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環境にやさしい低炭素非鉛快削鋼の開発(PDF:644KB)

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環境にやさしい低炭素非鉛快削鋼の開発(PDF:644KB)
環境にやさしい低炭素非鉛快削鋼の開発
研 究 者: 及 川 勝 成
東北大学
開発企業:日 野 光 興
JFE条鋼株式会社
(推 薦 者: 内 山
勝
東北大学
及 川 勝 成 氏
大学院工学研究科
准教授
代表取締役社長
大学院工学研究科
研究科長)
日 野 光 興 氏
1.技術の背景
OA機器関連のプリンターシャフトや自動車用トランスミッション関連
部品には精密切削加工が必須であり、加工コストの低減、切削加工面の精
度向上を目的に快削鋼と呼ばれる特殊鋼が使われている。これまで、被削
性 (削 ら れ 易 さ )を 向 上 さ せ る た め に 有 効 な 鉛 や 硫 黄 が 多 量 に 添 加 さ れ た 低
炭 素 硫 黄 複 合 快 削 鋼 AISI12L14(JIS:SUM24L)が 一 般 的 に 使 用 さ れ て い る 。
こ の 材 料 の 非 鉛 化 は 環 境 の 観 点 か ら 喫 緊 の 課 題 で あ る が 、 AISI12L14 は 鋼
中酸素含有量が他の鉄鋼材料と比較して格段に高いため、Ca やBによる
被 削 性 の 向 上 (非 鉛 化 )が 困 難 で あ り 、 こ の 非 鉛 化 に は 従 来 に な い 手 法 が 求
められていた。
2.技術の概要
本 技 術 は 、 東 北 大 学 と 産 業 技 術 総 合 研 究 所 が 従 来 の AISI12L14 の 懸 案 事
項であった鉛を含有しない系で同等の被削性を有する新規低炭素非鉛快削
鋼をコンピュータ計算により探索し、これを基にJFE条鋼株式会社が実
際に試験溶解し、被削性試験等を行って商品化に成功したものである。
従来より、低炭素硫黄複合快削鋼では硫化物系介在物が大きいほど被削
性が向上する事が知られており、本観点から硫化物系介在物の大型化によ
る被削性向上を目的に検討を進めた。
ま ず 、現 状 の 連 続 鋳 造 設 備 で 硫 化 物 系 介 在 物 を 大 型 化 す る に は ,硫 化 物
系 介 在 物 が 液 相 か ら 晶 出 す る 温 度 域 を 拡 大 す る 必 要 が あ り 、環 境 に 有 害 な
元 素 で は な い C r に 着 目 し た 。東 北 大 学 と 産 業 技 術 総 合 研 究 所 で 構 築 し た 、
多 元 系 状 態 図 計 算 CALPHAD(Calculation of Phase Diagram) 法 を 用 い
Fe-C-S-Cr-Mn計 算 状 態 図 を 活 用 し 、 Mn,Cr,S量 の 最 適 化 を 図 っ た 。 す
な わ ち 、図 1 に 示 し た よ う に 晶 出 温 度 域 を AISI12L14 の 1 9 ℃ か ら 開 発 鋼
では93℃に拡大し、既存の製造設備で、冷却速度を遅くすることなく、
硫 化 物 を 粗 大 化 で き る こ と を 予 測 し 、こ れ に よ り 硫 化 物 の 析 出 量 も 増 加 す
る こ と を 予 測 し た (図 2 )。
開発鋼系
AISI12L14
図 1 計 算 された状 態 図 の例
開発鋼系
1.0
0.8
凝固終了温度
1.00
AISI12L14
0.6
0.4
0.2
S (ma ss% )
0.4 0.3
鍛造時割れ
(熱間延性不足)
被削性劣る
(介在物小型 )
1.25
硫化物の
析出量
圧延加熱
温 度
0
1 0 0 0 1 1 0 0 1 2 0 0 1 3 0 0 1 4 0 0 1 5 0 0 1 6 00
Mn(ma ss% )
硫 化 物 の重 量 比 (ma ss% )
1.2
0.75
被削性同等、割れ無し
(介在物大型)
0.50
CCC 快 削 鋼
0.25
0
0
0.5
温 度 (℃)
図 2 硫 化 物 の析 出 量
図3
1.0
1.5
Cr(ma ss%)
