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食料産業局バイオマス循環資源課地球環境情報係
農林水産省委託事業 平成22年度 東アジアにおけるバイオマスタウン構想 普及支援事業 報 告 書 平成23年3月 株式会社エックス都市研究所 【目 次】 ページ 事業の概要 ....................................................................................................................... 1 1. 1.1 事業の目的 ................................................................................................................ 1 1.2 平成 20-21 年度事業実施の成果 .................................................................................... 2 1.3 平成 22 年度事業の概要................................................................................................. 6 1.3.1 事業の実施方針 .................................................................................................. 6 1.3.2 主たる事業 ......................................................................................................... 7 シンポジウム開催及び準備作業 ........................................................................................ 9 2. 2.1 概要 ........................................................................................................................... 9 2.2 参加者 ..................................................................................................................... 10 2.3 国際シンポジウム .................................................................................................... 10 3. 3.参加者の評価集計 .................................................................................................... 27 4. 総括 ~国際シンポジウムの成果とタウン構想の普及・促進に向けて .......................... 32 資料1.国際シンポジウム・配布資料 資料2.シンポジウム・パネルディスカッション議事録 資料3.政策評価アンケート 略語表 BDF: Biodiesel Fuel バイオディーゼル CPO: Crude Palm Oil 粗パーム油 DARD: Department of Agriculture and Rural Development of Ho Chi Minh City ホーチミン市農村開発局 DEDE: Department of Alternative Energy Department and Efficiency, Ministry of Energy タイ国 エネルギー省 代替エネルギー・省エネ局 DOA: Department of Agriculture, Ministry of Agriculture and Cooperatives タイ国 農業協同組合省 農業局 DOAE: Department of Agriculture Extension, Ministry of Agriculture and Cooperatives タイ国 農業協同組合省 農業普及局 DONRE: Department of Natural Resource and Energy ホーチミン市 天然資源環境局 DOST: Peoples Committee of Ho Chi Minh City, Vietnam Department of Science and Technology ホーチミン市 科学技術局 EMCO: Environment Management and Conservation Office, Department of Environmental Engineering, Khon Kaen University コンケン大学 環境工学部 エネルギー管理保全オフィス HUMUT: Ho Chi Minh City University of Technology ホーチミン工科大学 JICA: Japan International Cooperation Agency 独立行政法人 国際協力機構 JST: Japan Science and Technology Agency 独立行政法人 科学技術振興財団 MARD: Ministry of Agriculture and Rural Development ベトナム国 農業農村開発省 SFRI: Soil and Fertilizers Research Institute ベトナム 土壌肥料及び環境研究機関 VAAS: Vietnam Academy of Agricultural Sciences ベトナム農業科学アカデミー 1. 事業の概要 1.1 事業の目的 東アジア諸国では、稲わらなどのバイオマス資源が豊富に賦存しており、低炭素型のエネルギ ー利用も含めたその有効活用は地球温暖化防止に資するところが大きいことが着目されている。 本事業は、我が国のバイオマスタウンの取組から得られた知見・ノウハウを活用し、対象地域 の地域ニーズに合致したバイオマスタウン構想づくりの取組み支援などを通して、東アジアにお ける持続可能なバイオマス利活用システム構築の普及支援を目的に実施するものである。 ■ 全体事業の進捗 「東アジアにおけるバイオマスタウン構想普及支援事業」は、平成 20~22 年度の 3 カ年事 業として実施されており、本年度事業(22 年度)はその最終年にあたる。 初年度(20 年度)事業では、調査対象国としてタイとベトナムが選定され、現地基礎調査 及び関係者を日本への招聘した人材育成(国内ワークショップ)を実施し高い成果を収め た。 昨年度(21 年度)事業では、タイにおけるロエイ県 Na Duang 村、及びベトナムにおける ホーチミン市 Cu Chi 地区を対象地区とし、以下の取組みを行った。 [人材育成支援] 20 年度事業において日本に招聘した人材育成対象者(以下、カウンターパート)を中心と して構想策定に必要な賦存量の把握や適正な利活用システムの検討、対象国でのバイマス タウン構想の制度的な位置づけの明確化などを含むセミナーを実施するとともにカウン ターパートによるバイオマスタウン構想(案)を策定した。 [ネットワーク構築] 昨年度事業の総括として、両国において関係者および近隣諸国大使館などを招待したワー クショップを開催し、バイオマス構想(案)や、日本及び両国におけるバイオマスに関連 する活動の発表に基づき意見交換を行うなど、関係者への理解・周知、ネットワーク構築 といった点で一定の成果を収めた。 ■ 22 年度事業(最終実施年) 最終取りまとめ年度である本年度では、過去 2 年間に実施したタイ、及びベトナム両国の対象 地域におけるタウン構想策定・公表に係る支援を行った。また、具体的な事業化に向けた中央政 府の巻き込み、及び両国のみならず東アジア全体へのバイオマスタウン構想の普及と認知向上、 更なる人的ネットワークの拡大を目指し、バイオマスタウンに関する国際シンポジウムに係る計 画策定を行い、12 月に同シンポジウムを開催した。 「東アジアにおけるバイオマスタウン構想普及事業実施の進捗と展開の方向性」 20年度 基礎調査 人材育成 構想策定 現地調査 実施地区選定 対象者 選定 日本での 研修・視察 21年度(本年度事業) タイ・ベトナム 22年度 タイ・ベトナム外の東アジア全体 への波及も視野に実施 現地でのタウン作成研修 地域住民への周知 現地でのタウン作成研修 地域住民への周知 各国の実情に モデル地域における モデル地域で実際にタウン構想策定 応じたタウン構想 タウン構想に向けた さらなる人的ネットワークの拡大 のあり方検討 人的ネットワーク構築 のバ海 モイ外 デオ版 ルマ 構ス 築タ ウ ン 持続可能な農業・ 農村開発の実現 地球温暖化防止への貢献 新たなバイオマス利活用 プロジェクトの創出 (技術協力、共同研究、CDM等) タイ・ベトナム外の国でも バイオマスタウン構想を策定 我が国のバイオマス利活用の知見により、東アジアの農山漁村の活性化や世界的な地球温暖化防止に貢献 図 1 東アジアにおけるバイオマスタウン構想普及事業実施の進捗と展開の方向性 1 1.2 平成 20-21 年度事業実施の成果 (1)平成 20 年度成果 基礎調査(文献調査、現地調査)、人材育成(日本での研修会)を実施し、以下の成果を得た。 タイ・ベトナムにおけるモデルバイオマスタウン構想策定候補地域の選定 基礎調査、カウンターパートとの協議、および検討委員会での議論等に基づき、東アジア版 バイオマスタウン構想策定モデル候補地域として、タイ・コンケン県(県内の数箇所を想定、 その後カウンターパートの意向でロエイ県・Na Duang 村に変更)とベトナム・ホーチミン(ク チ地域)を選定した。 対象地域におけるバイオマスタウン構想策定のカウンターパート(各国 3 名)を選定 現地調査を通じて、タイ・ベトナムの対象地域におけるバイオマス利活用に係る関係者にヒ アリング調査を行い、本事業実施に必要な人材として各国 3 名ずつカウンターパートを選定 した。 表1 日本への招聘者(カウンターパート) 氏名 所属 備考 1) タイ Dr.So mjate Prathoommintra 農業協同組合省 農業局 シニアエキスパート長 在タイ 大使館より招聘 候補として 紹 介 農業協同組合省 R&D 部門シニアエキ スパート責任者 Dr. Kanchana Sethanan コンケン大学 環境工学部 エネ ルギー管 理保全オ フィス 局長, 准教授 生産管理・物流・コンピューターシミ ュレーション専門 Dr.Sukamon Hinchiranan エネルギー省 在タイ 大使館より招聘 候補として 紹 介されたエネルギー省局長の推薦 日本への留学経験(1 年)有り エネル ギー省のバイオ マス利活用 担 当 タイ全 土のバイオマス エネルギー 利 用事業を把握 代替エネルギー・省エネ局 バイオマス技術グループ 研究員 2) ベトナム Mr. Ngo Dinh Minh Hiep ホーチミン工科大学 Mr. Nguyen Tuan Thanh. ホーチミン市科学技術局 Mr. Nguyen Phuoc Trung ホーチミン市農業農村開発局 副局長 2 化学修士 日本へ 6 週間留学し、バイオマスタウ ンなどの視察経験あり ホーチ ミン工科大学ト ゥアン副学 長 推薦 化学エンジニア ホーチミン市科学技術局局長の推薦 動物学 ホーチミン市科学技術局局長の推薦 来日経験有り カウンターパートを日本へ招聘し国内 10 日間のワークショップを開催 ワークショップでは、日本のバイオマス利活用に関する専門家による講義と日本のバイオマ ス利活用先進事例の視察を実施し、以下の成果を得た。 ① 国内外でのネットワーク形成 ② 対象 2 地域でのバイオマスタウン構想の具体案・方向性検討 ③ バイオマスタウン構想策定に向けたステップ・スケジュール案の作成 ④ バイオマスタウン構想策定に向け日本側へ求める支援・協力の明確化 表 2 研修プログラム概要 主な予定及び活動 2/23 (月) 2/24 (火) 2/25 (水) 2/26 (木) 2/27 (金) 2/28 (土) 3/1 (日) 3/2 (月) 3/3 (火) 研修内容 7:30 タイ及びベトナムメンバー成田到着 10:30~11:45 農林水産省 表敬訪問 15:00~16:15 ホテルチェックイン 16:30~18:00 研修内容のオリエンテーション 18:00 ~20:00 懇親会 ■セミナー1 東アジアのバイオマスタウン構築手法 9:00~10:00 東大生産研 迫田教授講義 10:00~11:00 農村工学研究所 凌先生講義 11:00~11:30 各国発表(15 分×2) ■国内視察1:アサヒビール神奈川工場 14:00~15:30 視察 15:30~16:30 情報交換 プレゼン等 ■国内視察2 千葉県香取市、千葉県旭市 11:15~12:00 風土村(レストラン) 12:00~14:00 山田バイオマスプラント 視察 14:20~16:00 ブライトピック千葉 視察 ■国内視察3 11:20~11:50 13:15~15:00 栃木県茂木町 道の駅もてぎ 視察 茂木町リサイクルセンター美土里館 視察 ■国内視察4 熊本県山鹿市、福岡県大木町 13:00~14:30 山鹿市バイオマスセンター視察 15:30~17:00 大木町おおき循環センターくるるん 視察 ■セミナー2: 現地視察のまとめ 13:30~15:00 休日:終日フリー ・東アジアバイオマスタウン構想事業全般の説明等 ・研修目的、スケジュールの説明、ワークショップ概要・ 目的説明、注意事項、緊急連絡先の確認等 ・アジアにおける持続可能なバイオマスタウン ・東アジアバイオマスタウン利活用技術 ・タイ及びベトナムにおけるバイオマス利活用の状況 ・廃水処理施設や省エネ、CO2 対策等の視察 ・伊江島におけるバイオエタノール事業の紹介 等 ・風土村における地産地消の取組支援、及び情報発信 ・バイオマスリファイナリーシステムの紹介 等 ・食品スーパーと養豚業者が連携した食品リサイクルの循 環システムの紹介 等 ・環境保全型農業で生産した農産物の販売と情報発信 等 ・地域住民の理解・協力を得た堆肥の生産と環境保全型農 業の推進 等 ・地域のバイオマスをバイオマスセンターに集約、メタン 発酵の液肥を水稲に利用事例の視察 等 ・町内全域の生ごみ、し尿、浄化槽汚泥の受入れを可能と するメタン発酵施設の視察 等 ・2/24~2/27 までに視察した国内事例の総括 ■セミナー3: バイオマスタウン策定方向 14:00~14:30 講義 14:30~16:00 議論 ■成果発表会 16:00~18:00 成果発表会(1 カ国 30 分×2) 17:30~18:00 議論 18:00~18:15 農水アンケート ■最終打上げ懇親会 18:30~20:30 最終打上げ懇親会 午前 研修生帰国 ・日本のバイオマスタウン構想の策定手法 ・タイ型及びベトナム型バイオマスタウン構想の作成方向 と次年度以降の取組について ・研修で学んだこと、日本への期待 等 ・政策評価アンケート 3 【国内ワークショップの模様】 農林水産省内での協議1 ベトナム国招聘者からベトナムの状況説明 山田町バイオリファイナリー施設視察 飼料化施設視察(ブライトピック千葉) 最終成果発表(タイ) 最終成果発表(委員等関係者) (2)平成 21 年度成果 平成 20 年度のカウンターパートを中心として現地セミナーを開催し人材育成を行うとともに、 両国における関係者を招いたワークショップを開催し、バイオマスタウン構想(案)の公表を行 った。なお、タイの対象地はタイのコンケン県からロエイ県 Na Duang 村へ変更された。 現地セミナーの開催によるバイオマスタウン構想作成をコーディネートする人材育成 (タイ) Na Duang 村のステークホルダーを主として、本事業の目的や内容説明、及び 同村の抱える課題に対して本事業がどのようにアプローチできるかについて、 セミナーを行うとともに、農業局において昨年度招聘者である Dr.Somjate 初め、 4 本事業のタイ側責任者である農業局長に対して本事業に関する啓発、並びに闊 達な意見交換を行った。 (ベトナム)20 年度にカウンターパート機関として選定したホーチミン農業農村開発局 (DARD)、科学技術局(DOST)及びホーチミン工科大学(HCMUT)との間で 協議を行いバイオマスタウン構想の策定のためのプロジェクト責任機関として DOST を選定し、その下にタウン構想策定のワーキンググループを組織してタ ウン構想策定のためのデータ収集方法や現地ニーズ調査などに係るセミナーを 2 回開催した。またセミナー開催時に現地のヒアリング調査も日本側と共同で 実施した。 対象両国におけるワークショップの開催によるネットワークの構築 タイ、及びベトナムの両国においてワークショップを開催し、日本及び地域のバイオマス 総合利活用の事例を紹介するとともに、地域住民や関係機関へのバイオマスタウン構想の周 知や関係者間のネットワーク構築を図った。 対象地域におけるバイオマスタウン構想(案)の策定 一昨年、及び昨年度のカウンターパートが中心となって対象地域における賦存量等の基礎 調査、及びタウン構想の策定を行った。 表3 第一回 (9/6) 場所 参加者 内容 第二回 (9/10~11) 場所 参加者 内容 第三回 (11/4) 場所 参加者 内容 第四回 (12/9) 場所 参加者 内容 タイ国における人材育成の日程及び主な内容 農業局オフィス 平成 20 年度の招聘者及び農業局副局長 他 バイオマスタウン構想のコンセプトの説明(前年ワークショップ内 容のレビュー) その後のタイ側の進捗報告 バイオマス賦存量調査、算定方法に関する解説 今後の進め方に関する協議 ロエイ県 Na Duang 村 Dr.Somjate Pratummintra 農業協同組合省 農業普及局(以下、DOAE) Na Duang 事務所長 コミュニティ代表者 及び コミュニティ関係者(住民) 住民を初めとする Na Duang 村関係者に対する東アジアバイオマスタ ウン構想策定事業に関する概要・主旨説明 バイオマス賦存量調査を目的とした現地調査(牛舎、家畜糞尿発生・ 利活用状況、パーム栽培地、トウモロコシ・ドライヤード、キャッ サバ・ドライヤード) ロエイ県 Na Duang 村 DOAE Na Duang 事務所長 コミュニティ代表、及び関係者 バイオマス発生・利用状況調査のための現地調査(キャッサバ栽培 農地、魚養殖場) ロエイ県 Na Duang 村 農業局:Dr.Somjate Pratummintra +4 名 DOAE: Na Duang 事務所長 コミュニティ代表+関係者 合計 20 名 地域関係者に対するバイオマスタウン構想に関する説明 構想策定に関する意見交換 5 ロエイ県 Na Duang 村 約 300 人の農家(コミュニティ主催) バイオマスタウン構想に関する説明 農民グループ別にバイオマスタウン構想におけるプロジェクト案の 検討開始 (12 月中に約 40 件のプロジェクト案が提出された) ノンカイ県 農業局シニアエキスパート長 Dr.Somjate Pratummintra パーム栽培を Na Duang 村に先行して行っているノンカイ県にける BDF プラント視察(機材の導入検討のため、生産能力 2t/d) クラビ県 農業局シニアエキスパート長 Dr.Somjate Pratummintra 小規模なパーム搾油設備を開発中のサイトの視察(機材の導入検討 のため) バンコク農業局オフィス 農業局シニアエキスパート長 Dr.Somjate Pratummintra+2 名 バイオマス賦存量調査結果の精査、及びバイオマスタウン構想策定 に関する協議 第五回 (12/17) 場所 参加者 内容 第六回 (12/18) 場所 参加者 内容 第七回 (1/9) 場所 参加者 内容 第八回 (1/27) 場所 参加者 内容 第一回 (8/24) 場所 DOST、他 参加者 内容 第二回 (9/21,22) 場所 参加者 平成 20 年度の招聘者,DOST, DA RD,ホーチミン工科大学計 10 名 JICA(以下、国際協力機構)+JST(以下、科学技術振興機構)事業とバ イオスタウン構想との違いについての説明 バイオマスタウン構想を作成するためのワーキング・グループメンバー 選定 データ収集方法についての説明 今後の進め方に関する協議 主要メンバーとの現地調査の実施(コンポスト施設、環境保全型農業推 進協会) DOST、他 平成 20 年度の招聘者,DOST, DA RD,ホーチミン工科大学、土壌肥料及び 環境研究の南部センター(以下、SFRI)研究員(ベトナム農業科学アカ デミー(以下、VAAS)計 8 名 調査対象とするバイオマスの優先順位についての協議 地域におけるバイオマス利活用の方向性、イメージについての協議 Cu Ch i 地区農業局に対して、バイオマス関連データの収集とバイオマス 利活用に関するニーズ調査 表4 内容 ベトナム国における人材育成の日程及び主な内容 1.3 平成 22 年度事業の概要 1.3.1 事業の実施方針 本年度事業では、対象国において地元行政機関が実施するバイオマスタウン構想の策定・公表 を円滑に進めるための支援を行うとともに、今年度は 3 カ年事業の最終取りまとめ年度として、 バイオマスタウンに関する国際シンポジウムに係る計画策定を行うとともに、12 月に同シンポジ ウムを開催した。 本年度事業は以下の実施方針に基づき実施した。 6 本年度の調査方針 方針 1: 対象国における「バイオマスタウン構想の普及」という観点からの支援を行う 方針 2: 現在策定中のバイオマスタウン構想については 、対象地域の実情(人材育成対象者のキャパ シティ、地域のニーズ、地域のシーズ、行政システム)に応じた支援を行う 方針 3: 国際シンポジウムにおいては、東アジア諸国等からの参加者が日本型バイオマスタウン構想を 自国でも取り入れたいと思わせるような仕掛けを農水省と協議し公表できるようにする 1.3.2 主たる事業 (1)バイオマスタウン構想の策定 対象国関係者が、昨年度策定したバイオマスタウン構想(案)の精度向上を図るために、必要 な支援を行い、バイオマスタウン構想を確定した。また、バイオマスタウン構想に対して両国の 正式な合意を図るために、Na Duang 村、Cu Chi 地域関係者、並びに両国の政府関係者を協議会や ワーキンググループの作業に巻き込むことにより本取組への推進体制を確立した。また、バイオ マスタウン構想の更なる理解の促進と、具体的な地域ニーズを反映したタウン構想を確定するた め、地域住民や行政担当者を対象とした地域レベルのワークショップの開催を支援した。バイオ マスタウン構想の策定作業のフロー図は下記の通りである。 中央政府レベルでの取組み 対象地域関係者レベルでの取組 み②バイオマスタウン構想(案) ① 対象国中央政府における バイオマスタウン構想策定・ 推進体制構築(強化)支援 の精度向上に対する支援 ③対象地域ステークホルダー によるバイオマスタウン構想 に対する合意形成 ⑤日本に招聘し たメンバーのプ ④標準的なバイオマスタウン構想 ロジェクトへの 策定プロセスの確立 巻き込みの強化 図 2 バイオマスタウン構想策定実施フロー (2)バイオマスタウンに関する国際シンポジウムの開催 ASEAN 各国のバイオマス分野担当官、各国大使館、ASEAN 事務局、アジア開発銀行等の国 際機関、国内検討委員会メンバー、対象国及び地域・周辺諸国の研究者や行政担当者、民間事業 者、マスコミ等(約 100 名程度) を対象に以下を目的としてタイ国バンコクで 2010 年 12 月 13~16 日にバイオマスタウンに関する国際シンポジウムを開催した(シンポジウムは 14 日に開催) 。 