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化学反応を利用する熱制御・ 蓄熱と熱電池
化学反応を利用する熱制御・ 蓄熱と熱電池 芝浦工業大学 工学部 機械機能工学科 教授 田中 耕太郎 1 従来技術とその問題点 本研究に着手したきっかけは,太陽熱集熱器の普及にある.特 に,非追尾式太陽熱集熱は集熱効率,稼働率,コストの点で有 利で,100℃以下の大きな熱需要に適合する.エネルギー有効 利用の点で大きな効果が期待できる. 用途別 真空管式 集熱器 スカイラ ジエター 70-100℃ 55℃ 15℃ Na2S H2O 高断熱建築と熱高度利用システム 冷房用 1.8% 熱需要が50%以上 暖房用 25.1% 動力他 36.3% 2009年度6 9,763x10 cal/世帯 厨房用 8.2% 給湯用 28.7% 日本エネルギー経済研究 所 計量分析ユニット編、 「エネルギー・経済統計要 覧2011年版」、省エネル ギーセンター 2 住宅における太陽熱利用と太陽光発電の特徴 同一面式ハイブリッドも注目 ソーラーシステム振興協会 時岡資料より 3 熱エネルギーの価値(量と質で考える) 熱エネルギーはイメージより大きい。 熱高度化利用による省エネ効果は大。 しかし,低温熱は電気に変換は難しい.熱は熱で使用 Q = m c (T2 – T1) = m g h お風呂 1 kg ×4.2 kJ/(kgK)×(40-20)K = 84000 J 高さに換算すると 1 kg×9.8 m/s2 ×(8571 m)=84000 J 熱エネルギーはイメージよりエネルギー的量は大きい. 40℃が高くなればさらに大きい... E = Q (1 – T1/T2 ) = 84000 ×0.064 = 5367 J エネルギーの質で考えると大きく減少する.理想的でも約1/16となる.し かし,これでも536 m分(40℃)...力学・電気エネルギーに高効率で変 換するのは難しいが,熱エネルギーを捨てないで使用する方策は,CO2 削減の効率的方法 4 新技術としての注目点・従来技術との比較 熱利用の高度化技術開発を目指し,高機能化が期待できる化 学反応を利用する方式に注目し,「熱を貯蔵する化学蓄熱,汲み 上げるケミカルヒートポンプ,逆サイクルで電気に変換する熱電 池」に注目 • 現状技術である,熱機関,冷凍機,ヒートポンプなどは,機械 方式が主流である.作動媒体の顕熱,潜熱変化を用いる方 式である. • 化学反応を利用する方式は,従来より多くの研究がある.し かし,製品化,実用化レベルのものは少ない.化学反応を用 いる手法の原理的な性能は高い.機能材料などの材料開発 によるブレークスルーが期待できる.燃料電池は,エネル ギー密度が実用化に進展してきた最近の例である. 5 化学蓄熱,化学ヒートポンプの方式 • 熱電池は熱を供給すると電気を起こす直接発電素子である.そ の方式の提案は古くからあり,例えば1981年のSERI報告書に, 7種類に分類され,100以上の反応系のスクリーニング結果がま とめられている. • ここでは,Na2S5H2O/Na2S化学蓄熱と化学ヒートポンプ,熱電池 を述べる 電力 蓄熱時に閉じる 蓄熱材料 反応媒体 Q2 T2 A 熱再生器 Q1 AB B T1 セル部 バッチ式化学蓄熱の原理 熱再生式熱電池の原理 6 ケミカルヒートポンプ・蓄熱システムの研究 太陽熱の間欠性補助,産業用プロセス熱利用,燃料電池排熱を利用 熱出力 水和反応 (発熱) Na 2S[s] 5H2O[g ] Na 2S 5H2O[s] 脱水反応 (吸熱) ΔH゜ 308kJ/mol 水和・脱水和反応に伴う,発熱 吸熱現象を利用して, 蓄熱・昇温・冷却を行うシステム 材料だ 長期間の熱貯蔵が可能 けの値 蓄熱密度が大きい 1.8MJ/kg(2.9GJ/m3) 水顕熱(30℃~80℃)の50K温度差の顕熱は0.2GJ/m3 蓄熱 120℃程度のCaSO4(1/2)H2O系,300~350℃程度のMg(OH)2 系,400℃程 度のCa(OH)2系が研究されている.温度域の近いCaSO4(1/2)H2O/CaSO4の 反応熱は,0.12MJ/kg (0.33GJ/m3)である.Na2S反応系の作動温度域は低く, 蓄熱密度の点で有望材料である 7/15 7 蓄・放熱の原理と実験装置 Vapor Dehydration 水蒸気Hydration → 80℃ ・ Ts , p s Heat storage material Tw , p w ・ Water 蓄熱過程 Na2S5H2O→NaVapor 2S+5H2O Dehydration 水蒸気 Hydration 60℃ ・ Ts , p s Heat storage material 20℃ 水容器 蓄熱材 容器 Tw , p w ・ 15℃ Water 放熱過程 Na2S+5H2O→Na2S5H2O 8 従来技術の課題 有望な反応系であるが,これまで,(1)反応速度が小さく, (2)繰り返し特性に課題があり,(3)硫化水素発生の問題点 が指摘され,実用化まで到達していなかった.. スウェーデン王立科学大学におけるTEPIDUSシステムが有名である.1980年代に研究され, 30MWhのビル暖房蓄熱が開発された経緯がある.