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国連総会における投票行動のタイポロジー的研究
大芝, 亮
一橋研究, 2(3): 98-114
1977-12-31
Departmental Bulletin Paper
Text Version publisher
URL
http://doi.org/10.15057/6458
Right
Hitotsubashi University Repository
国連総会における投票行動の
タイポロジー的研究
大 芝 亮
1.本研究の目的
国連総会に於ける投票行動を各国の属性と委員会審議に於ける論争テーマヘ
の態度の2点から計量分析の手法を用いて説明し,投票行動のタイポロジーの
提示を目指すものである。ケースとして,1968年の再開22回国連総会第1委員
会に於ける核拡散防止問題の審議をとり上げる。
2.研究動向
国連に於ける投票行動決定の要因分析はまず,投票行動と国家属性の連関分
析という視角からなされた。これはR・ラメルのr属性理論」を投票行動研究
に適用したものである。投票行動の属性理論分析は1964年のアルカー論文ω,
1965年のエリス,ザルツバーグ論文(2〕を起点とするが,本格的な分析はJ・ヴ
インセントによりなされている。1971年の彼の論文㈹を見てみると,国連加盟
国68か国をサンプルとし,説明変数として77の国家属性を,被説明変数として
13の投票を取り上げている。分析の第1段階として,投票行動を因子分析する
ことにより得られた投票行動パターンωと,77の個々の国家属性との関係を単
純相関法を用いて分析しており,第2段階として投票行動,国家属性それぞれ
を因子分析することによって得られた投票行動パターンと属性因子との関係を
単純相関法とカノニカル相関法を用いて分析している。この結果,分析の第1
段階に於いては「東西対立」の投票次元はソ連との同盟という属性との関連性
が最も高いということがわかり,分析の第2段階からは投票行動パターンを最
も良く説明するのは「経済発展」という属性因子であり,最も良く説明される
98
国連総会に於ける投票行動のタイポロジー的研究
孜雲行動次元は「東西」因子であるとされている。このヴィンセント論文に対
しては,D・ムーアが1975年の論文(5〕に於いて批判を行なっている。批判点の
第1は,「東西」の投票次元を最も良く説明するのは「経済発展」の属性因子
であるとするヴイソセントの結論はありそうにないことであり,この誤った結
論はカノニカル相関法を用いた事に原因しており,重回帰分析を用いるべきで
あったとする点である。第2は,因子分析によって得られた4つの投票次元全
ての正準変量を分析すぺぎであったにも拘わらず・ヴィソセントの論文に於い
ては第1の正準変量しか分析されていないという点である。第3としては正準
変量の従属変数の意味内容の解釈は極めて困難なものであるため,カノニカル
相関法でなく,やはり重回帰分析を用いるべきであったというものである=o㌧
更に,ヴィソセント論文が投票行動次元,投票グループと属性の連関分析を行
なっているのに対し,個友の議題に対する投票行動と属性の連関分析を行なっ
たのが,1973年の佐々木論文ωである。この論文に於いては,1966年第21回国
連総会における4つの投票と16の国家属性の関連性を数量化皿類の手捧を用い
て分析している。その結果,地域・経済援助・植民地経験・独立時期というも
のが,4つの議題全体を通して投票行動への影響力の強い属性であることを発
見している。が,この論文の欠点は,従来の研究と同様,投票行動(たとえ投
票次元であれ,個々の投票であれ)への影響力の強い属性を発見することで留
まっている点で,いかなる属性を持つ国はいかたる投票を行なラのかという点
が明確には示されておらず,この点が明確にされたい限り投票行動の予測モデ
ルの構築が不可能なことである。この点は投票行動への影響力の大きいいくつ
かの属性と投票行動とのN次元タイポロジーを作ることにより克服することが