対象地域のバイオマスタウン構想、及び本事業の背景情報に関する理解促進 関係者間のネットワークを構築 東アジア地域へのバイオマスタウン構想の周知と普及 本事業の概要を図 3 に示す。 7 平成22年度 東アジアにおけるバイオマスタウン構想普及支援事業概要 ■これまでの事業成果 【20年度事業】 •タイ、ベトナムにおけるモデルバイオマスタウン構想(以下、タウン構想)策定候補地域の選定 •タウン構想策定のカウンターパート(各国3名)を選定 •ワークショップにおいて①国内外でのネットワーク形成、②対象地域でのタウン構想の具体案・方向性検討、 ③タウン構想策定に向けたステップ・スケジュール案作成、④タウン構想策定に向け日本側に求める支援・協力の明確化 【21年度事業】 ・セミナーを実施し、東アジアにおけるバイオマス資源の総合的利活用システムのフロントランナーとなる人材を育成 •対象両国においてワークショップを開催し、日本発の「バイオマスタウン」の概念を地域住民や対象国関係者に周知・ 波及し、地域・国家レベルでのサポーター層の増加とともに、ネットワークを構築 •一昨年度カウンターパートが中心となって対象地域におけるタウン構想(案)を作成 ■平成22年度事業の目的 【バイオマスタウン構想策定】 追加調査、及び地域住民のニーズを昨年度策定したタウン構想 (案)に反映し、熟度を向上し、確定させる。 【バイオマスタウン に関する国際シンポジウム の開催】 対象国関係者及び、ASEAN諸国等の近隣諸国を招待した国 際シンポジウムを開催し、バイオマスタウン構想、及び本事業の背景 情報に関する理解促進を図り、関係者間のネットワークを構築し、 東アジア地域及びASEAN諸国などの近隣諸国へのバイオマスタウ ン構想の周知と普及を図る。 平成22年度事業の実施方針 •方針1:対象国における「バイオマスタウン構想の普及」という観点からの支援を行う •方針2:現在策定中のバイオマスタウン構想については、対象地域の実情(人材育成対象者のキャパシティ、地域のニーズ、地域の シーズ、 行政システム)に応じた 支援を行う ・方針3:国際シンポジウムにおいては、東アジア諸国等からの参加者が日本型バイオマスタウン構想を自国でも取り入れたいと思わせるような 仕掛けを農水省と 協議し公表できるようにする バイオマスタウン構想普及支援事業 (H20~22) 約1,070万円 バイオマスタウン構想策定支援 バイオマスタウン構想策定にかかるカウンターパート の自主的アクションの促進支援 ① 対象国中央政府におけるバイオマスタウン構想策 定・推進体制構築(強化)支援 ② バイオマスタウン構想(案)の精度向上に対する支援 ③ 対象地域ステークホルダーによるバイオマスタウン 構想に対する合意形成 ④ 対象国におけるバイオマスタウン構想策定プロセス の検討 バイオマスタウンに関する国際シンポジウム開催 【主な対象】ASEAN 8ヶ国及び、国際機関、対象両国の地元行政機関、国内検討委員会メンバー、 対 象 国及 び 地域 ・周 辺諸 国 の研 究 者や 行政 担 当者 、任 意の 民 間事 業 者、マス コミ 等 を対 象 【シンポジウム内容】 ①日本発の「バイオマスタウン構想」理念の紹介、②タイ、及びベトナムのバイオマスタウン構想及び 構想策定プロセスの紹介、③日本政府(農林水産省)のバイオマスタウン構想における今後の展望と 東アジアにおける今後の展開(マレーシア、インドネシアにおける展開の紹介)、④参加者によるパネ ルディスカッション(パネルディスカッションのテーマについては、委員会で検討のうえ選定) 【シンポジウム実施スケジュール、及び実施方法】 時期:12月13日~16日 受託者とタイ農業局とでロジスティクスを分担し実施した。 ⑤ 日本に招聘したメンバーのプロジェクトへの巻き込 みの強化 対象国および東アジア他地域へのタウン構想の波及 図3 本年度事業の全体概要 8 2. シンポジウム開催及び準備作業 2.1 概要 3 年間にわたり実施してきた「普及支援事業」の集大成として、国際シンポジウム及びモ デル地域の現地視察を 2010 年 12 月 13~16 日の日程で実施した。国際シンポジウムは 12 月 14 日にタイ国バンコク・グランドミラクルホテルで開催した。シンポジウムの参加者は タイを含む ASEAN 8 ヶ国のバイオマス分野担当官、各国大使館、ASEAN 事務局、アジア 開発銀行等の国際機関、国内検討委員会メンバー、対象国及び地域・周辺諸国の研究者や 行政担当者、任意の民間事業者、マスコミ等、約 100 名程度であった。 午前の部では基調講演に続き、タイ、ベトナムからのバイオマスタウン構想の概要発表 が行われ、午後の部では、タイ、ベトナム両国のカウンターパート、国内検討委員会メン バー、農林水産省をパネラーに迎え、バイオマスタウン構想の有効性、及び今後の展開に 向けて想定される課題と展望についてパネルディスカッションを行われ、東アジアでバイ オマスタウン構想を展開していく上での本質的な課題や推進のメリット等に関する闊達な 意見交換が行われ充実した内容のディスカッションとなった。 シンポジウム終了後、ASEAN 各国からの参加者、日本からの参加者、タイ農業協同組合 省農業局メンバーら約 40 名が、バンコクから空路でウドンタニに移動し、翌 15 日に Loei 県 NaDuang 村のバイオマスタウン・モデル地域を視察した。NaDuang 村では、豚のし尿 を活用した液肥作り、木酢液作り、コンポスト作りなどバイオマスタウンの取組が進めら れている現場と同地域の特色である小規模パーム農園、小規模パーム搾油工場を視察した。 表5 日 1 日目 時間 19:00-21:00 宿泊 2 日目 09:00-11:30 11:30-13:00 13:00-14:30 14:30-15:00 15:30- 3 日目 最終日 20:00-21:00 宿泊 06:0007:00-17:30 20:00-21:00 宿泊 出発時間 全体行程 計画 タイ国外からの参加者 バンコク到着 レセプション開催 (ミラクル・グランド・ホテル) ミラクル・グランド・ホテル(バンコク) 朝食(ホテル宿泊者対象) ティー・ブレイク(国際シンポジウム参加者対象) 国際シンポジウム[午前の部] (詳細は表 7 参照) 昼食(インターナショナル・ブッフェ) 国際シンポジウム[午後の部] (詳細は表 7 参照) 懇親会 ホテル-国内線空港移動 バンコク - ウドンタニ(飛行機) ウドンタニ空港 – センタラ・ホテル 夕食(センタラ・ホテル) センタラ・ホテル(ウドンタニ県) 朝食 現地視察(ウドンタニ–Na Duang 村間往復) (詳細は表 9 参照) ウドンタニ – バンコク(飛行機) 空港 – ホテル ミラクル・グランド・ホテル(バンコク) タイ国外からの参加者 バンコク出発 9 2.2 参加者 国際シンポジウムは日本・農林水産省とタイ国農業協同組合省の共催として開催し、タ イを含む ASEAN 各国のバイオマス関連分野の担当官、ASEAN 事務局、在バンコクの各国 大使館、バンコクに事務所を有する FAO、ADB などの国際機関、報道関係者、日系企業な どの参加者を得た。シンポジウムへの参加者リストを下記に示す。 表 6 参加者リスト 所属 参加者役職 人数 ASEAN 各国(タイ王国を除く 7 カ国) カンボジア 農林水産省 農業普及局畜産 畜産課長、担当者 2名 インドネシア 林業省 森林生産性向上研究サ シニア研究員、課長 3名 ービス局 林業省 工学設計・技術センター センター長 フィリピン 農業省 2名 ラオス 農地研究センター 2名 畜産水産局 マレーシア マレーシアプトラ大学 1名 ミャンマー 農業灌漑省 2名 ベトナム 農業農村開発省 2名 ASEAN 事務局 ASEAN 事務局 ダイレクター、技術担当 2名 検討委員会 委員長、委員 2名 農林水産省 審議官ほか 3名 日本国関係者 ベトナムタウン構想関係者 ホーチミン市 1名 農業開発省 科学技術局 局長 2名 ホーチミン工科大学 2名 クチ地区人民委員会 2名 タイ国主催者 農業協同組合省 局長ほか 18 名 コミュニティ代表ほか 2名 Na Duang 村 村長 1名 NaDuang 郡 農業普及担当者 1名 Loei 県 農業関係部局担当者 1名 農業普及局 専門家ほか 2名 農業局 タイ国タウン構想関係者 コミュニティ Na Duang 自治体 タイ国中央政府 農業協同組合省 土地開発局 2名 農業経済オフィス 4名 10 所属 参加者役職 人数 畜産開発局 3名 農業組合促進局 5名 農業国際関係部 2名 事務局 2名 専門家 2名 エンジニア 2名 中国大使館 大使館員 1名 日本大使館 一等書記官 2名 マレーシア大使館 書記官 1名 ミャンマー大使館 書記官 1名 フィリピン大使館 大使館員 1名 ベトナム大使館 書記官 1名 FAO オフィサー 1名 UNID オフィサー 1名 資源環境省 エネルギー省 代替エネルギー局 在タイ各国大使館 国際機関等 1名 アジア開発銀行 民間企業 三菱マテリアル 調達部 マネージャー 1名 Nagase (Thailand) Co., Ltd. 新事業開発部 マネージャー他 2名 Kasesart 大学 教授、研究員 2名 Suranaree 大学 準教授、講師 2名 副所長 1名 エンジニア 2名 技術担当者 1名 学術機関 Chiang Mai 大学 エネルギー開発研究所 Pachamkao 大学 National Center for 農村開発ユニット Engineering and Biotechnology 95 名 合計 11 2.3 国際シンポジウム (1) プログラム 国際シンポジウムは 2010 年 12 月 14 日に表に示すプログラムにそって開催された。 表 7 国際シンポジウムプログラム 時間 開始 終了 09:00 09:15 09:20 09:15 09:20 09:40 プログラム 開会挨拶: タイ国農業協同組合省 農業局 局長 Dr.Jirako rn Kosaisawe 開会挨拶: 日本国農林水産省 大臣官房技術総括審議官 小栗邦夫氏 基調講演: 持続可能な農業に対するバイオマス の役割 東京大学名誉教授、東アジア・バイオマスタウン構想策定推進事業 国内検討委員会 委員長 横山伸也 名誉教授 セッション I : 発表 09:40 10:05 10:05 10:40 10:40 11:00 11:00 11:30 11:30 13:00 ベトナムのバイオマスタウンの紹介: ホーチミン工科大学 講師 Dr. Ha 昼食 セッション II : パネルディスカッション 13:00 14:20 パネルディスカッション ~東アジアバイオマスタウンの有効性及び展開に向けた課題 14:20 14:30 14:30 15:00 閉会挨拶 ティーブレイク 日本のバイオマスタウンの紹介: 農林水産省大臣官房技術総括審議官 小栗邦夫氏 タ イ の バ イ オ マ ス タ ウ ン の 紹 介 : 農 業 局 シ ニ ア エ キ ス パ ー ト Dr. Pacharee Niamsrichand, ティーブレイク <配布資料> 基調講演資料「持続可能な農業に対するバイオマスの役割」(英語版) 日本国農林水産省発表資料「日本のバイオマスタウンの紹介」 (英語、日本語版) タイ国発表資料「Na Duang 地区バイオマスタウン構想」 (タイ語版、英語、日本語版) ベトナム国発表資料「Cu Chi 地区バイオマスタウン構想」(英語、日本語版) タイ国バイオマスタウンタウン構想(タイ語、英語、日本語版) ベトナム国バイオマスタウン構想(英語、日本語版) (2) 開会挨拶要旨 シンポジウムの開会挨拶として、タイ農業協同組合省農業局ジラコーン局長、並びに農林水産 省大臣官房技術総括審議官 小栗邦夫氏より、以下の要旨の開会挨拶があった。 