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海外財産の相続:知られざるリスクと対処方法について(第 1 回) 三輪

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海外財産の相続:知られざるリスクと対処方法について(第 1 回) 三輪
海外財産の相続:知られざるリスクと対処方法について(第 1 回)
三輪 壮一 氏
三菱 UFJ 信託銀行株式会社 リテール受託業務部
海外相続相談グループ
米国税理士
はじめに ~ 海外相続を取り巻く環境など
このシリーズを始めるにあたり、先ず、海外に財産を所有することに対する、日本の税
務当局の動向についてご説明したいと思います。それから、海外財産を保有したまま相続
が発生した場合の相続手続きは、どのような考え方に基づき、どの国の法律に基づいて進
められることになるのか(準拠法)について、ご説明したいと思います。
1.税務当局の国外財産把握に関する対応の強化
日本の税務当局は、国外財産を「租税回避の温床」と捉え、富裕層による国外財産の所
有や海外取引に対する対応を強化してきました。「国外に財産を移せば、税務当局も分から
ないだろう」といった時代は終わった、と言っても過言ではない、と言えるでしょう。
以下、国外財産の把握強化に関する税務当局の動きについて概要をご説明いたします。
(1) 国際課税に係る調査体制の充実化
日本の税務当局は、国際税務の専門部署を設置するなど調査体制を強化してきました。
また、租税条約の締結を推進し、海外の税務当局と情報交換を拡大してきました。
(平成
27 年 5 月現在、64 条約、90 か国・地域と租税条約を締結。スイスとは 2011 年に情報交
換規定を新設する改正を実施)
(2) 税法や制度の整備
武富士事件などを契機に、日本の贈与税・相続税の対象範囲を拡大してきました。今や、
財産を渡す人(贈与者や被相続人など)が日本の居住者であれば、財産を受け取る人(受
贈者や相続人など)の居住地や国籍に関係なく、国外財産は全て日本の贈与税・相続税
の課税対象となりました。
また、「国外財産調書制度」の導入(平成 24 年度の税制改正)や、「国外転出時課税制
度」の導入および「財産債務明細書」の見直し(平成 27 年度の税制改正)など、国外
財産の把握や課税の強化を図っています。
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国内外の全財産に課税
国内財産のみ課税
※平成25年税制改正後(H25年4月1日~)
納税義務者(受贈者
・相続人等)
贈与者
被相続人等
国外に居住
日本国籍あり
国内に居住
5年以内に
国内に住所あり
左記以外
日本国籍なし
国内に居住
国
外
に
居
住
5年以内に
国内に住所あり
上記以外
2.国によって相続に関する考え方や適用法が異なります
亡くなった方が外国籍である、相続人が外国籍者や海外居住者である、財産が国外に有
る、といった場合、相続手続きは、どのような考え方や法律に基づいて進められることに
なるのでしょうか。
先ず、相続に関する考え方が、国によって異なることについてお話します。
日本は、相続が開始されると、亡くなった方(被相続人)の財産および債務は相続人に
包括的に承継されるという「包括承継主義」の考え方を採っています。被相続人の財産は、
遺言書があれば遺言書にしたがって受遺者に、遺言書がない場合は相続人に帰属します。
また、被相続人の債務は相続人が承継します。このような「包括承継主義」を採用してい
る国は、日本の他にドイツ、イタリアなどがあります。
一方、米国・英国などの英米法の国は、「清算主義」の考え方を採ります。「清算主義」
とは、相続が開始されると、先ず被相続人に係るあらゆる債権債務関係を清算し、費用や
税金を支払った後で、残った財産を相続人などに分配するという考え方です。この清算主
義に基づく一連の相続手続きは「プロベイト」と呼ばれる裁判手続きとして実施されます。
○ 清算主義(プロベイト手続要)
(採用国としては、米国、英国、香港、シンガポールなど)
・被相続人の財産は、直接相続人に帰属せず、遺産財団(エステート)に帰属させ、人格代表者が管理する
・人格代表者の任命を申立て、任命された人格代表者による遺産の管理清算後に財産を分配する
○ 包括承継主義(プロベイト手続不要)(採用国としては、ドイツ、イタリア、フランス、日本など)
・被相続人の財産は、何らの清算手続を経ずに包括的に相続人に移転する
・被相続人の債務は相続人に承継される
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次に、適用される法、すなわち、財産を誰が(法定相続人の範囲)、どのような割合(法
定相続割合)で相続するかに関して、どの国の法律(準拠法)が適用されるかについて、
お話します。
日本では、相続財産の種類や所在地に関係なく、すべてを被相続人の「本国法」により
決定しようとする「相続統一主義」が採用されています(法の適用に関する通則法第 36 条)。
日本の他、韓国、ドイツ、イタリアなどが相続統一主義の立場を採っています。
一方、相続財産を「動産」と「不動産」に分けて、「動産」は被相続人の死亡時の居住地
(Domicile)の法により、「不動産」は不動産の所在地の法律により決定しようとする「相続
分割主義」を採用している国もあります。例えば、米国、英国、フランスなどです。
居住地法主義
被相続人の居住地(Domicile)の法律を本拠とするもの
採用国としては、スイス、デンマークなど
○ 相続統一主義
本国法主義
被相続人の国籍を有する国の法律を本拠とするもの
採用国としては、ドイツ、イタリア、韓国、日本など
-相続財産の種類によって区別することなく、全相続財産を被相続人に関係の深い国の
法律によるとするもの
○
相続分割主義
相続財産の種類によって、適用法が変わる(分かれる)もの
採用国としては、米国、英国、フランスなど
-不動産については、所在地の国の法律、動産については、被相続人の居住地法によると
するもの
(米国では州によって法律が異なります)
この様に、海外に財産を保有したまま相続が開始されると、日本とは異なる考え方や法
律に基づいて手続きを進める必要があり、なかなか大変であることをご理解いただけまし
たでしょうか。
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