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今月の月刊レポートDIO

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今月の月刊レポートDIO
第27巻第11号通巻298号
連合総研レポート
2014年11月号
No.
298
DATA資料 INFORMATION情報 OPINION意見
CONTENTS
特集
人口減少下の地域とくらし─変わる福祉サービス
人口減少・高齢化と地域ケアの課題
沼尾 波子 …………………4
人口減少社会における地域と保育サービス
大石 亜希子 ……………8
寄稿
高齢者、生活困窮者などと居住福祉 岡本 祥浩 ………………12
巻頭言 ……………………………………………………………2
報 告 ………………………………………………………23
認知症高齢者事故損害賠償裁判について
賃金のあり方に関する論点整理(概要)
視 点 ……………………………………………………………3
就職氷河期世代について考える
報 告 …………………………………………………………16
「好循環」
への反転を目指して
「2014~ 2015年度経済情勢報告」(概要)
−正社員と非正規雇用労働者を含めたトータルと
しての賃金のあり方をめざして−
(雇用・賃金の中長期的なあり方に関する研究委員会中間
報告:連合総研ブックレット№ 11)
報 告 ………………………………………………………27
第18回ソーシャル・アジア・フォーラム
最近の書棚から ……………………………………………30
川村遼平 著
『若者を殺し続けるブラック企業の構造』
今月のデータ ……………………………………………31
中小企業庁「中小企業景況調査」(2014年7-9月期)
中小の建設業・サービス業などで
人員不足がますます拡大
事務局だより ………………………………………………32
http://www.rengo-soken.or.jp/
ホームページもご覧ください
連合総研は、2011年4月より公益財団法人に移行しました。
認
巻頭言
知症高齢者(男性91歳、要介護4) いるのみならず、認知症に対する誤った
が、同居の妻(当時85歳、要 介
理解を社会に広め、人々に認知症の人は
護1)が転寝をした間に外出し、隣駅の
危険な人との偏見を植え付けかねない。
ホーム先端の柵から下に降りた後、電車
厚生労働省の元老健局長の宮島俊彦氏
にはねられ死亡した事故に伴って生じた
が名古屋高裁に対して、わが国の認知症
費用などについて、鉄道事業者が損害
施策の歴史的経緯と基本的考えについて
賠償を求めて遺族を訴えた上告審が今、 意見書を提出したのは、名古屋地裁の判
巻頭言
決(裁判官の認識)が認知症施策の現
と二審の判決はいずれも、遺族が十分
状からあまりにもかけ離れたものであった
な監督責任を果たしていなかったとして
からに他ならないだろう。
遺族に損害賠償を命じたものであった
宮島意見書は、1990年代以降、認知
ため、関係者に大きな衝撃を与えた。こ
症に関する科学的な研究が進められた結
れらの判決が、認知症の人の家族に、 果、収容・拘束等が身体と認知機能の一
認知症の人が単独で外出することを防止
層の低下を招き、行動・心理障害(BPS
する法的義務を負わせたものであり、こ
D)を発現させかねないことが広く理解さ
れまで進められてきた「住み慣れた自宅
れるようになり、1993年に厚生省令にお
で尊厳のある暮らしを送れる社会」とい
いて施設における身体拘束禁止を定める
う認知症施策の基本に逆行するもので
に至ったこと、2000年の介護保険法施行
あったからである。
以降は高齢者介護について尊厳の保持と
一審判決(名古屋地裁:2013年8月9
自立支援を柱に施策が展開されているこ
日)は、同居の妻に直接的な監督義務
と、認知症施策においても「自立支援、
違反の過失(民法709条)があり、関東
住み慣れた環境での生活の継続を指向し
在住の長男は責任無能力者の事実上の
てきた」ことなどを、詳細かつ明確に指
監督義務者
(民法714条)に当たるとして、 摘している。
それぞれに賠償責任を認定したが、二
今回の裁判は、認知症高齢者の行為
審 判決(名古屋高裁:2014年4月24日) による損害を社会全体でどのように分担
は、長男を監督義務者としては認めず、 するのかを改めて私たちに問うている。
連合総研専務理事
菅家 功
認知症高齢者事故損害賠償裁判について
DIO 2014, 11
最高裁小法廷で審理されている。一審
妻についてのみ民法752条の夫婦の協力
それは高齢社会の社会的コストとも言い
及び扶助の義務を根拠に、民法714条
うるものであって、認知症高齢者の家族
の責任無能力者の監督義務者の賠償責
やサービス事業者に集中させることが
任を認めた。これに対し、鉄道事業者
あってはならない。一義的には鉄道事業
と遺族の双方が上告し、現在最高裁で
者が負担するにせよ、その費用は最終的
審理中である。
には運賃に転嫁され、広く利用者国民が
一審、二審判決はともに、認知症の
負担することが最も妥当なコスト分担なの
人を介護する家族に監督義務者責任が
ではないか。
当然にあると考えており、このことに強
さらには、損害賠償責任はないとして
い違和感と憤りを覚える。認知症の人を
も、認知症の人による不可避的に起こっ
隙間なく看守し続けることは不可能であ
た事件・事故の被害者に対する何らかの
り、認知症の人の行為による被害に対し
見舞金的な給付を行う仕組みについて検
介護する家族に無過失責任ともいうべき
討する必要があるだろう。それは認知症
賠償責任を負わせる、このような判決が
の人を地域全体で支えようとするのと同じ
確定すれば、家族のみならず介護サー
考えで、地域政策として、たとえば介護
ビス事業者も認知症の人を常に拘束した
保険の仕組みを活用するのも一案だろう。
状態に置かなければならないことになり
いずれにせよ、何としてでも最高裁で遺
かねないからである。
族側が勝訴するよう関係者が全力で取り
このような事態は人間の尊厳に反して
組むことが先決である。
― 2 ―
視 点
就職氷河期世代について考える
今回の11月号には、経済情勢報告が掲載されている
~ 699万円14.3%、250 ~ 299万円18.9% (2012
が、執筆作業に携わった。執筆作業に当たり様々なア
年)、20歳代:所得分布のピーク 300 ~ 399万円24.
ドバイスをいただき、それに基づき様々なデータの加
9%(1997年)→300 ~ 399万円18.7%(2012年)
)
。
工や分析を行った。こうした作業全部が掲載されるわ
この二つのデータから、改めてバブル崩壊以降、若
けではないが、いただいた貴重なアドバイスに基づき
年層(いわゆる就職氷河期世代)を中心に非正規雇用
加工や分析を行ったデータの中には、掲載されなかっ
数が増大し、そのことなどにより所得の分布にも大き
たが面白いものがいくつかあった。
な影響が及ぼしていたことがわかる。
現在、
日本は人口が減少し、
労働力人口も減少し始め、
一つ目のデータは、総務省「労働力調査」を用いた、
ここ20年余りの15歳以上人口の増減と年代別の正
女性や高齢者の活用が喫緊の課題となっている。労働
規・非正規の雇用の増減の動向である。バブル崩壊後
力の量という側面からは、このような課題が浮かび上
から2000年代初めにかけて、特に、若者が就職し社
がってくるのは当然のことかもしれない。先ほどのデー
会に出始める15 ~ 24歳層などにおいて、人口(15
タからは、いわゆる就職氷河期世代が以前の世代より
歳以上)
が大幅に減少
(1993年→1998年▲194万人、
少なくなっているのにも関わらず、以前の世代よりも
1998年→2003年▲224万人)する中、正規雇用も
多くの割合の者が非正規として社会に出て、低賃金に
大幅に減 少(1993年→1998年▲118万 人、1998
あえいでいることがわかる。非正規となると職業訓練
年→2003年▲137万人)
、一方で非正規雇用は増加
の機会に恵まれず、正規への転換も難しいと言われて
(1993年 →1998年 +67万 人、1998年 →2003年
いる。労働力人口が減少する中、本来ならば企業の中
+20万人)していた。いわゆる就職氷河期(1993年
堅として生産性を高め、活躍をしているはずのこの世
から2005年頃)と言われる世代の厳しい状況を示す
代がこのような状況となっている。
労働力人口が減少する中、労働力の量のみならずい
データである。
もう一つのデータは、総務省「就業構造基本調査」
かに一人一人の生産性を高めていくかということも重
を用いた、ここ15年余りの正規・非正規を踏まえた年
要となるはずである。日本を支えていかねばならない
代別の雇用者の所得分布の変化の状況である。どの年
この世代を活用し、非正規から正規への転換や職業訓
代も所得の高い雇用者の割合が減少し、また、最も雇
練などにより生産性を高めていくという視点も重要と
用者数の割合が高い所得帯(所得分布のピーク)にお
なると思われる。労働力の量という側面から女性や高
ける雇用者数の割合が低くなっていたり、さらにはそ
齢者に目が行きがちになるが、たまたま就職の時期に
の所得帯が低い所得帯に移動するなどの変化がみられ
恵まれなかったこの世代に今一度注目し、現状を把握
た。特に、いわゆる就職氷河期世代と言われる、現在、
し、施策等のフォローなどをしていくことも必要とな
30歳代を中心に、非正規雇用数の増加などによりその
るのではないかと思っている。
傾向が顕著にみられた(雇用者(男女計)30歳代:所得
(連合総研主任研究員 鈴木 一光)
分布のピーク 500~699万円23.7%(1997年)→500
― 3 ―
DIO 2014, 11
特集 1
寄稿
特
人口減少・高齢化と
地域ケアの課題
人口減少下の地域とくらし ─変わる福祉サービス
集
沼尾 波子
(日本大学経済学部教授)
人口減少・少子高齢化の進展
近い将来、徒歩5分圏内に150人以上の認知症
日本の人口減少と高齢化の進行は待ったなし
高齢者が暮らす東京の将来が描かれる。大都
とされる。65歳以上の高齢者数は2025年に3,657
市圏においても、今後増大する高齢者の暮らし
万人、高齢化率30.3%、後期高齢者数2,179万人
を支える仕組みを構築することを早急に考えなく
(18.1%)となることが見込まれている。国の推
てはならない。
計では、認知症の人々の数はすでに400万人を
超えており、2025年には700万人に近づくとされ
地域社会と「介護」
る。
高齢者の暮らしを支える家族や地域もまた変
高齢化の様相は、地域によって大きく異なる。
化している。2010年の国勢調査によれば、全
周知のとおり、日本の高齢化は農山村から始まっ
世帯のうち、
42.6%が「高齢者のいる世帯」となっ
た。高度経済成長以降、若年層の都市部流出
た。これらの「高齢者のいる世帯」のうち、
「高
が進んだため、農山村では早い時期から高齢者
齢者夫婦のみ世帯」の割合は29.9%、
「高齢者
への対応が課題とされてきた。だが、今後は、
単独世帯」の割合は24.2%であり、高齢者だけ
若年世代の減少に伴う高齢化率上昇は続いて
で暮らす世帯が増加している。単身高齢者の増
も、高齢者数そのものは増大するわけではない。
加により、各地で消費者被害や、緊急時の対応
したがって、高齢者数の増加に対応した施設整
の遅れ、孤独死といった事態が発生しており、
備の必要性は薄い。むしろ、ケアの担い手とな
こうした課題への社会的な対応も求められてい
る若年世代の確保とともに、地域の暮らしを支
る。
えるコミュニティの維持存続そのものが深刻な課
高齢世代は、所得格差や資産格差が若年世
題となっている。
代に比べて大きい。低所得高齢者の中には、医
これに対し、今後深刻な高齢化が進行するの
療や介護サービスの利用を抑制する動きも見ら
が大都市圏である。2014年8月に東京都と都内
れる。また、生活保護受給世帯の約45%が高
区市町村による「東京の自治のあり方研究会」
齢者世帯である。収入や資産が十分でなく、家
が東京の将来人口の推計を公表した。この調査
族も近くにいない高齢者が、暮らしを維持する
では、500mメッシュ単位で将来人口を推計して
ための支援もまた、
広い意味での
「介護」
(=ケア)
いるが、その結果から、2050年には23区内の大
の課題となっている。
半の地域で、500m四方(おおよそ徒歩5分)圏
家族介護の問題も深刻である。厚生労働省
内に1,000人を上回る高齢者が居住する結果が
の国民生活基礎調査(平成25年)によれば、同
示された。認知症有病率推定値を高齢者の15%
居の家族等が主たる介護者である割合は全体
程度とする国の調査結果をそのまま用いれば、
の61.6%と高い。また、主たる介護者が65歳以
DIO 2014, 11
― 4 ―
上である
「老老介護」の割合は5割を超えている。
制度創設時、65歳以上の高齢者が負担する標
また総務省の就業構造基本調査(平成24年)
準月額保険料は最大でも5,000円程度で収まる
によれば、平成19年10月から24年9月の間に、介
ものと認識されていた。しかしながら、サービス
護・看護を理由に離職した人は延べ48万7,000人
利用は次第に膨らむとともに、保険料負担は上
に上っている。介護が家族に重くのしかかってい
昇を見せている。第5期(2012―2014年度)の
ることがうかがえる。
全国平均で見た月額標準保険料は4,972円に達
地域コミュニティを通じた高齢者の暮らしの見
している。このまま給付が増えれば、保険料負
守り・支え合いなどの機能も衰退している。農山
担が困難な高齢者が増大すると考えられる。
村では農林業の衰退とともに、過疎化と高齢化
保険料の増大を抑制するために、国では介護
が進行し、集落単位での相互扶助機能も次第
報酬単価の引上げに慎重な姿勢を取っている。
に衰えていることが社会調査から明らかになっ
その結果、ホームヘルパーをはじめ、介護職の
ている。他方で、大都市圏では、そもそも近隣
雇用環境は厳しいものとなっている。全国に約
の関係性が希薄なところも多い。
170万人程度の介護職が居るが、10年後には240
このほか、高度成長期に建設され、子育て世
万人が必要との推計がある。厚生労働省の賃金
代が入植した大規模なニュータウン地区では、
構造基本統計調査(平成23年)によれば、介
住民の多くが一斉に高齢化をしている。こうした
護職の平均賃金は月額21.8万円で、全産業平均
地区では、団地そのものの再生とあわせて、居
の32.4万円と比べると、専門職でありながら、か
住者の高齢化によるコミュニティ機能の維持もま
なり低い水準にある。厳しい雇用環境の中で相
た課題とされている。
対的に低い賃金しか受け取ることのできない介
さらに地方都市では、中心市街地における空