可能と思われる。
以上のようだ投票行動一国家属性の連関分析に対して,投票行動を委員会討
論での論争テーマに対する各国の態度から説明しようとする研究が海洋法研究
者㈹の間でなされている。海洋法研究に於けるこの研究の第1期に於いては,
1965年のR・フリードハイム論文(9〕,1970年のR・フリードハイム,J・ケイデェ
イソ,J・ギャンブルJr論文αo〕に見られるように,論争テーマヘの各国の態
99
一橋研究第2巻第3号
度を明らかにすることに研究目的が限定されており,手法として内容分析法を
用いる点が特徴といえる。これに対し第2期に於いては海洋問題の諸論争テー
マヘの各国の態度の抽出にとどまらず更にこれから投票行動との関連性の分析
を研究目的としている点が特徴と言え,1972年のR・フリードハイム,J・ケ
ィデェイソ論文αDに始まる。この論文はケースとして第22回・第23回・第24
回国蓮総会第一委員会に於ける海底平和利用問題の審議を取り上げ,この問題
に関する2つの論争テーマを分析対象としている。この2つの論争テーマに対
する各国の態度抽出のため量的内容分析を行なった結果,態度が明らかになっ
たのは50か国余りであり,残りの70か国余りは態度不明のデータ欠損国となっ
ている。そこでこのデータ欠損国の態度を西欧・アフリカ,等の13の主に地域
グループ㈹を説明変数として回帰推定している。一般に委員会討論に不参加
の国が割合多く存在すること,叉,スピーチに於いて議題のもつ全ての論争テ
ーマについて述べる国が少ないことの2つの理由からデータを得ることのでき
た国が50余りであるという点は一応認められるが,データ欠損国の態度を回帰
推定するために選んだ説明変数が主に地域グループだけである点は欠点と解さ
れる。次に,内容分析,回帰推定の結果得られた論争テーマヘの態度と投票行
動の関係の分析を行なっており,その結果,カ幌国の態度スコアーのメディア
ンが投票行動の説明の最良の指標となっているとする。即ち,加盟国の態度ス
コアーのメディアンの数値が採択される決議及ぴ条文の内容を現わしており,
この数値が投票行動の相違の基準となっているという。この点は決議案が一つ
の論争テーマから様成されている場合にはメディアンが投票行動の説明の一つ
の基準ともなり得ようが,決議案が複数の論争テーマから構成されるようた場
合は,それらの論争テーマのうち,どの論争テーマが投票行動に最も強い影響
を及ぼすのかが明らかでないかぎり投票行動の説明は困難に思われる。
3.本研究の枠組
本研究に於いては,投票行動の説明要因として,国家属性,委員会審議にお
ける論争テーマに対する態度の二種類を用いる。分析の第一段階の57の国家属
100
国連総会に於ける投票行動のタイポロジー的研究
性と投票行動の連関分析に於いては,カイ自乗検定α3〕,ケンドールのランク
相関係数,数量化1類の手法を用いて,投票行動に最も影響の強い国家属性の
発見を行ない,次に,この結果に基づき’投票行動への影響力の強い国家属性と
投票行動のタイポロジーの提示を行なう。このタイポロジーの提示は,前節で
述べたように従来の属性一投票行動の連関分析に於いては,投票行動への影
響力の強い国家属性を発見するだけで満足しており,いかなる属性を持つ国は
いかなる投票行動を行なうのがが不明であった欠点を改良するものであり,投
票行動の予測モデルに一歩近づかせるものである。分析の第二撰階としては,
委員会審議に於ける複数の論争テーマに対する各国の態度をまず質的内容分析
を用いて明らかにし,次に,属性一投票行動の連関分析に於いて用いたもの
と同じ3つの統計手法を適用して,論争テーマと投票行動の連関分析を行な
い,投票行動への影響力の強い論争テーマの発見を行なう。最後に,この結果
に基つぎ,複数の論争テーマと投票行動のタイポロジーの提示を行なう。従来
の研究では論争テーマに対する各国の態度抽出の方法として量的内容分析を用
いていたのに対し,質的内容分析を用いる理由は,第一に量的内容分析を行な
う際のカテゴリーのスコアー付けには問題が多いことであり,第二に,ここで