オランダSWEATプロジェクトは,民生・産 業用管型モジュールを開発している.最近では自動車起動時のエンジン加熱用蓄熱器が報 告されている R. de Boer, W. G. Haije, J. B. J. Veldhuis, S. F. Smeding, Solid-Sorption Cooling with Integrated Thermal Storage: The SWEAT Prototype, Proc. Int. Conf. Heat Powered Cycles, ECN-RX-04-080, (2004) E, A, Brunberg, The tepidus system for seasonal heat storage and for cooling, Proc. Thermochemical Energy Storage, (1980), 247-260, U.K. M. Jakobi, P. Hofmann, B. Geringer, New Heat Storage Technologies for the Application in future Vehicles, 32 Proc. Int. Wiener Motorensymposium, (2011), 32 9 熱・物質移動を促進する複合化材料の提案 100 Dehydration Hydration water p , kPa 複合化手法は,熱・物質移動促進を目 的として通常用いられる手法である. Vapor 10 1 dpd Ad' Bd,Bh ・ dph ・ ・ A,A ・ A' d h h ・ Ts , p s ・ Heat storage material Water 作動原理 Conduction heat transfer, QC 0.1 Tw , p w Radiation heat transfer, QR Heat transfer surface 20 40 60 80 100 t , ℃ 作動原理のための温度と圧力の関係 Mass flow Transfer, Jf V 0.01 0 Na2S・5H2O Mass diffusion transfer in a particle, Jd Porous material Mass flow transfer, Jf Mass diffusion transfer Jd Storage material Conduction heat transfer, QC Heat transfer surface 粒状材料と複合化材料における熱・物質移動 10 複合化材料の開発 多孔質材料(軽石,溶岩,セラミックSiC,カーボン材料など)を利 用した蓄熱部の高機能化材料を検討している 多孔質材 料 ( 蓄熱 材隙間 ) 多孔質 材料 粒状反応 材料 蒸気流路 蒸気流路 多孔質材料 ( 蓄熱材有 ) 反応 材料 フィン 11 蓄放熱反応進行測定用の実験装置 Vacuum gage Load cell To Vacuum pump Fig. 5 Reaction Heater container Recorder Experimental setup 重さの変化を測定して反応進行 を測定 12 粒状試料とSiC複合化材料の反応実験結果 (反応時間の短縮:熱・物質移動の改善) Hydration rate % 100 80 60 40 SiC composite Particle (5 mm) hydration 放熱過程 process dehydration 蓄熱過程 process 20 0 0 20 40 reaction time h 60 80 13 板状試料とSiC複合化材料の反応実験結果 (複合化材料により微粉化が抑えられ繰り返し特性向上) Reaction rate % 100 Plate (t=5mm) 80 60 40 20 SiC composit (t=10mm) 0 0 50 100 150 Time h 200 250 14 電気化学ヒートポンプと熱電池の作動方式 凝縮器 低圧 蒸気 圧縮機 蒸発器 吸発熱反応方式の作 動原理 濃度差利用方式の作 動原理 通常の機械圧縮式方 式の作動原理 15 電気化学反応の熱力学 低い温度で電気エネルギー入力により吸熱反応を起こし,より高い 温度で発熱反応を起こす. E nergy • ΔH =ΔG +T ΔS TΔ S 吸熱量 f H =242 kJ/molH2 f G =228 kJ/molH2 ΔH 発熱量 ΔG 電気量 Low T High T T 温度を下げるとΔ G増加。 