ストレ
ス系は単一でないことから、フリーラジカル消去薬だけで全てのレドックス疾患を効率的に治療するには限界があり、今
後は各疾患の信号系に特化したレドックス疾患治療に貢献する新しいレドックス制御薬の登場が待たれる。私共はこれま
で、キナーゼシグナルによる活性窒素シグナルの制御機構を報告してきた。その中で、私共が見出したレドックス応答分
子としての CaM キナーゼ群の制御機構は、神経傷害において防御的分子である CaM キナーゼ群と攻撃的分子である酸化
ストレスのクロストーク理解において新展開であり、新たなレドックス制御薬の理論的基礎研究として位置付けられる。
神経因性疼痛モデルでは脊髄でのNO産生が亢進していることが判明しているので、今回得られた障害側の腰髄後根画分
でのニトロソ化タンパクの検出は今後その標的分子の同定を通して、慢性疼痛における新しい作用機構を明らかにするこ
とができると思われる。現在、CaM キナーゼ群のニトロソ化ならびにグルタチオン化の検出をしているところである。今
後は脳虚血、神経損傷、クモ膜下出血などの中枢神経疾患の分子病態を広く生体機能分子のレドックス制御破綻として捉
え、レドックス制御薬開発の基盤研究を展開させたい。
参考文献
[1] T. Song, N. Hatano, K. Kume, K. Sugimoto, F. Yamaguchi, M. Tokuda, and Y. Watanabe, Inhibition of neuronal nitric-oxide synthase by phosphorylation at
Threonine1296 in NG108-15 neuronal cells. FEBS Lett. 579 (2005) 5658-5662.
[2]Y. Hayashi, M. Nishio, Y. Naito, H. Yokokura, Y. Nimura, H. Hidaka, and Y. Watanabe, Regulation of neuronal nitric-oxide synthase by calmodulin kinases. J.
Biol. Chem. 274 (1999) 20597-20602.
[3] K. Komeima, Y. Hayashi, Y. Naito, and Y. Watanabe, Inhibition of neuronal nitric-oxide synthase by calcium/ calmodulin- dependent protein kinase IIalpha
through Ser847 phosphorylation in NG108-15 neuronal cells. J. Biol. Chem. 275 (2000) 28139-28143.
[4] T. Song, N. Hatano, M. Horii, H. Tokumitsu, F. Yamaguchi, M. Tokuda, and Y. Watanabe, Calcium/calmodulin-dependent protein kinase I inhibits neuronal
nitric-oxide synthase activity through serine 741 phosphorylation.FEBS Lett. 570 (2004) 133-137.
[5] T. Song, N. Hatano, T. Kambe, Y. Miyamoto, H. Ihara, H. Yamamoto, K. Sugimoto, K. Kume, F. Yamaguchi, M. Tokuda, and Y. Watanabe, Nitric
oxide-mediated modulation of calcium/calmodulin-dependent protein kinase II. Biochem. J. 412 (2008) 223-231.
注:本研究は、平成 21 年 10 月 21 日-24 日 第 82 回日本生化学会大会(神戸)にて口演発表、現在 FEBS Lett で改訂中。
平成 22 年 3 月 16 日—18 日第 83 回日本薬理学会年会(大阪)にてシンポジウム発表予定。
作成日:2010 年 3 月 10 日
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—日中医学協会助成事業—
アスベスト(石綿)曝露による健康被害に関する日中共同研究
研究者氏名:井内 康輝
所
属:広島大学大学院医歯薬学総合研究科病理学
要旨
アスベスト(石綿)の吸入による呼吸器障害について、中国及び日本の医療関係者が共同して討議するために、第 2 回中日ア
スベストシンポジウムを開催した。その成果をまとめた報告書を、いまだアスベストの全面的な使用禁止に至っていない中国にお
けるアスベスト対策に役立ててもらうことを目的にして、中国の関係者に広く配布した。
Key Words
アスベスト(石綿)
、呼吸器障害、被害者補償・救済制度
緒言
アスベスト(石綿)は、繊維状の鉱物の総称であるが、耐熱性、耐火性などに優れた有用な物質として広く工業的に用いられ
てきた。しかし、これらを体内に吸引すると、呼吸器において石綿肺や胸膜肥厚などの非腫瘍性病変に加えて、中皮腫や肺がんな
どの腫瘍性病変を発生させることが明らかとなった。1972 年 WHO がこれを発がん物質として指定して以降、欧米ではその使用
が禁止されてきたが、日本での規制は欧米に比べ遅れ、2006 年になり全面的な禁止に至った。現在日本では、この石綿への職業
性曝露によって生じた呼吸器病変である石綿肺、びまん性胸膜肥厚、良性石綿胸水及び中皮腫、肺がんは労災補償制度の適応を受
けることができ、一般生活環境下での曝露でも中皮腫と肺がんについては救済制度の対象となっている。
しかし、中国を含むアジア諸国ではいまだ、アスベスト(石綿)の使用規制が十分になされておらず、アスベスト(石綿)曝
露による呼吸器障害発生は衆知されていない可能性がある。こうした観点から、日本におけるアスベスト(石綿)による曝露や障
害に関する診断や治療法の進歩あるいはこれらの最新の研究を紹介することは、中国にとって有用な情報となると思われる。
そこで今回、中国・杭州において、中国と日本の研究者が一同に会し、シンポジウムを開催し、研究発表と討論によってお互
いの研究の進展をはかることとした。
結果
中国からの発表の要約を以下に示す。
1. Li Tao(中国疾病予防センター)
[アスベストの生産]
・ 中国で生産されるアスベストの 99.9%はクリソタイルで、クロシドライトは 0.1%以下である。
・ 1996 年の統計データでは、中国国内に 120 の石綿鉱山があり、うち 30 はかなり大規模である。これら鉱山で従事する労
働者は 24,300 人である。
・ アスベスト製品の生産工場は数千あり、それらで働く従業員は 46,300 人に達する。
・ アスベスト製品には約 200 のカテゴリーがある。50%はアスベストセメント製品、20%は摩擦防止製品、10%は天井など
の断熱材である。
・ 1996 年の鉱山の生産量は 441,700 トンで、世界の中で生産量第 2 位であり、世界の総生産量の約 10%を占める。
(図 1)
・ アスベスト製品の生産量は 140,000 トンで、世界の中で生産量は第 3 位であり、総生産量の約 10%を占める。この生産量
は増加を続けており、摩擦防止製品は 2002 年に比べ 2003 年は 32.6%増加している。
・ 長いアスベスト(amphibole)は消費量からみて不足していて、輸入が必要であり、輸入量は 2003 年に比べ、2004 年は
22.4%増加している。一方、短いアスベスト(serpentine)には国内生産分に余剰があり、輸出している。
(図 2)
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[アスベストによる健康被害]
・ 中国には 80,000 人のアスベスト曝露者がいて、1950 年から法制度にもとづいて検診を受けている。2003 年までに石綿肺
と診断された例は 7907 例であり、塵肺症の約 1%である。石綿肺が診断された時期のピークは 1979〜1985 年であり、1985
年は 467 例である。近年でも毎年 220 例が診断されている。2003 年末までの死亡例は 923 例で、死亡率は 11.67%である。
死因は、混合性呼吸器疾患、循環器疾患、がんの順である。
・ 疫学的研究では、アスベスト曝露者の総死亡率、がんでの死亡率、肺がんでの死亡率はそれぞれ 100 万人対 522.9 人、195.7
人、72.2 人である。
・ 胸膜プラークは、石綿肺の 51%、アスベスト曝露労働者の 15%にみられる。
[職業病予防の方針]
・ 2002 年までに様々な職業病の予防法が作られた。
・ アスベスト代替製品の開発が行われ、その使用が奨められている。
・ クロシドライトは、2007 年 7 月までに排除されるべき品目一覧にあがった。
・ アスベストの代替品の研究は 1980 年代から始まっている。
・ 多くのアスベスト企業とそれらを認める国では、アスベストのうちでクリソタイルは安全で信頼できるとしている。一方、
International Labor Decision No.162 では、アスベストを安全に使用することを厳密に守らなければならないことを強調し
ている。
・ 中国において、研究者の間ではアスベストの使用について議論があるが、クリソタイルはクロシドライトに比べ、その有害
性はかなり低いと認識している。
[結論]
・ 中国は世界の中でアスベストの生産と使用の主要国のひとつであるが、経済発展のレベルに従って、アスベストの使用の制
限と禁止を行うという方針をとっている。
・ アスベストを扱う地方の手工業は禁止し、小さなアスベスト鉱山も徐々に閉鎖している。
・ クロシドライトを含む製品は 2002 年 10 月以降禁止し、2003 年 10 月以降、自動車のブレーキの摩擦防止の目的での使用
を禁止した。
・ アスベストの代替製品について広く研究を続けている。
50
45
Production(ten thousand
40
35
30
25
160
20
15
140
import(thousand
Export(thousand
20
18
16
10
120
5
0
14
100
12
80
10
60
8
1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2003
6
40
4
20
2
0
0
1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 2003
図 1. 中国におけるアスベストの生産
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図 2. 中国におけるアスベストの輸出入
2. Wang Mianzhen 他(四川大学)
アスベスト製品を生産する工場の男性従業員の石綿肺と死亡のコーホート研究の結果、アスベスト濃度や曝露期間に関連
して石綿肺と死亡率の上昇を認めた。
3. Lan Yajia 他(四川大学)
石綿肺の重症度と喫煙量の相関を、石綿プラントの従業員 1814 人について検討した結果、喫煙が石綿肺の増悪因子であ
ることが判った。
4. Jun-Qiang Chen 他(浙江省医学科学院)
クリソタイル曝露者の死因を解明するために 2854 死亡例の死因調査を行った結果、手工業のクリソタイル紡績業に従事
した女性の呼吸器疾患と肺癌による過剰死を認めた。
5. Deng Qian 他(四川大学)
石綿を扱う労働者における石綿肺の発生の量―反応関係を知るために、石綿工場で 1 年以上勤務した 338 人の男性につい
て調査した結果、40 年間勤務する人の石綿肺を 1%以下にする石綿の濃度は 3.9mg/m3 と計算された。
6. Lijin Zhu(浙江省医学科学院)
人造繊維の発がん性を、培養された気管支上皮細胞を用いて検討した結果、耐火性セラミック線維は石綿と同様に、細胞
の悪性転化を誘導した。
7. Jixian Zhang 他(余姚市人民医院)
中国における 27 例(男女比=8:19)の悪性胸膜中皮腫を臨床的に解析した。17 例が職業性に、4 例が非職業性に石綿へ
の曝露歴があった。病理学的には上皮型 9 例、肉腫型 5 例、二相型 8 例であった。
日本からの発表の要約を以下に示す。
1. 井内康輝他(広島大学)
石綿への曝露によって、さまざまの非腫瘍性疾患すなわち、石綿肺、良性石綿胸水、びまん性胸膜肥厚や、腫瘍性疾患す
なわち、中皮腫、肺癌が生じるが、これらについて日本では、患者に対する補償あるいは救済が行われている。従って、それ
らを正しく診断することが、患者の治療とともに補償制度や救済制度の運用にも重要である。しかしながら、血清や胸水中の
診断マーカーの検査や CT などの画像診断にも不確実性があり、最終的な診断に至らない。そこで、正しい診断に至るための
病理診断が期待されるが、そこにもさまざまな困難さがあり、その克服に努力している。
2. 岡部和倫他(山口宇部医療センター)
悪性中皮腫に対する胸膜肺全摘出術(extrapleural pneumonectomy, EPP)には実施者によって質の差がある。演者は
Dr.Sugarbaker から手法を学んでおり、その手法を紹介した。
3. 廣島健三他(千葉大学)
胸膜肺全摘出術を受けた後、長期生存している 7 例の中皮腫例について、中皮腫の組織像を把握するとともに、腫瘍細胞
における p16INK4A のメチル化の有無を調べた結果、メチル化のある例では予後が悪いことが判明した。
4. 森永謙二他(環境再生保全機構)
現在、世界のなかで石綿関連疾患について補償や救済が行われているフランス、ベルギー、オランダ、イギリス、日本の
状況を紹介した。
5. 田川雅敏他(千葉がんセンター)
Replication-competent recombinat adenovirous (Ad)を用いた中皮腫の遺伝子治療の開発のなかで、promotor-medicated
-37-
replication-competent Ad with the type 35 fiber-knob を作成し、これが中皮腫細胞に対して type 5 Ad よりつよい抗腫瘍効果
をもつことを明らかにした。
6. 篠原也寸志他(労働安全衛生センター)
肺組織の中から石綿小体の定量を正しく行うために、2 年間にわたる共同研究を行った。初年度に石綿小体の形や大きさ
に関して規準を作成した結果、翌年度には定量結果によい合意がえられた。
7. 西村泰光他(川崎医科大学)
抗腫瘍免疫を司る natural killer (NK)細胞の細胞障害性は NKG2D、2β4、NKp46 などのレセプターによってコントロ
ールされている。実験的にクリソタイルに曝露されたヒト NK 細胞の特性を調べ、NKp46 が免疫活性をはかるよい指標とな
る可能性が示唆された。
8. 金龍男 他(広島大学)
上皮型中皮腫の腫瘍細胞におけるアポトーシスを検討し、アポトーシス関連蛋白である survivin の高発現が caspase3 の
活性化を阻害しアポトーシスを抑制していることを見出した。
考察
中国におけるアスベスト(石綿)の生産状況や輸入状況をみると、アスベストによる健康障害の発生が日本よりほぼ 20 年遅
れて継続する可能性が考えられる。アスベスト(石綿)の中でクリソタイルは安全であるという考え方は、アスベスト(石綿)鉱
山があり、これを輸入している国あるいはそれを担う企業において述べられているが、クリソタイルが安全であるという科学的な
根拠は希薄である 1)。事実今回の中国側からの発表でも、クリソタイル紡績業に従事する女性に大きな健康障害が認められている。
アスベスト(石綿)の使用について、厳重な管理のもとで可能という議論もある。しかし、クリソタイルは短い繊維であり、
空中に飛散する可能性も高いことから、アスベスト製品を生産する工場内での管理は可能であったとしても、その製品を利用する
一般の生活環境では、製品の劣化によるクリソタイル飛散と体内への吸引という危険性が常に残されると考えられる。中国におい
てもクリソタイルを含むアスベスト(石綿)の全面的な使用禁止が望まれる。
アスベスト(石綿)曝露によるさまざまの疾患については診断が難しい 2)。日本においては近年、労災補償制度に加えて救済
制度が発足して以降、それらの疾患の診断の精度の問題が浮上してきている。非腫瘍性疾患では、様々な原因でおこる肺の線維化
の中からアスベスト(石綿)への曝露による石綿肺であることを証明していくことは難しい。また、胸水貯留あるいは胸膜肥厚と
いう非特異的な所見も、他の原因による所見との鑑別が難しい。腫瘍性疾患では、中皮腫は病理学的診断が重視されるが、日本で
はこれまでの診断を再検討すると 10 数%は誤診であるという結果をえている 3)。また、肺癌についてみると、その 80〜90%は喫
煙が主たる要因と考えられることからも、それらの中からアスベスト(石綿)が原因とする根拠をいかに求めるかが問題となる。
欧米では、アスベスト(石綿)への曝露歴があれば全ての患者を補償・救済するとの考えもあるが、日本ではこれらの疾患の鑑別
を厳密に行うことで対処している。日本においてもこれらの制度の運用方法が変わる可能性もなくはないが、中国が補償・救済制
度をどのような形で作るかについても日本を参考にすることが多いと思われる。
日本においては、アスベスト(石綿)への曝露による健康被害に関する基礎的な研究が多方面からすすめられている。これら
の研究の進展は、疾患の予防や診断あるいは治療法の開発に繋がると思われ、中国においても、こうした基礎的な研究が今後展開
されることが期待される。
参考文献
1) 神山宣彦、石綿の基礎知識、石綿ばく露と石綿関連疾患(森永謙二編), pp17-54, 三信と所, 2007
2) 井内康輝:病理学的にみたアスベスト関連疾患の診断. 肺癌 49: 83-87, 2009
3) Takeshima Y., Inai K. et al: Accuracy of pathological diagnosis of mesothelioma cases in Japan: Clinicopathological
analysis of 382 cases, Lung Cancer 66: 191-197, 2009
-38-
-39-
-日中医学協会助成事業-
肺炎球菌ワクチンに対する免疫応答性の日中間における比較に関する研究
研究者氏名
教授
川上和義
研究機関
東北大学大学院医学系研究科
共同研究者氏名
張
天托(中山大学医学部
教授)
宮坂智充(東北大学大学院医学系研究科
大学院生)
要旨
肺炎球菌は成人肺炎の最も頻度の高い起炎菌であり、65 歳以上の高齢者や慢性心肺疾患を有する患
者では肺炎球菌ワクチンの接種が推奨されている。現在使用可能な肺炎球菌ワクチン(ニューモバッ
クス®)は胸腺非依存性抗原であるためメモリー反応が期待できず、感染予防に必要な血清抗体価がど
の程度維持できるのか不明な点も多い。本研究では、中国広州市中山大学医学部附属第三医院呼吸器
内科との共同研究により、肺炎球菌ワクチン接種前後で経時的に血清抗体濃度を測定することによっ
て、ワクチンに対する免疫応答性及び抗体価の持続期間について検討するとともに、現在申請者が宮
城県南地域において得ているデータと比較することで日中間の相違点について解析を実施した。宮城