ジラコーン局長挨拶 食料とエネルギー供給の問題に直面しており、持続可能性のある技術が求められてい る。地域のコミュニティで活用できる手法として、バイオマスタウン構想はとてもやり がいのある仕事である。バイオマスタウン構想で、エネルギー利用も、マテリアル利用 にも展開できる点が有望であると考えている。また、バイオディーゼルや、キャッサバ、 さとうきびを原料とするバイオエタノール等のバイオ燃料の利用を通じて化石燃料を 12 減尐させることで、地域境問題の解決策を見いだす手法となることを期待している。 我々は未来の資源に関して楽観的に考えているが、バイオマスの技術を地域の特色に応 じて適応させていくことが、途上国では有効な方法と考えている。化石燃料の削減が東 アジアでは重要であるが、地域でどう展開しようとしているか知って貰いたい。タイ農 業協同組合省は日本農水省と連携してバイオマスタウンを進めていきたい。 小栗技術総括審議官挨拶概要 バイオマスタウンに関する国際シンポジウムにタイ国外、そして地元のタイからも多 くの方の参加をいただきお礼を申し上げたい。東アジア・バイオマスタウンの取組みは、 2008 年に ASEAN+3 農業大臣会合で合意されて以来、ASEAN 諸国のご協力を得て、本 日まで至っており、特に今回のシンポジウム開催地であるタイ、それにベトナムの関係 者のご協力により、具体的な成果について発表できるまでになった。本日、多くの貴重 な講演があり、昼食後には、「東アジアにおけるバイオマスタウン事業の期待と展望」 と題してパネルディスカッションを予定しており、意義深いシンポジウムとしたいと思 うのでよろしくお願いしたい。 タイ国農業協同組合省 農業局ジ ラコーン局長挨拶 農林水産省 小栗技術総括審議官挨拶 (3) 講演要旨 日本、タイ、ベトナムのバイオマスタウンの紹介としてそれぞれ下記の発表が行われた。 講演1 【基調講演】 持続可能な農業に対するバイオマスの役割 講演者 国内検討委員会委員長 横山伸也 東京大学名誉教授 要旨 日本の米の消費量は、1950 年以降で 1/3 に低減し、生産量も 1970 年を ピークに減尐傾向にある。 作付面積当たりの生産効率については、農家 の努力、技術面、経営面での支援により、1880 年以降、5 倍増になったも のの、農家数は 50 年前は人口の 20%であったのが、3%に減尐した。一 般的に GDP が上がると農家数は減尐するため、このような傾向は、今後 タイも経験すると考えられる。 先進的なエネルギー変換技術によって、農産物の残渣や余剰をエネルギ ーに使うことが可能。熱化学変換や化学変換があり、その一つとしてのガ 13 ス化技術の紹介。ガス化に関しては技術の組合せが非常に多様で、それ ぞれに長所、短所があり、何の技術を選ぶかもポイントともなる。 エタノール生産については、糖、でんぷん等を利用した第 1 世代から第 2 世代へ移動している。今後は原材料や土地利用が食料供給を減らさない ことがポイントとなる。 動物、パーム残渣、生ごみからはバイオガスを回収 でき、高圧で圧縮することにより自動車の動力にも使用可能である。 タイの農産物資源は、バガス、さとうきび、パーム、稲わらなどがあり、仮に 全てを発電に回すと、タイ国内の発電量全体の 16%をまかなえるという試 算もある。 持続可能性の観点からは、温室効果ガス(以下、GHG)排出も考慮にい れる必要がある。バイオ燃料生産で、森林を開発してサトウキビ生産を行 うと GHG 排出量が森林状態の継続と比べて大幅に増加する結果となるた め、土地利用転換やエネルギー変換に必要なエネルギーの影響に対す る考察が必要となる。 持続可能な農業の推進によって、各国の特徴を考慮することが重要であ る。適切に行うことで所得向上、雇用増、新産業創出による農村コミュニテ ィの再生、廃棄物からのエネルギー生産、GHG 削減に対する貢献、国際 社会との連携といったメリットが考えられる。 バイオマスタウンでエネルギー生産を行う際に利用可能な技術は様々あ り、有用な取組みが展開される可能性が高いと考えている。 講演2 日本のバイオマスタウンの紹介 講演者 農林水産省大臣官房技術総括審議官小栗邦夫氏 要旨 日本政府は、バイオマスニッポン総合戦略や、バイオマス活用推進基本 法、バイオマス活用基本計画(案)や大規模な実証事業を通じてバイオマ スの利活用を推進してきている。 下川町では、持続的な森林経営を展開しており、林地残材、加工所の残 材からペレットを製造し、公共温浴施設や幼児センターのペレットボイラー に使用している。また、温室へのペレットボイラーの導入や、加工場での 木質水蒸気ボイラーの導入実験を行っている。持続的な森林経営活動に よりこれまで 65 人の雇用を生み出し、カーボンオフセットにも強い関心を 持ち、複数の民間企業や自治体との連携を行っている事例である。 茂木町については 、牛ふん、家庭からの食品残さ 、山の落ち 葉、もみが ら、木くずから、コンポストを作ることで有名であり、コンポストは、周辺農家 に販売さ れている。 美土里コンポストと名付けられた独自のコンポストを 使って生産された農産物の認証は、農家の 60%に及んでいる。経済的な 点だけではなく、特に環境面についても、このコンポストは、茂木町に多く のメリットを生み出している点がユニークな事例である。 真庭市では 、木質バイオマスを広範な範囲で、発電所、エタノール生産 施設、ペレット加工場、バイオ燃料生産など多数の施設で活用しているこ とで有名である。それにより、バイオマスツアーを観光産業として実施して 14 おり、年間 15,000 人が真庭市を訪れている。 大木町については、メタン発酵の良い事例であり、家庭からの生ゴミや下 水汚泥残渣を使って、バイオガスを発電や熱に利用している。特に、大木 町の住人は、家庭からの生ごみの分別回収に熱心な協力をしており住民 の 94%が事業に協力をしている。メタン発酵設備から発生する液体残渣 は水田への良い液体肥料として活用している。また、生ごみの分別回収 により、ゴミの焼却費用など行政コストの削減につながった。大木町はこれ らの活動で有名になり、年間4千人が視察のため訪問している。 日田市については、バイオマスが豊富であり、家畜排泄物、下水汚泥、家 庭からの生ごみが、メタン発酵施設に持ち込まれ、発電と液肥生産に使わ れている。電気と熱は施設の運営に使われ、液状肥料は、周辺の水田に 供給される。また豊富な森林資源を利用して、木質バイオマス発電を行 い、公共施設等に供給している。 このようなバイオマスタウンの成功事例を東アジアに展開するために、農 水省として 3 カ年にわたって東アジア・バイオマスタウン構想策定推進事 業が位置付けられている。 講演3 タイのバイオマスタウンの紹介 講演者 農業局シニアエキスパート Dr. Pacharee Niamsrichand 要旨 バイオマスタウンが 2008 年の A-MAFF+3 で日本政府とタイ政府間の合意 により開始されたこと、その後の 2008 年から 2010 年までの東アジアバイオ マスタウン構想策定推進事業による能力強化トレーニングなどを通じて、 今に至っている。 Na Duang 村のバイオマスタウン構想の策定プロセス、地域概要、農業統 計、バイオマス発生状況、関連する地方行政機関や事業実施主体となる コミュニティの構成員、本事業で策定したバイオマス利活用計画等に関す る情報提供と、バイオマスタウン構想の策定プロセスで地域の現状に即し た構想づくりが重要である。 また、Na Duang 村にはバイオマス利活用のニーズは多くあるが、マーケテ ィング、初期コスト捻出、製品の品質管理等の諸課題ゆえに、バイオマス の利活用が進んでいない。これに対してバイオマスタウン・モデル事業に より日本の専門家や農業局の支援の下、バイオマス利活用事業が試行的 に開始されている状況である。 農業局としては 、エネルギー面からの考察の多いバイオマス利活用に対 して、液肥残渣やコンポストの性状分析などを通じて、貢献していきたい。 さらに、今後のタイにおけるバイオマスタウン事業の展望については、Na Duang 村モデル事業推進のための農業局メンバーによるタスクフォース、 及び省庁横断的な メンバーで構成される中央委員会が既に設立済みで あり、今後も積極的にバイオマスタウン事業を推進していく意向である。そ のための日本との協同研究や技術支援を要望する。リボルビングファンド のような形態で本取組みを継続支援していくことの提案。 15 講演4 ベトナムのバイオマスタウンの紹介 講演者 ホーチミン工科大学 講師 Dr. Ha、Dr.Tan 要旨 発表の冒頭に、DOST の Dr.Tan より、2008 年以降のバイオマスタウン構想 策定事業を通じた日本の支援により、Cu Chi 地域で建設的な議論が重ね られ、バイオマスタウン事業の実施に向けて取り組んでいる様子に関する 報告とバイオマスタウンの推進の重要性を述べる発表があった。 モデル対象地である Cu Chi 地区の地理情報、社会経済指標、畜産業の 現状、バイオマス賦存量、バイオマス利活用目標、本事業で策定したバイ オマス利活用計画に関する説明。 既に取組みを開始しているミミズコンポストやきのこ培養地、バイオダイジ ェスター、バイオガス発電、バイオディーゼル製造実証試験、クロレラ生産 等に関する情報提供。 バイオマスタウン構想策定プロセスとしてのバイオマス賦存量の定量評価 手法や、日本からの専門家の支援によるこれまでの活動概略、ステークホ ルダーミーティングで得られた回答の統計分析とそれに基づく、バイオマ ス利活用事業の重要度判断、ホーチミン市を中心とするバイオマスタウン 事業実施体制、関連政策、に関する概要説明。 今後のバイオマスタウンの発展に向けた課題点として、バイオマス利用者 の問題意識の低さ(啓発活動の必要性)に加えて、政策的なインセンティ ブ(再生可能電力推進、資金的インセンティブ、有機肥料推進等)の必要 性。 持続可能な開発への貢献、リ サイクル社会の構築、環境汚染低減、所得 向上、雇用創出、資源の高付加価値化、健全な農業、GHG 排出削減、 国際連携、再生可能エネルギーの推進等、バイオマスタウンは多くのメリ ットをもたらす取組みである。 結論として、Cu Chi 地域は畜産バイオマスを中心としたバイオマスタウン であること、地域住民との合意形成が極めて重要であること、モデル事業 の成功のために国際的な技術移転が望まれること、Cu Chi 地域では、バ イオマスタウン構想に盛り込んだような環境配慮のプロジェクトの利点が大 きいことの説明。 バイオマスタウン事業の推進にはベトナ ムにおける政策的判断が必要で あるこ とから今後積極的に中央政府のステークホルダーを巻き込んだ取 組みとしていきたい。 16 東京大学 横山名誉教授 基調講演 タイ国 農業局 パチャリー氏講演 タイ国メディアからインタビュ ーを 受けているジ ラコーン局長 熱心に傍聴するシ ンポジ ウム参加者 ベトナム国 タン局長挨拶 ベトナム国 HUM UT ハー博士 講演 (4) パネルディスカッション要旨 国内検討委員の井上雅文東京大学准教授、及び本事業の国内招聘メンバーであるコンケン大 学准教授の Dr.Kanchana Sethanan の司会進行により、表 8 に示すパネラーを迎えて、90 分のパネ ルディスカッションを行った。主な議題は下記の 2 つであり、各パネラー及びフロアからの質問など、 闊達で有意義な議論が展開された。 