護業界では、離職率も高い。
洞化と高齢化が深刻となっている。子育て世代
家族や近隣の助け合いだけで介護を担うこと
は、手ごろな価格の戸建て住宅を求めて郊外に
は難しい反面、公的介護保険制度も財政運営上
流出し、モータリゼーションの進展とともに、郊
の課題を突き付けられている。
外に立地する大規模なショッピングモールで買い
物を行う。中心市街地の商店街はシャッター通り
地域におけるケアを取り巻く課題
と化し、空き店舗や居酒屋などが増えている。
これに対し、2006年に導入されたのが地域包
地域に残された高齢者は、買い物や日常生活が
括ケアシステムである。長寿社会開発センター
不自由な状況に陥っている。
(2011)によれば、地域包括ケアシステムとは「地
地域によって高齢化の進展のしかたも、その
域住民が住み慣れた地域で安心して尊厳あるそ
課題も様々であり、それぞれの状況を見据えた
の人らしい生活を継続することができるように、
多様な対応が求められている。
介護保険制度による公的サービスのみならず、
その他のフォーマルやインフォーマルな多様な社
公的介護保険制度の課題
会資源を本人が活用できるように、包括的およ
急速に進む高齢化と、家族や地域コミュニティ
び継続的に支援すること」とされている。
での対応の限界を踏まえて、それを公的に支え
地域包括ケアシステムには、以下のことが期
る仕組みとして2000年に導入されたのが介護保
待された。第1に、医療、介護、予防、住まい、
険制度であった。制度創設当時、それまでの措
生活支援サービスが連携した要介護者等への
置制度に代わって、誰もが一定の保険料を負担
包括的な支援(地域包括ケア)を推進すること、
することで、介護が必要とされた際には、1割の
第2に、日常生活圏域ごとに地域ニーズや課題の
利用料負担をすれば、サービスを受けることが
把握を踏まえた介護保険事業計画を策定するこ
できる制度として期待された。
と、第3に単身・重度の要介護者等に対応でき
しかしながら、介護保険制度は導入から数年
るよう、24時間対応の定期巡回・随時対応型サー
がたち、財政上の課題を抱えることとなった。
ビスや複合型サービスを創設すること、第4に保
― 5 ―
DIO 2014, 11
険者の判断による予防給付と生活支援サービス
何を地域で支え合い、何を介護保険制度で賄う
の総合的な実施を可能とすること、そして第5に、
のか。またそのために担い手をどう確保するの
在宅でのケアを推進することである。このほか、
かについて、判断と対応が求められる。
日常生活圏域のニーズ調査を実施し、地域の課
題・ニーズを的確に把握するとともに、計画の内
オランダ・ボクステル市の事例
容として、認知症支援策、在宅医療、住まいの
こうした日本の課題について考える手がかりと
整備、生活支援を位置付け、実行していくこと
するため、オランダにおける自治体の取組みを紹
が掲げられた。
介することとしたい。
地域に居る多様な担い手が連携を図りなが
オランダ・ボクステル市(Gemeente Boxtel)
ら、介護を必要とする人々に対して、必要な支
は北ブラバント州の自治体で、人口約3万人、面
援を行なうことや、施設から在宅介護へと転換
積471㎢という自治体である。オランダでは、介
をはかる仕組みを構築し、保険財政を安定化す
護や長期療養をカバーする特別医療費保険
ることが期待されたのである。
(AWBZ)の財政難が課題とされ、軽度の要介
護者については、施設から在宅へという改革が
地域包括ケアシステムの課題
進められてきた。2007年に社会支援法(WMO)
だが、地域包括ケアシステムを構築するうえで、
が成立し、軽度の要介護者や日々の暮らしの見
現場は多くの課題を抱えている。
守りなどが、保険サービスから切り離され、自治
第1に、担い手の確保である。若年層の減少
体が独自に担うこととなった。こうした中で、ボ
により、介護職をはじめとした専門職の人材確
クステル市では、地域で乳幼児から高齢者まで、
保は、地方でも都市部でも深刻である。
幅広い見守りとケアを支える仕組みづくりの必要
第2に、地域の中で多様な担い手が集まって、
性があるとして、拠点となる施設を立ち上げ、取
必要な支援の在り方を協議し、方向性を定めて
組みを推進したのである。
いくための場づくりの難しさである。医療や介護
ボクステル市では、かつて修道院だった施設
をはじめ、使用言語(専門用語)や価値観の異
(セント・ウルスラ)を改修し、地域ケアに関する
なる人々に加え、民生委員や町内会など、多様
総合プラットホームとして活用する取組みを2012
な立場の人が集まり、検討と調整を行なうことが
年8月より始めた。この施設では、医療、福祉(ケ
求められる。
ア)
、文化等、対人サービスの幅広い分野を担う。
第3に、高齢者の生活実態を把握することの
施設は市が整備を行なうが、運営は行政と民間
難しさである。行政が住民一人ひとりの生活実
非営利団体の連携によって行われている。施設
態を個々に把握し、サービスの需要を見極める
の1階には総合受付窓口があり、ケアを必要とす
ことは容易ではない。事業者や近隣との連携が
る住民は、まず受付で話をする。1階には、多
必要である。
様な相談スペースが用意され、相談者の状況や、
本年6月には医療介護総合推進法が成立し、
話の内容に応じて、空間が使い分けられている。
介護サービスの利用料を一定以上の所得者につ
施設の2階より上には、様々な専門性を持った事
いては2割とするほか、軽度者向けの介護予防
業者やNPO団体の事務所が置かれており、そ
サービスの一部を保険制度から切り離し、市町
れぞれ専従スタッフ(専門性を持った職員)とボ
村の単独事業へと移すことが定められた。また、
ランティアが居る。1階での相談をもとに、必要
これらの予防事業について、事業者と自治体と
な支援を提供できる団体の職員が集められ、支
を仲立ちする調整役の人材を配置する制度を創
援を行なうチームがつくられる。これらの入所団
設することが決められた。介護(=ケア)を取り
体については、行政が明確な基準を設けて選定
巻く「地域」の連携・調整はますます重要性を
しており、同じ専門性をもつ団体を複数入れるこ
増すだろう。
とはしていない。この仕組みによって、ある家庭
地域の中で、どこまでを本人や家族が担い、
の内に複合的な課題(介護、生活困窮、虐待等)
DIO 2014, 11
― 6 ―
が潜んでいる場合についても、専門性を持った
である。かつて、農家や自営業者が多かった時
複数の団体がチームを組んで、柔軟に対応する
代であれば、昼間、地域に大人が居た。しかし
体制が構築されているのである。
ながら、職住の分離により、住宅地は、日中、
ボクステル市の事例から、以下のことを学ぶこ
高齢者と子供ばかりが居る空間となっている。仕
とができる。第1に、高齢者介護に留まらず、地
事と暮らしの分断とともに、暮らしの場としての
域のあらゆるケアに対して、それを一元的に相
地域で、年齢を重ねても安心・安全に暮らすた
談できる窓口が設置されており、住民にもそれ
めの地域の基盤が脆弱になっているのである。
が周知されている点である。そして、本人や家族
そして第2に就労形態の変化に伴うこうした社
だけでは解決困難な課題が生じた場合には、そ
会的なコストが認識されていない点である。安倍
れを抱えずに相談できる雰囲気が醸成されてい
政権では「女性の活躍」が謳われるが、女性の
る。第2に、多様な専門性を持った支援団体が
就労とともに、家族の在り方は変容し、介護(あ
あり、その人たちが業務に携わることのできる環
るいは子育て)の社会化が要請されてきた。し
境が整備されている点である。そして第3に、こ
かしながら、それに要する社会的費用について、
うした専門家を支える層の厚いボランティアが形
必ずしも一体的な議論がなされているとは言え
成されている点である。オランダでは、就労にお
ない。
いて、正規・非正規による待遇に大きな違いは
消費税率は本年4月にようやく8%に引き上げ
なく、また就業時間に応じた賃金支払いとなっ
られたが、国・地方の財源は依然として数十兆
ていることから、柔軟な働き方を選べる仕組み
円規模で不足しており、巨額の公債発行が繰り
がある。その結果、家族のケアやボランティアの
返されている。それにも関わらず、国民の判断
ために就業時間を調整する人もおり、仕事と家
はシビアであり、消費税率の更なる引上げには
庭、そしてボランティアなどの社会参加について、
反対の声が根強い。家族や地域、ときには職域
柔軟な選択が可能となっている。こうした仕組
が担ってきたケアの領域を公的に再構築するた
みが機能しているため、介護(ケア)を支える社
めの費用負担について、国民の合意が得られて
会的基盤が強固なものとなっている。そして、こ
いないのである。
うしたサービスに必要な費用について、一定の
地域ケアシステム構築は待ったなしである。身
租税負担を担うことに対する社会的な了解が成
近な地域であるからこそ、自分たちに何ができる
立していることも留意する必要がある。
のかを考え、費用負担を含めた参加の方法を考
えることも必要である。
むすびにかえて
安心できるケアシステムを創るために、地域活
日本では、超高齢化が進む中で、家族介護
動への参加が社会的に容認される風土の醸成
の限界、地域コミュニティの衰退、介護保険財
も必要であろう。職場において、こうした活動へ
政の悪化と、ケアを支える様々な社会基盤が疲
の参加を奨励することや、職場が立地する地域
弊している。これを再構築することが必要であ
における社会貢献活動への参加なども考えられ
る。
てよい。それには、安心して多様な働き方を選
既に各地で、医療施設、地域包括支援セン
択できる職場環境の構築もまた急務となる。労
ター、NPOや自治会など、やる気と意欲のある
働組合には、こうした環境の整備に貢献する取
人々が集い、繋がりの再構築と安心安全な暮ら
組みを期待したい。
しの創出に向けて、各種の活動を行なっている
ところも多い。
しかしながら、こうした取組みが地域全体で
ネットワーク化し、トータルなケアシステムとなる
【参考文献】
長寿社会開発センター編(2011)
『地域包括支援センター
業務マニュアル(改訂版)
』長寿社会開発センター
には、課題も多い。
第1に仕事と暮らしの場が分断されていること
― 7 ―
DIO 2014, 11
特集 2
寄稿
特
人口減少社会における
地域と保育サービス
人口減少下の地域とくらし ─変わる福祉サービス
集
大石 亜希子
(千葉大学法政経学部教授)
はじめに
日本の人口は2008年をピークに減少局面に
も、潜在的な保育ニーズが顕在化するだけで
待機児童数は一向に減らない、という現象が
入ったが、地域別にみると人口減少の主因で
ある少子高齢化のスピードにも大きな差がみ
られる。2000年代の社会福祉基礎構造改革と
それに続く三位一体改革により、福祉サービ
ス供給における地方自治体の役割は拡大し
た。その半面で、福祉サービス供給における
地域間格差も顕在化している。そこで本稿で
は、保育サービスを巡る3つの地域間格差に
着目し、格差の実状とその背後にある要因を
考察する。
少子化で保育サービスへのアクセスが改善
格差の第1は、待機児童問題にみられる、
保育サービスへのアクセス格差である。厚生
労働省の「保育所関連状況とりまとめ」によ
各所で生じている。実際に、2013年に待機児
童ゼロを達成した横浜市では保育所の申込者
数が大幅に増加し、2014年4月には20人の待
機児童が生じている。
このように、待機児童数は地域における保
育サービスへのアクセスの指標として問題を
含んでいるといえる。これに代わる指標とし
てよく取り上げられるのが、就学前児童数に
対する保育所定員数の比率、すなわち保育所
定員率である。1990年の「1.57(1989年の合
計特殊出生率)ショック」以降に繰り出され
た数々の少子化対策では、保育サービスの量
的拡大が重点施策の一つとされてきた。事実、
1990年に全国で198万人であった保育所定員
は、2014年には234万人へと増加している。
ると2014年4月1日時点での待機児童数は2万
1371人となっている。待機児童の78%は大都
市に集中しており、なかでも東京の待機児童
数は全体の41%を占めている。
この間に少子化が加速したことを考えれば、
全国的にみれば保育サービスへのアクセスは
改善したはずである。簡単化のため、就学前
児童数を0 ~ 5歳人口に相当するとして保育
待機児童を抱える多くの自治体は、保育所
の定員拡大や自治体独自基準による保育施設
所定員率を計算すると、全国では1990年の
25.0%から2010年の32.0%へと7ポイント上昇
の拡充などの対策を講じている。しかし、経
済学的にみれば待機児童は、保育サービス市
場で価格メカニズムが働かないために生じて
いる超過需要を示しているのであるから、固
している。それにもかかわらず、依然として
待機児童問題を抱える自治体があるのは、定
員拡大と少子化のスピードに大きな地域差が
存在するためである。
定的な保育料制度を維持したままでこれを解
消することは容易ではない(Zhou and Oishi
図1は、過去20年間の保育所定員率の変化
を、定員拡大の寄与と少子化の寄与に要因分
2005)
。しかも待機児童数は、実際に保育所
の申し込みをした世帯の子どものうち入所で
きなかった人数だけを把握したものである。
保育所を利用する意向を持ちながらも、申し
解して都道府県別に示したものである。参考
として、各都道府県の2010年における0 ~ 5
歳人口も要因分解のグラフの下に示してい
る。はじめに全国(右端)についてみると、
込みを諦めている世帯の保育需要はとらえて
いない。このため、保育所の定員を拡大して
定員率の変化7ポイントのうち実に6.2ポイン
トまでが少子化の寄与であることがわかる。
DIO 2014, 11
― 8 ―
図1 保育所定員率変化幅の要因分解(1990-2010 年)
(資料)総務省「国勢調査」、厚生労働省「社会福祉施設等調査」
県別にみても、定員率の上昇幅の大きい県の
ほとんどは0 ~ 5歳人口が少なく、少子化の
いる。
現在でも首都圏では保育士を確保できない
寄与が大きくなっている。なかには子ども数
の減少に対応して保育所の定員を減らした県
もあり、そうした県では定員拡大の効果がマ
イナスに寄与している。
一方、東京・千葉・埼玉・神奈川などの首
都圏では少子化の寄与が小さいため、定員率
の上昇は小幅にとどまっている。また、同じ
首都圏でも神奈川県や埼玉県では定員拡大の
寄与が大きいのに対し、東京都と千葉県では
小さい。1990 ~ 2010年の間に、神奈川県で
は2万3000人、埼玉県では1万5000人の保育所
定員拡大が実施された。一方、0 ~ 5歳人口
が全国一多く、待機児童の4割以上を抱える
東京都の定員拡大は、7500人弱にとどまって
いる。建築物の密集度が高く、地価の高い東
