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「原子力安全文化」の在り方とその運用

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「原子力安全文化」の在り方とその運用
「原子力安全文化」の在り方とその運用
―原子力規制委員会への提言(2)―
平成 25 年 1 月 30 日
S-Q 分科会
日本保全学会
S-Q:Nuclear Safety Culture(原子力安全文化)-
Quality management system(品質マネジメントシステム)
日本保全学会
Japan Society of Maintenology
本書に掲載されたすべての記載内容
は、日本保全学会の許可なく転載・複
写することはできません。
「原子力安全文化」の在り方とその運用
―原子力規制委員会への提言(2)―
目 次
<S-Q 分科会の設置趣旨>
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・
<「原子力安全文化」の在り方とその運用に係る提言の概要>
ⅰ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ⅳ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1
<本文>
1. 安全文化とは何か
1.1 安全文化の提唱と定義
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1.2 日本における安全文化への取り組み
1.3 諸外国における安全文化の状況
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3
1.4 なぜ安全文化が必要か(安全文化の有用性)
2. 福島第一原発事故と安全文化
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・
2.1 福島第一原発の事故原因(安全文化の観点から)
2.2 安全文化に対する東京電力(株)の反省
10
10
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10
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10
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11
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12
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12
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13
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
14
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
16
2.4 安全文化のツールとしての会議
3. 原子力における安全文化醸成活動
3.1 安全文化の浸透の難しさ
3.3 規制当局の問題点
4. 安全文化のあるべき姿
4.1 日本と米国における安全文化への取り組み
4.2 規制当局の安全文化と規制技術
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
16
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17
4.3 安全マネジメントシステムの果たすべき役割と位置付け
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
17
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
18
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18
5. 安全文化の在り方とその運用に係る提言
5.1 日本流の安全文化の構築
5.2 安全マネジメントシステムの導入
5.3 安全文化の基盤整備
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
19
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
19
5.4 原子力安全に関する規制当局と事業者の責任の明確化
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
20
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
20
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
22
5.5 規制当局、事業者及び学協会の適切な関係の構築
<あとがき>
7
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2.3 福島第一原発事故が示唆する安全文化の限界と活用
3.2 事業者の問題点
1
参考資料 1
「原子力安全文化の在り方に関する検討会」報告書より
付録 1
原子力安全達成のための「安全マネジメントに関する相関図」
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・
23
25
<S-Q 分科会の設置趣旨>
原子力関係者はここ数十年間に亘って原子力事故防止の方策に努力してきた。その形
跡を振り返ってみると、事故防止対策が発展的に進展してきた事実に気が付く。それ
は、事故が起こるたびに、「再発防止対策は何か」、に触発されて進展してきたもので
ある。歴史的に見て“三つの安全方策”が存在してきたと認識できる。
第一の安全方策は、施設を構成する諸機器の信頼性が高ければ当然故障は少なく、
信頼性を上げれば事故は最小化できるという、今となっては素朴ではあるが安全確保
の基本をなす考え方である。これはあらゆる産業に共通の事故防止対策である。
第二の安全方策は、TMI 事故を契機に重要な課題として認識され、事故防止のため
人間と機械のインターフェースに齟齬がないシステムを開発することである。すなわ
ち装置の運転に対して運転員の過誤を最小化するというものである。
第三の安全方策は、その契機となったのはチェルノブイリ事故であるが、人と組織
に安全文化を浸透させ、その配慮を組織と設備の管理に行き渡るようにするというも
のである。根底に、機器信頼性の向上と人間の過誤の防止対策だけでは、万が一の場
合にでも事故を防がなくてはならない原子力安全を十分に満足させることは困難であ
る、という認識がある。
これらはどれか一つを採用すれば良いというものではなく、連携して運用されなけ
ればならない。その上で「安全文化を人と組織に定着させる」、こうして原子力技術者
は事故防止対策の最終手段にたどり着いたと考えることができるのである。
この方策は、IAEA がこのチェルノブイリ事故の原因調査を通して、原子力の安全
達成の根幹的方法として“安全文化”の重要性を認知し、それを世界に提唱したこと
に触発されており、画期的なことであった。今思うに、安全文化は安全性を達成する
最後の砦として守り抜かなくてはならない方策と位置付けられる。
そ も そ も 、 安 全 文 化 の 根 幹 は 、“ 見 え な い も の (intangible) ” を “ 見 え る も の
(tangible)”に具体化する過程を通して安全性を達成するところにある。それ故、前
者を“仮相”、後者を“実相”と認識すれば、日常、随所に存在する“ありふれた見方”
に関連付けられ、安全文化が身近に感じられ、理解が深くなる。例えば、
「文化は仮相
の形態をとるが、文明は実相の形態をとる」というのはその例である。また、貨幣価
値は目に見えず仮相であるが、紙幣そのものは目に見える実相である。安全行為の背
後に目に見えない仮相を見ることを安全文化理解の基軸にすれば、醸成活動の理解は
-i-
促進される。
このような観点から安全文化を見ると、「安全性向上に資する行為は称揚され、反す
る行為は排除されるべし」といった“安全倫理”は“仮相”であり、原子力安全を実
現するためのマインドも仮想であるが、実現された安全行為は実相である。 法令によ
る“品質マネジメントシステム(Quality Management System:以下 QMS という)”
の要求は安全文化達成の仮相であるが、それに沿った行為は実相である、と認識する。
つまり“仮相”と“実相”はコインの裏表として共存し、共同で目的を 達成しようと
するから、目に見えるものだけを見て見えない側面を見ないのは適切ではない。すべ
ての安全行為はこのように解釈される。
IAEA 安全文化が日本に導入されてから日は浅い。従って、その適用が「実用炉規則」
に法令化され、事業者の保安規定に落とし込まれたのはつい最近のことである(2007
年)。従って、IAEA 安全文化の理解や現場適用に関して未熟で行き渡っていない点が
あるのは仕方がなく、現場における問題点にも着目して、その実態と運用について分
析し今後の望ましい展開にも触れるように心がけた。
保全学会は保全現象の体系化に関して学術的経験と知見を有し、
“保全哲学”の構築
に関し独特の思考体系を検討している。このような観点から、安全文化の根幹を探れ
ばどうなるか、という命題は保全学会にとっても興味深い。それは学会の社会貢献と
言った視点からも重要で、安全文化の在り方について、分科会を設置して検討を行う
ことは特に有意義であると考えた。このような動機から、企画運営委員会の審議を経
て“S-Q 分科会”という名の検討会を設置することにした。
検討内容は、先般、学会は、QMS の在り方について報告書 *1 (以下、「QMS 提言
報告書」という)をまとめたが、それを検討のベースにして、安全文化の在り方、日