2.0
熱 間 延 性 、被 削 性 に
及 ぼす Mn,Crの影 響
2.5
次 に 、 J F E 条 鋼 株 式 会 社 は 、 こ の 研 究 予 測 を 基 に Fe-C-S-Cr-Mn鋼 を
実際に試験溶解し、被削性試験などの確認試験を実施し、量産可能な成分
系 の 決 定 を 行 い 、新 し い 低 炭 素 非 鉛 快 削 鋼 (C C C [ク リ ー ン カ ッ ト ク ロ ム ]
快 削 鋼 )を 開 発 し た (図 3 )。 CCC快 削 鋼 の 特 徴 を 以 下 に 示 し て い る 。 硫 化
物 は 、 被 削 性 改 善 に 適 し た 粗 大 粒 子 状 で 分 散 し て い る (写 真 1 )。 一 方 、 基
地 の ミ ク ロ 組 織 は AISI12L14 と 比 べ て 微 細 化 し て い る (写 真 2 )。 強 度 、 延
性 な ど の 機 械 的 性 質 は 、AISI12L14 と 同 等 で あ る (表 1 )。ま た 、工 具 寿 命 、
面 粗 度 、 切 屑 処 理 性 な ど の 被 削 性 に 関 す る 性 質 は 、 AISI12L14 と 同 等 以 上
で あ る こ と を 確 認 し て い る (図 4 ,5 )。そ の 他 、浸 炭 性 、メ ッ キ 性 な ど も 同
等 で 、 AISI12L14 と 容 易 に 代 替 が 可 能 で あ る 。
CCC 快 削 鋼
AISI12L14
写 真 1 硫 化 物 の光 学 顕 微 鏡 観 察 (Φ 85 圧 延 材 )
AISI12L14
CCC 快 削 鋼
写 真 2 ミクロ組 織 の光 学 顕 微 鏡 観 察 (Φ 11.5 圧 延 材 )
表 1 機 械 的 性 質 (Φ 85 圧 延 材 )
種別
0.2%耐 力
引張強さ
伸び
絞り
硬 さ HB
CCC 快 削 鋼
283MPa
416MPa
32%
48%
124
AISI12L14
279MPa
416MPa
30%
44%
124
400
25
■ CCC 快 削 鋼
□ AIS I12L14
工具寿命
200
工 具: 超 硬 P20
速 度: 100m/min
送 り: 0.2mm/rev
切込み: 2.0mm
潤 滑: なし(乾式)
100
0
面粗度
0.2mm/r ev
20
300
最 大 粗 さ(μm)
フランク摩 耗 幅 (μm)
■ CCC 快 削 鋼
□ AIS I1 2 L1 4
15
工 具: 超 硬 P20
速 度: 100,150,250m/min
送 り: 0.05,0.2mm/rev
切込み: 2.0mm
潤 滑: なし(乾 式 )
10
0.05mm/rev
5
0
10
20
30
切 削 時 間 (min)
50
図 4 工 具 寿 命 (旋 削 )
100
150
200
250
切 削 速 度 (m/min)
図 5 面 粗 度 (旋 削 )
3.効果
本開発は、鉄合金中に生成する硫化物の熱力学的性質と多元系状態図を
数値計算により予測するためのデーターベースを構築することで、実用快
削鋼のミクロ組織形成メカニズムを明らかにし、合金開発に結びつけた事
を 特 徴 と し て い る 。 こ う し て 開 発 し た C C C 快 削 鋼 は 、 AISI12L14 の 懸 案
事項であった鉛を含有することなく、同等以上の被削性を有しているだけ
でなく、機械的性質、浸炭性、メッキ性なども同等であることから、産業
上 の 適 用 可 能 部 品 は 広 範 囲 に わ た り 、 従 来 AISI12L14 が 使 用 さ れ て い た 部
品ではスムーズに代替が進むことが期待できる。
CCC快削鋼はOA機器のプリンターシャフトを中心に採用されており
(写 真 3 )、 グ リ ー ン 調 達 の 動 き が 進 ん で い る 業 界 で 広 く 受 け 入 れ ら れ 、 今
後更に適用分野や数量が拡大することで、持続的発展可能な社会の構築に
寄与すると期待される。
写 真 3 製 品 写 真 (OA機 器 のプリンターシャフト)
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