京都では、国基準を満たす保育所の新設は難
ために保育所の新規開園が延期されるケース
が出ている。このため、寮や住居を用意した
うえで、東北地方などに遠征して保育士を募
しく、東京都独自の認証保育所の設置で待機
児童問題に対応してきたわけである。
「1.57ショック」以降の少子化対策で、保育
サービスの供給が拡大し、アクセスが改善し
たものと一般では思われてきた。しかし、神
奈川県など一部の県を除いて、実際の定員拡
集する事業者も見られるようになった。自治
体もそのような事業者の支援に積極的で、横
浜市では2014年4月から、保育士用に宿舎の
借り上げをする事業者に対して賃料補助を行
う制度をスタートさせている。
こうした動きを受けて、地方にも保育士不
足が波及しつつある。たとえば全国の自治体
を対象に三菱UFJリサーチ&コンサルティン
グ株式会社が2012年に実施したFAX調査で
は、
「年度途中の欠員補充や非常勤保育士の
採用が困難」という声が市部の保育所からも
出ており、
「地域に有資格者がいない」
(岩手
県、山梨県)
、
「保育士のなり手がいない」
(鳥
取県)
、
「新卒者が他の市町村の保育所に就職
してしまう」
(秋田県)といった声も出ている。
賃金面での処遇の低さは、保育士不足をも
たらす最も大きな要因である。本来、保育士
への超過需要が発生しているのであれば、賃
きたのである。i
金が上昇して調整されるはずである。しかし、
現在の保育システムではそうした価格メカニ
ズムが働くようにはなっておらず、保育士不
足が続く中でも、民営事業所の保育士の月収
保育士の確保困難の背景には
は、全産業平均よりも9万円低い。従来から
私立保育所に対しては、保育士の賃金改善の
大は控えめなものにとどまっており、むしろ
少子化によってアクセスの改善が実現されて
保育サービスを巡る第2の格差は、保育士
需給の格差である。政府の「待機児童解消加
速化プラン」では2017年度末までに保育所の
受け皿を40万人分拡大するとしている。これ
ために保育所運営費の民間施設給与等改善費
(民改費)が交付されていたが、勤続10年以
上の保育士に対する加算率は頭打ちになるた
め、長く勤めるインセンティブが湧かない給
を実行するうえで保育士の確保は重要なポイ
ントとなるが、政府の推計では2017年度末時
与体系となっていた。今回の「加速化プラン」
によって、民改費に特例加算が上積みされる
点で7.4万人の保育士不足が生じるとされて
ことになったが、月額では8000円から1万円
― 9 ―
DIO 2014, 11
図2 保育士と看護師の賃金(時間あたり所定内給与、女性、2013 年)
(注)対象は女性一般労働者の所定内給与と所定内労働時間。
(資料)厚生労働省「賃金構造基本統計調査」
程度の増収にとどまるとみられている。
図2は、女性の一般労働者について、看護
業機会を追求することになりがちである。こ
れまでワーク・ライフ・バランスを軽視し
師と保育士の時間あたり所定内賃金を都道府
県別に比較したものである。同じように資格
を必要とする職種であっても、保育士は相対
的に低賃金であることが分かる。さらに、保
育士の時間あたり所定内賃金を、各都道府県
の最低賃金に対する比でとらえてみると、東
京・千葉・神奈川など保育士不足が顕著な都
県であっても、保育士の時間あたり賃金は最
低賃金の1.5倍程度に過ぎないことが分かる。
保育士としての責任の重さや労働時間の長さ
を考えあわせれば、他の就業機会が豊富な都
市部で保育士が不足するのは当然ともいえ
る。
賃金面以外で保育士不足を招いている要因
として、保育士のワーク・ライフ・バランス
の問題がある。先ほどふれた自治体調査で明
て、保護者の長時間労働に延長保育で対応し
てきた結果、現在の保育士不足が生じている。
それでは三世代同居率の高い地方であれ
ば、有資格者も復帰しやすいかというと、そ
うでもない。こうした地方では祖父母の就労
率も高いため、同居していても子育ての手助
けが得られるとは限らない。さらに、広域に
保育所が点在しているため、通勤の便が悪い
保育所には非正規保育士が集まりにくいこと
が自治体調査でも指摘されている。
らかになったのは、都市・地方を問わず、全
国的に「非正規」や「臨時」の保育士を募集
間の格差で、認可外保育施設の保育料は、認
可保育所よりもおしなべて高い。認可保育所
しても確保できないという状況である。前述
したように仕事内容の厳しさに処遇が伴って
いないということもあるが、勤務時間のミス
マッチがもたらす影響も大きい。保育所側は
の保育料は、所得(厳密には市町村民税額)
に応じた負担であり、公費によって軽減され
ている一方で、認可外保育施設の保育料は基
本的には所得に関係なく一律である。
早朝や夕方の時間帯の人員補充のために非正
規保育士を採用したいのに対し、有資格者側
問題は、フルタイム労働者と比較して、パ
ートや不規則な勤務の労働者のほうが認可保
は自らが子育て中であったり、要介護者を抱
えていたりするケースも多く、日中の仕事を
希望する傾向にある。そもそも、子どものい
る有資格者が早朝勤務や夕方以降の勤務をす
育所の入所に当たっての優先度が低いと判断
されることである。結果としてこれらの世帯
は、収入が低いにもかかわらず、保育料の高
い認可外保育施設を利用せざるを得ないこと
る場合に、自分の子どもを預けられるような
保育所や学童保育が存在しない。たまたま三
になる。大石(2003)によると、認可外保育
施設の利用者は、高所得層と低所得層に二極
世代同居をしていて世帯内に健康な祖父母が
いるような有資格者でない限り、保育士とし
ての復帰には困難が伴う。いきおい、他の就
化している。つまり、認可保育所の保育時間
では間に合わない長時間労働の高所得世帯と、
不規則勤務で低収入の世帯が混在している。
DIO 2014, 11
― 10 ―
地域によって異なる保護者負担
保育サービスを巡る第3の格差は、保育料の
格差である。これには2つの面がある。ひとつ
めは、認可保育所と認可外保育施設(東京都
の認証保育所や横浜市の横浜保育室など)の
後者のタイプの世帯は、認可保育所利用者と
の負担の公平性が特に問題となる。このため
近年では、独自の基準を満たす認可外保育施
設の利用者を対象に、保育料の軽減策を講じ
る自治体が出てきている。
ふたつめは、自治体間の保育料格差である。
現行制度では、応能負担の仕組みに沿って国
の保育料徴収基準による保育料を徴収してい
るが、財政力のある自治体ほど軽減措置を講
じている場合が多い。このため、所得が同じ
世帯であっても、居住地によって実際の保育
料が異なるということがしばしば起こる。た
とえば、前年度の所得税額が4万円の世帯が2
歳児を一人だけ預けるとしよう。東京都世田
谷区であれば月額保育料は1万8300円である
が、青森市の青森地区の場合は3万5000円にな
る。ちなみに東京都の最低賃金は2014年10月
の追求があげられるであろう。子育て世代に
相当する30代の長時間労働傾向には目ぼしい
改善はみられず、早朝や夜間などの時間帯に
働く労働者も増加している。そのしわ寄せが
保育の現場に持ち込まれ、保育士不足の背景
になっている。経済界では24時間保育所を提
唱する向きもあるが、そうした方向性では、
保育士不足はさらに深刻化するであろう。保
育サービスの持続可能性を高めるには、ワー
ク・ライフ・バランスの実現が不可欠である。
第2に、雇用の場における男女平等を引き続
き推進するべきであろう。日本に限らず先進
諸国に共通にみられることであるが、保育士
のように女性が多数を占める仕事(femalejobs)の賃金は総じて低い。保育士不足の原
因として、
「男性保育士が家族を養えるような
賃金ではない」という声もしばしば聞かれる。
労働組合に期待される役割
国民の4人に1人が65歳以上の高齢者である
日本にあって、年少人口(0 ~ 14歳)は人口
の12%を占めるに過ぎず、0 ~ 5歳児は人口の
5%にも満たない小さな存在である。社会保障
こうした低賃金は、人的資本などの生産性や
本人の社会経済的属性では説明がつかない部
分が大きく、社会規範や差別の影響も指摘さ
れている。女性の職域を広げるとともに、合
理性のない処遇の男女差が生じないように啓
発する役割を労組が果たすことはできよう。
第3に、非正規労働者を巻き込んだ待遇改善
とセーフティーネットの整備を訴えていくべ
きである。労働市場全体の動きと同様に、保
育所においても正規保育士の採用が抑制され
る中で非正規保育士が増加している。その就
労形態も、パート雇用だけでなく、派遣や業
務請負など多岐に渡っている。業務請負では
派遣先企業との雇用関係はないので、保育事
故などの際に責任の所在が曖昧になるリスク
においても、児童・家族関係給付費は社会保
障給付費全体の5.3%、国内総生産(GDP)比
がある。保育士の処遇改善は質の高い保育サ
ービスを供給するうえでも重要といえよう。
現在888円、青森県は665円である。雇用環境
が悪く、賃金水準の低い地方ほど、保護者負
担が大きい。ⅱ
なお、2015年4月にスタートする子ども・子
育て支援新制度では、保育所の保育料につい
ては現在と同じ応能負担原則のもとに、公定
価格が設定されることとなった。ただし、自
治体による減額あるいは上乗せがどの程度に
なるかは、今後、議会で議論されることになる。
で1.2%を占めるに過ぎない(2011年)
。数々の
少子化対策を講じてきたとはいえ、実際の支
出規模は年金や医療、介護と比較すればわず
かなものである。
「子ども・子育て支援新制度」は、消費税が
10%に引き上げられることを前提に公的価格
などの詳細が決められている。質と量の拡充
を目指して、子育て分野には新たに1兆円が投
入される予定となっているが、そのうち3000
億円分を確保する目途が立っていないという
のが現状である。今後、生産年齢人口がさら
に減少する中で、人材面でも財政面でも地域
の保育サービスを維持していくことは、ます
ます困難になると予想される。
こうしたなかで労働組合が果たせる役割と
しては、まず第1にワーク・ライフ・バランス
【参考文献】
大石亜希子(2003)
「母親の就業に及ぼす保育費用の影響」
『季刊・社会保障研究 』39(1): 55-69.
Zhou, Y. and Oishi, A.S.(2005)
“Underlying Demand for
Licensed Childcare Services in Urban Japan,”Asian Economic
Journal, 19(1): 103-119.
ⅰ 付け加えると、地方では地理的な意味での保育サービ
スへのアクセス困難も存在する。たとえば岩手県遠野
市では東京23区がすっぽり入る面積に認可保育所が
14か所しか存在しない(東京23区の保育所数は1245
か所(2013年)である)
。保育ニーズの地域的偏在は
著しく、少子化が著しく進んでいるにもかかわらず、
市街地の保育所では待機児童が発生する一方で、市
街地を離れた保育所では定員割れが発生している。
ⅱ 東京などの豊かな自治体から地方へは財政調整金が回
っており、これがなければ地方の保育料はさらに高額
になる可能性もある。
― 11 ―
DIO 2014, 11
特集 3
寄稿
特
高齢者、
生活困窮者
などと居住福祉
人口減少下の地域とくらし ─変わる福祉サービス
集
岡本 祥浩
(中京大学総合政策学部教授)
住居は「衣食住」のひとつとして、生活の
基盤として認識されている。しかしながら、
住宅の確保や質に関しては個人責任とされ、
暮らしにおける住宅の意義や役割について一
般に正しく認識されているとはいえない。ま
してや「居住」についてはなおさらである。
そこで本稿ではこれからの高齢社会での「住
居」や「居住」の意義と役割、そしてそれを
発揮すべき方向性について述べる。
1. 居住福祉とは
「居住福祉」とは、
「適切な居住が福祉(し
あわせ)を実現する」ことを意味する。
「居住」
は「居を構えて暮らす」ことで、
「居住福祉」
は適切な住宅に住み、その人らしい暮らしを
実現することに他ならない。
「居住」は一体
的な概念であるが、分かりやすくするために
「住宅」
「社会の生活を支える機能」
「費用負担」
に区分し、それぞれの役割を概説する。
「住宅」とは、人が住むための建物である。
「人が居る」に適する環境条件の確保が住宅
の役割である。睡眠、食事、排泄、休息、団
欒、移動など日常生活動作の空間とその動作
を容易にすることである。人の穏やかな暮ら
しは、地震、洪水、台風などの脅威から守ら
れていること、快適な温湿度、静穏、日照、
通風、清浄な空気や水が確保されていること、
電気やガスなどのエネルギーが利用でき、廃
棄物の処理などが行われることなどを意味す
る。このような条件で人が暮らすと、病気に
罹り難く、仮に病気に罹っても治療の効果が
期待できる。不良住宅での居住は、治療の効
果が少なく、悪化すらする。医療や看護の費
用を減らすには、医療費に制限を設けるより
も良い住宅を増やすことが効果的である。国
土交通省は(最低、誘導)
「居住水準」を定
めているが、直ちに実現しなければならない
「最低居住水準」を達成できていない世帯は
少なくない。
暮らしの実現には、
「社会の備えている生
DIO 2014, 11
― 12 ―
活を支える機能」の利用が必要である。その
ために住宅から医療、福祉、教育、職場、文
化、購買、友人・知人などの施設や機能に容
易に到達できたり、それらの機能を住宅に受
け入れられることが必要である。住宅の立地
は、社会が有する「生活を支える機能」の利
用、地域社会への帰属意識や近隣住民とのつ
ながりを意味する「社会的関係資本」の構築
に影響を与える。
居住費用は節約できないので費用負担は重
要な問題である。理想的な住宅が理想的な立
地に得られても、居住者の適切な費用負担内
(住居費は所得の四分の一以下と言われてい
る。米国でも住居費が所得の三分の一を上回
る場合には住居費補助が支給される)の価格
でなければ意味がない。低所得者ほど適切な
費用負担で居住できる必要がある。
ここで提示した「適切な居住」実現の課題
を以下で検討する。
2. 健康観の変化と住居の役割の変化
長寿化の実現は、我々に長い老後をもたら
した。人生50年では老後を考えることはでき
なかったが、人生80年から90年になった今、
定年後の老後の過ごし方を考えざるを得なく
なった。それは同時に会社社会から離れた住
宅を中心とした地域住民としての暮らし方を
考えることでもあり、人々の認識に住宅の占
める割合が大きくなることを意味する。
ところで、高齢社会の背景に医療技術の進
歩があることに異論は無いであろう。
「人口
動態統計」によると戦後まもなくの1947年の
死因の第一位は「全結核」
(187.2、人口10万
人対)
、第二位が「肺炎および気管支炎」
(174.