県南地域では、肺炎球菌莢膜血清型 6B、14、19F、23F に対する血清 IgG 抗体濃度については 14 で 3
カ月後、その他の血清型では 4 週後をピークに増加がみられた。その後、6B では接種 1 年後までピー
ク値に近い濃度が維持されたが、その他の血清型では接種 1 年後にはピーク値の半分近くにまで低下
を示した。一方、中国での解析では、各種血清型に対する血清 IgG 抗体濃度は 19F を除き 1 カ月後に
ピークとなり、まだワクチン接種 6 カ月後の段階ではあるが、23F ではピーク値の約 1/3 にまで低下
していた。このように、これまでの欧米からの報告と異なり、日本と中国では血清抗体濃度が比較的
早期に低下する可能性が示唆され、今後のさらなる追跡調査が重要と考えられた。
Key Words:肺炎球菌ワクチン、免疫応答性、血清抗体濃度、低応答者、日中間比較
緒
言:
肺炎は高齢者の主要な死亡原因であり、その予防は重要な対策のひとつとなる。肺炎球菌は成人肺
炎の最も頻度の高い起炎菌であり、65 歳以上の高齢者や慢性心肺疾患を有する患者では肺炎球菌ワク
チンの接種が推奨されている。現在使用可能な肺炎球菌ワクチン(ニューモバックス®)は胸腺非依存
性抗原であるためメモリー反応が期待できず、感染予防に必要な血清抗体価がどの程度維持できるの
か不明な点も多い。欧米ではワクチン接種後の血清抗体価は 5 年程度持続するとされているが(1, 2)、
わが国での解析は限定されたものであり、中国ではほとんど解析されていないのが現状である。最近
Chen らは、わが国の主要な4種の血清型についてワクチン接種前後での血清抗体価を解析し、上昇し
た抗体価が 2 年後には初期値付近まで低下することを報告している(3)。我々も宮城県南地域におい
てワクチン接種による血清抗体価の推移を検討しており、同様に1年以内の早期に低下する症例が少
なくないことを観察している。このことは、血清抗体価の持続期間における人種の影響について問題
を提起しているものと考えられる。すなわち、欧米と日本、中国のような東アジアとでワクチンに対
する応答性や予防抗体の持続性に明らかな相違がみられるのであれば、今後の肺炎予防対策を考える
際に欧米とは異なる独自のエビデンスの構築が求められることになる。そこで本研究では、中国広州
-40-
市中山大学医学部附属第三医院呼吸器内科との共同研究により、肺炎球菌ワクチン接種前後で経時的
に血清抗体価を測定することによって、ワクチンに対する免疫応答性及び抗体濃度の持続期間につい
て検討するとともに、現在我々が宮城県南地域において得ているデータや欧米からの報告と比較する
ことで、日中間、そしてさらに欧米との相違点について解析を実施した。
対象と方法:
本研究では、宮城県白石市の公立刈田綜合病院及び中国広州市中山大学医学部附属第三医院との共
同研究を実施した。公立刈田綜合病院呼吸器内科外来に通院中の慢性呼吸器疾患患者 55 症例、中山
大学医学部附属第三医院呼吸器内科外来に通院中の 30 症例から得られた血清検体を用いて以下の研
究を実施した。
ワクチン接種前後の血清抗体濃度の推移を調べるために、日本では接種前、接種 2 週、4 週、3 ヶ
月、6 ヶ月後、そして 1 年後に、中国では接種前、接種 4 週、6 ヶ月後に血清を採取した。血清 IgG
抗体濃度は、WHO によって推奨されている第三世代 ELISA を用いて、莢膜血清型 6B、14、19F、23F
について測定した。但し、中国の検体においては、本報告書作成の段階では 19F、23F については測
定を開始できていなかった。
(倫理面への配慮)
本研究については、東北大学及び公立刈田総合病院の倫理委員会の承認を受けており、十分なイ
ンフォームドコンセントの上で被験者の同意を得ることとした。中国での研究を開始する前に、中
山大学医学部第三附属医院の倫理委員会の承認を得た上で、被験者からは十分なインフォームドコ
ンセントによる研究協力への同意を得た。
結
果:
1)日本における血清抗体濃度の推移
公立刈田綜合病院の 55 症例における肺炎球菌莢膜血清型 6B、14、19F、23F に対する血清 IgG 抗体
濃度については 14 で 3 カ月後、その他の血清型では 4 週後をピークに増加がみられた。その後、6B
では接種 1 年後までピーク値に近い濃度が維持されたが、その他の血清型では接種 1 年後にはピーク
値の半分近くにまで低下を示した(図 1)。また、ワクチン接種前の IgG 抗体濃度が 2μg/ml 以下の患
者では、6B、14、19F、23F においてそれぞれ 21%、15%、13%、22%でピーク時の濃度が前値の 2 倍
に到達しなかった(低応答者)。
図 1.日本における肺炎球菌ワクチン接種後の IgG 抗体血清濃度の推移
2)中国における血清抗体濃度の推移
中山大学医学部附属第三医院での解析では、肺炎球菌莢膜血清型 6B、14、23F に対する血清 IgG 抗
-41-
体濃度は公立刈田綜合病院と同様に 1 カ月後にピークとなり、19F だけは 1 カ月後よりも 6 カ月後の
方が高値を示した。まだワクチン接種 6 カ月の段階ではあるが、6B 及び 14 ではピーク値の約 3/2 を
維持しており、23F ではピーク値の約 1/3 にまで低下していた(図 2)。また、低応答者は 6B、14、
19F、23F において、それぞれ、14.3%、16.7%、33.3%、9.1%であった。
図2.中国における肺炎球菌ワクチン接種後の IgG 抗体血清濃度の推移
考
察:
本研究で我々は、肺炎球菌ワクチンに対する免疫応答性及びワクチン接種前後における血清中の莢
膜血清型特異抗体濃度の推移について解析し、日中間での比較検討を行った。中国における肺炎、髄
膜炎、菌血症患者から分離される肺炎球菌の莢膜血清型は未だ不明であるため、今回の抗体濃度測定
は、我が国での主要な血清型である 6B、14、19F、23F について実施した。ワクチン接種前の抗体濃
度については両国間で類似した値を示しており、これらの血清型の頻度に関してはそれほど大きな相
違はない可能性が予想される。一方、ワクチン接種後のピーク値については、19F、23F では大きな
相違はないものの、6B、14 では中国でより高い応答性が認められた。症例数が十分でないために明
確なことは言えないものの、両国間でワクチンに対する免疫応答性に相違がみられる可能性が示唆さ
れた。便宜的にワクチン接種前の抗体濃度が 2μg/ml 未満で、前値に対するピーク値の比が 2 未満の
場合を低応答者と定義すると、日本では 6B、14、19F、23F についてそれぞれ 21%、15%、13%、22%、
中国では 14.3%、16.7%、33.3%、9.1%と多少の相違はあるものの、統計学的に有意な差は認められな
かった。
肺炎球菌ワクチン接種後の血清抗体濃度の持続期間については、宮城県南での検討では 6B で接種
1 年後までピーク値に近い濃度が維持され、その他の血清型では接種 1 年後にはピーク値の半分近く
-42-
にまで低下を示したのに対して、中国での検討ではワクチン接種 6 カ月の段階ではあるが、6B 及び
14 ではピーク値の約 3/2 を維持しており、23F ではピーク値の約 1/3 にまで低下していた。今回の検
討では、一部の血清型では血清抗体濃度が比較的短い期間で低下する可能性が予想された。米国にお
ける初期の検討から血清抗体価は 5~10 年程度持続すると考えられてきた(1, 2)。これまでわが国
では、肺炎球菌ワクチンの再接種は認められておらず生涯 1 度のみであったが、最近になって前回の
接種から 5 年程度経過していれば再接種が認められるように変更された(4-6)。しかし、本研究で
はワクチン接種後 1 年という比較的短い期間での血清抗体濃度の低下が認められたことから、今後さ
らなる継続的な調査研究が必要になる。さらには、ワクチン接種後の血清抗体濃度の推移が日中間で
類似していたことから、欧米との比較を目的とした研究も今後は望まれ、このような解析を通してよ
り効果的な肺炎予防対策が可能になるものと考えられる。
参考文献:
1) Mufson MA, Krause HE, Schiffman G: Long-term persistence of antibody following immunization with
pneumococcal polysaccharide vaccine. Proc Soc Exp Biol Med. 173: 270-275, 1983.
2) Mufson MA, Krause HE, Schiffman G, Hughey DF. Pneumococcal antibody levels one decade after
immunization of healthy adults. Am J Med Sci. 293: 279-284, 1987.
3) Chen M, Hisatomi Y, Furumoto A, Kawakami K, Masaki H, Nagatake T, Sueyasu Y, Iwanaga T, Aizawa H,
Oishi K. Comparative immune responses of patients with chronic pulmonary diseases during the 2-year
period after pneumococcal vaccination. Clin Vaccine Immunol. 14: 139-145, 2007.
4) 川上和義: 肺炎球菌ワクチンによる肺炎予防効果とその持続期間、そして再接種問題について. 感
染制御, 5: 539-542, 2009.
5) 川上和義: ワクチンによる肺炎予防とその免疫学的機序, 内科学会雑誌, 98: 291-297, 2009.
6) 大石和徳, 川上和義, 永井英明, 砂川慶介, 渡辺 彰: 肺炎球菌ワクチン再接種承認の必要性に関
するアンケート調査研究. 日本呼吸器学会雑誌, 48: 5-9, 2010.
-43-
-44-
—日中医学協会助成事業—
iPS 細胞を利用した先天性骨髄不全症候群の病態解析と治療法の開発
研究者氏名
日本研究機関
中国研究機関
共同研究者名
馬峰
東京大学 特任研究員
中国科学院血液学研究所
竺暁凡
要 旨
Fanconi 貧血、Kostmann 症候群、Diamond-Blackfan 症候群、Pearson 症候群、Shwachaman-Diamond
症候群、先天性角化異常症等の様々な遺伝的背景を有する先天性骨髄不全症候群
(CBMFS:congenital bone marrow failure syndrome)の研究を目的として、ヒト胚性幹細胞(ES
細胞)から血液細胞への分化誘導法を、健常人由来人工多能性幹細胞(iPS 細胞)と CBMFS 患者
由来 iPS 細胞に応用し、その血液細胞への分化過程を解析することを計画した。健常人由来 iPS
細胞は、ヒト ES 細胞と同様に、胎生 15〜16 日のマウス胎仔肝由来ストローマ細胞との共培養に
より、培養 2 週間め頃より多能性造血前駆細胞を含む種々の造血前駆細胞が分化誘導され、これ
らの造血前駆細胞から、赤血球、好中球、マクロファージ、巨核球などの様々な血液細胞の産生が可
能であった。今後は、健常人由来 iPS 細胞から血液細胞への分化過程を、現在樹立中の CBMFS
患者由来 iPS 細胞のそれと比較検討することにより、CBMFS の病因・病態が解明され、新たな治
療法が開発されることが期待される。
Key Words iPS 細胞, 先天性骨髄不全症候群, 造血前駆細胞, ストローマ細胞
緒 言:
Fanconi 貧血、Kostmann 症候群、Diamond-Blackfan 症候群、Pearson 症候群、Shwachaman-Diamond
症候群、先天性角化異常症等の様々な遺伝的背景を有する骨髄不全症が存在し、これらは先天性
骨髄不全症候群(CBMFS:congenital bone marrow failure syndrome)と呼ばれる。CBMFS の原因
遺伝子については、その一部は特定されているが、同定されていないものも多数存在し,特定さ
れた遺伝子についても、骨髄不全を惹起するメカニズム、さらには白血病、悪性腫瘍へ進展する
メカニズムについてはほとんど解っていない。
一方、人工多能性幹細胞(iPS 細胞)は、皮膚繊維芽細胞などの体細胞から樹立される、胚性
幹細胞(ES 細胞)と同質の性状を有する多能性幹細胞である。特に、ヒト iPS 細胞の樹立法が
開発されたことにより、その臨床応用が期待されている。我々は、これまでに、マウス胎仔肝由
来ストローマ細胞との共培養により、ヒト ES 細胞が多能性造血細胞へ分化誘導されることを示
してきた(参考文献1,2)。
それらの成果から我々は、我々が確立したヒト ES 細胞から血液細胞への分化誘導系をヒト iPS
細胞の分化誘導に応用することにより、さまざまな CBMF 疾患患者から樹立された iPS 細胞の血
液細胞への分化過程を、健常人由来 iPS 細胞のそれと細胞生物学的及び分子生物学的に比較検討
することにより、CBMFS の病因・病態の解明や治療法の開発が可能になるのではないかと考え、
本研究を実施した。
-45-
方 法:
1. マウス胎仔肝由来ストローマ細胞の樹立
我々がすでに報告した方法で(参考文献3)、胎生 15〜16 日のマウス胎仔肝から分離された細
胞を付着培養し、ストローマ細胞を樹立した。
2.ヒト iPS 細胞とマウス胎仔肝由来ストローマ細胞の共培養
ヒト iPS 細胞を、樹立されたマウス胎仔肝由来ストローマ細胞と共培養し、産生されてくる細
胞を、形態学的観察、フローサイトメトリー、RT-PCR 法、血液細胞コロニー形成法などによ
り、継時的に解析した。
3.ヒト iPS 細胞由来赤血球におけるヘモグロビンの解析
マウス胎仔肝由来ストローマ細胞との共培養により分化誘導されたヒト iPS 細胞を血液細胞コ
ロニー培養し、形成された赤血球コロニーや混合コロニーに含まれる赤血球系細胞のヘモグロ
ビンを、免疫染色により解析した。
結 果:
1. マウス胎仔肝由来ストローマ細胞の樹立
胎生 15〜16 日のマウス胎仔肝から分離された細胞を付着培養することにより、ストローマ細
胞を樹立することができた(図1)。
2. マウス胎仔肝由来ストローマ細胞との共培養によるヒト iPS 細胞から血液細胞への分化
(1)形態学的観察
ヒト iPS 細胞は、樹立されたマウス胎仔肝由来ストローマ細胞と共培養すると、ヒト ES 細胞との
共培養と同様に、培養 5 日目ごろより分化を開始し、培養 10 日目ごろには、未分化な小型円
形細胞が出現した(図2)
。その後、培養 15 日ごろまで、これらの細胞は増殖し続けた。
(2)RT-PCR による検討
ヒト ES 細胞との共培養と同様に、培養 13 日目には、未分化な iPS 細胞のマーカーである
Oct4、未熟な中胚葉系細胞のマーカーである Brachury の発現は認められなくなった。
図1.
樹立されたマウス胎仔肝由来
ストローマ細胞
-46-
(3)フローサイトメトリーによる検討
ヒト ES 細胞との共培養と同様に、CD34+細胞は、培養 5 日目ころから共培養中に出現し、培養 16〜17
日ころまで増加し続けた。培養 14 日目の CD34+細胞の一部は、CD45 や c-Kit を発現していた。
(4)血液コロニー形成法による検討
interleukin (IL)-3、エリスロポエチン、トロンボポエチン、GM-CSF (granulocyte-macrophage
colony-stimulating factor)、G-CSF (granulocyte colony-stimulating factor)、SCF (stem cell factor)存在
下での血液コロニー培養による検討でも、ヒト ES 細胞との共培養と同様に、血液細胞コロニー形成細
胞は、
培養 10 日目ごろに初めて出現した。
その数は次第に増加し、
培養 14〜16 日目には最大となった。
観察されたコロニー形成細胞は多様で、赤血球コロニー、顆粒球・マクロファージコロニー、種々の
血液細胞を含む混合コロニーが認められた。これらのコロニー中には、赤血球、好中球、マクロファ
ージ、巨核球などの種々の血液細胞がされていた。産生された赤血球の中には、脱核した成熟赤血球
も認められた。
以上の結果は、ヒト iPS 細胞は、ヒト ES 細胞と同様に、マウス胎仔肝由来ストローマ細胞との共
培養により、赤血球系前駆細胞、骨髄球系前駆細胞、さらには、複数の血液細胞に分化可能
な多能性造血前駆細胞に分化誘導され、これらの造血前駆細胞から種々の血液細胞が産生さ
れたことを示している。
3. ヒト iPS 細胞由来赤血球における成人型ヘモグロビンの合成
上記の方法により形成された赤血球コロニー、あるいは混合コロニーに含まれるヒト iPS 細胞由来赤血
球のほとんどが、胎児型ヘモグロビン(HbF)を保持していたが、同時に、成人型ヘモグロビン(HbA)も保持
していることが確認された。
考 察:
今回の検討により、ヒト iPS 細胞は、ヒト ES 細胞と同様に、マウス胎仔肝由来ストローマ細胞との
共培養により、血液細胞への分化が可能であった。
現在、CBMFS 患者から iPS 細胞を樹立中であり、今後は CBMFS 患者由来 iPS 細胞と健常人由来 iPS 細胞の血
液細胞への分化を比較検討することにより、これまでほとんど解明されていない CBMFS の病因・病態を解明
し、治療法の開発に繋げていきたいと考えている。
図2.
ヒト iPS 細胞とマウス胎仔肝
由来ストローマ細胞との共培
養中に出現した小型円形細胞
(培養 10 日目)
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参考文献:
1. Ma F, Ebihara Y, Umeda K, Sakai H, Hanada S, Zhang H, Zaike Y, Tsuchida E, Nakahata T, Nakauchi
H, Tsuji K: Generation of functional erythrocytes from human embryonic stem cell-derived definitive
hematopoiesis. Proc Natl Acad Sci USA 105: 13087-13092, 2008.
2. Ma F, Wang D, Hanada S, Ebihara Y, Kawasaki H, Zaike Y, Heike T, Nakahata T, Tsuji K: Novel
method for efficient production of multipotential hematopoietic progenitors from human embryonic stem
cells. Int J Hematol 85:371-379, 2007.
3. Ma F, Wada M, Ebihara Y, Ishii F, Manabe A, Tanaka R, Maekawa T, Ito M, Mugishima H, Asano S,
Nakahata T, Tsuji K: Development of human lymphohematopoietic stem/progenitor cells defined by
CD34 and CD81 expressions. Blood 97: 3755-3762, 2001.