本の風土にふさわしい安全文化とは何か、を議論し本報告書をまとめることにした。
これが、原子力規制当局に対する学会からの提言という形になることをも意図してい
る。
まとめられた報告書は、提言とするからには、保全学会会員の意見を聴取し反映さ
せることが望まれる。そこで、原案作成は専門知識を有する学会会員と事務局から構
成される S-Q 分科会を立ち上げ、懸案について集中的に検討し草案をまとめた。その
後、やはり学会会員である主として有識者から成る“評価委員会”を設置し評価する
プロセスをとった。評価委員の意見は報告書に反映され、保全学会のホームページに
掲載し、会員の意見を得て最終報告書とし、原子力規制委員会への提言書とした。
- ii -
福島第一原発事故以後、時代は、保全学会のような学術機関がその専門性を活かし
て、技術的見解を世に積極的に発信して行くことを要請している。本報告書はそのよ
うな認識の上にまとめられたものであり、原子力規制委員会だけでなく広く世に公表
することを考えている。
最後に、S-Q 分科会を通してご協力いただいた学会会員の方々、最後の段階で報告
書の技術的妥当性を評価してくださった評価委員の方々に心より感謝申し上げたい。
本報告書が規制当局や原子力のステークホルダーにとって役立つことになれば、望外
の幸である。
*1:
「原子力規制における QMS の役割と適正な運用―原子力規制委員会への提言―」
保全学会 HP(http://www.jsm.or.jp/)に掲載。
日本保全学会会長
宮
健三
(平成 25 年 1 月)
- iii -
<「原子力安全文化」の在り方とその運用に係る提言の概要>
原子力安全を達成するための仕組みについて、先般、
「QMS 提言報告書」を取りまと
め、QMS の在り方について原子力規制委員会に提言した。一方、原子力安全の十分
な達成には、QMS だけでなく、それを運用する人や原子力ステークホルダーを含む
安全文化が重要である。
本提言報告書では、
「QMS 提言報告書」を踏まえ、原子力における安全文化の在り方
とその運用について検討し、安全文化に係る問題点を整理し、新たな安全文化の構築
に向けて、いくつかの提言を行ったものである。
【チェルノブイリ事故と安全文化の導入】
原子力において安全文化という概念が提唱されたのは、1986 年に発生したチェルノ
ブイリ事故の調査・検討による。事故の根本原因として、事業者と国レベルにおいて、
原子力安全に対する考え方や意識に問題が内在しており、それは文化と言えるほどの
広がりと影響があるとの認識に基づいて「安全文化」が定義され、今日に至るまで、
IAEA を中心として安全文化に係る様々な活動が行われてきている。
【日本における安全文化の取り組み】
日本においても、チェルノブイリ事故への対応の中で安全文化の重要性は認識された
が、当時の日本の原子力発電所は優れた運転実績を上げていたことから、安全文化上
の教訓を自らの問題として十分に汲み取るまでには至らなかった。
その後、もんじゅ事故、JCO 事故、自主点検記録の不正問題など、安全文化の劣化
を示唆する新たな問題が発生し、QMS や安全文化の規制化も行われた。安全文化は、
安全に係わるすべての関係者の問題であるにも関わらず、規制当局は自らを枠外に置
き、事業者にだけ規制を課した。また、事業者も、発電所運用の実務を重視した実践
的側面から十分な取り組みができたとは言えない。
そこに起こったのが福島第一原子力発電所の事故(以下、「福島第一原発事故」とい
う)である。
【福島第一原発事故の発生と安全文化上の問題提起】
福島第一原発事故を安全文化の観点から見ると、「なぜ津波対策を講じなかったの
か」という本質的な問題になる。日本においては、合意形成を“集団による決定”に
委ねられ、集団倫理に基づく“空気”が支配するため、安全文化がこれを克服できる
かどうかが大きな課題である。各種の事故調査報告書には、安全文化の欠如に起因す
る問題点が多く指摘されているが、安全文化浸透の困難性を指摘したものはない。こ
- iv -
の問題を解決することが重要であるが、これを克服する手段は容易ではないことを 知
っておく必要もある。
【分析と提言】
安全文化に関する取り組みについて米国と比較をすると、発電所での実践的側面に
おいて遅れている。日本においては、「原子力安全文化の在り方に関する検討会」(平
成 15 年)の報告書が取りまとめられ、事業者と規制当局に対する重要な課題が提起さ
れている。しかしながら、これらは十分に実施されたとは言えない。これらの反省を
踏まえ、安全文化を向上させていくために、次のことを提言する。
第一に、日本の安全文化は、IAEA の 20 年以上にわたる安全文化をベースにし、日
本の精神的風土にカスタマイズしていくことが重要である。つまり、個人より組織と
しての集団倫理が意思決定を支配するという風土であることを考慮して、その実現の
ために、「危機管理意識の涵養」「集団倫理の正常化」「目的と手段の倒錯防止」「合理
性の確保」の 4 つを日本流安全文化の基盤とすべきである。
第二に、日本の安全文化の取り組みが遅れていることに鑑み、IAEA が提唱する「安
全マネジメントシステム」の導入を、事業者及び規制当局ともに、積極的に進めるべ
きである。これは、原子力安全を達成する QMS という仕組みと安全文化を統合する
ものである。さらに、これにより達成する安全文化について、技術士などの第三者が
客観的に評価する仕組みを導入すべきである。
第三に、安全文化を高めていくためには、QMS と同様のインフラの整備が急務であ
る。具体的には、安全文化醸成活動の実施と評価に関する規定の制定及び安全文化に
係る人材の育成である。
第四に、安全文化は、原子力安全に対し第一義的な責任を有する事業者はもとより、
安全に係わるすべての者の責任を明確にすべきである。特に規制当局は、
「行政の無謬
性」という“行政神話”を打破し、責任ある原子力安全行政を担わなければならない。
第五に、規制当局、事業者、メーカや学協会等は、緊張関係を維持しつつも、相互
に連携することにより、安全文化を向上させることに努めなければならない。規制当
局と事業者の適切な関係を実現するために、相互から等距離にある学協会を活用する
ことが効果的である。
-v-
<本文>
1. 安全文化とは何か
1.1 安全文化の提唱と定義
「安全文化」という概念は、1986 年に発生したチェルノブイリ事故の原因の調査と
検討の結果から生まれた。事故調査に当たった国際原子力機関(International Atomic
Energy Agency:以下、IAEA という)の国際原子力安全諮問グループ(International
Nuclear Safety Advisory Group:以下、INSAG という)は、この事故の根本原因は、
現場の作業者や原子力発電所の運転に責任を有する電気事業者(以下、事業者という)
だけではなく、国レベルの広い層の原子力安全に対する考え方や意識に問題がある、
と指摘した。問題の根の深さは“文化”と呼べるほどの深さと広さを持っており、個
人や組織、社会の意識や行動を左右しているものであり、原子力安全を確保する上で
重要な要素として認識すべきである、と提唱した。
IAEA はこのことを踏まえて、“原子力安全文化”(以下、安全文化という)を次の
ように定義した(INSAG-4)。
IAEA による安全文化の定義
『原子力の安全問題には、その重要性にふさわしい注意が最優先で払わ
れなければならない。安全文化とは、そうした組織や個人の特性と姿勢
の総体である。』
なお、米国原子力規制委員会(Nuclear Regulatory Commission, United States:
以下、NRC という)と 英国原子力施設安全諮問委員会(Advisory Committee on the
Safety of Nuclear Installations:以下、ACSNI という )も独自の定義を定めている。
これらは、原子力安全を最優先とする点で本質的には等価であるが、日本においては
原子力安全委員会が翻訳した IAEA の概念的な定義をそのまま使い続けているのに対
し、米国においては行動基準に影響を与える者として「リーダー」という用語を使用
するなど、IAEA の定義をふまえつつも実際の活動に展開しやすいように工夫してい
ることがうかがえる。(表-1 参照)
1.2 日本における安全文化への取り組み
1990 年代の日本では、トラブル件数の減少や定期点検の短縮により世界でも抜きん
出た設備利用率などを達成していたこともあり、安全文化は真剣に議論されてこなか
った。
-1-
その一方で、従来型の設備故障に加えて、もんじゅ事故(1995 年)、アスファルト
固化施設火災爆発事故(1997 年)、焼鈍データ改ざん問題、輸送容器問題(1999 年)、
JCO 事故(1999 年)、自主点検記録の不正問題(2002 年)など、安全文化の劣化を示
唆する問題が指摘されるようになり、ようやく品質保証や安全文化の問題が重要視さ
れるようになった。
日本の社会では、社会的事件として新聞記事になるまで対応策がとれず、まさにこ
れは日本における原発事故の典型的なパターンである。以下の事故・故障に関連した
国レベルの規制の動きはまさしくそのことを示している。日本人は事故が起きる前に
対策を施す危機管理の行動をとることが苦手で、いつも後付けである。
(1)原子力安全文化の在り方に関する検討会
2002 年に発生した東京電力(株)の自主点検記録の不正問題をきっかけに、経済産業
省原子力安全・保安院(以下、NISA という)は、様々な改善を行ってきたが、その
一環として「原子力安全文化の在り方に関する検討会」を設置し、事業者など関係者
の反省を促すとともに、改善への道筋を明確にするため、社会の各層(原子力事業者、
規制行政当局、マスメディア、一般国民)が持つ課題を挙げた。しかし、未だに主要
な課題は解決されていない(参考資料 1 参照)。
(2)品質保証の規制への導入
QMS は、安全文化を構成する「人が作り出すもの(Artifact)」の一つであり、安全
文化の目標を支援する重要な仕組みである。東京電力(株)の自主点検記録の不正問題
(2002 年)の再発防止対策の一環として、「実用発電用原子炉の設置、運転等に関す