8)
、第三位が胃腸炎(136.8)であった。2013
年の死因別死亡率(人口10万人対)は、上位
から「悪性新生物」290.3、
「心疾患」156.5、
「肺
炎」97.8、続いて四位に「脳血管疾患」94.1
である。
「肺炎」をのぞいて慢性疾患が死因
の上位を占めている。現在は慢性病を主たる
死因とする疾病構造になっている。
疾病構造の変化は、われわれの「健康観」
を変化させた。急性疾患が主たる死因であっ
た頃は、慢性疾患を発症する前に急性疾患で
亡くなっていたと考えられる。人々の健康状
態は、
「健康」であるか、
「病気」に罹って亡
くなるかであった。住宅が果たすべき役割は
公衆衛生を維持し、感染症などの急性疾患の
伝播を防ぐ衛生環境の提供にあった。急性疾
患を克服し、慢性疾患が主たる死因になると、
人々の健康状態は変化した。慢性疾患は自覚
するまでに長い年月を要する。その間、無意
識に疾患を抱えながら日常生活を過ごす。慢
性疾患に罹っていることが分かっても入院な
どして日常生活を変えることは無く、服薬な
どの治療をしながら疾患と共存する。意識す
る、しないにかかわらず疾患を抱えている人
の比率が高くなる。人々の意識は「無病息災」
から「一病息災」を望むように変化する。生
活習慣病といわれるように慢性病の治療に
日々の生活は大きな影響を与える。その日々
の生活を左右するのは住宅である。日常生活
を支えている住宅は急性疾患の時代よりもい
っそう重要性を増していると言えよう。健康
を維持増進できる住宅が必要である。
「健康観の変化」は、身体機能の見方をも
変える。身体機能は20代を頂点に加齢と共に
低下する。80代の高齢者が20代の青年と同じ
身体機能を発揮できないからと言って病気だ
と考える者はいないであろう。80代には80代
の身体機能が備わっていればよい。この考え
を敷衍化すれば、障がい者の身体機能もその
人の特性だと理解できる。高齢者や障がい者
の行動を支える環境整備は、その人の暮らし
を実現することにある。そうすると「健康」
とは20代の身体機能を発揮することではな
く、その人らしい暮らしの実現度で判断され
る。その判断基準は、人として生きている満
足や尊厳の維持になる。つまり、社会との関
係性を意識でき、個人の尊厳が保てる暮らし
である。住居が備えなければならない機能は、
居住者の尊厳を保ち、社会的関係性の実現に
ある。
さて、家庭内の不慮の事故死が注目されて
いるが、ここに現在の居住課題がある。人は
人生の半分程度を住宅で過ごすにもかかわら
ず、長らく家庭内の不慮の事故死は注目され
てこなかった。
「交通戦争」という言葉から
も交通事故は注目され、対策がなされてきた。
全国の交通事故死者数も1万人を下回って久
しい。一方、家庭内の不慮の事故死は、高齢
化の進展が進むにつれ増加傾向が顕著になっ
ている。1995年の阪神淡路大震災以降、年間
の家庭内の不慮の事故死者数は1万人を上回
るようになり、2013年には14,582人(
「人口動
態調査」
)になっている。その主な構成は「不
慮の溺死および溺水」
(5,156人)
「
、不慮の窒息」
(4,001人)
、
「転倒・転落」
(2,645人)である。
そのなかでも特に「不慮の溺死および溺水」
(5,156人)が注目される。
「不慮の溺死および溺水」の年齢構成をみ
ると、65歳以上の高齢者が90.5%を占めてい
る。この死因は「ヒートショック」と呼ばれ
るものが大半を占めると考えられている。高
齢者が居住している住居は古い住宅が多く、
全般的に室温が低く、居間など人の居る部屋
だけ暖房されている場合が多い。入浴に際し
て室温の低い脱衣所で低温に触れ、浴槽で暖
かいお湯に触れる。そこで血管の収縮と拡大
が短い時間に起こり、脳血管疾患などを引き
起こし、脱衣場で倒れたり、浴槽でおぼれた
りする。従来のように一住宅に複数の大人が
居れば、倒れた高齢者を助けられるが、高齢
者の単身や夫婦世帯(全世帯の過半を単身及
び二人世帯が占めている)では、それも困難
である。こうした住宅性能の問題と高齢化、
更に世帯規模の縮小が重なり現在のような家
庭内での不慮の事故死増を招いている。個人
の健康に対する意識は高まっているものの、
多くはサプリメントであったり、食べ物であ
ったり、運動であったりしている。そうした
ことに配慮することも大事であるが、多くの
時間を費やしている居住環境の改善に配慮す
ることも忘れてはならない。
表1 家庭内における主な不慮の事故の種類別に
みた死亡数
出所:「人口動態統計年報」より
3. 居住資産の更新と継承
経済成長とともに平均の住宅の質は改善さ
れてきた。日本の住宅水準は新規住宅建設に
よって改善してきたため、新築住宅の質は改
善しているが、既存住宅を改善する仕組みが
ない。経済のグローバル化の影響を受け、就
業構造や企業形態が大きく変化し、子どもや
孫の将来の居住地が判然としないために高齢
者だけが居住している住宅への投資が進まな
い。高齢者は「自分だけならこのままの住宅
で良い」と、老朽化し暮らしにくい住宅に住
み続ける。高齢者亡き後、投資も継承もされ
ない住宅は、空き家として地域に大きな課題
を投げかける。
― 13 ―
DIO 2014, 11
若年世帯の転居から取残された高齢者世帯
が居住する住宅の問題は、市街地の中心部、
郊外の住宅団地を問わず発生している。郊外
住宅団地の場合、人口が計画人口を下回り、
購買力も低下するために商業施設が撤退す
る。生活の利便性が低下した団地に新たに転
入する居住者は少なく、ますます過疎化する。
愛知県の桃花台ニュータウンのように新交通
システムの破綻に結びつき、母都市との関係
性を失った住宅団地はその存続の基盤さえ失
いかねない状態に追い込まれる。
「買い物難
民」など生活施設の利用が困難な人々を支援
する必要が生まれている。
一方、集合住宅の建替えも大きな問題であ
る。新築集合住宅の入居は、入居者が入居に
合わせて生活を整えるために問題はない。と
ころが、入居後、数十年が経過すると居住者
の暮らしが多様化する。世帯主が現役の者、
定年後の者、病気の者、怪我をした者、子ど
もが就学中の者、就職した者、など。世帯主
が現役であれば問題は少ないが、高齢であれ
ばあるほど転居の影響を受ける。典型的な例
として30代半ばで新築集合住宅に入居し、建
物を建て直すか、修復するかを検討する時期
に80歳前の高齢者として居住している例が見
られる。高齢者は、修復や改築のための転居
とはいえ、大きなダメージを受けるので平均
寿命を考慮し、亡くなるまで居住を継続した
いと考える。住宅の取り壊しと建設を繰り返
してきた日本の住宅建設システムは老朽住宅
に高齢者が居住するという次代に住宅資産を
継承するための大きな課題を抱えている。
住宅ストックの改善問題は公営住宅も抱え
ている。表2は2008年の「住宅土地統計調査」
から抜き出した公営住宅の建築時期と住宅規
模別の住宅数である。建築時期別の住宅規模
の平均を見ると1990年代に最も大きく、60㎡
を超えている。1950年代が最も住宅規模が小
さいが、その後経済成長とともに拡大してい
る。建築規模ごとの戸数を見ても平均延べ床
面積の推移と同様に経済成長とともに拡大
し、経済が停滞すると規模も縮小している。
問題は40年以上前に建設された小規模住宅の
ストック改善である。エレベーターの無い4、
5階建ての中層住宅が多く、浴室も無い。高
齢化が進んだ現在社会では受け入れられない
居住水準である。人にふさわしい住宅水準を
基本に住宅建設を考えるのではなく、日本社
会の経済水準に住宅水準を合わせたことが、
ストックとして現在にも将来にも利用できな
い住宅を生んでしまった。公営住宅のストッ
クに余裕があれば若年者用に改装することも
考えられるが、公営住宅のストックが少ない
現状では高齢社会にも受け入れられる居住水
準の住宅への改善が急務である。
4. 阻害される居住の継続
適切な居住が実現できない理由は既述の
「住宅」
「立地(社会の生活を支える機能)
」
「費
用負担」という構造的な問題だけでなく、偶
表2 公営住宅の建築時期別規模別住戸数 (2008 年 )
出所:「住宅土地統計調査」(2008) より
DIO 2014, 11
― 14 ―
然の出来事が暮らしを壊してしまうことがあ
る。経済や社会の変動が招いた環境が全ての
人々を居住貧困に陥らせるわけではない。居
住貧困に陥るのは、ある出来事が脆弱になっ
た人々の暮らしを支えられなくした場合であ
る。特に高齢で小規模な世帯では、さまざま
な出来事を吸収し、居住を継続する余力が少
なく、居住困難に陥りやすい。居住の継続を困
難にする特徴的な出来事を2013年度の愛知共同
住宅協会の「見守り大家さん事業」の無料電
話相談の事例(188件)から以下に列挙する。
第一に所得の喪失など経済的困窮である。
定年退職などで所得を失っても居住費用は軽
減されない。持家であれば固定資産税・都市
計画税などと修復費用が必要である。借家で
あれば家賃の支払が必要である。日本の住宅
事情は持家と借家の格差が大きく、居住水準
の向上を期待して多くの人々は持家を志向す
る。したがって高齢者の借家居住は少なく、借
家居住者は持家層に移行するまでに何らかの
アクシデントに見舞われた場合が多く、低所得
で貯蓄も少ない場合が多い。家賃の累計額が
貯蓄を上回ると借家居住の継続が困難となる。
失職の原因は、怪我、病気、事故、災害、
会社の倒産、定年など居住者本人の責任とは
言えないものがほとんどである。企業の寮や
社宅などに居住している場合、職を失うこと
は住居を失うことを意味する。また配偶者や
子どもなど主な稼ぎ手の喪失が経済的困窮を
もたらす。
収入と貯蓄の喪失は生活保護の受給要件と
なるが、居住している住宅の家賃が住宅扶助
額を上回っていると、転居を指導される。住
宅は単に建物だけでなく、暮らしを支える社
会的機能の利用を促進するものでなければな
らない。また長年の居住で地域住民との人間
関係が構築されている場合が多く、特に高齢
者の転居は居住者に生活を支える地域での仕
組みの再構築という負担をもたらす。
第二に身体機能の低下によるバリアフリー
住宅を必要とすることである。医療技術の進
歩は、多くの人々の生命を助けているが、一
方で身体機能の一部を失った人々も増えてい
る。既存住宅のバリアフリー率は低く、
「住
宅土地統計調査」
(2013)によると、
「高齢者
等のための設備が無い」比率は46.3%である
が、最も整備率の高い「階段の手すり」です
ら25.8%である。
「居住室の手すり」整備率は
1.3%で、
「廊下などが車椅子で通行可能な幅」
である住宅は16.2%である。障がい者が可能
な限り自立できる住宅はまだまだ少ない。ま
たそのほとんどは持家で借家のバリアフリー
化の推進が課題である。
第三に認知症や精神疾患の発症の問題であ
る。世帯規模が小さくなっているために疾患
を抱えた高齢者の世話をする者がいないか、
いても高齢者である場合が多い。高齢者や病
人、障がい者の介護が重荷になって人間関係
が悪化し、同居が続けられない状態になって
しまう場合が増えている。認知症や精神疾患へ
の対処方法が分からないため、居住者を受け入
れる大家も二の足を踏む場合が多い。認知症
や精神疾患者を支援する団体などとの連携や
社会一般への介護情報の提供が必要である。
第四に同居者の喪失による居住継続の困難
である。この問題は、経済面、契約面、生活
面の問題が生じる。経済面の問題は既述した。
契約面では借家契約の内容を認識せずに暮ら
している場合があり、同居者を喪失して初め
てその住宅に居住する権利が無いことが判明
する場合がある。高齢の場合には病気などの
影響もあり、ひとりで生活を継続できない場
合もある。
以上のように個人や同居人に生じた問題が
居住継続を困難にしている事案がある。こう
した事案は突発的に発生するものが多く、緊
急に対応できる仕組みを構築する必要がある。
5. おわりに
最後に高齢社会の居住問題に果たすべき労
働組合の役割に触れる。
1961年のILOの「労働者住宅勧告」以降、
住居に関する労働組合の活動は住宅手当など
金銭的な要求に留まり、労働者の適切な居住
の実現に貢献できていなかった。労働者への
金銭的な要求は、郊外の戸建て持家の取得を
促したに過ぎなかった。その結果は長時間通
勤や生活施設までの時間距離の長さをもたら
した。
労働者が健康に暮らすと、質の高い労働が
提供できる。今後の労働組合の活動は、孤立
死や居住貧困を起こさない高齢社会を築くた
めに、次のことが必要になるであろう。
(1)現役時代から住宅を中心とした地域社
会での暮らしに目を向ける生活を確保する。
そのためには長時間労働や長時間通勤をなく
す、まちづくりと働き方の実現に努める。
(2)居住資産を親から子に継承できるよう
な就労や勤務地の制度を構築する。
(3)地域の居住資源を把握し、空き家や老
朽化・荒廃した住宅などを有効に活用できる
よう提案したり、利用者と所有者のネットワ
ークを形成したりする。また、居住者の生活
を支援したり、まちづくりを進めたりする団
体などの活動を支援する。
(4)地域社会での居住そのものが福祉(し
あわせ)を実現できるように多方面に働きか
けるとともに、地域活動に現役の労働者も退
職した労働者も携われるようにコーディネー
ト役を果たす。
― 15 ―
DIO 2014, 11
報
告
「好循環」への反転を目指して
「2014 ~ 2015年度経済情勢報告」
(概要)
連合総研は、10月21日に開催された第27回
連合総研フォーラムにおいて、
「2014 ~ 2015
年度経済情勢報告」を発表した。
今回の報告書では、第Ⅰ部で、この一年間を中
心に最近の経済動向を振り返り、2012 年末以
来回復過程にある日本経済が、本年4月の消費税
率引上げに伴う駆け込みと反動減を経験した後、
どうすれば自律的な成長軌道を辿ることが可能な
のかという問題意識で分析している。第Ⅱ部では、
賃金・雇用における格差の現状と課題を展望し、
さらに雇用における男女間の格差、生活格差とい
った様々な角度から、格差問題を分析している。
補論においては、2015年度の日本経済について
展望を行った。
第Ⅰ部 2013年度以降の日本と世界経済
本稿では、第Ⅰ部、第Ⅱ部の概要と補論につい
て報告する。なお、
「経済情勢報告」の作成に当