用いる分析手法はいずれも質的データの処理が可能であるということによる。
叉,従来の研究に於いては,投票行動への影響力の強い論争テーマを実証的に
発見するという視角が設けられて居らず,投票行動の予測もメディアンを指標
として行なうという初歩的な手法を用いているのに対し,3つの統計的手法の
適用による投票行動への影響力の強い論争テーマの発見・タイポロジーの提示
はこの欠点を改良するものであり,投票行動の予測モデルに一歩近づかせるも
のである点は先に述べた通りである。分析の第3段階は,第2段階に於いて投
票行動への影響力が強いとされた論争テーマと国家属性の関連性を先の3つの
統計手法を用いて行なう。分析の最後は,国家属性,論争テーマ,投票行動を
三位相的観点から捉え,タイポロジーの提示を行なうことである。この三位相
的観点からのタイポロジーの提示により,分析の第一段階,第二段階に於いて
投票行動\の影響力は強いとされた国家属性,論争テーマが何故影響力が強い
1O1
一橋研究第2巻第3号
のか,が明らかになる。ここに,従来の属性一投票行動の連関分析の枠組
に,論争テーマを媒介変数的に組み入れて,属性 論争テーマー投票行動
の枠組に改良した理由がある。
4.分析の結果
属性と投票行動の連関分析,属性と論争テーマの連関分析も終了している
が,本論文に於いては,論争テーマと投票行動の連関分析を行なう。分析の第
一段階として,21の論争テーマ(APPENDIX参照)のどのテーマの影響が強
いか,を発見するため,まずカイ自乗検定(有意水準10パーセント)とケンド
ールのランク相関舳を用いて,両者の間の一対一の関係を見てみることにす
る。表①より,「安全保障間題一般」「核兵器の便用禁止」「安全保障の義務化
問題」という非核兵器国の安全保障に関する3つの論争テーマは,いずれも投
表1
.・㌧ランク相関係数
第1条,第2条
○ 一〇.44
保障措置
0 −O.30
0 −O.30
0 −O.38
0 −O.27
原子力平和利用
平和核爆発の禁止
核軍縮
譲鰐使篇禁止
套」
蓑諾鷲奮化
三!一肌2、
核兵器の脅威の認知
新核兵器国出現
エンドース時期
多数国参加の必要性
潜在的核兵器国の参加
中国の参加
一層の改訂
レビュー会議
脱退項目
発効条件
有効期限
平和漢爆発の利益の提供
※ x2検定 有意一〇
102
○1 _O.31
X1
○! O・27
X i
×1
・1
0 −O.29
X
X
× 1
0 −O.37
X
国連総会に於ける投票行動のタイポロジー的研究
票行動への影響力は極めて弱いことがわかる。
次にカイ自乗検定とランク相関分析の結果,投票行動に影響を与えていると
された論争テーマの内,どの論争テーマが最も投票行動と関連性が強いかを見
るため,1対1の連関分析でなく,複数の論争テーマと投票行動との関連性を
同時に分析する数量化玉類の手法を用いて分析を行なった。分析結果の精度を
示す相関比の2乗は第1次元に於いて〇一67,第2次元に於いてO.39と極めて良
い結果が得られた。表2に於いて,投票行動への影響力の強さを示すそれぞれ
の論争テーマの偏相関係数を見ると,第1次元に於いて最も大きいものはr有
効期限」であり,2番目に大きいものは「平和核爆発の禁止問題」であり,以
下,rエソトース時期」r第1条・第2条,NPTの目的」「核兵器の脅威認知」
となっている。第2次元に於いては最も偏相関係数の大きい論争テーマは「核
兵器の脅威認知」であり,2番目には「有効期限」以下,「平和核爆発の禁止
問題」r保障措置問題」「原子力平和利用問題」となってい乱
表2一偏相関係数
第 2 次元
第 1 次元
有効期降
O.112
核兵器の脅威の認知
O.195
平和核爆発の禁止
O.111
有効期限
O.162
エンドース時期
O.107
平和核爆発の禁止
O.134
第1条,第2条
O.072
保障措置
O.n4
核兵器の脅威の認知
O.068
原子力平和利用
O.l13
保一障措置
O.047「
表3一道 中 率
賛成1棄権1反対対1
i
’㌔一
㌔。
賛成
㌔一.