注:本研究成果の一部は、2009年 9月 9-12日第 38回国際実験血液学会にて口頭発表。
作成日:2010年 2月 28日
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-54-
-日中医学協会助成事業-
脊髄損傷の治療のための損傷後の中枢神経系における神経再生に関する研究
要
研究者氏名
川野 仁
日本所属機関
東京都神経科学総合研究所
共同研究者名
李 洪鵬
中国所属機関
中国医科大学解剖学
旨
脊髄損傷患者は日本に約10万人おり、毎年新たに5000人の受傷者が生じている。しかし、その治療法が
確立されていないために、多くの患者が寝たきりや車いすの生活を強いられている。中国でも日本の10倍
に及ぶ脊髄損傷患者がいるが、脊髄損傷に関する研究は欧米や日本に比べて遅れている。本事業では、①
日本と中国の研究者による脊髄損傷に関する共同研究を推進することと、②中国の医育研究機関において
技術の習得や研究者の育成を進めること、の二つに焦点を当てた。その成果は以下の通りである。
① 日中共同研究の推進:脊髄損傷の治療法として有望視されている嗅神経被覆細胞(OEC)の移植の再
生促進の機序を中国医科大学と協同して研究し、細胞移植が損傷部に形成される再生阻害因子である
線維性瘢痕の形成を抑制することで神経再生と運動機能回復を促進することを見いだした(Neural
Regeneration Research, 2010, 印刷中)。
② 中国の研究者の育成と技術の指導:李助教授は昨年5月に3週間神経研に滞在し、細胞移植や標本作
成などの技術を習得し、帰国後、中国医科大学の教員や大学院生にその技術を教えている。さらに、
昨年9月には川野研究員が中国医科大学を訪れ、神経再生に関する講習を行い、脊髄損傷の治療法の
研究について指導した。
以上のように、当事業は所期の目的通りの成果を上げたと言える。
Key Words
緒
脊髄損傷,
神経再生,
線維性瘢痕,
グリア瘢痕,
ラット
言:
スポーツ事故や転落事故などにより脊髄が損傷を受けると、損傷部より下位の運動・知覚機能に重篤な障
害が生じる。現在のところ脊髄損傷の有効な治療法は確立されておらず、多くの患者が車椅子や寝たきりの
生活を余儀なくされている。脊髄損傷の治療が困難な理由は、損傷を受けた神経線維がほとんど再生せず、
失われた機能を回復できないからである。神経再生が起こりにくい理由として、神経細胞自身の再生能の欠
如に加えて、グリア瘢痕やコンドロイチン硫酸プロテオグリカンなど、再生軸索の伸長を阻害する種々の環
境因子の存在が挙げられてきた。しかし脳や脊髄の損傷部でそれら阻害因子の働きを抑制し、神経再生を実
現させようという試みが繰り返し行われてきたが、多くの場合予想外に小さな効果しか得られていない。
われわれは再生阻害因子として、線維性瘢痕に注目してきた。線維性瘢痕は損傷後、線維芽細胞が損傷部
に侵入し、コラーゲンなどの細胞外マトリックスを分泌して形成する、いわば「カサブタ」のようなもので
ある。これまでに、①マウス新生仔(Kawano et al., 2005)、②IV型コラーゲンの合成阻害(Kawano et al.,
2005)、③視床下部弓状核(Homma et al., 2006)、④コンドロイチン硫酸の酵素的分解 (Li et al., 2007) な
どの損傷脳のモデルを解析したところ、いずれのモデルにおいても、線維性瘢痕が形成されない状況で、神
経再生が起こっていた。この一連の研究成果は、線維性瘢痕が強力な再生阻害因子であることを示している。
-55-
動物の脊髄損傷モデルにおいては、様々な細胞を損傷部に移植することで神経再生と機能回復を促進す
る試みが多数報告されている。とくに嗅神経被覆細胞(OEC)は患者自身から採取し、培養した後に移植す
ることが可能なため、すでにいくつかの国では患者を対象にした移植手術も行われている。しかし、細胞
移植による神経再生促進のメカニズムはいまだに不明であり、患者への移植手術も動物で見られたほどの
運動機能の改善は起こっていない。われわれは最近、脳損傷モデルマウスの損傷部へOECを移植すると、線
維性瘢痕の形成が抑制され神経再生が促進することを見出している(Teng et al., 2008)。
本研究は、ラットの脊髄損傷部へ OEC を移植し、その神経再生促進のメカニズムを明らかにすることを目的
として計画された。もし、OEC 移植群で損傷部における線維性瘢痕の形成が抑制され、神経再生が促進されて
いれば、線維性瘢痕が主要な再生阻害因子であるという、われわれの仮説が脊髄損傷においても証明されるこ
とになる。
対象と方法:
1.嗅球グリア細胞の調整
生後4週齢の SD 系雄ラットの嗅神経と嗅球の糸球体層をイソフルラン吸入麻酔下で取り出し、小片にして
10%胎仔牛血清を含む Eagle/F12 培養液中で 4-6 日間培養した。組織片から細胞が十分に遊走したら、遊走し
た細胞だけを集め、さらに約 2 週間培養した。細胞を蛍光色素である Hoechst33342 で標識した後、トリプシ
ン処理によりディッシュから剥がし、培養液で約 5-8×107/ml の濃度に調整した。それぞれの細胞マーカーで
確かめたところ、培養細胞に含まれる OEC と線維芽細胞の割合はそれぞれ、40%と 60%であった。
2.嗅球グリア細胞の移植
生後8週齢の SD 系雄ラットをペントバルビタール Na(50mg/kg 体重)で麻酔し、背部の皮膚と筋を切開し
た後、下部胸椎の椎弓と棘突起を切除し、幅 2 mm のナイフで脊髄を完全に切断した。マイクロシリンジを用
いて 2 μl(約 1×105 個)の OEC と線維芽細胞の懸濁液を脊髄損傷部に注入した。術後、術部を縫合し、抗生
物質を注射した。Sham コントロールは脊髄を露出するだけで、ナイフは挿入しなかった。
3.標本作製と免疫組織化学
術後1週あるいは2週に、ラットはイソフルラン麻酔下で、心臓より 4%パラフォルムアルデヒド液を用い
て灌流を行い、脊髄を固定した。脊髄を取り出し、さらに一晩固定した後に、ドライアイス中で凍結し、40 μm
厚の連続矢状断切片を作成した。
免疫組織化学的染色には、GFAP、IV 型コラーゲン、RECA-1、セロトニン、CGRP に対する各抗体を用いた。
単染色は ABC 法を行い、DAB で褐色に発色した。また 2 重免疫染色は異なる蛍光色素で標識した抗体を用いた。
セロトニン線維については、KS400(Ziess 社、ドイツ)を用いて画像解析を行い、再生線維の数を計測した。
結
果:
使用したラットは、損傷のみが 9 匹(1週間 5 匹、2週間 4 匹)、OEC 移植が 11 匹(1週間 5 匹、2週間
6 匹)、sham 手術群(脊髄を切断しないコントロール)が 3 匹であった。下位胸髄を微小ナイフにより切断す
ると、下肢の運動は麻痺し、2 週後までほとんど回復しなかった。組織学的に観察すると、損傷部には IV 型
コラーゲン陽性の線維性瘢痕が形成されており、その周囲には GFAP 強陽性を示す反応性アストロサイトが集
積してグリア瘢痕を形成していた。上行性(知覚性)のカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)を含む線維
と、下行性(運動性)のセロトニン線維はいずれも損傷部を越えて再生することはなかった。
一方、OEC を移植したラットは術直後では下肢の麻痺が見られたが、徐々に回復する傾向を示した。OEC 移
植群の損傷部を組織学的に解析すると、グリア瘢痕も線維性瘢痕も損傷のみの場合と変わりなく存在している
ように見えた。それにもかかわらず、多数のセロトニン線維と CGRP 線維が移植組織内を伸長し、損傷部を越
-56-
えて再生する線維も有意に増加していた。線維性瘢痕の有無についてさらに詳しく調べてみた。IV 型コラー
ゲンは線維性瘢痕の他に血管にも発現しているため、血管に特異的な RECA-1 と蛍光二重免疫染色を行い両者
の局在を比較した。損傷のみの群では、血管以外にも線維状の IV 型コラーゲンの沈着が豊富に見られ、線維
性瘢痕が明らかに認められた(図1A-C)。それに対し、OEC 移植群では、損傷のみに比べ血管が明らかに増
加していたが、血管以外の IV 型コラーゲンの沈着は少なく、線維性瘢痕の形成が抑制されていることが分か
った(図1D-F)。
図1.損傷のみ(上段)と OEC 移植(下段)の損傷部における RECA-1 陽性の血管(A, D、赤色)と
Col IV(B, E、緑色)の局在。損傷のみでは血管以外に Col IV の沈着(C、緑色)が豊富に存在し、
線維性瘢痕が形成されているが、OEC 移植では線維性瘢痕の形成はほとんどない(F)
考
察
現在、OEC の損傷部への移植は、脊髄損傷の治療法としてもっとも有望視されているが、その再生促進のメ
カニズムは明らかでなかった。脊髄損傷部には種々の再生阻害因子が存在する。それらの中で、OEC 移植によ
り、線維性瘢痕の形成が抑制されていることを見出した(図1)。私たちは最近、OEC をラット中脳ドーパミ
ン線維の切断部に移植し、OEC 移植 2 週後で有意に神経再生が促進されることを見出している(Teng et al.,
2008)。
本研究では、ラット脊髄損傷部への OEC の移植により、下行性のセロトニン線維と上行性の CGRP 線維が損
傷部を越えて再生し、同時に運動機能回復も促進した。このような効果は、再生を阻害する線維性瘢痕の形成
が OEC 移植により抑制されたことによると結論された(図2)。本研究の成果は、現在、欧文原著論文として
印刷中である(Teng et al., 2010)
損傷後の脊髄には様々な軸索伸長阻害因子が存在し、これが神経再生が起こりにくい理由であると考えられ
てきた。これまで多くの研究者は反応性アストロサイトが形成するグリア瘢痕が主要な阻害因子であると考え
てきたが、OEC 移植により、グリア瘢痕の形成が抑制されるという結果は得られていない。今回の結果でもグ
リア瘢痕に変化は見られなかった。
-57-
図2.本研究のまとめ。損傷のみの場合(上)は脊髄の損傷部には線維性瘢痕が形成され、切断された
下行性のセロトニン線維と上行性の CGRP 線維は再生しない。OEC 移植群(下)では移植により線維性瘢痕の
形成が抑制され、再生線維が損傷部を越えて伸長する。
以上の研究のうち、損傷と OEC 移植の手術は共同研究員である李洪鵬(中国医科大学・解剖学教室・助教授)
と昨年 7 月まで神経研の流動研究員であった滕錫川(現遼東医学院大学・病理学教室・助教授)が、OEC の培
養は東京都神経研の黒田純子技術員がそれぞれ担当し、川野が研究の統括を行った。
今後、脊髄損傷の治療法の確立を目指してさらに研究を進めていく予定である。具体的には、OEC 移植に加
え、線維性瘢痕の形成を阻害する処置(IV 型コラーゲンの合成阻害やコンドロイチン硫酸の分解)の併用や、
軸索伸長を促進する神経栄養因子の投与なども考えている。
参考文献(下線は代表研究者と共同研究者):
Kawano H, Li HP, Sango K, Kawamura K, Raisman G: Inhibition of collagen synthesis overrides the age-related failure
of regeneration of nigrostriatal dopaminergic axons. J. Neurosci. Res., 80 (2): 191-202, 2005.
Homma A, Li HP, Hayashi K, Kawano Y, Kawano H: Differential response of arcuate proopiomelanocortin- and
neuropeptide Y-containing neurons to the lesion produced by gold thioglucose administration. J Comp Neurol., 499:
120-131, 2006.
Li HP, Homma A, Sango K, Kawamura H, Raisman G, Kawano H: Regeneration of nigrostriatal dopaminergic axons by
degradation of chondroitin sulfate is accompanied by elimination of the fibrotic scar and glia limitans in the lesion
site. J. Neurosci. Res., 85: 536-547, 2007.
Teng X, Nagata I, Li HP, Kimura-Kuroda J, Sango K, Kawamura K, Raisman G, Kawano H:
Regeneration of
nigrostriatal dopaminergic axons after transplantation of olfactory ensheathing cells and fibroblasts prevents fibrotic
scar formation in the lesion site. J. Neurosci. Res. 86(14):3140-3150, 2008.
注:本研究は以下に掲載された。Teng X, Yoshioka N, Kimura-Kuroda Junko, Kawamura Koki, Kawano H, Li HP:
Transplantation of olfactory ensheathing cells promotes axonal regeneration in a rat model of spinal cord injury. Neur.
Regener. Res. 2010 印刷中.
作成日:2010 年3月 12 日
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−日中医学協会助成事業−
神経変性疾患治療薬のトランスレーショナルリサーチの基盤形成
要
日本側研究者氏名
福永 浩司
所属機関
東北大学大学院薬学研究科
中国側研究者氏名
韓 峰
所属機関
浙江大学薬学部
旨
本研究の目的は日本と中国における神経変性疾患治療薬のトランスレーショナル・リサーチの基盤を形成する
ことである。東北大学(日本)、蘇州大学(中国)、浙江大学(中国)チームで神経変性疾患治療薬の開発研究を行
った。Fas-ligand (FasL) は TNF ファミリーに属するアポトーシス誘導因子のひとつであり、分子量約 40kDa の
II 型膜貫通蛋白質である受容体である Fas と結合することによって Fas を発現する細胞でアポトーシスを誘導
する。主に細胞膜に発現する膜型 FasL (mFasL)の細胞外領域にあたる C 末端側 26kDa が metalloprotease
のひとつである ADAM10 に限定分解され、soluble Fas-ligand (sFasL) が産生される。しかしながら、脳虚血に
おいて sFasL がいつ、どの細胞で産生され神経細胞死を誘導するのか明らかではない。本研究では 2 種類の
脳虚血モデルを用いて ADAM10 の活性化機構と脳虚血後の FasL の発現細胞を初めて明らかにした。さらに、
FasL の誘導を抑制する神経変性疾患治療薬のシーズを見出した。
Key Words 神経変性疾患, Fas-ligand, ADAM10, アポトーシス, Akt
緒
言:
私 達 は ア ル ツ ハ イ マ ー 病 の モ デ ル マ ウ ス で あ る 嗅 球 摘 出 マ ウ ス を 用 い て
bis(1-oxy-2-pyidinethiolato)oxovanadium (IV) [VO(OPT)] が protein tyrosine phosphatase1B を抑
制して、 PI3 キナーゼを活性化する結果、細胞の生存シグナルである protein kinase B (Akt) を活性化する
ことを報告した(図1) (1)。新しいシーズである VO(OPT) は嗅球摘出マウスおいて傷害された海馬歯状回にお
ける神経新生を回復させ、同時に認知機能障害を改善した (2)。脳虚血において Akt 活性が低下して、その結
果 FasL が誘導されること、 FasL の誘導は神経細胞に置いて Caspase 8、Caspase 3 を活性化してアポトーシ
スを誘導することを明らかにした (3,4)。しかし、脳虚血障害時に FasL が脳のどの細胞で産生され、脳損傷を
起こすのか不明であった。本研究では 2 種類の脳虚血モデルを用いて FasL の活性化機構を明らかにした。さ
らに、FasL の活性化を抑制する神経変性疾患治療薬のシーズを見出した。
実験方法:
マウス中大脳動脈一過性閉塞虚血モデルは既報の方法により作製した (3)。 12 週齢の C57BL6J マウスを実
験に用いた。シリコンコーティングしたナイロン栓糸を内頸動脈から挿入して、中大脳動脈を 90 分間閉塞した後
に再開通した。再開通直後(0)、2、6、24 時間後に脳組織を摘出して免疫ブロット解析を、灌流固定して免疫組
-60-
織化学的解析を行った。多発性脳塞栓モデルであるマイクロスフェア脳塞栓モデルは 10-12 週齢の Wistar 系
雄性ラットを用いて既報の方法で作製した (5)。マイクロスフェア注入直後(0)、0.5、2、3、7 日目に大脳皮質を
摘出して FasL の発現を免疫ブロット法で解析し、灌流固定して免疫組織化学でも解析した。ミノサイクリンは 45
mg/kg/day でマイクロスフェア注入の翌日から 6 日間、腹腔内投与した。
実験結果:
福永らはマウス中大脳一過性閉塞虚血モデルを用いて、90 分間虚血の再開通直後 (O)、2、6、24 時間後に虚
血部位である大脳皮質を摘出して、組織抽出液を調製して、免疫ブロット解析を行い、 ADAM10 の活性化の時間
経過を調べた。ADAM10 の活性化体は再開通直後から有意に上昇し、少なくとも 24 時間、その活性体の発現は
上昇した。免疫組織化学手法を用いて ADAM10 の発現細胞を調べると、特に、虚血の梗塞周辺領域(ペナンブ
ラ)において強い発現が見られ、その免疫反応性を示す陽性細胞のほとんど MAP2 陽性細胞であった。このこと
はペナンブラ領域の神経細胞において活性型 ADAM10 が脳虚血直後から持続的に発現することが示唆された。
次に、同じ脳組織抽出液を用いて、 mFasL と sFasL の発現を免疫ブロット法にて解析した。活性型 ADAM10 の
発現上昇の時間経過に一致して、 sFasL の量は 2 時間をピークとして急激に上昇し、24 時間まで有意な上昇
が持続した。逆に、 mFasL の発現量は 0 及び 2 時間で一過性に低下した。面白いことに虚血再開通後 24
時間後には mFasL も発現量が有意に上昇した。私達は以前に、 FasL 遺伝子発現が虚血後 1-2 日目に上昇
することを見いだしており、この結果と一致している。
次に、免疫組織化学的解析により、sFasL の発現部位について検討した。偽手術群のマウス大脳皮質において
は sFasL の免疫染色はほとんど見られない。それに対して、虚血再開通マウス大脳皮質のペナンブラ領域では
著しい免疫陽性細胞の上昇が見られた。神経細胞のマーカーである NeuN とミクログリア細胞のマーカーである
-61-
ED1 で二重染色を行うと、ほとんどの sFasL 陽性細胞は NeuN で染色され、僅かな sFasL 陽性細胞が ED1 陽
性であった。このことは虚血直後から発現する活性型 sFasL は主にペナンブラ領域の神経細胞に発現すること
を示している。虚血直後の sFasL の発現上昇は私達のオリジナルな発見である (Fukunaga et al, 論文準備
中)。
共同研究者である韓博士は、彼らが開発した多発性脳塞栓モデルであるマイクロスフェア脳塞栓ラットを用いて、
虚血後亜急性期での FasL の誘導を調べた (5)。マイクロスフェア注入後 2-7 日目にかけて、持続的な FasL
の上昇が認められた。免疫組織化学的解析により、 FasL の発現細胞を同定した。マイクロスフェア注入後 24
時間以降に発現が上昇するほとんどの細胞は ED1 陽性細胞であり、ミクログリアにおいて FasL が上昇すること
が示された。一方、少数の神経細胞とアストログリア細胞においても FasL の発現は上昇していた。次に、ミクログリ
アの活性化を抑制するミノサイクリンをマイクロスフェア注入後 1 日目から 6 日間投与して、 FasL の発現を検
討した。マイクロスフェア注入後 7 日目に見られる FasL の顕著な誘導はミノサイクリン投与により完全に抑制さ
れた。同時に、神経細胞死も有意に抑制された (Han et al, 論文投稿中)。このことは活性化ミクログリアにおけ
る FasL の誘導は神経細胞のアポトーシスの引き金になることを示している。
考察:
本研究で私達(東北大学)と韓博士(浙江大学)は異なる中大脳閉塞マウスとマイクロスフェア脳塞栓ラット脳虚
血モデルで検討した。急速に脳損傷が進展する中大脳動脈閉塞では再開通直後から FasL は ADAM10 により、
mFasL から sFasL が神経細胞において産生され、活性型 sFasL が神経細胞死を誘導すること、また、24 時間
後では mFasL が誘導されることが明らかとなった。一方、マイクロスフェア脳塞栓では 12 時間後から 7 日にか
-62-
けて mFasL の誘導が起こり、アポトーシスを誘導された。マイクロスフェア脳塞栓における mFasL の誘導細胞は
ミクログリアであり、ミクログリア抑制薬であるミノサイクリンがほぼ完全に mFasL 誘導を抑制することが解った。一
方、Qin 博士らは、脳虚血においてアポトーシスとは異なるオートファジーによる細胞障害が細胞死を誘導するこ
とを見いだした (6)。今後はオートファジーによる細胞死に対する VO(OPT) とミノサイクリンの抑制効果について
共同で解析する。
結語:
本研究では脳梗塞に伴う FasL の誘導を抑制する 2 つのシーズを開発した。 VO(OPT) は Akt の活性化反
応を介して FasL や Bim などのアポトーシス誘導因子の発現を抑制した(図 1)。テトラサイクリン系抗生物質であ
るミノサイクリンはミクログリアの活性化反応を抑制することで、 FasL の発現を抑制する。これらの研究成果は私
達のグループのオリジナルな発見であり、今後の脳梗塞急性期と亜急性期治療において新しい創薬開発に繋が
る。今後はこれらのシーズ化合物の毒性と臨床応用について日本と中国で共同研究を進めて臨床開発の基盤を
作る。
参考文献
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作成日: 2010 年 3 月 10 日
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-日中医学協会助成事業-
肝癌・ウイルス性肝炎に対する新規治療薬の開発と評価
Evaluation of new chemotherapeutic agents for hepatocellular carcinoma with hepatitis B
virus infection
研究代表者名:許 煥麗
日本研究機関名:東京大学医学部附属病院・肝胆膵外科学
中国側共同研究代表者名:杜 冠華
中国所属機関名:中国医学科学院・協和医科大学・薬物研究所
中国側共同研究者名:趙 新(解放軍第302医院・医)
,崔 暁燕(川大・医)
,徐 文方(山大・薬)
日本側共同研究者名:稲垣 善則(東大・医),唐 偉(東大・医)
Abstract
To find effective chemotherapeutic agents for hepatocellular carcinoma (HCC) with hepatitis B virus (HBV) infection,
we evaluated the effects of newly-synthesized compounds 24F and LY52 on the metastasis of a HBV infected HCC
cell line and the anti-HBV activities of cinobufacini and its active components bufalin and cinobufagin in this cell line.
