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女性性受容・月経観と月経困難症の関連
日心第71回大会 (2007) 女性性受容・月経観と月経困難症の関連 ○打波祐子1・三輪珠美1・野村忍2 ( 早稲田大学大学院人間科学研究科・2早稲田大学人間科学学術院) Key words: 月経困難症,月経観,女性性受容 1 目 的 月経の周期的な到来は成熟した女性であることの証である とみなされ,自身の健康の指標ともなる。しかし,月経期間 中に身体的・精神的不調を訴える女性は少なくない。しかし ながら,薬物療法を選択する女性は多いとは言えない。多く の女性は「我慢する」という対処をとっていることが報告さ れている(有村・岩本,2005)。そのため,薬物療法以外の選 択肢を広げることは重要な課題であるといえる。心理的要因 を探る研究は数多くなされているが,統一した見解は出てい ないのが現状である。医療・教育領域では,月経を女性性受 容の課題とする見方がされ始めている(河野,2000)が,女 性性の受容との関連の検討はまだ少ないと言える。海外では 月経随伴症状に付随する認知に介入することで効果を挙げて いる(Blake,Salkovskis,Gath,Day,& Garrod,1998)。ま た,本邦においても野田(2003)により,月経観と月経周辺 期の症状との関連が検討されている。しかし,月経の捉え方 と症状との関連は検討されているが,女性性の受容も含めて 検討している研究は少ない。よって,本研究では女性性受容, 月経観と月経困難症との関連を探索的に検討することを目的 とする。本研究の意義としては,月経困難症に対して,月経 教育や女性性の受容に対する心理教育的アプローチの可能性 を提示できることに意義があると考える。 方 法 調査時期 2005 年 10 月下旬から 11 月上旬にかけて,調査用 紙を配布。口頭で教示をする際,インフォームドコンセント を十分に行った上で実施した。 対象 女子大学生 228 名(有効回答率 84.44%,平均年齢 20.36 ±1.90 歳)を分析対象とした。 調査材料 ①フェイスシート(年齢,月経周期日数,月経持 続日数,初経経過年数)②月経随伴症状日本語版(Menstrual Distress Questionnaire;以下 MDQ とする;秋山・茅島,1979) : 「痛み」, 「集中力」, 「行動の変化」, 「自律神経失調」, 「水分貯 留」,「否定的感情」,「気分の高揚」,「コントロール」,「その 他」の計8因子 46 項目4件法。③女性性受容尺度(鈴木, 2001) : 「母性」, 「消極的女性性受容」, 「女性の身体受容」, 「中 核的受容」の計4因子 20 項目6件法。④月経観尺度(野田, 2001) : 「衰弱」, 「厄介」のネガティブ因子と, 「影響の否定」, 「自然」のポジティブ因子がある。4因子 13 項目5件法。 結 果 MDQ と女性性受容尺度,月経観について Pearson の積率相 関係数を求めた。女性性受容「女性の身体受容」とは MDQ の「集中力」(r=-.14,p<.05), 「気分の高揚」(r=.16,p<.05) で有意な相関が見られた。月経観ポジティブ因子「影響の否 定」とは MDQ の「痛み」,「集中力」,「行動の変化」,「自律 神経失調」,「水分貯留」,「否定的気分」,「コントロール」, MDQ 合計得点で有意な中程度の負の相関(r=.-21~.44,p<.01 または p<.001)が見られた。月経観ネガティブ因子の「衰弱」 とは「痛み」, 「集中力」, 「行動の変化」, 「自律神経失調」, 「否 定的気分」, 「行動の変化」,MDQ 合計得点で有意な中程度の 正の相関(r=.27~.39,p<.001)が見られた。また「厄介」にお いて「痛み」, 「集中力」, 「行動の変化」, 「否定的感情」,MDQ 合計得点で有意な弱い正の相関(r=.14~.18,p<.01 または p <.05)が見られた。 次に,MDQ の各因子および MDQ 合計得点を従属変数,従 属変数と相関のあった変数を独立変数とし,探索的に影響関 係について検討するために,ステップワイズ法による重回帰 分析を行なった。「痛み」に対しては月経観の「影響の否定」 (β=-.39,p<.001)と「衰弱」(β=.21,p<.001)が投入された。 「集中力」に対しては「衰弱」(β=.31,p<.001)と「影響の否 定」(β=-.31,p<.001)が投入された。「行動の変化」に対し ては「影響の否定」(β=-.37,p<.001)と「衰弱」(β=.27,p <.001)が投入された。「自律神経失調」に対しては「影響の 否定」(β=-.30,p<.001)と「衰弱」(β=.20,p<.01)が投入さ れた。 「水分貯留」に対しては「影響の否定」(β=-.25,p<.001) のみ投入された。 「否定的感情」に対しては「影響の否定」(β =-.31,p<.05)と「衰弱」(β=.27,p<.001)が投入された。 「コ ントロール」に対しては「衰弱」(β=.27,p<.001)と「影響 の否定」(β=-.14,p<.05)が投入された。MDQ 合計得点に対 しては「影響の否定」(β=-.36,p<.001)と「衰弱」(β=.29, p<.001)が投入された。 考 察 本研究により,月経困難症と月経観の関連が示唆された。 特に,ポジティブな月経観のうち, 「自然」との関連は見られ ず, 「影響の否定」との関連が見られた。このことから,月経 による症状と月経観の相互関係が考えられる。症状が強いも の程月経に影響されていると感じる,または影響されている と感じるために症状を強く認識しやすいといった双方向の関 係が考えられる。また,ネガティブな月経観とも関連が見ら れた。このことからも症状の自覚と月経の捉え方の相互関係 が推察される。本研究の目的は女性性受容も含めた検討であ ったが,女性性受容との関連は見られなかった。女性性の受 容という観点ではなく,月経の捉え方に重きを置いた研究が 重要であると考えられる。月経観と症状の関連をより詳細に 検討し,介入を視野に入れた研究が望まれる。また,今後は 因果関係の検討を視野に入れていくことが必要であると考え られる。 引用文献 有村信子・岩本愛子 2005 女子短期大学生の月経痛と彼ら のソーシャル・サポート 鹿児島純心女子短期大学研究紀 要 35,43-52. Fiona Blake,Paul Salkovskis,Dennis Gath,Ann Day,& Adrienne Garrod 1998 Cognitive therapy for premenstrual syndrome : a controlled trial Journal of Psychosomatic Research 45(4),307-318. 河野友信(編) 2000 思春期心身症の臨床 株式会社医薬 ジャーナル社. 野田洋子 2003 女子学生の月経の経験第 2 報月経の経験の 関連要因 日本女性心身医学会雑誌,8(1),64-78. (UCHINAMI Yuko, MIWA Tamami, NOMURA Shinobu )