㌧\
91.4%
98.1%
i86.O%)
i96.4%)
㌧一
76.9%
`一.一
棄権
■I
f㌔ ■㌔
一㌔
㌔ ㌔。
一一一一
\・..
ス対
I■』一 ■
i100.O%) o一■一
、し
七㌔
\ \.
\r
/擢二霧擬
103
一橋研究第2巻第3号
次に,この数量化I類の分析結果は投票に於ける賛成グルーブ・棄権グルー
プ・反対グループの,3つのグループを第1次元,第2次元それぞれに於いて
どの位の信頼度で識別しているかを見るため,3つのグループの適中率を計算
した。結果は表3の通りである。これによれば,第1次元に於いて,賛成投票
グループ91.4と棄権投票グループは91.4パーセント,識別可能であり,賛成投
票グループと反対投票グループは98・1パーセント・識別可能となっているが・
棄権投票グループと反対投票グループとの識別の信頼度は76・9パーセントとな
っており,前2者と比べ若干,その適中率は低い。そこで第2次元に於ける適
中率を見ると,賛成投票グループと棄権投票グループ,賛成投票グループと反
対投票グループの適中率は第1次元に於けるそれらよりは少し低いが,棄権投
票グループと反対投票グループの適中率は100パーセントとなっている。この
結果,第1次元に於いては,賛成投票一その他(棄権・反対)の識別がなさ
れ,第2次元に於いては,第1次元の補足として棄権投票一反対投票の識別が
なされていることがわかる。とすると,第1次元に於いて投票行動への影響力
が強いとされた論争テーマ「有効期限」「平和核爆発の禁止問題」「エンドース
時期」等は賛成投票一その他(棄権投票,反対投票)の識別に説明能力の高い
ものであり,第2次元に於いて影響力が強いとされた論争テーマr核兵器の脅
威認知」「有効期限」等は賛成投票以外の場合に於ける棄権投票一反対投票の
識別に説明能力の高いものということができる。
次に,数量化I類分析の結果,投票行動への影響力は強いとされた論争テー
マと投票行動とのタイポロジーの作成に移る。タイポロジー作成にあたって,
組み合わせの対象とする論争テーマとして,賛成投票とその他(棄権投票・反
対投票)との識別のために第1次元からは偏相関係数の大きい「有効期限」「平
和核爆発禁止問題」「エンドース時期」「第1条・第2条」の上位4つの論争テ
ーマを,棄権投票と反対投票の識別のために第2次元からはr核兵器の脅威の
認知」r有効期限」「平和核爆発禁止問題」の上位3つ(但し,r有効期限」「平
和核爆発禁止」は1次元の場合と重複)の合計5つを取り上げた。投票行動を
被説明変数,この5つの論争テーマを説明変数としてこの場合にも数量化I類
104
国連総会に於ける投票行動のタイポロジー的研究
の手法を用いて分析を行なった。
分析結果の精度を示す相関比の2乗を見ると第1次元に於いて,α658,第2
次元に於いてO.325と極めて良く,叉,先の分析に於いては説明変数(論争テ
ーマ)が10個で,相関比の2乗が第1次元に於いてO・669,第2次元に於いて
O.391であったのと比べると,説明変数を1O個から5個に減らしたにも拘わら
ず,分析の精度を示す相関比の2乗の大きさは第エ次元・第2次元ともに余り
下がっていない。このことから,この5つの説明変数で十分に投票行動は説明
不可能であり,叉,説明変数の個数を多少増やしてみても分析結果の精度は余
り変わらないということがでぎる。投票行動への影響力の強さを示す偏相関係
数は表4の通りであり,叉,賛成投票グループ,棄権投票グループ,反対投票
グループの3者の識別の可能性(信頼度)を示す適中率は表5の通りである。
表4 偏相関係数
■ 一
第1次元 i
O.1371 !
