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ABPM も含めたアスペルギルス症における抗真菌薬の可能性

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ABPM も含めたアスペルギルス症における抗真菌薬の可能性
80( 80 )
THE JAPANESE JOURNAL OF ANTIBIOTICS 58—1
Feb.
2005
特別講演
ABPM も含めたアスペルギルス症における抗真菌薬の可能性
前 繁文
埼玉医科大学 感染症科・感染制御科
ABPA は感染症ではないと思っていますので ,
Aspergilloma,それから ABPA に分けてあります。
最初にこの話をいただいた時に ,ABPA の話はで
侵襲性肺 Aspergillus 症では Itraconazole を維持療法
きませんと実はお断りしようと思っていましたの
として推奨しています。Aspergillomaでは外科手術
で ,感染症としての Aspergillus 症から話したいと
が基本ですが ,内科的な治療薬は Itraconazole を推
思います。ABPA の基本的な治療は Steroid で ,積
奨しています。ABPA では Steroid の減量に有用で
極的に抗真菌薬で治療することはおそらくないと
あるとされています。
思います。しかし,Itraconazoleを ABPAの治療に
こちらは日本のガイドラインにおいて肺
用いる症例もたしかにあります。実際には,ABPA
Aspergillomaでは外科治療が第一選択ですが,その
より感染症としての Aspergillus 症で困っているわ
他の治療として Itraconazole 200⬃400 mg の経口投
けです。侵襲性もアスペルギローマも難治性です。
与をします。ただし400 mgは保険適用外になりま
血液内科の侵襲性肺 Aspergillus 症は ,ABPA より
す。その他では Amphotericin B や Micafungin の点
も予後不良の疾患です。今日は Itraconazole と As-
滴静注を行います。Micafungin の投与量にはまだ
pergillus 症の関わりや位置付けについて少しお話
まだ議論があると思いますが,一応,150⬃300 mg
をさせていただいて ,最後は新薬についてもお話
としています。Amphotericin B の投与量は 0.75⬃
します。
1.5 mg/kg を推奨しています(図 1)
。
Aspergillus 症は非常に面白い真菌症です。Aspergillus は生体側の反応によっていろいろな病態
Itraconazoleの高用量投与については確かに有効
例もありますが ,少し注意が必要です。
を起こしてくるのです。慢性壊死性肺 Aspergillus
300 mg投与3例,400 mg投与5例でAspergilloma
症についてはアスペルギローマの一時系列という
の治療を試みました。症例は高齢者が多く 70⬃80
考えもあります。真菌症フォーラムの中のフロー
歳台がほとんどです。
チャートでは,呼吸器内科領域は,肺Aspergilloma
と侵襲性肺 Aspergillus 症に分けています。血液内
科領域では侵襲性肺 Aspergillus 症と非血液内科領
域の侵襲性肺 Aspergillus 症の三つの疾患態しか取
り上げていません。まずは ,呼吸器内科領域の
Itraconazoleの位置付けを考えます。IDSAのガイド
ラインと本邦の真菌症フォーラムのガイドライ
ン,さらにヨーロッパではEORTCと呼ばれる癌を
中心としたグループのガイドラインがあります。
IDSA のガイドラインでは Aspergillus 症を侵襲性 ,
図 1. 肺アスペルギ ローマ
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第 9 回 東京呼吸器真菌症研究会
表1. アスペルギローマにおける高用量ITCZ
投与群の血漿中濃度
図2. 侵襲性アスペルギルス症(①肺,②副鼻
腔 ,③中枢神経)(血液内科)
さらにAspergillomaは消耗性疾患のため,低体重
本邦のガイドラインでは ,血液内科領域に予防
例が多くなるため体重あたりの投与量が多くなる
投与という項目があります。予防投与では
症例もあります。そのような症例ではItraconazole
Itraconazole の経口投与が推奨されます(図 2)
。さ
の血中濃度が高くなる可能性があります。我々の
らに経験的治療では Itraconazole 200⬃400 mg の高
症例では高い症例では 3700 ng/ml となり安全性の
用量投与を推奨します。標的治療ではItraconazole
問題が生じてきます(表 1)
。Itraconazole の血中濃
の単独では無理かと思います。Amphotericin B の
度は1000 ng/ml以上あれば有効と考えますが,3000
1.0⬃1.5 mg/kg/day に Itraconazole の 経 口 投 与 ,
以上になると安全性の面でも注意しなければいけ
Flucytosine の経口投与を併用投与する治療法だと