17 表 8 パ ネルディス カッション・パネラー 氏名(敬称略) 組織/役職 国 1) モデレータ 井上雅文 Dr.Kanchana Sethanan 東京大学、国内検討委員 コンケン大学 准教授 2) パネラー 小栗邦夫 横山伸也 農林水産省 技術総括審議官 東京大学名誉教授、国内検討委員会 Dr.Pacharee Niamsrichand Mr.Montree Jampasiri Dr. Phan M inh Tan 農業局 シニアエキスパート Na Duang 村コミュニティ代表 ホーチミン市科学技術局 局長 タイ タイ ベトナム Dr. Nguyen Thi Van Ha ホーチミン工科大学 ベトナム 准教授 日本 タイ 委員長 講師 日本 日本 パネルディスカッションは以下の 2 つの議題に対して行われた。各トピックででた意見の要旨は 下記の通りである。 東アジア諸国においてバイオマスタウンの概念を導入することの有効性 ・ タイではバイオマスの利活用は単一の取組になってしまい、コミュニティや自治体単 位でのまとまった取組にはならない。日本のバイオマスタウンは地域づくりの一環と して、バイオマス利用をシステムとしてとらえて推進している点が優れている。この ようなシステムとしてのバイオマス利活用の推進によって、多くの国の共通の課題と なっている農村開発、都市部と農村部の格差是正、持続可能な農業といった社会問題 の解決ツールとして有効に利用していくことができる(司会/カンチャナ氏) ・ 日本では地域のコミュニティリーダーが主要な役割を担うことが重要で、地域住民が バイオマスタウンのコンセプトを理解できた地域が成功事例となる。また、バイオマ スの排出者と利用者の調整を自治体が調整できた場合に、バイオマスタウンが成功と なりうるという成果が出ている。(農水省/小栗氏) ・ 個人的な経験に基づくと、「関係者の相互理解」、「リーダーの存在」、「技術の目利き」の 3 点が非常に重要と考えています。(横山氏) ・ タイ国で最も重要な点はバイオマス利活用における政府の方針・施策を明確にする必 要がある。方針が明確になれば、ステークスホルダー・レベルでの方針等の設定もよ り容易になるであろうと考えられるため、国家レベルでの方針策定を急ぐべく作業を 継続したい。 (農業局/パッチャリー氏) ・ バイオマスタウンコンセプトを紹介するためには、政府と農家の協力が非常に重要。 そのコンセプトの重要性を認識している人が多いわけではないので啓発活動も重要。 再生可能電力の買取価格を高くするなどの政策がないために再生可能エネルギー推 進の大きなバリアになっている。また人の参加も必要だが、技術不足の状況もあり、 バイオマスタウンを導入しようとする人は現状でそれほど多いわけでないため、農家 に対する啓発活動が重要。 (DOST/タン氏) ・ 1 つめの議題の結論としては、ご意見を総合すると、以下の 3 要素が重要であり、こ れらを担保してうまく活用することができれば、地域社会に対しても貢献できる有効 18 なバイオマスタウンとなるという結論が得られました。 1)政府の明確な政策 2)実施するための予算の確保 3)バイオマスタウンをシステム的に実施するための方策(司会/カンチャナ氏) 東アジアにおけるバイオマスタウン事業の実現に向けた課題と必要な支援 ・ 具体的に地域でバイオマスタウンを策定してみてどのような点で苦労したか(司会/ カンチャナ氏) ・ 1)予算確保の課題(重要性)、2)人々の巻き込みの課題(重要性)、3)バイオマスの量 のデータ評価の必要性(バイオマスタウンの活動は多くは農村地域での活動になるた めデータ収集が容易でない) 、(Na Duang コミュニティ/モントリー氏、ホーチミン工科大学 /ハー氏) ・ タイ、ベトナムの行政機関として両国においてバイオマスタウンを実現するための障 害とそれを克服するために必要なサポートについてどのように考えているか(司会) ・ 農民グループの間でバイオマスタウン事業の重要性の認識向上、政府の政策意思決定 者レベルがバイオマス関連事業の重要性を認識し、適切な方針を策定し適切な支援を 行うことが重要である。コミュニティ、政府、地方政府、民間企業が企画段階から協 力して上流から下流までのネットワークを含む包括的なアプローチを行うことは非 常に重要である。 (農業局/パッチャリー氏) ・ パイロット・プロジェクトが成功した場合、それがよい成功事例となり、他への展開 のきっかけになり、多くの人にバイオマスタウン構築のメリットを実例をもって示す ための重要な役割を担う。また、海外、国内両面からの財政的なサポートも必要。 (DOST/タン氏) ・ このような意見に対して日本からはどのような支援が可能か(司会/カンチャナ氏) ・ 私見としては、1) わが国のバイオマスタウン構想の進め方に関する情報提供、2) 日 本の技術専門家の派遣、3) 日本でのトレーニング(技術移転)への招待の 3 つの支 援を行うことが効果的と考えている。おそらく今回のベトナムの事例のように、 JICA+JST プロジェクトの連携によって、展開していくことで、尐なくとも技術移転 はできるはずと考える。(国内検討委員会/横山委員長) ・ バイオマスタウンを進めていく上で、困難をどのように解決していくかということに ついて、直接的なプロジェクトの実施に対するハード支援というのは日本の財政的に も難しい状況になりつつある。そのため、今できることは技術的な情報提供、人材育 成のための研修などが中心となる。情報提供に関しては、経済性に関する判断材料の 提供が有効であるし、廃棄物処理でうまくいっている事例では、例えば、廃棄物処理 にかかる経費低減によって投資が可能となると言ったようなことがある。あるいは、 制度的に建築廃材、家畜糞尿に対して規制をしていくことも、バイオマスタウンの推 進の一手段となると考えられる。(農水省/小栗氏) ・ 多くの人が財政的なサポートに関する発言をされたので、ADB の方から一言コメン 19 トをお願いしたい。(司会/井上氏) ・ ラオス、カンボジア、ベトナムの Greater Mekong subregion において、バイオガス推進 に関して USD150 million の予算をつけて、中国からの技術移転を中心に据えたプロジ ェクト支援を実施中である。その他、Climate mitigation などに関するプロジェクトも 実施中している。(ADB/会場参加者) 会場からの質問 ・ ショーケースをつくることは非常によい。製品をひとつではなく複数種類製造し、包 括的なシステムにすることが効果的である。マレーシアでは政府が多く取組みをして いるが、ベトナムではどうか(マレーシア参加者) ・ バイオマスタウンコンセプトは、米、豚、牛などの個々のコンポーネントのみではな く、「村」そのものにフォーカスを当てるべきである。リサイクル、再利用、廃棄物 などの扱いに関して焦点を当てる。農家を巻き込むためには、農家に対して、新しい 技術の提供をするなどのサポートをすることが重要。廃棄物の収集方法、処理方法、 利活用方法などに関するプロセスに関する技術提供。自治体、特に自治体の技術者と の協力も必要。また生産した製品を「販売する」ということが非常に重要。そのこと によって農家に対するメリットを示していくことが非常に重要。 (DOST/タン氏) ・ 持続可能性の観点も重要であると考えるが、バイオ燃料の原材料の調達に関する日本 政府の戦略はどうか(インドネシア参加者) ・ 日本におけるバイオマスの原材料確保で最も重要なのは、廃棄物系バイオマスをどの ように利用するか。廃棄物処理については規制をかけることも有効。2 番目には、未 利用系の林地残材の利用が重要で、高い値段で買い取るなどのインセンティブが重要。 資源作物の新規栽培については、日本のように耕地面積が尐なく新たな作物をバイオ 燃料のために栽培するのは難しい認識がある。アセアンの各国では食料を輸出してい るようにバイオマスを輸出するということは一つの選択肢になるのではないか。 (農 水省/小栗氏) 各パネラーから一言ずつコメント ・ 農家の収入を生み出すことは非常に重要、農家の生活向上に活用していくことは重要 (国内検討委員会/横山委員長) ・ 農家に対する収入を向上させるために副産物の価値を上げることが重要(ホーチミン 工科大学/ハー氏) ・ 農家がもっと高い収入のためには、彼らがやっていることに気付かせることが重要。 クラスター、グループとして活動することの重要性を認識してもらうことが重要。 (Na Duang コミュニティ/モントリー氏) ・ このようなシンポジウムはとても有効、また来年にきっとホーチミンシティで皆さん に会いたい。バイオマスタウンのためのネットワークを構築して、この分野で活躍し ている人々を繋げたい(DOST/タン氏) ・ 農業局としては、高収益を得られるような作物の栽培方法(有機栽培技術等)の指導 を通じて、Na Duang 村のコミュニティを支援していく。また(Na Duang 村付近に 20 は)観光地が近くにあることもあり、バイオマスタウンの事業サイトのエコツアーへ の組込みなどの可能性も模索したい。 (農業局/パッチャリー氏) ・ バイオマスタウンの成功事例、成功していない事例を見ると、成功しているところに は核になる何か一つがあるように伺える。それは林地残材でもよいし、生ゴミでも、 家畜でもよいし、何かひとつを核にして、小さい成功を収めることが大きな成功に繋 がっていくと考えられる。 (農水省/小栗氏) ・ バイオマスタウンを持続的にしていくためには、コミュニティのための全てを理解し ないと行けない。文化、技術、全て。地域の人は多くのニーズが異なるものであるが、 これを全て理解した上でコミュニティの人のオーナーシップを高めることが重要。 「これはあなたたちのもの、あなたたちのプロジェクトですよ」、というメッセージ が重要。 (司会/カンチャナ氏) ・ バイオマスタウンはエネルギー政策、地域振興、廃棄物問題、食糧問題、温暖化対策 等における政策立案における、決して万能ではないが、有効なツールの一つであると いうことを政策決定者の方々に理解していただきたい。地域の課題は多様であるが、 「バイオマスタウン」というものはそのような課題に対する決まった方法論があるわ けでもない。「バイオマスタウン」はあくまでも「コンセプト」であり、各国の政策 課題にバイオマスタウンのコンセプトを如何に有効に取り入れていくかは、各国の政 策決定者の判断に委ねられる。(司会/井上氏) パネルディスカッション パネルディスカッション 質疑応答 21 3)Na Duang 地区バイオマスタウン視察行程 シンポジウム終了後、ASEAN 各国からの参加者、日本からの参加者、タイ農業協同組合 省農業局メンバーら約 40 名で、2010 年 12 月 15 日に Loei 県 NaDuang 村のバイオマスタ ウンモデル地域を視察した。視察行程は表 9 に示す通りである。 表 9 Na Duang 村視察行程 時間 時間 開始 06:00 06:00 開始 06:45 07:00 移動手段 07:00 09:30 09:30 11:30 バス移動 11:30 12:10 バス移動 12:10 13:30 13:30 15:00 15:00 17:30 18:30 17:30 18:30 19:00 バス移動 バス移動 Na Duang 村 – ウドンタニへ移動 夕食 ホテル – ウドンタニ空港 20:00 21:40 21:00 22:00 TG015 バス移動 ウドンタニ空港 – バンコク国際空港 バンコク国際空港– ホテル 朝食 チェック・アウト バス移動 ウドンタニ – Na Duang 村 Na Duang 村からの歓迎式典 コミュニティセンター視察 - バイオダイジェスター - 小型バイオディーゼル精製機 - きのこ培養設備 - コンポスト設備 - 木酢液製造設備 Na Duang 村 – 昼食会場 昼食 パーム栽培地視察 小型パーム搾油設備視察 精米所/養豚場/キャッサバドライヤード視察 Na Duang 村に到着した後コミュニティセンターで Na Duang 村からの歓迎式典が行われ た。式典では、以下の方々からの挨拶があり続いて歓迎の品が ASEAN 各国及び日本からの 参加者ひとりひとりに対して贈呈された。 