The
effects
of
these
drugs
on
the
cell
proliferations
were
detected
by
3-(4,5-dimethylthiazol-2-yl)-2,5-Diphenyltetrazolium bromide assays. The effect of 24F on aminopeptidase (APN)
activity was measured by a spectrophotometric method using L-leucine-p-nitroanilide as a substrate of APN. The
effects of LY52 on the MMPs expressions were measured by gelatin zymography. The effects of 24F and LY52 on
cell invasion were performed by 24-well invasion chambers. Effects of Cinobufacini, Bufalin, and cinobufagin on
HBV antigens and DNA were quantified with a HBV DNA quantitative kit. The APN activity was inhibited in the
presence of 24F in dose-dependent manner. The effects of LY52 on MMP-9 expressions in HepG2.2.15 cells were
not obvious. The inhibition rates of LY52 on pro-MMP-2 levels of HepG2.2.15 cells were in a dose-dependent
manner. 24F could inhibit the invasion of HepG2.2.15 cells, which displayed 56% of inhibition rate in the
concentration of 100 μg/mL. LY52 could also effectively inhibit the invasion of HepG2.2.15 cells, although a dose
dependent manner was not found. The effect of cinobufacini on secretion of HBsAg, HBeAg, and HBcrAg was
promoted in a time-dependent manner. It was more effective than its components bufalin and cinobufagin in
inhibiting the secretion of HBV antigens. These result showed that 24F and LY52 might be effective anti-metastasis
regents for HCCs, even when the HCC cells were infected by HBV. Cinobufacini may serve as an anti-viral
therapeutic agent for the management of HBV infection, which warrants further investigation.
Key words: Hepatitis B virus, hepatocellular carcinoma, Aminopeptidase N inhibitor, matrix metalloproteinases
inhibitor, Cinobufacini
Introduction
Hepatitis B virus (HBV) is recognized as the leading cause of chronic hepatitis and the cause of 60-80% of
hepatocellular carcinoma (HCC) worldwide. A number of researches have shown that chronic infection by hepatitis
virus, especially HBV, leads to the progression of chronic hepatitis to liver cirrhosis and contribute to HCC. It was
also showed that HBV infection increased the invasion potential of HCC, though the role of HBV in the invasion and
metastasis of HCC was not elucidated clearly. Thus, the discovery and development of novel antiviral drugs for HCC
is urgently needed. Aminopeptidase N (APN/CD13) inhibitor 24F and matrix metalloproteinases (MMPs) inhibitor
LY52 were newly-synthesized compounds by our research group. Our previous studies showed that 24F could inhibit
the activity of the targeted enzyme APN and suppress the invasive capacity of HCC cells, and LY52 could inhibit the
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-日中医学協会助成事業-
invasion and metastasis of HCCs via blocking the proteolytic activities of MMPs. In this study, we evaluated the
effects of 24F and LY52 on the invasion ability of a HBV infected HCC cell line, HepG2.2.15.
Cinobufacini (Huachansu), a Chinese medicine prepared from this toad skin, has been extensively used in clinics to
treat a number of diseases, such as malignant tumors, chronic hepatitis B. In this study, we also evaluated the
anti-hepatitis B virus activities of cinobufacini and its active components bufalin and cinobufagin in HepG2.2.15 cells.
Materials and Methods
Reagents. The hydroxamic acid derivatives 24F was synthesized as one of series of cyclic-imide peptidomimetics
with free amino group by using 3D-QSAR model1. Caffeoyl pyrrolidine derivative LY52, was designed and
synthesized as described previously2. LY52 was dissolved in dimethylsulfoxide and 24F was dissolved in
phosphate-buffered saline for in vitro studies. Cinobufacini was obtained from Anhui Jinchan Biochemical Co., Ltd.,
China. Bufalin and cinobufagin were purchased from Sigma.
Cell culture and treatment. The human HBV-transfected cell line HepG2.2.15 was maintained in RPMI 1640
medium supplemented with 10% fetal calf serum, 100 unit/mL penicillin, 100 μg/mL streptomycin, and 200 μg/mL
G418 at 37 °C in a humidified incubator with 5% CO2. The effects of these drugs on the cell proliferations were
detected by 3-(4,5-Dimethylthiazol-2-yl)-2,5-Diphenyltetrazolium bromide (MTT) assays. The effect of 24F on APN
activity was measured by a spectrophotometric method using L-leucine-p-nitroanilide as a substrate of APN. The
effects of LY52 on the MMP-2 and -9 expressions were measured by gelatin zymography. The effects of 24F and
LY52 on cell invasion was performed by 24-well BD BioCoat Matrigel invasion chambers. Effects of Cinobufacini,
Bufalin, and cinobufagin on HBV antigens and DNA were quantified with a HBV DNA quantitative kit.
Results
Effects on proliferations of HepG2.2.15 cells
The HepG2.2.15 cell growth could be inhibited by 24F, but there was no significant difference in the inhibition rate
among 1-200 μg/mL of 24F. No acute cytotoxic effect was observed by trypan blue staining. The inhibitory effects of
LY52 on HepG2.2.15 cells proliferations increased as the concentrations and incubation periods increased. No
obvious inhibitory effects of LY52 were found in lower concentrations (<200 μg/mL) and in shorter incubation period
(24 h), which was also verified by trypan blue staining. Cinobufacini at the concentrations below 20 μg/mL, bufalin at
the concentrations below 10-2 μM, and cinobufagin at the concentrations below 10-1 μM were non-toxic to
HepG2.2.15 cells. Cinobufacini, bufalin, and cinobufagin could significantly inhibit the growth of HepG2.2.15 cells at
the concentrations above 20 μg/mL, 10-2 μM, and 10-1 μM, respectively.
Effects of 24F on aminopeptidase activity
The aminopeptidase activity was inhibited in the presence of 24F in dose-dependent manner and the inhibition rate of
ΔA/min under 0.27 mM (100 μg/mL) of 24F was around 25% compared with the negative control. In this analysis,
IC50 of 24F (the volume of 24F that displayed 50% inhibition of enzyme activity) was calculated 1.88 mM.
Effects of LY52 on MMPs activities
The effects of LY52 on MMP-9 expressions in HepG2.2.15 cells were not obvious. The inhibition rates of 0.1, 1, 10,
100, and 200 μg/ml of LY52 on pro-MMP-2 levels of HepG2.2.15 cells were 4.0%, 9.4%, 11.5%, 15.8%, and 34.4%,
respectively, compared with the control group (100%).
Effects of 24F and LY52 on the invasion of HepG2.2.15 cells
The number of invading cells was significantly decreased in the presence of 100 µg/mL of 24F compared with that in
non-treated cells. This result suggested that 24F has an ability to inhibit the invasion of HepG2.2.15 cells, which
displayed 56% of inhibition rate in the sample incubated with 100 μg/mL of 24F. LY52 could also effectively inhibit
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the invasion of HepG2.2.15 cells, although a dose dependent manner was not found. The inhibition rates of 0.1, 1, 10,
100, and 200 μg/mL of LY52 on invasion abilities of the HepG2.2.15 cells were 21.8%, 26.4%, 43.3%, 50.2%, and
19.7%, respectively.
Effects of cinobufacini, bufalin, and cinobufagin on the HBV antigens and DNA
The data clearly showed that the inhibitory effect of cinobufacini on secretion of three HBV antigens (HBsAg,
HBeAg, and HBcrAg) was promoted in a time-dependent manner. On day 6 cinobufacini at the concentration of 1
μg/mL significantly reduced the secretion of HBsAg, HBeAg, and HBcrAg, which was more potent than the positive
control 3TC (100 μg/mL) in inhibiting HBV antigen secretion. On day 6, bufalin at the concentration of 10-4 μM
significantly inhibited secretion of HBeAg and HBcrAg at the rates of 11.36 and 19.58%, respectively. In this
concentration of bufalin was more potent than the positive control 3TC in inhibiting HBcrAg secretion. The data for
bufalin at 10-4 μM on day 3 and 6 showed that the inhibitory effects of bufalin on secretion of two HBV antigens
(HBeAg and HBcrAg) were time-dependent. After incubation with cinobufagin for 3 days or 6 days, secretion of
HBeAg and HBcrAg in the culture medium was slightly less than that with the control. Moreover, cinobufagin at a
concentration of 10-3 μM on day 3 exhibited the same potent activity as the positive control 3TC (100 μg/mL) in terms
of the inhibition of HBeAg secretion.
Discussion
Although recent progress in the diagnosis and treatment modalities has improved the prognosis of patients with HCC,
the long-term prognosis remains disappointing because of the frequent recurrence and the development of intrahepatic
metastasis in 16%-65% of HCCs patients. Since APN functions to degrade extracellular matrix and thereby promote
the cancer cell invasion and metastasis, inhibition of APN function would have a significant role in the development
of cancer chemotherapeutic agents. This study showed that our newly-developed APN/CD13 inhibitor 24F can inhibit
the activity of the targeted enzyme APN and suppress the invasive capacity of HCC cell. It was suggested that HBV
infection may facilitate tumor cell invasion by upregulation of MMPs and subsequent destruction of the extracellular
matrix. In this study, we assessed the effects of MMPs inhibitor LY52 on MMPs expressions in HepG2.2.15 cells,
which is originated from the same clone of HCC. It was suggested that LY52 could effectively inhibit invasion of
HCC cells by suppressing MMP-2 expressions. These result showed that 24F and LY 52 might be effective
anti-metastasis regents for HCCs, even when the HCC cells were infected by HBV.
We also evaluated the anti-hepatitis B virus activities of cinobufacini and its active components bufalin and
cinobufagin in HepG2.2.15 cells. It was demonstrated that the effects of cinobufacini on secretion of HBsAg, HBeAg,
and HBcrAg was promoted in a time-dependent manner. It was more effective than its components bufalin and
cinobufagin in inhibiting the secretion of HBV antigens. The present findings suggested cinobufacini may serve as an
anti-viral therapeutic agent for the management of HBV infection, which warrants further investigation.
参考文献
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metalloproteinase-2, to suppress tumor invasion and metastasis. Int J Mol Med. 2006; 18 (4), 609-614
注:本研究は、2009年10月24日第82回日本生化学会大会にてポスター発表。なお、英文学術論文は投稿
中であります。
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―日中医学協会助成事業―
四川大地震被災住民のリハ看護に関するニーズに応じた
看護師現任教育プログラムの開発
研究者氏名
酒井郁子
日本所属機関
千葉大学大学院看護学研究科
共同研究代表者 胡秀英
中国所属機関
四川大学華西看護学部/華西病院
<要旨>
四川大地震被災者のリハ(以下リハ)看護ニーズおよび看護師のリハ看護に関する学習ニーズを明らかにし、
これをもとに看護師教育プログラムを立案、実施し,患者、看護師、病院管理からの多面的な効果を検討する
ことを目的として研究を実施した.四川大地震災害拠点病院に勤務する医師、看護師、理学療法士、作業療法
士および被災後リハを必要とした患者へのインタビューを実施し、リハ看護学習ニーズに関する調査票を作成
した.その後専門家会議を実施して調査票を洗練し、看護師の災害リハ看護に関する学習ニーズ(以下学習ニ
ーズ)を調査した.4 か所の災害拠点病院の看護師 220 人に配布し、170 人から回答を得た.結果、学習ニー
ズは、災害発生から 1 カ月までの早期のリハ看護について必要と答えたものが 80%以上の項目は、合併症管
理とくに慢性病のコントロールと睡眠障害の予防、PTSD への対応、疼痛管理であった.1 カ月から 6 ヶ月後の
中期の学習ニーズでは、80%以上の対象者が必要と答えた項目は、日常生活能力の再獲得支援、移動能力の向
上支援、家族への介護指導方法であった.災害 6 か月以降の後期リハにおける学習ニーズでは社会資源の利用
であった.また災害リハを提供するための看護管理では、患者の状態に応じた療養場所の選択と搬送に関する
マネジメント、リハ資源の公平分配と継続看護のためのマネジメントについての学習ニーズが高かった.以上
を看護師現任教育プログラムの学習項目に組み入れた学習プログラムを検討し作成した.
<Key Words> 四川大地震、被災者、リハビリテーション看護、看護師、学習ニーズ、現任教育
Ⅰはじめに
日本では、阪神大震災をきっかけとして、その後、新潟中越沖地震、能登半島地震、JR 福知山線事故など大
規模災害を経験したことによって災害看護学が構築されつつあり、現場救護、救命救急に関する知見は蓄積し
つつあるが、災害により障害を負った人々への長期的リハ看護に関してはほとんど報告がない.
2008 年 5 月 12 日に発生した四川大地震に関しても同様に、発生直後からの医療支援活動、心のケアに関する
報告はあるが、被災者のリハに関する報告はほとんどないのが現状である.しかし現地では巨大地震のあとの
復興はいまだ進んでいない.現在、中国は高齢化を突き進んでおり、今回の被災者のなかにも災害弱者である
高齢者が多く含まれている.リハは本来、予防の概念を含む実践活動である.つまり地震により障害を負った
人に加え、障害をもともと有している人に対する災害時の情報提供、救助、健康問題への対応、長期的回復支
援を一貫して実施することが災害リハ看護の重要課題と考える.一方、四川大地震被災者のリハ看護ニーズの
実態調査、医療者の困難感やリハにかかわる医療ケア提供システムの評価は不十分である.
このような背景から、四川大地震被災住民に対して中国四川省の災害拠点病院などの看護師が、リハ看護の
基本的な知識と技術を得て、被災住民の長期的な回復と QOL の向上に資する看護援助を実施できるように、教
育プログラムを考案することは、中国だけでなく日本においても有用だと考えた.
【研究目的】
四川大地震被災者のリハ看護ニーズおよび看護師のリハ看護に関する学習ニーズを明らかにする.これをも
とに看護師教育プログラムを立案、実施し,多面的に実現可能性と効果を検討する.
-69-
Ⅱ研究方法
1.研究枠組み
研究枠組みを図1に示した.本研究では、段階的
に、看護師の災害リハ看護の学習ニーズを明らかに
リハビリテーション看護及び
災害看護文献検討
する.第 1 段階では、被災者と災害医療従事者への
フォーカスグループインタビュー(以下 FGI)を実
被災者FGI
施し、災害リハ看護のニーズと看護師の学習ニーズ
医療従事者FGI
を抽出した.これをもとに看護師の災害リハ看護学
習ニーズ調査用紙 ver1 を作成し、これを用いてリハ
調査用紙作成
看護および看護管理者による専門家会議を実施し項
リハ看護、および看護管理者による
専門家会議での調査項目洗練
目の内容妥当性の検討と洗練を行い、調査用紙 ver2
とした.そして看護学研究者による調査項目および
看護学研究者による調査項目および
調査方法の洗練
調査方法の洗練を行い、調査用紙 ver3 を作成した.
調査用紙 ver3 を用いて看護師の災害リハ看護に関
看護師の災害リハ看護学習ニーズ調査
する学習ニーズ調査を実施し、これらの結果を統合
看護師への災害リハ看護教育項目抽出
して、四川省災害拠点病院等における看護師への災
害リハ看護教育項目を抽出した.