たっては、連合総研の常設の委員会である経済社
会研究委員会(主査:小峰隆夫・法政大学教授)
から、様々な助言や指摘を頂いている。委員の方々
には、この場を借りて、御礼申し上げたい。ただ
し、本報告は連合総研の責任において取りまとめ
たものであり、委員の方々の見解を示すものでは
ないことをお断りしておく。
(図表番号は、報告書本体における番号であり、連続
した番号となっていない。内容の詳細や引用に当た
っては、報告書本体を参照されたい。また、連合総
研のHPにおいては、フォーラムで使われた説明用
のスライド等を掲載しているので、参照されたい。
)
図表Ⅰ-1-1 実質GDP成長率の推移(前期比、寄与度)
IMFは2014年7月公表のWorld Economic Outlook
では世界経済は2014年に3.4%成長するとみており、そ
の要因は先進国における成長率の高まりであった。しか
し、夏にかけて先進国の回復の足並みにはバラつきがみ
られるようになってきた。
米国経済は堅調な動きを続け、
金融政策の巻き戻しが議論の的となっている一方、欧州
はデフレに陥るリスクが高まっている。他方、途上国で
は、中国は7%台の安定成長に向けて、景気減速と構造
改革の難しいバランスをとっている。こうした動きを受
けて、IMFは10月公表の予測では2014年の成長率を
さらに3.3%に下方修正した。
日本経済は、2012年11月を底に景気回復を続けてい
資料出所:内閣府「国民経済計算」より作成。
る。金融緩和による円安にもかかわらず、外需はマイナ
は、緩やかなものにとどまり、生産活動は在庫の積み上
スの寄与だったが、金融緩和は資産価格上昇を通じて消
がりから鈍い動きとなっている。
費を押し上げた。さらに、公共事業も増加に寄与し、内
現在遅れている家計所得の回復が今後どうなるかが、
需主導の景気回復となった。2013年度は2.3%の高い伸
この景気回復の持続性を占う上で極めて重要である。雇
びとなったが、消費税率の8%への引上げ(2014年4月)
用情勢は改善を続け、8月に有効求人倍率は1.1倍、失業
前の駆け込み需要等によって押し上げられた面もある
率は3.5%に達した(図表Ⅰ―2-1)
。こうした中で企
(図表Ⅰ-1-1)
。
業は人手不足感を強め、中小企業ではリーマンショック
税率引上げ後は、反動減により2014年4-6月期は
前に景気のよかった2007年を上回る強さとなっており、
大きなマイナス成長となった。反動減からの消費の回復
来年度の新卒採用意欲は近年になく強い。
DIO 2014, 11
― 16 ―
図表Ⅰ-2-1 完全失業率と求人倍率
(季節調整値)
(注)1.有効求人倍率及び新規求人倍率は、新規学卒者を除きパート
を含む。
2.完全失業率は右目盛り、有効求人倍率及び新規求人倍率は
左目盛り。
資料出所:総務省「労働力調査」
、厚生労働省「職業安定業務統計」
より作成。
図表Ⅰ-2-25 実質賃金の推移
(事業所規模5人以上、
前年同月比)
(注)実質賃金とは、全労働者については実質賃金指数、一般労働者
及びパートタイム労働者については現金給与総額を消費者物価指数(持
家の帰属家賃を除く)で除したもの。
資料出所:厚生労働省「毎月勤労統計調査」
、総務省「消費者物価指数」
より作成。
他方、賃金の動きは、過去の回復局面と比べても弱い
企業部門については、好調な収益が続く中でも、これ
(図表Ⅰ―1-2)
。ようやく賃金の上昇は、ボーナスの
まで設備投資の動きは鈍かった(図表Ⅰ―1-11)
。し
増加によって、7~8月平均で約2%まで高まったが、
かし、日銀短観などによれば、今年度の設備投資計画は
所定内賃金の伸び率は0.2%にとどまっている。他方、
比較的強く、機械受注統計などの先行指標も緩やかに増
消費者物価は、消費税率引上げ分を含めて「総合」では
加しているので、今後、設備投資が増加していくことも
3%上昇し、より家計の実感に近い「持家の帰属家賃を
ある程度期待できる。ただし、企業経営者の先々の展望
除く総合」では4%上昇している。この結果、実質でみ
は弱いまま(今後5年間の成長率1.5%程度)となって
た賃金は低下している(図表Ⅰ―2-25)
。これまでの
おり、こうした状況では設備投資が大きく増加して景気
景気回復は所得の増加として十分表れておらず、好循環
に力強さが出てくるような展開はなかなか望みがたい。
はまだ実現していない。
図表Ⅰ-1-2 過去の景気回復との指標の違い
(注)1993 年以降の過去 5 回の景気回復局面について、景気の谷から
の経過月数に応じた指標の推移を示している。
資料出所:日本銀行「国際収支
(実質輸出
(季節調整値)
)
」
、
経済産業省
「鉱工業生産指数」
、総務省「家計調査」
(家計収支編:2
人以上勤労者世帯の家計消費支出額)
、厚生労働省「毎月
勤労統計」
(きまって支払われる現金給与:季節調整値)よ
り作成。
― 17 ―
図表Ⅰ-1-11 景気の回復と設備投資の推移
( 注)
除く金融・保険業。設備投資はソフトウェアを除く設備投資。キャッ
シュフロー = 経常利益× 0.5 +減価償却費。
資料出所:財務省「法人企業統計季報」
「法人企業統計調査(年報)
」
より作成。
DIO 2014, 11
第Ⅱ部 景気回復下の格差の動向
図表Ⅱ-2-9 非正規からの正規への転換はおよそ
4分の1
第Ⅱ部では、賃金・雇用における格差の現状と課題を
展望し、男女の格差、生活格差など様々な角度から分析
が行われているが、以下、4つの結果に絞って紹介する。
まず、格差の根底にあるマクロ分配の動きをとらえる
ために労働分配率(=雇用者報酬÷名目GDP)の推移
をみると(図表Ⅱ―1-1)
、1993年までは概ね横ばい
で推移してきたが、1994年以降は低下傾向となってい
る。この低下傾向の要因としては、産業構造の変化(製
造業のウェイトの低下とサービス業のウェイトの上昇)
、
資料出所:総務省「就業構造基本調査」2012 年度調査より作成。
団塊世代の退職等とともに、非正規雇用の増加があげら
さらに女性では、この非正規から正規への転換が非常
れる。さらには、企業部門の貯蓄超過の継続に示される
に難しい。非正規労働者の5年後の雇用形態をみると、
ように、企業行動の慎重化が要因として重要である。つ
男性では半数近くが正規になっているが、女性では2割
まり、先行き不透明感が強いために企業が固定費増大を
に満たない(図表Ⅱ―2-10)
。このように正規への転
避けて、正規雇用ではなく非正規雇用を増やし、同時に
換が難しいと、入職時の正規・非正規の区分がその時点
設備投資も前述のように抑制されたままである。
の賃金格差だけでなく、キャリア形成の格差を通じて、
将来時点における大きな所得格差が生じることになる。
図表Ⅱ-1-1 名目雇用者報酬・名目GDPの推移と
労働分配率
(注)労働分配率=名目雇用者報酬/名目GDP
資料出所:内閣府「国民経済計算」より作成。
こうして非正規労働者が増加していく中で、例えば入
図表Ⅱ-2-10 非正規労働者の5年後の雇用形態
(男女別)
(注)集計は、第1回調査(2002 年)
から第6回調査(2007 年)
まで継
続して回答を得ることができた 2002 年時点で 20 ~ 34 歳のもの。
資料出所:厚生労働省「第6回 21 世紀成年者縦断調査」より作成。
職時は非正規であっても正規に転換できれば、あまり問
題はない。ところが一度非正規労働者になると、正規労
このように雇用情勢の改善の中でも大きな問題を抱え
働者に転換するのが難しいのが現実である。転職者につ
ているが、実際に足元でも生活保護受給世帯は増加し続
いて、転職前後で雇用形態を比較すると、非正規から正
けている(図表Ⅱ―3-11)
。しかもその内訳をみると、
規に転換できた者は非正規雇用者の4分の1しかない
近年は傷病者世帯、母子世帯の比率が低下し、現役稼働
(図表Ⅱ―2-9)
。
DIO 2014, 11
世帯などが含まれる「その他」の比率が高まっている点
― 18 ―
「好循環」
への反転を目指して「2014~2015年度経済情勢報告」
(概要)
が懸念される。
図表Ⅱ-3-11 生活保護受給世帯の推移
現在のような格差を温存する経済の回復は、かえって
人々の将来への不安や経済の不安定性を増幅させる要因
にもつながりかねない。雇用の安定、豊かさを実感でき
るようにすることが「好循環」の実現には不可欠である。
(注)1.保護率の算出は、被保護世帯数(1 か月平均)を「国民生活
基礎調査」の総世帯数(世帯千対)で除したもの。
2.2011 年は岩手・宮城・福島県を除く。
資料出所:厚生労働省大臣官房統計情報部「社会福祉行政業務報告」
より作成。
補論
2015年度日本経済の姿
1. 消費税増税の反動減から戻りつつある2014
年度の経済
日本経済は、2014年4月の消費税率引上げによって、
大きな駆け込みとその反動減を経験した。駆け込み需
要により1-3月期に6.0%成長となった後に、4-6
月期は7.1%のマイナス成長となった(季節調整済前
期比年率)
。この2四半期を均せば実質GDPは緩や
かに増加しており、7-9月期以降ははっきりとした
前年比プラスを示し始めた賃金の増加にも支えられ
て、緩やかな増加を続けると考えられる。また、企業
活動も、高水準の収益を受けて、設備投資に動きが
みられるようになってきた。ただし、賃金は消費者物
価上昇率を勘案した実質ベースでは依然前年を下回
っており、設備投資も、老朽化設備に関する維持・更
新投資が中心であり、能力増には依然として慎重さが
みられる。
対外環境に目を向けると、春の時点では先進国を中
心に世界経済は緩やかに回復していくものとみられて
いたが、夏以降その回復の足並みに乱れが目立つよう
になってきた。欧州では減速が目立つ一方、米国は堅
調な経済動向を受けて金融政策の巻き戻しを進めて
いる。
こうした景気動向の違いや米国金利の先高観等を
通じて、足元で円安が進んでいる。この円安が今後
どのような効果を持つかが、重要なポイントである。
2013年前半に見られた円安及び資産価格の上昇は、
2四半期ほど消費を押し上げたものの、輸出数量の伸
びは見られず、持続的に景気を押し上げるには至らな
かった。円安により企業収益が増加し、株価が上昇し
ても、賃金上昇につながらなければ好循環の「環」が
大きくならない。
輸出数量の増加がなくとも賃金が上がれば、波及
経路について投入産出関係を経るのか、最終需要を
経るのかの違いはあっても、好循環はつながって「環」
が大きくなると期待される。賃金上昇につながらない
と、輸入物価上昇による交易条件の悪化によるマイナ
スの効果の方が大きく出ることが懸念される。
2. 家 計の所得環境の改善がカギを握る20
15年度の経済
2015年度の経済は、世界経済が緩やかに回復して
いくという想定の下で、経済好循環に向けた動きが続
― 19 ―
DIO 2014, 11
くと期待される。2015年10月に予定されている消費税
率の8%から10%への引上げについては、当初予定通
り実施されることを前提とし、引上げに際して政府の
追加的な対策が行われ、結果として公共事業(公的
固定資本形成)は、物価変動を除いた実質ベースで
2015年度は前年度比概ね横ばいとなることを想定して
いる。
問題は、好循環の動き方である。好循環の「環」
の大きさは、家計の所得環境に大きく依存すると考え
られる。企業収益は2014年度に一服感が出た後、2015
年度に再び増加し、設備投資を支えると考えられるが、
これだけでは力不足であろう。雇用増・賃金引上げと
いう形で雇用者報酬が増加し、これが消費にどうつな
がっていくかがカギを握る。
今回の見通しにおいては、以下の2つのケースに場
合分けして日本経済の姿を示すこととする。まず、
「ケ
ースA」は、来年の春季生活闘争の賃上げ要求につ
いて、2014年度経済の実績見込みから機械的に想定
し、これがその通り実現するとどうなるか、という姿
を試算したものである。他方、
「ケースB」は、2015
年においても2014年と同様の賃上げ(実質ベース)に
とどまった場合にどうなるかを想定して試算したもの
である。なお、2つに場合分けをするのは昨年の経済
情勢報告と同様であるが、ケースの設定の仕方は異な
ることには留意が必要である。
〔ケースA〕
ケースAにおいては、2014年度に見込まれる経済・
物価動向を踏まえつつ、過去の春闘の考え方を参考
に、来年の賃上げ要求をいわば機械的に想定した。し
たがって、実際の賃上げがこの通り実現するかどうか、
不確実性があることに留意が必要である。仮にこうし
た賃上げが実現し所得環境が改善すれば、消費の増
加につながり、さらには生産活動を活発化させるなど、
経済の好循環実現に向けた大きな刺激となり、この結
果、2%近い成長を見通すことができる。こうした高
い成長は、足元で供給超過であった需給バランスを
需要超過に転じさせ、消費者物価上昇率は3%台に
上昇する。消費税率引上げによる影響を除けば消費
者物価の上昇は2%台半ばであり、実質賃金の伸び
は1%程度となって、生産性の伸びにほぼ見合ったも
のとなろう。
〔ケースB〕
ケースBにおいては、賃上げが小幅であるため、消
費・住宅投資など家計部門が振るわない。好調な企
業収益によって設備投資は増加するものの、能力増
DIO 2014, 11
強などを含む力強いものではない。輸入の伸びが抑
制される面はあるものの、成長率は1%程度にとどま
ろう。それでもゼロ%台後半と考えられる潜在成長率
を上回ることになるため、需給は引き締まり傾向とな
り、物価上昇率は幾分高まる。結果として、消費税率
引上げによる影響を除く消費者物価でみて、実質賃
金はほぼ横ばいとなろう。
3. 海
外経済や金融・資本市場にリスクの存在
(1)欧州と中国の成長鈍化
海外経済については、下振れリスクが特に欧州と中
国で存在する。
まず欧州では、4-6月期にユーロ圏全体でゼロ成
長、特にドイツがマイナス成長となったことに加え、
物価上昇率がユーロ圏全体で0.5%と徐々に低下して
おり、ギリシャ等の一部の国ではマイナスとなってい
る。このまま停滞を続けてデフレに陥ってしまうこと
が、欧州についてのリスクである。これを未然に防ぐ
ため、ECB(欧州中央銀行)が9月に一段の金融緩
和を行ったが、このテコ入れがどの程度有効なのか、
今後の推移を見る必要があろう。