ません。実際に心不全あるいは骨髄抑制,蛋白尿な
思います。もう一つは,Micafunginの150⬃300 mg
どの副作用を認めました。しかし,全てこれは可逆
というような投与です。このようなことが書いて
的なものですので ,投与を中止しますと全て改善
あります。
しました。また,投与期間からみても1ヶ月以上の
呼吸器内科領域の侵襲性肺 Aspergillus 症いわゆ
長期投与で安全性の問題が起こることもありま
る慢性壊死性肺 Aspergillus 症に ,既存に何らかの
す。また,臨床検査値の異常では血清カリウムの変
Aspergillus症があり,その他の免疫不全を伴って,
動を認めます。その他,蛋白尿などの腎障害も経験
Aspergillus 抗原が陽性を示し ,さらに臨床症状や
されました。
炎症反応が明らかな症例となります。標的治療に
ガ イ ド ラ イ ン で は Aspergilloma に 関 し て は
Itraconazoleの内服をIDSAでも推奨しています。本
邦でも同様に Itraconazole の内服を推奨しますが ,
は Amphotericin B の点滴静注と Flucytosine 経口投
与を併用します(図 3)
。
次の Itraconazole の位置付けは ,抗真菌薬との併
できれば高用量を投与していただきたいと思いま
用と考えます。Aspergillus の臨床分離株に対する
す。Apergillomaでは有効な投与量として300 mgぐ
試験管内の併用効果を検討した結果 Amphotericin
らいは必要ではないかと思います。その際には一
B を中心とした Amphotericin
度血中濃度をきちんと確認していただき,投与1ヶ
Amphotericin B と Itraconazole などの併用で効果を
月後には安全性と有効性をご確認いただきたいと
認めました。試験管内での投与順をかえることに
思います。侵襲性肺 Aspergillus 症では維持療法と
よってAmphotericin Bを先に投与すると相乗,相加
して Itraconazole の内服は有効と考えます。
効果が増強されますがItraconazoleを先に投与する
B と Fluconazole,
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図 3. 侵襲性肺アスペルギルス症(呼吸器内
科)
図5. Micafunginと各種抗真菌薬のAspergillus
fumigatus株における併用効果(同時投与)
図4.
図6. Micafunginと各種抗真菌薬のAspergillus
fumigatus株における併用効果(micafungin
先行投与)
臨床分離A. fumigatus株における抗真菌
薬の併用効果(同時)
と拮抗作用を認めます(図 4)
。併用効果の時間差
最後は,ABPA に対するItraconazoleの位置付け
投与をマウスモデルで検討したデータでは
です。長崎大学の第二内科で経験された ABPA 症
Itraconazole を先に投与し ,次に Amphotericin B を
例の平均年齢は36歳で男と女が7人ずつ合計14人
投与した併用において効果が増強されました。
でした。1例目はAspergillomaを併発したABPA症
Micafungin と Itraconazole の併用では Aspergillus の
例です。粘液栓を認め,それからAspergillus属が培
臨床分離株に対して最も併用効果を認めた薬剤は
養 さ れ IgE も 非 常 に 高 値 で す 。 肺 部 CT で は
Amphotericin Bでした。Itraconazoleも一部の菌株で
Aspergillomaの菌球を認め,同様に浸潤影と中枢性
相乗効果を認めました。このように作用機序の異
の気管支拡張像が確認されました。
なる薬剤であれば併用も検討されるべきだと思い
2 例目は 33 歳の女性で ABPM の症例です。スエ
ます(図 5)
。Micafungin を先行投与して ,その後
ヒロタケの IgE が陽性を示し喀痰からスエヒロタ
Itraconazole としますと ,Amphotericin B の先行投
ケが培養されました。さらに Aspergillus 沈降抗体
与より優れた併用効果を認めました。実際の臨床
は陰性で ,好酸球 ,IgE が高値を示しました。
例では検証は難しいかもしれませんが ,
長崎大学の症例では喘息は88%の症例に認めら
Micafungin を先に投与してから Itraconazole を投与
れ,全例好酸球増多を認めました。即時型皮内反応
する方が ,逆よりも良いと思います(図 6)
。
も全例陽性でIgE高値,胸部X線の浸潤影も全例に
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認めました。沈降抗体は30%で陽性を示し中枢性
に淡い浸潤影を認めました。胸部CTでも空洞の周
気管支拡張症も 60% 認められました。さらに 60%
辺に浸潤影を認め ,発熱や炎症反応も認めており
の症例に粘液栓を認め ,合併症には喘息を 1 例 ,
ます。Micafungin の治療により浸潤影は著明に改