る規則(以下、実用炉規則という)」が 2003 年 10 月に改正され、事業者に対し品質
保証計画に基づく保安活動が義務付けられると共に、これと時期を合わせて制定され
た民間規格「原子力発電所における安全のための品質保証規程(JEAC 4111)」に基づ
き QMS を導入することが規制要求となった。QMS に基づいた活動の実施結果は、年
4 回行われる国の保安検査において確認されている。
(3) 安全文化・組織風土の劣化防止
美浜原子力発電所 3 号機二次系配管破損事故等をうけ、NISA 及び(独)原子力安全
基盤機構(以下、JNES という)は、2005 年に、JNES 内に「安全規制における原子力
安全文化(組織風土の劣化防止)検討会」を設けた。IAEA を始めとして海外の動向、
国内他産業分野での取り組みなどの調査を踏まえて、事業者の定期安全レビューにおけ
る組織風土劣化防止の取り組みを規制当局が把握する方策について検討し、2005 年 12
月に「組織風土劣化防止の取り組み方と把握の視点」を策定した。
-2-
(4) 安全文化の法令(規制)上の取扱い
2007 年 8 月公布の実用炉規則第 16 条に基づき、保安規定に「関係法令及び保安規
定の遵守のための体制に関すること」、及び「安全文化を醸成するための体制に関する
こと」を記載することとなった。事業者は 2007 年 12 月 14 日施行の保安規定からこ
れらを記載・実施するとともに、規制当局は「規制当局が事業者の安全文化・組織風
土の劣化防止に係る取り組みを評価するガイドライン」
(平成 19 年 12 月 14 日付け平
成 19・12・03 原院第 1 号 : 以下、ガイドラインという)に基づき、事業者の安全文化
醸成活動の状況を評価している。
1.3 諸外国における安全文化の状況
欧米における安全文化の取り組み状況を、以下に示す。
(1)英国
英国では、ACSNI が INSAG-4 を参考として安全文化に関する報告書をまとめ、安
全文化の評価対象を組織の安全へのコミットメント、共有されている安全意識に限定
し、事業者の自主活動を重視する規制(non/less prescriptive regulation)で監視する
ことなどを提言した(1993 年)。
ACSNI 報告書は、その後発行された IAEA の様々な報告書の策定や、英国、米国、
カナダ、スイス等における安全文化の規制評価の具体化に際して直接的、間接的に参
照されてきた。ACSNI 報告書の考え方は、安全に関する組織活動に着目して、事業者
の自主規制が発展の原動力となると認識し、事業者の自主活動を重視する規制手法を
適用すべしというものである。後述する各国における安全文化の規制評価においても、
国ごとに多少の相違はあるが、基本的には ACSNI の考え方を踏襲しつつ、
「安全文化」
なるものの特性を考慮して規制としての取り組み方を発展させて来ている。
ACSNI 報告書から、安全文化をレビューするためにまとめた、
「安全文化について、
規制当局が検討、確認すべき 7 つの指標」を以下に示すが、専門家が規制当局の関わ
り方についてどのように考えたかを示すものである。
1)「規制行動が事業者の安全文化醸成活動にどのような影響を与えているか」を検
討しているか。
2)「積極的な安全文化を要求するには、事業者が安全文化のオーナーシップを持つ
ことが不可欠ということ」を認識しているか。
3)「安全文化の指標が簡単に計測できる安全パフォーマンス指標ではないこと」を
理解しているか。
4)「事業者のスタッフが安全文化を客観的にレビューできるように適切に訓練され
ているステップ」を確認しているか。
5)「事業者のスタッフが積極的な安全文化を醸成するための行動計画を実施する技
能があるように適切に訓練されているステップ」を確認しているか。
-3-
6)「規制者も事業者と同様に安全文化に対する誤った認識をする可能性があること」
を認識しているか。
7)規制者自身の安全文化をレビューしているか。
規制上の取り組みとしては、政府機関である HSE(保健安全執行部)より、安全マ
ネジメントシステムの枠組みとして「成功する安全衛生マネジメント」HSG65 が発行
された。その中で ACSNI 報告書の安全文化に係る定義をそのまま使用し、積極的な
安全文化を組織するためには、
「組織のビジョン、価値観、信念が共有されており、積
極的な安全文化が経営者の目に見えるリーダーシップにより醸成されている」ことが
必要とされている。
そして、必要な活動として、次の 4 項目を挙げて説明している。
・コントロール:マネジメント(経営者、管理層)によるコントロールを確立・維
持
・協働:個人、グループ、責任者の協働で健康・安全に向けて努力する
・コミュニケーション:目に見えるリーダーシップと組織方針への理解を深める上
下関係のコミュニケーション
・力量:安全についての効果的な力量向上施策
(2)カナダ
カナダにおいては、1990 年代に原子力管理委員会(Atomic Energy Control Board:
以下、AECB という)が、
「組織とマネジメントのレビュー手法」という組織評価ツー
ルを開発して、規制評価に利用している。最近では、カナダ原子力安全委員会
(Canadian Nuclear Safety Commission:以下、CNSC という)が以下に示す IAEA
の 5 つの特性に基づく目標を規定し、この目標に関連した観察できる組織の行動を 27
項目にまとめている。この 27 項目の行動について、「組織とマネジメントのレビュー
手法」を用いて、資料レビュー、インタビュー、アンケート及び行動観察等により評
価している。
・安全が明確に確認された価値である
・安全へのリーダーシップが明確である
・安全への説明責任が明確である
・安全が全ての活動に組み込まれている
・安全が学習により推進される
CNSC がこの評価手法により 11 の原子力施設を評価して手法の有効性を確認した
上で、2004 年には事業者が自己評価を実施する場合のガイドラインを開発し、その使
用を促している。事業者は、自己評価と組織外の要員によるそれぞれ独立した評価を
行い、これに対して規制当局が監視を行っている。
-4-
(3)スイス
スイス連邦原子力安全検査局(HSK)は、重大事故には安全に係る組織要因が介在
しており、組織要因や安全文化の評価は規制活動での重要な項目であるとして、2002
年 6 月に組織評価のガイドラインを策定した。このガイドラインを作成するにあたっ
ての一般的原則を以下に示す。
・規制機関の監視する安全文化は組織における安全についての規範や行動に限定する
・規制機関は、事業者の安全文化に悪影響を及ぼしうる行為を確実に避けるよう、常
に意識しなければならない
・規制機関の活動や問題提起は、事業者の自主規制を促進する方法で行わなければな
らない
・安全文化を大部分の技術的な規制トピックと同様に取り扱うことはできない
・規制戦略には、規範的規制(prescriptive)と事業者の自主活動を重視する規制
(non/less prescriptive)があり、安全文化の規制には後者が最も適切である
(4)米国
2002 年 3 月に発生したデービス・ベッセ原子力発電所における原子炉容器上蓋腐食
問題(以下、デービス・ベッセ問題という)は、組織要因が災いした安全文化にかか
わる深刻な問題としてとらえられ、NRC と INPO は安全文化に係わる諸活動の在り方
を見直すことになった。図-1 に変更点が示されているが、「安全文化の自己評価活動
を確認する仕組みの導入」と「事業者の組織風土等を NRC が評価する」といった 2
点が規制強化の変更点になった。
組織要因としては、安全最優先が徹底していない、是正処置プログラムが不十分、運
転経験情報の反映が不十分、ホウ酸腐食管理手順に従っていなかった等の組織的問題
があったとされている。
【デービス・ベッセ問題に伴う規制検査制度の変更】
NRC が原子力発電所に対して実施する規制活動は、デービス・ベッセ問題が発生す
る前から原子炉監視プロセス(Reactor Oversight Process:以下、ROP という)とし
て体系化され、2000 年 4 月から運用されている。
是正処置活動(Correction Action Program:以下、CAP という)が、安全文化向上
の中核をなすと考えられており、逆に是正処置を要する不具合が安全文化の劣化を反
映するとしてとらえられ、CAP に重きを置いた安全文化の実施状況を審査している。
ROP では「問題の把握と解決」を狙った検査を主眼とし、この観点から、CAP を中心
とした検査を実施していた。
しかしながら、デービス・ベッセ問題が発生したことから、規制当局と事業者は協議
を密に行い、ROP における安全文化の検査を強化することで合意した。具体的には、
検査マニュアルと検査手順書を改訂し、2006 年 7 月に「安全文化をより完全に取り扱
-5-
うための原子炉監督プログラムの変更に関する情報」を発行し、検査を開始した。
従来の検査では安全文化の劣化と設備の弱点部の早期発見が十分ではなく、大事故
に至る可能性を否定できないことのため、規制検査を図‐1 のように変更した、と推
測される。
NRC:
(1)従来から行ってきた CAP を対象とした検査の中に、安全文化についての INPO
の評価結果や自己評価結果をレビューし反映することとした(図-1 参照)。
(2)ROP の基本検査で安全上問題があると判断されたとき、法的に強制される追加
検査の中で、問題の深刻さの程度に応じて第三者機関による独立した安全文化の
自己評価が要請され、さらに NRC 自身による安全文化の評価が実施されるよう
になった。
(3)組織横断問題(Cross Cutting Issue)における具体的な検査項目を明確化するた
めに、13 の構成要素、36 の項目が公表された。6 ヶ月または 12 ヶ月の周期の検
査において、「ヒューマン・パフォーマンス」、「問題の把握と解決」、及び「安全
を重視する作業環境」について、安全文化を評価している。
(4)エドガー・シャインの 3 層モデル(下記参照)のうち、第 1 層と第 2 層を ROP
の監視対象とした。第 3 層は無意識の深層心理に関わるため、規制対象にはでき