また、中国についても経済成長が減速していく中、
8月の鉱工業生産の伸び率6.9%がリーマンショック時
以来の低さとなるなど、下振れが懸念される。7.5%
成長を目指している政府による景気下支えも考えられ
る一方、投資への過度の依存からの構造改革を進め
ることとのバランスをどうとるのかが問題となろう。
(2)金融政策の変更に伴うリスク
米国経済は堅調な動きを見せ、次回(10月)のFO
MC(連邦公開市場委員会)において市場からの資
産購入(いわゆるQE3)が終了となる見込みであり、
いつから金利が引き上げられるかが市場の焦点となっ
ている。こうした金融緩和の巻き戻しの中で、低金利
が継続する間に蓄積したリスクが顕在化することも考
えられる。例えば、新興国からの資金の流出などの混
乱が発生する可能性がある点に注意が必要である。
日本については、ケースAのように経済が強い動き
を示した場合には、長期金利が上昇するなど、金融
の出口戦略が問題となる可能性もあるが、ここでは特
に混乱は生じないものとして試算を行っている。また、
日本の金融が緩和した状態が続く場合に、米国との金
利格差から過度の円安となる可能性もある。輸出企業
の収益増加が賃上げや設備投資などの需要増に結び
付かなければ、むしろ輸入物価上昇による交易条件
悪化のマイナスの効果が大きくなることが懸念され
る。
― 20 ―
「好循環」
への反転を目指して「2014~2015年度経済情勢報告」
(概要)
4. 経
済成長を実感できる暮らしを
本見通しが示唆することは、きちんと経済成長の果
実を国民に還元して実感してもらうことが、好循環を
実現して経済成長を持続させるには不可欠ということ
である。家計の所得環境の重要性を示すために、要
求ベースの賃上げを前提にしたケースAの姿はやや極
端かもしれないが、ケースAとBとを比較してみると、
この点は明らかである。企業頼み、資産効果頼みの経
済成長は長続きしない。2009年までの景気拡大過程、
あるいは2013年前半までの動きと同じ轍を踏むことが
ないよう、十分注意をして見ていく必要があろう。
コ ラ ム
円安で輸出数量は増加しなくても経済好循環は実現できる
( 米国大恐慌の経験)
円安になっても輸出数量が伸びないため、好循環
が実現していないという意見がある。これは一面の
真実ではあるが、米国大恐慌の経験をみると、輸出
数量が増加しなくても経済好循環を実現することは
可能である。
クリスティナ・ローマーCEA(大統領経済諮問
委員会)委員長(当時)は、黒田日銀総裁が就任し
てまもなく日銀の金融政策について論じたスピーチ
を行い(Romer, 2013)
、その中で自分は理論という
よりはむしろ米国の経験に基づき、日本の金融政策
の変更を支 持する旨を述べた。彼女の根 拠とは、
Temin and Wigmores(1990)が分析した大恐慌時
の米国の経験であった。1933年にドルが金本位制を
離れて減価した際、ドル建て穀物価格が上昇し、米
国農家は輸出による収入が大きく増えた。彼らはこ
の所得を使って車を購入し、それが経済を押し上げ
る起爆剤となった。
このエピソードのポイントは、農産物の輸出数量
は増えていないことだ。農産物の供給の弾力性は極
めて低い(数量を増やすには翌年の収穫を待たねば
ならない)
。変化したのは価格であり、それによって
農家の所得が増え、消費が増え、工業生産が増え・・・
と好循環が生まれていった。
では、現在の日本への教訓は何か。円安で収入が
増加した輸出企業は、その収入を支出しないと好循
環につながらない。米国の例では、当時の農家は多
くの場合自営業であろうから、儲けはすなわち、お
カネを使う人の所得の増加だった。ところが現在の
日本では、このリンクが切れている。企業の収入の
増加が、おカネを使う従業員の所得の増加につなが
っていない。米国の経験は、この切れたリンクをつ
なげることが、経済好循環を実現するために不可欠
であることを教えてくれる。
― 21 ―
DIO 2014, 11
注1.見通しの前提条件として、①為替レートは足下1ヵ月の水準(9月中旬までの1月間の平均対ドル円レート 105 円程度)で
ほぼ横ばい、②世界経済成長率は IMF による 14 年 7 月見通し(4 月見通しの更新、14 年 3.4%、15 年 4.0%)のとおり、③原油
価格や一次産品も現在の水準で横ばいを想定している。
注2.ケースAは、来年度春闘への基本的な考え方を踏まえつつ、その要求が実現した場合に想定される経済の姿を、現時点で示
したもの。ケース B は、要求が通らず、十分な賃金の上昇が実現しなかった場合の経済の姿を示したもの。
DIO 2014, 11
― 22 ―
報
告
賃金のあり方に関する論点整理(概要)
−正社員と非正規雇用労働者を含めたトータルとしての
賃金のあり方をめざして−
(雇用・賃金の中長期的なあり方に関する研究委員会中間報告:連合総研ブックレット№ 11)
長期雇用慣行や年功型賃金などに支えられた
えていくかということである。
「日本的」雇用システムについて、その見直しや
連合総研では、以上の問題意識から、2013年
再評価の動きが繰り返される一方で、
「男性稼ぎ
10月より「雇用・賃金の中長期的なあり方に関
手モデル」も見直しを迫られており、片稼ぎであ
する研究委員会」を立ち上げ、今夏までは賃金の
っても、共働きであっても、誰もが安心して働き
あり方に焦点を絞って勉強会形式で研究委員会を
続けられる社会をつくるということが求められて
開催し、外部の学識者や労働組合関係者などを招
いる。また、主たる生計維持者でありながら非正
いて報告を受け、意見交換を交えながら、論点整
規雇用労働者として働く者や、いわゆるワーキン
理やメンバー間の意識共有の醸成を図ってきた。
グプアが増えていることから、社会全体としての
本中間報告では、この1年間の研究委員会での論
労働条件の底上げも新たな課題となっている。こ
点整理や議論の状況を紹介しているが、ここでは
れらの課題を考えるうえで重要な視点は、正社員
中間報告の要点として「3.働き方や処遇のあり
と非正規雇用労働者を別々に考えるのではなく、
方に関するわれわれの考え方をふりかえる」およ
どのような雇用形態であっても適用されるトータ
び「4.賃金のあり方を検討する上での論点」を
ルとしての働き方や処遇のあり方をどのように考
中心に紹介する。
1.働き方や処遇のあり方に関する
われわれの考え方をふりかえる
合がつくりあげ、
安定成長期まで維持してきたものの、
上記の問題意識にもとづいた研究委員会の論議に先
式や賃金相場形成力が後退するとともに、低賃金労働
立って、従来、連合が確認してきたあるべき賃金につ
者をなくすことが労働者全体の賃金を向上させるとい
いての考え方や、連合総研における先行研究の成果に
う考え方も後退しているのではないか、②あるべき賃
ついて、認識を共有化することからはじめた。
金についての職場における民主的討議も従来程行われ
徐々に後退している特徴として、①社会的賃金決定方
なくなったのではないか、③1990年代後半から、企
業規模や雇用形態の違いによって賃金・労働条件が異
(1)連合が描く社会像と賃金のあり方
連合21世紀への挑戦委員会「21世紀を切り開く連
なることは当然という考え方の方が浸透し始めたので
合運動−21世紀連合ビジョン−」
(2001)では、
「日
はないか、などをあげる。その上で、
「ある程度の勤
本の労働組合は企業別組合を通じて内部労働市場に強
続年数を経れば、初任賃金水準から世帯生計費水準に
く関与してきたが、雇用・就業形態の変化に対応する
達することを保障するような賃金制度を確立する必要
ためにも外部労働市場にルールを持ちこみ、影響力を
があるのではないか」
、
「問題は生計費水準をどのよう
強めることが決定的に重要」であるとし、企業を越え
に考えるか」
、
「一人働き世帯から共働き世帯が標準と
た評価制度、教育訓練システム、横断的なワークルー
なってきている現状を踏まえた検討が求められる」と
ルの形成などを通じて、
「労働市場への影響力の強化
している。
に全力を上げて取り組まなければならない」とする。
とくに、労働条件の幅広い分野でミニマムを確立し、
非正規雇用労働者にまで波及させていくことが、これ
からの労働組合運動の主要課題であるとしている。
2.賃金のあり方を検討する上での
論点
(1)めざすべき賃金のあり方を描く
(2)連合総研の研究成果からみる賃金の課題
賃金のあり方としてめざすべきは、以下の内容を社
連合総研の
「日本の賃金−歴史と展望−調査報告書」
会全体の共通目標に掲げ、その実現に向けた仕組みを
(2012)では、敗戦直後から高度成長期までに労働組
― 23 ―
つくることではないだろうか。
DIO 2014, 11
誰もが、一定水準の仕事スキルに達するこ
とができ、
社会的な生活を送ることができる賃金水準
へ到達すること
考になるのは、生存権について規定した日本国憲法第
25条の条文にある「すべて国民は、健康で文化的な最
低限度の生活を営む権利を有する」
、労働条件の原則
を規定した労働基準法第1条の条文にある「労働条件
上記の内容には、
三つの重要な要素が含まれている。
は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を
①「誰もが」
満たすべきものでなければならない」
、さらにILOに
これは、男性正社員中心の発想に基づく様々な仕組
よるディーセント・ワークの実現目標「働きがいのあ
みを改め、性別や雇用形態などの個人の属性や働き方
る人間らしい仕事の実現」などがある。
に関わりなく、すべての労働者を対象にするという意
味である。
(2)課題を整理し、解決の方向性を模索する
②「一定水準の仕事スキル」
①一定水準の仕事スキルをどのように設定するか
これは、誰もが、ある程度の経験年数を経れば、仕
ⅰ.検討課題と現状
事スキルが一定の水準に達することを保障するという
一定水準の仕事スキルをどのように設定するか。こ
意味である。ポイントは二つである。一つ目は、これ
れには、
仕事スキルをどのように測るかという課題と、
まで通りに「勤続年数」を考慮しながらも、より仕事
仕事スキルの一定水準とはどのレベルをさすかという
の「経験年数」を重視することである。職業人生の中
課題の二つがある。日本では、初任賃金をベースに勤
で複数企業の勤務経験を有することが当たり前になり
続年数を経るごとに積み上げ、年齢、勤続年数、学歴
つつある今日、仕事の「経験年数」をモノサシにすべ
などの属人的要素を中心にして産業内で最も標準的と
きではないだろうか。どのような仕事であれ、共通し
考える労働者を設定する。
て必要とされるコアとなるスキルはあるであろう。例
ⅱ.産業横断的な仕事スキル設定の検討に向けて
えば、ある程度の経験年数に達すれば、調整能力や指
もう一つの方向性として検討したいのは、一定水準
導能力などの基本的なスキルは身についていると思わ
の仕事スキルに到達した労働者を産業横断的に設定す
れる。
ることである。いわゆる一人前労働者の設定である。
二つ目は、社会全体として、誰もが一定水準の仕事
一人前労働者とはどのような労働者なのか。まず、産
スキルに達することを保障することである。社会全体
別労働組合の考え方をみておく。各産別労組がもつ賃
で「一人残らず、誰もが」一定水準の仕事スキルに達
金政策や春闘要求などをみると、概ね三つの水準に分
することを保障することをめざそうという提案であ
かれそうだ(図表1)
。一つ目は、水準の引き上げな
る。そのためには、企業内訓練の再生・復活はもちろ
どに用いられるものである。個別賃金要求方式では年
ん、企業内訓練以外の仕組みを整える必要がある。例
齢、学歴、職種などの要件を設定し、要求する(標準
えば、欧米にみられる社会的な訓練制度が考えられる
労働者方式。例えば「35歳高卒技能職」
(勤続17年)
)
。
し、
「21世紀連合ビジョン」などでも指摘される、企
職種については、技能職、技術職というように大括り
業を越えた評価制度、教育訓練システム、横断的なワ
に設定されている場合が多い。二つ目は、年齢別の最
ークルールの形成などを整備する必要がある。
低賃金である。これは、ライフステージに合わせた生
③「社会的な生活を送ることができる賃金水準」
計費を重視する側面から年齢別の最低賃金保障として
これは、誰もが一定水準の仕事スキルに達すれば、
単に生存が保障されるのではなく、社会的な生活を送
図表 1 産別労組が設定している水準の整理
ることができる水準を保障するという意味である。そ
こで問題になるのは、
「社会的な生活を送ることがで
きる水準」とはどのような水準であるか、である。参
DIO 2014, 11
― 24 ―
賃金のあり方に関する論点整理―正社員と非正規雇用労働者を含めたトータルとしての賃金のあり方をめざして―
の性格をもつと同時に、中途入社者の正式格付けが行
賃金から始まり、
勤続年数を経るに従い昇給していく。
われていない段階での初任賃金としても位置づけられ
これは正社員、とくに大企業で働く正社員に当てはま
る。三つ目は、企業内最低賃金である。これはすべて
る。Cは非正規型である。低い初任賃金から始まり、
の年齢層に適用され、かつ組合員だけではなく同じ事
低いままでフラットに推移する。これに対し、一人前
業場内で働くすべての労働者に適用される。
労働者の賃金は「●歳で(または経験年数●年)
、●
一人前労働者のイメージは図表2のとおりである。
万円」というように、一人前の年齢とその水準を設定
設定する要件は年齢のみであり、対象は同じ事業場内
し、誰もがその水準へ到達することを社会全体の指標
で働くすべての労働者である。職種や仕事スキルの要
として確立しようとするものである。
件はあえて設定せず、仕事スキルについては年齢要件
年齢を設定するにあたっては、各産別労組が想定す
に代替させる。すなわち、社会全体として誰もが一定
る一人前労働者のイメージに合った年齢を参考に仕事
水準の仕事スキルに達することを可能にするとの前提
面での一人前に達するおよその年齢を、また、生活面
のうえで、仕事スキルや経験がある程度のレベル(あ
での一人前という観点からは子どもを育て始める年齢
る程度の年齢)に達すれば一人前に達するとみなす。
を考慮すべきであろう。ちなみに、厚生労働省「平成