Aspergilloma を 1 例認めました。
善しました。
治療の第一選択は抗真菌薬ではなくSteroid薬で
次の症例は肺がんに Aspergillus 症を合併してお
2週間で5 mgずつ減量していました。IgEを再発の
り,MicafunginとItraconazoleの併用を行いました。
目安としており ,Steroid 依存性の重症例には
Micafungin 一日 150 mg を 77 日間投与し ,その後は
ItraconazoleがSteroid薬の減量に有効な症例も認め
Itraconazole 200 mg の単独投与で外来経過観察と
ました。
なりました。
その他の報告では ABPA の治療に対してステロ
胸部 X 線では右上肺野に空洞性病変とその周囲
イド薬の併用において Placebo に比べると有意差
の浸潤影を認めます。空洞性病変はあまり変化を
をもってItraconazole投与群が優れていたとの報告
認めませんが ,周辺の浸潤影は著明に改善しまし
があり ,IgE も Itraconazole 投与群がより低下した
た。
と 報 告 さ れ て い ま す 。 Itraconazole の 投 与 量 は
これは Aspergillus 肝膿瘍の症例です。この症例
400 mgを16週間投与されており,本邦では保険上
では Micafungin と Amphotericin B の併用投与を行
の問題があります。
い ,治療前に5.0 C.I. と高値を示したガラクトマン
別の報告でも ABPA に対する Steroid の減量ある
ナン抗原は治療によって 2.1 C.I. まで改善しまし
いは急性増悪の改善は Itraconazole 投与群におい
た。しかし,原疾患の治療の目的で肝部分切除術が
て,より優れておりました。Prednisoloneの平均一
施行されました。
日あたりの投与量やあるいは喘息の発作も有意差
をもって少なくなると報告されています。
Voriconazole は国内の第 3 相試験の結果では
Aspergillus 症 に 対 す る 有 効 率 が 68.2% で し た 。
Aspergillus 症に対する新たな抗真菌薬のことに
Aspergilloma が 18 例中 14 例 ,77.8% の有効率を示
ついてお話します。一つは新しい Triazole です。
しました。侵襲性肺Aspergillus症では16例中10例
VoriconazoleはAspergillus症にも優れた効果を示し
で 62.5%,慢性壊死性肺 Aspergillus 症は 5 例中 3 例
ます。その他ではPosaconazole,Itraconazoleの点滴
で 60% でした。
静注などが期待されます。
(1Æ3)-b -D-glucan合成酵
Aspergillus 症の今後の治療薬として内科領域で
素阻害剤薬はご存知のとおり Micafungin が一昨年
はこの三つの柱があります(図7)
。Amphotericin B
の12月に上市されました。その他ではAmphotericin
脂質製剤はAmphotericin B以上の抗真菌活性,ある
B 脂質製剤がありここ数年の間に実際に臨床で使
えるようになる可能性があります。
Micafungin の有効例を示します。症例は 73 歳の
男性です。肺気腫の急性増悪に対して各種の抗菌
薬を投与しましたが ,無効なため Aspergillus 症を
疑いました。ガラクトマンナン抗原やPCR検査は
陰性でしたが抗体が陽性となったため Micafungin
一日 150 mg の点滴静注を開始しました。
胸部 X 線では左肺に空洞性の病変があり ,周囲
図 7. アスペルギルス症に対する新たな治療
の可能性
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いは臨床効果は期待できませんが ,安全性が高く
どシークエンシャルに Amphotericin B と Itracona-
なりますので使いやすくなります。Itraconazoleや
zole をやった時に ,そのほうが相乗効果があるだ
Voriconazole はこれまでのアゾールと基本的には
ろうということですが ,実際の薬剤の投与法はど
同じアゾールですので ,どこまでそれが打破する
のようにしたら良いのでしょうか・・・・・
ことができるかどうかだと思います。
【答】 実際には先ほど言いましたように血中濃
Echinocandinsは米国ではCaspofunginが使用されて
度の関係から言うと ,初回投与では適応されます
いますが日本では Micafungin がおそらく今後の主
が,2回目以降が問題となります。例えば同時投与
流 か と 思 わ れ ま す 。 米 国 で は Aspergillus に は
で効果が不充分なとき Amphotericin B を先に点滴
Voriconazole が第一選択になるのではないかと言
静注してからItraconazoleを投与するなどの工夫も
われています。Candida 症は Caspofungin が第一選
されてみたら良いかもしれません。
択 で す 。 お そ ら く 日 本 で は Micafungin,