図1 研究枠組み
2.医療従事者への FGI
1)調査期間及び調査場所、調査対象
調査期間は 2009 年 6 月であった.調査場所は、四川大学華西病院地震リハ治療センターおよび、都江堰市整
形外科病院(災害拠点病院)の 2 か所であった.調査対象は四川大学華西病院リハ治療センター医師 2 名、理
学療法士 1 名、作業療法士 1 名、看護管理者 2 名、看護師 2 名、都江堰市整形外科病院医師 3 名、看護管理者 3
名であった.
四川大学華西病院地震リハ治療センターは大地震後に震源地周辺から搬送されてきた被災者への本格的なリ
ハ拠点として現在も活動している.また災害拠点病院である都江堰市整形外科病院は、もともと地域の医療拠
点であったが地震のため倒壊し、地震から 1 年以上経過した 2009 年 6 月においても仮設プレハブ平屋建てで診
療を継続していた.
2)データ収集方法およびデータ分析方法
前もって研究同意の得られたリハ関連の医療従事者に集まってもらい、2 時間半から 3 時間のグループインタ
ビューを実施した.インタビューの全ての経過を調査対象者の許可を得て録音し逐語録を作成し、これをデー
タとした.なおデータは日本語に訳し中国側研究者と日本の研究者が共有した.
インタビュー内容は、地震発生後から現在までのリハ活動の実際、医療従事者が認識している被災者のリハ
ニーズ、リハ提供上の困難と課題、リハ看護に関する看護師の学習ニーズであった.分析は、これらのインタ
ビュー項目ごとに発言内容を分類し、最終的に全体を統合して災害リハ看護の学習ニーズを抽出した.
3.被災者の FGI
調査期間は 2009 年 6 月であった.都江堰市整形外科病院に通院中の被災者 6 名に対して FGI を実施した.
インタビュー内容は、現在の健康状態、災害による身体、心理、社会面への影響、日常生活上の困難、リハへ
の自己の取り組み状況、将来展望であった.分析は、これらのインタビュー項目ごとに内容分析を用いて、発
言内容を分類し、現在のリハ医療提供上の課題を抽出した.
4.災害リハ看護に関する学習ニーズの実態把握のための調査票の開発と調査
1)調査用紙開発過程
医療従事者の FGI 及び被災者の FGI をもとに、
調査用紙 ver1 を作成した.
作成の際の基本的考え方は、
災害リハの特徴を表現できること、地震災害の被災によるリハ提供上の特徴を表現できること、長期的な
回復過程を網羅できることであった.これを用いて専門家会議を実施した.専門家会議構成員は、リハ看
-70-
護、看護教育、看護管理の領域から 10 年以上の経験を有し、リハ看護学に関する知識が豊富であり、本
研究への協力の同意を得られたを一人ずつ 3 名選択した.また同様の基準で理学療法士 1 名、作業療法士
1 名を選択し、合計 5 名による専門家会議を開催した.この結果を基に調査用紙 ver2 を作成した.また次
に看護学研究者 5 名による専門家会議を実施し、項目を確定し調査方法を決定した.
2)開発した調査用紙 ver3 の構造
FGI および専門家会議の検討から、災害リハ看護に必要な項目を、①対象者の特徴、②リハ過程、③リハを
効果的に提供するための看護管理、④発展的災害リハ看護の 4 つの枠組みで検討した.そして①対象者の特徴
を被災者、災害弱者(高齢者、小児、もともとの障害を有していた人)
、健康住民に分類した.②リハ過程を初
期(災害発生から 1 カ月)
、中期(1 カ月から 6 カ月)
、後期(6 か月以降)と分類した.このリハ過程に沿って
FGI で得られたデータをもとに項目を作成し、研究方法で示した調査用紙を作成した.
調査用紙は、①回答者の属性 8 項目、②リハ看護学習経験 6 項目、③災害リハ看護学習への動機と準備性 3
項目、④災害リハ看護現任教育のニーズに関する自己評価 46 項目、の 4 セクションから構成され、合計 63 項
目であった.①、②、③は 2 択および複数回答を指示し、④は非常に必要、必要、わからない、あまり必要で
ない、全く不要の 5 段階リッカートを指示した.
3)災害リハ看護に関する看護師の学習ニーズ調査
調査期間は 2009 年 12 月、調査場所は、四川華西病院老年科およびリハ病棟、都江堰市中心鎮骨傷医院、都
江堰市第二病院、都江堰市公立衛生医院の 4 か所であった.合計で 220 部配布し、170 部改修した.回収率は
77.3%であった.
5.看護師現任教育プログラム案の作成
以上の結果をもとに、看護師現任教育プログラムに含まれる必要のある学習項目を抽出しプログラム案を検
討した.
Ⅲ結果
1.大地震後のリハの実態
大地震後のリハは、初期(地震発生から 1 カ月後)
、中期(1 ヶ月後から 6 ヶ月未満)
、後期(6 か月以降)の
Ⅲ期に分け実施された.四川大学華西病院では、初期、中期のリハを受け持ち、被災者がそれぞれの自宅に復
帰した後の後期のリハを災害拠点病院が担当した.四川大学華西病院の職員は、早期リハの効果を認識してい
た.しかしこれらの被災者が自分のコミュニテイに帰って以降の後期リハは、人員や社会資源、物資の不足か
ら不十分だと認識していた.その要因の一つとして地震発生地域が非常に広範であり、ゆえに、被災者の居住
地区も分散しており公共交通機関が分断し、医療施設へのアクセシビリテイが低いことが挙げられた.都江堰
市整形外科病院職員は、災害発生まで全くリハを行ったことがなく、職員に基本的知識や技術がなかったこと、
初期は救命救急に当たり、その後は 3 カ月にわたり、被災した各村を、チームを組んで訪問し、公衆衛生教育
を実施した.これによって感染症の蔓延を防ぐことはできたが、それと並行して 2008 年 8 月以降の中期からリ
ハを行わざるを得ず、さまざまな研修に職員を派遣しながら実施してきたことを語った.またリハに必要な機
材の欠乏は深刻であり、現在もそれは継続した課題であると認識していた.
2.今後のリハ提供上の課題
FGI で語られた、リハ提供上の課題は、①職業リハの資源が不足している.②医療従事者の知識と技術の標
準化がなされていないため、体系的・理論的なリハが実施できない.③住民のリハに関する知識不足があり理
解が得られにくく、啓発活動が必要である ④慢性疾患管理、健康教育、リハ、子育て支援を一貫してサービ
ス提供できるようなコミュニテイ拠点が必要である.の 4 点であった.そのほかに都江堰市整形外科病院では
医療者も被災者であるため、医療者のストレスマネジメントの必要性が語られた.
3.リハを必要とする被災者の特徴
FGI 参加者の発言から、通常のリハを必要とする患者と比較して、被災者の特徴として以下のことが抽出さ
れた.①医療従事者への依存、愛着が非常に強く、
「自分の健康や命をまるごと医療者に任せた」ようになるこ
とが多かった.②家族、家屋、財産、職業など人生にとって重要な事柄をいっぺんに喪失した体験をもちなが
ら、リハに取り組んでいるため、当事者は気がつかないが、大きな精神的問題を抱えていることが多い.③と
くに都市部に居住する中高年の被災者は大きな喪失であるにもかかわらず、政府保証が農村部ほど大きくない
-71-
ため将来への不安を抱えていることが多い、④地震発生 1 年以上経過した現在、中年以降の女性に首、肩、腰、
足の疼痛の問題が多く生じているが、これは地震の影響が大きい.⑤PTSD、うつ、不眠などの精神症状を有す
る被災者は都市部に多い
3)災害リハ看護に関する学習ニ―ズ
看護師、医師、理学療法士、作業療法士は災害リハ看護の学習ニーズに関して、以下のようにあげていた.
①被災者の「喪失」からの回復をどのように援助したらよいか心理的援助スキルを学びたい.②長期的持続的
な援助提供をどのようにしていったらよいか、③被災者は通常のリハ患者と比較して、リハ過程の合併症が発
生しやすいため、合併症管理の知識を得たい.④被災者は家族からの支援を得られないケースが多いため、家
族への教育の方法を知りたい、⑤農村部では「なにかあったら医師に診てもらう」という伝統的な治療への価
値観が強く、主体的にリハに取り組むことに関して住民の理解を得にくいため、啓発活動の方法、健康教育の
方法が知りたい.⑥継続的なリハ医療の提供のために看護として何ができるか知りたい、⑦系統的なリハおよ
びリハ看護に関する教育を受けたい.断片的な知識は得ているが応用が難しく、さまざまなリハスキルをどの
ように被災者に適用してよいかわからない.⑧人員配置や資源の公平分配などに関するリハ看護管理を学びた
い、であった.この結果をもとにして災害リハ学習ニーズ調査項目を作成した.
4.災害リハ看護に関する看護師の学習ニーズ調査と教育プログラム検討
看護師への学習ニーズ調査(220 人に配布、170 人回収)の結果、非常に必要、必要と答えた看護師が 80%以
上であった項目を初期、中期.後期を分けて説明する.
災害発生から 1 カ月までの早期のリハ看護について必要と答えたものが 80%以上の項目は、合併症管理とく
に慢性病のコントロールと睡眠障害の予防、PTSD への対応、疼痛管理であった.1 カ月から 6 ヶ月後の中期の
学習ニーズでは、80%以上の対象者が必要と答えた項目は、日常生活能力の再獲得支援、移動能力の向上支援、
家族への介護指導方法であった.
災害 6 か月以降の後期リハにおける学習ニーズでは社会資源の利用であった.
また災害リハを提供するための看護管理では、患者の状態に応じた療養場所の選択と搬送に関するマネジメン
ト、リハ資源の公平分配と継続看護のためのマネジメントの項目について、必要だと回答した人が 80%以上で
あった.
以上の結果から、学習項目として、災害リハ看護の展開に必要な理論と知識、災害リハ看護の目的と目標の
設定、災害リハの対象の理解、災害リハの過程の理解、看護の方法(廃用と合併症の予防、活動の促進、参加
の促進、コミュニテイベーストリハビリテーション、地域医療連携とネットワーク形成を含む看護師教育プロ
グラム案を作成した.
Ⅳ考察
震災前からリハ看護の理念の共有がなされず、リハビリテーションネットワークの仕組みが発展していたと
はいえない状態で大地震が発生し、長期的にリハを必要とする被災者が多く存在している.住民も医療者もリ
ハ看護に関する知識不足があり、提供システムの構築が間に合っていないことからリハ資源の公平分配に大き
な課題があることが示唆された.リハ看護はチームアプローチが基本であり、そのためにはリハに関する知識
と技術の標準化と目標の共有が必須である.そのため、災害リハ看護の学習項目は必要最小限の項目を洗練し、
知識と技術の標準化を目的に検討した.また教育プログラムの実施方法に関しては、出前講義を行うか、ある
いは IT を活用した学習方法を構築し、災害拠点病院の負担を軽減する方向で検討することが望ましいと考えら
れた.また災害拠点病院にはコミュニテイベーストリハビリテーション(CBR)の知識やスキルが必要とされて
おり、大学病院ではリハビリテーションのシステム化の知識、連携協働のスキル、ネットワーク形成のスキル
が必要とされていると考えられたためこれらを教育プログラムに盛り込む必要があった.
リハビリテーションを必要とする四川大地震被災者は震災後のパニック、無力感などによって身も心もまる
ごと医療者にあずけ、依存せざるを得ない状況に置かれること、喪失体験が非常に強大であることから通常の
リハと心理的回復のプロセスが全く違うことが示唆された.また医療従事者も被災者であることからお互いが
自律性を取り戻していくプロセスと体験を理解し共有することも今後重要な研究課題である.
今後開発した教育プログラムを実際に行うためには、教材の制作および、ファシリテーターの育成が必要と
なる.そのためのプロジェクト研究なども必要となる.四川大地震からの復興を契機に、四川省におけるリハ
ビリテーション看護学がさらに充実していくことが期待される.
-72-
.
-73-
-日中医学協会助成事業-
中国四川省における嚢虫症流行に関する免疫、分子疫学研究
研究者氏名
李 調英
中国所属機関
中国CDC・寄生虫病研究所
主任研究員
要
日本研究機関
旭川医科大学
指導責任者
准教授
共同研究者
伊藤
亮,迫 康仁,柳田 哲矢
中谷
和宏,岡本
中尾
稔
宗裕
旨
中国四川省では人獣共通条虫症(脳嚢虫症、エキノコックス症)が流行している。本研究ではこれまでに①
人体寄生テニア属条虫3種(Taenia solium、Taenia saginata、Taenia asiatica)が同所的に分布していること(Li
TY et al. 2006)、②T. saginata と T. asiatica 間での交雑個体が確認されたこと(Nkouawa A et al. 2009) から、③
交雑個体の追加確認、④交雑個体の遺伝子解析、⑤T. solium が確認される村落における嚢虫症患者の検出と
その検出法の評価、⑥今後の流行抑制に向けた対策指針策定を目的とする現地での共同調査を 2009 年 11
月に実施した。11 月に採集した寄生虫、住民の糞便、血清を用い、2010 年 2 月に四川省寄生虫行研究所か
ら Li TY 博士を招へいし、3 村落住民におけるテニア症および嚢虫症流行の現状解析を行った。その結果、
①今回調査した3村落で駆虫されたテニア条虫は T. saginata と T. solium であった。②2集落からは T.
saginata だけが検出されたが、残りの1集落からは T. solium と T. saginata が検出された。③1 集落で高率に
嚢虫症患者ならびに T. solium 保虫者が確認された。④通常 T. solium 保虫者は1隻の条虫を宿すことがほと
んど全例と言われているにもかかわらず、今回確認された2症例では 5 隻および 20 隻が駆出された。テニ
ア症患者と嚢虫症患者の居住地と地理情報についての解析ならびに T. solium テニア症患者の家族、近隣住
民における嚢虫症の集積性の有無確認が今後の研究テーマである。
Key Words
中国四川省、チベット族、テニア症、嚢虫症、遺伝子解析、血清検査、糞便内遺伝子解析
緒
言
人体寄生テニア条虫として T. saginata(無鉤条虫、ウシサナダムシ)と T. solium (有鉤条虫、ブタサナダ
ムシ)の 2 種が古くから知られている。近年、アジア各地で第 3 のテニア条虫 T. asiatica(アジア条虫)の
分布が報告され、T. saginata と T. asiatica の近縁関係が議論されてきている(Ito et al. 2003; Ito A et al. 2010)。
本研究グループの研究を通して上記の 3 種類のテニア条虫が同所的に分布している地域が最近特定され始
-74-
め (Li TY et al. 2006; Aantaphruti et al. 2007)、さらに T. asiatica と T. saginata の交雑個体が存在することが遺
伝子解析から判明し始めている(Nkouawa A et al. 2009; Okamoto M et al. 2010)。
本研究では、①人体寄生テニア属条虫3種が同所的に分布し、②T. saginata と T. asiatica 間での交雑個体
が確認されている (Nkouawa A et al. in prep; Okamoto et al. in prep) 四川省 Yajiang(雅江)県で、③3 種テニ
ア条虫の追加確認、④交雑個体の追加確認、⑤交雑個体における遺伝子解析、⑤T. solium が確認される村落
における嚢虫症患者の検出と⑥その検出法の評価、⑦今後の流行抑制に向けた対策指針策定を目的とする現
地での共同調査を 2009 年 11 月に実施した。11 月に採集した寄生虫、住民の糞便、血清を用い、2010 年 2
月に四川省寄生虫行研究所から Li TY 博士を招へいし、3 村落住民におけるテニア症、嚢虫症に関する流行
の現状解析を行った。
対象と方法
対象:四川省 Yajiang(雅江県)のチベット族の生活地域住民、地域の保健所の予備調査からテニア症患者
の検出が可能と期待される村落
方法:村長を通して村民に住民健診の目的を前もって連絡し、2009 年 11 月中旬に希望者について問診、血
清、糞便を採取、テニア条虫を排泄した記憶がある村民にプラジカンテルならびに中国の伝統的駆虫剤であ
るカボチャの種を処方し、排泄される虫体の形状の比較解析を行った。血清抗体検査、糞便内遺伝子検査、
寄生虫の遺伝子検査は 2010 年 2 月に旭川医科大学ですでに確立されている検査法により実施された。さら
に、地理情報生態学の研究で国際的リーダーシップを発揮しているフランスの Giraudoux P 教授による指導
の下、地理情報システムから得られたデータと各患者の居住地との相関解析を試みた。
結
果
①今回調査した 3 村落のうち 1 村落から T. solium と T. saginata が検出された。T. solium を排泄した 2 女性
は 5 隻、20 隻を宿しており、通常 1 隻寄生である T. solium 感染の背景に特殊な事情があると予測された。
②ミトコンドリア遺伝子の解析結果から T. saginata と T. solium が確認された。
③皮下腫瘍を有していた村民は嚢虫症であることが強く示唆された。
④T. solium が確認された村落は山の尾根筋に位置する村落であった。
考
察
今回調査した 3 村落におけるテニア症流行の基礎成績が得られた。①特に血清検査から嚢虫症患者の存在が
3 村落で予測され、今後の確認検査が必要である。また、②今回確認されなかった2村落における T. solium
保虫者の確認が今後必要である。③稜線沿いの 1 村落でテニア症、嚢虫症の患者が確認されたが、この村落
内での家族集積性、近隣家族集積性、ならびに山麓の村落での患者発生の可能性についても今後に調査が必
要である。④地理情報システムを用い、患者の居住区域、特に T. solium 保虫者と嚢虫症患者の位置関係の
解析は今後の重要な研究課題である。また、現時点ではミトコンドリア遺伝子だけを解析したが、今後、核
遺伝子の解析を実施し、今回検出された T. saginata 条虫の中に T. asiatica との交雑個体が含まれているのか
についての更なる解析が必要である。
-75-
参考文献
Anantaphruti TM et al. Sympatric occurrence of Taenia solium, T. saginata, and T. asiatica, Thailand. Emerging
Infectious Diseases 2007; 13: 1413-1416.
Ito A et al. Human taeniasis and cysticercosis in Asia. Lancet 2003: 362: 1918-1920.
Ito A et al. Chapter 62. Taenia. Molecular Detection of Food-Borne Pathogens (ed by Liu D), pp.839-850, CRC Press,
Boca Raton, 2009.