第 2 次元
核兵器の脅威の認知
O,285
有効期限
O.1291
有効期限
O.267
エンドース時期
O・120、
第1条,第2条
O.0951
平和核爆発の禁止
エンドース時期 一
O.067
核兵器の脅威の認知
O.059
第1条,第2条
O.017
平和核爆発の禁止
O.266
表5連中点,道中率
一 皿
」 一 一 L
賛成
算一次元 第二次元
し
賛成1棄権
\
\
一
O.335
O.821
(90.O%)
\
」 一 I一
「一一■
_\
棄権
1賛成棄権反対
反対
止 ^
賛成 \1(75.9%)(98.O%)
(98.O%)
㌔.1
■ I 一
! ド\. O.241
O.276
㌧
\㌔、 r O.453 0,066
棄権i \ (1帆O%)
(75.O%)
1 、.一 \
_ ._L干.㍗、_.\。
反対
山
」
\
\..
’\
一
.表5より第1次元に於いては先の数量化皿類分析の場合と同様に,賛成投票と
その他の投票(棄権投票・反対投票)の識別が高い信頼度を以てなされてお
り,第2次元に於いては,これも先の分析の場合と同様に棄権投票と反対投票
105
一橋研究第2巻第3号
の識別が高い信頼度を以でなされている。そこで,ある国が賛成投票を行なう
か否かの識別はその国の第1次元に於けるスコアーから理論的に判断すること
ができ・,第1次元に於けるスコアー計算の結果,賛成投票は行なわたいと判断
された場合には,第2次元に於けるその国のスコアーを計算すれば棄権投票か
反対投票を理論的に判断することができる。
図1
<カテゴリー・スコアー〉
《第1次元》 《第2次元》
設問1 有効期限
①不満あり
②〃なし
O.O O.O
O.5 0.5
設問2 平和核爆発の禁止
①反対
②留保つき支持
③賛成
0.O O.O
O.424 −O.388
0,465 −O.408
設間3 エンドース時期
①早期
②延期
設間5 第1条,第2条
①垂直的拡散防止
②水平的拡防,抜け穴
③〃 〃、十分
0.O O.O
−O.297 0.080
0.O O.O
O.284 −O.O04
0.189 0.O14
設間5 核兵器の脅威認知
①あり
②なし
0.O O.O
O.152 0.338
!」【…
1.岬国のスコトY
第1次元:Y≧O,821 ならば賛成投票
Y∠O.821 〃 棄権又は反対投失
第2次元:Y≦O.241 たらば棄権投票
Y∠O.241 〃 反対投票
図1は,平易に言えば,NPT案に対する5つの設問(r有効期限」r平和核
爆発禁止問題」「エソトース時期」「第1条・第2条」「核兵器の認知」)に対し
加盟国がいかに答えるかのか,ということから加盟国の投票行動を理論的に推
定しようとするもので,加盟国のスコアー(Y)は
Y=(設問①のカテゴリー・スコアー(C.S))十(設問②のC.S)十(設問③
のC.S)十(設問④のC.S)十(設問⑤のC.S)
の式で求められる。第1次元に於ける加盟国のスコアーがO.821よりも大きい
たらぱ賛成投票を行ない,O.821よりも小さいならぱ棄権投票のいずれかを行
なう。後者の場合は,更に第2次元に於ける加盟国のスコアーを計算し,その
l06
国連総会に於ける投票行動のタイポロジー的研究
結果のスコアーが0,241よりも大きいものならぱ棄権投票を行ない,O.241より
も小さいものならば反対投票を行なうと判断するものである。
図1に基づいて,5つの設問に対する解答の,考え得る全ての組合せのスコ
アーを第1次元・第2次元の双方に於いて計算し,投票行動と論争テーマのタ
イポロジーを示したのが図2である。このタイポロジーの信頼度は,90.Oパー
セントである。図2に於いて論争テーマと投票行動の20のタイプが示されてい
る。その一部を記すと次のようになる。
図2一宮
NO有効期限へ YES
図の不満はあ
2一⑥◎ るか?