【問】 素晴らしい講演をありがとうございまし
Voriconazole,ItraconazoleをAspergillus症の治療に
た。一つ教えていただきたいのは,ATLで肺野病
どう使い分けていくかが今後の重要なポイントだ
変がある私の患者さんについてです。最終的には
と思います。
肺にも Aspergillus がついたのですが ,椎体や皮下
にアブセスが出来て ,吸引してみたら Aspergillus
【質 疑 応 答】
でしたので ,Micafungin,Amphotericin B,Itraconazole を使ったのですがやはり効かなくて ,局
【座長】 前崎先生どうもありがとうございまし
注を試みました。先ほど先生が局注しても大きく
た。ABPAを含めましてAspergillus全般に関して, なるからと言われていたのですが ,その辺のこと
現在の治療を主にお話いただきました。ご質問ご
意見をいただきたいと思います。
について教えていただきたいと思います。
【答】どのような病態でも,感染部位に薬剤が到
【問】 非常に参考になるお話をありがとうござ
達しなければ無効です。その場合は外科的に除去
いました。先生は ABPA は感染症ではないとおっ
することが原則です。内科的治療では多分無理だ
しゃられましたが ,抗原を除去するということで
と思います。局所療法についてはAspergillomaの治
は意味があるように ,感染症の一つと私は思って
療に応用されますが ,局所療法は継続することが
い ま す 。 私 の 患 者 さ ん で も 最 初 は ABPA で
困難なため,中止すると再発します。そういう意味
Itraconazoleだけ投与した患者さんがいます。それ
で根治的な治療にはならないと思います。血痰や
まで山のように薬を飲んでいたのですが ,全部
発熱などの臨床症状があるときは局所療法も有効
切って。入院中はピークフローが下がりまして,非
な症例がありますが ,根治的な治療にならないと
常に良くなりました。退院後,数日してたまたま風
思いますので,Aspergillomaでは早く手術をした方
邪を引いたのをきっかけに少し悪くなったので , が良いと思います。それから,やはり局所療法は高
Steroid を少し併用したという経緯があります。経
濃度の薬剤と接触するために耐性菌を生みやすい
口 Steroid もそうですが ,抗真菌薬を併用する ,
方法です。
Itraconazoleを併用するということで非常に患者さ
【問】 薬剤の投与経路ということで ,先ほど
んから良くなって感謝される。そういった意味で
ABPA,ABPMに対してSteroidの吸入療法が良いの
は非常に QOL が上がるということだろうと思い
ではないかというお話がありました。ABPA など
ます。先生に一つ教えていただきたいことは,先ほ
に対する真菌薬の吸入療法のようなものの可能性
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は期待できるものなのでしょうか。
【答】 多分そこまで移行しないと思います。
いうものが院内感染のもとになっています。
【座長】 今日は ABPM に対する抗真菌薬という
Amphotericin B の吸入が予防投与として施術され
ことなのですが ,先ほど病理のほうの所見からす
ますが ,有効性を検証することは非常に難しいと
ると,真菌は粘液栓子の中にいて,あまり肺の中に
思います。やはり血流を介して抗菌薬を感染巣に
はいない。今の先生のお話しで血流を介して薬が
到達させることが原則と考えます。
そこに行かないと抗菌薬は効かない。そうすると,
【問】先ほど,Aspergillusが院内感染をすること
例えばABPA に対するItraconazoleの使用に関して
があると言われましたが ,そうするとうちの病院
は,200 mgの用量では非常に不安だと。そういう
などは大変なことになってしまいます。例えばど
立場から抗真菌薬の使い方に関してコメントをい
のような事例でどのような頻度で起こるのでしょ
ただきたいと思います。
うか。
【答】 移行性の問題から考えると 200 mg では無
【答】 一番多いのは建築工事です。建築工事は
理かと思われます。ただ,400 mgに増量しても血
Aspergillus 症の危険因子になります。病院の近く
流が全く無い所では無理だと思います。ABPA で
で工事していても危険因子になります。当院でも
も胸部 X 線で浸潤影を認めれば ,感染を併発して
改修工事の前後でガラクトマンナン抗原を測定す
いるのではないかとも考えられます。そのような
ると明らかに工事の後にガラクトマンナン抗原が
症例はいわゆる慢性壊死性肺 Aspergillus 症に近い
上昇しておりました。その他 Aspergillus は水から
病態と考えられ ,抗真菌薬が有効となることもあ
も感染します。水に入っている Aspergillus の胞子
ると思います。
を誤嚥して,そしてAspergillus肺炎が発症します。
他には,階段の人の行き来や服についた胞子,そう
【座長】 先生,どうもありがとうございました。
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