ないことは自明のことである。
エドガー・シャインの 3 層モデル
安全文化の構造を理論的に分析したモデルとしてエドガー・シャインの著名な
3 層モデルがあり、IAEA でも基本的にこのモデルを用いている。それは、安全
文化は以下の 3 つの階層から構成されると考える。
・ 人が作り出すもの(Artifacts)【第 1 層】
例:安全方針書、構築物、言語、ふるまい
・共有される価値観(Espoused Values)【第 2 層】
例:安全第一、責めない仕事環境、失敗は改善の機会
・基本となる前提・想定(Basic Assumptions)【第 3 層】
例:事故は起こり得る、正しく設計されたプラントは本質的に安全だ
例えば、QMS は「人が作りだすもの」に相当し、対応可能な管理対象という
理解ができる。他方、
「基本となる前提・想定」は目に見えない深層心理であり、
組織要員の“特性”として心に保持されており、これが QMS に基づく実行動
の在り方に影響を及ぼすと考えられる。
-6-
INPO:
・IAEA の INSAG-4「安全文化」をベースに、
「強固な原子力安全文化の原則」を発行
し、これに基づいた安全文化の自己評価活動を実施するよう事業者に要請するとと
もに、INPO による安全文化評価活動を開始した。
図-1
米国の安全文化活動の概念
1.4 なぜ安全文化が必要か(安全文化の有用性)
安全文化は、1)設備の安全性維持活動をソフト的に支援し、2)できるだけ多くの
組織と人の自発的貢献を促し、3)安全性を阻害する設備の劣化を絶えず防止する日常
的行為の動機を与え、4)以て原子力設備の安全性を絶えず高いレベルに維持する精神
的よりどころである。以下に具体的に説明する。
【人の誤りを防ぎ、人の良い側面を促す安全文化】
人が関与しない偶発的な事故・故障は別にして、原子力施設で起こるいかなる問題
も、何らかの形で人間の過誤が関与していると認識できる。人間の過誤が原因で起き
る問題を最小化するためには、個人が安全文化に合致した行動をとることが有効で、
安全目標の達成に近付くことができる。
以下に、それに関連した INSAG-4 の記述を紹介したい。
「・・・、原子力施設で起こるいかなる問題も何らかの人間の誤りから始まる。そ
-7-
れに対して“人間の心”は、潜在している問題を感知し、それを未然に防止するのに
大変有効であり、安全確保のためそれを活用することは極めて重要である。こう考え
ると、個人には重い責任があり、定められた手続き(手順書)を忠実に守ることは当
然として、それを越えて、
『安全文化』と一致するさらに有効な行動をとることが望ま
れる。」
要点は、安全性向上を目指した“心がけ”(安全文化の定義で言う“姿勢”に相当)
は顕在化していない問題の兆候を早期に発見するのに有効であり、安全文化に沿った
個人の“問いかけ”的な行為は手順書に書かれていることを超えて安全性向上に資す
ることができる、という側面が強調されている。
【安全実績の先行指標としての安全文化】
IAEA の安全文化の定義によれば、安全文化とは組織と人の「特性と姿勢の総体」
であるから、その効果は原子力施設を運用していく中で安全実績となって現れる。し
かし、安全文化の劣化が直ちに安全実績の低下に繋がるわけではなく「それはある時
間が経過した後顕在化する」という点に留意する必要がある。安全実績の低下を見て
安全文化の劣化に対応するのでは手遅れになるため、安全文化の劣化兆候を早期にと
らえる“先行指標”の設定が重要となる。
安全文化の劣化兆候をとらえる指標については、世界的にも試行されているところ
であり、確定的なものはないが、1.2 節(4)項に記載の「規制当局が事業者の安全文化・
組織風土の劣化防止に係る取り組みを評価するガイドライン」に含まれる「安全文化
劣化兆候把握のための具体例」が参考にされている。
-8-
表-1
定義
IAEA
原子力の安全問題には、その重要性
にふさわしい注意が最優先で払わ
れなければならない。安全文化と
は、そうした組織や個人の特性と姿
勢の総体である。
安全文化を初めて組織と個人の特
性・姿勢として定義した。
(比較のベース)
定義の基
本の違い
組織や個人の特性(characteristics)
と姿勢(attitudes)
-9-
特徴
安全文化の定義
英国原子力施設安全諮問委員会(ACSNI)
組織の健全性と安全マネジメントへのコミット
及びその形態と成熟度を決定づけるのは、個人
及び集団の価値観、姿勢、認識、能力、行動様
式であって、組織の安全文化とは、これらの産
物である。
積極的な安全文化を持つ組織の特徴は、相互信
頼に基づいたコミュニケーション、安全の重要
性に関する共通した認識、予防対策の有効性を
確信していることである。
・安全文化を生み出すものを 3 つの側面から捉
えている。すなわち、心理的側面として、価値
観、姿勢及び認識(perceptions)、組織が保持す
るものとして能力(competencies)、行動の側面
として行動様式を上げて具体化している。
・高い安全文化を持つ組織の特徴が書かれてい
る。
価値観(values)と姿勢(attitudes)等
NRC
人と環境を守るために、リーダー*2 も個
人も一丸となって、競合する目標(goal)
の中でも安全を優先することを誓約す
る必要があり、原子力安全文化とは、そ
うして生まれる基本的価値観とふるま
いである。
・組織の機能として意識しやすく、価値
観に影響を与えるリーダー * 2 という用
語を使用している。
(欄外の定義を参照)
*2
・リーダー と個人のコミット(誓約)
を明記しているため、活動への展開がイ
メージしやすい。
・IAEA の安全最優先が概念的なのに対
し、「競合する目標の中でも安全を優先
する」として、活動の目指すところ(目
標)を記述している。
組 織 の 価 値 観 (values) と ふ る ま い
(behaviors)
*2:自らのパフォーマンスとプラント・パフォーマンスに責任を負うと共に、プロセスと他の要員の価値観に影響を与える者(INPO)
3 機関(IAEA、ACSNI、NRC)の共通点:
①原子力安全を最優先とすること。 ②個人と集団(組織)が関係すること。 ③特性・価値観といった見えにくいものと、姿勢・ふるま
いといった外面からとらえられるものを問題にすること
2. 福島第一原発事故と安全文化
2.1 福島第一原発の事故原因(安全文化の観点から)
福島第一原発事故は、東京電力(株)が津波対策を講じていなかったことが第一義的な
原因である。この原因は、設備に関する事故原因であり、この事態を招いた原因はと言
えば、多岐にわたる。多くの事故調査委員会が設置され、それらの報告書に原因究明と
対策が提案されている。それを安全文化という観点から見ると、以下の自問が本質的で
ある。
1)平安時代の大津波(貞観地震)の例が警鐘されていたにも関わらず、何故それを
深刻なものとして捉え対策を講じてこなかったのか、
2)大津波の発生に対する施設の脆弱性が指摘されていたにも拘らず、何故、津波対
策が取られなかったのか。
当時も今も、日本では合意形成は“集団による決定”によるのが通常である。つまり、
責任の所在を意図的にあいまいにする組織風土や規制風土から脱することは不可能に
近く、安全文化がこの困難を克服できるかどうか、本質的な課題である。日本において、
安全文化はこの組織と個人における“相克”を克服できるか、となるが、おそらく例外
を除いて不可能に近いであろう。これが大きな課題として、安全文化に対し大きく立ち
はだかる。
2.2 安全文化に対する東京電力(株)の反省
2011 年 12 月 2 日に公表された東京電力(株)の「福島原子力事故調査委員会」報告書は、
規制に沿って対策を進めてきたとの立場であったが、その後、社内に原子力改革監視委員会
を設け、米、英の専門家も入れ、新たな視点で検討を行い、その結果を 2012 年 12 月 14
日に公表した。そこでは、
1)安全はすでに確立されたものと認識し、稼働率向上などの経営課題を優先させたこと。
2) 事故を防げなかった最大の要因として、安全意識が欠如していたこと
を挙げているが、
具体的には、
津波リスクの過小評価、海外や他者の教訓を学ばなかっこと、
などである
3)これらの措置の原因として、立地地域に理解を得ることが“安全神話”の観点から困
難であったとしたこと。
結論として「数々の不祥事を安全文化劣化の兆候とはとらえず、安全意識を向上させる
対策が進まなかった」ことを挙げている。では、どのような安全意識向上があれば、福島第
一原発事故は防げたのか、明白でない。原因の多くを安全文化の欠如に押し付ける事故調査
報告書は後付的で評価できない、という疑問は消えない。
2.3 福島第一原発事故が示唆する安全文化の限界と活用
福島第一原発事故の原因が「安全文化の欠如」と関係があるのは言を俟たない。しか
し、それがどのような内容の原因かを分析するのは簡単ではない。これまでは、安全文
- 10 -
化の醸成だけを唱えておけばことは済んだが、福島第一原発事故の場合には「安全文化
を行為(津波対策)に繋がるようにするにはどうしたらよいか」と云った実践問題に踏
み込む必要がでてくる。日本における安全文化が血となり肉となるには、日本人の“空
気”に支配され易い、などの国民的特性を如何に克服するかにもかかわっている。それ
について例示を示してみたい。
例示 1:「空気の研究」と「日本辺境論」
山本七平は「空気の研究」で、
「日本人が集団で何かを決定するとき、その決定に強
く関与するのは、提案の論理的妥当性ではなく、その場の空気である。場の空気と論理
性が相反する場合、日本人は事もなげに空気に従う」と云い、多くの例を挙げている。
また、内田樹は「日本辺境論」で、「日本人は原理原則を外国に依存しているために受
動的で、空気に流されやすい。ある判断について、その意図を説明し、それを指導的に
遂行し、それがもたらす功罪のすべてについて責任を取ろうという日本人はいない。既
成事実の前に際限なく譲歩し、個人としての責任は決して引き受けない。」とし、太平
洋戦争を例に挙げている。
例示 2:「空気」の支配
福島第一原発事故の前、東京電力(株)や規制当局には、大きな津波を想定し過酷事故