Ito A et al. Taeniasis and cysticercosis: serological detection of patients and animals, and molecular identification of
parasites. Future Microbiology in press, 2010.
Li T et al. Taeniasis/cysticercosis in a Tibetan population in Sichuan province, China. Acta Tropica 2006; 100:
223-231.
Nakao M et al. State-of-Art Echinococcus and Taenia: phylogenetic taxonomy of human-pathogenic tapeworms and
its application to molecular diagnosis. Infection, Genetics and Evolution 2010; in press.
Nkouawa A et al. Loop-mediated isothermal amplification method for differentiation and rapid detection of Taenia
species. Journal of Clinical Microbiology 2009: 47: 168-174.
Okamoto M et al. Evidence of hybridization between Taenia saginata and Taenia asiatica. Parasitology International
2010; in press.
-76-
-77-
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-78-
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-79-
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-80-
-81-
.
-82-
—日中医学協会助成事業—
NaV1.6 をコードする遺伝子欠損マウスを用いた平滑筋型 Na+チャネルの
生理学的役割の解明
研究者氏名
中国所属機関
日本研究機関
指導責任者
共同研究者
朱 海雷
第四軍医科大学解剖学教研室
九州大学大学院医学研究院生体情報薬理学
講師 寺本 憲功
柴田 篤志
要
旨
興奮性細胞の活動電位における速い立ち上がり成分はフグ毒の投与にて可逆的に消失するこ
とから、主に電位依存性 Na+チャネル(voltage-gated Na+ channels:NaV)の活性化にて引き起
こされ、細胞の興奮発生に重要な生理的役割を果たしていると考えられてきた。本研究におい
て平滑筋型 Na+チャネルのチャネル主要タンパク質でかつチャネル孔を形成するαサブユニット
タンパク質(NaV1.6)をコードする Scn8a の遺伝子欠損マウス(NaV1.6-/-マウス)およびその野
生型マウス(NaV1.6+/+マウス)を用い、NaV1.6 の有無にて両輸精管平滑筋において機能的特性
の違いを組織および細胞レベルで比較した。平滑筋型 Na+チャネル(NaV1.6)は膜電流における
内向き電流を活性化させる電位の閾値を下げ、より負極側で内向き電流が活性化されやすい状
態に遷移させるという生理学的な役割を有することを明らかにした。また平滑筋型 Na+チャネル
の補助的制御を行っているβサブユニットについて分子生物学的手法を用いて検索し、β1 サブ
ユニットのみが検出された。これらの結果から平滑筋型 Na+チャネルを構成するαサブユニット
タンパク質とβサブユニットタンパク質の組み合わせは NaV1.6(Scn8a 遺伝子にてコード)/
β1 サブユニット(Scn1b 遺伝子にてコード)であることが初めて明らかとなった。
Key Words 電位依存性 Na+チャネル, 平滑筋, αサブユニット, βサブユニット, 活動電位
緒
言:
興奮性細胞において活動電位における速い立ち上がり成分はフグ毒(tetrodotoxin:TTX)投
与にて可逆的に消失することから、主に電位依存性 Na+チャネル(voltage-gated Na+ channels:
NaV チャネル)の活性化にて引き起こされ、興奮の発生に重要な生理的役割を果たしている。さ
らに近年、NaV チャネルは、神経回路の形成および痛覚伝達にも主要な役割を果たしていること
も新たに解明された。
電位依存性 Na+チャネルの分子構造は、大きなαサ
ブユニット(約 260kDa)と小さな2つのβサブユニ
ット(30-40kDa)から構成される3量体であること
が明らかとなった(図1)
。αサブユニットは、チャ
ネルポアを形成し、TTX 結合部位、膜電位感受性およ
び Na+透過性等の Na+チャネルの主な機能を有する。
現在までにαサブユニットタンパク質をコードする
遺伝子として 10 個の遺伝子
(Scn1a〜Scn10a 遺伝子)
が明らかとなり、αサブユニットタンパク質は選択
的な Na+透過性を示すことから NaV1.X(voltage図1 電位依存性 Na+チャネルの分子構造
-83-
gatedd Na+ channell type 1.X)と呼ばれる一
一群のファミ
ミリーに分類
類されている(Goldin, 20
001)。
一方、
、βサブユニットはαサブ
ブユニットの
のアクセサリー
ーユニットと
として細胞内輸送やチャネ
ネル開
閉機能
能の補助的な
な調節機構に関与しており
り、これまでβサブユニッ
ットタンパク質をコードす
する遺
伝子と
として 4 個の
の遺伝子(Sccn1b〜Scn4b 遺伝子)が同
同定された。しかし平滑筋
筋における NaV
N チ
ャネル
ルの特性やそ
その分子実体に関する報告
告はほとんど
どなく、またそ
その生理学的役割も未だ全
全く不
明のま
ままである。自律神経の機
機能終末(神
神経終末及びバ
バリコシティ
ィ等)から放
放出される興奮
奮性及
び抑制
制性神経伝達
達物質にてその収縮・弛緩
緩反応が直接制
制御されてい
いる平滑筋において NaV チャネ
チ
ルの活
活性化にて引
引き起こされる活動電位の
の発生や興奮
奮伝播機序を解
解明すること
とは『効果器』
』とし
ての平
平滑筋の運動
動・制御機序を
を理解する上
上で非常に生理学的に重要
要であると考
考えられる。本研究
本
ではマ
マウス輸精管
管平滑筋を標本として選ん
んだ。その主
主な理由は、下
下記の理由か
からである。
(1)
)輸精管は主
主に交感神経に
にて支配され
れ、その神経分
分布や神経制
制御機序が明らかであるこ
こと、
(2)
)マウス輸精
精管平滑筋の活動電位は TTX
T 感受性を
を示すこと(HHolman et aal., 1995)、
(3)
)マウス NaVV チャネルのサブユニット
ト遺伝子や蛋
蛋白質の遺伝子
子情報が全て
て明らかなこと、
購入可能なこ
(4)
)
主な Scna 遺伝子欠損マ
遺
ウスが既に作
作成され、
米国
国ジャクソン
ンラボ社から購
こと、
近年
年、我々は、様々な分子
子生物学的および電気生理
理学的手法を
を用い、マウス
ス輸精管平滑
滑筋に
おける
る NaV チャネルの主要構
構造を成すα
αサブユニットタンパク質
質は Scn8a にてコードさ
される
NaV1.6 であると報
報告した(Zhhu et al., 2008)
2
。さらに
にその野生型
型マウス(NaaV1.6+/+マウス
ス)に
+
-/おける
る輸精管平滑
滑筋細胞では Na 電流は記
記録されたが、
、一方、NaV1.6 マウス輸精管平滑筋
筋では
+
Na 電流は全く記録
電
録されなかっ
った(Zhu et al., 2009)
。以上の結果
。
果から平滑筋型 NaV チャネ
ネルの
-/αサブ
ブユニットタ
タンパク質の分子実体は NaV1.6
N
である可能性が強
強く示唆され
れ、NaV1.6 マウス
マ
と NaaV1.6+/+マウス
スを用い、両
両マウスにおける輸精管平
平滑筋の機能
能的な特性を比較すること
とにて
未だそ
その生理学的
的役割が全く不明な平滑筋
筋型 NaV チャ
ャネルの特性
性を明らかにすることが出
出来る
のでは
はないかと考
考えた。本研究では NaV1..6 の有無にて
て両輸精管平
平滑筋における異なる機能
能的特
性を比
比較し、平滑
滑筋型 NaV チャネルの生理
チ
理学的役割に
について検討
討した。また NaV チャネル
ルの補
助的制
制御を行って
ているβサブユニットにつ
ついて分子生
生物学的手法を用いて検索
索した。
対象と
と方法:
NaVV1.6 をコードする Scn8aa の遺伝子欠
欠損マウス(N
NaV1.6-/-マウ
ウス)および
びその野生型マ
マウス
+/+
(NaVV1.6 マウス
ス)のそれぞれ
れの輸精管平
平滑筋を用い
いた。βサブユ
ユニット遺伝
伝子の検出を行う
ため、
、特異的な primer
p
を設
計し、
、通法の RT--PCR 法によ
る解析
析を行った。また特異的
反応を
を示す抗 NaVV1.6 抗体を
用い てウエスタ ンブロット
法お よび免疫組織
織化学染色
法を行
行い、NaV1.6 蛋白質の同
定お よびその組織
織学的な局
在につ
ついて検討し
した。さらに
膜電流
流の電気生理
理学的特性
を明 らかにするた
ために通法
のパ ッチクランプ
プ法を適用
した(Zhu HL et al.
a , 2010)。
図2 Na
N V1.6 の分子
子生物学的特徴
徴
-84-
結
果:
果
1)
)NaV1.6+/+マウスと
マ
NaV11.6-/-マウスに
における分子
子生物学的特徴
徴に関する比
比較
-/+//+
NaVV1.6 マウス
スと NaV1.6 マウスを用い、両マウス
スにおける輸
輸精管平滑筋の分子生物学
学的特
+/+
性を比
比較した。RT-PCR 法にて NaV1.6 マウ
ウスの大脳お
および輸精管平
平滑筋におい
いて NaV1.6 をコー
を
ドする
る Scn8a 遺伝
伝子が検出された。一方、NaV1.6-/-マウ
ウスにおける
る輸精管平滑筋では Scn8a
8a 遺伝
。NaV1.66 タンパク質
子は検
検出されなか
かった(図2A)
質に対して特異
異的な反応を
を示す抗 NaV1
1.6 抗
+/+
体を用
用いてウエス
スタンブロット法を行うと
と NaV1.6 マウスの輸精
マ
精管平滑筋のサンプルにお
おいて
-/は単一
一のバンドと
として NaV1.66 タンパク質
質(約 260 kD
Da)が検出さ
された。しかし NaV1.6 マウス
マ
の輸精
精管平滑筋の
のサンプルに
においては何も検出されな
なかった(図
図2B)。さら
らに同じ抗 NaV1.6
N
+/+
抗体を
を用いて免疫
疫組織化学染色を行うと NaV1.6
N
マウ
ウスの輸精管平滑筋層に NNaV1.6 タンパ
パク質
+/+
が特異
異的に同定さ
された。一方、NaV1.6 マウスの輸精
マ
精管平滑筋層に
においては NNaV1.6 タンパ
パク質
との反
反応は全く観
観察されなかった(図2C
C)。
2)
)パッチクラ
ランプ法を用いたランプ型
型脱分極電位
位波形にて活性
性化された膜
膜電流の比較
較
-/+/+
NaVV1.6 マウス
スと NaV1.6 マウス輸精管
管平滑筋単離
離細胞に対して
てパッチクラ
ランプ法を適
適用し、
両マウ
ウスにおける
る電気生理学的特性を比較
較し、平滑筋
筋型 NaV チャ
ャネル(NaV1.6)の生理学
学的役
割につ
ついて調べた
た。図3に示すランプ型脱
脱分極電位波
波形を与えると NaV1.6+/+マウス輸精管
管平滑
筋細胞
胞において内
内向き膜電流
流が生じた(コントロール
ル:図3A)。フグ毒(TT
。
TX)を投与す
すると
2+
2+
膜電流
流は抑制され
れ、さらにニフェジピン(L 型 Ca チャネル遮断薬
薬)および Cdd (非選択的
的チャ
ネル遮
遮断薬)を各
各々、追加投与すると膜電
電流はさらに
に抑制された(図3A)。コントロール
ルの膜
電流波
波形から全て
ての遮断薬が
が存在の時の膜
膜電流波形を
を差し引くと全ての遮断薬
薬で抑制され
れた膜
電流波
波形が得られ
れ、またフグ
グ毒存在下で膜
膜電流波形を
を差し引くとフグ毒非感受
受性膜電流成
成分が
得られ
れた(図3B
B)。これらの
の結果からフグ毒感受性膜
膜電流、ニフ
フェジピン感受性膜電流お
および
ニフェ
ェジピン非感
感受性膜電流成分が得られ
れた(図3C
C)。また各々
々の膜電流成分の活性化閾
閾値の
図3
NaV1.6+/+および NaV1.6-/マウス輸精
精管平滑筋細胞
胞における膜
膜電流成分
-85-
結果を
を表1に示し
した。同様の実験プロトコ
コールを NaV
V1.6-/-マウス
ス輸精管平滑筋細胞に対し
して行
-//った(図3D、E
E)。NaV1.6 マウス輸精
精管平滑筋細胞
胞におけるニ
ニフェジピン感
感受性膜電流
流およ
+/+
びニフ
フェジピン非
非感受性膜電
電流成分は NaaV1.6 マウス
ス輸精管平滑
滑筋細胞の結果
果と有意な差
差は見
-/られな
なかったが、フグ毒感受性
性膜電流は全
全く記録され
れなかった。NaV1.6 マウス輸精管平滑
滑筋細
胞にお
おける各々の
の膜電流成分の活性化閾値
値の結果を表
表1に示した。
。
表1 NaV1.6+//+および NaV11.6-/-マウス輸
輸精管平滑筋
筋細胞における膜電流成分
分の活性化閾
閾値
3)
)RT-PCR 法に
によるβサブ
ブユニット遺伝
伝子の検出
NaVV1.6 と共発現
現しているβサブユニットの存在を調
調べるため、RT-PCR 法にてマウス輸精
精管
平滑筋
筋および大脳
脳における。βサブユ
ニット遺伝子(Scn1b
Sc 〜Scn4bb)の検出
を行っ
った。遺伝子
子情報を基にして各々
のβサ
サブユニット
ト(β1〜4 サブユニッ
ト)を
をコードする
るβサブユニット遺伝
子に対
対して特異的
的に反応する
る primer
を設計
計した。大脳
脳においてはβ1〜4 サ
ブユニ
ニットの全て
てのβサブユニット遺
伝子が
が検出された
た。一方、輸精管平滑
筋にお
おいてはβ1 サブユニット遺伝子
図4
4 マウス輸
輸精管平滑筋細胞における
る
のみが
が検出された
た。
βサブユニ
ニット遺伝子
子の検索
考
察
察:
ラッ
ット子宮平滑
滑筋においてβサブユニッ
ットに関して
ては Scn1b〜Scn4b
S
の全ての遺伝子が検
検出さ
れた(Seda et all., 2007)
。一方、本研究
究において特
特異的に反応す
する primer を設計し、マ
マウス
大脳に
においては Scn1b〜Scn44b の全ての遺
遺伝子が検出
出されが、マ
マウス輸精管平
平滑筋におい
いては
Scn1bb のみが検出
出された。この
の結果からマ
マウス輸精管平
平滑筋におけ
ける NaV チャネルを構成す
するα
サブユ
ユニットタン
ンパク質とβサブユニット
トタンパク質
質の組み合わせ
せは、NaV1.66(Scn8a 遺伝
伝子に
てコー
ード)/β1 サブユニット(Scn1b 遺伝子にてコー
遺
ード)である
ることが強く示唆され、平
平滑筋
型 NaV チャネルの
の分子実体が明らかとなっ
った。
-86-
また NaV1.6-/-マウスと NaV1.6+/+マウスの輸精管平滑筋細胞における膜電流成分の電気生理学
的特性,特にその活性化閾値を比較すると NaV1.6 を介する Na+電流はもっとも負極で活性化さ
れ、最大振幅値を示した。すなわち、NaV1.6 を介して生じる Na+電流は輸精管平滑筋細胞におけ
る膜電流成分の活性化をイニシエーションさせるという重要な生理学的役割を果たしているこ
とが考えられる。
以上、本研究をまとめると野生型マウス(NaV1.6+/+マウス)輸精管平滑筋細胞において NaV1.6
が唯一、機能的に発現している NaV チャネルのαサブユニットであることが明らかとなった。さ
らに NaV1.6 は脱分極刺激にて生じる最大の内向き電流成分を形成し、細胞の興奮性において重要
な生理学的役割を果たしていることが示唆された。
参考文献:
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注:本研究は、2009 年 7 月 22 日『第 51 回 日本平滑筋学会総会』にて特別選出演題
として選ばれ口演発表、2009 年 7 月 22 日『第 51 回 日本平滑筋学会』、2009 年
8 月 3 日『FASEB Summer Research Conferences 2009 Smooth Muscle』、2010 年
3 月 17 日『第 83 回 日本薬理学会年会』にてポスター発表、
『Journal of Cellular
Physiology』(2010 年 4 月 VOL223 巻、234-243)に掲載。
作成日:2010 年 3 月 11 日
-87-
-88-
—日中医学協会助成事業—
アラキドン酸に対する血管平滑筋の遊走:
ミオシン軽鎖キナーゼのリン酸化が阻害される条件での検討
要
研 究 者 氏 名
王洪輝
中国所属機構
南開大学生命科学院
日本研究機構
群馬大学医学部
指 導 責 任 者
小濱一弘
共同研究者名
呉晶輝、秦宵然、叶麗虹、田中秀幸、片山豪、中村彰男
旨
Arachidonic Acid Induces Migration of Vascular Smooth Muscle Cells Under the Conditions
Where Phosphorylation of Myosin Light Chain is Abolished. Migration of vascular smooth
muscle cells (VSMCs) plays an important role in vascular development as well as
pathogenesis of atherosclerosis. Studying the mechanism involved in VSMCs migration and
ultimately finding a way to block the migration of VSMCs in the development of vascular
lesion, has been a focus of research. Activation of myosin II by phosphorylating its’
myosin light chain (MLC) is widely accepted to be a major, regulated determinant of
producing contractile forces in cell motility. To reveal the mechanism for
un-phosphorylated myosin to cause migration, we tested the effects of several
chemoattractants on migration of SM3 cells in presence of ML-7, which prevented the
phosphorylation of MLC. Among the several chemoattractants, we report here migration of
VSMCs is induced by arachidonic acid (AA) while phosphorylation level of MLC is totally
abolished by ML-7. To evaluate the migratory activity of SM3 cells toward AA in a
quantitative way, we used various concentrations of AA as chemoattractants in boyden
chamber assay. SM3 cells migrated toward AA maximally at 20μM, although intracellular
phosphorylation of MLC was totally abolished. Formations of filopodia and lamellipodia
were observed by immunofluorescence staining in this condition, indicating the
involvement of actin in the migration. However, blebbistatin, specific inhibitor to myosin
II head domain, blocks this migration, suggesting the motor activity of myosin II is
producing the force of migration. We studied the signaling pathway of this AA-induced
migration in which the MLC phosphorylation was blocked by ML-7. PTX inhibited this
migration, suggesting the role of G protein coupled receptors (GPCR). Since intracellular
calcium wasn’t altered in this condition, we further investigated the down-stream
signaling factors which were intracellular calcium increase-independent. We used specific
inhibitors or siRNA to study the role of several known down-stream signaling factor of
GPCR, finding that membrane translocation of PLCβ2, phosphorylation of PKCε,
phosphorylation of MAPKs (ERK, p38 and JNK) occurred successively after the stimulation
of AA. It was possible that AA interacted GPCR as its ligand, triggering following signal
pathway. However, we found that AA increased the secretion of 15-HETE in cell media and
15-HETE also induced this migration, indicating that 15-HETE, a LOX metabolite of AA,
is an equally possible ligand. We also indicated that AA penetrated the cellular membrane
of VSMCs followed by the stimulation of the ATPase activity of myosin II with
-89-
unphosphorylated MLC. Thus, we propose a new signal pathway of the migration of VSMCs
which was independent of MLC phosphorylation.