へ
YES 平和核爆発 N0
の禁止に反
対か?
N0 核兵器の脅 YES YES 核兵器の脅
威を認知し 威を認知し
ているか? ているか?
N0
早期エンド
N0
一ヌを支持
するか?
NO 1条・2条は水平的
拡防で良いが抜け
穴があるか?
YES
棄権投票
反対投票 賛成投票
107
一 橋 研 究
第2巻第3号
図2一⑮
YES
図
2
有効期限へ
の不満はあ
NO
るか?
⑤
へ
反村
平和核爆発
の 禁 止
賛成
一一一一 。図2一⑥へ
留保つき支持
N0
早期工ンドー
YES
ヌ支持か?
早期工ンドー
ヌ支持か?
YES
Y正S
1条,2条は垂
直的拡防を含
むべきか?
N0
N0
核兵器の脅
威を認知し
ているか?
ユ条,2条
垂直
水平
抜け穴
N0
核兵器の脅
威を認知し
ているか9
YES
棄権投票 賛成投票
(1)
反対投票
棄権 投票
有効期限に不満がある場合
タイプ① 平和核爆発の禁止に反対であるが核兵器の脅威の認知のない国
は棄権投票を行なう。
タイプ② 平和核爆発の禁止に反対で,かつ核兵器の脅威の認知のある国
は反対投票を行なう。
(2)有効期限への不満の表明がない場合
タイプ① 平和核爆発の禁止に賛成であり,条約の早期工ソトースを支持
108
国連総会に於ける投票行動のタイポロジー的研究
図2一(o)
YES
図
2
有効期限へ
の不満はあ
NO
るか?
⑤
へ
平和核爆発の
禁止を支持す
るか?
NO
→図2一⑤へ
YES
YES
早期工ンドー
ヌを支持する
か?
NO
N0
1条,2条は
垂直的拡防を
含むべきか?
YES
賛成投票 棄権投票 反対投票
するならば賛成投票を行なう。
タイプ② 平和核爆発の禁止には賛成であるが,条約の早期工ソトースに
反対,かつ条約の目的を核兵器の水平的拡防に限定するのに反
対であるが,核兵器の脅威の認知がないならば棄権投票を行な
う。
最後にこれらのタイポロジーの特徴について述べることにする。先ず,「有
効期限」と「平和核爆発の禁止問題」の2次元に於いて賛成投票・棄権投票・
109
一 橋 研 究 第2巻第3号
表6 2次元タイポロジー
〈平和核爆発禁止〉
〈 賛成■留保.反 村
有
効 不満あり 賛成・反対 棄権・反対
期
限
〉
不満たし 賛成・棄権・反対 賛成・棄権
表7 有効期限に不満のない場合
〈平和核爆発の禁止〉
禽
1
賛成1留保
条 垂直的拡防
棄 権・反 対
第 水平的拡防抜け穴
賛 成
2
条水平的拡防十分
〉
賛 成 一一一一
賛成・反対
反対投票のいずれを行なう可能性が残っているかについて見てみる(妻6参
照)。第1に有効期限に不満があり,且つ平和核爆発の禁止に対して反対であ
るならば,賛成投票の可能性はなく,棄権投票か反対投票のいずれかを行な
う。これに対し有効期限に不満はあるが平和核爆発の禁止に対して留保の有無
を問わず賛成であるならば棄権投票を行なう可能性はなく,賛成投票か反対投
票のいずれかを行なうという差異のあることが認められる。第2に,有効期限
への不満表明がなく,平和核爆発の禁止に対し留保の有無を間わず賛成である
場合には賛成投票・棄権投票・反対投票の3つの可能性が残っているのに対
し,有効期限への不満表明はないが,平和核爆発の禁止に反対であるならば反
対投票の可能性はなく,賛成投票か棄権投票のいずれかを行なう。先に述べた
有効期限に不満があり平和核爆発の禁止に反対である国は棄権投票の反対投票
を行なう,ということと,このことを比較すると・平和核爆発の禁止に反対で
ある国は,有効期限への不満の有無により,賛成投票,反対投票のそれぞれを
行なう可能性がなくなるということになる。次に表7を参考に平和核爆発の禁
止に対しての留保つぎの賛成か,留保なしの賛成か,という態度の違いによる
投票行動の相違に焦点を合わせると,有効期限への不満のある場合には,留保
110