対策のため多大なコストをかけることは現実的でないという「空気」が充満していた。
事故前の地震・津波対策について東京電力㈱や規制当局の幹部は主体的な決定をしてお
らず、すべてが「空気」に流されてしまっていた。既成事実の前に譲歩と妥協を繰り返
してきたことが今回の事態を招いたといえる。結果において、経営層もこの「空気」に
水を差すほどの関心は無かったと思われる。この「空気」によってもたらされた不明確
かつ無自覚で受動的な意志決定プロセスそのものが、最も反省すべき点である。経営層
の問題である。原子力発電事業の継続にあたっては、事業者や規制当局が自らこの「空
気」による意志決定プロセスを徹底的に排除することが肝要なのではないか。
この状況は、安全文化を真に役立たせようとすると「安全文化のクリッフエッジは何
か」という問題が最も重要で、問題の重要度分類(グレーディング)という考え方を導
入する必要がある。
2.4 安全文化のツールとしての会議
安全文化は「言うは易く行うは難し」と言わざるを得ない。日本流の安全文化は、こ
の“空気”との葛藤を克服できなければ形式主義に終わり、おのずから限界があると言
わざるを得ない。“空気”に支配される日本人の気質は変更困難なので、安全文化はそ
れを前提としそれと協調する形で構築されなければ、掛け声倒れに終わる。これは安全
文化醸成活動にとって大きな制約条件となろう。
IAEA が目標とするように安全文化が組織と個人に浸透していたなら、津波対策はと
られていたであろうか。例えば、市民がある十字路で最近交通量が多くなったから事故
の発生を恐れ、信号機を作れと、交番にいくら訴えても決して信号機は設置されない。
誰かが事故で死亡し新聞沙汰になるまで設置されないのが日本の行政の風土である。
- 11 -
現に、大津波が生じ大きな被害が発生したから、想像をこえる大掛かりな津波対策が
原子力発電所で取られているのである。日本人はやけどするまで行動を起こさない。そ
うだとすると、福島第一原発事故が起きるまで津波対策は取られなかったのは日本人の
典型的な行動パターンであって、これを安全文化の欠如というのは易しいが、安全文化
がどの程度浸透していたら対策は取られたのか、難しいが重要な問題である。ここには
日本における「安全文化浸透」の困難性が立ちはだかっている。
逆に、関係者に行動を起こさせるには安全文化をどこまで浸透させたら良いか、どこ
まで要求したら良いか、大きな問題で、今後の醸成活動に反映すべき要素は何か、とな
る。しかし、この問いに関する解答は聞かれない。日本人が固有に持つ倫理観を無視し
ては安全文化の効果は限定的で、日本の安全文化が「議論を拒絶する神聖化」に堕して
行くことが懸念されるのである。
安全文化は人々に強い影響を与える“空気”みたいなものという認識は有効である。
“空気”は人々に何かをさせることはできても、自らすることはできない。安全文化も
同様で個人と組織の中核に働きかけることはできるが、それ以上のことはできない。し
かし、安全文化は「津波対策を取るか否かを決める会議」の“空気”を変える役割は果
たせる。会議の決定は個人の責任と無関係だから日本では実施される。従って、日本で
は安全文化の趣旨に沿って “会議”を運用するというのは有効な手段で、重要な安全
文化のツールの一つとなる。
このように考えてくれば、各事故調査報告書の原因を安全文化の欠如に求める結論は
納得がいくものの、それを克服する手段は容易ではないことを知っておくべきある。
3. 原子力における安全文化醸成活動
3.1 安全文化の浸透の難しさ
原子力安全に関わる諸活動が有効に機能するには、事業者、規制当局、メーカー等の
支援組織の各層において、組織の経営層や管理者層のみならず現場作業員を含むすべて
の要員に、それぞれの職務に応じた安全文化が醸成されていることが重要であり、日本
では 1990 年代後半から 2000 年代前半においてヒューマンエラーを要因とする故障が
増加し始めたことから、ようやく安全文化の問題が重要視されるようになりこれまでに
様々な取り組みが行われてきた。にもかかわらず安全文化の早急な浸透は難しく、2002
年に「原子力安全文化の在り方に関する検討会」が設置され階層毎の解決すべき課題が
抽出されたが、未だ主要な課題が残されていることもその表れであろう。
このように、安全文化最優先を唱えているだけでは安全文化は思うように浸透しな
いことから、福島第一原発事故の反省を契機に、事業者及び規制当局が現在抱えている
安全文化に関する問題点を明らかにし、その実効ある改善策を明確にすることが重要で
ある。以下に、事業者と規制当局の問題点を整理した。
- 12 -
3.2 事業者の問題点
(1)現状の事業者の活動
事業者は、実用炉規則 第 16 条(保安規定)に基づき、
「安全文化を醸成するための
体制(経営責任者の関与を含む。)に関すること」を保安規定に規定することが要求さ
れていることはすでに述べた。
(1.2 節参照)
この実用炉規則に基づき、事業者は保安規定第 2 条の 3(安全文化の醸成)に、次の
事項を規定し、
安全文化醸成活動について、PDCA を回しながら継続的に活動している。
①社長は、原子力安全を第一に位置付けた保安活動とするため、安全文化醸成の基
本方針を定める。
②安全文化を醸成する活動を継続的に改善する仕組み等(計画立案、実施、評価、
改善)を社内規定に規定する。
③安全文化の醸成に係る年度計画を策定し、活動を実施する。
(2)安全文化醸成活動の民間規格制定の必要性
事業者は、原子力安全の確保を確実にするために、民間規格「原子力発電所における
安全のための品質保証規程(JEAC4111)」の各要求事項に適合する QMS を確立し、
実施し、評価確認し、その有効性を継続的に改善する PDCA 活動を展開している。
事業者は、安全文化を浸透させるために安全文化醸成活動に取り組んでいるが、QMS
とは異なり、その活動に係る民間規格はなく、各事業者が独自に安全文化の醸成活動を
継続的に改善する仕組みを確立し、活動している。
本来、安全確保の根底をなす安全文化醸成活動は、規制に依存しないで事業者自らの
責任で能動的に活動すべきものであるが、安全文化醸成活動が規制対象となっているこ
とから、事業者は規制による評価を意識するあまり、規制当局のガイドラインを満足す
れば良いという誤った認識に陥り、「自律心」の欠如を招き、醸成活動が受動的な活動
に陥る。また、INPO の活動に見られるような民間レベルで自発的に自己評価する風土
も欠けている。こうした日本において安全文化が十分に浸透していない状況は、早急に
改善されるべきである。
したがって、事業者の安全文化醸成活動をより能動的な活動とするには、品質保証活
動と同様に安全文化醸成活動の民間規格を制定・基準とし、仕組みを構築し、自律的・
継続的な改善を行う活動を実施することが望まれる。また、その際、活動を有効なもの
とするには目標を適宜に設定することが重要で、達成可能な範囲の上限を設定し、
PDCA を回しながらスパイラルアップすることが望まれる。
(3)
「QMS と安全文化醸成」活動の連携
QMS と安全文化醸成活動は、相互依存関係にあるが、実用炉規則からの要求により、
保安規定に記載が分かれていることから、それぞれが独立した活動となっており、実効
性に疑問がある。QMS の実効性を上げるためにはいわゆる安全文化の浸透が望まれる。
そのためにも両者の連携性は喫緊の課題である。
- 13 -
具体的に言えば、QMS と安全文化醸成活動を統合したシステムを構築し、運営して
いく。この統合システムの構築に当たっては、IAEA が提唱する原子力安全マネジメン
ト規格である GS-R-3*3(The Management System for Facilities and Activities)や
INSAG-4「安全文化」の考え方の採用が当面の措置である。
*3:IAEA が 2006 年に発行した原子力施設に適用される統合型のマネジメントシステ
ム。品質だけではなく、環境、核物質防護、労働安全などを原子力安全のもとに
統合して体系化している。
3.3 規制当局の問題点
(1)現状の規制当局の活動
規制当局は、ガイドラインに基づき、
①事業者の年度計画に基づく活動状況、保安検査官による日常パトロールや事業
者の保安活動に関わる会議への参加等を含めた日常的な保安活動及び
②法令要求である定期検査、定期安全管理審査、保安検査等の検査結果における
指摘事項等を安全文化要素の 14 項目の視点からその都度評価し、これらを総
合的に評価し、その結果を「安全文化・組織風土劣化防止に係る取り組み総合
評価票」にまとめている(図-2 参照)
。
(2)規制当局の安全文化導入の必要性
IAEA 安全基準である「政府、法律及び規制の安全に対する枠組み」
(以下、
「IAEA
GSR Part1」という)の要件 19「規制機関のマネジメントシステム」においては、
規制当局にも、安全マネジメントシステムを確立し、実施・評価・改善することが
要求されており、この安全マネジメントシステムの目的として以下の 3 項目をあげ
ている。
① 規制当局は、自らの責任を適切に果たすことを確実に実行する。
② 規制当局は、自らの安全に係る活動の計画の立案、管理及び監督を行うことに
より、自らの実績(パフォーマンス)の維持及び向上を図る。
③ 規制当局は、個人と組織の安全に関連した良好な態度と行動だけでなく、リー
ダーシップの進展と強化を図って、自らの安全文化を醸成する。
しかしながら、規制当局は、原子力安全の行政を担当する組織として自らの安全
文化醸成活動や安全文化の醸成を含む安全マネジメントシステムを構築し、実施・
評価・改善することを行ってこなかった。
したがって、規制当局は、IAEA安全基準を参考とし、自ら安全文化の醸成を含む
安全マネジメントシステムを構築し、取組むことが望まれる。更には国民への客観
性を持たせる意味合いから第三者であるIAEAによる総合規制評価サービス
(Integrated Regulatory Review Service)*4を積極的に有効活用することが強く望
まれる。
*4:IAEA が加盟国に対して提供する支援サービスであり、IAEA の基準に照らし
- 14 -
て、法令及び規制の問題点等を指摘し、原子力安全の基盤を向上させることを