Key words: Vascular smooth muscle cells, Myosin light chain, Phosphorylation,
Arachidonic acid, Migration
緒
言
Migration of vascular smooth muscle cells (VSMCs) plays an important role in vascular
development as well as pathogenesis of atherosclerosis. During atherogenesis, migration
of VSMCs from media to intima is believed to contribute intimal thickening (1). Studying
the mechanism involved in VSMCs migration and ultimately finding a way to block the
migration of VSMCs in the development of vascular lesion, has been a focus of research(2).
In cells migratory process, different forces are needed to perform cellular dynamic
behaviors such as protrusive forces used to extend lamellipodia, and traction forces to
propel the cell body forward (3). Regulation of the contractile forces coupled with
cellular adhesion, protrusion, and actin organization depends on activated myosin
II-based motors, in which the phosphorylation of the myosin light chain (MLC) is widely
believed to be essential (4). Activation of myosin II are attributed for the
phosphorylation of MLC which is regulated by two main distinct mechanisms including
Ca2+-dependent activation of myosin light chain kinase (MLCK) and Ca2+ -independent
inhibition of MLCP by Rho Kinase (ROCK) (5). The generation of contractile force in
migration of VSMCs was thought to be similar to that of regulating smooth muscle
contraction (6). Interestingly, serum and PDGF induced VSMCs contraction was uncoupled
to elevation of phosphorylation of MLC (7). The production of contractile forces may not
through the elevation in phosphorylation level of MLC (8). In regard to migration, increase
of MLC phosphorylation was not involved in PDGF-induced VSMCs migration (9). VSMCs
migration may be regulated not only by an MLC phosphorylation-dependent pathway, but also
an MLC phosphorylation-independent pathway. Blebbistatin, specific inhibitor to myosin
II, blocks both MLC phosphorylation-dependent and independent migration of VSMCs,
suggesting the essential role of motor activity of myosin in cell migration (10).
対象と方法
In the whole study, we used SM3 cells, which is a vascular smooth muscle cell line
established from rabbit aorta arterial smooth muscle. The block-it RNAi designer
(Invitrogen) was used to design a short hairpin RNA molecules (shRNA) specific to PLC-β2
(5’-GAACAGAAGTTACGTTGTC-3’). The ds oligos were transfected into SM3 cells by using
Lipofectamine2000 (Invitrogen). Migration of SM3 cells was assayed by the Boyden chamber
method. Cells were lysed followed by western blot. In some cases, membrane fraction got
subcellular fractionation purification was used. Phosphorylation of MLC was detected with
glycerol-PAGE followed by Western blot. Formation of filopodia and lamellipodia were
visualized by immunofluorescence staining followed by observation with confocal
microscopy (Bio-Rad). [Ca2+]i was measured as previously described(11). ELISA was used
to assay the concentration level of 15-HETE in media. Statistical analysis was performed
by one-way ANOVA test using Sigma Stat v.3.1. A value of p<0.05, p<0.01 was considered
to be statistically significant.
-90-
結
果
As shown in Fig.1, SM3 cells migrated toward AA
maximally at 20μM. The migration of SM3 cells toward
AA (Fig. 1A) was hardly affected by ML-7, although
intracellular phosphorylation of MLC was totally
abolished (Fig. 1B). Formation of filopodia and
lamellipodia as stained by the antibodies to α-actin
and β-actin were clearly detected after the
stimulation of 20 μM AA in presence of 20μM ML-7
(Fig.1 C), indicating the involvement of actin in the
migration. Blebbistatin inhibited the AA induced
migration of ML-7-treated SM3 cells in a
dose-dependent way with IC50=40μM, indicating the myosin-driven nature (Fig. 1 D).
Then, we carried out the
analysis of signal
transduction of this migration.
We allowed SM3 cells to migrate
in the presence of PTX, an
inhibitor of a trimerc Gi
protein, together with ML-7.
Inhibition of the migration
was observed in PTX above 0.05
mg/L(Fig. 2A). We measured
[Ca2+]i in the condition. When
20μM ML-7 existed in the
buffer, the increase in [Ca2+]i
was not observed(Fig. 2B). This migration was antagonized by U-73122 in a dose-dependent
manner, indicating PLC was involved in the signal transduction pathway (Fig. 2C). To
clarify the role of PLCβ2 in the migration, we designed the interfering RNA (RNAi) for
PLCβ2 to decrease the expression of PLCβ2 as detected by antibody against PLCβ2 (Fig.
2D). The migration of the SM3 cells treated by PLCβ2 RNAi decreased remarkably as compared
with the migratory activity of SM3 cells treated with scrambled RNAi (Fig. 2E). We further
investigate the role of PLCβ2 translocation in this migration of smooth muscle cells
as shown in Fig. 2F.
As shown in Fig. 3A, staurosporine, an inhibitor of PKC, depressed this migration. We
further examined the effect of PKCε inhibitory peptide. Fig. 3B showed that the migration
-91-
was inhibited by the peptide. Accordingly, an active form of PKCε was detected by the
antibody against phosphorylated PKCε, finding that PKCε was phosphorylated
time-dependently in response to stimulation by AA (Fig. 3C).
Next, we confirmed the roles of MAPKs in this migration.
As shown in Fig. 4A, ERK, p38 and JNK were phosphorylated
after the AA stimulation as examined in the presence of
ML-7. SB203580, PD98059 and SP600125 inhibited this
migration (Fig. 4B). We examined the effects of inhibitors,
i.e., PTX for Gi, U73122 for PLC and staurosporine for PKC,
on the phosphorylation of the MAPKs. Our results indicated
that ERK, p38 and JNK signal pathways were all subjected
to the Gi followed by PLC signaling(Fig. 4C). ERK and JNK
signaling pathways, but not p38 were under the PKC
signaling. We speculate that PLC directly regulates the
phosphorylation of p38.
Then, we hypothesized that AA metabolic pathways of Cox,
Lox and p450 may play a role in this signaling. Only the
Lox inhibitor of NDGA inhibited this migration, indicating
the role of Lox metabolites (Fig. 5A). We found AA
stimulated the 15-HETE secretion in media(Fig.5B). As
shown in Fig 5C, we found that it could induce the migration
of SM3 cells in the presence of ML-7, confirming 15-HETE mediated the migration of SM3
cells toward AA. We recently published that AA binds to myosin II heads to stimulate the
ATPase activity of myosin II of which MLC remains unphosphorylated(12). Fig. 5C confirmed
the stimulatory effect. However, the effect of 15-HETE was much lower stimulatory effect.
考
察
Production of contractile force to
induce migration may be regulated by a MLC
phosphorylation-independent way(9). The
present report confirmed this possibility.
AA is a well-known mediator of
atherosclerosis(13). We proposed in this
paper that the GPCR that is specific for
15-HETE should be most convincing among
eicosanoid receptors. PTX inhibited the
abnormal migration of VSMCs towards AA,
suggesting the role of GPCRs in this
migration. The role of PLCβ2 in this
abnormal migration is in coincidence to
previous report(14). We reckoned that the
activation of PLCβ2 by AA was regulated by Gi protein, implying that Gi protein located
in the upstream of PLCβ2. Among more than ten isoforms of PKC, PKCε were closely linked
-92-
to VSMCs migration(15).We confirmed the essential role of PKCε in this abnormal migration
by specific PKCε inhibitory peptide. In short, although increase of [Ca2+]i and
phosphorylation of MLC were blocked by pretreatment of ML-7, our results suggested that
GPCR, PLCβ and PKCε transduction pathway were activated by AA. Our results suggested
activities of MAPKs were mediated by Gi protein, PLCβ and PKCε. To investigate whether
other cellular factors participate in the signal pathway of this migration, we further
tested the effects of tyrphostin AG112, Herbimycin, wortmannin and Y27632 and found any
of the them did not inhibit the AA stimulated migration of SM3 cell with pretreatment
of ML-7, excluding the signal pathways of protein tyrosine kinase, phosphoinositide
kinase-3 and Rho kinase in the migration without phophorylation of MLC In summary, AA
induced the migration of smooth muscle cell SM3 when phosphorylation of MLC was inhibited
by ML-7. AA metabolites via Lox, 15-HETE, mediated this effect on migration. The successive
signaling pathways we hypnotized were: Gi → PLCβ2 → PKCε→MAPKs. This “unusual”
migration may contribute to the understanding of the vascular pathology.
参考文献
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作成日:2010 年 3 月 1 日
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-94-
-95-
-日中医学協会助成事業-
アルツハイマー病動物モデルを用いたsilibininの薬効評価
研 究 者氏名
路 平
中国所属機関
中国瀋陽薬科大学薬理学
日本研究機関
名城大学薬学部薬品作用学研究室
指 導 責任者
教授 鍋島 俊隆
共同研究者名
間宮隆吉,陸玲玲,毛利彰宏,丹羽美苗,
平松正行,邹莉波,永井拓,池岛乔.
Abstract:
In this study, we examined the effect of silibinin on the fear-conditioning memory deficits, inflammatory response
and oxidative stress induced by the interacerebroventricularly (i.c.v.) injection of Aβ peptide25-35 (Aβ25-35) in mice. Mice
were treated with silibinin from the day of the Aβ25-35 injection (day 0). Memory function was evaluated in cued and
contextual fear-conditioning tests (day 6). Nitrotyrosine levels in the hippocampus and amygdala were examined (day 8).
The mRNA expression of inducible nitric oxide synthase (iNOS) and tumor necrosis factor α (TNFα) in the hippocampus
and amygdala was measured 2 hours after the Aβ25-35 injection. We found that silibinin significantly attenuated memory
deficits caused by Aβ25-35 in the cued and contextual fear-conditioning test. Silibinin significantly inhibited the increase in
nitrotyrosine levels in the hippocampus and amygdala induced by Aβ25-35. Moreover, real-time RT-PCR revealed that
silibinin inhibited the overexpression of iNOS and TNFα mRNA in the hippocampus and amygdala induced by Aβ25-35.
These findings suggest that silibinin (i) attenuates memory impairment through amelioration of oxidative stress and
inflammatory response induced by Aβ25-35 and (ii) may be a potential candidate for an AD medication.
Key Words Aβ, memory, silibinin, TNFα, iNOS
Introduction:
Alzheimer’s disease (AD) is a progressive neurodegenerative disorder characterized by extraneuronal deposits of
amyloid β (Aβ) peptide. The deposition Aβ is invariably associated with oxidative stress and inflammatory response
(Butterfield et al., 2007). TNFα, a pro-inflammatory cytokine, has been shown to increase in AD patients (Perry et al.,
2001). Aβ-induced expression of TNFα leads to overexpression of inducible nitric oxide synthase (iNOS) in experimental
animals. Peroxynitrite (ONOO−) is one of the products formed from nitric oxide and superoxide, and has a variety of
chemical reactions producing componds such as nitrotyrosine (Tran et al., 2003). Interestingly, the accumulation of
nitrotyrosine correlated with increased levels of cerebral Aβ and the severity of cognitive impairment (Tran et al., 2003).
Aβ25-35 is the core fragment of full-length Aβ and possesses many of the characteristics of the full-length Aβ peptide,
including aggregative ability and neurotoxic property. There are reports that the i.c.v. administration of Aβ25-35 peptide
into rodent brain is useful animal model for screening new candidates for AD therapy worldwide.
Silibinin is a flavonoid derived from the herb milk thistle, and has been reported to have anti-inflammatory and
antioxidative effects. Recently, we have reported that silibinin ameliorates Aβ25-35-induced recognition memory
impairment in mice (Lu et al., 2009). However, it is unclear whether silibinin ameliorates impairments of other types of
memory such as fear memory. In this study, we investigated the effect of silibinin on memory impairment induced by
Aβ25-35 in cued and contextual fear-conditioning tests. We also examined its effect on changes in nitrotyrosine levels as
well as TNFα and iNOS mRNA expression in the brain of mice.
-96-
Methods:
Animals.
Male ICR mice (5 weeks old) were obtained from Japan SLC Inc. (Shizuoka, Japan). They were housed in plastic
cages and kept in a regulated environment (23 ± 0.5°C, 50 ± 5% humidity) with a 12/12-h light/dark cycle (lights on from
08:00 to 20:00). The mice received food and water ad libitum.
Treatment.
Fig.1 Aβ25-35 (1 mg/ml) was aggregated, by incubating it in
distilled water at 37oC for 4 days before the injection. Aβ25-35
was injected i.c.v. in a volume of 3 μl (3 nmol/mouse) on day 0
as in our previous report (Fig.1, Lu et al., 2009). Mice were
administered orally (p.o.) silibinin (2, 20 or 200 mg/kg/day) or
the 0.3% CMC solution by gavage for 8 days after the treatment
with Aβ25-35.
Cued and contextual fear-conditioning tests.
For conditioning, mice were placed in the conditioning cage, and then a 15-sec tone (80 dB). During the last 5 sec of
the tone stimulus, a foot shock of 0.6 mA was delivered. This procedure was repeated four times with 15-sec intervals.
Cued and contextual tests were carried out 24 hours after the fear-conditioning phase on day 7. For the cued
fear-conditioning test, the freezing response was measured in a neutral cage for 1 min in the presence of a continuous
tone stimulus identical to the conditioned stimulus. For the contextual fear-conditioning test, mice were placed in the
conditioning cage, and the freezing response was measured for 2 min without tone and the unconditioned stimulus.
Western blotting.
The hippocampus and amygdala were homogenized an ice-cold extraction buffer. Equal amounts of protein (20 μg),
were separated by 10% SDS-polyacrylamide gel electrophoresis, and transferred electrophoretically to a polyvinylidene
difluoride membrane. It was then incubated in 5% skim milk in a TBS-T washing buffer for 2 hours at room temperature.
Then the membranes were incubated with mouse anti-nitrotyrosine clone1A6 (1:1000) or mouse anti-actin primary
antibody (1:1000) at 4◦C overnight. The membrane was incubated with horseradish peroxidase-labeled anti-mouse IgG
(1:1000). Immunoreactive complexes on the membrane were detected using Western blotting detection reagents and
exposed to X-ray film.
Real-time reverse transcription-polymerase chain reaction (real-time RT-PCR).
The hippocampus and amygdala were homogenized and total RNA was extracted using an RNeasy total RNA
isolation kit. The primers used were as follows: For iNOS, forward primer: 5’-GGGCAGCCTGTGAGACCTT-3’;
reverse
primer:
5’-GCATTGGAAGTGAAGCGTTTC-3’;
TGTCCGAAGCAAACATCACATTCAGATCC;
For
TNFα,
TaqMan
probe:
forward
primer:
5’-CTTTCGGTTGCTCTTTGGTTGAG-3’; reverse primer: 5’-GCAGCTCTGTCTGTTGGATCAG-3’. PCRs were
performed using the One Step SYBR® PrimeScriptTM RT-PCR Kit. The reaction profile consisted of a first round at
95oC for 3 min and then 40 cycles of denaturation at 95oC for 10 sec, annealing at 60oC for 34 sec, and extension at 72oC
for 1 min, with a final extension reaction carried out at 72oC for 10 min.
Statistical analyses.
The results are expressed as the mean ± S.E.M. Statistical significance was determined with the one-way ANOVA
followed by Tukey’s multiple comparisons test. A Pearson correlation analysis was performed to elucidate the
relationships. p < 0.05 was taken as a significant level of difference.
-97-
Results:
Effect of silibinin on memory impairment induced by Aβ25-35 in fear-conditioning tests.
Aβ25-35-injected mice exhibited less of a cued or contextual-dependent freezing response than distilled water-injected
mice (p < 0.05, Fig. 2A; p < 0.05, Fig. 2B), indicating an impairment of associative memory. Silibinin dose-dependently
attenuated the impairment of cued and contextual freezing responses (p < 0.001, Fig. 2A; p < 0.001, Fig. 2B).
Effect of silibinin on the level of nitrotyrosine.
Silibinin significantly attenuated the increase in nitrotyrosine levels induced by Aβ25-35 (p < 0.05, Fig. 3A; p < 0.05,
Fig. 3B). In addition, nitrotyrosine levels in the hippocampus and amygdala negatively correlated with contextual
freezing responses (r = -0.468, p < 0.05; r = -0.489, p < 0.05, data not shown), although the negative correlation between
nitrotyrosine level and cued freezing response was observed in the amygdala, but not in the hippocampus (r = -0.305,
p=0.136; r = -0.565, p < 0.05, data not shown). We also found that the increase in nitrotyrosine immunoreactivity in the
hippocampus induced by Aβ25-35 correlates with that in the amygdala (r = -0.564, p < 0.05, data not shown).
Fig.3 Effect of silibinin on iNOS mRNA expression.
Silibinin significantly attenuated the increase induced by Aβ25-35 in the hippocampus and amygdala (p < 0.001, Fig.
4A; p < 0.001, Fig. 4B). Silibinin did not affect iNOS mRNA expression in the hippocampus or amygdala of distilled
water-injected mice (p = 0.534, Fig. 4A; p = 0.864, Fig. 4B).
Effect of silibinin on TNFα mRNA expression.
-98-
Fig.4
Silibinin significantly attenuated the increase in the TNFα mRNA induced by Aβ25-35 in both the hippocampus and
amygdala (p < 0.05, Fig. 5A; p < 0.001, Fig. 5B). In addition, iNOS mRNA expression correlated with TNFα mRNA
expression in the hippocampus and amygdala (r = 0.416, p < 0.05; r = 0.429, p < 0.05, data not shown).