国連総会に於ける投票行動のタイポロジー的研究
の有無による投票行動の違いは見られないのに対し,有効期限に不満表明のな
い場合には両者の間に相違が認められる。即ち,平和核爆発の禁止に対して留
保なしの賛成の場合,第1条・第2条のNPTの目的に関して,核兵器の水平
的拡防に限定することに賛成ならぱこの点に関しての抜け穴の有無を間わず賛
成投票を行なう。これに対して,平和核爆発の禁止に留保つきの賛成の場合,
第1条,第2条のNPTの目的に関して,核兵器の水平的拡防に限定すること
に賛成であるが,この点に関し抜け穴はなく,現在のNPT案でこの目的は十
分に達せられると判断するならば,今尚,賛成投票か反対投票かのいずれかを
行なうという2つの可能性を残している。(未完)
<付記>
データ処理に際し,一橋犬学産業経営研究所の計算機室の方々にお世話にな
った。記して感謝の意を表したい。
APPENDIX
内容分析の論争テーマとカテゴリー
(1)第1条・第2条一NPTの目的
①核の垂直的拡散の防止が必要
② 核の水平的拡散の防止が必要,但し抜け穴あり
③核の水平的拡散の防止,満足的
(2)第3条一保障措置の範囲
①広すぎる ②拡大すべき ③満足的
(3)第4条一原子力平和利用の権利
① 不十分 ② 十分
(4)第5条一平和核爆発の禁止
①反対 ②留保つきの支持 ③賛成
(5)第6条一核軍縮
① 不十分 ② 十分
(6)非核兵器国の安全保障一般
①不十分・不満足 ②不十分だが止むを得ない ③
十分・満足的
(7)核兵器使用禁止の要請
① あり ② なし
(8)核兵器国による非核兵器国安全保障の義務化要請
① あり ② なし
111
一橋研究第2巻第3号
(9) 業務のバランス
①欠如・不平等 ②不平等であるが条約に生来的なもの ③適切
(1O)核兵器の脅威の認知
① あり ② なし
(11)新榛兵器国の早期出現の可能性
①大き’い ② 小さい・指摘なし
(12) エンドース時期
① 早期,現在の総会に於いて ② 延期
(13)条約への多数国参加の必要性
①指摘あり ②指摘なし
(エ4)条約への潜在的核兵器国参加の要請
①あり ② なし
(15)条約への中国の参加の要請
①あり ② なし
(16)NPT案の一層の改訂の要請
①あり ② なし
(17) レビュー会議への期待
①大きい ② 小さい・指摘なし
(18)脱退項目への不満
① あり ② なし
(19)発効条件への不満
① あり ② なし
(20)有効期限への不満
① あり ② なし
(21)平和核爆発の利益の提供の保障
①十分・満足的 ②不十分・不満足
(駐)
(1) Alker,H.R.、Jr.“Dimensip011s of Confltct in tlle Geneml Assembly,”
λme〆。αm・Po’κゴ。α∫5αence Re〃em,vo1.58,PP.642−657,(1964)
(2) E11is,W.W..and Sa1zberg,J.,“Africa and the U.N..”λm〆。m
疵此m伽〃∫c伽舳.vo1.8,PP.30−32、(1965)
(3) Villcent,J.1≡:.,‘‘Predicti−1g Voti−1g Pattems in tlle Geilem1Agsembly,”
λme〆。刎戸θ〃加。〃Scわme灰mわω,vol.15、叩.471−498,(1971)ヴィンセン
トにはこの論文の他,多くの属性投票行動の連関分析の論文がある。主要なもの
は“The Convergence of Voti皿9and Attitude Pattems at the United
112
国連総会に於ける投票行動のタイポ回ジー的研究
NatioIls,”ル〃m’ρアρo〃〃。5,vol.31,pp.952−983,(1969),“AIl Applioation