目的としている。日本は、2007 年 6 月に審査を受けている。
規制当局はガイドラインに基づき、以下の手順
で事業者の安全文化醸成活動を総合的に評価
【手順 1】
:劣化兆候の抽出
事業者の保安活動(①、②)を安全文化要素
14 項目の視点からその都度評価し、気付き事項等
を抽出する。
①日常的な保安活動
・事業者の年度計画に基づく活動状況
・保安検査官による日常パトロール
・事業者の保安活動に関わる会議等へ参加
・根本原因分析結果
等
②法令要求である各種検査の結果
・保安検査、定期検査、使用前検査における指摘
事項等
・定期安全管理審査、溶接安全管理審査における
指摘事項等
安全文化要素 14 項目の保全学会分類
【人に係る項目】
(4)常に問いかける姿勢
(5)報告する文化
(6)良好なコミュニケーション
【組織に係る項目】
(1)トップマネジメントのコミットメント
(8)コンプライアンス
(9)学習する組織
(11)自己評価または第 3 者評価
(14)態度・意欲
【業務の遂行に係る項目】
(2)上級管理者の明確な方針と実行
(3)誤った意思決定を避ける方策
(10)事故・故障等の未然防止に取り組む組織
(12)作業管理
(13)変更管理
【メッセージ・サービスに係る項目】
(7)説明責任・透明性
【手順 2】
:取組の強化が必要な項目の抽出
手順1から抽出された気付き事項等について、
安全文化・組織風土の劣化防止の観点から総合的に
評価し、事業者において取組の強化が必要と考える
項目を抽出する。
問題点
【手順 3】
:取組要請事項の提示
手順 2 から抽出された取組の強化が必要と考え
る項目について、事業者との十分な議論を踏まえ、
取組要請事項を事業者に提示する。
【評価方法の未整備】
安全文化要素 14 項目の評価の視点は
定めているものの、評価に係る明確
な判定基準がなく、保安検査官の判
断で安全文化要素 14 項目に関連付け
て評価している。
(3.3 節「(3)事業者活動の曖昧な評
価)参照)
総合評価票まとめ
手順 1 から手順 3 の評価結果を総合評価票にまと
める。
図‐2
規制当局における事業者の安全文化醸成活動の評価フロー(概略)
(3)事業者活動の曖昧な評価
IAEA GSR Part1 の要件 22「規制管理の安定性と一貫性」においては、
1)規制管理は安定性かつ一貫性がなければならず、
2)規制当局の個々の職員の意思決定において主観の介入を防止しなければならな
いこと
3)規制当局は審査や評価及びその検査に関連して、判断及び決定の根拠を事業者
- 15 -
に知らせなければならないこと、
が要求されている。
しかしながら、3.3 節(1)項の内容から考察すると、安全文化要素 14 項目の評価
の視点に関しても明確な判定基準がなく、安全文化・組織風土の劣化兆候の指摘に
まで届かず、規制当局は適切な評価方法を確立せずに運用してきた弊害が出ている。
一方、NRC は、1.3 節で述べているように、ROP の基本検査で安全上問題がある
と判断されたとき、法的に強要される追加検査の中で、問題の深刻さの程度に応じ
て、第三者機関による独立した安全文化の評価が要請され、さらに NRC 自身による
事業者の安全文化の評価として組織横断問題(Cross Cutting Issue)の検査項目を
具体化した上で検査を実施し、着実に効果を上げている。
したがって、規制当局は、NRC の検査のあり方を参考とし、事業者自らの責任で
自主的に安全文化醸成活動を展開させ、安全上問題があると判断されたときに事業
者の安全文化を適切に検査する仕組みにしたらよい。いわゆる実績検査である。
また、事業者を一方的に規制対象とみなす規制態度からは何も生まれない。事業
者の経験やノウハウは更なる安全性向上に必要不可欠であるので、透明性のある技
術的議論に基づいた相互理解の向上に努めることが肝要である。
(4)非合理的な検査・審査の運用
「QMS 提言報告書」において、法令要求である定期安全管理審査、保安検査等は
QMS を検査・審査の対象範囲とし、QMS の確認の程度には差はあるものの、確認
範囲は重複していることが指摘されている。
このような規制当局の重複した非合理的な検査・審査の運用は、事業者が日常的
に取組んでいる保安活動や意欲の向上、モチベーションの高揚に悪影響を与えてい
る可能性があり、ガイドラインに定める安全文化要素の 14 項目の一つである態度・
意欲の項目の視点から、逆に事業者の安全文化の劣化を招くことが懸念される。
したがって、規制当局は、事業者への過度の負担を軽減し、重複した検査・審査
を避けるため、合理的な検査・審査の仕組みを確立することが望まれる。
4. 安全文化のあるべき姿
4.1 日本と米国における安全文化への取り組み
日本では、「検査の在り方に関する検討会」において品質マネジメントシステムの規
制化を実施するとともに、2003 年に原子力安全文化の在り方検討会を開催し、安全文
化の規制化に向けた活動を実施したが、それまでの間は、積極的な活動は実施されなか
った。
「原子力安全文化の在り方に関する検討会」においては、事業者、規制当局及びマス
メディアなどに対する課題が整理され、品質保証に続き、安全文化を醸成する活動の実
施が法令化された。そして保安検査において、事業者の活動状況を確認することとなっ
- 16 -
たが、当時取りまとめられた課題(参考資料 1 参照)については、具体化された形跡は
見当たらない。
IAEA は、事業者に第一義的な責任があるとして安全文化を求めているが、規制当局
も規制者としての責任があるとして安全文化を求めている。つまり、事業者と規制当局
は、原子力安全を担う者として、それぞれが安全文化を構築することが必要であると言
う考え方である。しかしながら、規制当局は自身の安全文化に係る活動を実施していな
い。
NRC は、デービス・ベッセ問題が発覚した 2002 年までは、安全文化を規制の検査
項目としていなかったが、それ以降においては、事業者とコミュニケーションをとり、
事業者の自主的な活動を尊重しつつ、既存の規制システムである ROP を改正し、事業
者の安全文化を検査し評価するシステムを導入した。ROP は、通常の検査とパフォー
マンス指標の両方から、原子力発電所の安全性を検査し、成績が悪ければ、それに応じ
て追加検査や事業者への義務を増やすシステムであり、安全文化に関しても同様の方法
で検査と評価を実施している。
ROP では、適合検査は基本検査として最小化し、パフォーマンス・インディケータ
ーという定量的指標を使った実績検査(パフォーマンス検査)に重きが置かれている。
指標の存在が事業者に直接的努力目標を与え、安全実績の好成績と高い稼働率が達成さ
れる根拠になっている。
4.2 規制当局の安全文化と規制技術
原子力安全を向上させるためには、安全文化が基礎となる。そのためには、原子力安
全に第一義的な責任を持つ事業者が確固たる安全文化を構築しなればならない。福島第
一原発事故の各種報告書が指摘するように、この事故の根底には安全文化の欠如があっ
た。原子力事業者は、このことを肝に銘じ、安全文化の確立に最大限の努力を払わなけ
ればならない。
また、
「原子力安全文化の在り方に関する検討会」では、
「規制者の安全文化が事象者
の安全文化に反映すると考えられる」との指摘があった。規制と被規制の安全文化は相
互作用するため、規制者は、自身の安全文化を構築する努力を行うとともに、事業者の
安全文化を阻害しないように規制技術も改善していかなければならない。
4.3 安全マネジメントシステムの果たすべき役割と位置付け
IAEA が提唱する安全マネジメントシステムは、品質マネジメントシステムに安全文
化と安全のためのリーダーシップの要求事項を追加したものであり、原子力安全のため
に有用な要素を統合したものである。安全文化は、個人の意識、価値観などの見えない
ものの上に、態度、行動と言った見えるものとして現れるが、この見えるものに対して
適切なマネジメントを実施することにより、見えないものに良い作用を与えることが、
安全マネジメントシステムの要点である。また、安全マネジメントシステムは、安全文
化を育むためには組織内のリーダーシップが必要となるために、安全文化とリーダーシ
- 17 -
ップを同時に求めるものである。
しかしながら、IAEA が提唱する安全マネジメントシステムは、欧米の文化の上に成
り立つものであり、そのまま我が国に導入できるかどうかは、改めて考えなければなら
ない。ビジネスにおいては、我が国で成功したシステムを海外に持ち込み失敗した事例
が数多くあるように、国特有の文化、慣習、風土などの違いが影響することがある。一
方で、そのようなものに影響されず、成功する事例もある。安全マネジメントシステム
は、成功や失敗がビジネスのように明確にならないため、失敗したとしてもそれに気づ
かず、いつまでも引きずる可能性がある。そのため、IAEA の安全マネジメントシステ
ムがそのまま適用できるか、あるいはカスタマイズする必要があるかの見極めは大事で
ある。
IAEA が提唱する安全文化とリーダーシップは、組織に属する個人に期待される要素
であり、安全マネジメントシステムを成功させるためには、個人の役割が大きくなる。
5.安全文化の在り方とその運用に係る提言
5.1 日本流の安全文化の構築
IAEA の安全文化は、原子力に携わる全ての関係者、つまり、規制当局、事業者、メ
ーカーや学協会等の支援組織に属する組織と個人に適用されるものであり、特に組織を
構成する個人に対する安全文化が基礎となる点が特徴である。一方、日本では、個人よ
りも組織、つまり集団倫理が意思決定を支配することから、IAEA の安全文化をそのま
ま導入することは適切ではない可能性がある。そのため、日本では、安全文化の対象を
個人よりも組織に重点をおくことが効果的であると考えられる。
組織の安全文化を醸成するためには、「安全最優先」を基礎とする集団倫理に変えて
いく必要がある。集団倫理は、集団保身に働くため、時には集団を傷つける「安全最優
先」とは、利害が相反する。これに打ち勝つためには、集団内部に強い意志を持たせる
ことが必要条件であるが、これだけでは十分ではない。組織の状態や活動状況について、
外部の評価を受けることが必須となる。