25年人口動態統計月報年計」によれば、第1子出生時
の母親の平均年齢は30.4歳である。
図表 2 一人前労働者のイメージ
②社会的な生活を送ることができる水準をどのように
設定するか
ⅰ. 検討課題と現状
先に整理した三つの銘柄・水準のうち、一人前労働
論点となるのは、生計費水準をどのように考えるか
者のイメージに最も近いのは年齢別最低賃金である
である。生計費とは、労働者が生活を送るために必要
が、その対象は正社員であり、すべての労働者が対象
となる費用のことである。それは、単に個人が生活を
ではない。
送ることができるという意味ではない。一人の労働者
一人前労働者の賃金イメージを図で表したのが図表
が結婚し、子どもを産み育て、その子どもが成長して
3である。これまではおよそ三種類に整理できる。A
社会に役立つ新たな労働者となる、そうした一連の過
は専門職型で、比較的高い初任賃金から始まり、その
程をまかなえるのに十分な費用のことをいう。
ままフラットに推移する。Bは年功給型で、低い初任
ILOの最低賃金決定条約(131号条約)は、最低賃
図表 3 一人前労働者賃金のイメージ
【これまで】
【一人前労働者の賃金】
― 25 ―
DIO 2014, 11
金の水準決定にあたって、
「労働者及びその家族の必
のは、
「連合リビングウェイジ」である。連合が2013
要であって国内の賃金の一般水準、生計費、社会保障
年にさいたま市で実施した調査をもとに算出したリビ
給付及び他の社会的集団の相対的な生活水準」と定め
ングウェイジは、図表4のとおりである。2人世帯
ており、
「家族の必要」を明記し世帯単位を基準とす
(父+男子小学生(賃貸1DK)
)が1ヵ月に必要とさ
るよう求めている。
れる生計費は20万9,173円と算出されている。住居費
このような法的課題に加え、世帯をどのように捉え
は地域で大きく異なることから、それぞれの地域ごと
るかが大きな課題となりつつある。核家族化や少子化
にリビングウェイジを算出することを一つの運動とす
などが進むことで世帯人員は減少傾向にあり、標準世
る取り組みが重要である。
帯の考え方は通用しなくなりつつある。世帯のあり方
図表 4 「連合リビングウェイジ」
(2013 年調査)
をどのように捉えるか、この見直しはこれまでの男性
正社員中心の発想に基づく様々な仕組みを改めること
にもつながる。
ⅱ.多様な働き方に対応した世帯モデルの検討に向けて
世帯の捉え方には様々なものがある。すでに述べた
ように、日本の最低賃金法は水準決定にあたって、家
族ではなく単身者を基準にしている。他方、生活保護
基準では、3人世帯(親・男33歳、同・女29歳、子
ども4歳)を標準世帯としている。
(3)その他の検討課題
一つの方向性として検討したいのは、
「親1人・子
①一定水準の仕事スキルに導くのは誰か、その手段は
どうするか。
1人モデル」
(共稼ぎなら子2人の養育が可能)
であり、
②社会的な生活を送ることができる水準を保障する財
その水準を目安にしていくことである。これは、一人
源をどのように確保するか。
親になることを勧めようとしているのではない。
「男
③社会的な生活を送ることができる労働時間のあり方
性稼ぎ手モデル」が見直しを迫られるなか、誰もが安
をどのように考えるか。
心して働き続けられる水準を考えるうえで参考になる
研究委員会の構成
委 員 松浦 昭彦 全国繊維化学食品流通サービス一般労働組合同盟(UAゼンセン)書記長
郡司 典好 全日本自動車産業労働組合総連合会(自動車総連)事務局長
工藤 智司 日本基幹産業労働組合連合会(基幹労連)事務局長
川田 隆 全国電力関連産業労働組合総連合(電力総連)事務局長
田野辺耕一 日本私鉄労働組合総連合会(私鉄総連)書記長
アドバイザー 三浦 まり 上智大学法学部教授 オブザーバー 松本 喜成 連合労働条件・中小労働対策局長
曽原倫太郎 連合労働条件・中小労働対策局次長
事 務 局 龍井 葉二 連合総研副所長
小島 茂 連合総研主幹研究員
早川 行雄 連合総研主任研究員
伊東 雅代 連合総研主任研究員(2014 年8月~)
(主担当、執筆担当)
内藤 直人 前連合総研研究員(~ 2014 年7月)
*原則として、2014 年8月現在の役職名
DIO 2014, 11
― 26 ―
報
告
第18回ソーシャル・アジア・フォーラム
第18回ソーシャル・アジア・フォーラムが、
9月18、19日に韓国の高麗大学で開催された。
中国、韓国、台湾、日本の4か国から73人(う
ち日本側22人)が参加し、
「労使関係の両極化と
社会の持続可能性」をテーマに活発な討論を行っ
た。本フォーラムは、4か国の研究者と労働組合
関係者の自由な意見交換の場として開催されてお
り、連合総研が日本側事務局を担っている。
冒頭、薦田連合総研所長が日本側を代表して挨
基調講演
キム・デハン(韓国経済社会発展労使政委員会委員長)
グローバル化は、成長の機会になるが、労使関係へ
の挑戦にもなる。グローバル化が進むほど、政労使や
市民社会の社会的対話が必要となるし、「労使関係の
両極化と社会の持続可能性」に関する取り組みも社会
的対話なしには考えられない。
韓国では、大企業の正規雇用の組織労働者と中小
企業の非正規雇用の未組織労働者の二重構造に起因
する二極化が深刻化している。間接雇用が増える一方
で、正規労働者の採用抑制と長時間労働が蔓延してお
り、女性や若者の就労を阻害している。雇用は柔軟性
と安全性が両立されるべきであり、労働時間の短縮とセ
ーフティネットの整備が喫緊の課題である。労使の意見
は対立しているが、特に労働団体には、賃金減少を理
由として時短に反対する正規労働者だけでなく、女性、
若者、非正規労働者の利害も代弁することを期待したい。
もはや「一切か無か」という従来のアプローチで問
題を解決できる時代ではない。政労使が社会的対話と
協力を重ねて妥協点を見いだすことが、嵐の中を進む
原動力である。パク大統領も労使対話を促し、政府の
支援を約束した。経済社会発展労使政委員会としても、
社会的対話が実を結ぶよう、知恵を集めて取り組みを
進めたい。
各国報告
ジェンダー、ケア労働、労働組合
−日本における保育士の集団的ヴォイスの行方−
日本1
萩原久美子(下関市立大学経済学部教授)
1970年代半ば以降のポスト工業社会への移行に伴
い、従来型の政策では対応できない「新しい社会的リ
スク」が顕在化した。かつて保育の領域では、公立保
― 27 ―
拶に立ち「東アジア地域における労使関係の両極
化と社会の持続可能性について、各分野の専門家
が経済的・社会的側面から議論する本フォーラム
は時宜を得ており、日本の労働および労働運動関
係者にとっても意義は大きい。議論内容とみなさ
んの知見を日本に持ち帰っていかしたい」と述べ
た。
次回は「若年層の失業問題と労使関係」をテー
マに、2015年10月に台湾で開催される。
育所保育士の高い組織率を背景に、保育士には一定
の組織的影響力があったが、サービス供給主体の多様
化など、新しい社会的リスクに対応する政策展開の中
で保育士の非正規化が進み、公共部門での集中的な
組織化も困難となった。いまや非正規化に組織化が追
いつかず、組合員数は減少し、その影響力低下は免
れない。また、非正規化や組織率低下と軌を一にして
保育士全般の処遇も低下した。
政府は保育士の処遇改善を重要課題としているが、
2015年4月から導入される
「子ども・子育て支援新制度」
には、保育士の集団的発言を担保する回路がなく、
「子
ども・子育て会議」に参加する労組にも現場の保育士
を送り込む動きはない。その結果、保育士の賃金に直
結する保育の公定価格の方針は、保育士の代表が参
加していない場で決定されることになる。
保育という視座からみても、労組は家族や雇用の「リ
スク化」に対して影響力を発揮できていない。男性組
合員が減少する一方で女性組合員が増加している「労
組の女性化」の兆候を反転の梃子とすることが求めら
れている。
安倍自公政権下の労働規
制緩和と労働組合の対応
日本2
麻生裕子(連合総研主任研究員)
安倍政権が戦略や計画を策定するために設置した各
種の会議体には労働者代表が入っておらず、ソーシャ
ル・パートナーシップは考慮されていない。安倍政権の
成長戦略は「大企業や富裕層が豊かになれば、その
余剰がしたたり落ちて経済活動が活性化し、貧困層ま
で豊かになる」というトリクルダウン理論に基づいている
が、政府統計からは、その効果はみられない。
安倍政権が掲げる「失業なき労働移動」は、長期
失業者、障害者など労働市場から排除された人々に対
する雇用・社会保障のセーフティネットの整備や労働移
DIO 2014, 11
動に必要となる雇用の創出が優先的になされない限り
実現しない。また、「多様な働き方」を強調し、労働者
派遣法改正や「新たな労働時間制度の創設」などの
労働規制緩和を打ち出してもいるが、それらは労働者
を分断し、集団的労使関係を解体しようとするものにほ
かならず、労組の機能を実質的に解体させることは明ら
かである。
こうした動きに対して、連合は、すべての労働者に対
する「底上げ」をはかるボトムアップ戦略に基づいた運
動を展開している。今後は、地域におけるボトムアップ
運動の活性化も含めて、社会全体に向けた全面的な
運動展開が期待される。
中国の労使紛争処理の現状、
問題および解決のための構想
−集団的労使紛争を重点として−
中国1
姜穎(中国労働関係学院法学系教授)
沈建峰(中国労働関係学院法学系副教授)
中国では、集団的労使紛争の数は減少しているが、
関係する労働者の数が増え、規模が拡大している。中
国の集団的労使紛争の特徴としては、①労使関係の
確認等の「権利紛争」が中心だが、賃金引き上げ等
の「利益紛争」も増えている、②労使関係の経済紛
争が社会の治安に関わる事件に転化する事案が目立
つ、③企業再編に伴う紛争が増えている、④集団的労
使紛争が経済発展や社会の安定に影響を与えている、
などの点があげられる。
中国の関係部門は、集団的労使紛争を解決する過
程において、①政府主導のもと共同で管理するモデル、
②労働監察を主とするモデル、③仲裁機関の解決を主
とするモデル、④三者構成を主とするモデル、⑤第三
者介入モデル、といった異なる構想を発展させてきた。
現行法は、集団的権利紛争ならば効果的に処理しうる
が、集団的利益紛争の処理においては欠点がある。
今後、集団的労使紛争の処理体系を整備するうえで
は、①利益紛争と権利紛争の区別化、②当事者の代
表が労使紛争処理に参加する制度の整備、③調停を
軸とした集団的利益紛争処理制度の構築、④労組(工
会)の機能強化、をはかるとともに、労使に法治や法
律遵守の意識を根づかせる必要がある。
2013-2014 中 国 経 済 構
造調整における労使関係
中国2
喬健(中国労働関係学院副教授)
中国の労働市場では「穏中求進(安定を保ちつつ
経済成長を促す)の推進」という背景の中で、需要と
供給のバランスが労働者の雇用に有利なものへと転換
した。
労働者の賃金増加は鈍化し、国民の収入の増加幅
DIO 2014, 11
は経済成長の速度をやや下回っている。社会保険加入
率は引き続き上昇しているが、老齢年金の所得代替率
は低下を続けている。労働安全衛生は安定を維持し、
好転しつつあるが、問題もあるため、依然として社会の
関心は高い。労使紛争の情勢は落ち着いているが、
集団的労使紛争は増加傾向にある。
労働者の意識の特徴として、大局への服従、奉仕
意識の強まりがみられる一方で、現実を飛び越えて成
功を得ようとする焦りもみられる。
中国労働組合第16回全国代表大会では、社会主義
労組としての発展を推進し、広東では労組の直接選挙
が行われるなど新たな進展もみられた。また、中国の特
色というべき調和的な労使関係の構築についても新たな
成果が得られ、労使関係の矛盾の抜本的解決と労使関
係分野の民主・法治の基盤構築が強化された。
しかし全体的にみれば、労使関係は平穏さの中にも
新たな波を孕んでおり、国が主導して労使が参加する
労働関係調停モデルが次第に形成されつつある。
労使関係の両極化と新し
い政策方向
韓国1
イ・ジャンウォン(韓国労働研究院先任研究委員)
韓国の労使関係の問題は、①争議は減ったが、対
立的労使関係は解消されておらず、長時間労働が雇
用創出を妨げている、②既存の労使関係は、大企業と
中小企業の二重構造に起因する格差問題を調整するど
ころか拡大させている、③間接雇用が拡大し、労使関
係が形骸化している、という点に要約できる。
こうした労使関係の革新には、①ワークシェアリングを
進め、超勤手当の減少分を職場内生涯学習体制の構
築にあて、成果指向の高い組織に変える、②職種別に
熟練と力量を勘案した職務給体系を政府が主導して開
発するとともに、企業規模・業務特性・職務価値を標準
化した公正賃金基準を政労使と専門家がつくる、③同
一作業場で働く構内下請労働者を当該事業所の労使協
議の当事者と認め、元請と下請の労働者が共同で参加
する労使協議を開催する、などの政策が必要である。
企業は団交や賃上げを回避しようと雇用の外部化・非
― 28 ―
第18回ソーシャル・アジア・フォーラム
正規化を進め、労組は分配の正義よりも既得権を優先し
てきた。今後は労使が協力し、労働者の生活の質と企
業の競争力の向上を同時にはかる作業場革新を行うとと
もに、労使が社会的責任を果たして下請や中小労働者
の保護と格差是正を成し遂げることが求められている。
主要労働情勢と労働政策の
核心争点
韓国2
ジョン・クァンホ(韓国労働組合総連盟)
パク政権は、経済民主化と福祉拡大の公約を実現し
ないまま、労働市場の両極化、財閥大企業中心の成長
政策、グローバル競争を口実にした使用者主導の構造
改革、支配権力の労使関係への介入を強化している。
そのうえ、セウォル号事件などの社会的な重大事件・事
故も相次いでいる。パク大統領は「信頼の政治」を強
調して当選したが、その本質は「対決の政治」であり、
国民に苦痛を強いている。政策の基調と方向性が全面
的に修正されなければ、今後の労使関係は極端に対決
的なものとなり、労働運動では対話よりも闘争に重心を置
いた強硬な路線が支持されることになるだろう。
労働政策で核心となる争点は、労働基本権保障、通
常賃金拡大および賃金構造の安定性確保、一方的構
造改革の阻止、である。労働界は、特殊雇用
(*)の労