of Attribute Theory to Genera1As馳mbly Voting Pattems,and Some
I町1icati㎝s,”〃〃加地m0榊地ακo汎可。I.26,PP.551−582,(1972)
(4) 投票行動パターンはA1ker,H.R.,Jr.and Russ砒,B.M.,Wb7〃戸θκκc∫
加肋e Cemm’^5em〃ツ(1965)からの引用である。
(5)Moo爬,D.W、,“Rep舵dicti㎎Voti㎎pattems in the General Asse−
mbly,”∫励emσκθm’8m〃e5ρ〃〃まe〃y,vol.19,pp.199−211,(1975)
(6) この批判に対し,ヴ4ンセントは反論を行なっている。Vi皿。e皿t,J.E.,“Rein−
te叩reting‘Rep爬dicting Voting Pattems in the General Ass6mbly’.”
∫n’e7nακθnα’ ∫チ〃’e5 (;””〆e7’ツ,vol.20,pp.225__330,(1976)
(7)佐々木伸失.「国連総会における投票行動の分析」,外務省調査月報,vo1.14,
1→1頁,1973年
(8)この種類の一連の海洋法研究はt止e C㎝ter for NavaI A皿alysesの海洋
法プ回ジェクトによってなされている。このプロジェクトの最新の研究報告は
Dwch,W.J、,“I㎡omati㎝Pmcessi㎎and Outcome For㏄asti㎎for
Multilateral Negotiations’Testi血9011e A叩roach,”ISA,クψ〃5,(1977)
但し・この論文の目的は従来のプロジェクトの行なった内容分析の信頼性・スコ
アーの信頼性のテスト報告にとどまっている。
(g) Friedheim,R・L・,“T11e‘Satisfiod’a皿d‘Dissatisfied’States Negotiate
IIltemational Law,A Case Study,” Wb7〃Poκκc5,vol.18,pp.20一一41,
(1967)フリードハイムは国連海洋法会議の投票行動パターン分析も行なってい
る。“Factor Analysis as a too1in Studying th6Law of the Sea”,i皿
Aloxander,L.M.(ed.)〃e Zωθグ肋e5m,pp.47−70,(1967)
(lO) Friodheim,R.L.,Kad加e,J.且,a皿d Gamble,J.K,Jr.,“Q皿a皿titative
CoI1teI1t AIlalysis of tho U−1it6d NatioIls Soabed Debate j MetI1odology
a皿d a CoI1tinentaI Shelf Case,’!エ〃〃m2〃θm一’078”n杉σ〃m,vo1.24,pp.479
−502,(1970)
(ll) Fried11eim,R.L.,a11d Kad舳e,J.B.,“0cean Science i皿the UN
Political A祀Ila,”力〃〃’θグMα〆〃me工”m m6Cθmm〃。e,vo1.3,pp.473
−502,(1972)
(12) 13の地域グループとは・東欧・ラテン・アメリカ・西欧・アフり力・アジア・
海軍国,ヨーロッパ中立国,アラブ,漁業国,スカンジナビア,英連邦,条約
国,内陸国である。
(13)数量化貫類については,林知己夫,村山孝喜「市場調査の計画と実際」1964
隼。
(14) カイ自乗検定の結果,投票行動と関係があるとされた論争テーマのみ,ランク
ユ13
一 橋 研 究 第2巻第3号
相関係数を求めた。
(筆者の住所:武藏野市吉祥寺南町3−24−5
114
さつき荘 10号)
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