上げるとΔ G減少。 燃料電池(水素・酸素)はΔ G が 大きい。発電変換効率が高い。 16 2-プロパノール脱水素吸熱反応器の実験 燃料電池と同様の構造.分極電位の低減がこの方式の鍵 となっている. ①Stainless steel cover ②③Silicone spacer and cover ④Electrode and Lead ⑤Cathode(Pt-Ru/carbon cloth) ⑥Electrolyte(Nafion®) ⑦Anode(Pt-Ru/carbon cloth) ⑧Thermocouple 17 現状の吸熱反応部の性能 250 印加電圧0.3V セル温度343K 流量0.46 mL/min. 200 150 4 E = Eth 3.5 A 100 TH = 473K 4.5 3 COP [-] i [mA/cm2] 5 B 50 E = 50mV 2.5 2 0 0 600 1200 1800 2400 3000 t [sec] 3600 1.5 E = 200mV 1 E = 300mV 0.5 0 273 298 323 T [K] L 343 373 現状:電極部抵抗が大きい.COP低.低 温側で発熱.触媒電極.性能劣化が測定 (電極と固体電解質).電解質に水分必要 など...課題多し 燃料電池の本物セルを使うと? 18 濃度差式ヒートポンプの具体的な形状 Qin 低温側 液相側 Qout 高温側 Na蒸気 蒸発部 蒸気側 帰還液の減圧流路 (減圧弁に相当) 固体電解質管外 側の電極部写真 上の装置ではこ の電極を内側に 付ける 固体電解質ポンプ部:両面の電極に電位 差を外部電源より与える 管中央の白 い管が固体 電解質管 (このセルは 発電セル) 19 このようなセルは製作可能・応用可能であるか? • β”アルミナ固体電解質材料はNaS電池開発以降で品質が大きく向上 • アルカリ金属熱電変換(AMTEC)は宇宙用発電セルの他に,地上用小型 コジェネ用途,小規模排熱発電の可能性 • 長時間(数万時間)テストを達成,ならびに熱電の変換効率は実験測定値 で24%達成(温度条件800℃-400℃) 将来的には30%以上可能 • ナトリウム使用,熱サイクル,作動温度が限定,が課題 Electrical feedthrough BASE tubes (d=7.8mm., L=30mm) Positive Electrode (7.82 cm2) Electrical Heater Vaccume Vessel (d=50mm, L=150mm) Mo Lead Capillary Wick 田中らによるAMTEC発電セル例 米国AMPS社宇宙用セル 20 想定される用途 • 化学蓄熱(Na2S5H2O)は蓄熱密度が高く,70~100℃ の温度域は排熱回収でも効率が高い.用途として,家 庭用太陽熱利用,寒冷地で太陽電池パネルの融雪な ど.自動車排熱利用,燃料電池排熱,分散発電機から の排熱回収熱貯蔵,蓄電池の温度管理など..究極 は季節間蓄熱へ • 電気化学式ヒートポンプは,熱機関とペルチェ素子の 間の大きさの装置.熱電池は,小型化として従来廃棄 していた排熱回収,カスケード利用(ボイラーなど) 21 実用化に向けた課題 • 化学蓄熱装置では,反応時間短縮と微粉化減少が 得られているが,繰り返し回数増加の試験が必要な 段階.残された重要課題は,硫化水素発生を抑える, または変換する点にある. • 電気化学ヒートポンプは原理的に作動するが,電極 部抵抗が大きく,現状のCOP値は低い.燃料電池並 みに下がれば可能性がある.また熱再生方式の実 用化には副生成物抑制が残されている.濃度差方式 は,発電効率の向上と電極劣化が課題である. 22 企業への期待 • 化学蓄熱装置は,集合住宅などの設備関連を扱う企 業など.個人住宅での太陽熱利用普及は本蓄熱器の 主目標であるが,集合住宅,病院,ホテルなどの熱需 要の大きい施設での導入の可能性の方が高いのかも 知れない.太陽熱以外では,燃料電池の蓄熱,自家発 電との組み合わせ等の企業.また,寒冷地の熱供給利 用,蓄電池の温度管理のような新たな利用方法をご指 摘いただきたい. • 排熱回収における熱電池の実用化には少し開発期間 が必要であるが,例えば小型ボイラー熱電供給装置な ど,現状の機械式より小規模なところに利用できる. 23 本技術に関する知的財産権 • • • • 発明の名称 出願番号 出願人 発明者 :化学蓄熱材成形体およびその製造方法ならびに化学蓄熱装置 :特願2012-131406:特開2013-253212 :芝浦工業大学 :田中耕太郎 お問い合わせ先 芝浦工業大学 産学官連携・研究支援課 片野 陽子 TEL 03-5859- 7180 FAX 03-5859 - 7181 e-mail [email protected] 24