Discussion:
In this study, Aβ25-35 caused memory impairment in both cued and contextual fear conditioning tests. Repeated
silibinin treatment significantly attenuated the memory impairment induced by Aβ25-35 without affecting the responses to
electrical foot shock. It has been confirmed that peroxynitrite-mediated damage contributes to Aβ-induced neuronal
toxicity and cognitive deficits (Tran et al., 2003) and is widespread in the brain of AD patients. In the present study, we
found that nitrotyrosine levels in the hippocampus and amygdala negatively correlated with contextual freezing responses.
Moreover, silibinin significantly attenuated the elevation of nitrotyrosine in the hippocampus and amygdala induced by
Aβ25-35. These findings suggest that protection from peroxynitrite may be involved in the ameliorating effects of silibinin
on cognitive deficits.
It has been demonstrated in vitro that the stimulation of neuronal cell lines with TNFα leads to increased
expression of iNOS which catalyzes a high-output pathway of NO production and is capable of causing neuronal
peroxynitrite-mediated dysfunction (Tran et al., 2003). In the present study, silibinin significantly inhibited the increase
in iNOS and TNFα mRNA in the hippocampus and amygdala induced by Aβ25-35. It is possible that silibinin prevents
Aβ25-35-induced peroxynitrite-mediated damage by downregulation of TNFα which inhibits iNOS expression.
In conclusion, the present study confirmed that silibinin could ameliorate memory impairment induced by Aβ25-35.
The effect of silibinin may be attributed to the blocking of inflammatory responses and oxidative stress in the
hippocampus and amygdala.
References:
Butterfield DA, Reed T, Newman SF, Sultana R (2007) Roles of amyloid beta-peptide-associated oxidative stress and
brain protein modifications in the pathogenesis of Alzheimer's disease and mild cognitive impairment. Free Radic Biol;
Med 43: 658-677.
Lu P, Mamiya T, Mouri A, Lu LL, Nagai T, Hiramatsu M, Zou LB, Ikejima T, Nabeshima T (2009)
Silibinin
prevents amyloid β peptide-induced memory impairment and oxidative stress in mice. Br J Pharmacol;157:1270-7.
Perry RT, Collins JS, Wiener H, Acton R, Go RC (2001) The role of TNF and its receptors in Alzheimer’s disease.
Neurobiol Aging; 22: 873-883.
Tran MH, Yamada K, Nakajima A, Mizuno M, He J, Kamei H, Nabeshima T (2003) Tyrosine nitration of a synaptic
protein synaptophysin contributes to amyloid beta-peptide-induced cholinergic dysfunction. Mol Psychiatry; 8: 407-412.
注:本研究は『THE JOURNAL OF PHARMACOLOGY AND EXPERIMENTAL THERAPEUTICS』(2009年10月VOL331巻)に掲
載。
作成日:2010 年 3 月 4 日
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― 日中医学協会助成事業―
膵島の長期保存における polyvinyl alcohol (PVA)マクロカプセル化膵島
の応用
研究者氏名
漆 智
日本研究機関
京都大学再生医科学研究所器官形成応用分野
指導責任者
角 昭一郎
共同研究者名
申艶那、柳井伍一、楊凱強
要旨
Islet transplantation is a method for the treatment of type 1 diabetes mellitus (DM) and has been
widely performed around the world. The long-term cryopreservation of islets shows many advantages in
the field of islet transplantation. Previous studies have described the development of sheet-type polyvinyl
alcohol (PVA) macro-encapsulated islet (MEI) to treat type 1 DM without any immunotherapy. The
present study examined their beneficial effects on islet cryopreservation. PVA MEI of Wistar rats were
divided into three groups of 1-day, 7-day and 30-day cryopreservation at -80℃. The 30-day group
showed a lower recovery rate of the islet number and impaired insulin release in comparison to the 1-day
group, whereas no significant differences of the in vitro results were observed between the 1-day and
7-day groups. The MEI transplantation recipient mice in the 1-day and 7-day groups reached
normoglycemia for a 4-week observation period, and the recipients in 30-day group also showed a
significant decrease followed by a slightly higher non-fasting blood glucose level. These results suggest
that the PVA MEI are useful for islet long-term cryopreservation, and that the use of cryopreserved PVA
MEI may therefore be a promising modality for performing DM therapy.
Key Words Polyvinyl alcohol (PVA), Macro-encapsulated islet (MEI), Islet cryopreservation, Islet
transplantation.
緒言:
Islet transplantation is a method for the treatment of type 1 diabetes mellitus (DM) and has been widely
performed around the world [1]. The long-term cryopreservation of islets shows many advantages in the
field of islet transplantation: 1. Isolated islets can be shipped to other institutions worldwide. 2. Islets
isolated at different time can be accumulated to obtain a sufficient number for transplantation.3.
Cryopreservation provides the time for quality control of islets before transplantation [2]. This study
tested 2 periods (7 days and 30 days) of freezing and examined their functions in vitro and in vivo in
comparison to the original method of cryopreservation (1-day freezing).
-115-
対象と方法:
PVA MEI of Wistar rats were divided into three groups of 1-day, 7-day and 30-day cryopreservation at
-80℃. Morphological changes of islets, islet recovery rate and insulin secretion test were
performed in vitro. In vivo, Eight hundred encapsulated Wistar rat islets were transplanted into the
peritoneal cavity of diabetic C57BL/6 mice. Non-fasting blood glucose (NFBG), the body weights, and
IPGTT were observed after transplantation. Blood samples were collected from the sacrificed mice 4
weeks after transplantation, serum insulin and c-peptide levels were measured. Transplanted MEI and
recipients’ pancreas were retrieved from mice sacrificed 4 weeks after transplantation, HE and insulin
staining were performed.
結果:
1 .Morphological changes and islet recovery rate
The MEI in the three groups showed a normal morphology after freezing-thawing, without islet
fragments, and no obvious differences were observed between the three groups. The islet recovery rate in
the 1-, 7- and 30-day groups were 74.4±1.72%, 69.6±3.97% and 62.8±3.2%, respectively (7-day vs.
1-day: p>0.05; 30-day vs. 1-day: p<0.05).
2. Static incubation
The MEI in the three groups showed good insulin secretion abilities in response to high glucose
concentration. The stimulation index in the 1-, 7- and 30-day groups was 1.84±0.07, 1.71±0.1 and 1.66
±0.07, respectively. No significant differences were found between three groups. However, the insulin
release in the basal (3.3 mM) and stimulation (16.7 mM) medium of the 30-day group was lower than
1-day group (p<0.05).
3. MEI xeno-transplantation
Mice in the 1-, 7- and 30-day groups showed a significant decrease in the NFBG levels in comparison
with those in DM group after PVA MEI xeno-transplantation. Moreover, mice in the 1- and 7-day groups
achieved normoglycemia (NFBG<200mg/dl) within 1 week after transplantation, and maintained
normoglycemia for 4 weeks. Although mice in the 30-day group did not achieve normoglycemia, the
NFBG significantly decreased from 485.8±25.1mg/ml to 246.3±19.6mg/dl (at the 4th week) after
transplantation. The MEI groups maintained their body weight for 4 weeks. In contrast, the DM group
showed a significant decrease in body weight in a time-dependent manner.
4. IPGTT
IPGTT was performed 2 weeks after transplantation. The 30-day group and DM group showed
significantly higher area under the curve (AUC), and the normal group showed a significantly lower AUC
in comparison to the 1-day group. No significant difference was observed in the AUC between the 1-day
and 7-day groups. Moreover, the AUC in 30-day group was lower than that in DM group (p<0.05).
-116-
5. Serum insulin and C-peptide
The 1-, 7- and 30-day groups showed higher serum insulin and C -peptide concentrations than the
DM group (p<0.05), and no significant differences were observed among the 1-, 7- and 30-day groups.
6. Histological findings
HE staining of the pancreas of recipient mice was performed in each group to check the regeneration of
islets in STZ-induced diabetic mice. No intact islets were observed in the STZ-induced diabetic mice
(DM, 1-, 7- and 30-day groups). In contrast, large islets with intact morphology were found in the normal
group. These results indicated that the regeneration of islet did not happen in the STZ-induced diabetic
mice. Insulin staining was performed in the MEI group (1-, 7- and 30-day groups) to confirm the
surviving islets in the PVA MEI 4 weeks after transplantation. The islets in each MEI group were positive
for insulin staining.
考察:
Although MEI in the 30-day group showed a slightly worse function in vitro in comparison to that seen
in the 1-day group, and the recipient mice in the 30-day group did not achieve normoglycemia, there were
still some therapeutic benefits with 30-day cryopreserved PVA MEI in comparison to the DM group in
vivo . In fact, the survival rate of recipients 4 weeks after transplantation was 100% in the 30-day group
and 17% in the DM group. The results of the NFBG, body weight and IPGTT in the 30-day group also
showed apparent improvements from the DM group. In addition, the MEI in the 7-day group showed
similar results to the 1-day group in vitro and in vivo. These results indicated that the immediate use of
PVA MEI after 1 day freezing is not mandatory, furthermore, 7 days is sufficient for islet accumulation
for transplantation, islet shipping worldwide and an evaluation of islet quality before transplantation.
These results lead us to conclude the use of PVA MEI therefore appears to be an effective modality which
can be used for clinical islet transplantation in the near future.
結論:
Long- term cryopreserved PVA MEI showed similar effects to the original PVA MEI (1-day group)
both in vitro and in vivo. These results suggest that the PVA MEI have advantages over other MEI which
may therefore make it possible to overcome the obstacles of insufficient donors and the side effects of
immuno-suppressive drugs, because the encapsulation process with cryopreservation technique allows
islet accumulation, as well as the shipping and quality control in the field of islet transplantation.
Therefore, the use of PVA MEI appears to be an effective modality for improving clinical DM therapy.
参考文献:
1. Shapiro AM, Lakey JR, Ryan EA, Korbutt GS, Toth E, Warnock GL, et al. Islet
transplantation in seven patients with type 1 diabetes mellitus using a glucocorticoid-free
-117-
immunosuppressive regimen. N Engl J Med 2000;343:230–8.
2. Kenmochi T, Asano T, Maruyama M, Saigo K, Akutsu N, Iwashita C, Ohtsuki K,
et al. Cryopreservation of human pancreatic islets from non-heart-beating donors using hydroxyethyl
starch and dimethyl sulfoxide as cryoprotectants. Cell Transplant. 2008; 17: 61-7.
注:
本研究は、2009年11月6日
「The 40th Anniversary Meeting of American
Pancreatic Association and Japan Pancreas Society」にてポスター発表、「Biomaterials」(In
Press)に掲載。
作成日:2010年3月1日
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-日中医学協会助成事業-
前立腺がんの造骨性骨転移のメカニズム解明
研究者 氏名
王 麗楊
中国所属機関
中国医科大学
日本研究機関
大阪大学歯学研究科
指導責 任者
教授 米田 俊之
共同
相野 誠
研究者
要旨
近年日本の男性において急増している前立腺がんは死亡率の第 2 位にランクされている。80%以上
の前立腺癌は造骨性の骨転移を示し、患者の QOL および生存期間を著しく低下させる。前立腺がん
発生のメカニズムには未だ不明な点が多く、それらを解明するために、動物モデルの確立は不可欠だ。
しかしながら、そのような動物モデルはまだ開発されていない。そこで、われわれはまず前立腺の造骨
性骨転移の動物モデルの確立を試みた。様々な実験を行った結果、ヒト前立腺がん細胞 LNCaP に恒
常的活性型 STAT3 を過剰発現させた LNCaP/caStat3 細胞を樹立した。この細胞をオスヌードマウスに
心注すると、造骨性の骨転移が見られた。したがって、 STAT3 の恒常的活性化は前立腺癌の造骨性
骨転移を惹起させることが明らかとなった。STAT3 はガン遺伝子であり、恒常的活性化と前立腺がんの
悪性度、あるいは転移能との関連がすでに報告されている。前立腺がん発生のメカニズムには未だ不
明な点が多いが、危険因子として肥満が知られている。本研究では、前立腺癌の造骨性骨転移におけ
る Stat3、ならびに肥満原因遺伝子の一つであるレプチンの関与について検討した。がん遺伝子 Stat3
の恒常的活性化によるレプチンの産生増加が前立腺がんの造骨性骨転移の成立、進展に重要な役割
を果たしていることが示唆された。また本研究により肥満と前立腺がん発生との関連の分子基盤の一端
が明らかとなった。
Key words 前立腺ガン, 骨転移, 肥満, レプチン, STAT3
緒 言:
近年男性において、急増している前立腺がんは 80%以上が造骨性の骨転移を示し、患者の QOL お
よび生存期間を著しく低下させる。前立腺がん発生のメカニズムには未だ不明な点が多いですが、危
険因子として肥満が知られている。前立腺がん患者の血中 leptin が増加していること、また高濃度のレ
プチンは前立腺癌の進展に関与すること、さらに、ヒト前列腺癌に leptin 受容体が発現することが報告
された。一方、leptin の下流因子である STAT3 はがん遺伝子であり、恒常的活性化と前立腺がんの悪
性度、あるいは転移能との関連が示唆されている。そこで本研究では前立腺がんの造骨性骨転移にお
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ける leptin および STAT3 の役割を検討した。
対象と方法:
1. 最初の実験として、LNCaP 細胞における leptin signaling について検討した。
2. STAT3 の役割を詳細に検討するために、LNCaP に恒常的活性型 STAT3 を過剰発現させた
LNCaP/caStat3 細胞を樹立し、皮下移植モデルと脛骨骨髄内移植モデルを作成した。
3. LNCaP/caStat3 細胞から産出するレプチンは造骨性増大に関与するかどうか、また leptin は
autocrine 増殖因子であるかどうかについて、検討した。
4. レプチンの造骨性増大の促進するメカニズムを検討するために、ヒト顎骨細胞由来、初代培養骨芽
細胞様細胞である HAOB 細胞を樹立した。
結果:
1.leptin は stat3 のリン酸化を時間依存的に促進した。この結果より、LNCaP 細胞は、機能的な leptin
受容体を有していることが示唆された。また、leptin は LNCaP 細胞の増殖を促進した。さらにこの効果は
STAT3 の阻害剤 AG490 により、抑制された。
2.LNCaP/Stat3 細胞は、高い増殖能を示し、またオスヌードマウスの皮下に移植すると、腫瘍形成をし
めした。一方 LNCaP/EV 細胞は腫瘍原性を示していなかった。さらに脛骨骨髄に注入すると、腫瘍の
造骨性増大を呈した。一方 LNCaP/EV 細胞はこの効果を示していなかった。
3.LNCaP/Stat3 担癌動物においては、血中の人 leptin 濃度が著名に上昇していた。それに一致して、
骨内で増大する LNCaP 腫瘍は leptin 受容体発現が増加していた。また MicroArray 法によっても
LNCaP/caSTAT3 細胞の leptin 受容体の発現増加が確認された。
4. LNCaP/caStat3 細胞は骨髄中で、著名な造骨性増大を示したが、leptin 中和抗体処理により、この
効果は阻害された。
5.さらにレプチンアンタゴニスト及び中和抗体は LNCaP/caStat3 細胞の増殖を抑制した。したがって、
レプチンは前立腺がんにおいて autocrine growth factor であることが示唆された。
6. LNCaP/caStat3 の培養上清は、HAOB 細胞の分化及び石灰化を促進した。これらの効果はレプチ
ンアンタゴニストの添加により消失した。
7.leptin は LNCaP/caStat3 培養上清と同様に HAOB の分化を促進した。
8.このようなレプチンの作用の分子メカニズムを検討した結果、leptin は STAT3 及び ERK のリン酸化を
促進することが、western 法や免疫蛍光法により、示された。
9.さらに、STAT3 の inhibitor AG490 および ERK の inhibitor U0126 は、leptin により増強された HAOB
細胞のアルカリホスファターゼ活性を抑制した。以上の結果より、leptin による STAT3 及び ERK の活性
化が骨芽細胞の分化に密接に関与することが示唆された。
-121-
考察:
ヒト前立腺癌 LNCaP 細胞において、がん遺伝子 Stat3 の恒常的活性化はレプチン産生およびレプチ
ン受容体の発現増加を誘導することがわかった。leptin は autocrine 因子として前立腺癌細胞の増殖を
促進し、一方 paracrine 因子として骨芽細胞の分化を促進することにより、前立腺がんの造骨性増大の
成立、進展に重要な役割を果たしていると考えられる。STAT3 および ERK の活性化はレプチンの骨芽
細胞調節機構に関わることが明らかとなった。また本研究により肥満に伴う血中 leptin 濃度の上昇は、
前立腺がんの造骨性増大を促進することが示唆され、したがって肥満と前立腺がん発生との関連の一
端が示唆された。
EV
EV
caSTAT3
EV
caSTAT3
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Ob esit y
Adipose
↑ leptin
pStat3
autocrine
Circulating
PCa
Leptin ↑
progression
↑LEPR
↑ Ost eo b last ic
PCa/caSTAT3
paracrine
↑ leptin
pStat3
growth
Osteoblastogenesis
参考文献:
1. Abdulghani J et al., Stat3 promotes metastatic progression of prostate cancer. Am J Pathol. 2008
172:1717-28.
2. Sharma D et al., Leptin promotes the proliferative response and invasiveness in human endometrial
cancer cells by activating multiple signal-transduction pathways. Endocr Relat Cancer. 2006
13:629-40.
3. Baillargeon J et al., Obesity, adipokines, and prostate cancer in a prospective population-based
study. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2006 15:1331-5.
4. Gade-Andavolu R et al., Molecular interactions of leptin and prostate cancer. Cancer J. 2006;
12:201-6.
5. Handschin AE et al., Leptin increases extracellular matrix mineralization of human osteoblasts from
heterotopic ossification and normal bone.Ann Plast Surg. 2007;59:329-33.
注:
本研究は、2009 年 7 月 25 日<第 27 回日本骨代謝学会 >にて口演発;
2009 年 9 月 13 日 <第 31 回米国骨代謝学会(ASBMR)> にて口演
発表 2009 年 11 月 6 日 <第 26 回 Naito 学会> にてポスタ―発表
作成日:2010 年 3 月 9 日
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