働者性確保などに対応するため、労組法、教員労組法、
公務員労組法など争点となる法律の再改正をめざすほ
か、通常賃金の範囲の再調整と法理的判断基準を確立
すべく、勤労基準法の改正をめざす。政府は、公共機
関の合理化政策の後続措置として公共部門の構造改革
を推進しているが、これを阻止しなければ、民間部門に
まで否定的な影響が及び、労使関係は最悪なものとなる
だろう。
(*)特殊雇用:実態は雇用契約であるにもかかわらず、
個人請負を装っている働き方
グローバル化とフレキシブル化に影響さ
れる台湾の労働市場−理論と実践−
台湾1
林佳和(台湾国立政治大学院法学部教授)
経済のグローバル化の影響を受け、労働のフレキシブ
ル化が進展している。しかし、台湾では、一般的な労働
法は整備されているものの、ほとんど実践されていない。
そのうえ、パート労働、派遣労働、有期労働契約に関
する全体的な法律はなく、意義のある規制や保護は整備
されていない。また、信頼性のある国勢調査制度が存在
しないため、政府は非正規労働に関する正確な統計数
値すら把握していない。労組は、労働のフレキシブル化
と非正規労働問題を最優先課題として取り組んでいる
が、パフォーマンスが先行し、現実的な改善はみられない。
グローバル化による競争の激化や格差の拡大、ひいて
は社会の崩壊を現実化させないためには、労働問題を
― 29 ―
直視し、社会の権力関係とその構造のアンバランスを是
正しなければならない。労働市場をさらに開放すれば、
フレキシブル化はいっそう進展し、労働問題の解決への
対処は、ますます複雑なものになるだろう。労組は、現
状を変える有効な方法がないと考えて悲観的になってい
る。しかし、小さな努力によって事態を少しずつ変えられる
という事実を見落とすべきではなく、労働者に有利な改革
を推進するという重要な使命を果たさなければならない。
廉価な労働での利ざや確保、経済寡占による青
年の貧困と社会的衝突がもたらす潜在的危機
台湾 2
洪敬舒(台湾労工陣線主任)
多くの国では新自由主義を追求した結果、青年の失業
と低賃金という「ニューグローバリゼーション」が始まって
いる。台湾も同様であり、企業は低賃金の非正規雇用、
とくに派遣労働を大幅に拡大して常用代替を進めたばか
りか、外国人労働者を非正規雇用で大量に雇い、労働
市場全体の賃金水準を低下させてしまった。政府はトリク
ルダウン理論の合理性を主張したが、企業への補助と減
税は富裕層の私腹を肥やしただけで、労働者には低賃
金と貧困が分配された。
青年層では、教育と労働市場のミスマッチで学歴に適
した職が見つからない「高学歴低所得」現象が生じて
いる。失業率は高く、失業期間も長期化しているが、長
期の失業は社会的排除のリスクを孕んでいる。加えて、
青年層の所得の減少が出生率の低下に影響を及ぼして
いることも明白である。
政府は、ディーセントワークの理念のもと、最低賃金を
大幅に引き上げ、賃金の全体水準を改善するとともに、
企業への補助を削減すべきである。また、公共サービス
の普及によって家計の負担を軽減し、労働者と子どもの
人的資本の累積を促せば、階級流動の機会が増え、世
代の対立と社会の衝突によってもたらされる危機を回避で
きるだろう。
おわりに
「労使関係の両極化と社会の持続可能性」という、幅
広く多様な解釈をなしうるテーマでありながら、多くの国
において、不安定で低賃金の非正規雇用の拡大や使用
者側に偏重した政府の政策展開といった共通の問題に
直面している現状が浮き彫りとなった。「既存の労使関係
が格差を拡大させている」との韓国の報告も、各国は真
摯に受け止める必要があるようだ。来年は、今回の議論
とも連続性のある「若年層の失業問題と労使関係」を
テーマに開催される。本フォーラムの議論のさらなる深化
と各国における取り組みへのフィードバックが期待される。
(文責・連合総研)
DIO 2014, 11
最近の書棚から
若者を殺し続けるブラック企業の構造
働きすぎの構造とブラック企業が
はびこる原因
紹介されている。先にも述べたが過労 ワイトカラー・エグゼンプション導入
死は今では社会に出たばかりの若者に に伴う更なる働きすぎの加速とその延
まで広がっており、新卒として入った 長線上にある過労死リスクの増大に対
若者が正社員にしがみつき命がけの競 する懸念についても触れられている。
争を強いられている実態が実例と共に 第四章では働きすぎ社会の克服には
紹介されている。ある企業では入社後 どうすべきかが紹介されている。一つ
半年間は「予選」と称された選別過程 にはブラック企業に入らないことであ
が設けられており、この間、常軌を逸 る。これにはブラック企業を見抜く必
川村遼平 著
角川oneテーマ21
定価800円(税別)
近
「宣伝文句を鵜呑みにせず、
した過酷労働を課し体力や精神力を試 要があり、
すのだという。実質的に解雇できる状 客観的な情報で判断する」あるいは「就
況を背景に若者を使い捨てにしている 職情報の「裏」を読む」ことがポイン
といえる。
トであると紹介されている。これらは
第二章では働きすぎの社会がどのよ 今すぐにでも就職活動に奮闘している
年ブラック企業という言葉をよ
うにして作られたのかについて述べら 若者に聞かせたい。他に注目した例に
く耳にする。不幸にもこの単語
れている。周囲との労働時間の比較
(働 は、労働組合による働き方に関する企
前田 克歳
は 2013 年の新語・流行語大賞のトッ
きすぎの相対化)や、日本の雇用慣行 業への関与がある。弁護士は法律上の
プテンに入賞するほど一般化してい
や社会保障など社会の様々な領域が働 不利益が生じた場合にしか介入は難し
る。ブラック企業とは端的に言えば
“労
きすぎを前提に構成されていることな く、かつ労働基準監督署も労働上の違
働者を酷使し、使い捨てる企業”であ
どが背景にあるという。このような働 反行為の確認なしでは動けないが、労
り、合法か否かの境目をはるかに超え
きすぎが当たり前の社会において、ブ 働に関することであれば基本的には何
た「劣悪な労働」
「非情な使い捨て」 ラック企業をよく知らない世代がブ でも団体交渉のメニューに追加可能で
が特徴である。ブラック企業問題の被
ラック企業へ入社してしまった場合、 あり、ルールとして要求できるという
害者は主に正社員だと考えがちだが、 その過酷な労働環境を当たり前のこと 点だ。小生はこれまで組合役員として
連合総研研究員
近年では若年層を中心としたアルバイ
として受け止め、その結果働きすぎが 数年間携わってきたが、改めて労働組
トにまで広がっておりブラックバイト
常態化し、最悪の場合、過労死にもつ 合の必要性や組織が持つ力を認識し
という派生語が登場するほど大きな社
ながりかねないのだという。
会問題になっている。
第三章では働きすぎと法制度の関連 最後に、本書からブラック企業の悪
本書では働きすぎをキーワードに日
が紹介されている。その一つとして しき体質や若年層を中心とした被害者
た。
本における働き方が述べられている。 36 協定締結時の盲点をついた悪しき の実態を知った。就職活動に懸命に取
働きすぎの背景にはブラック企業によ
事例が紹介されている。会社が恣意的 り組んでいる若者のみならず、各職場
る非人間的な労務管理や、働きすぎが
に指名した従業員に協定書にサインさ で必死に業務に取り組んでいる多くの
当たり前となっている日本の働き方に
せている事例は珍しくないのだとい 仲間にもこの実態を知って頂きたい。
あるとし、どうすればこのような社会
う。また、全く知らない名前が過半数 このコラムを読まれた方も自分が働き
を克服できるのかを事例を交えて述べ
代表として記載されて締結された事例 すぎかどうか一度見つめ直してみては
られている。
もよくあるのだという。こういった事 いかがだろうか。過労死に向かって歩
第一章では働きすぎる若者の過労死
例は際限のない残業を容認することに き出す前に。
や過労鬱の現状について事例をもとに
なりかねず怒りを禁じ得ない。またホ
DIO 2014, 11
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今月のデータ
中小企業庁
「中小企業景況調査」
(2014年7-9月期)
中小の建設業・サービス業などで
人員不足がますます拡大
中小企業庁は 9 月 29 日、
「第 137 回中小企業景況調査(2014 年
7 - 9 月期)
」の結果を公表した。
「中小企業景況調査」は、独立行政法
図表 1 従業員数 DI(「増加」-「減少」、前年同期比、%ポイント)
人中小企業基盤整備機構が全国の中小企業約 19 , 000 社を対象に、
商工会・商工会議所の経営指導員、中小企業団体中央会の調査員の協
力を得て四半期ごとに実施している調査である。主な調査項目は、中
小企業の業況判断、売上額、経常利益、資金繰り、従業員数過不足、
設備投資などである。ここでは、これらの項目のなかでも従業員数の
動向に着目したい。
図表 1 の従業員数 DI は、
「増加」と回答した企業の割合から「減少」
と回答した企業の割合を引いた値である。いずれの産業においても、
出所:中小企業庁「中小企業景況調査」
DI のマイナス幅は縮小傾向になっている。つまり従業員数はまだ減少
はしているものの、以前に比べれば回復傾向にあることを示している。
図表 2 従業員数過不足 DI(「過剰」-「不足」、今期の水準、%ポイント)
とくに製造業や建設業では、2014 年には DI がプラスに改善しており、
建設業の 7 - 9 月期が 1. 3、製造業の 4 - 6 月期が 2 . 5、10 - 12 月期
見通しが 0 . 2 となった。
その背景には中小企業の人員確保難という問題がある。図表 2 の従
業員数過不足 DI は、
「過剰」と回答した企業の割合から「不足」と回答
した企業の割合を引いた値である。製造業や卸売業では、2012 年ま
ではプラスの DI、つまり人員過剰であったが、2013 年以降は DI が
マイナスになり、人員不足に転じている。建設業やサービス業では、
2011 年頃から人員不足に転じ、DI のマイナス幅は拡大傾向にある。
出所:中小企業庁「中小企業景況調査」
直近 7 - 9 月期の建設業は▲ 21. 6、サービス業は▲ 15 . 7 であった。
図表 3 今期直面している経営上の問題点(2014 年 7-9 月期)
結果としてすべての業種で人員不足となっている。
経営上の問題点をみても、
「需要の停滞」
「 材料価格の上昇」などの
割合が高いなかで、
「従業員の確保難」をあげた企業の割合は、建設業、
サービス業でそれぞれ 9 . 5%、7 . 7%を占めている(図表 3 参照)
。
10 月 1 日に発表された日銀短観 2014 年 9 月調査をみると、中小
企業ほどではないが、大企業、中堅企業においても人手不足感は強く
なっている。このような全体的な人員不足のなかでの中小企業につい
て、労働条件決定や労働政策のあり方だけではなく、その存在自体に
も今後どのような影響がでてくるかは、日本経済のあり方にも大きく
関係することになり、十分に注目しておく必要がある。
注:問題点の1位にあげた企業の割合
出所:中小企業庁「中小企業景況調査」
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DIO 2014, 11
D I O
11
2014 DATA資料
INFORMATION情報
OPINION意見
事務局だより
I NFORMATION
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【10月の主な行事】
10 月 1 日 所内・研究部門会議
2 日 所内勉強会
8 日 企画会議
21 日 第 27 回連合総研フォーラム 【全国町村議員会館 2 階会議室】
22 日 所内・研究部門会議
23 日 労働者教育のあり方に関する研究委員会
(主査:藤村 博之 法政大学教授)
24 日 金属労協との意見交換会 【金属労協会議室】
27 ~ 28 日 期末外部会計監査
29 日 第 28 回勤労者短観・記者発表
31 日 山形県内の地域活動に関する共同調査研究プロジェクト
(座長:立松 潔 山形大学教授)
【山形・大手門パルズ会議室】
[職員の異動]
<着任> 杉山 豊治(すぎやま とよじ)主任研究員
10月1日付着任
〔ご挨拶〕情報労連本部から着任いたしました。連合総研着任前は連合本部で5年間お
世話になり、社会政策、雇用法制、広報・教育を担当しておりました。出身はKDDI
労組です。入社時の仕事は電子交換機のソフトウエア・エンジニアだった気がします
が、家族でさえも信じてくれません。
この度、調査分析・政策研究の仕事に携われることとなりました。労働者の総合生活
の改善・向上に向け、お役に立てるよう微力ですが頑張っていきますのでよろしくお
願いいたします。
editor
発行人/中城 吉郎
発行日/2014年11月1日
発 行/公益財団法人連合総合生活開発研究所
〒 102-0072
東京都千代田区飯田橋 1-3-2
曙杉館ビル3階
TEL 03-5210-0851
FAX 03-5210-0852
印刷・製本/株式会社コンポーズ・ユニ
〒 108-8326
東京都港区三田 1-10-3
電機連合会館 2 階
TEL 03-3456-1541
FAX 03-3798-3303
今年5月に日本創成会議が、2040
人口減少、少子高齢化が進行するなか
年までに896自治体で若年女性が半
で、人口集中地域、過疎地域など各地
数以下に減少するという推計を発表し
域において、福祉サービスはどのよう
ました。この「消滅可能性都市」の報
に変わり、どのような課題を抱えるの
道は日本中で話題になりました。
か、人びとのくらしにどのような影響
本号では、急務の課題である「人口
があるのかを検討しています。労働組
減少下の地域とくらし」を特集テーマ
合も人口減少と今後の地域コミュニテ
としてとりあげました。地域は人びと
ィのあり方について真剣に取り組むべ
の生活の場であり、医療・介護、保育、
き時期にきていると強く感じます。
教育、住宅などの社会サービスの重要
性がますます高まっています。今後、
(大熊猫)
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