地区代表の方の挨拶: バイオマスタウン構想というものが、地域の住民にとって今後の事 を考えていく上での刺激となり発想の助けとなった。 タイ農業協同組合省パチャリー氏の挨拶: アセアンコミュニティの方々、日本の農水省の 小栗技術総括審議官のご来訪を心より歓迎したい。 小栗技術総括審議官の挨拶: 農村は女性によって支えられていると認識しており、本日女 性の方に多く参加して頂いており、大変ありがたく、また心強く感じている。日本とは異な るこの場所でバイオマスタウン構想が作られることをお聞きし大変楽しみにしていた。今回 の訪問前には、タイは米の産地という印象が強かったが、道中でキャッサバやさとうきび等 22 様々な作物が栽培されているのを拝見し興味を持った。発生するバイオマスも多様なのだろ うと思う。今回アセアン諸国から多数の方が参加されているので、良いモデルになることを 願っている。 横山東京大学名誉教授の挨拶: バイオマスタウンに取り組むことで地域が活性化して、農家 の皆さんの収入が良くなり、より幸せになれることを祈願している。 アセアン事務局課長の挨拶: 実際に、バイオマスタウンのパイロットプロジェクトのサイ トを見ることができて光栄である。準備をしていただいた現地政府の方、タイ農業協同組合 省の方をはじめ関係者の皆様にお礼を申し上げたい。来年は是非ベトナムを訪問してみたい し、さらにマレーシア、インドネシアで今後できる新しいバイオマスタウンも見てみたい。 NaDuang 村では、豚のし尿を活用した液肥作り、木酢液作り、コンポスト作りなどバイ オマスタウンの取組が進められている現場と同地域の特色である小規模パーム農園、小型 パーム搾油設備等、バイオマスが発生する現場を視察した。 表 10 Na Duang 村での見学施設 施設/サイト 概要説明 養豚糞尿を用いた 村内で飼養されている 30 頭程度の豚を 1 箇所に集め、その排泄物から液肥を作り ダイジェスター 出すバイオダイジェスターを工事中であった。農業局はダイジェスターから発生する 液体残渣の成分分析を行い、最適な施肥手法の開発に役立てる研究計画を有してお り、エネルギー利用のみに焦点を当てず、農業局が主体的に農業の生産性向上や持続 性の担保のための研究活動を行う点が特徴的である。 木酢液作りの取組 現地の農地の土壌改良を図るための木酢液作りが行われていた。 きのこ培地 パーム搾油残さとバイオダイジェスターの廃液からきのこを栽培する取組が行われ る予定の設備。菌床ときのこの植付けの終了段階であった。 堆肥設備 家庭からの生ゴミを原料としたコンポスト設備であり、バイオマスタウンの住民との 意見交換会を機に取組の始まったものである。出来上がったコンポストは、周辺の農 地やパームに散布されている。 バイオディーゼル エネルギー省から設置された精製装置であるが、設置箇所には電気が送電網で供給さ 精製装置 れていないため、小型の発電機を回しながら装置を動かしている。 パーム簡易 家族経営的な取組で NaDuang 村に隣接するパームオイルからの油の抽出を行ってい 搾油装置 る。出来上がった CPO(粗製油)は、農業機械やトラックの燃料として利用。CPO の精製は、パームの実の選別→燻炭→絞り出し→精製の手順。 パーム栽培地 タイ国王が推進するパーム作付けの北限を超える地域でのパーム栽培である。パーム は順調に生育しているが、おしべとめしべの開花時期が異なることから、一部のパー ムの実のなり方に不十分な所が出てきていた。パーム農園に隣接する山からの水の圧 力を活かして、スプリンクラーによる自動潅漑が行われていた。パーム、キャッサバ の他にゴムの栽培も行われていた。 ゴム農園 昨今の天然ゴムの価格上昇を受けて Na Duang 村でもゴムの作付面積が急増。ゴム農 園所有農家の所得も急上昇したとのこと。 23 Na Duang 地区代表の方の挨拶 小栗技術審議会挨拶 ASEAN 事務局課長 挨拶 歓迎式典の模様1 歓迎式典の模様2 歓迎式典の模様3 訪問記念のパーム植樹 訪問記念のパーム植樹 24 建設中のバイオダイジ ェスター 建設中のバイオダイジ ェスターと説明パネル 簡易の木酢液製造装置 コンポスト マッシュルーム栽培1 マッシュルーム栽培2 エネルギー省からの BDF 精製装置 視察団一行 25 パーム の木 原料パーム 燻炭されたパームから絞り出された油 抽出装置 パーム 油の精製装置 パーム 油 農場の視察 ゴムの木 26 3. 参加者の評価集計 (1)政策評価アンケートの実施 本年度は 3 カ年事業の取りまとめ年度であることから、国際シンポジウムの参加者の協 力を得て、東アジアにおけるバイオマスタウン構想の普及・促進に係る政策アンケート評 価(資料編:資料 2 参照)を実施した。本政策評価アンケートは、東アジアにおけるバイ オマスタウン普及の取組みについて、その①妥当性・必要性、②有効性、③効率性、④イ ンパクト、⑤自立発展性の5つのテーマを設定し、シンポジウム参加者からのバイオマス タウン構想の見識やシンポジウムの実施成果を調査したものである。 調査の結果からは、東アジアの参加諸国からのバイオマスタウン構想への注目と期待の 高さがうかがわれ、国際シンポジウムを通して、バイオマスタウンの概念、プロセス、事 業効果などに関して、一定レベル以上の理解を得ることができたと考えられる。 以下に、政策評価アンケート結果を概括する。 ①東アジアにおけるバイオマスタウン構想普及の妥当性・必要性 Q:国際シンポジウムの実施も含めてバイオマスタウン構想の普及の妥当性・必要性に ついてどのようにお考えですか。 (0 :回答なし、1 : 全くそう思わない (very poor)、2 :そうは思わない (poor)、 3 :そう思う (good)、4 :強くそう思う (excellent)) 回答結果からみるように、本事業の妥当性・必要性については 100%の理解を得ら れている。バイオマスタウン構想への期待の高さが確認された。 4 :強くそう思う (excellent) 3 :そう思う (good) 33% 2 :そうは思わない (poor) 1 : 全くそう思わない (very poor) 67% 0 :回答なし 図4 政策評価アンケート(妥当性・必要性) (有効回答数:30) ■ 主たるコメント 自国にも類似のバイオマス資源が豊富に賦存しており、こうしたものの利活用の解決の糸 口をみつける契機になった 。 (フィリピン 政府系組織 研究者) 日本、タイ、ベトナムにおけるバイオマス事業の経験を互いに学ぶ良い機会を得られた。 (ベトナム 政府幹部 政策担当) 27 ②東アジアにおけるバイオマスタウン構想普及の有効性 Q:国際シンポジウムの実施も含めてバイオマスタウン構想の有効性についてどのよう にお考えですか。貴国において活用が可能だと思いますか。 回答結果からみるように、本事業の有効性については 9 割以上の理解を得られて いる結果が得られた。 4% 4 :強くそう思う (excellent) 23% 3 :そう思う (good) 2 :そうは思わない (poor) 1 : 全くそう思わない (very poor) 0 :回答なし 73% 図5 政策評価アンケート(有効性) (有効回答数:30) ■ 主たるコメント 農村部における環境汚染の問題を解決するアプローチのように考え る。 (ベトナム 政府 幹部 政策担当) バイオマス事業における有益な情報が得られた。 (複数回答) 小規模畜産農家でのバイオマス利活用技術の普及促進に寄与することが期待される。 (フィリピン 政府系組織 研究者) この考えは、地球温暖化を軽減し、気候変動の問題に対処するための選択肢の 1 つとし て、有益な情報と事例を提供している。 (インドネシア 政府幹部 政策担当) 近い将来、バイオマスタウン構想に関するより多くの資料と情報、特に林業分野における 事例を得られるようになることを希望する。森林バイオマスには大きな可能性が秘められ ているので、それらは我々の国にとって大いにいかされるだろう。 (インドネシア 政府幹 部 政策担当) 「Desa Mandiri Energi」(エネルギー自給村)という村での国家プログラムに大いに生かす ことができる。我々はバイオマスをエネルギーに利用するためのターゲットにしている。 (インドネシア 政府幹部 技術担当) 小規模発電所などのバイオマスタウンで得たエネルギーの購入を促す政策の不足 ・財 政上の支援 ・地方のバイオマス技術者の不足が懸念される。 (ベトナム 政府幹部 政策 担当) 一番の難点は、どうやってこれを発展させ、かたちにしていくかということである。(ベトナム 政府幹部 技術担当) 28 大きな課題は、バイオマスプロジ ェクトで利益が得られることを人々が理解、認識すること だ。(ベトナム 政府幹部 政策担当) バイオマスに関心をもつ人のネットワークを ASEAN 内でつくることを提案したい。 (ベトナ ム 政府幹部 政策担当) ③東アジアにおけるバイオマスタウン構想普及の効率性(シンポジウムの実施) Q:国際シンポジウムの実施については、バイオマスタウン構想の普及を目的に実施し ましたが、研修方法や期間などの観点からみて、得られた知識等はそれに見合った と思いますか。 回答結果からみるように、9 割以上の方がシンポジウムの実施の有効であり、効率 的な実施であるという結果が得られた。なお、そうは思わない(poor)と回答は、 「研 修期間が短い」という前向きの否定意見とも受け取れるものであり、シンポジウム全 般については、高い評価を得られたと評価できる。 4 :強くそう思う (excellent) 10% 17% 3 :そう思う (good) 2 :そうは思わない (poor) 1 : 全くそう思わない (very poor) 0 :回答なし 73% 図6 政策評価アンケート(効率性) (有効回答数:30) ■ 主たるコメント スケジュールがうまく組まれていて、大変効率が良かった。 (インドネシア 政府幹部 政策担 当) シンポジウムは、非常に良く構成されており、こ の素晴らしい手配に感謝している。 (イン ドネシア 政府幹部 政策担当) 資料内容は最新のもので有用であった。フィールド視察(Na Duang 村)は良かった。た だ、もしバイオマス試験場(養豚場)が完成していれば更に良かった。 (ベトナム 政府幹部 技術担当) 今回得られた情報を自国においても共有できる場ができたら、今回のシンポジウムがより 有益なものになるだろう。 (ミャンマー 政府 政策担当) 2 日間は、この事業を理解するのに十分だった。 2 日間は、研修をするにはとても短い。(複数回答) 29 (フィリピン 政府系組織 研究者) ④東アジアにおけるバイオマスタウン構想普及のインパクト Q:本事業において、得られた技術、知識等を活用することにより、貴国の関連政策に 貢献すると思いますか。 回答結果からみるように、9 割以上の方が関連政策への貢献を認識している結果が 得られた。また、他の設問のなかで最も「強くそう思う」結果が得られていることが 特徴的である。 4 :強くそう思う (excellent) 7% 3 :そう思う (good) 2 :そうは思わない (poor) 43% 50% 図7 1 : 全くそう思わない (very poor) 0 :回答なし 政策評価アンケート(インパクト) (有効回答数:30) ■ 主たるコメント 農村における廃棄物を処理するために有効と考えられる。(ベトナム 政府幹部 政策担当) シンポジウムでのフレームワークが私の国にふさわしいものな のかが明白でなかった。 (タイ 大学教授) ⑤東アジアにおけるバイオマスタウン構想普及の自立発展性 Q1:本事業において、得られた技術、知識等は、貴国において事業終了後も継続して 活用できると思いますか。 回答結果からみるように 100%、事業終了後も、本事業で得られた知見を継続して 活用できるという回答が得られている。 