具体的には、QMS や安全文化醸成活動について、事業者自らが PDCA 活動により目
標設定と達成を繰り返し、安全文化のレベルを向上させる努力を行うことが一つ。さら
には、事業者の安全文化のレベルや PDCA 活動の状況について、集団倫理に影響され
ない外部の評価を受け、客観的に把握をしていくことが二つ目である。外部の組織によ
る評価としては、規制当局に対する IAEA の総合規制評価サービスや、事業者に対する
世界原子力発電事業者協会(World Association of Nuclear Operation:以下、WANO
という)、INPO 及び(社)原子力安全推進協会のピアレビューがあるが、これらを積
極的に活用することが必要である。
以上を踏まえて、IAEA の 20 年以上にわたる安全文化をベースに、日本の精神的風
土にカスタマイズして行くことが重要である。そのためには、安全文化醸成活動に次の
視点が意識され続けられることが重要である。
- 18 -
(1)「火傷するまで行動をとらない」という欠点を克服する“危機管理意識”の涵養、
(2)組織の決定が一番重要視されるので、個人の安全意識が効果的に反映される会議
の活用(集団倫理の正常化)
、
(3)安全という“目的”と規制要求事項に従っていればことは済むという“手段”の
“倒錯”の防止(目的と手段の倒錯防止)
、
(4)安全性の向上につながる科学的・技術的判断の重視(合理性の確保)、
の 4 点を日本流安全文化の基盤として行きたい。
なお、規制当局においては安全文化醸成活動を実施していないため、問題点が顕在化
していないように見えるが、問題の本質は事業者と同じである。規制当局についても、
上記 4 項目を意識した安全文化醸成活動を実践することが求められる。(規制当局の場
合には、
(3)の「規制要求事項に従っていればことは済む」を「規制行為を行っていれ
ばことは済む」と置き換える。
)
5.2 安全マネジメントシステムの導入
IAEA のセイフティ・カルチャーは、
「安全文化」として日本に紹介されたが、規制当
局と事業者はそれを浸透させるための最大限の努力を払ってきたとは言いがたい。
IAEA がセイフティ・カルチャーの基準を順次整備してきたのに対し、国内での反映を
怠ってきたことを深く反省すべきである。
IAEA は福島第一原発事故を受け、さらにそれらを進化させようとしているが、我が
国は今こそ、その動きに追いつかなくてはならない。IAEA の基準は、品質保証から品
質マネジメントシステムへ、そしてセイフティ・カルチャーを取り入れた安全マネジメ
ントシステムへと移行している。規制当局及び事業者は、この安全マネジメントシステ
ムを導入し、安全文化の浸透に邁進しなければならない。
安全マネジメントシステムの導入は目的ではなく手段である。従って、これの実施に
より、本来の目的である原子力安全が達成されなければならない。規制当局および事業
者は、それぞれが安全マネジメントシステムを自己評価するとともに、客観的な評価を
受ける必要がある。そこで、その実施を、例えば、技術士に委任することを提案する。
技術士は国家資格であり、原子力分野も網羅している。米国においては、プロフェッシ
ョナル・エンジニアの制度があり、弁護士、公認会計士などと同様に、技術に特化した
資格の制度である。日本においては技術士の認知度は低いが、専門技術を有し、客観的
に評価できることは利点である。
5.3 安全文化の基盤整備
安全文化を高めていくためには、これに係るインフラを整備する必要がある。一つは、
安全文化を醸成し、またこれを評価するための規格の整備である。IAEA は安全文化を
含む安全マネジメントシステムを提唱しているが、安全文化を高めるための手段や具体
的方法は示していない。我が国における安全文化を高めるための醸成活動は、QMS と
- 19 -
同様に PDCA 活動として実施されているが、まだ試行錯誤の状態である。原子力安全
文化醸成活動を高めるための方策として、その実施と評価に関する規格を定める必要が
ある。
二つ目は、安全文化に係る人材の育成である。QMS については、その実施に係る教
育や講習があり、評価に係る監査員制度が整備されているが、安全文化については教育
及び評価の体系化が成されていない。安全文化は、目に見えない仮相と目に見える実相
から成るため、実相から仮相に浸透させるための技術や、ごくわずかの実相に見られる
兆候などから仮相を読み解く技術が必要である。これは一種の感応検査技術のようなも
のであるが、その技術を明確にせずに今日に至っている。福島第一原発事故を踏まえ、
安全文化に係る人材の育成は急務である。
5.4 原子力安全に関する規制当局と事業者の責任の明確化
安全文化を浸透させるためには、原子力安全に関する規制当局と事業者の責任を明確
にしておく必要がある。事業者には原子力発電所を直接管理し、安全を確保するための
第一義的責任があることは言うまでもない。一方、規制当局には、法令化行為、許認可
行為、検査行為を通じて、原子力安全の一翼を担う責任を有する。「行政の無謬性」と
いう“行政神話”を打破し、責任ある原子力安全行政を担わなければならない。
規制当局と事業者の責任を明確にできていない要因には、行政指導の存在があると思
われる。行政指導は行政手続法に基づくものであり、法令とは異なり、本来強制力の弱
いものであるが、規制行為として発出されると自ずと強制力が生じる。しかし、それに
基づいて実施された事業者の行為の責任は誰が負うべきなのか、曖昧になってしまう。
規制当局は、規制の責任に帰する行為を極力法令化するとともに、行政指導については
行政手続法の精神に則り適切に活用し、曖昧なものを最小限に抑える努力は重要である。
5.5 規制当局、事業者及び学協会の適切な関係の構築
安全文化は、原子力安全を向上させるための基礎である。安全文化は、原子力安全に
係わる全てのものが対象となるが、原子力安全を向上させるためには、それらの総合力
が必要である。従って、対象となる規制当局、事業者及び学協会は、緊張関係を維持し
つつも、相互に連携することにより、日本の安全文化のレベルを向上させることに努め
なければならない。
(付録 1 参照)
現在、規制当局と事業者の関係については、「規制が事業者の虜」と指摘されたこと
から、規制当局が事業者との関係を断絶し緊張関係が続いているが、原子力安全のため
には緊張関係を維持しつつも合理的に協力することが不可欠である。ここには規制にお
ける「目的と手段の倒錯」が見られる。「規制行為」は安全を達成するための手段であ
るが、「規制行為」が目的化し、事業者に対する規制を強化すればするほど、安全が高
まるといった誤解がこの倒錯を招いている。安全文化の醸成のためにより適切な関係を
実現するためには、相互から等距離にある学会を活用することが効果的である。これま
でも、学協会においては、規制当局と事業者が同じ場において議論をする環境を提供し
- 20 -
てきた。原子力安全に関する客観的な判断を行うためにも、学協会を活用することは、
時代が変わった現在、新たな秩序の構築の鍵となる。
このような関係において三者は、相互の関係において透明性を持ち、安全文化の浸透
に協力することが必要である。
- 21 -
<あとがき>
IAEA が安全文化を提唱(INSAG-4:1991 年 )して既に 20 年が経過しているが、
日本で本格的に検討が開始されたのは約 10 年前である。取り組みの遅れたこと自体安
全文化に係る問題意識の低さが露呈したものであるが、その後の取り組みにおいても、
実効性のある安全文化の醸成を真摯に目指したかと言うと必ずしもそうではない実態
が今回の検討を通じて明らかとなった。「安全文化は唱えるだけでは何の効力も発揮で
きない。安全行為に繋がるようにするにはどうしたらよいか。」と云った実践問題に踏
み込んだ取り組みが、事業者、規制当局ともに不十分であったということである。
S-Q 分科会において、
日本における安全文化への取り組みの現状と問題点を分析し、
原子力安全を向上させるための改善策を「原子力規制委員会への提言」と云う形で整理
した。議論に一番多くの時間を費やしたのは、日本流の安全文化をどうすれば構築でき
るかと云う点であった。日本では個人よりも組織つまり集団倫理が意思決定を支配する
ことを考慮して、IAEA が提唱した安全文化を日本の精神的風土に見合う形で醸成して
いくことが、安全行為の実現に繋がる確固たる安全文化を構築する鍵になると確信する。
このような視点は、これまでの日本における検討ではほとんど考慮されていなかったと
思われる。
また、原子力利用社会における安全文化の実効性を高めるためには、安全に対する
責任構造はどうあるべきかを考えることも有用である。事業者が原子力安全対して第一
義的責任を負っていることは確かであるが、事業者の責任が前面に出ることで規制当局
を含めた他の関係機関/団体の責任が曖昧になっていることはないだろうか。そもそも
「第一義的」とは IAEA 文書に記載された“prime”responsibility を訳したものであ
るが、「根本的」の意味で使われる日本語を訳語としたことで安全に係る責任構造が見
えなくなってきている、と指摘する意見もある。原子力利用社会が健全に発展していく
ためには、事業者、規制当局及びメーカ等の支援団体に留まらず受益者である国民やマ
スコミ等も含めた原子力のステークホルダーが、原子力の安全・安定運転継続に果たす
べきそれぞれの責任を明確にし、それぞれの安全文化を構築するための醸成活動を進め
ていくことが必要不可欠と考える。
安全文化のレベル向上のためには、規制当局と事業者が、緊張関係を維持しつつ相互
に連携して協力関係を築くことが強く望まれる。また、安全文化の醸成活動や達成度を
自己評価のみならず第三者による客観的な評価を受けることは、実効性の高い安全文化
の構築に有効な手段と考える。更に、規制行政の透明性を高める上でも、学会等の専門
知識を有する第三者機関を活用することは非常に効果的と考える。
原子力規制委員会において、本提言を真摯に受け止め、実効性のある安全文化の構
築に向けて規制行政に反映していただくことを希求する。
日本保全学会 S-Q 分科会
主査
山口篤憲
(平成 25 年 1 月)
- 22 -
参考資料 1