30 4 :強くそう思う (excellent) 3 :そう思う (good) 37% 2 :そうは思わない (poor) 63% 図8 1 : 全くそう思わない (very poor) 0 :回答なし 政策評価アンケート(自立発展性) (有効回答数:30) ■ 主たるコメント インドネシアでは 、同様のプログラムが地方自治体と連携して始まろうとしているので、そ の参考にできる。 (インドネシア 政府幹部 技術担当) Q2:本事業において、得られた技術、知識等を関係者へ伝達する体制整備はされてい ると思いますか。 回答結果からみるように、自立発展性に係る体制整備面においても、約 9 割近く 体制整備がされているという認識の結果が得られている。一方、尐数であるが、そう 思わないという回答もあることから、対象国によって差異があることが見うけられる。 3% 7% 3% 4 :強くそう思う (excellent) 10% 3 :そう思う (good) 2 :そうは思わない (poor) 1 : 全くそう思わない (very poor) 0 :回答なし 77% 図9 政策評価アンケート(自立発展性の体制整備) (有効回答数:30) ■ 主たるコメント 特にコメントなし 31 4. 総括 ~国際シンポジウムの成果とタウン構想の普及・促進に向けて~ 4.1 評価 (1) 国際シンポジウムの意義と成果に対する評価 本年度開催された国際シンポジウムは、3 カ年にわたる「普及支援事業」の集大成とも いえる活動であり、本年度事業の実質的な中核事業であったと認識できる。前述のとおり、 東アジア諸国からの参加者やシンポジウムの共催者であるタイ国農業協同組合省農業局 の関係者、加えてシンポジウムの基調講演やパネルディスカッションにご協力いただいた 委員の先生をはじめとする多くの方々の協力のおかげで、国際シンポジウムは予想以上の 成果を得たと考えられる。 シンポジウムでは、日本のバイオマスタウン構想の本質ともいえる「(途上国によく見 られる個人・小グループと言った単位・規模では無く)地域づくりの一環として地域単位 でバイオマスの利活用を関係者間の横断的な連携の下に推進し(地域内の利活用システム 構築)」、「地域の特性を活かす」という点に関して、日本発のコンセプトとして、インパ クトのある発表が行われた。このようなバイオマスタウンのコンセプトは 3 年間にわたり 支援してきたカウンターパートの間でも十分に理解されていることが、パネルディスカッ ションの内容からも伺うことができた。 また、今回の国際シンポジウムのパネルディスカッション、参加者のアンケート、ま た、現地での参加者との対話の中で、「バイオマスをシステムとして利用し地域の課題解 決の一助に役立てていく」というバイオマスタウンのコンセプトは、各国の政府や地域住 民に対する啓発活動が必要という認識はありながらも、東アジア諸国にも有意義なコンセ プトとして受け止められていることが改めて確認できた。このことも、国際シンポジウム を開催した成果であると考えられる。 (2) 人材育成事業としての評価 3 年間の事業の結果、セミナーやワークショップ等を通じたバイオマスタウン構想策定 に関する支援、及び、タイ・ベトナム両国のバイオマスタウン事業推進体制を構築するた めの支援を通じて、日本への招聘者を中心とした本事業の直接のカウンターパートの「バ イオマスタウン」に対する理解促進を行ってきたが、カウンターパートの人材育成は予想 以上の成功と評価している。これは、初年度に選定したカウンターパートが非常に優秀な 人材であったことも成功の要因といえる。一方、バイオマスタウンのようなコンセプトは、 直接の受益者となる住民レベル、そして、政策決定者である行政関係者における広い理解 促進が不可欠であるが、その観点では特に末端である住民レベルに対しては、まだ十分な 理解促進が図れたとは言えない。一般的に、末端(住民)までの人材育成には 10 年間程 度の長期的な視点で必要であり、今後、本事業の成果に基づき、住民を巻き込んだバイオ マスタウンのムーブメントを醸成していくためには、より長期的な視点で行う必要がある。 3 年間の本事業は「Training for Trainers」とも言える活動であり、これは高い成功を収 めたと言えるため、今後は、本事業で育成されたカウンターパートを通じて、さらに広範 な人材育成活動への展開が次のステップとなると考えられる。 32 (3) バイオマスタウン構想の趣旨、目的から見た評価 「個人の利益ではなくコミュニティの利益を追求するツールとしてのバイオマスタウ ン」、 「東アジア諸国の自主的な行動によるバイオマスタウンづくり」の促進が本事業の趣 旨であると言える。今回のシンポジウムはタイ国で開催され、タイ国 農業協同組合省の 協力無くしては実現できなかったが、もうひとつの対象国のベトナム側からは、 「次回は、 ベトナムで開催できれば、素晴らしい」といったコメントも寄せられており、こうしたバ イオマス普及のムーブメントが拡がりをもっていくことが期待される。 ・コミュニティの将来ビジョン 「地域づくりの一環として、官・民・学を含む関係者間の横断的な連携の下、“地域の 特性を活かし“、”コミュニティ全体の利益を最大化し得る域内バイオマスの利活用最適 化システムを構築し“、以って”地域の課題解決に役立て、且つ地域住民、関係者各位 の利益に資する“」と言う基本概念に沿って策定されたタウン構想の事業化による地域 活性化の実現が望まれる。 ・コミュニティの具体的な参画方法 東アジアにおけるバイオマスタウン構想の展開は本事業が初の試みであり、人材育成 事業、普及支援事業を通じて、また事業実施国においてはカウンターパートの活発な活 動もあり、政策決定者レベルを含め確実にバイオマスタウン構想と言う概念が根付き始 めている。とは言え、東アジア各国におけるバイオマスタウン構想の導入は、事業実施 国ですら未だ端緒が開かれたばかりであり、今後、東アジア各国政府による普及促進の ための体制・枠組み構築が切望される。カウンターパートも指摘する通り、政府の直接・ 間接の普及支援無くして、本事業構想が当該国に根付くとは考えられず、政府の強いイ ニシアティブと更なる事例の紹介が必要である。コミュニティーは当該国政府の施策、 支援体制などを理解・認識した上で、参画の是非を関係者間で協議することになるもの と思われる。 (4) バイオマスタウン構想の上位概念(地球温暖化、地域活性化、循環型社会形成、新 産業の育成)の貢献 バイオマスタウン構想の上位概念である、①地球温暖化、②地域活性化、③循環型社 会形成、④新産業の育成への貢献の観点からの評価は以下のようにまとめられる。 ・地球温暖化対策への貢献 対象国の構想策定地域において、メタン発酵槽の導入、コンポスト製造によるメタン 排出削減等、地球温暖化ガスの削減に貢献する活動の促進策として一定の効果を上げた と評価できる。 ・地域活性化への貢献 対象国の構想策定地域において、農家の収入増や投資活動など具体的な活動には結び ついていないものの、計画段階の活動として一定の評価ができる。 33 ・循環型社会形成への貢献 対象国の構想策定地域において、現在、循環利用されていないバイオマス資源の循環 利用促進策として一定の効果を上げたと評価できる。 ・新産業の育成 現場で視察したきのこ栽培事業は民間との連携により実現したものである。バイオダ イジェスターや飼料製造等、外部からの資金調達が必要な活動の実現により新産業の育 成の効果が期待できるため、計画段階の活動として一定の評価ができる。 (5) 外交ツールとしての有効性 本事業は資源確保などと言った自国の利益誘導のための支援ではなく、相手国、コミ ュニティのための援助ツールとしても評価できる。また、本事業のアプローチは、事 業実施地域において普遍性も高いと思われることから、相手 国政府関係者からも大 いに評価、感謝される支援形態であり、外交ツールとしての側面からの有効性も確認 できる。 本事業は概念の紹介と概念に基づく計画策定に関する技術支援(ソフト)であり、ハ ード(箱モノ)の支援ではないと言う点で、これまでの支援の形とは大きく異ってい る。ドイツの GIZ(元 GTZ)はタイに対して形を変えて支援を展開しているが、ソフ トの面で包括的、長期的にイニシアティブをとっていけるようなものでドイツにも国 益をもたらすものである。 (6) タイ国政府・ベトナム国政府、及びシンポジウム参加者からの評価 政策評価アンケートの結果からも明らかなように、バイオマスタウン構想の概念、そ の取組みやアプローチに対してカウンターパート、及び ASEAN 各国からのシンポジウム 参加者からは一定以上の理解を得ており、更に、非常に高い期待が各国の関係者から寄せ られていることが示された。今後、中長期的な視点で、今回の支援対象となったタイ・ベ トナム関係者からの評価を取りまとめていくことが必要と考えられる。 表 11 総括(本事業の評価) 評価項目 (1)国 際シ ン ポジ ウ ム バ イオマス タウンの概念及び の意義 と成果 に対 す その有効性の周知・啓発 る評価 策定したタイ・ベト ナム両国の バイオマス タウン構想の周知 (2)人材育成 事業と し ての評価 評価(達成事項/今後の課題) カウンターパート から日本発バ イオマス タウ ンの概念について明確な理解が示されたこ とから、バ イオマスタウンの概念は確実に根 付きつつあると評価できる バイオマスタウン構想は 紹介・理解され、 当 初の目的を達成したと評価できる 国際シンポジウ ムとして の評 価 政策評価ア ンケート の高い評価にも示され る通り、 日本発バ イオマス タウン の概念 の 普及の端緒となる国際シンポジウムとして 高い成功を収めたと評価できる キーパーソンに対する人材育 成 高い成果を上げたと評価できる 34 評価項目 政策意思決定者に対 する人 材育成 住民に対する人材育成 (3)バイオマス タウン構 想 の 趣旨 、 目的 か ら 見た評価 コミュニティの将来ビジョン コミュ ニティ の具体 的な参画 方法 (4)バイオマス タウン構 想の上位概念の貢献 地球温暖化 地域活性化 農家の収入増や投資活動など具体的な活 動には 結びついていな いものの、 計画 段 階の活動として一定の評価ができる 現在、 循環利用されていないバ イオマス 資 源の循環利用促進策として一定の効果を 上げたと評価できる 循環型社会形成 (5)外 交 ツー ルと し て の有効性 評価(達成事項/今後の課題) 人材育成で高い成果 を上 げたカ ウンタ ー パート を核として、 今後、ハ イレベルの意思 決定者( 大臣・ 次官クラス )、 また、 関係省 庁の実務面での意思決定者( 課長クラス ) に対して、「十分な理解」の水準に達するま で人材育成を行うことが課題 人材育成で高い成果 を上 げたカ ウンタ ー パート を核として、 より一層の人材育成が必 要。10 年スパンの長期的な視点で行うこと が肝要 官・民・学を含む関係者間の横断的な連携 の下、“ 地域の特性を活かし“、 ”コミュニテ ィ全体の利益を最大化し得る域内バイオマ ス の利活用最適化シス テム の構築 によ っ て、地域の課題解決に資するタウン構想の 具現化が望まれる。 事業実施国においては カウンターパ ート の 活発な活動もあり、 政策決定者レベルを含 め確実にバ イオマス タウン構想と言う概念 が根付き始めている。コミュニティ ーは当該 国政府の施策、 支援体制などを理解・認識 した上で、 参画の是非を関係者間で協 議 することになるものと思われる。 メタン発酵槽の導入、 コンポスト 製造による メタン排出削減等、地球温暖化ガスの削減 に貢献する活動の促進策として一定の 効 果を上げたと評価できる 新産業の育成 バイオダイジェスターや飼料製造等、 外部からの資金調達が必要な活動の実 現により新産業の育成の効果が期待で きるため、計画段階の活動として一定 の評価ができる。 途上国支援としての貢献 自国の資源確保のための援助ではなく、 相 手国、コミュニティ のための援助ツールとし ての有効性を発揮する端緒をつかんだとい う点で高く評価できる 財政的に箱モノ支援が難しくなってきた現 状において、 日本発の支援ツールとしての 普及は、 日本のイニシアティブ、 スタンダー ドの導入のきっかけ作りともなるほか、費用 日本の国益への貢献 35 評価項目 (6)相手国からの評価 評価(達成事項/今後の課題) 対効果の高い支援ツールであるという点に おいて、高く評価されるべきである 今後、正式なルートで把握すべき事項であ るが、シンポジウムにおける局長クラス の発 言としては高い評価を得たと言え る 通常業務に対する追加的な業務を生んだ という点において、個人的な過負荷の感が ある可能性は あるものの、 政策評価ア ンケ ート 結果や国際シンポジウムにおけるパ ネ ルディス カッ ションの発言内容からも、本事 業の意義に対する評価は 高いと言え る タイ国・ベトナ ム国政府 カウンターパート シンポジウム参加者( ASEAN 各国) 非常に高い評価を得たといえ る 4.2 今後に向けた課題 (1) 事業の進捗管理から得られた経験、改善点 本事業の実施を通じて、今後、バイオマスタウン事業を他国へ展開する際の改善策と して、以下の知見が得られた。 G-G 事業としての進め方: 地域発の取組みを推進するバイオマスタウン事業は、ボトムアップとしての 対応が事業の本質としては尊重されるべきである反面、日本政府の支援の下、 同取組みを促進する本事業においては、G-G 事業として相手国政府の協力体 制が必要となる。したがって地域における現場の取組みを尊重しつつ、相手 国政府の意思決定者との合意形成を早期に並行して行うことが肝要である。 また、バイオマスタウン構想は支援の対象国の政府の政策に対して、有効な 概念であることを相手国政府が理解することが重要であり、そのためにも相 手国政府の政策に合致した支援の形態を模索することが肝要である。 人材選定の方法: 相手国政府との合意形成を取得するためには、政府の意思決定者との調整が 図りやすい立場にある、もしくは意思決定者からのトップダウンでカウンタ ーパートの選定が肝要であると言えるが、バイオマスタウンのコンセプトに 対する理解力、相手国内での普及をけん引するリーダーシップ、また日本人 が現地の言葉を操れない場合には日本人とのコミュニケーションが図れる英 語力も重要となる。本事業では平成 20 年度のカウンターパート選定時に、中 央政府との調整、個人の資質の両方の観点を勘案したが、カウンターパート の資質の高さが本事業の成功に繋がっていると考えている。 36 顔の見える支援: 本事業では、タイの現地調整員が日常的にカウンターパートと連絡をとれた ことがカウンターパートとの協力/信頼関係の構築に役立ったと考えている。 本事業は、人材育成を目的の一つに掲げた事業であり、カウンターパートの 自主的な取組みを、日本からの専門家が側方支援するものであるが、短期出 張ベースで 1,2 カ月に一回のみの訪問により事業を進める場合、カウンター パートが課題に取り組む際の日常的な側方支援が困難となることにより、カ ウンターパートが過負荷に感じる可能性がある。カウンターパートが課題に 取り組む際に、何かあれば日本のパートナーの顔が見える形で協議の場を持 てるという日常的な活動の積み重ねにより、お互いの顔が見え、それが信頼 関係の構築に繋がると言える。 継続的な支援の重要性: バイオマスタウン事業は、従来の箱モノ支援により、莫大な予算をかけて目 に見えやすい貢献をする支援とは全く異なるものであり、相手国の政策課題 解決の一助となる日本発の概念を理解してもらい、それを将来的に相手国の 政策ツールとして利用して頂くというものである。そのための人材育成は、 数人の関係者に理解をしてもらうだけでは十分でなく、本事業も「トレーナ ーのためのトレーニング(Training for Trainers)」を 3 年かけて終え、今後 対象国でバイオマスタウンの有効性を普及していく際のキーパーソンを育成 したというところであると言える。キーパーソンに根付かせることのできた バイオマスタウンの概念への理解を、今後、住民レベル、または関係省庁の 意思決定者方にまで浸透させて、定着させるためには、時間をかけた醸成が 必要であり、そのためには、細くても長い支援が必要であると言える。 (2) バイオマスタウン構想の策定に必要な技術情報に関する整理 本事業では過去 3 年間にわたり、 「カウンターパートの選定」、 「カウンターパートの研 修(日本、タイ)」、「カウンターパートの継続フォロー」を通じてバイオマスタウン構想 の策定に必要な知識、技術情報の提供を行ってきた実施してきた。 特に、具体的な事業設計の支援においては、系統電力、水道、道路事情等のインフラ 条件や気象条件、土壌条件、バイオマス発生状況の違いなど、日本と現地での制約条件の 相違も考慮の上、具体的なプロジェクトサイトの選定と同サイトでのタウン構想策定作業 に伴う OJT を通じて概念に対する理解度の向上を図ってきた。 37 表 12 タイの Na Duang 村のバイオダイジェスター設置における協議・検討事項など 項目 配慮した点(制約条件の相違) 協議・検討事項など 我が国では 特定バ イオマス の処理に ついて、 廃棄物処理法、 食品リサイク ル法、建設リサイクル法、 水質汚濁防 止法などの諸法規が制定されており、 特定バ イオマス の処理=コスト との発 想がある。 一方でタイ国など中進国、 また途上国の多くでは、 一般的な環境 保護に関する法規は あ って も具体 的 にバ イオマス の処理 に関する法 規は 尐なく、 農家・ 食品製造会社にとって バ イオマス の処分=コス ト と言った 概 念は希薄。 我が国では バイオマス を原料とした製 品(例えば堆肥等)は市場で販売可能 であ る一方 で、 タイ国 をは じめ とす る 国々では 販売は 困難か販売できたと しても極めて安価な価格での販売しか 望めない。 タイ国をは じめとする中進国、 途上国 では 情報が錯綜することも多く、 農村 レベルでは データ収 集と情報開示 を 含む実証( モデル・ ケース による成功 例の確立)が必要。 バイオマス の処理( 収集・ 輸送・変 換のための設備導入) に関して、 原料 の 収 集 範囲 を小 さ く す るた め、大規模施設ではなく小規模施 設を複数設ける、 また域内で飼育 する家畜は 1 箇所で集中肥育を 検討するなど、可能な限り低コスト 化、 労力面での省力化ができるよ う検討を行った。 1) 発生バイオマス の 処理 に関す る規 制 など 2) バイオマス 製品の 市場性 3) 普及促進 4) 社会基盤 対象地区は 電化されておらず、 攪拌 などを行う場合でも、 電気を使用せず に攪拌を行 う方法を検討することが必 要。 5) 保有技術・ 能力・ 資 金など 対象地域に見合った価格、維持管理 に必要となる技術であり、 自身で導入 でき、維持管理・保守保全が可能であ ることが必要。 上記に同じ。 バイオ・ ダイジェス ターの本来の目 的で ある液 肥回収以 外に も同施 設を軸にした関連施設を併設(野 菜試験栽培場、 固形残渣の利用 を前提とする堆肥製造、 バ イオガ ス ・ スト ーブ( 予定) など) し、 波及 効果も含 め効果の最大化 を目指 した。 農業用ト ラクターの エンジン に攪 拌機 を取付け必 要に応 じて攪拌 を行 うモデ ルを提案した( 最終的 には、タイ国内の設計会社により、 採用されず)。 単純な構造 の設 備・ 施設で 耐久 性の優れたものを選択・選定すべ く協議を行った。 その他、策定作業上、必要となる支援及び、本事業の実施経験により配慮すべきと考 えられる事項は下記の通りである 38 表 13 構想策定に必要となる支援、及び配慮すべき事項 必要な支援 1) 関係者の巻込み( 中央省庁、 地元行政府、 コミュニティ、 民 間企業、学術機関) 配慮すべき事項 2) 中央省庁における政策・ 施策 策定 3) バ イオマス 賦存量・ 利用状況 調査 4) 5) バイオマス 製品に対する潜在 需要調査 バイオマス 製品製造上、 検討 されるべき技術・ノウハ ウ 6) 7) バイオマス 製 品保管・ 利用 上、 検討されるべき技術・ ノウ ハウ 製造・保管・利用を通じて必要 となる機器など 対象地域の農民のニーズ把握が重要であると同時に、 中央 省庁、地元行政府の意思決定者の合意形成が重要。 意思決定者との合意形成については、当事者の異動により調 整作業が振り出しに戻る可能性もあるため、 可能な限り正式 な書面での合意の取り付けが望ましい。 正式な文書の取り交わしに関しては、先方が必要以上に慎重 になる場合もあり、 事業の遅延に繋がるような時間を要するこ とも想定されることから、相手の反応を見極めて最善の方法を その都度模索することが必要。 相手国政府や地元政府が、本事業に対する専従の担当者を 新たに配置しない限り、 担当者にとっては、 通常業務に加わ る追加的な労働であることが想定される。 このような場合、担 当者の負荷が増大することによる様々な不具合に対して理解 を示し、可能な側方支援を申し出ることも、良好な信頼関係の 維持のためには重要 バイオマス タウン計画策定作業に対する支援策・ 方途の明確 化(明文化)と広報活動 バイオマス タウン構想策定後の事業実施に対する支援策の 策定、予算計上、事業実施 上記を実施するための政策レベル、 実務レベルでの委員会、 タスク・フォースなどの設置 統計データがない場合、農協等の現地の農家の状況を把握 している主体の協力が必要 統計データの情報源の確認( 農作物により、所管が異なる可 能性がある) 農家の聴き取りにおける適切なア プローチ が必要(農 家が信 頼する現地の団体の協力を仰ぐ、 協力に対するささやかなお 礼等) 現地で既に利用されているバ イオマスに対する配慮 バ イオマス 製品の利用意思に関して、 無償なら使用するの か、あるいは、購入意思があるかについての確認が重要 現地のニーズに即した製品化の検討( 堆肥や液肥の効果を 示す成分分析) 現実的な製造コスト、手間に対する配慮 保管上の留意点は脱窒防除、 異臭拡散防止、 防水等に関す る情報提供 利用については 高齢化する農村社会でも容易に利用できる 低コスト、低労力の形態の技術オプションの提供 ダイジェス ターに関して、 液肥粘度や臭気を軽減するための 機器・設備、密封性を高めた保存施設液、 肥散布機、堆肥土 中混込機等の情報提供等 39 (3) バイオマスタウン構想の普及・促進に向けたマルチ支援、及び日本の役割 現状の東アジア全体を俯瞰すると、バイオマスタウン構想の普及については、その端 緒が漸くにして開かれたにすぎないとみることもできる。今後は、今回のシンポジウムに ご参加いただいた各国の行政関係や研究者が主導的な役割を担い、バイオマスタウンの普 及・促進に向けて、それぞれの国の地域事情に合致したシステムを立案し、具現化してい くことが求められる。 東アジア諸国において、バイオマスタウン構想の普及・促進を水平展開していくうえ では、日本側にも大きな期待が寄せられていることを重く受け止めなければならないとも いえる。また、本事業の 3 カ年の取組みは、タウン構想の策定やシンポジウムの開催の共 同作業をとおして、東アジア諸国に共通する地域課題(農村地域振興、グローバルな市場 に対応する農業)も再認識されるひとつの契機であったと認識できる。 このような認識の下、今後は、日本と対象国という二国間の支援形態ではなく、日本 のイニシアティブの下に、バイオマス関係の情報プラットフォームや専門家の協議会など、 複数の国・国際機関なども巻き込んだマルチ型プロジェクトにしていくことが持続可能な 活動のために必要であると考えられる。 今後は、こうした点を踏まえて、JICA 等の国際支援機関とも協調しながら、バイオマ スタウン構想の発信国として、引き続き、カウンターパートの育成や専門家の派遣、情報 プラットフォームや人的ネットワークの構築などを推進していくことが期待される。 40