「原子力安全文化の在り方に関する検討会」報告書より
(課題と当分科会の評価)
平成 15 年
原子力安全研究協会*
報告書において提起された課題に対する当分科会の評価を以下に示す。
1.原子力事業者が考慮すべき課題
【報告書】
・安全最優先を組織の末端まで浸透させる
・安全文化の醸成は、組織管理の一部として取り組む
・モチベーション高揚と安全部門の重要性の確認
・安全文化の基本となる品質保証
・意志決定者の知識の向上、集団思考に陥らないように注意が必要
【当分科会における評価】
・チェルノブイリ以降、事業者は「日本はチェルノブイリとは違う」という姿
勢であったため、チェルノブイリの教訓としての安全文化を強化する機会を逸
し、その後の JCO 臨界事故、東電問題といった安全文化に係わる問題が頻発
したにもかかわらず、表面的な対応に終始し、安全文化の強化を十分にできて
いなかった。平成 15 年に発行されたこの報告書の内容は、その事を示してい
る。
・平成 15 年以降、品質保証の規制への導入、安全文化醸成の保安規定への記載
が行われ、制度的には形が整ったが、安全文化の醸成が十分に効果を上げるこ
となく、福島第一原発事故が発生した。
・集団思考に陥らない工夫が必要なことは、既に指摘されているが、福島事故
の経緯を振り返ると、結果として安全文化醸成活動が具体的実務における判断
において効果を上げることはできなかった。
2.規制行政当局が考慮すべき課題
【報告書】
・合理的・効果的な規制への改革、仕組み及びその実施
・検査・監査の質、量の評価と適正化の仕組みの確立
・安全文化に関する知見の活用
・国民に対する説明責任
・規制者の意識改革、価値観転換
・規制者自身の研修・教育と自己評価
- 23 -
【当分科会における評価】
・規制当局は、原子力安全の確保という目的を達成するため、事業者と連携す
る必要があるが、透明性に欠ける悪しき協働(癒着とされるような点)、ある
いは上意下達といった組織風土から抜け出すことができなかった。
・合理的・効果的な規制への改革については、保安活動を安全上の重要度
をふまえて効果的かつ効率的に規制していくことが重要であるが、大きなトラ
ブルが発生するごとに制度変更がなされ、結果としてバランスを欠く規制にな
っていた。
・具体的には、検査・監査は必要・十分なものを行い、重複・輻輳は避けなけ
ればならないが、保安検査と安全管理審査が重複するなど、一度制度を決める
と見直しに非常に時間がかかるという問題がある。
3.マスメディア、行政、一般国民において考慮されるべき課題
【報告書】
・メディア関係者が専門知識を深めることにより、事実関係を正確に把握して
いない報道を行う可能性を少なくすることは、安全文化の面からも重要である。
・一般国民は自分たちが何をおそれ、何に不安を抱いているかを正しく事業者
や専門家に伝える努力をすることが求められる。事業者や専門家もそうした訴
えに開かれた心をもって対応することが望まれる。
【当分科会における評価】
・一部のマスメディアの報道は、市民の代表という立場からか、エネルギーセ
キュリティといった国にとっての根幹に係る問題を、原子力の事故に係る問題
と同時に考えることをさけ、あくまでも国民の不安感に迎合する報道をしてい
るように思われる。このことは、福島事故の前と後で本質的には変わっていな
いように思われる。
************************************************************
*
「原子力安全文化の在り方に関する検討会」は、(財)原子力発電技術機構
が原子力安全・保安院から委託を受け、(財)原子力安全研究協会に事務局
を依頼して行ったものであり、報告書は平成 15 年 8 月に発行されている。
- 24 -
付録 1
原子力安全達成のための「安全マネジメントに関する相関図」
原子力の安全性を達成する効果的な手段として、これまで、機器の信頼性、人間と機
械の相互作用、に着目した安全対策が導入され一定の成果を上げている事実は疑う余地
はない。しかしながら、チェルノブイリ事故や福島第一原発事故の原因を追究すれば、
安全に対する“心”の持ち方が重大事故防止に不可欠だという認識に突き当たる。これ
が IAEA によって体系化され“安全文化”として世界的に定着しつつある。このことに
関しては、本文中に詳しく検討されている。
組織・人の特性と姿勢の総体として定義される安全文化が「顧客が満足する製品を作
るプロセスにどのように作用しているのか」を明らかに示して置くことは全体をしっか
り把握しておく上でも重要である。組織と機能と安全文化の作用状況は“安全マネジメ
ントシステム”の枠組みを表すことになる。その相関を示したものが付録図-1 である。
以下に、相関図の概要を述べる。
【電力生産の流れ】(青色部分)
原子力発電は、資源(人・組織、設備、資金)をインプットとし、事業者はもとより、
規制当局、メーカー、研究組織、学協会等の支援組織を含む全ての当事者の協業により、
原子力利用社会の安全確保を大前提に電力という“製品”を生産し、国民・利害関係者
に電力を供給している。その流れが青色で示されている。
【原子力利用社会における類的安全文化の醸成】(黄色部分)
原子力利用社会の安全確保には、安全に対し第一義的な責任を有する事業者の QMS
による運営管理だけでは不十分であり、規制当局、メーカー、研究組織、学協会等の支
援組織を含む全ての当事者が、安全文化の醸成に取り組むことが不可欠である。同時に、
単層(ある事業体の個人と組織)の安全文化の醸成だけでなくお互いの相互関係の中に
協調関係と緊張関係を合わせ持ちながら、多層(原子力ステークホルダー)の安全文化
の醸成も重要である。特に、ステークホルダー(国民・自治体・マスコミ等)に対し、
十分な説明責任を果たすことによって信頼関係を築きあげることも安全文化の一部と
して重要である。
【事業者の安全文化の取り組みの評価】(桃色部分)
事業者は、実用炉規則(第 16 条(保安規定)
)に基づき、「安全文化を醸成するため
の体制に関する条項」を保安規定の中に落とし込み(平成 19 年 12 月 14 日施行),安
全文化醸成活動に向けて、PDCA を回しながら継続的に活動している。
- 25 -
規制当局は、IAEA の INSAG-4、GS-R-3 を参照し、
「規制当局が事業者の安全文化・
組織風土の劣化防止に係る取組を評価するガイドライン」を制定(平成 19 年 12 月 14
日)し、事業者の安全文化の取り組みを評価している。また同図には、IAEA の安全文
化に関するドキュメントと JNES のガイドラインと規制当局の法令との関係も矢印で
簡単に示されている。
安全文化の在り方に関する内容の理解も重要ではあるが、それがどのように作られ、
現場に適用されているか、大事な情報であるから、俯瞰的な相関図として示されている。
以上
- 26 -
付録図-1 原子力安全達成のための「安全マネジメントに関する相関図」
(安全文化を含む原子力安全達成の構図)
資源
設備
説明
責任
協業/監視
安
全
文
化
組織・人
事業者(QMS)
電力
<組織・人>
監視
協業/監視
資金
製品・役務
メーカー、研究組織、学協会
<
- 27 -
非安全行為の排除
IAEA
INSAG-4
INSAG-4
安全行為の推奨
<基本原則>
原子力利用社会
の安全確保
電
力
生
産
顧
客
(
国
民
)
等
)
>
評
価
*
ガイドライン(JNES) 3
(1991年
年22月)
月)
(1991
(2006
(2006年
年88月)
月)
人と組織
ス国
民
テ・
ー自
治
ク体
ホ・
ルマ
ス
ダコ
ーミ
例
*1
*
1
GS-R-3
GS-R-3**22
(
規制行為
品・役務
規制当局
(2007 年 12 月)
規
定
保安規定
実用炉規則
実用炉規則
指標
安全文化醸成
(2007 年 12 月)
QMS
(2004 年 5 月)
安全文化醸成
(2007 年 8 月)
QMS
(2003 年 10 月)
*1:INSAG:IAEA の国際原子力安全諮問グループ
(the International Nuclear Safety Advisory Group)
*2:GS-R-3:IAEA が提唱する原子力安全マネジメント規格
(the Management System for Facilities and Activities)
*3:ガイドライン:規制当局が事業者の安全文化・組織風土の
劣化防止に係る取組を評価するガイドライン」
(平成 19 年 12 月 14 日付け平成 19・12・03 原院第 1 号)
<S-Q 分科会委員名簿>
主査
山口
出澤
児玉
鈴木
鈴木
篤憲
正人
典子
哲也
弥栄男
船来 豊
森 鐘太郎
和食 正彦
(保全学会 副会長)
(保全学会 特別顧問)
(保全学会 会員)
(保全学会 会員)
(電気安全環境研究所)
(保全学会 会員)
(保全学会 会員)
(保全学会 会員)
<分科会開催日>
第 1 回:平成 24 年 10 月 2 日(火)
第 2 回:平成 24 年 10 月 11 日(木)
第 3 回:平成 24 年 10 月 19 日(金)
第 4 回:平成 24 年 10 月 26 日(金)
第 5 回:平成 24 年 11 月 5 日(月)
第 6 回:平成 24 年 11 月 16 日(金)
第 7 回:平成 24 年 11 月 28 日(水)
第 8 回:平成 24 年 12 月 17 日(月)
第 9 回:平成 25 年 1 月 11 日(金)
<S-Q 評価委員名簿>
世話人
奈良林 直
椹木 哲夫
杉山 憲一郎
望月 正人
森下 和功
- 28 -
(北海道大学)
(京都大学)
(北海道大学)
(大阪大学)
(京都大学)
日本保全学会 S-Q 分科会
報告書
2013 年 1 月 30 日発行
発行所
特定非営利活動法人 日本保全学会
発行者
宮 健三
〒110-0008 東京都台東区池之端 2-7-17 井門池之端ビル 10F
電話:03(5814)5430
FAX:03(5814)6705
E-mail:[email protected]
URL:http://jsm.or.jp/
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